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ハイドン老は健在なり キュッヒル・クァルテット@サントリーホール ブルーローズ(小ホール) 2021.6.26

一昨日から3日間、キュッヒル・クァルテットのハイドン尽くしを楽しんできました。

今日も昨日と同様にハイドンの作品を年代順に演奏しましたが、前半の演奏はまだエンジンがかかりきれていない感じで、後半は見違えるように素晴らしい演奏。3日間通して、同じパターンですね。とりわけ、アンコールは連日、素晴らしい演奏でした。これが実演の難しさであり、面白さでもあります。書き洩らしていましたが、何故か、このコンサートシリーズは立奏でした。もう高齢のキュッヒル氏のお元気なことに驚きます。saraiと同い年なんです。立奏にもかかわらず、疲れるどころか、後半に演奏レベルを上げてくるなんて、どういうことでしょう。

今日は最終日ということで最後に演奏したのはハイドンの完成作としては最後の弦楽四重奏曲第82番「雲がゆくまで待とう」Op.77-2です。ハイドンの老年の傑作です。齢67歳でした。モーツァルトは既に8年前に他界し、ベートーヴェンは28歳で最初の弦楽四重奏曲の作品18にとりかかっていました。ウィーンでは古典派の弦楽四重奏曲が熟成の時を迎えていました。ハイドン老は熟達の筆で軽み(かろみ)の中に対位法的な重層構造も忍ばせた素晴らしい作品でこのカテゴリーを完結していたんですね。この作品を実演で全楽章を聴いたのは初めてのことです。その前に演奏された有名な「ひばり」に比べると、いかに芸術的なレベルが高くなっていたかがよく分かりました。キュッヒル・クァルテットが今回のハイドン尽くしの中で極めて素晴らしい演奏でこの最後の作品を演奏してくれたのが大きな収穫となりました。とりわけ、第3楽章の変奏曲は美しいのはもちろんですが、ハイドン老の滋味深さを表現した素晴らしい演奏でした。ウィーンの団体ならではシンパシーに満ちた演奏でした。

後半の充実度に比べると、もう一つだった前半も「冗談」と「ひばり」という有名作品を実に楽しく聴かせてくれました。

三日間通して、ハイドンの弦楽四重奏曲に没入して、ハイドンの一見、シンプルで美しいだけのような作品の奥深さを再認識もしました。とりわけ、作品54以降の音楽的な充実度の高さに驚かされました。予習で聴いたアマデウス弦楽四重奏団、エマーソン弦楽四重奏団、リンゼイ弦楽四重奏団、モザイク弦楽四重奏団の素晴らしい録音にも魅了されました。今後は若手のキアロスクーロ弦楽四重奏団の録音が進行することも楽しみですが、キュッヒル・クァルテットも作品54以降の録音に取り組んでもらいたいところです。

素晴らしいハイドン尽くしの三日間でしたし、ウィーンに思いを馳せることのできた三日間でした。


今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:キュッヒル・クァルテット
    ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル
    ヴァイオリン:ダニエル・フロシャウアー
    ヴィオラ:ハインリヒ・コル
    チェロ:シュテファン・ガルトマイヤー

   ハイドン:弦楽四重奏曲
    第38番(第30番)変ホ長調 Hob. Ⅲ:38「冗談」Op.33-2
    第67番(第53番)ニ長調 Hob. Ⅲ:63「ひばり」Op.64-5

    《休憩》

    第82番(第67番)ヘ長調 Hob. Ⅲ:82「雲がゆくまで待とう」Op.77-2

    《アンコール》
    ハイドン:弦楽四重奏曲第79番(第64番)ニ長調 Hob. Ⅲ:79「ラルゴ」Op.76-5 より 第2楽章、第4楽章
    ハイドン:弦楽四重奏曲第60番(第45番)イ長調 Hob. Ⅲ:60 Op.55-1 より 第3楽章、第4楽章、第2楽章


