信じられない!
何という高次元の演奏でしょう。
プレートルはにこやかな86歳のお爺ちゃんですが、やはり、只者ではありませんでした。
いたずら好きのお爺ちゃん(プレートル)に贅沢なおもちゃ(ウィーン・フィル)を渡したら、とんでもないことをしでかした・・・そんな感じです。しかもそのお爺ちゃんは音楽を知り尽くしており、それ以上に音楽の楽しみを知っていたとなると大変です。
今回の日本でのプレートルとウィーン・フィルのコンサートは日本音楽界の一大事件だと言っても決して大袈裟ではないでしょう。
あと残り1回の11月10日のサントリーホールで聴くかたは楽しみにしていてください。絶対に感動できることをお約束できます。
シューベルトは贅沢なサウンドでまるでレベルの違う第2番を満喫。こんな贅沢な2番を聴いて、いいのかって感じです。
そして、ベートーヴェンは緊張感の高く、凝集力のある演奏をウィーン・フィルの美しく艶のある、それでいて、分厚く深い響きで堪能。
究極のベートーヴェンです。saraiの生涯で聴いた最高のベートーヴェンです。
さて、順を追って書いて行きましょう。
南九州の実家に里帰りしたのは、宮崎芸術劇場(アイザックスターンホール)でウィーン・フィルを聴くのも大きな目的です。いわば、穴場狙いで良い席のチケットの確保を目論んだわけです。
で、チケット購入は目論み通りで、8列目の中央という極上の席をゲットしました。それも並びの3席。母と配偶者の3人で聴きます。高価なプラチナチケットではありますが、きっと、その代償に、大きな満足・感動が得られることを期待の上のことです。
で、この時点では、サロネン指揮のマーラーの9番。正直、指揮者は不安でしたが、きっとウィーン・フィルはやってくれることを期待していました。
ところが、先日のサロネン降板劇になり、結果、大御所プレートルの登場という嬉しい大ハプニング。
今日の今日まで、本当に高齢のプレートルが来るのか、不安でしたが、前日の兵庫公演に登場したことを知り、多分大丈夫だろうとほっと胸をなでおろしました。
開演の大分前に余裕を持って、いざ、宮崎芸術劇場へ。
このホールは2回目。前回は宮崎音楽祭でチョン・キョンファのヴァイオリンでブラームスの協奏曲を聴くためにわざわざ駆けつけました。
まず、ホールの外観をご紹介しましょう。

大きな階段を上ると、ホール入口。東京のコンサート以上に着飾った男女が集まっています。着物の女性が目立ちます。

今日のチケットはこれ。

しっかりとサロネン指揮とプリントされています。
ホールに入ると、チケットのチェックする関所の横の柱には、プレートルの名前がでかでかと書いたポスターが貼ってあります。いかにも、お間違えのないようにということでしょうか。開演前まではチケットの払い戻しが可能だそうです。

やはり、プレートル指揮に変更ないようです。
まるで夢のようです。いやがうえにも期待が高まります。
ホールの内部はこのようになっていて、ウィーンの楽友協会をお手本にした構造だとのことです。

