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ジルヴェスターコンサート@横浜みなとみらいホール 2018.12.31

大晦日は恒例のジルヴェスターコンサート@みなとみらいホールで年越しです。saraiと配偶者、娘夫婦の4人です。
イタリアン・レストランでグルメなディナーをいただいた後、みなとみらいホールに移動。
みなとみらいホールのジルヴェスターコンサートは今年で第20回目。そして、saraiがジルヴェスターコンサートに通うのもこれで20回。全部聴いてます。

今回のプログラムは以下です。

《第1部》

池辺晋一郎:ヨコハマ・ファンファーレ
ロッシーニ:歌劇『ウィリアム・テル』序曲
サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン Op.20 ヴァイオリン:三浦文彰
ショパン:ピアノ協奏曲第1番より第1楽章 ピアノ:小川典子
プッチーニ:歌劇『ジャンニ・スキッキ』より「私のお父さん」 ソプラノ:小林沙羅
レオンカヴァルロ:歌劇『道化師』より「衣装をつけろ」 テノール:村上敏明
服部隆之:真田丸 ヴァイオリン:三浦文彰
池辺晋一郎:黄金の日日

《休憩》

《第2部》

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」より第3楽章 ピアノ:ゲルハルト・オピッツ
グノー:歌劇『ファウスト』より「宝石の歌」 ソプラノ:小林沙羅
プッチーニ:歌劇『トゥーランドット』より「誰も寝てはならぬ」 テノール:村上敏明
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番より第3楽章 ヴァイオリン:徳永二男
ムソルグスキー:組曲『展覧会の絵』よりバーバ・ヤガー、キエフの大門【カウントダウン曲】
レハール:喜歌劇『メリー・ウィドゥ』より「唇は語らずとも」 ソプラノ:小林沙羅 テノール:村上敏明
オッフェンバック:喜歌劇『天国と地獄』よりカンカン
ヨハン・シュトラウス1世:ラデツキー行進曲

【出 演】

音楽監督:池辺晋一郎、飯森範親(Cond)、徳永二男(エグゼクティブ・ディレクター/Vn)、朝岡聡(MC)
横浜みなとみらいホール ジルヴェスターオーケストラ(コンサートマスター:会田莉凡、扇谷泰朋、神谷未穂、小森谷巧、崎谷直人、藤原浜雄)
ピアノ:ゲルハルト・オピッツ、小川典子
ヴァイオリン:三浦文彰
ソプラノ:小林沙羅
テノール:村上敏明

今回のジルヴェスターコンサートは昨年同様、最前列の中央の席で聴きました。とってもよく響く最高の席でした。
ジルヴェスターコンサートはお祭りのようなガラコンサートですが、簡単に印象をまとめておきましょう。

みなとみらいホール館長の池辺晋一郎によって、このジルヴェスターコンサートのために書かれたヨコハマ・ファンファーレで華やかに開幕。今どきの日本人の金管奏者は結構、うまいものです。
続いて、オーケストラ曲が披露されます。お馴染みのロッシーニの歌劇『ウィリアム・テル』序曲です。チェロを中心にした弦楽器の響きが見事です。最後は行進曲で威勢よく盛り上がります。臨時編成のオーケストラですが、特に弦楽器が素晴らしい響きです。
 予習 ジュリーニ指揮フィルハーモニア管弦楽団 1962年12月 ロンドン、キングズウェイ・ホール セッション録音

次も有名なサラサーテのツィゴイネルワイゼンで楽しめます。ヴァイオリンは若手の三浦文彰です。もちろん、うまいのですが、もうひとつ、若者らしい覇気に乏しい演奏に思えます。大きく成長するためにはもっと冒険心を持って、チャレンジしてほしいと願わずにはいられません。
 予習 ヤッシャ・ハイフェッツ、ウィリアム・スタインバーグ指揮RCAビクター交響楽団 1951年6月 ハリウッド、リパブリック・スタジオ・サウンド・ステージ9

次はまた名曲のショパンのピアノ協奏曲第1番です。全曲の半分ほどを占める第1楽章が演奏されます。ピアノは日本を代表するピアニストの一人である小川典子です。強いタッチで魅力的な演奏です。繊細さよりも強靭さを感じさせる演奏ですが、こういうショパンもありでしょう。ところで冒頭のオーケストラの前奏は少しはしょったような気がしますが、どうだったんでしょう。まあ、ピアノのパートが魅力的な作品ですから、構いませんけどね。
 予習 マルタ・アルゲリッチ、クラウディオ・アバド指揮ロンドン響 1968年

次はソプラノの小林沙羅とテノールの村上敏明によるオペラのアリア。小林沙羅は曲目が当日変更です。元々はJ.シュトラウスⅡ世の喜歌劇『こうもり』より「侯爵様、あなたのような方は」を歌う筈でしたが、プッチーニの「私のお父さん」に変更。どうやら、あまり喉の調子がよくないようです。高域の声が出きっていません。彼女の歌は初めて聴きますが、今日の状態では評価はできませんね。一方、村上敏明は絶好調。『道化師』の「衣装をつけろ」を熱唱し、聴いているsaraiも熱くなってしまいました。日本人のテノールの実力もなかなかのものです。
 予習 「衣装をつけろ」 パヴァロッティ、レオン・マジエラ指揮ウィーン・フォルクスオーパー管弦楽団

NHKの大河ドラマの音楽を2曲演奏して、休憩です。

休憩が終わり、第2部がスタートします。
ベートーヴェンの傑作、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」です。第3楽章がゲルハルト・オピッツのピアノで演奏されます。この人のベートーヴェンはソナタも協奏曲もあまり、よい演奏を聴いたことがありません。音楽性以前にテクニックがもう一つです。最近思うのは、モーツァルトもベートーヴェンもピアノ曲はきちんと演奏するのが難しいということです。
 予習 アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ、カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ウィーン交響楽団 1979年 ライヴ録音

次はソプラノの小林沙羅とテノールの村上敏明によるオペラのアリア。相変わらず、小林沙羅の苦しい歌唱です。一方、村上敏明はますます絶好調。「誰も寝てはならぬ」を高らかに歌い上げます。日本人のテノールでここまで歌える人がいるんですね。
 予習 「宝石の歌」 カラス、ジョルジュ・プレートル指揮パリ音楽院管弦楽団
    「衣装をつけろ」 パヴァロッティ、ズービン・メータ指揮ロンドン・フィル

次はブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番です。第3楽章が徳永二男のヴァイオリンで演奏されます。ヴァイオリンの響きはもう一つですが、ツボをおさえた演奏で楽しく聴けました。
 予習 ジャニーヌ・ヤンセン、リッカルド・シャイー指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 2006年9月

いよいよ、カウントダウン曲のムソルグスキーの組曲『展覧会の絵』よりバーバ・ヤガー、キエフの大門です。今年もカウントダウンは見事に成功!! 最後のジャーンという響きの終了とともにぴったり新年を迎えました。いつもながら、飯森範親の指揮は凄いです。指揮者はここまでオーケストラをコントロールできるんですね。やんやの喝采とともにハッピー・ニュー・イヤー!
 予習 伝説の名演!チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル 1986年 ベルリン ライブ録音

新年に聴く最初の音楽はレハールの喜歌劇『メリー・ウィドゥ』より「唇は語らずとも」です。ソプラノの小林沙羅とテノールの村上敏明が熱唱してくれました。これを聴いていると心はウィーンに飛びます。ウィーンのフォルクス・オーパーで何度も聴きました。また、ウィーンに行きたくなります。
 予習 なし

最後はオッフェンバックの喜歌劇『天国と地獄』よりカンカンです。華やかに演奏されます。でも、どうしてもテレビの文明堂のCMを思い出してしまいます。演奏は格調高いんですけどね。
 予習 なし

最後のおまけは例年通り、ラデツキー行進曲を手拍子してコンサート完了。

今年も音楽で新年が始まりました。また、音楽聴きまくりの1年になりそうです。


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saraiの音楽総決算2018:オーケストラ・声楽曲編、そして、今年の大賞は?

今年の音楽の総決算もいよいよ最後になりました。そして、ブログも今年の書き納めです。

今回はオーケストラ・声楽曲編です。
このジャンルは今年もたくさんのコンサートを聴きました。素晴らしい演奏が多過ぎて、選定が難航しました。で、オーケストラと声楽曲を比較するのは難しいので、今年はオーケストラはベスト10、声楽曲はベスト5に分けて、選定することにしいました。

ちなみに昨年の結果はここです。

まず、声楽曲のベスト5は以下です。

1位 マーラー/リュッケルト歌曲集に感動!!藤村実穂子リーダーアーベントV@紀尾井ホール 2018.2.28

2位 聖金曜日に響き渡る感動のマタイ受難曲、バッハ・コレギウム・ジャパン@東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル 2018.3.30

3位 シューマンに酔う:クリストフ・プレガルディエン リートの森@トッパンホール 2018.11.9

4位 モーツァルトの人生すべてに対峙するかの如く、新首席指揮者の鈴木優人の躍動 バッハ・コレギウム・ジャパン@東京オペラシティ コンサートホール 2018.9.24

5位 名人たちの饗宴、クリスマス・オラトリオ バッハ・コレギウム・ジャパン@東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル 2018.11.23

次点 素晴らしき隠れ合唱隊?・・・フランコ・ファジョーリ・リサイタル@東京オペラシティ コンサートホール 2018.11.22

藤村実穂子は今や、世界を席巻するメゾ・ソプラノ。その美声には魅了されます。ワーグナー歌手だと思っていた彼女が素晴らしいマーラーを聴かせてくれました。とても感動しました。

日本にいてこそ聴けるのがバッハ・コレギウム・ジャパン。マタイ受難曲もクリスマス・オラトリオも、そして、モーツァルトのレクイエムも素晴らしかったです。(2位と4位と5位)

クリストフ・プレガルディエンのシューマンには酔いました。とりわけ、《詩人の恋》には魅了されました。

フランコ・ファジョーリも素晴らしかったのですが、それ以上にアンコールでの「私を泣かせてください」での客席の女性たちの美しいソプラノは最高でせめて、次点には置きたくなりました。素晴らしい音楽家と聴衆との交流に気持ちが熱くなりました。


で、いよいよ、オーケストラ部門です。今年はベスト10は以下です。

1位 何という《春の祭典》・・・ロト、レ・シエクル@東京オペラシティ コンサートホール 2018.6.12

2位 極美のアダージョに深く感動!マーラー:交響曲第9番・・・ラトル&ロンドン交響楽団@横浜みなとみらいホール 2018.9.28

3位 破竹の勢いの東響、奇跡の名演 エッティンガー渾身の幻想交響曲・・・東京交響楽団@サントリーホール 2018.10.20

4位 コバケン、超絶の幻想交響曲 読売日本交響楽団@みなとみらいホール 2018.3.21

5位 マーラー&ブルックナーで最高のシーズンスタート・・・ノット&東京交響楽団@サントリーホール 2018.4.14

6位 精緻を究めたフルシャ指揮の新世界交響曲・・・バンベルク交響楽団@横浜みなとみらいホール 2018.6.28

7位 圧巻のブルックナー ブロムシュテット&ウィーン・フィル@ザルツブルク祝祭大劇場 2018.8.18

8位 ティーレマンのシューマンは凄かった!・・・シュターツカペレ・ドレスデン@サントリーホール 2018.10.31

9位 軽やかな蝶の飛翔にも似て・・・ミンコフスキ&レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル@東京オペラシティコンサートホール 2018.2.27

10位 私はマーラーの9番を聴くために生まれてきた! カンブルラン&読売日本交響楽団@サントリーホール 2018読売日本交響楽団@サントリーホール 2018.4.20

今年の1位はロト、レ・シエクルの《春の祭典》。文句なしです。

2位は新たにロンドン交響楽団の首席指揮者になったラトルのマーラーの交響曲第9番。壮絶で美しいアダージョでした。

3位と4位は東響と読響の幻想交響曲。選には洩れましたが都響も含めて、オーケストラ演奏の究極でした。

5位は今やsaraiの一押しのジョナサン・ノット&東響の定期の開幕コンサート。テレビでも放映されましたが、素晴らしいマーラーとブルックナーでした。このコンビを1位にしてもよかったのですが、それは来年以降にとっておきましょう。なお、このコンビのコンサートはすべてが最高でしたが、一応、このコンサートだけに絞っておきました。

6位は東京都交響楽団を去って、バンベルク響の首席指揮者になったフルシャの凱旋公演。彼の洋々たる未来が感じられたコンサートでした。とてもバンベルク響におさまる器ではありません。


7位は最高齢の指揮者ブロムシュテットとウィーン・フィルによるブルックナー。素晴らしい演奏で当然です。

8位はティーレマン&シュターツカペレ・ドレスデンのシューマン・ツィクルス。第2番が素晴らしい演奏でした。

9位はミンコフスキ&レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルのメンデルスゾーン。さすがの実力でした。もっと上位にすべきだったかもしれません。

10位はカンブルランのマーラーの交響曲第9番。カンブルランがこれほどのマーラーを聴かせてくれるとは・・・。


ジャジャーン!
ここで今年の大賞発表です。

 ヒラリー・ハーンのバッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全曲@東京オペラシティ コンサートホール

全6曲、すべて最高の演奏でした。とりわけ、ソナタ3曲が素晴らしかった! もちろん、シャコンヌには感動しました。10年以上も前からのsaraiの大きな夢が期待以上の演奏で叶いました。

最後まで迷ったのはザルツブルク音楽祭のクリスティーのモンテヴェルディ《ボッペアの戴冠》、そして、チョン・キョンファのブラームスのヴァイオリン協奏曲。いずれも破格の演奏でした。

来年の感動に期待しながら、今年の総括は幕としましょう。

今年も当ブログを読んでいただいたみなさんには感謝です。また、来年も引き続き、ご愛読ください。


saraiはこれから、みなとみらいホールのジルヴェスターコンサートに出かけます。今年も音楽で年越しです。

皆さま、よいお年を!!


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saraiの音楽総決算2018:協奏曲編

さて、前回に引き続き、今年の音楽の総決算です。

今回は協奏曲編です。
今年はチョン・キョンファの恐ろしいほどの気魄のヴァイオリンに圧倒されました。けた外れの芸術家です。文句なしのトップです。アヴデーエワのピアノには今年も魅了されました。初めて実演を聴いたバティアシュヴィリはやはり、魅力たっぷりで、たちまち、お気に入りの仲間入りです。庄司紗矢香は指揮者がテミルカーノフだったら、多分、1位を分け合ったでしょう。全般にレベルの高い演奏が多く、下の順位に付けることが心苦しく感じます。
ちなみに昨年の結果はここです。

今年は以下をベスト10に選びました。

1位 恐るべし!チョン・キョンファ 圧倒的なブラームス@宮崎芸術劇場 2018.5.6

2位 ピアニッシモが心に沁みるブラームスのピアノ協奏曲・・・アヴデーエワ&フルシャ&バンベルク交響楽団@サントリーホール 2018.6.26

3位 魅惑のバティアシュヴィリ バレンボイム&ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団@ザルツブルク祝祭大劇場 2018.8.17

4位 庄司紗矢香、気魄のシベリウス・・サンクトペテルブルク・フィル@サントリーホール 2018.11.12

5位 はじけるようなユジャ・ワンのプロコフィエフ ゲルギエフ&ミュンヘン・フィル@サントリーホール 2018.12.2

6位 ヴィルサラーゼと小林研一郎の見事なベートーヴェン 読売日本交響楽団@サントリーホール 2018.7.5

7位 ヒラリー最高! ヒラリー・ハーン、ヤルヴィ&ドイツ・カンマーフィル@宮崎芸術劇場・アイザックスターンホール 2018.12.16

8位 ファウストの奏でるブラームスは一味違う・・・カンブルラン&読売日本交響楽団@みなとみらいホール 2018.1.21

9位 絶好調ルガンスキーのチャイコフスキー、テミルカーノフはさすがのラフマニノフに納得・・・読売日本交響楽団@みなとみらいホール 2018.2.12

10位 モーツァルトのハ長調の協奏曲に感動! パユ&読売日本交響楽団@サントリーホール 2018.11.28


チョン・キョンファの実力を初めて実感しました。こんなに凄い芸術家だったのですね。完全に復活したようです。いやはや、圧倒されまくりました。

アヴデーエワはこのブラームスのピアノ協奏曲を初めて弾いたそうですが、素晴らしい仕上がりでした。彼女は本当に何を弾かせても、その本質を突く演奏をします。音楽性の高さには舌を巻くばかりです。

初めて実演に接したリサ・バティアシュヴィリの魅力に憑りつかれてしまいました。是非、また来日してもらいたいものです。

庄司紗矢香の気魄の演奏には驚かされました。ますます、高みに上っていくことが実感できました。世界でブレークする日も近いでしょう。

ユジャ・ワンの魅力も相変わらずです。本編もさることながら、アンコール曲の超絶技巧にも魅了されました。

ヴィルサラーゼと小林研一郎の奏でるベートーヴェンは達人たちの境地の音楽を感じさせられました。見事な演奏でした。

ヒラリー・ハーンのモーツァルト、とても素晴らしく、彼女も復活してくれたことを確信しました。ただ、彼女の弾いたバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ&ソナタの素晴らしさに比肩できるものではありません。モーツァルトでなければ、もっと大きく評価できたでしょう。人間、万能ではありませんから、すべての作品の演奏が最高というわけではありません。

イザベル・ファウストのブラームス、とても素晴らしかったです。もっと順位を上げたいのですが、他のコンサートの演奏が素晴らし過ぎました。

ルガンスキーのチャイコフスキーは冒頭はもうひとつでしたが、第1楽章の途中から、別人のようになり、のりのりの凄い演奏になりました。冒頭から絶好調だったなら、トップ5以上のランクになったでしょう。今後、注目のピアニストです。

エマニュエル・パユの演奏したモーツァルトのフルートとハープのための協奏曲は出色の出来でした(ハープはパユと同じくベルリン・フィルの首席ハーピストのマリー=ピエール・ラングラメ)。ピアノやヴァイオリンとの比較が難しいので、このあたりの順位になりましたが、これもトップ5でも問題ない素晴らしさでした。パユのフルートの素晴らしさを実感しました。また、機会があれば、聴きたい音楽家の一人です。

いよいよ、次回は最終回、大賞も発表します。そして、大晦日でもありますね。


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saraiの音楽総決算2018:オペラ・オペレッタ・バレエ編

さて、前回に引き続き、今年の音楽の総決算です。

今回はオペラ・オペレッタ・バレエ編です。
今年もオペレッタとバレエは見ていません。ウィーンに行っていないからでしょう。そのせいでオペラもたったの9回しか見ていません。しかし、海外で見たオペラはザルツブルク音楽祭とバイロイト音楽祭。その極め付きの5回は圧巻でした。国内での4回のオペラはすべてコンサート形式ですが、これらも素晴らしい内容でした。オペラの数は少なくてもオペラの素晴らしさに酔った1年でした。
それにしても、オペラは大好きですから、また、ウィーンで思いっ切り、オペラ三昧したいですね。saraiのヨーロッパ旅行の原点はウィーン国立歌劇場でオペラを見たいということでしたから、原点回帰を果たしたいものです。

ちなみに昨年の結果はここです。

で、今年は以下をベスト5に選びました。同列5位があるので、6公演選びました。

1位 極上の音楽に衝撃!!歌劇《ポッペアの戴冠》クリスティ指揮レザール・フロリサン@モーツァルト劇場 2018.8.15

2位 バイロイト音楽祭:ティーレマンの極上の音楽に感動!楽劇《トリスタンとイゾルデ》@バイロイト祝祭劇場 2018.8.24

3位 ザルツブルク音楽祭:抱腹絶倒の末の感動 バルトリの《アルジェのイタリア女》@モーツァルト劇場 2018.8.16

4位 バイロイト音楽祭:清澄な響きに感動!舞台神聖祝典劇《パルジファル》@バイロイト祝祭劇場 2018.8.25

5位 想像を絶する感動!中村恵理の『蝶々夫人』@宮崎芸術劇場 2018.5.13

5位 涙、涙の大団円!ノット&東響《フィガロの結婚》@サントリーホール 2018.12.9


昨年も書きましたが、ザルツブルク音楽祭では異次元の音楽体験ができます。昨年のクルレンツィス指揮ムジカエテルナの演奏したモーツァルトの歌劇「皇帝ティートの慈悲」はsaraiの価値観をひっくり返すようなものでした。今年もバロック界の大御所、ウィリアム・クリスティが名人たちを集めて作り上げたモンテヴェルディの歌劇《ポッペアの戴冠》はオペラの原点はかくの如きものかと驚愕する内容でした。400年前には、現代と変わらぬレベルのオペラ鑑賞ができていたのですね。そのときから、音楽、オペラは発展したと言えるのか・・・深刻に考え込んでしまいました。実に中身の濃い内容で、音楽的にも最高のものを与えられました。文句なしの今年のトップです。

最後に残った夢はバイロイト音楽祭でワーグナーを聴くことでした。それも今年叶いました。聴くなら、楽劇《トリスタンとイゾルデ》か舞台神聖祝典劇《パルジファル》と決めていました。特別な作品ですからね。そのどちらも聴くことができ、ワーグナーの理想の音・響きとはこういうものだったのかと深く納得しました。最高のワーグナー体験になりました。(2位と4位)

チェチーリア・バルトリのロッシーニを聴くのは無上の喜びです。何と魅力的な歌唱、超絶的なアジリタだったでしょう。笑いも感動もある究極のロッシーニでした。

同列5位は国内のコンサート形式オペラの2つです。内容的にはザルツブルク音楽祭にも匹敵するような素晴らしい公演でした。

まず、宮崎音楽祭での『蝶々夫人』は日本人ソプラノの中村恵理の絶唱にノックダウンされました。これほどsaraiを感動させたソプラノはミレッラ・フレーニだけです。素晴らしいソプラノに出会えました。

一昨年、昨年に引き続き、ジョナサン・ノット&東響の演奏するモーツァルトのダ・ポンテ3部作のコンサート形式での公演を聴きました。素晴らしい《フィガロの結婚》でした。ミア・パーションはじめ、ジェニファー・ラーモア、マルクス・ヴェルバ、リディア・トイシャー等の歌手の素晴らしい歌唱とノット&東響の最高のアンサンブルを堪能しました。これで終わるのはあまりにもったいないです。


次回はオーケストラ・声楽曲編です。


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驚異的に精妙な《四季》、感動の《第9》 秋山和慶&東響@サントリーホール 2018.12.28

