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リヒテルのカーネギーホール(1960年)の超名演も超える圧巻のプロコフィエフ8番 ユリアンナ・アヴデーエワ ピアノ・リサイタル@すみだトリフォニーホール 2023.2.26

ユリアンナ・アヴデーエワのソロ・ピアノ・リサイタルはこれが最後の3回目。最高の演奏を聴かせてくれました。そのピアノの響きの純粋無垢なきらめきは甘く優しく、心に沁みてきます。前半は前回のみなとみらいホールのプログラムと同じですが、その曲想に耳慣れしたせいか、より精度の高い演奏に思えます。
そして、今回の3回にわたるリサイタルでさ最高の演奏だったのは後半のプロコフィエフのピアノ・ソナタ第8番《戦争ソナタ》です。これ以上の演奏はあり得ないと断言できるようなパーフェクトな演奏でした。硬質過ぎず、かと言って甘さを感じさせない最高の響きで、第1楽章のクールな音楽を深く抉るように弾き抜いて、第2楽章は特上の叙情を湛えた表現で、そして、第3楽章は猛烈なタッチで超絶的なパッセージを圧巻の演奏。細部まで磨き上げられた完璧な演奏は激しく燃え上がり、聴くものを圧倒します。1960年にアメリカ・デビューしたリヒテルがカーネギーホールの聴衆を熱狂の渦に巻き込んだ超名演にも優るとも劣らない凄まじい演奏でした。
前半のプログラムの演奏も素晴らしかったんです。ショパンの幻想ポロネーズは序奏の美しい演奏、主部の美しいメロディーなどの聴かせどころを見事に表現し、とても魅了してくれました。
シュピルマンのピアノ組曲「ザ・ライフ・オブ・ザ・マシーンズ」は第1楽章と第3楽章のメカニックな音楽を軽々と超絶技巧で弾き抜いた素晴らしい演奏で驚愕させられます。
ヴァインベルクのピアノ・ソナタ第4番は第1楽章の新古典的なソナタ形式の音楽が実に心地よく響きます。第3楽章の哀感あふれるアダージョには共感を覚えます。そして、第4楽章は再び新古典的なフレーズが展開され、終盤は高潮していき、最後は何とも静謐な雰囲気で哀しく終わります。底深い音楽を音楽性高く表現したアヴデーエワの素晴らしい演奏でした。

アンコールの1曲目は3回連続でシュピルマンのマズルカ。ショパンのマズルカと聴き間違えるような作品も3回も聴くとすっかり耳馴染みます。そして、最後のアンコール曲は前回の哀しいシルヴェストロフに変わって、ショパンのスケルツォです。最後にふさわしい物凄い演奏でした。

アヴデーエワがリヒテルにも並び立つような存在に上り詰めていくのが実感できた3回のリサイタルでした。次はどんなに大きなピアニストになっているんでしょう。恐ろしいくらいです。


今日のプログラムは以下です。

  ショパン:ポロネーズ第7番 変イ長調 Op.61「幻想ポロネーズ」
  シュピルマン:ピアノ組曲「ザ・ライフ・オブ・ザ・マシーンズ」
  ヴァインベルク:ピアノ・ソナタ第4番 ロ短調 Op.56

   《休憩》

  プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第8番 Op.84《戦争ソナタ》
  
   《アンコール》

    シュピルマン:マズルカ
    ショパン:スケルツォ 第3番 Op.39


最後に今回の予習について、まとめておきます。

ショパンのポロネーズ第7番「幻想ポロネーズ」は、以下のCDで予習しました。

  イリーナ・メジューエワ ショパン・リサイタル 2010 2010年7月16日 新川文化ホール・小ホール(富山県魚津市) ライヴ録音
  
メジューエワの力感あふれる演奏。


シュピルマンのピアノ組曲「ザ・ライフ・オブ・ザ・マシーンズ」は音源が見つからず、予習していません。


ヴァインベルクのピアノ・ソナタ第4番で予習しました。

  アリソン・ブリュースター・フランゼッティ ヴァインベルグ:ピアノ作品全集 2009年11月23-25日 シェリー・エンロウ・リサイタルホール キーン大学 ニュージャージー、米国 セッション録音

