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田部京子のシューベルトは世界初演のピアノ協奏曲? 藤岡 幸夫&東京シティ・フィル@ティアラこうとう(江東公会堂)大ホール 2022.1.29

恐いものみたさでこのコンサートに足を運んでみました。何と言っても、ピアノ曲の最高峰のひとつであるシューベルトのピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調D.960を協奏曲に編曲というのですから凄い。しかし、これを原曲と比較するというのは野暮過ぎます。そりゃーね、saraiが愛してやまぬシューベルトのピアノ・ソナタ第21番ですからね。先月も田部京子の演奏で素晴らしい演奏を聴いたばかりです。まだ、頭の中にそのときの演奏が残っています。
もっとも、編曲した吉松隆さんもそもそも田部京子さんの弾くシューベルトのピアノ・ソナタ第21番に魅せられて、この編曲を行ったそうです。そういうシューベルトへの愛を聴くというのが正しい聴き方なのかもしれません。そういう意味では、隅々まで熟知した名曲を違った形で聴いて、楽しめました。編曲が一番成功していたのは第2楽章。寂漠としたところこそ、もうひとつでしたが、とても美しい音楽に仕上がっていました。田部京子のピアノは珍しくベーゼンドルファーでした。演奏はもちろん、お得意のシューベルトですから悪かろう筈はありません。ですが、ちょっとオーケストラに合わせ気味でテンポが平板な感じになっていたのが残念なところ。いつもの詩的表現が前面に出ていない印象でした。

実はこの東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団を聴くのは今日が初めてです。評判はこれまでも聞いていたので、お手並み拝見というところです。後半のシベリウスの交響曲第1番、とても見事な演奏でした。最高の演奏と言ってもいいでしょう。冒頭のクラリネットの独奏から素晴らしくて、ぐっと惹き込まれます。第1楽章は第1ヴァイオリンのアンサンブルがもうひとつに思えましたが、それを補って余りあるのが、管セクションの素晴らしい演奏。ヴィオラも見事です。第2楽章にはいると、第1ヴァイオリンも美しいアンサンブルに変わります。すべてのパートが素晴らしいアンサンブルで響きます。実に瑞々しいシベリウスです。響きも音楽表現も最高です。そのまま、第3楽章、第4楽章と進みます。そして、圧巻のフィナーレ。実演で聴いたこの曲の演奏では最高のものです。こういう響きでチャイコフスキーを聴いてみたいとふと思います。在京オーケストラでは、もっとアンサンブルのよいオーケストラもありますが、どこか魅力を感じさせて、音楽に惹き込む力があります。思わず、3月のマーラーの交響曲第9番も聴きたくなって、ぽちっとチケットを買ってしまいました。来季の春シーズンもとりあえず、聴いてみましょう。東響、読響、都響、N響に続いて、気になる存在が増えました。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:藤岡 幸夫(首席客演指揮者)
  ピアノ:田部 京子
  管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団  コンサートマスター:戸澤哲夫

  シューベルト(吉松隆編):ピアノ協奏曲・・・ピアノ・ソナタ 変ロ長調D.960(第21番)のピアノとオーケストラのための演奏用バージョン(世界初演)

   《休憩》

  シベリウス:交響曲第1番 ホ短調 Op.39


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のシューベルト(吉松隆編)のピアノ協奏曲は世界初演なので予習は原曲のピアノ・ソナタ 変ロ長調D.960(第21番)を聴きました。

 田部京子 1993年10月20~22日 秋川キララ・ホール セッション録音

これは田部京子のシューベルト作品集の最初の録音です。もう、30年近く前の録音です。最近も聴いたばかりでしたが、何度聴き直してみても、やはり、素晴らしい演奏です。聴き惚れてしまいました。今度はライヴで再録音してもらいたいものですが、たとえ、再録音されなくても満足の1枚です。