モダンオーケストラの東京交響楽団ですが、弦の精鋭たちを選りすぐったアンサンブルでヴィヴァルディの《四季》を演奏すると、まるでバロック専門の合奏団に変身したみたいに恐ろしいまでの精妙な響きを聴かせてくれます。第1番の《春》の第1楽章でヴァイオリンのソロの辻 彩奈、コンサートマスターの水谷 晃、第2ヴァイオリンの首席(服部亜矢子?)の3人が絶妙なアンサンブルを奏でると、あまりの美しさに変な感情が沸き起こり、泣きそうになってしまいます。完璧なアンサンブルの《四季》でした。初めて聴いた辻 彩奈もまだ21歳とは思えない堂々たる演奏で、ヴァイオリンの美音に魅了されました。ヴァイオリンはG.B.ガダニーニだとのこと。ストラディバリウスかガルネリ・デル・ジェスを早く持たせてあげたいですね。こんなに素晴らしい《四季》なら、是非、全曲を聴きたかったところです。

ベートーヴェンの交響曲 第9番は第3楽章も美しい演奏でしたが、やはり、第4楽章の後半のオーケストラの美しい響きと大編成の東響コーラスの合唱が交錯しながら、高潮していく様は感動するしかありません。残念だったのは、期待していたソプラノの中村恵理とメゾ・ソプラノの藤村実穂子の声があまり響いてこなかったことです。とりわけ、中村恵理は彼女が登場するので、このコンサートに駆け付けたのに残念至極・・・。

来年の東響の第9はジョナサン・ノットの指揮さそうですから、聴き逃がせません。

そうそう、今日がサントリーホールの聴き納めです。今年も随分、サントリーホールに通いました。今日で17回です。

今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮&チェンバロ:秋山和慶
  ヴァイオリン:辻 彩奈
  ソプラノ:中村恵理
  メゾ・ソプラノ:藤村実穂子
  テノール:西村 悟
  バス:妻屋秀和
  合唱:東響コーラス(合唱指揮:安藤常光)
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:水谷 晃

  ヴィヴァルディ: ヴァイオリン協奏曲集「和声と創意の試み」Op.8 から第1~4番「四季」~春・冬

   《休憩》

  ベートーヴェン:交響曲 第9番 ニ短調 作品125 「合唱付」

   《アンコール》
    蛍の光 AULD LANG SYNE


最後に予習について、まとめておきます。

ヴィヴァルディの「四季」を予習したCDは以下です。

  ファビオ・ビオンディ(Vn)、エウロパ・ガランテ 2000年、新録音

オリジナル演奏の代表格のようなCDです。新鮮な印象を受けます。でも、イ・ムジチ合奏団が懐かしくも感じられます。


ベートーヴェンの交響曲 第9番を予習したCDは以下です。

  フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン・フィル,聖ヘトヴィヒ大聖堂聖歌隊
   イルムガルト・ゼーフリート、モーリン・フォレスター、エルンスト・ヘフリガー、ディートリヒ・フィッシャー・ディースカウ
    1957~58年録音

フリッチャイの素晴らしい指揮が聴けます。ディートリヒ・フィッシャー・ディースカウが唯一、この曲を歌った録音でもあります。若々しい歌唱です。



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       中村恵理,        辻彩奈,  

saraiの音楽総決算2018:ピアノ・室内楽編

今年もブログの締めくくりはsarai恒例の音楽総決算です。まだ、明日は東響のベートーヴェンの交響曲第9番、大晦日はみなとみらいホールでジルヴェスターコンサートを聴きますが、今日はピアノ・室内楽編ですから、今日から音楽総決算をスタートします。なお、現在進行している2017年の旅の詳細編はヴェルター湖が見えてきたところでいったん休止し、続きは年明け早々に再開します。

今年は国内・海外合わせて、厳選したコンサート・オペラに計94回足を運びました(昨年の計70回、一昨年の計80回に比べるとかなり増えて、最高記録です。ちょっと行き過ぎですね。)。それらについてはすべて当ブログで報告済みですが、今回から4回のシリーズでそれらからベストの音楽会を選んで、今年の音楽の総決算としたいと思います。

今回はピアノ・リサイタルと室内楽編です。今年もこのジャンルをたくさん聴きました。計43回です(昨年は計31回、一昨年は計36回)。内、ピアノ・リサイタルが17回、弦楽四重奏曲コンサートが12回、その他の室内楽コンサートが14回です。とりわけ素晴らしいピアノ・リサイタルに恵まれました。で、今年も、ピアノ・リサイタルと室内楽コンサートに分けて、ランキングしてみます。

ちなみに昨年の結果はここです。

まず、ピアノ・リサイタル部門です。ベスト10は次の通りです。ともかく、田部京子、アンジェラ・ヒューイット、アンドラーシュ・シフの3人は昨年に続き、今年も圧倒的に素晴らしく、感動の演奏でした。この3人は今や、saraiの最高にお気に入りの音楽家です。

1位 人生で一度きりのコンサート:ゴルトベルク変奏曲 The Bach Odyssey Ⅵ アンジェラ・ヒューイット@紀尾井ホール 2018.5.24

2位 
シューベルトとシューマン、極上!の素晴らしさ 田部京子@浜離宮朝日ホール 2018.6.22

3位 
ザルツブルク音楽祭:偉大なバッハ、偉大なシフ、平均律クラヴィーア曲集第2巻@ザルツブルク・モーツァルテウム大ホール 2018.8.16

4位 さよならはベートーヴェンで:マリア・ジョアン・ピリス・ピアノ・リサイタル@サントリーホール 2018.4.12

5位 ただただ感動!アンナ・ヴィニツカヤ ピアノ・リサイタル@サントリーホール 2018.2.2

6位 シューベルティアーデ賛 田部京子@浜離宮朝日ホール 2018.12.19

7位 圧巻のロ短調フーガ:平均律クラヴィーア曲集第1巻 The Bach Odyssey Ⅴ アンジェラ・ヒューイット@紀尾井ホール 2018.5.22

8位 河村尚子の美しき疾走 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・プロジェクト Vol.1@紀尾井ホール 2018.6.1

9位 究極のドビュッシー《花火》 イリーナ・メジューエワ・ピアノ・ソナタ・リサイタル@東京文化会館 小ホール 2018.12.1

10位 伊藤恵 ピアノ・リサイタル@横浜上大岡ひまわりの郷ホール 2018.5.20

アンジェラ・ヒューイットの弾くバッハの素晴らしさには毎回驚かされますが、とりわけ、ゴルトベルク変奏曲は途轍もない高みの演奏でした。人生で何度も出会えるような演奏ではありません。平均律クラヴィーア曲集第1巻も素晴らしいとしか言えない演奏でした。来年はどんなバッハを聴かせてくれるでしょう。(1位と7位)

田部京子のシューベルトは遂に遺作ソナタのすべてを聴けました。こんな素晴らしい演奏が日本人ピアニストによって聴けるとは彼女に出会う前は想像もしていませんでした。今はせっせと彼女の過去のアルバムを収集して聴いているところです。全35枚のCDを聴く楽しみは並行して聴いているハスキルの全録音と共にsaraiの無上の宝物です。彼女が来年も続けるシューベルト・プラスのシリーズはアンジェラ・ヒューイットのThe Bach Odysseyと共に一番の楽しみです。(2位と6位)

アンドラーシュ・シフの弾くバッハの平均律クラヴィーア曲集第2巻を遂に聴くことができました。ただ、それだけで幸せでした。再来年は来日コンサートでブラームスの後期作品のすべてを弾いてくれるようです。今から楽しみです。

マリア・ジョアン・ピリスは聴き納めのリサイタルでした。とてもよいベートーヴェンのソナタを聴いて、やはり、彼女は名人だったと強い感銘を受けました。

アンナ・ヴィニツカヤは予想もしていなかったショパンの素晴らしいプレリュードを聴かせてもらい、とっても感動しました。田部京子やアンジェラ・ヒューイットのリサイタルに割って入るほどの特別な演奏でした。

河村尚子のベートーヴェンのソナタのシリーズも好調です。来年はいよいよ後期のソナタに突入します。とても期待しています。

初めて聴いたイリーナ・メジューエワのピアノは予想を大きく上回る演奏でした。お気に入りの仲間入りになりそうです。

伊藤恵のリサイタルは最高の出来。ベートーヴェンもシューマンもショパンも最高水準の演奏でとても魅惑されました。シューマンをさらに聴きたいし、シューベルトの遺作ソナタも聴きたいです。

次は室内楽部門です。ヒラリー・ハーンの念願のバッハの無伴奏の全曲が聴けkたこと。今年はそれに尽きます。感動の演奏でした。ベスト10は次のとおりです。

1位 夢の一夜・・・ヒラリー・ハーン バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ@東京オペラシティ コンサートホール 2018.12.3

宇宙の深淵・・・ヒラリー・ハーン バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ@東京オペラシティ コンサートホール 2018.12.5

2位 
最高のシューマン:フォーレ四重奏団@トッパンホール 2018.10.1

3位 
秋の夜のブラームスに酔う:フォーレ四重奏団@トッパンホール 2018.10.5

4位 ロータス・カルテット:ベートーヴェン後期弦楽四重奏曲の2大名作を聴く@鵠沼サロンコンサート 2018.3.13

5位 ロータス・カルテット:驚きのアンコール@鶴見サルビアホール 2018.2.13

6位 室内楽の楽しみ極まれり:クァルテット・ベルリン=トウキョウ@鶴見サルビアホール 2018.2.13

7位 ドヴォルザーク・プロジェクト第1夜:ウィハン・カルテット@鶴見サルビアホール 2018.9.21

ドヴォルザーク・プロジェクト第2夜:ウィハン・カルテット@鶴見サルビアホール 2018.9.25

もう一つの《アメリカ》~ドヴォルザーク・プロジェクト第3夜:ウィハン・カルテット@鶴見サルビアホール 2018.9.26

8位 圧巻のブラームスの弦楽六重奏曲 第1番 カルテット・アマービレ、磯村和英、ズロトニコフ@鶴見サルビアホール 2018.2.7

9位 繊細かつ充実した響き:ヴォーチェ弦楽四重奏団@鶴見サルビアホール 2018.11.5

10位 藤木大地の絶唱! 高木綾子の超絶技巧!@宮崎芸術劇場演劇ホール 2018.5.11

ヒラリー・ハーンのバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータの全曲演奏は長年、夢に見てきたリサイタルでした。予期した以上の素晴らしさに報われた思いです。

フォーレ四重奏団の2年前の演奏は期待を裏切るものだっただけに、今回のシューマンとブラームスの素晴らしさには言葉もない嬉しさでした。(2位と3位)

ロータス・カルテットのベートーヴェンの後期の3曲(13番、14番、15番)はいつ聴いても素晴らしいです。凄い日本人クァルテットが出現したものです。(4位と5位)

クァルテット・ベルリン=トウキョウの清新な演奏には驚かされました。次の来日が楽しみです。

ウィハン・カルテットのドヴォルザーク・プロジェクトは予想以上の出来でした。とりわけ、珍しい糸杉(Cypresses)が聴けたのが収穫でした。

カルテット・アマービレ、ヴォーチェ弦楽四重奏団という女性中心の団体が活躍したのも今年の特徴でした。音楽も素晴らしいですが、容姿も素晴らしい・・・。

武満徹と彼の仲間たちの作品が11人の日本を代表する演奏者たちによって熱演されました。カウンターテナーの藤木大地による《Songs》の熱唱は心を打たれました。

一応、この部門全体を通した最上位を決めておきましょう。それは以下です。

ヒラリー・ハーンのバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータの全曲演奏

今年もピアノは高いレベルの演奏ばかりでしたが、やはり、長年待ち続けたヒラリーのバッハの魅力に優るものはありません。全曲演奏を聴くのは最後の機会だったかもしれません。

次回はオペラ編です。



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シューベルティアーデ賛 田部京子@浜離宮朝日ホール 2018.12.19

田部京子の弾くシューベルトの遺作のピアノソナタ第21番 変ロ長調 D960を聴くことが念願でしたが、ようやく夢が叶いました。期待した通りの素晴らしい演奏でした。シューベルトの音楽の中で一番愛してやまぬ、この曲はこれまで内田光子、ピリス、ツィメルマン、シフという素晴らしいピアニストで聴いてきましたが、田部京子の演奏を聴いて、これで打ち止めでも構わないという心境に至りました。正直なところ、これまで聴いたピアニストよりも田部京子が断然優れた演奏をしたわけではありません。今日の田部京子は若干、精彩を欠いていたような印象です。しかし、田部京子はテクニックで聴かせるタイプのピアニストではなく、彼女の内なる詩情を心に訴えかける演奏を身上としています。その面では今日の彼女の演奏は誰にも真似のできない最高のものでした。長大な第1楽章はすべてのパッセージが強い意味を持って、心に迫ってきます。この音楽のずっしりとした中身の隅々までを彼女の演奏は描き尽してくれました。あの郷愁に満ちたメロディーが何度も表現を変えながら、心に響いてきます。トリルの異様な響きも今日はさりげなく、自然に心の闇をそっと開いてくれます。シューベルトの自由な心の飛翔によって、明も暗も、喜びも哀しみもすべてがこの第1楽章の中に表現されているかのようです。田部京子はシューベルトへの強いシンパシーを持って、深い音楽表現をピアノで聴かせてくれました。こんなに集中して、この第1楽章を聴いたことはありません。第1楽章を聴いただけでシューベルトの音楽をすべて味わい尽くしたという気持ちになりました。しかし、続く第2楽章の素晴らしい演奏・・・何も言葉になりません。ただただ、感動。美しい中間部を経て、また、憧れに満ちた主部に戻ってきた後の心の高揚は何ほどのものでしょう。シューベルトが書いた最高に美しい音楽をこれ以上はないだろうと思えるような感動的な演奏で聴かせてくれた田部京子。彼女の天才は彼女の心の内にあるようです。第3楽章はさっと切り替えて、とても美しいタッチの演奏。その見事な演奏に魅了されます。第4楽章もフォルティシモに高揚するところの素晴らしい音楽表現に心が共鳴します。コーダの手前でのためらうような表現に続いて、意を決したような勢いのコーダで感動的なフィナーレです。昨年聴いたアンドラーシュ・シフの演奏にも感動しましたが、これは田部京子だけが弾けるシューベルトです。音楽を聴いたのか、田部京子の心と触れ合ったのか、さだかではありませんが、今年をしめくくるにふさわしい素晴らしい演奏でした。

前半の演奏は冒頭がショパンの前奏曲 嬰ハ短調 Op.45でしたが、その美しい響きに唖然となりながら、聴き惚れました。緩やかな上昇音型が繰り返されますが、その美しさに心が翻弄されます。ショパンって、こんなに素晴らしい曲を書いたんですね。それにしても、田部京子はショパンさえもこんなに見事に弾けるとは驚きです。そう言えば、彼女のショパンを聴くのは初めてかもしれません。

次はシューマンの交響的練習曲です。これは期待したほどの演奏ではありませんでした。最後に弾くシューベルトに心がいってしまったのかも。それでも、遺作の変奏の4番、5番は夢見るような魅惑的な演奏。フィナーレの一つ前の第9変奏の美しさにも魅了されました。そう書いてみると、なかなか素晴らしい演奏だったのかもしれません。期待値が多き過ぎたためにもうひとつ満足できなかったにかもしれません。ほかのピアニストがこれだけの演奏をしたら、褒めまくるかもしれません。田部京子だから、これくらいの演奏では満足できなかったんです。

アンコールは3曲も弾いてくれましたが、どれも最高に美しい演奏です。吉松隆のプレイアデス舞曲集もグリーグも見事過ぎる演奏です。これなら、それらもいつかは聴いてみたいですね。田部京子の手にかかると、音楽が光り輝きます。天才のなせる業です。シューベルト(吉松隆編)のアヴェ・マリアは・・・何も言う必要のない演奏です。これを聴いて、今日はシューベルティアーデだったと悟りました。本来は11月19日のシューベルトの命日に開かれるべきリサイタルでしたが、ちょうど、1か月遅れでその命日に追悼を捧げたんですね。190年目の命日でした。心の中で合掌しました。

今日のプログラムは以下です。

  田部京子CDデビュー25周年記念 ピアノ・リサイタル

  ピアノ:田部京子
 
  ショパン: 前奏曲 嬰ハ短調 Op.45
  シューマン: 交響的練習曲 Op.13(遺作付き)

  《休憩》

  シューベルト: ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D960

  《アンコール》

   吉松 隆:プレイアデス舞曲集 V Op.51から 第6曲 真夜中のノエル 
   グリーグ:君を愛すop.41-3 (オリジナルは歌曲Op.5-3)
   シューベルト(吉松隆編): アヴェ・マリア


最後に予習について、まとめておきます。

ショパンの前奏曲 Op.45を予習したCDは以下です。

 マルタ・アルゲリッチ 1975年10月 ロンドン

アルゲリッチの演奏した26の前奏曲集の中の1曲です。このアルバムはずっとsaraiの愛聴盤です。あの頃のアルゲリッチは凄かった!


シューマンの交響的練習曲 を予習したCDは以下です。

 田部京子 1999年8月 群馬県、笠懸野文化ホール
 アンドラーシュ・シフ 1995年

田部京子の演奏を聴き、驚愕しました。20年も前にこんな素晴らしい録音をしていたとは・・・。彼女のシューマンは聴き逃がせませんね。残念ながら、今日の田部京子の演奏はこの録音には及びませんでした。遺作の変奏曲の曲順はCDも今日の演奏も同じで、練習曲IXと変奏曲VIIIの間にまとめて5曲を挿入しています。アンドラーシュ・シフはいつもの彼の演奏と異なり、熱いロマンに満ちた演奏です。遺作の変奏曲の曲順はフィナーレの後に追加して演奏していますが、あえて、田部京子と同じ曲順に再編集して聴きました。まったく、違和感がありませんでした。田部京子の曲順は結構、いけそうです。ざっと調べた限りでは、彼女と同じ曲順で録音しているピアニストはいないようです。


シューベルトのピアノ・ソナタ第21番を予習したCDは以下です。

 田部京子 1993年10月 東京都あきる野市、秋川キララホール
 アンドラーシュ・シフ 1993年4月 ウィーン、楽友協会ブラームスザール ピアノ:ベーゼンドルファー

田部京子の録音は何と25年も前のものです。彼女のサードアルバムでした。saraiの所有するCDはその初出時のものではなく、シューベルトの録音、5枚をまとめたシューベルト:ピアノ作品集です。録音も1993年~2002年と10年にわたったものです。田部京子が若い頃に録音した第21番のソナタの演奏はとても素晴らしいものです。世界の巨匠たちの録音と比べてもトップクラスと言えます。ただ、いつの日にか、深化を遂げた田部京子の録音が出て、新旧録音を聴き比べるのがsaraiの夢です。アンドラーシュ・シフは新録音がありますが、フォルテピアノによるもので残念ながら、音が痩せていて、シューベルトの音楽を楽しめません。あえて、旧録音を聴きました。奇しくも田部京子が録音したのと同じ1993年です。シフの弾くベーゼンドルファーの響きは美しいレガートが印象的です。素晴らしい演奏ですが、昨年聴いた来日演奏での素晴らしさ(https://sarai2551.blog.fc2.com/blog-entry-2276.html)には及びません。シフにもベーゼンドルファーでの再録音をお願いしたいところです。今回は聴きませんでしたが、saraiの目下のベストはクララ・ハスキルの1951年録音です。20枚のCDを聴いた結果でした。そのときの感想を書いた記事はここです。https://sarai2551.blog.fc2.com/blog-entry-2270.html



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       田部京子,  

ヒラリー最高! ヒラリー・ハーン、ヤルヴィ&ドイツ・カンマーフィル@宮崎芸術劇場・アイザックスターンホール 2018.12.16

長年のヒラリー・ハーンのファンとしては一時不調だったヒラリーが復活して、また、高みを目指し始めた姿を目の当たりにして嬉しくなりました。今回の日本ツアーでは初回と2回目のオペラシティでのバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータの全曲を聴き、そして、ラストコンサートとなる今日の宮崎芸術劇場でのモーツァルトのヴァイオリン協奏曲を聴く場に駆け付けられて、とても満足です。今日の演奏はヒラリーの個性的なヴァイオリンの響きで聴ける最上のモーツァルトでした。もっとモーツァルトを得意にするヴァイオリニストはいますが、やはり、ヒラリーのファンとしては、彼女ならではのモーツァルト演奏が聴けるのは無上の喜びです。これまでの彼女のモーツァルト演奏では最高のものを聴かせてもらいました。優雅で格調高い演奏は無類のものでした。とりわけ、第3楽章のノリと熱い演奏は素晴らしかったです。とは言え、まだまだ、彼女のモーツァルト演奏は上を目指す余地も残されているでしょう。誰にも真似できないヒラリーのモーツァルト演奏の完成に向けて、一層の精進を期待したいと思います。
アンコールではつい10日ほど前に聴いたばかりのバッハの無伴奏ソナタを聴かせてもらいましたが、やはり、これは素晴らしいです。モーツァルトを弾いたときには天使に思えたヒラリーがバッハではミューズの如き、全能の存在に思えます。次回の来日時には、さらなる進化を遂げていることを疑いません。
これで前半のプログラムが終わり、今回のコンサートに足を運んだ目的を果たすことができました。

後半のシューベルトの交響曲第8(9)番 ハ長調 「ザ・グレート」は失礼ながら、ある意味、おまけのようなものです。パーヴォ・ヤルヴィと相性の悪いsaraiとしては、ほとんど期待していない演奏です。
ところがです。これまでに結構、パーヴォ・ヤルヴィの指揮は聴いてきましたが、今回は最高の演奏でした。ロマン派の交響曲の幕開けとも言える、この傑作を見事に表現してくれました。ベートーヴェンが完成した古典派の交響曲を引き継ぎ、詩的な要素をふんだんに盛り込んで、新しい道を示した記念碑的な作品の歴史的な意義を十分に表現して、さらにはベートーヴェンの交響曲第7番との関連性や交響曲第9番からの発展を示してくれました。さらに交響曲史で連なっていく、シューマン、ブラームス、ブルックナーへの展望も内包したような演奏は見事なものでした。演奏内容では、とりわけ、第4楽章の喜びやロマンの躍動の魅力に満ちた演奏は最高でした。

ちなみに、このシューベルトの最後の交響曲はチロルの温泉地のバード・ガシュタインBad Gasteinに滞在中にスケッチされたというのが最近は有力視されています(つまり、幻のグムンデン=ガシュタイン交響曲の正体はこの交響曲第8(9)番 ハ長調 「ザ・グレート」であろうということです)。プライベートなことですが、昨年、ザルツブルク音楽祭に行った際、その合間を縫って、このバード・ガシュタインに温泉を楽しむために訪れました。現在、当ブログでは、その際の訪問記をちょうど書いているところです。なんだか、不思議な暗合になったようで、嬉しくなります。

