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アンドラーシュ・シフの2回の覆面コンサートは計7時間に及ぶマラソンコンサート・・・バッハもブラームスもシューマンもベートーヴェンも美しい響きで魅了@ミューザ川崎シンフォニーホール 2023.10.1

今日のリサイタルも一昨日のリサイタルに続き、事前に演奏曲目を発表しない覆面コンサート。演奏時にステージでレクチャーしながら、曲目を明かしていきます。今日も超ロングのコンサートになりました。

今日もシフ教授の講義を聴きながらのピアノ演奏になります。シフが英語で講義した内容を若い男性ピアニストが通訳する形です。それだけでも長いコンサートになります。おおよその内容は誰にでも分かるものになり、冗長になるのは致し方ありません。音楽の啓蒙も目的のひとつです。

まず、冒頭はレクチャー抜きで演奏が始まります。バッハの作品です。一昨日のアンコールで弾いたゴルトベルク変奏曲のアリアです。前回からの連続性のあるリサイタルになる模様です。それはもう美しさの限りを尽くした演奏です。鍵盤を弾くタッチは軽く触れているだけの繊細なもので、それでよく響くのですから、特別に調律されたベーゼンドルファーであることが分かります。わざわざ、ドイツからマーティン・ヘンという調律師を同道しています。演奏後、レクチャーが始まり、ゴルトベルク変奏曲全曲は弾きませんとわざわざことわって、場内をわかせます。saraiとしては、今日はゴルトベルク変奏曲全曲だけでも一向に構わないというか、むしろ、そうしてほしいと願わざるをえません。一度でいいから、シフの演奏でゴルトベルク変奏曲全曲を聴くのが夢です。

次は詳しいレクチャーの後、バッハのフランス組曲第5番です。実はゴルトベルク変奏曲のアリアを聴きながら、どうせ、ゴルトベルク変奏曲全曲は弾かないだろうから、せめて、フランス組曲を弾いてくれないかなと心の中で願っていました。シフのフランス組曲は絶品ですからね。実はこのフランス組曲はsaraiには思い出の曲なんです。初めてアンドラーシュ・シフの演奏をCDで聴いたのは、友人が是非聴いてほしいとフランス組曲のCDを貸してくれたときでした。それまではバッハの鍵盤音楽のピアノ演奏と言えば、グレン・グールド、そして、クラウディオ・アラウのファイナル・セッションのパルティータ4曲、それにマルタ・アルゲリッチの若い時のバッハ・アルバムだけを聴いていました。アンドラーシュ・シフのフランス組曲のアルバムを聴いて、いっぺんに魅了されました。すぐにパルティータのCDも購入し、聴いてみましたが、これは今一つ。後年、パルティータは新録音のアルバムが出て、大変満足していますけどね。そういうわけで、シフのバッハ演奏の原点はこのフランス組曲だと思っています。もっとも昨年もこのフランス組曲第5番を演奏してくれましたが、何度聴いてもよいものです。ともかく、最高に素晴らしい演奏でした。
続けて、モーツァルトのアイネ・クライネ・ジーグ K.574という珍しい曲も弾いてくれます。これも昨年と同様です。シフの解説の通り、まるで12音技法のセリーのような主題で始まりますが、曲としてはバッハ風のモーツァルトにちゃんとなっているのが不思議です。シフの演奏は贅沢過ぎるほどの美しさです。

次は何故か、ぽーんと時代が飛んで、ブラームスのインテルメッツォです。ブラームスの晩年の作品はsaraiが最も愛するピアノ曲のひとつです。コロナ禍で次々とコンサートが中止になる2020年、シフが強行来日して聴かせてくれたのがブラームスの晩年の孤高の作品群でした。それは期待以上に素晴らしい演奏だったことをまざまざと覚えています。
Op.117の3つの間奏曲のうっとりとするような演奏をシフの美しいピアノの響きで聴き、そして、さらに名作、Op.118の6つの小品から、第2曲。圧倒的に素晴らしい演奏です。とりわけ、中間部のファンタジーに満ちた魅惑の演奏に心がときめきます。最後はまた、最初の美しい間奏曲に戻り、静謐に終わります。何て素晴らしい演奏なんでしょう。この有名なOp.118-2を付け加えたのはアンコールの先取りみたいなものです。実際、2020年はアンコールで弾いてくれました。

前半の最後はシューマンのダヴィッド同盟舞曲集。これは長々としたレクチャーがあります。例のシューマンの中にいるフロレスタンとオイゼビウスうんぬんという話です。そして、ようやく、演奏・・・シフの弾くシューマンもいいですねー! 瑞々しくて、ロマンティックなシューマン・ワールドを満喫します。まさに心の琴線にふれる風情の演奏でした。シフは人が変わったように若々しい演奏を聴かせてくれました。saraiもこういうシューマンを聴くと、心だけは青年時代に戻ったような気になります。猛烈にシューマンのピアノ曲をこのほかにも聴きたくなりました。シューマンのピアノ曲はシューマンだけにしかない魅力に満ちています。幻想曲やクライスレリアーナといった超有名曲だけでなく、まだ、聴き足りてないピアノ曲をいっぱい聴きたくなりました。
もう、この前半だけで普通のコンサートの1回分を聴いた思いです。実際、5時に始まったコンサートはもう、6時半をゆうに過ぎています。今日も長くなりそうです。


