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河村尚子のラストスパートは見事なピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調 Op.111 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・プロジェクト Vol.4@紀尾井ホール 2019.11.13

河村尚子の2年間、4回にわたるベートーヴェンのピアノ・ソナタ・ツィクルスが今日のコンサートで完了。若手ピアニストが全力で取り組んだ成果は十分に受け止めました。全曲ツィクルスとはなりませんでしたが、とても聴きどころが満載でした。彼女のピアノは切れ味のよいタッチの美しい響きで音楽を奏でていき、技巧が安定していること。それはベートーヴェンのピアノ・ソナタでも遺憾なく発揮されました。それに十分な準備をしたと思われる仕上がりのよさも感じられました。今後、彼女がさらなる成熟の道を歩み、いつの日か、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲ツィクルスに挑戦することを楽しみにしていましょう。

今日は最後のコンサートであり、ベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタ3曲というとても重い選曲です。正直言って、ちょっともどかしく感じるところもありましたが、彼女のピアノは次第に熱を帯びていきます。そして、第32番ハ短調のソナタでは素晴らしい演奏にじっと聴き入りました。とりわけ、第1楽章の圧倒的な迫力には特別なオーラを感じるほどの出来栄え。第2楽章アリエッタの最後に回帰したフーガの美しい演奏にも魅了されました。アンコールで弾いた第30番の終結部分はプログラム本番での演奏以上の素晴らしさ。それとも、プログラム本番ではきちんと聴き取れていなかっただけだったのでしょうか。

4回のツィクルスを通じて、最高の演奏だったのは難曲の《ワルトシュタイン》でした。あれはずっと記憶に残る凄絶な演奏でした。河村尚子の飛躍を今後も見届けたいと思っています。


今日のプログラムは以下です。

  <オール・ベートーヴェン・プログラム>

  ピアノ・ソナタ 第30番 ホ長調 Op.109
  ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 Op.110

   《休憩》

  ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調 Op.111

   《アンコール》

    ピアノ・ソナタ 第30番 ホ長調 Op.109より、第3楽章の第6変奏と回想主題


最後に予習について、まとめておきます。以下のCDを聴きました。

 田部京子 2015年8月12日-14日 東京 稲城iプラザ セッション録音

田部京子の演奏はいつもながら詩情が漂っていて、強い感銘を覚えます。演奏技術が大変優れていて、ピアノの響きも美しい上に音楽性が豊かなのですから、言うことがありません。是非ともベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲の録音をお願いしたいところです。全曲ツィクルスの実演ならさらに結構ですけどね。



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       河村尚子,  

河村尚子の成熟への道 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・プロジェクト Vol.3@紀尾井ホール 2019.4.25

軽い気持ちで聴き始めた河村尚子が弾くピアノ・ソナタ・プロジェクトですが、1回目は“疾走”、2回目は“パトス”と毎回、驚嘆する演奏が続きます。今回はいよいよ、後期のソナタにさしかかります。しかも難しいプログラムです。で、今回も驚嘆しました。それほど気合いを入れずに聴きに行きましたが、ええっ!こんなにうまくなったのか!と絶句です。とりわけ、後半に弾いた第29番 変ロ長調 Op. 106「ハンマークラヴィーア」の第3楽章の中間以降の成熟した演奏の深みのある表現、さらに第4楽章の圧倒的な迫力に脱帽です。実はベートーヴェンのピアノ・ソナタの中では、この「ハンマークラヴィーア」はsaraiの苦手の曲ですが、今日はこの大作の素晴らしさを初めて体感させてくるような最高の演奏でした。後期の3曲とも比肩できる内容に思える素晴らしさを味わわせてもらいました。

前半の2曲もとても美しい演奏でした。ですが、これは想定内の演奏。既に彼女なら、これくらいは弾くだろうと思っていたレベルの演奏。もちろん、これほどの演奏は相当の弾き込みを要したことは想像できます。文句ない演奏でした。ある意味、ロマンを感じさせる繊細な演奏でした。

後半は前半の2曲とは一変して、冒頭から、鍵盤を叩きつけるような凄まじい演奏。大変、気魄に満ちた演奏。ミスを恐れない突っ込んだ演奏ですが、それでいて、ミスがない凄い演奏です。長大な第1楽章もあっという間に終わります。短い第2楽章も切れの良い演奏です。そして、少し間を空けて、第3楽章の静謐な演奏が始まります。緊張して聴いていると、中間あたりで突如、何とも言えない高揚感に満ちた美しい表情の音楽が始まります。まさにベートーヴェンの後期特有の味わい深い表情の音楽です。河村尚子の成熟ぶりがまざまざと感じられます。誰がこれほどの高みに上り詰めた演奏ができるでしょう。哀切極まりない極上の音楽です。美の世界を味わい尽くせました。
第4楽章は徹底して対位法にこだわった音楽ですが、河村尚子はスケール感のある切れのよい演奏で弾きこなしていきます。そして、コーダの和音がピタッとはまって、最高のしめくくり。後期のソナタ群に共通するフーガの幕開きを高らかに告げるかのような圧倒的な演奏でした。