最後に予習について触れておきます。

1曲目のハイドンの弦楽四重奏曲第38番「冗談」Op.33-2は以下のCDを聴きました。

 エマーソン弦楽四重奏団 2000~2001年 セッション録音
 リンゼイ弦楽四重奏団 1994年10月10-12日 聖トリニティ教会、ウェントワース、ヨークシャー、英国 セッション録音
 モザイク弦楽四重奏団 1995-96年 セッション録音

厚みのある豊かな響きで圧倒的なテクニックのエマーソン弦楽四重奏団、深みのある響きで内面の充実したリンゼイ弦楽四重奏団、ゆったりとした余裕の響きでオリジナル演奏を体感させてくれるモザイク弦楽四重奏団、いずれも聴き応え十分です。


2曲目のハイドンの弦楽四重奏曲第67番「ひばり」Op.64-5は以下のLPとCDを聴きました。

 アマデウス弦楽四重奏団 1974年 ミュンヘン セッション録音 LPレコード
 エマーソン弦楽四重奏団 2000~2001年 セッション録音
 リンゼイ弦楽四重奏団 1999年4月28日 聖トリニティ教会、ウェントワース、ヨークシャー、英国 セッション録音

名曲だけに評価する以前にどの演奏も聴き惚れてしまいました。素晴らしい演奏揃いです。


3曲目のハイドンの弦楽四重奏曲第82番「雲がゆくまで待とう」Op.77-2は以下のLPとCDを聴きました。

 アマデウス弦楽四重奏団 1965年 ハノーファー セッション録音 LPレコード
 モザイク弦楽四重奏団 1989年 セッション録音

どちらもよい演奏ですが、特にモザイク弦楽四重奏団の音楽表現に惹かれました。



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       キュッヒル,  

ハイドンは疾走する キュッヒル・クァルテット@サントリーホール ブルーローズ(小ホール) 2021.6.25

昨日から3日間、キュッヒル・クァルテットでハイドン尽くしを楽しんでいます。

今日も昨日と同様にハイドンの作品を年代順に演奏しましたが、演奏自体も昨日のように尻上がりに演奏精度が高まります。スロースターターというのは、ウィーン・フィルと同様で困ったものです。
1曲目の第30番 Op.17-6はハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の作品です。そのせいかどうか分かりませんが、ちょっとホンキートーク的とも思える、よく言えば、熱情的な演奏、悪く言えば、大雑把な演奏です。昨日の1曲目の第32番 Op.20-2もシュトルム・ウント・ドラング期の作品ですが、その演奏も同様な雰囲気でした。どうやら、あえて、そんな演奏をしていたのかなあと頭を傾げます。そんなつもりで演奏するのなら、Op.33以降の作品に絞って演奏すればよかったのに思います。

2曲目の第57番 Op.54-1になると、冒頭から、人の変わったように精度の高い演奏を聴かせてくれます。素晴らしい演奏にうっとりとなって聴き入ります。休憩時にも第4楽章の旋律を口ずさんでしまうほど、魅惑的な演奏でした。

休憩後、第74番「騎手」Op.74-3です。作品自体も傑作でsaraiも大好きな曲ですが、今日の演奏の素晴らしいこと! 一心になって、演奏に集中します。第2楽章の味わいの深さ、そして、第4楽章の軽快な疾走感は推進力さえ感じさせられます。まるで人生を強い決意で駆け抜けるかのようです。すっかり、魅了されました。

今日もまた、次々と繰り出してくるアンコール曲。明日の予習ですね。気が付いてみれば、結局、第67番「ひばり」Op.64-5を全曲、演奏してしまいました。この曲はおそらく、「皇帝」と並んで、ハイドンの弦楽四重奏曲のなかで最も有名な作品でしょう。とても美しい演奏でした。明日、もう一度、聴けるのが嬉しいですね。それに普通に楽章順に聴けるほうがよいものです。

今日も楽しいコンサートでした。明日も楽しみです。もう、頭の中がハイドン、そして、ウィーンでいっぱいになっています。


今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:キュッヒル・クァルテット
    ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル
    ヴァイオリン:ダニエル・フロシャウアー
    ヴィオラ:ハインリヒ・コル
    チェロ:シュテファン・ガルトマイヤー