後半のレクチャーが始まります。後半は3人の作曲家のニ短調の作品を弾くそうです。
まずは当然、バッハです。半音階的幻想曲とフーガです。幻想曲、すなわち、ファンタジーの素晴らしい演奏に魅了されます。幽玄な演奏がどこまでも続き、さすがに長いなと思ったところで、フーガが始まります。フーガ主題も半音階進行の旋律でゆったりしたフーガが波及するように連なっていきます。これは最高に素晴らしいフーガです。シフの演奏に魅惑されます。フーガはどこまで続いても長いなとは思いません。と思っていると、突然、フーガが終了。何とも素晴らしい演奏でした。シフの弾くバッハのフーガは絶品です。

次はメンデルスゾーンの厳格な変奏曲を弾くそうです。これには虚を突かれた思い。多分、シフの演奏を聴くのは初めてですし、あまり、聴かない曲です。まずはレクチャーでもメンデルスゾーンの不当な低い評価、それもドイツでの評価の話になり、リヒャルト・ワーグナー批判が延々と続きます。ユダヤ人差別の話です。まあ、それはともかく、メンデルスゾーンの演奏は素晴らしいの一語です。何とも素晴らしいベーゼンドルファーの素晴らしい響きでした。

最後は、ベートーヴェンのテンペストを聴かせてくれるそうです。ええっ、テンペストと嬉しくなります。saraiは無類のテンペスト好きです。シフによると、バッハの半音階ファンタジーとテンペストの冒頭のレシタティーヴォが類似していて、ベートーヴェンはバッハから影響を受けたそうです。もちろん、シェークスピアのテンペストからインスピレーションを受けた作品です。シフによると、この曲は各楽章ともピアノッシモで始まり、ピアノッシモで終わる静謐な作品だそうです。そうでしたっけ・・・。
まず、「テンペスト」の冒頭のレシタティーヴォが始まります。たしかにバッハの半音階ファンタジーとの関連を感じます。でも、すぐにベートーヴェンの決然とした世界に変わっていきます。いやはや、シフの弾くベートーヴェンの音の響きの素晴らしいこと。音楽も演奏も最高です。第2楽章のアダージョに入ります。何とも美しい歌が聴こえてきます。第2主題の気高い歌が歌われるところで、合いの手のように、低音域で不気味な響き。不安感をかきたてます。これって、シューベルトの遺作ソナタD960の第1楽章のトリルの雷鳴を想起します。終盤では、ひとつ間違えれば、そのまま、第31番のソナタの嘆きの歌に入っていきそうな気配さえ感じます。中期のソナタはもうすぐ先に後期のソナタの影が見えていたんですね。実に深く味わいのある演奏でした。そして、第3楽章に入ります。まるでソット・ヴォーチェのようにあの有名な第1主題が静謐に、そして、何とも優し気に弾かれます。ここでsaraiの心は崩壊します。じっと目をつむり、そのまるでコラールのように心の襞をいたわってくれるような、タラララ、タラララ、タラララ・・・という主題が反芻されるのを静かな感動で聴き入ります。シフの演奏はこの曲の真髄を見事に表現してくれました。提示部の繰り返しで再び、第1主題のタラララ、タラララ、タラララ・・・が戻ってきます。こんなに優しい表現でこの旋律が弾かれたことがあったでしょうか。展開部でも第1主題が徹底的に展開されて、再現部でも、またも、タラララ、タラララ、タラララ・・・。もう、saraiの心は総崩れ。そして、コーダでは、第1主題が高域に移されて、天上のような響きに舞い上がります。もう、感動で嗚咽するばかりです。
最高のベートーヴェンでした。


今日も長大なリサイタルになりました。しかし、アンコールは欠かせないのがシフです。定番の3曲を弾いて、お開き。
今日は最初から覚悟していたので、さほど、疲れず、素晴らしかったリサイタルの余韻にふけりました。また、来年も聴けるかな・・・


今日のプログラムは以下です。

 J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988から アリア
 J.S.バッハ:フランス組曲第5番 ト長調 BWV816
 モーツァルト:アイネ・クライネ・ジーグ K.574
 ブラームス:3つのインテルメッツォ Op.117
       インテルメッツォ イ長調 Op.118-2
 シューマン:ダヴィッド同盟舞曲集 Op.6
 
   《休憩》

 J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調BWV903
 メンデルスゾーン:厳格な変奏曲 ニ短調 Op.54
 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 Op.31-2 「テンペスト」
 
   《アンコール》

    J.S.バッハ:イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971から 第1楽章
    モーツァルト:ピアノ・ソナタ ハ長調 K.545から 第1楽章
    シューマン:「子供のためのアルバム」Op.68から 楽しき農夫