2曲目のシベリウスの交響曲第1番は以下のCDを聴きました。

 パーヴォ・ベルグルンド指揮ヨーロッパ室内管弦楽団 1997年10月 セッション録音
 
シベリウスの同郷人であるベルグルンドはシベリウスのスペシャリストとも言える最高の存在。その彼が最後に残した3回目の交響曲全集は何とフィンランドのオーケストラではなく、ヨーロッパ室内管弦楽団。彼がドリームチームと呼んだだけのことはあり、そのピュアーな響きは最高です。これがベルグルンドが最終的に見つけたシベリウスだったんですね。saraiの一番のお気に入りのシベリウスです。ベルグランドを含めたフィンランド人指揮者によるヘルシンキ・フィルのシベリウスも好きですが、一番のお気に入りはこのCDです。



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       田部京子,  

とびっきり極上のシューベルト、ピアノ・ソナタ第21番 田部京子ピアノ・リサイタル《シューベルト・プラス第8回》@浜離宮朝日ホール 2021.12.19

コロナ禍でシューベルト・プラス・シリーズは昨年はちょっと中断してしまいましたが、今年は無事、年2回のペースに戻りました。そして、このシリーズの目玉であるシューベルトのピアノ・ソナタ 第21番が再登場です。シューベルト・プラス・シリーズで同じ曲が2回弾かれるのは異例のことですが、この作品はこのシリーズの柱ですし、saraiの最愛のピアノ曲なので、大歓迎です。

今日の田部京子は最初から絶好調の演奏を聴かせてくれます。モーツァルトのピアノ・ソナタ 第17番は第2楽章が絶品。こんなに美しい演奏は聴いたことがありません。しかし、それは序章。

次のブラームスの6つの小品 Op.118は圧倒的な演奏です。第2曲は当然、絶美の演奏ですが、最後の第6曲のパトスと抒情の交錯する演奏の凄かったこと。曲の弾き始めの幻想的な味わいを実に深く、緊張感を持って、演奏してくれました。この幻想的なパートを詩情に満ちて演奏できるのは田部京子だけです。ここが素晴らしいので、パトスの迸る中間部が激しく高揚するんです。昨年聴いたシフの演奏も凄かったのですが、今日の田部京子の演奏は圧倒的でした。

でも、後半のシューベルトのピアノ・ソナタ 第21番を聴いて、前半の素晴らしい演奏は頭から吹っ飛びます。心技体、すべてが完璧な演奏です。3年前に聴いたときはこんなレベルではありませんでした。テクニックが不調なところを精神面で補った感がありましたが、今日はすべてが最高です。うーん、saraiも前のめりになって聴き惚れます。第1楽章の冒頭はそっと入ります。この時点ではどうなるか分かりませんでしたが、すぐに見事な演奏にsaraiが翻弄されます。美しい音と切れのあるタッチ。旋律を繰り返すたびに演奏の精度が高まっていきます。シューベルトが書いた奇跡のような音楽・・・田部京子の演奏も奇跡のようなものです。ミューズが舞い降りてきたとしか言えません。郷愁に満ちて、そして、永遠への憧れ。シューベルトの遺作ソナタの高みを最高の形で表現してくれます。そして、第2楽章。これは田部京子の独壇場であるロマンと抒情に満ち溢れた極上の演奏に酔い痴れます。音楽とはかくも美しいものなのか。ピアノ演奏の究極を聴いた思いです。鍵盤を走る田部京子の白い指の美しい動きにも見とれます。第2楽章までで30分以上も過ぎますが、演奏と一体になった緊張感、集中力は高まるばかりです。第3楽章は軽い疾走ですが、ピアノの響きの美しさはますます冴え渡ります。第4楽章は緊張感のあるパトスの高揚が続き、そして、圧巻のコーダに突入します。凄い高まりの中、シューベルトの最高の音楽が完結します。凄い音楽を聴いてしまいました。このシューベルト・プラス・シリーズで最高の演奏ではなかったでしょうか。まあ、天才ピアニスト、田部京子ならば、これくらい弾いて当然だったのかもしれません。それにしても、一音一音、実に丁寧にピアノを弾く姿勢には驚愕するだけです。

