ユリアンナ・
アヴデーエワのソロ・ピアノ・リサイタルはおよそ2年半ぶりに聴きます。その間、グリーグのピアノ協奏曲とブラームスのピアノ協奏曲第1番は聴きましたから、ちゃんと毎年、彼女のピアノ演奏には接しています。それにしても、聴くたびにそのピアノ演奏に感銘させてくれる
アヴデーエワは凄すぎるピアニストです。今日も素晴らしい演奏に恐れ入りました。ショパンも最高だし、シューマンも見事だし、シューベルトも聴き応え十分。さらにアンコールも素晴らしい。これ以上の満足はないピアノ・リサイタルでした。
前半のショパンはまさに有無を言わせぬ極上の素晴らしさ。マズルカ第36番Op.59-1の冒頭の美しいタッチの響きを聴いただけで心をどこかに持っていかれます。そもそもsaraiはそれほどのショパンのファンでないのに、この演奏を聴いていると、俄かのショパンのファンになってしまいます。本当はショパンって、こんな音楽なのねって再認識してしまいます。マズルカ第36番のロマンティックな美しさ、第37番の流れるような高揚、第38番はあの有名な旋律が魅惑的に響きます。繊細で微妙なルパートに心を奪われる思いです。それにしても
アヴデーエワのピアノの響きは美し過ぎます。神によって、無限の天分を与えられたピアニストとしか表現のしようがありません。
次のピアノ・ソナタ第3番はさらに素晴らしい演奏。生涯最高のショパンを聴きました。とりわけ、第1楽章の素晴らしさ。下降音型の第1主題の劇的な表現の後に演奏される第2主題のロマンティックな響きには心が溶けていきそうです。ロマンを極め尽くすような音楽に魅了されます。軽やかな第2楽章に聴き入っていると、休みなしに第3楽章の導入部に入ってしまいます。そして、実に抒情的な主題が美しく歌われます。長大な中間部も抒情を極めますが、その後に回帰する最初の主題が左手の印象的なバスを伴って、美しさの限りを極めていきます。何という素晴らしい演奏でしょう。これがショパンの音楽なのですね。第4楽章も間を置かずに続きます。高揚感のある見事なフィナーレでした。これ以上のショパンを聴くことはないと思わせるような究極の演奏でした。
後半はシューマンです。シューマンがクララに愛を捧げ始めていた頃の作品のひとつです。幻想小曲集はその題名のごとく、シューマンのロマンが結実したような作品です。
アヴデーエワは抒情と情熱の交錯する複雑な音楽を素晴らしいピアニズムで表現していきます。8曲とも集中力の高い演奏で見事としか言いようがありません。第1曲の《夕べに》の美しい響きにはうっとりと聴き入りました。第3曲の《何故?》の繊細さを極めた抒情はピアノ演奏の奥義を見た思いです。第5曲の《夜に》の熱い思いはシューマンのクララへの愛ゆえかと想像させられるような情熱的な表現の演奏です。第8曲の《歌の終わり》のフィナーレの静謐さは実に微妙な表現の演奏によって、聴く者の心を酔わせます。素晴らしいシューマンでした。そう言えば、彼女のシューマンを聴くのは初めてです。これからはどんなシューマンを聴かせてくれるのでしょう。
最後はシューベルトの幻想曲ハ長調「さすらい人」です。テンションの高い素晴らしい演奏でした。しかし、予習に聴いた田部京子nの演奏が素晴らし過ぎて、それには及ばない感じです。やはり、シューベルトには詩情が感じられないと感動できません。そのsaraiの気持ちを見透かしたようにアンコールで素晴らしい楽興の時第3番を演奏してくれました。こんな素敵な楽興の時を聴いたことがありません。力が抜けた美しい響きでシューベルトの奥深さを表現してくれます。有名な通俗曲をこういう高いレベルで芸術的に演奏するのは並みのピアニストにできることではありません。やはり、
アヴデーエワは天才的なピアニスト! バッハのイギリス組曲第2番の第5曲のブレーは前回のブラームスの協奏曲のアンコールでも聴きました。何度聴いても素晴らしいです。バッハ弾きに特化しても素晴らしいピアニストになりそうですが、多才過ぎて、そうもいかないのが残念ではあります。で、最後のシメはやはりショパン。とっても素敵なマズルカでした。
今回も
アヴデーエワは最高のピアノを聴かせてくれました。できれば、毎年、日本でソロのリサイタルを開いてもらいたいですね。 → KAJIMOTO殿
今日のプログラムは以下です。
ショパン:3つのマズルカ Op.59
ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 Op.58
《休憩》
シューマン:幻想小曲集 Op.12
シューベルト:幻想曲 ハ長調 D760「さすらい人」
《アンコール》
シューベルト:楽興の時 D 780 から 第3番ヘ短調
バッハ:イギリス組曲第2番 イ短調 BWV 807 から ブレーI アルテルナティヴマン (Bourrée I alternativement)
ショパン:マズルカ 第7番 ヘ短調 Op.7-3
最後に今回の予習について、まとめておきます。
ショパンの3つのマズルカ Op.59は、以下のCDで予習しました。
マルタ・アルゲリッチ 1965年録音 ハイレゾ
1965年のショパン・コンクールを制した直後の録音です。清新な演奏ですが、アルゲリッチにしては、まだ、演奏に磨きがかかったというレベルではありません。
アルトゥール・ルービンシュタイン 1965年12月27~30日、1966年 1月3日、ニューヨーク、ウェブスター・ホール
いかにも手の内にはいっているという感じの明快な表現の納得の演奏です。やはり、ルビンシュタインはショパンの達人ですね。反面、スリリングな魅力には欠けますが、まあ、そういうものでしょう。これから、ルビンシュタインの演奏もぽちぽち聴いていきましょう。
ショパンのピアノ・ソナタ第3番は以下のCDで予習しました。
マルタ・アルゲリッチ 1967年録音
さきほどの1965年のショパン・コンクールを制した直後にも録音していますが、これはその2年後の録音です。わずか2年で驚異的な進化を果たしています。見事な演奏です。
アルフレッド・コルトー 1933年録音
これは昔から有名な録音です。細部まで磨き上げたインスピレーションに満ちた名演です。
シューマンの幻想小曲集 Op.12は以下のCDで予習しました。
マルタ・アルゲリッチ 1978年5月7日 アムステルダム・コンセルトヘボウ ライヴ録音
アルゲリッチでライヴということでとっても熱い演奏です。アルゲリッチのこの曲への愛が感じられるような演奏に痺れます。
クラウディオ・アラウ 1972年3月 ドイツ セッション録音
アラウらしい重厚でゆったりとした、素晴らしい響きの演奏です。不協和音を明確に響かせているのが印象的です。これはこれで聴き惚れてしまいます。
アルフレッド・ブレンデル 1982年3月23-27日 ロンドン セッション録音
ブレンデルの繊細で軽いタッチで極めて美しい響きの演奏が光ります。アルゲリッチの熱さともアラウの重厚さとも異なるウィーン風とでもいうような素晴らしい演奏です。
シューベルトの幻想曲ハ長調「さすらい人」は以下のCDで予習しました。
田部京子 2002年10月6-8日 群馬 笠懸野文化ホール
シューベルトと言えば、田部京子。詩情にあふれた素晴らしい演奏です。これを聴くと、アヴデーエワの本番が聴けなくなりそうです。
アルフレッド・ブレンデル 1971年11月13日~19日 ザルツブルク、モーツァルテウム
美しい響きのいい演奏ですが、田部京子の最高の演奏を聴いてしまうと何か、ものたりない感じになります。
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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