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シューベルトの交響曲第7番《未完成》、自然体で深い味わいの名演 ベルナルト・ハイティンク&ベルリン・フィル@ベルリン・フィルハーモニー(配信) 2016年10月8日

ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールの鑑賞記です。
明日、鈴木雅明指揮のバッハ・コレギウム・ジャパンでシューベルトの交響曲第7番《未完成》を聴くので、予習も兼ねて、聴くことにしました。
内田光子の語るところでは、この曲は死を間近にした指揮者が振ると名演になるのだそうです。
巨匠ベルナルト・ハイティンクはこの時、亡くなるまで、まだ、5年もあったので、それにはあたらないでしょうが、87歳という高齢だったので、あるいは基準にあてはまるのかもしれません。
ところで、saraiはこれまでハイティンクのシューベルトを聴いた覚えがありません。多分、これが初めての経験になります。なお、ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールには、このほか、交響曲第5番の演奏も残されています。《ザ・グレイト》の演奏が聴きたいものです。(ということで、saraiの未聴のCDライブラリを調べてみると、何と1975年録音のコンセルトヘボウ管弦楽団との《未完成》と《ザ・グレイト》が見つかりました!)

冒頭、コントラバスが極めて小さな音で奏されて、静かな開始。ハイティンクはいつものようにほとんど大きな動作はせずに自然体の演奏です。ポイントポイントでは、軽く指揮棒で指示して、鋭い視線を送ります。実に静寂な弱音を中心に味わい深いシューベルトの音楽を聴かせてくれます。弱音でもベルリン・フィルのアンサンブルは超絶的に揃っていることに驚愕します。ロマンというよりも暗い翳を帯びた悲哀を感じる音楽です。それだけにトゥッティで強く高潮するときは凄まじい響きを感じます。管のソロもホルンはシュテファン・ドール、フルートはエマニュエル・パユ、クラリネットはアンドレアス・オッテンザマー、オーボエはアルブレヒト・マイヤーという達人たちが素晴らしい演奏を聴かせてくれます。とりわけ、アルブレヒト・マイヤーのオーボエの味わい深い響きに魅了されます。第1楽章は提示部の繰り返しも入れて、ゆったりとした演奏を聴かせてくれました。ほぼ16分という長さは最長レベルでしょう。第2楽章は穏やかなアンダンテが情感豊かに、しかし、静謐に奏されて、悲哀に満ちた味わいがますます深くなります。コーダではそっとそっと静かに音楽を閉じます。ハイティンクのシューベルトは初めて聴きますが、感動するような素晴らしい演奏でした。ハイティンクがシューベルトを好んで取り上げなかったのが不思議です。シューベルト交響曲全集を録音していなかったのが残念です。
ハイティンクの描き出した未完成交響曲は決して未完成には感じない充足した音楽でした。


この日のプログラムは以下です。

  2016年10月8日、ベルリン・フィルハーモニー

  指揮:ベルナルト・ハイティンク
  管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

  フランツ・シューベルト:交響曲第7番ロ短調 D 759《未完成》
  
  
なお、この日のコンサートでは、その他、以下の曲も演奏されました。(未聴)
  
  グスタフ・マーラー:《大地の歌》
    クリスティアン・エルスナー(テノール)
    クリスティアン・ゲルハーヘル(バリトン)
  


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       ハイティンク,  

ブルックナーの交響曲第4番《ロマンティック》の圧巻の名演 ベルナルト・ハイティンク&ベルリン・フィル@ベルリン・フィルハーモニー(配信) 2014年3月15日

ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールの鑑賞記です。
近く、読響でマリオ・ヴェンツァーゴ指揮でブルックナーの交響曲第4番を聴くので、予習も兼ねて、聴くことにしました。
無論、巨匠ベルナルト・ハイティンクが振るブルックナーは過去の映像とは言え、聴き逃がせません。ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールでは、ハイティンク指揮によるブルックナーの交響曲第5番・第7番・第9番も聴くことができます。マーラーの作品と同様に順次、聴いていくことにしましょう。

