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ジルヴェスターコンサート@みなとみらいホール 2014.12.31

あけまして、おめでとうございます。今年もsaraiのブログ、よろしくお願いします。

昨日の大晦日は恒例のジルヴェスターコンサート@みなとみらいホールで年越しです。

コンサートに先立って、1年を締めくくる贅沢をします。ランドマークタワーにあるロイヤルパークホテルのフレンチ・レストラン、ル・シエールでのディナーです。高速エレベーターに乗って、高層階の68階まで上ると、ロイヤルパークホテルのレストラン・フロアです。7時の予約に合わせて、ル・シエールの前に行くと、既に待合で待っている予約客もいます。早速、saraiも受付を済ませます。7時予約の3番目で受け付けてもらえました。その後、続々と予約客がやってきましたので、早めに行って正解でした。受け付け順でのテーブルへの案内でしたからね。予約時に窓際のテーブルを依頼しましたが、一応、希望はきいたとの回答でした。実際に案内されたのは、希望通り、窓際の眺めのよい席でした。キャンセル客が出たので、窓際のテーブルが確保できたとのことです。ラッキー!
ランドマークタワーのほぼ最上階から見る横浜の夜景は見事です。

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美しい景色と豪華なディナーを楽しんで、みなとみらいホールに移動。

みなとみらいホールのジルヴェスターコンサートは今年で第16回目。そして、saraiがジルヴェスターコンサートに通うのもこれで16回。全部聴いてます。よく通ったものです。
今回のプログラムは以下です。

《第1部》
池辺晋一郎:ヨコハマ・ファンファーレ
スメタナ:歌劇「売られた花嫁」序曲
プッチーニ:「ラ・ボエーム」より“私が街を歩くと”
      「つばめ」より“ドレッタの夢”
      「トスカ」より“妙なる調和”、“星は光りぬ”
        (ソプラノ:伊藤晴、テノール:与儀巧)
ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」より、第2楽章、第4楽章
        (ヴァイオリン:漆原啓子、漆原朝子、ヴィオラ:百武由紀、チェロ:堀了介)
スカルラッティ:ソナタ ハ長調 L.104(K.159)
        (ピアノ:仲道郁代)
スカルラッティ:ソナタ ホ長調 L.23(K.380)
        (ピアノ:伊藤恵
デュカス:魔法使いの弟子[2台ピアノ版]
        (ピアノ:伊藤恵、仲道郁代)
ヤナーチェク:シンフォニエッタより第1楽章「ファンファーレ」

《休憩》

《第2部》
クライスラー:愛の喜び
        (ヴァイオリン:漆原朝子、ヴィオラ:百武由紀、チェロ:堀了介)
クライスラー:愛の悲しみ
        (ヴァイオリン:漆原啓子、ヴィオラ:百武由紀、チェロ:堀了介)
(伝)カッチーニ(朝川朋之編):アヴェ・マリア
        (サクソフォン:須川展也)
ミシェル・ルグラン:映画「シェルブールの雨傘」より
リチャード・ロジャース:映画「サウンド・オブ・ミュージック」より
リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲より
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ
        (ヴァイオリン:徳永二男)
ラヴェル:ダフニスとクロエ 第2組曲より 夜明け、全員の踊り【カウントダウン曲】
J.シュトラウス2世:トリッチ・トラッチ・ポルカ、雷鳴と稲妻
J.シュトラウス1世:ラデツキー行進曲

【出 演】

音楽監督:池辺晋一郎、飯森範親(Cond)、徳永二男(エグゼクティブ・ディレクター/Vn)、朝岡聡(MC)
横浜みなとみらいホール ジルヴェスターオーケストラ(コンサートマスター:石田泰尚、扇谷泰朋、神谷未穂、高木和弘、藤原浜雄、三浦章宏)

今回のジルヴェスターコンサートはかぶりつきの中央の席で聴きました。まあ、これ以上、よく聴こえる席もないでしょう。
お祭りのようなコンサートですから、そんなに素晴らしい音楽が聴けるわけではありません。
印象に残ったものだけ、ピックアップしてみます。

ソプラノの伊藤晴は若くて声域も広いのですが、昨年の砂川涼子のような表現力には欠けます。声も出ていますから、今後の精進を期待というところ。

テノールの与儀巧は声も美しく、表現力豊かな歌唱。トスカの名アリアを見事に歌い上げました。日本人のテノールでここまでの歌唱は初めて聴きました。うっとりと聴き入ってしまいました。今後の活躍が楽しみです。

臨時編成の4人の演奏によるドヴォルザークの弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」はスケールは小さいのですが、妙に懐かしさを覚える響き。家庭で楽しむ室内楽の風情でした。

スカルラッティのピアノ・ソナタは仲道郁代の演奏は今一つ。対して、伊藤恵の演奏は見事なタッチで楽しませてくれました。

デュカスの《魔法使いの弟子》は2台ピアノ版での演奏。そんなものがあるとは知りませんでしたが、デュカス自身での編曲だそうです。これは伊藤恵と仲道郁代の息の合った演奏で素晴らしいものでした。ここでも伊藤恵の切れのいいタッチが印象的でした。仲道郁代の得意なジャンルの曲が聴けなかったのが残念ではありました。

ヤナーチェクのシンフォニエッタは第1楽章「ファンファーレ」だけの演奏でしたが、ヤナーチェクらしさが表出される演奏でなかなか聴き応えがありました。

休憩後、クライスラーは弦楽三重奏での珍しい演奏。ウィーンのカフェあたりで聴きたいようなお洒落な演奏でそれなりに楽しめました。

カッチーニのアヴェ・マリアは須川展也のサクソフォンの演奏がなかなかよかったのですが、やはり、この曲は人間の声で歌うほうがいいですね。

年越しのカウントダウンはラヴェルの「ダフニスとクロエ」です。カウントダウンは若干、最後に辻褄合わせの感じもあったとは言え、ぴったりと成功。1秒の狂いもなく、12時ちょうどに曲が終わりました。マエストロ飯森範親に今年も大拍手です。

最後は例年通り、ラデツキー行進曲を手拍子してコンサート完了。

今年も音楽で新年が始まりました。また、聴きまくりの1年になりそうです。


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       伊藤恵,  

saraiの音楽総決算2014:オーケストラ・声楽曲編

今年の音楽の総決算もいよいよ最後になりました。そして、ブログも今年の書き納めです。

今回はオーケストラ・声楽曲編です。
このジャンルは今年もたくさんのコンサートを聴きました。インバル+都響の3年にわたるマーラー・ツィクルスも遂に総仕上げ。期待通りの名演でした。
ちなみに昨年の結果はここです。

で、今年は以下をベスト10に選びました。

1位 破滅の予感:ゲルギエフ+マリインスキー歌劇場管弦楽団@サントリーホール 2014.10.14
2位 超名演に感動!マーラー交響曲第9番:インバル&東京都交響楽団@サントリーホール 2014.3.17
3位 最高の感動!マーラー:交響曲第10番 インバル&東京都交響楽団@サントリーホール 2014.7.21
4位 畢生の名演! マーラー交響曲第8番《千人の交響曲》:インバル&東京都交響楽団@横浜みなとみらいホール 2014.3.9
5位 ヤンソンス+バイエルン放送交響楽団@サントリーホール 2014.11.25
6位 豊饒の響きのR・シュトラウス:ウィーン・フィル@サントリーホール 2014.9.25
7位 これぞチャイコフスキー:テミルカーノフ&サンクトペテルブルク・フィル@サントリーホール 2014.1.29
8位 シューマン、ベルク、ストラヴィンスキー、ブラームス:ウィーン放送交響楽団@ウィーン楽友協会 2014.6.13
9位 奇跡の響き_ブルックナー4番(第3稿):バレンボイム+ウィーン・フィル@ウィーン楽友協会 2014.6.14
10位 ザルツブルグ精霊降臨音楽祭:ロッシーニ_スターバト・マーテル@ザルツブルグ祝祭大劇場 2014.6.8

今年の1位を勝ち取ったのは、ゲルギエフの渾身の演奏だったショスタコーヴィチの交響曲第8番。ショスタコーヴィチの戦争交響曲の中核をなす音楽を超えた音楽とも言える作品を真っ正面から捉えた凄い演奏でした。人類の暗い未来を予感させる音楽はあまりに衝撃的な内容を孕んでいました。我々はこの破滅の予感を乗り越えていくことができるでしょうか。

2位はインバル&東京都交響楽団のマーラー・ツィクルスの最後をしめくくるマーラーの交響曲第9番の超名演。こちらを1位にしてもよかったくらいの素晴らしさでした。今、第4楽章のアダージョの演奏を思い出すだけで、涙が出てきそうです。saraiの頭の中を真っ白にしてくれた演奏でした。こういうマーラーはまた、いつ聴けるでしょう。

3位もインバル&東京都交響楽団のマーラー。マーラーの交響曲第10番(デリック・クック補筆 第3稿第2版(一部、第1版))の演奏はインバル&東京都交響楽団のマーラー・ツィクルスの番外編ですが、ある意味、マーラー・ツィクルスのグランド・フィナーレとも言えるものでした。マーラーの交響曲第9番の超名演と同じくらいの感動を覚えた素晴らしい演奏でもありました。

続く4位もインバル&東京都交響楽団のマーラー。マーラーの交響曲第8番《千人の交響曲》です。これも究極のマーラー演奏でした。今年のインバル&東京都交響楽団のマーラーは第8番、第9番、第10番とすべてが生涯忘れ得ぬ超名演ばかりでした。特にこの第8番は滅多に聴く機会がなく、それだけに価値あるものでした。それにこの愛と救済をテーマにした音楽にはとても魂を揺すぶられます。これを聴いたら、死んでもいいとさえ思ってしまうほどです。

5位はヤンソンス+バイエルン放送交響楽団によるR・シュトラウス。交響詩「ドン・ファン」とオペラ『ばらの騎士』組曲です。R・シュトラウスの記念の年にふさわしい素晴らしい演奏でした。なお、このコンサートはツィメルマンの弾いたブラームスのピアノ協奏曲第1番でも、協奏曲部門で5位にランクインしましたから、とてもレベルの高いコンサートでした。

6位はグスターボ・ドゥダメル指揮のウィーン・フィルの来日コンサート。生誕150年のR・シュトラウスの交響詩《ツァラトゥストラはかく語りき》を聴きました。やはり、ウィーン・フィルの演奏するR・シュトラウスは格別でした。その豊饒の響きに身を委ね、至福の時を過ごしました。

7位はテミルカーノフ&サンクトペテルブルク・フィルのコンビによるチャイコフスキーの交響曲第4番。実に聴き応えのあるチャイコフスキーでした。この曲のメランコリックさが実に自然に表現されていて、胸にじわっと沁み込んできました。

8位はウィーン楽友協会でのウィーン放送交響楽団のコンサート。指揮はコルネリウス・マイスター。シューマン、ベルク、ストラヴィンスキー、ブラームスの合唱や独唱などを交えた大変な曲をプログラムに並べ、しかも素晴らしい出来での演奏、ウィーンならではのものでした。特に初めて聴いたシューマンの《ミニヨンのためのレクイエム》は素晴らしい演奏でシューマンの素晴らしさを実感させてくれました。ルノー・カプソンの独奏によるベルクのヴァイオリン協奏曲も見事な演奏でした。楽趣極まれりの感に浸ったコンサートでした。

9位はバレンボイム指揮のウィーン・フィル。ブルックナーの交響曲第4番『ロマンティック』(第3稿)は、楽友協会グローサーザールに流れるウィーン・フィルの響きの柔らかさ・まろやかさが奇跡の響きといっても過言ではない素晴らしさでした。

10位はザルツブルグ精霊降臨音楽祭でのロッシーニのスターバト・マーテル。使い古された表現ではありますが、このコンサートは心が洗われるような清冽な演奏でした。

ジャジャーン!
ここで今年のコンサート・オペラ・リサイタルのなかでの大賞発表です。

今年は初の室内楽からの選定としました。

 ブラームス/ピアノ四重奏曲第1番:フォーレ四重奏団@上大岡ひまわりの郷

フォーレ四重奏団の演奏は、このブラームス以外にも、マーラーとR・シュトラウスのピアノ四重奏曲、そして、翌日のモーツァルトのピアノ四重奏曲、すべてが最高でした。フォーレ四重奏団の演奏に感動しっぱなしでしたから、これは当然の大賞と言えます。

と言いながらも卑怯なのですが、もうひとつ、これも同列の大賞にします。同時受賞です。フォーレ四重奏団が出現しなければ、断トツでの大賞だったはずの素晴らしいオペラです。

 オペラ《チェネレントラ》@ザルツブルグ・モーツァルト劇場 ザルツブルグ精霊降臨音楽祭の初日の公演

このオペラでは、何といっても、チェチーリア・バルトリのあまりの素晴らしさに魅了されっぱなしでした。それにザルツブルグ精霊降臨音楽祭の初日で実に華やかな雰囲気でした。オペラ全体の出来も近年稀に見る素晴らしいものでした。

来年の感動に期待しながら、今年の総括は幕としましょう。

今年も当ブログを読んでいただいたみなさんには感謝です。また、来年も引き続き、ご愛読ください。

saraiはこれから、みなとみらいホールのジルヴェスターコンサートに出かけます。今年も音楽で年越しです。


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saraiの音楽総決算2014:協奏曲編

さて、前回に引き続き、今年の音楽の総決算です。

今回は協奏曲編です。
今年はヒラリー・ハーンの演奏が聴けなかったのが残念でしたが、それでも素晴らしい演奏の数々を聴くことができました。。
ちなみに昨年の結果はここです。

今年は以下をベスト5に選びました。

1位 アンデルシェフスキの驚愕のピアノ!フルシャ&東京都交響楽団@サントリーホール 2014.6.24

2位 庄司紗矢香:チャイコフスキー_ヴァイオリン協奏曲&テミルカーノフ@横浜みなとみらいホール 2014.1.26

3位 ペライア、快心のモーツァルト with アカデミー室内管@サントリーホール 2014.11.13

4位 ドヴォルザーク:庄司紗矢香+東京交響楽団@ミューザ川崎 2014.10.19

5位 ツィメルマン+ヤンソンス+バイエルン放送交響楽団@サントリーホール 2014.11.25

アンデルシェフスキーの弾くバルトークのピアノ協奏曲第3番は驚くべきレベルの演奏で、バルトークの真髄を聴かせてもらったと言っても過言でありません。これがアンデルシェフスキーのピアノの初聴きでしたが、一気に彼の評価はsaraiの中で最高レベルになりました。既に来年の独奏ピアノのリサイタルと協奏曲のコンサートのチケットを購入済みです。彼の演奏する音楽についてのsaraiの感想はさて、どうなるでしょう? ユリアンナ・アヴデーエワとともに最も注目しているピアニストです。

旬の時にあるヴァイオリニスト、庄司紗矢香はいつも期待を裏切ることがありません。そして、彼女と最も相性がいいと言えるテミルカーノフとの共演ともなれば、最高の結果をもたらします。かなり以前にこの組み合わせで同じチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を聴いたことがありますが、そのときの素晴らしい演奏を遥かに上回る演奏を聴かせてくれて、大満足でした。

ペライアの演奏するモーツァルトのピアノ協奏曲第21番は最高の響きで素晴らしい音楽が展開されました。これ以上のモーツァルトのピアノ協奏曲は今後決して聴けないだろうと思わせるようなレベルの演奏でした。ペライアの実力を思い知らされました。この日演奏されたバッハのピアノ協奏曲第7番も同様に素晴らしい演奏。ただひとつ、残念だったのはペライアのピアノ演奏でアンコールが聴けなかったこと。バッハの曲でも演奏してくれれば、このコンサートの満足感が増大して、もっと、ランキングを上位にしたかもしれません。

庄司紗矢香の弾くドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲は余裕たっぷりの演奏でしたが、第2楽章のしみじみとした抒情性にはただただ、うっとりするばかりでした。これまた大満足の庄司紗矢香でした。

クリスチャン・ツィメルマンのピアノは初めて聴きましたが、期待を大きく上回る演奏に驚かされました。CDではバーンスタイン+ウィーン・フィルと共演した演奏を聴いていましたが、さほど、感銘を受けた覚えはありません。しかし、同じブラームスのピアノ協奏曲第1番でこれほどの力演を聴かせてくれるとは嬉しい誤算。ツィメルマンのスケール感のある美しく鳴り響くピアノの音色にすっかり魅了されました。ツィメルマンの弾くブラームスのピアノ協奏曲第2番も聴いてみたいものです。

いよいよ、次回は最終回、大賞も発表します。そして、大晦日でもありますね。


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saraiの音楽総決算2014:オペラ・オペレッタ・バレエ編

さて、前回に引き続き、今年の音楽の総決算です。

今回はオペラ・オペレッタ・バレエ編です。
今年はオペラはすべて海外での公演しか聴いていません。ですから今年も海外で聴いたオペラからの選定になります。あっ、バレエは日本でも見ました。
ちなみに昨年の結果はここです。

で、今年は以下をベスト5に選びました。

1位 チェネレントラ@ザルツブルグ・モーツァルト劇場 2014.6.5

2位 《ナクソス島のアリアドネ》@ウィーン国立歌劇場 2014.6.11
   《ナクソス島のアリアドネ》2回目@ウィーン国立歌劇場 2014.6.15

3位 我らがチェチーリア:ロッシーニ《オテロ》@ザルツブルグ祝祭大劇場 2014.6.9

4位 ホフマン物語@マドリッド・レアル劇場 2014.5.28

5位 美し過ぎるザハーロワ:ボリショイ・バレエ《白鳥の湖》@オーチャードホール 2014.11.24

ザルツブルグ精霊降臨音楽祭の初日、オープニングを飾ったロッシーニの歌劇《チェネレントラ》。初めて生で聴いたチェチーリア・バルトリはやはり素晴らしかった。というよりも凄かった。久しぶりに凄いオペラを見たという感覚でした。生涯に何度かしか聴けないオペラでした。ラミロ王子役のハヴィエル・カマレーナも素晴らしく張りのある声で見事なテノール。いやはや、世界は広い。オペラ終盤は強い感動に襲われました。それにしてもバルトリのアジリタは凄まじいばかりです。

今年は毎年見ていた《薔薇の騎士》は見ることができませんでしたが、その代わり、R・シュトラウスの《ナクソス島のアリアドネ》を久しぶりに聴くことができました。やはり、ウィーンで聴くR・シュトラウスは素晴らしいとしか言いようがありません。もう、グルベローヴァのツェルビネッタを聴くことはかないませんが、新時代のアリアドネは聴き応え十分でした。それにこの日はR・シュトラウス生誕150年という節目の年の、それも誕生日で正真正銘の生誕150年の公演というおまけ付き。やはり、R・シュトラウスのオペラはいいですね。2回目に聴いた公演もさらに素晴らしい内容で夢のような時間を過ごしました。

ロッシーニの《オテロ》はきっと、2度と聴けないオペラになるでしょう。珍しいオペラですからね。これは聴き逃せないという気持ちで公演に足を運びましたが、それがなかなか素晴らしい。特にバルトリの歌う《柳の歌》は彼女の独壇場。素晴らしいったら、ありゃしません。

《ホフマン物語》も久しぶりに聴きました。何と言ってもニクラウス/ミューズ役のアンネ・ゾフィー・フォン・オッターの名唱がすべてです。付け加えて言えば、日本では上演不可能な過激な演出も凄いと言えば凄い。まあ、目の毒になるので、音楽を聴く邪魔にはなりましたけどね。

