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中村恵理の絶唱に感動!!ジルヴェスターコンサート@横浜みなとみらいホール 2017.12.31

大晦日は恒例のジルヴェスターコンサート@みなとみらいホールで年越しです。saraiと配偶者、娘と婿さんの4人です。

コンサートに先立って、1年を締めくくる贅沢をします。みなとみらいグランドセントラルテラスにある本格イタリアン「LEONE MARCIANO レオーネ マルチアーノ」でのディナーです。昨年に引き続き、2度目です。大晦日の夜、営業しているレストランは少なくて、今回もここになりました。定番化しつつあります。
これがレストランの入口です。

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まずはワインを注文。チョイスは婿さんに一任。美味しいスプマンテで一年の労をねぎらいながらの乾杯。
料理はアラカルトでいただきます。アンティパストは
 水牛モッツァレラのカプレーゼ トマトとバジル
 生ハムとサラミの盛合せ

パスタは
 タリアテリーネ 黒トリュフと生ハム バターソース


これはトリュフをたっぷりかけてもらって、とっても美味しい!!
メインはカナダ産活オマール海老のオーブン焼き 地中海風。オマール海老がぷりっぷりですっごく美味しい!

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これは鴨胸肉のソテー ラズベリーのヴィンコットソース。

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これは国産牛のタリアータ ドゥエヴィットーリ社のバルサミコソース。

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などなど、美味しい料理を堪能。

豪華なディナーを楽しんで、みなとみらいホールに移動。
みなとみらいホールのジルヴェスターコンサートは今年で第19回目。そして、saraiがジルヴェスターコンサートに通うのもこれで19回。全部聴いてます。
今回のプログラムは以下です。

《第1部》

池辺晋一郎:ヨコハマ・ファンファーレ
ドビュッシー:夜想曲より第2曲「祭」
ラヴェル:「クープランの墓」より"リゴドン"
ラヴェル:「クープランの墓」より"トッカータ"(Pf:高橋優介)
シューベルト:「しぼめる花」による序奏と変奏曲(Fl:竹山愛 Pf:高橋優介)
グラナドス:「ゴイェスカス」より第4曲「嘆き、またはマハと夜鳴きうぐいす」(Pf:高橋優介)
プッチーニ:「ラ・ボエーム」"私の名はミミ” "おお麗しい乙女よ"(Sop:中村恵理、Ten:宮里直樹)
バラキレフ:東洋風幻想曲「イスラメイ」
ヴィヴァルディ:3つのヴァイオリンのための協奏曲 RV551(Vn:漆原啓子、徳永二男、漆原朝子)

《休憩》

《第2部》

ブラームス:弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調より第1楽章(Vn:会田莉凡、礒絵里子、Vla:安藤裕子、渡邉信一郎、Vc:高橋純子、水野由紀)
ドニゼッティ:「愛の妙薬」"人知れぬ涙"(Ten:宮里直樹)
プッチーニ:「トゥーランドット」”氷のような姫君の心も"(Sop:中村恵理
ルーセル:交響的断章「蜘蛛の饗宴」
ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲ニ短調 第3楽章(Vn:徳永二男)
ボロディン:歌劇「イーゴリ公」より「ポロヴェツ人(ダッタン人)の踊り」【カウントダウン曲】
カプア:「オー・ソレ・ミオ」(Ten:宮里直樹)
大栗裕:「大阪俗謡による幻想曲」(管弦楽版)
バーンスタイン:「キャンディード」序曲
J.シュトラウス1世:ラデツキー行進曲

【出 演】

音楽監督:池辺晋一郎、飯森範親(Cond)、徳永二男(エグゼクティブ・ディレクター/Vn)、朝岡聡(MC)
横浜みなとみらいホール ジルヴェスターオーケストラ(コンサートマスター:会田莉凡、扇谷泰朋、神谷未穂、藤原浜雄、水谷 晃)

今回のジルヴェスターコンサートは最前列の中央の席で聴きました。とってもよく響く最高の席でした。
ジルヴェスターコンサートはお祭りのようなガラコンサートですから、そんなに素晴らしい音楽ばかりが聴けるわけではありません。
印象を書くほどのことはありませんが、ヴァラエティに富んだ音楽が次々に聴けて、十分に楽しめました。

今回はソプラノの中村恵理の声と表現力が凄くて、感動しました。彼女のファンになってしまいそうです。新国で「ラ・ボエーム」が聴けるなら、彼女のミミを聴くだけでも行く価値があります。
あまりに中村恵理の印象が強烈でほかのことは霞んでしまいました。

カウントダウン曲のボロディンの「ポロヴェツ人(ダッタン人)の踊り」ですが、カウントダウンは見事に完全成功!! ジャーンというフィナーレとともにぴったり新年を迎えました。いつもながら、飯森範親の指揮は凄いの一語。

最後は例年通り、ラデツキー行進曲を手拍子してコンサート完了。

今年も音楽で新年が始まりました。また、音楽聴きまくりの1年になりそうです。


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       中村恵理,  

saraiの音楽総決算2017:オーケストラ・声楽曲編・・・今年の大賞は?

今年の音楽の総決算もいよいよ最後になりました。そして、ブログも今年の書き納めです。

今回はオーケストラ・声楽曲編です。
このジャンルは今年もたくさんのコンサートを聴きました。なかでもザルツブルク音楽祭でのハイティンク指揮ウィーン・フィルのマーラーの交響曲第9番はsaraiの音楽人生の集大成のようなものでした。それが2回も無事に聴くことができたことでもう我が人生で思い残すことはありません。
ちなみに昨年の結果はここです。

で、今年はベスト10は以下です。

1位 マーラー:交響曲第9番 ハイティンク&ウィーン・フィル 2回目@ザルツブルク祝祭大劇場 2017.7.30

2位 偉大なる“平凡”・・・カヴァコス、ブロムシュテット&ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団@横浜みなとみらいホール 2017.11.09

3位 魅惑的な響きの幻想交響曲!ゲルギエフ&マリインスキー歌劇場管弦楽団@サントリーホール 2017.12.6

4位 ビエロフラーヴェクへのレクイエムは《わが祖国》・・・アルトリヒテル&チェコ・フィル@横浜みなとみらいホール 2017.10.1

5位 驚異の響き・・・ツィンマーマン、ガッティ&ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団@サントリーホール 2017.11.20

6位 感涙のマーラー:大地の歌・・・インバル&東京都交響楽団@東京芸術劇場 2017.07.17

7位 ハイドン《天地創造》に感動!・・・東京都交響楽団@サントリーホール 2017.09.11

8位 感動!シベリウス:クレルヴォ交響曲 リントゥ&東京都交響楽団@東京文化会館 2017.11.8

9位 抒情美を極めた巨匠の《悲愴》フェドセーエフ&チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ@宮崎芸術劇場 2017.11.11

10位 フルシャ、有終の美!!東京都交響楽団@サントリーホール 2017.12.16


今年の1位は、わざわざザルツブルク音楽祭まで足を運んで聴いたハイティンク指揮ウィーン・フィルのマーラーの交響曲第9番です。saraiにとって、音楽は人生そのもの。中学生になって、親に買ってもらったステレオでクラシックを聴き始め、40歳になって、夢だったウィーン国立歌劇場でオペラを見て、それから、病みつきになって、ヨーロッパ遠征で音楽を聴き続けてきました。そして、遂にハイティンク指揮ウィーン・フィルで一番愛して止まないマーラーの交響曲第9番を聴き、これでもう思い残すことはありません。2日前に聴いた7月28日の演奏も素晴らしかったです。

2位はハイティンクと同様に高齢で元気に指揮棒を振り続けるブロムシュテットが指揮したライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団が演奏したシューベルトの交響曲第8番「ザ・グレート」です。何でもないような普通の演奏の底に深い精神世界が垣間見えるような感じの表現に大変な感銘を受けました。それにしてもブロムシュテットのシューベルトは素晴らしいです。

3位はゲルギエフ&マリインスキー歌劇場管弦楽団の幻想交響曲です。大変美しくて、繊細な表現の演奏にうっとりとしました。ゲルギエフがウィーン・フィルを振ったCDとは比較にならない成熟度です。

4位はビエロフラーヴェクへのレクイエムにも思えたアルトリヒテル&チェコ・フィルの《わが祖国》です。後半の3曲は魂のこもった素晴らしい演奏でした。また、サントリーホールで聴いたドヴォルザークの交響曲第8番も大変素晴らしいものでした。首席指揮者ビエロフラーヴェク亡き後のチェコ・フィルの活躍に期待したいものです。

5位はガッティ&ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏したブラームスの交響曲第1番です。驚異的な響きのブラームスに度肝を抜かれましたが、音楽的にも大変優れた演奏でした。新しい首席指揮者ガッティの下、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の将来は明るそうです。

6位はインバル&東京都交響楽団の十八番のマーラーです。このコンビの大地の歌を聴くのは2度目ですが、いずれも名演。今回はアンナ・ラーションの絶唱が聴きものでした。

7位は大野和士&東京都交響楽団のハイドンのオラトリオ《天地創造》です。正直言って、初めて、大野和士の素晴らしさを認識しました。以前聴いたアーノンクール&ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスと名歌手たちによる演奏にも匹敵するような素晴らしい演奏でした。

8位はリントゥ&東京都交響楽団のシベリウスのクレルヴォ交響曲。室内オーケストラを思わせる完璧なアンサンブルで感動的な演奏を聴かせてくれました。海外からの声楽陣の演奏も見事でした。

9位は巨匠フェドセーエフ&チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラの《悲愴》です。このコンビの《悲愴》を聴くのは2度目ですが、さらなる成熟をみせてくれました。3度目にはさらなる飛躍があるのでしょうか。

10位は東京都交響楽団の首席客演指揮者として、フルシャが最終公演で聴かせてくれたマルティヌーとブラームスの交響曲第1番です。素晴らしい演奏にフルシャを失う喪失感を抱くほどでした。在任期間中の最大の功績はマルティヌーの全交響曲を演奏してくれたことです。次はバンベルク交響楽団の首席指揮者として凱旋してくれるようですが、いつの日か、チェコ・フィルを振ってほしいものです。


ジャジャーン!
ここで今年の大賞発表です。
その前に、今年は異例ですが、特別大賞を発表します。大賞とは別枠で今年だけでなく、saraiの30年近いヨーロッパ遠征を通じての特別な思いを込めてのものです。もう、既にお分かりですね。


 ザルツブルク音楽祭でのハイティンク指揮ウィーン・フィルのマーラーの交響曲第9番(ザルツブルク祝祭大劇場)


saraiの音楽人生の総決算です。まったく言葉も失うコンサートでした。ハイティンクのすぐ近くの席で聴いた記念すべきコンサートです。指揮を終えた巨匠はすっかり憔悴していましたが、うっすらと涙を見せていたように感じたのはsaraiの感傷でしょうか。立ち上がって拍手をしながら、これまでの名演に感謝をしながら、告別の念を送り続けました。


さて、今年の大賞です。今年はピアノの年でした。シフ、ヒューイット、田部京子の3人はいずれも大賞にふさわしい演奏を聴かせてくれたし、ザルツブルク音楽祭でのクルレンツィス指揮ムジカエテルナのオペラ《皇帝ティトの仁慈》はsaraiの音楽的な価値観をひっくり返すような強烈なものでしたが、今年は何と言っても、これが一番、魂の奥底に響いてきました。

 ロータス・カルテットのベートーヴェン・ツィクルス@鶴見サルビアホール

全16曲、すべて最高の演奏でした。とりわけ、後期の第13番~第16番は深い音楽性を持った超名演でした。ヨーロッパに渡った日本人女性4人の本当の活躍はこれから始まるでしょう。日本の音楽界も変わりましたね。とても感慨深いです。

来年の感動に期待しながら、今年の総括は幕としましょう。

今年も当ブログを読んでいただいたみなさんには感謝です。また、来年も引き続き、ご愛読ください。

saraiはこの総括を書いていて、たまらず、マーラーの交響曲第9番を聴きたくなりました。大晦日、音楽の締めです。聴くのはもちろん、ハイティンク。選んだ演奏はこれです。


 2011.5.15 コンセルトヘボウ管 ブルーレイディスク  コンセルトヘボウ管のBDのマーラー全集より


今、第4楽章の最後の薄明の世界が閉じていきました。拍手が起きる前にボリュームをそっと絞りました。この音楽は最後は拍手なしに終わりたいものです。


saraiはこれから、みなとみらいホールのジルヴェスターコンサートに出かけます。今年も音楽で年越しです。

皆さま、よいお年を!!


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saraiの音楽総決算2017:協奏曲編

さて、前回に引き続き、今年の音楽の総決算です。

今回は協奏曲編です。
今年は庄司紗矢香のヴァイオリンにインスパイアされました。彼女の音楽性の成熟ぶりには驚くばかりです。また、アヴデーエワのピアノにも魅了されました。
ちなみに昨年の結果はここです。

今年は以下をベスト10に選びました。

1位 有無を言わせぬ庄司紗矢香の空前絶後の凄演!ゲルギエフ&マリインスキー歌劇場管弦楽団@サントリーホール 2017.12.6

2位 アヴデーエワの圧倒的なグリーグに感銘!読売日本交響楽団@みなとみらいホール 2017.4.23

3位 庄司紗矢香、文句なし!・・・ウルバンスキ&NDRエルプフィル@オーチャードホール 2017.3.7

4位 驚異の響き・・・ツィンマーマン、ガッティ&ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団@サントリーホール 2017.11.20

5位 偉大なる“平凡”・・・カヴァコス、ブロムシュテット&ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団@横浜みなとみらいホール 2017.11.09

6位 トリフォノフのプロコフィエフ凄過ぎ!!:読売日本交響楽団@みなとみらいホール 2017.9.18

7位 アリス=紗良・オットの天真爛漫で純粋無垢な響き・・・アルトリヒテル&チェコ・フィル@サントリーホール 2017.10.4

8位 ショパンとチャイコフスキーのピアノ協奏曲を堪能、仲道郁代 ピアノ・コンサート@サントリーホール  2017.1.29

9位 美しきアランフェス!メストレ&読売日本交響楽団@みなとみらいホール 2017.5.27

10位 モーツァルト・マチネ2 アントニーニ&ザルツブルグ・モーツァルテウム管、ベザイデンホウト@ザルツブルク・モーツァルティウム大ホール 2017.8.5


庄司紗矢香のショスタコーヴィチは空前絶後の凄演でした。大変、感動しました。こんなに感動したコンサートは滅多にありません。ゲルギエフのサポートも最高でした。

アヴデーエワの圧倒的なグリーグにも感動しました。彼女のピアノはスリリングで一期一会の演奏です。何を弾かせても感動の演奏をしてくれる素晴らしいピアニストです。

庄司紗矢香のプロコフィエフも素晴らしい出来でした。彼女は旬なヴァイオリニストですが、さらに成長を遂げています。どこまで伸びるか、楽しみです。

ツィンマーマンのベートーヴェンも実に個性的でありながら、内容のぎっしりと詰まった大変な名演でした。4位にランクするのは失礼だったかもしれませんが、これはもう好みの問題としか言えません。

カヴァコスのブラームスも精神性の高い素晴らしい演奏でした。これまた、5位にランクするのは心苦しい限りです。

トリフォノフのプロコフィエフはやり過ぎというくらい、凄い爆演でした。同じ曲をザルツブルク音楽祭でウィーン・フィルと共演したときは猫をかぶっていたようにおとなしい演奏だったのに、その変身ぶりに驚かされました。演奏は断然、この来日公演での読響との共演のほうが聴き映えがしました。

アリス=紗良・オットのピアノは初めて聴きましたが、彼女は何か持っていますね。それに音楽に対して、ひたむきさがあります。まだ未成熟なところもありますが、それも魅力の一つになっています。どのように成長していくのか、大変楽しみです。

仲道郁代さんの一連のデビュー30周年プロジェクトのコンサートです。期待に応えてくれた素晴らしいショパンでしたし、期待以上のチャイコフスキーでした。彼女も充実した1年でした。

メストレのハープ版のアランフェス協奏曲では出色の出来でした。第2楽章ではコールアングレの響きとともに美しい抒情が味わえました。

ベザイデンホウトのモーツァルトもなかなか見事な演奏でした。この演奏に触発されて、来年の来日公演でのフォルテピアノのコンサートで腕前を聴かせてもらうことにしました。

いよいよ、次回は最終回、大賞も発表します。そして、大晦日でもありますね。


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saraiの音楽総決算2017:オペラ・オペレッタ・バレエ編

さて、前回に引き続き、今年の音楽の総決算です。

今回はオペラ・オペレッタ・バレエ編です。
今年もオペレッタとバレエは見ていません。ウィーンに行っていないからでしょう。そのせいでオペラもたったの6回しか見ていません。海外で見たオペラは3回で、国内でのオペラはすべてコンサート形式です。今年も低調でした。オペラは大好きなんですけどね。ウィーンで思いっ切り、オペラ三昧したいですね。saraiのヨーロッパ旅行の原点はウィーン国立歌劇場でオペラを見たいということでしたから、原点回帰を果たしたいものです。

ちなみに昨年の結果はここです。

で、今年は以下をベスト5に選びました。

1位 オペラ《皇帝ティトの仁慈》クルレンツィス指揮ムジカエテルナ セラーズ演出@ザルツブルク・フェルゼンライトシューレ 2017.7.30

2位 オペラ《ムチェンスク郡のマクベス夫人》ヤンソンス指揮ウィーン・フィル クリーゲンブルク演出@ザルツブルク祝祭大劇場 2017.8.5

3位 耐えきれない優しさ「アッシジの聖フランチェスコ」:カンブルラン&読売日本交響楽団@サントリーホール 2017.11.26

4位 ジョナサン・ノットが力量を示した《ドン・ジョヴァンニ》@ミューザ川崎シンフォニーホール 2017.12.10

5位 実に偉大!!バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」・・・読売日本交響楽団@東京芸術劇場 2017.04.15


ザルツブルク音楽祭では異次元の音楽体験ができます。昨年の《コジ・ファン・トゥッテ》も素晴らしかったですが、クルレンツィス指揮ムジカエテルナはsaraiの価値観をひっくり返すようなものでした。文句なしの今年のトップでと言いたいところですが、どっこい、直後に見たヤンソンス指揮ウィーン・フィルのショスタコーヴィチも素晴らしかったんです。

これまた、ザルツブルク音楽祭で聴いたヤンソンス指揮ウィーン・フィルのショスタコーヴィチです。暴力的とも思える音楽で、このオペラの真髄を聴かせてくれました。正直、クルレンツィス指揮ムジカエテルナのモーツァルトとどっちを1位にしようか迷うほどの出来でした。これを聴いて、配偶者と「また、ウィーンでオペラを見たいね」って話になりました。ウィーン・フィルがピットにはいるオペラはいいね!

初めて聴いたメシアンの「アッシジの聖フランチェスコ」は長過ぎるのが問題ではありますが、メシアン渾身の傑作でした。コンサート形式とは言え、国内で初の全曲演奏は歴史に残ります。すべてはカンブルランの思いと力によるものです。saraiの人生観を揺さぶる音楽でした。

昨年に引き続き、ジョナサン・ノット&東響がモーツァルトのオペラをコンサート形式で見事に演奏してくれました。昨年の《コジ・ファン・トゥッテ》に準ずる出来でした。来年の《フィガロの結婚》はついにミア・パーションが伯爵夫人で登場するようで今から楽しみです。

これまた、カンブルラン&読響のコンサート形式オペラのバルトーク。素晴らしい出来でした。在京オーケストラのコンサート形式オペラが流行っていますが、これはいいですね。どんどん、やってほしいと思います。

次回はオーケストラ・声楽曲編です。


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saraiの音楽総決算2017:ピアノ・室内楽編

今年もブログの締めくくりはsarai恒例の音楽総決算です。

今年は国内・海外合わせて、厳選したコンサート・オペラに計70回足を運びました(昨年の計80回に比べると10回減りました。意図的に絞ったんです。)。それらについてはすべて当ブログで報告済みですが、今回から4回のシリーズでそれらからベストの音楽会を選んで、今年の音楽の総決算としたいと思います。
今回はピアノ・リサイタルと室内楽編です。今年もこのジャンルをたくさん聴きました。計31回です(昨年は計36回)。内、ピアノ・リサイタルが15回、弦楽四重奏曲コンサートが13回、その他の室内楽コンサートが3回です。とりわけ素晴らしいピアノ・リサイタルに恵まれました。で、今年も、ピアノ・リサイタルと室内楽コンサートに分けて、ランキングしてみます。
ちなみに昨年の結果はここです。

まず、ピアノ・リサイタル部門です。ベスト10は次の通りです。ともかく、田部京子、アンジェラ・ヒューイット、アンドラーシュ・シフの3人が圧倒的に素晴らしく、感動の涙・涙・涙・・・でした。卑怯ですが、3人のリサイタルはいずれも1位に並べさせてください。とても比べて差をつけられるようなレベルの演奏ではありませんでした。

1位 シューベルトの命日に輝く天才ピアニスト田部京子@浜離宮朝日ホール 2017.11.19
1位 涙なしに聴けない魂の演奏 The Bach Odyssey Ⅳ アンジェラ・ヒューイット@紀尾井ホール 2017.9.14
1位 未曽有の高み・・・アンドラーシュ・シフ・ピアノ・リサイタル_最終版@東京オペラシティ コンサートホール 2017.3.23
4位 歴史を刻む田部京子のシューベルト・プラス 第2回@浜離宮朝日ホール 2017.7.14
5位 感動と楽しさ・・・アンドラーシュ・シフ・ピアノ・リサイタル@東京オペラシティ コンサートホール 2017.3.21
6位 奇跡のような名演!!The Bach Odyssey Ⅱ アンジェラ・ヒューイット@紀尾井ホール 2017.5.30
7位 グリゴリー・ソコロフ・ピアノ・リサイタル@ザルツブルク祝祭大劇場 2017.8.1
8位 アンドラーシュ・シフ・ピアノ・リサイタル3@ザルツブルク・モーツァルティウム大ホール 2017.8.2
9位 さすがのパルティータ The Bach Odyssey Ⅲ アンジェラ・ヒューイット@紀尾井ホール 2017.9.13
10位 アブデル・ラーマン・エル=バシャ ピアノ・リサイタル@横浜上大岡ひまわりの郷ホール 2017.5.28

