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明日への元気と勇気を与えてくれた至高のベートーヴェンは、美を極めたカヴァティーナ、芸術の最高峰を成す大フーガ ハーゲン・クァルテットの第3夜@トッパンホール 2023.11.2

今年のハーゲン・クァルテットの〈ハーゲン プロジェクト 2023〉、3夜連続のハーゲン・クァルテットのコンサート・シリーズの第3夜です。期待通り、いや、それ以上の極上の演奏を聴かせてくれました。第1夜、第2夜とどんどん演奏の質が上がり、今夜は弦楽四重奏のこれ以上はないというアンサンブルの極み、音楽の最高のアプローチに達しました。1音、1音、頭に刻み付けるようにsaraiもこの3日間で最高の集中力を持って、彼らの演奏に対峙しました。ハーゲン・クァルテットの演奏を一言で表現するとしたら、“精妙”という言葉が頭に浮かびます。この“精妙”がどこから来るのかと言えば、無論、家族で結成したクァルテットの長年に渡る鍛錬と努力でしょうが、その結果として、第1ヴァイオリンのルーカス・ハーゲンの美しい弦の響きを基本に、驚くほど、他のメンバーの弦の響きの同質性が感じられます。目をつぶって聴いていると、ヴィオラのヴェロニカの響きがルーカスの響きと区別がつかないほどです。弦のこすりかたやヴィブラートのかけかたがまったく同じに思えます。これが最高のアンサンブルを産んでいると今夜、実感しました。

今日のモーツァルトは弦楽四重奏曲第21番 ニ長調 K575《プロシア王第1番》。今回はハイドンセットの2曲を演奏してくれました。それも見事な演奏でした。実はこのトッパンホールで以前、モーツァルト・チクルスで彼らはハイドンセット以降の10曲を披露してくれました。その折、都合でハイドンセットの最初の3曲だけは聴き逃がしていましたが、今回、そのうちの2曲を演奏してくれて、saraiにはまたとないプレゼントになりました。今夜の第21番はプロシア王セット3曲の1曲目。これは既にモーツァルト・チクルスで聴いた曲ですが、今夜の演奏はまさに“精妙”の極み。モーツァルトの室内楽の最高の演奏を聴かせてもらいました。モーツァルトの音楽を愉悦する特別のものがそこにあったとしか表現できません。あまりに集中して聴いていたので、もう、どこがどうだったというよりもすべてが心に響いたとしか言えません。音楽って、そんなものでしょう?

ラヴェル、ドビュッシーというフランスものに続き、今夜は何とウェーベルンの弦楽四重奏のための緩徐楽章です。この曲を選択した意図はこの後に演奏するベートーヴェンの弦楽四重奏曲第13番の第5楽章、カヴァティーナを睨んでのことでしょう。今夜聴いて思ったのは、ウェーベルンもカヴァティーナに触発されて、若き日にこのメロー過ぎるとも思える作品を作曲したのではないかということです。マーラーの交響曲の緩徐楽章もきっとベートーヴェンのカヴァティーナに思いを凝らして作曲したのではないかと思います。そんなことをつらつら考えながら、ハーゲン・クァルテットの見事な演奏に魅了されました。エマーソン・カルテットと優劣付けがたい素晴らしい演奏でした。

