しかし、しかし、その思いは見事に裏切られました。バティアシヴィリのチャイコフスキーは進化に進化を重ねていました。官能的どころか、音楽の神が憑依したかの如く、鬼神のごとくの集中した演奏で一皮も二皮も突き破るような驚異的な演奏。彼女の内面を惜しげもなく、さらけ出すような凄絶な演奏を聴かせてくれました。ちょっと甘い雰囲気のあるチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲と思っていたら、こんなに壮絶な音楽がその中に秘められていたとは・・・凄いですね!
第1楽章の最後の盛り上がりでは卒倒しそうになります。聴衆のみなさんはよく拍手もせずに耐えきったものです。第2楽章の密やかな美しさもいつしか高揚して、ありえないような高みに達します。そして、そのまま、勢いづきながら第3楽章に突入していきます。バティアシヴィリのヴァイオリンの美音は甘さではなく、強烈なインパクトを与えてくれます。セクシーな音楽を奏でてくれていたバティアシヴィリはその音楽性を突き破って、新たな境地に達したようです。今や彼女は最高のヴァイオリニストの座に君臨するようになりました。時折、笑みをこぼしながらもバティアシヴィリはありえないような究極の音楽を奏で続けます。どこまでもどこまでも高みに上り続けて、フィナーレに達します。恐ろしいほどのヴァイオリンを聴いてしまいました。ヤニック・ネゼ゠セガンも只者ではないことを示すような指揮を見せてくれます。まるでもう一人のバティアシヴィリがオーケストラを指揮しているように完全にバティアシヴィリのヴァイオリンの音楽に同期した演奏、それは伴奏ではありません。これはまるで室内楽のような音楽の在り方です。
凄過ぎるチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲でした。同じ年に究極のチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を2つも聴くとは・・・絶句です。
後半のマーラーについて書く時間がなくなりました。見事な演奏で各パートの楽器の響きの素晴らしさに圧倒されました。特に金管のトランペットとホルンは素晴らしかった!
しかし、これはsaraiの思うマーラーの音楽とは隔たりがあったというのが正直な感想です。もっと思い切って、テンポも変化させてほしかったし、マーラー節も聴かせて欲しかった。素直と言えば、素直な音楽作り。これが正解と思う人もいるでしょう。でもね・・・。
第4楽章のアダージェットの最初の主題が回帰するところではぐっとテンポを落としたところは素晴らしかった。そんな感じで全編を演奏してくれれば、saraiも納得でした。そのアダージェットの後半以降は結構、納得の演奏でした。第5楽章は気持ちよく聴き入りました。ですから、もっと、この演奏を褒めてもよかったのですが、前半のチャイコフスキーが素晴らし過ぎて、saraiのエネルギーもすべて持っていかれたようです。
フィラデルフィア管弦楽団は実は初聴きですが、昔からの美しい響き(録音で聴いていた演奏)は健在でした。ヤニック・ネゼ゠セガンとの未来は明るいようです。
今日のプログラムは以下のとおりです。
指揮:ヤニック・ネゼ゠セガン
ヴァイオリン:リサ・バティアシュヴィリ
管弦楽:フィラデルフィア管弦楽団
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35
《アンコール》マチャヴァリアニ:ジョージアの民謡よりDoluri
《休憩》
マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調
最後に予習について、まとめておきます。
チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を予習したCDは以下です。
リサ・バティアシュヴィリ、ダニエル・バレンボイム指揮ダニエル・バレンボイム 2015年5月 ベルリン セッション録音
昨年のザルツブルク音楽祭の会場の祝祭大劇場で買い求めたCDです。バティアシュヴィリにサインしてもらいました。そのとき、是非、日本に来てねとお願いしました。早くもそのときの願いが叶いました。このCDでの演奏は彼女らしく、官能的なものですが、第2楽章以降は少し物足りなさもありましたが、今日の演奏で払拭されました。今日のネガ=セガンとのコンビでの再録音が望まれます。
マーラーの交響曲第5番を予習したCDは以下です。
マイケル・ティルソン・トーマス指揮サンフランシスコ交響楽団 2005年9月28日~10月2日 サンフランシスコ、デイヴィス・シンフォニー・ホール ライヴ録音
レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィル 1987年、フランクフルト、アルテ・オパー ライヴ録音
MTTと略されるマイケル・ティルソン・トーマスの指揮するサンフランシスコ交響楽団のマーラーチクルスの録音の後期の素晴らしい仕上がりのCDです。もっと評価されて然るべき演奏です。一聴して、おとなしい演奏と誤解されそうですが、実に奥深い内容の演奏です。これを聴くとどの演奏も表層的な演奏に感じてしまいそうな魅力にあふれた演奏ですが、マーラーを聴き込んだ人にしかその魅力は伝わらないかもしれません。これを聴くとMTTの虜になりそうです。
バーンスタインとウィーン・フィルの演奏はもう文句なし。熱く、しかも細部まで磨き上げられた最高の演奏です。しかし、それをもってしてもMTTの魅力は忘れがたいものです。
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