予習はプログラムが未発表だったので、もちろん、できませんでした。



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       シフ,  

超ロングのアンドラーシュ・シフ ピアノ・リサイタルにへとへと、されど、シフの磨き抜かれた響きのベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番は超絶的@東京オペラシティ コンサートホール 2023.9.29

今日のリサイタルは昨年に引き続き、事前に演奏曲目を発表しない覆面コンサート。演奏時にステージでレクチャーしながら、曲目を明かします。レクチャーコンサート自体はザルツブルク音楽祭で何度も聴かせてもらいました。シフ教授の講義を聴きながらのピアノ演奏です。ザルツブルク・モーツァルテウムの小さなホールだったので、マイクも使わずにお話ししてくれました。さほど英語が堪能でないsaraiにも聞き取れる平易な英語、そして、音楽関係の用語が多いので分かりやすい講義でした。開始前には地元のおばあさんにあなたはドイツ語が分かるのって、脅かされましたが、さすがに世界中から聴衆が集まるザルツブルク音楽祭では英語での講義でした。ウィーンのレクチャーコンサートはドイツ語での講義だったようです。昨年は英語で講義した内容を奥様の塩川悠子さんが通訳する形でしたが、今回は日本人の若い男性ピアニストが通訳。塩川さんと違って、ストレートな通訳でした。
こんな形での異例のコンサートで、しかも、曲目がとても多く、20分の休憩時間を含めると、コンサート時間が何と3時間半ほど。7時に始まったリサイタルも終わった時刻は10時半。ワーグナーの楽劇ほどではありませんが、超ロングのコンサート。saraiが自宅に戻ったのは午前様。実に久々の午前様です。ということで、もう、へとへと・・・普通なら、ブログ記事は翌日まわしにしたいところですが、明日も明後日もコンサート。何とか、今日のうちにさっと書いておきましょう。

今日のレクチャーコンサートはまず、冒頭は平均律クラヴィーア曲集からの有名な第1番です。シフにしては響きがもうひとつで、節回しも滞る部分もあります。今日のコンサート、ちょっと心配です。
そこから、レクチャーが始まります。レクチャーでバッハに心酔していることを言った後で、次に弾くバッハの作品について、ピアノで実例を示しながら、詳細な解説。そして、カプリッチョ「最愛の兄の旅立ちに寄せて」を演奏。先ほどの心配を吹き飛ばす見事な演奏。いやはや、ベーゼンドルファーの響きが冴え渡り、素晴らしい演奏。この曲は何度も聴いていますが、美しいピアノの響きに魅了されます。シフの弾くバッハは最高です。
次は変ロ長調つながりでモーツァルトのピアノ・ソナタ第17(16)番 変ロ長調 K.570。これも6年前にシフの演奏を聴いていますが、とびっきり美しい演奏で以前よりもさらに熟達したように思えます。先ほどバッハを聴いたときはシフはやはり、バッハのスペシャリストに思えましたが、今度は一転して、モーツァルト弾きに思えます。
続いて、ハイドンを2曲。シフ教授はハイドンが不当に低い評価を受けているけれども、ハイドンはもっと正当な評価を受けて然るべきと強調して、ハイドンのアンダンテと変奏曲 へ短調を弾き始めます。この曲は多分、初聴きですが、シフの演奏は何とも美しいです。隠れた名曲ですね。うっとりと聴き入ります。今度はシフはハイドンのスペシャリストに思えます。こんな素晴らしいハイドンを弾けるピアニストは世界中探してもいないでしょう。特に高域の音の響きの美しさに耳を奪われます。
続くハイドンのピアノ・ソナタ 変ホ長調 Hob.XVI:52、ハイドンの最後のソナタは聴くのは2度目ですが、これも以前よりも熟成した響きです。

前半だけで十分、1回のコンサートに値する演奏を聴かせてもらい、贅沢ではありますが、結構、疲れました。しかし、後半の演奏こそが圧巻だったんです。
まず、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第21番 「ワルトシュタイン」、名曲中の名曲です。打鍵のくっきりした明快な演奏で魅了させられます。
そして、最後にベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタ3曲中の1曲。第30番が控えていました。シフのピアノの響きは理想的なベートーヴェンの響きです。第1楽章も第2楽章も美し過ぎる響きで進行します。第2楽章は第1楽章から切れ目なく演奏されるので、2つの楽章はひとつのセットのように響きます。
そして、長大な第3楽章の変奏曲が始まります。本当に素晴らしい音楽、そして、演奏です。荘重で内面的な音楽が歌われます。色々なタイプの変奏がシフの演奏で綴られていきます。ここに至り、シフとベートーヴェンが一体化し、saraiの心は感動でいっぱいになります。そして、すぐに対位法による変奏が続き、純粋な器楽の饗宴に音楽は昇華していきます。そして、再び、内向的な音楽に戻り、さりげなく、音楽は収斂します。しばらく、静けさがホールを包みます。素晴らしいベートーヴェンでした。

