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ザルツブルク音楽祭:素晴らしいシューマン、ムーティ&ウィーン・フィル@ザルツブルク祝祭大劇場 2018.8.15

saraiの今年のザルツブルク音楽祭の皮切りはムーティ指揮ウィーン・フィルのコンサートからです。やはり、ウィーン・フィルはザルツブルク音楽祭の顔です。ムーティを聴くのも久しぶりです。10年ぶりくらいになります。この間、精悍な感じから丸い感じに変わりましたね。77歳とお歳を召されたようです。

前半のシューマンの交響曲第2番はとても素晴らしい演奏でした。予習したムーティが若い頃の演奏に比べて、颯爽としたロマンは変わりませんが、さらに深い陰影が表現されるようになりました。単にオーケストラの違いではないようです。それが如実に感じられたのは緩徐楽章の第3楽章です。今日の演奏の白眉でもありました。その陰影の深さは交響曲というよりも、まるでミサ曲でも聴いているように錯覚してしまうほどです。この頃、シューマンはバッハの音楽を研究していたそうですが、弦楽がカノンで旋律を受け渡すあたりがその成果でしょうか。この部分では、さらにフーガを展開していくのではなく、その弦楽によるフーガの上に管楽器が楽章のメインの主題を重ねるあたりが美しい演奏になっていました。バッハというよりもモーツァルトが木管の天国的な旋律を重ねる手法を思い起こしてしまいます。そういうテクニカルな部分もさることながら、シューマンの苦しい胸の内の吐露を聴いている沈んだ表現が見事であると思いました。第4楽章は一転、明るく祝祭的な音楽が展開されますが、ここでもどこか、一抹の不安感を内包しているような微妙な表現が素晴らしいと思いました。ムーティも本当の意味で巨匠と言える領域に足を踏み込んでいるのではないかしらね。ムーティの評価がsaraiの中ではかなりアップです。もちろん、ムーティのこういう繊細な表現を支えたのはウィーン・フィルの力です。今日はシュトイデとダナイローヴァのダブルコンマスでの演奏でした。実はシューマンの交響曲第2番を生で聴くのは初めてでしたが、すっかり魅了されました。今後は第1番から第4番まで、すべて、高い意識で聴かせてもらいましょう。

後半はシューベルトのミサ曲第6番。亡くなる4か月前の作曲で、まさに最晩年の作品。シューベルトの作品はD.899以降の晩年の作品には目がありませんが、これまでミサ曲はその意識に入っていませんでした。大規模なオーケストラ作品もこれが最後の作品でしょうか。ただ、宗教曲のせいか、シューベルトの晩年の作品によくみられるデモーニッシュな表現が感じられず、実に正攻法の音楽になっています。ちょっと面白みに欠けるきらいがあります。まあ、宗教曲に面白みを求めるのは間違っているのかもしれません。全体に合唱が多く、ほんの少し、独唱者たちの重唱があります。きっちりしたソロはありません。これが少し寂しいですね。シューベルトならば、独唱でこそ才能を発揮できそうです。それでも美しい合唱も多々ありました。その中でソロ歌手の4重唱によるベネディクトゥスは美して、深みのある音楽で、ミサ曲全体の中でも白眉と言えるでしょう。とりわけ、ソプラノのクラッシミラ・ストヤノヴァの歌唱は印象的でした。終曲のドナ・ノビス・パーチェムの合唱が弱音で閉じられるところは感動的でした。このシューベルトのミサ曲はもう少し、聴き込まないといけないと反省しました。

今日のプログラムは以下です。

 指揮:リッカルド・ムーティ
 ソプラノ: クラッシミラ・ストヤノヴァ
 コントラルト: アリサ・コロソヴァ
 テノール: マイケル・スパイレス、マチェイ・クワスニコフキー
 バス: ジャンルカ・ブラット
 合唱: ウィーン国立歌劇場合唱団
 管弦楽:ウィーン・フィル

 シューマン: 交響曲第2番ハ長調 Op.61

  《休憩》

 シューベルト: ミサ曲第6番変ホ長調 D.950 

最後に予習したCDをご紹介しておきましょう。

まず、シューマンの交響曲第2番ですが、これは生で聴くのは初めてですから、少し力を入れて、以下のCDを聴きました。

 レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィル 1984~85年録音
 ジョン・エリオット・ガーディナー指揮オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク 1997年録音 オリジナル楽器
 リッカルド・ムーティ指揮フィルハーモニア管弦楽団 1977年10月録音

ウィーン・フィルのシューマンの代表的な録音はやはり、バーンスタインです。なかなかの演奏です。今時ですから、オリジナル演奏も聴きます。代表格はガーディナー指揮でしょう。それほどの感銘は受けませんでした。ムーティ指揮のものも聴いてみました。若い頃の演奏です。これはロマンと爽やかさに満ちて、楽しく聴けます。ただし、深みには欠けます。

次にシューベルトのミサ曲第6番は以下のCDを聴きました。

 クラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィル 1986年11月1日 ウィーン、ムジークフェラインザール(第10回万聖節記念コンサートにおけるライヴ・レコーディング)
 カリタ・マッティラ (ソプラノ)
 マルヤナ・リポフシェク (メゾ・ソプラノ)
 ジェリー・ハドリー (テノール)
 ロベルト・ホル (バス・バリトン)
 ホルヘ・ピータ (テノール)
 ウィーン国立歌劇場合唱団

