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田部京子の弾くシューベルトの遺作ソナタ、19番、20番に深く感銘@浜離宮朝日ホール 2023.12.3

田部京子の全10回のシューベルト・プラス・シリーズに続いて、今年も年2回のペースでリサイタルがあります。今回はオール・シューベルト・プログラムで遺作のピアノ・ソナタ3曲のうち、2曲が聴ける嬉しい選曲です。いずれもシューベルト・プラス・シリーズに続いて、2回目の登場です。

前半は冒頭、シューベルトの即興曲 ハ短調 Op.90-1 D899-1が前奏曲のような形で演奏されます。10分ほどの短い曲ですが、憧れに満ちたロマンの香りがぎっしりと詰まっています。もう、これだけ聴いて、田部京子のシューベルト演奏の何たるかが分かります。格調の高い詩情を歌い上げた魂の音楽です。丁寧なアーティキュレーションで一音たりともないがせにしない作曲家に寄り添った演奏です。こんな素晴らしいシューベルト弾きが日本にいるのは奇跡としか思えません。

そして。いよいよ本番の遺作のピアノ・ソナタ。第19番 ハ短調 D958。のっけから、ベートーヴェンのハ短調を思わせる激しい打鍵です。しばらくすると、シューベルト本来の歌謡調の音楽になります。ともかく、完成度の高い作品を田部京子の美しい響きの音楽性の高い演奏で言うことがありません。ほのぼのとした詩情で憧れに満ちた音楽になっています。
第2楽章のアダージョは抒情に満ちて、しみじみとしています。こういう曲は田部京子がもっとも得意にするところです。うっとりと聴き入ります。
第3楽章のメヌエットはさらっと通り過ぎ、第4楽章のアレグロに入ります。ここでも詩情に満ちた音楽が展開されて、圧巻のフィナーレ。見事な演奏でした。


後半はやはり、遺作のピアノ・ソナタ。第20番 イ長調 D959。第21番と並ぶ傑作中の傑作。ベートーヴェンの後期ソナタと同じくらい、いや、それ以上に好きなピアノ曲です。
第1楽章の冒頭の動機はクレドのジャンジャンという2音。実に激しい冒頭の響きです。そして、第2楽章、アンダンティーノの寂しげで美しいメロディーが始まると、saraiの心は感極まります。中間部の凄まじい音響も恐ろしいほど素晴らしく、その後に美しいメロディーに戻ると心がとろけそうです。短い第3楽章のスケルツォを経て、終楽章に入ります。もう、これは言葉での表現ができそうにもありません。最高のシューベルトとしか、形容のしようがありません。終盤に入るころには田部京子のピアノの響きが美しく透明になり、まさに天国の調べを聴くか如くです。特に高域の音の魅力に満ちた美しさはピアノの究極の響きです。そうして、最終部に入っていきます。歩を止めるように、何度もパウゼを繰り返すところは、まるでシューベルトが美しいこの世から去り難く思っているような心情が見事に表現されています。聴いているsaraiが苦しくなってきます。そして、意を決したように圧巻のコーダで一気に最後まで駆け抜けていきます。まるでシューベルトとの別れを体験したような深い感動を覚えます。

アンコールはシューベルトの鉄板の作品、即興曲と楽興の時。これだけでもシューベルトの最高の音楽を体験できます。そして。最後の最後はやっぱりこれ、シューベルトの極め付きのアヴェ・マリアです。終わりに高域でアヴェ・マリアと歌った後、アーメンと終止します。田部京子の至芸です。

来年からはどうするのかと思っていたら、SINKA〈進化×深化×新化〉という新しいシリーズが始まります。テーマはよく分かりませんが、次回のコンサートのしめはシューマンの《ウィーンの謝肉祭の道化》。saraiが望んでいたシューマン・プラス・シリーズに近づいていきそうな気配です。田部京子がこれまで弾いてこなかったシューマンの作品が聴けそうな気配です。ノヴェレッテンとか森の情景とかが聴ければ嬉しいな。ブラームスも聴けるだけ聴きたいな。うきうき・・・。


今日のプログラムは以下です。

  田部京子ピアノ・リサイタル
   CDデビュー30周年×浜離宮リサイタル・シリーズ20周年記念 Part2

  ピアノ:田部京子
 
  シューベルト:即興曲 ハ短調 Op.90-1 D899-1

  シューベルト:ピアノソナタ 第19番 ハ短調 D958

  《休憩》

  シューベルト:ピアノソナタ 第20番 イ長調 D959

  《アンコール》
   シューベルト :即興曲 変ト長調 Op.90-3 D899-3
   シューベルト:楽興の時 第3番 ヘ短調 D780-3
   シューベルト(編曲:田部京子/吉松隆) :アヴェ・マリア 
   

