先週、12月7日はsaraiの最愛のピアニスト、クララ・
ハスキルが58年前に亡くなった日でした。今年もその日が巡ってきましたが、生憎、ノット&東響の《フィガロの結婚》があり、クララを偲ぶ記事が書けませんでした。5日遅れでクララ・
ハスキルの日の記事をアップします。
現在、クララ・
ハスキルの全録音を聴くという大企画を決行中です。もっとも全録音のCDまたはLPが入手できればの話です。
モーツァルトの作品の録音はほぼ収集できました。
ハスキルのディスコグラフィーは以下のCDに付属しています。J.スピケの労作です。
Clara Haskil - The Unpublished Archives TAHRA TAH389/390
モーツァルト:ピアノ協奏曲第19番ヘ長調 K.459
53/01/20、ベルリン フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466
52/12/19、チューリッヒ ハンス・シュミット・イッセルシュテット、ベロミュンスタースタジオ管弦楽団
等
前回はモーツァルトのピアノ協奏曲第9番から第19番までの全録音について聴いた感想をまとめました。
https://sarai2551.blog.fc2.com/blog-entry-2533.html今回はモーツァルトのピアノ協奏曲第20番から第27番までの全録音について聴いた感想をまとめます。
ピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466
(1)...48/07/25、エキサン・プロヴァンス エルネスト・ブール、パリ音楽院管弦楽団(INA)
ハスキルの現存するモーツァルトの録音で一番古いものです。したがって、音質は期待できませんが、オーケストラの音はともかく、
ハスキルのピアノは意外に明快にとらえられています。第1楽章はハスキルも落ち着かなかったようで、拙速だったり、集中していないようですが、後半からはハスキルらしい音楽が展開されます。第2楽章はとても品格の高い演奏です。圧巻なのは第3楽章。ハスキルならではの見事な演奏です。終盤では、素晴らしく勢いのあるカデンツァも含めて、彼女の素晴らしいピアノの表現に圧倒されます。INAはよくもこういう記録を復活してくれました。感謝するのみです。
(2)...50/09/23-24、ヴィンタートゥール ヘンリー・スウォボダ、ヴィンタートゥール交響楽団(Westminster)カデンツァ:ニキタ・マガロフ
ピアノ、オーケストラ、ともに素晴らしい演奏。デモーニッシュではなく、詩情にあふれた音楽に仕上がっています。ハスキルのピアノは第2楽章で詩情豊かに歌いますが、それよりも第3楽章の真珠の球を転がすようなきらめきに満ちた演奏が素晴らしく感じられます。LPレコードの音質が光ります。
(3)...52/12/19、チューリッヒ ハンス・シュミット・イッセルシュテット、ベロミュンスタースタジオ管弦楽団(THARA)
スタジオ録音のため、ハスキルの落ち着いた演奏が光ります。第1楽章、第3楽章は勢いのある演奏。第2楽章はさりげない力の抜けた演奏ながら、後半の美しい演奏が印象的です。シュミット・イッセルシュテットの堂々たるオーケストラのサポートも見事です。録音もよく、聴き応えのある演奏です。ハスキルの魅力全開とは言えないまでも、とても素晴らしい演奏・録音と言えます。
(4)...54/01/10、ベルリン(オイローパ宮) フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団(Audite)
ライヴとは思えない落ち着いた演奏ながら、ハスキルもフリッチャイも気迫に満ちています。とりわけ、ハスキルの輝かしいピアノの音色は素晴らしいです。フリッチャイとの協奏も見事。これは名演です。録音はピアノとオーケストラのバランスが絶妙。
(5)...54/01/11-12、ベルリン(イエス・キリスト教会) フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団(DGG)
