かなり期待して臨んだ復活祭の日曜日に上演するワーグナー舞台神聖祝典劇《パルジファル》でしたが、恐ろしく思えるほどに磨き上げられた演奏にただただ感動するのみでした。それにしても、主役は指揮者の
ティーレマンに間違いありません。オペラで指揮者が主役だったのはこれまでsaraiにはカルロス・クライバーの《薔薇の騎士》しかありませんでした。
ティーレマンは当地では絶大な人気を誇りますが、その実力たるや、底知れない感じで、指揮する姿だけ見ていても、クライバーとは別の意味で魅了されるものがあります。
今夜の
ティーレマンは神が乗り移ったような指揮で、あくまでもsaraiの素人としての感想では、世に名高い1962年のバイロイトでのクナッパーツブッシュの演奏にも匹敵するものでした(クナッパーツブッシュファンの皆さん、恐れ多いことを言ってごめんなさい)。まさに今夜は
ティーレマンの《パルジファル》でした。
第3幕は舞台からつい目が離れ、
ティーレマンの指揮する姿に釘づけといった感でした。
もちろん、ウィーン国立歌劇場のオーケストラ(実質、ウィーン・フィルです。当夜もコンサートマスターはライナー・キュッヒル、その横はダナイロヴァと豪華な顔ぶれ)という名器あればこそ、
ティーレマンも縦横にその力を発揮できたわけです。歌手陣も充実していましたが、何といってもクンドリー役のアンゲラ・
デノケの澄みきった声の素晴らしさはうっとりと聴き惚れるしかないものでした。演技も聖俗すべてをあわせ持つ難しい役どころを見事にこなし、体当たり的とも思えるヌードまで披露してくれる大サービス。saraiも男性の一人として、脱帽するのみです。もちろん、彼女はソプラノなので、声域的に低音が苦しい部分もありましたが、逆に高音域の清らかな声は次第に聖化していく女性像を美しく表現していました。特に第2幕の長いモノローグ、パルジファルとの絡みなどはこれまでのクンドリー役としては最高の出来栄えに思えました。ワルトラウト・マイヤーが現在、最高のクンドリー役として評価されていますが、清らかさへの昇華という観点から
デノケに軍配を上げたい気持ちです。
今日のキャストは以下です。
指揮:クリスティアン・ティーレマン
演出:クリスティーネ:ミーリッツ
管弦楽:ウィーン国立歌劇場管弦楽団
アンフォルタス:ファルク・シュトルックマン
ティトゥレル:アンデレアス・ヘール
グルネマンツ:クァンチュル・ヨーン
パルジファル:サイモン・オニール
クリングゾル:ヴォルフガング・バンクル
クンドリー:アンゲラ・
デノケsaraiと配偶者の陣取った席は平土間の前から4列目の中央右寄りという好位置。間近にティーレマンの姿も見えます。
まず、第1幕への前奏曲が始まります。何と厳かで宗教的とも思える演奏でしょう。オーケストラの柔らかく美しい響きで空間が満たされます。こちらも厳粛な面持で緊張感いっぱいです。やがて、祈りのような音楽の果てに幕を透かせてステージが見えてきます。そして、幕が上がります。グルネマンツ役のヨーンが歌い始めますが、なかなかの美声で意外な驚きです。表現力もあり、素晴らしいバリトンです。グルネマンツは言わば、狂言回しのような役どころでとても重要な押さえどころですが、十分、満足して聴けました。うっとりと聴き入ることもしばしばでした。すぐにクンドリー役の
