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河村尚子の美しき疾走 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・プロジェクト Vol.1@紀尾井ホール 2018.6.1

河村尚子が弾くベートーヴェンのピアノ・ソナタって、どうなんだろうと軽い気持ちで聴きに行くことにしました。で、結果はと言うと、予想以上の演奏内容でした。彼女のよさがすべてその演奏に反映された感があります。その演奏を一言で表現すると、“疾走”です。そもそも、今日演奏されたベートーヴェンの初期のピアノ・ソナタ群を貫く特徴こそ、“疾走”であると思うんです。もちろん、緩徐楽章は決して疾走しませんが、それでもひたむきに前進していく姿勢は一貫しています。若きベートーヴェンの熱き思いが結実した結果こそ、“疾走”のピアノ・ソナタです。その本質を河村尚子が実に見事に表現してくれました。ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」の第1楽章の颯爽とした疾走感には驚嘆しました。また、それ以上にピアノ・ソナタ第7番の第1楽章の“疾走”こそ、今日の演奏の華でした。河村尚子のピアノの切れの良さはいつものことですが、ここまでの疾走感を表現するためには相当の弾き込みを必要としたでしょう。才能と努力がもたらした最高の結果がピアノ・ソナタ第7番の演奏でした。ピアノ・ソナタ第7番は疾走する第1楽章ばかりでなく、嘆きに包まれた第2楽章の哀しい美しさも見事に表現されていました。そして、明るい日差しを感じさせる第3楽章を経て、問いかけをしながら再び疾走していく第4楽章へと高潮して終わります。ベートーヴェンの初期の傑作をこれだけ演奏してくれるとは思っていませんでした。河村尚子の素晴らしい演奏に感銘を受けました。残りの3曲も完成度の高い演奏でした。あまりに有名な「悲愴」と「月光」ですが、それなりの独自性と無理のない演奏で納得感がありました。ピアノ・ソナタ第4番はまさに“疾走”を思わせる見事な演奏。ここまで演奏してくれれば文句ありません。

アンコールの“月の光”はベートーヴェンの音楽とは大きくかけ離れていますが、ピアノ演奏の美を感じさせてくれる柔らかなタッチに魅了されました。

今日のプログラムは以下です。

  <オール・ベートーヴェン・プログラム>

  ピアノ・ソナタ 第4番 変ホ長調 Op.7
  ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 Op.13「悲愴 Pathétique」

   《休憩》

  ピアノ・ソナタ 第7番 二長調 Op. 10-3
  ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 Op. 27-2「月光 Mondschein」

   《アンコール》

    ドビュッシー:『ベルガマスク組曲 Suite bergamasque』より 第3曲 月の光 (Clair de Lune)

最後に予習について、まとめておきます。以下のアンジェラ・ヒューイット(「月光」だけはマリア・ジョアン・ピリス)、マウリツィオ・ポリーニ、アンドラーシュ・シフのCDを聴きました。

 アンジェラ・ヒューイット 2006年頃録音 セッション録音
  「月光」だけはマリア・ジョアン・ピリス 2000、2001年録音 セッション録音
 マウリツィオ・ポリーニ 1991、2003、2012年録音 セッション録音
 アンドラーシュ・シフ 2007年録音

当初、女流ピアニストということで、アンジェラ・ヒューイットとマリア・ジョアン・ピリスだけを聴こうと思っていました。特にアンジェラ・ヒューイットはハイレゾの素晴らしい音で聴くので、楽しみにしていたんです。ところが凄い音ではありますが、ベートーヴェンのピアノ・ソナタとしてはかなり違和感を覚えました。急遽、マウリツィオ・ポリーニのハイレゾを聴き、さすがにこれは満足しました。最後にアンドラーシュ・シフも追加で聴きました。正直、これには圧倒されました。美しい音と最高の表現・・・これ以上の演奏はないでしょう。しかし、こんなものを予習すると、本番でどんなものを聴いても不満を覚えるのではと危惧しました。しかし、河村尚子は彼女なりの納得の演奏を聴かせてくれました。よかった、よかった・・・。