きっちりした演奏で大変、聴きごたえがありました。ウィーン・フィルということで選択したCDです。



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極上の音楽に衝撃!!歌劇《ポッペアの戴冠》クリスティ指揮レザール・フロリサン@モーツァルト劇場 2018.8.15

古楽のレジェンド、ウィリアム・クリスティの畢生の演奏のあまりの凄さに口あんぐり状態で笑ってしまうほどの衝撃を受けました。saraiのザルツブルク音楽祭の初日から、これほどの音楽を聴けるとは恐れ入りました。手練れの演奏家、歌手を集めて、クリスティが練りに練った音楽はこれぞ究極と思えるほどの素晴らしい音楽で、一瞬も気が抜けない緊張感を持って拝聴しました。

古楽オーケストラは左右2つに分かれたピットに収まり、クリスティは一番左端に陣取って、さりげなくチェンバロを弾きます。指揮者然としていないので、最初はどこにいるのか探したほどです。あっと驚いたのは左のピットにいたリュート奏者。よく見知った顔です。トマス・ダンフォードですね。CTのイェスティン・デイヴィスの来日公演で伴奏のリュートを弾いていた人です。古楽オーケストラのレザール・フロリサンはヴァイオリンはたった二人だけ。一人は日本人の顔をしたヒロ・クロサキ。あとはブロックフレーテ、もう二人のリュートとテオルベ(これが物凄く上手い!!)、古楽のコルネット、ヴィオラ・ダ・ガンバ、リラ・ダ・ガンバ等々でクリスティを含めて、総勢16人。あまりに少ないオーケストラですが、達人たちの奏でる音楽がこれで十分でした。

歌手もみな上手過ぎですが、一人群を抜いていたのはタイトルロールのポッペアを歌ったソーニャ・ヨンチェバです。ヨンチェバと言えば、彼女のウィーン・デビューの場に立ち会ったことが思い出されます。衝撃のデビューでした。そのときの記事はここです。これはほんの5年前のこと。その後、彼女は世界のオペラハウスのディーヴァになりましたが、saraiは5年ぶりの再会です。今日は圧倒的な美声、それに存在感で魅了してくれます。ポッペアはいわば悪女ですが、こんな魅力的な悪女なら、皇帝ネロならずとも、全人生を捧げたいと思わせるような魅力たっぷりの歌唱と演技です。皇帝ネロ役のケイト・リンジーは以前聴いたときは素晴らしい歌唱でしたが、今日は悪役に徹し過ぎたのか、今一つ、声の魅力に欠けます。オッターヴィア役のステファニー・ドゥストラックはライバルがヨンチェバですから、最初はぱっとしませんが、最後の歌、さらば、ローマでは魂のこもった歌唱で聴くものの心をゆさぶります。オットーネ役のカウンター・テノール、カルロ・ヴィストーリは声はそれほどではありませんが、表現力の素晴らしさが圧倒的です。このオペラの陰の主役とも言える活躍ぶり。saraiは大変、感銘を受けました。セネカ役のレナート・ドルチーニは自害を受け入れる場面での歌唱が最高。涙を誘います。切りがないのでこのあたりにしますが、よくぞ、こんな素晴らしい歌手を揃えたと驚愕するほどでした。そうそう、アルナルタ役のドミニク・ヴィッセは往年の名CTですね。まだ、その美声の片鱗は感じられます。武満徹の作品を歌った見事なCDは永遠の金字塔です。

最後に演出ですが、あまりコメントできません。音楽に集中していて、舞台はそれほど詳細には見ていません。まあ、音楽をそんなに邪魔しなかったのだから、よかったんじゃないでしょうか。カメラで映像を撮っていたので、そのうち、放送されるのかな。それともBDになるのかな。もう一度、詳細に音楽を聴きたいところですが、あの微妙な空気感はその場限りのものでしょう。

最高のオペラを聴きました。


モンテヴェルディ:歌劇《ポッペアの戴冠》

ポッペア: ソーニャ・ヨンチェバ
ネローネ: ケイト・リンジー
オッターヴィア: ステファニー・ドゥストラック
オットーネ: カルロ・ヴィストーリ
セネカ: レナート・ドルチーニ
ドルジッラ/美徳の神: アナ・キンタンス
ルカーノ: アレッサンドロ・フィッシャー
アルナルタ: ドミニク・ヴィッセ
乳母: マルセル・ビークマン
小姓/愛の神: レア・デサンドレ
検察官/兵士/護民官: デイヴィッド・ウエッブ
メルクリオ/領事: ヴァージル・アンスリー