ここで休憩。

最後はベートーヴェンの弦楽四重奏曲第13番 変ロ長調 Op.130+大フーガ 変ロ長調 Op.13。西洋音楽の最高峰とも言えるベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲の中でも、この第13番と第14番、第15番は特別な作品です。saraiは昔、第15番を一番好んで聴いていました。ブダペスト弦楽四重奏団の名演があったからです。その後、ブッシュ四重奏団の第14番を聴いてからは、第14番が一番の好みになりました。そして、ハーゲン・クァルテットの大フーガ付きの第13番を聴いてからは、第13番が一番の好みです。無論、終楽章が大フーガでない演奏では、第14番に好みを譲ります。ハーゲン・クァルテットもベートーヴェンの後期四重奏曲では、この大フーガ付きの第13番に最高の席を与えているようです。以前、このトッパンホールでベートーヴェン全曲チクルスの演奏を行ったときもラストに演奏したのは第14番ではなく、この大フーガ付きの第13番でした。それは衝撃の演奏でした。今回の第3夜のラストをこの曲で〆るのは、彼らの並々ならぬ思いがあるのでしょう。実際、凄い演奏でした。まず、第1楽章の凄さ。普通は内省的なパートと決意に満ちたパートが交錯するという演奏でしょうが、そんな単純な演奏ではありません。内省的な演奏に連続して、思いのたけを吐露するような決意を表現しながら、しまいには、どちらも融合していくという素晴らしい演奏です。この演奏にまず、驚嘆しました。そして、短い第2楽章もチャーミング極まります。第3楽章は実に幽玄な演奏で魅惑されます。第4楽章はまたまたチャーミング。ここまでの演奏は完璧で最高。言葉もないほどです。この楽章が終わったところで、ルーカスが深呼吸。そして、メンバーも調弦しながら、一息つきます。そして、遂に第5楽章のカヴァティーナ。その優しく、悲しい旋律に心を打たれ、息もできないほどです。この素晴らしいカヴァティーナの後には、いつものフィナーレではなく、大フーガ。そう、それしかないでしょう。このカヴァティーナの後をあっさりとしたフィナーレで閉じてはいけません。ベートーヴェンが最初に意図した通りの大フーガこそ、ふさわしい音楽です。強烈な嵐が襲ってきます。当時としては革命的であったであろう不協和音の激しい嵐です。不協和音が収まっても、嵐が静まることはありません。凄絶な精神の叫びが響き渡ります。もう、これは音楽という枠で捉えられない人間の原初的な精神の昇華です。厳密なソナタ形式を確立したベートーヴェン自身が、芸術の根本に立ち返って、音楽の規則や形式から自由を獲得して、自らの内面をさらけだしたものです。それをハーゲン・カルテットが芸術の使徒として、我々、聴衆に提示してくれます。この精神の嵐に対して、saraiはもう無防備に立ち尽くすだけ。それ以上、何ができるでしょう。ベートーヴェンの魂がハーゲン・カルテットの魂を通して、saraiの魂に流れ込んできます。魂の一体化、芸術の神髄ですね。ハーゲン・クァルテットの超絶的な演奏に圧倒されつつも根源的な意味で共感しました。

無論、アンコールはなし。出来る筈もありません。何を弾いても野暮になります。

素晴らしい一夜になりました。明日への元気と勇気をもらって、杖を突きつつも足取りが軽くなって、秋の夜の中、帰途につきました。音楽のチカラはかくもありしかという思いです。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

 〈ハーゲン プロジェクト 2023〉ハーゲン・クァルテット 第3夜

ハーゲン・クァルテット Hagen Quartett
    ルーカス・ハーゲン Lukas Hagen (ヴァイオリン)
    ライナー・シュミット Rainer Schmidt (ヴァイオリン)
    ヴェロニカ・ハーゲンVeronika Hagen (ヴィオラ)
    クレメンス・ハーゲン Clemens Hagen (チェロ)

  モーツァルト:弦楽四重奏曲第21番 ニ長調 K575《プロシア王第1番》
  ウェーベルン:弦楽四重奏のための緩徐楽章

   《休憩》

  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番 変ロ長調 Op.130+大フーガ 変ロ長調 Op.133

   《アンコール》なし


最後に予習したCDですが、もちろん、ハーゲン・クァルテットのCDを軸に聴きました。


 モーツァルト:弦楽四重奏曲第21番 ニ長調 K575《プロシア王第1番》
  ハーゲン・カルテット 1989~2004年 セッション録音

 ウェーベルン:弦楽四重奏のための緩徐楽章
  エマーソン・カルテット 1992年10月  ニューヨーク州立大学パーチェス校、パフォーミングアーツセンター セッション録音

 ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番 変ロ長調 Op.130+大フーガ 変ロ長調 Op.133
  ハーゲン・カルテット 2001年12月 モンドゼー、オーストリア セッション録音

