今日も昨日と同様にハイドンの作品を年代順に演奏しましたが、前半の演奏はまだエンジンがかかりきれていない感じで、後半は見違えるように素晴らしい演奏。3日間通して、同じパターンですね。とりわけ、アンコールは連日、素晴らしい演奏でした。これが実演の難しさであり、面白さでもあります。書き洩らしていましたが、何故か、このコンサートシリーズは立奏でした。もう高齢のキュッヒル氏のお元気なことに驚きます。saraiと同い年なんです。立奏にもかかわらず、疲れるどころか、後半に演奏レベルを上げてくるなんて、どういうことでしょう。
今日は最終日ということで最後に演奏したのはハイドンの完成作としては最後の弦楽四重奏曲第82番「雲がゆくまで待とう」Op.77-2です。ハイドンの老年の傑作です。齢67歳でした。モーツァルトは既に8年前に他界し、ベートーヴェンは28歳で最初の弦楽四重奏曲の作品18にとりかかっていました。ウィーンでは古典派の弦楽四重奏曲が熟成の時を迎えていました。ハイドン老は熟達の筆で軽み(かろみ)の中に対位法的な重層構造も忍ばせた素晴らしい作品でこのカテゴリーを完結していたんですね。この作品を実演で全楽章を聴いたのは初めてのことです。その前に演奏された有名な「ひばり」に比べると、いかに芸術的なレベルが高くなっていたかがよく分かりました。キュッヒル・クァルテットが今回のハイドン尽くしの中で極めて素晴らしい演奏でこの最後の作品を演奏してくれたのが大きな収穫となりました。とりわけ、第3楽章の変奏曲は美しいのはもちろんですが、ハイドン老の滋味深さを表現した素晴らしい演奏でした。ウィーンの団体ならではシンパシーに満ちた演奏でした。
後半の充実度に比べると、もう一つだった前半も「冗談」と「ひばり」という有名作品を実に楽しく聴かせてくれました。
三日間通して、ハイドンの弦楽四重奏曲に没入して、ハイドンの一見、シンプルで美しいだけのような作品の奥深さを再認識もしました。とりわけ、作品54以降の音楽的な充実度の高さに驚かされました。予習で聴いたアマデウス弦楽四重奏団、エマーソン弦楽四重奏団、リンゼイ弦楽四重奏団、モザイク弦楽四重奏団の素晴らしい録音にも魅了されました。今後は若手のキアロスクーロ弦楽四重奏団の録音が進行することも楽しみですが、キュッヒル・クァルテットも作品54以降の録音に取り組んでもらいたいところです。
素晴らしいハイドン尽くしの三日間でしたし、ウィーンに思いを馳せることのできた三日間でした。
今日のプログラムは以下です。
弦楽四重奏:キュッヒル・クァルテット
ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル
ヴァイオリン:ダニエル・フロシャウアー
ヴィオラ:ハインリヒ・コル
チェロ:シュテファン・ガルトマイヤー
ハイドン:弦楽四重奏曲
第38番(第30番)変ホ長調 Hob. Ⅲ:38「冗談」Op.33-2
第67番(第53番)ニ長調 Hob. Ⅲ:63「ひばり」Op.64-5
《休憩》
第82番(第67番)ヘ長調 Hob. Ⅲ:82「雲がゆくまで待とう」Op.77-2
《アンコール》
ハイドン:弦楽四重奏曲第79番(第64番)ニ長調 Hob. Ⅲ:79「ラルゴ」Op.76-5 より 第2楽章、第4楽章
ハイドン:弦楽四重奏曲第60番(第45番)イ長調 Hob. Ⅲ:60 Op.55-1 より 第3楽章、第4楽章、第2楽章
最後に予習について触れておきます。
1曲目のハイドンの弦楽四重奏曲第38番「冗談」Op.33-2は以下のCDを聴きました。
エマーソン弦楽四重奏団 2000~2001年 セッション録音
リンゼイ弦楽四重奏団 1994年10月10-12日 聖トリニティ教会、ウェントワース、ヨークシャー、英国 セッション録音
モザイク弦楽四重奏団 1995-96年 セッション録音
厚みのある豊かな響きで圧倒的なテクニックのエマーソン弦楽四重奏団、深みのある響きで内面の充実したリンゼイ弦楽四重奏団、ゆったりとした余裕の響きでオリジナル演奏を体感させてくれるモザイク弦楽四重奏団、いずれも聴き応え十分です。
2曲目のハイドンの弦楽四重奏曲第67番「ひばり」Op.64-5は以下のLPとCDを聴きました。
アマデウス弦楽四重奏団 1974年 ミュンヘン セッション録音 LPレコード
エマーソン弦楽四重奏団 2000~2001年 セッション録音
リンゼイ弦楽四重奏団 1999年4月28日 聖トリニティ教会、ウェントワース、ヨークシャー、英国 セッション録音
名曲だけに評価する以前にどの演奏も聴き惚れてしまいました。素晴らしい演奏揃いです。
3曲目のハイドンの弦楽四重奏曲第82番「雲がゆくまで待とう」Op.77-2は以下のLPとCDを聴きました。
アマデウス弦楽四重奏団 1965年 ハノーファー セッション録音 LPレコード
モザイク弦楽四重奏団 1989年 セッション録音
どちらもよい演奏ですが、特にモザイク弦楽四重奏団の音楽表現に惹かれました。
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