演出:ヤン・ロワース              
管弦楽:レザール・フロリサン
指揮:ウィリアム・クリスティ


予習したのは以下のDVDです。数少ない日本語字幕の貴重な演奏です。ポネルの演出、アーノンクールの指揮というのもいいですね。しかし、今日の公演には遠く及びません。

ポッペア: ラシェル・ヤカール
ネローネ: エリック・タピー
オッターヴィア: トゥルデリーゼ・シュミット
オットーネ: ポール・エスウッド
セネカ: マッティ・サルミネン
ドルジッラ: ジャネット・ペリー
ルカーノ: フィリップ・フッテンロッハー
運命の神: レナーテ・レンハルト
美徳の神: ヘルルン・ガードウ
愛の神: クラウス・ブレットシュナイダー

演出:ジャン=ピエール・ポネル              
管弦楽:チューリヒ歌劇場モンテヴェルディ・アンサンブル
指揮:ニコラウス・アーノンクール

1978年、チューリヒ歌劇場 



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今年のザルツブルク音楽祭の最大の話題の公演、クルレンツィス&ムジカエテルナのベートーヴェン/交響曲第9番は古典回帰の疾風怒濤@フェルゼンライトシューレ 2018.8.15

クルレンツィス&ムジカエテルナのこの公演に惹かれて、3年連続のザルツブルク音楽祭通いになってしまいました。
どんな演奏になるか、予想もつかないと思いましたが、結局はほぼ予想通りの演奏でした。オリジナル楽器(コピーも含む)オーケストラによる演奏は歯切れがよい高速演奏で、従来型のモダン楽器による演奏はロマン過多に思えてしまいます。楽器だけの違いではなく、作曲当時に立ち返った歴史的スタイルの演奏になります。もちろん、ベートーヴェンの時代の演奏が正確にどうだったのかは知る由もありませんが、要はそうだったのかと信じさせる力が演奏者にあるかどうかです。天才の呼び声高いクルレンツィスは実に説得力のある演奏をします。
まずはそのテンポの勢いに圧倒されます。一気果敢に押しまくります。テンポも速いし、粘りもありませんから、いつも聴いているベートーヴェンとはまったく異なる色合いになります。良いところは無駄な思い入れを排した推進力です。前へ前へと突き進んでいきます。心のどこかで、これでは潤いに欠けると思うところもありますが、クルレンツィスのような確信犯には歯がたちません。唖然として聴くだけです。しかし、これは予想していた範囲内です。予習したインマゼール指揮アニマ・エテルナも同じスタイルで全曲を1時間を少し超えるくらいで演奏します。多分、今日のクルレンツィスも同じくらいの速さだったでしょう。
もちろん、オーケストラはいつもの立ったスタイルです。意外だったのは、クルレンツィスの体の揺れとオーケストラ奏者の体の揺れが必ずしも同期していないことです。ベートーヴェンだからでしょうか。
音楽的な部分について言うと、現在、我々が聴いているベートーヴェンはロマン的な演奏で、クルレンツィスの演奏は古典的なスタイルを目指しており、疾風怒涛を思わせる演奏です。すっきりしてスマートですが、繊細な感情の機微というのはほとんど感じられません。似た傾向としてはかってのカルロス・クライバーがいますが、カルロス・クライバーがスポーツカーだとすれば、クルレンツィスはクラシックな複葉機でしょうか。両者とも爽快感や無駄な贅肉をそぎ落とした感覚があり、演奏に感銘は覚えますが、感動には至りません。それがよいことか、悪いことか、聴くものの価値観に委ねられます。また、曲にも依るかもしれませんね。ベートーヴェンの交響曲第9番はフルトヴェングラーの演奏で圧倒的な感動を知ってしまいました。フルトヴェングラーとクルレンツィスを比較しても意味はありませんが、クルレンツィスもこの新しいアプローチで感動に至る道を模索してもらいたいと念じてしまいます。彼のその無限の才能を持ってすれば、きっと可能でしょう。
演奏が終わった後、フェルゼンライトシューレの会場は沸きに沸きましたが、saraiは妙に冷静になって、クラシック音楽のこれからの進む道について、考え込んでしまいました。saraiは古い人間です。決して、フルトヴェングラーから足を洗うことはありません。
一方、数時間前に聴いたウィリアム・クリスティが示した古楽の無限の可能性も知ってしまいました。クラシック音楽も道を模索しながら、新しい未来を切り拓いていくのだろうという予感は持ちました。saraiが生きている内にその道は示されるのでしょうか。

今日の演奏の具体的な内容にはほとんど触れませんでしたが、2点だけ、触れておきます。まず、クルレンツィスの指揮の姿が魅力的なことです。こういう指揮者はカルロス・クライバー以来です。彼の指揮を見ながら音楽を聴くと音楽の説得力が増します。2つ目はペルミ歌劇場ムジカエテルナ合唱団の素晴らしかったことです。人間の声はもともとオリジナル楽器ですから、どんなスタイルでもよいものはよいですね。彼らの合唱でもう少しで感動しそうになりました。

今日のプログラムは以下です。

 指揮:テオドール・クルレンツィス
 ソプラノ:ジャナイ・ブラッガー
 コントラルト:エリザベート・クールマン
 テノール:セバスティアン・コールヘップ
 バス:ミヒャエル・ナジ
 合唱:ペルミ歌劇場ムジカエテルナ合唱団
 管弦楽:ムジカエテルナ

 ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調Op.125


予習したCDは以下です。

 ジョス・ファン・インマゼール指揮アニマ・エテルナ
   Marie-Noëlle de Callataÿ, Myra Kroese, Glenn Siebert, Ulf Bästlein
   1999年5月、アントウェルペンでの録音




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       クルレンツィス,  

ザルツブルク音楽祭:抱腹絶倒の末の感動 バルトリの《アルジェのイタリア女》@モーツァルト劇場 2018.8.16

いやあ、オペラを見て、こんなに最後に興奮したことって、あったでしょうか。多分、今日、このオペラを見に来た人は皆、揃って、その興奮の渦の中にあり、そのままの気分でモーツァルト劇場を去っていったことでしょう。笑い声の絶えない終演後でした。オペラ本編も素晴らしかったし、カーテンコールの楽しかったことはまるでプライヴェートなパーティーの最高の楽しさ、そのものです。UNITELがオペラを撮影していたので、映像作品がそのうちに発売されるかもしれません。カーテンコールまできっちりと撮影していましたから、発売になったら、是非、もう一度、見たいものです。そういえば、昨日の素晴らしかった《ポッペアの戴冠》もUNITELが撮影していました。素晴らしい映像作品が出そうです。

このオペラ、想像はしていましたが、チェチーリア・バルトリのアジリタが炸裂しまくって、まさに超絶的な素晴らしさ。彼女がロッシーニのタイトルロールを歌うと別次元のようなオペラが出来上がります。時折、寄る年波(容貌・・・)を感じなくもありませんが、キュートな魅力は健在です。アブドラザコフがふざけて、バルトリの歌唱中に口に無理やり、食べ物を突っ込んでも、動じることなく、食べ物を咀嚼しながら、変わらぬ美声を披露していたのには驚愕しました。ともかく、体内にロッシーニ節が完全定着しており、自然に素晴らしい歌が繰り出されてきます。稀代のロッシーニ歌手で、誰も追随できませんね。すべてのアリア、レシタティーボが極上でした。
次いで、ムスタファ役のイルダール・アブドラザコフが歌も演技もとてもロシア人とは思えぬ最上級のロッシーニを披露してくれました。リンドーロ役のエドガルド・ロチャは初めて聴くテノールですが、声がよく伸びて、今後が大いに期待できますね。エルヴィーラ役のレベッカ・オルヴェラはスープレット的な声質ですが、綺麗な声のソプラノでしっかりと脇を固めていました。タッデオ役のアレッサンドロ・コルベッリはイタリアものでは欠かせないバリトンで、今回も大いに期待しましたが、その実力を全開放とはいきませんでした。もっと歌ってくれると期待していたんですけどね。もちろん、そこらの歌手には真似のできない演技と歌ではあったんです。
このレベルの高い歌手たちが披露してくれた重唱の場面のハチャメチャぶりはまさに抱腹絶倒で、ロッシーニのオペラの醍醐味を存分に楽しませてくれました。
そして、クライマックスはムスタファがパッパターチになりきっているところで、イザベッラが恋人のリンドーロと船でアルジェを脱出する場面。舞台の上に大きな船がせり出してきて、その舳先にはイザベッラとリンドーロ。歌唱が頂点に達したところで、それまで抱腹絶倒のオペラに興じていたsaraiが大きな感動に襲われました。バルトリを先頭にした歌手陣の渾身の歌唱に参ってしまいました。映画《タイタニック》を模したような船首の二人の恋人というのも、ありきたりながら、素晴らしい演出効果になっています。感動のうちに幕です。

そして、素晴らしいカーテンコールが始まります。頂点は舞台上の指揮者スピノジがオーケストラを振って、アンコールの重唱を聴かせてくれた、お決まりのサービスです。これは盛り上がりました。舞台上で繰り広げられるバルトリと仲間たちの饗宴はいつまでも続きました。ヴィヴァ!チェチーリア!


今日のプログラムは以下です。

ロッシーニ:歌劇《アルジェのイタリア女》

イザベッラ:チェチーリア・バルトリ
ムスタファ:イルダール・アブドラザコフ
リンドーロ:エドガルド・ロチャ
エルヴィーラ: レベッカ・オルヴェラ
タッデオ: アレッサンドロ・コルベッリ
ズルマ: ローザ・ボーヴェ
ハリー: ホセ・コカ・ロサ

演出:モーシュ・ライザー、パトリス・コーリエ              
合唱:ウィーン・フィルハーモニア合唱団
管弦楽:アンサンブル・マテウス
指揮:ジャン=クリストフ・スピノジ


予習したDVDは以下です。これも楽しい内容でしたが、やはり、今日のバルトリにはとても及びません。

イザベッラ:ドリス・ゾッフェル
ムスタファ:ギュンター・フォン・カネン
リンドーロ:ロバート・ギャンビル
エルヴィーラ: ヌッチア・フォチーレ
タッデオ: エンリク・セッラ
ズルマ: スーザン・マクリーン
ハリー: ルードルフ・A・ハルトマン