冒頭、弦のトレモロの中、シュテファン・ドールのホルンのソロが響きます。続いて、その旋律を木管が引き継ぎます。フルートはエマニュエル・パユ、クラリネットはヴェンツェル・フックス、オーボエはアルブレヒト・マイヤーという鉄壁の布陣です。そして、トゥッティでこの第1主題が刻まれ、いきなり、高潮します。その後、いくつもの山や谷を形成しながら、長大な第1楽章は圧巻の展開を見せます。ハイティンクの堂々たるブルックナーが提示されます。
第2楽章は一転して、静謐で美しい音楽が展開されて、うっとりと魅了されます。ハイティンクの表現力の冴えが際立ちます。ベルリン・フィルの弦楽、木管、金管、すべてが最高に機能して、素晴らしい響きです。この楽章も長大ですが、ぐっと惹き付けられるような演奏です。
第3楽章は狩りの音楽を思わせるスケルツォ。シュテファン・ドール率いるホルン奏者たちの重奏が勇壮に響きます。次いで、金管すべてが咆哮します。トリオののんびりした音楽の後、また、ホルン、そして、金管が響き、比較的、短い楽章が終わります。
第4楽章は最も長大な楽章です。ここでもシュテファン・ドールのホルン、そして、木管トライアングルの名手たちの活躍が目立ちます。山も谷もあるブルックナー節が全編を覆い、ベルリン・フィルの強力なアンサンブルをハイティンクが導きながら、フィナーレに向かいます。コーダではトロンボーンの奏でるコラールが高揚し、最後はまた、シュテファン・ドールのホルンが締めくくります。そして、全楽器が怒涛の響きをあげて、圧巻のフィナーレ。ハイティンクの素晴らしいブルックナーでした。

ハイティンクとベルリン・フィルによる2010年以降のブルックナーとマーラーのいくつかの作品が聴けるだけでも、このベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールは価値が大きいと言えます。大半はCDになっていないので、ここでしか聴けません。


この日のプログラムは以下です。

  2014年3月15日、ベルリン・フィルハーモニー

  指揮:ベルナルト・ハイティンク
  管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

  ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調《ロマンティック》
  
  
なお、この日のコンサートでは、その他、以下の曲も演奏されました。(未聴)
  
  モーツァルト:ピアノ協奏曲第9番変ホ長調 K. 271《ジュノム》
  ピアノ:エマニュエル・アックス
  


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       ハイティンク,  

イザベル・ファウストの心に沁みる内省的なベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲 ベルナルト・ハイティンク&ベルリン・フィル@ベルリン・フィルハーモニー(配信) 2015年3月6日

ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールの久々の鑑賞記です。
近く、都響でヴァイオリンのネマニャ・ラドゥロヴィチでベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を聴くので、予習も兼ねて、聴くことにしました。
無論、巨匠ベルナルト・ハイティンク、ドイツを代表するヴァイオリニストのイザベル・ファウストの共演ということに心を惹かれたこともあります。