バレエは遂に美しいザハーロワが踊る白鳥・黒鳥を見ました。やはり、これは一度は見ておかないといけませんね。究極の美に酔いしれました。

バルセロナで見たワルキューレもなかなかのオペラでした。これは次点。

次点 ワルキューレ@バルセロナ・リセウ劇場 2014.6.3

次回はオーケストラ・声楽曲編です。


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saraiの音楽総決算2014:ピアノ・室内楽編

今年もブログの締めくくりはsarai恒例の音楽総決算です。

今年は国内・海外合わせて、厳選したコンサート・オペラに計60回足を運びました。それらについてはすべて当ブログで報告済みですが、今回から4回のシリーズでそれらからベストの音楽会を選んで、今年の音楽の総決算としたいと思います。
今回はピアノ・リサイタルと室内楽編です。
ちなみに昨年の結果はここです。

今年は豊作の年で大激戦でしたが以下をベスト10に選びました。

1位 フォーレ四重奏団@上大岡ひまわりの郷 2014.12.14
2位 フォーレ四重奏団@東京文化会館小ホール 2014.12.15
3位 ユリアンナ・アヴデーエワ・ピアノ・リサイタル@東京オペラシティ 2014.11.14
4位 アンドラーシュ・シフ・ピアノ・リサイタル@紀尾井ホール 2014.3.14
5位 上原彩子ピアノ・リサイタル@サントリーホール 2014.2.2
6位 マリア・ジョアン・ピリス・ピアノ・リサイタル@サントリーホール 2014.3.7
7位 イエルク・デームス 86歳バースデーコンサート@上大岡ひまわりの郷 2014.12.2
8位 庄司紗矢香+メナヘム・プレスラー@サントリーホール 2014.4.10
9位 ペーター・レーゼル・ピアノ・リサイタル@紀尾井ホール 2014.11.8
10位 パスカル・ロジェ・ピアノ・リサイタル@上大岡ひまわりの郷 2014.5.25

フォーレ四重奏団を初めて聴いたのは、今年最大の収穫でした。四重奏団と言っても、弦楽四重奏団ではなく、ピアノ四重奏団。世界でも希有な存在ですが、その演奏に接して、まるで電気に打たれたような衝撃を受けました。マーラーとR・シュトラウスのピアノ四重奏曲は彼らのごく初期の作品でコンサートではあまり取り上げられることがありませんが、実に見事な演奏で魅了されました。そして、ブラームスのピアノ四重奏曲第1番は何と素晴らしかったことか・・・極上のブラームス演奏でした。一気に彼らの魅力の虜となったsaraiでした。

フォーレ四重奏団の追っかけモードにはいったsaraiは翌日のコンサートにも急遽参加。素晴らしいモーツァルトを耳にすることができました。そして、圧巻だったのはアンコールでのR・シュトラウス。生涯でこれほどの感動的な演奏を何回聴いたことがあったでしょう。忘我の境地でした。

ユリアンナ・アヴデーエワのピアノ・リサイタルはショパンコンクールで優勝した彼女のさらなる熟達ぶりを認識させるものでした。彼女のピアニズムは見事なメカニズムだけでなく、高い音楽性を示してくれました。特にリストの演奏が素晴らしく、巡礼の年《ダンテを読んで》は感動を受けました。これからの世界は彼女がピアニストの頂点に君臨することを予感させられました。

アンドラーシュ・シフのバッハを遂に生で聴くことができました。現在、バッハを弾いて、彼以上に弾ける人はほとんどいないでしょう。バルトークも見事な演奏でした。今、夢中で聴いているCDが彼の弾くシューベルトです。バッハ以外でも実にユニークで音楽性に満ちた演奏を聴かせてくれます。今後、彼の来日演奏会は聴き逃せません。

上原彩子のピアノ・リサイタルは2年連続でラフマニノフ・プログラム。こだわりのラフマニノフですが、実に見事な演奏でした。残念ながら、来年は3年連続とはなりませんでした。来年はチャイコフスキーのピアノ版《くるみ割り人形》。久々にCDもリリースするようです。もちろん、聴きに行きます。

マリア・ジョアン・ピリスのピアノ・リサイタル。純粋無垢な永遠の少女が奏でるシューベルトの名曲、即興曲集 D.899と最後のピアノ・ソナタ、第21番 D.960でした。共感を持って聴くことができました。彼女の老境のピアノを聴くまでは死ねないと強く感じさせられました。

イエルク・デームスの86歳バースデーコンサート。ピアニストと指揮者は80歳を過ぎてからが本物の演奏になるというsaraiの信念を実証してくれるようなピアノ・リサイタルでした。彼のショパンの美しい響きにすっかりと魅惑されました。是非ともレコーディングして、人類の遺産として残すべきでしょう。

庄司紗矢香+メナヘム・プレスラーのデュオ・リサイタル。メナヘム・プレスラーはボザール・トリオの中心的存在だったピアニストで室内楽の分野では大御所。御歳90歳です。おじいちゃんと孫のような娘のデュオ・リサイタルでしたが、その紡ぎだされた音楽は室内楽の王道を行くような滋味深いものでした。

ペーター・レーゼルのピアノ・リサイタル。ドイツの正統的な音楽を継承するレーゼルのピアノでドイツ・ロマン派の名曲を堪能しました。ブラームスもよかったのですが、それにも増して、シューマンとシューベルトの素晴らしかったこと! もっと聴いてみたいピアニストです。

パスカル・ロジェのピアノ・リサイタル。素晴らしいフランス音楽が聴けました。最近、苦手だったフランスのピアノ曲もフランス人ピアニストの演奏で素直に聴けるようになってきました。見事な演奏でした。

以上のほかに、次点として、もう2点。

次点 ブラームス:レーゼル&ゲヴァントハウス四重奏団@紀尾井ホール 2014.11.6
次点 ウィハン・カルテット@鶴見サルビアホール 2014.12.3

レーゼル&ゲヴァントハウス四重奏団の演奏したブラームスの室内楽の傑作、ピアノ五重奏曲はレーゼルのピアノが出色の出来で白熱した演奏でした。

ウィハン・カルテットはチェコの演奏家たちで構成されていますが、彼らが演奏した、お国ものであるドヴォルザークの《アメリカ》は絶品でした。

今年はフォーレ四重奏団が聴けたのが一大事件でした。ピアノ・リサイタルも素晴らしい演奏ばかりだったし、この分野は非常に充実して聴けました。

次回はオペラ・オペレッタ編です。


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追っかけを始めたsarai:フォーレ四重奏団@東京文化会館小ホール 2014.12.15

新しいブログサイトFC2での新記事の第3弾も昨日の夜のコンサートの感想です。

本当は1昨日のお昼と夜のダブルのコンサートで今年のコンサート通いは打ち止めの予定でした。しかし、1昨日聴いたフォーレ・カルテットの演奏があまりに衝撃的に素晴らしかったので、もっと聴きたくなってしまいました。上大岡・ひまわりの郷コンサートシリーズのプロデューサーをしている横浜楽友会の平井さんにコンサート後、フォーレ・カルテットの演奏が素晴らしかったこと、そして、翌日以降、もし、フォーレ・カルテットの公演があるのなら、もっと聴きたいとお話ししました。すると、貴重な情報をいただきました。翌日、モーツァルト協会の主催で東京文化会館で来日最後のコンサートがあり、当日券もあるとのことです。それなら、何としても聴きたいものです。

そして、昨日、公演の1時間半も前に当日券を求めて、上野の文化会館を訪れました。当日券を求める列の2番目に並ぶことができました。先頭にいた若い女性もトッパンホールでのコンサートを聴いて、急遽、この日のコンサートを聴くことにしたそうです。お互い、好きですね。無事、当日券をゲットして、入場の列に並びました。この日のコンサートは指定席ではなく、全席、自由席だそうで、既に20人以上の人が並んでいます。でも、これくらいなら、きっと良い席に座ることができそうです。実際、2列目の中央左寄りという思い通りの席に座ることができました。ピアノを聴くときはピアニストの手の動きが見える左寄りの席が人気です。

この日はモーツァルト協会の例会ということで、オール・モーツァルト・プログラムです。
典雅でふくよかなモーツァルト。前日の後期ロマン派とはうってかわって古典的な響きが体の上を流れていきます。あまりの心地のよさに前半のプログラムはあまり集中して聴くことができず、ただただ、美しい響き、アンサンブルを受け止めていただけです。それにしても、女性ヴァイオリニストのエリカ・ゲルトゼッツァーの演奏は見事です。音楽的表現力が豊かで、その上、曲の表情に合わせた顔の表情の変化が見事で、姿と音楽が一致していることが驚異的でさえあります。前半のプログラムでは、2番目の《ピアノと管楽のための五重奏曲》のピアノ四重奏曲バージョンの典雅さに心を奪われました。管楽で演奏されるものとはまったく、別物に聴こえましたが、協奏交響曲のような味わいは同様です。

圧巻だったのは後半のピアノ四重奏曲第2番K.493。なにも言葉はありません。室内楽の楽しみ極めたりという心境にしてくれる素晴らしい演奏です。第1楽章のどこまでもかけあがっていくような飛翔感、第2楽章の明るさのなかのそこはかとない憂愁、第3楽章の弾むような躍動感、言葉で表現するともどかしくなってしまうような絶妙なアンサンブルと最高の音楽表現がそこにはありました。このK.493の音楽は今後、saraiの終生の友になってくれそうです。モーツァルトの室内楽では、クラリネット五重奏曲と弦楽五重奏曲と並ぶ存在になります。まったく、素晴らしいモーツァルトの演奏で、心が浮き立つようなコンサートになりました。急遽、出かけてきて、本当に良かったと思いました。

さらにsaraiをとめどなく泣かせてくれたのは、驚きのアンコール。なんと昨日の本編で演奏されたR・シュトラウスのピアノ四重奏曲のアンダンテ。R・シュトラウスの記念の年の演奏を聴くのは昨日でおしまいと思っていたので、望外の喜びです。そして、この演奏が楽趣極めたりという究極のロマンに満ちた最高の音楽です。今年をしめくくるのにこれ以上のものはありません。今年最高の感動に浸り、涙で視界が滲みました。今年どころか、こんなに感動したのは何年ぶりでしょう。ヴァイオリンのエリカ・ゲルトゼッツァーがミューズに見えました。最高の音楽と感動をありがとう!!

今日のプログラムは以下です。

  ピアノ四重奏:フォーレ四重奏団

  ピアノ四重奏曲 ト短調 K.478
ピアノと管楽のための五重奏曲 変ホ長調 K.452
(フランツ・ヤーコプ・フライシュテットラー編曲によるピアノ四重奏版)

   《休憩》

ピアノ四重奏曲 変ホ長調 K.493

   《アンコール》
      リヒャルト・シュトラウス:ピアノ四重奏曲 ハ短調 Op.13 より 第3楽章 アンダンテ

今年はあとは大晦日のジルヴェスターコンサートを残すのみ。それにしても、今年は素晴らしいR・シュトラウスの音楽を聴けた年でした。それに彼の晩年の盟友であったシュテファン・ツヴァイクにも出会えた収穫の多かった年でした。今年の最後の楽しみは、ツヴァイクが台本を書き、R・シュトラウスが音楽を書いたオペラ《無口な女》を聴くことです。もちろん、ヴィデオとCDですけどね。


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超個性のピアニスト:ポゴレリッチ@サントリーホール 2014.12.14

新しいブログサイトFC2での新記事の第2弾は昨日の夜のコンサートの感想です。
お昼のコンサートではフォーレ・カルテットの素晴らしい室内楽を満喫し、意気揚々と電車を乗り継いで、六本木一丁目へ。ちょうど、よい時間に到着。

今年最後のコンサートはやっぱりサントリーホール。今年もずい分通いました。これが今年ちょうど20回目のサントリーホールのコンサートです。

ホール内に入ると、やっぱり、ステージ上では開演前だというのにポゴレリッチが普段着姿で毛糸の帽子をかぶって、ピアノをポロンポロン弾いています。ただ、前回のように意味不明の曲ではなく、今日のプログラムにあるブラームスのパガニーニ変奏曲の練習をしているようです。同じフレーズを執拗に弾いたりしています。時折、視線を客席の上にさまよわせます。やはり、この人は変わっています。奇人と言ってもいいかもしれません。開演10分前になって前回同様、女性スタッフが呼びにきました。彼女と二声、三声交わして、未練たっぷりの様子でピアノを見やって、ステージ上を去りました。いやあ、この人変わっています。まわりのスタッフは付き合うのが大変でしょうね。

さて、本番。えらく素早くステージ衣装に着替えて登場。ばか丁寧なお辞儀で聴衆に挨拶。どの動作も常人とは違っています。

最初はリストの《ダンテを読んで(ソナタ風幻想曲)》です。最近、アヴデーエワの素晴らしい演奏で聴いたばかりの曲です。アヴデーエワの新鮮で煌めくような演奏とはまったく異なる演奏ですが、それはそれで胸にズシーンと響くような演奏です。凄くスローなテンポで分析的で、一音一音のしっかりした響きを積み上げていく構築的な演奏です。感動とかいうのとは別次元の演奏ですが、それなりに説得力はある演奏です。最後の和音をバーンと響かせて、音の城を築き上げたような感じです。ただ、音の響きが消え去ると、音の城は幻想と化してしまいます。まあ、所詮、音楽というものはそんなものでしょう。

続くシューマンの《幻想曲》も同じアプローチです。ただ、このシューマンの傑作は抒情的なロマンに満ちた曲なので、一音一音、バラバラの響きで演奏されると貴重なメロディーラインが崩れてしまいます。もちろん、そのメロディーラインは聴く者の頭の中で再構成すればよいのかも知れませんが、これが途轍もない大変な作業。大変な緊張を強いられながらの鑑賞で疲れ果てました。これはsaraiには、とても受け入れ難い演奏です。これって、一体、シューマンと言えるのか、疑問に感じます。ピアニストの個性は大事だとしても、基本的には、作曲家への敬意に満ちた演奏が必要なのではないでしょうか。ポゴレリッチには、彼なりの考え方があっての演奏でしょうが、聴く側にもそれなりの考え方がありますからね。

休憩後、ストラヴィンスキーの《「ペトルーシュカ」からの3楽章》です。これもスローなテンポではありますが、まあ、そんなに遅い印象もありません。かなり、ポゴレリッチ・マジックにはまったんでしょうか。多彩な音色の響きに満ちた演奏で、これが一番、フツーに聴けました(笑い)。以前聴いたファジル・サイの演奏などは足元にも及ばない演奏なのが、ポゴレリッチの凄いところ。やはり、ピアニストとしての才能は桁外れです。

最後はブラームスの《パガニーニの主題による変奏曲》です。これも凄い超絶技巧を駆使する曲。今日はシューマンを除いて、超絶技巧曲のオンパレード。普通はこんな凄い曲ばかりを弾くと疲れそうですが、タフなポゴレリッチは何ともなさそうです。このブラームスも気魄のこもった演奏。ただ、普通の超絶技巧ではなく、ポゴレリッチ流の音の強い響きを積み重ねていく弾き方ですから、きっと、余計に大変でしょう。この曲もブラームスのロマン性よりもピアニスティックな響きを重視した演奏ですが、ブラームスのピアノ曲もこの曲に限っては、それでもそんなに違和感はありません。晩年のブラームスの作品ならば、こんな弾き方は御免蒙りたいところですが、この曲は外面的な効果も狙った作品なので、なかなか迫力のある演奏になっています。
 
演奏が終わった後も、彼の行動は意表を突くものです。椅子から立ち上がり、聴衆の拍手に応える前に作業があるようです。まず、自分の座っていた椅子をピアノの下に押し込んで片付けます。もう弾かないぞという意思表示なんでしょう。超絶曲を3曲も弾いて、さすがに疲れたんでしょうし、普通の人の倍近い時間をかけたスローテンポの演奏で終了時刻も遅くなっていますから、アンコールはもう結構ですよ、はい。ところが彼の作業はまだ終わりません。譜面めくりの若い男性が座っていた椅子もピアノの下に押し込もうとしています。譜面めくりの若い男性が慌てて手伝おうとしてました。saraiは思わず声を上げずに笑ってしまいました。
また、馬鹿丁寧なお辞儀が続き、最後まで奇人ぶりを発揮したポゴレリッチでした。

今日のプログラムは以下です。

  ピアノ:イーヴォ・ポゴレリッチ

  
リスト: 巡礼の年第2年「イタリア」から
     ダンテを読んで(ソナタ風幻想曲)
シューマン: 幻想曲 ハ長調 op.17

   《休憩》

ストラヴィンスキー: 「ペトルーシュカ」からの3楽章
ブラームス: パガニーニの主題による変奏曲 op.35

ポゴレリッチの演奏は凄いと言えば凄いのですが、閉口してしまったのも事実です。どんな曲も彼流のやりかたで押し通すので、ある意味、一本調子。作曲家の個性が死んでしまっているようにも感じます。ポゴレリッチの熱烈なファンも多いようですが、saraiは、彼の演奏を聴くのは十分堪能したので、もういいかなと思いました。一度は聴いておくべきピアニストではありますけどね。来年、アファナシエフを初めて聴きますが、同じ、スローで分析的、かつ、抽象的なピアニズムは同一の傾向です。さて、どうなることやら。

これで今年のコンサートはお終いにするつもりでしたが、とてもこれでは終われない・・・実は翌日もコンサートに出かけることにしました。それは次回、報告します。


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超感動の室内楽:フォーレ・カルテット@上大岡ひまわりの郷 2014.12.14

新しいブログサイトFC2で今日からブログを再開します。
新記事の第1弾はコンサート記事。今日はsaraiの今年のコンサートの最終日。お昼と夜のダブルでコンサートです。
まずはお昼のコンサートの記事です。夜のコンサート記事は明日アップします。

今日は上大岡ひまわりの郷のコンサート・シリーズの2014年秋の3回目。

今日のコンサートに登場したフォーレ・カルテットは常設のピアノ四重奏団。このフォーレ・カルテットは間違いなく、現在、世界最高の室内楽団体であることを確信させられる凄い演奏でした。ドイツ音楽の正統を継承する人たちです。saraiにとってはCD でしか聴いていない伝説的なブッシュ弦楽四重奏団にも匹敵すると思える素晴らしい演奏団体であると強く感じました。彼ら4人はみんな同じカールスルーエ音楽大学出身ということで、ライン川沿いの地方の音楽文化の高さがうかがい知れます。

今回のリサイタルはプログラムも秀逸です。マーラー、リヒャルト・シュトラウスという滅多に聴けないものから、ブラームスの傑作まで後期ロマン派の名曲揃いです。

まずは、マーラーがごく若い頃に作曲した未完のピアノ四重奏曲。尊敬する天才マーラーは10代の青年時代から既に傑出した音楽性の持ち主であったことをまざまざと認識させてくれる素晴らしい演奏でした。ロマンに溢れた美しい曲が何のてらいもなく演奏され、saraiは思わず、深い感動に酔ってしまいました。第2楽章以降も完成していたら、きっと交響曲と並ぶ傑作になっていたでしょう。そう感じさせるような見事な演奏。この名曲は今日のように演奏されることを待っていたんでしょう。今後、コンサートで取り上げられる機会も増えることを確信しました。

次は、R・シュトラウスがやはり若い頃に作曲したピアノ四重奏曲。これまた天才作曲家R・シュトラウスがその天分を遺憾なく発揮した名作であることを徐実に示してくれる見事な演奏でした。フォーレ・カルテットの演奏は振幅の大きなもので、特にヴァイオリンを中心とした弱音の表現力が際立っています。もちろん、アンサンブル力もパーフェクトです。そのテクニックの上に、実に音楽性豊かな演奏を繰り広げます。第1楽章がロマンあふれる演奏だったと思うと、次の第2楽章は諧謔的な演奏。この変化に富んだ演奏はまるで、R・シュトラウスのオペラを聴いているような気持ちにさせてくれます。この名曲もきっと、マーラー同様、コンサートで聴く機会が増えることでしょう。フォーレ・カルテットはそのための伝道師のような存在です。