演出:ミヒャエル・ハンペ              
合唱:ソフィア・ブルガリア男声合唱団
管弦楽:シュトゥットガルト放送交響楽団
指揮:ラルフ・ヴァイケルト

1987年5月16日、ドイツ、シュヴェツィンゲン音楽祭


昨日の《ポッペアの戴冠》に引き続き、ザルツブルク音楽祭のモーツァルト劇場は超ど級のオペラが連続しました。今年のザルツブルク音楽祭は魔笛とサロメが評判だそうですが、一体、この《ポッペアの戴冠》と《アルジェのイタリア女》以上の出来のオペラって、存在するのって、思ってしまいます。結局、《サロメ》はチケットが取れずに見られなかったので、負け惜しみ半分ですが、本気半分でこのオペラ2作は最上の出来でした。



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ザルツブルク音楽祭:偉大なバッハ、偉大なシフ、平均律クラヴィーア曲集第2巻@ザルツブルク・モーツァルテウム大ホール 2018.8.16

アンドラーシュ・シフが弾いたバッハの長大な平均律クラヴィーア曲集第2巻は実に偉大な演奏でした。これ以上、言葉で表現できるものではありません。さすがのシフもロ短調のフーガを弾き終えたところで、長い溜息をつくほど、体力と知力を捧げ尽くした演奏でした。それは聴く側のsaraiとて同様です。2時間以上も緊張感を持続するのは大変でした。一音も聴き逃さないと意気込んでいましたが、無論、そんなことは無理な相談ですが、7割、8割はちゃんと聴けたと自負しています。24番目のプレリュードとフーガを聴き終えて、バッハの偉大さ、アンドラーシュ・シフの偉大さが強く感じられました。

シフは長調、すなわち、奇数番目のプレリュードを弾く前に、口元に軽い微笑みを浮かべます。そして、なんとも柔らかくて、力みのない音楽を奏でます。一方、単調、すなわち、偶数番目のプレリュードを弾く前には緊張感の漂う表情で、哀調のある旋律、あるいは、力強い音楽を奏でます。この繰り返しで、すべての調の長調と短調の作品を淡々と奏でていきます。以前よりもタッチは力強く、響きはレガートの美しさよりもクリアーなタッチの美しさに変わってきたように感じます。シフは日々、前進しているようです。

saraiはまだ、この長大な作品全体を把握するところには至っていません。今は短調の曲、とりわけ、プレリュードの美しさに耽溺しています。今日も第4番、第8番、第12番、第14番、第18番、第22番のプレリュード、そして、フーガに魅了されました。長調には美しさよりも愉悦感を感じる曲が多いです。そして、この長大な曲集の頂点は前述した第22番のロ短調のフーガにあります。まだ理解は足りませんが、今日の演奏でその偉大さの片鱗は感じることができました。第23番以降はカタルシスのような感じで聴けます。最後の第24番は短いプレリュードとフーガですが、全曲をしめくくるのに十分な音楽的内容を込めて、シフは圧巻の演奏を聴かせてくれました。

個々の曲にも触れたいところですが、最初に書いたように、偉大な音楽、偉大な演奏とするのが今日のシフの演奏を語るのに最上の言葉であると思います。全48曲を聴き終えたときの感覚が大事だと感じています。

素晴らしいシフのバッハを堪能させてもらいました。

今日のプログラムは以下です。

 ピアノ:アンドラーシュ・シフ

 バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻
   12番目のプレリュードとフーガの後で休憩を挟みました。さすがのシフも一気に全曲を弾き通しませんでした。驚きです。


予習したCDは以下です。全然、予習が不足していて、恥ずかしい限りです。アンジェラ・ヒューイットさえ聴けませんでした。

 アンドラーシュ・シフ、2011年、セッション録音、スイス、ルガーノ
 スヴャトスラフ・リヒテル、1973年、ライヴ録音、インスブルック
 フリードリヒ・グルダ、1972年、セッション録音

シフも旧盤は聴けず、新盤のみですが、素晴らしい演奏です。素晴らしいと言えば、グルダは第1巻に引き続き、第2巻も見事な演奏です。グルダがバッハの全作品を録音に残さなかったのはとても残念です。リヒテルもセッション録音のほうは聴けず、ライヴ録音のみを聴きました。録音がクリアーさを欠いているのが残念ですが、これまた見事な演奏です。チェンバロの演奏はまったく聴けませんでした。平均律クラヴィーア曲集は今後、腰を据えて、名演奏の数々を聴いていきましょう。sarai、一生の課題です。

ところで、アンドラーシュ・シフは昨年もザルツブルク音楽祭で3回のリサイタルを聴きましたが、その折、ウィーンから来た老婦人と会話を交わしました。彼女はシフ夫人の塩川悠子さんとも親しそうにしていた、シフの第1のファンのようです。今年もやはり、元気な姿で最前列に陣取っていました。同じ最前列ですが、今年はsaraiとは少し席が離れていて、残念でした。早速、ご挨拶して、日本のお土産をお渡しするととても喜んでくれました。もちろん、シフ夫人の塩川悠子さんもいらしていました。毎年、同じようなメンバーが集うのですね。もう、saraiは来年は行けないでしょう。一抹の寂しさがあります。



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       シフ,  

魅惑のバティアシヴィリ バレンボイム&ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団@ザルツブルク祝祭大劇場 2018.8.17

