さあ、今日の最大のイベントのブダペスト西洋美術館Szépművészeti Múzeum(ブダペスト国立美術館)に行きましょう。
ブダペスト西洋美術館は英雄広場Hősök tereの西側に建つギリシャ様式の重厚な建物です。

まず、チケット窓口でチケットを購入します。一人1800フォリント(約900円)です。チケットの絵柄はセザンヌ、カラヴァッジョ、シーレ。いずれもsaraiの思い入れのある画家たちです。

おっと、忘れてはいけないのはフォトチケットの購入です。このチケットがあれば、館内の絵画の写真撮影は自由です。もちろん、ノーフラッシュ、手持ち撮影ですよ。このチケットは300フォリント(約150円)。1枚だけ購入します。

館内マップは無料。マジャール語と英語の併記ですから、分かりやすいですね。日本語の館内マップは見当たりません。

早速、館内マップを見ながら、入場します。まずは2階に直行。2階のスペイン絵画がお目当てです。

いやはや、スペイン絵画のコレクションの素晴らしさには感嘆するのみです。特にここのエル・グレコのコレクションは充実していて凄い! いずれはスペインのトレドにエル・グレコを見に行く気持ちが一層強まります。この美術館で見られるエル・グレコの全作品をご紹介しましょう。
エル・グレコと言えば、半年前の2013年1月に東京・上野の東京都美術館でエル・グレコ大回顧展を見たばかりです。その時の記事はここです。今回はそれに引き続いて、小エル・グレコ展を見るような感じです。
ご存じだと思いますが、エル・グレコは、ベラスケス、ゴヤと並んでスペインの3大画家の一人。しかし、グレコは本名をドメニコス・テオトコプーロスと言って、地中海のクレタ島で生まれたれっきとしたギリシャ人です。エル・グレコという通り名はスペイン語でギリシャ人という意味です。エル・グレコはクレタ島の港町カンディア(現イラクリオン)で才能を育み、マエストロ(画家組合の親方)として独り立ちします。その後、イタリアに画家修業に出かけ、ヴェネツィア、ローマで美術ばかりでなく、文学、哲学などの教養も身に着け、10年の時を過ごします。スペインのトレドに移住したのは30代も後半のことです。そして、この地で才能を開花させます。以下に紹介する《オリーブ山のキリスト》は晩年のエル・グレコがトレドで円熟期を迎えた70歳ごろの作品です。この最晩年の5年間に描かれた作品はマニエリスム絵画の最高峰とも言える傑作揃いで見逃せないものばかりです。しかし、エル・グレコは死後、忘れ去られた存在になります。そのエル・グレコに再び脚光が集まったのは、19世紀末からのヨーロッパの大観光ブームで古都トレドにヨーロッパ中から人が押し寄せるようになってからです。そのときに、ようやくエル・グレコの作品が再評価されるようになりました。かくして、エル・グレコ没後500年を迎える2014年、saraiもエル・グレコに惹かれて、トレドを訪問する予定です。エル・グレコの最高傑作を見ないと死ねません。その前にこのブダペスト西洋美術館のエル・グレコの珠玉の作品群を見ていきましょう。
これは《聖衣剥奪》です。1580年から1600年頃の作品です。この作品は1577年から1579年頃にトレド大聖堂の聖具室を飾るために描かれたエル・グレコのスペイン時代初期の傑作を改めて、小さなサイズで描き直したものです。エル・グレコ大回顧展で別のレプリカを見たばかりです。エル・グレコの有名な作品にはレプリカがいくつもあるようですね。エル・グレコ自身が描いたものなので単なる複製画とは違います。この作品には、キリストを十字架にかけるために刑場に引き立てていく途上、聖衣を剥ぎ取ろうとする場面が描かれています。マニエリスム表現の極端に引き伸ばされた肢体や捻じ曲げられた体の曲線という最晩年の特徴はまだ明確に姿を見せませんが、エル・グレコの敬虔な精神性は十分に表れています。トレドでの名声を確立した歴史的な作品です。この5月末にはトレドを訪問する予定なので、トレド大聖堂でこの作品の原画が見られると思うと気持ちが高ぶります。