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       河村尚子,  

河村尚子の熱いラフマニノフ_山田和樹&バーミンガム市交響楽団@サントリーホール 2016.6.28

河村尚子がラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を弾くというので、大変期待して聴きに行くことにしました。河村尚子と言えば、彼女の弾いたプロコフィエフの戦争ソナタの1曲、ピアノ・ソナタ第6番の圧巻の演奏は今でも忘れられません。そのときの記事はここです。こんなにプロコフィエフが弾けるんだから、当然、ラフマニノフも素晴らしいに違いないというのがsaraiの意見なんです。で、どうだったかというと、saraiの期待に応えてくれる素晴らしい演奏です。冒頭のシンプルなメロディーのところはえらくまろやかな響きでエッと驚きましたが、それはテクニック的に余裕のパートだからなんだと思いました。もっと鮮鋭な響きなんだろうと想像していたからの驚きでしたが、彼女はそのまろやかな響きでこの難曲の難しいパートも弾きこなしていきます。フォルテッシモでは流石にまろやかな響きは崩れて、割れんばかりの大音響が炸裂します。なかなかのパワーです。もっともsaraiは最前列でピアノの真ん前で聴いているので、もっと後ろの席ならば、フォルテッシモでももっとまろやかに響くのかもしれません。いずれにせよ、最前列ではピアノとオーケストラのバランスが崩れ、ほとんどピアノの音しか聴こえません。でも、saraiのようなピアノ好きにはそれは承知の上のことで、その崩れたバランスでいいんです。第1楽章、第2楽章と河村尚子の迫力満点のピアノに聴き惚れます。でも、ラフマニノフ特有のやるせなさが聴こえてこないのが唯一の不満です。美しいロマンティシズムは感じられるし、一種の狂気のような叫びも聴こえてきます。しかし、期待していた第3楽章が始まると、そういうsaraiの思いの数々はすべて吹っ飛びます。河村尚子の熱い響きが弾丸のようにsaraiの体を貫いていきます。凄い気魄も伝わってきます。もう、saraiはピアノの響きと一体化して、意識が飛びそうです。そして、クライマックスはフィナーレ。熱いロマンの響きがピアノとオーケストラから発せられて、感動の波が押し寄せてきます。音楽に浸る喜びに優るものは人生にはありません。素晴らし過ぎる河村尚子の熱いラフマニノフでした。

日本期待の若手指揮者である山田和樹は実は初聴きです。彼のマーラー・ツィクルスにも食指が動いたのですが、これ以上、音楽スケジュールがたて込むと大変なので自重しました。今日聴いた感想ですが、その素直な音楽性は好ましく思えました。妙な思い入れのない、よい意味で普通の音楽作りです。それにとても丁寧で手抜きのない音楽が流れます。それが如実に現れたのが最初に演奏されたベートーヴェンの『エグモント』序曲です。軽く演奏してもよかったのでしょうが、実に誠実に作り込まれた音楽に聴き入ってしまいました。きびきびと若さにあふれた音楽に爽やかささえ感じました。もちろん、きっちりとアインザッツも決め、重厚な音楽でもありました。でも一番の良さはオーソドックスな音楽表現であったことです。ベートーヴェンをベートーヴェンらしくということです。これは最後に演奏されたベートーヴェンの交響曲第7番にもそのままあてはまります。どこがどうという感想は控えますが、バーミンガム市交響楽団のしっかりしたアンサンブルを引き出して、正統的なベートーヴェンを聴かせてくれました。モダン過ぎず、重過ぎもせず、現代に演奏されるべきベートーヴェンという感じの演奏で、ワーグナーが絶賛して評した《舞踏の聖化(Apotheose des Tanzes)》を十分に表現し尽くした音楽作りに聴き惚れました。山田和樹は今後が楽しみである指揮者であることを実感しました。どういう方向に進んでいくのか注視していきたいですね。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:山田和樹
  ピアノ:河村尚子
  管弦楽:バーミンガム市交響楽団

  ベートーヴェン:劇音楽『エグモント』序曲
  ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調 Op.30
   《アンコール》 ラフマニノフ:エチュード Op.33-8

   《休憩》

   ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調 Op.92

   《アンコール》
     ウォルトン:「ヘンリー5世」より「彼女の唇に触れて別れなん」


ところで今日の河村尚子の弾いたラフマニノフのピアノ協奏曲第3番はとても素晴らしかったのですが、未だにsaraiの聴いたベストのラフマニノフのピアノ協奏曲第3番は上原彩子の演奏です。そのときの記事はここです。もう4年前のことです。今の上原彩子ならば、もっと凄い演奏になりそうです。あー、聴きたい!!