11月のこのシリーズの4回目、ラストの後期の大傑作の3曲は途轍もない演奏になる予感がします。後期のピアノ・ソナタと言えば、日本人ピアニストでは田部京子という大天才が素晴らしい演奏を聴かせてくれていますが、河村尚子も肉薄した演奏を聴かせてくれそうです。

先走って言えば、河村尚子がここまでのベートーヴェンのピアノ・ソナタを弾いた以上、次は、シューベルト、シューマン、ブラームスというドイツ本流のピアノ作品をチクルスで挑戦してもらいたいものです。田部京子のシューベルト・プラスに続け!!

今日のプログラムは以下です。

  <オール・ベートーヴェン・プログラム>

  ピアノ・ソナタ 第26番 変ホ長調 Op. 81a「告別」
  ピアノ・ソナタ 第27番 ホ短調 Op. 90

   《休憩》

  ピアノ・ソナタ 第29番 変ロ長調 Op. 106「ハンマークラヴィーア」

   《アンコール》

    ピアノ・ソナタ 第26番 変ホ長調 Op. 81a「告別」より、第3楽章


最後に予習について、まとめておきます。以下のCDを聴きました。

 エミール・ギレリス 
  ピアノ・ソナタ 第26番「告別」 1974年12月 ベルリン セッション録音
  ピアノ・ソナタ 第27番 1974年12月 ベルリン セッション録音
  ピアノ・ソナタ 第29番「ハンマークラヴィーア」 1982年10月 ベルリン セッション録音

予習ではありますが、このところ、エミール・ギレリスの演奏を名演鑑賞会として聴いています。透明感のある美しい響きと見事なテクニックの演奏にはほれぼれと聴き入ってしまいます。もちろん、アラウのベートーヴェンも大好きなので、第27番だけは比較して聴いてみました。アラウの重厚な響きもドイツ的な感性を感じさせる見事な演奏ですが、ギレリスの演奏はどの曲も安定感があります。ギレリスが標準の定番で、アラウはその至芸を楽しめる曲では最高という感じでしょうか。もちろん、録音も含めるとアンドラーシュ・シフの演奏がそれに割ってはいります。いやいや、そんなに限定できませんね。ポリーニ、ケンプ、ゼルキン、グルダ、リヒテル、ホロヴィッツ、ソロモン、イーヴ・ナット等々、見事な演奏が目白押しです。とても全部はなかなか聴けません。



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       河村尚子,  

河村尚子の迸るパトス ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・プロジェクト Vol.2@紀尾井ホール 2018.11.29

前回、河村尚子が弾くベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴いて、予想以上の演奏内容に驚嘆しました。彼女の演奏の特徴を一言で表現すると、“疾走”でした。文句なしに彼女のベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・プロジェクトを聴き続けることにして、今日は2回目のリサイタルです。いやはや、前回以上にその素晴らしさに感嘆しました。どれだけ弾き込み、どれだけアナリーゼしたんでしょうか。とんでもない努力と才能の賜物が今日の演奏に結実していました。
(今回、河村尚子をユーザータグに登録しました。本文中で河村尚子にリンクを張ったので、クリックすると、過去、河村尚子が演奏した記事のすべてが表示されます。現在、計7記事です。)

最初の第18番 変ホ長調 Op.31-3はその素晴らし過ぎる演奏に驚愕。出だしこそ、少し硬かったのですが、その後の音の響きの美しさ、タッチの切れのよさ、考え抜かれたアーティキュレーションには圧倒されました。正直なところ、大好きな《テンペスト》を演奏してくれないことは残念でしたが、この第18番がこれほどの完成度で演奏されたことは嬉しいです。とりわけ、第4楽章の圧倒的な迫力には脱帽です。

