最初はベリオのセクエンツァ Ⅷ。これは譜面を見ての演奏。それはそうでしょう。演奏を始めると、絶句します。超絶的な難曲をたやすく弾きこなします。それも実に迫力のある演奏です。動と静を交錯させながら、美しい響きと激しい響きを見事に両立させて、ぐいぐいと心に迫ってきます。その素晴らしさに圧倒されているうちに音楽は不意に終わります。現代のシャコンヌを聴いた思いになりました。うーん、凄い!
次はバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番。もちろん、譜面は置きませんね。実に安定した美しい演奏です。ある意味、少し曲に距離をとった演奏とも言えます。この曲はヴァイオリニストにとって聖典とも言えるものですから、あえて、音楽をリスペクトして、自分の気持ちを入れ込み過ぎないようにあくまでも主役はバッハの音楽自体に置こうとしているのでしょう。第5曲のシャコンヌに至ると、音楽自体が輝きを増します。特に後半になると、音楽が高潮していきます。その頂点で音楽は終了。もっと気魄を込めた演奏もあるでしょうが、そうすることは恐れ多いとも言えますね。この路線でさらに完成度を高めていくのでしょう。音楽の難しさを感じる演奏でした。
休憩後、ビーバーの「ロザリオのソナタ」からのパッサカリア。これは譜面を見ながらの演奏。とても気合の入った演奏です。ベリオのセクエンツァと同様に動と静を交錯させた思い切りのある素晴らしい演奏です。とてもバロック音楽とは思えない自由奔放な演奏です。もちろん、古典の様式美はあり、素晴らしい演奏です。彼女の演奏でこの「ロザリオのソナタ」全曲を聴いてみたものです。これも聴き入っているうちに不意に終わります。どの曲も魅了されて、集中して聴いています。
素晴らしい演奏が続きますが、もう最後のバルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタです。これは何とも凄い演奏。このバルトークの最晩年の最高傑作も遂にこんなに完璧に演奏される日がやってきたという深い感慨を覚えます。実に新鮮でエネルギーに満ちて、病に侵されたバルトークが渾身の力で自らを奮い立たせて書き上げた音楽の根幹に初めて触れる思いになります。猛烈な力に満ちた第1楽章と第2楽章の凄まじい演奏に身震いしていたら、第3楽章はバルトーク特有の夜の音楽。もう現世を離れて、闇の世界で哀感に満ちた音楽です。イブラギモヴァのヴァイオリンはとても美しく冴え渡ります。これ以上は誰も弾けないでしょう。第4楽章はバルトークの世界を完結させるような圧巻の演奏です。バルトークに完璧に共感して、あり得ないような演奏をイブラギモヴァは聴かせてくれました。バッハの無伴奏ソナタ&パルティータ以降、最高に昇華したバルトークの無伴奏ソナタの何たるかを我々に提示してくれるような至高の名演でした。凄い演奏に驚愕しました。
先日の都響とのブラームスのコンツェルトは聴き逃がしましたが、今後は最優先で聴くべき音楽家の一人になりました。コパチンスカヤとは感性が異なりますが、不思議な魅力では共通するものを感じます。
今日のプログラムは以下のとおりでした。
ヴァイオリン:アリーナ・イブラギモヴァ
ベリオ: セクエンツァ Ⅷ
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004
《休憩》
ビーバー:「ロザリオのソナタ」より パッサカリア ト短調
バルトーク:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ Sz117
《アンコール》なし
最後に予習について、まとめておきます。
1曲目のベリオのセクエンツァ Ⅷを予習したCDは以下です。
ジャンヌ=マリー・コンケール 1994年10月~1997年7月 パリ、IRCAMスタジオ セッション録音
アンサンブル・アンテルコンタンポランの達人たちの演奏、そして、ベリオ自身の監修によるセクエンツァ1~13に含まれるものです。文句ない演奏です。
2曲目のバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番を予習したCDは以下です。
アリーナ・イブラギモヴァ 2009年2月 ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール セッション録音
今日演奏するイブラギモヴァの13年前の録音です。実に見事な演奏に魅了されました。
3曲目のビーバーの「ロザリオのソナタ」からのパッサカリアを予習したCDは以下です。
アンドルー・マンゼ 003年1月4-7日 ロンドン セッション録音
これは感動的な素晴らしい演奏です。深い祈りや聖的な何かを感じます。
4曲目のバルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタを予習したCDは以下です。
ギドン・クレーメル クレーメル&アルゲリッチ/ベルリン・リサイタル 2006年12月、ベルリン、フィルハーモニー ライヴ録音
2006年12月、ベルリン・フィルハーモニーでのライヴ・リサイタルの録音です。クレーメルの気魄の演奏です。
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