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ジョナサン・ノット、八面六臂で東京交響楽団をドライブし、美しく整ったチャイコフスキーを創造@ミューザ川崎シンフォニーホール 2023.7.22

ジョナサン・ノットにとって、日本でチャイコフスキーを演奏するのは初めてのこと。交響曲第3番に至ってはノット自身、初めてタクトをとるのだそうです。それだけに周到な準備を経て、どのような表現のチャイコフスキーを聴かせてくれるのか、興味津々で期待します。

まず、前半はチャイコフスキーの交響曲第3番『ポーランド』です。この曲を実演で聴くのは多分、3回目くらいでしょうか。そんなに聴く曲ではありません。5楽章構成の長大な曲です。第1楽章の序奏が始まりますが、若干、抑えた感じの演奏です。ノットらしい丁寧な表現で曲想が明快に示されます。saraiがそんなに聴き込んだ曲ではありませんが、すべてのフレーズがすっと受容されて、どの楽節も耳馴染みがよく感じられます。ある意味、啓蒙的な演奏です。アンサンブルがきっちり整っているとずっと感じます。第2楽章以降も印象は変わらず、美しく聴きやすい演奏が続きます。尖ったところのないまろやかな音楽が心地よく響きます。全体の5楽章はいわゆるアーチ構造になっており、第3楽章のアンダンテ・エレジアーコが中心的な位置を占めます。ノットはこの第3楽章をゆったりと素晴らしく美しく演奏していきます。牧歌的な音楽ですが、それほどロシア的な表現ではなく、それでもどこか懐かしさを感じさせるような演奏です。うっとりと聴き入ります。続く第4楽章のスケルツォで軽やかな音楽に転じた後、第5楽章のポロネーズに入ります。民俗的な雰囲気も感じる音楽ですが、途中、弦楽の各声部によるフーガが見事なアンサンブルで展開されます。対向配置の効果が発揮されて、弦の各声部がくっきりと浮かび上がるような演奏に魅了されます。そして、最後は壮大なコーダで盛り上がります。ノットがこの曲を初めて演奏するとは思えないほど、完璧に把握して、東響をきっちりとコントロールしていました。そして、個人的な感覚ですが、今までになく、この曲の全楽章の曲想がすっぽりと脳内に入り込みました。ある意味、この曲を《理解》したと言えそうです。

休憩後、チャイコフスキーの交響曲第4番です。これは誰でも知っている有名な作品。冒頭、金管のファンファーレが運命の動機を歌い上げます。突っ込んだ演奏ではなく、マイルドでカンタービレしているような演奏で始まります。主部も暗い音楽ではありますが、美しいアンサンブルの表現が続きます。耳馴染みした音楽が続いていきますが、流石に先ほどの第3番とは異なり、整ってはいますが、それなりに突っ込んだ表現で高潮していきます。対向配置の弦の各声部が明確に演奏されるのは先ほどの第3番以上です。弦の響きは高音部が美しく響き渡ります。ノットはこの第4番は第3番からいかにチャイコフスキーが音楽表現の幅を広げたのかを明確に示そうとしているようです。実際、その試みは成功し、楽章をおうごとに音楽は高潮していきます。第4楽章は華やかな祝祭的な盛り上がりを演出し、それまでの抑えた表現はほぼ開放したような演奏です。第1楽章冒頭の金管のファンファーレが回帰するところもそれなりに強い演奏に変化し、最後のコーダも大いに盛り上がります。しかしながら、野放図な音楽表現までの盛り上がりではなく、音楽的に十分なレベルまでの盛り上がりです。それで十分でしょうとノットは言わんばかり。確かに納得です。
普通に聴いていれば、いつもの第4番と変わりがないようにも聴こえますが、なるほどと思えるノットのこだわりにつまった第4番でした。

今後、ノットはチャイコフスキーの第5番、第6番も演奏しそうな雰囲気を感じました。多分、交響曲全曲の演奏になるのでしょう。さすがにマンフレッド交響曲はないかもしれませんね。第6番《悲愴》はマーラー風の演奏になるのではないかとひそかに予想しています。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

 フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2023 オープニングコンサート

  指揮:ジョナサン・ノット
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:グレブ・ニキティン

  チャイコフスキー:交響曲第3番 ニ長調 Op. 29 『ポーランド』

  《休憩》
  
  チャイコフスキー:交響曲第4番 ヘ短調 Op. 36


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のチャイコフスキーの交響曲第3番『ポーランド』を予習したCDは以下です。

 ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1979年10月15-19日、アムステルダム、コンセルトヘボウ セッション録音

ハイティンクがコンセルトヘボウ菅を完全に掌中に収めた時期の円熟して、自然な表現のチャイコフスキーと言えます。


2曲目のチャイコフスキーの交響曲第4番を予習したCDは以下です。

 ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1978年12月18-19日、アムステルダム、コンセルトヘボウ セッション録音

ハイティンクは自然な表現ながら、それなりに熱い演奏も聴かせてくれます。ロシア的ではありませんが、バランスのとれた一聴の価値ある演奏です。



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       ジョナサン・ノット,  

深く味わいのあるブラームスの交響曲第2番にじっくりと聴き入る ジョナサン・ノット&東京交響楽団@サントリーホール 2023.7.16

久し振りのジョナサン・ノットに思えますが、たった2カ月前に素晴らしいマーラー、さらには楽劇《エレクトラ》を聴いたばかりです。

今回はまず、ヴァイオリンの神尾真由子と、本場イギリスの作曲家エルガーのヴァイオリン協奏曲。神尾真由子の繊細で情熱的なヴァイオリンを見事にサポートしたジョナサン・ノットが印象的です。時として、オーケストラも美しく燃え上がる演奏を聴かせてくれます。エルガーの熱情的な音楽にうっとりしていて、ぼーっと聴き入ってしまいます。何とも神尾真由子のヴァイオリンが内省的で内に秘めた情愛を表現していきます。ジョナサン・ノットの指揮する東響はそっと寄り添うような演奏です。しかし、saraiは音楽の本質にうまく集中できないまま、フィナーレを迎えてしまいます。この曲は初聴きですから、うまく理解できませんでした。もっと聴き込めば、この音楽の良さが見えてくるかもしれません。演奏自体は神尾真由子のヴァイオリンも東響の演奏も素晴らしかったような気がします。

後半は有名なブラームスの交響曲第2番。saraiの好きな曲でもあります。身構えて聴き始めますが、ジョナサン・ノットの多様なニュアンスにあふれたブラームスの音楽に魅了され続けます。ジョナサン・ノットの譜面を丹念に読み込んだと思える分析的とも思える演奏はsaraiにとって、とても刺激的です。あくまでも冷静に東響をコントロールして、激することのない演奏ですが、これまで聴こえてこなかった声部がバランスよく響いてきて、驚きながらノット流のブラームスに聴き惚れます。第1楽章のチェロが奏でる第2主題の木々の間を流れるそよ風のような趣きにはほれぼれとします。再現部でもこのチェロのメロディーに茫洋として聴き入ります。要所に第2ヴァイオリンが不意に美しい演奏を聴かせてくれるのもノットの見事な演出に思えます。そうそう、今日は古典的対向配置ですが、あまり、演奏機会のない第2ヴァイオリンを活かす配置にもなっています。弦と木管のバランスも実に効果的です。冒頭のホルンの弱音の表現も難しそうでしたが、実に音楽的に成功していました。

第2楽章のアダージョ・ノン・トロッポは極めて抒情的な味わいに満ちていて、ブラームスを聴く喜びを覚えます。ノットは決して羽目を外さずに折り目の正しい音楽を奏でていきます。ここでも東響の美しい弦楽アンサンブルと木管が素晴らしい演奏を聴かせてくれます。