最後に予習について、まとめておきます。

いずれも田部京子の演奏を聴きました。予習というよりも楽しみ半分です。
まず、シューベルトの即興曲 Op.90 D899は以下のCDを聴きました。

 田部京子 1997年10月7,9,10日 サラマンカ・ホール(岐阜) セッション録音
 

シューベルトのピアノソナタ 第19番は以下のCDを聴きました。

 田部京子 2000年11月14日~17日 愛知県豊田市コンサートホール セッション録音
 

後半のシューベルトのピアノソナタ 第20番は以下のCDを聴きました。

 田部京子 1997年10月7,9,10日 サラマンカ・ホール(岐阜) セッション録音

田部京子のシューベルトの一連の録音は伝説的とも言えますが、土の演奏もその中でもこれ以上の演奏はあるまいと思える傑出したものばかりです。



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       田部京子,  

田部京子の素晴らしいシューベルトの幻想ソナタを聴く@浜離宮朝日ホール 2023.6.25

田部京子の全10回のシューベルト・プラス・シリーズに続いて、今年も年2回のペースでリサイタルがあります。今回はシューベルト・プラス・シリーズで唯一聴き逃がしたシューベルトのピアノ・ソナタ第18番《幻想》が聴ける嬉しい選曲です。

前半は吉松隆のプレイアデス舞曲集からの4曲のそれは美しい演奏で始まります。
続いて、最新盤CD《メロディー》に収められたアンコール・ピース群の演奏です。いずれも憂愁な雰囲気の名曲が田部京子の詩情あふれる演奏で何も言うことはありません。ベーゼンドルファーの響きは田部京子の磨き抜かれた美音で、ただただ、魅了されます。
隠れたテーマは祈りでしょうか。コロナやウクライナで殺伐とした世界に田部京子が音楽の力で祈りを我々聴衆とともに思いを共有するという風情です。
個々の作品については最新盤CD《メロディー》で音楽評論家の広瀬大輔さんが卓抜な文章を寄せているので、saraiごときがうんぬんするのは止めましょう。田部京子ファンのかたは皆、このCDをお持ちでしょう。

後半は雰囲気が一転して、シューベルトの後期の3大ソナタに先立つピアノ・ソナタ第18番《幻想》です。シューベルトらしく長大な作品です。中でも最も長大な第1楽章を聴くだけで、もう卒倒するほどにシューベルトの素晴らしい世界が満喫できます。
第2楽章のアンダンテも根底に歌があり、長大な楽章で聴き応えがあります。
第3楽章のメヌエットは少々短いですが、シューベルトの人懐こい音楽に心が癒されます。
第4楽章のアレグレットは全曲を締めくくるのにふさわしい圧巻の音楽です。
後期の3ソナタにもひけをとらない素晴らしいソナタを田部京子が実に美しく歌い上げてくれました。これでsaraiにとってのシューベルト・プラスが完結した思いで感慨深いものがあります。

アンコールでもシューベルトの珍しい作品、そして、ウクライナのスコリクの祈りにも思える音楽、最後はやっぱりこれ、シューベルトの極め付きのアヴェ・マリアです。

これで田部京子のシューベルトを聴き終えたと思っていたら、なんと今年の12月にまた、オール・シューベルトのリサイタル。それも後期ソナタを2曲まとめて聴かせてくれます(19番、20番)。いいですよ。田部京子のシューベルトならば、聴き飽きることはありません。


今日のプログラムは以下です。

  田部京子ピアノ・リサイタル
   CDデビュー30周年×浜離宮リサイタル・シリーズ20周年記念

  ピアノ:田部京子
 
  吉松隆:プレイアデス舞曲集より
    前奏曲の映像 線形のロマンス 鳥のいる間奏曲 真夜中のノエル

  J. S. バッハ/コルトー:アリオーソ

  メンデルスゾーン:無言歌集より
    ないしょ話 Op.19-4 べニスのゴンドラの歌 第2番 Op.30-6

  グリーグ:抒情小曲集より ノクターン Op.54-4

  シベリウス:もみの木 Op.75-5

  グリンカ=バラキレフ:ひばり

  シューマン=リスト:献呈 S.566

  ドビュッシー:月の光

  《休憩》

  シューベルト :ピアノソナタ第18番「幻想」 D894 Op.78

  《アンコール》
   シューベルト :ハンガリー風のメロディ ロ短調 D817
   スコリク:メロディー
   シューベルト(編曲:田部京子/吉松隆) :アヴェ・マリア 