前半の2曲を聴き、後半のブラームスのピアノ四重奏曲第1番が素晴らしい演奏になることを確信しました。そして、事実、途轍もなく、凄い演奏になりました。これまで聴いてきた、あらゆるジャンルのブラームスの音楽を凌駕する素晴らしい演奏です。これぞ、ブラームスの音楽。これ以上望むものは何一つありません。ブラームスのすべてがありました。もう、しばらくはブラームスは聴かなくてもいいと思ってしまいました。コンサートが終わっても、頭の中で、このブラームスのピアノ四重奏曲第1番の演奏が鳴り続けています。素晴らしい音楽体験になりました。4楽章とも素晴らしかったのですが、とりわけ、第3楽章の美しさ、深みは何ものにも比肩できない素晴らしさ。長く音楽を聴いてきて、このような演奏に巡り合い、こんなに幸せなことはありません。

今日のプログラムは以下です。

  ピアノ四重奏:フォーレ・カルテット

  マーラー:ピアノ四重奏曲 イ短調
  リヒャルト・シュトラウス:ピアノ四重奏曲 ハ短調 Op.13

   《休憩》

  ブラームス:ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 Op.25

   《アンコール》
    ムソルグスキー(フォーレ・カルテット編):《展覧会の絵》より、卵の殻をつけた雛の踊り
    フーベルト:フォーレ・タンゴ

本編の3曲はいずれも素晴らしい演奏でしたが、アンコールの2曲も素晴らしい演奏。《展覧会の絵》はオリジナルのピアノ独奏に弦楽器群で装飾音を付けたような、お洒落な編曲での快演。楽しいこと、この上なしです。最後のタンゴは切れのよいタンゴのリズム、そして、中間部のヴァイオリンのスローで甘美な演奏、うっとりとして聴き入りました。

こういう素晴らしい室内楽のコンサートを企画してくれた横浜楽友会の平井さんに感謝あるのみです。


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西洋音楽の最高峰:バルトーク、大野和士&東京都交響楽団@サントリーホール 2014.12.9

今日は来年から都響の音楽監督に就任する大野和士が魅力的なプログラムを組んで、発進開始。
バルトークの最高傑作《弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽》。これは意外に演奏機会が少なく、saraiは生で聴くのは初めてかもしれません。
そして、フランツ・シュミットとは・・・絶句です。これもなかなか聴けません。saraiが生で聴くのは初めてです。

こういうプログラムでコンサートに登場するとは、大野和士は只者ではないと思いました。この調子で今後も続けてくれれば、とても楽しみです。

さて、バルトークの《弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽》はsaraiが学生時代にLPレコードで初めて聴いて、大変な衝撃を受けた曲です。そのとき、バルトークを聴いたのが初めてでしたが、それ以来、saraiにとって、バルトークは神のような存在です。その後、弦楽四重奏曲を聴いて、バルトークへの尊敬の念はさらに高まりました。西洋音楽はバッハからベートーヴェンを経て、20世紀はマーラーという高みを迎えましたが、孤高の天才バルトークによって、西洋音楽は未曽有の頂点に立つことができました。その記念碑的作品が《弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽》です。この作品は聴く者に大変は緊張感を与えずにはおかない音楽です。ある意味、音楽というジャンルを別次元の芸術に変容させたとも思えます。

今日の演奏はどうなるか、期待感と不安感を持って臨みました。これ以上の演奏もありうるかも知れませんが、十分に期待感を満足させてくれる素晴らしい演奏でした。変な言い方ですが、ちゃらちゃらした演奏ではなく、実に真摯な演奏でした。真正面から、この音楽へ向かい合った、渾身の演奏だと感じました。都響の素晴らしい弦楽セクションにはいつも魅了されますが、今日は弦楽の各セクションの首席奏者が2人ずつ揃った万全の布陣。その彼らが実に見事な演奏を聴かせてくれました。静謐さを感じさせる演奏から、乗りのよいリズミックな演奏まで、この曲の真髄に迫る演奏でした。特に第1楽章の緊張感と不安感のみなぎる演奏には強烈なインパクトがありましたし、第4楽章の後半の高揚感は大変なものがありました。都響のこういう素晴らしい演奏を引き出した大野和士の音楽力も高く評価するものです。

後半のフランツ・シュミットの交響曲第4番の演奏ですが、これは正直なところ、評価は・・・分かりません。フランツ・シュミットらしい濃厚なロマンは表出できていたと思います。マーラーの演奏に卓越した都響の強力なアンサンブルは諸処にマーラーかと思わせるような美しく濃密なロマンティックさを感じさせてくれましたが、果たして、それがフランツ・シュミットと言えるのか・・・難しいところです。全般にハーモニーが分厚過ぎるようにも感じました。まあ、そういう解釈での演奏だったんでしょうが、少し、違和感がありました。しかしながら、都響もこれがフランツ・シュミットの滑り出しならば、上々のスタートかもしれません。マーラー演奏と同様に、フランツ・シュミットの音楽も熟成させていけば、高いレベルに到達できることでしょう。今後もフランツ・シュミットの音楽をレパートリーに加えていってほしいと念願します。

ところで、今日のプログラムは以下です。

  指揮:大野和士
  管弦楽:東京都交響楽団

  バルトーク:弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽 sz.106

   《休憩》

  フランツ・シュミット:交響曲第4番 ハ長調

最後になりましたが、予習について触れておきます。
バルトークの《弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽》は実演こそ聴いていませんが、LPレコード、CDを聴き続けてきており、今更、予習でもありませんが、いい機会なので、また、いくつかのCDを聴き直しました。

 フリッチャイ&RIAS交響楽団(1953年録音、モノラル)
 ライナー&シカゴ交響楽団(1958年録音、LIVING STEREOのSACD Hybrid盤)
 ドラティ&フィルハーモニア・フンガリカ(1974年録音)
 クーベリック&バイエルン放送交響楽団 (1981年録音)
 ショルティ&シカゴ交響楽団(1989年録音)
 ブーレーズ&シカゴ交響楽団(1994年録音)

何と言っても、ライナー&シカゴ交響楽団は名盤中の名盤。これまで何度聴いたか分かりませんが、聴くたびに戦慄を覚えるような素晴らしい演奏です。もちろん、昔はLPレコードで聴いていましたが、今はSACD Hybrid盤の素晴らしい音質です。今回新たに聴いて、このライナー&シカゴ交響楽団を超えるかもしれないと思ったのは、ドラティ&フィルハーモニア・フンガリカです。ドラティはほかの演奏は聴いていましたが、このハンガリーのオーケストラとの演奏は素晴らしいものです。フリッチャイ&RIAS交響楽団も素晴らしい演奏ですが、モノラルなのが惜しまれます。なお、このRIAS交響楽団というのは現在のベルリン放送交響楽団の前身だったオーケストラです。他のCDはちょっと緊張感において、物足りなく感じました。

フランツ・シュミットの交響曲第4番はあまり、たくさんのCDは発売されていません。予習したのは以下。

 ネーメ・ヤルヴィ&デトロイト交響楽団(全集盤)
 メータ&ウィーン・フィル

どちらもなかなかの演奏です。


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質の高いチェコ音楽:ウィハン・カルテット@鶴見サルビアホール 2014.12.3

ウィハン・カルテットはチェコの演奏家たちで構成されています。いつも思うのですが、チェコの音楽家はテクニック以上に音楽性が優れています。この弦楽四重奏団もまさしく、音楽性豊かな演奏を聴かせてくれました。そして、やはり、お国ものであるドヴォルザークの《アメリカ》は絶品でした。

今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:ウィハン・カルテット

  ハイドン:弦楽四重奏曲第43番 Op.54-1
  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第6番 Op.18-6

   《休憩》

  ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲第12番 Op.96《アメリカ》

   《アンコール》
    ビートルズのイェスタデイ

1曲目はハイドンの弦楽四重奏曲第43番です。この作品はあまり聴いていないので、力を入れて予習。予習したのは以下の3つ。

 エマーソン・カルテット(ハイドン・プロジェクト)
 エンジェルス・カルテット(全集盤)
 アマデウス四重奏団(旧盤、モノラル)

いずれも爽快な素晴らしい演奏。なかでもエマーソン・カルテットのすっきりとしたスマートな演奏は音質の良さも相俟って、心地よく聴けます。2枚組におさまったハイドンの弦楽四重奏曲はすべて快心の演奏です。

今日のウィハン・カルテットの演奏は手堅い演奏ながら、美しくハイドンの古典を聴かせてくれました。

2曲目はベートーヴェンの弦楽四重奏曲第6番です。これはさんざん聴いてきた作品ですから、聴き洩らしていた以下のCDで予習。

 エマーソン・カルテット(全集盤)

エマーソン・カルテットのベートーヴェンはどれを聴いても新鮮な響きです。もっとも最近聴いたヴェーグ四重奏団(新盤)の素晴らしさには及ばない感じではあります。

今日のウィハン・カルテットの演奏はこの曲の核心に迫る素晴らしい演奏。アンサンブルの響きもハイドンよりも綺麗になってきました。満足の演奏に心が浮き立ちます。

休憩後、この日、一番、楽しみにしていたドヴォルザークの《アメリカ》です。いやというほど、聴いてきた曲ですが、未聴の演奏を予習してみます。

 エマーソン・カルテット
 ハーゲン・カルテット
 プラハ・カルテット(全集盤)
 アルバン・ベルク・カルテット

結局、今日の3曲ともエマーソン・カルテットを聴いてしまいましたが、これも期待に応える素晴らしい演奏。ハーゲン・カルテットはデビュー当時のメンバーが20代の頃の演奏でまだまだというところ。これは再録音してもらわないと、ハーゲン・カルテットの名が廃ります。プラハ・カルテットはお国ものではありますが、到底、かってのスメタナ四重奏団の足元にも及ばない演奏。全集盤であるところに意義があります。アルバン・ベルク・カルテットはsaraiの好みではありませんが、ライブ録音でさすがの演奏です。まあ、いずれもスメタナ四重奏団を超える演奏ではありませんけどね。

今日のウィハン・カルテットの演奏は快心の演奏。40年以上前の学生時代に聴いたスメタナ四重奏団の演奏に迫るものでした。ちょっとした間のとりかたや、アンサンブルの精妙さでは、スメタナ四重奏団に比肩できるものではありませんが、ボヘミアを感じさせる音楽の充実度では同等の演奏に思えました。久しぶりに素晴らしい演奏を聴けて、充足感を覚えました。

やはり、弦楽四重奏曲はいいですね。純粋な音楽を感じます。





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魅惑のショパン、イエルク・デームス 86歳バースデーコンサート@上大岡ひまわりの郷 2014.12.2

遂にというか、ようやく、ウィーンのピアニスト、イエルク・デームスの生演奏に接することになりました。何となく、彼はレコード(CD)で聴く過去の巨匠のような気がしますから、生で聴けるというのは不思議な感じです。今日はデームスの86歳の誕生日だそうです。86歳・・・高齢ですね。saraiの持論、指揮者とピアニストは80歳を過ぎてからが本来の素晴らしい演奏が聴ける・・・それにぴったりした年齢です。これまで、CDでしか聴いてこなかった巨匠の演奏はどんなものになるでしょう。イエルク・デームスと言えば、かって、彼らが若い頃には、ウィーン3羽烏と呼ばれていました。フリードリヒ・グルダは生で聴かないうちに亡くなりました。享年69歳でしたから、グルダは早死にでした。あと10年長生きして、80歳になれば、聴けたでしょうに、残念です。パウル・バドゥラ=スコダは一昨年、85歳での来日コンサートを聴きました。そして、今日のデームスです。
デームスと言えば、今年のウィーンの旅で近郊の街ミュルツシュラークにあるブラームス博物館まで、彼の弾いたブラームス・アルバムを購入するために行きました。当ブログでも現在、連載中の《スペイン・ザルツブルグ・ウィーンの旅》の後半でその経緯を書くので、お楽しみに。そのときに求めた2枚組のCDは目の前にずっと置いてあります。ドイツ語のリーフレットを読もうと悪戦苦闘しているからです。


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リーフレットの表紙に写っているピアノはかって、ブラームスが愛用してBachmannのピアノ。現在、ブラームス博物館に展示してありますが、デームスはこのピアノでブラームスを弾いて、それをCDアルバムにしています。このピアノの音はやはり、それなりに年代ものの響きです。ただし、それだけでは鑑賞用として寂しいので、他の1枚には現代のスタインウェイでブラームスを弾いています。やはり、こちらが聴き易いですね。ブラームスの晩年のピアノ曲の名作(Op.116~119)を網羅したアルバムになっています。

今日の演奏ですが、ブログのタイトルを見て、おやっと思われませんでしたか。デームスと言えば、ウィーンのピアニスト。当然、モーツァルト、べートーヴェン、ブラームスと言った作曲家の作品が得意の筈。ショパンって、弾いていたっけ?・・・という感じですよね。ところが、そのショパンが素晴らしかったんです。まるでフランス人のショパン弾きみたいにね。

今日のプログラムは以下です。

  ピアノ:イエルク・デームス

  J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV 903
  モーツァルト:幻想曲ハ短調 K.396
         幻想曲ニ短調 K.397
  ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番 Op.27-2「月光」

   《休憩》

  J.デームス:ソナチネ Op.26
  ショパン:前奏曲嬰ハ短調 Op.45
       舟歌 Op.60
       子守歌 Op.57
       ノクターン第18番 Op.62-2
       バラード第3番 Op.47

   《アンコール》
     ドビュッシー:『前奏曲集第1巻』より、《ヴェール(帆)Voiles》・・・多分?
     ドビュッシー:『ベルガマスク組曲』より、《月の光 Clair de Lune 》
     ショパン: 夜想曲第5番嬰ヘ長調 Op.15-2

満員の会場がシーンと静まり返る中、ご高齢のイエルク・デームスがおぼつかない足取りでステージに登場。
しかし、手がピアノの鍵盤に置かれると、その年齢からは想像もできない美しいタッチの響きが聴こえてきます。

1曲目のJ.S.バッハの《半音階的幻想曲とフーガ》。前半部分の幻想曲はしっかりした響きで自在なテンポながら、落ち着いた演奏。次第にバッハの深遠に迫っていきます。後半のフーガも落ち着いたテンポで深みのある演奏ですが、決して枯れた、渋い演奏ではなく、ためのきいた、しっかりした演奏。なかなかよかったと思います。

2曲目、3曲目のモーツァルトの幻想曲は続けて演奏されます。ハ短調の幻想曲と言えば、K.475が有名ですが、K.396も名曲です。バッハの幻想曲と続けて演奏されると、なんとなく、モーツァルトの幻想曲もスタイルが似ていることに気が付きます。ただし、モーツァルトはより自由な形式です。明快なボリュームのある響きで闊達な演奏です。この傾向はニ短調の幻想曲に引き継がれます。そもそも、このニ短調の幻想曲はsaraiがモーツァルトのピアノ曲の中で一番好きな曲なので、とても気持ちよく聴けます。しっかりした名演奏でした。

4曲目のベートーヴェンのピアノソナタ第14番「月光」は古今東西、ピアノ曲の中でも横綱クラスの有名曲。過去の巨匠が名演を録音してきた曲で、生半可な演奏では、白けてしまいます。デームスはたんたんときっちりと演奏し、奇をてらうことはありません。ここでもためをきかせた演奏で、なかなか聴かせてくれました。最高の演奏とは言えなくても、及第点の美しい演奏でした。

休憩後は、デームス自身の作曲した作品。6曲の連作になっていて、シューマンの連作のような音楽に印象派のテイストを加えたような綺麗な曲で、さすがに手に馴染んだ演奏。前半の演奏に比べると、タッチの美しさが目立ちます。珍しい曲を聴かせてもらいました。

最後はショパンの前奏曲嬰ハ短調、舟歌、子守歌、ノクターン第18番、バラード第3番が続けて演奏されます。いずれも静かで抒情的な作品ばかりです。最初の前奏曲の冒頭のフレーズから、美しい響きとタッチ、それにショパンらしいテンポの揺れが心地よく感じます。これは真正のショパンです。何故、ウィーン伝統のピアニストであるデームスがこんな素晴らしいショパンが弾けるのか、頭を捻ってしまいます。この《ひまわりの郷》ホールがこんなに美しいピアノの響きで満たされたことはなかったのではないでしょうか。思わず、その違和感に戸惑いを感じます。saraiの地元のホールで今、巨匠が素晴らしい演奏をしていることが心底、信じられません。デームスはここで聴けるような普通の音楽家ではなくて、ウィーンとか、それなりの場所でしか聴けない類の巨匠ピアニストであることが実感できるようなショパンでした。
比較するのも何ですが、晩年のクラウディオ・アラウの美音にも匹敵するイエルク・デームスの美音でした。デームス晩年の演奏は是非、録音にも残すべきだと強く感じました。ショパン、そして、シューマンとブラームスの再録音が期待されます。

アンコールはまず、ドビュッシー2曲。これはショパンに輪をかけて、素晴らしい演奏です。これほどの美しい響きを実演で聴けるとは思いもしませんでした。ドビュッシーも録音を残してほしいですね。
そして、最後はショパンのノクターン。最高の演奏にしびれました。

素晴らしいバースデーコンサートに立ち会えて、とても幸せでした。是非、来年も来日してくださいね。






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室内楽の歓び:シューマン・カルテット@鶴見サルビアホール 2014.11.26

若手の弦楽四重奏団、シューマン・カルテットを初聴き。2007年に結成したばかりのキャリア7年目のグループですが、今回はもう2度目の来日だそうです。グループ4人のうち、3人はシューマン兄弟で、彼らの母親は日本人ピアニストだそうですから、日本ともつながりが強いのでしょう。

第1ヴァイオリンのエリック・シューマンはソロ奏者としても名高いので、レベルの高い演奏を聴かせてくれると期待しながら、演奏を聴き始めましたが、最初のモーツァルトは意外に平凡でおとなしい演奏です。モーツァルトは自然な演奏スタイルでも構いませんが、それでも、やはり、うっとりと聴かせてほしいものです。そして、次のショスタコーヴィチ。これは第1番ということで、ショスタコーヴィチの最初に作った弦楽四重奏曲ですが、とても完成度の高い素晴らしい曲です。しかし、この曲の演奏は個性に乏しく、あまりに穏健過ぎる演奏で、物足りない感じ。楽しみにしていたので、残念な演奏でした。

休憩後の後半はシューマンの作品です。シューマンの室内楽のなかでは、あまり聴かない曲で、予習しても、明快なイメージがわきにくい曲です。予習したのは次の2枚。

 メロス四重奏団
 ツェートマイアー・カルテット

ということで、これもあまり、よい演奏は期待できないだろうと思いながら、演奏に耳を傾けます。第1楽章の冒頭は実にロマンティックなフレーズが続きますが、演奏はそれなりの感じ。しかし、曲が進むにつれて、おっという感じで演奏に引き込まれていきます。インティメットな表現で、シューマンらしい温もりを感じます。まるで、シューマンの自宅に招かれて、ロベルトとクララ夫妻とともに音楽を楽しんでいるように感じます。シューマン兄弟自体も音楽一家に育ったので、きっと、子供の頃から、シューマンの室内楽に親しんできたのではないでしょうか。そういう手触りがする音楽です。シューマン兄弟はケルンに育ったので、ロベルト&クララ・シューマンが最後に暮らしたボンやその前に暮らしたデュッセルドルフも近いので、ロベルト・シューマンは地元の音楽家という感じでしょう。それに同じシューマンの名前でもあるので、親近感も抱いていたに相違ありません。実際のところはよく分かりませんが、そういう想像をしてしまうほど、確信に満ちた演奏だし、愛情に満ちた表現です。シューマン・カルテットの演奏スタイルが現代に珍しく、穏やかで温もりに満ちていることがシューマンの音楽にぴったりと合っているのかもしれません。素晴らしい演奏というよりも、聴いていて、心が豊かになり、幸せな気持ちになるような不思議な演奏でした。演奏者の優しい気持ちに包まれて、穏やかな音楽の喜びを感じることができました。