第3楽章は荒絵理子の見事なオーボエのソロで始まり、束の間の賑わいを感じさせます。

第4楽章は弦のソット・ヴォーチェで静かに始まり、たちまち、トゥッティで圧倒的な響きで盛り上がり、高潮した音楽を聴かせてくれます。この後、弱と強が入れ替わりつつ、音楽が展開されて、最後は金管楽器の圧倒的なコラール風の旋律で高潮し、コーダが華々しく結ばれます。終始、ノットのコントロールの効いたバランスよく抑制された音楽が落ち着いたブラームスを感じさせてくれました。

あまり目立ちませんが、ノットのブラームスも素晴らしいです。抑制がきいていて、きっちり、スコアを読み込んだ大人のブラームスを毎回聴かせてくれます。もっとも初心者にはちょっと難しい演奏かもしれません。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:ジョナサン・ノット
  ヴァイオリン:神尾真由子
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:小林壱成

  エルガー:ヴァイオリン協奏曲 ロ短調 Op.61

  《休憩》
  
  ブラームス:交響曲 第2番 ニ長調 Op.73


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のエルガーのヴァイオリン協奏曲を予習したCDは以下です。

 ヒラリー・ハーン、サー・コリン・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団 2003年10月、ロンドン セッション録音

ヒラリー・ハーンの若い頃のクールで初々しい演奏。


2曲目のブラームスの交響曲 第2番を予習したCDは以下です。

  ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 1967年1月6日 クリーヴランド、セヴェランス・ホール セッション録音

セルはいつものように精密なアンサンブルに重きを置いた演奏をするわけではなく、実に熱っぽい表現に心を注いだ演奏をしています。



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       ジョナサン・ノット,  

緊張感と高揚の80分、マーラーの交響曲第6番 ジョナサン・ノット&東京交響楽団@サントリーホール 2023.5.20

先週の凄かったR.シュトラウス《エレクトラ》に続き、ジョナサン・ノット&東京交響楽団は今度はマーラーの交響曲第6番です。大曲続きですね。無論、期待に違わぬ演奏です。

このところ、マーラーの第5番から第7番までの中期の交響曲を聴く機会があります。大野と都響の第7番、マナコルダと読響の第5番ときて、〆は今日の第6番です。声楽抜きの中期の交響曲の複雑で充実した響きに魅了されます。それにしても日本のオーケストラ、とりわけ、在京のオケの実力の凄さに驚嘆します。

今日の演奏はノットらしく、プレリュードとして、リゲティの短いピアノ曲を置き、短い間の後、ざっざっざっという深い響きのマーラーが開始されます。その効果は甚大で、シンプルな音色のリゲティの後では、いかにオーケストラの響きが充実しているかを思い知らされます。この緊張感の高いマーラーの開始はその後の展開を予告するものです。東響も聴衆もノットのタクトの下、緊張と高揚の1時間半を強いられることになります。マーラーが描き出した音楽世界にこのサントリーホールにいる者はその1時間半、ワープすることになります。マーラーの強い自我が我々を支配して、マーラーの意識下の愛や美しい自然の中で別の人生を体験するかの如くです。東響は素晴らしい響きで我々をマーラーワールドに誘います。第1楽章の長大なこと! いつまでも音楽が続くようです。そのエキセントリックとも言える凄まじい音楽の変遷に我々は翻弄されます。ノットも会心の指揮で東響を鼓舞し、我々聴衆も鼓舞します。緊張感高い第1楽章が終わり、疲れを感じる間もなく、第2楽章のスケルツォが始まります。ここでも緊張感高い音楽が持続します。何とも凄まじいエネルギーの大波です。そして、ようやく、第3楽章のアンダンテで優しい音楽が始まり、カタルシスとも思える気持ちになれます。しかし、美しく優しい音楽であっても、緊張感の高さは変わりません。そして、奇怪とも思える第4楽章に入っていきます。起伏の多い音楽は複雑な感情が織り込められています。愛や英雄的な前進感、そして、挫折や死。東響は最後まで緊張感を持った演奏。無限のエネルギーを放出するような演奏です。ノットの額は汗で光っています。そして、最後の高揚に突進し、その果ては静謐な音楽に変わります。最後の高まりをみせた後、音楽は突然のように終わります。