田部京子の弾いたシューベルトの詩情の深さには参りました。その上、ベートーヴェンの後期ソナタ、ブラームスの後期ピアノ曲、モーツァルトまですべてが素晴らしいという本格派。まさに日本に誕生した天才ピアニストです。彼女が来年も続けるシューベルト・プラスのシリーズは聴き逃せません。(1位と4位)

アンジェラ・ヒューイットの弾いたバッハの素晴らしさは想像以上のものでした。とりわけ、パルティータの第6番の凄さは感動以外の何ものでもありませんでした。The Bach Odysseyと題してのバッハ鍵盤独奏曲の全曲演奏シリーズが聴ける喜びはいかほどのものでしょう。来年のゴールドベルク変奏曲は記念碑的な演奏になるのは間違いありません。(1位と6位と9位)

アンドラーシュ・シフの弾くシューベルトとベートーヴェンの後期ソナタを聴けたのはsaraiにとって、忘れ得ぬ思い出になりました。感動し尽して、頭が真っ白になりました。加えて、ザルツブルク音楽祭でバッハ、バルトーク、ヤナーチェク、シューマンの連続演奏を聴けたのも幸せでした。(1位と5位と8位)

グリゴリー・ソコロフはsaraiにとって幻のピアニストでしたが、ザルツブルク音楽祭でようやく実演に接することができました。噂にたがわぬカリスマ的なピアニストでした。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番のアリエッタの美しさに魅了されました。

アブデル・ラーマン・エル=バシャのこだわりのプログラム、グラナドスの組曲「ゴィエスカス」全曲の演奏は素晴らしかったです。特に第4曲、第5曲の素晴らしさはかのアリシャ・デ・ラローチャの演奏をも上回る出来でした。


次は室内楽部門です。ロータス・カルテットのベートーヴェン・ツィクルスの素晴らしかったこと。今年はそれに尽きます。ベスト5は次のとおりです。

1位 圧倒的な感動! ロータス・カルテット:ベートーヴェン・サイクル第5回@鶴見サルビアホール 2017.6.14
2位 Es muss sein! ロータス・カルテット:ベートーヴェン・サイクル第4回@鶴見サルビアホール 2017.6.13
3位 シューベルト&ショスタコーヴィチ ツィクルス III:ハーゲン・クァルテット@トッパンホール 2017.7.5
4位 瑞々しくてロマンに満ちたシューベルト:ハーゲン・クァルテット@トッパンホール 2017.7.3
5位 究極の美音:オーギュスタン・デュメイ ヴァイオリン・リサイタル@紀尾井ホール 2017.9.26

ロータス・カルテットのベートーヴェンは全曲が素晴らしかったのですが、とりわけ、後期の精神性の深い演奏にはただただ感動するだけでした。日本人女性4人がどうして、西欧音楽の中でも特に精神性が高い作品をこうも見事に演奏できるのか・・・saraiはある意味、カルチャーショックを受けました。ピアノの田部京子も同様ですが、日本人演奏家が天才的とも思える演奏をできる事実に直面して、戸惑っています。

ハーゲン・カルテットは相変わらず、素晴らしい音楽を聴かせてくれます。シューベルトの第13番と第15番はベストとも思える演奏でした。

オーギュスタン・デュメイのヴァイオリンのあまりにも美しい音色に驚愕しました。音楽には色んな要素がありますが、音の美しさだけでこんなに魅了されるものなんですね。


一応、この部門全体を通した最上位を決めておきましょう。それは以下です。

 ロータス・カルテットのベートーヴェン・ツィクルス@鶴見サルビアホール

ともかく、今年はsaraiにとって、ピアノの年と言ってもいいような年でしたが、それをはねのけるようなロータス・カルテットの圧倒的なベートーヴェン・ツィクルスでした。来年も来日して、ベートーヴェンの第15番と第14番を聴かせてくれるそうです。感動再びの予感です。

次回はオペラ編です。


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ベートーヴェンの交響曲第9番で今年のコンサート納め:読売日本交響楽団@みなとみらいホール 2017.12.24

年末恒例のベートーヴェンの交響曲第9番を聴く習慣はありませんが、読売日本交響楽団のみなとみらいホリデー名曲シリーズの会員なので、自動的にそのプログラムに組まれていた第9を聴くことになってしまいました。日本のオーケストラは毎年、年末にこの曲を何度も演奏するせいか、今日の読売日本交響楽団も練り上げられた演奏を聴かせてくれました。第1楽章の美しいアンサンブルは驚くほどです。第2楽章にはいってもその美しいアンサンブルは続きます。第3楽章の始まる前に独唱者の入場もあり、一息つきます。saraiの大好きな第3楽章がどんな演奏になるのか、固唾を飲んで待ちます。なかなか美しい演奏で満足します。とりわけ、第2ヴァイオリンとヴィオラが健闘しています。弦楽器パートに比べると、管楽器の響きがもう一つなのが残念です。第4楽章はその弦楽器群と合唱団が素晴らしい出来です。なかでも合唱団の歌唱はオーケストラの後ろから、凄まじい響きが突き抜けてきて、最高の出来栄えに思えます。新国立劇場合唱団がこんなに素晴らしいんだったら、新国立のオペラ、特に合唱が活躍するオペラを聴きにいってもいいかなと思うほどです。ここでも管楽器群のアンサンブルの乱れが気になります。独唱はまあまあというところですが、海外から招聘したソプラノとテノールにはもっと頑張ってもらいたかったところです。これくらいの声量ならば、わざわざ海外から呼ぶ価値があるんでしょうか。

ちょっと苦言も呈しましたが、全体的な出来栄えはなかなかよかったんです。合唱団の素晴らしさと読響の弦楽パートの素晴らしさに尽きます。これで今年のコンサートは実質的には聴き納めです。後は大晦日のジルヴェスターコンサートを残すのみです。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:サッシャ・ゲッツェル(当初予定のエマニュエル・クリヴィヌは、健康上の理由によりキャンセル)
  ソプラノ=インガー・ダム=イェンセン 
  メゾ・ソプラノ=清水 華澄
  テノール=ドミニク・ヴォルティヒ 
  バス=妻屋 秀和
  合唱=新国立劇場合唱団(合唱指揮=三澤 洋史)
  管弦楽:読売日本交響楽団 長原 幸太(コンサートマスター)

  ベートーヴェン:交響曲 第9番 ニ短調 Op.125「合唱付き」


今更、予習でもありませんが、以下のCD1枚だけを聴きました。期待したほどの出来ではありません。ソプラノのバーバラ・ボニーだけはいいです。

 2002年 サイモン・ラトル指揮ウィーン・フィル、バーミンガム市交響合唱団
     バーバラ・ボニー、ビルギット・レンメルト、カート・ストレイト、トマス・ハンプソン


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クリスマスにはメサイアを・・・バッハ・コレギウム・ジャパン@サントリーホール 2017.12.23

サントリーホールではクリスマスシーズンにヘンデルのメサイアの公演が恒例になっているそうで、今回が17回目だそうです。鈴木雅明率いるバッハ・コレギウム・ジャパンがあればこその偉業とも言えます。saraiは今年、初めて聴きます。そして、聴いてみてよかった。何というか、清々しく感じました。なお、これが今年のサントリーホール詣での最後になります。今年もサントリーホールでずい分聴かせてもらいました。

ヘンデルのメサイアと言えば、最近、シュテファン・ツヴァイクの《人類の星の時間》の中の1章「ゲオルク・フリードリッヒ・ヘンデルの復活」で読んだばかりです。脳溢血の後遺症から立ち直った53歳のヘンデルは音楽的創造力が枯渇していました。詩人ジンネンス(ジェネンズ)から送られてきた新しい詩が劇的にヘンデルの創造力を復活させます。24日間、不眠不休で書き続けて完成させた作品がメサイアです。書き上げた途端、ヘンデルは17時間、爆睡したそうです。そして、爆睡から目覚めたヘンデルは物凄い食欲で食べまくり、飲みまくったそうです。ヘンデルはこのメサイアを作曲できたのは神の啓示だと信じて、このヘンデルを復活させた作品からの都度の収入の500ポンドを施療病院に寄付したそうです。このメサイアはそういう特別な作品です。ヘンデルの最高傑作、記念碑的な作品です。

ヘンデルの特徴であるメロディアスな美しさ、骨組みのがっちりした力強さはもちろんですが、天上の音楽のような無私の精神性が貫かれていることが感じられる稀有な作品を鈴木雅明率いるバッハ・コレギウム・ジャパンの合唱と管弦楽、独唱陣が清冽な演奏で見事に演じ切ってくれました。高いレベルの安定性を持った演奏であったことが素晴らしいです。とりわけ、ヴァイオリンを中心とした弦楽パートの美しい響きが特筆されます。バッハ・コレギウム・ジャパンが演奏するバッハ作品の素晴らしさはいつも体感させられますが、ヘンデルでも同様ですね。そうそう、オーボエの三宮正満の音色も素晴らしかったです。合唱のソプラノパートと同じメロディも重ねて演奏したときのオーボエの響きに感服しました。独唱では、テノールの櫻田亮の抜け切った高音の響きが傑出していました。ソプラノの森麻季も相変わらずピュアーな歌声を聴かせてくれましたが、彼女ならもっと歌えたのではないかという感は残りました。CTのテリー・ウェイの歌唱も及第点ではありますが、感銘を受けるところまではいきません。

演奏的には冒頭のシンフォニーからテノールのレシタティーボ、アリアのあたり、ハレルヤ・コーラス、アーメン・コーラスはやはり、感銘を受けました。大変、聴き応えのあるメサイアをクリスマスシーズンに聴けて、満足しました。 

今日のプログラムは以下です。

  指揮:鈴木雅明
  合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン
  ソプラノ:森麻季
  アルト(カウンターテナー):テリー・ウェイ
  テノール:櫻田亮
  バス:ドミニク・ヴェルナー

  ヘンデル:オラトリオ『メサイア』 HWV 56

   1部と2部の間に《休憩》

   《アンコール》
    トラディショナル(鈴木優人編):いけるものすべて

なお、予習したCDは以下です。まことに美しい演奏で感服しました。

 ジョン・エリオット・ガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、モンテヴェルディ合唱団 1982年11月録音




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       バッハ・コレギウム・ジャパン,  

フルシャ、有終の美!!東京都交響楽団@サントリーホール 2017.12.16

首席客演指揮者として、今日がフルシャの最終公演。最後の最後にブラームスで圧巻の演奏を聴かせてくれました。つい5日前聴いたブラームスの交響曲第2番では不満が大きかったので、今日のブラームスの交響曲第1番も期待できないだろうと辛口の感想を書いたばかりですが、恥ずかしながら、前言撤回です。と言うか、今日は予想が覆される素晴らしい演奏で嬉しい誤算です。今日のブラームスは何も言うことがありません。まさにブラームスそのものの響き、表現で、ブラームスのロマンあふれる世界が横溢していました。先日、ガッティ率いるロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏で素晴らしいブラームスの交響曲第1番を聴いたばかりですが、今日のフルシャ&東京都交響楽団は甲乙つけがたしの演奏です。ガッティ&ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団は迫力ある低弦を中心に分厚い響きのブラームス、フルシャ&東京都交響楽団は煌くような高弦を中心に美しい響きのブラームス、どちらも魅力たっぷりでした。
今日のブラームスの交響曲第1番は冒頭のトゥッティから、その響きの豊かさで魅了されます。そのまま惹き付けられて、緊張感の高い演奏に集中します。どこがどうと言うわけではありませんが、ブラームスの作り上げたロマンの世界が見事に表現されています。随分、リハーサルを重ねたのではないかという成熟度の高さです。ロマンの香り高い演奏は第2楽章、第3楽章と続いていきます。saraiの集中力はどんどん高まっていきます。そして、第4楽章の後半に至って、それは頂点に達します。何という素晴らしさでしょう。コーダでは感動してしまいました。これでフルシャと都響の関係を閉じてしまうのは惜し過ぎる!! なぜ、インバルの後任の首席指揮者にフルシャを据えなかったんでしょう。悔みの言葉ばかりが出てしまうほど、素晴らしいブラームスでした。

前半のマルティヌーの交響曲第1番は第1楽章はマルティヌーらしい響きにはもう一つに思えましたが、第2楽章以降は素晴らしく、とりわけ、第4楽章の弦の切れのよい響きに魅了されました。5日前の第2番の演奏に比べて、まったく素晴らしい出来栄えでした。それにしても、都響でマルティヌーの全交響曲を演奏してくれたのは快挙です。ドヴォルザークの全交響曲にも是非、取り組んでほしかったですね。来シーズン、彼の出番がないのは、やはり、バンベルク交響楽団のポストに就いたからでしょうか。残念で寂しいですね。saraiが都響の定期会員を止めた一因でもあります。来年のフルシャ率いるバンベルク交響楽団の来日公演のチケットはしっかりと購入しました。

2010年以来、7年間にわたる首席客演指揮者の労、ごくろうさまでした。ほぼ、主要な公演は聴かせてもらいました。マルティヌーの交響曲と今日のブラームスの交響曲第1番は忘れ得ぬコンサートになりそうです。

今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:ヤクブ・フルシャ
  管弦楽:東京都交響楽団

  マルティヌー:交響曲第1番 H.289

   《休憩》

  ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 Op.68

最後に予習について触れておきましょう。
まず、マルティヌーの交響曲第1番は以下のCDを聴きました。

 ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル
 ネーメ・ヤルヴィ指揮バンベルク交響楽団

ヴァーツラフ・ノイマンとチェコ・フィルが作り上げたマルティヌーの響きは圧倒的でした。ようやく、マルティヌーの何たるかが分かったような気がします。混乱したような響きをバランスよく演奏することで有り得ないような魅惑の音響世界が生まれてくる・・・それがマルティヌーの素晴らしさだと気が付きました。ノイマンの天才的な指揮能力に驚嘆しました。それに比べると、ネーメ・ヤルヴィはもう一つかも。

最後にブラームスの交響曲第1番ですが、今年聴くのは3回目。今更、予習するほどのことはありませんが、以下のCDを聴きました。

 ジョン・バルビローリ指揮ウィーン・フィル 1966~67年

悠々として決して焦ることのない大人の演奏です。saraiは好きです。吉田秀和氏はどうして、これがダメなんでしょう。もう一度、生き返って、聴きなおしてもらいたいものです。ブラームスは自然に演奏すればいいという代表のような演奏です。変にこねくり回すよりもよっぽどいいと思います。

で、まだ、余裕があったので、またまた、フルトヴェングラーも聴いてみました。前回と同じ演奏です。

 フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル 1952年2月10日 ベルリン、ティタニア・パラストでのライヴ録音

前回はMEMBRANの107枚のCDボックスからの1枚、それ以前はDGのORIGINAL MASTERSシリーズからの1枚を聴きました。MEMBRANのリマスターは素晴らしかったんですが、今回はフランス・フルトヴェングラー協会とドイツ・フルトヴェングラー協会の共同制作盤です。これまた素晴らしいリマスターです。またまた、印象が変わりました。温室的には最高です。音楽的には、MEMBRANといい勝負です。
最後にフルトヴェングラーの伝説の録音を聴きました。

 フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル 1945年1月23日 ベルリン、ライヴ、但し第4楽章のみ

第2次世界大戦の末期、空襲の続くベルリンで行われたフルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルの最後のコンサートの記録です。演奏者も聴衆も命がけです。そこまでして音楽を聴くのかという凄絶なコンサートの記録であり、音楽の究極とも言えるものです。録音技師がこれを後世に記録として残そうとした執念も垣間見えます。音楽ファンは一度は耳にしておかないといけませんね。この演奏についての感想はsaraiはノーコメントです。いつかは感想を語れることもあるかもしれませんが・・・。



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気宇壮大なロマンのメンデルスゾーン:クァルテット・アロド@鶴見サルビアホール 2017.12.13

今日で今年の室内楽のコンサートもおしまい。それにふさわしい素晴らしい演奏でした。今日演奏したクァルテット・アロドは若手のグループでもあり、初聴きなのであまり期待もせずに出かけましたが、特に後半のメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲 第4番の溌剌として、壮大なロマンに満ちた演奏に大きな感銘を受けました。変な言い方になりますが、恐いもの知らずのような、思いっ切りのよい演奏が素晴らしかったんです。メンデルスゾーンの若さにあふれたロマンティックな音楽とクァルテット・アロドのチャレンジャブルな演奏が見事にマッチして、素晴らしい結果になりました。とりわけ、両端の第1楽章と第4楽章のメロディアスな音楽と激しい動きのアクティヴな音楽が交錯する様は感動的なものでした。第3楽章の抒情的な音楽も素晴らしかったですけどね。

実は前半のプログラムのモーツァルトの弦楽四重奏曲 第15番の第1楽章を聴き終ったところでは、がっかりしていたんです。響きも音楽の流れも少しもよくはなくて、今日はひどいコンサートになりそうだと思っていたんです。それが緩徐楽章の第2楽章にはいると、響きがよくなり、あれっという感じ。第1楽章は軽快さが足りなかったのかなと首を捻っていたら、第3楽章以降は響きも音楽の動きも格段によくなります。どうやら、この聴衆100人という世界でも稀有な室内楽専用ホールの空気をつかめていなかったのが、第2楽章からは徐々に空気感をつかめ出したようです。まだ、響かせ過ぎの感もありますが、若さと勢いという感じでどんどん飛ばしていきます。それはそれでいいでしょう。それが素晴らしい結果になったのが、ベンジャミン・アタイールの《弦楽四重奏のための「アスル(午後の礼拝)」》です。現代音楽にしては古典的とも思えるようなトナーリティの感じられる作品ですが、ともかく、ハイテンションな躍動に満ちた熱い音楽です。バルトークの攻撃的な面をさらに先鋭化したようなアクティヴさに圧倒されます。こういう音楽を聴くと気持ちが前向きになりますね。これに変拍子でも加えれば、室内楽のストラヴィンスキーみたいなものです。もちろん、激しいパートばかりの音楽ではありませんが、初聴きなので、熱いパートに耳が向いてしまいます。大変な力演に高揚感を抱いてしまいました。

そうそう、アンコール曲はメンデルスゾーンのカプリッチョだったんですが、チェロのサミー・ラシドがたどたどしい日本語!で曲名の紹介をしてくれました。これは大変、素晴らしい演奏でした。今日、最高の演奏だったように思えます。これが今年聴く最後の室内楽でしたが、大変満足しました。

今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:クァルテット・アロド
    ジョルダン・ヴィクトリア vn   アレクサンドル・ヴ vn
    コレンティン・アパレイリー va   サミー・ラシド vc

   モーツァルト: 弦楽四重奏曲 第15番 K.421
   B.アタイール: 弦楽四重奏のための「アスル(午後の礼拝)」

   《休憩》

  メンデルスゾーン: 弦楽四重奏曲 第4番 Op.44-2

   《アンコール》
    メンデルスゾーン:「弦楽四重奏のための4つの小品」より、第3曲 カプリッチョ ホ短調 Op.81-3


最後に予習について触れておきます。
1曲目のモーツァルトの弦楽四重奏曲 第15番は先日、聴いたばかりで、そのときに予習したのは以下の3枚です。

 ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団 1952年録音
 アマデウス弦楽四重奏団(全集盤) 1966年録音
 エマーソン・カルテット 1991年録音

今日はそのときに聴けなかった以下の2枚を聴きました。

 ハーゲン・カルテット(全集盤) 1995年録音
 ジュリアード弦楽四重奏団 1962年録音

ハーゲン・カルテットは一昨年、来日演奏でモーツァルト・ツィクルスを聴かせてくれましたが、CDはそのときほどの素晴らしさではありません。再録音が望まれます。一方、ジュリアード弦楽四重奏団は実に端正な演奏で、これぞモーツァルトという感じです。ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団の名演にも迫る演奏です。これはハイドン・セットをすべて聴かないといけませんね。

2曲目のアタイールは予習すべきCDを持っていません。

3曲目のメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲 第4番は以下を聴きました。

 エマーソン・カルテット(全集盤)

エマーソン・カルテットのCDボックス(51CD+ボーナスCD)の中に含まれています。他の演奏と同様にこのメンデルスゾーンも素晴らしく充実した演奏です。

これで今年もコンサートは3回を残すのみとなりました。今年もよく聴いた!!