ハーゲンのモーツァルトは実に端正なスタイルの演奏です。この全集は少し録音が古くなったのが残念です。再録音が望まれます。
ウェーベルンのこの作品はハーゲン・カルテットの録音が見当たりません。で、こういうロマンティックな曲を演奏させると、エマーソン・カルテットの美しい響きと最高のテクニックが光ります。手元に置いておきたい一枚です。
ベートーヴェンはハーゲン・クァルテットの最高の演奏。無論、終楽章には大フーガを置いています。



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モーツァルトもドビュッシーもベートーヴェンも繊細で抑制された極上の音楽を聴かせてくれたハーゲン・クァルテット@トッパンホール 2023.11.1

今年のハーゲン・クァルテットの〈ハーゲン プロジェクト 2023〉、3夜連続のハーゲン・クァルテットのコンサート・シリーズの第2夜です。昨夜の演奏からは明らかにレベルの高い上質の音楽を聴かせてくれました。体調も精神状態も万全に整ったのでしょうか。やはり、海外の演奏家は来日後、次第に演奏レベルが上がるという一般的な傾向があります。時差の関係もあるのかもしれません。そうすると、最終日の明日の演奏はさらに期待できそうですね。

今日のモーツァルトは弦楽四重奏曲第15番 ニ短調 K421。ハイドンセットの第2曲で、希少な短調の作品です。何故にモーツァルトの短調の作品はこうも名曲が多いのでしょう。この作品も哀愁に満ちたもので、実に天才モーツァルトが丁寧に心を込めて作曲したことが分かる傑作です。ハーゲン・クァルテットの響きを抑えた繊細極まる演奏も最高です。基本、響きを抑えつつ、その中で起伏のある音楽を作り上げています。第1楽章の素晴らしさに続き、第2楽章の美しさは寂漠としたものがあります。

昨日のラヴェルに続き、今日はドビュッシー。その響きの豊穣なることは昨日のラヴェルの比ではありません。モーツァルトの抑えた響きをこのドビュッシーでは全開放しつつ、その響きの隙のなさは完璧です。常に4つの楽器が重なり合って作り出す響きの新しさはドビュッシーもまた天才作曲家であったことの証しでしょう。4つの楽章はそれぞれ個性を発揮しますが、循環形式によって統一感が感じられます。ハーゲン・クァルテットの演奏はドイツ・オーストリア系の音楽とは一線を画していますが、素晴らしいアンサンブルの妙を感じさせてくれます。

ここで休憩。

最後はベートーヴェンの弦楽四重奏曲第8番 ホ短調 Op.59-2《ラズモフスキー第2番》。ラズモフスキー3曲の中で唯一、短調で、少し、規模が小さいのですが、その凝縮度によって、ちっとも短さを感じさせない作品で、内省的な深さを感じさせます。ハーゲン・クァルテットは集中度の高い気魄、そして、ここでも抑制した美を発揮します。この作品の素晴らしさを十全に表現した稀有な演奏でした。圧巻の第1楽章に続き、第2楽章のモルト・アダージョの深く沈潜した内省的な表現はもう、中期の作品の枠を超えるような演奏です。芸術の何たるかを我々に語りかけてきます。ハーゲン・クァルテットは熟成の時を迎えました。第3楽章のリズム感のあるスケルツォを経て、第4楽章は推進力を持って熱いコーダで全曲を〆ます。圧倒的な演奏でした。
明日のベートーヴェンの大フーガ付きの第13番 Op.130/Op.133がますます楽しみになってきました。
まさにホップ・ステップ・ジャンプの3夜になりそうです。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

 〈ハーゲン プロジェクト 2023〉ハーゲン・クァルテット 第2夜

ハーゲン・クァルテット Hagen Quartett
    ルーカス・ハーゲン Lukas Hagen (ヴァイオリン)
    ライナー・シュミット Rainer Schmidt (ヴァイオリン)
    ヴェロニカ・ハーゲンVeronika Hagen (ヴィオラ)
    クレメンス・ハーゲン Clemens Hagen (チェロ)