アンコールはシューベルトの即興曲。これまた名曲です。憧憬に満ちた素晴らしい演奏でした。そして、締めは田部京子スペシャルのアヴェ・マリア。最後の2音はアーメン・・・。

次回、来年の6月はいよいよ、シューベルトの後期作品で残っていた最晩年の名曲、D.946の3つの即興曲(3つの小品)が弾かれます。そして、ブラームスの晩年の3つの間奏曲 Op,117。すべてが完結に向かっています。来年の12月に予想される第10回が完結になるのでしょうか。もう、弾いていない曲はないと思いますが、2度目に弾く曲もありでしょう。いっそのことシューベルトの遺作ソナタ3曲をまとめて弾いたら、それは素晴らしいことになりますね。もっとも、次回はシューマンのピアノ・ソナタ第1番を弾くようですが、そうなると、残りのピアノ・ソナタ2曲も弾いてもらわないといけませんね。そうすると、このまま、シューマン・プラスに移行するしかありませんね。シューマンのピアノ曲はまだまだ、たくさんあります。


今日のプログラムは以下です。

  田部京子ピアノ・リサイタル
   《シューベルト・プラス第8回》

  ピアノ:田部京子
 
  モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第17番 変ロ長調 K.570
  ブラームス:6つの小品 Op.118

  《休憩》

  シューベルト:ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D960

  《アンコール》
   シューベルト:即興曲 D899、Op.90から 第3曲 Andante 変ト長調
   シューベルト(吉松隆・田部京子 共同編曲):アヴェ・マリア

最後に予習について、まとめておきます。

モーツァルトのピアノ・ソナタ 第17番を予習したCDは以下です。

 マリア・ジョアン・ピリス 1974年1月~2月、東京、イイノホール セッション録音

ピリスが29歳の若さで録音したモーツァルトのピアノ・ソナタ全集。何とも純真な乙女の清新で瑞々しい演奏です。saraiはこれ以上の演奏は知りません。若いっていいですね。藤田真央がソニーからモーツァルトのピアノ・ソナタ全集をインターナショナルにリリースするそうですが、それも楽しみです。そう言えば、アンドラーシュ・シフのモーツァルトのピアノ・ソナタ全集も26歳頃の録音で素晴らしい演奏でした。


ブラームスの6つの小品 Op.118を予習したCDは以下です。

 田部京子 2011年8月22日、23日、25日 上野学園 石橋メモリアルホール セッション録音

田部京子のブラームスの後期ピアノ作品集。これは名盤です。どれも素晴らしい。Op.116が収録されていないのが残念。


シューベルトのピアノ・ソナタ 第21番を予習したCDは以下です。

 田部京子 1993年10月20~22日 秋川キララ・ホール セッション録音

これ田部京子のシューベルト作品集の最初の録音です。もう、30年近く前の録音ですが、今回、改めて聴き直してみましたが、やはり、素晴らしい演奏です。聴き惚れてしまいました。今度はライヴで再録音してもらいたいものですが、たとえ、再録音されなくても満足の1枚です。



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       田部京子,  

あまりに素晴らし過ぎるシューマンのクライスレリアーナ、その詩情に満ちた演奏に絶句 田部京子ピアノ・リサイタル《シューベルト・プラス第7回》@浜離宮朝日ホール 2021.7.24