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聴き応え十分のマーラー:藤村実穂子、マイスター&読売日本交響楽団@サントリーホール 2017.12.12

素晴らしいマーラーの交響曲第3番の第6楽章を聴き終え、心に沸き起こったのは・・・マーラーはええなあ!! なぜか、関西弁になります(笑い)。決して、パーフェクトなマーラー演奏ではありませんでしたが、第6楽章のしみじみとした表現には感銘を受けました。アンサンブルの仕上げはもう一つでも演奏者の心は集中していて、最上のマーラーになっていました。弦楽セクションはさすがに実力があるので、第6楽章の名演奏につながっていました。それ以外については正直、マーラー演奏のためのアンサンブルをもっと磨いてほしいところです。
ところで、メゾソプラノの藤村実穂子は別次元の素晴らしさでした。彼女は日本でよりも、海外で聴くことのほうが多くて、いつも世界の一流の音楽家の中で輝いているのを見ていましたから、まあ、当然と言えば、当然ですね。それにしてもとても美しい声の響きでした。いわゆる美声です。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:コルネリウス・マイスター
  メゾ・ソプラノ:藤村 実穂子
  女声合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮=三澤 洋史)
  児童合唱:TOKYO FM少年合唱団、フレーベル少年合唱団
  管弦楽:読売日本交響楽団 長原 幸太(コンサートマスター)

  マーラー:交響曲 第3番 ニ短調

このところ、コンサートが続くので、なかなか、予習の時間が取れず、慌てて、昨日と今日、以下のCDを聴きました。

 1967年 ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団・合唱団、テルツ少年合唱団、マージョリー・トーマス ミュンヘン、ヘルクレスザールでのライヴ録音
 1969年 ジョン・バルビローリ指揮ベルリン・フィル、聖ヘトヴィヒ大聖堂聖歌隊、ルクレティア・ウェスト ベルリン・フィルハーモニーでのライヴ録音

実は昨日、クーベリックのCDを聴き、第6楽章以外は不満だったので、急遽、今日、無理をして、バルビローリのCDを聴いたんです。そのバルビローリの演奏が凄かった! バルビローリのマーラーと言えば、同じベルリン・フィルとの第9番が超有名ですが、あれは録音もいいし、演奏も最高です。ですが、それって、たまたま、名演奏だったのかなって今まで思っていました。この第3番を聴くまでは・・・。この第3番は全然、録音は良くなくて、本当にステレオなのって思いますが、演奏が個性的で素晴らしいです。暗い情念を湛えて、極力、派手な演出を避けた、厳しい精神性の音楽です。ともすれば退屈になりがちの長大な第1楽章に深く魅了されます。その勢いのまま、第2楽章、第3楽章と進み、声楽の入る第4楽章、第5楽章は雰囲気が変わりますが、第6楽章の途轍もない美しさは第9番のアダージョと同様か、それ以上です。CDを聴いていて、深く感動しました。バルビローリを甘くみていました。ほかのマーラーも聴かないといけませんね。とりあえず、ハレ管弦楽団との第3番も聴いてみましょう。

今回は実演で聴いた演奏以上にバルビローリの名演奏が聴けたことのほうが重要でした。


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フルシャのマルティヌーは最終章へ 東京都交響楽団@東京文化会館 2017.12.11


意外に今日のプログラムで一番素晴らしかった演奏は最初のドヴォルザークの序曲《オセロ》でした。フルシャの指揮がビシビシ決まっていました。冒頭の何とも言えない静寂感から魅了されます。題材はシェークスピアですが、音楽はボヘミアの雰囲気がたっぷりです。静寂感をベースに時として、熱い高揚もあります。初めて聴く曲ですが、ドヴォルザークの魅力満載です。それをフルシャが見事に描き切りました。

のっけから素晴らしい演奏で、続くマルティヌーの交響曲第2番への期待が膨らみます。フルシャが首席客演指揮者に就任以来、マルティヌーの全交響曲の演奏に取り組んできましたが、今日演奏する第2番と週末に演奏する第1番でいよいよ完結です。saraiは最初に演奏した第3番だけを聴き逃しました。そのときはフルシャを聴いたことがなくて、これほどの指揮者だとは思っていなかったんです。まあ、その第3番以外は全部聴けそうなので、満足ではあります。
今日の第2番の演奏ですが、まあ、フルシャならば、これくらいは演奏するだろうという感じの安定した演奏でした。凄い!というレベルの演奏ではありませんでしたが、第2番が持つ新古典的な簡潔さを十分に表現した切れ味のよい演奏でした。特に弦のパートの細かな動きの表現がうまく生かされていたのが印象的でした。弦のレベルが高い都響の特性を十分に把握したフルシャの指揮は冴えていました。

後半のブラームスの交響曲第2番は悪くはありませんでしたが、フルシャにしては期待外れの感でした。細かいことを言えば、きりがありませんが、要はブラームスのロマンの香り、響きを十分に表現できていなかったということです。フルシャもブラームスに関しては課題があるようです。週末にはブラームスの交響曲第1番を聴きますが、今日の感じではあまり期待できないような気がします。今後、バンベルク交響楽団の首席指揮者として、ドイツ音楽も腕を磨いてほしいですね。

今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:ヤクブ・フルシャ
  管弦楽:東京都交響楽団

  ドヴォルザーク:序曲《オセロ》 Op.93 B.174
  マルティヌー:交響曲第2番 H.295

   《休憩》

  ブラームス:交響曲第2番 ニ長調Op.73

予習について触れておきましょう。
まず、ドヴォルザークの序曲《オセロ》は以下のCDを聴きました。

 イシュトヴァン・ケルテス指揮ロンドン交響楽団

さすがにドヴォルザークを得意にするケルテス、ツボにはまった演奏です。

次にマルティヌーの交響曲第2番は以下のCDを聴きました。

 ヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル
 ネーメ・ヤルヴィ指揮バンベルク交響楽団

いずれも交響曲全集盤からの演奏でマルティヌーを代表する立派な演奏ですが、意外なことにチェコ人のノイマンよりもネーメ・ヤルヴィの演奏のほうがマルティヌーの真髄に迫る演奏でした。マルティヌーがすべての交響曲をアメリカで作曲したことで、チェコの民族的な要素だけでなく、インターナショナルな要素を併せ持っていることと関係しているのかもしれません。

最後にブラームスの交響曲第2番は今更、予習するほどのことはありませんが、ほぼ、楽しみとして以下ののCDを聴きました。

 フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル 1952年5月7日 ミュンヘン、ドイツ博物館コングレスザールでのライヴ録音
   MEMBRANの107枚のCDから
 ベルナルト・ハイティンク指揮ロンドン交響楽団(全集盤)

ハイティンクはブラームスらしさが横溢した演奏で大いに楽しめました。そもそも、この曲が作曲されたペルチャッハ(ヴェルター湖畔)で聴く予定だった1枚です。悲運にもPCとともにIPODが盗まれたために聴けなかったものを聴き、心の溜飲を収めました。フルトヴェングラーは大いに期待して聴きましたが、演奏・録音ともにブラームスの1番ほどの出来に思えず、ちょっと落胆。



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ジョナサン・ノットが力量を示した《ドン・ジョヴァンニ》@ミューザ川崎シンフォニーホール 2017.12.10

モーツァルトのオペラのなかで今一つ、理解が難しいのがこの《ドン・ジョヴァンニ》です。今回の公演とそれに先立つ予習でようやく、分かりつつあるような感覚になってきました。ドン・ジョヴァンニの地獄落ちのシーンのデモーニッシュな音楽とモーツァルトらしい平明さを湛えた音楽のギャップをどう理解するかが難しさの根幹のような気がします。そのあたりがようやくすんなりと自然に聴けるようになってきました。また、フィガロでは赦しのテーマが根幹を成していますが、一方、この《ドン・ジョヴァンニ》では赦されないストーリーにはなってはいますが、ドンナ・エルヴィーラが意外に重要な役どころとして、赦そうという努力はしていることに気が付きました。赦そうとするが赦されない、その先にデモーニッシュな音楽展開があるというのが、フィガロから派生した、あるいは発展したオペラ、《ドン・ジョヴァンニ》ではないかというのが現在のsaraiの理解です。キーとなる役がドンナ・エルヴィーラであり、フィガロにおけるコンテッサ(伯爵夫人)に対応します。フィガロでは赦された伯爵でしたが、ドン・ジョヴァンニは赦されない。モーツァルトはフィガロでは素晴らしい赦しの音楽で感動を呼び起こしますが、このドン・ジョヴァンニでは、厳しい音楽でドン・ジョヴァンニを罰します。そこがデモーニッシュとなり、感動ではなく、深い奈落の底の厳しさで我々、聴衆(人間)を律します。人間の罪を赦すか、赦さないかで、こうも音楽の質が変わるのか・・・そこにモーツァルトの天才を見ました。saraiは赦しの音楽が好きですが、甘いばかりがよい訳ではないことも理解できます。モーツァルト自身もそのあたりで苦しみ抜いた上での音楽なのかもしれません。そして、《フィガロの結婚》と《ドン・ジョヴァンニ》をアウフヘーベンした先に登場するのがレクイエムというのは余りにも浅い理解でしょうか。

ということを今日の《ドン・ジョヴァンニ》を聴きながら、つらつら考えてしまいました。その発端は突然、代役で登場したドンナ・エルヴィーラ役のミヒャエラ・ゼーリンガーの歌唱が第1幕と第2幕でがらっと変わったからです。第1幕では、厳しい歌唱でドン・ジョヴァンニを責めつけます。第2楽章に入ると、歌唱がソフトで柔らかになり、響きが美しくなります。ドン・ジョヴァンニを慰撫するみたいな感じです。歌手本人の意図か、指揮者のジョナサン・ノットの指示かは分かりませんが、saraiとしては、ジョナサン・ノットの解釈であったということに1票です。ただ、それだけのことでこの《ドン・ジョヴァンニ》の構図が大きく変わります。まあ、いずれにせよ、昨年のコジ・ファン・トゥッテ同様、ジョナサン・ノットの指揮は見事でした。特にモーツァルトの平明な音楽をいきいきと透明に表現したのはさすがでした。もっともクルレンツィスのような超天才の表現には誰も及びませんが、それがすべてではないでしょうから、一般的には、とっても素晴らしいモーツァルトでした。

歌手の中では、これも代役として登場したドン・ジョヴァンニ役のマーク・ストーンの歌唱の素晴らしかったこと。とりわけ、甘い歌声が役にぴったりでした。ドン・ジョヴァンニのセレナードではうっとりと聴き入りました。そして、ほとんど感動の思いに至りました。また、ドンナ・アンナ役のローラ・エイキンの素晴らしい歌声にも感銘を覚えました。予習で聴いたエリーザベト・グリュンマーに優るとも劣らない感じと言ったら言い過ぎでしょうか。美しい声の響きが脳裏から離れません。近年では、ドンナ・アンナ役ではアンナ・ネトレプコが圧倒的に美しい歌唱で魅了してくれましたが、ローラ・エイキンはまた違ったタイプでスタンダードな歌唱です。そうそう、ザルツブルク音楽祭でもドン・オッターヴィオ役を歌っているアンドリュー・ステープルズはさすがの美声でした。これも文句なし。ミヒャエル・シャーデに準じるような歌手ですね。バロックものを歌わせたい感じです。レポレッロ役のシェンヤンも深い響きの歌唱を聴かせてくれました。

キャストは以下です。

  指揮&ハンマーフリューゲル:ジョナサン・ノット
  演出監修:原 純

  ドン・ジョヴァンニ:マーク・ストーン
  騎士長:リアン・リ
  レポレッロ:シェンヤン
  ドンナ・アンナ:ローラ・エイキン
  ドン・オッターヴィオ:アンドリュー・ステープルズ
  ドンナ・エルヴィーラ:ミヒャエラ・ゼーリンガー
  マゼット:クレシミル・ストラジャナッツ
  ツェルリーナ:カロリーナ・ウルリヒ
  合唱:新国立劇場合唱団
  管弦楽:東京交響楽団

予習したのは以下の2つです。

 2014年ザルツブルク音楽祭 NHK放映
  2014年8月 モーツァルト劇場(ザルツブルク)

 <歌手>
 ドン・ジョヴァンニ:イルデブランド・ダルカンジェロ
 騎士長:トマシュ・コニェチュニ
 ドンナ・アンナ:レネケ・ルイテン
 ドン・オッターヴィオ:アンドルー・ステープルズ
 ドンナ・エルヴィーラ:アネット・フリッチュ
 レポレルロ:ルーカ・ピサローニ
 ツェルリーナ:ヴァレンティナ・ナフォルニツァ
 マゼット:アレッシオ・アルドゥイーニ

 <合 唱> ウィーン・フィルハーモニア合唱団
 <管弦楽> ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 <指 揮> クリストフ・エッシェンバッハ
 <演 出> スヴェン・エリック・ベヒトルフ


 1954年ザルツブルク音楽祭
  ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィル
  1954年8月6日、於フェルゼンライトシューレ

 ドン・ジョヴァンニ:チェーザレ・シエピ
 騎士長:デジュー・エルンスター
 ドンナ・アンナ:エリーザベト・グリュンマー
 ドン・オッターヴィオ:アントン・デルモータ
 ドンナ・エルヴィーラ:エリーザベト・シュヴァルツコプフ
 レポレルロ:オットー・エーデルマン
 ツェルリーナ:エルナ・ベルガー
 マゼット:ヴァルター・ベリー

いずれもザルツブルク音楽祭の記録ですが、最新のハイヴィジョン映像と古いモノラルのCDという違いがあります。ちょうど60年を隔てていますね。何と言っても、古い録音のほうはフルトヴェングラーの指揮で素晴らしいです。また、当時を代表する素晴らしい歌手たちの歌唱も見事です。とりわけ、チェーザレ・シエピは凄いですね。グリュンマーとシュヴァルツコプフと言う2大ソプラノの競演も聴きものです。エーデルマンは貫禄の歌唱です。でも主役はフルトヴェングラーの指揮したウィーン・フィルの美しくて、深みのある響き。臨場感もあるよい録音です。



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       ジョナサン・ノット,  

クララ・ハスキルの全録音を聴く:モーツァルト編(1)

クララ・ハスキルの全録音を聴くという大企画です。もっとも全録音のCDまたはLPが入手できればの話です。
モーツァルトの作品の録音はほぼ収集できました。ハスキルのディスコグラフィーは以下のCDに付属しています。J.スピケの労作です。

 Clara Haskil - The Unpublished Archives TAHRA TAH389/390
  モーツァルト:ピアノ協奏曲第19番ヘ長調 K.459
   53/01/20、ベルリン フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団
  モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466
   52/12/19、チューリッヒ ハンス・シュミット・イッセルシュテット、ベロミュンスタースタジオ管弦楽団
  等


今回はモーツァルトのピアノ協奏曲第9番から第19番までの全録音について聴いた感想をまとめます。


ピアノ協奏曲第9番変ホ長調『ジュノーム』 K.271

(1)...52/05/23、シュトゥットガルト カール・シューリヒト、シュトゥットガルト放送交響楽団(Hanssler Swr Music)
 第1楽章の冒頭、ハスキルのピアノはあれって言う感じの響きですが、中盤から持ち直し、第2楽章は満足の響き。第3楽章の終盤に至って、素晴らし過ぎる演奏に変貌し、圧巻のフィナーレ。シューリヒト指揮のシュトゥットガルト放送交響楽団は終始、かっちりした演奏で見事。ハスキルのピアノの響き・演奏の充実に伴って、素晴らしいサポートを見せます。
  
(2)...53/06/19、プラド パブロ・カザルス、プラド音楽祭管弦楽団(THARA)
 凄い演奏!! これでピアノの録音がもう少し、よければ最高だったのにと思います。カザルスはモーツァルトの交響曲の名演奏を彷彿とさせる躍動感と陰影に富む素晴らしい演奏です。一方、ハスキルはそのカザルスに触発されたかのごとく、のびやかな演奏。第2楽章の深い表現には魅了されるのみです。圧巻なのは第3楽章。素晴らしいテクニックを駆使して猛烈な速さでパーフェクトに弾き切ります。まさにモーツァルトの音楽の真髄を極める名演。

(3)...54/03/01、ハーグ オイゲン・ヨッフム、バイエルン放送交響楽団(THARA)
 全編、沈潜した気分の哀しみに満ちた演奏。特に第2楽章はまるでノクターンを聴いているような気分になります。ヨッフム指揮のバイエルン放送交響楽団は素晴らしい響きの演奏でハスキルのピアノにぴったりと合わせています。流石です。 

(4)...54/06/11、ケルン オットー・アッカーマン、ケルン放送(WDR)交響楽団(MEDICI MASTERS、MUSIC&ARTS)
 音質が素晴らしいです。ハスキルのピアノの芯のしっかりした響きがよく聴こえます。音楽的には第3楽章の迫力が圧巻。わくわくしてしまいます。第1楽章は少し落ち着きに欠けるのが残念。

(5)...54/10/08-10、ウィーン パウル・ザッハー、ウィーン交響楽団(Philips)
 素晴らしい演奏です。ザッハー指揮ウィーン交響楽団のウィーン風のオーケストラの演奏に乗って、ハスキルのピアノが優雅に響きます。第1楽章、第2楽章はその落ち着いた美しい響きにうっとりとします。ハスキルの最高の演奏です。第3楽章は少し勢いに欠けるのが残念です。セッション録音のためでしょう。それでも中間部の緩徐パートの美しい演奏からフィナーレにかけての演奏は素晴らしいです。音質はピアノの高音が少し割れ気味なのが残念です。

(6)...55/06/08、ローザンヌ イーゴル・マルケヴィッチ、フランス国立管弦楽団(INA)
 暗く沈んだ、しかし、気品に満ちた演奏。音質は普通。ハスキルのピアノを中心にマルケヴィッチはサポートしています。


ピアノ協奏曲第10番変ホ長調 K.365

(1)...54/10/18、チューリッヒ ゲザ・アンダ(第2ピアノ)、パウル・ブルクハルト、ベロミュンスタースタジオ管弦楽団(THARA)
 これは素晴らしい演奏。音質も最高です。ハスキルのピアノの響きが素晴らしく、アンダとの息もぴったり。オーケストラも美しい演奏です。難点を言えば、モーツァルトの曲自体がもうひとつかな。

(2)...56/04/24-26、ロンドン(EMIアビー・ロード・スタジオ) ゲザ・アンダ(第2ピアノ)、アルチェロ・ガリエーラ、フィルハーモニア管弦楽団(EMI)
 録音が最高です。モーツァルトのセレナード的な響きが堪能できます。オーケストラの高域の伸びにも魅了されます。ハスキルのピアノは素晴らしく、また、アンダもハスキルのピアノと区別ができないほどの出来のよさ。ただ、ハスキルらしいピアノの粒立ちの響きは意外に聴き取れません。音楽的にレベルが高い演奏で、ハスキルのピアノうんぬんという聴き方はふさわしくないのかもしれません。この作品がとっても名曲に思えてしまうような素晴らしい演奏と録音です。スタジオ録音のよいところがいっぱい詰まったCDです。ステレオ録音に聴こえますが、そうなのでしょうか?

(3)...57/08/04、ザルツブルク音楽祭(モーツァルテウム) ゲザ・アンダ(第2ピアノ)、ベルンハルト・パウムガルトナー、カメラータ・ザルツブルク(Orfeo)
 ライヴ録音なので、帯域が狭く感じられますが、聴きやすい音質ではあります。さすが、パウムガルトナーと唸らされるようなモーツァルトの音楽に仕上がっています。ハスキルの粒立ちのよい響きが聴けて、ハスキルのファンにはたまらない演奏です。アンダも次第にハスキルに同化して、見事な響きになっていきます。ハスキルの魔力のようなものが感じられます。ハスキルとアンダが共演した3つの演奏、それぞれ、素晴らしいです。総合力では56年のスタジオ録音。ハスキルのピアノが楽しめるのは57年のザルツブルクのライヴ録音というところです。


ピアノ協奏曲第13番ハ長調 K.415

(1)...53/03/30、ベルリン フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団(Memories、URANIA)
 これは間違いなく名演です。フリッチャイの指揮するオーケストラも素晴らしく歌っているし、ハスキルのピアノの流麗なこと、とってもチャーミングです。録音はぎりぎりセーフかな。ときどき、オーケストラがシャーと変な音をたてますが、素晴らしい演奏の前ではあまり気になりません。第3楽章の第2主題?のハスキルの究極の演奏にはうっとりするのみです。両端楽章は圧倒的な美しさです。

(2)...60/05/05-06、ルツェルン ルドルフ・バウムガルトナー、ルツェルン祝祭管弦楽団(DGG)カデンツァ:ニキタ・マガロフ
 あまりの録音のよさにびっくり。それにステレオ録音なので、いつ録音したのか調べると、最晩年で亡くなる半年前。ハスキルのピアノの音がこんなに鮮明に聴けるのは感動ものです。やはり、彼女のピアノは音楽の微妙な陰影まで表現していて、凄いピアニストだったことを再確認。第2楽章も素晴らしく繊細な表現で見事な演奏です。これは録音がよくなければ分からなかったところです。ハスキルのピアノがこんなに明確に聴けて、嬉しいばかりです。何て素晴らしい演奏なんでしょう。バウムガルトナー指揮のルツェルン祝祭管弦楽団も美しい響きで、最高のモーツァルトの音楽がここにあります。同じCDに入っているモーツァルトのピアノ・ソナタ第2番K.280、キラキラ星変奏曲 K.265も会心の演奏です。ハスキルの素晴らしさを聴くのはこのCDしかないとも思えてしまいます。


ピアノ協奏曲第19番ヘ長調 K.459

(1)...50/09/23-24、ヴィンタートゥール ヘンリー・スヴォボダ、ヴィンタートゥール交響楽団(Westminster)
 音が良いというLPレコードで聴きましたが、それ以前に録音時のピアノの響きがオーケストラに比べて、バランスが悪く(ピアノの音が小さい)、ハスキルのピアノの響きを楽しめません。迫力のある演奏なのに残念です。オーケストラは意外に音がよく、演奏もよかったので、これでピアノの音がちゃんと録れていればなあと思ってしまいます。

(2)...52/05/30、ケルン フェレンツ・フリッチャイ、ケルン放送(WDR)交響楽団(MEDICI MASTERS)
 ハスキルのピアノの音が楽しめます。ハスキルの演奏が素晴らしいのは当然ですが、フリッチャイの指揮が素晴らしいこと。第3楽章の対位法的な展開の鮮やかさ、見事です。ハスキルのピアノ演奏もいかに技術が優れているか、驚くほど素晴らしいです。技術と音楽性の高さでモーツァルトの真髄を完璧に表現した演奏です。 

(3)...53/01/20、ベルリン フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団(THARA,AUDITE)
 ハスキルの自然に内面から滲み出るようなリリシズムに感銘を受けます。それを可能にしたのは素晴らしいスタジオ録音とAuditeのリマスターです。ハスキルのピアノの響きを余すところなく味わえます。圧巻は第3楽章の対位法的なオーケストラ演奏に続く部分。ハスキルの見事なテクニックの演奏で圧倒的なフィナーレです。
 
(4)...55/09/21-22、ベルリン フェレンツ・フリッチャイ、ベルリン・フィル(DGG)
 とても素晴らしい演奏です。ベルリン・フィルの美音に拮抗するハスキルの美音は素晴らしいの一語です。録音もとてもよいです。それにしても、ハスキルに寄り添うフリッチャイの指揮はいいですね。最高の相性です。

(5)...56/07/04、ルドヴィクスブルク カール・シューリヒト、シュトゥットガルト放送交響楽団(Hanssler Swr Music)
 シューリヒトとハスキル、二人の素晴らしい芸術家がこれぞ協奏曲という見事な音楽を繰り広げてくれる最高の演奏。冒頭はシューリヒトのペースにハスキルが合わせたような感じですが、第1楽章の中盤からはハスキルらしい個性を発揮して、ピアノとオーケストラのバランスが絶妙です。それが最高に感じられるのが第3楽章。あり得ないような協奏が続きます。ハスキルの指が完璧にまわり切るのが見事です。 

(6)...56/09/06、ブザンソン(市立劇場) イェジー・カトレヴィッツ、パリ音楽院管弦楽団(THARA,INA)
 冒頭、カトレヴィッツ指揮のパリ音楽院管弦楽団は結構、雑な演奏に聴こえますが、かえって、そのあとのハスキルのピアノの精気に満ちた演奏が引き立ってきます。全楽章、ハスキルの生き生きしたピアノの響きが楽しく聴ける演奏です。最初は雑に思えたオーケストラも勢いに満ちた演奏に変わります。終わってみれば、とても気持ちのよい演奏でした。録音状態はあまりよくありませんが、音楽を楽しむことに無理がある録音ではありません。