昨年のマケラ&都響のような圧倒的な輝きはありませんでしたが、ノットの知性的な精密さに満ちたマーラーの交響曲第6番の会心の演奏でした。東響の勢いのある演奏も印象的でした。ノットが振ると東響は高みに駆け上がります。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:ジョナサン・ノット
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:グレブ・ニキティン

  リゲティ:ムジカ・リチェルカータ 第2番(ピアノソロ=小埜寺美樹)
  マーラー:交響曲 第6番 イ短調 「悲劇的」

  《休憩》 なし


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のリゲティのムジカ・リチェルカータ 第2番を予習したCDは以下です。

 ピエール=ローラン・エマール リゲティ・エディション3 ピアノのための作品集 1995年12月6-9日、スイス、ラ・ショー=ド=フォン、サラ・ド・ムジーク セッション録音

ピエール=ローラン・エマールですから、間違いなく素晴らしい演奏。


2曲目のマーラーの交響曲 第6番を予習したCDは以下です。

  ジョナサン・ノット指揮バンベルク交響楽団 2008年10月27-31日 バンベルク、ヨゼフ・カイルベルト・ザール セッション録音

第2楽章スケルツォ、第3楽章アンダンテはちょっと物足りませんが、第4楽章は迫真の演奏。



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       ジョナサン・ノット,  

完璧に響き渡った《エレクトラ》2回目 恐ろしいほどの完成度 ノット&東京交響楽団@サントリーホール 2023.5.14

今日の《エレクトラ》は一昨日のミューザ川崎に続いて2回目です。いずれも運よく、最前列のほぼ中央の最高の席で聴くことができました。コンサート形式ですから、歌手がすぐ目の前で歌うので、ともかく声がよく響きます。いつもの舞台形式のオペラだと、舞台上で歌う歌手の手前にピットにはいったオーケストラがいます。歌手の声を聴くには、コンサート形式が最高です。そして、今日は主要なキャストの5人が物凄く響く声で歌ってくれて、最高の感動を味わわせてくれました。オレストを歌ったジェームス・アトキンソンもミューザ川崎のときと比べて、格段の歌唱を聴かせてくれました。ジョナサン・ノット指揮の東響もミューザ川崎のとき以上の圧倒的な迫力の演奏を聴かせてくれました。やはり、サントリーホールの音響はsarai好みのようです。

この《エレクトラ》はワーグナーの楽劇を引き継いで、さらに音楽の純度を高めたような最高の芸術です。その戦慄のドラマは《サロメ》と同様に、あるいはそれ以上に、これは愛と狂気をはらんだ命をかけた迫真の芸術であり、聴くものの実存に襲い掛かってきます。父親の復讐劇は母親殺しというおぞましい結果になり、その陶酔感に強い衝撃を受けます。R.シュトラウスの芸術的創作力は《サロメ》をも超えて頂点に達した一大傑作です。何と言ってもエレクトラの愛と狂気を完璧に歌い切ったクリスティーン・ガーキーはミューザ川崎では若干皮相的に思えた表現も今日は真摯で素晴らしい歌唱に昇華していました。歌唱だけでなく、真に迫った演技も最高でした。

ただ、昨年の《サロメ》のように、サロメを歌ったアスミク・グリゴリアンだけが光り輝いたのではなく、今日の《エレクトラ》では、エレクトラを歌ったクリスティーン・ガーキーの周りのキャストたちの歌唱と演技が見事で、さらに言えば、ジョナサン・ノット指揮の東響の圧倒的な演奏に深く魅了されました。冒頭から終幕までずっと緊張感を強いられる演奏でしたが、とりわけ、最後のオーケストラ中心の演奏になった後の超絶的な高揚感は格段のものでした。

詳細の感想は一昨日のミューザ川崎の公演について書いた通りですが、演技内容はかなりブラッシュアップされて、さらに納得感のあるものに変わっていました。短時間でこういう修正を加えた演出監修のサー・トーマス・アレンには脱帽です。