何とも素晴らしい演奏。


プロコフィエフのピアノ・ソナタ第8番《戦争ソナタ》は以下のCDで予習しました。

  スヴィヤトスラフ・リヒテル 1960年10月23日 ニューヨーク、カーネギー・ホール ライヴ録音 モノラル

物凄い演奏。冷静でいて、熱く燃え上がる名演中の名演。(1960年のリヒテル・アメリカ・デビュー・ツアー第2夜)



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       アヴデーエワ,  

研ぎ澄まされた音の響きが語りかけるものは愛と平和の希求か ユリアンナ・アヴデーエワ ピアノ・リサイタル@横浜みなとみらいホール 2023.2.24

ユリアンナ・アヴデーエワのソロ・ピアノ・リサイタルは王子ホールに続いて2回目。そのピアノの響きの純粋無垢なきらめきは変わらず、素晴らしいですが、色々、考えさせられる2時間でもありました。
言うまでもなく、アヴデーエワはロシア人。音楽家といえども、ロシアのウクライナ侵略には心を痛めている筈です。人間としても、音楽家としてもその姿勢を問われる状況になっています。今日のプログラムも深読みをしてしまいます。ショパンは祖国ポーランドを出て、生きては2度と祖国の土を踏めなかった悲しい運命を辿った人。シュピルマンとヴァインベルクはユダヤ系のポーランド人で苦難の生涯を送った人。ラフマニノフは祖国ロシアを出て、生涯戻ることなく、どこかやるせなさを感じさせる人。アヴデーエワは何を思って、このプログラムを考えたのでしょうか。その答えは最後のアンコールにありました。長いメッセージ。よくは聞き取れませんでしたが、ウクライナを代表する作曲家シルヴェストロフは今は避難してドイツに住んでいます。アヴデーエワは彼と会ったそうで、アンコール曲もシルヴェストロフのバガテル。彼女の弾く音楽は実に静かな音で奏でられます。そこには彼女の心の中のため息とも哀しみともとれるものがあります。戦争を悲しみ、どこにも持っていけない心の痛みが切々と奏でられます。短いバガテルは尻切れトンボのような形で止まります。実はシルヴェストロフのバガテルはアタッカで終わり、次のバガテルにつながるように作られています。シルヴェストロフによると、小さなバガテルをすべてアタッカで繋いで演奏すると70分ほどの大曲になるのだそうです。アヴデーエワはアタッカで終えた後、長い沈黙の時間を続けます。その音楽は続いていくのか、終わるのか・・・あるいは戦争で亡くなった人々への哀悼を捧げる時間なのか、彼女自身の心の中の葛藤が続き、やがて、意を決して立ち上がります。沈黙を守っていた聴衆も果たして拍手をしていいものなのか・・・答えのない問題はまるでウクライナ侵略戦争と重なります。重いコンサートでした。
明後日はトリフォニーホールで前半は同じプログラム。後半は何とプロコフィエフの戦争ソナタです。また、重いコンサートになりそうです。しかし、アヴデーエワも我々も現状を直視して、ウクライナ戦争の悲劇に心を向け続けないといけませんね。

今日のコンサートの内容にも軽く触れておきましょう。すべてはアヴデーエワの凝縮した音の響きの一瞬、一瞬のきらめきにあることは前回のリサイタルから変わりません。

1曲目のショパンの幻想ポロネーズはそういうアヴデーエワの美質が結実した素晴らしい演奏で、何とも魅力的なパッセージの連なりになっています。はっとするような走句の美しさに魅了されているうちに長大なポロネーズが終わってしまい、あまりに急に終わったようなような印象に絶句してしまいます。アヴデーエワのショパンは彼女がショパンコンクールで優勝したとき以来、変わらずに輝くような魅力にあふれています。