さすがに今日のアンコールは1曲だけ。バッハのゴルトベルク変奏曲からアリアをしみじみと弾いてくれました。今日の〆にふさわしい音楽です。

こんな形での異例のコンサートで、コンサートの終わりでは疲れも忘れて、気持ちが高揚していましたが、家に帰り着いたところでぐったりでした。でも、最高のリサイタルでした。明後日のリサイタルももちろん聴きます。同じ曲目でも構いませんが、できたら、違う曲が聴きたいな・・・。特にシューベルトの遺作ソナタのどれかを聴きたいです。


今日のプログラムは以下です。

 J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻から 前奏曲とフーガ第1番 ハ長調 BWV846
 J.S.バッハ:カプリッチョ「最愛の兄の旅立ちに寄せて」BWV992
 モーツァルト:ピアノ・ソナタ第17(16)番 変ロ長調 K.570
 ハイドン:アンダンテと変奏曲 へ短調 Hob.XVII:6
 ハイドン:ピアノ・ソナタ 変ホ長調 Hob.XVI:52

   《休憩》

 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第21番 ハ長調 op.53 「ワルトシュタイン」
 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 op.109
 
   《アンコール》

    J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988から アリア


予習はプログラムが未発表だったので、もちろん、できませんでした。



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       シフ,  

シフの骨太で優雅でもあるブラームスのピアノ協奏曲第2番、熱い共感で支えるペトレンコ指揮のベルリン・フィル@ベルリン・フィルハーモニー 2022年2月12日

旅のブログを終了して、音楽のブログのみに専念したため、これまでのように毎日欠かさず、ブログをアップすることがなくなり、ずい分、楽になりましたが、反面、saraiは怠惰になっています。少し、記事を増やすことを考えています。音楽関連では、生のコンサート以外に、ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールの映像から、気に入ったコンサートを視聴して、生のコンサート同様に感想をアップしていきます。PCで視聴するのではなく、OPPO DigitalのユニバーサルメディアプレーヤーBDP-103JPを50インチの4Kテレビとオーディオシステムに接続して、高画質、高音質で聴いています。生で聴くのと同様とまではいきませんが、驚くほどの臨場感で聴けます。それにドイツからネット配信しているとは思えない素晴らしい響きに驚愕しています。サブスク契約で毎月、それなりの費用は払いますが、生のコンサート1回にも満たない額で素晴らしい指揮者やソロ奏者の演奏を聴き放題です。飽きるまでは聴きましょう。ちなみに旅のブログも2007年の南仏・ウィーンの旅を書き始める予定で準備中です。古い旅で恐縮ですが、持ちネタは16年前に遡らないともう、ありませんので、ご了承ください。

さて、ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールの記念すべき第1回目はハイティンクのマーラーと思い、交響曲第2番《復活》を聴きました。しかし、これは1990年代の古い画像で実はsaraiも所有しているものでした。1990年代のハイティンクがベルリン・フィルを振ったマーラーは第1番から第7番まであり、映像が残されているのは、第5番と第6番を除いたものです。演奏は素晴らしいのですが、いかにもベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールにふさわしいものではなく、それに既聴のものばかりです。2000年以降は第7番と第9番があります。今後、それを聴くことにします。

ということで、聴き直したのは、今秋、来日予定のキリル・ペトレンコ指揮で、やはり、9月末から10月初めに来日するアンドラーシュ・シフのピアノでブラームスのピアノ協奏曲第2番という豪華プログラムです。
冒頭、シュテファン・ドールのホルンとシフのピアノが協奏しながら、輝かしいブラームスが奏でられます。そして、シフの意外にも骨太で熱く突っ込んだピアノ独奏が繰り広げられます。そして、それを引き継いだキリル・ペトレンコ指揮のベルリン・フィルがシフのピアノ以上に熱く燃え上がるような素晴らしい演奏です。実質、ペトレンコの指揮は初聴きですが、ベルリン・フィルを完全に掌握して、完璧なアンサンブルで密度の濃いブラームスを展開します。そして、何と言ってもペトレンコの顔の表情がいいです。完全に音楽に入り込んでいます。ベルリン・フィルは素晴らしい指揮者を獲得しましたね。秋の来日公演が待ち遠しくなります。
以降、シフとペトレンコが互いにインスパイアしながら、素晴らしいブラームスを演奏していきます。圧巻だったのは第3楽章。ソロのチェロとオーケストラがロマンあふれる演奏を展開し、シフのピアノも加わって、究極のロマンを表現していきます。
そして、決然としたピアノが主導して、第4楽章が始まり、音楽はどんどん高潮していきます。最後はヴィルトゥオーゾ的にピアノがコーダを奏でながら、フィナーレ。
感銘を受けながら、聴き入っていました。シフのピアノはもちろん、素晴らしかったのですが、それ以上にペトレンコ指揮のベルリン・フィルの恐るべき合奏力が見事でした。秋は生でブラームスの交響曲第4番が聴けるのが楽しみです。