  モーツァルト:弦楽四重奏曲第15番 ニ短調 K421(417b)
  ドビュッシー:弦楽四重奏曲 ト短調 Op.10

   《休憩》

  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第8番 ホ短調 Op.59-2《ラズモフスキー第2番》

   《アンコール》

  モーツァルト:弦楽四重奏曲第14番 ト長調 K387より 第3楽章


最後に予習したCDですが、もちろん、ハーゲン・クァルテットのCDを軸に聴きました。


 モーツァルト:弦楽四重奏曲第15番 ニ短調 K421
  ハーゲン・カルテット 1989~2004年 セッション録音

 ドビュッシー:弦楽四重奏曲 ト短調
  ハーゲン・カルテット 1992年11月 ミュンヘン、マックス・ヨーゼフザール セッション録音

 ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第8番 ホ短調 Op.59-2《ラズモフスキー第2番》
  ハーゲン・カルテット 2010年5月&7月 ベルリン、ジーメンス・ヴィラ セッション録音 ハーゲン・カルテット結成30周年記念

ハーゲンのモーツァルトは実に端正なスタイルの演奏です。短調の作品の色彩が浮き彫りになっています。
一方、ドビュッシーは実に深い響きでエスプリに満ちた演奏。会心の演奏です。
ベートーヴェンはそれまでのハーゲン・クァルテットになかった熟成した深い音楽が聴こえてきます。



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わーい!ハーゲン・クァルテット祭りの開幕だ・・・ベートーヴェン、モーツァルトもいいが、ラヴェルの豊饒さは圧巻@トッパンホール 2023.10.31

今年のハーゲン・クァルテットの〈ハーゲン プロジェクト 2023〉と銘打った3夜連続のコンサート・シリーズはベートーヴェンとモーツァルトの作品を軸にラヴェルとドビュッシーをプラスしたものです。何と言っても、彼らのベートーヴェンが注目されます。第3夜では、大フーガ付きの第13番 Op.130/Op.133が演奏され、今回の3回のコンサートはそれに向かって、上り詰めていくという配列になっていると感じます。そういう意味では、今夜はホップ・ステップ・ジャンプのホップの腕ならし、耳ならしのコンサートです。気楽に聴きましょう。4年ぶりのハーゲン・クァルテット祭りの開幕です。

最初のベートーヴェンの弦楽四重奏曲第11番《セリオーソ》は第1楽章は気魄と哀愁が交錯するような彼ら独特の表現。しっかりと堪能しました。第2楽章はクレメンスの印象的なチェロの演奏、そして、ヴェロニカのヴィオラから開始されるフーガに魅了されました。第3楽章は勢いのある演奏が圧倒的で、トリオは実に静謐。第4楽章は序奏の後、勢いのある情熱的なフレーズに魅了されました。最後は明るく〆。今回の3回のコンサートはこのベートーヴェンで開始し、明後日の第3夜はベートーヴェンの弦楽四重奏曲第13番で閉じるという構成になっています。それにふさわしい開幕演奏でした。

次はモーツァルトの弦楽四重奏曲第14番。ハイドン・セットの最初の曲です。作曲したモーツァルトの意気込みとハーゲン・クァルテットの気合いが実にマッチしていました。とりわけ、第4楽章の素晴らしさに感銘を受けました。やはり、弦楽四重奏曲に対位法はマッチしますね。ベートーヴェンも見事ですが、モーツァルトも素晴らしい音楽を書いています。

ここで休憩。

最後はラヴェルの弦楽四重奏曲。今日一番の演奏でした。一見、ハーゲン・クァルテットには似合いそうもないと思われますが、さすが、見事に弾きこなします。まず、響きの美しさに魅了されます。そして、緻密な音楽表現に引き込まれます。第1楽章のエスプリに満ちたフランス伝統の音楽表現。そして、第2楽章はピッツィカートの勢いに満ちた弾けるような音楽に魅了されます。ここまで、ハーゲン・クァルテットの素晴らしい演奏が光ります。極め付きは第3楽章の抑えに抑えた内省的な音楽の深みです。これこそ、音楽の醍醐味です。何と言う演奏、何と言う音楽。最後の第4楽章は一転して、激しい音楽。圧倒的な演奏でした。明日のドビュッシーも楽しみです。

これから、明日、明後日とハーゲン・クァルテットを堪能します。4年前のバルトークの素晴らしさを思い出しています。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