最後に予習について、まとめておきます。

いずれも田部京子の演奏を聴きました。予習というよりも楽しみ半分です。
前半の曲はほとんど、以下の最新盤《メロディー》からのものです。アンコールピースを集成したものです。

 田部京子 2022年10月31日~11月2日 ヤマハホール セッション録音
  ベーゼンドルファー Model280 VC(Vienna Concert)使用

吉松隆のプレイアデス舞曲集は以下のCDを聴きました。

 田部京子 1996年1月16~18日 秩父ミューズ・パーク セッション録音
 

後半のシューベルトのピアノソナタ第18番「幻想」を予習したCDは以下です。

 田部京子 1999年3月30日~4月2日 豊田市コンサートホール セッション録音

田部京子のシューベルトの一連の録音は伝説的とも言えますが、このソナタはその中でもこれ以上の演奏はあるまいと思える傑出したものです。。



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       田部京子,  

万感の思いでシューベルトを聴く・・・夢は枯野をかけ廻る 田部京子ピアノ・リサイタル《シューベルト・プラス第10回》@浜離宮朝日ホール 2022.12.4

田部京子のシューベルト・プラス・シリーズも今回で第10回、完了になります。こんな素晴らしいピアノが聴けて、大変幸せでした。最終回の今日は、ブラームスの最後のピアノ作品、ベートーヴェンの最後のピアノ・ソナタ、そして、シューベルトの最後のピアノ・ソナタ。いずれも既にこのシリーズで演奏されたものですが、最後にもう一度、これらの傑作を振り返ろうとするものです。そして、いずれも最高の演奏を聴かせてくれました。まさに天才ピアニスト、田部京子ならではの演奏でした。

最初のブラームスの4つの小品 Op.119は第1曲の間奏曲の深い味わいに始まり、第4曲のラプソディーの華やかで祝典的な演奏で心が高揚しました。

次のベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番が凄かった! 第1楽章の壮大な音楽の高揚、そして、第2楽章のアリエッタの抒情は何と形容してよいのか、頭を垂れて聴き入るのみでした。ベートーヴェンの崇高さを田部京子は最高の形で表現してくれました。今日のコンサートはこれで終わっても満足して帰れるようなものでした。

休憩後、田部京子の代名詞とも言えるシューベルトのピアノ・ソナタ 第21番。このシリーズで3回目の登場ですが、何度でも聴きたい音楽です。全4楽章、完璧な演奏が当たり前のように奏でられます。長大な第1楽章は永遠の憧憬を感じさせる詩情に満ちた圧巻の演奏。これ以上の演奏は望むべくもありません。そして、第2楽章は何と言う素晴らしい音楽の発露でしょう。即興曲の味わいです。憬れとも祈りとも思えるひたむきな音楽が、ここでも詩情豊かに奏でられます。ここは田部京子の独壇場の音楽です。彼女の美しい魂が優しい心の襞を撫でてくれるようです。深い感動を覚えます。煌めくような第3楽章を経て、心が高揚する第4楽章です。この長大な楽章は田部京子の冴えたピアニズムで盛り上がっていきます。今日もこの田部京子のための音楽がsaraiの心を癒してくれました。うーん、とても素晴らしかった。

アンコールもシューベルトが続きます。即興曲の素晴らしい演奏は魂の音楽です。最後はこれしかないアヴェ・マリア。美しい音楽を受容するのみです。

これでこのシリーズも完結。素晴らしかったシリーズを締めくくるのにふさわしい音楽を聴かせてもらいました。シリーズは完結しましたが、来年の6月はまた、CDデビュー30周年のリサイタルがあります。首尾よく、本日、チケットも入手しました。シリーズで唯一聴き逃がした第1回で演奏されたシューベルトのピアノ・ソナタ第18番《幻想》が聴けるという嬉しいサプライズ。saraiにとって、本当の完結編になりそうです。


今日のプログラムは以下です。

  田部京子ピアノ・リサイタル
   《シューベルト・プラス第10回》

  ピアノ:田部京子
 
  ブラームス:4つの小品 Op.119
  ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番 Op.111