この日のプログラムは以下です。

  2022年2月12日、ベルリン・フィルハーモニー

  指揮:キリル・ペトレンコ
  ピアノ:アンドラーシュ・シフ
  管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

  ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 Op.83
  
   《アンコール》ブラームス:3つの間奏曲 Op.117 より第1曲 アンダンテ・モデラート 変ホ長調

なお、その他、以下の曲も演奏されました。(未聴)

  ヨゼフ・スーク:管弦楽と女性合唱のための交響詩《人生の実り》



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       シフ,        キリル・ペトレンコ,  

感動の日々、アンドラーシュ・シフの2回の覆面コンサートは計7時間に及ぶマラソンコンサート、その行き着く果ては・・・孤高のシューベルトの遺作ソナタ イ長調 D959@東京オペラシティ コンサートホール 2022.11.4

今日のリサイタルも3日前のリサイタルに続き、事前に演奏曲目を発表しない覆面コンサート。演奏時にステージでレクチャーしながら、曲目を明かしていきます。今日も超ロングのコンサートになりました。

今日もシフ教授の講義を聴きながらのピアノ演奏になります。シフが英語で講義した内容を奥様の塩川悠子さんが通訳する形です。でも微妙に通訳がずれますね。言わないことも言ってくれます。これが夫婦というものでしょう(笑い)。

まず、冒頭はレクチャー抜きで演奏が始まります。バッハの作品です。最初は作品名が分かりませんが、それはともかく、とても美しい演奏に心惹かれます。特に第3楽章の美しさが際立っています。第5楽章に入って、特徴ある郵便馬車のパッセージが出てきて、ようやく曲名の心当たりがしてきます。第6楽章のポストホルンを模したところで、ああ、お兄さんの旅立ちに書いたカプリッチョだと分かりました。演奏後、レクチャーが始まり、バッハのカプリッチョ「最愛の兄の旅立ちに寄せて」だと説明があります。珍しい作品なので、もう一度、演奏しましょうと言って、再度、全曲を演奏。実は珍しいと言っても、saraiは5年前の2017年のザルツブルク音楽祭で聴かせてもらいました。今日で2度目と3度目の演奏を聴いたことになります。バッハ18歳の若い頃に書いた作品ですが、シフが弾くととても素晴らしいです。特にアダージッシモの第3楽章のパッサカリアは心のこもった演奏で胸に迫ってきます。若きバッハがお兄さんとの別れを嘆く歌なんですね。

次は前回に続いて、ハイドンのピアノ・ソナタです。シフによると、ハイドンの作品は素晴らしいのに不当に評価が低いので、演奏しまうという宣言です。確かにハイドンのピアノ・ソナタはあまり聴きませんね。でも、ハイドンの弦楽四重奏曲は、最近、実にコンサートで取り上げられる機会が多く、saraiも今や、大のハイドンの弦楽四重奏曲のファンになっています。何種類もCDのコレクションを持つに至っています。ピアノ・ソナタはあまり、食指のわくCDがないような気がします。でも、後で調べたら、シフが2枚組のソナタ集を録音しているんですね。そのCDはsaraiも所有していました。まだ、ちゃんと聴いていなかっただけです。反省して聴いてみましょう。今日は前回と同様にハイドンの「疾風怒濤Sturm und Drang」期のピアノ・ソナタ ハ短調 Hob.XVI-20です。この曲はハイドンが初めて本格的に書いたピアノ・ソナタとされています。第1楽章 モデラート、第2楽章 アンダンテ・コン・モート、第3楽章 フィナーレ:アレグロからなる結構、大規模な作品です。シフはベーゼンドルファーの美しい響きで、シンコペーションやトリル装飾の多い曲を見事に聴かせてくれます。うーん、確かにハイドンのピアノ・ソナタもいいね。