初めて、リサ・バティアシヴィリのヴァイオリンを生で聴けました。その上、サインまでもらい、短い会話も交わしました。saraiは娘よりも若いヴァイオリニストに魅了されて、舞い上がってしまいました。今日も素晴らしいザルツブルク音楽祭の1日になりました。

元々は今日はクルレンツィスのベートーヴェン・チクルスを聴く筈でしたが、チケットが取れず、そして、取れそうにもなく、代わりに楽劇《サロメ》を聴こうとしましたが、そのチケットも取れず、結局、何にも聴けない1日になる筈でした。ところが、ミュンヘンからザルツブルクに向かうオーストリア国鉄のレールジェットで、オーストリア国鉄が無料で提供してくれるWIFI接続のインターネットでその日のチケットをチェックすると、バレンボイム&ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団のコンサートのチケットが少量出ているのに気づきます。そして、そのコンサートには過日より、聴きたいと思っていた美貌のヴァイオリニスト、リサ・バティアシヴィリが登場するんです。急遽、配偶者と相談して、エイヤッとチケットを購入しました。チケットはザルツブルク到着後、音楽祭のBoxオフィスで首尾よくゲット。

で、リサ・バティアシヴィリの弾くチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を楽しみに祝祭大劇場に出かけました。開演前にふと、会場内のショップを覗くと、何とリサ・バティアシヴィリが休憩時間にサイン会を開くという小さな紙があります。スタッフの女の子にどこでサイン会をやるのかと尋ねると、ここよって答えます。じゃあ、CDを購入して、サイン会に参加しましょう。

リサ・バティアシヴィリの弾くチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は期待通り、実にセクシーな演奏で魅惑的でした。すっかり、満足です。アンコール曲が終了するとともに、一目散にCDショップにダッシュ。一番乗りです。というか、誰もサイン会に並びません。ドーシテ?? 実は海外ではあまり、日本のようにサイン会の風習がないんです。しばらくすると、何人か、サイン会に集まってきます。それでも総勢20人はいませんね。しばらくすると、リサ・バティアシヴィリがマネージャーと一緒に現れます。舞台で来ていたお洒落な黒いドレス姿です。saraiの真ん前にリサの美しい顔があります。CDを差し出しながら、今日の演奏は素晴らしかったねと言うと、ありがとうと応えてくれます。その笑顔のチャーミングなこと。サインを書き終えてくれたので、今度は日本に来てねってお願いすると、十分な時間があればねっていう、お応えです。待ってるからねと言葉を残しながら、その場を離れました。これがサイン会でsaraiとお話しているところ。配偶者は横で携帯で写真を撮ってくれました。

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演奏会にも軽く触れておきましょう。バレンボイムを聴くのは久しぶりですが、あまり、お変わりがないようです。ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団はユダヤ人の彼が創設した、イスラエルとアラブの若い奏者で組織したオーケストラです。バレンボイムの中東平和に向けた活動なのでしょう。冒頭のチャイコフスキーの歌劇「エフゲニー・オネーギン」からのポロネーズは派手に歌い上げる演奏で、なかなか見事でした。
次いで、リサ・バティアシヴィリの弾いた魅惑のチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。バレンボイム&ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団はリサのヴァイオリンを十分に盛り立てていました。彼は数日前にもBBCのPROMSで演奏してきたようですね。

休憩後はドビュッシーの交響詩《海》です。これはsaraiの苦手の曲なので、コメントできません。まあ、盛り上がる部分での音響は美しかったとだけ言っておきましょう。
最後はスクリャビーンの「法悦の詩」です。トランペットの派手な演奏を軸に何度も押し寄せるエクスタシーの波を強烈に演奏していました。なかなかよかったのではないでしょうか。saraiはこの曲はあまり聴き込んでいないので、確かなことは言えません。

今日のプログラムは以下です。

 指揮:ダニエル・バレンボイム
 ヴァイオリン:リサ・バティアシヴィリ
 管弦楽:ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団

 チャイコフスキー:歌劇「エフゲニー・オネーギン」Op.24 第3幕より、ポロネーズ
 チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35
  《アンコール》コンサートマスターとのデュオ(曲名不詳)

  《休憩》

 ドビュッシー:海 - 管弦楽のための3つの交響的素描 La Mer, trois esquisses symphoniques pour orchestre
 スクリャビーン:交響曲第4番 Op.54 「法悦の詩」Le Poème de l'extase

  《アンコール》
    エルガー:エニグマ変奏曲Op.36より、第9変奏 "Nimrod" (ニムロッド) 変ホ長調 アダージョ


今日はリサの魅力に尽きました。とても満足です。日本に帰って、サイン入りCDをたっぷり聴きましょう。最高のお土産ができました。



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       バティアシヴィリ,  

圧巻のブルックナー ブロムシュテット&ウィーン・フィル@ザルツブルク祝祭大劇場 2018.8.18

saraiのザルツブルク音楽祭は今日が最終日。まずは朝11時からのウィーン・フィルの演奏会を聴きます。指揮は高齢の巨匠ヘルベルト・ブロムシュテットです。いまだにかくしゃくとした姿で現れます。その歩く姿を見て、配偶者はsaraiよりも歩き方がしっかりしているとのたまいます。年齢差は20歳強です。saraiは20年後にはあんなにしっかりと歩けないのは確かですね。ブロムシュテットは今や、指揮者の中で最高齢でしょうか。

