《ジュリオ・チェーザレ》はストーリー展開よりも、ダ・カーポ・アリアの連続が主たるものですが、そのダ・カーポ・アリアを歌う主要キャスト8人が皆素晴らしく、とても聴き応えがあるなんてものではありませんでした。とりわけ、出番の多いタイトルロールのチェーザレ役のティム・ミードとヒロインのクレオパトラ役の森 麻季の歌唱が見事で、アジリタも気持ちよく聴けました。これでこそ、ヘンデルのオペラです。コーネリア役のマリアンネ・ベアーテ・キーラントは大人の魅力たっぷりで、憂いを帯びた歌唱には魅了されました。最後に明るい歌唱を聴かせてくれましたが、これは逆に違和感を感じてしまいました。そういう持ち味の歌手ですね。ともかく存在感を放っていました。そのコーネリアの息子セスト役は松井亜希ですが、そのズボン姿でいつもの松井亜希とは全く違って見えますし、彼女の新境地を聴いた思いです。その透明感のある高域の美しい声で歌われるセストは実にフレッシュ。ある意味、今日、一番、輝きを放っていました。彼女はソプラノですが、意外にフィガロのケルビーノを歌っても素晴らしいのではと予感しました。トロメーオ役のアレクサンダー・チャンスは初めて聴きますが、なかなかよいカウンターテナーです。その名前から連想しましたが、やはり、カウンターテナーの有名歌手マイケル・チャンスのご子息です。親子2代のカウンターテナーですね。カウンターテナーも今後、続々と親子2代の歌手が出てくるのでしょう。カウンターテナーと言えば、ニレーノ役の藤木大地。歌唱もさることながら、おどけた演技で客席を沸かせました。彼のこんな一面、初めて見ましたし、そもそもその扮装で藤木大地とはとても思えませんでした。数少ない男声歌手ですが、アキッラ役の大西宇宙は見事な歌唱と見事な体躯で素晴らしい仕事をしました。このところ、彼は大活躍ですね。
今回の演出は佐藤美晴が、ステージ上のBCJのオーケストラを四方の通路で囲み、そこを歌手たちが巡るという形式での演技です。衣装は凝ったものを着ていたので、通常のオペラを見る感覚でした。バロックオペラはこれで十分ですね。こんな感じでバロックオペラの上演の頻度を高めていってほしいと思います。
最後に、このヘンデルの歌劇《ジュリオ・チェーザレ》の素晴らしい公演が聴けたのは、BCJの素晴らしい演奏があったればこそです。鈴木優人の指揮とチェンバロも素晴らしく、BCJの若松夏美率いる弦楽アンサンブル、そして、フラウト・トラヴェルソの菅きよみやオーボエの三宮正満などの木管、ホルンの福川伸陽、そして、何と言っても素晴らしい通奏低音群。これらのオーケストラ陣がしっかりしていなければ、ヘンデルの美しい音楽を楽しむことができません。バッハ・コレギウム・ジャパン改め、ヘンデル・コレギウム・ジャパンを名乗ってもいいのではないかと思いながら聴いていました。
ヘンデルのオペラの連続公演を鈴木優人とBCJが企画してくれることを切に願うものです。
今日のプログラムは以下です。
鈴木優人プロデュース/BCJオペラシリーズ Vol.3
ヘンデル 歌劇 《ジュリオ・チェーザレ》 全3幕 セミ・ステージ形式
指揮・チェンバロ:鈴木優人
チェーザレ:ティム・ミード(カウンターテナー)
クレオパトラ:森 麻季(ソプラノ)
コーネリア:マリアンネ・ベアーテ・キーラント(アルト)
クーリオ:加藤宏隆(バス・バリトン)
セスト:松井亜希(ソプラノ)
トロメーオ:アレクサンダー・チャンス(カウンターテナー)
アキッラ:大西宇宙(バリトン)
ニレーノ:藤木大地(カウンターテナー)
佐藤美晴(演出)
管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン コンサートマスター:若松夏美
フラウト・トラヴェルソ:菅きよみ
リコーダー:太田光子、浅井愛
オーボエ:三宮正満、小花恭花
ホルン:福川伸陽、根本めぐみ、大野雄太、藤田麻理絵
ヴァイオリンⅠ:若松夏美、荒木優子、廣海史帆
ヴァイオリンⅡ:高田あずみ、堀内由紀、山内彩香
ヴィオラ:成田寛、秋葉美佳
チェロ:山本徹、上村文乃
コントラバス:今野京
ファゴット:河府有紀
ヴィオラ・ダ・ガンバ:福澤宏
テオルボ・ギター:佐藤亜紀子
リュート:野入志津子
ハープ:伊藤美恵
チェンバロ:重岡麻衣、根本卓也
予習は時間がなくて、できませんでした。
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