今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:シューマン・カルテット
   第1ヴァイオリン:エリック・シューマン
   第2ヴァイオリン:ケン・シューマン
   ヴィオラ:リザ・ランダル
   チェロ:マーク・シューマン

  モーツァルト:弦楽四重奏曲第21番ニ長調 K.575
  ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第1番ハ長調 Op.49

   《休憩》

  シューマン:弦楽四重奏曲第1番イ短調 Op.41-1

   《アンコール》
    ハイドン:弦楽四重奏曲第79番 ニ長調 Hob.III:79 Op.76-5『ラルゴ』 より 第2楽章『ラルゴ』

アンコールのハイドンも美しい演奏で、しかも優しさにあふれていました。室内楽のインティメットな愉悦を思い出させてくれた素晴らしいコンサートでした。



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ヤンソンス+バイエルン放送交響楽団@サントリーホール 2014.11.25

今年、最後の高額チケットのコンサート。まあ、それにふさわしい充実度のコンサートでした。最近のヤンソンスの充実ぶりには目を見張るものがあります。一時、体調不良で先が危ぶまれましたが、このまま、長生きして、真の巨匠になるのではと思わされます。頑張ってほしいものです。

また、クリスチャン・ツィメルマンのピアノは初めて、実演に接しましたが、その力演には正直、驚きました。自分の耳でちゃんと聴かないと、その人の実力は分からないものですね。そんなに期待しないで聴きましたが、大変な演奏でした。ブラームスをこんなに弾きこなせる人がいたんですね。ダイナミックなフォルテの演奏から、抒情的なパッセージまで、見事な演奏でした。また、今後、要チェックのピアニストが増えました。現在、世界中に素晴らしいピアニストがあふれている状況で、嬉しいことですが、聴衆としては、経済状況も含めて、嬉しい悲鳴というところです。

ブラームスのピアノ協奏曲第1番は力を入れて、予習しました。このコンサートに向けて、予習したのは以下。

 ジュリアス・カッチェン/ピエール・モントゥー指揮/ロンドン交響楽団(1963年)。
 ルドルフ・ゼルキン/ジョージ・セル指揮/クリーヴランド管(1968)。 LPレコード。
 クラウディオ・アラウ/カルロ・マリア・ジュリーニ指揮/フィルハーモニア管(1960年)。スタジオ。
 クラウディオ・アラウ/ラファエル・クーベリック指揮/バイエルン放送響(1964年)。ライブ。
 クラウディオ・アラウ/ハンス・シュミット・イッセルシュテット指揮/北ドイツ放送交響楽団(1966年)。ライブ、モノラル。
 クラウディオ・アラウ/ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮/モスクワ放送交響楽団(1968年)。ライブ。
 クラウディオ・アラウ/ベルナルト・ハイティンク指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1969年)。スタジオ。

カッチェン得意のブラームスは素晴らしいピアノですが、モントゥー指揮がややミスマッチ。ジュリーニ、クーベリック、ハイティンクあたりと組めば、素晴らしかったでしょう。残念です。ゼルキンは期待しましたが、ピアノの線が細く、力強さに欠けます。もしかしたら、CDなら音が改善されているかもしれません。後でチェックしてみます。セルは素晴らしい演奏です。
残りはアラウのピアノで、スタジオ録音2種、ライブ録音3種、聴きました。いずれもアラウのための利いたスケール感のある演奏で、美しい響きと深い表現に満ちており、素晴らしいこと、この上なし。これらを聴いているとほかのピアノが聴けなくなります。スタジオ録音はどちらも音質が素晴らしく、ジュリーニもハイティンクも彼らのブラームスの世界を表現している素晴らしい演奏。ライブでは、モノラル録音ながら、シュミット・イッセルシュテットとの共演が素晴らしい演奏です。熱さで言えば、クーベリックとのライブの凄まじい演奏も魅力的。ロジェストヴェンスキーはロシアらしい重厚な音で、アラウの音の響きとの対比が面白い演奏です。
これらの中から、saraiが今後も繰り返し聴きたいのは、アラウとジュリーニ、そして、ハイティンクの共演盤です。これ以上の演奏は望めません。

R.シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」もこの際、力を入れて、予習しました。軸となったのはフルトヴェングラー指揮のものです。

 フルトヴェングラー指揮/ベルリン・フィル(1942年2月17日、ライヴ録音)
 フルトヴェングラー指揮/ベルリン・フィル(1947年9月16日、放送用録音)
 フルトヴェングラー指揮/ベルリン・フィル(1951年3月1日、ローマでのライヴ録音 )
 フルトヴェングラー指揮/ウィーン・フィル(1953年8月30日、ザルツブルグ音楽祭でのライヴ録音)
 フルトヴェングラー指揮/ウィーン・フィル(1954年3月、スタジオ録音)
 フルトヴェングラー指揮/ベルリン・フィル(1954年4月27日、ティタニア・パラストでのライヴ録音 )
 クレメンス・クラウス指揮/ウィーン・フィル(1950年6月録音、スタジオ録音)
 カラヤン指揮/ウィーン・フィル(1960年、スタジオ録音)
 カラヤン指揮/ベルリン・フィル(1972年、スタジオ録音)。カラヤンはベルリン・フィルと1982年に再録音。これは以前聴いたのでパス。
 フリッツ・ライナー指揮/シカゴ交響楽団(1954年、スタジオ録音)。ステレオ録音。素晴らしい音質。
 フリッツ・ライナー指揮/シカゴ交響楽団(1961年、スタジオ録音)。
 クラウス・テンシュテット指揮/ロンドン・フィル(1986年、スタジオ録音)。
 ゲオルク・ショルティ指揮/シカゴ交響楽団(1973年、スタジオ録音)。
 ベルナルト・ハイティンク指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1973年、スタジオ録音)。

フルトヴェングラーは濃密とも思える後期ロマン派の香りに満ちた魅力的な演奏。ベルリン・フィルとの演奏では、1947年と1951年が切れ込み鋭く、ロマンティックさも兼ね備えた大変な演奏。ウィーン・フィルとの演奏では、1953年8月30日、ザルツブルグ音楽祭でのライヴ録音の緊張感、1954年3月のスタジオ録音の高音質で柔らかい表現のいずれも必聴ものです。
このフルトヴェングラーの演奏に並ぶのがクレメンス・クラウス指揮のウィーン・フィルです。シャープできびきびした表現はさすがにR.シュトラウスの盟友ならではの表現。
カラヤン、ライナー、テンシュテット、ショルティ、ハイティンクはいずれも音質のよいステレオで、それぞれの持ち味を出した名演揃い。
ともかく、この曲は聴き込むほど、その素晴らしさが身に沁み入ってきます。

そういうところで今日の演奏です。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:マリス・ヤンソンス
  ピアノ:クリスチャン・ツィメルマン
  管弦楽:バイエルン放送交響楽団

  ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 Op.15

   《休憩》

R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」 Op.20
R.シュトラウス:オペラ『ばらの騎士』組曲 Op.59

   《アンコール》
    シュトラウスⅡ:ピツィカート・ポルカ
    リゲティ:ルーマニア協奏曲から第4楽章

前半のブラームスのピアノ協奏曲第1番は大曲です。第1楽章から、クリスチャン・ツィメルマンの気魄に満ちた演奏で充足感を味わいます。マリス・ヤンソンス指揮のバイエルン放送交響楽団も堂々たる演奏でピアノを支えます。しかし、この曲の本領は第2楽章以降。第2楽章ではツィメルマンのピアノがブラームスのピアノ独奏曲のように味わい深く奏でられます。いいですねえ・・・ブラームスを味わい尽くすという感じです。時折はいるオーケストラとの掛け合いも見事です。そのまま、素晴らしく響くピアノが勢いよくメロディーを奏でながら、第3楽章に突入していきます。実にダイナミックな表現。些細なミスはその気魄が飲み込んでいきます。激しく、ピアノとオーケストラが絡み合い、見事なフィナーレで大満足。ツィメルマンのスケール感のある美しく鳴り響くピアノの音色にすっかり魅了されました。

休憩後は楽しみにしていたR.シュトラウス。まさに期待通りの演奏でした。交響詩「ドン・ファン」はフルトヴェングラーの濃密なロマンティシズムこそありませんでしたが、壮麗で颯爽としていて、若き日のR.シュトラウスの新しい音楽創造の勢いを具現化したものでした。
オペラ『ばらの騎士』組曲は、オペラの流れに沿って、組曲化して、最後にコーダを付けたものですが、これはあくまでも管弦楽曲の味わいです。オペラティックな雰囲気はそれほどありません。もちろん、聴衆はそれぞれのオペラ体験から、オペラ『ばらの騎士』のシーンを想像してしまうかもしれませんけどね。途中、オックス男爵のワルツのあたりから、演奏は盛り上がります。第3幕の3重唱以降はロマンとやるせなさが漂います。ちょっとしたウィーンの茶番劇だったのよ・・・そういうフレーズで、人生の無常さを思わせられます。ウィーン風の音楽に包み込まれて、己の人生の総括に至ってしまいそうです。そういう気持ちに浸っていると、最後はまたオックス男爵のワルツで華々しく、曲は閉じられます。
そういえば、今年は久しぶりに楽劇《ばらの騎士》を聴かなかったことを思い出しました。そのかわり、今年の終わり近くに、組曲であれ、『ばらの騎士』を聴かせてもらって、感謝です。

アンコール2曲目は、バルトークちっくな曲が流れると思ったら、それはリゲティでした。同郷の作曲家はルーマニアの民俗音楽を同様に使って、ポスト・バルトークとも思える音楽を作ったんですね。大変な曲をアンコールで演奏してくれたヤンソンスとバイエルン放送交響楽団に感謝です。






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       ツィメルマン,  

美し過ぎるザハーロワ:ボリショイ・バレエ《白鳥の湖》@オーチャードホール 2014.11.24

1年に2回ほど見るバレエ。まだまだ、初心者です。8回目にして、遂にバレエの名作《白鳥の湖》を見ます。それもこのバレエを初演したボリショイ・バレエです。そして、何よりもこのバレエを見るなら、バレリーナはこの人と決めていた憧れのスヴェトラーナ・ザハーロワが踊ります。
ザハーロワは超美人バレリーナで一目見たら、誰でもファンになってしまうスーパースター。その彼女も1979年生まれといいますから、早35歳。今回見逃したら、彼女の踊るオデット姫は見損なうかもしれません。焦って、チケットを購入しました。もう、完全にミーハー状態です。
念を入れて、ちゃんとDVDで予習。もちろん、ザハーロワの踊る《白鳥の湖》。残念ながら、ボリショイ・バレエのものはなくて、ミラノ・スカラ座のものです。これはウラジーミル・ブルメイステル振付によるもので、最後はハッピー・エンドです。振付はともかく、何よりもザハーロワの美しい姿が見られるのが最高です。特に黒鳥、オディール役のときの美しいバレエが出色です。

今日の公演ですが、ザハーロワの手足が長くて、しなやかな肢体の美しさはため息が出ます。やはり、第3幕、オディールに扮したときのザハーロワの美しいこと、素晴らしいです。第2幕のオデット姫では悲しげで無表情だったのに対し、オディールに扮すると笑顔が美しく、魅惑的です。踊りもオデット姫のスローなバレエに対して、切れのあるバレエを見せてくれます。有名な32回連続のフェッテ(黒鳥のパ・ド・ドゥ)も見事。もっとも、配偶者は回転数を数えていたそうで30回転しかしていないと言っていましたが、そんなのどうでもいいでしょう・・・綺麗でしたからね。ザハーロワがもっとも輝いたのは、カーテンコールでの笑顔です。思わず、saraiはスタンディング・オベーション。パーフェクトで美し過ぎるザハーロワのオデット/オディールでした。

バレエを見始めて、本当によかったと思った1日でした。

今日のプログラム・キャストは以下です。

  バレエ:白鳥の湖

 元振付:マリウス・プティパ、レフ・イワノフ(1895年1月15日、サンクトペテルブルク・マリインスキー劇場で蘇演されたプティパ・イワノフ版)
       アレクサンドル・ゴールスキー(1933年、ゴールスキー版)
   改定振付:ユーリー・グリゴローヴィチ(2001年3月2日、グリゴローヴィチ新改訂版)
   音楽:ピョートル・チャイコフスキー
  指揮:パーヴェル・ソローキン
   管弦楽:ボリショイ歌劇場管弦楽団

   オデット/オディール:スヴェトラーナ・ザハーロワ
   ジークフリート王子:デニス・ロヂキン
   王妃:クリスティーナ・カラショーワ
   悪魔ロットバルト:ウラディスラフ・カントラートフ
   王子の家庭教師:ヴィタリー・ビクティミロフ
   道化:デニス・メドヴェージェフ
   王子の友人たち:アンナ・ニクーリナ、クリスティーナ・クレトワ

今日の振付ですが、サンクトペテルブルク・マリインスキー劇場で蘇演されたプティパ・イワノフ版をもとにしています。これは世界中、どこでもそうでしょう。共産政権下では、プティパ・イワノフ版をもとに、王子が悪魔に打ち勝ち、現世でオデット姫と結ばれるという演出で、イデオロギーの勝利とも思える改変をしていましたが、2001年のグリゴローヴィチ新改訂版では、もっとも悲しい結末。オデット姫が死に、王子に救済はおとずれないというものになりました。チャイコフスキーの音楽にもっともふさわしい形にしたと思われます。いずれにせよ、バレエの美しさはどちらにせよ、変わらず、永遠です。

来年はマリインスキー劇場が来日公演で《白鳥の湖》を上演するようです。もし、ロパートキナが踊るようなら、また、見てみたいものです。それで《白鳥の湖》は打ち止めにしてもよいでしょう。





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4人だけのウィーン・フィル再び:シュトイデ・カルテット@鶴見サルビアホール 2014.11.21

今年6月のキュッヒル・カルテットに続き、ウィーン・フィルのメンバーで固めた弦楽四重奏団の演奏を聴きます。第1ヴァイオリンのシュトイデはキュッヒルと同じく、ウィーン・フィルの現役コンサート・マスター4人のうちの一人ですが、まだまだ、若手のヴァイオリニストです。ほかのメンバーも若く、キュッヒル・カルテットの精度の高い演奏に対して、シュトイデ・カルテットは元気がよく、勢いのある演奏です。とはいえ、どちらのカルテットも全員ウィーン・フィルのメンバーなので、ウィーン・フィルの響きを継承しており、室内楽というよりもウィーン・フィルのシュリンク版オーケストラという感じ。実際、弦楽四重奏団としては破格の豊かな響きです。今日のホールが客席が100しかないコンパクトなホールのせいもあり、音が大き過ぎるほどです。まあ、理屈抜きで聴き応えがあります。

今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:シュトイデ・カルテット
   第1ヴァイオリン:フォルクハイト・シュトイデ
   第2ヴァイオリン:ホルガー・グロー
   ヴィオラ:エルマー・ランダラー
   チェロ:ヴォルフガング・ヘルテル

  モーツァルト:弦楽四重奏曲第14番ト長調 K.387
  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第11番ヘ短調 Op.95「セリオーソ」

   《休憩》

  シューベルト:弦楽四重奏曲第14番ニ短調 D.810「死と乙女」

   《アンコール》
    ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲第12番 Op.96「アメリカ」より 第2楽章

1曲目のモーツァルトの弦楽四重奏曲第14番はいわゆるハイドン・セットの1番目を飾る曲。名曲です。勢いのあり、よく響く演奏でしたが、それがこの曲には少し裏目に出たようです。気持ちよくは聴けましたが、感銘を受けることはできませんでした。予習した以下のCDでは、ハーゲン・カルテットに近い演奏でしたが、もっとオーソドックスな演奏がぴったりくるような気がします。

 バリリ四重奏団、エマーソン・カルテット、ハーゲン・カルテット

バリリ四重奏団は時代は違いますが、やはり、ウィーン・フィルのメンバーで固めた弦楽四重奏団です。さすがに素晴らしい演奏でした。最近の演奏ではエマーソン・カルテットが出色の出来。ハーゲン・カルテットは少し、癖のある演奏で好き嫌いが分かれるでしょうが、saraiはもう一つに感じました。

2曲目はベートーヴェン中期の最後を飾る第11番、いわゆる、「セリオーソ」です。これはシュトイデ・カルテットの強い響きがぴったりとはまり、素晴らしい演奏でした。特に第4楽章の有名な旋律を聴いて、高揚感を味わうことができました。今年6月にキュッヒル・カルテットでも同じ曲を聴きましたが、その演奏も素晴らしく、この曲は、変な言い方ですが、ウィーン・フィルと相性のよい曲のような気がします。予習したのは以下のCD。

 ブッシュ四重奏団(1932年)、ヴェーグ四重奏団の新盤

ブッシュ四重奏団は間違いなく、素晴らしい演奏ですが、今回、初めて聴いたヴェーグ四重奏団の演奏に大変、感銘を受けました。中期の四重奏曲の勢いと後期のヴェーグ四重奏団の味わい深さを兼ね備えたような名演でした。

休憩後はシューベルトの弦楽四重奏曲の名曲中の名曲、第14番「死と乙女」です。これは素晴らしい演奏でした。まさに一糸乱れぬアンサンブル、鉄壁の演奏です。ウィーン・フィルのメンバーならではの響きとアンサンブル。この曲は本当は切々たる味わいの深い演奏が好きなのですが、今日のような第1楽章のバリバリとした演奏、そして、第2楽章では対極的に抑えた表現と見事に弾き分けられると納得せざるを得ません。第4楽章のフィナーレの凄まじいアンサンブルも迫力たっぷりで感銘を受けました。予習したのは以下のCD。

 ブッシュ四重奏団(LPレコード)、メロス・カルテット

ブッシュ四重奏団のLPレコードはsaraiにとって、宝物のようなものです。中古レコード屋さんをあさっていて、発掘したものです。saraiの理想の演奏です。CDも持っていますが、響きが違います。メロス・カルテットのシューベルト弦楽四重奏曲全集はリファレンス盤のようなものです。ただ、ブッシュ四重奏団のような、沁み入るような抒情はブッシュ四重奏団だけのものです。

アンコールは、これも名曲中の名曲、ドヴォルザークの「アメリカ」です。ちょっと、思いっ切り弾き過ぎのような気もしましたが、それはそれで見事な演奏でした。満足です。

今日はモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトというウィーンを代表する作曲家の名曲をウィーン・フィルのメンバーで聴けて、とても幸せなコンサートでした。






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一見、意味不明ですが、その実、凝ったプログラム・・・東京都交響楽団@サントリーホール 2014.11.20

今日は本来、クリストファー・ホグウッドの指揮の筈でしたが、病気降板。その後、彼の訃報が流れました。今年の9月末に亡くなったそうです。ご冥福をお祈りしましょう。クリストファー・ホグウッドと言えば、彼のモーツァルトの交響曲全集の録音は衝撃的な事件だったことを思い出します。ピリオド奏法のモーツァルトの演奏のレコードを興味津々で聴いていたことを覚えています。そのホグウッドの指揮を実演で聴ける機会は永遠に失われてしまいました。
で、ホグウッドが指揮する筈だったプログラムをそのまま引き継いだのが、ポール・マクリーシュです。ポール・マクリーシュはルネサンス&バロック音楽のスペシャリストとして、注目の指揮者で、彼も初聴きです。