もうハスキルのピアノの響きを聴いているだけで、ハスキルのファンは幸福になれる。そういう演奏です。基本的には前日のライヴとほぼ同じ演奏ですが、ハスキルの気品に満ちたピアノの透徹した響きは第1楽章から第3楽章まで変わらず、速いパッセージになっても安定した響きです。第3楽章のカデンツァに至り、演奏は勢いを増して、胸を打たれるようなハスキルの演奏にただただ感服するのみです。フリッチャイはライヴよりもサポート役に徹して、見事な演奏を聴かせてくれます。
(6)...54/10/11、ウィーン ベルンハルト・パウムガルトナー、ウィーン交響楽団(Philips)
ハスキルの純度の高い響きで端正に、そして、音楽に敬意を持って、実に丁寧に弾かれた演奏は最後まで維持されます。適度に軽い残響のあるホールトーンで美しい音楽はこの上もなく、心に沁み渡ってきます。パウムガルトナー指揮のウィーン交響楽団も見事なサポートです。こういう素晴らしいセッション録音を残してくれたPhilipsに感謝です。因みにハスキルの演奏スタイルは同じ年に録音されたフリッチャイとの演奏とほとんど変わりません。すっかり、この曲を自分のものとして確立したようです。
(7)...56/01/28、ザルツブルグ ヘルベルト・フォン・カラヤン、フィルハーモニア管弦楽団(ORF)カデンツァ:クララ・ハスキル
これは本当に驚きました。まさに一期一会とも思える会心の演奏です。生命力に満ちて、純度の高い響きで、ハスキルはこの名曲を弾き切ります。第3楽章の素晴らしさには感銘を受けてしまいます。カラヤンの絶妙のサポートも見事の一語です。ピアノに寄り添いつつ、ピアノの響きを高めていくような素晴らしい指揮です。永遠に語り継いでいくような名演です。この演奏では以前とはカデンツァが変わりましたね。これがハスキル自身の作ったカデンツァでしょうか。なお、カラヤンとは、このとき、ウィーン、ザルツブルク、ミュンヘン、パリ、ロンドンで10回以上もツアーでコンサートを行い、ハスキル自身も満足の出来だったそうです。カラヤンとはこれが最後の共演になったそうです。
(8)...56/11/06、ボストン シャルル・ミュンシュ、ボストン交響楽団(MUSIC&ARTS)カデンツァ:ニキタ・マガロフ
音質はまあまあというところですが、ハスキルの純度の高いピアノの響きは十分にさえわたっています。ハスキルの演奏は相変わらずの素晴らしさ。とりわけ、第2楽章の情感あふれる演奏はこれまでで最高のレベルです。ミュンシュの気合のはいった指揮も聴きものです。なお、この演奏は初のアメリカでのコンサートツアーで最初のボストンでの4回のコンサートのうちの最後のコンサートです。最初の3回はベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番でしたが、この最後のコンサートはミュンシュのたっての希望でこのモーツァルトのピアノ協奏曲第20番が取り上げられたそうです。道理でハスキルもミュンシュも気合がはいっていたわけです。ハスキルもこの演奏について、満足していたようです。ところでカデンツァはまた、元のマガロフのカデンツァを弾いています。予定外の曲目だったので、古くから弾いていたカデンツァを弾いたのかもしれません。
(9)...57/09/27、モントルー音楽祭 パウル・ヒンデミット、フランス国立管弦楽団(INA)カデンツァ:ニキタ・マガロフ
何故か、可憐に咲く一輪の白い花をイメージしました。オーケストラは妙に重い演奏でリズムも悪いのですが、ハスキルのピアノが入ってくると、空気が一変します。実に気品の高い清冽な演奏です。オーケストラとのギャップが逆にハスキルのピアノを引き立てている印象すらあります。音質もハスキルのピアノの響きを聴き取るのに十分なレベルです。ハスキルはこの曲の演奏形式を完全に確立していて、常に高いレベルの演奏を聴かせてくれます。
(10)...59/09/08、ルツェルン オットー・クレンペラー、フィルハーモニア管弦楽団(URANIA、AUDITEハイレゾ)カデンツァ:ハスキル