また、今年は特にシューマンに興味を持った年でsaraiにとって、《シューマンの年》のような感じです。つい先日まで、シューマン研究の学徒である前田 昭雄氏の書いた著書≪シューマニアーナ≫を読んでいました。その中でシューマンとこのシューベルトの交響曲第8(9)番 ハ長調 「ザ・グレート」の関わり合いについて詳述されていました。シューマンがウィーンでフランツ・シューベルトの兄フェルディナンドを訪れ、手つかずになっていたフランツの書斎を見せてもらい、そこで埋もれていた交響曲第8(9)番 ハ長調 「ザ・グレート」の楽譜を発見して、ただちに盟友のメンデルスゾーンのもとにそれを送って、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスで初演したのは有名な話です。シューマンがほどなく、その演奏を聴き、感激して、その夜、クララ・ヴィーク(まだ、クララとは結婚前)に手紙を書き、自分の理想とすることは、クララとの結婚と自分の交響曲を書き上げることだと告げます。そして、翌年の1840年にシューマンはクララとの結婚を果たし、さらに翌年の1841年には最初の交響曲第1番≪春≫を書き上げて、自分の理想を現実にします。ある意味、シューマンの人生が一番、輝いた時期でした。その中心にあったのは、このシューベルトの作品です。それなしにシューマンの交響曲は成立しなかったかもしれません。

色んな意味で今日、この作品の素晴らしい演奏を聴いたことはsaraiにとっての必然であったのかもしれないと密かに夢想しています。


今日のプログラムは以下です。

 指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
 ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン
 管弦楽:ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団

 モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲
 モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番 イ長調 「トルコ風」K.219
  《アンコール》 バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番 ハ長調 BWV 1005 から 第4楽章 アレグロ・アッサイ Allegro assai

  ≪休憩≫

 シューベルト:交響曲第8(9)番 ハ長調 「ザ・グレート」D944

  ≪アンコール≫
   シベリウス:悲しきワルツ Op.44-1


最後に予習について、まとめておきます。

モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲を予習したCDは以下です。今更、予習は必要ありませんけどね。

  オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団 1964年録音

重々しい部分と軽やかな部分がくっきりと表現された落ち着いた演奏です。

モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番を予習したCDは以下です。

 ヒラリー・ハーン、パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィル 2012年12月4&5日 ドイツ、ブレーメン
 アンネ・ゾフィー・ムター(Vn,指揮) ロンドン・フィル 2005年7月 ロンドン、アビーロード第1スタジオ

ヒラリー・ハーンはいかにも彼女らしい一途な美音を通したモーツァルトです。ヒラリーの信念の先にあるベストのモーツァルトです。まだ、完成形には至っていないかもしれませんが、現在のヒラリーの精華のような演奏です。一方、アンネ・ゾフィー・ムターのモーツァルトは相変わらず、ユニークな演奏で耳をとことん楽しませてくれます。ある意味、異形のモーツァルト演奏ですが、魅力がたっぷり詰まっています。二人の演奏を聴いて、色んな形のモーツァルトがあるのだと改めて実感させられました。

シューベルトの交響曲第8(9)番 ハ長調 「ザ・グレート」を予習したCDは以下です。

  レナード・バーンスタイン指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1987年10月録音

久しぶりに聴き直しましたが、安定していながら、熱情・ロマンに満ちた魅力的な演奏です。フルトヴェングラーのとんでもない名演はありますが、音質などを考慮した総合力では十分にわたりあえる録音です。



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       ヒラリー・ハーン,  

クララ・ハスキルの日特別編 クララ・ハスキルの全録音を聴く:モーツァルト編(2)

先週、12月7日はsaraiの最愛のピアニスト、クララ・ハスキルが58年前に亡くなった日でした。今年もその日が巡ってきましたが、生憎、ノット&東響の《フィガロの結婚》があり、クララを偲ぶ記事が書けませんでした。5日遅れでクララ・ハスキルの日の記事をアップします。

現在、クララ・ハスキルの全録音を聴くという大企画を決行中です。もっとも全録音のCDまたはLPが入手できればの話です。
モーツァルトの作品の録音はほぼ収集できました。ハスキルのディスコグラフィーは以下のCDに付属しています。J.スピケの労作です。

 Clara Haskil - The Unpublished Archives TAHRA TAH389/390
  モーツァルト:ピアノ協奏曲第19番ヘ長調 K.459
   53/01/20、ベルリン フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団
  モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466
   52/12/19、チューリッヒ ハンス・シュミット・イッセルシュテット、ベロミュンスタースタジオ管弦楽団
  等


前回はモーツァルトのピアノ協奏曲第9番から第19番までの全録音について聴いた感想をまとめました。
https://sarai2551.blog.fc2.com/blog-entry-2533.html
今回はモーツァルトのピアノ協奏曲第20番から第27番までの全録音について聴いた感想をまとめます。


ピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466

(1)...48/07/25、エキサン・プロヴァンス エルネスト・ブール、パリ音楽院管弦楽団(INA) 
 ハスキルの現存するモーツァルトの録音で一番古いものです。したがって、音質は期待できませんが、オーケストラの音はともかく、ハスキルのピアノは意外に明快にとらえられています。第1楽章はハスキルも落ち着かなかったようで、拙速だったり、集中していないようですが、後半からはハスキルらしい音楽が展開されます。第2楽章はとても品格の高い演奏です。圧巻なのは第3楽章。ハスキルならではの見事な演奏です。終盤では、素晴らしく勢いのあるカデンツァも含めて、彼女の素晴らしいピアノの表現に圧倒されます。INAはよくもこういう記録を復活してくれました。感謝するのみです。
    
(2)...50/09/23-24、ヴィンタートゥール ヘンリー・スウォボダ、ヴィンタートゥール交響楽団(Westminster)カデンツァ:ニキタ・マガロフ
 ピアノ、オーケストラ、ともに素晴らしい演奏。デモーニッシュではなく、詩情にあふれた音楽に仕上がっています。ハスキルのピアノは第2楽章で詩情豊かに歌いますが、それよりも第3楽章の真珠の球を転がすようなきらめきに満ちた演奏が素晴らしく感じられます。LPレコードの音質が光ります。

(3)...52/12/19、チューリッヒ ハンス・シュミット・イッセルシュテット、ベロミュンスタースタジオ管弦楽団(THARA)
 スタジオ録音のため、ハスキルの落ち着いた演奏が光ります。第1楽章、第3楽章は勢いのある演奏。第2楽章はさりげない力の抜けた演奏ながら、後半の美しい演奏が印象的です。シュミット・イッセルシュテットの堂々たるオーケストラのサポートも見事です。録音もよく、聴き応えのある演奏です。ハスキルの魅力全開とは言えないまでも、とても素晴らしい演奏・録音と言えます。

(4)...54/01/10、ベルリン(オイローパ宮) フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団(Audite)
 ライヴとは思えない落ち着いた演奏ながら、ハスキルもフリッチャイも気迫に満ちています。とりわけ、ハスキルの輝かしいピアノの音色は素晴らしいです。フリッチャイとの協奏も見事。これは名演です。録音はピアノとオーケストラのバランスが絶妙。

(5)...54/01/11-12、ベルリン(イエス・キリスト教会) フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団(DGG)
 もうハスキルのピアノの響きを聴いているだけで、ハスキルのファンは幸福になれる。そういう演奏です。基本的には前日のライヴとほぼ同じ演奏ですが、ハスキルの気品に満ちたピアノの透徹した響きは第1楽章から第3楽章まで変わらず、速いパッセージになっても安定した響きです。第3楽章のカデンツァに至り、演奏は勢いを増して、胸を打たれるようなハスキルの演奏にただただ感服するのみです。フリッチャイはライヴよりもサポート役に徹して、見事な演奏を聴かせてくれます。

(6)...54/10/11、ウィーン ベルンハルト・パウムガルトナー、ウィーン交響楽団(Philips)
 ハスキルの純度の高い響きで端正に、そして、音楽に敬意を持って、実に丁寧に弾かれた演奏は最後まで維持されます。適度に軽い残響のあるホールトーンで美しい音楽はこの上もなく、心に沁み渡ってきます。パウムガルトナー指揮のウィーン交響楽団も見事なサポートです。こういう素晴らしいセッション録音を残してくれたPhilipsに感謝です。因みにハスキルの演奏スタイルは同じ年に録音されたフリッチャイとの演奏とほとんど変わりません。すっかり、この曲を自分のものとして確立したようです。

(7)...56/01/28、ザルツブルグ ヘルベルト・フォン・カラヤン、フィルハーモニア管弦楽団(ORF)カデンツァ:クララ・ハスキル
 これは本当に驚きました。まさに一期一会とも思える会心の演奏です。生命力に満ちて、純度の高い響きで、ハスキルはこの名曲を弾き切ります。第3楽章の素晴らしさには感銘を受けてしまいます。カラヤンの絶妙のサポートも見事の一語です。ピアノに寄り添いつつ、ピアノの響きを高めていくような素晴らしい指揮です。永遠に語り継いでいくような名演です。この演奏では以前とはカデンツァが変わりましたね。これがハスキル自身の作ったカデンツァでしょうか。なお、カラヤンとは、このとき、ウィーン、ザルツブルク、ミュンヘン、パリ、ロンドンで10回以上もツアーでコンサートを行い、ハスキル自身も満足の出来だったそうです。カラヤンとはこれが最後の共演になったそうです。

(8)...56/11/06、ボストン シャルル・ミュンシュ、ボストン交響楽団(MUSIC&ARTS)カデンツァ:ニキタ・マガロフ
 音質はまあまあというところですが、ハスキルの純度の高いピアノの響きは十分にさえわたっています。ハスキルの演奏は相変わらずの素晴らしさ。とりわけ、第2楽章の情感あふれる演奏はこれまでで最高のレベルです。ミュンシュの気合のはいった指揮も聴きものです。なお、この演奏は初のアメリカでのコンサートツアーで最初のボストンでの4回のコンサートのうちの最後のコンサートです。最初の3回はベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番でしたが、この最後のコンサートはミュンシュのたっての希望でこのモーツァルトのピアノ協奏曲第20番が取り上げられたそうです。道理でハスキルもミュンシュも気合がはいっていたわけです。ハスキルもこの演奏について、満足していたようです。ところでカデンツァはまた、元のマガロフのカデンツァを弾いています。予定外の曲目だったので、古くから弾いていたカデンツァを弾いたのかもしれません。

(9)...57/09/27、モントルー音楽祭 パウル・ヒンデミット、フランス国立管弦楽団(INA)カデンツァ:ニキタ・マガロフ
 何故か、可憐に咲く一輪の白い花をイメージしました。オーケストラは妙に重い演奏でリズムも悪いのですが、ハスキルのピアノが入ってくると、空気が一変します。実に気品の高い清冽な演奏です。オーケストラとのギャップが逆にハスキルのピアノを引き立てている印象すらあります。音質もハスキルのピアノの響きを聴き取るのに十分なレベルです。ハスキルはこの曲の演奏形式を完全に確立していて、常に高いレベルの演奏を聴かせてくれます。 

(10)...59/09/08、ルツェルン オットー・クレンペラー、フィルハーモニア管弦楽団(URANIA、AUDITEハイレゾ)カデンツァ:ハスキル
 URANIAのCDは音質は悪いですが、素晴らしい演奏でした。今回、新たにAuditeのダウンロード販売で入手したハイレゾ音源はまるで奇跡のように素晴らしい音質で、オーケストラもハスキルのピアノの響きも素晴らしく磨きあがっています。とりわけ、ハスキルのピアノの高域のピュアーな響きと低域の深みのある響きは感涙ものの素晴らしさ。ルツェルン音楽祭のハイレゾ音源シリーズでは、フルトヴェングラーのシューマンの交響曲第4番も見事に蘇りましたが、これはそれを上回る出来です。この演奏で聴くハスキルの音楽は一段と芸術上の高みに上った感があります。潤いのある、磨き上げられたようなピアノの響きで哀感のある音楽を奏でていきます。まさに輝くような演奏に引き込まれてしまいます。第2楽章の深い詩情にあふれた演奏には絶句するのみです。第3楽章もパーフェクトな響きで音楽が始まります。なぜか、カデンツァが短く省略されたのはどういうことなんでしょう。そういう問題があるにしても、これこそ、ハスキルのモーツァルトを代表する名演奏であることは変わりません。クレンペラーもさすがに立派にオーケストラを鳴らしています。名指揮者と組んだときのハスキルは一段と輝きを増します。

(11)...60/11/14-18、パリ イーゴル・マルケヴィッチ、コンセール・ラムルー管弦楽団(Philips)カデンツァ:クララ・ハスキル
 これはLPレコードを入手しました。素晴らしい音質ですが、若干、音が硬い印象があります。演奏は巷で言われているほど、ハスキルの最高の演奏には思えません。直前に聴いた前年のクレンペラーとのライヴのほうが明らかに優っています。この曲だけはセッション録音だと、ハスキルの心情が強く表れないのかもしれません。ライヴでステレオ録音が残っていればと悔やまれます。とは言え、これだけ素晴らしい音でハスキルのピアノの音が聴けるのですから、貴重な録音であることは間違いありません。第3楽章だけは素晴らしい演奏です。勢いはありませんが、その代わり、くまどりのはっきりしたメリハリのきいた素晴らしい演奏です。(追記)ハイレゾ音源で聞き直した結果、ずい分、印象が変わりました。もう一つに思えたマルケヴィッチ指揮コンセール・ラムルー管弦楽団の演奏もなかなか素晴らしいです。そして、やはり、ハスキルの演奏は最高の輝きに満ちていました。オーディオも進化によって、こんなに演奏の印象が変わるものかと驚愕しました。

(結論) これらの11種類の録音はいずれもハスキルのファンならば、聴き逃せない演奏ばかりですが、とりわけ、56年のカラヤン、56年のミュンシュ、59年のクレンペラーは素晴らしいの一語に尽きます。54年のフリッチャイとのセッション録音、54年のパウムガルトナー、60年のマルケヴィッチも捨て去りがたい魅力に満ちています。やはり、ハスキルのピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466は大袈裟に言うと、人類の文化遺産の最高峰です。


ピアノ協奏曲第23番イ長調 K.488

(1)...53/06/25、ルガーノ オトマール・ヌシオ、スイス・イタリア語放送管弦楽団(Ermitage)
 うーん、これが本当にハスキルの演奏でしょうか? 響きといい、音楽性と言い、まるでハスキルらしくない演奏です。妙に綺麗過ぎるんです。音質がえらく良いのですが、音響的な処理のせいでしょうか。それでも第3楽章はハスキルならでは勢いのあるテクニックのある演奏なので、これはハスキルしか弾けないでしょう。オーケストラがメロー過ぎるほどのロマンティックな演奏をしているので、ハスキルも同調してしまったのかな。この曲をハスキルが以後、どんな演奏をしているのか、興味が尽きません。ほぼ1年後と3年後と6年後(亡くなる前年)の録音が残っているので、比較してみましょう。

(2)...54/10/08-10、ウィーン パウル・ザッハー、ウィーン交響楽団(Philips)
 これはハスキルらしい高貴さと詩情に満ちた演奏。ほぼ、4か月前の演奏は何だったんでしょう。第1楽章こそ、ピアノの響きがきちんと聴こえてきませんが、第2楽章の抑制のきいた美しさ、第3楽章の純度の高い響きには満足できます。オーケストラも美しい響きですが、決して、やり過ぎていません。最高の演奏ではありませんが、一定の水準の演奏です。

(3)...56/02/06、ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール ヘルベルト・フォン・カラヤン、フィルハーモニー管弦楽団(ICA CLASSICS)
 クララ・ハスキルの新しい録音が発見されました。イギリスBBC放送で中継放送されたコンサートを当時の最高の機材で録音していたリチャード・イッター(Richard Itter)という奇特な人がいて、1952年から1996年まで、およそ1500点にのぼる放送録音をコレクションしていたそうです。今回、ICA CLASSICSがBBCと12年間の交渉との末、ようやく契約がまとまり、イッターの膨大な録音の中から40タイトルをリリースするそうです。その中に前から聴きたかったクララ・ハスキルとカラヤンが共演したロイヤル・フェスティヴァル・ホールでのモーツァルトのピアノ協奏曲第23番があります。これはカラヤンと組んで、ウィーン、ザルツブルク、ミュンヘン、パリ、ロンドンなどで11回もコンサートを行い、ハスキル自身も満足の出来だったコンサート・ツアーの最後を飾るものです。もっともクララ自身はツアーが続いたため、このロンドンの演奏会は疲れていて満足な演奏の出来ではなかったと述懐しています。カラヤンとはこれが最後の共演になったそうです。既にザルツブルクでのモーツァルトのピアノ協奏曲第20番はオーストリア放送協会の録音がCD化されており、まさに一期一会とも思える会心の演奏です。生命力に満ちて、純度の高い響きで、ハスキルはこの名曲を弾き切っています。ロンドンでの1956年2月6日の演奏会については実際にその場で聴いた植村攻氏の感想が著書《巨匠たちの音、巨匠たちの姿》に書かれています。第2楽章のアダージオが絶品だったそうです。タイムズ紙もこの第2楽章を絶賛するレビュー記事を掲載したそうです。で、実際に聴いてみた感想は音質はもう一つながら、まあまあ、聴けるレベルにあるという感じです。演奏はやはり、第2楽章が白眉です。第3楽章も勢いのある演奏です。残念ながら、このコンビの第20番ほどの冴えはありませんでした。ただ、ハスキルの品格の高いピアノ、共演したカラヤンの気品に満ちた演奏は特筆すべきものです。

(4)...59/06/29、ディボンヌ・レ・バン音楽祭 ピエール・コロンボ、ジュネーブ室内管弦楽団(INA)
 未入手のため、この演奏だけは聴けていません。遂にこの演奏だけが未入手になりました。

(5)...59/09/15、モントルー シャルル・ミュンシュ、パリ国立管弦楽団(MUSIC&ARTS)
 嬉しくなってしまうような感動の名演です。生々しい録音でハスキルの素晴らしさがすべて分かってしまう感じ。ライヴなのに落ち着いた堂々たる演奏を聴かせてくれます。第1楽章から美しい響きでモーツァルトのメロディアスな音楽が奏でられますが、抑制のきいた格調の高い表現です。そして、第2楽章の素晴らしさ。深い思い、精神性と言ってもいいかもしれませんが、音楽に込められたハスキルの極上の世界が繰り広げられます。それに寄り添うミュンシュの抒情的な表現も見事です。第3楽章はもう、自由な飛翔が存分に展開されて、ただただ聴き入るのみ。晩年のハスキルの高い音楽性はもう、天上の世界を思わせられます。感動的なのは大指揮者ミュンシュがハスキルのピアノにぴったりと寄り添い、支えていることです。よほど、ハスキルのピアノに感銘を受けていたのでしょう。この録音を聴くだけでそれが分かります。ハスキルはその時代の大音楽家によほど愛されたのですね。胸が熱くなりました。

(結論) 59年のミュンシュとの演奏が最高です。56年のカラヤンも彼とのラストコンサートなので、価値がありますし、その品格の高い演奏は忘れられません。


ピアノ協奏曲第24番ハ短調 K.491

(1)...55/12/08、パリ(シャンゼリゼ劇場) アンドレ・クリュイタンス、フランス国立管弦楽団(INA)
 ハスキルの魅力が凝縮されているような演奏です。これを聴いて、ハスキルのファンにならない人は音楽を聴く資格がないとそしられても仕方がないでしょう。大指揮者クリュイタンスの指揮するオーケストラの素晴らしい演奏が野暮に聴こえてしまうほど、ハスキルのピアノの響きは美しく、格調が高いと感じます。可憐な白い一輪の花というと、誤解があるかもしれませんが、そう表現したくなるような孤高のピアノです。第1楽章から冴え渡るピアノは、第2楽章でひと際美しく、第3楽章でも冴え渡る技巧の素晴らしさに聴いている自分が茫然自失になってしまいます。ハスキルの最高の演奏が聴けました。録音もINAの素晴らしい技術で最高です。

(2)...56/06/25、ローザンヌ ヴィクトル・デザルツェンス、ローザンヌ室内管弦楽団(Claves)
 全編、哀しみ色に塗り込まれた深い詩情にただただ聴き入るのみです。ハスキルのモーツァルトの中でも最高の演奏です。デザルツェンスの指揮もそういうハスキルの演奏にぴったりと寄り添って、雰囲気を盛り上げてくれます。ピアノ、オーケストラ、共に素晴らしい協奏曲を作り上げてくれました。どの楽章をとっても素晴らし過ぎる演奏ですが、第1楽章のカデンツァは最高の演奏です。忘れられない究極の演奏のCDになりました。

(3)...60/11/14-18、パリ イーゴル・マルケヴィッチ、コンセール・ラムルー管弦楽団(Philips)カデンツァ:クララ・ハスキル/ニキタ・マガロフ
 貴重なステレオ録音で期待してしまいますが、同時に録音された第20番 ニ短調の協奏曲と同様にがっかりしてしまいます。特に第1楽章ではハスキルの詩が聴こえてきませんし、響きも平凡です。救われるのは第2楽章の終盤から響きがよくなり、第3楽章の演奏が素晴らしいことです。これなら、第3楽章の後、もう一度、第1楽章を録音し直してくれれば、よかったのにね。まあ、この曲では既に素晴らしい録音が2つもあるのでいいでしょう。一般にはこのCDがハスキルの代表盤のようになっているので、これを聴いた人はハスキルの真髄を聞き逃して、誤解してしまうかもしれません。(追記)まだ、ハイレゾ音源を聴いていませんが、第20番では印象ががらっと変わったので、この演奏も大化けする可能性があります。上記の感想は一時、保留です。

(結論) 55年のクリュイタンス、56年のデザルツェンスとの演奏は、ハスキルのモーツァルト演奏の中でも究極を思わせる素晴らしいものです。


ピアノ協奏曲第27番変ロ長調 K.595

(1)...56/09/09、モントルー オットー・クレンペラー、ケルン放送(WDR)交響楽団(MUSIC&ARTS)
 ハスキルの素晴らしい演奏に至福を感じます。音質は聴き取り易く処理されていますが、音楽を損ねるようなものではありません。クレンペラーのがっちりとしたオーケストラに支えられて、ハスキルはすべての音楽をクレンペラーに一旦、委ねたかのしながらも、しっかりと自分の個性に満ちた音楽を奏でていきます。第1楽章、第2楽章は愛らしいとも言える、ゆったりとしたピアノの響きで、とても格調高いものです。ハスキルらしい純度の高いピアノの音も十分感じられます。第3楽章はハスキルのテクニックが素晴らしく、見事な音楽を展開していきます。何故か、このクレンペラーとかクリュイタンスとかミュンシュとかシューリヒトのような大指揮者と組んだときのハスキルは彼らにインスパイアされるのか、必ず、最高の演奏を聴かせてくれます。ああ、イッセルシュテット、ヨッフム、カラヤンも抜けていますね。彼らの誰かとモーツァルトのピアノ協奏曲全集を録音してくれていればとの思いが残ります。

