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バイロイト音楽祭:ティーレマンの極上の音楽に感動!楽劇《トリスタンとイゾルデ》@バイロイト祝祭劇場 2018.8.24

バイロイトで聴くティーレマンは別世界の素晴らしさ。無理して来てよかった! saraiのヨーロッパの音楽の旅はこれで終わっても悔いが残りません。第3幕のイゾルデの愛の死では、特別の感動に襲われて、涙が滲みました。何度も何度も頂点に上り詰めて、最後は長い長い弱音が続きます。終わるか終わらないうちに拍手する人に感銘を邪魔されます。日本なら、きっと長い静寂が続くでしょう。今や日本の音楽ファン、ワグネリアンが世界最高の座に上ったかもしれないと思ってしまいます。でも、ここはバイロイト。ワグナーの聖地です。聴衆はともかく、特別の音響と特別の雰囲気があります。ティーレマンのワグナーはやはり、ここでこそ聴くものだと感じました。

第1幕はホールの照明が落とされて、暗闇の中から、あのトリスタン和音が低い響きで現れます。その音たるや、柔らかで絹のような滑らかさの極上の響きです。前奏曲は目を閉じて、うっとりと聴き入ります。ロマンチシズムの極みです。トリスタンとイゾルデが船でマルケ王のもとにむかう場面が続き、第1幕終盤のトリスタンとイゾルデが恋に落ちるシーンの素晴らしさにはジーンときてしまいます。ティーレマンの安定した丁寧な指揮が光ります。ティーレマンは少し変わったように思います。熟成したとでも表現しましょうか。無理のない音楽、深みのある音楽に変わってきているような気がします。まさに巨匠の道を極めつつあると感じました。歌手陣はすべて好調です。噂に聞いた通り、歌手の声はオーケストラの響きを突き抜けて、ちゃんと聴こえてきます。その声をオーケストラの響きが包み込みます。これがワグナーが目指した音響だったんですね。

第2幕の冒頭、男性が舞台に現れて、何か説明をします。こういう場合、歌手の突然の交代か、歌手が不調だけれども頑張って歌うのでよろしくというケースがほとんどです。ドイツ語を解しないsaraiには状況がつかめません。ただ、重要なキャストで登場していないのはマルケ王役のルネ・パーペだけなので、彼が何らかのトラブルを抱えているのかなと想像します。ともあれ、第2幕が始まります。ティーレマン指揮の前奏曲の素晴らしい響きに聴き入ります。中盤からはトリスタンとイゾルデの夢のような至上の愛の歌に恍惚とします。ティーレマン指揮のオーケストラもトリスタン役のステファン・グールドもイゾルデ役のペトラ・ラングも最高です。愛の死のテーマの後の音楽は表現できないほどの素晴らしさです。それが永遠を思わせるほど続きます。永遠の愛はいつまでも続いてほしいと心の底から願望します。メロートやマルケ王の乱入でその愛のシーンが突然、打ち破られるのはこの《トリスタンとイゾルデ》を聴くといつも残念な点ですが、音楽を永遠に演奏するわけにはいかないので仕方がありません。幕の最後でトリスタンが無明の世界について来れますかとイゾルデに訊くと、イゾルデがどこまでもあなたについていきますと答えるシーンにはジーンときます。不倫なのに夫の前で堂々と表明するのはモラル的には問題ですが、これこそ至上の愛ですね。ワグナーは不倫の末、妻にしたコジマのことを念頭においたのでしょうか。第2幕は最高の愛の音楽です。

第3幕が始まります。前奏曲の素晴らしさに金縛りになりそうです。さきほども書いたとおり、ティーレマンははっきりと変わりました。こんなに味わい深い音楽を表現するようになったんですね。これほどの音楽は誰も到達しえなかった境地に思えます。フルトヴェングラーの名演に肩を並べるところにきたと断言したいと思います。第3幕はまさにティーレマンの一人舞台。素晴らしい音楽が最後まで続きます。saraiの集中力もぐっと高まり、一音も聴い漏らさないように音楽にのめりこみます。一つだけ残念だったのは、トリスタン役のステファン・グールドが口パクで演技のみ。歌唱は代役の誰かが舞台袖で歌っています。これが第2幕冒頭の男性の説明したことだったようです。第2幕はステファン・グールドが歌っていたような気がしますが定かではありません。歌唱自体は悪くはなかったのですが、ステファン・グールド自身が歌えば、さらなる素晴らしさだったかもしれません。そして、冒頭に書いた通り、終幕の愛の死の極上の音楽が始まります。ペトラ・ラングもここまでくると、相当に疲れていたに相違ありませんが、最後の喉を使って歌い切ります。それを支え、天上の音楽を展開したのはティーレマンとバイロイト祝祭管弦楽団です。これを聴いて、感動しない人は音楽を聴く資格のない人でしょう。saraiはそれほどの感動を味わいました。やはり、ワグナーは作品を聴いて対峙すべきというsaraiに信念に間違いはありませんでした。

最高の《トリスタンとイゾルデ》を聴きました。中学生でこの楽劇の題名を知って以来、バイロイトでこの感動を味わうまで50年以上の月日が過ぎました。人生の目的を果たしたと言っては大袈裟でしょうか。もう死んでも悔いはありません。