 〈ハーゲン プロジェクト 2023〉ハーゲン・クァルテット 第1夜

ハーゲン・クァルテット Hagen Quartett
    ルーカス・ハーゲン Lukas Hagen (ヴァイオリン)
    ライナー・シュミット Rainer Schmidt (ヴァイオリン)
    ヴェロニカ・ハーゲンVeronika Hagen (ヴィオラ)
    クレメンス・ハーゲン Clemens Hagen (チェロ)

  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第11番 ヘ短調 Op.95《セリオーソ》
  モーツァルト:弦楽四重奏曲第14番 ト長調 K387

   《休憩》

  ラヴェル:弦楽四重奏曲 ヘ長調

   《アンコール》

  モーツァルト:弦楽四重奏曲第21番 ニ長調 K575《プロシア王第1番》より 第4楽章


最後に予習したCDですが、もちろん、ハーゲン・クァルテットのCDを軸に聴きました。


 ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第11番 ヘ短調 Op.95《セリオーソ》
  ハーゲン・カルテット 1996~1998年 セッション録音

 モーツァルト:弦楽四重奏曲第14番 ト長調 K387
  ハーゲン・カルテット 1989~2004年 セッション録音

 ラヴェル:弦楽四重奏曲 ヘ長調
  ハーゲン・カルテット 1993年1月 スイス、ラッパースヴィル、リッターザール セッション録音

ハーゲンのベートーヴェン、モーツァルトは結構、癖のある独特のスタイルの演奏です。かなりの思い入れのある突っ込んだ演奏です。モダンと言えば、モダン。過去の伝統を振り切ったかのごとくです。
一方、ラヴェルは意外なほど、端正な演奏。フランスものは変な縛りがないのでしょう。



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こんなバルトークを聴くのは痛々しくて辛い:ハーゲン・クァルテット@トッパンホール 2019.10.3

今年のハーゲン・クァルテットの〈ハーゲン プロジェクト 2019〉、3夜連続のハイドンとバルトークのコンサート・シリーズの第3夜、最終回です。

今日のバルトークは第6番。ナチスの圧力でヨーロッパを去ることになるバルトークがヨーロッパで最後に完成させた作品です。バルトークにしては少しメローな作品。ハーゲン・クァルテットならば、第4番か第5番を選ぶと思っていました。しかし、ハーゲン・クァルテットの演奏は決して、そういう女々しい表現に陥ることはありません。あくまでも綺羅星のように並ぶ、バルトークの6曲の弦楽四重奏曲の1曲として、真摯に向かい合った演奏です。第1楽章冒頭のヴェロニカ・ハーゲンのヴィオラソロのメストはまなじりをきっとあげた演奏。かっこいいね。第1楽章はもっと強く突っ込んだ演奏がほしかったところですが、バルトークらしい複雑な線で織りなす音楽の妙を味わえます。第2楽章はクレメンス・ハーゲンの素晴らしいチェロソロでメストが演奏された後、付点音符の行進曲風のメロディが諧謔的に演奏されますが、これは素晴らしい。さらにトリオでの奇妙なパートも、ヴェロニカのギター風のピチカートを織り交ぜた演奏が見事。こういう演奏は耳だけでなく、目でも楽しめます。第3楽章の精度の高い演奏を経て、第4楽章はリトリネロ主題のメストが全面に浮き立つ哀歌です。ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲はベートーヴェン個人の諦念に満ちたものですが、バルトークの場合、個人的な思いは時代を象徴するような音楽表現に昇華します。《絃と打とチェレスタの音楽》では限界状況を浮き彫りにするような恐ろしい音楽になりましたが、この弦楽四重奏曲では、時代を弔うようなペーソスと、さらに言うならヨーロッパ文明への絶望感に満ちた音楽になります。そんなネガティブ感に満ちた音楽をハーゲン・クァルテットは精妙なアンサンブルでパーフェクトに歌い上げます。saraiはこんなバルトークは嫌いです。バルトークはアグレッシブで先鋭的であってほしい。こんなバルトークにした時代を憎みます。同様にシュテファン・ツヴァイクを自殺に追いやったのもこの同じ時代。そんな時代が再来する予感がする今の時代にも大いなる危惧を抱いています。
最後は音楽以外の何かわけのわからないことを思いながら、ハーゲン・クァルテットの演奏に耳を傾けていました。やはり、今回のツィクルスのシメは第5番あたりがよかったとも思いました。何故なら、色んな意味で未来への展望がなくなるからです。