前回の《シューベルト・プラス第6回》はコロナ禍前の一昨年の暮れに催されました。昨年の暮れの《シューベルト・プラス特別編》を挟んで、緊急事態宣言下で、ようやく、《シューベルト・プラス第7回》が再開されました。既にシューベルトの主要な作品、特に晩年の作品は弾き終わり、今日は若い頃のシューベルトが書いたピアノ・ソナタ第4番でプログラムが始まりました。冒頭はなんだか、田部京子らしくないピアノの響きです。力強さはありますが、美しい響きとは言えません。それでも弱音の抒情的なパート、特に第2楽章の主要テーマは素晴らしく魅力的ではありました。ほぼほぼ満足という感じです。
次のショパンのピアノ・ソナタ第2番「葬送」は第1楽章、第2楽章のダイナミックな演奏が素晴らしいのですが、やはり、田部京子らしくて、魅了されたのは第3楽章の中間部の抒情的なパートです。全般に素晴らしい演奏ではありましたが、曲自体がそれほど田部京子向きではないのが残念なところです。

今日はこんなものかなあと思っていたら、後半のシューマンのクライスレリアーナの凄かったこと! ピアノの響きも美しく、完璧とも思える演奏でした。昨年聴いた上原彩子の演奏も素晴らしかったのですが、あれはむらのある演奏でした。もっとも、それが魅力ではありました。今日の田部京子の演奏は魅力にあふれて、完璧でもありました。saraiの人生で最高のクライスレリアーナです。多分、これを超える演奏を聴くことはないでしょう。シューマンのピアノ曲で一番好きなクライスレリアーナの凄い演奏を聴いて、感無量です。迫力のあるパートも素晴らしかったのですが、やはり、シューマンの詩情に満ちた音楽をこのように演奏できるのは田部京子だけでしょう。いつもはこの曲は切れ込みの鋭い演奏に魅了されますが、抒情に満ちた詩情にこれほど魅了されたことはありません。シューベルトと同様、田部京子はシューマンの本質を描き出すことのできる稀有な天才ピアニストです。曲の詳細な演奏の感想を書きたいところですが、クライスレリアーナのような複雑な構造の作品は大づかみな印象しか、捉えることができません。それがシューマンの音楽の魅力だと思っています。これで田部京子のシューマンもこのクライスレリアーナで、これまでの幻想曲、交響的練習曲、謝肉祭など、主要な作品は聴かせてもらいました。もう満足です。あとはブラームスの後期作品、Op.116~Op.119が聴ければ満足です。既にOp,119は素晴らしい演奏を聴かせてもらいました。今年の暮れの次回のシューベルト・プラスでOp.118を聴かせてもえるようです。残りはOp.116とOp,117ですね。もちろん、シューベルトの最晩年のD.946の3つの即興曲(3つの小品)も残っています。シューベルト・プラスのシリーズも終盤にかかってきました。

そうそう、アンコールのトロイメライとショパンの夜想曲第20番もとびっきり、美しい演奏でした。最後はアヴェアリアで〆かと期待しましたけどね。


今日のプログラムは以下です。

  田部京子ピアノ・リサイタル
   《シューベルト・プラス第7回》

  ピアノ:田部京子
 
  シューベルト:ピアノ・ソナタ第4番イ短調D.537 Op.164
  ショパン:ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調「葬送」Op.35

  《休憩》

  シューマン:クライスレリアーナ Op.16

  《アンコール》
   シューマン:『子供の情景』Op.15 より 第7曲 トロイメライ(夢) (Träumerei)
   ショパン:夜想曲第20番 嬰ハ短調 BI. 49「レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ(Lento con gran espressione)」(遺作)