まず、8年前はハイティンクはこんなに元気だったことに驚きます。すたすたとファウストと連れ立って、ステージに歩いてきます。すっと立って、彼らしい自然な棒さばきでベルリン・フィルを指揮します。当時、86歳という高齢だったとは思えないお元気な姿です。もっとも、この年の秋、ロンドン交響楽団を引き連れて、来日公演したハイティンクもたっぷりと聴いています。さらにはその2年後、わざわざ、ザルツブルクまで遠征して、ザルツブルク音楽祭でのウィーン・フィル公演でマーラーの交響曲第9番を2回も聴きました。88歳の巨匠の告別の音楽を聴いたのがハイティンクとのお別れでした。その2年後、ハイティンクは引退し、さらに2年後、死去。2年前のことです。そういう感傷の念に駆られながら、映像を眺めます。冒頭は自然で抑制気味の演奏です。
そして、当時42歳の気鋭のヴァイオリニストだったファウストが独奏ヴァイオリンを弾き始めます。あまりの自然な表現に虚を突かれる思いです。巨匠ハイティンクが指揮するベルリン・フィルに対して、気負うこともなく、美しいヴァイオリンの響きで切々と音楽を奏でていきます。それは実に内省的な音楽を志向するものです。ベートーヴェンのこの協奏曲でこういう演奏を予期していなかったので、半ば唖然としてしまいます。しかし、よく考えてみれば、この曲はそういう音楽なのかもしれません。ベートーヴェンが晩年に達することになる孤高の境地、辛くさびしい諦念の音楽へ続く道です。そして、それこそが、ドイツ音楽の本流であろうと信じて疑いません。ファウストこそがドイツ本流の音楽の継承者として、こういう内省的な音楽(saraiは女々しい音楽と思っています。無論、いい意味です。)を奏でることのできる音楽家であり、それは、シューマン、ブラームスでも発揮されます。対して、ハイティンクは時折、オーケストラパートで重厚な響きに満ちたヒロイックな音楽を奏でます。ファウストの内的な表現と対比して、音楽の妙を感じます。第1楽章の終盤はカデンツァをファウストが弾き始めます。聴き慣れないカデンツァです。これはベートーヴェン自身によるピアノ協奏曲版のカデンツァをヴァイオリン用に移し替えたもので、クリスティアン・テツラフが編曲したものです。カデンツァの後半ではティンパニとの協奏になるという面白い趣向です。
第2楽章にはいると、ベルリン・フィルも情緒に満ちた表現の音楽を奏で、ファウストのさらなる内的な表現と絡み合っていきます。もう、うっとりとその精神性に満ちた音楽に耳を傾けるのみです。カデンツァの後、ファウストとハイティンクが目を合わせて、呼吸を合わせて、第3楽章のロンドの軽やかな音楽にはいっていきます。さすがにここでは内省よりも軽やかなステップの流れに乗っていきます。最後はまた弱音で内省的な音楽を極めた後、一気に音楽を終えます。
巨匠ハイティンクの古典に根差した安定した音楽表現と気鋭のファウストの個性的でかつ、ドイツ本流を思わせる内省的な音楽表現がマッチした素晴らしいベートーヴェンの協奏曲に深く心の感銘を受けました。

なお、アンコールのクルタークのヴァイオリン独奏曲は現代的な作品ですが、内省的な音楽ということで、今日のベートーヴェンの音楽と共通項を持ったものでした。ファウストがしばしばアンコールで好んで取り上げる作品ですね。


この日のプログラムは以下です。

  2015年3月6日、ベルリン・フィルハーモニー

  指揮:ベルナルト・ハイティンク
  ヴァイオリン:イザベル・ファウスト
  管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

  ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 Op.61
  
  《アンコール》ジェルジ・クルターグ:穏やかに、夢見ながら(シュテファン・ローマスカヌの思い出に)
  
  
なお、この日のコンサートでは、その他、以下の曲も演奏されました。(未聴)
  
  ベートーヴェン:交響曲 第6番 ヘ長調 Op.68《田園》
  


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       ハイティンク,        ファウスト,  

今年のヨーロッパ遠征・・・予習も追い込み、ジョルダンのブラームスの交響曲チクルス ええっ!ハイティンクが引退?

今年のヨーロッパ遠征の準備中です。

今日もオペラ・コンサートの予習です。

ウィーン楽友協会で聴くフィリップ・ジョルダン&ウィーン交響楽団のブラームスの交響曲チクルスの予習です。
チクルス2回とも聴こうとも思いましたが、重なった日程のほかのコンサートを聴くことにしたので、チクルス2回目の交響曲第3番と第4番を聴くことにしました。
で、このチケットは手術直後の病床で配偶者に指示を出しながら、ネットで購入した価値あるチケットです。このチケットを取ろうとして、手術の麻酔もすぐに醒めました(笑い)。もちろん、配偶者は呆れていました。

と言うことで、きっちり、予習をしましょう。とは言え、ブラームスの交響曲はたいていのCDは既に聴いています。ですから、ここはsaraiの敬愛する巨匠ハイティンクの演奏を聴いて、予習とすることにします。ハイティンクは3つのオーケストラと交響曲全集を録音しています。1972年のコンセルトヘボウ管、1994年のボストン交響楽団、2003年のロンドン交響楽団です。どれも名演ですが、特にロンドン交響楽団との全集を好んでいます。今回もそれを聴きましょう。