URANIAのCDは音質は悪いですが、素晴らしい演奏でした。今回、新たにAuditeのダウンロード販売で入手したハイレゾ音源はまるで奇跡のように素晴らしい音質で、オーケストラもハスキルのピアノの響きも素晴らしく磨きあがっています。とりわけ、ハスキルのピアノの高域のピュアーな響きと低域の深みのある響きは感涙ものの素晴らしさ。ルツェルン音楽祭のハイレゾ音源シリーズでは、フルトヴェングラーのシューマンの交響曲第4番も見事に蘇りましたが、これはそれを上回る出来です。この演奏で聴くハスキルの音楽は一段と芸術上の高みに上った感があります。潤いのある、磨き上げられたようなピアノの響きで哀感のある音楽を奏でていきます。まさに輝くような演奏に引き込まれてしまいます。第2楽章の深い詩情にあふれた演奏には絶句するのみです。第3楽章もパーフェクトな響きで音楽が始まります。なぜか、カデンツァが短く省略されたのはどういうことなんでしょう。そういう問題があるにしても、これこそ、ハスキルのモーツァルトを代表する名演奏であることは変わりません。クレンペラーもさすがに立派にオーケストラを鳴らしています。名指揮者と組んだときのハスキルは一段と輝きを増します。
(11)...60/11/14-18、パリ イーゴル・マルケヴィッチ、コンセール・ラムルー管弦楽団(Philips)カデンツァ:クララ・ハスキル
これはLPレコードを入手しました。素晴らしい音質ですが、若干、音が硬い印象があります。演奏は巷で言われているほど、ハスキルの最高の演奏には思えません。直前に聴いた前年のクレンペラーとのライヴのほうが明らかに優っています。この曲だけはセッション録音だと、ハスキルの心情が強く表れないのかもしれません。ライヴでステレオ録音が残っていればと悔やまれます。とは言え、これだけ素晴らしい音でハスキルのピアノの音が聴けるのですから、貴重な録音であることは間違いありません。第3楽章だけは素晴らしい演奏です。勢いはありませんが、その代わり、くまどりのはっきりしたメリハリのきいた素晴らしい演奏です。(追記)ハイレゾ音源で聞き直した結果、ずい分、印象が変わりました。もう一つに思えたマルケヴィッチ指揮コンセール・ラムルー管弦楽団の演奏もなかなか素晴らしいです。そして、やはり、ハスキルの演奏は最高の輝きに満ちていました。オーディオも進化によって、こんなに演奏の印象が変わるものかと驚愕しました。
(結論) これらの11種類の録音はいずれもハスキルのファンならば、聴き逃せない演奏ばかりですが、とりわけ、56年のカラヤン、56年のミュンシュ、59年のクレンペラーは素晴らしいの一語に尽きます。54年のフリッチャイとのセッション録音、54年のパウムガルトナー、60年のマルケヴィッチも捨て去りがたい魅力に満ちています。やはり、ハスキルのピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466は大袈裟に言うと、人類の文化遺産の最高峰です。
ピアノ協奏曲第23番イ長調 K.488
(1)...53/06/25、ルガーノ オトマール・ヌシオ、スイス・イタリア語放送管弦楽団(Ermitage)
うーん、これが本当にハスキルの演奏でしょうか? 響きといい、音楽性と言い、まるでハスキルらしくない演奏です。妙に綺麗過ぎるんです。音質がえらく良いのですが、音響的な処理のせいでしょうか。それでも第3楽章はハスキルならでは勢いのあるテクニックのある演奏なので、これはハスキルしか弾けないでしょう。オーケストラがメロー過ぎるほどのロマンティックな演奏をしているので、ハスキルも同調してしまったのかな。この曲をハスキルが以後、どんな演奏をしているのか、興味が尽きません。ほぼ1年後と3年後と6年後(亡くなる前年)の録音が残っているので、比較してみましょう。
(2)...54/10/08-10、ウィーン パウル・ザッハー、ウィーン交響楽団(Philips)
これはハスキルらしい高貴さと詩情に満ちた演奏。ほぼ、4か月前の演奏は何だったんでしょう。第1楽章こそ、ピアノの響きがきちんと聴こえてきませんが、第2楽章の抑制のきいた美しさ、第3楽章の純度の高い響きには満足できます。オーケストラも美しい響きですが、決して、やり過ぎていません。最高の演奏ではありませんが、一定の水準の演奏です。
(3)...56/02/06、ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール ヘルベルト・フォン・カラヤン、フィルハーモニー管弦楽団(ICA CLASSICS)