一方、最初と最後に演奏されたハイドンの《エルデーディ四重奏曲》は今日も典雅で美しい演奏です。ハイドンの時代には悩みはなかったのか、それとも古典主義の音楽は、そういうネガティブな概念を音楽に持ち込まなかったのか、変なことに頭を捻ってしまいます。これも今日のバルトークの第6番という選曲が悪かったからではないでしょうか。
それにしても最初に演奏された弦楽四重奏曲第79番《ラルゴ》の完成度の高い演奏には圧倒されました。美し過ぎて、天国に連れていかれた思いです。それに名曲ですね。ピログラムノートにもありましたが、過小評価されて、それほど演奏機会がないのが残念です。いずれ再評価されて、ハイドンのブームがやってくるのかな・・・。

ハーゲン・クァルテットは見栄えも成熟して、音楽もいい意味で成熟して、これからがますます楽しみです。来日するのはまた、2年後でしょうか。バルトークの残りの3曲を演奏することをで忘れないでくださいね。 → 関係者各位

今日のプログラムは以下のとおりでした。

 〈ハーゲン プロジェクト 2019〉ハイドン&バルトーク ツィクルス Ⅲ

ハーゲン・クァルテット Hagen Quartett
    ルーカス・ハーゲン Lukas Hagen (ヴァイオリン)
    ライナー・シュミット Rainer Schmidt (ヴァイオリン)
    ヴェロニカ・ハーゲンVeronika Hagen (ヴィオラ)
    クレメンス・ハーゲン Clemens Hagen (チェロ)

  ハイドン:弦楽四重奏曲第79番 ニ長調 Op.76-5 Hob.III-79《ラルゴ》
  バルトーク:弦楽四重奏曲第6番 Sz114

   《休憩》

  ハイドン:弦楽四重奏曲第80番 変ホ長調 Op.76-6 Hob.III-80

   《アンコール》

  シューベルト:弦楽四重奏曲第13番 イ短調 D804《ロザムンデ》より 第3楽章 メヌエット


最後に予習したCDです。

=======ここは昨日と同じ===============
 バルトーク:弦楽四重奏曲(第3番、第6番)
  ハーゲン・カルテット 1995~1998年録音

 ハイドン:弦楽四重奏曲 エルデーディ四重奏曲 Op.76
  ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団 1950年-1954年 ウィーン、コンツェルハウス、モーツァルトザール セッション録音

ハーゲンのバルトークは文句なしですが、もっと弾けるような気もします。昔実演で聴いたバルトークはもっと個性豊かで迫力がありました。第6番は素晴らしい演奏でした。この録音から20年を経た今、彼らはどんなバルトークを聴かせてくれるのでしょう。

ハイドンは意外によい録音がありません。結局、古いウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の落ち着きます。彼らの力強い演奏に驚かされます。昔日のウィーンの郷愁を呼ぶという演奏ではありませんが、ハイドンの高い音楽性を表現してくれます。モーツァルトでも素晴らしい演奏を聴かせてくれたハーゲン・カルテットはハイドンでも精度の高い演奏を聴かせてくれると信じています。

=======ここまでは昨日と同じ===============

バルトークの弦楽四重奏曲第6番は追加予習をしました。

 手持ちのLPで予習しました。予習したのは以下のLP2枚です。

 LP:ハンガリー四重奏団(1961年)、ジュリアード四重奏団(2回目録音、1963年)

LPコレクションはsaraiの宝物。すべて名演で素晴らしい演奏です。ちなみにsaraiがこの曲を最初に聴いたのはハンガリー四重奏団でした。人間の記憶はあてにならないもので、ハンガリー四重奏団の演奏はもっとしっとりとしたものだと思っていました。しかし、その力強い表現に驚かされました。この曲は今回のハーゲン・クァルテットの演奏もそうですが、多様な音楽を内包していて、色んな表現が可能だということを痛感しました。一方、ジュリアード四重奏団は、これは超名演です。この時代のジュリアード四重奏団のバルトーク演奏は全6曲、バイブルみたいなものであることを今更ながら、強く感じました。このジュリアード四重奏団の2回目の録音が旧約聖書、エマーソン・カルテットの録音が新約聖書でしょうか。そして、成熟したハーゲン・クァルテットが再度、録音すれば、その2強に割ってはいれるのではないかとひそかに思っています。