(7)...57/10/04、ローザンヌ ヴィクトル・デザルツェンス、ローザンヌ室内管弦楽団(Claves)
 録音は素晴らしいです。デザルツェンス指揮のオーケストラもなかなかの好演です。ハスキルはもちろん、いつものような素晴らしい演奏ですが、こういう良い録音で聴くと、弾いているピアノの響きが鄙びた音であることに気が付きます。多分、フランス製の少々古いピアノのような気がしますがどうでしょうか。スタインウェイのような華やかさがありませんが、こういう響きも興味深いです。ハスキルの純度の高い高音域の響きとはちょっと異なるので、ハスキルらしくない感じがします。何度か聴き込むとこういう響きもよいかもしれませんけどね。

(8)...59/02/19、パリ(シャンゼリゼ劇場) コンスタン・シルヴェストリ、フランス国立管弦楽団(INA、SPECTRUM国内盤)
 これは最高の1枚です。迂闊なことにこれがステレオ録音だと知らずに聴き始めて、冒頭の聴衆の空気感からステレオ録音と知り、びっくり。音質もこれ以上ないほどの素晴らしさ。平林直哉氏の最高の仕事に感謝です。シルヴェストリ指揮のフランス国立管弦楽団の演奏はモーツァルトにしては少々、硬い印象ではありますが、立派な演奏には違いありません。そして、ハスキルのピアノをこんなに明確に聴いたのは初めての体験です。やはり、純度の高い響きで格調高い演奏です。ハスキル・ファンとしては感涙ものと言える素晴らしい演奏と録音です。ハスキルを代表する1枚と言えます。どうして、世の中でもっと評判にならないのか、とっても不思議です。第3楽章のハスキルの妙技、そして、それに触発されるかのように白熱するオーケストラ。これぞ、協奏曲と言える演奏に酔いしれるのみです。フィナーレで大変、感動しました。会場から沸き起こる拍手と一緒に思わず拍手してしまいました。まさにその場でライヴで聴いた思いになったからです。きっと、これからも繰り返し聴く愛聴盤になるでしょう。



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       ハスキル,  

クララ・ハスキルの日:仮想コンサートを聴く

今日、12月7日はsaraiの最愛のピアニスト、クララ・ハスキルが57年前に亡くなった日です。今年もこの日が巡ってきました。

現在、クララ・ハスキルのモーツァルトの全録音を聴いています。ピアノ協奏曲はほぼ聴き終えました。彼女の作品別の録音は以下のとおりです。


ピアノ協奏曲第9番変ホ長調『ジュノーム』 K.271

(1)...52/05/23、シュトゥットガルト カール・シューリヒト、シュトゥットガルト放送交響楽団(Hanssler Swr Music)
(2)...53/06/19、プラド パブロ・カザルス、プラド音楽祭管弦楽団(THARA)
(3)...54/03/01、ハーグ オイゲン・ヨッフム、バイエルン放送交響楽団(THARA)
(4)...54/06/11、ケルン オットー・アッカーマン、ケルン放送(WDR)交響楽団(MEDICI MASTERS、MUSIC&ARTS)
(5)...54/10/08-10、ウィーン パウル・ザッハー、ウィーン交響楽団(Philips)
(6)...55/06/08、ローザンヌ イーゴル・マルケヴィッチ、フランス国立管弦楽団(INA)


ピアノ協奏曲第10番変ホ長調 K.365
(1)...54/10/18、チューリッヒ ゲザ・アンダ(第2ピアノ)、パウル・ブルクハルト、ベロミュンスタースタジオ管弦楽団(THARA)
(2)...56/04/24-26、ロンドン(EMIアビー・ロード・スタジオ) ゲザ・アンダ(第2ピアノ)、アルチェロ・ガリエーラ、フィルハーモニア管弦楽団(EMI)
(3)...57/08/04、ザルツブルク音楽祭(モーツァルテウム) ゲザ・アンダ(第2ピアノ)、ベルンハルト・パウムガルトナー、カメラータ・ザルツブルク(Orfeo)


ピアノ協奏曲第13番ハ長調 K.415

(1)...53/03/30、ベルリン フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団(Memories、URANIA)
(2)...60/05/05-06、ルツェルン(ルーカス教会ゲマインデザール) ルドルフ・バウムガルトナー、ルツェルン祝祭管弦楽団(DGG)


ピアノ協奏曲第19番ヘ長調 K.459

(1)...50/09/23-24、ヴィンタートゥール ヘンリー・スヴォボダ、ヴィンタートゥール交響楽団(Westminster)
(2)...52/05/30、ケルン フェレンツ・フリッチャイ、ケルン放送(WDR)交響楽団(MEDICI MASTERS)
(3)...53/01/20、ベルリン フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団(THARA,AUDITE)
(4)...55/09/21-22、ベルリン フェレンツ・フリッチャイ、ベルリン・フィル(DGG)
(5)...56/07/04、ルドヴィクスブルク カール・シューリヒト、シュトゥットガルト放送交響楽団(Hanssler Swr Music)
(6)...56/09/06、ブザンソン(市立劇場) イェジー・カトレヴィッツ、パリ音楽院管弦楽団(THARA,INA)
(7)...57/10/04、ローザンヌ ヴィクトル・デザルツェンス、ローザンヌ室内管弦楽団(Claves)
(8)...59/02/19、パリ(シャンゼリゼ劇場) コンスタン・シルヴェストリ、フランス国立管弦楽団(INA、SPECTRUM国内盤)


ピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466

(1)...48/07/25、エキサン・プロヴァンス エルネスト・ブール、パリ音楽院管弦楽団(INA) 
(2)...50/09/23-24、ヴィンタートゥール ヘンリー・スヴォボダ、ヴィンタートゥール交響楽団(Westminster)
(3)...52/12/19、チューリッヒ ハンス・シュミット・イッセルシュテット、ベロミュンスタースタジオ管弦楽団(THARA)
(4)...54/01/10、ベルリン(オイローパ宮) フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団(Audite)
(5)...54/01/11-12、ベルリン(イエス・キリスト教会) フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団(DGG)
(6)...54/10/11、ウィーン ベルンハルト・パウムガルトナー、ウィーン交響楽団(Philips)
(7)...56/01/28、ザルツブルグ ヘルベルト・フォン・カラヤン、フィルハーモニア管弦楽団(ORF)
(8)...56/11/06、ボストン シャルル・ミュンシュ、ボストン交響楽団(MUSIC&ARTS)
(9)...57/09/27、モントルー音楽祭 パウル・ヒンデミット、フランス国立管弦楽団(INA)
(10)...59/09/08、ルツェルン オットー・クレンペラー、フィルハーモニア管弦楽団(URANIA)
(11)...60/11/14-18、パリ イーゴル・マルケヴィッチ、コンセール・ラムルー管弦楽団(Philips)


ピアノ協奏曲第23番イ長調 K.488

(1)...53/06/25、ルガーノ オトマール・ヌシオ、スイス・イタリア語放送管弦楽団(Ermitage)
(2)...54/10/08-10、ウィーン パウル・ザッハー、ウィーン交響楽団(Philips)
(3)...59/06/29、ディボンヌ・レ・バン音楽祭 ピエール・コロンボ、ジュネーブ室内管弦楽団(INA) **未入手**
(4)...59/09/15、モントルー シャルル・ミュンシュ、パリ国立管弦楽団(MUSIC&ARTS)


ピアノ協奏曲第24番ハ短調 K.491

(1)...55/12/08、パリ(シャンゼリゼ劇場) アンドレ・クリュイタンス、フランス国立管弦楽団(INA)
(2)...56/06/25、ローザンヌ ヴィクトル・デザルツェンス、ローザンヌ室内管弦楽団(Claves)
(3)...60/11/14-18、パリ イーゴル・マルケヴィッチ、コンセール・ラムルー管弦楽団(Philips)


ピアノ協奏曲第27番変ロ長調 K.595

(1)...56/09/09、モントルー オットー・クレンペラー、ケルン放送(WDR)交響楽団(MUSIC&ARTS)
(2)...57/05/07-09、ミュンヘン(ヘラクレスザール) フェレンツ・フリッチャイ、バイエルン国立管弦楽団(DGG)LP


ピアノと管弦楽のためのロンド イ長調 K.386

(1)...54/10/08-10、ウィーン ベルンハルト・パウムガルトナー、ウィーン交響楽団(Philips)


以上ですが、ピアノ協奏曲第23番 K.488の(3)だけ、未入手です。ずい分探しましたが、どうしても見つかりません。所在をご存じのかたはご一報ください。

ハスキルが全曲を録音しなかったのは残念です(ラファエル・クーベリックの指揮で全曲録音を検討していましたが、所属レコード会社の違い(ハスキルはフィリップス、クーベリックはデッカ)で実現しませんでした。実現していれば、どんなに素晴らしかったでしょう。クーベリックが後にクリフォード・カーゾンと共演した素晴らしい録音を聴いて、その思いは募ります。)。 しかし、残された8曲の録音を聴けるだけでも幸せなのかもしれません。とりわけ、第20番の11録音、第19番の8録音、第9番の6録音はハスキルが得意にした曲で、充実した演奏が聴けます。第23番、第24番、第27番も最高の名演が残されています。

今日はこれまで聴いたうちで第9番から第19番までの録音の中で、選りすぐりのCDを聴くことにします。以下のプログラムの仮想コンサートをsaraiのオーディオルームで開催することにします。

 ・ピアノ協奏曲第13番ハ長調 K.415
   ルドルフ・バウムガルトナー、ルツェルン祝祭管弦楽団
 ・ピアノ・ソナタ第2番ヘ長調 K.280
 ・「ああ、ママに言うわ」による12の変奏曲ハ長調(キラキラ星変奏曲) K.265

 ・ピアノ協奏曲第19番ヘ長調 K.459
   コンスタン・シルヴェストリ、フランス国立管弦楽団


最初の3曲は以下のCDです。

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 1960年5月5日-6日、ルツェルン(ルーカス教会ゲマインデザール)でのセッション録音 DG ステレオ録音
 併録はクララ・ハスキル、フェレンツ・フリッチャイ指揮RIAS交響楽団で
  モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466
   1954年1月11日-12日、ベルリン(イエス・キリスト教会)でのセッション録音 モノラル

最後の1曲は以下のCDです。

 2017120702.jpg


 1959年2月19日、パリ(シャンゼリゼ劇場)でのライヴ録音 INA原盤によるSPECTRUM国内盤(平林直哉氏によるリマスター)
 併録はコンスタン・シルヴェストリ指揮フランス国立管弦楽団で
  ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調「新世界」Op.95
  ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
  ラヴェル:ボレロ

ピアノ協奏曲第13番ハ長調 K.415は最晩年の素晴らしい演奏です。音質も最高です。なんと言ってもステレオ録音ですからね。ハスキルの格調が高く、澄み切ったピアノの音色は天使が奏でるような響きです。バウムガルトナー指揮のルツェルン祝祭管弦楽団(実際は弦楽セクションのみ)もハスキルにぴったりの透き通るような響きの演奏でサポートします。
同時に録音されたピアノ・ソナタ第2番ヘ長調 K.280もハスキルのピアノの響きが見事です。とりわけ、短調の第2楽章の美しさには魅了されるだけです。
「ああ、ママに言うわ」による12の変奏曲ハ長調(キラキラ星変奏曲) K.265はもちろんシンプルな曲ですが、ハスキルが弾くと格調が高くなります。

ピアノ協奏曲第19番ヘ長調 K.459はハスキルが亡くなる前の年の録音ですが、同曲の最後の録音で、最高の名演です。破格の演奏に耳を奪われます。終楽章の切れのよい高い技巧の演奏にはただただ聴き惚れるだけです。録音も臨場感のある素晴らしい音質です。平林直哉氏によるリマスターも見事です。

いずれもsaraiの愛聴盤となっています。

ハスキルの素晴らしいピアノが聴けて、幸せな「ハスキルの日」になりました。

なお、ピアノ協奏曲第19番までの全録音の感想記事は別稿でアップします。



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       ハスキル,  

有無を言わせぬ庄司紗矢香の空前絶後の凄演!ゲルギエフ&マリインスキー歌劇場管弦楽団@サントリーホール 2017.12.6

いやあ、凄い庄司紗矢香の演奏でした。第2楽章と第4楽章は爽快とも豪快とも言える演奏で素晴らしかったのですが、このあたりは今どきの腕達者なヴァイオリニストならば、それなりに説得力のある演奏をするのは当たり前かもしれません。本当に素晴らしかったのは第1楽章と第3楽章の深くて精神性の高い表現でした。第1楽章の冒頭の暗闇から浮かび上ってくるような響きですぐさま、魅了されます。そのまま、哲学的とも瞑想的とも言える見事な演奏が続き、その精神性の高さに強く心を揺さぶられます。いきなりの感動で涙が滲みます。第3楽章の主題の抒情的な表現にも強く心を打たれて、感動の涙が浮かびます。庄司紗矢香の魂の叫びが聞こえてくるような凄絶な演奏です。サポートするゲルギエフはショスタコーヴィチの演奏を得意にする巨匠ですから、いつものごとく、素晴らしい演奏です。ただ、いつものような暗黒のような暗さは影を潜めています。庄司沙矢香の陰りはあるけれど、光も差しているような表現に合わせているようです。ゲルギエフの引き出しの多い、こういうサポートも見事です。そして、ゲルギエフの精妙な指揮とそれにこたえるマリインスキー歌劇場管弦楽団の高いレベルのアンサンブルをベースに庄司沙矢香のヴァイオリンが冴え渡ります。その極限まで抑えたピアニッシモはまさに消え入るような響きでオーケストラの響きと溶け合います。saraiは幸い、正面の2列目で聴いていたので、その繊細なヴァイオリンの響きが聴き取れましたが、後ろのほうの席まで響きが伝わったのかは不明です。ある意味、室内楽的な表現の演奏だったので、こういう大ホールで全聴衆を対象にするには難しいのではないかと思えた表現でした。また、超感動的な演奏でしたが、まだ、のびしろも残しているようにも感じました。特に第3楽章の終盤に置かれたカデンツァの前半のピアノの部分の表現がつめきれていないと思えたところです。ここはもっと感動的に弾いてもらいたかったと感じました。カデンツァの後半の盛り上がりは素晴らしかったので、前半の表現が今ひとつだったのは残念なところでした。しかし、逆に言えば、まだ、庄司紗矢香はさらなる飛躍への道も残しているとも言えます。とは言え、今日の彼女の演奏はsaraiの音楽受容力を凌駕するような高みに達していて、その深い精神性を完全に理解したとは言い難いものでした。ですから、むしろ、彼女の表現を完全に理解するために精進すべきはsaraiのほうだとも痛感させられました。saraiをインスパイアするような庄司紗矢香の高い精神性の演奏に深く感動しました。今年、聴いた音楽で最高であることはもちろん、ここ数年来聴いたコンサートで最高の演奏でした。

そうそう、庄司紗矢香のアンコール曲は今日は普通のアンコール曲のバッハの無伴奏パルティータ。いつももっと凝った選曲ですが、今日はオーソドックスです。彼女の無伴奏は何度も聴いていますが(実演やCD)、結構、個性的な表現であまりsaraiの好みではありません。今日もいつものパターンの演奏です。でも、今日はこの個性的な表現にも慣れてきたのか、それほどの違和感はなく、すんなりと聴けます。こういう個性的な表現もありかなと少し納得しました。みんなスタンダードな演奏ばっかりだったら、つまらないかもしれません。庄司紗矢香のバッハも考え抜いた上での表現なのでしょう。現代は色んなバッハ演奏が許容される時代なので、彼女のバッハももっと聴き込んでみましょう。

後半のベルリオーズの幻想交響曲は前半の庄司紗矢香のショスタコーヴィチで精神的体力を使い果たしたので、しっかりと聴き取る自信はありませんでしたが、それは杞憂でした。まあ、何て素晴らしい演奏だったことでしょう。ゲルギエフの精妙な棒(実に小さなタクト!)のもと、マリインスキー歌劇場管弦楽団の妙なる響きがとっても魅惑的でした。交響曲と言うよりも歌のないオペラを聴いているようなものです。音色が鮮やかで、魅惑的なストーリー性に満ちています。何よりもゲルギエフがオーケストラを完全にコントロールしていて、彼の表現したい内容が完璧にオーケストラの音として実現できています。ゲルギエフがウィーン・フィルを振ったCDを予習しましたが、それは今日の演奏に比べると何と未成熟な演奏だったでしょう。オーケストラとしてはウィーン・フィルのほうが数段上でしょうが、ゲルギエフがその思いを表現するためにはこのマリインスキー歌劇場管弦楽団のほうが数段高いところにあります。第1楽章の美しい表現、第2楽章の舞踏会のシーンの魅惑的な表現、第3楽章の自在な表現、第4楽章の断頭台への行進の切れのある表現、そして、圧巻だったのは第5楽章。いつもはエピローグとして聴きますが、今日は堂々たるフィナーレとして聴けます。それほど、際立った演奏でした。

前半の冒頭のリムスキー=コルサコフの組曲「金鶏」もベルリオーズの幻想交響曲同様にゲルギエフの精妙な指揮が冴え渡っていました。安定して、美しい響きの弦をベースに木管の自在な表現を引き出していたのはゲルギエフの力でしょう。これはまさにオペラから抜粋した組曲ですから、オペラを聴いているような感覚だったのは当然のことです。この曲を聴いていて、何か心にひっかかるところがあります。そのうちに思い当りました。木管の自在な表現はまるでストラヴィンスキーの《火の鳥》のようです。オペラというよりも、この組曲はそのままバレエ音楽になりそうです。リムスキー=コルサコフの美しい響きはそのまま、ストラヴィンスキーに引き継がれたのでしょうか。そんなことを思いながら、素晴らしい演奏を聴いていました。

そして、なんと、アンコール曲はそのストラヴィンスキーの《火の鳥》でした。もちろん、最高に素晴らしい演奏でした。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:ワレリー・ゲルギエフ
  ヴァイオリン:庄司紗矢香
  管弦楽:マリインスキー歌劇場管弦楽団

  リムスキー=コルサコフ:組曲「金鶏」
  ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 Op.77
   《アンコール》 J. S. バッハ:無伴奏パルティータ 第2番より「サラバンド」 BWV1004

   《休憩》

  ベルリオーズ:幻想交響曲 Op.14

   《アンコール》
    ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」から子守唄~終曲


ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番の予習は以下のCDだけを聴きました。

 バティアシュヴィリ、サローネン指揮バイエルン放送交響楽団

バティアシュヴィリのヴァイオリンがとても素晴らしかったのですが、今日の庄司紗矢香はそんなレベルの演奏ではありませんでした。庄司紗矢香がゲルギエフと再録音すれば、素晴らしいCDになるでしょう。でも、現役のヴァイオリニストはCDよりもやはり実演を聴くのが一番ですね。所詮、CDは過去の記録に過ぎません。



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       庄司紗矢香,  

抒情あふれるチャイコフスキー:アトリウム・カルテット@鶴見サルビアホール 2017.12.1

アトリウム・カルテットを聴くのは今回が3回目。最初に聴いたときにはもう一つの印象。2回目はショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲、全15曲を1日で弾くという離れ業のようなコンサート。これは素晴らしい演奏でした。とりわけ、後期の第13番以降が最高でした。第1ヴァイオリンの美しい響きとチェロの深い響きが心に残りました。この体験があったので、今日のコンサートにも大変、期待していました。しかし、何と、突然のお知らせで第1ヴァイオリンが変更とのこと。諸般の事情により、セルゲイ・マーロフからボリス・ブロフツィンに変更とのことです。しかし、そもそも、以前聴いたときの第1ヴァイオリンはセルゲイ・マーロフではなく、アレクセイ・ナウメンコでした。こんなに第1ヴァイオリンが交代するなんて、どうなっているんでしょう。弦楽四重奏団の顔とも言える第1ヴァイオリンですからね。今日の演奏に不安を覚えます。

前半のブラームスの弦楽四重奏曲 第1番は出だしが素晴らしく、とっても熱情的でロマンティックな響きに魅了されます。いったんは不安感が払拭されます。ただ、第1ヴァイオリンのフォルテのときの金属的な響きが気にはなりました。全体としては素晴らしい演奏です。しかし、中間の第2楽章、第3楽章が何となく、漫然とした演奏で心に響いてきません。4人のバランスも悪く、第1ヴァイオリンの音がうるさく響きます。まさに不安的中の感じです。それでも、第4楽章はよい出来でした。両端楽章がよい演奏で全体として、まあまあの感じですね。ちなみに第1ヴァイオリン以外の3人は以前からのメンバーです。チェロの女性奏者アンナ・ゴレロヴァは深くて美しい響きです。内声部の2人は以前もそうでしたが、技術以前の問題として、おとなしい弾き方です。もっと内声部の音を響かせてほしいところです。時折聴こえてくる響きは美しいので、もっと内声部を響かせてくれれば、このブラームスもずい分、印象が変わったと思います。

前半最後のヴィトマンの弦楽四重奏曲 第3番「狩の四重奏」は現代作曲家の作品ですが、これは4人のバランスも響きも素晴らしくて、圧倒的な演奏でした。曲はもちろん、ノントナールですが、裏に調性音楽が隠れているという風情の音楽で、聴きやすい現代音楽です。聴きやすいというのが最近の現代音楽の傾向なんでしょうか。ちなみにヴィトマンの作品を聴くのは初めてですが、彼のクラリネット演奏は聴いています。ハーゲン・カルテットと共演したモーツァルトとブラームスのクラリネット五重奏曲は最高に素晴らしい演奏でした。来年初めにも来日するので、聴きたかったのですが、ほかのコンサートと日程がバッティングしたのであきらめました。

後半のチャイコフスキーの弦楽四重奏曲 第1番は前半のブラームスとは一転して、4人の響きのバランスもよくなって、とても美しい演奏。いかにもチャイコフスキーらしいロシア風の抒情が満喫できました。とりわけ、長大な第1楽章は見事な演奏でした。そして、有名な第2楽章のアンダンテ・カンタービレはその美しさに陶然としてしまいます。名曲アワー的ではありますが、美しいものは美しいのですから、どっぷりと名曲に浸りきりました。第3楽章も切れがよく、アンサンブルもきれいで満足。第4楽章は勢いのあるフィナーレでチャイコフスキー節をたっぷりと味わいました。