最後に予習について、まとめておきます。

シューベルトのピアノ・ソナタ第4番を予習したCDは以下です。

 アルフレート・ブレンデル 1982年3月、ロンドン セッション録音

シューベルトのピアノ曲全集と言えば、やはり、ブレンデル。この曲も美しいピアノの響きが素晴らしいです。


ショパンのピアノ・ソナタ第2番「葬送」を予習したCDは以下です。

 ウラディミール・ホロヴィッツ 1962年 セッション録音

まさに鉄壁の演奏。何もいうことはありません。


シューマンのクライスレリアーナを予習したCDは以下です。

 ウラディミール・ホロヴィッツ 1985年 セッション録音

これも完璧な演奏。これにマルタ・アルゲリッチの録音があれば、ほかには何も必要ありません。ホロヴィッツの鉄壁な演奏とアルゲリッチの奔放な演奏が並び立ちます。



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       田部京子,  

田部京子、胸の熱くなる究極のモーツァルト with 佐渡裕&新日本フィルハーモニー交響楽団@すみだトリフォニーホール 2021.1.16

昨年は田部京子が弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲を聴く機会が多くて、その素晴らしい演奏に魅了されました。しかし、今日のモーツァルトのピアノ協奏曲は別次元の素晴らしさ。ピアノの響き、タッチ、フレージング、切れ、音楽表現などのあまりの美しさに胸が熱くなりました。天才ピアニスト、田部京子にしても、この演奏レベルの素晴らしさに至るためには、このコンサートに向けて、よほどの準備を重ねたんでしょう。この演奏の素晴らしさを表現するには言葉を尽くしても足りません。

第1楽章、美しいオーケストラの音楽が雰囲気を高めていきます。力の抜けたバランスのよい演奏です。初聴きかもしれない佐渡裕の指揮も好感を持てます。いわゆるデモーニッシュな表現とは対極をいくような繊細な音楽が奏でられます。そのオーケストラの好演をエネルギーに変えて、田部京子の切れの良いタッチのピアノが純粋無垢な響きを奏でていきます。特に右手で奏でる高域の響きが心地よい旋律を浮き立たせます。聴いているsaraiの魂が揺さぶられます。その桃源郷のような世界に浸っているうちにカデンツァが始まります。ベートーヴェンの作ったカデンツァですね。カデンツァ終盤の見事なトリルはまるでベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番の第2楽章を想起させるような素晴らしい演奏です。

第2楽章はピアノのソロで始まります。冒頭はもうひとつの響きですが、オーケストラ、とりわけ、弦の美しい響きに触発されるかのようにピアノの響きも純化していきます。この楽章のトリオが終わった後、また、冒頭のメロディーが戻ってきたときは見違えるような美しい響きで細部の表現も磨き上げられたようなタッチで描き出されます。うっとりしながら、この楽章を終えます。

第3楽章は一転して、切れのよいピアニズムで進行します。それも音楽が進行するにつれて、実に流麗な音楽が流れ、saraiの心も浮き立ちます。いつしか、最後のカデンツァに突入し、田部京子の音楽表現の見事さに感動するのみです。最後は鍵盤上をダイナミックに指が左右に音階を奏でて、カデンツァが終わります。まるで独奏曲のフィナーレのようです。一瞬の間を置き、オーケストラが一気にテンポを上げて、コーダに向かっていきます。田部京子のピアノもそれに同期して、実に切れのよい響きを奏でていきます。そして、圧巻のフィナーレ。心の中でブラボーをコールします。最高のピアノ協奏曲第20番でした。

最愛のクララ・ハスキルとは違った音楽表現でしたが、丁寧で美しいタッチ、繊細さでは上回ったかもしれません。恐ろしいほど、緊張感に満ちた究極の演奏に呆然とするだけでした。佐渡裕指揮の新日フィルも素晴らしいサポートでした。特に高弦の美しいこと、この上ありません。

ベートーヴェンの交響曲2曲について、もはや、書くべき気力がありません。佐渡裕の思ったほど力みのない美しい表現でベートーヴェンを満喫しました。新日フィルのアンサンブルも特に最後に演奏した交響曲第6番「田園」で美しさの極みを発揮していました。終楽章の心の安寧を思わせる極上の世界に心を洗われました。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:佐渡裕
  ピアノ:田部京子
  管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団  コンサートマスター:崔文洙

  ベートーヴェン:交響曲第8番 ヘ長調 Op. 93
  モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466

   《休憩》

  ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調 Op.68「田園」


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目、3曲目のベートーヴェンの交響曲第8番、交響曲第6番「田園」は以下のCDを聴きました。