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幽玄なバルトークの世界:ハーゲン・クァルテット@トッパンホール 2019.10.2

今年のハーゲン・クァルテットの〈ハーゲン プロジェクト 2019〉と銘打った3夜連続のコンサート・シリーズはハイドンとバルトークの作品を並べたものです。何と言っても、彼らのバルトークが注目されます。第1夜のコンサートはアンジェラ・ヒューイットのコンサートと重なり、聴けずに残念でした。個人的な体験ですが、初めて、ハーゲン・クァルテットの実演に接したときに聴いたのがバルトーク。そのときの個性的なアタックの強い演奏に衝撃を受けたことを今でも覚えています。それ以来、彼らのバルトークを再度聴きたくて、この日まで待っていました。

そして、今日のバルトーク。第3番といえば、最も先鋭的な作品。冒頭の響きは宇宙の深淵を感じさせるミステリアスな響き。素晴らしいアンサンブルです。ルーカスの美しい響き、それに呼応するライナー・シュミット、ヴェロニカ。そして、クレメンスが深々とした響きでスケールの大きな音楽に盛り上げていきます。得も言われぬアンサンブルの妙です。第2部に入ると、音楽が高潮し、熱く燃えがります。以前聴いたハーゲン・クァルテットのバルトークの響きと違い、ある意味、オーソドックスな演奏ですが、実にバルトークの本質に切り込んだ最高の音楽です。この頃のバルトークは恐れるものもなく、己の音楽に一番、没頭している感もあります。彼の6曲の弦楽四重奏曲の中でも1,2を争う傑作に思えます。こういうアグレッシブな作品がバルトークに似合っています。すっかり、ハーゲン・クァルテットのバルトークを堪能しました。

一方、最初と最後に演奏されたハイドンの《エルデーディ四重奏曲》はこれぞ古典という美しい演奏です。アンサンブルの極みとも思える演奏に何のコメントも必要ありません。ただ、ゆったりとその美しさに体を委ねるのみです。4本の弦が順に重なり合う様はポリフォニー音楽の原点を見る思いです。古典主義音楽はそのシンプルさにこそ、すべてがあるという感を抱きます。こういう音楽は一分の隙もない音楽表現を要求されますが、今のハーゲン・クァルテットのアンサンブルは盤石と言えるでしょう。両作品とも楽章構成はほぼ同じですが、終楽章の盛り上がりは聴きものでした。また、《皇帝》の有名な第2楽章の変奏曲は各楽器が主題を引き継ぎながらの変奏ですが、ハーゲン・クァルテットの優しくて、ピュアーな響きの演奏は弦楽四重奏の理想形とも思える最高の演奏でした。

今日のプログラムは以下のとおりでした。

 〈ハーゲン プロジェクト 2019〉ハイドン&バルトーク ツィクルス Ⅱ

ハーゲン・クァルテット Hagen Quartett
    ルーカス・ハーゲン Lukas Hagen (ヴァイオリン)
    ライナー・シュミット Rainer Schmidt (ヴァイオリン)
    ヴェロニカ・ハーゲンVeronika Hagen (ヴィオラ)
    クレメンス・ハーゲン Clemens Hagen (チェロ)

  ハイドン:弦楽四重奏曲第77番 ハ長調 Op.76-3 Hob.III-77《皇帝》
  バルトーク:弦楽四重奏曲第3番 Sz85

   《休憩》

  ハイドン:弦楽四重奏曲第78番 変ロ長調 Op.76-4 Hob.III-78《日の出》

   《アンコール》

  ハイドン:弦楽四重奏曲第80番 変ホ長調 Op.76-6 Hob.III-80より 第4楽章


最後に予習したCDですが、もちろん、ハーゲン・クァルテットのCDを軸に聴きました。


 バルトーク:弦楽四重奏曲(第3番、第6番)
  ハーゲン・カルテット 1995~1998年録音

 ハイドン:弦楽四重奏曲 エルデーディ四重奏曲 Op.76
  ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団 1950年-1954年 ウィーン、コンツェルハウス、モーツァルトザール セッション録音