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       河村尚子,  

上原彩子、衝撃のラフマニノフ@サントリーホール 2016.2.8

今日は浜松国際ピアノアカデミー・第20回開催記念コンサートシリーズ・東京公演と銘打ったコンサートに出かけました。実際の内容はピアノの上原彩子河村尚子、チョ・ソンジンの3人のガラ・コンサートのようなものです。最初に浜松国際ピアノアカデミーを代表して、ピアニストの中村紘子さんのご挨拶がありました。病気休業中と聞いていましたが、お元気なご様子で安心しました。彼女からは今日出演する3人の小さな頃のエピソードが紹介されて、大変興味深く拝聴しました。特に11歳の上原彩子がペダルにも足が届かない状態でショパンの24のプレリュードやバッハのパルティータ6番を弾き切った話には驚きました。天才とはそういうものなのですね。

最初は河村尚子がモーツァルトのピアノ・ソナタ 第12番を弾きます。どう弾くのかと思っていたら、完璧なテクニック、そして、ピュアーな響きでの演奏・・・しかも、実に深い内容の演奏です。あまりの素晴らしさにあっけにとられて聴き入っていました。河村尚子と言えば、前回、素晴らしいプロコフィエフの戦争ソナタを聴き、バリバリのテクニッシャンだと思っていましたが、古典ものを弾かせても、こんなに弾けるんですね。ある意味、無敵のようなピアニストです。ますます、これからが楽しみな人です。現在、saraiが上原彩子に次いで、注目しているピアニストでしたが、それはやはり、間違いではありませんでした。次回は山田和樹指揮バーミンガム市交響楽団と共演するラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を聴きますが、とっても期待できそうです。

次は今回のお目当てだった上原彩子の登場です。ラフマニノフの前奏曲(Op.32-5)とピアノ・ソナタ 第2番を弾きます。彼女のお得意のラフマニノフですから、とても期待していました。予習したのは、ホロヴィッツ(前奏曲とソナタ)とフィオレンティーノ(ソナタだけ)の二人の凄絶とも思える演奏。上原彩子は今日はYAMAHAのピアノを弾きます。それもいいかもしれません。ガンガンと弾くにはいいでしょう。まずは前奏曲ですが、この短い曲を実に静謐に演奏します。高域のタッチの美しい響きに聴き惚れます。なんとも美しい演奏。ホロヴィッツも美しい演奏でしたが、それ以上に雰囲気のある天国的な演奏です。前奏曲の響きも残るまま、ソナタに突入していきます。上原彩子らしい激しいタッチの演奏が始まります。燃え上がる火花のような激情に包まれたダイナミックな演奏です。それは時として静まりはしますが、ふつふつと燃える感情は消えることはありません。下降音型のパッセージに込められたラフマニノフの思いが上原彩子に乗り移ったかのように鬼気迫る演奏が続き、スリリングな第1楽章があっという間に終わり、また、休みなしに第2楽章が始まります。ラフマニノフのやるせない情感の音楽が見事に表現されていきます。情念に満ちた音楽は終盤、燃え盛っていきます。少し抑まったところで、いきなり、激しいタッチで第3楽章が弾き始められます。ラフマニノフの行き所のないようなやるせない感情が爆発していきます。抑まっては強まり、次第に激情にかられて、物凄い高揚感に満ちたフィナーレにはいっていきます。ある意味、暴力的とも思える音楽を超えた音楽。saraiの頭も真っ白になり、思わず、涙が滲んできます。フィナーレでは彼岸に飛ばされてしまいました。何というラフマニノフでしょう。でも、これがラフマニノフの真の音楽だったんですね。初めて理解できたような気がします。己のどうしようもない、やるせない気持ちと格闘し、それをピアノの鍵盤にぶつけたのがラフマニノフだったというのが上原彩子が伝えてくれたものです。音楽を創造するというのは、これほど自己との葛藤を乗り越えていかないといけないものだとは・・・絶句です。
上原彩子の演奏は実に衝撃的でした。彼女のピアノを長く聴いてきましたが、これがこれまでで最高の演奏です。しかし、彼女は上昇を続けていますから、これで終わることはないでしょう。どこまで上り詰めていくのは、恐ろしいような予感もします。

休憩後は注目のチョ・ソンジンの演奏です。昨年のショパン・コンクールを制した話題のピアニストを初めて聴きます。ですが、まだ、先ほどの上原彩子の衝撃的な演奏が頭に残っています。もしかしたら、チョ・ソンジンも聴いてしまったのかもしれません。ショパンのピアノ・ソナタ 第2番を弾き始めた彼の気合も凄いものです。よい演奏なのですが、少し、肩に力が入り過ぎたような感じもあります。微妙にタッチの美しさが損なわれているような感も否めません。ようやく美しい音楽が感じられるようになったのは第3楽章の中間部あたりからです。今日の彼の演奏で、ショパン・コンクールの覇者の実力を判断するわけにはいきませんね。もう一度、ちゃんと聴かせてもらいましょう。