 ルドルフ・ケンペ指揮ミュンヘン・フィル 1971~73年、ミュンヘン、ビュルガーブロイケラー セッション録音
 
ケンペが首席指揮者を務めていたミュンヘン・フィルを使って録音したベートーヴェンの交響曲全集です。ケンペはこの全集を完成した3年後、65歳の若さで急逝しました。ケンペの残した遺産のひとつです。


2曲目のモーツァルトのピアノ協奏曲第20番は以下のCDを聴きました。

 田部京子、下野竜也指揮紀尾井シンフォニエッタ東京 2012年3月14-15日 上野学園 石橋メモリアルホール セッション録音
 
田部京子の美しい演奏がすべてです。しかし、今日の最高の演奏には及びません。今日のライヴ録音がCD化されないかな・・・。



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       田部京子,  

すべてを超越した精神的境地のベートーヴェンを詩情豊かに表現 田部京子シューベルト・プラス特別編《ベートーヴェン生誕250年記念》@浜離宮朝日ホール 2020.12.16

生きている実感を感じさせてくれるような情感に満ちた田部京子のピアノでした。コロナ禍のために1年ぶりとなった田部京子のソロ・リサイタルは期待を上回る音楽にあふれていました。
ベートーヴェン生誕250年記念と銘打ったシューベルト・プラス特別編はベートーヴェンの音楽の最高峰のひとつである最後期の3つのピアノ・ソナタを聴かせてくれました。聴きたかった田部京子のベートーヴェンはなんとも穏やかで熟成した大人の香りの音楽でした。静かな、静かな感銘で心がいっぱいになりました。

最初に弾いたシューベルトのアダージョ D.612は田部京子らしい夢のような詩情に満ちた音楽。中間部での盛り上がりもありましたが、ロマンにあふれる音楽に心が和みます。短い音楽が終わっても誰も拍手をせずにホール内は静けさに満ちています。田部京子がピアノに向かって、呼吸を整えている雰囲気に聴衆は静まり返ります。そして、そのまま、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番が静かに始まります。とても美しい演奏です。それも心の内部から滲み出るような美しさです。ベートーヴェンが描いた世界はもっと諦念に満ちていたような気がしますが、今日の演奏は充足感に満ちた穏やかさを湛えています。この曲は素晴らしい音楽ですが、それでも第31番/第32番に比べるとどうしても聴き劣りしてしまうのが正直なところですが、今日は第31番/第32番に肉薄するレベルの音楽に聴こえます。素晴らしい第1楽章から間を置かずに第2楽章が迫力ある演奏で続きます。そして、第3楽章の変奏曲の美しさはどうでしょう。下降音型から上昇音型に続くフレーズの美しさの極みには心が震えます。第3楽章の後半には高域の美しいタッチでそのフレーズが弾かれて、まさに情感の極みです。これが田部京子のベートーヴェン後期の表現ですね。いわゆる枯れた演奏ではなく、諦念に満ちたわけでもなく、ベートーヴェンが高い精神性の境地に達した桃源郷のような美しい世界です。演奏が終わっても、とても強い拍手を送るような気分ではなく、ただただ、田部京子への熱い共感で、うんうんとうなづきたい思いだけが残ります。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番も第30番のソナタと同様な展開です。静かに始まり、満ち足りた時間が美しいピアノの響きとともに過ぎていきます。長大な第3楽章は序奏に続き、いわゆる《嘆きの歌》が始まりますが、哀感あふれる嘆きではなく、色んな感情を超越した境地の穏やかな精神性の熟成した美しさが表現されます。そして、続くフーガも実に静謐に響きます。フーガは高潮した音楽になっていきますが、その底には透徹し、充足した精神性が貫かれています。田部京子の安定し、成熟した大人の女性として磨き上げられた心の美しさが音楽に反映されていると感じます。田部京子だけしか弾けないベートーヴェンです。音楽はやはりテクニックではなく、心や魂で表現するものであることを強く実感します。壮大なフィナーレですが、余韻を味わいたいと念じるような演奏でした。数人の聴衆が余韻を打ち消すような拍手を送ったのは残念でした。そういう類の演奏ではなかったでしょう。大多数の聴衆はじっくりと余韻を噛みしめているようでした。saraiはそっと拍手を送りました。それがこの素晴らしい演奏にふさわしいものだと思えたからです。