音響はどうでしょう。評判はいいそうです。saraiの前回の記憶は霞んで思い出せません。
本日のプログラムは以下。
シューベルト:交響曲第2番
《休憩》
ベートーヴェン:交響曲第3番《英雄》
《アンコール》
ブラームス:ハンガリー・舞曲第1番
ヨハン・シュトラウス:トリッチ・トラッチ・ポルカ
演奏は以下。
指揮:ジョルジュ・プレートル
管弦楽:ウィーン・フィル
コンサート・マスター:ライナー・キュッヒル
で、予習したのは以下のCD。
シューベルト:交響曲第2番
ギュンター・ヴァント指揮ケルン放送交響楽団
録音もよく、会心の演奏です。文句なしに聴けます。
ベートーヴェン:交響曲第3番《英雄》
ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送交響楽団
これまた録音もよく、ドイツらしく分厚い響きで歯切れのよい演奏です。久々に気持ち良く聴けたエロイカです。。
さて、ウィーン・フィルのメンバーがコンサートマスターのキュッヒルを先頭に拍手のなか、席に着きます。チューニングもすぐに終わり、意外なほど早くプレートルがにこやかに登場。聴衆も大拍手で迎えます。
まず1曲目はシューベルトの第2番、コンサートではめったに演奏されない曲ですが、親しみのあるシューベルトの旋律に満ちたロマンチックな曲です。
第1楽章、冒頭の序奏から分厚い響きでちょっと驚きです。こんな骨太のドイツ風の響きは予想外でした。第1主題はギヤを入れ換えて、軽快で颯爽とした演奏。プレートルはこのように対比のきいた自在な演奏スタイルのようです。楽章全体は分厚い響き、美しい響きの連続で贅沢なサウンドです。意外に細かいテンポの揺れはあまりありません。素晴らしく響きのよいシューベルトを堪能という感じです。
第2楽章、プレートルはタクトを置きます。ノンタクトです。
そうそう、彼は暗譜で指揮しています。しっかり、曲を把握しています。
愛らしい旋律が美しく響きます。ウィーンの宮廷舞踏会で貴族の子弟がカドリールを踊っているイメージを連想します。そこにフランス貴族の姿も垣間見れます。中間での強い響きの合奏はアクセントになっており、これも対比の妙を感じさせられます。
第3楽章、短い楽章ですが、ますます、分厚く深い響きが胸を揺さぶります。もう、到底、第2番の枠組みは超えた演奏です。例えようもない素晴らしさに鳥肌のたつ思いです。
第4楽章、弦楽の美しい響きに圧倒されます。テンポは快速。音楽が疾駆していきます。やはり、途中、対比の妙に魅了されながら、フィナーレ。
こんな贅沢なシューベルトを聴くと、もうメインディッシュを食べ終えた満足感すら感じます。
で、休憩を挟んで、次はお待ちかね、エロイカ。
昨年、ウィーンでもこのコンビで演奏したそうですから、十分に準備できているでしょう。かなり、思い切った演奏が期待できそうです。
第1楽章、いきなりのアインザッツ2発、すごく早いテンポです。オーケストラに緊張感が漂うのが感じられます。ベートーヴェンの真髄、凝集力に満ちた演奏がいきなり始まります。聴衆も緊張した状態で聴き入ります。
一瞬たりとも気の抜けない演奏が続きます。展開部あたりの盛り上がりからは次第に感動の波に襲われます。不覚にも涙が滲みます。何という活力に満ちた音楽でしょう。これこそ、ベートーヴェン。コーダへ上り詰めていく音楽の活き活きしていること、神業です。
第2楽章、葬送行進曲。ここでもプレートルはタクトを置き、細心の表現。抑えた演奏ですが、弦も管も響きの美しいこと。
そして、やはり、対比の妙、中間部では弦楽合奏で低弦から第1ヴァイオリンが加わるあたりの音楽の高まり、さらに管楽器も加わっての頂点への上り詰め、何という高揚感でしょう。
感動のあまり、涙があふれます。
そして、また、葬送の抑えた美しい響き。
あまりにも素晴らし過ぎる!
第3楽章、放心したsaraiの耳をアレグロ・ヴィヴァーチェの軽快な音楽が颯爽と通り過ぎていきます。
第4楽章、前楽章からすぐに怒涛のように音楽が押し寄せます。
プレートルは巧みにテンポを揺らし、ウィーン・フィルも必死でこれにこたえます。若干のアンサンブルの乱れはありますが、見事です。これぞ、音楽の達人の世界です。自在なリズムで時折、高音域の響きの美しさ。もう、音楽を超えて、音の響きの饗宴に身を委ねます。
そして、簡潔なフィナーレに上り詰めます。
こんなベートーヴェンは聴いたことがありません。コンサートホールの実演でのみ有り得る体験です。CDに記録するのはきっと不可能です。
是非、11月10日のサントリーホールに足を運ぶことをお勧めします。
ちなみに宮崎芸術劇場の響きはサントリーホールの柔らかい響きとは違いますが、負けず劣らず、素晴らしい響きでした。この響きを引き出したウィーン・フィルも素晴らしいですね。
この日は何と言ってもプレートルの凄さに感嘆しました。無駄な動作はなく、時折、オーケストラに揺らぎを与え、緊張感を高め、ウィーン・フィルの能力を極限まで引き出す。音楽表現はオーソドックスながら、対比を巧みに表現し、活力のある音楽を作り出す。でも、彼の基本はあくまでも音楽を楽しむことにあるようです。聴いている聴衆も音楽に酔いながら、心から音楽を楽しめます。
アンコールの2曲も巧みにテンポを揺らし、それ以外はオーケストラの自律性に任せるというスタイルで活き活きとした音楽を作り出し、聴衆を魅了してくれました。
プレートル恐るべしのコンサートでした。先日のアーノンクールのハイドンと甲乙つけがたし。今年のコンサートの双璧になりました。配偶者は分かりやすさでプレートルに1票だそうです。saraiには正直、どちらも素晴らしく、順位を付けるのは神をも恐れぬ仕業っていう心境です。
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この記事へのコメント 1, さとぼう。さん 2010/11/08 11:59
はじめまして!
私も昨晩、プレートルおじいちゃま+ウィーンフィルの演奏に感動した一人です!!
こちらの記事を読んで、昨夜の感動がふたたび…♪
齢35ですが、これまでで最高に楽しい!すばらしい!と思えた演奏会でした。
本当にすばらしかったですね!!
2, saraiさん 2010/11/08 18:54
さとぼう。さん、初めまして、saraiです。
初コメントありがとうございました。
昨日の興奮、忘れられないですね。
さとぼう。さんよりも25年も長く生きていますが、あんなベートーヴェンは初めてでした。こんなコンサートに行けたのはラッキーですね。
今度の日曜は楽しみにしていた内田光子をサントリーホールで聴きます。ワクワク・・・
3, ハルくんさん 2010/11/08 21:55
こんばんは。
プレートル/ウイーンPOは良かったようですね。
サロネンのマーラーは以前LAで7番を聴いたことが有り、とても素晴らしかったので、いまだにマーラー9番を聴けなかったことが残念に思われます。けれどもsaraiさんのレポートでエロイカも非常に期待が持てそうなので、10日はしっかり聴いてきます。ありがとうございました。
4, saraiさん 2010/11/08 23:40
ハルくんさん、こんばんは。
マーラーを聴きたかった気持ちは同じですが、多分、2度と聴けないかも知れないプレートルです。昔はプレートルといえば、《動物の謝肉祭》などのフランス音楽だけの人と思っていましたが、今や、ハイティンクと並ぶ巨匠だということを再認識しました。
エロイカを特集したハルくんさんがどのような感想を持たれるか、興味津々で楽しみにしています。予断を持たずにお聴き下さいね。
5, ヤクルトファンさん 2010/11/11 09:33
素晴らしい演奏でした。美しい英雄でした!また来日して欲しいです。プレートルに感謝です。
6, saraiさん 2010/11/12 12:21
ヤクルトファンさん、saraiです。
コメントありがとうございます。
プレートルは素晴らしい指揮者でしたね。
もう1度聴きたいものです。
ウィーンに行かないと難しいかも。
テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