2012年4月13日金曜日@ベルリン/6回目
ベルリン絵画館Gemäldegalerieの展示室に入場します。入って右手のⅠ~Ⅲ、1~4の計7室がクラナッハ、デューラー、ホルバインを中心とした13世紀から16世紀までのドイツ絵画のコーナーです。もちろん、お目当てはクラナッハの作品群です。昨日、ヴァイマールの城美術館でも名品を鑑賞し、教会の祭壇画も鑑賞しました。そして、その総仕上げがこのベルリン絵画館の作品群です。早速、クラナッハの作品を見ていきましょう。
これは《森の風景の中のアポロンとディアナ》です。アポロンが弓を持ち、狩りの女神ディアナが獲物(といってもまだ生きていますが)の鹿の上に腰掛けています。しかし、絵柄としてはアダムとイブの絵にもそっくりです。神話に題材を借りて、クラナッハが得意の裸体画を描いたというところなんでしょう。そういう意味でアダムとイブの絵とそっくりなのもご愛嬌です。まあ、見事な絵ではあります。

これは《ルクレツィア》です。クラナッハがたびたび描いた題材で、ほかでもいくつか見ています。この手の女性の裸体画はヴィーナスもルクレツィアもユーディットも同じ描き方ですね。ちなみにルクレツィアは紀元前6世紀のローマの女性で、貞淑な妻でありましたが、横恋慕されて、凌辱されてしまいます。彼女はそのことを夫に告白し、短剣で自害します。凌辱したのは王家の王子でしたが、復讐に立ち上がった男たちによって、王家はローマから追放され、これをきっかけにローマは王政から共和制に移行することになりました。

これは《エジプト逃避途上の休息》です。ユダヤの王ヘロデがベツレヘムに生まれる新生児の全てを殺害するために放った兵士から逃れるため、エジプトへと旅立った聖母マリアと幼子イエス、マリアの夫の聖ヨセフを描いたものです。鮮やかな色彩によって、聖家族を高貴な存在として描き出している名作です。

これは《聖アンナと聖母子》です。背景を天使が持ったビロードの布で覆っているのが面白いですね。衣のひだの描き方は見事なものです。

これは《アダムとイブ》です。これもしばしば取り上げた題材ですが、ライオンと思しき動物が登場するのは見たことがありません。いずれにせよ、裸の女性を描かせたら、クラナッハの右に出る人はいません。少し、癖のある描き方ですが、クラナッハのファンにとっては、それがいいんです。

これは《岩のある風景のなかの聖ヒエロニムス》です。典型的な聖ヒエロニムスが描かれていますね。背景の風景も丹念に描き込まれています。

これは《ダビデとバテシバ》です。ほかでは見たことのない題材です。ピカソは余程この絵を気に入ったのか、ほぼ同じ構図のリトグラフを描いています。この絵の女性たちはちょっと見ると、有名な「ザクセンの3公女」の絵とそっくりなのが面白いですね。ダビデ王は上にいる男たちの左から2番目の竪琴を持っている人物です。バテシバはヒッタイト人ウリヤの妻でしたが、後にダビデの妻となり、ダビデの跡を継いでイスラエル王国の王となるソロモンを産んだ女性です。この場面は部下の妻であったバテシバにダビデが一目惚れして、言い寄るシーンです。絵画でもよく取り上げられる題材ですが、バテシバは裸で描かれるのが多く、女性の裸を得意にしていたクラナッハが着衣で描いたのは奇妙なことです。

これは《シュテファン・ロイス(Stephan Reuss)夫人の肖像》です。シュテファン・ロイスはウィーンの法学の教授だったそうです。

これは《荒野の聖ヒエロニムスとしてのアルブレヒト・フォン・ブランデンブルク》です。アルブレヒト・フォン・ブランデンブルクの肖像画ですが、聖ヒエロニムスに扮装した姿で描かれています。このアルブレヒトはこういう形で肖像画に描かれることを好んでおり、聖エラスムス、聖マルティヌスなどの聖人に扮装した姿の肖像画も残されています。アルブレヒト・フォン・ブランデンブルクはブランデンブルク選帝侯を継いだ兄ヨアヒム・ネストールの尽力により、ドイツ最高位の聖職者の枢機卿に上り詰めた人物で美術作品のコレクターとしてもザクセン選帝侯フリードリヒ賢明公と並ぶ存在でした。一方、アルブレヒトはローマ法王から昇進などの便宜を図ってもらうための莫大な経費を捻出するためにアウグスブルグのフッガー家から莫大な借金を負い、その対応のために免罪符販売を推進した人物でもあります。昨日、ヴィッテンベルクの城教会で見たルターの『95ヵ条の論題』はこのアルブレヒトに向けられたメッセージでした。ルターの最大の敵とも言われる人物です。ある意味、宗教改革の引き金を引いた人物とも言えます。ルターの親友だったクラナッハがルターの最大の敵とも言える人物の肖像画を何枚も描いているのは皮肉なことだとも思われますが、どこの世の中も生き抜いていくのは大変だということなのでしょう。