こうなると、アンコールも名曲アワー。ボロディンの弦楽四重奏曲 第2番の第3楽章(ノクターン)です。甘いメロディーに魅了されました。なんの文句もありません。

今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:アトリウム・カルテット
   ボリス・ブロフツィン(セルゲイ・マーロフから変更) vn    アントン・イリューニン vn
   ドミトリー・ピツルコ va    アンナ・ゴレロヴァ vc

  ブラームス:弦楽四重奏曲 第1番 Op.51-1
  ヴィトマン:弦楽四重奏曲 第3番「狩の四重奏」

   《休憩》

  チャイコフスキー:弦楽四重奏曲 第1番 Op.11

   《アンコール》
    ボロディン:弦楽四重奏曲 第2番 ニ長調 より、第3楽章アンダンテ ノクターン


最後に予習について触れておきます。
1曲目のブラームスの弦楽四重奏曲第1番は力を入れて予習したかったのですが、時間がなく、以下の2枚だけ聴きました。

 エマーソン・カルテット
 ブダペスト四重奏団

ブダペスト四重奏団の見事な演奏に感動しました。ブッシュ四重奏団、アマデウス四重奏団、メロス・カルテット、ハーゲン・カルテットあたりも聴きたかったんですけどね。ブラームスの素晴らしい音楽にたっぷり浸れなくて残念です。

2曲目のヴィトマンは予習すべきCDを持っていません。

3曲目のチャイコフスキーの弦楽四重奏曲第1番は以下の2枚を聴きました。

 エマーソン・カルテット
 ボロディン弦楽四重奏団

ボロディン弦楽四重奏団の見事な演奏に魅了されました。なお、このところ、エマーソン・カルテットでどの曲も予習しているのは、彼らのCDボックスを購入したからです。

 エマーソン弦楽四重奏団 DG録音全集(51CD+ボーナスCD)

何とか、この51枚のCDを聴き尽そうと躍起になっているんです。録音の音質もよく、いずれの演奏驚くほど高い水準ばかりです。


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燃え上がるヤナーチェク:ウィハン・カルテット@鶴見サルビアホール 2017.11.27

素晴らしいヤナーチェクでした。チェコの大作曲家ヤナーチェクが最晩年に書いた室内楽の最高傑作、弦楽四重奏曲 第2番「内緒の手紙」は後半に向けて、演奏が高潮していきました。第3楽章の美しい演奏に続いて、第4楽章は文字通り、燃え上がるような激しさと美しさに包まれていました。この作品が書かれたのは1928年ですが、音楽の雰囲気はまさに後期ロマン派の耽溺に満ちたものです。曲はヤナーチェクの38歳若い恋人への熱い気持ちが込められていて、到底、73歳という老人とは思えないものです。特に第4楽章は若い恋人への憧れとその成就の妄想が入り乱れて、美しくもあり、激しくもだえ苦しむところもあり、これがヤナーチェクの芸術の到達点であることを実感させられます。ウィハン・カルテットはチェコの歴史的なカルテットのボヘミア・カルテットの創立者ハヌス・ウィハンの名前を冠したカルテットです。このボヘミア・カルテットこそ、ヤナーチェクに2曲の弦楽四重奏曲の作曲を依頼した団体で、その結果生まれたのが、この第2番「内緒の手紙」とそれに先立つ5年前に書かれた第1番「クロイツェル・ソナタ」の2曲でした。したがって、ウィハン・カルテットには、今日演奏した、この曲への強い思いがあったに違いありません。第4楽章は彼ら4人の入神の技でした。フィナーレ近くでヴィオラが演奏した甘美なメロディーは若い恋人、カミラ・ストスロヴァーを象徴するものだそうです。ヴィオラ奏者の思い入れの強い演奏は心に残りました。
同時代の作曲家と言えば、マーラーですが、彼もアルマというミューズの力を得て、多くの名作を書きましたが、ヤナーチェクにもカミラというミューズがいたのは知りませんでした。オペラ《カーチャ・カヴァノヴァー》もタイトルロールのカーチャはカミラをイメージしていたそうです。確かにこの弦楽四重奏曲とオペラ《カーチャ・カヴァノヴァー》は共通性を感じるところがあります。
いや、とてもいい演奏を聴かせてもらいました。

前半のハイドンとモーツァルトもなかなかよい演奏でした。特にハイドンは明快で切れの良い演奏でした。ちょっとアタックが強いところが気になりましたが、そういうスタイルで弾いたんでしょう。ただし、今日は後半のヤナーチェクがすべてでした。ところで3年前にもこのホールでウィハン・カルテットを聴きましたが、そのときもハイドンは同じ曲でした。よほどお気に入りの曲なのかな。

今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:ウィハン・カルテット
   レオシュ・チェピツキー vn    ヤン・シュルマイスター vn
   ヤクブ・チェピツキー va   マチェイ・ステパネク vc

  ハイドン:弦楽四重奏曲 第43番 Op.54-1
  モーツァルト:弦楽四重奏曲 第15番 K.421

   《休憩》

  ヤナーチェク:弦楽四重奏曲 第2番「内緒の手紙」

   《アンコール》
    スメタナ:弦楽四重奏曲 第2番 ニ短調 より、第2楽章アレグロ・モデラート


最後に予習について触れておきます。
1曲目のハイドンの弦楽四重奏曲第43番は前回、力を入れて予習しました。

 エマーソン・カルテット(ハイドン・プロジェクト)
 エンジェルス・カルテット(全集盤)
 アマデウス四重奏団(旧盤、モノラル)

そのときの感想です。いずれも爽快な素晴らしい演奏。なかでもエマーソン・カルテットのすっきりとしたスマートな演奏は音質の良さも相俟って、心地よく聴けます。2枚組におさまったハイドンの弦楽四重奏曲はすべて快心の演奏です。
ということで、今回はそのエマーソン・カルテットを再度聴きました。実に明快でクリアーな素晴らしい演奏です。

2曲目のモーツァルトの弦楽四重奏曲 第15番 K.421は以下のCDで予習。

 ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団 1952年録音
 アマデウス弦楽四重奏団(全集盤) 1966年録音
 エマーソン・カルテット 1991年録音

この曲でもエマーソン・カルテットは見事な演奏です。響きの素晴らしさはもちろん、ニ短調に似合った哀調の滲む演奏です。でも、本命はウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団の演奏ですね。最初の1小節を聴いただけで、その魅力に引き込まれます。あるべきものがあるべきところに収まっているという感じの演奏です。充足感に満たされます。一方、アマデウス弦楽四重奏団も無理のない自然であっさりした演奏で、これまた、モーツァルトの魅力がたっぷりです。この3枚はどれを聴いても満足できるでしょう。

肝心のヤナーチェクの弦楽四重奏曲 第2番「内緒の手紙」は以下のCDで予習。

 スメタナ弦楽四重奏団 1965年録音 LP
 パヴェル・ハース・カルテット 2006年録音
 エマーソン・カルテット 2008年録音

まずはスメタナ弦楽四重奏団、パヴェル・ハース・カルテットというチェコの新旧を代表する団体で聴きます。意外にいずれもお国ものという感じが強くありません。自然であったりした演奏です。演奏レベルは悪かろうはずがあるません。見事な演奏です。何も言うことはありません。意外だったのはエマーソン・カルテットの演奏です。チェコの団体よりもモラヴィアを感じさせる演奏です。チェコの団体に優るとも劣らない素晴らしい演奏です。録音の音質も最高です。ところで作曲家の名前を冠するヤナーチェク四重奏団のCDもありますが、モノラルで音質ももう一つ。ちょっと聴きましたが、それほどの演奏に思えなかったので、いずれ、そのうちに機会があれば、聴きましょう。



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耐えきれない優しさ「アッシジの聖フランチェスコ」:カンブルラン&読売日本交響楽団@サントリーホール 2017.11.26

素晴らしい体験でした。メシアンの知性と高貴さに満ちたオペラをシルヴァン・カンブルランが余すところなく描き尽してくれました。完全に理解したなどと言うと嘘になりますが、saraiの全知性と感性を総動員して、この長い、長いオペラに集中しました。第2幕の後半の《小鳥たちへの説教》ではいったん集中が切れて、ふらっとなりましたが、それ以外は全人格をかけて、このオペラに対峙して、大変大きな感銘を受けました。宗教的な素材ですが、その根幹をなす愛と慈しみの思いは人類の普遍的な観念でもあります。メシアンは神あるいはキリスト、聖フランチェスコを重ね合わせた上に、さらに自分自身を投影させています。このオペラはメシアンの宗教的告白であると同時に彼の人類愛の告白でもあります。それも飛びっきり、苦渋に満ちた叫びでもあります。人が他者にあふれんばかりの慈悲の心を持つということがどれほど大変なことなのか、そして、そうしなければならないという必然性までを訴求するものです。メシアンはそれを音楽の力を駆使して、見事に表現しました。その伝道者が指揮者のカンブルランです。総勢240名もの演奏者をまとめあげた力量は賞賛すべきものです。このオペラを鑑賞して、己を恥じない人間はいないと信じていますが、そんなことを言うことこそが不遜な態度なのかもしれません。メシアンが聖フランチェスコを通じて、訴えかけてきたのは他者への無限の愛ですが、それとともに無限の謙虚さも求めています。メシアンの没後25年だそうですが、メシアンが全身全霊を傾けて作り上げた、このオペラは彼が人類に残した遺言です。今の時代ほど、彼のメッセージを受け留めなくてはならない時はないでしょう。

音楽的には、カンブルランの見事な指揮はもちろん、読売日本交響楽団の最高のアンサンブル、新国立劇場合唱団の美しい合唱、さらに独唱者たちの健闘が光りました。聖フランチェスコ役のヴァンサン・ル・テクシエは役に没入するような熱い歌唱でした。声も素晴らしかったのですが、何と言っても表現力が圧倒的でした。彼は6年前に一度、パリ・オペラ座(ガルニエ)で聴いていますが、今日ほどの印象はありませんでした。天使役のエメーケ・バラートもピュアーで美しいソプラノ。sarai好みの声でした。それにきらきら光る瞳が魅惑的でした。他のテノール、バリトン、バスのいずれも素晴らしい歌唱でした。コンサート形式での上演でしたが、この難しい演目はかえって妙な演出はないほうがよかったかもしれません。オペラというよりもオラトリオみたいなものですからね。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:シルヴァン・カンブルラン
  天使:エメーケ・バラート(ソプラノ)
  聖フランチェスコ:ヴァンサン・ル・テクシエ(バリトン)
  重い皮膚病を患う人:ペーター・ブロンダー(テノール)
  兄弟レオーネ:フィリップ・アディス(バリトン)
  兄弟マッセオ:エド・ライオン(テノール)
  兄弟エリア:ジャン=ノエル・ブリアン(テノール)
  兄弟ベルナルド:妻屋秀和(バス)
  兄弟シルヴェストロ:ジョン・ハオ(バス)
  兄弟ルフィーノ:畠山茂(バス)
  合唱:新国立劇場合唱団
     びわ湖ホール声楽アンサンブル
  管弦楽:読売日本交響楽団 長原 幸太(コンサートマスター)

  メシアン:歌劇「アッシジの聖フランチェスコ」(演奏会形式)

日本のオーケストラがコンサート形式でのオペラ上演に積極的なのは大歓迎です。来月はノット&東京交響楽団によるモーツァルト・オペラ・シリーズの《ドン・ジョヴァンニ》が楽しみです。また、メシアンの大作の上演も続き、来年1月には大野&都響の《トゥランガリーラ交響曲》が楽しみです。音楽の楽しみは尽きません。



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遂に100枚超えのCDボックスを購入 Furtwangler The Legacy (107CD)

病膏肓に入るって言う言葉があります。saraiは決して、そんな状態ではないと思いますが、音楽好きとして、遂に100枚を超えるCDボックスを購入してしまいました。何と107枚のCDです。
AMAZONを覗いていると、気になるCDボックスが超格安価格で出品されていました。それがこれです。

Furtwangler The Legacy (107CD) MEMBRAN 6998円

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価格で言えば、CD1枚当たり、65円になります。以前は安くても1万円ほどだったので、とてもお買い得です。内容はフルトヴェングラーの代表的な録音を選りすぐったものが集められています。既に所有しているCDも多数ありますが、これまでとは異なるリマスターがなされているので、単純に同じCDであるわけではありません。しかも驚くべきことにこのCDボックスを発売したドイツのMEMBRANのリマスターは廉価盤とは言え、大変、高水準です。音質の感じ方は人それぞれでしょうが、これまで聴いた限りでは、saraiには最高の音質に思えます。
これまでsaraiの所有しているフルトヴェングラーのCDの枚数を数えてみると、200枚ほどでした。今回の107枚を加えて、300枚ほどのコレクションになりました。全部聴くのも大変な枚数ですが、これはsaraiの宝です。
今回購入したCDボックスはクラシック音楽好きのドイツ首相アンゲラ・メルケルが同じくクラシック音楽好きのローマ法王フランシスコに献上したエピソードで有名になりました。
HMVのサイトを参考にして、107枚の内容を概観しましょう。

BOX1 バッハ/ヘンデル/グルック/メンデルスゾーン/シューマン/ウェーバー/ニコライ

ここでは、バッハの1954年録音のマタイ受難曲、1953年録音のシューマンの交響曲第4番(ベルリン・フィル)が注目されます。

BOX2 ベートーヴェン

ベートーヴェンの交響曲全集はフルトヴェングラーの残した文化遺産です。無論、すべて、saraiは所有していますし、これ以外の録音もほとんど収集済です。今回はどれほど、リマスター音質が素晴らしいかが楽しみです。また、EMI録音のウィーン・フィルとのスタジオ録音が基本になっているものの、第1番(コンセルトヘボウ)、第5番(ベルリン・フィル、1947年)、第8番(ベルリン・フィル、1953年)と一部、別の録音を選択しているのも面白いところです。

BOX3 ブラームス/チャイコフスキー/スメタナ/リスト/シベリウス/ドヴォルザーク

ブラームスの4つの交響曲が何と言っても注目されます。第1番(ベルリン・フィル、1952年2月)は既に聴きましたが、素晴らしいリマスターでこれまでのDG盤を超えます。チャイコフスキーの後期の3つの交響曲も気になります。第6番《悲愴》(ベルリン・フィル、1938年)も他のCDと聴き比べましたが最高のリマスターでした。

BOX4 ブルックナー/R.シュトラウス/マーラー/ヒンデミット/ストラヴィンスキー/プフィッツナー

ここには注目盤がたくさんあります。ブルックナーの交響曲第4番、第5番、第6番(第1楽章欠落)、第7番、第8番、第9番はどれもウィーン・フィル、ベルリン・フィルとの精華の筈です。R.シュトラウスの『メタモルフォーゼン』『ドン・ファン』『ティル・オイレンシュピーゲル』『死と変容』はいずれも名盤の誉れ高いものです。素晴らしいリマスターに期待しましょう。さらに『4つの最後の歌』は初演の録音です。これもリマスターでの音質改善がどれほどか期待が高まります。マーラーの『さすらう若人の歌』は若きフィッシャー・ディースカウの名唱で知られていますが、これも音質改善に期待しましょう。

BOX5 ハイドン/モーツァルト/シューベルト

モーツァルトは『ドン・ジョヴァンニ』『フィガロの結婚』『魔笛』の全曲録音が楽しみです。そして、名高い交響曲第40番(ウィーン・フィル、1948年、第2楽章の一部は1949年)の録音もどんな音質で聴けるでしょう。シューベルトの交響曲第8番『未完成』(ベルリン・フィル、1952年)と交響曲第9番『グレート』(ベルリン・フィル、1951年)は既に聴きました。特に『グレート』は素晴らしくて感動しました。

BOX6 ワーグナー

フルトヴェングラー得意のワーグナーです。『トリスタンとイゾルデ』全曲(ズートハウス、フラグスタート、フィッシャー・ディースカウ、グラインドル、フィルハーモニア管 )は唯一の録音ですが、同曲中、最高のCDと世評の高いもの。フラグスタートに代わって、2つの高音をシュヴァルツコップが歌ったという逸話のあるCDです。リマスターの出来に期待しましょう。

BOX7 ワーグナー『ニーベルングの指環』

1953年秋のローマでの演奏会形式コンサートの放送用ライヴ録音です。マルタ・メードル、フェルディナント・フランツ、ルートヴィヒ・ズートハウス、ローマRAI交響楽団という顔ぶれです。フルトヴェングラーには1950年3~4月のミラノ・スカラ座におけるライヴ録音もありますが、これはCD2枚分の抜粋のみがこのボックスに含まれています。これは全曲を含めてほしかったですね。また、フルトヴェングラーの最後の録音になった1954年10月のウィーン・フィルとの楽劇「ヴァルキューレ」の名盤は第1幕全曲のみの収録になっています。これも全曲を含めてほしかったですね。このCDボックスの最大の不満点はこの2点です。

BOX8 オネゲル/フォルトナー/ブラッハー/ベルリオーズ

これはなかなか珍しいCDが並んでいます。


以上のように超ド級の内容です。

ついでに、これまで所有していたフルトヴェングラーの主なCDボックスについてもご紹介しておきましょう。

フルトヴェングラー/ウィーンでの演奏会1944~54(18CD) ORFEO

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 フルトヴェングラーが1944年から1954年にかけてウィーンでおこなった録音を集大成したものです。第2次世界大戦の終盤からフルトヴェングラーの亡くなる年までのウィーン・フィルとの演奏です。ベートーヴェン、ブラームスはすべて名演です。


ウィルヘルム・フルトヴェングラー/ベルリン・フィル/コンプリートRIAS録音集ボックス(12CD+ボーナスCD) AUDITE

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 戦後ベルリンでのベルリン・フィルとの演奏会のRIAS放送協会保管のテープからの集大成です。12回のコンサートから、のべ32曲が収録されています。戦後の歴史的復帰初日の演奏会でのベートーヴェンの《運命》と《田園》(1947年5月25日)から始まり、亡くなる年の演奏会でのベートーヴェンの《運命》と《田園》(1954年5月23日)に終わる7年間の巨匠の軌跡が収められています。


ヴィルヘルム・フルトヴェングラー ザ・グレートEMIレコーディングス(21CD) EMI

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 2011年、フルトヴェングラー生誕125周年を記念して企画されたCDボックスです。新たにアビーロード・スタジオでリマスターされたベートーヴェン交響曲全集とブラームス交響曲全集の計8枚を含みます。EMIからリリースされたフルトヴェングラーの代表的名演を集めた内容です。ほとんどは今回購入したMEMBRANの107枚CDボックスに含まれています。


なお、これまでsaraiが所有していたCDボックスで一番の大物は84CDでした。

 トスカニーニ・コンプリートRCAコレクション 84CD+1DVD

次いで、68CD。

 マレイ・ペライア/Murray Perahia - The First 40 Years [68CD+5DVD]

CDもずい分、安くなったものです。聴くのが大変ですけどね。



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驚異の響き・・・ツィンマーマン、ガッティ&ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団@サントリーホール 2017.11.20

いやはや、世界に冠たると言っても過言でないオーケストラ、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の響きは尋常のものではありません。最初のベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の出だしの響きを聴いただけで鳥肌が立ちます。ありえないような素晴らしい響きです。後半のブラームスの交響曲第1番に至っては、サントリーホールの空気がぶるぶる震えていることに驚きます。さらには座っている椅子までも共振しています。サントリーホールでこんなことってあったでしょうか。ウィーンの楽友協会では椅子がぶるぶると響くのは日常茶飯事ですが、同様の現象が日本でも起きるとはね・・・驚愕しました。音楽は空気の波が伝わることによる物理現象ですから、まあ、当たり前と言えば、当たり前ですが、それを体感することは滅多にありません。自宅の防音室では可能ではありますが、その大音響に耳が耐えられません。
どうやら、この超振動の正体はオランダ人の大男がかき鳴らすコントラバスにあるようです。ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の響きは低弦の迫力がベースになったものです。この低弦の上に、美しい高弦や木管の響きが重なってくるんです。意外に金管がうるさくないのは超一流オーケストラの証ですね。そうそう、ティンパニもよく響きます。ちなみによく響くというのと、大きな響きというのは違います。このオーケストラの場合、ピアノでも響くんです。参考のために、saraiの席は第2列目でした。後方の席ではどうだったんでしょう。

さて、肝心の演奏についてですが、この驚異の響きで奏でられたブラームスは破格の素晴らしさでした。両端の楽章はもちろん、いつもは添え物に思えてしまう第2楽章、第3楽章の素晴らしかったこと。このブラームスは重厚で堂々たる演奏・・・骨太の演奏です。その中に馥郁たるロマンが内包されています。ベイヌムがこのコンセルトヘボウを振ったブラームスの再来に思えます。60年ぶりのことです。実は今日の指揮者ダニエレ・ガッティが首席指揮者になったというので、興味津々で聴きにいったんです。結果は上々です。1回聴いただけの印象ですが、ガッティを首席指揮者に迎えたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の将来は明るいとみました。正直、ガッティが首席指揮者になると最初に聞いたときは失望しましたが、やはり、実際に聴いてみないと分からないものですね。ガッティはイタリア・オペラの指揮者という固定観念があったので、この世界超一流のオーケストラの指揮者としてはどうかと危ぶみました。杞憂だったようです。ドイツ・オーストリア音楽の本流であるブラームスをこれだけ振れるのですから、本物です。ティーレマンのようなカリスマ的な人気には欠けるかもしれませんが、よい音楽を創造してくれれば、人気はあとからついてくるでしょう。ブラームスの交響曲第1番のとりわけ凄かったのは第4楽章です。絶対音楽の場に劇的な要素を持ち込むというのはマーラーを例にとるまでもなく、一般化した手法かも知れませんが、このブラームスの交響曲であたかもオペラティックな雰囲気を醸し出したのはオペラを得意にするガッティならではの表現だったような気がします。序奏でものものしい空気を作り出し、その後の展開をわくわくしながら待たせる中で、次第に霧が晴れていくように響きを明快なものにしていきます。そして、ホルンが鳴るところから、一気に音楽を開放していきます。あの《喜びの歌》もどきでカタルシスをもたらした後、主題が展開されて、音楽の山場を作り出します。そして、いくつもの山々を越えながら、終着点を目指していきます。この過程の音楽作りの素晴らしいこと。ガッティがコンセルトヘボウを完璧にドライブしていきます。そして、途轍もない頂に上り詰めていきます。フィナーレは速度を上げて突進していくのかと固唾を呑んで、聴き入っていましたが、そうではなく、インテンポで堂々たる最後を作り上げていきます。その見事な表現に感動しました。

前半のベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲にも触れておきましょう。これも素晴らしい演奏でした。ブラームスと同様のコンセルトヘボウの素晴らしい響きに支えられて、ヴァイオリンのフランク・ペーター・ツィンマーマンが見事な音楽を作り上げました。峻厳な表現の第1楽章、これはある意味、精神的な演奏とも言えました。このままの表現が続くのかと思ったら、一転して、第2楽章は優美な表情に変わります。美しい響きで空間を満たします。そして、第3楽章は清冽とも言える演奏で疾走します。天馬空を征くが如しといった態です。ツィンマーマンの自在な表現に魅了された素晴らしいベートーヴェンでした。それにしても、彼は変わっています。ソロ・パートだけでなく、オーケストラの第1ヴァイオリンのパートも一緒に弾いているんです。これではまるで、コンサートマスター兼任ではありませんか。ある意味、見ようによっては弾き振りにも見えます。で、彼は弾きっぱなしで忙しいんです。第1ヴァイオリンのパートを弾き終わったところで、そのまま、カデンツァなんて、曲芸のようなことをやっています。天下のコンセルトヘボウとの共演ですから、もっと自重したらいいのにね。もっとも音楽面では問題はありません。目を瞑って聴いていたら、分からないしね。ご苦労さま!!

