で、今日は最高の演奏でした。最初のピアノ・ソナタ 第3番の冒頭の1音から素晴らしいタッチの演奏で、まったくもって素晴らしい演奏が最後まで続きました。アンコールの2曲はさらに素晴らしく、モーツァルト ピアノ・ソナタ全曲演奏会の掉尾を飾る見事な演奏。さすがに、ソニークラシカルと専属レコーディングのワールドワイド契約を締結し、世界デビュー・アルバムでモーツァルトのピアノ・ソナタ全集を録音した藤田真央の特別な天才ぶりを感じることができました。
前半の第3番~第5番の演奏の素晴らしかったこと! 間違いなく、saraiがこれまで聴いた中でベストの演奏です。このまま、ライヴ録音のCDにしたいくらい。とりわけ、第5番の演奏にはしびれました。第3楽章のアレグロの奔放で闊達な演奏は心に瑞々しく響いてきました。それにしても、藤田真央のピアノの音は弱音から強音まで、歯切れよく、そして、本当によく響きます。まるでピアノに特別の仕掛けがあるみたいに思えます。ペダルは軽く踏む程度のようです。
後半は前半の初期作品から一転して、後期作品になります。藤田真央のピアノの素晴らしい響きは前半と同様ですが、作品の充実度が違います。
まず、ピアノ・ソナタ 第13番 変ロ長調 K333。耳慣れた有名な作品です。第1楽章から魅了されます。普通に演奏しているだけですが、何か、オーラのような輝きを放っています。安定した演奏でありながら、瑞々しく感じるのは何故でしょう。ともかく、ピアノの響きが美しいこと、この上ありません。第2楽章のアンダンテ・カンタービレは抒情に満ちた演奏。シューベルトのように長大に感じますが、実際はそれほどの長さではない筈です。第3楽章のアレグレット・グラツィオーソは圧巻の演奏です。実に華麗な響きがこだまします。即興的にも感じる演奏は音楽性にも満ちて、深く感銘します。
最後はモーツァルトの最後のピアノ・ソナタの第18番 ニ長調 K576。第1楽章はバッハとの関連を思わせる対位法的な書法で、まるでトッカータみたいです。藤田真央のピアノは闊達にこのバッハ風の調べを水際立った演奏で弾き進めます。素晴らしいテクニックと音の響きに驚嘆します。藤田真央のピアノでバッハのパルティータが聴きたくなります。妙な想像をしているうちに圧巻の第1楽章が終わります。緩徐楽章の第2楽章はまだ、第1楽章の印象を引きづりながらも抒情の極みが聴けます。こういうところでも藤田真央の高い音楽性が感じられます。そして、いよいよ、最後の第3楽章。ロンド・フィナーレの音楽はモーツァルトのチクルスの最後を締め括る技巧と即興性に満ちた藤田真央の渾身の演奏。とは言え、余裕もあり、音楽の楽しさをあふれんばかりの感性で極め尽くすという風情の見事な演奏。モーツァルトの音楽も成熟の極みに達したことを我々に告げるかの如き演奏でした。
アンコールのフランスの歌「ああ、お母さん聞いて」による12の変奏曲 ハ長調 K265 (きらきら星変奏曲)は凄い演奏。クララ・ハスキルの格調高い演奏にもひけをとらない凄い演奏です。実演でここまでの凄い演奏は聴いたことがありません。技巧も音楽性も両立した名演です。そして、最後のアンコール曲。最初は何?と思いますが、極めて美しいアヴェ・ヴェルム・コルプスです。チクルスの掉尾を飾る素晴らしいプレゼント。格調高く、美しさの限りを尽くした演奏に聴き惚れました。
日本人にも、ここまでのモーツァルトを弾ける天才が出現したことをただただ嬉しく思うばかりです。
藤田真央は次はベートーヴェン、シューベルトのソナタですね。 行け! 藤田真央!
今日のプログラムは以下のとおりでした。
ピアノ:藤田真央
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第3番 変ロ長調 K281
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第4番 変ホ長調 K282
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第5番 ト長調 K283
《休憩》
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第13番 変ロ長調 K333
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第18番 ニ長調 K576
《アンコール》
モーツァルト:フランスの歌「ああ、お母さん聞いて」による12の変奏曲 ハ長調 K265 (きらきら星変奏曲)
モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプス
最後に予習について、まとめておきます。
モーツァルトのピアノ・ソナタ5曲を予習したCDは以下です。
マリア・ジョアン・ピリス 1974年1~2月 東京、イイノ・ホール セッション録音
イリーナ・メジューエワ 2011~2014年(第3番~第5番)、2015年11月~12月(第13番、第18番)、新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音
若きピリスが純粋無垢なモーツァルトを聴かせてくれます。後にDGで再録音したものとは一味違っています。saraiが最も愛好してやまないモーツァルトのピアノ・ソナタ全集です。
そして、メジューエワの豊かな響きのモーツァルト。中でも第5番が素晴らしい演奏。全体にはモーツァルトにしては響かせ過ぎかもしれませんが、モーツァルト弾きではないメジューエワの渾身のモーツァルトのピアノ・ソナタ全集です。
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