この「椿姫」では、ナタリー・デッセイが初めてヴィオレッタを歌うのが話題になっています。コロラトゥーラソプラノのデッセイが今までヴィオレッタを歌っていなかったんですね。
彼女はあまり日本に来ていないので、生で聴く機会も少ない人です。
saraiもデッセイのツェルビネッタを聴きたくて、7年ほど前にパリ・オペラ座まで出かけたことがあります。そのときは期待が大き過ぎて?、もう一つ、その歌唱に満足できなかった覚えがあります。
まあ、その前に聴いたグルベローヴァのツェルビネッタがあまりにも凄かったせいもあり、満足できなかったのかも知れませんね。ルチアやツェルビネッタを歌うグルベローヴァは素晴らしいというよりも恐ろしいくらい凄いですからね。
ともあれ、デッセイは現代を代表するソプラノの一人だし、何といっても、歌だけでなく、演技力、それも体当たり的な迫力には一目も二目もおかなければならないでしょう。
特に最近のMETでの活躍には、目を見張るものもあります。ルチアや「夢遊病の女」です。
で、そこそこ、デッセイのヴィオレッタはどうなるか、期待しつつ、上野の文化会館に出かけました。
予習ですが、これもさすがにパスしました。あまりにも有名なオペラで、これまでも、ずい分、聴きました。
それに昨年、ウィーンで聴いたネトレプコの「椿姫」の素晴らしかったこと。彼女のヴィオレッタの素晴らしい歌唱はまだ耳に残っています。
さて、今回の公演のキャストは以下。
トリノ王立歌劇場(管弦楽団・合唱団)
指揮:ジャナンドレア・ノセダ
演出:ローラン・ペリ
ヴィオレッタ:ナタリー・デッセイ
アルフレード:マシュー・ポレンザーニ
ジェルモン:ローラン・ナウリ
フローラ:ガブリエッラ・スボルジ
アンニーナ:バルバラ・バルニェージ
ガストン子爵:エンリーコ・イヴィリア
ドゥフォール男爵:ドナート・ディ・ジョイア
ドビニー侯爵:マリオ・ベッラノーヴァ
グランヴィル:マッティア・デンティ
まずは前奏曲がピアノシモで抑えに抑えて、始まります。
でも、saraiは抑えすぎに感じました。ピアノシモにしても、もっとクリアな響きがほしいところ。あの悲しくも美しい旋律はくっきりと表現したいものです。
が、そんなことを思っている間もなく、ヴィオレッタのテーマが始まると、早くも待ちかねたようにデッセイが登場。それも元気よく、奇声をあげたりします。
まだ、前奏曲ですよ!
はて、これは「椿姫」なのか?
デッセイはいつもの彼女らしく身の軽い仕草でステージを動き回ります。
これがデッセイのヴィオレッタですね。紛れもありません。
デッセイはデッセイであって、ヴィオレッタも一つの素材。
まあ、これもありかと納得し、思わず、笑ってしまいました。
「椿姫」以外の別のオペラを見ているような気分にもなりますが、面白いことには違いありません。
実に個性的なヴィオレッタですが、デッセイにしかできない表現でもあります。
そうこう思っているうちに早くも「乾杯の歌」。
アルフレード役のポレンザーニですが、声は出ていますが、声の質が軽く明るい感じで少し、この役には違和感があります。もう少し、重量感がほしいと感じました。
で、次はデッセイ。さすがに歌も演技もうまい。
一幕目後半になり、いよいよ、ヴィオレッタが一人になり、「ああ、そは彼の人か」、そして、続いて「花から花へ」。コロラトゥーラの聴かせどころ。
これもデッセイは奇麗な高音を聴かせてくれます。コロラトゥーラの節回しも素晴らしい。
ただ、中音域での声の透明感に欠けるのが惜しい。
このヴィオレッタ役は実に広い音域をカバーしなければならないことに今さらながら気がつきました。大変難しい役ですね。
まあ、トータルには、演技力も含めて、立派なヴィオレッタでした。