ということで、今日のプログラムはホグウッドが自身で指揮するつもりで考えたものなんでしょうが、何故、こういうプログラムになるのか、少しも分かりません。バロックはおろか、モーツァルトなどの古典派もプログラムに組み込まれていないだけでなく、コープランドというアメリカ音楽まで入っています。それにR・シュトラウスにメンデルスゾーンというのは、ホグウッドの得意分野に思えません。
ところがです。実際にコンサートを聴いて、納得がいきました。
今日のコンサートはとてもよいコンサートでした。一番、光ったのは、メインの曲目だったメンデルスゾーンの交響曲第5番《宗教改革》です。これはホグウッドが校訂した楽譜で演奏されました。そういえば、ホグウッドは音楽学者でした。彼はメンデルスゾーンまで研究対象にしていたんですね。彼の遺産となる楽譜での演奏だったわけです。
最初のコープランドの《アパラチアの春》はフルオーケストラ版ではなく、原典版の小編成のメンバーでの演奏。室内楽的な静謐さが目立ちました。アメリカでの活動も多かったホグウッドが満を持して、プログラムに組み込んだのでしょう。これまでと全然、イメージの違う曲に聴こえました。凝ったプログラムだったのですね。
R. シュトラウスは生誕150年を記念して、プログラムに組み込んだのでしょうが、滅多に聴けない曲を選んできました。これまた小編成の管楽アンサンブルの曲で、しかもR.シュトラウスが17歳で作曲したという、ごく初期の作品です。
3曲とも演奏機会の少ない曲ばかりでした。しかし、いずれも味わい深い曲ばかり。コンサートを聴き終わり、充実感を感じた、素晴らしいプログラムでした。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:ポール・マクリーシュ
  管弦楽:東京都交響楽団

  コープランド:アパラチアの春-13楽器のためのバレエ(原典版)

   《休憩》

  R. シュトラウス:13管楽器のためのセレナード 変ホ長調 Op.7
  メンデルスゾーン:交響曲 第5番 ニ短調 op.107《宗教改革》
              (ホグウッド校訂版第2稿)

まず、前半はコープランドの《アパラチアの春》。通常のフルオーケストラ版の組曲とは、メロディーこそ同じですが、雰囲気ががらっと変わり、それに省略がないので、長大な曲です。第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロがそれぞれ2人ずつ、それにコントラバス、フルート、クラリネット、ファゴット、ピアノの計13人の奏者で演奏されます。室内オーケストラというよりも、室内楽に近い演奏です。気持ちのこもった演奏です。第7曲の有名な旋律、アパラチアのシェーカー教徒の讃美歌《シンプル・ギフトSimple Gifts》のあたりで高揚した演奏になり、終盤は実に静謐な演奏になります。都響の弦のトップ奏者たちが勢ぞろいした感のある弦楽アンサンブルの演奏は見事だけでなく、心にしみいるような素晴らしさ。フルートとクラリネットも美しい音色。最後は胸がジーンとなりました。

休憩後は、R. シュトラウスの《13管楽器のためのセレナード》です。今年は生誕150年の節目の年で、ずい分、コンサートやオペラを聴きました。今年はまだ、何曲かを聴く予定です。CDもずい分、聴きました。もっとも、来年も聴き続けることになるでしょう。最も好きな作曲家の一人ですからね。そういうR. シュトラウスですが、これは聴いたことがありませんでした。急遽、以下の録音をネットでダウンロード購入し、予習しました。CDは少ないようです。

 ザビーネ・マイヤー管楽アンサンブル

これはとてもよい演奏でした。
で、今日の演奏は出だしはよかったのですが、今一つの演奏でした。個々の管楽器の響き、アンサンブル、満足できませんでした。残念です。まあ、珍しい曲を聴けて、よかったと思いましょう。

最後はメンデルスゾーンの交響曲第5番《宗教改革》です。子供のときに聴いて、訳の分からない曲だと思って、以後、聴いていませんでした。実に久しぶりに予習のために聴いてみました。ところが、これがなかなか素晴らしい曲。子供時代には理解できなかったようです。予習したのは次に3枚。

 トスカニーニ&NBC交響楽団、1953年12月録音で《イタリア》とカップリングした超名盤
 アバド&ロンドン交響楽団、1984年2月録音
 ハイティンク&ロンドン・フィル、1978年11月録音

トスカニーニはともかく、《イタリア》と同様にカンタービレとシャープさが最高の名演。アバドは爽やかでロマンティックな、彼らしい演奏で文句なし。ハイティンクは、第3楽章の静謐さ、第4楽章の盛り上がりが素晴らしく、感動して聴き入ってしまいました。ロンドン・フィルとの相性もよかったようです。最高の演奏です。

ということで、予習後はこの曲目に期待大になりました。そして、期待通りの素晴らしい演奏でした。やはり、都響の弦楽セクションが素晴らしく、メンデルスゾーンとは相性ばっちりです。第3楽章はとても美しく、うっとりと聴き入りました。少し、メロー過ぎたかもしれませんが、この曲はそれでもOK。そして、圧巻は第4楽章。都響には珍しく、対向配置でしたが、終盤の対位法的な部分で第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが綺麗に分離して聴こえ、素晴らしい響き。そのままの勢いでフィナーレに突入。聴き応え十分で大満足でした。頭の中で主題のメロディーが渦巻いたままの帰宅になりました。

R.シュトラウスは節目の年でよく聴いていますが、何故か、メンデルスゾーンもこのところ、聴く機会が多く、それもヴァイオリン協奏曲とか《イタリア》、《スコットランド》のような有名曲ではなく、ニッチな曲ばかり。メンデルスゾーンって、ブームになってるんでしょうか。お蔭でsaraiもメンデルスゾーンを再評価する気持ちになっています。






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驚異のピアニスト、ユリアンナ・アヴデーエワの感動のリサイタル@東京オペラシティ 2014.11.14

これほどのピアノ演奏が聴けるとはまったく予想していませんでした。saraiの生涯、最高のピアノ演奏です。無論、CDも含めてです。これまで、現存するピアニストではマレイ・ペライアが最高のピアニストだと思っていましたが、今日からはユリアンナ・アヴデーエワが最高にして最強のピアニストと認定します。もちろん、saraiの勝手な思い込みですから、悪しからず。

今日はモーツァルト、リスト、ショパンを弾きましたが、モーツァルトを弾くときはモーツァルト弾き、リストを弾くときはリスト弾き、ショパンを弾くときはショパン弾きというように、作曲家のスタイルに合わせた多彩で知的なアプローチには脱帽です。とりわけ、リストの演奏が素晴らしく、巡礼の年《ダンテを読んで》はもう、ありえないような演奏。予習で聴いたアラウの演奏も素晴らしい演奏でしたが、それをはるかに凌駕する演奏。リストのピアノ曲の真髄を極めたような演奏を聴いているうちに感動の波が襲ってきました。リストの作品を聴いて、こんなに感動したのは初めてです。ともかく、ピアノの豊かな響きが圧倒的。それに加えて、実に音楽的な表現が自然に表出する感じ。スーパーモードとしか思えない演奏です。どこにも無理がなく、軽やかにピアノを弾いていますが、何せ、これはリストの難曲です。前回聴いたリサイタルでは、こんなに凄かったという記憶はありません。この1、2年で高みに上り詰めたということでしょうか。

今日のプログラムは以下です。

  ピアノ:ユリアンナ・アヴデーエワ

  モーツァルト:ピアノ・ソナタ第6番ニ長調 K.284
  リスト:ヴェルディのオペラ《アイーダ》より、神前の踊りと終幕の二重唱 S.436
  リスト:巡礼の年 第2年《イタリア》から、ダンテを読んで(ソナタ風幻想曲)


   《休憩》

  ショパン:24の前奏曲 Op.28

   《アンコール》
     ショパン: ノクターン ヘ長調 op.15-1
     ショパン: ワルツ 変イ長調 op.34-1
     ショパン: マズルカ 変ロ長調 op.7-1

1曲目のモーツァルトのピアノ・ソナタ第6番はモーツァルトらしい粒立ちのよいタッチの響きに乗せて、高貴とも思える音楽が展開されます。長大な第3楽章の変奏曲の終盤あたりで、思わず、はっと居住まいを正します。香気が立ち上るような何と美しい音楽なんでしょう。神が乗り移ったような演奏、ミューズが舞い降りてきたようです。最高のモーツァルト、最高の音楽です。

2曲目のリストは打って変わって、華やかな演奏です。《アイーダ》のエジプト風の妖しい調べを幻想的に演奏していきます。しかも自在な演奏です。先ほどまでの古典的な響きや表現とは異質な演奏ですが、芯は同じく、音楽的な演奏だということです。知的に考え抜きながらも、自然に音楽的な表現になるのがこのアヴデーエワの美質のようです。

3曲目のリストは初めから、圧倒的な迫力の演奏です。思いっ切り、激しいアプローチですが、彼女の超絶的な技巧は冴えわたり、まったく、ミスらしいミスもないパーフェクトな演奏。自然に楽々と弾きこなしているようですが、聴いているこっちは次第に熱くなっていきます。大変な感動に襲われました。こんなピアノ演奏を聴くのは初めてです。《ダンテを読んで》がこんなに凄い曲だったとは・・・ピアノ音楽の奥義を聴かされた思いです。最高の音楽体験となりました。

休憩後のショパンの前奏曲は前半に聴いたリストがあまりに凄過ぎて、少し、拍子抜けの感じ。それでも、第12番あたりから、演奏が冴えわたり、後半は素晴らしい音楽です。最後の第24番は素晴らしい響きに魅了されました。

アンコールはショパン3曲。特に有名なワルツは少し乱暴とも思えるほどの凄まじい演奏。究極のショパンです。

アヴデーエワ最高!! 来年のショパンのコンチェルトもチケット入手済です。とても楽しみです。今後、聴き逃せないアーティストがまた一人増えました。







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       アヴデーエワ,  

ペライア、快心のモーツァルト with アカデミー室内管@サントリーホール 2014.11.13

正直言って、ペライアに全幅の信頼を置いているsaraiも今日のコンサートは行こうか、どうか、悩みました。いったんは行かないと決意しました。以前聴いた、内田光子の弾き振りのモーツァルトの協奏曲が期待外れだったので、弾き振りに対する不信感があったからです。しかし、結局、最終的に聴きに行って、とてもよかった! 最高のモーツァルトでした。こういう演奏が聴きたかったんです。それにしても、ペライアのピアノの響きの美しかったこと、期待以上の素晴らしさでした。

モーツァルトのピアノ協奏曲第21番は名曲中の名曲、いまさら予習することはありませんが、ペライアの演奏だけ、聴いておきましょう。

 ペライア&ヨーロッパ室内管弦楽団(DVD)
 ペライア&イギリス室内管弦楽団(CD)

イギリス室内管弦楽団はペライアが若い頃(30歳頃)の演奏ですが、勢いがあり、切れのある素晴らしい演奏。ヨーロッパ室内管弦楽団とのDVDはその10年以上後の映像ですが、音質がよくなった分、聴き応えがします。それに映像は面白いですね。

モーツァルト以外の曲も予習。メンデルスゾーンの弦楽のための交響曲第7番は聴いたことがありません、初めてCDで聴いてみました。少年が作曲したとは思えない完成度です。

 クルト・マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

バッハのピアノ協奏曲第7番はペライアのCDを聴きました。普通はチェンバロの演奏で聴きますが、ペライアのピアノのピュアーな演奏もなかなかです。

 ペライア&アカデミー室内管弦楽団

ハイドンの交響曲第94番《驚愕》はこれまで、意外にあまり聴いていないので、まとめて聴いてみました。フルトヴェングラーの古典的な演奏がぴったりきます。セルの演奏も素晴らしいものでした。セルの晩年の演奏はどれも素晴らしいことを最近、認識させられました。

 フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィル(1951年)
 オイゲン・ヨッフム指揮ロンドン・フィル 
 ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団
 カザルス指揮マールボロ祝祭管弦楽団
 アーノンクール指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

さて、今日の演奏についての感想です。

まず、今日のプログラムは以下です。

  ピアノ&指揮:マレイ・ペライア
  管弦楽:アカデミー室内管弦楽団(アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ)

  メンデルスゾーン:弦楽のための交響曲第7番ニ短調
  モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番ハ長調 K.467

   《休憩》

  J.S.バッハ:ピアノ協奏曲第7番ト短調 BWV 1058
  ハイドン:交響曲第94番ト長調 Hob.I-94《驚愕》


1曲目のメンデルスゾーンは指揮者なしで、アカデミー室内管弦楽団の弦楽器奏者だけでの演奏。彼らのお得意のスタイルですね。少年メンデルスゾーンが交響曲の習作として作曲したものですが、よほど、バッハの音楽を参考にしたのでしょう。古典的な雰囲気が感じられます。そこに既にメンデルスゾーンらしい清々しさが芽吹いています。アカデミー室内管弦楽団の響きは第1楽章はもうひとつでしたが、第2楽章からは響きが澄み切ってきて、颯爽とした演奏でとても満足できました。

2曲目はモーツァルトのピアノ協奏曲第21番。これが聴きたくて、このコンサートに足を運びました。ペライアの弾き振りなので、一抹の不安があります。冒頭のオーケストラはほどよく響き、いよいよ、ペライアのピアノ。あれっ、なんだか、ペライアらしい美しい響きが聴こえてきません。不安的中か・・・しばらくすると、ペライアのエンジンがかかってきたか、えもいわれない素晴らしい響きと切れのよいタッチ。モーツァルトのピアノ協奏曲はこうでなくてはいけないというような理想的な響きにうっとりと聴き惚れます。そのペライアの美しい響きに呼応するようにアカデミー室内管弦楽団も透き通るような美しい響き。映画音楽でも有名な第2楽章にはいると、ますます、天国的な美しさ。曲もよし、演奏もよし。ただただ、聴き入るだけです。第3楽章はペライアの神業的なシャープな演奏が展開されます。ペライアの若い頃のシャープな切れ味の演奏と同様の素晴らしい演奏。もう、これ以上のモーツァルトは今後聴けないでしょう。最高の演奏でした。今日のコンサートでは、モーツァルトのピアノ協奏曲はこの1曲きりでしたが、もう、それで十分に満足しました。

休憩後のバッハのピアノ協奏曲も美しく、深みのある演奏でした。ピアノの豊かな響きは現代のコンサートホールにはぴったりかもしれません。小ホールなら、チェンバロでの演奏もいいでしょうが、サントリーホールのような大ホールならば、スタインウェイのピアノの響きはホールを包み込むようです。バッハの名曲は楽器が何であれ、素晴らしいです。モーツァルトのピアノ協奏曲と同様に大満足でした。

最後のハイドンの交響曲第94番《驚愕》はおまけのようなもの。ペライアの指揮は堅実なもの。ハイドンはこれでいいでしょう。美味しいデザートを味わわせてもらいました。これがアンコールのようなものですから、アンコールはなし。欲を言えば、ペライアのピアノ独奏のアンコールを途中にはさんでほしかったですけどね。

明日はアヴデーエワのピアノ・リサイタルを聴きますから、ピアノ独奏は十分に楽しめるでしょう。







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       ペライア,  

稀有なソプラニスト:アルノ・ラウニック@上大岡ひまわりの郷 2014.11.9

今日は上大岡ひまわりの郷のコンサート・シリーズの2014年秋の2回目。
CT(カウンターテナー)全盛とも思える時代になってきましたが、ソプラニストは稀有な存在です。ソプラニストというのは、CTがアルトの声域なのに対して、さらに高い音域を出せる男性のソプラノ相当の歌手のことです。定義があいまいなので、CTとソプラニストの境界が明確なわけではありません。CTはファルセット(訓練された裏声)で歌い、ソプラニストはナチュラル・ヴォイス(地声)で歌うとも言われますが、saraiが聴いていて、やはり、高音域はファルセットで歌っているとしか思えません。このへんも曖昧模糊としています。ともかく、男性でソプラノが歌う曲が歌えるというのが凄いことです。saraiが過去聴いたなかでもCTのフィリップ・ジャルスキーはソプラニストと思える声の持ち主でしたが、はっきりとソプラニストとして歌うのは今日のアルノ・ラウニックが初めてです。どういう声か、興味がつのるなか、リサイタルは始まりました。

まず、今日のプログラムは以下です。

  ソプラニスト:アルノ・ラウニック
  ピアノ:みどり・オルトナー

  D.スカルラッティ:ソナタ ニ長調 K.33 (ピアノ独奏)
  グルック:歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」~われ、エウリディーチェを失いて
  ヘンデル:歌劇「セルセ」~ ラルゴ“懐かしい木陰”
  ヘンデル:歌劇「アルチーナ」より “ヒルカニアの石造りの住まいに“
  D.スカルラッティ:ソナタ ニ短調 K.9 / ソナタ ニ短調 K.159 (ピアノ独奏)
  カッチーニ:わが麗しのアマリリ
  ジョルダーニ:愛しい私の恋人(カロ・ミオ・ベン)
  デュランテ:愛に満ちた乙女よ
  カッチーニ:アヴェ・マリア
  ブロスキ:ハッセの歌劇「アルタセルセ」への挿入曲:私はあの船のように

   《休憩》

  シューベルト(リスト編):ウィーンの夜会 第6番 (ピアノ独奏)
  J.シュトラウス:オペレッタ「こうもり」~ オルロフスキー公のクープレ“客をもてなす祖国の習慣”
  モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」~ ケルビーノのアリア“恋とはどんなものかしら”
  シューベルト:至福、ます、アヴェ・マリア
  モーツァルト:グルックの歌劇「メッカの巡礼」の「愚かな民が思う」による10の変奏曲 (ピアノ独奏)
  モーツァルト:歌劇「皇帝ティトの慈悲」~ セストのアリア“私は行く”

   《アンコール》
    ヘンデル:歌劇「リナルド」~ “私を泣かせてください”


まず、ピアノのみどり・オルトナーの解説があり、彼女のピアノ独奏でドメニコ・スカルラッティのソナタ。後で演奏したソナタも含めて、3曲ともミケランジェリのCDでよく聴いた曲です。スカルラッティにしては響かせ過ぎの感がありますが、演奏者は心得た上での表現なのでしょう。
さて、ソプラニストのアルノ・ラウニックの歌唱はまず、グルックの歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」のオルフェオのアリアです。高く美しい声です。小さなホールなので、無理に大きな声を出さずに響きますから、繊細な表現で歌います。ジャルスキーほどの声の伸びとピュアーさはありませんが、見事な歌声です。続くヘンデルの有名なアリアも同様に美しく歌われます。間近でそっと歌われるソプラニストの歌声はとても楽しめます。

次のイタリア古典歌曲4曲はこの日、最高に楽しめました。特にカッチーニの2曲はあまりの美しい歌にうっとりして、聴き入ってしまいました。《アヴェ・マリア》は究極の美を感じました。リサイタル終了後もずっと耳に美しい歌声が残っていました。

前半の最後は伝説のカストラートのファリネッリのために書かれたアリア。ファリネッリのために書かれたアリアというとポルポラの歌劇が有名ですが、これはファリネッリの兄リッカルド・ブロスキがロンドンでのデビューのために書いたアリア。ポルポラが書いたアリアのような迫力のあるアリアをラウニックが見事に歌いこなしました。ジャルスキー同様に、アジリタはいまひとつでしょうか。まだ、CTでバルトリ並みにアジリタが歌える人はいませんから、それも仕方ないですかね。