今日のプログラム、キャストは以下のとおりです。

ワグナー:楽劇《トリスタンとイゾルデ》

イゾルデ: ペトラ・ラング
トリスタン: ステファン・グールド(第3幕は声は代役)
マルケ王: ルネ・パーペ
ブランゲーネ: クリスタ・マイヤー
クルヴェナル: イアン・パターソン
メロート: ライムント・ノルテ
牧人/船乗りの声: タンゼル・アクゼイベク、
舵手: カイ・スティーファーマン

演出:カタリーナ・ワグナー               
合唱:バイロイト祝祭合唱団
管弦楽:バイロイト祝祭管弦楽団
指揮:クリスティアン・ティーレマン


予習は映像とCDでしました。
映像は今日の内容とほぼ同じです。以前、NHKのハイヴィジョンで録画したものです。3年前のバイロイト音楽祭の公演です。イゾルデとマルケ王のキャストだけが異なっています。このときよりもティーレマンは進化しています。

トリスタン(マルケ王のおい): スティーヴン・グールド
イゾルデ(アイルランドの王女): エヴェリン・ヘルリツィウス
国王マルケ: ゲオルク・ツェッペンフェルト
クルヴェナール(トリスタンの従者): イアン・パターソン
メロート(マルケ王の臣): ライムント・ノルテ
ブランゲーネ(イゾルデの侍女): クリスタ・マイア
牧童/若い水夫: タンセル・アクゼイベク
かじとり: カイ・シュティーファーマン

演出:カタリーナ・ワグナー               
合唱:バイロイト祝祭合唱団
管弦楽:バイロイト祝祭管弦楽団
指揮:クリスティアン・ティーレマン

2015年8月7日、バイロイト祝祭劇場で録画 


CDは決定盤の誉れ高い、フルトヴェングラーの演奏を聴きました。フルトヴェングラーのロマンの極みのような演奏とフラグスタートのイゾルデが素晴らしいです。若き日のディートリヒ・フィッシャー=ディースカウがクルヴェナールを歌っているのも印象深いです。

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管、コヴェントガーデン王立歌劇場合唱団
キルステン・フラグスタート,ルートヴィヒ・ズートハウス、ディートリヒ・フィッシャー・ディースカウ,ヨゼフ・グラインドル
1952年6月録音


ところで、音楽自体からは関係ありませんが、バイロイト音楽祭に付属しているシュタイゲンベルガーのレストランで幕間のディナーを楽しみました。第1幕後と第2幕後のそれぞれ1時間の休憩でアントレからメイン、デザートのコース料理です。音楽だけでなく、舌も楽しめるバイロイト音楽祭です。もっとも贅沢は今日だけ。明日は食べません。破産します。

明日はまたまた、大作、《パルジファル》を聴きます。バイロイト音楽祭の醍醐味がさらに味わえるでしょうか。


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       ティーレマン,  

バイロイト音楽祭:清澄な響きに感動!舞台神聖祝典劇《パルジファル》@バイロイト祝祭劇場 2018.8.25

聖地バイロイトでしか聴きえぬ音楽に出会えました。今回のヨーロッパ遠征のしめにふさわしい最高の音楽でした。ビシュコフもなかなかやるねって感じです。昨夜のティーレマンは凄かったですが、今日のビシュコフもそれに劣らない出来映えです。それにしても、このワグナーが造り出した空間の独特の響きは他に比肩できるものはありません。とりわけ、このバイロイト祝祭劇場のために作曲した《パルジファル》はここでしかありえないという究極の美しい響きです。《パルジファル》は今日を限りに聴き納めにするしかないでしょう。それを残念に感じないほど、素晴らしい響きを頭にしっかりと刻み付けました。

のっけから、素晴らしい響きの前奏曲がホールにしみ渡ります。何という響きでしょう。これまでの人生で聴いたことのない響きです。その清澄さに強い感銘を覚えます。厳粛とも思えますが、ちょっと表現が難しい音楽です。心が清々しく清められるような感じです。なるほど、舞台神聖祝典劇とは言い得て妙ですね。これで納得がいきました。オーケストラの響きばかりに心が傾きます。歌手ではグルネマンツ役のギュンター・グロイスベックがそのオーケストラの響きに乗って、素晴らしい歌声を聴かせてくれます。

今日も素晴らしかったのは最後の第3幕です。終始、ビシュコフが指揮するオーケストラが清澄な響きで感動させてくれます。ここでもそのオーケストラと響きをシンクロさせたのはグルネマンツ役のギュンター・グロイスベックです。客席からは見えないオーケストラピットの右側から響いてくるヴァイオリンの美しい音色を聴いていると、右側から聴こえてくることに違和感を感じなくなくなります。最後はオーケストラ合奏で静かに幕を閉じます。静かな感動に襲われます。何故かオーケストラの音が消え去っても、拍手がしばらくは起きず、素晴らしい静寂がホールを支配します。saraiには嬉しい驚きです。しばらくして強い拍手が鳴り始めますが、saraiはじっと感動をかみしめます。ふと気が付くと、隣の男性がsaraiの顔をじっと見つめていました。感動している顔を見られて、少しばつが悪くなり、拍手を始めます。カーテンコールが終わった後に彼が素晴らしかったねと訊いてきました。もちろん、素晴らしかったよと答えて、笑みを交わしました。国籍を超えて、ワグナーの音楽で心が通じ合った思いです。