2曲目のシュピルマンのピアノ組曲「ザ・ライフ・オブ・ザ・マシーンズ」は前回のリサイタルのアンコールで聴いたときが初聴きでしたが、そのときは超絶的な演奏に驚愕しました。ですから、今日はそういう驚きはないものの、やはり、凄い超絶演奏です。テクニックだけでなく、磨き上げられた音にも感銘を受けます。無論、アヴデーエワは超絶演奏をめざすような音楽家ではありませんが、音楽によってはそういう底知れぬ実力も垣間見せるということです。

3曲目はヴァインベルクのピアノ・ソナタ第4番。ショスタコーヴィチの盟友でもあったヴァインベルクはこの曲では新古典主義的な一面を見せています。ショスタコーヴィチと同様です。アヴデーエワは美しい演奏で歌い上げていき、最終局面で圧巻の高潮した演奏を聴かせてくれました。なお、アヴデーエワは、ヴァインベルクの熱心な啓蒙活動をしているクレーメルと室内楽で共演し、感化された模様ですね。

休憩後、ラフマニノフのプレリュードOp.23から、7‐10番を逆順に演奏。パーフェクトな演奏ですが、あまりに綺麗過ぎて、もっと違う形で感銘のある演奏を彼女ならば弾けるのではないかとも思います。いつの日か、もっとスケール感のある演奏を聴かせてくれるでしょう。

続くラフマニノフのピアノ・ソナタ第2番(アヴデーエワ版)は満を持したような素晴らしい演奏。圧倒的な演奏です。第3楽章は凄い迫力で締めくくります。もっとも予習したホロヴィッツが凄過ぎて、それとは比較にはなりません。


アンコールは王子ホールと同じシュピルマンのマズルカ。そして、最後のシルヴェストロフは前述したとおりです。


いよいよ、明後日のトリフォニーホールが締めくくりです。プロコフィエフの戦争ソナタが楽しみですね。


今日のプログラムは以下です。

  ショパン:ポロネーズ第7番 変イ長調 Op.61「幻想ポロネーズ」
  シュピルマン:ピアノ組曲「ザ・ライフ・オブ・ザ・マシーンズ」
  ヴァインベルク:ピアノ・ソナタ第4番 ロ短調 Op.56

   《休憩》

  ラフマニノフ:10のプレリュード Op.23より(10,9,8,7)
  ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 op.36(アヴデーエワ版)

   《アンコール》

    シュピルマン:マズルカ
    シルヴェストロフ:バガテル Op.1-2


最後に今回の予習について、まとめておきます。

ショパンのポロネーズ第7番「幻想ポロネーズ」は、以下のCDで予習しました。

  イリーナ・メジューエワ ショパン・リサイタル 2010 2010年7月16日 新川文化ホール・小ホール(富山県魚津市) ライヴ録音
  
メジューエワの力感あふれる演奏。


シュピルマンのピアノ組曲「ザ・ライフ・オブ・ザ・マシーンズ」は音源が見つからず、予習していません。


ヴァインベルクのピアノ・ソナタ第4番で予習しました。

  アリソン・ブリュースター・フランゼッティ ヴァインベルグ:ピアノ作品全集 2009年11月23-25日 シェリー・エンロウ・リサイタルホール キーン大学 ニュージャージー、米国 セッション録音

何とも素晴らしい演奏。


ラフマニノフの10のプレリュード Op.23は以下のCDで予習しました。

  ニコライ・ルガンスキー 2017年9月 ル・フラジェ、ブリュッセル セッション録音

ルガンスキーらしい素晴らしい音で描き上げる見事な演奏。


ラフマニノフのピアノ・ソナタ第2番は以下のCDで予習しました。

  ウラディミール・ホロヴィッツ 1980年4月13&5月2,4,11日、ボストン、シンフォニー・ホールおよびニューヨーク・エイ
ヴェリー・フィッシャー・ホール ライヴ録音

ホロヴィッツ版の演奏です。聴くものを黙らせる演奏ですから、あえて、感想は戒めます。まあ、凄い!