   ハイドン:弦楽四重奏曲
    第30番(第20番)ニ長調 Hob. Ⅲ:30 Op.17-6
    第57番(第42番)ト長調 Hob. Ⅲ:58 Op.54-1

    《休憩》

    第74番(第59番)ト短調 Hob. Ⅲ:74「騎手」 Op.74-3

    《アンコール》
    ハイドン:弦楽四重奏曲第67番(第53番)ニ長調 Hob. III:63「ひばり」Op.64-5 より 第2楽章、第4楽章、第1楽章、第3楽章


最後に予習について触れておきます。

1曲目のハイドンの弦楽四重奏曲第30番 Op.17-6は以下のCDを聴きました。

 ロンドン・ハイドン弦楽四重奏団 2008年8月 St George's, Brandon Hill、英国 セッション録音

若手の奏者たちによるガット弦とバロック弓による演奏ですが、聴きやすい演奏です。


2曲目のハイドンの弦楽四重奏曲第57番 Op.54-1は以下のLPとCDを聴きました。

 アマデウス弦楽四重奏団 1971年 ミュンヘン セッション録音 LPレコード
 エマーソン弦楽四重奏団 2000~2001年 セッション録音
 リンゼイ弦楽四重奏団 1987年1月 キルクリースホール、西ヨークシャー、英国 セッション録音

いずれも最高級の演奏です。とりわけ、エマーソン弦楽四重奏団の響きの美しさが際立ちます。


3曲目のハイドンの弦楽四重奏曲第74番「騎手」Op.74-3は以下のLPとCDを聴きました。

 アマデウス弦楽四重奏団 1978年 ミュンヘン セッション録音 LPレコード
 エマーソン弦楽四重奏団 2000~2001年 セッション録音
 リンゼイ弦楽四重奏団 2003年1月21-23日 聖トリニティ教会、ウェントワース、ヨークシャー、英国 セッション録音

これまた、三者三様の素晴らしい演奏です。



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       キュッヒル,  

ウィーンがやってきた! ハイドン尽くしのキュッヒル・クァルテット@サントリーホール ブルーローズ(小ホール) 2021.6.24

今日から3日間、キュッヒル・クァルテットでハイドン尽くしです。今さらながら、ハイドンの音楽を再評価したい気持ちで一杯です。

それにしても、キュッヒル・クァルテットは過去及び現役のウィーン・フィルのメンバーで構成され、中心は45年間もコンサートマスターを続けてきたライナー・キュッヒルです。今日もウィーン・フィルの響きを満喫しました。覚えている読者の方もいるでしょうが、昨年の5月はsaraiの渡欧30周年を記念して、ウィーンで個人的なパーティを開くつもりでした。あえなく、コロナ禍で中止にしましたが、そのパーティの中心はウィーン・フィルのメンバーによる弦楽四重奏でした。図らずもサントリーホールに別のメンバーがやってきて、別の形でウィーン・フィルのメンバーによる弦楽四重奏を聴くことができて、留飲を収めた気持ちです。かぶりつきの席で聴きましたから、自分のためにだけ演奏してくれていると錯覚することも可能でした。

今日は、そして、明日も明後日もハイドン尽くし。そんな経験はこれまで皆無です。なかなか、ハイドンのチクルスなどはないので、これからも経験できそうにありません。このところ、この3日間に向けて、ハイドンの弦楽四重奏曲ばかりを聴いていますが、こんなにハイドンをきちんと聴いたことはありません。これも今さらながら、ハイドンの素晴らしさを再認識しました。バロックから出発して、古典派のスタイルを確立し、さらにその先に上り詰めた音楽です。
ということで、ちょっと肩に力がはいった感じで今日の演奏に臨みましたが、ある意味、違う方向の感触に至ります。それはハイドンこそはウィーンの音楽そのものだということです。ウィーンと言えば、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトに始まり、ブルックナーやマーラー、さらにはシェーンベルク、ベルク、ウェーベルン。軽いところでは、ヨハン・シュトラウスなど多士済々。しかし、今日のようにハイドン尽くしをウィーン・フィルのメンバーで聴かされると、ウィーン=ハイドンと思えてしまいます。もっとも古き良きウィーンですけどね。本編での3曲とアンコール曲でこれだけハイドンを聴くと、まさにウィーンの街にいるような錯覚を覚えます。ああ、ウィーンの街が懐かしい!!