前半はシベリウスの交響曲第4番です。交響曲というよりも交響詩と言った響きです。ウィーン・フィルの美しい響き、ブロムシュテットのつぼを抑えた指揮で色彩豊かな音楽が流れますが、深夜までのブログ書きがたたって、すぐ、睡魔に襲われます。まあ、北欧の自然に抱かれた桃源郷と思えば、こんな贅沢なことはありません。音楽はチェロを中心とした低弦の力強い響きがずっと底流にあります。いつもは高弦の美しさに魅了されるウィーン・フィルもこの曲ではロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のお株を奪うような素晴らしい低弦の魅力を発揮します。第2楽章ではヤナーチェクを想起させるような響きが聴けたのはウィーン・フィルだから? ずっと、多彩な響きが夢の中を通り過ぎて、シベリウスの音楽が終了。いつもは本場ものばかり聴いていますが、フィンランド以外の演奏者でもそんなに違和感はありませんでした。

後半はブロムシュテットの十八番のブルックナー。ウィーン・フィルにとっても十八番ですね。そして、ブルックナーの交響曲の中でももっとも分かりやすいと言われる第4番。そんなに長過ぎない作品でもあります。ここでも断続的に睡魔が襲いますが、ポイントはしっかり聴いていました。ブルックナーらしい金管の炸裂と弦の美しいアンサンブルの響きが交錯しながら、音楽は進行していきます。
第2楽章のアンダンテ(・クワジ・アレグレット)がとても美しい演奏で心に沁みます。あまりに美しいのでうっとりしているといつの間にか意識を失っています。これだから、音楽は油断なりません(何のこっちゃ!)。第2楽章が今日の白眉でした。勇壮な第3楽章。長大で〆にふさわしい高邁な第4楽章と素晴らしい音楽に魅了されました。巨匠ブロムシュテットの自然な音楽の構成、しかもとても高齢とは思えない力強さに満ちた音楽はこれぞブルックナーと呼ぶにふさわしい最上級の音楽でした。また、ホーネックとダナイローヴァのダブルコンマスのウィーン・フィルは柔らかく美しい弦楽アンサンブルに加えて、強力な金管セクションが好調で見事なブルックナーの響きを奏でました。素晴らしいブルックナーでした。

今日のプログラムは以下です。

 指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
 管弦楽:ウィーン・フィル

 シベリウス: 交響曲第4番イ短調 Op.63

  《休憩》

 ブルックナー: 交響曲第4番 変ホ長調 WAB 104「ロマンティック」(ノヴァーク版第2稿)


最後に予習したCDをご紹介しておきましょう。

まず、シベリウスの交響曲第4番ですが、以下のCDを聴きました。

 マゼール指揮ウィーン・フィル 1963-64年録音

シベリウスだけは本場ものを中心に聴いています。ベルグルンド、ヴァンスカ、カム、サラステと言う指揮者たちとフィンランドのオーケストラです。中でも一番のお気に入りはベルグランドの最後(3回目)の録音であるヨーロッパ室内管弦楽団との共演の交響曲全集です。今回はウィーン・フィルの演奏に合わせて、いつもは聴かないマゼール指揮ウィーン・フィルの全集の中の1枚を聴きました。これはこれでよい演奏ですね。


次にブルックナーの交響曲第4番ですが、これは今更予習でもありませんが、ブロムシュテットに敬意を表して、以下のCDを聴きました。

 ブロムシュテット指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 2010年10月録音 ライヴ

ブロムシュテットはその前にシュターツカペレ・ドレスデンとの録音もありますが、最新盤のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団を聴きました。音質も素晴らしく、奇をてらわないブルックナーです。


さて、ザルツブルク音楽祭は最後の《スペードの女王》だけになりました。夜8時からの公演ですから、これから、午睡をとって、万全の体調で臨みます。



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ザルツブルク音楽祭:チャイコフスキー/歌劇《スペードの女王》ヤンソンス指揮ウィーン・フィル ノイエンフェルス演出@ザルツブルク祝祭大劇場 2018.8.18

今年のザルツブルク遠征の最後を飾るのはヤンソンス指揮ウィーン・フィルが祝祭大劇場で演奏するチャイコフスキーの歌劇《スペードの女王》です。毎年、マリス・ヤンソンスはウィーン・フィルを振って、ロシアもののオペラをやっています。昨年はショスタコーヴィチのオペラ《ムチェンスク郡のマクベス夫人》を見ました。大変、高いレベルの公演でした。今回もさすが、さすがと唸らされる素晴らしい内容でした。

ということで、この歌劇《スペードの女王》の主役はヤンソンス指揮ウィーン・フィルであることは間違いありません。ウィーン・フィルは今朝のブロムシュテットの布陣がそのまま移行した形で、ホーネックとダナイローヴァのダブルコンマス。ほかの顔ぶれもほとんど同じようです。1日2回、しかもオペラは3時間ほどの長丁場。本当に頭が下がります。このオペラはいつぞや、小澤征爾が言った通り、声楽付きの7楽章の交響曲みたいなもので、終始、オーケストラの響きが祝祭大劇場にこだましていました。チャイコフスキーの甘美な旋律が随所に散りばめられていて、それをウィーン・フィルが美しく奏でるのですから、素晴らしくないわけがありません。それに以前よりもすっかり体調がよくなったヤンソンスが丁寧に指揮をしていて、アンサンブルのよさが倍増です。

