アンジェラ・ヒューイットの“バッハ オデッセイ”の8回目。トッカータ全曲演奏という稀有な機会です。遂に前回の平均律第2巻を聴き逃がし、今日はほぼ1年ぶりに
アンジェラ・ヒューイットのバッハを聴きます。実に楽しみにしていました。何と言っても前回聴いたゴルトベルク変奏曲はsaraiの音楽体験の中でも際立って素晴らしい、人生で一度きりのコンサートと言っても過言のないないものでした。
で、今回の演奏ですが、さすがの演奏。曲がバッハの若いときの作品なので、ゴルトベルク変奏曲とか平均律とかに比べられませんが、深さや精神性よりも、自由でファンタジックな演奏をリラックスして聴けました。まあ、楽しい演奏だったというべきでしょうか。saraiの趣味で言えば、ハ短調のトッカータBWV911の中間部のコラール風のパートや、ト長調のBWV916の第2部のアダージョのような抒情味のある演奏に心惹かれました。もちろん、フーガはどれも素晴らしい演奏で、特にバス主題が浮き立つところなどは見事なものでした。
トッカータ全7曲をまとめて、最高レベルの演奏で聴けて、その上、同様な曲調の半音階的幻想曲とフーガをシメのような形で聴け、満足のコンサートでした。今後、トッカータをこういう形で聴けることはないでしょうから、価値あるものになりました。
次回はいよいよ、イギリス組曲全曲が2回のコンサートに分けて、演奏されます。この
アンジェラ・ヒューイットの大企画も終盤です。
バッハ・オデュッセイ9
イギリス組曲第1番/第2番/第3番
組曲ヘ短調 BWV.823
前奏曲とフーガ イ短調 BWV.894
バッハ・オデュッセイ10
イギリス組曲第4番/第5番/第6番
ソナタ ニ長調 BWV.963
来年の2回のコンサート、バッハ・オデュッセイ11と12は次のようなプログラムになります。
バッハ・オデュッセイ11
4つのデュエット BWV.802-805
小前奏曲 BWV.924-928,930,933-943,999
幻想曲とフーガ イ短調 BWV.944
イタリア協奏曲ヘ長調 BWV.971
フランス風序曲ロ短調 BWV.831
バッハ・オデュッセイ12
フーガの技法 BWV 1080
何とかすべて聴けそうですね。あっ、バッハ・オデュッセイ7の平均律第2巻は聴き損ないました!(代わりにシフの演奏を聴きました・・・)
今日のプログラムは以下です。
ピアノ:
アンジェラ・ヒューイット J.S.バッハ・プログラム Odyssey ⅤIII
トッカータ全曲 BWV910-916
トッカータ ハ短調 BWV911
トッカータ ト長調 BWV916
トッカータ 嬰へ短調 BWV910
トッカータ ホ短調 BWV914
《休憩》
トッカータ ニ短調 BWV913
トッカータ ト短調 BWV915
トッカータ ニ長調 BWV912
半音階的幻想曲とフーガ ニ短調BWV903
《アンコール》
世俗カンタータ『楽しき狩こそわが悦び』(通称『狩のカンタータ』)BWV208より、第9曲アリア《羊は安らかに草を食み》(ピアノ編曲版:メアリー・ハウ編)
最後に予習したCDですが、もちろん、
アンジェラ・ヒューイットのCDを軸に聴きました。
トッカータBWV911は以下のCDを聴きました。
ウラディミール・ホロヴィッツ、1949年1月17日, プライヴェート・コレクション音源
フリードリヒ・グルダ、1955年3月14日、プライヴェート・ライヴ録音、イタリア トリエステ
マルタ・アルゲリッチ、1979年2月6-9日、ベルリン、Studio Lankwitz
アンジェラ・ヒューイット、1985年10月、セッション録音、スイス、ラ・ショー=ド=フォン、サル・ド・ムジーク
アンジェラ・ヒューイット、2002年1月、セッション録音、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール
大ピアニストが好んで演奏しているようです。ホロヴィッツがバッハを演奏するのは珍しいですが、さすがの演奏です。グルダも音質はともかく、見事なバッハです。グルダにはもっとバッハを録音しておいてほしかったと思わせるような演奏です。そのグルダの弟子のアルゲリッチですが、これは会心の演奏です。1970年代のアルゲリッチは凄かった。その最後を飾るようなバッハ・アルバムの中の1曲です。このアルバムはsaraiの愛聴盤の1枚です。
さて、肝心のアンジェラ・ヒューイットですが、1994年から録音を開始したバッハの鍵盤音楽全集以前に若干27歳でトロント国際バッハ・ピアノ・コンクールで優勝した直後にバッハ・アルバムを録音しています。その中にこのトッカータBWV911が含まれています。まだ、生硬な表現ですが、そのひたむきなバッハへの傾倒には心打たれます。その17年後に録音したトッカータ集はアンジェラ・ヒューイットがいかに成長したかが分かる素晴らしいものです。天才アルゲリッチと真のバッハ弾きのヒューイット、どちらも比べることのできない素晴らしさです。