そうそう、アンコールのバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタはもちろん、素晴らしい演奏でしたが、あえて、緩徐楽章ではなく、アレグロを弾いたのは、いかにも彼の個性が出ていました。変な媚は売らないんですね。何というか、そのあっさりとしたところがいいです。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:ダニエレ・ガッティ
  ヴァイオリン:フランク・ペーター・ツィンマーマン
  管弦楽:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

  
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.61

     《アンコール》 J.C.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番イ短調 BWV1003より、第4曲アレグロ

     《休憩》

    ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 op.68


今回の予習はブラームスですが、今年の5月の読響のコンサートの折り、ただでさえ、これまで色んなCDを聴いている上にさらにたっぷりとCDを聴きました。まずはそのときの記事を引用しておきます。

***以下、引用***

聴いていなかったCDをたくさん聴きました。それも粒よりのCDばかりだったんです。予習したCDは以下です。

 1950年7月  フルトヴェングラー指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
 1951年10月 フルトヴェングラー指揮北ドイツ放送交響楽団
 1952年1月  フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィル
 1952年2月  フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル
 1951年 ベイヌム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
 1958年 ベイヌム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
 1952年9月 トスカニーニ指揮フィルハーモニア管弦楽団
 1967年6月 シュミット=イッセルシュテット指揮北ドイツ放送交響楽団
 2002年9月 ハイティンク指揮シュターツカペレ・ドレスデン

フルトヴェングラーは録音のよいウィーン・フィルとベルリン・フィルが素晴らしく、とりわけ、ウィーン・フィルとの演奏には圧倒されました。今回、一番の聴きものだったのはベイヌムです。今まで、ほとんど聴いたことがありませんでしたが、素晴らしいブラームスです。特に1958年の録音はステレオで音質も素晴らしく、聴き惚れてしまいました。ブラームスの残りの第2~4番を聴くのが楽しみです。トスカニーニは手兵のNBC交響楽団ではなく、伝説的なフィルハーモニア管弦楽団とのライヴ録音です。ある意味、トスカニーニらしくない、柔らかい演奏ですが、緊張感あふれる演奏でもありました。これも残りの第2~4番を聴くのが楽しみです。シュミット=イッセルシュテットの演奏は定評のあるものです。ステレオ録音ではありませんが、それを感じさせない音質です。やはり、世評通りの素晴らしい演奏でした。ハイティンクのブラームスは全集がアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団、ボストン交響楽団、ロンドン交響楽団の3種がありますが、このシュターツカペレ・ドレスデンとの第1番はロンドン交響楽団との全集録音の直前にライヴ録音したものです。演奏のコンセプトはロンドン交響楽団との演奏とほぼ同じで、大変、素晴らしいです。一昨年、ロンドン交響楽団との来日公演で聴いた最高の演奏を思い出しました。

***以上、引用終わり***

で、今回は上記の中で、ちょっと気になった演奏を再度、予習がてら聴いてみました。

 1952年2月  フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル

同じものですが、実はまったく同じではありません。フルトヴェングラーのCDの場合、同じ演奏でも、別のリマスターのCDが多いんです。前回聴いたのは、DGのFURTWANGLER THE ORIGINALS COLLECTIONの中の1枚です。今回はMEMBRANのフルトヴェングラー/ザ・レガシー 107の中の1枚です。これが素晴らしいんです。印象ががらっと変わりました。ベルリン・フィルのシャープで切れ込みのよい演奏をフルトヴェングラーが鮮やかにドライブしています。その2週間前に録音されたウィーン・フィルとの1枚といい勝負ですね。
今回は歴代のコンセルトヘボウの録音を聴いてみるのもよかったかななんて、今日の凄い演奏を聴いた後に思いました。と言っても、手持ちのCDは前回聴いたフルトヴェングラー、ベイヌム2枚に加えて、ハイティンクがあるだけです。あっ、カラヤンの若い頃のCDもありますね(1943年録音)。これも手持ちと言えば、手持ちですが、あまり、聴く気がしませんね。もちろん、シャイーもあります。

ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は以下のCDを聴きました。

 1932年 ヨゼフ・シゲティ、ブルーノ・ワルター指揮ブリティッシュ交響楽団 SP復刻
 1953年 ヴォルフガング・シュナイダーハン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル ライヴ録音

たいていのものは聴いていましたが、古いものは聴いていなかったので、これらを聴きました。クライスラーも聴くつもりでしたが、残念ながら時間切れ。
ヨゼフ・シゲティはNAXOSの復刻が素晴らしくて、音質がとても1932年とは信じられません。ヴァイオリンの高域の響きも見事に再生できます。しかし、それにもまして、シゲティの精神性あふれる演奏に圧倒されます。大変なヴァイオリニストだったんですね。ヴォルフガング・シュナイダーハンもそれに負けず劣らず、素晴らしい演奏を聴かせてくれますし、こちらはフルトヴェングラーの演奏が素晴らしいです。これもMEMBRANのフルトヴェングラー/ザ・レガシー 107の中の1枚で、素晴らしい音質です。



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シューベルトの命日に輝く天才ピアニスト田部京子@浜離宮朝日ホール 2017.11.19

今日はシューベルトの命日。没後189年です。その記念すべき日に実に素晴らしい田部京子の弾くシューベルトの遺作ソナタ、イ長調D.959を聴かせてもらいました。彼女のピアノを聴くのは実質、今回が2回目ですが、前回同様、あるいはそれ以上にその演奏に魅了されました。プログラム後半のシューベルトだけでなく、前半のモーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスも最高の演奏でした。彼女こそ、音楽の神に選ばれた天才ピアニストと言っても過言でないでしょう。何せ、今日弾いたシューベルト、ベートーヴェン、ブラームスはいずれも大作曲家たちの後期作品の傑作・・・これをこんなに見事に演奏できるピアニストって、そうはいません。saraiは実際に聴いたピアニストで思い浮かぶのはアンドラーシュ・シフだけです。

今回のピアノ・リサイタルは田部京子が満を持して開始したシューベルト・プラスというコンサートシリーズの第3回です。田部京子と言えば、シューベルト。シューベルトと言えば、田部京子です。第1回の幻想ソナタ(第18番)は残念ながら聴き逃しましたが、第2回の遺作ソナタ、ハ短調 D. 958は最高の演奏でした。そのときのリサイタルの記事はここです。

以下に前回書いた田部京子の特徴についてに記事を再度掲載しておきます。今日も同じ印象でした。

------------------ここから引用開始-----------------------
いつも書くことですが、素晴らしい演奏を言葉で表現することは大変難しいことです。何とか表現してみましょう。田部京子の演奏は素晴らしいテクニックをベースとして、実に丁寧なアーティキュレーションとフレージングの表現が見事で、聴くものがその音楽にぐっと惹きつけられます。しかし、本当に凄いのはそういうことではなくて、彼女の優しく心の襞を撫でてくれるような深い詩情、あるいは味わい(初めて経験するような感覚なので適用な言葉が思い当たりません)に満ちた演奏です。
------------------ここまで引用終了-----------------------

さて、今日の演奏をまとめてみましょう。

まず、モーツァルトのピアノ・ソナタ第10番 ハ長調 K.330です。これは何というか、やはり、名曲です。ハ長調という基本的で単純な調でこそ、モーツァルトの真髄が聴けます。それを教えてくれたのは、クララ・ハスキルの録音です。これを超える演奏はありえないでしょう。以下の3つの録音が残っています。

 (1)...54/05/05-06、アムステルダム (Philips)
      セッション録音なのですが、音質的には期待したほどではありません。演奏はハスキルらしい素晴らしさです。

 (2)...57/08/08、ザルツブルク(モーツァルテウム) (ORF)
      ザルツブルク音楽祭のライヴ録音です。とてもライヴとは思えない素晴らしい音質です。演奏も最高です。第3楽章は素晴らしいテクニックですが、少し、さめた表現の感じです。第1楽章と第2楽章は最高の出来です。

 (3)...57/08/23、エジンバラ (THARA)  
      エジンバラ音楽祭のライヴ録音です。ほぼ、2週間前のザルツブルク・ライヴと同じ表現です。音質的にはザルツブルクよりもホールの残響を感じる感じでクリアーさは足りないかも知れませんが、これはこれでよい音質だと言えます。演奏はこの日のほうが好みです。いずれにせよ、この2つのライヴで聴けるハスキルの演奏はこの曲では最高のものだし、協奏曲を含めても、モーツァルト演奏の頂点のひとつと言えます。

モーツァルトを得意にしたハスキルですが、ピアノ・ソナタで録音を残しているのは、この第10番以外には、第2番 ヘ長調 K.280だけです。よほど、この作品に愛着があったのでしょう。この録音を聴くと、それがよく分かります。

ともあれ、今日の演奏に戻りましょう。田部京子の演奏も、ハスキルのことを忘れると、とても素晴らしい演奏です。まるでモーツァルト弾きと言ってもいいほど、モーツァルトにぴったりのピュアーな響きの演奏です。第2楽章の抒情的な表現も素晴らしかったのですが、とりわけ、第3楽章のシャープな演奏は魅力的でした。今時、こんなモーツァルトはなかなか聴けません。

次はベートーヴェンのピアノ・ソナタ第27番 ホ短調 Op.90です。これは驚愕してしまうほど、圧倒的に素晴らしい演奏でした。この曲がこんなにロマンティックな名曲であることをこの演奏で初めて知りました。今日の彼女の演奏は古今東西、最高の演奏かもしれませんが、この曲はこれまでノーマークでそれほど聴き込んだわけではありませんから、断言は控えましょう。ベートーヴェンには失礼かもしれませんが、ある意味、この曲はシューベルトのピアノ曲を先取りしたような曲であることを、今日の演奏で初めて感じ取れました。ベートーヴェンの後期ソナタはこの曲から始まりますが、ベートーヴェンは最後の3曲のソナタで彼のピアノ曲を完成させ、シューベルトは別の道を行き、彼の最後の3曲のソナタで彼のピアノ曲を完結させます。それらの端緒になったのがこのピアノ・ソナタ第27番 ホ短調 Op.90であることを実感しました。今回のコンサートで田部京子がこの曲を選択した意味が分かったような気がします。と言うか、分からせてくれるような演奏でした。この曲は今後、彼女の演奏で聴きたいものですが、残念ながら、今のところ、CDに録音していませんね。今日の演奏は第1楽章の祝祭的な気分のロマンティックな演奏が最高に素晴らしく、第2楽章のメロディアスな美しさも光っていました。ただ、曲自体の完成度で言えば、第2楽章のメロディーの装飾はシューベルトであれば、もっと見事なのになあと感じてしまったのも正直なところです。ですから、この曲はシューベルトの後期のピアノ曲の先駆けの地位に甘んじてしまうと思ってしまいました。やはり、ベートーヴェンは最後の3つのソナタの偉大さに尽きます。

前半のプログラムの最後はブラームスの4つの小品 Op.119です。ブラームスの残した最後のピアノ曲です。バート・イシュルで作曲された一連のピアノ曲の最後を飾る作品です。これらはすべて、大好きなピアノ曲です。それにしても、今日の田部京子の演奏の素晴らしいこと。こんな素晴らしいブラームスは初めて聴きました。第1曲の間奏曲のロマンティックな趣は究極さを感じます。続く2曲の間奏曲も見事としか言えない素晴らしさ。晩年のブラームスではありますが、全然、枯れたところはなく、若々しいロマンティシズムにあふれています。これまで、この曲の聴き方を間違っていたのかと反省させられてしまいます。そして、第4曲のラプソディーの祝典的な輝かしさはシューベルト、シューマンに連なるロマン派のピアノ曲の最後を飾ることを宣言するかの如くです。堂々たるフィナーレを聴いて、いたく感動しました。

こんな素晴らしい前半を聴くと、必然的に後半のシューベルトへの期待が高まります。心臓ばくばくの状態で後半の演奏が始まるのを待ちます。

後半のプログラムはシューベルトのピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959の1曲のみです。本当は今日はそれだけが聴きたくて、この会場に足を運びました。今年は既にこの曲はアンドラーシュ・シフの最高の名演を聴きました。そのときの記事はここです。
今日の田部京子の演奏も名演でした。シフの演奏とはまた異なる素晴らしさです。どっちがよかったなんて、比べるようなものではありません。どっちも最高! 同じ年に2つも名演が聴けるなんて、幸せです。
第1楽章はシューベルトらしい響きが力強く、時には繊細さを極めます。1音1音に意味と魂が籠められていて、こちらも集中力を高めて、1音も聴き洩らさないように身構えて、聴きとります。また、アーティキュレーションとフレージングの表現も極限に迫り、ちょっとしたところであっと言うような聴こえ方がします。ピアノ演奏の究極を聴く思いです。これは最後の第4楽章まで持続します。まさに演奏者の天才的な演奏に聴く者も最高の対応が求められます。一瞬の気の緩みも許されるものではありません。第2楽章に入り、そのあまりの美しさに言葉を失うほどです。ロマンの極みとでも言いましょうか、気持ちがとろけるような美しい抒情の世界が繰り広げられます。こういう表現に到達するまで、ピアニストはどれほど、譜面を読み込み、鍵盤を叩いてきたのでしょう。想像を絶するような鍛錬と知的なアプローチがあったのでしょう。もちろん、それを支える天分にも恵まれたに違いありません。第2楽章の中間部のファンタジックな表現も素晴らしく、決して、はめを外さない気品の高さも持ち合わせた演奏です。そして、また、抒情的なフレーズに回帰したときのさらなる美しさはこの世のものと思えません。完全にシューベルトの魂とピアニストの魂が合体しているとしか思えません。夢のような第2楽章が終わると、第3楽章のきらめくような響きが冴え渡ります。中間部の少し渋いパートの後、再び、きらめく響きに耳を奪われます。ふと気が付くと、ほとんど休止を入れずに第4楽章の郷愁に満ちた旋律が流れ始めます。ますます、音楽は高みに上っていきます。力強い部分を経て、再び、最初の郷愁を帯びた旋律が戻ってくるあたりで、この曲の頂点に上り詰めていきます。シューベルトのピアノ曲の最高峰とも思える音楽です。そして、終結部に向かっていきます。郷愁を帯びた旋律が止まっては前進を繰り返します。まるでシューベルトがこの世への惜別の念を表現したかのような部分です。田部京子の演奏は素晴らしいテクニックと美しいタッチに基づいていますが、素晴らしいのはそういうことではなくて、詩情に満ちた音楽を奏でてくれることです。最高の音楽が最高の演奏で響き渡ります。そして、意を決したように音楽はスピードを速めて突進していきます。感動のフィナーレです。しばらくは拍手もできないほどの感動に見舞われました。シューベルトの189回目の命日に最高のシューベルトを聴きました。ただ、それだけです。

もう、アンコールは不要です。何を弾いても野暮になります。でも、拍手に応えて、田部京子はピアノの前に座ります。何と流れてきたのは、アヴェ・マリア・・・シューベルトのご冥福を祈るための演奏です。無宗教のsaraiですが、思わず、手を合わせたくなるような天国的な美しさです。これ以上、今日のシューベルトの命日にふさわしい音楽はありません。ところで、てっきり、リストのピアノ編曲版だろうと思っていましたが、前半のオクターブで高い音でメロディーを弾く部分がちょっと違います。これはどうやら、吉松隆が田部京子のためにピアノ編曲し、それに田部京子が最終的に手を入れたもののようです。CDでも出ているようですが、今日の演奏はさらに手が入っているようにも思えましたが、どうなんでしょう。これはご本人に訊かないと分かりませんね。いずれにせよ、とてもCDに録音できないような究極の美しさでした。最後のアーメンで終わるところは吉松隆のアイディアのようです。

今日のプログラムは以下です。

  田部京子シューベルト・プラス 第3回

  ピアノ:田部京子
 
  モーツァルト: ピアノ・ソナタ第10番 ハ長調 K.330
  ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第27番 ホ短調 Op.90
  ブラームス:4つの小品 Op.119

  《休憩》

  シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959

  《アンコール》

   シューベルト「アヴェ・マリア」(編曲:田部京子、吉松隆)


前回も書きましたが、今年はピアノの当たり年。アンドラーシュ・シフ、アンジェラ・ヒューイット、田部京子の3人の演奏は最高でした。アンドラーシュ・シフのザルツブルク音楽祭を含む5回のコンサート。アンジェラ・ヒューイットのバッハの連続演奏会のうち、今年の4回のコンサート。そして、田部京子のシューベルト・プラス・リサイタル・シリーズの2回のコンサート。いずれも世界最高峰のピアノのコンサートでした。しかも、田部京子とアンジェラ・ヒューイットは来年も続きます。田部京子の次回のシューベルト・プラス・リサイタル・シリーズは来年の6月22日です。今日、会場で次のチケットが先行発売されて、またも最上の席をゲットしました。次はシューベルトの4つの即興曲 D. 935 Op. 142です。また、最高の名曲です。これでシューベルトの晩年の作品はピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D960と3つの小品(即興曲) D946を残すのみとなります。来年の11月19日はシューベルトの190回目の命日。まだ、アナウンスされていませんが、この節目となる記念の日にこそ、残りの曲は演奏されるべき曲です。スケジュールを空けて準備しておきましょう。そのときの最後のシメはまた、ブラッシュアップした「アヴェ・マリア」をお願いします。そうそう、ベートーヴェンかブラームスの晩年の名作も一緒にお願いしますね。



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       田部京子,  

抒情美を極めた巨匠の《悲愴》フェドセーエフ&チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ@宮崎芸術劇場 2017.11.11

フェドセーエフ指揮チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラによるチャイコフスキーの交響曲第6番ロ短調「悲愴」をちょうど、5年ぶりに聴きます。同じコンセプトによる演奏になるのかと思っていたら、全然、違いました。5年前に聴いたときの感想の記事はここです。
今日の演奏はある意味、オーソドックスな解釈の演奏で、5年前の実に個性的だった演奏とは違っています。もう、最初の第1楽章から、抑えた表現ではなく、全開モードの演奏が繰り広げられます。その抒情を極めた美しさは見事なもので実に魅惑されます。5年前に比べて、オーケストラのアンサンブルも整っています。オーケストラの響きは前回以上にロシア的な響きを離れて、西欧のオーケストラの響きと同様なモダンなものになりました。オーケストラの配置は対向配置で伝統的なロシアのオーケストラと同じですが、低音部の響きも軽くなり、高音弦のきらめきも美しくなりました。この5年間にアンサンブルの強化が図られたようです。フェドセーエフ自体も年齢を5つ積み上げて、高齢の85歳になりました。以前の快速フェドセーエフと呼ばれた頃からはスタイルを変えて、よりオーソドックスな演奏で音楽の美しさや抒情性を追求するようになったのでしょうか。少なくとも、今日の演奏ではそう思われてなりません。巨匠の音楽の集大成にかかったのでしょうか。そういう意味では、フェドセーエフのチャイコフスキーは最終の高みにさしかかったという強い印象を持ちました。第1楽章から第2楽章は抒情美の極み、第3楽章は劇的な盛り上がり、そして、圧巻だったのは第4楽章の感涙を誘うような、精神性の高い演奏です。以前も第4楽章は絶望感だけに陥るような弱々しい表現ではなく、言わば、雄々しい雄叫びのような表現でしたが、今回はそれに磨きがかかって、胸も張り裂けんばかりの叫びが抒情性に満ちた美しい響きで表現されました。終始、強い感銘を受け続けて、感動に至りました。大変、素晴らしい演奏であったと思います。しかし、これが終着点ではないような気がします。5年後、90歳になったフェドセーエフはどんな白鳥の歌を聴かせてくれるでしょう。強い期待感を持って、待っていましょう。大変な音楽が聴けるような予感がします。

前半の最初の2曲は当初のプログラムでは告知されていなかった曲目です。これはチャイコフスキーのピアノ曲からの編曲です。saraiも原曲のピアノ曲しか聴いたことがありません。編曲は当オーケストラ(旧称モスクワ放送交響楽団)で音楽監督をしていたアレクサンドル・ガウクです。1958年にモスクワ放送交響楽団を率いて、来日したこともあるそうです。編曲は木管を巧みに取り入れたメランコリックなものに仕上がっていました。あのオペラ《エフゲニー・オネーギン》の憂鬱さを思い出させるようなもので、それをフェドセーエフは見事に演奏しました。