次は、バッハのファンタジーとベートーヴェンのテンペストを聴かせてくれるそうです。ええっ、テンペストと嬉しくなります。saraiは無類のテンペスト好きです。シフによると、バッハの半音階ファンタジーとテンペストの冒頭のレシタティーヴォが類似していて、ベートーヴェンはバッハから影響を受けたそうです。
まずは、バッハの半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903。幻想曲、すなわち、ファンタジーの素晴らしい演奏に魅了されます。幽玄な演奏がどこまでも続き、さすがに長いなと思ったところで、フーガが始まります。フーガ主題も半音階進行の旋律でゆったりしたフーガが波及するように連なっていきます。これは最高に素晴らしいフーガです。シフの演奏に魅惑されます。フーガはどこまで続いても長いなとは思いません。と思っていると、突然、フーガが終了。何とも素晴らしい演奏でした。そして、そのまま、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 Op.31-2 「テンペスト」の冒頭のレシタティーヴォが始まります。たしかに違和感なく続きますね。でも、すぐにベートーヴェンの決然とした世界に変わっていきます。いやはや、シフの弾くベートーヴェンの音の響きの素晴らしいこと。音楽も演奏も最高です。第2楽章のアダージョに入ります。何とも美しい歌が聴こえてきます。第2主題の気高い歌が歌われるところで、合いの手のように、低音域で不気味な響き。不安感をかきたてます。これって、シューベルトの遺作ソナタD960の第1楽章のトリルの雷鳴を想起します。終盤では、ひとつ間違えれば、そのまま、第31番のソナタの嘆きの歌に入っていきそうな気配さえ感じます。中期のソナタはもうすぐ先に後期のソナタの影が見えていたんですね。実に深く味わいのある演奏でした。そして、第3楽章に入ります。まるでソット・ヴォーチェのようにあの有名な第1主題が静謐に、そして、何とも優し気に弾かれます。ここでsaraiの心は崩壊します。じっと目をつむり、そのまるでコラールのように心の襞をいたわってくれるような、タラララ、タラララ、タラララ・・・という主題が反芻されるのを静かな感動で聴き入ります。シフの演奏はこの曲の真髄を見事に表現してくれました。提示部の繰り返しで再び、第1主題のタラララ、タラララ、タラララ・・・が戻ってきます。こんなに優しい表現でこの旋律が弾かれたことがあったでしょうか。展開部でも第1主題が徹底的に展開されて、再現部でも、またも、タラララ、タラララ、タラララ・・・。もう、saraiの心は総崩れ。そして、コーダでは、第1主題が高域に移されて、天上のような響きに舞い上がります。もう、感動で嗚咽するばかりです。
もう、今日はベートーヴェンはこれで十分でしょう。後半はシューベルトにまっしぐらに向かっているようです。
そして、ここで休憩。


休憩後のレクチャーで、もう二人の作曲家と言って、モーツァルトとシューベルトの名を上げます。そう来なくっちゃね。シューベルト、待ってました。遺作ソナタをお願いします!
シフは偉大な5人の作曲家と言って、バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトの名前を上げます。もちろん、saraiも同意です。でも、シューマンとブラームスはどうするの?
モーツァルトはイ短調の作品・・・えっ、そんなソナタがあったっけ? ソナタではなく、ロンド イ短調でした。
そして、シューベルトはイ長調。変ロ長調のD960かと思っていましたが、イ長調のD959です。まあ、遺作の3つのソナタは同時並行で書かれたものですから、完成度は同じです。どれでも構いません。saraiはとりわけ、変ロ長調のD960に思い入れがありますが、これは今年、これから、ピリスと田部京子で聴くことになっています。イ長調のD959は純音楽的観点から言えば、最高の作品です。saraiは秘かにシューベルトは遺作ソナタでベートーヴェンを超えたと思っていますが、シフはベートーヴェンに近づいたというような表現でした。でも、今回の2回シリーズの締めに持ってきたのはシューベルト。言葉で何と言おうが、プログラム構成から、今回の2回シリーズはこのシューベルトの遺作ソナタに焦点を合わせてきたのは間違いないところで、シフの気持ちがそこに出ていると思います。
ともあれ、まずは、モーツァルトのロンド イ短調 K.511。これは絶句するほど、美しい演奏。これを聴くと、ピアノ・ソナタなどは聴けません。モーツァルトのピアノ曲はこのロンドやアダージョ、幻想曲2曲にこそ、その精華があります。最高のモーツァルトでした。

そして、いよいよ、今回の2回シリーズの締めです。シューベルトのピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959を心して聴きましょう。
シューベルトは第1楽章から、全開モードでとっても素晴らしい演奏です。シフによると、動機はクレドのジャンジャンという2音。実に激しい冒頭の響きです。そして、第2楽章、アンダンティーノの寂しげで美しいメロディーが始まると、saraiの心は感極まります。中間部の凄まじい音響も恐ろしいほど素晴らしく、その後に美しいメロディーに戻ると心がとろけそうです。短い第3楽章のスケルツォを経て、終楽章に入ります。もう、これは言葉での表現ができそうにもありません。最高のシューベルトとしか、形容のしようがありません。終盤に入るころには心がずたずたです。歩を止めるように、何度もパウゼを繰り返すところは、まるでシューベルトが美しいこの世から去り難く思っているような心情が見事に表現されています。そして、圧巻のコーダ。まるでシューベルトとの別れを体験したような深い感動を覚えます。
ベートーヴェンの後期ソナタ3曲は超えることが不可能とも思える傑作群でしたが、シューベルトはその天才的な才能で最晩年に至って、途轍もない別の峰々を築き上げたことを実感させてくれるようなシフの素晴らしい演奏でした。

今日も長大なリサイタルになりました。しかし、アンコールは欠かせないのがシフです。何とブラームスのインテルメッツォを弾くそうです。先ほど偉大な作曲家5人の中に入れなかったブラームスです。この曲は2年半前のリサイタルでも1回はアンコール曲として、1回は本編で弾いた曲です。ブラームスの最晩年の境地の何とロマンに満ちた曲でしょう。これ以上は弾けないというほどのレベルの極美の演奏でした。これでアンコールは終わりと思ったら、いつもアンコールで弾くモーツァルトのソナチネとバッハのイタリア協奏曲。いずれも最高に美しい演奏で、長かった2回のリサイタルシリーズを締めくくりました。シフも69歳。次に聴くのは70歳を過ぎたシフになりそうです。また、素晴らしい演奏を聴かせてくれるのは間違いありません。