今日の演奏は個々に触れても仕方がありませんが、簡単に概観しておきましょう。バロック的な第32番 Op.20-2は彼らが弾くと、美しいウィーン・フィル風の演奏になります。第60番 Op.55-1は古典派としてスタイルが確立した後で、さらに洗練された作品ですから、とってもウィーン・フィル風の演奏が似合います。第79番 「ラルゴ」Op.76-5はハイドン後期の傑作です。まさにキュッヒル・クァルテットの実力がフルに活かされる作品で、圧巻の演奏。スキのない完璧な演奏でした。3曲通して、ハイドンの音楽を大回顧しているようなものです。おまけに次々と繰り出してくるアンコール曲。明日と明後日の予習ですね。気が付いてみれば、結局、第38番「冗談」 Op.33-2 を全曲、演奏してしまいました。これは明後日の本編で聴く曲です。『ロシア四重奏曲』6曲の中の1曲ですが、『ロシア四重奏曲』はハイドンが古典派の弦楽四重奏曲を確立した作品で、モーツァルトがこれにインスパイアされて、ハイドン・セット6曲を書いたのは有名な話です。やはり、それだけのことはある傑作です。キュッヒル・カルテットが見事に演奏してくれました。明後日も楽しみです。

何かと楽しいコンサートでした。明日も明後日も充実した演奏が聴けそうです。ハイドン!ハイドン! そして、ウィーン!ウィーン!


今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:キュッヒル・クァルテット
    ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル
    ヴァイオリン:ダニエル・フロシャウアー
    ヴィオラ:ハインリヒ・コル
    チェロ:シュテファン・ガルトマイヤー

   ハイドン:弦楽四重奏曲
    第32番(第25番)ハ長調 Hob. Ⅲ:32 Op.20-2
    第60番(第45番)イ長調 Hob. Ⅲ:60 Op.55-1

    《休憩》

    第79番(第64番)ニ長調 Hob. Ⅲ:79「ラルゴ」Op.76-5 

    《アンコール》
    ハイドン:弦楽四重奏曲第57番(第42番)ト長調 Hob. III:58 Op.54-1 より 第2楽章
    ハイドン:弦楽四重奏曲第38番(第30番)変ホ長調 Hob. III:38「冗談」 Op.33-2 より 第4楽章、第2楽章、第3楽章、第1楽章


最後に予習について触れておきます。

1曲目のハイドンの弦楽四重奏曲第32番 Op.20-2は以下のCDを聴きました。

 キアロスクーロ弦楽四重奏団 2014年2月 ブレーメン、センデザール セッション録音
 モザイク弦楽四重奏団 1990-92年 セッション録音

キアロスクーロ弦楽四重奏団は響きが素晴らしく、ハイドンの録音がこれから揃っていくのが楽しみです。一方、モザイク弦楽四重奏団はまるでバロックの響き。これまた素晴らしい演奏です。


2曲目のハイドンの弦楽四重奏曲第60番 Op.55-1は以下のLPとCDを聴きました。

 アマデウス弦楽四重奏団 1972年 ミュンヘン セッション録音 LPレコード
 リンゼイ弦楽四重奏団 1994年 聖トリニティ教会、ウェントワース、ヨークシャー、英国 セッション録音
 モザイク弦楽四重奏団 1990-92年 セッション録音