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       アヴデーエワ,  

凝縮したピアノの音のきらめき! ユリアンナ・アヴデーエワ ピアノ・リサイタル@王子ホール 2023.2.21

ユリアンナ・アヴデーエワのソロ・ピアノ・リサイタルはおよそ4年ぶりに聴きます。コロナ禍は長かった・・・。待望の演奏でした。今回を皮切りに横浜みなとみらいホール、トリフォニーホールでも聴きます。やはり、彼女のピアノは凄かった!! ピアノの演奏の素晴らしさを満喫しました。ピアノは一瞬、一瞬の音の響きがたまらなく、心に響きます。それを実感させてくれるアヴデーエワのピアノでした。一瞬に込められた凝縮した音の塊が何とも素晴らしい音楽に昇華します。アヴデーエワの演奏は次の一瞬にどういう音の塊が投げかけられるかわからないので、気が抜けない演奏です。新しい驚きに次々と感動させられます。音楽全体の構造はある意味、どうでもよくなってきます。瞬間の芸術に対峙するという感じで演奏を味わいました。

前半の武満 徹は楽譜を置いての何か、たどたどしい感じの演奏です。と思っていると、急に素晴らしいパッセージが響いてきます。油断ならない演奏です。全体には弾きこみ不足に思えますが、彼女の音楽的センスでまとめ上げた演奏です。

次はリストです。最初の2曲は晩年の作品で難解な曲想です。ここからアヴデーエワは暗譜の演奏に変わります。演奏は滑らかになりますが、つかみどころのない曲想は武満 徹と共通するものがあります。
最後の3曲目、「伝説」より 水の上を歩くパオラの聖フランチェスコ はリストの全盛期の作品。これは物凄い演奏です。ロ短調ソナタにも匹敵するような素晴らしさ。ピアニズムの極致をいくような圧巻の演奏に圧倒されました。

休憩後、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ 第29番「ハンマークラヴィーア」。これはもう何も語る必要のない素晴らしい演奏でした。何故にこんなに美しい音が出るのかな! 高音の強音の美しいきめきに魅了されます。それに鍵盤の端から端までの動きの鍛え上げられた様と出てくる音の響きの素晴らしさ。ピアノは手と指だけで弾くのではなく、体全体を使って、躍動感あふれる演奏をするのだと強烈に印象づけられました。ピアノを弾くために鍛え上げられたアヴデーエワの美しい体に驚嘆しました。

今週、あと2回、アヴデーエワのピアノを聴けると思うと、嬉しくなります。


今日のプログラムは以下です。

  武満 徹:雨の樹 素描
  武満 徹:リタニ ―マイケル・ヴァイナーの追憶に
  リスト:調性のないバガテル S216a
  リスト:凶星! S208
  リスト:「伝説」より 水の上を歩くパオラの聖フランチェスコ S175-2

   《休憩》

  ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第29番 変ロ長調 Op.106 「ハンマークラヴィーア」