(2)...57/05/07-09、ミュンヘン(ヘラクレスザール) フェレンツ・フリッチャイ、バイエルン国立管弦楽団(DGG)LP
 モーツァルトはかく演奏されねばならないというような最高の演奏です。ハスキルの最高の芸術をここに聴くことができます。彼女の純度の高いピアノの響きは極限まで高められて、聴くものの耳をも純化します。フリッチャイはよいサポートとか、寄り添うとかというレベルではなく、ハスキルの最高の演奏と一体化したような素晴らしい指揮です。彼こそ、ハスキルの芸術の何たるかを理解していた音楽家だったのですね。第1楽章の素晴らしい演奏に続き、第2楽章はさらに純化された最高の演奏です。第3楽章はさぞや、勢いに乗った演奏になると思っていたら、そうではありません。インテンポのゆったりした演奏で、すっかりと力の抜けた、軽み(かろみ)に至る演奏です。あまりの見事さに思わず、こちらは笑みがこぼれてしまいます。でも最後のフィナーレの凄まじさには感動します。まるで泣き笑いのようになってしまうような極上の演奏。ハスキルは本当に天才だったんですね。それが実感できる究極の1枚です。

(結論) 56年のクレンペラーとの演奏も素晴らしいのですが、57年のフリッチャイとの演奏ときたら、ハスキルの芸術のすべてが詰まっています。



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       ハスキル,  

シューマンのヴァイオリン・ソナタを好演 毛利文香&アブデル・ラーマン・エル=バシャ デュオ・リサイタル@横浜上大岡ひまわりの郷ホール 2018.12.11

とっても若いヴァイオリニストの毛利文香のリサイタルを聴きました。モーツァルト、シューマン、フランクの傑作ソナタをその様式に合わせて見事に弾き分けました。しっかりと勉強しているようですね。これからが楽しみな若手です。そもそも、何故、このリサイタルに行くことにしたのかというと、①会場が近い、②共演するピアニストが大物のエル=バシャ、③シューマンのソナタが聴ける、ということでしょうか。特にプログラムにシューマンの2番を入れたという心意気に感じたのが大きいです。
そういうわけで、特にシューマンを楽しみにしていました。結果的にその演奏が一番良かったので、満足なコンサートでした。第1楽章の熱いロマン、第3楽章のしみじみとした抒情、第4楽章の勢いのある演奏。それに何と言っても、しっかりとシューマンらしさが醸し出されていたのが素晴らしいです。この若さでシューマンの音楽をしっかり把握していますね。モーツァルトも第2楽章がとても美しい演奏でした。

この日のプログラムは以下の内容です。

 ヴァイオリン:毛利文香
 ピアノ:アブデル・ラーマン・エル=バシャ

  モーツァルト:ヴァイオリンソナタ第28番 ホ短調 K.304
  シューマン:ヴァイオリンソナタ 第2番 ニ短調 Op.121

  《休憩》

  フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調

  《アンコール》

    アブデル・ラーマン・エル=バシャ:ヴァイオリンとピアノのためのノクターン


最後に予習について触れておきます。


1曲目のモーツァルトのヴァイオリンソナタ第28番は以下のCDで予習をしました。

 アルテュール・グリュミオー、クララ・ハスキル 1958年11月19日-20日録音 バーゼル、スイス

これはsaraiの愛聴盤にして、世間でも決定盤と言われています。ハスキルのピアノが素晴らしいのはもちろん、グリュミオーのヴァイオリンの瑞々しさも特筆ものです。


2曲目のシューマンのヴァイオリンソナタ 第2番は以下のCDで予習をしました。

   アドルフ・ブッシュ、ルドルフ・ゼルキン 1943年録音 ワシントン ライブ モノラル

これもsaraiの愛聴盤です。それに決定盤でもあります。感動の演奏です。


3曲目のフランクのヴァイオリンソナタは以下のCDで予習をしました。

 ダヴィド・オイストラフ、スヴャトスラフ・リヒテル 1968年12月28日録音 モスクワ音楽院大ホール ライヴ

これもsaraiの愛聴盤中の愛聴盤。二人の巨人のぶつかり合いには息を呑むばかりです。室内楽演奏の最高峰とも思えます。

結局、予習というよりも復習になりました。愛聴盤をまたまた聴き、その素晴らしさに耳を楽しませました。



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涙、涙の大団円!ノット&東響《フィガロの結婚》@サントリーホール 2018.12.9

いやはや、凄い内容のオペラでした。まさか、ここまでの内容とは予期していませんでした。一昨日のミューザ川崎での公演を上回るパフォーマンスに感激しました。

内容に入る前にまず、これだけは特筆しておきたいと思います。ジェニファー・ラーモアがあり得ないほど素晴らしいアリア「牡山羊と牝山羊は」を歌ってくれました。史上最高のマルチェリーナです。愛嬌をふりまきつつ、その気概に満ちた歌唱には驚かされました。さらには、信じられないアジリタ! 凄い! チェチーリア・バルトリは別格として、最強のアジリタを聴いた思いになりました。

しかし、これはあくまでも今回のオペラ公演の一部です。全体の感想に移りましょう。とても書ききれないほどですが、特に印象に残った点だけを挙げておきます。

川崎公演と違って、まず、序曲が美しく響きます。あくまでも推定ですが、川崎はガット弦が一部使用されていたので響かなかったので、サントリーホールではガット弦を使用しなかったのではないかと思います。続く第1幕もすべてが素晴らしい内容でした。第2幕も見事です。川崎とは内容が大きく上回りました。すっかり、魅了されたまま、休憩に入ります。休憩後は川崎公演でも最高だった第3幕、第4幕です。これもさらなる素晴らしさです。第4幕の終幕のシーンは圧倒的です。体調不良で強行出演とアナウンスされたアルマヴィーヴァ伯爵役のアシュリー・リッチズが伯爵夫人に許しを乞う歌唱の素晴らしさにウルウルします。さらにミア・パーションの美し過ぎる歌唱で許しを与えられると、まるで自分が許されたような気持ちになって、感動の涙は止められません。終幕で一気に伯爵と伯爵夫人が主役に躍り出て、感動の歌唱が続きます。ミア・パーションの透明な高音に魅了されます。そして、心躍るフィナーレに突入。幸福感に包まれながらの感動の絶頂に至ります。

全体を通して、このオペラを盛り上げたのは、フィガロとスザンナを歌った美男美女コンビのマルクス・ヴェルバとリディア・トイシャーの二人。前回同様に絶好調のマルクス・ヴェルバの美声には同じ男性のsaraiもふらっとくるくらいのセクシーさを感じます。すべてのアリア、重唱、レチタティーヴォが完璧です。とりわけ、アリア「もう飛ぶまいぞこの蝶々」の声の響き、勢い、表現力はこれ以上ないほどです。この人はこんなに素晴らしいバリトンなのですね。第4幕のスザンナとの2重唱にも心を持っていかれました。書けばきりがないほどの見事な歌唱でした。そして、リディア・トイシャーは今日は第1幕の初めから好調で、幕を追うごとに調子を上げて、saraiは彼女の透き通った美しい声にすっかり参ってしまいました。美しいレチタティーヴォの歌唱を軸にレチタティーヴォ・アコンパニャートが素晴らしいです。ミア・パーションとの手紙の二重唱「そよ風によせて…」は美しさの極み・・・卒倒しそうな思いで聴き入りました。第4幕のレチタティーヴォとアリア「とうとう嬉しい時が来た~恋人よここに」で彼女の歌唱が絶頂を極めます。トイシャーのあまりの魅力に一挙にファンになってしまいました。

アルマヴィーヴァ伯爵夫人役のミア・パーションのフィナーレでの素晴らしさには既に言及しましたが、有名な2つのアリア、「愛の神様」、「あの楽しい思い出はどこに」では、実力を十分に発揮した出来栄えに感銘を受けました。彼女の存在感の重さを感じさせる歌唱はR.シュトラウスの《薔薇の騎士》の元帥夫人(マルシャリン)を連想してしまいました。彼女のゾフィーはバーバラ・ボニーと並んで、saraiのベストなのですが、元帥夫人も十分に歌えるんじゃないかとひそかに思いました。いずれにせよ、久しぶりに彼女の声を満喫できて幸せです。

ケルビーノ役のジュルジータ・アダモナイトは代役での出演でしたが、綺麗な声の持ち主。川崎ではちょっと落ち着かない歌唱もありましたが、今日は十分な歌唱。有名なアリアの2つを無難に歌いこなしました。
バルトロ/アントニオ役のアラステア・ミルズは演出監修も手掛けて、今回のオペラを成功させた功労者。歌唱も早口言葉を見事にこなしていましたし、ソフトな歌声にも感服しました。
バルバリーナ役のローラ・インコも美しい声の持ち主。この役ではもったいないくらいです。
バジリオ/ドン・クルツィオ役のアンジェロ・ポラックも美しい声の歌唱を聴かせてくれて、この役では十分過ぎる出来でした。

今回はコンサート形式のオペラですが、それなりの衣装も身に着けて、かなりの演技をこなしたので、下手な現代風の演出で音楽をぶち壊すよりもよほどよいと感じました。このコンサート形式が日本で定着しつつあるのは、料金の安さやステージが間近にあるメリットもあるので大歓迎です。

オペラの評価で言えば、やはり、ジョナサン・ノットの音楽面での貢献がすべてだったと思います。八面六臂の活躍はまるでモーツァルトが指揮しているみたいと言えば、ほめ過ぎでしょうか。ノット指揮の東響の演奏にますます、のめり込んでいきそうです。

これでジョナサン・ノット&東響のダ・ポンテ3部作がおしまいです。《コジ・ファン・トゥッテ》、《ドン・ジョヴァンニ》、《フィガロの結婚》を通して聴いてみて、《コジ・ファン・トゥッテ》、《フィガロの結婚》の2作の出来栄えが素晴らしかったです。まあ、僅差で《コジ・ファン・トゥッテ》が素晴らしかったかな。あれは本当に素晴らしかった! 今回もフィガロを歌ったマルクス・ヴェルバを起用したのが大成功でした。

そうそう、川崎もサントリーホールもカーテンコールが大いに盛り上がりました。今日は特に気に入ったジェニファー・ラーモアに“ジェニファー”と叫びかけたら、saraiに笑みを返してくれました。ありがとう、ジェニファー!


プログラムは以下です。

 モーツァルト 歌劇「フィガロの結婚」全4幕

  指揮&ハンマーフリューゲル:ジョナサン・ノット
  演出監修:アラステア・ミルズ

フィガロ:マルクス・ヴェルバ
スザンナ:リディア・トイシャー
アルマヴィーヴァ伯爵:アシュリー・リッチズ
アルマヴィーヴァ伯爵夫人:ミア・パーション
ケルビーノ:ジュルジータ・アダモナイト
マルチェリーナ:ジェニファー・ラーモア
  バルトロ/アントニオ:アラステア・ミルズ
バルバリーナ:ローラ・インコ
バジリオ/ドン・クルツィオ:アンジェロ・ポラック

合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団


予習は前回書いた通りの2015年ザルツブルク音楽祭のヴィデオです。今日の公演はコンサート形式ながら、そのザルツブルグ音楽祭の公演を上回る内容でした。



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       ジョナサン・ノット,  

明日のフィガロに向けて、一休み

今日はFセンターのレクチャーコンサート。懇親会もあり、色んな勉強をしました。夜遅く帰宅。明日の「フィガロの結婚」は13時からの始まり。早く寝ましょう。
そうそう、朗報です。我が愛するクララ・ハスキルの新しい録音が発見されました。イギリスBBC放送で中継放送されたコンサートを当時の最高の機材で録音していたリチャード・イッター(Richard Itter)という奇特な人がいて、1952年から1996年まで、およそ1500点にのぼる放送録音をコレクションしていたそうです。今回、ICA CLASSICSがBBCと12年間の交渉との末、ようやく契約がまとまり、イッターの膨大な録音の中から40タイトルをリリースするそうです。その中に前から聴きたかったクララ・ハスキルとカラヤンが共演したロイヤル・フェスティヴァル・ホールでのモーツァルトのピアノ協奏曲第23番があります。これはカラヤンと組んで、ウィーン、ザルツブルク、ミュンヘン、パリ、ロンドンなどで11回もコンサートを行い、ハスキル自身も満足の出来だったコンサート・ツアーの最後を飾るものです。もっともクララ自身はツアーが続いたため、疲れていて満足な演奏の出来ではなかったと述懐しています。カラヤンとはこれが最後の共演になったそうです。既にザルツブルクでのモーツァルトのピアノ協奏曲第20番はオーストリア放送協会の録音がCD化されており、まさに一期一会とも思える会心の演奏です。生命力に満ちて、純度の高い響きで、ハスキルはこの名曲を弾き切っています。ロンドンでの1956年2月6日の演奏会については植村攻氏の著書《巨匠たちの音、巨匠たちの姿》に書かれています。第2楽章のアダージオが絶品だったそうです。タイムズ紙もこの第2楽章を絶賛するレビュー記事を掲載したそうです。楽しみなCDが現れました。saraiはもちろん、すぐに注文しました。第23番はこれまで3枚のCDが出ています。このうち、1959年9月15日、モントルーでのシャルル・ミュンシュ指揮パリ国立管弦楽団との共演は嬉しくなってしまうような感動の名演です。さて、4枚目となるカラヤン指揮フィルハーモニア管弦楽団との演奏は期待に応えてくれるでしょうか。クララが特別の忘れがたい演奏だったと語ったウィーンやミュンヘン、パリの公演も発見されるといいのですが・・・。



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       ハスキル,  

ジョナサン・ノット&東響のダ・ポンテ3部作も大団円、感動!感動!《フィガロの結婚》@ミューザ川崎シンフォニーホール 2018.12.7

オペラの醍醐味を満喫しました。一昨年から始まったジョナサン・ノット&東響のダ・ポンテ3部作も大団円になり、最後は《フィガロの結婚》です。《コジ・ファン・トゥッテ》、《ドン・ジョヴァンニ》と素晴らしい公演が続き、いやがうえにも期待が高まる《フィガロの結婚》です。期待しながら、開演を待ちます。意外に空席もあるのが不思議です。評判になっている公演だと思いますけどね。いよいよ、ジョナサン・ノットが満面の笑みを浮かべながら、入ってきて、タクトを振り始めます。序曲です。あれっ、妙にくぐもった響きです。特に第1ヴァイオリンが響きません。さてはガット弦での演奏なのかなと推測します。管楽器はホルンはナチュラルホルンのようですが、ほかは普通の楽器のように思えます。ヴァイオリンは対向配置で絞った構成です。まあ、悪くはない演奏ですが、こんなに響かない演奏は好みではありません。序曲が終わり、フィガロとスザンナが登場します。フィガロ役のマルクス・ヴェルバは張りのある素晴らしい歌唱を聴かせてくれます。スザンナ役のリディア・トイシャーは高域はともかく、中低域の声が響きません。万全のスタートではありませんね。今回は2幕目の後に1回の休憩が入ります。第1幕から第2幕までは通しで演奏されますが、もう一つ、乗り切れない演奏が続きます。saraiも途中、集中を欠いてしまいます。第2幕の終盤の7重唱になって、俄然、音楽が高潮し、素晴らしい重唱に耳を奪われます。演奏もさることながら、モーツァルトの天才ぶりに今更ながら感嘆します。盛り上がったところで休憩です。

休憩後、第3幕が始まります。このあたりになるとスザンナ役のリディア・トイシャーの声の響きがとても美しくなります。その透明な高域の声は魅惑的です。アルマヴィーヴァ伯爵役のアシュリー・リッチズも「わしがため息をついて嘆いている間に家来が幸せになるのか」のアリアを見事に歌い上げます。柔らかな声質のバリトンです。裁判の後、すったもんだの挙句、フィガロの身の上が分かって、六重唱「この抱擁は母のしるし」が歌われますが、第2幕終盤と同様にモーツァルトの天才ぶりが再び、発揮されます。ため息の出るような素晴らしい重唱です。次いで、待ち望んでいたアルマヴィーヴァ伯爵夫人のアリア「あの楽しい思い出はどこに」です。今回、一番、楽しみにしていた名花、ミア・パーションの歌唱です。遂に実力を発揮してくれました。本当は彼女のスザンナを聴きたかったのですが、声質が少し重くなり、スザンナ役は卒業して、伯爵夫人になりました。結局、彼女のスザンナを生で聴く機会は失ってしまいました。でも、彼女のピュアーな高音は健在で素晴らしいアリアを歌ってくれました。一昨年、《コジ・ファン・トゥッテ》ではフィオルディリージを歌う筈でしたが、体調不良で残念なキャンセルになり、その美声を聴き逃がしましたが、ようやく、彼女の美声を聴くことができました。2012年にウィーン国立歌劇場で彼女の素晴らしいゾフィーを聴いて以来ですから、6年ぶりです。その感激も束の間。スザンナ役のトイシャーが登場して、パーションと二人で手紙の二重唱「そよ風によせて…」を歌います。二人の透き通るようなソプラノが織りなす歌唱に大変な感銘を受けます。で、第2幕終盤の結婚式の場に突入します。主役はノット指揮東響のアンサンブルです。序曲では不満足だったアンサンブルが最高の響き、音楽を奏でます。素晴らし過ぎる演奏に絶句します。第3幕は最高の音楽が続き、saraiはすっかり、満足。これ以上のフィガロは望むべくもありません。第4幕もそのままの高いレベルのアンサンブルと歌唱が続きます。マルチェリーナ役のジェニファー・ラーモアがとんでもなく素晴らしいアリア「牡山羊と牝山羊は」を歌ってくれます。このアリアって、こんなに素晴らしいアリアだとは今まで気が付きませんでした。ジェニファー・ラーモアは以前、《ルル》のゲシュヴィッツ伯爵令嬢でも主役のルルを食ってしまいそうな歌唱を聴かせてくれましたし、新国のオペラ《イェヌーファ》のコステルニチカでも鬼気迫る歌唱を聴かせてくれました。驚くべき歌唱力の持ち主ですね。素晴らしいアリアが続き、やがて、フィナーレに差し掛かります。音楽が色合いを変えて、伯爵が許しを乞い、伯爵夫人が許しを与える最高の場面です。これには参りました。これで感動しなければ、今日の演奏を聴く意味がありません。モーツァルトの最高の音楽です。伯爵役のアシュリー・リッチズ、伯爵夫人役のミア・パーションの渾身の歌唱に感動のあまり、涙が流れます。そして、一同の祝祭的な重唱に勢いよく突入し、最後はノットが勢い余ったような凄い演奏で締めます。幸福感に満たされて、最高の充足感に浸ります。

これでジョナサン・ノット&東響のダ・ポンテ3部作が終わってしまうのはあまりにもったいない。そうです。今日は配偶者と一緒にこのミューザ川崎で聴きましたが、明後日のサントリーホールの公演にも今度はsarai一人で出かけます。絶対に素晴らしい公演になるという確信がありましたから、両方の公演のチケットを入手しておきました。こんな美味しい公演を聴き逃がすわけにはいきません。空席があったのが不思議です。
ジョナサン・ノット&東響のダ・ポンテ3部作の公演、全体を通しての感想はサントリーホールの公演を聴いた後にアップします。


プログラムは以下です。

 モーツァルト 歌劇「フィガロの結婚」全4幕

  指揮&ハンマーフリューゲル:ジョナサン・ノット
  演出監修:アラステア・ミルズ

フィガロ:マルクス・ヴェルバ
スザンナ:リディア・トイシャー
アルマヴィーヴァ伯爵:アシュリー・リッチズ
アルマヴィーヴァ伯爵夫人:ミア・パーション
ケルビーノ:ジュルジータ・アダモナイト
マルチェリーナ:ジェニファー・ラーモア
バルバリーナ:ローラ・インコ
バジリオ/ドン・クルツィオ:アンジェロ・ポラック
  バルトロ/アントニオ:アラステア・ミルズ

合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団


予習したのは以下の映像作品です。

 2015年ザルツブルク音楽祭
  2015年8月9日 モーツァルト劇場(ザルツブルク)

 <歌手>
 ルカ・ピサローニ(アルマヴィーヴァ伯爵 / バス・バリトン)
 アネット・フリッチュ(伯爵夫人 / ソプラノ)
 アダム・プラチェツカ(フィガロ / バリトン)
 マルティナ・ヤンコヴァ(スザンナ / ソプラノ)
 マルガリータ・グリシュコヴァ(ケルビーノ / メゾ・ソプラノ)
 アン・マレー(マルチェリーナ / メゾ・ソプラノ)
 カルロス・ショーソン(ドン・バルトロ / バス)
 パウル・シュヴァイネスター(ドン・バジリオ / テノール)
 フランツ・ズッパー(ドン・クルツィオ / テノール)
 クリスティーナ・ガンシュ(バルバリーナ / ソプラノ)
 エリック・アンスティーネ(アントニオ / バス)

 <合 唱> ウィーン国立歌劇場合唱団
 <管弦楽> ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 <指 揮> ダン・エッティンガー
 <演 出> スヴェン・エリック・ベヒトルフ

2013年からスヴェン=エリック・ベヒトルフの演出で始まったモーツァルトのダ・ポンテ・オペラ三部作の締めくくりとなる「フィガロの結婚」です。同じシリーズの「コジ・ファン・トゥッテ」は実際にザルツブルグ音楽祭で一昨年に聴いて(見て)、大変、感動しました。この「フィガロの結婚」はその「コジ・ファン・トゥッテ」ほどの出来ではありません。ただし、saraiが見たのはモーツァルト劇場ではなく、フェルゼンライトシューレでしたから、劇場の違いも影響しているのかもしれません。エッティンガー指揮のウィーン・フィルの演奏は素晴らしいです。



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       ジョナサン・ノット,  

ヒラリー・ハーンの思い出・・・初めて聴いたのはいつ?