これは《ソロモンの審判》 です。ソロモンはダビデ王とバテシバの間に生まれ、ダビデの後を継ぎました。賢王として有名で、エルサレムに寺院を建てた人物です。この審判の場面は次のようなものです。二人の女が子供を産み、赤ん坊の一人が死んでしまい、その子の母親が、もう一人の赤ん坊を自分の子だと言い張ります。二人はソロモンの前に行き、どちらの子か決めてもらうことにしました。ソロモンは刀を用意させ、二人のために、この子を二つに切り裂こうとします。そのとき、一人の女が叫び、この子はあの女にやってもかまわないから、殺さないでくださいと言いました。このことで、本当の母親が判明しました。まさにこの絵はその迫真のシーンです。

これは《ヴィーナスとキューピッド》です。これこそ、クラナッハがたびたび描いた題材で、これまでもずい分見ました。盲目の愛に惑わされずに、秩序ある結婚生活を送りなさいという教訓が込められているそうです。それにしても見事な絵です。

これも《ヴィーナスとキューピッド》です。完成度の高い作品が2点もあるのは、この美術館の凄いところです。こちらの絵は先程の絵を上回る素晴らしい出来で、女性の美しさが最高に表されていますね。このベルリン絵画館でクラナッハの絵を1枚選ぶなら、この絵で決まりです。

これは《若返りの泉(青春の泉)》です。画面左から老婆達が手押し車などに乗せられてやってきます。その老婆達が中央の泉にはいると、あれ不思議や・・・たちまち若返って、若い美女に変容し、画面右手の対岸で貴公子に迎えられます。そして、赤いテントのなかで着飾り、右奥の愛の庭で新たな恋人と踊り語らうという寸法です。中央の泉には、ヴィーナスとキューピッドの彫像があり、この泉が「ヴィーナスの泉」あるいは「愛の泉」であることを示しています。この絵の左右に《ヴィーナスとキューピッド》が配置されています。面白い発想ですね。

この絵の写真を撮りながら、鑑賞にふけっていると、日本人の同じ年頃の男性に声をかけられ、ちょっとした芸術談義になります。クラナッハに詳しいかたは珍しいです。ずい分、話し込んでしまいます。ベルリンに1か月ほど滞在されるそうです。上には上があるものです。これからヴァイマールにも行かれるそうなので、ヴァイマールの城美術館のクラナッハのコレクションの素晴らしさをお話しさせてもらいました。この男性とお別れしてからもクラナッハ鑑賞は続きます。
これは《最後の審判》です。ボッスの絵と見間違いそうな絵ですが、れっきとしたクラナッハの作品です。内容は題名そのものですが、地獄の描き方が実にグロテスクです。クラナッハはボッスの絵の模写などもしているようで、この絵はボッスの影響が見て取れる作品です。

これは《ザクセン選帝侯ヨハン・フリードリッヒⅠ世》です。ザクセン選帝侯ヨハン・フリードリッヒⅠ世と言えば、ヴァイマールの城美術館で見た絶世の美女「シビレー・フォン・クレーベ姫の肖像」の嫁いだ相手です。また、宗教戦争で敗れ、ヴィッテンベルクからヴァイマールに移る際に高齢のクラナッハが付き従った主君でもあります。

最後にシビレー・フォン・クレーベ姫の美しい姿を思い出したところで、ベルリン絵画館のクラナッハ・コレクションの鑑賞を終了します。
ベルリン絵画館では、予想以上に充実したクラナッハの作品群に遭遇。大満足です。
まだまだ名画は続きます。ヤン・ファン・エイク、フェルメール、カラヴァッジョ、ラファエロ、ボッティチェリ、ブリューゲル、レンブラントと大画家の傑作群が待っています。
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