   《アンコール》

    シュピルマン:マズルカ
    シュピルマン:組曲「ザ・ライフ・オブ・ザ・マシーンズ」より トッカティーナ


最後に今回の予習について、まとめておきます。

武満 徹の作品は、以下のCDで予習しました。

  小川典子 雨の樹~ピアノ作品集 1996年7月11,12日 スウェーデン、ダンデリド・ギムナジウム セッション録音
  
小川典子の「BIS」デビュー盤。武満 徹とも親交を結んだ小川典子の会心の演奏。


リストの調性のないバガテルは以下のCDで予習しました。

  スティーヴン・ハフ 2018年12月10-14日、ロンドン、ケンティッシュ・タウン、殉教者聖サイラス教会 セッション録音

何とも見事な演奏です。


リストの凶星! は以下のCDで予習しました。

  マウリツィオ・ポリーニ 1989年6月 ミュンヘン セッション録音

文句なしの素晴らしい演奏。


リストの「伝説」より 水の上を歩くパオラの聖フランチェスコは以下のCDで予習しました。

  ヴィルヘルム・ケンプ 1974年9月2-4日 ハノーファー、ベートーヴェンザール セッション録音

78歳のケンプがリストのベストアルバムを録音したものです。実はケンプはリストを得意にしており、中でもこの曲や「巡礼の年」のような宗教色の濃い曲をよくコンサートでも取り上げていました。ハイレゾで聴くこの演奏は奥深いものがあります。


ベートーヴェンのピアノ・ソナタ 第29番「ハンマークラヴィーア」は以下のCDで予習しました。

  イリーナ・メジューエワ  ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2020年6月~7月、新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

新コロナウィリスで中止になったベートーヴェンの全曲演奏会の代わりに録音した2度目のベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集です(1度目の全集は2007年~2009年に録音。10年ほどの時間を置いての再録音です。)。saraiもチケットを購入し、全曲演奏会を聴く予定でしたが、1~4回が中止になり、5~8回の半分だけ聴きました。中でもこの「ハンマークラヴィーア」は圧巻の演奏でした。録音で聴く演奏は実演ほどの迫力には欠けますが、素晴らしい演奏です。



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       アヴデーエワ,  

究極のピアニズム! ユリアンナ・アヴデーエワ ピアノ・リサイタル@東京オペラシティ コンサートホール 2019.2.19

ユリアンナ・アヴデーエワのソロ・ピアノ・リサイタルはおよそ2年半ぶりに聴きます。その間、グリーグのピアノ協奏曲とブラームスのピアノ協奏曲第1番は聴きましたから、ちゃんと毎年、彼女のピアノ演奏には接しています。それにしても、聴くたびにそのピアノ演奏に感銘させてくれるアヴデーエワは凄すぎるピアニストです。今日も素晴らしい演奏に恐れ入りました。ショパンも最高だし、シューマンも見事だし、シューベルトも聴き応え十分。さらにアンコールも素晴らしい。これ以上の満足はないピアノ・リサイタルでした。

前半のショパンはまさに有無を言わせぬ極上の素晴らしさ。マズルカ第36番Op.59-1の冒頭の美しいタッチの響きを聴いただけで心をどこかに持っていかれます。そもそもsaraiはそれほどのショパンのファンでないのに、この演奏を聴いていると、俄かのショパンのファンになってしまいます。本当はショパンって、こんな音楽なのねって再認識してしまいます。マズルカ第36番のロマンティックな美しさ、第37番の流れるような高揚、第38番はあの有名な旋律が魅惑的に響きます。繊細で微妙なルパートに心を奪われる思いです。それにしてもアヴデーエワのピアノの響きは美し過ぎます。神によって、無限の天分を与えられたピアニストとしか表現のしようがありません。
次のピアノ・ソナタ第3番はさらに素晴らしい演奏。生涯最高のショパンを聴きました。とりわけ、第1楽章の素晴らしさ。下降音型の第1主題の劇的な表現の後に演奏される第2主題のロマンティックな響きには心が溶けていきそうです。ロマンを極め尽くすような音楽に魅了されます。軽やかな第2楽章に聴き入っていると、休みなしに第3楽章の導入部に入ってしまいます。そして、実に抒情的な主題が美しく歌われます。長大な中間部も抒情を極めますが、その後に回帰する最初の主題が左手の印象的なバスを伴って、美しさの限りを極めていきます。何という素晴らしい演奏でしょう。これがショパンの音楽なのですね。第4楽章も間を置かずに続きます。高揚感のある見事なフィナーレでした。これ以上のショパンを聴くことはないと思わせるような究極の演奏でした。