12月3日・5日のバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全曲演奏コンサートでsaraiの10年来の夢が完結しました。10年来の夢というのは、ヒラリー・ハーンのコンサートを聴き始めて、10年以上が経過したということです。それでは、ヒラリーの実演を初めて聴いたのはいつのことだったんでしょう。どうも思い出せません。ブログを書き始めてからの記事を見ると、今回の2回のリサイタルを含めて、13回聴いています。初めて、ちゃんとした記事を書いたのは2010年5月30日、東京芸術劇場でペッカ・サロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団と共演したチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲のコンサートです。因みにその時のアンコール曲が昨日と同じアンコール曲、パルティータ第1番のサラバンダでした。(ヒラリー・ハーンのすべての記事はブログの左側のインデックスのヴァイオリンのカテゴリから、ヒラリー・ハーンをクリックしてください。) でも、それ以前から、確かにヒラリー・ハーンは聴いています。ブログの記事を探索すると以下の記事の断片を発見しました。

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まずは、ヒラリー・ハーンの来日「ヴァイオリン・リサイタル」。

 1月9日 横浜みなとみらいホール
     イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタから
     アイブス:ヴァイオリン・ソナタから
     バルトーク:ルーマニア民俗舞曲から
     ほか

 saraiは熱狂的なヒラリ-ファンです。でも、最近のヒラリ-は聴く度に演奏の精度を上げ、さらに期待を上回る演奏で感動させてくれます。特に研ぎ澄まされたヴァイオリンの音色はヒラリーにしか出せないもので、その音色で完璧な技巧のもとに彼女独自の解釈した音楽を繰り広げてくれるのですから、まったく脱帽です。
 イザイの曲は技巧的にも難しい曲ですが、なんなく弾きこなし、感銘を受けました。アイブスは今回初めて聴く曲で事前にCDで予習しましたが、これまた、素晴らしい演奏。バルトークはお馴染みの曲で、彼女がどんな風に弾くのか興味がありましたが、意外にバルトークそのものって感じという演奏。
 全体として、非常に充実したリサイタルでヴァイオリンの魅力に満ちており、割に耳慣れない曲が多かったのですが、聴覚が喜ばされる感覚で満足!満足!
 既に来年来日予定のサローネン+フィルハーモニア管とのチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲のコンサートのチケットを入手し、待ち遠しく思っています。
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上記は2009年1月9日、横浜みなとみらいホールでのリサイタルですね。

その前はいつだったのか・・・記憶の奥底を探し回ります。ふっと記憶が蘇ります。誰かとヒラリー・ハーンのことを会話しました。だんだん、記憶が明確になってきます。ヨーロッパへの旅に向かう飛行機で隣にたまたま座っていたsaraiよりも随分若い男性との会話です。その男性がとんでもないクラシック音楽好きでヨーロッパにオペラを聴きに行くということで話がお互いのオペラのことで盛り上がったんです。ただ、saraiは普通のメジャーなオペラハウス、彼は地方のマニアックなオペラハウスということで、彼はsaraiに優る音楽愛好家だったんです。彼はスーツを着ていて、荷物は小さなアタッシェケースのみ。アタッシェケースには下着の着替えとPCだけが入っていて、大きな荷物は預けていないそうです。ヨーロッパのローカル空港への飛行機に乗り継ぐときに荷物があると短い乗り換え時間では問題が起こるからとのことです。飛行機の中でもスーツを着ているのは、そのまま、オペラハウスに駆け付けるためだそうです。ヨーロッパでは各地のローカルなオペラハウスを連日、飛行機で駆け巡るのだそうです。印象的だったのは、ベルクのルルを聴くと言っていたことです。その頃はまだ、saraiはベルクのオペラを聴いたことがありませんでした。で、その時、話題に上ったのがヒラリー・ハーンのことでした。ヨーロッパからの帰国後すぐにヒラリーのリサイタルを聴く予定でしたが、彼も聴くと言っていました。また、その会場、オペラシティでお会いしましょうというのがお別れの言葉でした。結局、オペラシティでは彼の姿を見ることはありませんでした。以来、我が家では彼のことを《達人》と呼称して、敬っています。
その旅はどの旅だったのか。2005年のゴールデンウィーク、北イタリアとウィーンを訪れた旅でした。旅の概要は以下です。

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2005年のゴールデンウィークをフル活用して、北イタリア(ベネチア~ボローニャ~フィレンツェ)からウィーンを巡る旅です。
前半の北イタリアは美術、風物を楽しみながらの鉄道の旅、後半はフィレンツェとウィーンでオペラを楽しんできました。

今回の旅の目的は、前回のイタリア訪問でカバーできなかった北イタリアの美を堪能することです。特に
・パドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂のジョットのフレスコ画
・ベネチアの教会のティツィアーノの絵画「聖母被昇天」
・ラヴェンナのビザンチン文化のモザイク画群
にこだわっていました。
それにもちろん、ヨーロッパに行って、オペラを見ないで帰ることはできません。ヨーロッパに旅する目的はもともとオペラを見ることにあります。フィレンツェの5月音楽祭と無理して帰りに寄り道するウィーンでオペラを見ます。ほかでも見たかったのですが、どうしてもスケジュールが合いませんでした。

・5月5日 フィレンツェ歌劇場 歌劇「トスカ」 メータ ライモンディ,ウルマーナ,ハドック
・5月6日 ウィーン国立歌劇場 楽劇「さまよえるオランダ人」 小澤 グルントヘーバー,シュナイダー・ホフシュテッター,フィンク,ボータ
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そして、帰国後、2005年5月10日、東京オペラシティ コンサートホールで初めて、ヒラリー・ハーンのリサイタルを聴きました。ヒラリーが26歳、今から13年前でした。因みにヒラリーの初来日は2000年11月のヤンソンス指揮ベルリン・フィルに帯同してのものでした。ヒラリーは若干21歳。そのときの11月26日のサントリーホールでの公演はNHKがHI-VISION放送しましたから、D-VHSでばっちり録画しています。見事なショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番の演奏でした。アンコール曲は無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番のプレストでした。(ヒラリー・ハーンのツイッターによると、今回の12月3日のリサイタル後のサイン会で、この初来日時にヒラリーの最初のバッハの無伴奏のCDにサインをもらったかたがそのサインされたCDを持ってこられたそうです。)

ですから、saraiは初来日後、5年目の2005年からヒラリー・ハーンの演奏を聴き続けていることになります。10年間は素晴らしい演奏が続き、3年前の2015年は不調でした。そのときは分かりませんでしたが、妊娠・出産という出来事があったんですね。今年は二人目のお子さんも出産し、見事に復活しました。また、saraiにとって、世界最高のヴァイオリニストに復活です。

因みにその2005年のリサイタルに行くきっかけは渋谷のタワーレコードでヒラリー・ハーンのコーナーができていて、絶賛されていたので、試しにメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を購入し、その演奏を聴き、いっぺんにファンになってしまったんです。

なお、2005年5月から2009年1月の間に聴いたコンサートはまったく不明です。当時の手帳で暇なときに調べてみましょう。

今回の日本ツアーはパーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルと共演するモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番のコンサートが続きますが、saraiはラストコンサートになる12月16日の宮崎芸術劇場のコンサートを追っかけします。



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       ヒラリー・ハーン,  

宇宙の深淵・・・ヒラリー・ハーン バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ@東京オペラシティ コンサートホール 2018.12.5

saraiの10年来の夢が完結しました。今日もかぶりつきの席でヒラリーの素晴らしい音のヴァイオリン演奏を聴かせてもらいました。今日は前回と違って、落ち着いて、じっくりとヒラリーの演奏に耳を傾けました。柔らかいビロードのような肌触りの美しい響きはバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータを弾くためには最適な響きです。時として高潮する演奏にはsaraiの胸が高鳴りました。この無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータはバッハがこの世に残した最高の器楽器のための音楽、そして、ヒラリーはその音楽を演奏するためにこの世に生まれてきたミューズに思えます。この場でその奇跡とも思える音楽を聴くことができたことは何と言う僥倖でしょう。

ヒラリーの演奏するバッハはその一音、一音の響きがまるで宇宙の深淵をのぞき込むような雰囲気を醸し出します。音楽芸術の究極を垣間見た思いです。ディテールは丁寧に表現され、さらにフレーズはわずかにテンポを揺らしながら、ふくよかな振幅を持って、鼓動していきます。考え抜かれたアーティキュレーションで色付けされた音楽はその構成感も柔らかに枠取りされています。自然な音楽表現にこちらはゆったりと身を預けているだけで、最高の音楽が心と体にしみわたってきます。ヴァイオリンを奏でるヒラリーは曲想に合わせて、体をゆすっています。原初的なダンスのような動きは目にもこころよく感じます。

無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全6曲はすべて素晴らしい演奏でしたが、とりわけ、3曲のソナタの素晴らしさが印象的でした。saraiはむしろパルティータの舞曲の音楽が好みだったのですが、今回のヒラリーの演奏を聴いて、ソナタの胸に迫るような美しさを教えられました。なかでも今日、冒頭に演奏されたソナタ第2番 イ短調 BWV 1003の美しさは際立っていました。第1楽章のグラーヴェの静謐な美しさ、第2楽章のフーガの魂に迫るような熱さ、第3楽章のアンダンテの連続した持続音が粛々と響いてくる心地よさ、そして、第4楽章のアレグロのきびきびとした迫力。すべてがパーフェクトに表現され尽くして、深い音楽の海に心を浸している思いに駆られました。演奏が終わっても、拍手するのがためらわれるような極上の音楽でした。他の2曲のソナタも同様の素晴らしい演奏でした。もちろん、パルティータの演奏も見事でした。既に書いた通り、前回のシャコンヌには感動しました。今日のパルティータ第3番の第2楽章のルールも美しさが際立っていました。しかし、そういう素晴らしいパルティータ以上にソナタの演奏は水際立った美しさでした。

もう一生、味わうことのできないような究極の音楽体験でした。音楽を聴くということではゴールにたどりついた思いです。しかし、全曲を演奏し終わったときのヒラリーの表情は達成感ではなく、ひとつの通過点を過ぎたとでもいうような微妙な表情を浮かべていました。saraiにはゴールでしたが、ヒラリーは洋々たる未来への通過点でしょうか。saraiがヒラリーのゴールを見極めることはないでしょう。それはそれでよいのかも・・・。

今日のプログラムは以下です。

  ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン

  バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全曲コンサート 第2夜

  無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番 イ短調 BWV 1003
   I. グラーヴェ Grave
   II. フーガ Fuga
   III. アンダンテ Andante
   IV. アレグロ Allegro

  無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番 ホ長調 BWV 1006
   I. 前奏曲 Preludio
   II. ルール Loure
   III. ロンドー形式のガヴォット Gavotte en rondeau
   IV. メヌエットI-II Menuett I-II
   V. ブレ Bourree
   VI. ジグ Gigue

   《休憩》

  無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番 ハ長調 BWV 1005
   I. アダージョ Adagio
   II. フーガ Fuga
   III. ラルゴ Largo
   IV. アレグロ・アッサイ Allegro assai

   《アンコール》

     無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第1番 ロ短調 BWV 1002 から 第3楽章 サラバンダ Sarabanda


最後に今回の予習について、まとめておきます。と言っても、前回と同じです。

  ヒラリー・ハーン・プレイズ・バッハ~無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番&第2番、パルティータ第1番 2017年6月 ニューヨーク州 バード大学、Richard B. Fisher Center
  ヒラリー・ハーン バッハ:シャコンヌ(パルティータ第3番&第2番、ソナタ第3番) 1996年6月、12月、1997年3月

ヒラリーが16歳から17歳にかけて録音したデビューアルバムはその若さ故の天衣無縫の演奏が実に魅力的ですが、驚くべきことにバッハの深淵を感じさせる演奏でもあります。昨年録音した無伴奏の完結編は素晴らしい響きの演奏で最近の円熟ぶりを実感しました。と言っても、彼女はまだ、40歳にもならない若さです。厳しいバッハ演奏を聴かせてくれたヘンリック・シェリングとはまた違った魅力があります。



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       ヒラリー・ハーン,  

夢の一夜・・・ヒラリー・ハーン バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ@東京オペラシティ コンサートホール 2018.12.3

saraiの10年来の夢が実現しました。本当に夢が叶うとは思っていませんでしたから、この日を迎えたのは感無量です。ヒラリー・ハーンの弾くバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータの全曲を聴くのが夢だったんです。そして、今日、かぶりつきの席でヒラリーの最高の演奏を聴かせてもらいました。今日の最後に弾いたシャコンヌの終盤ではまさに万感の思いになって、その素晴らしい響きに涙が滲みました。

ここ10年以上もヒラリーのヴァイオリンを聴いてきて、3年ほど前からの不調ぶりに暗澹たる思いでいました。多分、プライベートなことも影響したんだろうと想像します。彼女も芸術家である前に一人の人間ですから、苦しいこともあったんでしょう。そして、最新盤のバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータのCDを聴いて、ヒラリーが復活したことを確信しました。大きな期待を抱いて、今日のリサイタルに臨みましたが、やはり、ヒラリーは大きく飛躍していました。最初のソナタ第1番の冒頭を聴いただけで、その美しく、冴え渡る響き、さらには、ディテールの美しさに加えて、よく考え抜かれた構成に基づいた演奏であることを実感できました。

今日は全6曲のうちの3曲が演奏されましたが、そのどれもが素晴らしくて、何も言うべき言葉を持ちません。ただ、大好きなヒラリーが完全復活したことが嬉しくて、それがすべてです。ヴァイオリニストでは、庄司紗矢香とリサ・バティアシュヴィリがsaraiのお気に入りでしたが、めでたく、ヒラリーがトップの座に戻りました。明後日の2回目のリサイタルを聴いて、詳細な演奏の中身に触れることにします。

今日のプログラムは以下です。

  ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン

  バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全曲コンサート 第1夜

  無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番 ト短調 BWV 1001
   I. アダージョ Adagio
   II. フーガ アレグロ Fuga Allegro
   III. シチリアーナ Siciliana
   IV. プレスト Presto

  無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第1番 ロ短調 BWV 1002
   I. アレマンダ - ドゥーブル Allemanda - Double
   II. コッレンテ - ドゥーブル プレスト Corrente - Double Presto
   III. サラバンダ - ドゥーブル Sarabanda - Double
   IV. テンポ・ディ・ボレア - ドゥーブル Tempo di Borea - Double

   《休憩》

  無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV 1004
   I. アレマンダ Allemanda
   II. コッレンテ Corrente
   III. サラバンダ Sarabanda
   IV. ジガ Giga
   V. シャコンヌ Ciaccona

   《アンコール》

     無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番 イ短調 BWV 1003 から 第3楽章 アンダンテ Andante


最後に今回の予習について、まとめておきます。と言っても、もちろん、すべて、ヒラリー・ハーンを聴きました。

  ヒラリー・ハーン・プレイズ・バッハ~無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番&第2番、パルティータ第1番 2017年6月 ニューヨーク州 バード大学、Richard B. Fisher Center
  ヒラリー・ハーン バッハ:シャコンヌ(パルティータ第3番&第2番、ソナタ第3番) 1996年6月、12月、1997年3月

ヒラリーが16歳から17歳にかけて録音したデビューアルバムは不朽の価値があります。今回、久しぶりにシャコンヌを聴き、大変、感動しました。昨年録音した無伴奏の完結編はずっと待ち望んだアルバムでしたが、その素晴らしさには感銘を受けました。もちろん、ハイリック・シェリングの厳しい演奏も好きですが、ヒラリーの演奏には華があります。ヴァイオリンの超名曲ですから、名演はそのほかにも目白押しですが、やはり、saraiはヒラリーの演奏に惹かれます。



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       ヒラリー・ハーン,  

はじけるようなユジャ・ワンのプロコフィエフ ゲルギエフ&ミュンヘン・フィル@サントリーホール 2018.12.2

2年前のコンサートで恋に落ちてしまったユジャ・ワンのコンサートに駆け付けました。そして、ユジャは期待通りのはじけるような演奏でsaraiを満足させてくれました。前回はショスタコーヴィチでしたが、今回のプロコフィエフのような近代ものでは無敵の演奏を聴かせてくれます。特に高速演奏で激しいバルバリズムのパートでは無類の魅力を発揮します。その小さな体がゴムまりのように弾んで、鍵盤を叩きつける様は痛快そのものです。そのヴィジュアルも30歳を超えた今も健在です。ゴールドに輝く露出度の大きなミニドレスはユジャならではファッションです。こういう服装が似合うピアニストはいませんね。まあ、目に毒ですが・・・。第3楽章はユジャの目くるめくような演奏に耳を奪われます。そして、終盤はさらに演奏が高潮して、圧倒的なフィナーレに至ります。とっても聴き映えしました。しかし、これで終わらないのがユジャ。アンコールはさらに刺激的な演奏です。低音の鍵盤を叩きつけ始めます。これって、まさにトッカータだなと思っていたら、本当に曲目もプロコフィエフのトッカータでした。この曲も凄い曲ですね。(ホロヴィッツとアルゲリッチの演奏をCDで昔聴いたことを思い出しました。) そして、最後は18番のs。例の超絶技巧版です。ヴォロドスやサイが弾く曲ですね(ヴォロドスとサイはそれぞれ別の編曲)。今日の演奏はヴォロドスとサイの編曲をもとにさらにユジャ自身の編曲も入れたもののようです。モーツァルトがこれを聴いたら、きっと喜んで、さらに凄い即興演奏を繰り出しそうな気がします。実はこの超絶技巧のトルコ行進曲を生で聴くのは初めてです。遂に生で聴けて嬉しい限りです。

前半のユジャ・ワンのプロコフィエフが大変よかったので、後半のゲルギエフ&ミュンヘン・フィルのブルックナーの交響曲第9番も大変、期待します。ミュンヘン・フィルと言えば、ブルックナーの名演の数々を残してきた名門オーケストラだし、指揮は天下のゲルギエフですからね。しかし、結果はがっくり。第1楽章はまるでパステル画のような淡い色彩の演奏で、特に弦の音が響かずに薄い響きです。第2楽章はようやく響きが轟き始まますが、悪く言えば、賑やかなだけで退屈です。しかし、第3楽章に至り、ようやく、美しい弦の響きが聴けるようになります。終始、金管は響いていましたから、バランスのとれた美しいフレージングの演奏です。ぐっと前のめりになって聴き入ります。しかし、響きは美しいのに心に感動の気持ちが沸いてきません。ゲルギエフの指揮にはブルックナーへのシンパシーが欠けているような気がします。ブルックナーが神に捧げる愛を音楽に込めたのに、指揮しているゲルギエフが無機的な美しさしか表現していないとしか思えません。ゲルギエフはブルックナーに向いていないのでしょうか。とても残念な演奏でした。会場のみなさんは大きな拍手を送っていましたが、オーケストラが退場しようとするとさっさと拍手は終了。みなさんもそんな感じだったのですね。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:ワレリー・ゲルギエフ
  ピアノ:ユジャ・ワン
  管弦楽:ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

  プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番 ハ長調 op.26
   《アンコール》 プロコフィエフ:トッカータ ニ短調 Op.11
           モーツァルト(ヴォロドス、サイ、ユジャ・ワン編):トルコ行進曲

   《休憩》

   ブルックナー:交響曲第9番 ニ短調


最後に予習について、まとめておきます。以下のヴィデオを見て、そして、聴きました。

 プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番
  ユジャ・ワン、クラウディオ・アバド指揮ルツェルン祝祭管弦楽団 2009年8月11-15日、ルツェルン音楽祭 Blu-ray

今から9年前、ユジャ・ワンが若干22歳だった頃、ルツェルン音楽祭の大舞台で巨匠クラウディオ・アバドに憶することなく、会心の演奏を聴かせてくれています。当時、このヴィデオを見たsaraiは末恐ろしいピアニストが出現したと思ったことを覚えています。今、見直すと、既に現在のユジャ・ワンと変わらぬ演奏がそこにありました。変わったのは今よりもとても若かったことくらいです。彼女の演奏は耳で聴くだけでなく、目で見るとさらに価値が増します。

 ブルックナー:交響曲第9番
  ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送交響楽団 2001年7月8日 ムジーク&コングレス・ハレ(リューベック) ライヴ収録 DVD

ギュンター・ヴァント89歳、亡くなる半年前の貴重な演奏の映像記録です。ドイツのリューベックで開催されたシュレースヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭のコンサートを収録したものです。このコンサートに先立つ半年前の2000年11月には同じコンビの伝説的な来日公演がありました。それもヴィデオ化されていますが、saraiは未聴です。このリューベック公演は素晴らしい演奏です。あの最盛期のミュンヘン・フィルと優劣つけ難い美しい響きの演奏を聴かせてくれます。冒頭ではさすがに老人の表情を見せているヴァントが第3楽章では鋭い目の表情で若々しくもあるのがとても印象的です。素晴らしい指揮です。ヴァントの数々のブルックナー演奏の中でも出色の出来です。今日のゲルギエフ&ミュンヘン・フィルの演奏はもうひとつでしたが、予習でこのDVDに出会えたのが大きな収穫でした。



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       ユジャ・ワン,  

究極のドビュッシー《花火》 イリーナ・メジューエワ・ピアノ・リサイタル@東京文化会館 小ホール 2018.12.1

一昨日の河村尚子の「ワルトシュタイン」も凄い演奏でしたが、今日のイリーナ・メジューエワのドビュッシーも凄い演奏でした。とりわけ、最後の前奏曲集 第2巻の終曲、《花火》の驚異的な演奏にはびっくりしてしまいました。こんな凄いドビュッシーを聴いたのは初めてです。

実はイリーナ・メジューエワのピアノは初聴きです。前から聴きたいとは思っていましたが、なかなか機会がありませんでした。初聴きがオール・ドビュッシー・プログラムというのもよくないなとは思っていましたが、予想に反して、とっても素晴らしい演奏でした。彼女はロシア人ですが、20年前から日本で暮らして、音楽活動も日本中心ですから、日本人ピアニストと言っても構いませんね。ですから、今後も聴く機会は多いと思います。また、楽しみが増えました。

今日のプログラムは3部に分かれていましたが、第1部と第2部以降はまるで別人。第1部の前奏曲集 第1巻を聴いた段階では、ユニークなドビュッシーを弾くので、退屈しないな・・・でも、彼女のドビュッシーはまるでムソルグスキーの《展覧会の絵》みたいで、繊細さやエスプリよりも、大地に根差した構築力のある演奏だと感じます。なかなかいい演奏ではあるものの、きっとこれから彼女のコンサートに積極的に足を運ぶことはないだろうなと思っていました。ところが第2部が始まり、映像 第1集はさらに演奏レベルが上がり、とても素晴らしいです。でも、演奏スタイルは先ほどからのものを踏襲しています。しかし、次の映像 第2集になると、音の響きが急に純度を増します。それまで力強く、低音を奏でていた左手がすっと力が抜けて、右手の美しい響きが前面に出てきます。いやはや、素晴らしい響きに変身します。そして、第2部の最後の《喜びの島》は美しさを極めるような圧巻の演奏です。正直、びっくりしました。休憩中のピアノの調整のせいか、メジューエワの弾き方が変わったのか。メジェーエワの集中力が高まったような気がします。そして、いよいよ、第3部の前奏曲集 第2巻です。さらに純度を増したピアノの響きに魅了されるのみです。《月の光がふりそそぐテラス》あたりから、さらにぐーんと純度が増したピアノの響きは奇跡的な音色になります。最後の《花火》はもう超人的な演奏です。ラストスパートで、あらん限りの力を込めて、美しい響きで奏で上げた音楽の高揚感のいかに凄かったかはもはや言葉では表し尽くせません。驚異的な演奏でした。また、凄いピアニストと出会えました。