休憩後は、ピアノ独奏の後、「こうもり」のオルロフスキーの歌が観客席の背後から聴こえてきます。お洒落な演出で、聴衆の間を歩き回りながらの熱唱。この人は繊細な高音が美しいです。続いて、ケルビーノのアリア。先日はザルツブルグでファジョーリの歌唱でケルビーノのアリアを聴いたばかりですが、それは別のアリア《自分で自分が分からない》でした。いずれにせよ、どちらも素晴らしいケルビーノ。やはり、そのうち、CTがケルビーノを歌う《フィガロの結婚》を聴けるかもしれませんね。

次はシューベルトのリート3曲。これは女声のソプラノの優しい歌声に軍配があがります。聴いていて、エリー・アメリンクの美声を思いだし、無性に聴きたくなります。アメリンクでずい分、聴いた曲です。これはCTには向かないかな。

最後はモーツァルトの歌劇「皇帝ティトの慈悲」のセストのアリアです。セストというとカサロヴァの持ち役ですが、CTでもなかなかいいですね。男性らしく、迫力に満ちていました。

アンコールは予想通り、ヘンデルの歌劇「リナルド」から“私を泣かせてください”です。横の配偶者を見ると、嬉しそうにしていました。美しいアリアですからね。

saraiのオペラ好きの心をくすぐってくれる楽しいリサイタルでした。あー、オペラが聴きたい。とりあえず、ヴィデオでも見ましょうか。









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ずっしりと重いブラームス:ペーター・レーゼル・ピアノ・リサイタル@紀尾井ホール 2014.11.8

秋の日はブラームスのピアノ曲もいいものです。今日は紀尾井ホールで、一昨日のピーター・レーゼルの室内楽コンサートに引き続いて、ドイツ・ロマン派ピアノ音楽の諸相2014と銘打ったコンサートの2回目で、ソロのピアノ・リサイタル。ドイツの正統的な音楽を代表するピーター・レーゼルのピアノでブラームスの後期のピアノ曲、それにシューマンとシューベルトを組みませたドイツ・ロマン派の名曲を堪能しましょう。

このところ、ちょうど、ブラームスのピアノ曲にはまっているところです。特に今日演奏される後期のOp.117は特に心に残る名曲のうちのひとつ。Op.116からOp.119までの4つはブラームスが残してくれた宝物のような音楽です。《3つの間奏曲》Op.117を集中的に聴いておきます。聴いたのは以下のCDです。

 ジュリアス・カッチェン(ブラームス・ピアノ作品全集)
 ウィルヘルム・ケンプ(ブラームス後期ピアノ作品集、LP,CD)
 グレン・グールド(ブラームス間奏曲集)
 イェルク・デムス(クラウディオ・アラウ追悼:ブラームス博物館、ブラームス・フリューゲルとスタインウェイ)
 ヴァレリー・アファナシエフ(ブラームス後期ピアノ作品集)
 エリーザベト・レオンスカヤ(ブラームス・ピアノ作品集)

本命はブラームスを弾くために生まれてきたような早逝の天才ジュリアス・カッチェンのブラームス・ピアノ作品全集ですが、間奏曲だけは、グレン・グールドのピアノが凄過ぎます。グレン・グールドはバッハのCDよりもブラームスの間奏曲のCDのほうが素晴らしいと思います。ぐいぐい引き込まれる演奏です。実はsaraiが人生で初めて出会ったブラームスのピアノ曲のCDがこのグレン・グールド盤だったので、刷り込みもあるのかもしれません。クラウディオ・アラウの録音がないのが何とも残念です。

シューマンのフモレスケは以下のCDを聴きました。

 クラウディオ・アラウ(ARRAU HERITAGE Schumann)
 アンジェラ・ヒューイット

アラウのシューマンは何を聴いても最高です。ヒューイットのCDは初めて聴きましたが、なかなか魅力的。これから、ご贔屓にしようかな。

シューベルトのピアノ・ソナタ第20番はこれまでさんざん、ブレンデル、ポリーニ、ケンプで聴いてきました。今回は以下のCDを聴きました。

 クラウディオ・アラウ(ARRAU HERITAGE Schubert)
 マレイ・ペライア(新盤)
 アンドラーシュ・シフ(シューベルト・ピアノ・ソナタ全集)

アラウとペライアはもう文句の言いようのない素晴らしさ。今回、シフのシューベルトを初めて聴きましたが、ユニークな演奏ながら、すっかり魅了されました。ソナタ全曲聴いてみましょう。
予習はそんなものでした。

さて、今日の演奏はドイツ最後の巨匠とも思えるレーゼルです。と言っても彼はまだ60代。東ドイツ出身なので、古い人に思えてしまいますが、まだまだ、今後の活躍も期待できます。

まず、今日のプログラムは以下です。

  ピアノ:ピーター・レーゼル

  ブラームス:3つの間奏曲 Op.117
  シューマン:フモレスケ 変ロ長調 Op.20

   《休憩》

  シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番イ長調 D959

   《アンコール》
    シューベルト:4つの即興曲 D899 Op.90より 第3番変ト長調
    ブラームス:ワルツ集 Op.39より 第15番変イ長調
    シューマン:子供の情景 Op.15より、第7番《トロイメライ》

リサイタルの曲目がいいですね。ドイツ・ロマン派を代表する名曲ばかりです。聴いても聴いても聞き飽きることのないドイツ・ロマン派。シューベルト、シューマン、ブラームスのピアノ曲を聴いていると、もう、それだけで人生が終わっても悔いがないと思ってしまうくらいです。

1曲目のブラームスの3つの間奏曲 Op.117。ブラームスが避暑地のバート・イシュルで書いた名曲です。第1曲は子守歌ですが、レーゼルが弾くと、とても重々しく響きます。とても子守歌という優しい響きではありません。ドイツらしい重心の低い演奏です。心の奥底に何か、ずっしりとした苦渋を秘めているようです。第2曲にはいると、少し、柔らかい響きが美しく聴こえてきますが、曲が進行していくと、やはり、ずっしりとした響きに捉われます。第3曲は最初から、重苦しい響きで始まります。しかし、ピアノのタッチは素晴らしく美しいんです。とても荘重なブラームスでした。そして、これこそ、本物のブラームスとも感じました。CDで聴くなら、カッチェンとかアラウでブラームスを聴きたいところですが、リファレンスとしてはこのレーゼルも座右に置かないといけないかもしれません。

2曲目はシューマンのフモレスケ。ブラームスのような重い響きを予想していたら、さにあらず。いかにもシューマンらしい瑞々しく柔らかい響きです。抒情に満ちあふれたシューマンにうっとりと聴き入ります。この曲はシューマンがクララと結婚する前年にウィーンで書いた曲です。ウィーンではアラベスクと花の曲を書いています。クララはパリにいて、シューマンはクララに思いを寄せながら、このロマンあふれる曲を書きました。恋心を秘めて、表情豊かな曲を仕上げました。レーゼルはとても美しいシューマンを描き出します。美しいピアノのタッチはシューマンにぴったり。レーゼルのシューマンをもっと聴いてみたいという思いが強くなりました。

休憩後はシューベルトの大曲、ピアノ・ソナタ第20番 D959です。これまた、シューベルトらしい響きを聴かせてくれました。大好きな第2楽章のロマンチックさにうっとりと聴き入りました。しかし、凄かったのは第4楽章。美しい主題が繰り返されますが、左手で主題を弾き、右手の高音で装飾するパートの素晴らしさに息を呑みます。そして、フィナーレに向かっての疾走は感動もの。素晴らしいシューベルトでした。

そして、アンコールで弾いたシューベルトの即興曲でもさらなる高みの演奏。三連符アルペジョのさざ波のような響きが盛り上がり、深い憧憬を感じさせてくれます。最高のシューベルトです。それにsaraiはこの曲が大好きなんです。今日一番の演奏でした。大満足!
シューマンのトロイメライもとてつもなく、美しい演奏でした。《子供の情景》全曲を聴きたくなりました。

ドイツの重鎮、レーゼルのピアノ独奏のドイツ・ロマン派は素晴らしい演奏で、音楽を満喫しました。来年も来日して、演奏してくれるんでしょうか。









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白熱のブラームス:レーゼル&ゲヴァントハウス四重奏団@紀尾井ホール 2014.11.6

秋の夜は室内楽。それもブラームスがぴったりです。今日は紀尾井ホールで、ピーター・レーゼル/ドイツ・ロマン派ピアノ音楽の諸相2014と銘打ったコンサートで、ブラームスの室内楽を代表する曲のひとつ、ピアノ五重奏曲が演奏されます。レーゼルと共演するのは、ゲヴァントハウス弦楽四重奏団。現代のドイツを代表するピアニストと弦楽四重奏団による演奏ということで、いやがうえにも期待が高まります。

この際ですから、ブラームスのピアノ五重奏曲をCDできっちり、予習することにしましょう。名盤はほぼ網羅できたと思います。以下の9枚のCDを聴きました。

 ゼルキン&ブッシュ四重奏団
 デムス&ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団
 ゼルキン&ブダペスト弦楽四重奏団
 ルビンシュタイン&グァルネリ四重奏団
 エッシェンバッハ&アマデウス四重奏団
 ポリーニ&イタリア四重奏団
 レオンスカヤ&アルバン・ベルク四重奏団
 ラーンキ&バルトーク四重奏団
 フライシャー&エマーソン四重奏団

レオンスカヤ&アルバン・ベルク四重奏団以外はすべて、聴き応えがありました。また聴きたくなるのは、録音は古くても音質的には十分なゼルキン&ブッシュ四重奏団です。アドルフ・ブッシュの綿々たるヴァイオリンの響きが何とも魅力的です。でも、まあ、普通なら、ゼルキン&ブダペスト弦楽四重奏団か、ポリーニ&イタリア四重奏団あたりがお勧めということになるますね。

今日のコンサートはメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第6番とシューベルトの弦楽四重奏曲第12番《四重奏断章》も演奏されます。
メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第6番は以下のCDを聴きましたが、見事な演奏でした。

 エマーソン四重奏団(メンデルスゾーン:弦楽四重奏のための作品全集)

シューベルトの弦楽四重奏曲第12番《四重奏断章》は以下のCD、LPを聴きましたが、どちらも素晴らしい演奏。ウィーン・フィルハーモニー弦楽四重奏団というのは、バリリ四重奏団の第1ヴァイオリンのワルター・バリリが引退した後、ウィーン・フィルのコンサートマスターのウィリー・ボスコフスキーがその後を引き継ぎ、名称も変わったそうです。バリリ四重奏団同様に当時のウィーン・フィルの典雅な響きを聴かせてくれます。バリリ以上に音色が艶やかにも感じました。

 メロス四重奏団(シューベルト弦楽四重奏曲全集)
 ウィーン・フィルハーモニー弦楽四重奏団(LPレコード)

さて、今日の演奏はどうだったでしょう。

まず、今日のプログラムは以下です。

  ピアノ:ピーター・レーゼル
  弦楽四重奏:ゲヴァントハウス弦楽四重奏団

  メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第6番ヘ短調 Op.80
  シューベルト:弦楽四重奏曲第12番ハ短調《四重奏断章》 D703

   《休憩》

  ブラームス:ピアノ五重奏曲ヘ短調 Op.34

   《アンコール》
    ブラームス:ピアノ五重奏曲ヘ短調 Op.34 第3楽章


1曲目のメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第6番は決してポピュラーな曲ではありませんが、とても心に響く曲です。解説によると、メンデルスゾーンが姉ファニーの急逝に対する悲嘆のなか、姉に捧げるレクイエムとして書いた曲だそうです。メンデルスゾーン自身もこの曲を書き終えるとすぐに姉と同じ脳卒中でこの世を去ったそうです。しかし、この曲は美しいですが、そんなに悲しみに浸るだけの曲ではありません。
第1楽章冒頭、激しくトレモロで演奏される流麗な曲は、いかにも、疾風怒濤(シュトルム・ウント・ドランク)を感じさせられます。メンデルスゾーンが活躍したライプツィヒを本拠地とするゲヴァントハウス弦楽四重奏団は、メンデルスゾーンの晩年とは思えない若々しい情熱に満ちた調べを鮮やかに表現してくれます。さすがに第2楽章以降は哀しみも感じさせられる響きが聴けますが、あくまでもロマン派の情熱に満ちた表現で見事な演奏。ゲヴァントハウス弦楽四重奏団の看板になりそうな音楽であると思いました。

2曲目はシューベルトの弦楽四重奏曲第12番《四重奏断章》。何故か、メンデルスゾーンの曲と雰囲気が似ています。それでも、やはり、シューベルトらしい室内楽のエッセンスがぎっしりとつまった演奏に満足。室内楽を聴く喜びに浸してくれる名演奏でした。

休憩後はいよいよ、今日のメインプログラムであるブラームスのピアノ五重奏曲。まさにドイツの正統的な演奏を思わせる堂々とした表現でした。音楽をリードしていたのはピアノのピーター・レーゼルです。どっしりと落ち着いた演奏で、ブラームスの世界を満喫させてくれました。それにとても熱い演奏でした。白熱のブラームスです。晩年のブラームスなら、もっと渋く演奏してもらいたいところですが、こういうブラームスもいいですね。ブラームスの交響曲を1曲、聴いた感覚です。注文をつけるとしたら、ヴァイオリンがもっと抒情的な響きも聴かせてほしかったということでしょうか。まあ、ピアノ主導の演奏ですから、こんな感じでいいのかもしれません。満足の演奏でした。アンコールでもう一度、第3楽章が聴けて、たっぷりとブラームスの室内楽に浸ることができました。

1日置いて、明後日はレーゼルのピアノ独奏でブラームスの超名曲の間奏曲(Op.117)が聴けます。ピアノ五重奏曲同様に楽しみです。










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英国の音楽尽し!東京都交響楽団@東京芸術劇場 2014.11.4

東京都交響楽団の定期演奏会では、今やチェコ音楽も看板プログラムですが、英国の音楽も聴きものです。今日は英国の音楽尽しのプログラム。ヴォーン・ウィリアムズ、ディーリアス、ウォルトンとそろい踏み。あとはエルガーを残すくらいですね。
今日演奏されるヴォーン・ウィリアムズのノーフォーク狂詩曲第2番を予習しようとして、手持ちのCDのヴォーン・ウィリアムズ全集を探しても、第1番しかありません。おかしいと思って調べたら、第2番と第3番は作曲家自身が破棄した幻の作品なので、全集にも収録されているわけがありません。しかし、第2番は最近、復活されて、CD化もされているようです。その唯一のCDがヒコックス指揮のロンドン交響楽団のもの。ネットからダウンロードして聴いてみました。やはり、ノーフォーク地方の民謡を主題にした作品で、長閑な曲でした。そんなに無理して復活させなくても、第1番で十分だったのではと思わなくもありません。
ディーリアスのヴァイオリン協奏曲は、やはり、今まで聴いたことがありません。チェロ協奏曲はもちろん、聴いていますけどね。予習したCDでこの曲を初めて聴きましたが、とても素晴らしい演奏でした。
 タスミン・リトル(ヴァイオリン)、A.デイヴィス&BBC響
ウォルトンの交響曲第1番は初め、次のCDを聴きましたが、さすがハイティンクらしい堂に入った演奏。
 ハイティンク&フィルハーモニア管
別のCDも聴いてみました。
 プレヴィン&ロンドン響 併録(ウォルトン:ヴィオラ協奏曲(ヴィオラはバシュメット))
これが大当たり! こういうのを隠れた名盤とでも言うのでしょう。あまりの素晴らしさに度肝を抜かれました。内面に秘めたエネルギーに満ちた演奏に大変、感動を覚えました。このウォルトンの作品の本質を抉り出すような演奏です。プレヴィンの評価もsarai的には、うなぎのぼり。それにこのCDはRCAから出されたものですが、プレヴィンのRCAものは実際はDECCAの録音チームの手によるものだとかで、素晴らしい音質で曲のダイナミズムを余すところなく伝えてくれます。《プレヴィン:RCAイヤーズ》というシリーズの1枚です。以下のリンクからHMVオンラインで購入できます。sarai絶対のお勧めです。
 交響曲第1番、ヴィオラ協奏曲 バシュメット(ヴィオラ)プレヴィン&ロンドン交響楽団

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というわけで、この隠れ名盤を聴き、にわかにウォルトンの交響曲第1番を聴くのが楽しみになってきました。果たして、マーティン・ブラビンズ指揮の東京都交響楽団はプレヴィン&ロンドン響の演奏にどれほど肉薄できるでしょうか。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:マーティン・ブラビンズ
  ヴァイオリン:クロエ・ハンスリップ
  管弦楽:東京都交響楽団

  ヴォーン・ウィリアムズ:ノーフォーク狂詩曲第2番ニ短調
  ディーリアス:ヴァイオリン協奏曲
   《アンコール》プラキディス:2つのきりぎりすの踊り ヴァイオリン独奏のための

   《休憩》

  ウォルトン:交響曲第1番変ロ短調

まず、前半はヴォーン・ウィリアムズのノーフォーク狂詩曲第2番からです。これは英国外での初演になります。初演っていいですね。曲はチェロの独奏で静かに始まります。初演とは思えないほど、見事に整ったアンサンブルです。いかにも英国を思わせる木の温もりを思わせる響きが聴こえてきます。特にヴィオラの演奏が素晴らしい。とても素晴らしい演奏に聴き入ってしまいました。静謐な部分の演奏が特に見事でした。ヒコックス&ロンドン交響楽団のCDも凌駕するかと思える演奏に感銘を受けました。

前半の最後はディーリアスのヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリンのハンスリップは若手の女性ですが、ザハール・ブロンの指導を受けているとのことで、堅実な演奏を聴かせてくれました。及第点の演奏ですが、さらにヴァイオリンの響きに磨きをかけると演奏の質が上がると感じました。うっとりとヴァイオリンの響きに酔いしれるというところまではいかなかったのが残念です。アンコール曲はラトヴィアの作曲家プラキディスの民族音楽的な要素を現代音楽風にまとめた、ちょっと難しそうな曲。まったく知らない作品で虚を突かれました。面白くは聴かせてもらいました。

休憩後は、いよいよ、期待していたウォルトンの交響曲第1番。ウォルトンの内面から湧き出てくるエネルギーがどれほど体感できるかと固唾を飲んで、聴いていましたが、第1楽章は不発。プレヴィンがこの作品について、「あまりにも多くの音符が詰まっているようにみえる。弦楽パートは非道なほどだ。しかし、すべての16分音符が交響曲のサウンドを作るのに必要なのだ。」(CDのライナーノートより引用)と述べ、ロンドン交響楽団のすべての能力を引き出した結果、素晴らしい演奏が実現されましたが、今日の都響の演奏は都響の能力を最大限発揮したとは思えない演奏で、第1楽章は音符の多さにアンサンブルの響きが整わないままに終わってしまいました。それでも、第2楽章以降は立て直し、ほぼパーフェクトな演奏だっただけに第1楽章の演奏が悔やまれます。それだけ、難しい曲だったのでしょう。第3楽章の味わい深い演奏、第4楽章のダイナミックな演奏は素晴らしかったので、気持ちよく聴き終えることはできました。いやはや、残念な演奏でした。もっとも、プレヴィンの演奏と比べると、ハードルが高過ぎて、どの演奏も不満に思えるのかもしれません。

ともあれ、マーティン・ブラビンズの作りだす英国音楽の世界はなかなか聴きもの。今後とも期待したいところです。
今日のコンサートのおかげで隠れ名盤を知ることができたのが一番の成果だったのかな。









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ドヴォルザーク、ルトスワフスキ:庄司紗矢香+東京交響楽団@ミューザ川崎 2014.10.19

毎回、見事な演奏を聴かせてくれる庄司紗矢香のコンサートとなれば、聴き逃すことはできません。というわけで、久しぶりにミューザ川崎のコンサートホールに足を運びました。ミューザ川崎で音楽を聴くのは実に4年振りです。この間、大震災でミューザ川崎は大被害を受けて、長期間、閉館していましたが、今日はもちろん、もうすっかりと前と同様な姿になっていました。ところで、4年前にこのミューザ川崎で聴いたコンサートも、今日と同様に庄司紗矢香+東京交響楽団の演奏でした(プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番)。