いずれも素晴らしく、甲乙つけがたしの感です。強いて言えば、リンゼイ弦楽四重奏団が頭ひとつ出ているかなあ。


3曲目のハイドンの弦楽四重奏曲第79番 「ラルゴ」Op.76-5は以下のLPとCDを聴きました。

 アマデウス弦楽四重奏団 1970年 ベルリン セッション録音 LPレコード
 モザイク弦楽四重奏団 1998-2000年 セッション録音
 エルサレム弦楽四重奏団 2008年9月 セッション録音

アマデウス弦楽四重奏団とモザイク弦楽四重奏団が素晴らしい演奏を聴かせてくれます。エルサレム弦楽四重奏団の演奏も高い水準のものです。



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       キュッヒル,  

中村恵理、清冽な絶唱!『ラ・ボエーム』@宮崎芸術劇場 2019.5.19

中村恵理の清冽で圧倒的な歌唱には今日も言葉はありません。第1幕の有名なアリア《私の名はミミ》の可憐な歌唱に胸を熱くし、第3幕の《ミミの別れ》の哀しくも美しい歌唱に心を打たれ、第4幕の最期の恋の歌に涙をこらえきれず、その素晴らしい絶唱に魅了され尽くしました。彼女の透き通った声の魅力は無限に心に沁み通ってきます。ラ・ボエームのミミはミレッラ・フレーニで永遠に封印したつもりでしたが、遂にその封印を解く最高のソプラノが登場しました。ミレッラ・フレーニのミミを初めてウィーン国立歌劇場で聴いたのは27年前の5月でした。その時、フレーニは既に57歳。素晴らしい歌唱でしたが、若い頃の可憐な声質はもっと強靭な声に変っていました。30歳頃の声でミミを聴きたかったと思ったのも事実。今日聴いた中村恵理はsaraiが理想とするミミの声、そのものでした。遂に生きているうちに最高のミミが聴けたという思いで深い感動を覚えました。

これで昨年の蝶々夫人と合わせて、プッチーニのリリックなソプラノがタイトルロールを歌う2つの名作を中村恵理の最高の歌唱で聴けました。タイトルロールではありませんが、リリックなソプラノの役はもう一つ、《トゥーランドット》のリューです。これもこの夏、東京で中村恵理の歌唱を聴けます。もう素晴らしい歌唱が聴けるのは確信しています。オペラにはまったきっかけはプッチーニのリリックなソプラノの歌です。遂に最高の歌い手に巡り会えて、その歌唱を聴きとおすことができます。オペラ好きとしてはこれで思い残すことはありません。ん・・・、もう一つ、あるかな。リリックな歌唱と言えば、モーツァルトの《フィガロの結婚》のスザンナ、そして、《コジ・ファン・トゥッテ》のフィオルディリージも聴きたいところ。これも中村恵理の美しい歌唱で聴いてみたい。それにR.シュトラウスのいくつかのリリックな役も聴きたい。もう少し長生きして、中村恵理の美しい歌唱を聴きながら、人生を過ごしていきたい。オペラ好きの欲は果てしないものです。

今日のオペラはコンサート形式と言いながら、とても聴きどころが多かったんですが、結局、中村恵理の絶唱を思い出すと、あとはどうでもよくなるというのが本音です。まあ、それも何なので、少しだけ、オペラで感じた点を触れておきましょう。
歌手では福井敬(テノール)、鷲尾麻衣(ソプラノ)、甲斐栄次郎(バリトン)の3人は素晴らしい歌唱でオペラを盛り立ててくれました。中村恵理の美しい歌唱に傾注できたのも、この3人のサポートがあればこそでした。福井敬は特に中村恵理との2重唱で素晴らしく声を張り上げてくれました。鷲尾麻衣は第2幕のムゼッタのワルツ《私が街を歩けば》での熱演だけでなく、第4幕でのミミを気遣う優しい歌声で涙を誘ってくれました。甲斐栄次郎は終始、張りのある歌唱で存在感を示しましたが、第3幕でのミミとの掛け合いで優しくミミを支える見事な歌唱。さすがにウィーン国立歌劇場で活躍した人材です。