  《休憩》

  シューベルト:ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D960

  《アンコール》
   シューベルト :即興曲集 第3番 D 899 Op.90-3 変ト長調
   シューベルト(編曲:吉松隆) :アヴェ・マリア 

最後に予習について、まとめておきます。

ブラームスの4つの小品 Op.119を予習したCDは以下です。

 田部京子 2011年8月22日、23日、25日 上野学園 石橋メモリアルホール セッション録音

田部京子のブラームスの後期ピアノ作品集。これは名盤です。どれも素晴らしい。Op.116が収録されていないのが残念。


ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番を予習したCDは以下です。

 田部京子 2015年8月12-14日 東京都、稲城ⅰプラザ セッション録音

田部京子のベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタも最高です。何故、全集の録音をしないのか、不思議で残念です。


シューベルトのピアノ・ソナタ 第21番を予習したCDは以下です。

 田部京子 1993年10月20~22日 秋川キララ・ホール セッション録音

これ田部京子のシューベルト作品集の最初の録音です。もう、30年近く前の録音ですが、今回、また聴き直してみましたが、やはり、何度聴いても素晴らしい演奏です。聴き惚れてしまいます。今度はライヴで再録音してもらいたいものですが、たとえ、再録音されなくても満足の1枚です。


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       田部京子,  

田部京子と上岡敏之の最高のベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番 新日本フィルハーモニー交響楽団@すみだトリフォニーホール 2022.10.15

1昨年はコロナ禍での代役とは言え、田部京子が弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲を聴く機会が多くて、その素晴らしい演奏に魅了されました。今回も代役ですが、コロナ禍は関係なく、ラルス・フォークトの突然の死によってのものです。彼のご冥福をお祈りします。ともあれ、田部京子の名作が聴けるとのことで、急遽、このコンサートに駆けつけることにしました。田部京子が代役で演奏することを教えてくれて、チケット購入の便宜を図ってくれたお友達のSteppkeさんに感謝します。期待通りの素晴らしい演奏でした。

その演奏について、早速、感想を書いてみます。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番の第1楽章はピアノ独奏から始まります。田部京子はいつも通りの丁寧で繊細なピアノ演奏です。続いて、オーケストラの演奏が始まります。抑えた演奏から徐々に熱を帯びてきます。上岡敏之の音楽の持っていきかたの素晴らしさに感銘します。失礼ながら、こんなに素晴らしい指揮をするとは思っていなかったので、驚きました。この後も上岡敏之の素晴らしい指揮でベートーヴェンを堪能しました。田部京子のピアノは絶好調。テクニックも音楽性も文句ないレベルですっかり魅了されます。第1楽章のカデンツァは実に素晴らしい演奏。最高の演奏で魅了してくれます。トリルの見事さには脱帽です。それに音楽だけでなく、彼女の鍵盤の上を走る手の動きの美しさにも感銘を覚えます。

第2楽章は田部京子の独壇場のピアノ演奏です。オーケストラの強奏とナイーブなピアノ独奏が交互に続くベートーヴェンの独創的な音楽で、田部京子の抒情味豊かなピアノの響きが心を打ちます。オーケストラの激しい荒波に耐える一輪のか弱い花が美しい歌を歌い上げます。究極の弱音(ピアノ)の美しさが見事過ぎます。そして、その果てに田部京子だけが表現できる美しい詩情が高潮します。さらに素晴らしいトリルで音楽は絶頂を迎えます。感動の第2楽章でした。思わず、脳裏に少女時代のマルタ・アルゲリッチがクラウディオ・アラウの演奏を聴いて、この同じ部分で音楽とは何かということを初めて悟ったという逸話が浮かび上がります。アルゲリッチはその後、この曲の演奏を封印したそうです。多分、今でも弾いていないのではないでしょうか。確かに録音で聴くアラウの演奏の素晴らしさは極め付きと言えますが、今日の田部京子の美しい詩情はそれ以上にも思えます。

第2楽章から第3楽章への移行も素晴らしいです。田部京子と上岡敏之の息もぴったり合って、第3楽章が始まります。第3楽章は一転して、切れのよいピアニズムで進行します。そして、圧巻のフィナーレ。終わってみれば、これ以上はない最高のベートーヴェンでした。田部京子のピアノも最高でしたが、上岡敏之のサポートの素晴らしかったこと! 彼はこんなに素晴らしい指揮者だったのですね。新日フィルの音楽監督を去ったことが今更ながら、残念に思えます。