休憩後の後半はベートーヴェンの最後のソナタ、第32番です。冒頭はデモーニッシュに強い響きが続きます。フーガはもはや、普通のフーガではなく、ベートーヴェン流で強い響きが続きます。圧巻の第1楽章ですが、心に響いたのは第2楽章の変奏曲です。田部京子は後期の3つのソナタに共通して表現した高い精神性の境地を、ここで決定的に歌い上げます。後半にはいってのこれでもか、これでもかと続く美しい歌謡性はシューベルトの遺作ソナタに引き継がれ、さらなる高みに達するものです。田部京子がシューベルト・プラス特別編と題して、ベートーヴェンの後期の3つのソナタを取り上げた意義はここに秘められていたのではないでしょうか。ここでも下降音型から上昇音型に続くフレーズの美しさの極みが強く耳に残ります。今、このブログ記事を深夜書いていますが、saraiの頭の中ではそのフレーズが鳴り響き続けています。いつまでも永遠に続けてほしい美しい音楽も、ある意味、唐突に終わりを告げます。ベートーヴェンがもうこれくらいでいいでしょうって語りかけてくるようなフィナーレです。田部京子、納得のベートーヴェンでした。ベートーヴェン・イヤーを締めくくるにふさわしい最高の後期ソナタでした。もっとも、まだ、久しぶりに来日するジョナサン・ノットが東響を指揮する第9番交響曲が残っていますけどね。

アンコールは田部京子の定番ともいえるシューベルトのアヴェマリア。美しいピアノの響きに魅了されました。最後の2音、アーメンが心に響きます。

コロナ禍で大変な音楽界でしたが、12月の半ばになり、庄司紗矢香、田部京子の最高の演奏を聴き、さらにはノットの第9も控え、終わりよければ、すべてよしの心境に浸っています。音楽は人生のすべてです。


今日のプログラムは以下です。

  田部京子シューベルト・プラス特別編
   《ベートーヴェン生誕250年記念》

  ピアノ:田部京子
 
  シューベルト:アダージョ ホ長調 D.612
  ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 Op.109
  ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 Op.110

  《休憩》

  ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 Op.111

  《アンコール》
   シューベルト:「アヴェ・マリア」(編曲:田部京子、吉松隆)


最後に予習について、まとめておきます。

シューベルトのアダージョ D.612を予習したCDは以下です。

 ミシェル・ダルベルト 1993年1月、1994年1月・6月 スイス、コルゾー、サル・ド・シャトネール セッション録音

ミシェル・ダルベルトはシューベルトの未完のピアノ・ソナタ第10番 D.613の2楽章を両端楽章に置いて、アダージョ D.612を中間楽章として挟んだ形で演奏しています。彼の明るい響きが若いシューベルトのこの作品の美しさを引き出しています。ミシェル・ダルベルトのシューベルトは実演でも聴いていますが、明るい響きの個性的な演奏に感銘を覚えています。彼のシューベルトは今後、注目です。


ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番/第31番/第32番 Op.109-111を予習したCDは以下です。

 田部京子 2015年8月12-14日 東京都、稲城ⅰプラザ セッション録音

田部京子はその優しい詩情だけでなく、確信に満ちた強い表現も兼ね合わせた素晴らしい演奏を聴かせてくれます。ベートーヴェンの後期ソナタの代表的名盤のひとつと言えます。



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03/01 19:22 aokazuya

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10/07 08:57 堀内えり

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06/18 12:46 sarai

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