広上淳一率いる宮崎国際音楽祭管弦楽団は即席のオーケストラとは思えない、繊細で美しいプッチーニのメロディーを見事に奏でてくれました。そして、何と言っても、コンサートマスター席にはウィーン国立歌劇場で長年、オペラを支えてきたライナー・キュッヒルの姿がありました。終始、オーケストラをリードしたばかりでなく、ソロのヴァイオリンの響きの美しかったこと! 中村恵理とキュッヒルのソロの掛け合いの素晴らしさには鳥肌が立つ思いでした。ウィーン国立歌劇場で何回も聴いてきたキュッヒルのヴァイオリンの響きは今も健在。これが日本で聴けるとは望外の喜びです。

宮崎の合唱団、とりわけ、少年少女合唱団の美しい歌声も素晴らしかったです。よくぞ、ここまで練り上げましたね。さぞや、厳しい練習を積んだのでしょう。さらには、第2幕でバンダ、そして、会場内を行進した宮崎のブラスバンドの女性たちの素晴らしい演奏には度肝を抜かれました。彼女たちも鍛錬を積んだのでしょう。今後、音楽の道を進んでいってほしいと願います。

最後にひるがえって、

ソプラノ、中村恵理、恐るべし!!!


プログラムは以下です。

 第24回宮崎国際音楽祭 プッチーニの世界「青春の光と影」

  プッチーニ:歌劇『ラ・ボエーム』(全曲) コンサート形式
   ミミ:中村恵理(ソプラノ)
   ロドルフォ:福井敬(テノール)
   ムゼッタ:鷲尾麻衣(ソプラノ)
   マルチェッロ:甲斐栄次郎(バリトン)
   ショナール:今井雅彦(バリトン)
   コッリーニ:伊藤純(バス)
   ブノア/アルチンドロ:松森治(バス)
   パルピニョール:清水徹太郎(テノール)
   指揮:広上淳一
   宮崎国際音楽祭管弦楽団 コンサートマスター:ライナー・キュッヒル
   宮崎国際音楽祭合唱団(宮崎県合唱連盟有志)
   合唱指揮:浅井隆仁
   宮崎県吹奏楽連盟有志
 
  《アンコール》
    第2幕終盤 出演:全員


今年の宮崎音楽祭はこれで打ち止め。と言っても、saraiは昨夜の最終便で横浜から駆け付け、今年はこれだけ聴きました。しかし、それで十分に満足しました。来年の5月はウィーン遠征を予定しているので、残念ながら、宮崎音楽祭は聴けないかもしれません。宮崎音楽祭がますます発展していくことを祈っています。



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       中村恵理,        キュッヒル,  

宮崎国際音楽祭 モーツァルト:弦楽五重奏曲ト短調@宮崎県立芸術劇場 2017.5.6

今年も宮崎国際音楽祭に遠征。ライナー・キュッヒルとウィーン・フィルのメンバー、ミッシャ・マイスキーが演奏するモーツァルトの弦楽五重奏曲ト短調を聴くことにしました。有名曲ですが、意外に聴けそうで聴けない曲です。それに演奏メンバーが興味あります。
たっぷりと予習して、本番に臨みました。
予習した演奏は以下です。最高の1枚はアマデウス四重奏団&アロノヴィッツの新盤です。

アマデウス四重奏団、アロノヴィッツ
スメタナ四重奏団、スーク
ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団、シュタングラー
ラルキブデッリ
ブダペスト弦楽四重奏団、トランプラー
メロス四重奏団、バイアー
アルバン・ベルク四重奏団、ヴォルフ
ザロモン四重奏団、ウィストラー

意外によかったのが、アルバン・ベルク四重奏団&ヴォルフとメロス四重奏団&バイアーの2枚です。8枚のCDを聴いて思ったのは、この曲はなかなか、表現の難しい曲だということです。シンプルでありながら、深い味わいを持った傑作を十分、表現し尽くすのは並大抵のことではありません。過去において、バリリ四重奏団が録音を残してくれなかったのが残念です。まあ、アマデウス四重奏団&アロノヴィッツの演奏を聴いていると、十分、感銘を受けますけどね。ハーゲン・カルテットあたりの挑戦も期待したいところです。