さて、前半の冒頭のモーツァルトのフルートとハープのための協奏曲ですが、フルートの上野星矢は低域から高域まで素晴らしい響きで、レガートの美しさはもとより、タンギングの歯切れのよさまで、完璧な演奏でした。ハープの山宮るり子も素晴らしい演奏で、お二人の演奏は見事としか言えません。以前聴いたエマニュエル・パユとマリー=ピエール・ラングラメの素晴らしかった演奏にもひけをとらないレベルの演奏でした。

後半はブラームスの交響曲第2番。これが何とも素晴らしい演奏。ここでも上岡敏之の指揮に感銘を覚えます。ぴたっとはまったブラームスの音楽表現。少し金管の音色が明る過ぎるきらいはありますが、弦の美しい表現には絶句します。音楽が高潮するときの上岡敏之の熱く燃え上がる指揮にオーケストラだけでなく、saraiの心も鼓舞されます。ヴェルター湖のほとりの町、ペルチャッハの美しい自然を彷彿とさせる演奏です。ドイツでの生活が長い上岡敏之の心に沁みついたブラームスの音楽表現なのかなと思いつつ、ロマン派の音楽を堪能しました。ブラームスの交響曲の全曲を聴いてみたい気持ちになっています。

今日のコンサート、どの演奏も大変、満足しました。いつもこんなレベルのコンサートを聴かせてくれるのならば、新日フィルの定期会員になりたいくらいです。でも、上岡敏之は既に音楽監督の座を退いたのですね。残念です。

さて、今日はこの後、サントリーホールに移動して、この日2度目のコンサートです。ジョナサン・ノット指揮の東響の演奏で期待のショスタコーヴィチの交響曲第4番を聴きます。実は一期一会のもの凄い演奏を聴くことになりますが、その記事は別稿でご報告します。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:上岡敏之(新日本フィル 第4代音楽監督)
  フルート:上野星矢
  ハープ:山宮るり子
  ピアノ:田部京子
  管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団  コンサートマスター:崔文洙

  モーツァルト:フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 K.299
  ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 Op.58

   《休憩》

  ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 Op.73


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のモーツァルトのフルートとハープのための協奏曲は以下のCDを聴きました。

 ジャン=ピエール・ランパル、リリー・ラスキーヌ、ジャン=フランソワ・パイヤール指揮パイヤール室内管弦楽団 1963年 セッション録音
 
定番中の定番。saraiが子供の頃から慣れ親しんでいる演奏を久しぶりに聴きました。懐かしい演奏を聴き、満足しました。


2曲目のベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番は以下のCDを聴きました。

 クラウディオ・アラウ、ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1964年4月 アムステルダム、コンセルトヘボウ セッション録音
 
アラウの旧盤です。この20年後にデイヴィスとドレスデン・シュターツカペレと共演した録音もあります。あえて、若い頃、と言っても60代ですが、十分なテクニックがあったころの演奏を聴きました。美しいピアノの響き、そして、溜めの効いた演奏が見事です。


3曲目のブラームスの交響曲第2番は以下のCDを聴きました。

 オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団 1956年10月 セッション録音
 
クレンペラーと言うと、無骨なイメージがありますが、とても美しいロマンに満ちた演奏です。最近、クレンペラーを再評価して、よく聴くようになってきました。



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       田部京子,  

ただただ、その詩情に満ちたピアノの響きに耳を傾けるだけ 田部京子ピアノ・リサイタル《シューベルト・プラス第9回》@浜離宮朝日ホール 2022.6.26

こんな素晴らしいピアノを聴いて、言葉もありません。田部京子が紡ぎ出す音楽は天上の世界です。田部京子のピアノが聴けるのが、日本人として生まれた特権だとさえ思えます。それほど評判にならないのが不思議ですが、かくいうsaraiも彼女の素晴らしさに気づいて、はまってしまったのは、たった5年前のことです。今日聴いている田部京子ピアノ・リサイタル《シューベルト・プラス》@浜離宮朝日ホールの2回目を聴いたのが実質的な初めての遭遇です。結局、そのとき受けた印象が今でも変わっていません。saraiの文章力のなさに情けなくなりますが、そのとき以上の文章は書けません。ですから、そのときの文章を以下に引用します。

------------------ここから引用開始-----------------------
いつも書くことですが、素晴らしい演奏を言葉で表現することは大変難しいことです。何とか表現してみましょう。田部京子の演奏は素晴らしいテクニックをベースとして、実に丁寧なアーティキュレーションとフレージングの表現が見事で、聴くものがその音楽にぐっと惹きつけられます。しかし、本当に凄いのはそういうことではなくて、彼女の優しく心の襞を撫でてくれるような深い詩情、あるいは味わい(初めて経験するような感覚なので適用な言葉が思い当たりません)に満ちた演奏です。
------------------ここまで引用終了-----------------------