後半はシューマンです。シューマンがクララに愛を捧げ始めていた頃の作品のひとつです。幻想小曲集はその題名のごとく、シューマンのロマンが結実したような作品です。アヴデーエワは抒情と情熱の交錯する複雑な音楽を素晴らしいピアニズムで表現していきます。8曲とも集中力の高い演奏で見事としか言いようがありません。第1曲の《夕べに》の美しい響きにはうっとりと聴き入りました。第3曲の《何故?》の繊細さを極めた抒情はピアノ演奏の奥義を見た思いです。第5曲の《夜に》の熱い思いはシューマンのクララへの愛ゆえかと想像させられるような情熱的な表現の演奏です。第8曲の《歌の終わり》のフィナーレの静謐さは実に微妙な表現の演奏によって、聴く者の心を酔わせます。素晴らしいシューマンでした。そう言えば、彼女のシューマンを聴くのは初めてです。これからはどんなシューマンを聴かせてくれるのでしょう。

最後はシューベルトの幻想曲ハ長調「さすらい人」です。テンションの高い素晴らしい演奏でした。しかし、予習に聴いた田部京子nの演奏が素晴らし過ぎて、それには及ばない感じです。やはり、シューベルトには詩情が感じられないと感動できません。そのsaraiの気持ちを見透かしたようにアンコールで素晴らしい楽興の時第3番を演奏してくれました。こんな素敵な楽興の時を聴いたことがありません。力が抜けた美しい響きでシューベルトの奥深さを表現してくれます。有名な通俗曲をこういう高いレベルで芸術的に演奏するのは並みのピアニストにできることではありません。やはり、アヴデーエワは天才的なピアニスト! バッハのイギリス組曲第2番の第5曲のブレーは前回のブラームスの協奏曲のアンコールでも聴きました。何度聴いても素晴らしいです。バッハ弾きに特化しても素晴らしいピアニストになりそうですが、多才過ぎて、そうもいかないのが残念ではあります。で、最後のシメはやはりショパン。とっても素敵なマズルカでした。

今回もアヴデーエワは最高のピアノを聴かせてくれました。できれば、毎年、日本でソロのリサイタルを開いてもらいたいですね。 → KAJIMOTO殿


今日のプログラムは以下です。

  ショパン:3つのマズルカ Op.59
  ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 Op.58

   《休憩》

  シューマン:幻想小曲集 Op.12
  シューベルト:幻想曲 ハ長調 D760「さすらい人」

   《アンコール》

    シューベルト:楽興の時 D 780 から 第3番ヘ短調
    バッハ:イギリス組曲第2番 イ短調 BWV 807 から ブレーI アルテルナティヴマン (Bourrée I alternativement)
    ショパン:マズルカ 第7番 ヘ短調 Op.7-3

最後に今回の予習について、まとめておきます。

ショパンの3つのマズルカ Op.59は、以下のCDで予習しました。

  マルタ・アルゲリッチ 1965年録音 ハイレゾ
  
1965年のショパン・コンクールを制した直後の録音です。清新な演奏ですが、アルゲリッチにしては、まだ、演奏に磨きがかかったというレベルではありません。

  アルトゥール・ルービンシュタイン 1965年12月27~30日、1966年 1月3日、ニューヨーク、ウェブスター・ホール

いかにも手の内にはいっているという感じの明快な表現の納得の演奏です。やはり、ルビンシュタインはショパンの達人ですね。反面、スリリングな魅力には欠けますが、まあ、そういうものでしょう。これから、ルビンシュタインの演奏もぽちぽち聴いていきましょう。


ショパンのピアノ・ソナタ第3番は以下のCDで予習しました。

  マルタ・アルゲリッチ 1967年録音

さきほどの1965年のショパン・コンクールを制した直後にも録音していますが、これはその2年後の録音です。わずか2年で驚異的な進化を果たしています。見事な演奏です。

