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コロナに揺れる中のジルヴェスターコンサート@横浜みなとみらいホール 2020.12.31

大晦日は恒例のジルヴェスターコンサート@みなとみらいホールで年越しです。
娘夫婦宅で横浜中華街の聘珍楼のテイクアウトのグルメなディナーをいただいた後、みなとみらいホールに移動。
みなとみらいホールのジルヴェスターコンサートは今年で第22回目。そして、saraiがジルヴェスターコンサートに通うのもこれで22回。全部聴いてます。しかし、これも今年までです。来年はみなとみらいホールが改修のために長期休館になるために、ジルヴェスターコンサートも途切れます。それに今年はコロナ禍のためにコンサート開始が2時間繰り上げの7時になり、10時半に終了。21回続いた年越しカウントダウンもできません。ただし、既述のとおり、粋なはからいでコンサートホールの中の時間は2時間、タイムシフトしました。ホールの巨大なパイプオルガンがR.シュトラウスの《ツァラトゥストラはかく語りき》の強烈な響きを挙げるとともに2時間、タイムジャンプしたことを宣言しました。これにより、仮想的に今回もカウントダウンが可能となったんです。めでたく今回もカウントダウンできました。もっとも声を挙げてのカウントダウンはできませんでしたけどね。まあ、仮想的にせよ、雰囲気は年越しコンサートになりました。

今回のプログラムは以下です。

《第1部》

池辺晋一郎:ヨコハマ・ファンファーレ
オッフェンバック:『天国と地獄』序曲
ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調 Op.68『田園』第1楽章
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番ト長調 Op.58 第3楽章 ピアノ:仲道郁代
グルック:オペラ『オルフェオとエウリディーチェ』より「精霊の踊り」 フルート:高木綾子
ヘンデル:オペラ『セルセ』より「オンブラ・マイ・フ」 ソプラノ:梅津碧
山本正美作曲・美智子上皇后陛下作詞:ねむの木の子守唄 ソプラノ:梅津碧
J.S.バッハ:2台のヴァイオリンの為の協奏曲ニ短調 BWV.1043 第1楽章 ヴァイオリン:藤原浜雄、水野佐知香

《休憩》

《第2部》

メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番ニ短調 Op.49 第1楽章 ヴァイオリン:徳永二男 チェロ:堀了介 ピアノ:仲道郁代
さだまさし:防人の詩 歌・バンドゥーラ:ナターシャ・グジー
木村弓作曲・覚和歌子作詞:いつも何度でも 歌・バンドゥーラ:ナターシャ・グジー
ラヴェル:ツィガーヌ ヴァイオリン:徳永二男
池辺晋一朗:影武者のテーマ
サン=サーンス:交響曲第3番ハ短調 Op.78 第2楽章(後半) オルガン:三浦はつみ
レハール:喜歌劇《メリー・ウィドウ》より、ヴィリアの歌 ソプラノ:梅津碧
ヨハン・シュトラウス1世:ラデツキー行進曲

【出 演】

音楽監督:池辺晋一郎、飯森範親(Cond)、徳永二男(エグゼクティブ・ディレクター/Vn)、朝岡聡(MC)
横浜みなとみらいホール ジルヴェスターオーケストラ(コンサートマスター:会田莉凡、犬伏亜里、扇谷泰朋、神谷未穂、藤原浜雄、高橋和貴)
ピアノ:仲道郁代
ソプラノ:梅津碧
歌・バンドゥーラ:ナターシャ・グジー
フルート:高木綾子
ヴァイオリン:藤原浜雄
ヴァイオリン:水野佐知香
チェロ:堀了介

今回のジルヴェスターコンサートは昨年同様、最前列の中央の席で聴きました。とってもよく響く最高の席でした。もっとも今年はコロナ対策で1列目が空けてあるので、2列目が最前列です。
ジルヴェスターコンサートはお祭りのようなガラコンサートですが、簡単に印象をまとめておきましょう。

みなとみらいホール前館長の池辺晋一郎によって、このジルヴェスターコンサートのために書かれたヨコハマ・ファンファーレで華やかに開幕。コロナ対策のためにステージ後方の2階席に陣取った金管奏者たちの演奏が見事に響き渡りました。金管奏者たちはいつもはステージの前に立ちますが、それと変わらぬような音響が響いたのに驚愕!