残りのプログラムはお楽しみのプログラムです。モーツァルトの2台のピアノのためのソナタは河村尚子&上原彩子のお二人が楽しそうに演奏しました。名人の二人ですから、素晴らしい演奏ではありますが、まあ、完璧とまではいきませんね。第3楽章では河村尚子が脱線して、トルコ行進曲のフレーズをサービスしてくれたりします。楽しい音楽・・・ただ、それだけではあります。
最後は3人が1台のピアノに並んで、3人連弾です。滅多に聴けない珍しい曲が聴けて、これも楽しかったというところ。それでも、ロマンスはラフマニノフらしさが散りばめられていたのは流石。

ともかく、今日は上原彩子の凄さに圧倒されたコンサートでした。

今日のプログラムは以下です。

 浜松国際ピアノアカデミー 第20回開催記念コンサートシリーズ 東京公演

  ピアノ:上原彩子
  ピアノ:河村尚子
  ピアノ:チョ・ソンジン

  モーツァルト: ピアノ・ソナタ 第12番 ヘ長調 K.332(河村尚子)
  ラフマニノフ: 前奏曲 ト長調 Op.32-5 (上原彩子)
  ラフマニノフ: ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 Op .36 (上原彩子)
  
   《休憩》

  ショパン: ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 Op.35 (チョ・ソンジン)
  モーツァルト: 2台のピアノ・ソナタ ニ長調 K.448 (河村尚子&上原彩子)
  ラフマニノフ: 6手のためのワルツとロマンス (河村尚子&上原彩子&チョ・ソンジン)

   《アンコール》 なし

次回の上原彩子はラフマニノフの前奏曲尽くしを聴きます。どんなラフマニノフを聴かせてくれるでしょう。


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       上原彩子,        河村尚子,  

鮮鋭で美しいプロコフィエフ・・・河村尚子ピアノ・リサイタル@東京オペラシティ 2015.3.13

以前から河村尚子のピアノをちゃんと聴いてみたいと思っていて、今日、ようやく実現。日本デビュー10周年というアニバーサリーのリサイタルです。若手ピアニストだと思っていた河村尚子もベテランの域に入ってきたのでしょうか。

今日の河村尚子の演奏ですが、saraiはとても満足しました。期待を上回る会心の演奏でした。演奏の中身に触れるためには今日のプログラムを見ておく必要があります。

今日のプログラムは以下です。

  ピアノ:河村尚子

  J.S.バッハ(ブゾーニ編):シャコンヌ
  ショパン:ワルツ 第5番「大円舞曲」 Op.42
  ショパン:マズルカ 第13番 Op.17-4
  ショパン:ノクターン第8番 Op.27-2
  ショパン:舟唄 Op.60

   《休憩》

  ラフマニノフ:前奏曲 Op.23 第10番
  ラフマニノフ:前奏曲 Op.23 第7番
  プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第6番「戦争ソナタ」Op.82
    
   《アンコール》
    シューマン(リスト編曲): 献呈
    ショパン:ポロネーズ 第6番「英雄」Op.53
    ショパン:夜想曲 第20番 嬰ハ短調 Op.posth.

このプログラムを見て、特に後半のラフマニノフとプロコフィエフに注目しました。特に最後のプロコフィエフのピアノ・ソナタ第6番は超難曲です。戦争ソナタと言われる第6番、第7番、第8番の中の1曲ですが、これをプログラムの最後に置いたということは演奏者の意気込みが伝わってきます。正直、河村尚子がこの超難曲をどれほど弾きこなせるのか、不安もありましたが、そんな素人の懸念をふっとばしてしまう会心の演奏。予想を大きく上回る素晴らしい演奏に酔ってしまいました。第1楽章と第4楽章はぐいぐい推進していく外連味のない演奏で、難しいパッセージも濁りのないピュアーな響きで完璧な演奏。予習で聴いたブロンフマンのCDも素晴らしいテクニックの演奏でしたが、今日の河村尚子の演奏もテクニック的に遜色ないレベルの演奏で、しかももっと迫力のある演奏です。リヒテルの歴史的な演奏に比べても、引けを取らない演奏だったと思います。(リヒテルのCDは6枚ほど聴きましたが、1960年のカーネギーホールリサイタルのうち、最後の12月の演奏が勢いがあって素晴らしいです。)
今日のプロコフィエフの演奏で一番、心を惹かれたのは第3楽章。実に瑞々しい情緒に満ちた演奏で、深く聴き入ってしまいました。緊張感をはらみながらも美しい抒情を聴かせてくれる素晴らしい演奏で河村尚子ならではの表現が冴えわたりました。リヒテルの渇いた演奏よりも、今日の演奏を評価したいと思いました。