アンコールでもその絶好調さは持続して、最後の《月の光》の魅惑的な美しさはこれまで聴いたことのないものです。彼女のドビュッシー以外の音楽も聴いてみたくなりました。不意に頭に浮かんだのはストラヴィンスキーのペトルーシュカです。レパートリーにあるのでしょうか。

今日のプログラムは以下です。

  ピアノ:イリーナ・メジューエワ
   使用楽器:1922年製 NY STEINWAY‘Art-Vintage'(日本ピアノサービス 所有)

  <オール・ドビュッシー・プログラム> 没後100周年記念

  第1部: 前奏曲集 第1巻 Préludes, Premièr Livre
       第1曲 デルフィの舞姫たち Danseuses de Delphes
       第2曲 帆 Voiles
       第3曲 野を渡る風 Le vent dans la plaine
       第4曲 音と香りは夕暮れの大気に漂う Les sons et les parfums tournent dans l'air du soir
       第5曲 アナカプリの丘 Les collines d'Anacapri
       第6曲 雪の上の足跡 Des pas sur la neige
       第7曲 西風の見たもの Ce qu'a vu le vent d'ouest
       第8曲 亜麻色の髪の乙女 La fille aux cheveux de lin
       第9曲 とだえたセレナード La sérénade interrompue
       第10曲 沈める寺 La cathédrale engloutie
       第11曲 パックの踊り La danse de Puck
       第12曲 ミンストレル Minstrels

   《休憩》

  第2部: 映像 第1集 Images I
       水に反映 Reflets dans l'eau
       ラモーを賛えて Hommage à Rameau
       運動 Mouvement

      映像 第2集 Images II
       葉ずえを渡る鐘の音 Cloches à travers les feuilles
       そして月は廃寺に落ちる Et la lune descend sur le temple qui fut
       金色の魚 Poissons d'or

      喜びの島 L'Isle joyeuse イ長調

   《休憩》

  第3部: 前奏曲集 第2巻 Préludes, Deuxième Livre
       第1曲 霧 Brouillards
       第2曲 枯葉 Feuilles mortes
       第3曲 ヴィーノの門 La Puerta del Vino
       第4曲 妖精は良い踊り子 Les Fées sont d'exquises danseuses
       第5曲 ヒースの茂る荒れ地 Bruyères
       第6曲 風変わりなラヴィーヌ将軍 Général Lavine - excentrique
       第7曲 月の光がふりそそぐテラス La terrasse des audiences du clair de lune
       第8曲 オンディーヌ(水の精) Ondine
       第9曲 ピックウィック卿を讃えて Hommage à S. Pickwick Esq. P.P.M.P.C.
       第10曲 カノープ Canope
       第11曲 交代する3度 Les tierces alternées
       第12曲 花火 Feux d'artifice

   《アンコール》

    ピアノのための12の練習曲 Douze Études pour piano から 第11番 《組み合わされたアルペッジョのための練習曲 Pour les arpèges composés》変イ長調
    ベルガマスク組曲 Suite bergamasque から 第3曲 月の光 Clair de Lune 変ニ長調

最後に予習について、まとめておきます。以下のCDを聴きました。

 アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ
  前奏曲集 第1巻 1978録音 ハイレゾ
  前奏曲集 第2巻 1988録音
  映像 第1集 1971録音
  映像 第2集 1971録音
 アンジェラ・ヒューイット
  喜びの島 2011年12月録音 ベルリン、イエス・キリスト教会 (ピアノ/ファツィオリ)

ドビュッシーというとどうしてもミケランジェリのCDに手が伸びてしまいます。《喜びの島》は録音が残っていないので、アンジェラ・ヒューイットがファツィオリのピアノを弾いた演奏を聴きました。いつ聴いてもミケランジェリの演奏は切れ味鋭く、エスプリの香気の高い絶妙な演奏です。アンジェラ・ヒューイットも素晴らしい響きの演奏でミケランジェリのドビュッシー演奏に肉薄するものです。



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       メジューエワ,  

河村尚子の迸るパトス ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・プロジェクト Vol.2@紀尾井ホール 2018.11.29

前回、河村尚子が弾くベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴いて、予想以上の演奏内容に驚嘆しました。彼女の演奏の特徴を一言で表現すると、“疾走”でした。文句なしに彼女のベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・プロジェクトを聴き続けることにして、今日は2回目のリサイタルです。いやはや、前回以上にその素晴らしさに感嘆しました。どれだけ弾き込み、どれだけアナリーゼしたんでしょうか。とんでもない努力と才能の賜物が今日の演奏に結実していました。
(今回、河村尚子をユーザータグに登録しました。本文中で河村尚子にリンクを張ったので、クリックすると、過去、河村尚子が演奏した記事のすべてが表示されます。現在、計7記事です。)

最初の第18番 変ホ長調 Op.31-3はその素晴らし過ぎる演奏に驚愕。出だしこそ、少し硬かったのですが、その後の音の響きの美しさ、タッチの切れのよさ、考え抜かれたアーティキュレーションには圧倒されました。正直なところ、大好きな《テンペスト》を演奏してくれないことは残念でしたが、この第18番がこれほどの完成度で演奏されたことは嬉しいです。とりわけ、第4楽章の圧倒的な迫力には脱帽です。

そして、今日の極め付きだったのは次に演奏されたピアノ・ソナタ 第21番「ワルトシュタイン」です。最初の入りが凄く早いので、大丈夫かなと思っていたら、それでよかったんです。確かに完璧な演奏ではなかったかもしれませんが、音楽って、完璧に演奏すればいいものじゃありません。しかもこれは実演です。彼女の熱いパトスの迸りを感じるためにはこのテンポが必要でした。まさに一期一会とも思える凄い演奏に感動しました。第1楽章も凄かったけど、第3楽章の凄さといったら、言葉では表せません。河村尚子の人生を賭けたような演奏にこちらも人生を賭けて聴き入りました。そこには音楽を超えた何かが確かに存在しました。魂同士がつながるような凄まじい演奏にインスパイアされました。これ以上は書く言葉が見つかりません。しかし、疲れた! 聴いていたsaraiもアドレナリンが出尽くした感じです。河村尚子もそうだったんじゃないでしょうか。

後半はピアノ・ソナタ 第24番「テレーゼ」が美しく演奏されます。アドレナリン不足のsaraiも何とか、ついていけます。パーフェクトとも思える演奏があっと言う間に終わります。拍手を受けた河村尚子はそのままピアノの前に座り、じっと集中した後、ピアノ・ソナタ 第23番「熱情」を弾き始めます。見事な演奏ではありますが、先ほどの「ワルトシュタイン」のパトスは蘇りません。もっとも、こちらのアドレナリンも復活しませんから、集中力に欠けています。フツーに素晴らしい「熱情」でした。

結局、今日は「ワルトシュタイン」の日でした。忘れられない感動の演奏でした。

次回から、いよいよ、後期のピアノ・ソナタに突入します。そして、来年11月の4回目、ラストの後期の大傑作の3曲はどんな演奏になるんでしょう。楽しみですが、不安でもあります。日本人ピアニストでは田部京子という大天才が素晴らしい演奏を聴かせてくれていますが、河村尚子がどこまで肉薄できるでしょうか。

今日のプログラムは以下です。

  <オール・ベートーヴェン・プログラム>

  ピアノ・ソナタ 第18番 変ホ長調 Op.31-3
  ピアノ・ソナタ 第21番 ハ長調 Op.53「ワルトシュタインWaldstein」
   《休憩》

  ピアノ・ソナタ 第24番 嬰ヘ長調 Op.78「テレーゼTherese」
  ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 Op.57「熱情(アパッショナータ)Apassiponata」

   《アンコール》

    バガテル『エリーゼのためにFür Elise』 イ短調 WoO59

最後に予習について、まとめておきます。以下のCDを聴きました。

 エミール・ギレリス 
  ピアノ・ソナタ 第18番 1981年10月録音
  ピアノ・ソナタ 第21番「ワルトシュタイン」1972年1月録音
  ピアノ・ソナタ 第23番「熱情」1973年6月録音
 マウリツィオ・ポリーニ
  ピアノ・ソナタ 第24番「テレーゼ」 2002年録音

予習ではありますが、以前、ピアノ・ソナタ 第23番「熱情」をまとめて、33枚聴いた際に最高と思えた演奏がエミール・ギレリスでした。ですから、今回は楽しみも含めて、彼のピアノで中期のピアノ・ソナタを聴いてみることにしました。しかし、残念ながら、ピアノ・ソナタ 第24番「テレーゼ」は録音を残してくれませんでした。第32番も見録音でしたが、他にこの第24番と第1番, 第9番, 第22番も未録音のまま、68歳で亡くなってしまいました。亡くなる年に録音した第30番、第31番は素晴らしい演奏でしたから、ベートーヴェンの全集を完成できなかったことは誠に残念の極みです。今回聴いた3曲はテクニック、音の響き、タッチ、アーティキュレーションなどどれをとっても最高です。予習というよりも名演鑑賞になってしまいました。で、ピアノ・ソナタ 第24番「テレーゼ」は天才ポリーニにご登場願いました。これはパーフェクトな演奏です。非の打ちどころのない演奏とはこのことです。後でアンドラーシュ・シフも聴けばよかったと思いましたが、また、名演鑑賞会を開きましょう。



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       河村尚子,  

モーツァルトのハ長調の協奏曲に感動! 読売日本交響楽団@サントリーホール 2018.11.28

最初と最後は現代音楽で、その真ん中は古典中の古典のモーツァルトという変わった構成のプログラムです。現代音楽は何とも感想が書けませんが、その凄まじい音響はいたく、耳を刺激しました。まあ、それでいいのかもしれません。ジョン・アダムズのシティ・ノワールはシンフォニック・ジャズの現代版っていうところでしょうか。金管楽器が奏するブルース調の響きが印象的でした。

真ん中で演奏されたモーツァルトのフルートとハープのための協奏曲はソリストにベルリン・フィルの首席奏者を招いてのものでしたが、そのソロの演奏も読響のアンサンブルも見事なもので、あまりの素晴らしさに胸が熱くなりました。圧巻だったのは第2楽章。第2楽章はヘ長調ですが、この調はフルートがよく響きます。オーケストラもこのアンダンティーノの楽章は弦楽器だけの演奏とシンプルでフルートとハープがさらによく響きます。モーツァルトの長調はその純粋な美しさが極まると、哀しみ色に染まります。幸福感にあふれていながら、何故か哀しくなります。今日の素晴らしい演奏も胸に迫ってきて、感動の極致に至りました。旅の音楽家、モーツァルトが3度目のパリ訪問時に作った傑作です。モーツァルトは22歳。求職中の身の上でしたが、前途洋々の思いを持った青年になっていました。しかし、この曲を作った2~3カ月後、彼を襲ったのは一緒に旅をしていた母の突然の死でした。もちろん、そういう不幸を予感して作った曲ではありませんし、あふれんばかりの幸福感に満ちた作品です。でも、つい、saraiは感傷的になって、この作品を聴いてしまいます。第1楽章と第3楽章のシンプルなハ長調の出来栄えはどうでしょう。今日の演奏はそれを十全に示してくれました。フルートのパユとハープのラングラメに感謝です。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:デニス・ラッセル・デイヴィス
  フルート:エマニュエル・パユ
  ハープ:マリー=ピエール・ラングラメ
  管弦楽:読売日本交響楽団 長原 幸太(コンサートマスター)

  スクロヴァチェフスキ:ミュージック・アット・ナイト
  モーツァルト:フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 K.299(297c)
   《アンコール》 イベール:フルートとハープのための間奏曲

   《休憩》

  ジョン・アダムズ:シティ・ノワール


最後に予習について、まとめておきます。

スクロヴァチェフスキのミュージック・アット・ナイトは予習なし。スクロヴァチェフスキが指揮活動以外に作曲していたことさえ知りませんでした。読響ではしばしば自作を指揮していたんですね。

モーツァルトのフルートとハープのための協奏曲を予習したCDは以下です。

 クリストファー・ホグウッド指揮エンシェント室内管弦楽団(AAM)、リザ・ベズノシウク(フルート)、フランシス・ケリー(ハープ) 1986年録音

リザ・ベズノシウクはバロックのピリオド奏法のスペシャリストのフルート奏者ですが、その音色の玉を転がすような絶妙な響きに驚かされます。このフルートを聴くだけでもこのCDを聴く価値があります。全体の演奏も極上です。この曲はランパル、ラスキーヌ、パイヤールという鉄板の演奏をいつも聴いていますが、予習なので別の演奏を聴こうと思ったら、当たりの演奏でした。

ジョン・アダムズのシティ・ノワールを予習したCDは以下です。

デイヴィッド・ロバートソン指揮セントルイス交響楽団 2013年改訂版 2013年録音 セントルイス、パウエルホール

2009年に作曲された現代音楽ですが、最近の現代音楽に共通する特徴である聴きやすさに満ちています。初めて聴きましたが、無理なく、するっと耳に入ってきました。初演したドゥダメルの演奏が聴きたかったのですが、音源が入手できませんでした。比較はできませんが、このCDの演奏も水準以上のものです。



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圧倒的な響きで魅了:ダンテ・クァルテット@鶴見サルビアホール 2018.11.27

ダンテ・クァルテットは2年前にこの同じ鶴見サルビアホールで聴きました。そのとき、初めて、この鶴見サルビアホールに足を踏み入れました。そういう意味では記念すべきクァルテットです。そのときもこのクァルテットの響きのよさに驚きましたが、そもそも、この鶴見サルビアホールの響きの素晴らしさを知りませんでしたから、十分に経験を積んだ上で、今日、このクァルテットの響きをじっくりと聴かせてもらいます。

いやはや、このクァルテットは舌を巻くほどうまいです。というか、次々とこのホールに登場するクァルテットはどれもうまいというのが正直なところです。ハーゲン・クァルテットやエマーソン・クァルテットだけがうまいんじゃなくて、世界には、うまいクァルテットがどれほどあるのか、驚かせられます。その中でも今日のダンテ・クァルテットは最上級です。とりわけ、テクニックが素晴らしくて、響きが圧倒的でとてもダイナミックな演奏です。そういう意味で、今日のプログラムの選曲は当たりです。ショスタコーヴィチの初期の傑作とベートーヴェンの中期の傑作は彼らの美質を最高に引き出せます。もっとも前回聴いたベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第13番のカヴァティーナもとっても美しい演奏でした。

前半のハウエルズのオードリー夫人の組曲は作曲家のハーバート・ノーマン・ハウエルズはその名前も初めて聞くくらいで、まったく知らない曲です。イギリスのカルテットならではの選曲ですね。前回のスタンフォードの弦楽四重奏曲もそうでしたが、珍しいイギリス人の作曲した曲が聴けるのは嬉しいですが、あまりにマニアックですね。曲自体は聴きやすい綺麗な音楽ですが、突然、こんなものを聴かされても今後、2度と聴かないし、とっかかりがまったくないので、前回、スタンフォードの弦楽四重奏曲についてのレクチャーをしてくれたように今日もレクチャーしてくれれば、まだ、よかったのに・・・。ぶつぶつ・・・。

前半の2曲目はショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲 第3番です。これは凄い演奏でした。これまでアトリウム・カルテット、パシフィカ・クァルテット、ハーゲン・カルテットで聴きましたが、いずれも素晴らしい演奏。しかし、今日の演奏も優るとも劣らない凄い演奏で、圧倒されました。第1楽章は軽妙な旋律の音楽が展開されます。その響きの美しさが見事です。この単純で明快な主題を聴いていると、人がてくてくと歩いている場面が目に浮かびます。ある意味、平穏な日常を表現しているかのようです。逆に言えば、不穏な状況の幕上げを告げているような感じもあります。そう感じさせるのも圧倒的なテクニックの演奏があるからです。あっ、忘れないうちに書いておきますが、この曲は何故か、第1ヴァイオリンがオスカー・パークスに交代しました。曲想的に若い奏者でもよかったのかな。やはり、第2ヴァイオリンばかり弾くのは地味だから、嫌なんでしょうね。よくカルテットの内輪もめの原因だと言われますね。第3楽章はスターリンを密かにパロディったとも言われる楽章ですが、激しい気魄の演奏で、圧倒的です。平和な日常風景が突如、戦争の場面に変わったような感じです。実際、この曲はいわゆる戦争交響曲(第7番~第9番)の直後に作曲されましたから、戦争、あるいは人類の絶望を描いたとも言えると思いながら聴いていました。そういう想像やイメージを触発してくれるような高潮感に満ちた演奏です。第4楽章ではその戦争への追悼とも思える厳かな演奏が続き、最後はチェロのソロで静かに終わり、休みなく、次の楽章に移ります。第5楽章はまた激しい演奏となり、もう、訳が分からなくなりますが、ともかく、凄い盛り上がりぶりです。最後は第1楽章の冒頭のメロディーが回想され、音楽も沈静し、とりあえず、かりそめの平穏な日常に戻ったという感じです。第1ヴァイオリンのピチカートが3度鳴らされて、静かに曲を閉じます。大変、感銘を受けました。今や、この曲は第8番、第9番と並び立つ名作の座についたようです。

後半はベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第9番「ラズモフスキー第3番」です。これも素晴らしい凝縮力に満ちた演奏です。ベートーヴェンの想像力が頂点に達した中期の傑作のひとつであることをまざまざと実感させてくれるようなダイナミックな演奏です。第1楽章の精妙な序奏に始まり、第4楽章の圧倒的な高揚に至る、堂々とした演奏にとても魅了されました。これくらいの演奏をしてくれれば、満足です。素晴らしい「ラズモフスキー第3番」を聴かせてもらいました。

アンコールのチャイコフスキーのアンダンテ・カンタービレはとってもメローな演奏でした。それでいいでしょう。

ところで、今月は今日のコンサートで大台の二けたになりました。今週も今日を入れて、5回のコンサート。来週も4回のコンサート。忙しくて、予習が大変です。河村尚子、ユジャ・ワン、ヒラリー・ハーンと注目のコンサートが続き、シメはジョナサン・ノット指揮の東響のダ・ポンテ3部作のラストを飾る《フィガロの結婚》です。久しぶりにミア・パーションの美声が聴けるのが楽しみです。キャンセルしないでね。

今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:ダンテ・クァルテット
    クリシア・オソストヴィッツ vn オスカー・パークス vn 井上祐子 va リチャード・ジェンキンソン vc

  ハウエルズ:オードリー夫人の組曲 Op.19
  ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第3番 ヘ長調 Op.73

   《休憩》

  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第9番 ハ長調 Op.59-3「ラズモフスキー第3番」

   《アンコール》
    チャイコフスキー:弦楽四重奏曲 第1番 Op.11より、第2楽章 アンダンテ・カンタービレ

最後に予習について触れておきます。
1曲目のハウエルズのオードリー夫人の組曲はどう探しても音源が見つかりません。仕方なく、予習はパス


2曲目のショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲 第3番は以下のCDで予習をしました。

 ブロドスキー・カルテット 1989年録音 全集盤 ベルリン、TELDECスタジオ

これは胸のすくような会心の演奏です。全集盤ですが、どの曲も素晴らしい演奏です。ルビオ・カルテットと並び立つ名演です。しかしながら、ブロドスキー・カルテットは2016年に全集盤を27年ぶりに再録音したんですね。どういう演奏に変わったのか、聴いてみたい。ちなみに第1ヴァイオリンがマイケル・トーマスからダニエル・ローランドに交代しています。他の3人のメンバーは同じです。


3曲目のベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第9番は以下のCDで予習をしました。

 エマーソン・カルテット 1994年録音 全集盤

実に鮮やかな演奏です。切れ味鋭いエマーソン・カルテットならではの演奏です。現代を代表する名演です。



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名人たちの饗宴、クリスマス・オラトリオ バッハ・コレギウム・ジャパン@東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル 2018.11.23

いやはや、これほどの演奏が聴けるとはね。クリスマス・オラトリオはマタイ受難曲のようなドラマチックさはありませんが、その代わり、多彩な音楽が満載でとても楽しめます。それを分からせてくれる素晴らしい演奏でした。
まずはいつもながら、バッハ・コレギウム・ジャパン(以下、BCJと略します)の合唱が素晴らしいです。マタイ受難曲と同様にコラールの美しさが格別です。マタイ受難曲のように劇的要素がないにもかかわらず、胸にジーンと迫るものがあり、癒される思いになります。それにマタイ受難曲と違って、様々な形式のコラールが楽しめます。
独唱は4人とも絶好調でしたが、ソプラノのハナ・ブラシコヴァの透明で可憐な歌唱に魅了されました。いっぺんにファンになってしまいました。昔、レコードで聴いたレリ・グリストのことを思い出しました。テノールのザッカリー・ワイルダーの力の抜けた柔らかい歌唱にも好感が持てました。
BCJの弦と管の奏者たちの名人芸は恐れ入りました。オブリガートの美しさはたとえようのない素晴らしさ。いつものBCJのメンバーに加えて、エキストラのメンバーも豪華でした。ヴァイオリンの若松夏美、フラウト・トラヴェルソの菅きよみとオーボエの三宮正満は名人です。三宮正満のオブリガートはオーボエ・ダモーレだったのかな。魅惑的な音色でした。
BCJの弦楽合奏も美しさの極みでした。
全体を束ねる鈴木雅明はまさに人間国宝並みの貫禄で、文句なし。

楽曲の演奏内容は聴きどころ満載で何を書いたらいいのか分かりません。冒頭の第1曲 合唱「歓呼の声を放て、喜び踊れ」でトランペットを含めた祝祭的な高揚感で盛り上がります。第5曲 コラール「如何にしてわれは汝を迎えまつり」で感銘を受け、第9曲 コラール「ああ、わが心より尊びまつる嬰児イエスよ」で感動的に第1部が終了。
第2部は第10曲 シンフォニアの素晴らしい演奏で始まり、コラールやアリアで感銘を受け続けます。この調子で最後の第6部の第64曲 コラール「今や汝らの神の報復はいみじくも遂げられたり」の輝かしい管弦楽としみじみしたコラール合唱まで名演が繰り広げられました。バッハを思いっ切り、満喫し、これ以上の満足感はないほどです。
昨日も同じ東京オペラシティ コンサートホールでファジョーリの歌唱でヘンデルを満喫しましたが、今日のバッハはさらに素晴らしいものでした。日本でこれほどのコンサートが続くとは、音楽ファンにとって、幸せ以上のものです。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:鈴木雅明
  ソプラノ: ハナ・ブラシコヴァ
  アルト: クリント・ファン・デア・リンデ
  テノール: ザッカリー・ワイルダー
  バス: クリスティアン・イムラー
  合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン
   コンサート・マスター:若松夏美
   フラウト・トラヴェルソ:菅きよみ
   オーボエ:三宮正満
   ホルン:福川伸陽
   トランペット:ギイ・フェルベ?