クリテムネストラ役のハンナ・シュヴァルツの歌唱はさらに声量を抑えたものになり、実に迫真の歌唱になったのは絶句しました。こういう悩めるクリテムネストラを強調した歌唱の独自性はあるいは賛否あるかも知れませんが、単なる悪役ではないという深みは素晴らしいと感じ入りました。老いてこその歌唱に感銘を受けました。

オレスト役のジェームス・アトキンソンはミューザ川崎のときの歌唱とうってかわって、実に見事な歌唱を聴かせてくれました。その美声に魅了されました。

音楽は大団円へはいり、狂乱するエレクトラは踊りながら崩れ落ちながらも中央の椅子に目を開けて座っています。素晴らしい響きの東響がオレストのモティーフを強烈に繰り返し、エレクトラはその響きの終焉とともにクリソテミスに抱かれつつ、目を閉じて、最期のときを迎えます。そして、照明が落ちて、暗黒に。圧倒的なフィナーレです。サントリーホールの聴衆が興奮と熱狂に包まれます。
万雷の拍手とブラボーコールはコロナ禍の終わりを告げるかのようでした。


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次回のR.シュトラウスのコンサート形式オペラが待ち遠しいです。何が上演されるのでしょう。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:ジョナサン・ノット
  演出監修:サー・トーマス・アレン
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:小林壱成

  エレクトラ:クリスティーン・ガーキー
  クリテムネストラ:ハンナ・シュヴァルツ
  クリソテミス:シネイド・キャンベル=ウォレス
  エギスト:フランク・ファン・アーケン
  オレスト:ジェームス・アトキンソン
  オレストの養育者:山下浩司
  若い召使:伊藤達人
  老いた召使:鹿野由之
  監視の女:増田のり子
  第1の侍女:金子美香
  第2の侍女:谷口睦美
  第3の侍女:池田香織
  第4の侍女/クリテムネストラの裾持ちの女:髙橋絵理
  第5の侍女/クリテムネストラの側仕えの女:田崎尚美
  合唱:二期会合唱団


最後に予習について、まとめておきます。もちろん、一昨日と同じです。

 R.シュトラウス:『エレクトラ』(ザルツブルク音楽祭2010)

  エレクトラ:イレーネ・テオリン(ソプラノ)
  クリテムネストラ:ヴァルトラウト・マイヤー(メゾ・ソプラノ)
  クリソテミス:エファ=マリア・ウェストブローク(ソプラノ)
  エギスト:ロバート・ギャンビル(テノール)
  オレスト:ルネ・パーペ(バリトン)、他
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
  ダニエレ・ガッティ(指揮)

  演出:ニコラウス・レーンホフ
  装置:ライムント・バウアー(舞台装置)
  衣装:アンドレア・シュミット=フッテラー

  収録時期:2010年
  収録場所:ザルツブルク、大祝祭劇場(ライヴ)

さすがにウィーン・フィルで聴くR.シュトラウスは見事。キャストも豪華で隙もなく、特にガッティの指揮は特筆すべきものです。



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       ジョナサン・ノット,  

クリスティーン・ガーキーを中心に強烈に光り輝く《エレクトラ》 1回目 ノット&東京交響楽団@ミューザ川崎シンフォニーホール 2023.5.12

昨年の超絶的とも思えた《サロメ》に続き、今年は《エレクトラ》。期待するなというのが無理な話ですが、今度もやってくれました。昨年の《サロメ》はタイトルロールのアスミク・グリゴリアンの強烈な歌唱がすべてと言ってもいい内容でしたが、今年はバランスよく、すべてが存在感を放つ演奏でした。無論、《サロメ》以上とも言っていいR.シュトラウスの油の乗り切った先鋭的な世界が展開されました。そうそう、このオペラはホフマンスタールが台本を書いて、R.シュトラウスとコンビを組んだ最初の記念碑的な作品でもあり、ホフマンスタールの詩人としての才能が最高に光るものでもあり、今日の公演でも歌手たちが豊かな表現力を発揮していました。今日に限りませんが、この《エレクトラ》を聴くと、この後、古典回帰してしまうR.シュトラウスの作品が甘ったるく感じて、物足りなくなってしまいます。今日の演奏は実に先鋭的かつ強烈でその印象はさらに深まってしまいます。ある意味、R.シュトラウスの最高の芸術を味わった思いに駆られました。

