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いつも書くことですが、素晴らしい演奏を言葉で表現することは大変難しいことです。何とか表現してみましょう。田部京子の演奏は素晴らしいテクニックをベースとして、実に丁寧なアーティキュレーションとフレージングの表現が見事で、聴くものがその音楽にぐっと惹きつけられます。しかし、本当に凄いのはそういうことではなくて、彼女の優しく心の襞を撫でてくれるような深い詩情、あるいは味わい(初めて経験するような感覚なので適用な言葉が思い当たりません)に満ちた演奏です。
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やはり、今日の演奏も最初に聴いた時の印象と同じです。特に前半のブラームスとシューベルトの晩年の作品はがっちりと心をつかまれるようなしみじみとした音楽でした。音楽の恍惚感に浸ってしまうだけで、音楽と一体化した自分を感じます。この人のピアノを聴きながら、自分が老いていく幸福感は最上のものです。
最初のブラームスの3つの間奏曲 Op.117ではブラームスの枯淡の境地を感じさせる最高のロマンを味わわせてくれます。これでブラームスのOp.117~Op.119までが弾かれ、Op.116を除くブラームス晩年の作品群がすべて弾かれたことになります。このシューベルトプラスシリーズでは中心軸のシューベルトの周辺にシューマン、ベートーヴェンとブラームスの後期作品を配して、ドイツ・オーストリア音楽の古典からロマン派までの真髄を稀有の才を持つピアニスト、田部京子が最高のレベルで開示してくれました。実に驚異的なシリーズだったと、このブラームスを聴いただけで実感しました。
そして、シューベルトの重要な作品でただひとつだけ残っていた3つの小品 D.946が遂に演奏されます。第1曲の哀切極まりない音楽に続き、第2曲のロンドの第二エピソードの美しい抒情には感極まります。第3曲は趣きが異なり、躍動感に満ちたものです。シューベルト最晩年の傑作中の傑作を田部京子は見事に奏で上げてくれました。これで田部京子のシューベルトは完結です。D.958~D.960の3つの遺作ソナタの極上の演奏を中心にシューベルトのすべてを聴いた思いです。
後半はシューマンのピアノ・ソナタ 第1番です。スケール感に満ちた壮大な演奏です。若きシューマンの燃えるような思いがそこに込められています。フロレスタン的な要素が印象的で、他のシューマン作品のようなフロレスタン的な要素とオイゼビス的な要素が目まぐるしく交代するような作品ではありませんが、かえって、シューマンの一途な思いが迫ってきます。この難しい作品を田部京子は見事に演奏しました。有名なピアノ・ソナタ第2番 Op.22も聴きたいところでした。最近聴いた藤田真央の凄い演奏と対比してみたかったですね。
遂に12月でこのシリーズも完結するそうです。最後はブラームス、ベートーヴェン、シューベルトの最後の作品(正確な表現ではありませんが)を弾くそうです。なかでもシューベルトの遺作ソナタD.960は田部京子の代名詞とも言うべきもの。このシリーズでは3回目の登場です。最後を締めくくるにふさわしいものです。心して謹聴しましょう。
今日のプログラムは以下です。
田部京子ピアノ・リサイタル
《シューベルト・プラス第9回》
ピアノ:田部京子
ブラームス:3つの間奏曲 Op.117
シューベルト:3つの小品 D.946
《休憩》
シューマン:ピアノ・ソナタ 第1番 Op.11
《アンコール》
シューマン:交響的練習曲 Op.13 変奏4(遺作) ??(確信はありません。違う曲だったかも)
シューマン(リスト編曲):献呈(君に捧ぐ)~歌曲集『ミルテの花』の第1曲
最後に予習について、まとめておきます。
ブラームスの3つの間奏曲 Op.117を予習したCDは以下です。
田部京子 2011年8月22日、23日、25日 上野学園 石橋メモリアルホール セッション録音
田部京子のブラームスの後期ピアノ作品集。これは名盤です。どれも素晴らしい。Op.116が収録されていないのが残念。
シューベルトの3つの小品 D.946を予習したCDは以下です。
田部京子 1993年10月20〜22日 秋川キララ・ホール セッション録音
田部京子のシューベルト、流石の素晴らしい演奏です。もう、30年ほど前の録音ですが、実に完成された録音です。
シューマンのピアノ・ソナタ 第1番を予習したCDは以下です。
アンドラーシュ・シフ 2010年6月20-22日 ノイマルクト、ライトシュターデル セッション録音
シフの弾くシューマンの素晴らしさは群を抜いています。そして、この曲の演奏では多分、ベストだと思うほどの美しさです。
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