やはり、今日の演奏も最初に聴いた時の印象と同じです。特に前半のブラームスとシューベルトの晩年の作品はがっちりと心をつかまれるようなしみじみとした音楽でした。音楽の恍惚感に浸ってしまうだけで、音楽と一体化した自分を感じます。この人のピアノを聴きながら、自分が老いていく幸福感は最上のものです。

最初のブラームスの3つの間奏曲 Op.117ではブラームスの枯淡の境地を感じさせる最高のロマンを味わわせてくれます。これでブラームスのOp.117~Op.119までが弾かれ、Op.116を除くブラームス晩年の作品群がすべて弾かれたことになります。このシューベルトプラスシリーズでは中心軸のシューベルトの周辺にシューマン、ベートーヴェンとブラームスの後期作品を配して、ドイツ・オーストリア音楽の古典からロマン派までの真髄を稀有の才を持つピアニスト、田部京子が最高のレベルで開示してくれました。実に驚異的なシリーズだったと、このブラームスを聴いただけで実感しました。

そして、シューベルトの重要な作品でただひとつだけ残っていた3つの小品 D.946が遂に演奏されます。第1曲の哀切極まりない音楽に続き、第2曲のロンドの第二エピソードの美しい抒情には感極まります。第3曲は趣きが異なり、躍動感に満ちたものです。シューベルト最晩年の傑作中の傑作を田部京子は見事に奏で上げてくれました。これで田部京子のシューベルトは完結です。D.958~D.960の3つの遺作ソナタの極上の演奏を中心にシューベルトのすべてを聴いた思いです。

後半はシューマンのピアノ・ソナタ 第1番です。スケール感に満ちた壮大な演奏です。若きシューマンの燃えるような思いがそこに込められています。フロレスタン的な要素が印象的で、他のシューマン作品のようなフロレスタン的な要素とオイゼビス的な要素が目まぐるしく交代するような作品ではありませんが、かえって、シューマンの一途な思いが迫ってきます。この難しい作品を田部京子は見事に演奏しました。有名なピアノ・ソナタ第2番 Op.22も聴きたいところでした。最近聴いた藤田真央の凄い演奏と対比してみたかったですね。

遂に12月でこのシリーズも完結するそうです。最後はブラームス、ベートーヴェン、シューベルトの最後の作品(正確な表現ではありませんが)を弾くそうです。なかでもシューベルトの遺作ソナタD.960は田部京子の代名詞とも言うべきもの。このシリーズでは3回目の登場です。最後を締めくくるにふさわしいものです。心して謹聴しましょう。


今日のプログラムは以下です。

  田部京子ピアノ・リサイタル
   《シューベルト・プラス第9回》

  ピアノ:田部京子
 
  ブラームス:3つの間奏曲 Op.117
  シューベルト:3つの小品 D.946

  《休憩》

  シューマン:ピアノ・ソナタ 第1番 Op.11

  《アンコール》
   シューマン:交響的練習曲 Op.13 変奏4(遺作) ??(確信はありません。違う曲だったかも)
   シューマン(リスト編曲):献呈(君に捧ぐ)~歌曲集『ミルテの花』の第1曲

最後に予習について、まとめておきます。

ブラームスの3つの間奏曲 Op.117を予習したCDは以下です。

 田部京子 2011年8月22日、23日、25日 上野学園 石橋メモリアルホール セッション録音

田部京子のブラームスの後期ピアノ作品集。これは名盤です。どれも素晴らしい。Op.116が収録されていないのが残念。


シューベルトの3つの小品 D.946を予習したCDは以下です。

 田部京子 1993年10月20〜22日 秋川キララ・ホール セッション録音

田部京子のシューベルト、流石の素晴らしい演奏です。もう、30年ほど前の録音ですが、実に完成された録音です。


シューマンのピアノ・ソナタ 第1番を予習したCDは以下です。

 アンドラーシュ・シフ 2010年6月20-22日 ノイマルクト、ライトシュターデル セッション録音

シフの弾くシューマンの素晴らしさは群を抜いています。そして、この曲の演奏では多分、ベストだと思うほどの美しさです。



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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金婚式、おめでとうございます!!!
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10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

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07/08 15:53 じじい@

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06/18 12:46 sarai

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