トッカータBWV916は以下のCDを聴きました。
スヴャトスラフ・リヒテル、1991年11月、ライヴ録音、ドイツ ノイマルクト
アンジェラ・ヒューイット、2002年1月、セッション録音、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール
リヒテルの晩年の演奏。素晴らしいですが、もっと若いときの演奏を聴きたいものです。ヒューイットは文句なし。
トッカータBWV910は以下のCDを聴きました。
アマンディーヌ・サヴァリー、2013年4月2-4日、セッション録音
アンジェラ・ヒューイット、2002年1月、セッション録音、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール
若手のサヴァリーの一発勝負のようなトッカータ集。なかなかの聴き応えです。しかし、ヒューイットの演奏とは比べられませんね。
トッカータBWV914は以下のCDを聴きました。
クララ・ハスキル、1952年2年14日、ライヴ録音、オランダ ヒルヴェルスム カジノ
クララ・ハスキル、1952年5年31日、ライヴ録音、ミュンヒェン ザイドルハウス
クララ・ハスキル、1953年4年11日、ライヴ録音、ルトヴィヒスブルグ 城・オルデンザール
アンジェラ・ヒューイット、2002年1月、セッション録音、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール
クララ・ハスキル、孤高のバッハです。誰とも比べられない演奏です。とりわけ、1953年のルトヴィヒスブルグのリサイタルは音質も素晴らしく(最近リリースされたアルバム)、何度でも聴きたくなる最高の演奏です。ヒューイットの演奏もよいのですが、ハスキルとは別次元。違う曲を聴いている感じになります。
トッカータBWV913は以下のCDを聴きました。
スヴャトスラフ・リヒテル、1991年11月、ライヴ録音、ドイツ ノイマルクト
アンジェラ・ヒューイット、2002年1月、セッション録音、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール
BWV916と同様です。
トッカータBWV915は以下のCDを聴きました。
アマンディーヌ・サヴァリー、2013年4月2-4日
アンジェラ・ヒューイット、2002年1月、セッション録音、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール
BWV910と同様です。
トッカータBWV912は以下のCDを聴きました。
ヴィルヘルム・ケンプ、1975年4月、セッション録音、ドイツ、ハノーファー
ユリアンナ・アヴデーエワ、2017年3月8-10日、セッション録音、ドイツ、ノイマルクト、ライツターデル
アンジェラ・ヒューイット、2002年1月、セッション録音、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール
ケンプは滋味あふれる演奏。さすがです。ユリアンナ・アヴデーエワは満を持してのバッハ・アルバム。このトッカータはちょっと気負い過ぎでしょうか。期待したのですが・・・。むしろ、一緒に収録されているイギリス組曲第2番のほうが素晴らしいです。アンジェラ・ヒューイットは一日の長のある演奏。文句ありません。
半音階的幻想曲とフーガは以下のCDを聴きました。
ニコライ・ルガンスキー、1990年3月13日、ライヴ録音、モスクワ音楽院、ラフマニノフ・ホール
アンドラーシュ・シフ、1983年9月、セッション録音、ロンドン
ヴィルヘルム・ケンプ、1953年3月、セッション録音、ロンドン、ウェスト・ハムステッド、デッカ・スタジオ
アンジェラ・ヒューイット、1994年1月、セッション録音、ドイツ、ハノーファー、ベートーヴェンザール
ニコライ・ルガンスキー、期待して聴きましたが、これは何と17歳のときのアルバム。今、録音すれば、もっと違ったものになるでしょう。アンドラーシュ・シフも若い時の録音ですが、これは素晴らしいです。ただ、今なら、もっと美しい演奏になりそうです。ケンプは古い録音です。演奏は美しいものです。ヒューイットもバッハ鍵盤音楽全集の最初のアルバムです。これもいいのですが、今なら違った演奏になるでしょう。と思っていたら、DVDで新しい演奏が出ているのですね。そのうちに聴いてみましょう。
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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