冒頭、アガメームノンのモティーフがオーケストラで奏せられ、すぐに侍女たちの狂ったような歌唱が始まります。侍女たちはみな日本を代表するような歌手たちで驚くほどの声の張りが響き渡ります。そして、満を持して、ずっとステージ上にいたエレクトラ役のクリスティーン・ガーキーが深い響きの声で長いモノローグを歌っていきます。中低音は深く、高音は鋭く、圧倒的な声量をその巨体を震わせて歌います。ワーグナーソプラノを連想します。ワルキューレのブリュンヒルデです。しかし、表現内容はエキセントリックでヒステリックでさえもあります。病的、狂人的です。エレクトラ役はえてして叫びまくるという感じもありますが、ガーキーはその豊かな声量で余裕の歌唱です。このあたりが、素晴らしくもあり、かつ、物足りない感じでもあります。その余裕さ故にどこか醒めている雰囲気もあります。ともあれ、異次元の歌唱であり、オーケストラの響きを抑えて、圧倒的な存在感を示し、実際、物理的にも彼女の歌声だけが聴衆の耳をつんざくような具合に響きます。超大編成の東響の響きは彼女の歌の合間に聴こえるという感じですが、《サロメ》の時とは比較にならないような充実の響きです。コンサート形式ということもありますが、歌付きの交響詩という風情も感じられます。実際、攻撃的なフレーズを聴くと、R.シュトラウスの交響詩による浮遊感を抱きます。

クリソテミス役のシネイド・キャンベル=ウォレスが登場し、エレクトラとのダイアローグ的な歌唱を繰り広げます。クリソテミスは音楽的にはエレクトラと対立関係にあり、常識的な個性を調性のある音楽で表現していきます。実際、シネイド・キャンベル=ウォレスは声量的も小さめ(ガーキーの声量が圧倒的であるせいですが)で、しなやかな歌声です。彼女は終盤ではもっと歌い上げますが、ここでは強烈な個性のガーキーのアンチテーゼ的な役割に終始します。

次いで、クリテムネストラ役のハンナ・シュヴァルツが登場。このクリテムネストラ役は歌手が「キャリアの秋」に歌う古典的なキャラクター役のひとつだそうですが、この役を歌うということはかつての名歌手だった証しでもあります。7年前、新国立劇場の《イェヌーファ》で《ブリヤ家の女主人》を素晴らしい歌唱で驚かせてくれて、そのときでさえ、まだ、歌っていたとは思っていませんでした。そのときに調べてみたら、最後に聴いたのは1993年の《トリスタンとイゾルデ》のブランゲーネ役でした。ワーグナーの楽劇に欠かせない人でした。その新国のときも72歳で現役と驚きましたが、今回はさらにお歳を重ねられて、79歳の筈です。無論、声量がどうだということを言っても意味がありませんが、表現力、声の美しさは一級品です。悪役というよりも健気さを感じ、こういう人を殺さなくてもいいのにという印象を受けてしまいます。ガーキー演じるエレクトラはその健気な母親のクリテムネストラを容赦なく責め立てます。ある意味、年寄りいじめですが、爽快な印象もあります。ガーキーはどんどん音楽的に高潮していきます。

笑いながら退場するクリテムネストラと入れ替わりに再登場するクリソテミス役のシネイド・キャンベル=ウォレスが弟オレストの死を告げます。それを契機にエレクトラは妹クリソテミスに母の殺害を手伝わせようとそれまでの狂人的な歌唱から一転して、長調の明るい歌唱で説得しようとします。ガーキーは複雑な個性を歌い分ける難しい箇所も難なく歌い上げます。実に見事な歌唱力と言わざるを得ません。