  アルフレッド・コルトー 1933年録音

これは昔から有名な録音です。細部まで磨き上げたインスピレーションに満ちた名演です。


シューマンの幻想小曲集 Op.12は以下のCDで予習しました。

  マルタ・アルゲリッチ 1978年5月7日 アムステルダム・コンセルトヘボウ ライヴ録音

アルゲリッチでライヴということでとっても熱い演奏です。アルゲリッチのこの曲への愛が感じられるような演奏に痺れます。

 クラウディオ・アラウ 1972年3月 ドイツ セッション録音

アラウらしい重厚でゆったりとした、素晴らしい響きの演奏です。不協和音を明確に響かせているのが印象的です。これはこれで聴き惚れてしまいます。

 アルフレッド・ブレンデル 1982年3月23-27日  ロンドン セッション録音

ブレンデルの繊細で軽いタッチで極めて美しい響きの演奏が光ります。アルゲリッチの熱さともアラウの重厚さとも異なるウィーン風とでもいうような素晴らしい演奏です。


シューベルトの幻想曲ハ長調「さすらい人」は以下のCDで予習しました。

  田部京子 2002年10月6-8日 群馬 笠懸野文化ホール

シューベルトと言えば、田部京子。詩情にあふれた素晴らしい演奏です。これを聴くと、アヴデーエワの本番が聴けなくなりそうです。

 アルフレッド・ブレンデル 1971年11月13日~19日 ザルツブルク、モーツァルテウム

美しい響きのいい演奏ですが、田部京子の最高の演奏を聴いてしまうと何か、ものたりない感じになります。




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       アヴデーエワ,  

ピアニッシモが心に沁みるブラームスのピアノ協奏曲・・・アヴデーエワ&フルシャ&バンベルク交響楽団@サントリーホール 2018.6.26

今日は久しぶりにお気に入りのピアニスト、ユリアンナ・アヴデーエワの演奏を聴きました。彼女はこれまであまりブラームスのピアノ協奏曲は弾いてこなかったそうですが、よほど、この日に向けて、この曲を研究し、練習してきたんでしょう。素晴らしい仕上がりぶりでした。
長大な第1楽章のどのパッセージも魅惑的な演奏で、そのロマンティックさときたら、これまで聴いたことがない素晴らしさ。かと言って、メロー過ぎるわけではなく、若き日のブラームスの音楽の枠にきっちりと収まっています。その美しさの極みのようなピアノにぴったりとオーケストラパートを寄り添わせるヤクブ・フルシャの指揮も見事です。バンベルク交響楽団はこれまで色んな事情があって、生で聴くのは多分、今日が初めてのような気がします。ブロムシュテットとのブルックナーの印象が強いせいか、ドイツ的な重心の低い響きを予想しましたが、モダンで美しい響きなのでびっくりです。次第に3者の息がぴったりと合ってきて、えもいわれぬブラームスのロマンティックな音楽が展開されます。いつもはこの曲はシュトルム・ウント・ドランクを思わせる強烈さと勢いを感じさせられますが、アヴデーエワが主導するロマンの香りの高い音楽で違う曲を聴いているように感じます。こんなに美しい第1楽章は初めて聴きました。そして、第2楽章に入ります。アヴデーエワの繊細さを極めつくしたようなピアニッシモの微妙な響きにただただ魅了されます。そのアヴデーエワのピアニッシモ以上に、フルシャはバンベルク響から抑えたピアニッシモの極みのような、かすかに聴こえるか、聴こえないような極上の響きを引き出します。音楽の美しさはピアニッシモにこそあると言ったのは故吉田秀和氏だったでしょうか。彼はそのピアニッシモをウィーン風と表現していました。ピアニッシモの競演が続く第2楽章は祈りの音楽というよりも、ブラームスのロベルト・シューマンへの哀悼の気持ちだけでなく、悲しみにくれるクララ・シューマンへの密やかな思いがやるせなく詰め込まれた愛情表現のように感じてしまいます。アヴデーエワはきっと、そんな風にピアノを弾いていたんではないかしら。第3楽章に入っても、この素晴らしかった第2楽章との心の切り換えができません。それはアヴデーエワも同じではなかったんでしょうか。第3楽章も半ばになって、ようやく、ノリの良い音楽にスイッチがはいります。ピアノとオーケストラが一緒になって、推進力のある音楽を展開していきます。フィナーレはピアノとオーケストラのかけあいが圧巻でした。
期待はしていましたが、アヴデーエワがここまでブラームスを弾きこなすとは思っていませんでした。素晴らしいブラームスが聴けました。先週も同じ曲を聴きましたが、完成度も音楽性もまるで比べ物になりません。現在、saraiの中ではピアノの3強はアンドラーシュ・シフ、田部京子、アンジェラ・ヒューイットですが、アヴデーエワも肉薄しています。来春、待ちに待ったアヴデーエワの来日ピアノ・リサイタルがあるとのこと。聴き逃がせません。そうそう、アヴデーエワがアンコールで弾いたバッハのイギリス組曲、とっても凄かった! こんなノリでバッハを弾けるのはアンデルジェフスキーくらいですが、さらに魅惑的です。アヴデーエワもどんどんレパートリーが広がりますね。