是非、次の機会には、プロコフィエフの戦争ソナタの残りの第7番と第8番も聴かせてもらいたいものです。もちろん、それ以外のプロコフィエフでもOKですけどね。

そうそう、アンコールですが、シューマンの献呈が鳴り始めたときはびっくり。とても美しい演奏にうっとりしました。そして、アンコール最後のショパンの夜想曲の第20番はとても心を込めた演奏で、ピアニストと聴衆の心が一体化するような素晴らしい演奏でした。


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       河村尚子,  

ウィーンフィルのブラームスの響き:キュッヒル・カルテット ベートーヴェンサイクルⅥ@サントリーホール 2014.6.21

今日はキュッヒル・カルテットのベートーヴェン弦楽四重奏曲チクルスの第6回目、最終回です。
昨日、予習について触れなかったので、まず、それから。

初期の2曲、第5番と第6番はヴェーグ・カルテットの新盤(1972年)。くまどりのはっきりした個性的な演奏で、初期とは思えないほどの深みを感じさせられる素晴らしさです。是非、ヴェーグ・カルテットの演奏で後期も聴いてみましょう。
中期・後期の第11番と第16番はエマーソン・カルテットのライヴ録音。鋭角的な迫力に満ちた演奏です。一度、エマーソン・カルテットの実演を聴いてみたいと思っていますが、なかなか機会に恵まれません。
ピアノ・ソナタ第9番はクラウディオ・アラウの新盤と旧盤で聴きました。本当に素晴らしい演奏。先週、アラウの追悼演奏会が開かれたウィーン近郊のミュルツシュラークのブラームス博物館に行ったことが強い思い出として定着しそうです。実はこの演奏会はアラウ自身がブラームス博物館の開館記念に演奏する予定だったようですが、この1991年にアラウが亡くなったために代役として、イエルク・デムスが追悼演奏会を行ったそうです。そのときのライヴ録音がCDになっていて、素晴らしいブラームスが演奏されています。そのCD が欲しくて、わざわざミュルツシュラークまで足を運びました。
話を戻して、つぎはそのピアノ・ソナタ第9番をベートーヴェン自身が編曲した弦楽四重奏曲ですが、あまりCD 化されておらず、手持ちのスメタナ・カルテットの全集の中に見つけましたので聴きました。はじめて聴いたとは思えないほど耳馴染みがあります。もちろん、ピアノ・ソナタとして、耳に残っていますが、まるで最初から弦楽四重奏曲として作曲されたみたいに感じます。さすがにベートーヴェン自身が編曲しただけのことはありますね。
最後に弦楽五重奏曲Op.29はやはりCD が少く、手持ちではバリリ・カルテット(+ヒューブナー)だけです。これは力の入った演奏。典雅で軽やかというバリリ・カルテットの印象をいい意味でくつがえすものです。1953年の録音とは思えないほどのリッチなサウンドでもありました。
予習は以上です。昨年、ハーゲン・カルテットのベートーヴェン弦楽四重奏曲チクルスの折にまとめて予習したので、そのときに漏れてしまった演奏を聴いてみました。

さて、今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:キュッヒル・カルテット
   第1ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル
   第2ヴァイオリン:ダニエル・フロシャウアー
   ヴィオラ:ハインリヒ・コル
   チェロ:ロベルト・ノーチ
  ヴィオラ:店村眞積
  ピアノ:河村尚子

  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第6番変ロ長調 Op.18-6
  ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第9番ホ長調 Op.14-1

   《休憩》

  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲ヘ長調 Hess34(ピアノ・ソナタ第9番の作曲家自身による編曲)
  ベートーヴェン:弦楽五重奏曲ハ長調 Op.29