今日のプログラムは以下です。

 J.S.バッハ:カプリッチョ「最愛の兄の旅立ちに寄せて」BWV992
 ハイドン:ピアノ・ソナタ ハ短調 Hob.XVI-20
 J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903
 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 Op.31-2 「テンペスト」

   《休憩》

 モーツァルト:ロンド イ短調 K.511
 シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959

   《アンコール》

    ブラームス:インテルメッツォ Op.118-2
    モーツァルト:ピアノ・ソナタ第15番 ハ長調 K.545から 第1楽章
    J.S.バッハ:イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971から 第1楽章


予習はプログラムが未発表だったので、もちろん、できませんでした。



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       シフ,  

感動の日々、アンドラーシュ・シフの磨き抜かれた響きのベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番は空前絶後@東京オペラシティ コンサートホール 2022.11.1

昨日は疲れ切って、シフのリサイタルの中身に触れることができませんでした。1日明けて、今日、感想を書かせてもらいます。

今日のリサイタルは事前に演奏曲目を発表しない覆面コンサート。演奏時にステージでレクチャーしながら、曲目を明かすそうです。しかし、このリサイタルに大いに期待していたsaraiは既に演奏済の札幌のリサイタルでの演奏曲目をネットでリサーチしていました。その日の気持ちで演奏曲目を決めるとのことでしたが、何と今日の演奏曲目は札幌と同じでした。いかに天才ピアニストのシフといえども、やはり、入念な事前準備は必要だったのでしょう。ならば、数日前でもいいから、演奏曲目を発表しておいてほしかったところです。聴く側のsaraiとて、事前準備をしておきたいですからね。ザルツブルク音楽祭と同じ形式のレクチャーコンサートで何がいけないのでしょうか。

今日のレクチャーコンサートはザルツブルク音楽祭と同様のシフ教授の講義を聴きながらのピアノ演奏です。ちょっと異なるのはシフが英語で講義した内容を奥様の塩川悠子さんが通訳する形でした。
今日はシフが最も敬愛するバッハの作品を軸に演奏するそうです。まず、冒頭はバッハのゴルトベルク変奏曲からのアリアです。飛びっきり、美しい演奏です。アリアが終わったところで、そのまま、第1変奏に移ってほしいところでしたが、それは無理ですね(笑い)。
そこから、レクチャーが始まります。レクチャーでバッハがモーツァルトに影響を与えた例を示しながら、バッハとモーツァルトの作品を交互に弾いていきます。いやはや、どれもベーゼンドルファーの響きが冴え渡り、素晴らしい演奏ばかり。バッハはもちろん、モーツァルトも美し過ぎる演奏です。バッハの「音楽の捧げもの」からの3声のリチェルカーレは初めてピアノの演奏を聴きましたが、曲自体は有名なものなので、美しいピアノの響きに魅了されました。シフの弾くフーガは最高です。モーツァルトの幻想曲 ハ短調、これも有名な曲ですが、こんなに美しくて、たっぷりした演奏は聴いたことがありません。シフの録音したモーツァルトの全集はごく若い頃のものなので、こうして熟成したシフの演奏はまばゆいばかりです。そして、次はバッハのフランス組曲第5番。フランス組曲ほど、シフにぴったりのバッハはありません。saraiには思い出の曲なんです。初めてアンドラーシュ・シフの演奏をCDで聴いたのは、友人が是非聴いてほしいとフランス組曲のCDを貸してくれたときでした。それまではバッハの鍵盤音楽のピアノ演奏と言えば、グレン・グールド、そして、クラウディオ・アラウのファイナル・セッションのパルティータ4曲、それにマルタ・アルゲリッチの若い時のバッハ・アルバムだけを聴いていました。アンドラーシュ・シフのフランス組曲のアルバムを聴いて、いっぺんに魅了されました。すぐにパルティータのCDも購入し、聴いてみましたが、これは今一つ。後年、パルティータは新録音のアルバムが出て、大変満足していますけどね。そういうわけで、シフのバッハ演奏の原点はこのフランス組曲だと思っています。それに以前、紀尾井ホールでのリサイタルで、アンコール曲として弾いてくれたのがこのフランス組曲第5番。それもその中の1曲ではなく、全7曲を一挙に演奏してくれました。本編で聴くのは初めてです(笑い)。ともかく、最高に素晴らしい演奏でした。続けて、モーツァルトのアイネ・クライネ・ジーグ K.574という珍しい曲も弾いてくれました。これは初めて聴く曲です。シフの解説の通り、まるで12音技法のセリーのような主題で始まりますが、曲としてはバッハ風のモーツァルトにちゃんとなっているのが不思議です。シフの演奏は贅沢過ぎるほどの美しさ。
続くバッハも平均律第1巻のロ短調のプレリュードとフーガ。これはもう圧巻というしかありません。哀調のあるプレリュードは何と心に沁みるのでしょう。そして、フーガの迫力。以前、平均律第2巻を聴いたときに、ロ短調のプレリュードとフーガで感動したことを思い出します。バッハのロ短調は素晴らしいですね。シフがロ短調ミサ曲のさわりをピアノで弾いてくれましたが、その素晴らしいこと! ピアノ版でロ短調ミサ曲を弾いてほしいほどです。
前半の最後はモーツァルトのアダージョ ロ短調、そして、ピアノ・ソナタ第17番。シフがベーゼンドルファーから紡ぎ出す音の響きに陶然としていました。このオペラシティにあるベーゼンドルファーはかつて、シフがウィーンで選定したピアノだったそうです。シフとオペラシティはそういうつながりもあったのですね。