クララ・ハスキルの新しい録音が発見されました。イギリスBBC放送で中継放送されたコンサートを当時の最高の機材で録音していたリチャード・イッター(Richard Itter)という奇特な人がいて、1952年から1996年まで、およそ1500点にのぼる放送録音をコレクションしていたそうです。今回、ICA CLASSICSがBBCと12年間の交渉との末、ようやく契約がまとまり、イッターの膨大な録音の中から40タイトルをリリースするそうです。その中に前から聴きたかったクララ・ハスキルとカラヤンが共演したロイヤル・フェスティヴァル・ホールでのモーツァルトのピアノ協奏曲第23番があります。これはカラヤンと組んで、ウィーン、ザルツブルク、ミュンヘン、パリ、ロンドンなどで11回もコンサートを行い、ハスキル自身も満足の出来だったコンサート・ツアーの最後を飾るものです。もっともクララ自身はツアーが続いたため、このロンドンの演奏会は疲れていて満足な演奏の出来ではなかったと述懐しています。カラヤンとはこれが最後の共演になったそうです。既にザルツブルクでのモーツァルトのピアノ協奏曲第20番はオーストリア放送協会の録音がCD化されており、まさに一期一会とも思える会心の演奏です。生命力に満ちて、純度の高い響きで、ハスキルはこの名曲を弾き切っています。ロンドンでの1956年2月6日の演奏会については実際にその場で聴いた植村攻氏の感想が著書《巨匠たちの音、巨匠たちの姿》に書かれています。第2楽章のアダージオが絶品だったそうです。タイムズ紙もこの第2楽章を絶賛するレビュー記事を掲載したそうです。で、実際に聴いてみた感想は音質はもう一つながら、まあまあ、聴けるレベルにあるという感じです。演奏はやはり、第2楽章が白眉です。第3楽章も勢いのある演奏です。残念ながら、このコンビの第20番ほどの冴えはありませんでした。ただ、ハスキルの品格の高いピアノ、共演したカラヤンの気品に満ちた演奏は特筆すべきものです。
(4)...59/06/29、ディボンヌ・レ・バン音楽祭 ピエール・コロンボ、ジュネーブ室内管弦楽団(INA)
未入手のため、この演奏だけは聴けていません。遂にこの演奏だけが未入手になりました。
(5)...59/09/15、モントルー シャルル・ミュンシュ、パリ国立管弦楽団(MUSIC&ARTS)
嬉しくなってしまうような感動の名演です。生々しい録音でハスキルの素晴らしさがすべて分かってしまう感じ。ライヴなのに落ち着いた堂々たる演奏を聴かせてくれます。第1楽章から美しい響きでモーツァルトのメロディアスな音楽が奏でられますが、抑制のきいた格調の高い表現です。そして、第2楽章の素晴らしさ。深い思い、精神性と言ってもいいかもしれませんが、音楽に込められたハスキルの極上の世界が繰り広げられます。それに寄り添うミュンシュの抒情的な表現も見事です。第3楽章はもう、自由な飛翔が存分に展開されて、ただただ聴き入るのみ。晩年のハスキルの高い音楽性はもう、天上の世界を思わせられます。感動的なのは大指揮者ミュンシュがハスキルのピアノにぴったりと寄り添い、支えていることです。よほど、ハスキルのピアノに感銘を受けていたのでしょう。この録音を聴くだけでそれが分かります。ハスキルはその時代の大音楽家によほど愛されたのですね。胸が熱くなりました。
(結論) 59年のミュンシュとの演奏が最高です。56年のカラヤンも彼とのラストコンサートなので、価値がありますし、その品格の高い演奏は忘れられません。
ピアノ協奏曲第24番ハ短調 K.491
(1)...55/12/08、パリ(シャンゼリゼ劇場) アンドレ・クリュイタンス、フランス国立管弦楽団(INA)
ハスキルの魅力が凝縮されているような演奏です。これを聴いて、ハスキルのファンにならない人は音楽を聴く資格がないとそしられても仕方がないでしょう。大指揮者クリュイタンスの指揮するオーケストラの素晴らしい演奏が野暮に聴こえてしまうほど、ハスキルのピアノの響きは美しく、格調が高いと感じます。可憐な白い一輪の花というと、誤解があるかもしれませんが、そう表現したくなるような孤高のピアノです。第1楽章から冴え渡るピアノは、第2楽章でひと際美しく、第3楽章でも冴え渡る技巧の素晴らしさに聴いている自分が茫然自失になってしまいます。ハスキルの最高の演奏が聴けました。録音もINAの素晴らしい技術で最高です。
(2)...56/06/25、ローザンヌ ヴィクトル・デザルツェンス、ローザンヌ室内管弦楽団(Claves)