   《アンコール》
    ブラームス:弦楽五重奏曲 第2番ト長調 Op.111 第2楽章
    ブラームス:弦楽五重奏曲 第2番ト長調 Op.111 第3楽章

最初の第6番は昨日の第5番とは違って、同じ初期ではありますが、バランスのよいアンサンブルで終始、満足して聴けました。

次はピアノ・ソナタ第9番。独奏は河村尚子。ちゃんと聴くのは初めてです。最近の彼女の評判を聞いて、聴きたいと思っていた人です。第1楽章を弾き出して、いきなり、がっかり。音の粒だちももうひとつだし、それ以上に音楽の流れが自然ではありません。別に予習したアラウと比較したわけではありませんが、何かせっかちな印象で間合いもとれていません。第2楽章に移ると落ち着いたのか、音楽に伸びやかさが出てきました。圧巻だったのは第3楽章。それまでの演奏が嘘だったように、音の響きは素晴らしく、音楽も自然に流れます。それに何と言っても音楽が生き生きと輝いています。全部で15分ほどの短い曲ですから、この調子で最初から弾き直して欲しいと真剣に思うほど、第3楽章の演奏は素晴らしいものでした。ということで、河村尚子の評価は持ち越しです。

休憩後はそのピアノ・ソナタ第9番をベートーヴェン自身が編曲した弦楽四重奏曲。何も言うことのない爽やかな演奏。ゆったりと楽しみました。

いよいよ最後の弦楽五重奏曲Op. 29。都響の特任首席でいつもお馴染みのヴィオラ奏者の店村が加わります。1人増えるとこんなに変わるものかと驚くほど、音の響きが豊かになります。普通の室内楽の団体ではこういうことはないかもしれませんが、今日のメンバーはいつもオーケストラで演奏している人たち。まるでちょっとした弦楽オーケストラの風情です。中期に向かうベートーヴェンの充実した音楽が響き渡ります。第1ヴァイオリンのキュッヒルはまさにコンサートマスターの引き締まった顔になり、メンバーに時折、鋭い視線を送ります。最初、ぎこちなかった店村も次第に溶け込んでいき、生き生きとした演奏。滅多に聴けないレアーな曲で、今日聴けたのはラッキー。大満足の演奏で幕となりました。

これで終わりと思ったら大間違い。この後のアンコールの凄かったこと! もしかしたら、本割よりも凄かったかもしれません。
ブラームスの弦楽五重奏曲ですが、まるでウィーン・フィルで聴くブラームスの交響曲を聴いているようです。少なくとも、コンサートマスターじゃなかった、第1ヴァイオリンのキュッヒルのヴァイオリンの響きはまさにウィーン・フィルが奏でるブラームスの交響曲の響きそのものです。キュッヒルのヴァイオリンは1人でもウィーン・フィルです。今度はキュッヒルと彼の仲間たちで是非、ブラームスの弦楽五重奏曲、弦楽六重奏曲を聴いてみたいものです。これまでCDで聴いてきたものとは一線を画すものになるような予感がします。

よろしくお願いします→サントリーホール殿。





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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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《あ》さん、saraiです。

結局、最後まで、ご一緒にブッフビンダーのベートーヴェンのソナタ全曲をお付き合い願ったようですね。
こうしてみると、やはり、ベートーヴェン

03/22 04:27 sarai

昨日は祝日でゆっくりオンライン視聴できました。

全盛期から技術的衰えはあると思いましたが、彼のベートーヴェンは何故こう素晴らしいのか…高齢のピアニストとは思えな

03/21 08:03 

《あ》さん、再度のコメント、ありがとうございます。

ブッフビンダーの音色、特に中音域から高音域にかけての音色は会場でもでも一際、印象的です。さすがに爪が当たる音

03/21 00:27 sarai

ブッフビンダーの音色は本当に美しいですね。このライブストリーミングは爪が鍵盤に当たる音まで捉えていて驚きました。会場ではどうでしょうか?

実は初めて聴いたのはブ

03/19 08:00 

《あ》さん、コメントありがとうございます。
ライヴストリーミングをやっていたんですね。気が付きませんでした。

明日から4回目が始まりますが、これから、ますます、

03/18 21:44 sarai

行けなかったのでオンライン視聴しました。

しっとりとした演奏。弱音はやはり美しいと思いました。
オンラインも良かったのですが、ビューワーが操作性悪くて困りました

03/18 12:37 

aokazuyaさん

コメントありがとうございます。デジタルコンサートホールは当面、これきりですが、毎週末、聴かれているんですね。ファゴットのシュテファン・シュヴァイゲ

03/03 23:32 sarai
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