続いて、オッフェンバックの『天国と地獄』序曲です。何と言っても終盤のカンカンが華やかに響き渡ります。フレンチカンカンの踊りを見たくなりますね。
 予習 ネーメ・ヤルヴィ指揮スイス・ロマンド管弦楽団 2015年6月23日-24日、ヴィクトリア・ホール(ジュネーヴ、スイス) セッション録音

次はベートーヴェンの交響曲第6番『田園』第1楽章。ベートーヴェン生誕250年でしたね。明るいパステル調の響きが伸びやかに流れます。とても美しい演奏です。
 予習 ブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団 1958年 セッション録音

次はベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番 第3楽章。仲道郁代の素晴らしいピアノなんですが、最初、ピアノの響きがくぐもったような感じなのでえっと思ってピアノを見ると、スタインウェイではなく、YAHAMA。別にYAHAMAでもいいのですが、多分、CFXではなく、旧型のような気がします。ピアノ演奏は素晴らしかっただけに、スタインウェイを弾いてもらいたかったところです。
 予習 アンドラーシュ・シフ、ベルナルト・ハイティンク指揮シュターツカペレ・ドレスデン 1996年3,11,12月、ドレスデン、聖ルカ教会 セッション録音

次はグルックのオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』より「精霊の踊り」。高木綾子のよくコントロールされた端正なフルート演奏が見事でした。下手に演奏すると退屈になる曲を魅力的に聴かせてくれました。とりわけ、中間部の演奏の美しかったこと。saraiも下手なフルートを吹きたくなりました。
 予習 ジェイムズ・ゴールウェイ、チャールズ・ゲルハルト指揮ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団 1975年、ロンドン、キングズウェイ・ホール セッション録音

次はヘンデルのオペラ『セルセ』より「オンブラ・マイ・フ」。ソプラノの梅津碧がお伽の国から抜け出たようなお姫様ドレスで登場したのにびっくり。その梅津碧は初聴きですが、とても高音がよく出ます。コロラトゥーラだそうですが、スープレットを目指したほうがよいような声の響きです(これは誉め言葉です)。なお、予習で聴いたケルメスはピリオド楽器のアンサンブルをバックに歌っていましたが、そのイメージが脳裏にあり、モダンオーケストラの演奏は違和感を覚えました。
 予習 ジモーネ・ケルメス、ボリス・ベゲルマン(コンサートマスター)、アミーチ・ヴェネツィアーニ(ピリオド楽器アンサンブル) 2018年5月28日~6月2日、ベルリン、イエス=キリスト教会 セッション録音

次はJ.S.バッハの2台のヴァイオリンの為の協奏曲。楽しい演奏です。
 予習 寺神戸亮、若松夏美、鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパン 1998年7、9月 神戸松蔭女子学院大学チャペル セッション録音


ここで休憩です。

休憩が終わり、第2部がスタートします。

メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番。曲よし、演奏よし。間然として聴き入ります。
 予習 ヨーヨー・マ(チェロ)、エマニュエル・アックス(ピアノ)、イツァーク・パールマン(ヴァイオリン) 2009年3月28-29日 ニューヨーク セッション録音

次は歌・バンドゥーラをナターシャ・グジーが奏でます。バンドゥーラはウクライナの民俗楽器でツィターのような楽器で素晴らしい音色です。グジーの歌声も高く澄み切ったものです。意外に心に沁みました。

次はラヴェルのツィガーヌ。ムターのような名人級の演奏に比べると、まあ、こんなものかなという演奏。
 予習 アンネ・ゾフィー・ムター、ジェイムズ・レヴァイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1992年11月 ウィーン セッション録音

いよいよ、カウントダウン曲のサン=サーンスの交響曲第3番 第2楽章(後半)です。今年もカウントダウンはきっちり見事に成功!! 最後のバンという響きとともにぴったり2時間早めの仮想新年を迎えました。いやはや、飯森範親の指揮は見事の一語。こんなに失敗なしにカウントダウンできることは驚異的です。みなとみらいホールのパイプオルガン、通称ルーシーも素晴らしい響きで華を添えました。
 予習 ベルイ・ザムコヒアン(オルガン)、シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団 1959年4月5,6日 ボストン、シンフォニー・ホール セッション録音