今日はドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲です。この曲を実演で聴くのは初めてです。最近はチェロ協奏曲同様に人気があるようですね。真っ赤なロングドレスで颯爽と登場した庄司紗矢香の演奏は期待通り、見事な演奏で満足しました。このところ、庄司紗矢香の演奏レベルは非常に高く、期待を裏切られることはまったくありません。今日の演奏は余裕しゃくしゃくという感じで成熟した演奏です。第1楽章は派手な出だしの曲ですが、彼女の演奏は嫌味のないすっきりとした表現で爽やかでさえあります。圧巻だったのは第2楽章です。木管と絡み合いながら、しみじみと抒情的な響きで魅惑的な音楽をくりひろげます。何とも素晴らしい音楽にうっとりしながら、聴き惚れます。第3楽章は、チェコの民族舞曲の一種であるフリアントの様式で書かれていますが、まるでスラヴ舞曲を聴いているいる雰囲気です。庄司紗矢香のヴァイオリンはそれを小気味よく奏でていきます。そして、爽快にフィナーレ。まったく、素晴らしいの一語です。こうやって聴くと、ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲もチェロ協奏曲と同じように楽しく聴けますね。

このコンサートに向けて、予習したのは以下。

 ヨゼフ・スーク+ノイマン指揮/チェコ・フィル。
 チョン・キョンファ+ムーティ指揮/フィラデルフィア管弦楽団。

スーク、ノイマン、チェコ・フィルと揃うと、もう文句のつけようがありません。まさに本場ものです。しかし、あまりに民俗的過ぎて、もう少し、芸術性高く演奏してもらいたい感じも残ります。その点、チョン・キョンファのヴァイオリンは香気高い演奏で、実に繊細極まりない表現で素晴らしい音楽を展開します。

いつも素晴らしい庄司紗矢香のアンコール曲は今年の1月のサンクトペテルブルク・フィルとの共演の折にも弾いたパガニーニの超絶曲で、とても素晴らしい演奏でした。

今日の残りのプログラムは指揮のウルバンスキのお国ものであるポーランドの20世紀の作品です。キラルの交響詩《クシェサニ(閃光)》は映画音楽みたいな強烈なサウンドが轟きわたる前衛的な作品。素晴らしかったのは、ルトスワフスキの管弦楽のための協奏曲です。バルトークの同名の作品の影響を感じさせる曲ですが、オーケストラが多彩な響きで素晴らしい音楽を展開しました。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:クシシュトフ・ウルバンスキ
  ヴァイオリン:庄司紗矢香
  管弦楽:東京交響楽団

  キラル:交響詩《クシェサニ(閃光)》
  ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調 Op.53

   《アンコール》ヴァイオリン・ソロ
    パガニーニ:「ネル・コル・ピウ(うつろな心)」による変奏曲ト長調op38より

   《休憩》

  ルトスワフスキ:管弦楽のための協奏曲

いやはや、庄司紗矢香の音楽はどこまでも熟成していくようです。今後も彼女の演奏を聴くのが楽しみです。




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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

       庄司紗矢香,  

破滅の予感:ゲルギエフ+マリインスキー歌劇場管弦楽団@サントリーホール 2014.10.14

ゲルギエフとマリインスキー歌劇場管弦楽団のコンビのショスタコーヴィチはたびたび聴いていますが、今日の演奏は大変な名演でした。
ショスタコーヴィチの交響曲第8番はいわゆる戦争交響曲の中核をなす作品で、第2次世界大戦の独露戦線の終盤にさしかかる頃に作曲されました。ゲルギエフは戦争交響曲を第4番から第9番までに拡大して捉え、これまでも力を入れてきました。この第8番もたびたび取り上げてきた作品で、力演を期待していました。ブログ表題の《破滅の予感》は、第4楽章、第5楽章で、作曲家と演奏家が戦争の果てにあるものをどう表現しようとしたかをsaraiが受け止めた結果です。決して、演奏が破綻しそうだったという意味ではありません(笑い)。
第1楽章から第3楽章までは、大変、暴力的・破壊的な音楽が心に突き刺さります。まあ、誰が演奏しても、この曲は暴力的・破壊的ですが、今日の演奏はメリハリを付けて、暴力的・破壊的な部分に焦点を合わせたような演奏です。ですから、その部分に差し掛かると事前に分かっているにも関わらず、大変な衝撃を受けます。精神的だけでなく、肉体的にも、心臓が震えます。戦争というものがこんなに暴力的・破壊的で非人間的なものか、戦争体験のないsaraiには正直、分かりませんが、痛切に心が痛む音楽です。第3楽章から第4楽章へは続いて演奏されますが、その経過部分はまさに地獄のふたが開いたという感じの恐怖感に襲われる音楽の大爆発。そして、その後に続く第4楽章はこの交響曲の最重要パートとも思えるパッサカリアです。パッサカリアというとブラームスの交響曲第4番の終楽章のような美しい音楽を想像しますが、ショスタコーヴィチは不気味な響きの音楽です。冒頭は低弦の強い響きの上に、第2ヴァイオリンが弱い響きながら、存在感露わな異様な響きを見事に演奏します。素晴らしい音楽表現です。次第に第2ヴァイオリンの響きが明確に姿を現し、さらにヴィオラが加わり、無調的な響きで不気味さを増していきます。最後に第1ヴァイオリンも加わり、弦楽合奏で不気味な幻想を表現。戦争の果てにあるものは勝利の歓声ではなく、空虚な悲惨さだけであるかのようです。今日の演奏はこの第4楽章の演奏の素晴らしいことに驚嘆しました。あのムラヴィンスキーのCDにも匹敵する最高の演奏です。この第4楽章までで、《戦争》は終わりを告げます。続いて演奏される第5楽章はいつも解釈が難しい部分です。ベルリオーズの《幻想交響曲》の終楽章のようにエピローグなのかしらとも思いますが、今日の演奏ではどう表現されるか、固唾を飲んで、聴き入ります。交響曲第8番はハ短調の暗く激しい曲ですが、第5楽章はハ長調で始まり、見かけ上、明るい色彩です。しかし、ショスタコーヴィチの音楽の特徴である2面性に満ちていて、見かけ上の明るさの底流には暗いドロドロとしたものがはっきりと表現される演奏です。不安感と言ってもいいかもしれません。そのドロドロとした不安感が次第に強まっていき、頂点で爆発します。第1楽章の暴力的・破壊的な音楽が回帰します。ここに至り、この第5楽章の意味合いが明確になります。戦争が終わっての見せかけの平和は砕け散り、《破滅の予感》が示されます。第2次世界大戦はそれまでの戦争とは異なりました。暴力的・破壊的な人間の本能がそれまで築き上げられた安定した社会・文化を木端微塵に粉砕できることを如実に示しました。このショスタコーヴィチの交響曲第8番は第2次世界大戦後の人間社会への《破滅の予感》の警告です。saraiは幸運にも戦争を知らずに(実際には世界は平和ではありませんでしたが)に暮らしてきましたが、今はかりそめの平和。フロイトが言うように人間の欲望、それも暴力的な本能がいつか牙をむくか、分からないわけで、それは明日かもしれない。第5楽章を終えると、思わず、戦慄を覚えました。約70年前に作曲された音楽ですが、恐怖に満ちた音楽は今日なお、現代的です。第2次世界大戦は芸術を超えた芸術を生みました。美術ではピカソの《ゲルニカ》。音楽では、バルトークの《弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽》に並び、この作品が限界状況を感じさせられるものです。
繰り返しますが、今日の演奏は大変な名演でした。特に第4楽章から第5楽章は忘れられないような演奏でした。

このコンサートに向けて、予習したのは以下。

 キリル・コンドラシン指揮/モスクワ・フィル(1961年?)。
 クルト・ザンデルリンク指揮/ベルリン・フィル(1997年)。 CDではなく、NHKの放送録画。
 エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮/レニングラード・フィル(1982年)。
 ベルナルト・ハイティンク指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1983年)。

コンドラシンは古い録音ですが、火の玉のような熱い演奏に感動します。第1楽章のスネアドラムが鳴るところでは興奮のあまり、感涙しました。ザンデルリンクの指揮の見事さ・迫力には驚嘆します。冷戦を生き抜いてきた人がベルリンの壁崩壊の後、まさかベルリン・フィルを振って、こんな凄絶な演奏をするとは・・・絶句です。最高の演奏です。ムラヴィンスキーはこの曲を初演した人ですが、初演の約40年後にこんな凄い演奏をしたとはね。この演奏は規範となるべき演奏でしょう。ハイティンクはロシア人指揮者以外では初めて、ショスタコーヴィチの交響曲全集を録音しましたが、この第8番はなかでも得意中の得意。素晴らしい演奏に聴き惚れます。なお、以前聴いたネーメ・ヤルヴィ指揮ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団も素晴らしい演奏でした。あっ、肝心のゲルギエフが抜けています。彼はマリインスキー歌劇場管弦楽団と2回録音しています。最近録音したCDが期待できそうです。今回はあえて事前には聴きませんでした。そのうちに聴きましょう。

ところで今日は最初にブラームスのピアノ協奏曲第2番が演奏されました。ピアノのネルソン・フレイレを生で聴くのは初めてでしたが、第1楽章から第2楽章はピアノの強奏時の響きが悪く、あまり感心しませんでしたが、第3楽章の抒情的なフレーズから音の響きや表現も素晴らしくなり、第4楽章は強奏も含めて、なかなかの演奏でした。第1楽章から第2楽章の響きの悪さが惜しまれる演奏でした。ゲルギエフ指揮のオーケストラもブラームスを十全に表現しているとは言い難い感じ。まあ、全体として、もう一つでした。

そうそう、アンコールのワーグナーは実に壮大な演奏で素晴らしいものでした。さすがにオペラはお手の物ですね。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:ワレリー・ゲルギエフ
  ピアノ:ネルソン・フレイレ
  管弦楽:マリインスキー歌劇場管弦楽団

  ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 Op.83

   《アンコール》ピアノ・ソロ
    グルック/ズガン・バーティー編:歌劇『オルフェオとエウリディーチェ』から「精霊の踊り」

   《休憩》

  ショスタコーヴィチ:交響曲第8番 Op.65

   《アンコール》
    ワーグナー:歌劇『ローエングリン』から第一幕への前奏曲




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五嶋みどり・ヴァイオリン・リサイタル@サントリーホール 2014.10.7

五嶋みどりはもちろん、天才少女だった頃から名前は知っていましたが、その演奏を聴くのはこれが初めてです。一体、どんな演奏をするのか、楽しみです。

まず、今日のプログラムを紹介しておきます。

  ヴァイオリン:五嶋みどり
  ピアノ:オズガー・アイディン

  シューベルト:ピアノとヴァイオリンのためのソナチネ ニ長調 D384
  シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第2番 ニ短調 Op.121

  《休憩》

  モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ ホ短調 K304
  R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 Op.18

   《アンコール》
     ドビュッシー:『前奏曲集第1巻』から「亜麻色の髪の乙女」

まず、シューベルトのピアノとヴァイオリンのためのソナチネです。単純で明快な曲ですが、シューベルトらしいメロディアスな名曲です。しかし、その美しい曲が何故か、よく響いてきません。ヴァイオリンの音色自体は美しいのですが、ホールに響いてきません。時折、綺麗な旋律も聴こえてはきますが、全体としてはヴァイオリンの響きが低調に感じます。首をひねっているうちにこの短い曲が終了。不発のままに終わってしまった感じです。

次はシューマンのヴァイオリン・ソナタ第2番。今日のプログラムで一番期待していた曲です。気持ちを入れ直して、演奏に耳を傾けます。しかし、第2楽章までは依然として、ヴァイオリンの響きがもう一つの感がぬぐえません。そして、大好きな第3楽章。ピチカートでコラールの旋律が始まります。少し平板な表現に思えます。ピチカートの部分を終え、美しいレガートの演奏に耳を奪われ始めます。saraiの集中力も高まり、じっと音楽に没入します。ヴァイオリンの響きは小さな音量ですが、実に美しい音楽がそこにあります。ダブルストップの演奏になり、さらに楽趣が高まります。やっと、このあたりで、五嶋みどりの演奏スタイルの独自性が分かってきました。彼女のヴァイオリンは大きな響きで聴衆にこれみよがしに語りかけてくるのではなく、小さな響きでそっと内省的な音楽を奏でるだけで、その音楽を聴衆が自ら聴きにいかなければならないようです。誤解かもしれませんが、五嶋みどりの音楽は彼女だけで創造するのではなく、聴衆も参加して、一緒に作り上げていくものだと悟りました。そうすることで、聴衆一人一人とパーソナルに対話する音楽が生まれます。アクティブに彼女の音楽に参加することで、音楽の素晴らしい美しさを感じとることができます。第3楽章は素晴らしい感銘がありました。第4楽章はどうでしょう。やっぱり、そうでした。こちらからアクティブに彼女のヴァイオリンを聴きにいくと、そこには美しい音楽の本質的なものが感じられます。しかも単にヴァイオリンの美しい響きだけではなく、五嶋みどりの誠実で純粋な心を感じ取ることができました。心を開き、彼女と音楽を共有する。それが五嶋みどりの音楽の世界です。

休憩後の後半はまずは、モーツァルトの美しいヴァイオリン・ソナタ ホ短調 K304です。先ほどと同様に心を開いて、彼女の音楽に参加します。すると、えも言われないような美しいモーツァルトの抒情が感じられます。特に第2楽章の美しさはもううっとりとします。受け身に聴き流して、うっとりではなく、うっとりする音楽を彼女と一緒に作り上げるのです。ヴァイオリンの響きが聴こえてくる前に、自分なりの音楽を予測して組み立て、実際に聴こえてくる彼女のヴァイオリンの響きと合成しながら聴くという作業です。美しい音楽を感じ、また、五嶋みどりの純粋な心を受けとめることができました。こういう体験は初めてです。

最後はR.シュトラウスのヴァイオリン・ソナタ。これは実に素晴らしい演奏でした。この日、一番、心に響いてきました。自分なりに音楽を感じ取ることで、若き日のR.シュトラウスのリリックな音楽を存分に感じることができました。第2楽章の美しさは心に残りました。

音楽をじっくりと味わうことができました。しかし、聴衆として、大変な集中力を要したことも事実で、ぐったりと疲れました。半分、自分で音楽を創造したような感じです。こういう音楽の聴き方をしたのは長い人生で初めてのことで、そういう意味では面白い体験になりました。




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ジャン・ムイエールの芸術@上大岡ひまわりの郷 2014.10.5

今日は上大岡ひまわりの郷のコンサート・シリーズの2014年秋の1回目。ジャン・ムイエールはフランス室内楽の大御所的存在のヴァイオリニストです。ヴィア・ノヴァ四重奏団の第1ヴァイオリンを弾いていたそうです。そういうわけで、今日のコンサートはすべて、フランス音楽の室内楽でした。フランス音楽を存分に堪能したコンサートでした。

今日のプログラムを紹介しておきます。

  ヴァイオリン:ジャン・ムイエール
  チェロ:ギヨーム・エフレール
  ピアノ:金子陽子

  ラヴェル:ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
  ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ ト短調
  ドビュッシー:ピアノ三重奏曲 ト長調

  《休憩》

  サン=サーンス:白鳥(《動物の謝肉祭》より)
  フォーレ:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ長調 Op.13

   《アンコール》
     シューマン:ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 Op.63より、第2楽章~第3楽章

前半はラヴェルとドビュッシーの作品です。
まず、ラヴェルのヴァイオリンとチェロのためのソナタです。珍しい構成の室内楽です。第1楽章は最初に出てきた音型がずっと繰り返される《ボレロ》的というか、現代のミニマルミュージックにつながるような新しさを感じさせられますが、ムイエールのヴァイオリンの鋭さとエフレールのチェロの安定した響きの対照の妙も興味深く聴けました。第3楽章のレントは無調風の響きが新鮮に聴こえます。全体に起伏が大きい演奏でした。弦楽四重奏を切り詰めたような音楽で豊潤な響きに満ちており、いっそのこと、弦楽四重奏に拡張してほしいとも思えました。なかなかの名曲・名演奏でした。

次はドビュッシーの有名なヴァイオリン・ソナタ。これは実にユニークな演奏です。聴き慣れた演奏とは大きく異なった表現です。一体、どこがこんなに普通と異なる演奏に聴こえるのかと考えていましたが、あの幻想的で抒情的なメロディーラインが切り捨てられて、より鋭角的で表現主義的とも思える攻撃的な演奏になっています。ドビュッシー最晩年の、そして、最後の作品ということで、古典的で落ち着いた演奏が相場になっていますが、ムイエールはあえて、ドビュッシーの新たな飛躍に向けた作品の位置づけと考えたのかもしれません。確かにその後の音楽の流れを先取りしているような音楽のようにも感じられました。いつもこんな演奏を聴かされるのは嫌ですが、今日だけは実に新鮮で熱い響きを楽しめました。面白かったのはこの先鋭的とも言えるヴァイオリンの響きに対して、金子陽子のピアノはいかにもドビュッシーらしい普通の響きだったことです。ある意味、これも対照の妙ですね。

前半最後はドビュッシーのピアノ三重奏曲。最晩年のヴァイオリン・ソナタに対して、これは18歳のドビュッシーの作品です。印象派の旗手であったドビュッシーの作風が確立する前の作品で、ロマン派的な作品です。ロマンティックな美しい曲です。ムイエールの情熱的なヴァイオリンをエフレールのチェロと金子陽子のピアノが安定した響きで支えながら、若々しいドビュッシーを聴かせてくれました。滅多に聴けない作品が見事な演奏で聴けて、満足しました。

休憩後の後半はまずは通俗名曲とも言えるサン=サーンスの白鳥。相変わらず、安定したエフレールのチェロの響き。もっと、歌わせてくれてもいいのにと思わないわけでもありませんが、妙に媚びた演奏よりも上品な演奏のほうがいいので、これはこれでいいでしょう。あっさりとした演奏でした。

最後はフォーレのヴァイオリン・ソナタ第1番。これは実に素晴らしい演奏でした。この日、一番の演奏でした。改めて、このヴァイオリン・ソナタ第1番の素晴らしさも感じさせられました。有名なフランクのヴァイオリン・ソナタはこの曲が作曲された10年後に作曲されたそうで、このフォーレの作品は近代フランスの室内楽を開拓した最初の名曲と言えそうです。ムイエールのヴァイオリンは美しい響きですが、フランス風のお洒落な響きというよりも、そのひたむきな熱さに裏打ちされた先鋭さに特徴があります。フォーレが作り出した抒情的な美しいメロディーを聴衆に熱く語りかけてくれます。精妙な室内楽というよりも熱情的な音楽を感じさせられました。第1楽章から第4楽章まで、その熱い音楽に魅惑されて、じっと聴き入ってしまいました。

アンコールはシューマンのピアノ三重奏曲第1番。特に第3楽章のコラール風のメロディーの素晴らしさは胸に沁み入ってきました。シューマンの室内楽の真髄です。

70歳を過ぎた老ヴァイオリニストであるムイエールの若々しい熱情あふれる演奏に感銘を受けました。




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豊饒の響きのR・シュトラウス:ウィーン・フィル@サントリーホール 2014.9.25