そして、今日の極め付きだったのは次に演奏されたピアノ・ソナタ 第21番「ワルトシュタイン」です。最初の入りが凄く早いので、大丈夫かなと思っていたら、それでよかったんです。確かに完璧な演奏ではなかったかもしれませんが、音楽って、完璧に演奏すればいいものじゃありません。しかもこれは実演です。彼女の熱いパトスの迸りを感じるためにはこのテンポが必要でした。まさに一期一会とも思える凄い演奏に感動しました。第1楽章も凄かったけど、第3楽章の凄さといったら、言葉では表せません。河村尚子の人生を賭けたような演奏にこちらも人生を賭けて聴き入りました。そこには音楽を超えた何かが確かに存在しました。魂同士がつながるような凄まじい演奏にインスパイアされました。これ以上は書く言葉が見つかりません。しかし、疲れた! 聴いていたsaraiもアドレナリンが出尽くした感じです。河村尚子もそうだったんじゃないでしょうか。

後半はピアノ・ソナタ 第24番「テレーゼ」が美しく演奏されます。アドレナリン不足のsaraiも何とか、ついていけます。パーフェクトとも思える演奏があっと言う間に終わります。拍手を受けた河村尚子はそのままピアノの前に座り、じっと集中した後、ピアノ・ソナタ 第23番「熱情」を弾き始めます。見事な演奏ではありますが、先ほどの「ワルトシュタイン」のパトスは蘇りません。もっとも、こちらのアドレナリンも復活しませんから、集中力に欠けています。フツーに素晴らしい「熱情」でした。

結局、今日は「ワルトシュタイン」の日でした。忘れられない感動の演奏でした。

次回から、いよいよ、後期のピアノ・ソナタに突入します。そして、来年11月の4回目、ラストの後期の大傑作の3曲はどんな演奏になるんでしょう。楽しみですが、不安でもあります。日本人ピアニストでは田部京子という大天才が素晴らしい演奏を聴かせてくれていますが、河村尚子がどこまで肉薄できるでしょうか。

今日のプログラムは以下です。

  <オール・ベートーヴェン・プログラム>

  ピアノ・ソナタ 第18番 変ホ長調 Op.31-3
  ピアノ・ソナタ 第21番 ハ長調 Op.53「ワルトシュタインWaldstein」
   《休憩》

  ピアノ・ソナタ 第24番 嬰ヘ長調 Op.78「テレーゼTherese」
  ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 Op.57「熱情(アパッショナータ)Apassiponata」

   《アンコール》

    バガテル『エリーゼのためにFür Elise』 イ短調 WoO59

最後に予習について、まとめておきます。以下のCDを聴きました。

 エミール・ギレリス 
  ピアノ・ソナタ 第18番 1981年10月録音
  ピアノ・ソナタ 第21番「ワルトシュタイン」1972年1月録音
  ピアノ・ソナタ 第23番「熱情」1973年6月録音
 マウリツィオ・ポリーニ
  ピアノ・ソナタ 第24番「テレーゼ」 2002年録音

予習ではありますが、以前、ピアノ・ソナタ 第23番「熱情」をまとめて、33枚聴いた際に最高と思えた演奏がエミール・ギレリスでした。ですから、今回は楽しみも含めて、彼のピアノで中期のピアノ・ソナタを聴いてみることにしました。しかし、残念ながら、ピアノ・ソナタ 第24番「テレーゼ」は録音を残してくれませんでした。第32番も見録音でしたが、他にこの第24番と第1番, 第9番, 第22番も未録音のまま、68歳で亡くなってしまいました。亡くなる年に録音した第30番、第31番は素晴らしい演奏でしたから、ベートーヴェンの全集を完成できなかったことは誠に残念の極みです。今回聴いた3曲はテクニック、音の響き、タッチ、アーティキュレーションなどどれをとっても最高です。予習というよりも名演鑑賞になってしまいました。で、ピアノ・ソナタ 第24番「テレーゼ」は天才ポリーニにご登場願いました。これはパーフェクトな演奏です。非の打ちどころのない演奏とはこのことです。後でアンドラーシュ・シフも聴けばよかったと思いましたが、また、名演鑑賞会を開きましょう。



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       河村尚子,  

河村尚子の美しき疾走 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・プロジェクト Vol.1@紀尾井ホール 2018.6.1