  J.S.バッハ:クリスマス・オラトリオ BWV248 全6部(計64曲)

   第3部と第4部の間に《休憩》

最後に予習について、まとめておきます。

 カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ管弦楽団&合唱団 1965年
  グンドゥラ・ヤノヴィッツ,クリスタ・ルートヴィヒ、フリッツ・ヴンダーリヒ,フランツ・クラス
  トランペット:モーリス・アンドレ

本命盤です。とりあえずはこれを聴いておかないとね。何と言っても、フリッツ・ヴンダーリヒが素晴らしい。ピリオド演奏が全盛の現代でも、この名演の価値は不変です。


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       バッハ・コレギウム・ジャパン,  

素晴らしき隠れ合唱隊?・・・フランコ・ファジョーリ・リサイタル@東京オペラシティ コンサートホール 2018.11.22

カウンター・テナーの若手の代表格、フランコ・ファジョーリが遂に初来日。素晴らしい声、アジリタを聴かせてくれました。4年前に一度、ザルツブルグ精霊降臨音楽祭でのリサイタルを聴いていますが、そのときは最後のカストラート、Vellutiをテーマにしていました。で、そのVellutiのために書かれたマイヤベーアとロッシーニのオペラからのレシタティーボとアリアが歌われました。今日はオール・ヘンデルです。ザルツブルクのモーツァルテウム大ホールでは2階席の一番後ろで聴いたこともあり、あまり、響きがよくなかったのですが、今日は最高でした。ヘンデルの名アリアを8曲、アンコールを入れると10曲も歌ってくれたのが嬉しいところです。ヘンデルの作った旋律はとても美しいですからね。ともかく、ザルツブルクを大きく上回る歌唱に大満足でした。観衆も東京の観衆は最高です。ファジョーリもとても喜んでいました。

早速、1曲目は歌劇『ロデリンダ、ロンバルドの王妃』より「あなたはどこにいるのか、愛しい人よ?」で美しくて、抒情的な表現で魅了してくれます。
2曲目の歌劇『オレステ』より「激しい嵐に揺り動かされても」ではアジリタが爆発! 素晴らしいテクニックです。男バルトリと異名をとるのもわかりますね。
3曲目の歌劇『リナルド』より「愛しい妻、愛しい人よ」では、また、しっとりとした歌声を聴かせてくれます。曲も最高にいいです。
4曲目の歌劇『リナルド』より「風よ、暴風よ、貸したまえ」では、この日一番のアジリタが炸裂し、会場も大盛り上がりです。

後半は、5曲目の歌劇『イメネーオ』より「もしも私の溜息が」のしみじみとした歌いまわしに惹きこまれます。
6曲目の歌劇『忠実な羊飼い』より「この心にきらめくのを感じる」では終盤の見事な高音の歌唱に圧倒されます。
7曲目の歌劇『アリオダンテ』より「嘲るがいい、不実な女よ、情人に身を委ねて」はこの日、最高の歌唱でした。騎士アリオダンテの一途な思いがひたひたと伝わってきます。こんなに素晴らしいのだから、ファジョーリのアリオダンテでこの歌劇『アリオダンテ』全体を聴きたいものです。声の質、響きがこのアリオダンテ役にぴったりです。ちなみにこの歌劇『アリオダンテ』はsaraiが初めて実演で聴いたヘンデルのオペラです。もちろん、バロックオペラも初めてでした。そういうわけで思い入れも一入なんです。
最後の歌劇『セルセ』より「恐ろしい地獄の残酷な復讐の女神が」はファジョーリの気魄のこめられた歌唱が圧巻でした。

アンコールは嬉しいことに、素晴らしかった歌劇『アリオダンテ』よりのアリアです。うーん、やっぱり、いいね。
アンコール2曲目は2階席から手製の団扇で声援を送る女性によほど感銘を受けたのでしょう。どうやら、団扇にはヴィンチの歌劇『アルタセルセ 』が描かれていたようです。即席で伴奏もなしにアリアの一部を披露して、やんやの喝采を受けます。そういえば、以前、ヨーロッパでジャルスキー、ツェンチッチ、サバドゥス、ファジョーリ、ミネンコの5人の人気CTがこの歌劇に出演して、話題になりましたね。
で、アンコールのシメはお馴染みの「私を泣かせてください」。ファジョーリが客席にドゥー・ユー・ノウ?と訊くと、間髪を入れずにイエスの声がこだまします。1コーラスはファジョーリが歌い、何と2コーラス目は客席の観衆が歌います。まるでプロの女性合唱団のような美声です。この曲はソプラノの曲ですから、やはり、女性が歌うと素晴らしいですね。saraiは聴き惚れてしまいました。最後の3コーラス目はファジョーリと隠れ女性合唱隊の歌声。まるでリハーサルでもやったかのように決まっていました。日本の音楽水準も上がりましたね。それに若い女性にこんなにCTファン、バロックファンがいることが分かり、熟年男性としては嬉しい限りです。そのうちに日本でも、スーパーキャストのヴィンチの歌劇『アルタセルセ 』が聴けるんじゃないでしょうか。熟年のsaraiも駆け付けますよ。

今日のキャストとプログラムは以下です。

  カウンター・テナー:フランコ・ファジョーリ
  古楽器オーケストラ:ヴェニス・バロック・オーケストラ
  

  ヴィヴァルディ:シンフォニア ト長調 RV146
  ヘンデル:歌劇『ロデリンダ、ロンバルドの王妃』より「あなたはどこにいるのか、愛しい人よ?」
  ヘンデル:歌劇『オレステ』より「激しい嵐に揺り動かされても」
  ヴィヴァルディ:コンチェルト ト短調 RV156
  ヘンデル:歌劇『リナルド』より「愛しい妻、愛しい人よ」
  ヘンデル:歌劇『リナルド』より「風よ、暴風よ、貸したまえ」

   《休憩》

  ヘンデル:歌劇『イメネーオ』より「もしも私の溜息が」
  ヘンデル:歌劇『忠実な羊飼い』より「この心にきらめくのを感じる」
  ヴィヴァルディ:歌劇『ジュスティーノ』よりシンフォニア ハ長調 RV717
  ヘンデル:歌劇『アリオダンテ』より「嘲るがいい、不実な女よ、情人に身を委ねて」
  ジェミニアーニ:コンチェルト・グロッソ ニ短調(コレッリのヴァイオリン・ソナタ「ラ・フォリア」op.5-12による)
  ヘンデル:歌劇『セルセ』より「恐ろしい地獄の残酷な復讐の女神が」

   《アンコール》
  ヘンデル:歌劇『アリオダンテ』より「暗く不吉な夜の後で」
  ヴィンチ:歌劇『アルタセルセ 』よりアリアの一部
  ヘンデル:歌劇『リナルド』より「私を泣かせてください」

予習はフランコ・ファジョーリのヘンデル・アリア集のCDで聴きました。素晴らしいCDです。
オーケストラの予習はイ・ムジチ合奏団の色んなCDから聴きました。やはり、イ・ムジチの演奏は明るくて、颯爽としています。イタリアの青空を吹き抜ける風のようです。



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ナビル・シェハタ コントラバス・リサイタル@横浜上大岡ひまわりの郷ホール 2018.11.18

昨日のバロックオーボエ・オーボエダモーレのコンサートに続き、今日はコントラバスのコンサート。マイナーな楽器の演奏を連日聴きます。その代わり、昨日も今日も達人です。ナビル・シェハタは以前はベルリン・フィルの首席奏者だった名人です。今日もその名人ぶりをたっぷりと聴かせてくれました。ただし、マイナーな楽器にはそのために書かれた楽曲が少ないという問題があります。昨日のオーボエもフルートの曲を演奏していましたが、今日もチェロやホルンの曲をコントラバスに編曲して弾きます。コントラバス用に書かれた楽曲は聴いたことのない曲ばかりです。

まずはバッハの無伴奏チェロ組曲 第1番です。原曲のト長調よりも2度上(7度下)のイ長調で弾きましたが、そのせいか、原曲よりも穏やかに感じます。もっとも穏やかに感じたのはその演奏によるものだったのかもしれません。温厚なお人柄のとおり、激しく突っ込んだ演奏ではありません。チェロに比べて、演奏は難しいでしょうが、微塵もそれを感じさせない演奏です。ある意味、物足りなさも残りますが、こういうおおらかな演奏もいいでしょう。テンポは普通でした。
ボッテジーニの2曲はコントラバス用に書かれた技巧的な作品だそうですが、これもなんなく弾きこなします。これみよがしな技巧などはこれっぽちもひけらかさない自然で穏やかな演奏です。「夢遊病の女」の有名なアリアのところは楽しく聴かせてもらいました。

後半はベートーヴェンのホルン・ソナタをコントラバスに置き換えたものです。原曲のホルンソナタよりも、ベートーヴェン初期のヴァイオリンソナタを想起させられるような演奏です。楽器が変われば、ずいぶん印象が変わります。ピアノの実兄のカリム・シェハタの切れのいい演奏が光りました。
ブルッフのコル・ニドライは抒情的な美しい演奏。クーセヴィツキーの小さなワルツは滑らかで気持ちよく聴けました。グリエールの間奏曲とタランテラも余裕たっぷりな落ち着いた演奏です。アンコールのアヴェマリアはとても美しい曲で誰の曲かと思っていたら、なんとピアソラとのこと。ピアソラもこんな抒情的な作品を書いたんですね。原曲は歌曲で、後に映画音楽として、オーボエ用に編曲したものだそうです。それをコントラバスに編曲したんですね。イタリアの歌姫ミルヴァが歌っているそうですから、一度聴いてみましょう。

この日のプログラムは以下の内容です。

 コントラバス:ナビル・シェハタ
 ピアノ:カリム・シェハタ

  J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番 BWV1007(コントラバス版 イ長調)
  ボッテジーニ:グランド・アレグロ「メンデルスゾーン風協奏曲」
  ボッテジーニ:ベッリーニのオペラ「夢遊病の女」による幻想曲

  《休憩》

  ベートーヴェン:ホルン・ソナタ ヘ長調 Op.17(コントラバス版)
  ブルッフ:コル・ニドライ Op.47
  クーセヴィツキー:小さなワルツ Op.1-2
  グリエール:間奏曲とタランテラ Op.9

  《アンコール》

    ピアソラ:アヴェマリア(コントラバス版)

最後に予習について触れておきます。

1曲目のJ.S.バッハの無伴奏チェロ組曲 第1番は以下のCDで予習をしました。

 エドガー・メイヤー 2000年録音

これは聴き惚れました。チェロでの演奏に並ぶ名演です。チェロに比べて、深い響きがします。音楽性も優れています。


4曲目のベートーヴェンはホルン・ソナタは以下のCDで予習をしました。なお、2,3曲目は予習していません。

   バリー・タックウェル(ホルン)、ヴラディーミル・アシュケナージ(ピアノ) 1974年録音 イギリス

この曲は原曲のホルン版しか入手できなかったので、タックウェルのホルンで聴きました。ホルンもいいのですが、アシュケナージのピアノが冴え渡っていました。とてもよい演奏です。


5曲目のブルッフのコル・ニドライは以下のCDで予習をしました。

 ピエール・フルニエ(チェロ)、ジャン・マルティノン指揮コンセール・ラムルー管弦楽団 1960年5月録音 パリ

これもオリジナルのチェロ版で聴きました。予想通り、フルニエの格調高い演奏ですが、静かな中に熱さも秘めた演奏です。


7曲目のグリエールの間奏曲とタランテラは以下のCDで予習をしました。6曲目はCDが入手できずに聴いていません。

 ウィース・ド・ブフWies de Boevé (コントラバス)、高橋朋子(ピアノ) 2015年11月録音 ベルリン

ウィース・デ・ブーフェは2016年のミュンヘン国際音楽コンクールとボッテジーニコンクールの両方で優勝した逸材です。演奏もコントラバスとは思えない素晴らしいテクニックで、美しい響きの演奏です。



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オーボエのデパート!三宮正満 オーボエリサイタル@鶴見サルビアホール 2018.11.17

先日聴いたバッハ・コレギウム・ジャパンでの三宮正満の危うげとも思える、なよやかなオーボエの響きに魅せられて、今日のリサイタルを聴いてみることにしました。結果的には、極小のホールで聴く彼のオーボエの響きはしっかりと力強くて、パーフェクトで、ある意味、期待とは大きく異なることになりました。それでも、今回は三宮正満はすべての曲で異なるオーボエを吹くという超人的な技を見せてくれ、とてもオーボエの勉強になりました。彼の吹いたオーボエの種類は下のプログラムの内容をご参照ください。なお、バロックオーボエが2度使われましたが、素材が縞黒檀と柘植で異なるものです。アンコールのオーボエ ダ カッチャは最初に使った18世紀のものではなく、形状も異なる、より新しい時代のものです。プレトークで演奏したチャルメラとショーム、それに太くて音域の低いトルコ?のダブルリードの楽器を合わせると、計11種類のオーボエとオーボエの前身のダブルリード楽器を演奏してくれました。すべて、完ぺきに吹きこなしていましたから、これは単なるオーボエ奏者の域を超えています。超人オーボエ奏者、オーボエのデパート、三宮正満、ここにありというリサイタルでした。

個々の演奏には触れません。オーボエダモーレの甘くて、表現力あふれる響きに魅了されました。バロックオーボエはもはや、バロック音楽には必須の基本楽器であることを認識しました。その上で、フレンチロマンティークオーボエの響きとなめらかな運指の素晴らしさを再認識しました。これがモダン楽器のオーボエの主流になっていることは十分に理解できました。

バッハのフルートソナタBWV1031の第2楽章のシチリアーノはさすがに名曲。演奏したお二人もよほど弾き込んだものとみえて、素晴らしい演奏でした。オリジナルのフルートにも対抗できるレベルの演奏です。(なお、余計なことですが、その昔、バッハのフルートソナタBWV1031はフルートで遊んでいたsaraiの愛奏曲でした。)

チェンバロ・フォルテピアノの平井千絵はフォルテピアノの名手だそうで、後半の確信に満ちたフォルテピアノの演奏には聴き入ってしまいました。それに彼女の細くて繊細な指がフォルテピアノにとても似合っていました。配偶者に彼女はピアノよりもフォルテピアノが似合う指だねって言うと、馬鹿ね、ピアノだって上手な筈よって、たしなめられました。ピアノ演奏を聴いていないので、saraiはやはり、あの美しい指はフォルテピアノにぴったりだと思っているのですが・・・。

これまで、バロックオーボエ、オーボエダモーレ、オーボエ ダ カッチャの区別が分からずにピリオド演奏を聴いていましたが、これからは聴く耳が変わりそうです。
次はバロックに絞ったオーボエリサイタルを期待します。→三宮正満様

今日のプログラムは以下です。

  オーボエ:三宮正満
  チェンバロ・フォルテピアノ:平井千絵

  J.ヘルテル:パルティータ第3番 ニ短調 (バロックオーボエ&チェンバロ)
  J.S.バッハ:カンタータ第76番《もろもろの天は神の栄光を語り》 BWV 76 第2部 第8曲 シンフォニア ホ短調 (オーボエダモーレ&チェンバロ)
  J.S.バッハ:カンタータ第82番《われは満ちたれり》 BWV 82 第3曲 アリア「眠りなさい、疲れ果てた眼よ」より (オーボエ ダ カッチャ&チェンバロ)
  J.S.バッハ:ソナタ 変ホ長調 BWV1031 (バロックオーボエ&チェンバロ)

   《休憩》

  J.ヴィダーケア:デュオソナタ 第1番 ホ短調 (クラシカルオーボエ&フォルテピアノ)
  ヴェルーストゥ: ソロ・ドゥ・コンセール 第4番 Op.77 (フレンチロマンティークオーボエ&フォルテピアノ)
  R.パルマ:リゴレット変奏曲 (ジャーマンロマンティークオーボエ&フォルテピアノ)

   《アンコール》
    モーツァルト:《アヴェ・ヴェルム・コルプス》 K.618 編曲版 (オーボエ ダ カッチャ&フォルテピアノ)

最後に予習について触れておきます。

1曲目のヘルテルのパルティータ第3番は以下のYOUTUBEで予習をしました。

 Giuseppe NALIN(バロックオーボエ)Aldo FIORENTIN(オルガン)

これは素晴らしい演奏です。オルガンのオーボエ風の音色とバロックオーボエの重奏が見事に響きます。


4曲目のJ.S.バッハのソナタ 変ホ長調 BWV1031は以下のCDで予習をしました。なお、2,3曲目は事前にプログラムが公表されていませんでした。

  エマニュエル・パユ(フルート) トレヴァー・ピノック(チェンバロ) 2008年1月録音 ベルリン Teldex Studio

この曲はフルートのための作品なので、第2楽章のシチリアーノを除いて、オーボエでの演奏は見つからず、いつものランパルやニコレでなく、現役のパユのフルートで聴いてみました。悪くはありませんが、やはり、ランパルやニコレには及びません。


5曲目のヴィダーケアのデュオソナタ 第1番は以下のYOUTUBEで予習をしました。6、7曲目は予習していません。

 Claire Brazeau(オーボエ) Bryan Pezzone(ピアノ)

Brazeauという女性オーボエ奏者の演奏が見事です。すっかり聴き惚れました。



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       バッハ・コレギウム・ジャパン,  

堅実な演奏:クレンケ・クァルテット@鶴見サルビアホール 2018.11.15

クレンケ・クァルテットは結成27年の四重奏団ですが、初来日。もちろん、初聴きです。ドイツの女性4人組のカルテットです。まあ、最近、どのカルテットを聴いてもみな上手いですね。このクレンケ・クァルテットも文句ない演奏です。では、どのあたりに差が出るかと言えば、プログラムの構成とその楽曲に対するアプローチに違いが出るんだと思います。今日のプログラムでは、前半のハイドンで超絶的な演奏をして、後半のチャイコフスキーでびしっと決めるというところに注目しました。

前半の最初のボッケリーニは宮廷音楽のような雅な感じが出ていて、聴いている自分も中世の王侯貴族になったような気がするような、いい感じの演奏です。この調子で次のハイドンも素晴らしい演奏を期待します。しかし、悪くはないけれども凡庸な演奏です。ハイドンを演奏するのならば、やはり、高いレベルでやってもらわないとね。別の楽曲を選んだほうがよかったでしょう。

後半はストラヴィンスキーの珍しい曲で始まります。演奏は及第点です。聴き応えがありました。ストラヴィンスキーも挑戦的な音楽を作っていたのですね。
次はチャイコフスキーの弦楽四重奏曲 第3番です。構成力に優れた美しい作品です。これはかなり美しい演奏でした。とりわけ、第3楽章はとても美しい演奏で、第4楽章の終盤も見事な演奏でした。あと一歩で素晴らしい演奏になるところでしたが、つまらないアンサンブルの乱れもあり、完ぺきに魅了してくれるところまではいきませんでした。このあたりが一流のカルテットとの差なんでしょうか。最後の最後まで詰めを怠ってはいけませんね。少々、欲求不満の感です。

アンコールのヘンリー・パーセルのシャコンヌは魅惑的な素晴らしい演奏でした。これが今日の一番の演奏だったような・・・。

今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:クレンケ・クァルテット
    アネグレート・クレンケ vn   ベアテ・ハルトマン vn イヴォンヌ・ウールマン va   ルート・カルテンホイザー vc

  ボッケリーニ:弦楽四重奏曲 Op.2-1(G.159)
  ハイドン:弦楽四重奏曲 第24番 Op.20-6

   《休憩》

  ストラヴィンスキー:弦楽四重奏のための3つの小品
  チャイコフスキー:弦楽四重奏曲 第3番 Op.30

   《アンコール》
    ヘンリー・パーセル:シャコンヌ ト短調 Z.730

最後に予習について触れておきます。
1曲目のボッケリーニの弦楽四重奏曲 Op.2-1(G.159)は以下のCDを聴きました。

 アレア・アンサンブル 2006年録音

この曲はほとんど録音がありません。アレア・アンサンブルが作品2の6曲の弦楽四重奏曲をきちっとした演奏で録音してくれているのは貴重です。ほかに比較するものもないので評価は難しいですが、楽しんで聴けます。


2曲目のハイドンの弦楽四重奏曲 第24番は以下のCDで予習をしました。

 キアーロスクーロ・カルテット 2015年12月録音 ブレーメン、センデザール

キアーロスクーロ・カルテットはアリーナ・イブラギモヴァが第1ヴァイオリンを弾いている注目のカルテットです。ハイドンの作品20の太陽四重奏曲6曲をまとめて録音しています。やはり、イブラギモヴァの表現力豊かなヴァイオリンが素晴らしいです。ただ単に美しいだけではない味わいの深さが見事です。こういう演奏で予習したので、今日の演奏は聴き劣りしてしまいました。


3曲目のストラヴィンスキーの弦楽四重奏のための3つの小品は以下のCDで予習をしました。

 東京カルテット 1987年2月2日 ライヴ録音

これは素晴らしい演奏でした。さすがに東京カルテットですね。この時期は2代目の第1ヴァイオリンのピーター・ウンジャンが弾いていた筈です。あのベートーヴェンの全集を完成させた時期の演奏です。


4曲目のチャイコフスキーの弦楽四重奏曲 第3番は以下のCDで予習をしました。

 ボロディン弦楽四重奏団 1993年録音

やはり、ロシアものはこのボロディンに限ります。素晴らしい演奏です。ロシアの憂愁さえも感じます。



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庄司紗矢香、気魄のシベリウス・・サンクトペテルブルク・フィル@サントリーホール 2018.11.12