 ブラームス:交響曲第3番 2004年6月16、17日 ライブ録音

 ブラームス:交響曲第4番 2004年6月16、17日 ライヴ録音

第3番の演奏には意表を突かれました。抑えに抑えた自然体の演奏で、そこからはそこはかとないロマンが香り立ってきます。サガンの《ブラームスはお好き》で有名な第3楽章の美しいロマンには参ります。ハイティンクならではの第3番でした。

一方、第4番は堂々と前面にロマンを表出した素晴らしい演奏。大変、感銘を受けました。

このハイティンクの美しいブラームスを聴いた後、このブログ記事を書いているとき、ハイティンクが指揮活動から引退するというニュースを知りました。迂闊なことに今日まで知りませんでした。その最後の指揮は9月6日のルツェルン音楽祭でのウィーン・フィルとペライアとのコンサート!! そうです。saraiがルツェルンを訪れる前の週のコンサートです。もちろん、このコンサートのことは知っていましたし、チケットもチェックしていました。うーん、予定を前倒しにして、駆け付けるべきでした。9月6日はイスタンブールからウィーンに移動する日です。直接、イスタンブールからルツェルンに行けば、この引退コンサートが聴けましたね。ハイティンクのファンとして、絶対に行くべきでした。悔やまれます。

これまで、ハイティンクの指揮は国内外で聴いてきました。思い出に残る感動の演奏ばかりです。いくつか、挙げておきましょう。

 ブルックナー/交響曲第9番:ハイティンク+ロンドン交響楽団@みなとみらいホール 2013.3.10
 ブルックナー/交響曲第8番:ハイティンク+コンセルトヘボウ管@コンセルトヘボウ 2013.4.5
 人生最高のマーラー、ハイティンク&ペライア&ロンドン交響楽団@サントリーホール 2015.9.28
 巨匠の白鳥の歌はブルックナー、ハイティンク&ペライア&ロンドン交響楽団@ミューザ川崎シンフォニーホール 2015.9.30
 またまた最高のブラームス、ハイティンク&ペライア&ロンドン交響楽団@NHKホール 2015.10.1
 マーラー:交響曲第9番 ハイティンク&ウィーン・フィル 2回目@ザルツブルク祝祭大劇場 2017.7.30

この中で最高のコンサートは2013年にアムステルダムのコンセルトヘボウで聴いたブルックナーの交響曲第8番。このとき、ハイティンクのブルックナーは凄過ぎるという思いに駆られました。もう、2度とこんなブルックナーの交響曲第8番は聴けないでしょう。saraiの人生の到達点とも言っていい特別なコンサートでした。もう死んでも悔いがないとさえ思いました。

思い出に残るのは、わざわざザルツブルク音楽祭まで足を運んで聴いたハイティンク指揮ウィーン・フィルのマーラーの交響曲第9番です。saraiにとって、音楽は人生そのもの。中学生になって、親に買ってもらったステレオでクラシックを聴き始め、40歳になって、夢だったウィーン国立歌劇場でオペラを見て、それから、病みつきになって、ヨーロッパ遠征で音楽を聴き続けてきました。そして、遂にハイティンク指揮ウィーン・フィルで一番愛して止まないマーラーの交響曲第9番を聴き、これでもう思い残すことはないと感じました。このとき、saraiは指揮台のハイティンクに最も近い席で聴かせてもらい、巨匠に別れを告げました。結局、これがハイティンクを聴いた最後のコンサートになりました。2年前です。

ちょっと、本来の予習からは脱線してしまいました。予習はもう1回を残すのみです。



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テーマ : ヨーロッパ
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       ハイティンク,  