前半の最後は三浦文彰のヴァイオリンによるチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。実は5年前に来日したプラハ・フィルとの共演で三浦文彰のヴァイオリンによるチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を聴いたことがあります。そのときの記事はここです。そのとき、彼はまだ十代でした。既にヴァイオリンの響きはとても美しいものでしたが、演奏はときに若さを露呈するものではありました。しかし、前途有望な可能性を秘めた演奏であったことを覚えています。それから、5年、二十代の半ばに差し掛かった三浦文彰のヴァイオリンは成熟し、響きはさらに甘さを加えて、魅惑的なものに成長。とても安定感のある演奏で、音楽性も高いものになりました。そういう彼のヴァイオリンを60歳も年長のフェドセーエフは優しくサポートし、ときにはインスパイアしながら、美しい演奏を繰り広げてくれました。とっても満足できる演奏でした。もちろん、課題がないわけではありません。これだけの魅惑的な響きを獲得した今、若い三浦文彰は安定した演奏という居心地のよい場所に身を置くべきではなく、さらなる高みを目指して、チャレンジャブルな演奏で、もがき苦しむ時期なのではないでしょうか。今日の演奏は安定した美しさに満ちていましたが、わくわくするようなスリルには欠けていたように感じます。もっと成長していく過程を見せてくれるように、1音楽ファンとしては期待するのみです。青年は荒野を目指し、世界を征服する気概で挑戦を続けてくださいね。ちなみに、彼のヴァイオリンを初めて聴いたのは彼が16歳の少年のとき。共演したオーケストラのコンサートマスター席に座っていたのはお父さんの三浦彰広でした。2009年のハノーファー国際コンクールで優勝した直後のことでした。弾いたのはサン=サーンスの《序奏とロンド・カプリチオーソ》でした。以来、何かと気になる存在です。

プログラムは以下です。

  指揮:ウラディーミル・フェドセーエフ
  ヴァイオリン:三浦文彰
  管弦楽:チャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ

  チャイコフスキー:『四季』Op.37bより (アレクサンドル・ガウクによる管弦楽編曲)
             10月 秋の歌
             11月 トロイカ
  チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35

   《アンコール》 パガニーニ:「うつろな心」変奏曲 より

   《休憩》

  チャイコフスキー:交響曲 第6番 ロ短調 「悲愴」Op.74

   《アンコール》

     チャイコフスキー:「白鳥の湖」Op.20a より“スペインの踊り”
     スヴィリードフ:「吹雪」より“ワルツ・エコー”

最後に予習について触れておきます。
まず、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は以下のCDを聴きました。

 2003年9月 アンネ・ゾフィー・ムター、アンドレ・プレヴィン指揮ウィーン・フィル ウィーン ムジークフェライン ライヴ録音
 1972,73年 ナタン・ミルシテイン、クラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィル セッション録音

ワディム・レーピン、ヴァレリー・ゲルギエフ指揮キーロフ管弦楽団も聴いておきたかったのですが、これは時間切れ。ムターの演奏はこの曲に限らず、最近、結構、はまっているのですが、この演奏も彼女の個性が十分に発揮された素晴らしいものです。派手過ぎ、グラマラスというネガティブな評価もあるかもしれませんが、無味乾燥に比べて、どれだけ、耳を楽しませてくれるか、是非、一聴をお勧めしたい名盤です。ミルシテインは彼のヴィルトゥオーソぶりを期待しましたが、彼なら、きっと、もっと弾けただろうという感じが残ったのが残念なところです。愛聴盤のヒラリー・ハーン、ダヴィッド・オイストラフは依然として、盤石の地位を占めています。

チャイコフスキーの交響曲第6番ロ短調「悲愴」は以下のCDを聴きました。

 1938年 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル
 1941年 ウィレム・メンゲルベルク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ
 1960年 フェレンツ・フリッチャイ指揮バイエルン放送響 ライヴ録音 モノラル
 1960年 エフゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル ムジークフェライン セッション録音 ステレオ
 
かなり、偏った予習になりました。フルトヴェングラーは戦前の録音ですが、意外に音質がよく、鑑賞には差支えがありません。彼はベートーヴェンだけでなく、ロマン派の交響曲も素晴らしいことを再認識しました。殿堂入りのような演奏です。同じく殿堂入りの一枚がメンゲルベルクです。若干、音質が冴えませんが、ポルタメントの甘さもさほど気にならず、フルトヴェングラーと双璧をなす戦前の素晴らしい演奏です。なお、1937年の演奏も世評が高いのですが、未入手でまだ聴いていません。
フリッチャイは1959年ステレオ録音のベルリン放送交響楽団とのコンビの演奏が名高いですが、今回は1960年のバイエルン放送響とのライヴ録音のモノラルCDを聴いてみました。表現は同様で溜めのきいたスケール感の大きい特有のものですが、モノラルとは言え、音質もよく、必聴の一枚です。
しかし、決定盤はやはり、ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルを置いて、ほかはないでしょう。何も言うことのないパーフェクトな演奏です。これ以上、望むものはありません。1956年のモノラル録音も聴いてみたいのですが、未聴です。



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偉大なる“平凡”・・・カヴァコス、ブロムシュテット&ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団@横浜みなとみらいホール 2017.11.09

ブロムシュテットは別に特別な表現をしているわけではありません。たんたんと楽譜にしたがって、音楽を積み重ねていくだけです。90歳という年齢に達して、枯れた表現になっているのではなく、彼のスタイルは以前から、こうでした。平凡と言えば、平凡なのかもしれませんね。昔のsaraiなら、こういう演奏を聴いて、格別に感銘は受けなかったでしょう。ブロムシュテットが年齢を重ねたと言うよりも、saraiが年齢を重ねたということなのでしょう。音楽に対して、受容できる幅が広くなりました。ブロムシュテットの“平凡”はsaraiにとって、言わば、偉大なる“平凡”とでも言うのでしょうか・・・その何でもないような普通の演奏の底に深い精神世界が垣間見えるような感じです。後で触れますが、もちろん、フルトヴェングラーのような超天才指揮者のあり得ないような演奏があることは分かっていますが、それでも今日のようなシューベルトはなかなか聴けるようなレベルの演奏ではありません。
第1楽章はもうひとつの感じで始まりましたが、コーダに至っては大変な盛り上がりです。ここで誰も拍手しないのは当たり前とは言え、心の中では大拍手です。素晴らしかったのは第2楽章。これこそ、タイトルの通り、「ザ・グレート」です。(交響曲第6番ハ長調が小ハ長調で、この交響曲第8番ハ長調が大ハ長調と区別するために「ザ・グレート」と名付けられていることは分かっていますが、長さだけでなく、内容的にも偉大な作品だとsaraiは思っています。)シューベルトの長大な作品に対してよく言われるように、天国的な美しさが滲み出るような素晴らしい演奏です。うっとりという気持ちを通り越して、強い感銘を受けます。第3楽章も分厚い響きで迫力のある演奏です。トリオはまた美しい舞曲が魅惑的に響きます。そして、圧巻だったのは第4楽章です。これぞ、ロマンの極みという素晴らしい演奏です。シューベルトの面目躍如たる、懐かしくも美しいメロディーが次々と現れますが、その演奏はパーフェクトです。美しさだけでなく、わくわくするような生命感に満ち溢れています。来たるべきシューマンの交響曲やブラームスの交響曲の出現を予感させるような、ロマン派の交響曲の誕生を告げる内容に心が沸き立ちます。そして、感動のフィナーレです。とっても、とっても、満足しました。

前半のブラームスも素晴らしい演奏でした。カヴァコスのヴァイオリンが美しさと精神性の両面を兼ね備えていることに驚愕しました。以前聴いたときには、もっと荒っぽい表現で外面的な効果を強調していたような記憶があります(シマノフスキーのヴァイオリン協奏曲第2番だったので、作品の印象とごっちゃになったのかもしれません。)。今日は静謐な美しさが漂う見事な演奏でした。ブロムシュテットの音楽ともぴったり合っている感じで、大満足の演奏でした。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
  ヴァイオリン:レオニダス・カヴァコス
  管弦楽:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

  
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調op.77
     ※ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(指揮:ブラームス・ヴァイオリン独奏:ヨアヒム)により1879年1月1日初演

     《アンコール》 J.C.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調 BWV1004より、第3曲サラバンド

     《休憩》

    シューベルト:交響曲 第8番 ハ長調D.944「ザ・グレート」
     ※ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(指揮:メンデルスゾーン)により1839年3月21日初演


今回の予習はシューベルトは以下のCDを聴きました。

 1951年 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル ベルリン、イエス・キリスト教会 セッション録音
 1979~81年 ヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン ドレスデン、ルカ教会 セッション録音

フルトヴェングラーのCDを聴いて、腰を抜かしそうになりました。フルトヴェングラーの指揮するベートーヴェンの交響曲を上回るのではないかと思うような素晴らしさで、この曲の真髄を教えられました。天才シューベルトの音楽を天才フルトヴェングラーが演奏するとこうなるのねって感じです。シューベルトの底知れぬ魅力に今更ながら、目覚めました。音質も最高です(MEMBRANのフルトヴェングラー大全集(107枚))。ベートーヴェンの交響曲第9番はフルトヴェングラーが余人の追随を許しませんが、同様にこのシューベルトの交響曲第8番も最高です。すべてのCDを聴いたわけではありませんが、こんな演奏は誰にも真似できないでしょう。
ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデンのシューベルト交響曲全集は目下、saraiの一番のお気に入りのシューベルトの交響曲のCDです。今日のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団はそのシュターツカペレ・ドレスデンに優るとも劣らないレベルの演奏だったのにびっくりです。

ブラームスは以下のCDを聴きました。

 1949年 イェフディ・メニューイン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ルツェルン祝祭管弦楽団 セッション録音
 1948年 ジネット・ヌヴー、ハンス・シュミット・イッセルシュテット指揮北西ドイツ放送交響楽団 ハンブルク・ムジークハレ、ライヴ録音
 1974年 ナタン・ミルシテイン、オイゲン・ヨッフム指揮ウィーン・フィル

フルトヴェングラーの演奏はやはり破格です。まるでブラームスの交響曲を聴いているようです。精神性の高い演奏でメニューインのヴァイオリンも格調が高いものです。世評に高いヌヴーのヴァイオリンは熱い演奏です。これ以上の濃厚なロマンはあり得ないでしょう。イッセルシュテット指揮北西ドイツ放送交響楽団も素晴らしいです。ミルシテインは彼らしい美しい響きですが、もうひとつ乗り切れていないかな。ヨッフム指揮ウィーン・フィルは美しい演奏です。

ところで、今日の演奏曲目はいずれもライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団が初演したものです。凄いですね。さらに私事ながら、いずれの曲もsaraiの今年のヨーロッパ遠征で訪れた地で作曲されたものというつながりもあります。ブラームスはクラーゲンフルト近くの保養地、ヴェルター湖畔の町ペルチャッハで作曲されました。マーラーの作曲小屋がヴェルター湖畔にあるので訪れましたが、ついでにヴェルター湖の観光船に乗って、このペルチャッハも訪れました。ただ、真夏の盛りで暑かった! シューベルトはザルツブルク近くのチロルの温泉地バート・ガシュタインで作曲されました。saraiはそんなことは今日まで気が付きませんでした。単にチロルの温泉に入りたかったので訪れたんです。大変、風光明媚なところでした。いずれも偶然です。



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感動!シベリウス:クレルヴォ交響曲 リントゥ&東京都交響楽団@東京文化会館 2017.11.8

感動しました。フィンランド独立100周年を記念したコンサートでしたが、期待を上回る素晴らしい演奏でした。まず、讃えたいのはハンヌ・リントゥのダイナミックな指揮です。オーケストラと合唱を鼓舞するかのように激しく体を動かしながら、熱く音楽を盛り上げます。それに応えた都響はあくまでも精密なアンサンブルを崩しません。まるで室内オーケストラのような緻密な響きを聴かせてくれました。ふと頭によぎったのは、ベルグルンド&ヨーロッパ室内管弦楽団のシベリウス交響曲全集です。あれは素晴らしい最高の演奏でした。ただ、残念だったのはこのクレルヴォ交響曲が全集に含まれていなかったことです。しかし、まるでそのベルグルンド&ヨーロッパ室内管弦楽団がクレルヴォ交響曲を演奏しているかのような今日の演奏です。精密で切れのあるシベリウス。そして、生き生きと躍動している音楽です。さらに第3楽章からはフィンランドからやってきたフィンランド ・ポリテク男声合唱団の澄んだ歌声が加わります。メゾソプラノのニーナ・ケイテルとバリトンのトゥオマス・プルシオも完璧な歌唱で見事です。第3楽章終盤のケイテルの歌唱には鳥肌が立ちます。クレルヴォの妹役の彼女が歌い終えて、一瞬の静寂があります。まさにこの瞬間、クレルヴォと結んではいけなかった関係を持った妹は絶望のあまり、急流に身を投げて、命を絶ったことを悟らされます。そして、クレルヴォ役のプルシオが悲痛に満ちた雄叫びのような圧倒的な歌唱で続きます。怒涛のような音楽に大変な感銘を受けました。最後の第5楽章は熱いオーケストラの響きに精妙な男声合唱が加わり、次第にヒートアップしていきます。圧倒的なフィナーレに深く感動しました。都響の精密で切れのいいアンサンブルに本場のフィンランドからの指揮者と声楽が加わった演奏は滅多に聴けない素晴らしさでした。多分、もう2度と聴けない最高のクレルヴォ交響曲でした。この場にいれて、実に幸運でした。

さらにまだ、予告されたアンコールという前代未聞のものが演奏されます。男声合唱付きの交響詩《フィンランディア》です。これは痺れました。何て熱い演奏なんでしょう。本場のオーケストラでもこういう熱い演奏はしないでしょう。指揮のリントゥと都響が一体になって熱い音楽を繰り広げます。そして、後半は男声合唱が加わり、感動的に音楽が盛り上がっていきます。未曽有のフィナーレでした。さきほどのクレルヴォ交響曲と同様の素晴らしい演奏でした。

今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:ハンヌ・リントゥ
  メゾソプラノ:ニーナ・ケイテル
  バリトン:トゥオマス・プルシオ
  男声合唱:フィンランド ・ポリテク男声合唱団
  管弦楽:東京都交響楽団

  シベリウス:クレルヴォ交響曲 op.7

   《予告付きアンコール》

   シベリウス:交響詩《フィンランディア》 op.26(男声合唱付き)

こんな素晴らしい音楽を聴かせてくれる都響に感謝します。が、都響の来年度のプログラムのあまりの魅力のなさは如何ともしようがありません。8年間続けてきた定期会員の継続は見送ることに決めました。来季からは読響と東響に鞍替えします。今年度の都響のコンサートは魅力的なものがまだ続きます。来年3月のインバルの指揮によるコンサートで永年の関係も終止符を打ちます。また、都響の会員に復帰できるようにプログラムの魅力アップに取り組んでください・・・。



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J.S.バッハ 平均律クラヴィア曲集 第1巻 名盤を聴く

昨日聴いたアンリ・バルダのJ.S.バッハの平均律クラヴィア曲集第1巻の演奏があまりにバッハらしさから遠いところにあったので、そっちばかりに頭がいって、J.S.バッハの平均律クラヴィア曲集第1巻のCDについて、言及するのを忘れていました。予習したCDは以下です。

 スヴャトスラフ・リヒテル、1970年7月、セッション録音、ザルツブルク、クレスハイム宮およびエリーザベト教会
 フリードリヒ・グルダ、1972年、セッション録音
 アンドラーシュ・シフ、2011年、セッション録音、スイス、ルガーノ


この平均律クラヴィア曲集は第1巻と第2巻から成り、それぞれ、24のプレリュードとフーガの楽曲です。第1巻だけでもCD2枚で2時間弱の長さなので、まとめて3つも聴くのは初めてです。まとめて聴くと、今更ながら、この曲集が理解できてきます。いつものその量と内容で圧倒されて、頭にしっかりと入ってきません。複数のピアニストの演奏をまとめて聴くと、おぼろげながら、その実像が明確になってきます。プレリュードは速い曲とゆったりした曲という違いはありませすが、旋律線が明確で美しい楽曲です。続くフーガが難物です。抽象的なフーガ主題の楽曲が多いんです。大袈裟に言えば、シェーンベルクの無調音楽を連想させるものもあります。分かりやすい旋律を排しているかのようです。しかし、その抽象的な主題が繰り返して現れることで曲の後半には次第に明確な存在感を示してきます。その感覚たるや、大伽藍を築き上げているかの如くです。このフーガをいかに見事に演奏するかというところでピアニストの力量が問われます。リヒテル、グルダ、シフはその点、別格ですね。とりわけ、グルダはフーガを恐ろしくスローに、しかも明晰に弾き、顕微鏡的な演奏を聴かせてくれます。最後の第24番のロ短調のフーガはスローな演奏で主題を積み上げて、後半は感動の頂点に至ります。バッハの平均律クラヴィア曲集が何たるかを教えてくれるような最高の演奏です。リヒテルの幻想的な演奏、シフの美しい響きの演奏も素晴らしいです。実はこれは来年のアンジェラ・ヒューイットのリサイタルに向けての予習スタートでもあるので、彼女のCDはあえて聴かずに最後にとってあります。
で、昨日のバルダの異形のバッハでした。何となく、そのままでは気持ちが悪いので、今回は異例の復習をしました。バルダのライヴがあんなのだったので、ライヴのCDを聴くことにしました。

 スヴャトスラフ・リヒテル、1973年、ライヴ録音、インスブルック


リヒテルの平均律クラヴィア曲集第1巻と第2巻をまとめた録音は予習したセッション録音とこのライヴ録音の2つだけです。リヒテルの平均律クラヴィア曲集と言えば、普通はセッション録音のことをさします。ライヴ録音は入手性が悪いこともあって、あまり知られていないようです。今回、初めて、このインスブルック・ライヴを聴きましたが、最高に素晴らしい演奏で音質も上々です。第8番や第24番のフーガは感銘して聴き入ってしまいました。セッション録音と同時期の演奏ですが、やはり、リヒテルにはライヴが似合います。リヒテル自身も満足の演奏のようです。
実はエトヴィン・フィッシャーの伝説の名演も聴き始めましたが、第1番だけ聴いたところであまりの音質の悪さに聴くのを中断しています。EMI盤(非ART処理)に比べるとMEMBRAN盤はまだ良いほうですが、それでも聴き通す気にはなれません。ART処理されたEMI盤はどうなんでしょう。

この平均律クラヴィア曲集は鍵盤音楽ですから、ピアノではなくチェンバロ演奏もあります。以前、ヴァルヒャのレコードを聴きましたが、そのほかにグスタフ・レオンハルト、スコット・ロスも名盤を残しています。これも聴かないとね。



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アンリ・バルダ ピアノ・リサイタル@横浜上大岡ひまわりの郷ホール 2017.10.29

良くも悪くもいかにもアンリ・バルダらしさを貫いたピアノ・リサイタルでした。アンリ・バルダの特徴はその鋼鉄のような強靭で狂いのないタッチです。レベルは違いますが、ホロヴィッツを思い出させるところもあります。今の若いピアニストのようなシャープな演奏スタイルではありません。このバルダらしさを前面に押し出したようなスタイルでバッハを弾きまくりました。ペダルを多用して、思いっ切り、レガートをきかせて、ロマン派の音楽のような感じでバッハの傑作を大きな響きで弾いたんです。あまり、今時聴かないようなバッハですが、何せバッハの傑作は許容力に満ちていますから、これはこれで聴きものではあります。ところが今日のバルダはちょっと歯車が狂っていて、いつもの正確無比なピアニズムではありません。それなりに楽しめたのですが、さすがに聴き進むうちにその大時代的なバッハは耳にうるさく感じました。同じようなアプローチながら、名演奏を聴かせてくれたリヒテルの偉大さとは比肩できませんね。そうそう、リヒテルもロマンティックな弾き方ではありましたが、スローなテンポで静謐なバッハを聴かせてくれました。今日のバルダは正確さを欠いた上にテンポが速すぎて、せかせかした印象をぬぐえませんでした。パーフェクトなバルダが弾くバッハを聴きたかったところです。多分、それでもアプローチがsaraiには向かないような気がしますけどね。ちなみにバッハの平均律の中でもとりわけ傑作と思われる第8曲のフーガは演奏途中で止まってしまい、最初からの弾き直し。プロのピアニストが弾き直しするのは初めて聴きました。これもテンポがあまりに速すぎたためだと思われます。

シューベルトの即興曲はバッハとはまったく性格の異なる音楽ですが、バルダの同じようなアプローチが気になります。がんがん響かせて、速いテンポでの演奏です。saraiはしみじみとした演奏が好きなので、ちょっと引いてしまうところもあります。デモーニッシュなソナタでも聴いているような感覚に陥ります。そう言えば、今日のプログラムは当初、シューベルトの最後の遺作ソナタの第21番だったんですが、そのほうがよかったような気がします。

アンリ・バルダらしさは全開の演奏でしたが、選曲がよくなかったような気がしました。やはり、バルダにはラヴェルが一番似合います。

この日のプログラムは以下の内容です。

 ピアノ:アンリ・バルダ

 J.S.バッハ:平均律クラヴィア曲集 第1巻
  第1曲ハ長調BWV846
  第8曲変ホ短調BWV853
  第4曲嬰ハ短調BWV849
  第19番イ長調BWV864
  第20番イ短調BWV865

 シューベルト:即興曲集 D.899

  《休憩》

 J.S.バッハ:平均律クラヴィア曲集 第1巻
  第23番ロ長調BWV868
  第18番嬰ト短調BWV863
  第12曲ヘ短調BWV857

 シューベルト:即興曲集 D.935

  《アンコール》

    ショパン:即興曲第1番変イ長調 Op.29
    J.S.バッハ:平均律クラヴィア曲集 第1巻 第24番ロ短調BWV869
    J.S.バッハ:平均律クラヴィア曲集 第1巻 第23番ロ長調BWV868



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不思議な魅力のイブラギモヴァ・・・東京都交響楽団@サントリーホール 2017.10.25

バルトークのヴァイオリン協奏曲第2番は正直なところ、ちゃんとついていけたわけではありません。アリーナ・イブラギモヴァのヴァイオリンはそれほど美音ではないのですが、何かくぐもった響きの先に凄いものがあるような感じを抱きつつ、それが何なのかがよく分からないまま最後までいってしまいました。静と動が交錯する中、動は迫力のある響きでちゃんと受け止めることができますが、静は不思議な精神性というか、幻想性が漂う高度に芸術的とも思える演奏で、なかなか、その音楽の核心をつかみ取ることができませんでした。大好きなバルトークで素晴らしい演奏のようにも思えたのに、saraiの感受性が不足していたとしか言いようのない、悔しい聴き方になってしまいました。都響の演奏はとても美しい響きで、ある意味、イブラギモヴァのヴァイオリンと音楽性の違いがあったのですが、それはそれで却って面白い対照になっていました。彼女のヴァイオリンをもう一度聴き直す機会があればと反省する結果になりました。