前半だけで十分、1回のコンサートに値する演奏を聴かせてもらい、贅沢ではありますが、結構、疲れました。しかし、後半の演奏こそが圧巻だったんです。
まず、ハイドンのピアノ・ソナタ ト短調。虚を突かれるような美しい曲です。多分、初めて聴きます。曲も美しく、演奏も美しい。第1楽章の主題の美しさ、第2楽章でのトリルに装飾されたパートの絶品の演奏。ハイドンの「疾風怒濤Sturm und Drang」期の珠玉のような作品です。
次いで、ベートーヴェンが書いた最後のピアノ曲、6つのバガテル op.126。これはもう凄い演奏。特に第1曲と第3曲のアンダンテの深い精神性には参りました。今日一番の演奏に思えました。
しかし、最後にベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタの第32番と双璧をなす第31番が控えていました。シフのピアノの響きは理想的なベートーヴェンの響きです。第1楽章のパーフェクトな演奏に惹き込まれます。パーフェクトというのは決してミスタッチがないというような低次元の話ではなく、音楽的な表現の話です。実に心に沁みてくるような演奏に感銘を受けます。上昇音型の憧れを感じさせるようなところでは、心が奪われそうです。でも、本当に素晴らしかったのは第3楽章です。大規模な序奏の後、『嘆きの歌』の演奏が始まります。まさにその言葉通りの演奏で、人間の深い悲しみがシフの演奏で綴られていきます。ここに至り、シフとベートーヴェンが一体化し、saraiの心は感動でいっぱいになります。それも束の間、すぐにフーガが始まり、宗教的とも思える救済に音楽は昇華していきます。狂おしく音楽は上りつめていきます。シフの激しいピアノの響きがホール中に満たされます。そして、響きが収まり、再び、『嘆きの歌』に戻ります。さきほど以上に切なく悲しい音楽に心が耐えきれないほどになります。『嘆きの歌』が終わり、再び、素晴らしいフーガが高揚していきます。単なる魂の救済ではなく、人間の究極の悲しみと明日への希望がアウフヘーベンされたような素晴らしい芸術表現のフィナーレに熱い感動を覚えました。ベートーヴェンの最高の音楽、そして、シフのあくなき芸術的な追及が合わさることで、奇跡のような音楽が生み出されたと感じました。

さすがに今日のアンコールは1曲だけ。バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻からプレリュードとフーガ第1番 ハ長調をさらっと弾いてくれました。

こんな形での異例のコンサートで、しかも、曲目が異常に多く、20分の休憩時間を含めると、コンサート時間が何と3時間半。7時に始まったリサイタルも終わった時刻は10時半。昨日は疲れ切って、ブログ記事も書けませんでした。ごめんなさい。コンサートの終わりでは疲れも忘れて、気持ちが高揚していましたが、家に帰り着いたところでぐったりでした。でも、最高のリサイタルでした。明後日のリサイタルももちろん聴きます。同じ曲目でも構いませんが、できたら、違う曲が聴きたいな・・・。特にシューベルトの遺作ソナタを聴きたいです。


今日のプログラムは以下です。

 J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲BWV988から アリア
 J.S.バッハ:「音楽の捧げもの」BWV1079から 3声のリチェルカーレ
 モーツァルト:幻想曲 ハ短調 K.475
 J.S.バッハ:フランス組曲第5番 ト長調 BWV816
 モーツァルト:アイネ・クライネ・ジーグ K.574
 J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻から
         プレリュードとフーガ ロ短調 BWV869
 モーツァルト:アダージョ ロ短調 K.540
       ピアノ・ソナタ第17番 ニ長調 K.576

   《休憩》

 ハイドン:ピアノ・ソナタ ト短調 Hob.XVI-44
 ベートーヴェン:6つのバガテル op.126
        ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 op.110

   《アンコール》

    J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻から
      プレリュードとフーガ第1番 ハ長調BWV846


予習はプログラムが未発表だったので、もちろん、できませんでした。



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金婚式、おめでとうございます!!!
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10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
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07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
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クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
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07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

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