デノケも登場。頭の頭巾も含め足首まで黒づくめの衣装です。第1幕では、美声を少し聴かせてもらう程度で、お楽しみは第2幕です。次いで、アンフォルタス役のシュトルックマンの登場。彼の実力からすれば、このあたりではまだまだ抑えた歌唱ですが、ベテランらしく、そつなくこなしていました。そして、タイトルロールのパルジファル役のオニールです。多分、初めて聴くテノールですが、パルジファルにしては明るい声でイメージが違います。ただ、このあたりではパルジファルは悟りにいたっていないので、少し、能天気っぽいのもよいのでしょう。事実、第2幕後半の聖人に昇華するあたりでは、実に熱っぽい歌唱に変化していました。最強のパルジファルではありませんが、十分満足できるパルジファルであると言えます。第1幕終盤の聖杯の場面はさすがにウィーン国立歌劇場の合唱が響き渡り、素晴らしいものでした。ただ、女声合唱が舞台裏(下?)からなので、もうひとつ弱かったかなという印象です。事実、舞台がリフトアップされて、下から女性及び少年合唱が登場するとなかなかの響きでした。演出上の問題もありますが、音楽最優先がsaraiの好みです。
長大な第1幕も緊張感をきらすことなく聴き通せたのは、いかに素晴らしい音楽が展開されたかの証しでしょう。幕があり、ぱらぱらと拍手が起きましたが、ウィーンやバイロイトでは第1幕後は現在でも拍手は慣例として禁止です。シーッという観客の声で拍手も止みました。ここで休憩。
休憩中、念願のウィーン国立歌劇場のネクタイをゲット。これで楽友協会とここへは専用のネクタイでこれから通うことになります。
第2幕は怪人クリングゾル役のバンクルの登場です。実に素晴らしい歌唱を聴かせてくれました。第2幕だけの登場ではもったいないほどの素晴らしさでした。続いて、
デノケが胸をはだけた体当たり的な衣装で登場。ぎょっとします。しかし、その歌声は人間の生の声、苦悩する人間の弱さ・強さを見事に表現していました。続いては花の乙女たちの登場。ミラーボールが回り出したのには苦笑しましたが、実に妖艶な雰囲気が醸し出されて、なかなよい演出でしょう。また、この場面は続くパルジファルとクンドリーの葛藤と昇華への導火線にもなっており、必然性が感じられました。ということで、クンドリー役の
デノケが再登場して、いよいよ音楽は最高潮に達していきます。デノケの歌声の素晴らしさ。何を語っているのなんか、saraiにはどうでもよい感じ。ただただ、彼女の透き通った声の響きにひたっているだけで幸福感に包まれます。さらにその歌声に呼応すかのように、新しく生まれ変わったともいえるパルジファル、すなわちオニールの熱のこもった歌声が響き渡ります。彼らの聖人対俗人の対決、愛の葛藤、聖人への昇華、もう、凄まじい歌声で響き渡る中、saraiはもう感動の嵐です。ティーレマンの率いるオーケストラも負けじと美しい響きを奏でます。これこそ、最高のワーグナーです。第2幕が終わったとき、もうsaraiはこのまま帰っても満足という感じでした。ここでまた休憩。
第3幕は冒頭に書いた通り、もう、ティーレマンの独り舞台。なんという素晴らしい指揮でしょう。座って指揮していますが、ときおり、ここぞという時に立ち上がり、オーケストラを鼓舞しますが、そのスケールの大きな演奏には圧倒され、もうひれ伏すだけです。ものすごい指揮です。というわけで第3幕は舞台は半分も見ていなかったかもしれません。ただただ、ティーレマンの指揮の素晴らしさ、その作り出す音楽の美しさ、重厚さ、強靭さ、もう表現は難しいですが、なるほど、これがワーグナー音楽の頂点だということは理屈抜きで体感しました。フィナーレの神々しさには参りました。
満場総立ちでティーレマンに怒号の声援です。ティーレマンに初めて、ワーグナー音楽の奥義を教えられた思いです。
それにしても、ウィーンでのティーレマンの人気は凄まじいものでした。実力あってのことですね。今回の旅では最後にティーレマン指揮のウィーン・フィルのコンサートを2回も聴きます。ますます、楽しみです。
↓ saraiのブログを応援してくれるかたはポチっとクリックしてsaraiを元気づけてね
いいね!
テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