二幕目はジェルモンの活躍する場面が多いわけですが、ナウリは声量もあり、なかなかな歌唱。もう一つ、聴衆の心を鷲づかみする魅力がありませんが、まあ、十分といえば十分といえるのではないでしょうか。
デッセイはカジュアルな衣装でステージを駆け巡り、アルフレードに飛びついたり、まさに演技では彼女の独壇場。
こういうのはsaraiも嫌いじゃありません。
なかなかコケティッシュでいいかも・・・・
三幕目、ヴィオレッタが病で最期を迎えるクライマックスです。
二幕目の終りのパーティーのシーンから、そのまま移行します。
なかなか見事な場面転換です。
ヴィオレッタは女性たちに囲まれて、ステージ上でドレスから寝間着に着替えます。
そしてまた、この幕は今回の演出で一番こだわったところだと思われます。
それは、ヴィオレッタは誰にも見捨てられて、一人で死んでいくというものです。
実際はアルフレードもジェルモンもヴィオレッタのもとに駆けつけるわけですが、それはヴィオレッタの幻想だったという解釈の演出になっています。
で、ヴィオレッタの最期で、アルフレードとジェルモンがすっとステージから消えることで、それを強調しています。
この演出の意図はこのオペラの趣旨:過ちを一度おかした女は決して救われないということの延長線上で、そんなに無理があるとも思えませんが、ただ、今回の舞台を見た感じでは、そんなに成功しているとも思えません。
何故かというと、やはり、ヴィオレッタ一人の幻想ではなく、実際にアルフレードとジェルモンがヴィオレッタのもとに駆け付けたように見えるからです。
それにそんなにヴィオレッタを痛みつけなくてもいいのではとsaraiは優しく考えてしまいます。最期に死ぬ時くらいは救われてもいいのでは?
演出はどうであれ、ヴェルディの音楽の力は強烈でクライマックスの音楽的な迫力はいつも通り、泣かされます。
エンディング後、ステージに一人残ったデッセイは今回の演出に沿って、しおらしくカーテンコールを受けますが、えっと驚くサプライズ。
何と急に走り出して、ステージを元気よく去って行きました。
それって、一人幻想だけで見捨てられたヴィオレッタの役柄と違うんじゃないのって、びっくり。
まあ、いろいろありますが、結局は小柄でかわいいデッセイの個性的な表現のヴィオレッタに尽きてしまう「椿姫」で、面白かったことは間違いありません。
ですが、ネトレプコのヴィオレッタを「聴いて」しまうと、その素晴らしく美しい声の魅力には、デッセイの総合力をもってしても、対抗することが難しかったというのが正直な感想でした。
「椿姫」も多分、ネトレプコで封印かも知れません・・・
今回のオペラで、7月はオペラ・オペレッタの10回目の鑑賞となりました。
これくらい聴けば、満足です。
しばらくはオペラもコンサートも夏枯れでお休みです。
次の音楽会は9月初めの室内楽となります。
オペラは9月のロイヤルオペラの来日公演が楽しみ。
ネトレプコのマノンですからね。
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この記事へのコメント
saraiさん、お帰りなさい。
ヨーロッパでオペラ三昧、帰国されてもオペラ鑑賞、まさにオペラづけですね。実に羨ましいです。
ネトレプコの「椿姫」は自分もDVDを持っていますよ。
歌もいいですが、何しろ色気が最高ですね。
美脚があらわになったりするとドキドキします。
おじさんには刺激的です。(笑)
2, saraiさん 2010/08/03 08:27
ハルくんさん、saraiです。
コンサートもいいですが、やはり、オペラは最高です。
ネトレプコの「椿姫」、ザルツブルグと違って、ウィーンは正統的?な演出で美脚はあらわになりませんよ(笑い)。あくまでも歌で勝負です。まあ、それでも姿や顔は美しいですけどね。
saraiも普通のおじさんですけど、ネトレプコはその美声に参っています。