後半のドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」ですが、以前、フルシャがそのときの手兵だったプラハ・フィルと演奏したコンサートを聴いたことが思い出されます。今日のバンベルク響とはオーケストラのアンサンブル力が比べ物になりませんが、プラハ・フィルは何と言うか、ひたむきさがありました。音楽を超える何かです。今日のバンベルク交響楽団も素晴らしい演奏でしたが、まだ、フルシャがドライブしきれていないようにも感じました。ただ、今日のsaraiは体調があまりよくなくて、前半のブラームスで体力を使い果たして、後半は集中力の切れた状態でした。これ以上の感想は明後日に横浜みなとみらいホールで第8番、第9番を聴いた後で書くことにします。ところで今日の第2楽章冒頭でのイングリッシュ・ホルンの見事な独奏は若い日本人女性でしたね。あれは誰?

アンコールは予期したスラヴ舞曲ではなく、ハンガリー舞曲。今日演奏されたオーケストラ版のドヴォルザークの編曲したものかな? だから、ドヴォルザークの交響曲の後でアンコール曲にしたのかしら。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:ヤクブ・フルシャ
  ピアノ:ユリアンナ・アヴデーエワ
  管弦楽:バンベルク交響楽団

  ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 Op.15
   《アンコール》
     J.S.バッハ:イギリス組曲第2番 イ短調 BWV807より第5曲ブーレ(ピアノ・アンコール)

   《休憩》

  ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 Op.95 「新世界より」

   《アンコール》
     ブラームス:ハンガリー舞曲第17番 嬰ヘ短調
     ブラームス:ハンガリー舞曲第21番 ホ短調 – ホ長調

最後に予習について、まとめておきます。

ブラームスのピアノ協奏曲第1番を予習したCDは以下です。

  エレーヌ・グリモー、クルト・ザンデルリンク指揮シュターツカペレ・ベルリン 1997年 ベルリン、シャウシュピールハウス ライヴ録音
  エミール・ギレリス、オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・フィル 1972年

グリモー盤はハイレゾで、ギレリス盤はLPレコードで聴きました。演奏は悪くはないですが、満足もしていません。今日のアヴデーエワの演奏が上回ります

ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」を予習したCDは明後日の横浜みなとみらいホールでのコンサートの記事でまとめてご紹介します。



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

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金婚式、おめでとうございます!!!
大学入学直後からの長いお付き合い、素晴らしい伴侶に巡り逢われて、幸せな人生ですね!
京都には年に2回もお越しでも、青春を過ごし

10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

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