後半はフランクの交響曲 ニ短調。小泉和裕の指揮も手堅く、ロマン派の香り高い、美しい響きの演奏でした。大変、満足しました。とりわけ、弦と木管の響きに都響のレベルの高さを感じずにはいられせんでした。

今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:小泉和裕
  ヴァイオリン:アリーナ・イブラギモヴァ
  管弦楽:東京都交響楽団

  バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番 Sz.112

   《休憩》

  フランク:交響曲 ニ短調

ところで都響の来年度のプログラムが送られてきましたが、なんとも魅力に欠ける内容にがっくり。来季も定期の会員を続けるかどうか迷っています。読響と東響に鞍替えしようかとも本心で思っています。都響のアンサンブルの良さには満足しているのですけどね。2010年に定期会員になって、以来8年間聴き続けてきただけに残念な気もしますが・・・。



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       イブラギモヴァ,  

小川典子ピアノ・リサイタル@ミューザ川崎シンフォニーホール 2017.10.21

ミューザ川崎シンフォニーホールのホールアドバイザーの任についている小川典子が企画したNoriko's Day Vol.5と題するピアノ・リサイタルに出かけてみました。デビュー30周年記念演奏会でもあるそうです。彼女が英国でピアノを学んでいるときに出場したリーズ・ピアノ・コンクールでいきなり3位になって、それを機にプロ・デビューを果たして30年だそうです。本人は歳がわかってしまうせいか、30周年は隠しておきたかったそうです(笑い)。

今日の小川典子の演奏ですが、saraiはもう一つに感じました。期待が大き過ぎたのかもしれません。今日のゲストでもあった若い日本人女性作曲家の山根明季子のなかなかの難曲を弾いたために、肝心のベートーヴェンとリストまで力がまわり切らなかったのかもしれません。

今日のプログラムは以下です。

  ピアノ:小川典子

  ベートーヴェン:英国国歌 「ゴッド・セイヴ・ザ・キング」による7つの変奏曲 WoO 78
  ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 Op.57「熱情」
  
   《休憩》

山根明季子:イルミネイテッドベイビー(第9回浜松国際ピアノコンクール課題曲)
  リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調
    


最初の曲のベートーヴェンの《英国国歌 「ゴッド・セイヴ・ザ・キング」による7つの変奏曲》は珍しい曲ですね。初めて聴きました。もちろん、予習はしました。何とか以下の2つのCDを見つけて聴きました。

 ブレンデル ベートーヴェン:変奏曲&バガテル集より
 ムストネン ドイツ・グラモフォン ベートーヴェン大全集より


ブレンデルは正統的で美しい演奏。ムストネンはチャレンジャブルな独創性あふれる素晴らしい演奏。小曲ながら堪能しました。

小川典子は最初の主題(英国国歌)のしっかりした明快な演奏が素晴らしいです。続く変奏はまあまあ、普通の演奏です。

2曲目はベートーヴェンの大傑作の「熱情」です。昨日のブログで書いた通り、大予習を敢行して、今日の演奏に備えました。それほど、期待していました。でも、期待に応えてくれる演奏にはなりませんでした。残念です。無論、演奏に傷があったとか、テクニックが不足したというレベルの話ではありません。何と言うか、彼女がどういうコンセプトで演奏しているのか、ちっとも伝わってこなかったんです。こういう有名曲はそれなりに演奏者が考え抜いた構想を示してもらいたいと思っています。彼女くらいのレベルのピアニストなら、立派な演奏をすることは当然のことです。我々ファンはその上を期待してしまいます。まあ、今日の演奏は普通の演奏。極論すると誰が弾いても同じという演奏でした。少し手厳しいかもしれませんが、この曲を弾くのであれば、それなりの覚悟で弾いてもらいたいと望みます。彼女ならば、できる筈ですからね。

休憩後、作曲者の山根明季子がハロウィン用のキュートな衣装で登場。自作の紹介をしてくれます。ベートーヴェン、リストの作品から200年後の自作への思い入れを語ってくれました。で、小川典子の演奏は素晴らしかったです。曲もポップな感じでカワイイ系の雰囲気。音響系の作品だそうですが、トナーリティを感じます。もっとノントナールな感じでもよかったかもしれませんが、将来性を感じる作風です。それにしても小川典子の演奏は見事でした。よほど練習したんでしょう。「熱情」がある意味、準備不足になったのはその余波かもしれません。とても楽しめる作品と演奏でした。

最後はリストの《ピアノ・ソナタ ロ短調》。これまた、ロマン派を代表する名曲中の名曲です。これはなかなか素晴らしい演奏でした。完璧なテクニックで聴く者を魅了する演奏です。惜しむらくは恍惚感がもうひとつ足りなかった点です。それさえあれば、これまで聴いたアヴデーエワグリモーの演奏とも肩を並べるレベルだったんですけどね。ちなみに予習したCDはラザール・ベルマンの個性的な演奏。ベルマンもなかなかのピアニストです。


最後にアンコールに代えて、7人のアマチュアのピアニストが登場するということでしが、それは失礼させてもらいました。


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ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 Op.57《熱情(アパッショナータ)》の名盤を聴く

明日、ミューザ川崎で小川典子のピアノ・リサイタルを聴くので、今更ですが、有名曲のベートーヴェンのピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 Op.57《熱情(アパッショナータ)》のCDをまとめて聴くことにしました。有名曲なので、膨大なCDがありますが、名盤と言われるものはすべて聴くことにします。特に名人の演奏は手に入る限りのCDをすべて聴くことにします。
それにしても、この曲はこれまでもずいぶん聴きましたが、今回まとめて聴くと、ベートーヴェンが中期の創作力がみなぎった時期に作り上げた大傑作であることを再認識しました。彼が持てる知性と情熱を最大限つぎこんだことが分かります。中期でこれに匹敵するのは交響曲第5番ハ短調《運命》と弦楽四重奏曲のラズモフスキーです。そういう大傑作ですから、ピアニストたちも並々ならぬ気持ちで演奏に臨んでいます。平凡な演奏など、一つとしてありません。いずれも彼らが知性と情熱の限りをつぎこんで、この作品と対峙していることが分かりました。また、ピアニストたちは確固としたコンセプトでこの作品を演奏しており、それぞれの個性を発揮しています。複数の録音を残しているピアニストたちはその初期の録音と続く後の録音でまったくコンセプトを変えていないことに驚きました。時間の経過で変わったのは演奏時間が伸びることだけです。もちろん、高齢で技巧は衰えている場合もありますが、代わりに心のこもった清澄な響きで聴くものの魂に語りかける演奏でカバーしています。いずれにせよ、若い頃と年齢を重ねた頃でコンセプト自体が変わっていないということは若い頃からこの作品に対して並々ならぬ思いで作品解釈を行っていたということなんでしょう。すべての名人たちがこの作品に強い情熱を傾けていたという事実に感銘を受けました。

聴いたCD、DVDは以下です。計33枚です。全集盤からと単発盤があります。


全集盤からの1枚(計15枚)

アルトゥール・シュナーベル 1933年録音 セッション録音 モノ
ヴィルヘルム・ケンプ  1951年録音 セッション録音 モノ
イーヴ・ナット 1954年録音 パリ、サル・アディアール セッション録音 モノ
ソロモン  1954年録音 セッション録音 モノ
フリードリヒ・グルダ 1957年録音 セッション録音 モノ
ヴィルヘルム・バックハウス 1959年録音 セッション録音 ステレオ
ヴィルヘルム・ケンプ  1964年録音 ハノーファー、ベートーヴェンザール セッション録音 ステレオ
クラウディオ・アラウ 1965年録音 セッション録音 ステレオ
フリードリヒ・グルダ 1967年録音 セッション録音 ステレオ
アルフレード・ブレンデル 1971年録音 セッション録音 ステレオ
エミール・ギレリス 1973年録音 ベルリン、イエス・キリスト教会 セッション録音 ステレオ (第32番を除く準全集盤)
クラウディオ・アラウ 1986年録音 セッション録音 ステレオ
アルフレード・ブレンデル 1994年録音 セッション録音 ステレオ
マウリツィオ・ポリーニ 2002年録音 ミュンヘン、ヘルクレスザール セッション録音 ステレオ
アンドラーシュ・シフ 2006年録音 セッション録音 ステレオ

単発盤あるいはソナタ集からの1枚(計18枚)

ルドルフ・ゼルキン 1947年録音 ニューヨーク、コロンビア30番街スタジオ スタジオ録音 モノ
ルドルフ・ゼルキン 1962年録音 ニューヨーク、コロンビア30番街スタジオ スタジオ録音 ステレオ
スヴャトスラフ・リヒテル 1959年録音 キエフ ライヴ録音 モノ
スヴャトスラフ・リヒテル 1959年録音 プラハ ライヴ録音 モノ
スヴャトスラフ・リヒテル 1960年録音 モスクワ ライヴ録音 モノ
スヴャトスラフ・リヒテル 1960年録音 ニューヨーク、カーネギーホール ライヴ録音 モノ
スヴャトスラフ・リヒテル 1960年録音 ニューヨーク、ウェブスター・ホール ライヴ録音 ステレオ
スヴャトスラフ・リヒテル 1992年録音 アムステルダム、コンセルトヘボウ ライヴ録音 ステレオ
クラウディオ・アラウ 1960年録音 ロンドン、スタジオ録音 モノ
クラウディオ・アラウ 1971年録音 イタリア、ブレシア ライヴ録音 モノ
クラウディオ・アラウ 1973年録音 ドイツ、シュヴェツィンゲン ライヴ録音 ステレオ
クラウディオ・アラウ 1983年録音 ニューヨーク、エヴリー・フィッシャー・ホール 80歳バースデーコンサート ライヴ録音 ステレオ DVD
クラウディオ・アラウ 1983年録音 ミュンヘン、ドイツ博物館 ライヴ録音 ステレオ
グレン・グールド 1967年録音 ニューヨーク、コロンビア30番街スタジオ スタジオ録音 ステレオ (全32曲のうち、22曲を録音)
ウラディミール・ホロヴィッツ 1972年録音 ニューヨーク セッション録音 ステレオ
マレイ・ペライア 1982年録音 セッション録音 ステレオ
アンドラーシュ・シフ 1996年録音 セッション録音 ステレオ
マウリツィオ・ポリーニ 2002年録音 ウィーン、楽友協会 ライヴ録音 ステレオ


いずれもベートーヴェン弾きが並んでいます。あえて、ベートーヴェン弾きと呼ぶのがためらわれるのはリヒテル、ホロヴィッツあたりでしょうか。2人は20世紀を代表するピアノの巨人ですね。そうそう、グレン・グールドは異端と呼んでもいいかもしれません。この中で存命中はマレイ・ペライア、アンドラーシュ・シフ、マウリツィオ・ポリーニだけですが、彼らも立派なベートーヴェン弾きだとsaraiは思っています。そのほかの11人は20世紀のベートーヴェン弾きたちです。全集を残していないのはルドルフ・ゼルキンだけですが、どうしてなんでしょう。商業主義に背を向けていたからかもしれません。聴けなかったピアニストもいます。代表格がワルター・ギーゼキング。何故か、縁がありません。モーツァルトとかドビュッシーでは欠くことができませんけどね。カッチェン、ブッフビンダー、ベルマン、ソコロフあたりも気になる存在ではあります。アシュケナージもいますね。そう言えば、女性ピアニストが一人もいないことに気が付きました。ピリスあたりは聴くべきかもしれません。愛するクララ・ハスキルはこの曲の録音が残っていません。彼女の《熱情(アパッショナータ)》はさぞや素晴らしかったことでしょう。残念ながら、レパートリーになかったようです。

それではピアニスト別に印象を述べていきます。ピアニストの最初の録音年が古い順でいきます。

まず、アルトゥール・シュナーベルですが、これは初めてのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲録音です。1930年代の録音とは思えないほど、音質もよく、演奏も現在の我々が聴いても違和感がなく、惹き込まれる演奏です。もし、これしかCDがなかったとしても、これで十分、満足できそうです。

次いで、ルドルフ・ゼルキンです。ルドルフ・ゼルキンと言えば、これまで、アドルフ・ブッシュの若き伴奏者という印象が強かったんですが、楽器こそ違え、アドルフ・ブッシュのドイツ音楽の伝統を立派に継承している人ですね。アドルフ・ブッシュ同様、実にナイーヴな音楽を奏でます。美しいピアノの響きが耳に残ります。自然で無理のない音楽に心惹かれます。ウィーンで音楽を学んだことも底流にあるんでしょう。最近になって、彼の素晴らしさが分かってきました。1947年録音もよい音質です。1962年録音はさらによい音質なので、入手性で言えば、1962年録音を聴けばよいのかもしれません。カップリングの悲愴と月光はまだ聴いていませんが、よい演奏であることは確実でしょう。

ヴィルヘルム・ケンプのステレオ録音は昔からよく聴いてきた演奏です。変な言い方ですが、とても分かりやすい演奏です。どれか1枚と言えば、これを聴いていたら間違いないという感じに思えます。1951年のモノラル演奏もとてもよい音質の録音でステレオ録音にも負けていません。どっちを選んでも同じですが、これも入手性のいいのはステレオ録音のほうです。

イーヴ・ナットは後期ソナタを聴いて、本当に驚嘆しました。何と言うか、新鮮な演奏に接したときの喜びと感動を覚えました。今回、とても期待して聴きましたが、後期ソナタほどの出来には思えませんでした。でも、十分に素晴らしい演奏ではありました。期待が大き過ぎたのかもしれません。

逆にあまり期待しないで聴いたソロモンは何と何ととても素晴らしい演奏ではありませんか。ソロモンの株が急上昇です。

フリードリヒ・グルダのステレオ録音もケンプ同様に昔から聴いてきた演奏で、これもしっくりとくる演奏で何の文句もありません。1957年の古いモノラルの録音は今回、初めて聴きましたが、とても音質のよい録音で、演奏もステレオ録音のものと同様に素晴らしいです。勢いで言えば、古い録音のほうが上かもしれません。どちらもこれがウィーン風と言うのか、自然で肩から力が抜けたような演奏です。ずっと子供の頃から馴染んできた音楽をさらっと弾くという風情です。とりわけ、第2楽章の後半の変奏の美しさには舌を巻きます。これに匹敵できるのはブレンデルくらいかな。ブレンデルもウィーンのピアニストですね。

ヴィルヘルム・バックハウスは何となく相性の悪いピアニストですが、とっても立派な演奏です。でも、だから何?という印象はあります。

スヴャトスラフ・リヒテルは一連のライヴ録音を残しています。爆演かなと思って聴いたら、意外に繊細な感じもあります。モノラルのライヴ録音もそこそこの音質で鑑賞に十分に堪えます。どれも同じような演奏ですが、プラハのライヴあたりがよいでしょうか。有名なカーネギーホールのライヴもまあまあの音質で緊張感のある演奏です。素晴らしかったのはやはり、昔から代表盤として聴かれているカーネギーホールのライヴの後でRCAが録音したウェブスター・ホールのライヴ録音です。まるでスタジオ録音のような最高の音質でリヒテルらしいスケールの大きな演奏が聴けます。30年後のコンセルトヘボウのライヴ録音はさらに音質がよく、演奏時間は遅くなっていますが、とても美しい演奏です。晩年のリヒテルもこの曲のコンセプトは変わりません。プラハ、カーネギーホール、ウェブスター・ホール、コンセルトヘボウの4枚のライヴはリヒテルのファンならずとも聴き逃がせないところです。

次いで、ベートーヴェンと言えば、何と言っても、クラウディオ・アラウの新旧の全集録音がsaraiが一番好きな演奏です。ただし、この曲に関してだけはスローで溜めのきいた演奏は異質の演奏と言わざるを得ません。ある意味、聴きごたえはあるのですが、この曲の持つ颯爽としたところは微塵も表現されていません。アラウ自身ももちろん、承知の上での演奏なのでしょう。ライヴもすべて同じ表現になっています。ひとつだけ選ぶのなら、最後の全集録音が清澄な演奏で好きな演奏ではあります。ただし、じっくりと付き合って聴く覚悟は必要です。

で、問題の異端児、グレン・グールドです。これはありきたりの演奏に聴き飽きた人だけが聴くべきでしょう。第1楽章と第2楽章の天国的と言うか、歩みののろさには驚嘆するのみです。この遅さでどうピアノを弾くのか、聴いてみなければ、だれにも予測不可能でしょう。演奏はそれでも美しいんですから、やはり、天才なんでしょう。この曲の解釈は凡人のsaraiには理解不能ではあります。不思議に第3楽章だけは普通なのも変なところです。

アルフレード・ブレンデルですが、やはり、素晴らしいですね。聴いたのは2回目と3回目の全集からの演奏ですが、saraiも歳をとって、彼の素晴らしさが分かるようになった気がします。美しいタッチで正統的な演奏ですが、底流にはウィーンの音楽が流れています。ともかく、とっても美しいとしか表現できません。

20世紀の最高のピアニストだったウラディミール・ホロヴィッツはやはり、彼らしい硬質のタッチで見事な演奏を聴かせてくれます。しかもベートーヴェンを逸脱しているわけではなく、正統的な表現でもあります。録音が思ったほどはよくないのは何故でしょう。最新のリマスター盤とか、あるのかしら。

今回、33枚のCDを聴いて、最高に感銘を受けたのはエミール・ギレリスの演奏です。彼は本当に素晴らしいベートーヴェン弾きだったんですね。圧倒的な迫力と繊細さを兼ね備えた見事な演奏にはただただ、聴き惚れるだけでした。音質も最高です。この演奏を聴かずして、《熱情(アパッショナータ)》を語ることはできないでしょう。

マレイ・ペライアは本当に美しい演奏を聴かせてくれます。この繊細なタッチは何でしょう。ある意味、この曲の違った魅力を感じさせてくれます。若いころのペライアも魅力たっぷりですね。

アンドラーシュ・シフは今や現役最高のベートーヴェン弾きです。深い精神性、そして、何よりも美しい響きでシフの世界を作っています。この美しい音はどのように生み出しているんでしょう。全集盤も素晴らしいですが、古い録音はそれを上回る出来に思えます。ベートーヴェンのピアノ協奏曲のカップリングに録音したもののようですが、この時期からよっぽど、この曲を弾き込んでいたんでしょう。まあ、何を弾かせても素晴らしいですね。バッハからバルトークまで、大変なレパートリーと内容の深さを誇ります。現役最高のピアニストと言って、過言ではありません。

そして、最後は天才ポリーニです。彼は何を弾かせても凄いです。しかし、この曲の演奏はやはり、やり過ぎでしょう。リヒテルも足元にも及ばないような途轍もないような爆演です。とりわけ、全集盤はその録音の凄さも相まって、凄いの、何のって・・・。ウィーンでのライヴも凄いですが、こちらは少しはおとなしめなので、こちらがお勧めです。派手な演奏を聴きたいかたは全集盤が一番のお勧めです。まあ、saraiの趣味じゃありません。


こんなに男性ピアニストばかり聴きましたが、明日は女性の小川典子の演奏を聴きます。彼女は男性顔負けの力強い演奏をするので、どんな感じになるでしょうか。期待しましょう。



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バロックの響き フォンス・ムジケ@横浜上大岡ひまわりの郷ホール 2017.10.8

普段はなかなか聴けないような本格的なバロック・アンサンブル。何と言っても、ソプラノのドロテー・ルクレールの歌唱が傑出していました。声質はスープレットで軽い感じなのですが、芯のしっかりした声で実にピュアーな響きです。音程が安定し、テクニックも見事です。とりわけ、ヘンデルのソロ・カンタータでのアジリタは素晴らしかったです。

前半のプログラムでは、冒頭のモンテヴェルディの短い宗教曲《主をほめ讃えよ》でうーんと唸らせられます。
続くメールラの《子守歌による宗教的カンツォネッタ「今や眠りの時」》 の静謐で祈りに満ちた歌唱にはうっとりとさせられます。
そして、前半のハイライトはヴェネチアの女流作曲家バルバラ・ストロッツィの3つの愛の歌です。まず、曲が素晴らしいです。今風に言えば、シンガーソングライターだった彼女の曲にはハートがあります。その曲をドロテー・ルクレールは歌い紡ぎます。時にアジリタを交えて、素晴らしい歌唱でした。

後半のプログラムはヘンデルのソロ・カンタータ《ルクレツィア「おお、永遠の神々よ」》が圧巻でした。古代ローマの共和制への移行の礎になった女性の鑑のようなルクレツィアの強くて一途な心情をドロテー・ルクレールは歌い上げました。中間部でのアジリタも見事でしたし、最後のアリオーソでは胸がジーンとしました。ヘンデルを堪能しました。

バロック・アンサンブルのフォンス・ムジケの素朴な響きも美しい伴奏になっていました。テオルボ(リュートみたいな楽器)やバロック・ギターを聴いたのも初めての経験です。とても音量が小さくて、現代の大きなホールの演奏には適しませんが、往時の宮中音楽を偲ばせるものです。

この日のプログラムは以下の内容です。

 バロック・アンサンブル フォンス・ムジケ
  ドロテー・ルクレール(ソプラノ) レア・ラヘル・バーダー(バロック・チェロ)
  プリスカ・ヴァイベル(バロック・ギター) ルカ・オベルティ(チェンバロ)
  今村泰典(テオルボ / リーダー)


 モンテヴェルディ:主をほめ讃えよ
 メールラ:子守歌による宗教的カンツォネッタ「今や眠りの時」
 ストロッツィ:恋するエラクレイト「恋する人たちよ聞いておくれ」
 J.S.バッハ:協奏曲 ニ長調 BWV972(原曲:ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲 Op.3-9)(チェンバロ・ソロ)
 ストロッツィ:もしあなたが望むなら、私はそれで構わない
 ストロッツィ:何ができよう?

  《休憩》

 J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第3番~プレリュード、サラバンド、ブーレ(テオルボ・ソロ)
 ボノンチーニ:チェロと通奏低音のためのソナタ
 ヘンデル:カンタータ ルクレツィア「おお、永遠の神々よ」 HWV 145

  《アンコール》

    ヘンデル:歌劇『リナルド』より「私を泣かせてください」
    シャンソン 『枯葉』(ジョゼフ・コズマ作曲)

アンコールの「私を泣かせてください」は素晴らしい歌唱でうっとりとして聴き入るばかりでした。最後の『枯葉』もさすがにフランス人歌手らしく、見事な表現でした。



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金婚式、おめでとうございます!!!
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京都には年に2回もお越しでも、青春を過ごし

10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

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