河村尚子が弾くベートーヴェンのピアノ・ソナタって、どうなんだろうと軽い気持ちで聴きに行くことにしました。で、結果はと言うと、予想以上の演奏内容でした。彼女のよさがすべてその演奏に反映された感があります。その演奏を一言で表現すると、“疾走”です。そもそも、今日演奏されたベートーヴェンの初期のピアノ・ソナタ群を貫く特徴こそ、“疾走”であると思うんです。もちろん、緩徐楽章は決して疾走しませんが、それでもひたむきに前進していく姿勢は一貫しています。若きベートーヴェンの熱き思いが結実した結果こそ、“疾走”のピアノ・ソナタです。その本質を河村尚子が実に見事に表現してくれました。ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」の第1楽章の颯爽とした疾走感には驚嘆しました。また、それ以上にピアノ・ソナタ第7番の第1楽章の“疾走”こそ、今日の演奏の華でした。河村尚子のピアノの切れの良さはいつものことですが、ここまでの疾走感を表現するためには相当の弾き込みを必要としたでしょう。才能と努力がもたらした最高の結果がピアノ・ソナタ第7番の演奏でした。ピアノ・ソナタ第7番は疾走する第1楽章ばかりでなく、嘆きに包まれた第2楽章の哀しい美しさも見事に表現されていました。そして、明るい日差しを感じさせる第3楽章を経て、問いかけをしながら再び疾走していく第4楽章へと高潮して終わります。ベートーヴェンの初期の傑作をこれだけ演奏してくれるとは思っていませんでした。河村尚子の素晴らしい演奏に感銘を受けました。残りの3曲も完成度の高い演奏でした。あまりに有名な「悲愴」と「月光」ですが、それなりの独自性と無理のない演奏で納得感がありました。ピアノ・ソナタ第4番はまさに“疾走”を思わせる見事な演奏。ここまで演奏してくれれば文句ありません。

アンコールの“月の光”はベートーヴェンの音楽とは大きくかけ離れていますが、ピアノ演奏の美を感じさせてくれる柔らかなタッチに魅了されました。

今日のプログラムは以下です。

  <オール・ベートーヴェン・プログラム>

  ピアノ・ソナタ 第4番 変ホ長調 Op.7
  ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 Op.13「悲愴 Pathétique」

   《休憩》

  ピアノ・ソナタ 第7番 二長調 Op. 10-3
  ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 Op. 27-2「月光 Mondschein」

   《アンコール》

    ドビュッシー:『ベルガマスク組曲 Suite bergamasque』より 第3曲 月の光 (Clair de Lune)

最後に予習について、まとめておきます。以下のアンジェラ・ヒューイット(「月光」だけはマリア・ジョアン・ピリス)、マウリツィオ・ポリーニ、アンドラーシュ・シフのCDを聴きました。

 アンジェラ・ヒューイット 2006年頃録音 セッション録音
  「月光」だけはマリア・ジョアン・ピリス 2000、2001年録音 セッション録音
 マウリツィオ・ポリーニ 1991、2003、2012年録音 セッション録音
 アンドラーシュ・シフ 2007年録音

当初、女流ピアニストということで、アンジェラ・ヒューイットとマリア・ジョアン・ピリスだけを聴こうと思っていました。特にアンジェラ・ヒューイットはハイレゾの素晴らしい音で聴くので、楽しみにしていたんです。ところが凄い音ではありますが、ベートーヴェンのピアノ・ソナタとしてはかなり違和感を覚えました。急遽、マウリツィオ・ポリーニのハイレゾを聴き、さすがにこれは満足しました。最後にアンドラーシュ・シフも追加で聴きました。正直、これには圧倒されました。美しい音と最高の表現・・・これ以上の演奏はないでしょう。しかし、こんなものを予習すると、本番でどんなものを聴いても不満を覚えるのではと危惧しました。しかし、河村尚子は彼女なりの納得の演奏を聴かせてくれました。よかった、よかった・・・。



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       河村尚子,  

河村尚子の熱いラフマニノフ_山田和樹&バーミンガム市交響楽団@サントリーホール 2016.6.28

河村尚子がラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を弾くというので、大変期待して聴きに行くことにしました。河村尚子と言えば、彼女の弾いたプロコフィエフの戦争ソナタの1曲、ピアノ・ソナタ第6番の圧巻の演奏は今でも忘れられません。そのときの記事はここです。こんなにプロコフィエフが弾けるんだから、当然、ラフマニノフも素晴らしいに違いないというのがsaraiの意見なんです。で、どうだったかというと、saraiの期待に応えてくれる素晴らしい演奏です。冒頭のシンプルなメロディーのところはえらくまろやかな響きでエッと驚きましたが、それはテクニック的に余裕のパートだからなんだと思いました。もっと鮮鋭な響きなんだろうと想像していたからの驚きでしたが、彼女はそのまろやかな響きでこの難曲の難しいパートも弾きこなしていきます。フォルテッシモでは流石にまろやかな響きは崩れて、割れんばかりの大音響が炸裂します。なかなかのパワーです。もっともsaraiは最前列でピアノの真ん前で聴いているので、もっと後ろの席ならば、フォルテッシモでももっとまろやかに響くのかもしれません。いずれにせよ、最前列ではピアノとオーケストラのバランスが崩れ、ほとんどピアノの音しか聴こえません。でも、saraiのようなピアノ好きにはそれは承知の上のことで、その崩れたバランスでいいんです。第1楽章、第2楽章と河村尚子の迫力満点のピアノに聴き惚れます。でも、ラフマニノフ特有のやるせなさが聴こえてこないのが唯一の不満です。美しいロマンティシズムは感じられるし、一種の狂気のような叫びも聴こえてきます。しかし、期待していた第3楽章が始まると、そういうsaraiの思いの数々はすべて吹っ飛びます。河村尚子の熱い響きが弾丸のようにsaraiの体を貫いていきます。凄い気魄も伝わってきます。もう、saraiはピアノの響きと一体化して、意識が飛びそうです。そして、クライマックスはフィナーレ。熱いロマンの響きがピアノとオーケストラから発せられて、感動の波が押し寄せてきます。音楽に浸る喜びに優るものは人生にはありません。素晴らし過ぎる河村尚子の熱いラフマニノフでした。