これは《オリーブ山のキリスト》です。1610年から14年頃の最晩年の作品です。キリストが最後の晩餐の後、オリーブ山にこもり、神に祈り続けています。一方、起きて待つように指示していた弟子たちは眠りこけています。それらが絵の上段と下段に分けられて配置されています。キリストは神から啓示を受けた後、そのだらしない弟子たちを咎めます。背景、構図の異様とも思える緊張感はこの時期に共通するものです。キリストの捻じ曲げられた体のマニエリスム絵画表現と赤い衣の色彩感も劇的な場面を盛り上げています。この作品全体はキリストの緊張した内面、すなわち精神世界を表しているようにも感じられます。最晩年ならではの傑作です。もともと、この作品はトレド郊外の小さな教会に飾られていましたが、ハンガリーの大銀行家ヘルツォグが入手し、その後、1951年にこの美術館におさめられました。この美術館のエル・グレコの充実したコレクションの根幹を成す作品と言えるでしょう。

これは《聖アンデレ》です。緑の衣をまとった聖アンデレは12使徒の一人です。エル・グレコの描く聖人は高い精神性と敬虔さを感じさせられます。エル・グレコが多く描いた聖人の肖像画・人物画のなかでも傑出した表現が見られます。作成年が明示されていませんが1600年頃ではないかと想像されます。

これは《悔悛するマグダラのマリア》です。1576年頃の作品です。この作品はつい最近までエル・グレコ大回顧展のために来日していました。ブダペストには戻ったばかりの筈です。saraiも半年前に見たばかりの作品です。マグダラのマリアはよく取り上げられる題材です。半年前の印象は、この時期のエル・グレコには、まだ後の時代の迫力が不足しているということでした。しかし、こうしてホームグラウンドで眺め直すと、美しく清らかな表現に思えます。エル・グレコはこういう作品作成を通じて、芸術性を鍛え上げて、最終的に迫真の劇的表現に高めていったんでしょう。

これは《男の習作》です。1580年から1585年頃の作品です。12使徒の聖ヤコブを描いたものです。当時49歳だったエル・グレコの自画像とも言われています。何と言っても男の眼差しが印象的です。己の内面を厳しく見つめているかのような真摯な眼差しです。彼の思いは何なのでしょう。この作品を見ていると、おのずとsarai自身の内面と向かい合ってしまいます。

これは《受胎告知》です。1600年頃の作品です。これは何と表現すればいいのか・・・乙女のような清らかなマリアが大天使ガブリエルからの受胎告知を従容として受け入れていますがその背景の凄まじさは衝撃の強さを表しているのでしょうか。美しくも激しい絵画と感じます。この作品は現在マドリッドのプラド美術館に収められているドーニャ・マリア・デ・アラゴン学院にあった大祭壇衝立画の中の1枚、《受胎告知》の一部分を切り取ったような作品です。また、大原美術館にある《受胎告知》と構図は全く同じで色合いが少し違ったもので、これらはレプリカと言えるんでしょう。

これは《聖アンナのいる聖家族》です。まったく同じ構図の作品をエル・グレコ大回顧展でも見ました。そちらは1590-95年頃の作でトレドのメディナセリ公爵家財団タヴェラ施療院所蔵の作品でした。これもレプリカなんですね。聖母マリアの美しさが際立っている1枚です。聖アンナは聖母マリアの引き立て役のような・・・。

ここまでエル・グレコの傑作を思う存分堪能しました。これだけでこの美術館を訪問した目的は十分に果たせました。ただ、スペイン絵画部門だけでもまだまだありますから、鑑賞を続けましょう。
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