全編、哀しみ色に塗り込まれた深い詩情にただただ聴き入るのみです。ハスキルのモーツァルトの中でも最高の演奏です。デザルツェンスの指揮もそういうハスキルの演奏にぴったりと寄り添って、雰囲気を盛り上げてくれます。ピアノ、オーケストラ、共に素晴らしい協奏曲を作り上げてくれました。どの楽章をとっても素晴らし過ぎる演奏ですが、第1楽章のカデンツァは最高の演奏です。忘れられない究極の演奏のCDになりました。
(3)...60/11/14-18、パリ イーゴル・マルケヴィッチ、コンセール・ラムルー管弦楽団(Philips)カデンツァ:クララ・ハスキル/ニキタ・マガロフ
貴重なステレオ録音で期待してしまいますが、同時に録音された第20番 ニ短調の協奏曲と同様にがっかりしてしまいます。特に第1楽章ではハスキルの詩が聴こえてきませんし、響きも平凡です。救われるのは第2楽章の終盤から響きがよくなり、第3楽章の演奏が素晴らしいことです。これなら、第3楽章の後、もう一度、第1楽章を録音し直してくれれば、よかったのにね。まあ、この曲では既に素晴らしい録音が2つもあるのでいいでしょう。一般にはこのCDがハスキルの代表盤のようになっているので、これを聴いた人はハスキルの真髄を聞き逃して、誤解してしまうかもしれません。(追記)まだ、ハイレゾ音源を聴いていませんが、第20番では印象ががらっと変わったので、この演奏も大化けする可能性があります。上記の感想は一時、保留です。
(結論) 55年のクリュイタンス、56年のデザルツェンスとの演奏は、ハスキルのモーツァルト演奏の中でも究極を思わせる素晴らしいものです。
ピアノ協奏曲第27番変ロ長調 K.595
(1)...56/09/09、モントルー オットー・クレンペラー、ケルン放送(WDR)交響楽団(MUSIC&ARTS)
ハスキルの素晴らしい演奏に至福を感じます。音質は聴き取り易く処理されていますが、音楽を損ねるようなものではありません。クレンペラーのがっちりとしたオーケストラに支えられて、ハスキルはすべての音楽をクレンペラーに一旦、委ねたかのしながらも、しっかりと自分の個性に満ちた音楽を奏でていきます。第1楽章、第2楽章は愛らしいとも言える、ゆったりとしたピアノの響きで、とても格調高いものです。ハスキルらしい純度の高いピアノの音も十分感じられます。第3楽章はハスキルのテクニックが素晴らしく、見事な音楽を展開していきます。何故か、このクレンペラーとかクリュイタンスとかミュンシュとかシューリヒトのような大指揮者と組んだときのハスキルは彼らにインスパイアされるのか、必ず、最高の演奏を聴かせてくれます。ああ、イッセルシュテット、ヨッフム、カラヤンも抜けていますね。彼らの誰かとモーツァルトのピアノ協奏曲全集を録音してくれていればとの思いが残ります。
(2)...57/05/07-09、ミュンヘン(ヘラクレスザール) フェレンツ・フリッチャイ、バイエルン国立管弦楽団(DGG)LP
モーツァルトはかく演奏されねばならないというような最高の演奏です。ハスキルの最高の芸術をここに聴くことができます。彼女の純度の高いピアノの響きは極限まで高められて、聴くものの耳をも純化します。フリッチャイはよいサポートとか、寄り添うとかというレベルではなく、ハスキルの最高の演奏と一体化したような素晴らしい指揮です。彼こそ、ハスキルの芸術の何たるかを理解していた音楽家だったのですね。第1楽章の素晴らしい演奏に続き、第2楽章はさらに純化された最高の演奏です。第3楽章はさぞや、勢いに乗った演奏になると思っていたら、そうではありません。インテンポのゆったりした演奏で、すっかりと力の抜けた、軽み(かろみ)に至る演奏です。あまりの見事さに思わず、こちらは笑みがこぼれてしまいます。でも最後のフィナーレの凄まじさには感動します。まるで泣き笑いのようになってしまうような極上の演奏。ハスキルは本当に天才だったんですね。それが実感できる究極の1枚です。
(結論) 56年のクレンペラーとの演奏も素晴らしいのですが、57年のフリッチャイとの演奏ときたら、ハスキルの芸術のすべてが詰まっています。
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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