オーケストラと同様に素晴らしかったのはバイロイト祝祭合唱団です。とりわけ、男声合唱はぞくぞくするほどの素晴らしさでした。膨大な人数の合唱団でした。

昨夜と今日、初めて、バイロイト音楽祭を聴きましたが、これで聴き納めにします。これ以上、何を聴く必要があるでしょう。いずれ、指輪も聴こうと思っていましたが、究極の《トリスタンとイゾルデ》と《パルジファル》を聴いた以上、無用のことです。ヨーロッパの音楽の旅も今日で頂点を迎えました。もう、これで音楽の旅が終わっても悔いはありません。
と言いながら、いつもまた何かを探してしまうのがsaraiなんですけどね。

ところで言い忘れましたが、演出はとても評価できるものではありません。凡庸と言えば、凡庸。しかし、お陰で音楽に集中できました。パルジファル役のアンドレアス・シャーガーとクンドリー役のエレーナ・パンクラトヴァももうひとつでした。しかし、お陰でオーケストラの演奏に集中できました。ワグナーは素晴らしいオーケストラの音楽を書いたということが再確認できました。

今日のプログラム、キャストは以下のとおりです。

ワグナー:舞台神聖祝典劇《パルジファル》

パルジファル: アンドレアス・シャーガー
クンドリー: エレーナ・パンクラトヴァ
グルネマンツ: ギュンター・グロイスベック
アンフォルタス: トーマス・J・マイヤー
クリングゾル: デレク・ウェルトン
ティートレル: トビアス・ケーラー
聖杯守護の騎士2人: タンゼル・アクゼイベック、 ティモ・リーホネン
4人の従者: アレクサンドラ・シュタイナー、マライケ・モール、パウル・カウフマン、ステファン・ハイバッハ
クリングゾルの6人の妖女達: チ・ヨーン、カテリーナ・ペルジケ、マライケ・モール、アレクサンドラ・シュタイナー、ベーレ・ クムベルガー、 ソフィー・レンネルト

演出:ウヴェ・エリック・ラウフェンベルク              
合唱:バイロイト祝祭合唱団
管弦楽:バイロイト祝祭管弦楽団
指揮:セミヨン・ビシュコフ


予習は映像とCDでしました。
映像は以前、NHKのハイヴィジョンで録画したものです。6年前と2年前のバイロイト音楽祭の公演です。

以下は6年前のものです。一回前の演出です。演出はこのほうがよかったですね。ジョルダンの指揮も素晴らしいです。

アンフォルタス:デトレフ・ロート
ティトゥレル:ディオゲネス・ランデス
グルネマンツ:ヨン・クワンチュル
パルジファル:ブルクハルト・フリッツ
クリングゾル:トーマス・イェザトコ
クンドリ:スーザン・マクリーン

演出:シュテファン・ヘアハイム              
合唱:バイロイト祝祭合唱団
管弦楽:バイロイト祝祭管弦楽団
指揮:フィリップ・ジョルダン

2012年8月11日、バイロイト祝祭劇場で録画 


以下は2年前のものです。今日とほぼ同じ内容です。フォークトのパルジファルはさすがです。ツェッペンフェルトのグルネマンツは今日のグロイスベックと同様に素晴らしいです。指揮は今日のビシュコフに軍配を上げたほうがよさそうです。

パルジファル:クラウス・フロリアン・フォークト
グルネマンツ(老騎士): ゲオルク・ツェッペンフェルト
アンフォルタス(王):ライアン・マッキニー
クリングゾル(魔法使い):ゲルト・グロホウスキ
クンドリ(呪われし女):エレーナ・パンクラートヴァ

演出:ウヴェ・エリック・ラウフェンベルク              
合唱:バイロイト祝祭合唱団
管弦楽:バイロイト祝祭管弦楽団
指揮:ハルトムート・ヘンヒェン

2016年7月25日、バイロイト祝祭劇場で録画 


CDは決定盤の誉れ高い、クナッパーツブッシュの1962年のバイロイト音楽祭のライブ録音を聴きました。もちろん、文句のつけようのない名演です。1952年と1954年も聴こうと思っていましたが、時間切れで聴けなくて残念。クナッパーツブッシュのバイロイト音楽祭のライブ録音はほとんど持っているので、これを聴くのがこれからの人生の楽しみです。

ハンス・クナッパーツブッシュ指揮バイロイト祝祭管弦楽団
ジェス・トーマス、ハンス・ホッター、アイリーン・ダリス、ジョージ・ロンドン、マルティ・タルヴェラ
1962年、バイロイト音楽祭ライヴ


今回のヨーロッパ遠征は5回のオペラがすべて素晴らしく、大満足の旅になりました。



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
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久々のコメント、ありがとうございます。
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06/18 12:46 sarai

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