庄司紗矢香、満を持してのシベリウス。音楽と言うか、気合というか、人間の心のありったけをぶつけるような魂の叫びです。庄司紗矢香の成長は音楽家というよりも人間としての成長のようです。シベリウスの音楽を用いて、彼女自身の魂の高揚感を我々、聴衆に投げかけてきます。こちらもそのボールをしっかりと受け止めていきましょう。シベリウスを聴いているのか、あるいはバッハの無伴奏を聴いているのか、自分でも一瞬、分からなくなるような、厳しくも時にロマンあふれる演奏です。庄司紗矢香がこれまでの音楽人生で培ってきたものをすべて表現しているような気がします。凄い日本人音楽家になったものです。第1楽章の半ばに至ると、彼女の気魄に圧倒されて、感動の涙が滲んできます。こういうレベルのシベリウスを実演で聴かされるとは思っていませんでした。ところで、彼女のヴァイオリンの響きはきちんと聴こえてきますが、オーケストラの音は弱い響きでしか聴こえてきません。これでは協奏曲ではなくて、まるでオーケストラ伴奏付きのヴァイオリン幻想曲みたいです。本来、指揮するはずのテミルカーノフくらいの巨匠でないと、今日の庄司紗矢香を受けて立つことはできませんね。代演のニコライ・アレクセーエフは遠慮しながらの抑えた指揮のようです。それだけが残念ですが、逆に言えば、オーケストラの音に邪魔されないで、庄司紗矢香のヴァイオリンをたっぷりと味わうことができます。やがて、凄いレベルの演奏が続いた第1楽章が終わりました。実演では昔、ヒラリー・ハーンのパーフェクトな素晴らしい演奏を聴いたことがありますが、いまや、庄司紗矢香はそのレベルを大きく超えました。彼女は素晴らしい音楽家になりましたね。私見ですが、今、少なくともこのシベリウスの演奏で彼女に肩を並べることができるのは、リサ・バティアシュヴィリくらいなものでしょう。庄司紗矢香の禁欲的で気魄のこもった演奏に対して、バティアシュヴィリは熱いロマンの香り立つセクシーな演奏で魅了してくれます。タイプが異なりますが、いずれも世界の頂点にたつ演奏です。こうなると二人の演奏でチャイコフスキーの聴き比べをしてみたいですね。今日の演奏に話を戻します。第2楽章は一転して、静謐な演奏に変わります。しかし、後半はまた、気魄に満ちた演奏に高揚します。第3楽章はメリハリをつけて、ダイナミックな演奏です。コーダでの気魄は何ものをも圧倒する渾身の演奏です。身震いをおぼえるほどの素晴らしさに感動するのみです。超絶的で凄い演奏でした。今の彼女は何を弾かせても、向かうところ敵なしといった風情です。彼女の演奏をずっと聴き続けてきましたが、この10数年の音楽的・人間的成長は想像を超えるものでした。
ヴァイオリンの庄司紗矢香、ピアノの田部京子を聴いていれば、saraiのヨーロッパ遠征は不要とも思えます。あっ、それにノット指揮東響、ロータスカルテットという強力な団体もいます。できれば、彼らがコラボしてくれればなあ・・・。

後半はラフマニノフの交響曲第2番。これは予想外に素晴らしい演奏でした。今年はユーリ・テミルカーノフ指揮読売日本交響楽団、ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団と凄いラフマニノフの交響曲第2番を聴きましたが、今日の演奏はロシアのオーケストラならではの演奏です。テミルカーノフはこの曲をラフマニノフの《ロシアの憂愁》と呼んでいるそうですが、saraiの言葉では《どうしようもないやるせなさ》になります。これは日本のオケではなかなか表現できません。今日のサンクトペテルブルク・フィルは第1楽章と第3楽章でこの《どうしようもないやるせなさ》を感じさせてくれました。代演のニコライ・アレクセーエフもテミルカーノフの路線を引き継いで、見事な指揮を聴かせてくれました。総合力では、ノット指揮東響のオーケストラ演奏の極致とも思える演奏が最高でしたが、ラフマニノフの真正の音楽と言う点では、今日のロシア人たちの演奏が見事でした。分厚い低弦の響きが印象的でした。これぞ、サンクトペテルブルク・フィルです。これに匹敵できるのはロイヤル・コンセルトヘボウ管くらいです。いずれも大男(+大女)たちの集団ですからね。

素晴らしいコンサートでした。そうそう、庄司紗矢香のアンコールですが、チェブラーシカより誕生日の歌ということで、あとひと月で80歳を迎えるテミルカーノフへのプレゼントだったのかな。この場に彼がいなくて、残念です。また、庄司紗矢香とテミルカーノフという最高の名コンビの演奏を聴きたいものです。テミルカーノフのご健康が回復することを願っています。

今日のプログラムは以下のとおりです。

  指揮:ニコライ・アレクセーエフ(ユーリ・テミルカーノフの代演)
  ヴァイオリン:庄司紗矢香
  管弦楽:サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団

  シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 Op.47
   《アンコール》 チェブラーシカより誕生日の歌

   《休憩》

  ラフマニノフ:交響曲第2番 ホ短調 Op.27
   《アンコール》 チャイコフスキー:『くるみ割り人形』より「トレパック」


最後に予習について、まとめておきます。

シベリウスのヴァイオリン協奏曲を予習したCDは以下です。

  リサ・バティアシュヴィリ、ダニエル・バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリン 2016年7月 ベルリン

これまでのマイ・ベストはヒラリー・ハーンの演奏でしたが、このバティアシュヴィリの演奏を聴いて、これからはこれがマイ・ベストに変わりました。素晴らしく熱のこもった演奏ですし、彼女の演奏の特徴である色っぽさがあり、とても魅惑されます。とりわけ、これほどの高揚感のある第1楽章は聴いたことがありません。


ラフマニノフの交響曲第2番は今年になって、2回も実演を聴き、もう予習は十分でしょう。以前、予習した際の記事を以下に転載します。

-----------------------------------------------ユーリ・テミルカーノフ指揮読売日本交響楽団を聴いた際の予習

 アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団 1973年
 ウラディミール・アシュケナージ指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1981年
 エフゲニ・スヴェトラーノフ指揮ロシア国立交響楽団 1995年

こういうことを言うと、本当のラフマニノフ好きの方には叱られそうですが、この曲とかピアノ協奏曲第2番とかはそれなりに甘い調べを聴かせてくれる演奏が好みです。そういう面ではアシュケナージは失格。意外にスヴェトラーノフが甘い音楽を聴かせてくれます。とりわけ、第3楽章はしびれます。録音も最高です。甘さも熱さも兼ね備えて聴きやすいのはプレヴィンです。彼の聴かせ上手ぶりは無類のものです。特にこういう曲は素晴らしいですね。古い録音ですが、SACDで音の輝きが際立つようになりました。

-----------------------------------------------ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団を聴いた際の予習

  マリス・ヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2010年1月 アムステルダム・コンセルトヘボウ ライヴ録音

ヤンソンスの3度目の最新録音です。1986年にフィルハーモニア管と、1993年にサンクトペテルブルグ・フィルと録音しています。この録音はハイレゾで素晴らしい音質で、よい演奏ではありますが、贅沢を言わせてもらうと、ちょっと退屈な感もあります。

-----------------------------------------------引用終わり

実は今回もゲルギエフ指揮ロンドン交響楽団の演奏を聴く準備はしていましたが、バタバタしているうちに聴き損ねました。いつか聴いてみましょう。



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       庄司紗矢香,  

シューマンに酔う:クリストフ・プレガルディエン リートの森@トッパンホール 2018.11.9

ようやく、念願かなってクリストフ・プレガルディエンの歌唱を聴くことができました。それもシューマンの歌曲尽くしですから、こんなに嬉しいことはありません。冒頭から、その美声にうっとりと聴き入ります。最初の《5つの歌曲 Op.40》はアンデルセンの詩にシューマンが劇的な表現の歌曲を作曲したものですが、プレガルディエンはそれも多彩な表現で歌い上げます。見事ですね。しかし、続く《リーダークライス Op.39》を聴くと、そのあまりにも美しい音楽に酔ってしまいます。とりわけ、有名な第5曲の月夜は美の極致とも思える絶唱でした。

後半は大好きな《詩人の恋》です。一部、声が割れたこともありますが、美しくて、多彩な表現は素晴らしくて、本当に満足しました。第1曲の《うるわしき5月に》は期待通りの歌唱でしたし、ほかの曲も挙げていけば切りがないほどです。特にリリックな表現が素晴らしくて、テノールならでは歌唱が聴けました。満足以外の何ものでもありません。

アンコールはさらに美しい歌唱が聴けました。ハイネの詩にシューマンが曲をつけたものが続きます。そして、曲の紹介なしに歌い始めたのは、大好きなミルテの花の第1曲 献呈です。これはハイネではなく、リュッケルトの詩ですね。今回、シューマンの歌曲を予習していたときに不意にどうしようもなく、ミルテの花を聴きたくなりました。取り出したのは、バーバラ・ボニーが4曲だけ歌った録音です。献呈、くるみの木、睡蓮の花(ハスの花)、ズライカの歌。どれも澄み切った声で素晴らしい歌唱です。saraiの愛聴盤です。ミルテの花を全曲歌ってくれなかったのが残念ですが、それをもってもあまりある美しい歌唱です。特にくるみの木の素晴らしさはどうでしょう。アンコールではハイネの詩による睡蓮の花を歌うと、予想していましたが、外れました。やはり、歌うなら、シューマンが結婚のプレゼントにしたミルテの花、それも献呈が一番でしょう。ボンにあるロベルト・シューマンとクララの美しいお墓の前でも聴いて、感動しました。そのときもバーバラ・ボニーの歌でした。今日は本来の男声で聴けて、満足です。アンコールの最後にもうシューマンの曲はないと言いながら(献呈の後では歌う曲はありませんね)、彼のお気に入りのシューベルトの《夜と夢》を歌ってくれました。シューマンは特別に好きですが、シューベルトも負けず劣らず好きです。でも、この曲はsaraiの範疇にはいっていませんでした。のっけらレガートと言うよりも持続音の美しさにガーンとやられます。シューベルトにこんな美しい曲があったのですね。素晴らしいボーナスがいただけました。
今日から、クリストフ・プレガルディエンはsaraiの好きな歌手に仲間入りです。機会があれば、これからも積極的に聴きましょう。

今日のプログラムは以下です。

  テノール:クリストフ・プレガルディエン
  ピアノ:ミヒャエル・ゲース

  シューマン:5つの歌曲 Op.40(詩:アンデルセン、シャミッソー)
  シューマン:リーダークライス Op.39(詩:アイヒェンドルフ)

   《休憩》

  シューマン:詩人の恋 Op.48(詩:ハイネ)

   《アンコール》

  シューマン:リーダークライス Op.24より 第9曲 ミルテとばらの花を持って
  シューマン:5つのリートと歌 Op.127より 第2曲 あなたの顔は
  シューマン:ベルシャザル Op.57
  シューマン:ミルテの花 Op.25より 第1曲 献呈
  シューベルト:夜と夢 D827

最後に予習について、まとめておきます。

シューマンの《5つの歌曲 Op.40》を予習したCDは以下です。

  ペーター・シュライヤー、ノーマン・シェトラー 1972年録音
  ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ、クリストフ・エッシェンバッハ  シューマン歌曲大全集 1974~76年録音

若き日のシュライヤーの気持ちの乗った歌唱が素晴らしく、ピアノのシェトラーも美しい演奏を聴かせてくれます。フィッシャー=ディースカウはコメントが必要でない美しい声を聴かせてくれますが、シュライヤーほどの気持ちは感じられません。エッシェンバッハのピアノは素晴らしいです。


シューマンの《リーダークライス Op.39》を予習したCDは以下です。

  ペーター・シュライヤー、ノーマン・シェトラー 1972年録音
  ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ、クリストフ・エッシェンバッハ  シューマン歌曲大全集 1974~76年録音

上記と同じ感想です。フィッシャー=ディースカウはこちらの表現は素晴らしいです。


シューマンの《詩人の恋》を予習したCDは以下です。

  フリッツ・ヴンダーリッヒ、フーベルト・ギーゼン 1965年 ミュンヘン セッション録音
  フリッツ・ヴンダーリッヒ、フーベルト・ギーゼン 1966年9月4日、エディンバラ、アッシャー・ホール ライヴ録音
  ジェラール・スゼー、アルフレッド・コルトー 1956年 モノラル録音
  ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ、イェルク・デームス 1957年 モノラル録音
  ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ、ウラディミール・ホロヴィッツ 1976年 カーネギーホール85周年記念演奏会 ライブ録音
  ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ、アルフレード・ブレンデル 1985年 セッション録音
  ペーター・シュライヤー、ノーマン・シェトラー 1972年録音

伝説のヴンダーリッヒを聴きました。青春の揺れ動く情熱、そして、情感のあふれた歌唱に感動しました。1965年のDGの録音、1966年の死の13日前のラストリサイタル、いずれも素晴らしい歌唱です。ほかにも録音が残っているようですから、もっと聴きたいものです。スゼーは古いモノラル録音ですが、音質自体はよく、これも素晴らしい歌唱に感動しました。それにコルトーのピアノが何とも素晴らしいです。フィッシャー=ディースカウも外すわけにはいきません。初めて、《詩人の恋》を聴いたのは彼のレコードでした。学生時代に第1曲の《うるわしき5月に》に憑りつかれていたのはフィッシャー=ディースカウの美しい歌唱を聴いたからです。今回は3つの録音を聴きましたが、それぞれ表現が異なりますが、美しい歌唱であることは変わりません。それにピアノがそれぞれ凄いです。イェルク・デームスの瑞々しい演奏、ホロヴィッツの硬質のタッチの誰にも真似のできない演奏、ブレンデルの美し過ぎる響きの演奏。やはり、この曲はピアノも伴奏ではなく、主役です。シュライヤーは若気の至りか、ちょっと前のめりの表現もありますが、端正な美しさは聴き惚れます。ここでもシェトラーのピアノの美しさが見事です。《詩人の恋》は素晴らしい演奏があまたあります。これでも聴き足りません。



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繊細かつ充実した響き:ヴォーチェ弦楽四重奏団@鶴見サルビアホール 2018.11.5

ヴォーチェ弦楽四重奏団は初聴きです。フランスのカルテットです。ステージに登場すると、そのあまりの容姿の美しさにびっくり。3名は女性でみなさん、美女です。まあ、音楽には関係ありませんけどね。しかし、音楽もその容姿に相応しく、素晴らしい響きと高い音楽性ですっかり魅了されました。演奏した4曲とも、それぞれの様式に合わせて、違う演奏スタイルで表現しますが、それがその曲にぴったりとはまり、美しい音楽になっています。当初は変な構成のプログラムだなと思っていましたが、終わってみれば、多彩な音楽を聴けた喜びに浸ることができました。

好みで言えば、最初のモーツァルトがよかったかな。響きのよい鶴見サルビアホールでありながら、あえて、響きを抑えて、古典様式の美しい演奏を堪能させてくれました。ヴォーチェ弦楽四重奏団の演奏を聴いたというよりもモーツァルトの音楽の素晴らしさに浸ることができました。これでこそ音楽の本道ですね。それにしても、この弦楽四重奏曲 第15番 K.421は聴けば聴くほど、モーツァルトの天才を感じてしまいます。凄い作品です。そう感じさせてくれたヴォーチェ弦楽四重奏団の演奏も凄い! 第2楽章の美しさ、第4楽章の哀しみには参りました。第1ヴァイオリンの少し生硬さのある演奏も新鮮さを感じました。

好みを除いて、一番凄かったのは2番目に演奏したシュルホフの《弦楽四重奏のための5つの小品》です。こんなに素晴らしい作品だったのですね。パヴェル・ハースと同様にシュルホフもナチスの収容所で命を落としたことが悔しいです。ナチスが芸術に対して犯した罪の数々はとても許せるものではありません。これからの世界で2度とこんなことが起きないために人々は行動を起こさないといけないと思っています。今の世界は転落の方向に向かっているような気がしてなりません。ともあれ、シュルホフはモーツァルトのときと違って、ホールに素晴らしい響きが満ち渡ります。第1曲のウィンナーワルツ風、第5曲のタランテラ風の演奏がとりわけ、素晴らしかったです。不意にこのヴォーチェ弦楽四重奏団のバルトークが聴きたくなりなりました。ちなみにこの曲は配置を変えて、ヴィオラが右前で、第1ヴァイオリンが第2ヴァイオリンと交代していました。エマーソン四重奏団のように第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンがよく交代するスタイルではないような気がします。この曲に限ってのことだったんでしょう。演奏スタイルも表現主義を前面に押し出したような意欲的な演奏でした。

3曲目のトゥリーナの闘牛士の祈りは以前、都響のコンサートで弦楽合奏版を聴いたことがありますが、あれは甘い雰囲気でした。今日聴いた弦楽四重奏版は適度に厳しさもあり、ヴォーチェ弦楽四重奏団の演奏はパーフェクトに思える完成度の高さでした。オリジナルはリュートの四重奏だそうです。

4曲目のドビュッシーはよほど、ヴォーチェ弦楽四重奏団が得意にしているのでしょう。最初から確信に満ちた堂々たる演奏でした。第2楽章、第3楽章の弱音の美しさは特筆するものでした。多分、客観的に言えば、今日、最高の演奏だったでしょう。


今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:ヴォーチェ弦楽四重奏団
    サラ・ダイヤン vn   セシル・ルーバン vn ギヨーム・ベケール va   リディア・シェレー vc

  モーツァルト: 弦楽四重奏曲 第15番 ニ短調 K.421
  シュルホフ: 弦楽四重奏のための5つの小品

   《休憩》

  トゥリーナ: 闘牛士の祈り Op.34
  ドビュッシー: 弦楽四重奏曲 ト短調 Op.10

   《アンコール》
    ハムザ・エル・ディン:水車 Escalay(Waretwheel)

最後に予習について触れておきます。
1曲目のモーツァルトの弦楽四重奏曲 第15番は既に昨年末からCDを聴き続けています。
過去の記事を以下に再掲します。

----------------------------------2017.11.27

 ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団 1952年録音
 アマデウス弦楽四重奏団(全集盤) 1966年録音
 エマーソン・カルテット 1991年録音

この曲でもエマーソン・カルテットは見事な演奏です。響きの素晴らしさはもちろん、ニ短調に似合った哀調の滲む演奏です。でも、本命はウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団の演奏ですね。最初の1小節を聴いただけで、その魅力に引き込まれます。あるべきものがあるべきところに収まっているという感じの演奏です。充足感に満たされます。一方、アマデウス弦楽四重奏団も無理のない自然であっさりした演奏で、これまた、モーツァルトの魅力がたっぷりです。この3枚はどれを聴いても満足できるでしょう。

----------------------------------2017.12.13

 ハーゲン・カルテット(全集盤) 1995年録音
 ジュリアード弦楽四重奏団 1962年録音

ハーゲン・カルテットは一昨年、来日演奏でモーツァルト・ツィクルスを聴かせてくれましたが、CDはそのときほどの素晴らしさではありません。再録音が望まれます。一方、ジュリアード弦楽四重奏団は実に端正な演奏で、これぞモーツァルトという感じです。ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団の名演にも迫る演奏です。これはハイドン・セットをすべて聴かないといけませんね。

----------------------------------過去記事引用終了

今回はまだ聴いていないCDということで以下を聴きました。

 ジュリアード弦楽四重奏団 1977年録音

これはジュリアード弦楽四重奏団の2度目の録音です。1度目ほどの冴えた印象はありませんが、何故か、心に残る演奏です。第1ヴァイオリンのロバート・マンの力が大きいのでしょう。


2曲目のシュルホフの5つの小品は以下のYOUTUBEで予習をしました。

 マイアミ・カルテット

大変、迫力のある演奏ですが、今日のヴォーチェ弦楽四重奏団を聴いてしまうと、演奏の精度と完成度が違いますね。


3曲目のトゥリーナの闘牛士の祈りはYOUTUBEで予習をしました。

 コントラス・カルテット

これはなかなかよい演奏でした。


4曲目のドビュッシーの弦楽四重奏曲は以下を聴きました。

 ベルチャ・カルテット

これは素晴らしい演奏です。新鮮かつ完璧な響きでドビュッシーの世界を満喫させてくれます。



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ジョナサン・ノットが東響に奇跡を起こす@サントリーホール 2018.11.3

まさに絶好調の東京交響楽団をジョナサン・ノットが指揮するとこうなるのかという驚くべき演奏です。そもそも、ノットがラフマニノフの交響曲 第2番をプログラムに入れたのは何故なのか、理解に苦しむところでしたが、その演奏を聴いて、疑問が氷解したというか、その演奏のあまりのレベルの高さに驚愕しました。これって、あのラフマニノフなのって、感じです。失礼ながら、ラフマニノフでさえ、ノットが料理すると、こんなに変身するのね! というか、もう曲はどうでもよくて、オーケストラ演奏の音響のあまりの素晴らしさにただただ圧倒される思いです。日本のオーケストラでこれほどの素晴らしい響きを聴いたことはありません。もう、ドイツの一流オーケストラに並ぶレベルに思えます。あっ、一昨日聴いたティーレマン指揮のシュターツカペレ・ドレスデンは同じサントリーホールですが、今日のノット指揮の東響ほどの響きではありませんでした。恐るべし!ジョナサン・ノットの才能です。会場は演奏後、沸きに沸きました。もっともジョナサン・ノット指揮の東響のコンサートではいつもの光景です。指揮者コールは一度だけでしたが、二度、三度してもよかったと思います。実際、そのつもりでsaraiは拍手していたんですけどね。

細かい音楽の感想は不要です。素晴らしい東響の響きとそれを引き出したノットの凄さがすべてです。在りし日のチェリビダッケ指揮のミュンヘン・フィルを超える日は間近いでしょう。もっともsaraiはその実演を聴いていませんが、その悔しさをノットと東響はきっと晴らしてくれるでしょう。空席が目立ったサントリーホールでしたが、すべからく、日本の音楽ファンはこのノットと東響のコンサートに駆け付けたほうがいいでしょう。きっと伝説になるようなコンサートが連発するでしょう。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:ジョナサン・ノット
  ピアノ:ヒンリッヒ・アルパース
  管弦楽:東京交響楽団

  ブラームス:ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 Op.83
   《アンコール》
    ブラームス:3つの間奏曲 Op.117から、第1曲 アンダンテ・モデラート 変ホ長調

   《休憩》

  ラフマニノフ:交響曲 第2番 ホ短調 Op.27


最後に予習について、まとめておきます。

ブラームスのピアノ協奏曲 第2番を予習したCDは以下です。

  ルドルフ・ゼルキン、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 1966年録音

もっと枯れた演奏を予想していたら、ゼルキンもセルも熱くて、勢いにある演奏を聴かせてくれます。びっくりしますが、なかなかよい演奏ではあります。


ラフマニノフの交響曲 第2番を予習したCDは以下です。

  マリス・ヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2010年1月 アムステルダム・コンセルトヘボウ ライヴ録音

ヤンソンスの3度目の最新録音です。1986年にフィルハーモニア管と、1993年にサンクトペテルブルグ・フィルと録音しています。この録音はハイレゾで素晴らしい音質で、よい演奏ではありますが、贅沢を言わせてもらうと、ちょっと退屈な感もあります。



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金婚式、おめでとうございます!!!
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10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

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クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

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