歌手では主役の士官ゲルマンを歌ったブランドン・ヨハノヴィッチが頭抜けた歌唱を聴かせてくれました。彼は昨年のオペラ《ムチェンスク郡のマクベス夫人》の間男のセルゲイを歌って、なかなかの好演でした。今日は青年の一途な愛、そして、底なしの欲望にはまっていく青年の悲劇を熱唱してくれました。圧倒的な歌唱です。全7場、出ずっぱりの歌唱を見事にこなしました。ある意味、彼の一人舞台でした。今日のオペラが成功したのは、第1にヤンソンス指揮ウィーン・フィルの素晴らしい演奏ですが、第2には、大音量のオーケストラに負けじと熱唱したブランドン・ヨハノヴィッチの力が大きかったと讃えたいと思います。一方、ちょっと残念だったのはリーザ役のエウゲニア・ムラヴェヴァ。酷な言い方をすれば、実力不足。声の響きも力もまだまだ磨き足りません。頭が下がったのは伯爵夫人役のハンナ・シュヴァルツ。高齢にもかかわらず、相変わらずの歌唱力です。一昨年聴いた新国立のオペラ《イェヌーファ》以来になりますが、ますます、健在。こういう役にはうってつけですね。あと目立ったのはエレツキー侯爵役のイゴール・ゴロヴァテンコです。第2幕のアリア「貴女を愛しています」の切々とした歌唱は胸を打ちました。

演出は音楽にぴったりと寄り添った感じで好感が持てました。2001年のザルツブルク音楽祭で前衛的で攻撃的なオペレッタ《こうもり》を演出したハンス・ノイエンフェルスにしては、至極、まっとう?な演出でした。

今日のプログラムは以下です。

チャイコフスキー:歌劇《スペードの女王》

士官ゲルマン:ブランドン・ヨハノヴィッチ
リーザ:エウゲニア・ムラヴェヴァ
伯爵夫人:ハンナ・シュヴァルツ
トムスキー伯爵:ヴラディスラフ・スリムスキー
ポリーナ/ダフニス:オクサナ・ヴォルコヴァ
エレツキー侯爵:イゴール・ゴロヴァテンコ

演出:ハンス・ノイエンフェルス              
合唱:ザルツブルク音楽祭&劇場児童合唱団
   ウィーン国立歌劇場合唱団
管弦楽:ウィーン・フィル
指揮:マリス・ヤンソンス


予習した録画は以下です。以前、NHKで放映されたものです。凄いキャストですね。ゲルマンを歌ったウラディーミル・アトラントフも迫真の歌唱でしたが、何と言って、リーザ役を得意にしたミレルラ・フレーニの名唱が素晴らしいです。指揮は小澤です。まだ、ウィーン国立歌劇場の音楽監督になる前のことです。実はこの公演の直前にsaraiはウィーンを訪れていました。このオペラのリハーサルをやっているのも知っていました。ウィーンに来ていたミレルラ・フレーニの歌う《ラ・ボエーム》のミミも聴きました。フレーニは《ラ・ボエーム》の公演をこなしながら、《スペードの女王》のリハーサルをしていたんですね。もう少し日程が合えば、この《スペードの女王》も聴けたのにと臍を噛んでしまいました。

士官ゲルマン:ウラディーミル・アトラントフ
リーザ:ミレルラ・フレーニ
伯爵夫人:マルタ・メードル
トムスキー伯爵:セルゲイ・レイフェルクス
ポリーナ:ヴェッセリーナ・カサロヴァ
エレツキー侯爵:ウラディーミル・チェルノフ 

演出:クルト・ホレス              
合唱:ウィーン国立歌劇場合唱団
管弦楽:ウィーン国立歌劇場管弦楽団
指揮:小澤 征爾

1992年5月16日、オーストリア・ウィーン国立歌劇場で録画 


これですべて、saraiのザルツブルク音楽祭の日程は終了。4日間でオペラ3つ、オーケストラ演奏会4つ、 ピアノ・リサイタル1つ、計8公演を聴きました。オペラの水準の高さが驚異的でした。ウィーン・フィルを振った3巨匠、ムーティ、ブロムシュテット、ヤンソンスの存在感も際立っていました。さすがのザルツブルク音楽祭の音楽水準の高さに今更ながら、大変な感銘を受けました。十分に満足しました。saraiのザルツブルク音楽祭通いは3年続きました、ここらで卒業しましょう。何と言っても経済負担に耐え切れません。

さて、次は北ドイツ観光で時間調整して、いよいよ、初のバイロイト詣でです。世界のワグネリアンとたった2日間のワーグナー三昧です。《トリスタンとイゾルデ》と《パルジファル》の2大傑作ですから、これ以上のものはありません。《トリスタンとイゾルデ》はティーレマンの指揮だしね。



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

通りすがりさん

コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

05/13 23:47 sarai
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