マーラー:交響曲第9番 ハイティンク&ウィーン・フィル 2回目@ザルツブルク祝祭大劇場 2017.7.30

終演後、祝祭大劇場を出るまで無言でしたが、配偶者にぽつりと「終わったね」と言いました。万感の思いです。saraiにとって、音楽は人生そのもの。中学生になって、親に買ってもらったステレオでクラシックを聴き始め、40歳になって、夢だったウィーン国立歌劇場でオペラを見て、それから、病みつきになって、ヨーロッパ遠征で音楽を聴き続けてきました。そして、一昨日と今日、ハイティンク指揮ウィーン・フィルで一番愛して止まないマーラーの交響曲第9番を聴き、これでもう思い残すことはありません。一応、まわりにはバイロイトで指輪、パルジファル、トリスタンを聴きたいものだとは言っていますが、それは付録のようなもの。マーラーの交響曲第9番は告別の音楽です。己の死期を悟ったマーラーが愛する大地、それは人生と言い換えてもいいでしょうが、それらへの告別、さらに妻アルマへの断ち難い愛への告別を持てる力のすべてを注ぎ込んで完成させた未曽有の音楽と言えるでしょう。マーラーの主観的な音楽ですが、いずれ己の人生と告別すべき運命にあるすべての人々が思いを共有できる音楽でもあります。saraiの音楽と人生の集大成にこれほどふさわしい曲もありません。そして、最も愛するオーケストラ、ウィーン・フィルでそれを聴くのは必然です。また、マーラーとブルックナーなどで現在、もっとも敬愛している巨匠ハイティンクでこれが聴けたのは僥倖とも思えます。高齢のハイティンクとはこれが告別になるかもしれません。今日は指揮台のハイティンクに最も近い席で聴かせてもらいました。指揮を終えた巨匠はすっかり憔悴していましたが、うっすらと涙を見せていたように感じたのはsaraiの感傷でしょうか。立ち上がって拍手をしながら、これまでの名演に感謝をしながら、告別の念を送り続けました。

今日の演奏は一昨日よりも第1楽章からウィーン・フィルのアンサンブルも揃っており、巨匠も高齢とは思えない力強い身振りでの指揮で、オーケストラもその指揮にぴったりと応えていました。実に丁寧に細部を整えた安定した演奏で、高潮すべきパートの迫力は凄まじいものです。しかし、pの繊細で柔らかい表現、響きが一番、印象的でした。第1楽章の充実ぶり、第2楽章の郷愁、第3楽章の前進力の後、まさに最後の告別の音楽、第4楽章。愛する大地への告別、しかし、生への哀惜の念も耐え難く、波のうねりのように行きつ戻りつしながら、終局に向かっていきます。木管の美しい響きの演奏の後、最後の頂点を極め、独奏チェロが愛の動機を演奏すると、長いpのパートに入っていきます。ウィーン・フィルの合奏力が最高に発揮されます。巨匠の姿を見ることはsaraiにはもうできません。目を閉じて、静かに告別の音楽を聴き続けます。最後に目を開けて、巨匠がゆっくりと棒をおろしていく様を眺めます。これでお別れですね。長い間、ありがとうございました。

今日のプログラムは以下です。

 指揮:ベルナルト・ハイティンク
 管弦楽:ウィーン・フィル

 マーラー:交響曲第9番


この日に向けて、予習もたくさんしました。ハイティンクのCDで聴いていないのは海賊版も含めて、クリーヴランド管弦楽団との演奏くらいでしょう。以下が予習したハイティンクのCDです。

1969.6 コンセルトヘボウ管 (全集)
   素晴らしい名演です。バルビローリ&BPOとも並び立つような演奏です。演奏、録音ともに素晴らしい響きで高弦のピアノの素晴らしさに魅了されます。第4楽章には大変な感動を覚えました。まるでライヴ演奏を聴いているような錯覚すら覚えます。涙なしには聴き通せません。

  1987.12 コンセルトヘボウ管 (クリスマス・マチネー)CD
   こういう演奏が聴きたくて、ずっと音楽を聴いてきました。第4楽章の終盤、チェロの独奏が入った後の薄明の世界ではもう我を忘れて聴き入るのみです。それにしても、演奏が終わると同時に拍手をする人たちはこの曲の何を聴いているんでしょう。できうれば、拍手なしでそっと席を立ちたいくらいの気分なのに・・・。その場で生の演奏を聴いているような素晴らしい録音でもありました。

1987.12 コンセルトヘボウ管 (クリスマス・マチネー)映像
   第3楽章まではCDの音質のよさに比べて、映像版の音質の不鮮明さに白けます。しかし、第4楽章は圧巻です。冒頭から素晴らしい演奏(もちろん、CDと同じ音源です)です。それがハイティンクの棒のもと、次第にヒートアップして、有機的にオーケストラが一体化していきます(変な表現ですが、そう感じるんです)。高みに上りつめて、一瞬のパウゼ・・・その後の空前絶後の素晴らしい演奏は奇跡とも思えます。管楽器のソロのリレーのレベルの高さ、高弦の美しさに魅了されます。そして、あのチェロの独奏後はCD以上の感動的な演奏です。最後に音が途切れるとき、高く上げたハイティンクの手から、指揮棒が落ちます。同時に拍手。早過ぎると思った拍手の真相はこういうことだったんですね。いやはや、大変、感動しました。