で、今日の演奏ですが、冒頭の第1楽章はかなりの高速演奏であっさり目の表現です。いささか淡白な演奏が第2楽章まで続きます。それはそれで無駄な贅肉のない演奏ではあります。第3楽章にはいって、がらっと雰囲気が変わり、緊張感が高まります。ゆったりとした演奏ながら、パウゼの緊張感、抒情的な表現は一気に音楽の味わいを深めていきます。実演ならではの緊迫感です。ぐぐっと演奏に気持ちが引き込まれます。そして、第4楽章の冒頭の悲哀を感じさせる演奏の質の高さに感銘を受けます。キュッヒルのヴァイオリンの美しくも柔らかい響きが感興を高めます。悲哀感が頂点に達するとき、明るい長調に転換し、音楽は飛翔していきます。第1ヴァイオリンのキュッヒルの推進力とチェロのマイスキーの控え目とも言えるサポートによって、見事なフィナーレに収斂していきました。古典性と現代的な表現がマッチした名演でした。これで第1楽章の味わい深さが表現できていればとも思いましたが、これは聴くものの好みの問題かもしれませんね。

最初に演奏されたモーツァルトの《ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 第1番》はとても珍しい曲。これまで聴いたことはなく、このコンサートの予習で初めて聴きました。モーツァルトの中期の作品ですから、それなりに完成度の高い作品です。キュッヒルのヴァイオリン、コルのヴィオラで堪能させてもらいました。ウィーン・フィルのコンビの演奏で見事な演奏でした。

休憩後、メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲です。このメンデルスゾーンの若いときの作品はあまり聴く機会がありません。これも以下のようにたっぷりと予習しました。

ラルキブデッリ
エマーソン四重奏団(多重録音)
イタリア合奏団
アカデミー室内管弦楽団
スメタナ四重奏団,ヤナーチェク四重奏団

室内合奏団のシンフォニックなアプローチと弦楽四重奏団主体の室内楽的なアプローチがありますが、スメタナ四重奏団&ヤナーチェク四重奏団の緻密な演奏がとても魅力的でした。

で、今日の演奏はミニ・ウィーン・フィルを思わせるシンフォニックな演奏で大変、気魄のこもった素晴らしい演奏でした。何と言っても、ライナー・キュッヒルの大変な力演が印象的でした。かって、ウィーン・フィルのコンサートマスター席に座っていたときの表情を思い出させるものでしたし、演奏の踏み込み方はそのとき以上のものでした。残りの7人のアンサンブルのサポートも見事でした。このまま、CD化してもらいたいくらいのレベルです。これまでウィーン風のシンフォニックな演奏がなかっただけに、決定盤になるかもしれません。それほど期待していなかったので、ある意味、嬉しい誤算の素晴らしい演奏でした。

今日のプログラムは以下です。

  モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 第1番 ト長調 K.423
     ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル
     ヴィオラ:ハインリヒ・コル

  モーツァルト:弦楽五重奏曲 第4番 ト短調 K.516
     ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル
     ヴァイオリン:ダニエル・フロシャウアー
     ヴィオラ:ハインリヒ・コル
     ヴィオラ:川崎雅夫
     チェロ:ミッシャ・マイスキー

   《休憩》

  メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲 変ホ長調 Op.20
     ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル
     ヴァイオリン:ダニエル・フロシャウアー
     ヴァイオリン:漆原啓子
     ヴァイオリン:川田知子
     ヴィオラ:川崎雅夫
     ヴィオラ:ハインリヒ・コル
     チェロ:ミッシャ・マイスキー
     チェロ:古川展生


最後、アンコール演奏がなかったのが残念です。せめて、メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲の終楽章を演奏してもらいたかったんですけどね・・・。
来年はこのメンバーにウィーンのシュミードルを招いて、モーツァルトのクラリネット五重奏曲でもやってくれないかなあ。



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哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

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