日本期待の若手指揮者である山田和樹は実は初聴きです。彼のマーラー・ツィクルスにも食指が動いたのですが、これ以上、音楽スケジュールがたて込むと大変なので自重しました。今日聴いた感想ですが、その素直な音楽性は好ましく思えました。妙な思い入れのない、よい意味で普通の音楽作りです。それにとても丁寧で手抜きのない音楽が流れます。それが如実に現れたのが最初に演奏されたベートーヴェンの『エグモント』序曲です。軽く演奏してもよかったのでしょうが、実に誠実に作り込まれた音楽に聴き入ってしまいました。きびきびと若さにあふれた音楽に爽やかささえ感じました。もちろん、きっちりとアインザッツも決め、重厚な音楽でもありました。でも一番の良さはオーソドックスな音楽表現であったことです。ベートーヴェンをベートーヴェンらしくということです。これは最後に演奏されたベートーヴェンの交響曲第7番にもそのままあてはまります。どこがどうという感想は控えますが、バーミンガム市交響楽団のしっかりしたアンサンブルを引き出して、正統的なベートーヴェンを聴かせてくれました。モダン過ぎず、重過ぎもせず、現代に演奏されるべきベートーヴェンという感じの演奏で、ワーグナーが絶賛して評した《舞踏の聖化(Apotheose des Tanzes)》を十分に表現し尽くした音楽作りに聴き惚れました。山田和樹は今後が楽しみである指揮者であることを実感しました。どういう方向に進んでいくのか注視していきたいですね。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:山田和樹
  ピアノ:河村尚子
  管弦楽:バーミンガム市交響楽団

  ベートーヴェン:劇音楽『エグモント』序曲
  ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調 Op.30
   《アンコール》 ラフマニノフ:エチュード Op.33-8

   《休憩》

   ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調 Op.92

   《アンコール》
     ウォルトン:「ヘンリー5世」より「彼女の唇に触れて別れなん」


ところで今日の河村尚子の弾いたラフマニノフのピアノ協奏曲第3番はとても素晴らしかったのですが、未だにsaraiの聴いたベストのラフマニノフのピアノ協奏曲第3番は上原彩子の演奏です。そのときの記事はここです。もう4年前のことです。今の上原彩子ならば、もっと凄い演奏になりそうです。あー、聴きたい!!



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オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

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天野さん

saraiです。初めまして。コメントありがとうございます。ブログを書く励みになります。当日は快晴で素晴らしい日でしたが、夏の陽光がまぶしいほどで暑さに悩ま

09/27 14:15 sarai

充実した心豊かなご様子に励まされます.
情報、有り難うございました.
いつか、ふらっと訪ねてみたいです.

09/27 09:23 天野哲也

昨日投稿した記事の一部に誤りがありました。ドイツ騎士団の中庭はパスしないで、ちゃんと見ていました。追記・修正しました。申し訳ありません。

08/07 00:28 sarai

えりちゃさん、saraiです。お久しぶりです。

これは昨年の9月のウィーンですが、現在のコロナ禍では、古き良き日という風情ですね。もう、ポスト・コロナでは、行けたにし

07/20 12:41 sarai

Saraiさま、
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新型コロナウィルス、自粛中。
このウィーンの散策を読んでいると、なんだか切なくて悲しくなってきました。
次はいつ行けるのかな、とか思う

07/20 05:08 えりちゃ

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ありがたいコメント、嬉しいです。マーラーのファンのかたにこそ、読んでいただきたかったので、気持ちを共有できた思いです。自然の中にこそ、マーラーの音楽の本質はあり

04/23 23:45 sarai
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