ハーゲンのバルトークは文句なしですが、もっと弾けるような気もします。昔実演で聴いたバルトークはもっと個性豊かで迫力がありました。第6番は素晴らしい演奏でした。この録音から20年を経た今、彼らはどんなバルトークを聴かせてくれるのでしょう。

ハイドンは意外によい録音がありません。結局、古いウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の落ち着きます。彼らの力強い演奏に驚かされます。昔日のウィーンの郷愁を呼ぶという演奏ではありませんが、ハイドンの高い音楽性を表現してくれます。モーツァルトでも素晴らしい演奏を聴かせてくれたハーゲン・カルテットはハイドンでも精度の高い演奏を聴かせてくれると信じています。

さらに以前、バルトークの弦楽四重奏曲第3番の予習をしたときの記事を参考に引用しておきます。

 手持ちのLP、CDを総ざらいして、予習しました。予習したのは以下のLP3枚、CD6枚です。

 LP:ハンガリー四重奏団(1961年)、ジュリアード四重奏団(2回目録音、1963年)、バルトーク四重奏団(1966年)
 CD:ジュリアード四重奏団(1回目録音、1950年)(3回目録音、1981年)、ヴェーグ四重奏団(1972年)、アルバン・ベルク四重奏団(1983年)、エマーソン・カルテット(1988年)、ハーゲン・カルテット(1995年)

LPの3枚、ハンガリー四重奏団、ジュリアード四重奏団(2回目録音)、バルトーク四重奏団はわざわざLPをコレクションするほど気に入ったものですから、もちろん、すべて名演で素晴らしい演奏です。ちなみにsaraiがこの曲を最初に聴いたのはジュリアード四重奏団(2回目録音)でした。今回、ジュリアード四重奏団の3回の録音を聴くと、1回目のモノラル録音は表現主義的とも思える切り込んだ演奏ですが、音楽的には2回目の録音が鋭角的で美しい演奏でこれがベスト。3回目は少なくとも、この第3番はアプローチが弱い感じ。全体で最高に素晴らしいのは、エマーソン・カルテットの演奏です。最高のテクニックでやりたい放題とも思える自由な演奏ですっかり魅惑されました。


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テーマ : クラシック
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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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最後までレビューありがとうございます。最後は時間の都合がつかず視聴できず、非常に残念でした。

アンコールも含め好評のレビューを見てますます残念ですが、お陰様でど

04/02 12:33 

michelangeloさん

saraiです。大変、ご無沙汰しています。
このたびは過分なご評価いただき、恐縮しています。

よいコンサート、オペラを聴くと、興奮して、記事を書き過

03/31 01:42 sarai

sarai様

こんばんは。

3月に8回も《トリスタンとイゾルデ》公演が開催される東京は音楽都市です。再び御感想を拝読し、改めて感じるのはsarai様のクラシック音楽オペラ公

03/29 21:28 michelangelo

《あ》さん、saraiです。

結局、最後まで、ご一緒にブッフビンダーのベートーヴェンのソナタ全曲をお付き合い願ったようですね。
こうしてみると、やはり、ベートーヴェン

03/22 04:27 sarai

昨日は祝日でゆっくりオンライン視聴できました。

全盛期から技術的衰えはあると思いましたが、彼のベートーヴェンは何故こう素晴らしいのか…高齢のピアニストとは思えな

03/21 08:03 

《あ》さん、再度のコメント、ありがとうございます。

ブッフビンダーの音色、特に中音域から高音域にかけての音色は会場でもでも一際、印象的です。さすがに爪が当たる音

03/21 00:27 sarai

ブッフビンダーの音色は本当に美しいですね。このライブストリーミングは爪が鍵盤に当たる音まで捉えていて驚きました。会場ではどうでしょうか?

実は初めて聴いたのはブ

03/19 08:00 
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