エレクトラの説得を拒絶して退場したクリテムネストラを罵り、エレクトラは一人で母殺害を決意。そこに遂に弟オレスト役のジェームス・アトキンソンが登場。残念ながら、男声陣は女声陣に比べ、迫力に欠けます。まあ、そういうオペラですけどね。オレストに再会したエレクトラは喜びますが、同時に今の自分の無様な姿を恥じ入ります。また、ここでガーキーは繊細極まる表現力を駆使して、音楽に深みを与えます。声量だけでは乗り切れない役どころを素晴らしく表現します。

そして、いよいよ、音楽は佳境に入っていきます。エレクトラは家に入っていったオレストが母を殺害するシーンを聴き入ります。このシーンは遂にノット指揮の東響が音楽でその残酷なシーンを描き出します。主役に躍り出た東響がおどろおどろしい音楽をベースや管楽を駆使して素晴らしく表現します。

最後の人物、母親の情夫であるエギスト役のフランク・ファン・アーケンの登場です。ここでも偽善的な個性に扮したエレクトラをガーキーが実に気持ちよく歌い上げます。一人何役という超人的な歌唱をやってのけます。そして、エギストは家に入り、オレストに討たれます。エレクトラの復讐劇の完成です。クリソテミスが現れて、オレストの出現と仇討ちを誇らしげに語ります。

そして、音楽は大団円へ。狂乱するエレクトラは踊りながら崩れ落ち、そのまま死の奈落へ。素晴らしい響きの東響はオレストのモティーフを強烈に繰り返し、圧倒的なフィナーレ。誰もが熱狂の渦に。

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演出監修のサー・トーマス・アレンがどれほどの仕事をしたのか、うかがい知れませんが、コンサート形式でありながら、この迫力の舞台を作り上げたのですから、見事としか言えません。心理劇という難しいものを深い洞察力で仕上げた知性には感服するしかありません。

明後日も同じプログラムをサントリーホールで聴きます。今日聴いたエレクトラ以上のものは想像できませんが、実に楽しみです。きっと、今年最高の音楽体験になるでしょう。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:ジョナサン・ノット
  演出監修:サー・トーマス・アレン
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:小林壱成

  エレクトラ:クリスティーン・ガーキー
  クリテムネストラ:ハンナ・シュヴァルツ
  クリソテミス:シネイド・キャンベル=ウォレス
  エギスト:フランク・ファン・アーケン
  オレスト:ジェームス・アトキンソン
  オレストの養育者:山下浩司
  若い召使:伊藤達人
  老いた召使:鹿野由之
  監視の女:増田のり子
  第1の侍女:金子美香
  第2の侍女:谷口睦美
  第3の侍女:池田香織
  第4の侍女/クリテムネストラの裾持ちの女:髙橋絵理
  第5の侍女/クリテムネストラの側仕えの女:田崎尚美
  合唱:二期会合唱団


最後に予習について、まとめておきます。

 R.シュトラウス:『エレクトラ』(ザルツブルク音楽祭2010)

  エレクトラ:イレーネ・テオリン(ソプラノ)
  クリテムネストラ:ヴァルトラウト・マイヤー(メゾ・ソプラノ)
  クリソテミス:エファ=マリア・ウェストブローク(ソプラノ)
  エギスト:ロバート・ギャンビル(テノール)
  オレスト:ルネ・パーペ(バリトン)、他
  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
  ダニエレ・ガッティ(指揮)

  演出:ニコラウス・レーンホフ
  装置:ライムント・バウアー(舞台装置)
  衣装:アンドレア・シュミット=フッテラー

  収録時期:2010年
  収録場所:ザルツブルク、大祝祭劇場(ライヴ)

さすがにウィーン・フィルで聴くR.シュトラウスは見事。キャストも豪華で隙もなく、特にガッティの指揮は特筆すべきものです。



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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07/08 18:59 sarai

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07/08 15:53 じじい@

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久々のコメント、ありがとうございます。
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06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

通りすがりさん

コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

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