今年のウィーン・フィルの来日コンサートは今日のプログラムだけを聴きます。ポイントはR・シュトラウスの交響詩《ツァラトゥストラはかく語りき》です。今年はR・シュトラウスの生誕150年ではあるし、ウィーン・フィルのR・シュトラウスは格別ですからね。で、そのR・シュトラウスの交響詩《ツァラトゥストラはかく語りき》ですが、冒頭の有名な《自然》の動機が鳴り響くところで、もう、ぞくぞくしてしまいます。続く室内楽的な合奏の豊饒の響きの素晴らしさ。さらにそれが弦楽合奏に拡大していき、これがサントリーホールかと思う程、響き渡ります。あとはもう、この素晴らしい響きを堪能するだけです。このサントリーホールがまるでウィーンの楽友協会に化したかと思うほどの素晴らしい響きです。《学問について》あたりから、さらにアンサンブルは精妙さを増していき、《舞踏の歌》では実に濃密な表現で魅了されます。そして、美しいフィナーレ。期待通りのR・シュトラウスでした。キュッヒルのヴァイオリン・ソロもとても美しい響きで、伝統あるウィーン・フィルの伝統を立派に守っています。若きマエストロ、ドゥダメルは初聴きでしたが、意外に堅実な指揮。無理なくウィーン・フィルの美音を引き出してはいましたが、彼の表現しようとするものは何なのかは明確には見えませんでした。まあ、これからを見守っていきたいところです。
ところで、いい機会なので、このコンサートに向けて、《ツァラトゥストラはかく語りき》のCDを12枚、まとめて聴いてみました。

 クレメンス・クラウス:ウィーン・フィル、1950年のモノラル録音。ヴァイオリン・ソロ:ウィリー・ボスコフスキー。
 カール・ベーム:ベルリン・フィル、1958年のステレオ録音。ヴァイオリン・ソロ:ミシェル・シュヴァルベ。
 カラヤン:ウィーン・フィル、1959年のステレオ録音。ヴァイオリン・ソロ:ウィリー・ボスコフスキー。
 フリッツ・ライナー:シカゴ交響楽団、1962年のステレオ録音。ヴァイオリン・ソロ:ジョン・ウェイチャー
 ルドルフ・ケンペ:シュターツカペレ・ドレスデン、1971年のステレオ録音。
 カラヤン:ベルリン・フィル、1972年のアナログ録音。ヴァイオリン・ソロ:ミシェル・シュヴァルベ。
 ハイティンク:アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団、1973年のステレオ録音。ヴァイオリン・ソロ:ヘルマン・クレバース。
 ゲオルク・ショルティ:シカゴ交響楽団、1975年のステレオ録音。ヴァイオリン・ソロ:サミュエル・マガド。
 カラヤン:ベルリン・フィル、1983年のデジタル録音。ヴァイオリン・ソロ:トマス・ブランディス。
 シノーポリ:ニューヨーク・フィルハーモニック、1987年のステレオ録音。ヴァイオリン・ソロ:グレン・ディクテロウ。
 クラウス・テンシュテット:ロンドン・フィル、1989年のステレオ録音。
 ピエール・ブーレーズ:シカゴ交響楽団、1996年のステレオ録音。ヴァイオリン・ソロ:サミュエル・マガド。

クレメンス・クラウスとカール・ベームは作曲家とも親交の深かった2人の演奏ですから、聴き逃せません。特にクレメンス・クラウスの演奏は当時のウィーン・フィルの響きとともに素晴らしいものです。モノラルですが、音質もDECCAの録音ですから、最上と言えます。最近、5枚組CDのR.シュトラウス・デッカ録音全集が出ています。カラヤンはsaraiの好みではありませんが、R・シュトラウスだけは別です。特にウィーン・フィルとのCDは格別です。あともいずれも素晴らしい演奏ばかりです。オーケストラもすべて超一流ばかり。ウィーン・フィル、ベルリン・フィル、シカゴ交響楽団、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団、シュターツカペレ・ドレスデンあたりの演奏は外せません。

休憩後はシベリウスの交響曲第2番。これまた、有名曲です。北欧らしい抒情というと、どうしてもフィンランドの本場ものを聴くしかありませんが、そう難しいことを言わずに、ウィーン・フィルの美しい響きに身を委ねました。例の第4楽章のロマンティックなメロディーは体がとろけそうになるくらい、耽美なものでした。まあ、これは名曲アワーって感じで楽しみました。本場ものは予習のCDで十分、楽しみました。

 ベルグルンド:ボーンマス交響楽団(交響曲全集)
 ベルグルンド:ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団(交響曲全集)
 ベルグルンド:ヨーロッパ室内管弦楽団(交響曲全集)
 セゲルスタム:ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団(交響曲全集)
 ヴァンスカ:ラハティ交響楽団(交響曲全集)
 ネーメ・ヤルヴィ:イェーテボリ交響楽団(交響曲全集)
 トスカニーニ:NBC交響楽団(第2番のみ)
 バーンスタイン:ウィーン・フィル(第2番のみ)

シベリウスと言えば、ベルグルンド。3セットとも素晴らしい演奏です。しかし、sarai的にはヴァンスカとネーメ・ヤルヴィのほうが好感が持てました。第2番だけですが、トスカニーニとバーンスタインもなかなか聴き応えがありました。

アンコールは定番のウィンナー・ワルツ。これは贅沢過ぎる演奏でした。1曲目は知らない曲。アンネン・ポルカと言っても、あの有名な曲ではなくて、父親の作品です。まあ、見事な演奏に口あんぐりって感じでした。最後は『雷鳴と稲妻』。まあ、凄まじい演奏でした。これはどこのオーケストラも真似は絶対できないでしょう。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:グスターボ・ドゥダメル
  管弦楽:ウィーン・フィル

  R・シュトラウス:交響詩《ツァラトゥストラはかく語りき》Op.30

   《休憩》

  シベリウス:交響曲第2番ニ長調 Op.43

   《アンコール》
    J.シュトラウスⅠ:アンネン・ポルカ Op.137
    J.シュトラウスⅡ:ポルカ・シュネル『雷鳴と稲妻』 Op.324

R・シュトラウスの生誕150年を締め括るのにふさわしいコンサートに満足でした。ますます、R・シュトラウスにのめりこみそうです。




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       ウィーン・フィル,  

マルティヌー傑作選!フルシャ&東京都交響楽団@サントリーホール 2014.9.8

今や、東京都交響楽団の看板プログラムとなったチェコ音楽。今日はチェコを代表するマルティヌーの傑作、2作品です。マルティヌーは1923年から1941年までのパリ時代の初期、その後、1953年までのアメリカ時代の中期、その後のヨーロッパ時代の後期と3つの時代に渡って活躍した20世紀の異色の作曲家です。このマルティヌーの作品を見事に表現してくれたのは、都響の首席客演指揮者のヤクブ・フルシャです。チェコ人のフルシャの指揮するお国もののチェコ音楽には毎回、堪能させられます。なかでも日本では演奏機会の少ないマルティヌーの作品はフルシャの腕が冴えわたり、音楽の素晴らしさに酔わされます。今日も中期のアメリカ時代を代表する交響的楽章第4番は納得の演奏。それ以上に素晴らしかったのが、初期の傑作であるカンタータ《花束》です。チェコの民族色に満ちたオペラっぽい音楽にはすっかり、惹き込まれ、最後はしみじみとした思いになりました。独唱の4人もプラハの国民劇場で活躍している人が主体でまことに見事な歌唱。さすがです。現在、当ブログで執筆中のプラハでの素晴らしい音楽体験を思い出しました。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:ヤクブ・フルシャ
  ソプラノ:シュレイモバー金城由紀子
  メゾソプラノ:マルケータ・ツクロヴァー
  テノール:ペテル・ベルゲル
  バス:アダム・プラヘトカ
  合唱:新国立劇場合唱団
  児童合唱:東京少年少女合唱隊
  管弦楽:東京都交響楽団

  マルティヌー:交響的楽章第4番 H.305

   《休憩》

  マルティヌー:カンタータ《花束》 H.305

まず、前半はマルティヌーの交響的楽章第4番。マルティヌーの交響曲全6曲は第6番の仕上げを除いて、すべてはアメリカ時代に書かれました。なかでも、第2次世界大戦終結時に完成した第4番は傑作の誉れ高い作品です。この作品は明るく演奏されることが多いのですが、ヴァーツラフ・ノイマンのように陰の多い演奏もある、多様性のある作品です。今日の演奏は第1楽章は明るく、新鮮な音響に満ちて、クリアーな表現。えてして、とりとめのない表現に陥りがちのところですが、実にまとまりのよい演奏で音楽構造の明確な演奏です。第2楽章は一転して、明快な推進力の音楽ですが、今日の演奏は繊細かつダイナミックな表現。中間部は穏やかで美しく、ボヘミアを思わせる音楽でフルシャが見事に演奏。第3楽章は哀切極まりない音楽が頂点に達した後、優しく終わっていきます。第2次世界大戦の悲しみに哀悼を捧げたかのようです。第4楽章はその第3楽章の気分を引きずりながらも勢いのある表現。最後は希望に満ちた音楽になり、勇壮なコーダでしめくくります。実に見事な演奏でした。引き締まっていて、響きの新鮮さに満ちて、素晴らしい演奏。フルシャと都響のマルティヌーの交響曲は第6番に続いてのものでしたが、とても聴き応えがあります。残りの4曲も是非、披露してもらいたいものです。

休憩後は、マルティヌーのカンタータ《花束》。チェコの民俗詩に基づいた作品で、8曲からなります。第1部が6曲で第2部が2曲ですが、続いて演奏されます。奇数番の曲が第7曲を除いて、管弦楽のみの音楽で、偶数番の曲が声楽(独唱と合唱)を伴う音楽です。もともとはラジオ局の依頼で、ラジオ用のカンタータとして作曲されたもので、ラジオで鑑賞しても分かりやすいストーリー性のある音楽として作曲されたようです。チェコ語を解すれば面白い作品でしょうが、今回は歌詞の日本語字幕が表示されたので、チェコ語が分からなくても十分に楽しめました。
第1曲の《前奏曲》は親しみにあふれた音楽でボヘミア色に満ちています。短い曲ですが、堪能できます。
第2曲の《毒を盛る姉》は音楽だけ聴いていれば、普通ですが、歌詞の内容が実に陰惨です。陰惨な内容を淡々とした音楽で表現すると、シュールな感覚にも襲われます。歌詞の内容は、自分の行動を制限する弟に毒を混ぜた食事を食べさせて、毒殺した姉が官憲に捕らわれて、死罪になり、本人の望みで壁に塗りこめられるというものです。弟役を歌ったテノールの声量のある歌声は素晴らしいものでした。
第3曲の《牧歌》は一転して、長閑な美しい曲。オーケストラの響きにうっとりと聴き入ります。
第4曲の《牛飼いの娘たち》はソプラノとメゾソプラノの女声独唱の呼びかけるような歌声に合唱が木霊のように呼応するという独特の音楽です。ソプラノの日本人歌手、彼女はプラハの国民劇場での経歴を持っているようですが、実に美しい歌唱でした。また、曲の後半でのソプラノとメゾソプラノの2重唱の美しさも特筆ものでした。
第5曲の《間奏曲》はリズムに満ちた民俗的な舞曲です。都響の見事なアンサンブルが印象的でした。
第6曲の《家族に勝る恋人》は、ストーリー性のある歌詞が繰り返しのメロディーに乗って、歌われていきます。最後は見事に変奏されて終わります。歌詞の内容は、トルコの監獄に3年も囚われた男が家族に解放のためのお金を出してくれるように懇願する手紙を次々と、父、母、兄弟に出しますが、すべて、断られ、最後に恋人に手紙を書き、彼女に救われるという単純なストーリーですが、見事な音楽にまとまっています。
第7曲の《クリスマス・キャロル》は児童合唱で歌われるアダムとイブの物語です。歌詞はカレル・ヤロミール・エルベンの《花束》という詩集に基づくもので、カンタータの題名もこれから取られました。歌詞の最後の締めが利いていて、楽園から追放されたアダムが麦畑を耕して、パンを作ったけれども、このアダムが人類の祖先だから、人々は貧しさを受け継いでしまったのだと終わります。
第8曲、終曲の《人と死神》は、最後を飾る秀作です。満足な生活を送る男がばったりと道で死神と出会ったことから、彼の機知に満ちた言葉も通用せずに、結局は死神の矢を受けて、悲惨な死を迎えるというストーリーを荘重な音楽にしています。管弦楽の響き、合唱の響き、バス独唱の素晴らしい歌唱が重なって、素晴らしい音楽が奏でられ、さらにヴィオラ独奏、ヴァイオリン独奏も美しく、最後は4人の独唱と合唱で万人に訪れる突然の死への警告を歌い上げて、オーケストラが静かに曲を閉じていきます。感銘の残る音楽にしばし、息を止めます。

マルティヌーの初期の傑作の素晴らしさに感動するとともに驚きもありました。交響曲の多彩な響きが印象的なマルティヌーですが、初期の作品はモラヴィア、ボヘミアの民俗的な作風で大変、魅力的でした。これからもフルシャの指揮する都響のチェコ音楽には期待いっぱいです。



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この記事へのコメント

1, 寄り道さん 2014/09/09 13:01
フルシャのマルティヌー、素晴らしかったですね。「花束」の奇妙なコミカルさが良かったです。演奏自体も見事なものでした。
記事を読んでちょっと、あれ?と思ったので……。フルシャ/都響は、マルティヌーの交響曲は、第3番も取り上げています。

2, saraiさん 2014/09/09 13:51
寄り道さん、初めまして。

大切な情報、ありがとうございました。2010年12月の首席客演指揮者就任の文化会館の公演でしたね。その月のサントリーでドヴォルザークの《フス教徒》、スメタナの交響詩《ブラニーク》、マルティヌーの《リディツェへの追悼》、ヤナーチェクの《グラゴル・ミサ》という素晴らしいプログラムがあったので、文化会館の第3番はパスしました。今思えば、大変、残念です。このときがフルシャの初聴きだったので、まだ、真価を理解していませんでした。いやー、残念!!
 

最高の感動!マーラー:交響曲第10番 インバル&東京都交響楽団@サントリーホール 2014.7.21

今日のインバル指揮、東京都交響楽団のマーラーの交響曲第10番には心底、感動! 昨日の同一内容の公演とは次元の異なる素晴らしい演奏でした。今日の都響のアンサンブルはパーフェクトと言ってもよく、特に第5楽章のピュアーな響き、音楽表現の素晴らしさは筆舌に尽くしがたいものでした。第5楽章の最後の5分間は昨日も大変な感動に襲われましたが、今日はさらに深い感動に襲われ、音楽が心の奥底まで沁み渡ってきました。マーラーの究極の愛の音楽です。

今回のコンサートに備えて、初めて、交響曲第10番の全曲版(クック補筆)を予習しました。いずれもハイレベルな演奏ばかりで驚きました。

 インバル、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 映像版
 ハーディング、ウィーン・フィル
 ラトル、ベルリン・フィル
 ギーレン、南西ドイツ放送交響楽団
 インバル、フランクフルト放送交響楽団
 レヴァイン、フィラデルフィア管弦楽団
 ザンデルリンク、ベルリン交響楽団

美しい演奏ばかりで、甲乙つけがたしの印象。無理にひとつだけ選べと言われれば、ハーディング指揮ウィーン・フィルでしょうか。いずれにせよ、クック補筆のマーラーの交響曲第10番は十分にマーラー最後の交響曲の真髄を感じさせてくれます。しかしながら、どの演奏にも増して、昨日と今日のライブ演奏の高揚感は最高でした。指揮のインバルが語っているように、マーラー最後の言葉を味わい尽くすことができました。特に第5楽章はマーラーの熱い思いがぎっしりとつまっていることがライブ演奏でひしひしと伝わってきました。

都響の演奏ですが、今日は期待通り、弦楽アンサンブルの響きの素晴らしさが最高でした。大編成にもかかわらず、室内オーケストラのようなピュアーな響き。それでいて、熱い高揚感のある表現まで聴かせてくれるんですから、もう言うことなし。木管も素晴らしく、金管も難しい弱音表現を頑張っていました。第5楽章の冒頭のフルート独奏は昨日は何か、のりきれていない演奏にがっかりしましたが、今日は一転して、素晴らしい演奏で、しみじみと心に響いてきました。このフルート演奏を契機にその後の弦楽合奏の素晴らしかったこと、うっとりと感銘を受けながら、聴き入りました。これが起爆剤にして、最後の5分間の奇跡のような弦楽合奏があったような気がします。

今日の素晴らしい演奏はインバルの指揮なくしてはありえなかったでしょう。ある意味、インバルはこのクック版の交響曲第10番のスペシャリストです。予習で聴いたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏は今や、伝説的な名演です。リカルド・シャイーの代演での登場だったようですが、素晴らしい演奏で世界中が驚いたようです。そのインバルの演奏がこうして生で聴けたのですから、大変、幸福です。
そして、これがインバルと都響のマーラー・ツィクルスの実質的なグランド・フィナーレになりました。サントリーホールでの第9番も涙なしには聴けない感動的な演奏でしたが、今日の第10番も同じくらい感動的でした。コンダクター・アンコールも2回にわたる大声援。第9番のときの3回と同等でしょう。
これでしばらく、この名コンビのマーラーが聴けないことに寂しさを覚えます。また、いつの日か、是非、聴かせてもらいましょう。

今日のプログラムは前日と同じく、以下です。

  指揮:エリアフ・インバル
  管弦楽:東京都交響楽団

  マーラー:交響曲第10番嬰ヘ長調 
    デリック・クック補筆 第3稿第2版(一部、第1版)



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お前のために生き、お前のために死ぬ・・・マーラー10番 インバル&東京都交響楽団@サントリーホール 2014.7.20

これがマーラーの最後のメッセージなんですね。《アルムシ、お前のために生き、お前のために死ぬ》。それがひしひしと伝わってくる最終楽章の最後の5分間でした。偉大なマーラーの音楽の総決算です。アルムシというのは妻アルマの愛称です。愛する妻の裏切り(ヴァルター・グロピウスとの不倫)を知った直後に作曲開始した交響曲第10番は結局、未完に終わってしまいましたが、そのエッセンスはそのスケッチにちゃんと残っていたんですね。偉大な音楽家マーラーもやはり、我々と同じ人の子です。同じように悩み、同じように苦しみます。我々と違うのは、その愛の葛藤を感動的な音楽に昇華させたことです。未完に終わった傑作の何たるかを我々に提示してくれたのは、補筆したデリック・クックであり、演奏してくれたインバルと東京都交響楽団です。マーラーの大ファンであるsaraiは恥ずかしながら、今まで、この第10番の真価を知りませんでしたが、今日、はっきりと理解し、感じることができました。交響曲第5番以降、アルマへの愛の成就とその幸福感、愛の行く末への不安と書き進んできて、第9番では、愛の終わり=この世との決別(Abschied)で完結したとばかり、思っていましたが、第10番では、愛の破局にもかかわらず、最後はやはり、愛に生き、愛に死んでいくしかないという最終的な心情を吐露してくれていたんですね。saraiはマーラーの究極的な愛のメッセージを受け止めることができました。このマーラー最後のメッセージを伝えてくれたインバルの熱い指揮にsaraiの心も熱くなりました。
ただし、言わずもがなかも知れませんが、今日の都響の演奏はパーフェクトとは言い難いものではありました。最高のメンバーを揃えた都響ならば、もっと美しいアンサンブルで演奏できたはずです。部分的に不完全とも思える演奏がそれまで続いたにもかかわらず、第5楽章、とりわけ最後の5分間は実に感動的な演奏でした。
明日の演奏ではさらなる高みに上ることを期待したいものです。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:エリアフ・インバル
  管弦楽:東京都交響楽団

  マーラー:交響曲第10番嬰ヘ長調 
    デリック・クック補筆 第3稿第2版(一部、第1版)



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

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金婚式、おめでとうございます!!!
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京都には年に2回もお越しでも、青春を過ごし

10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

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