1993.3 ECユース管
   コンセルトヘボウ管を上回るようような素晴らしい演奏。とりわけ、第4楽章の後半の超絶的な美しさには感動するのみです。ところで、第2楽章の恐ろしいほど、ゆったりとした開始は何だったんでしょう。
 
  2004.4.25 ウィーン・フィル  
   第1楽章は、おいおい、どうしたんだって感じで速過ぎて、粗っぽくて、これがウィーン・フィルかって思いますが、後半には持ち直し、第2楽章、第3楽章の切れの良い演奏に満足します。そして、終わってみれば、第4楽章の分厚い弦の響きにうっとりして、感動の演奏でした。13年前の演奏ですが、この第2楽章以降の演奏を今度のザルツブルクで聴かせてくれれば、saraiは感動の涙にくれるでしょう。何と言っても、この曲はライヴで聴くのが一番ですからね。

  2009.7.20 ロンドン交響楽団 (Proms Live)
   何という演奏でしょう。まさにハイティンクの集大成とも思える最高の演奏。ロンドン交響楽団はハイティンクの指揮と完全に一体化します。全楽章、文句のつけようのない演奏です。人生の最期に聴くのにふさわしい演奏です。これ以上の演奏があるとは思えません。録音も臨場感のある素晴らしい音です。
      
2011.5.15 コンセルトヘボウ管 CD-R
   コンセルトヘボウ管のBDのマーラー全集にも収録されている演奏です。映像版は見ていません。CD版のみを聴きました。とても素晴らしい演奏です。生きとし生きるものを優しく慰撫するかのように美しく演奏されます。第1楽章は官能をそっと撫でてくれるような究極美の世界。第3楽章は色彩感あふれるコンセルトヘボウ管弦楽団の見事な演奏。そして、第4楽章の後半は永遠の世界を思わせる究極の音楽。これがハイティンクとコンセルトヘボウの最後のマーラーの第9番になるのでしょうか。

2011.12 バイエルン放送交響楽団
   第1楽章はしみじみとした素晴らしい演奏。しかし、第2楽章以降はバイエルン放送交響楽団の響きがいかにも硬くて、のりきれません。結局、終楽章のフィナーレの薄明の世界の美しさだけは何とか感じられるという感じ。折角のハイティンクの指揮なのに残念です。体調不良のヤンソンスの代役だったので、準備が間に合わなかったのでしょうか。2016年の来日演奏でもヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団は今一つの演奏だったので、オーケストラに問題があるのかもしれません。 

ハイティンク以外に聴いたCDは以下です。ウィーン・フィルは全部聴こうと思いましたが叶いませんでした。

  ワルター指揮ウィーン・フィル
  バーンスタイン指揮ウィーン・フィル DVD
  バーンスタイン指揮コンセルトヘボウ管弦楽団
  バーンスタイン指揮ベルリン・フィル

バーンスタインもニューヨーク・フィルとイスラエル・フィルも聴こうと思いましたが叶いませんでした。ワルターは初演者でもあり、別格の演奏です。バーンスタインはやはり、コンセルトヘボウ管弦楽団との演奏が一番でしょうか。

本は以下を読みました。
  吉田秀和:マーラー
  金子建志:マーラーの交響曲 (こだわり派のための名曲徹底分析)

いずれも大変、参考になりました。
大型スコアも買いましたが、スコアを見ながらだと、楽譜を追っかけるのが大変で耳がお留守になるのでやめました。



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       ハイティンク,        ウィーン・フィル,
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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

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金婚式、おめでとうございます!!!
大学入学直後からの長いお付き合い、素晴らしい伴侶に巡り逢われて、幸せな人生ですね!
京都には年に2回もお越しでも、青春を過ごし

10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

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クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
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07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

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