新年に聴く最初の音楽はレハールの喜歌劇《メリー・ウィドウ》より、ヴィリアの歌です。ソプラノの梅津碧は美しい歌声で魅了してくれました。でも、コロラトゥーラなら、モーツァルトの魔笛の夜の女王のアリアが聴きたかったな・・・。

最後のおまけは例年通り、ラデツキー行進曲を手拍子してコンサート完了。

今年も音楽で新年が始まりました。コロナ禍で、これから、コンサートがどうなるのか、不安です。いずれにせよ、ヨーロッパ遠征は無理でしょうね。


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saraiの音楽総決算2020

今年もブログの締めくくりはsarai恒例の音楽総決算です。いつもはジャンル別にランキングしますが、今年は特別な年。コロナ禍のために聴いたコンサートは半減し、ほぼ50回。海外遠征もなしです。コンサートの思い出もある意味、コロナ絡みです。そういうわけで、全ジャンルまとめて、ベスト10のコンサートを選出します。今年の特徴は日本人音楽家を中心に聴き、特にピアニストの活躍が目立ちました。日本人ピアニストのレベルの高さは驚異的とも思えます。ランキングに入れなかったピアニストもみな素晴らしかったです。

では今年の厳選したコンサートのベスト10は以下です。

1位 底知れぬ実力のマツーエフのプロコフィエフ、そして、ゲルギエフ&ウィーン・フィルの「悲愴」の深い慟哭に共感と感動@サントリーホール 2020.11.10

2位 庄司紗矢香の空前絶後のショスタコーヴィチに驚愕! サロネン&フィルハーモニア管弦楽団@東京芸術劇場 2020.1.28

3位 1年ぶりに帰ってきたジョナサン・ノット、再び、東京交響楽団との第九を振る@サントリーホール 2020.12.28

4位 ブラームスの晩年の名作、至高の演奏 アンドラーシュ・シフ ピアノ・リサイタル@東京オペラシティ コンサートホール 2020.3.19

5位 伝説的なピアニストが描くのは実存的な世界 アンドレイ・ガヴリーロフ ピアノ・リサイタル@横浜上大岡ひまわりの郷ホール 2020.11.23

6位 究極のポリフォニー音楽、ロ短調ミサ曲は平和を希求する!:バッハ・コレギウム・ジャパン@東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル 2020.9.20

7位 すべてを超越した精神的境地のベートーヴェンを詩情豊かに表現 田部京子シューベルト・プラス特別編《ベートーヴェン生誕250年記念》@浜離宮朝日ホール 2020.12.16

8位 素晴らしいヘンデル《リナルド》の上演 鈴木優人指揮バッハ・コレギウム・ジャパン@東京オペラシティコンサートホール 2020.11.3

9位 庄司紗矢香は音楽の求道者 庄司紗矢香&ヴィキングル・オラフソン デュオ・リサイタル@横浜みなとみらいホール 2020.12.13

10位 東響の川崎定期も再開! 田部京子の圧巻のピアノ@ミューザ川崎シンフォニーホール 2020.6.28


今年の大賞はゲルギエフ&ウィーン・フィルのチャイコフスキー《悲愴》にしましたが、2位から4位までの庄司紗矢香、ジョナサン・ノット、アンドラーシュ・シフは遜色がなく、どれを大賞にしてもおかしくない演奏でした。また、ランク外になった河村尚子、メジューエワ、上原彩子、小菅優、伊藤恵、岡田奏などのピアニスト、ヴァイオリニストの辻彩奈もベスト10にしてもおかしくないレベルの素晴らしい演奏でした。

ウィーン・フィルはコロナ禍のなかで奇跡の来日。本国でも演奏できない状況下、実に熱のはいった演奏で胸が熱くなりました。ゲルギエフの《悲愴》に込めた思いも凄まじいものでした。隣席で聴いていた見知らぬ女性が終演後、ウィーン・フィルが来てくれたことに感動して嗚咽していたことが忘れられません。音楽の力を再認識しました。

庄司紗矢香は現在途轍もない音楽的高みに立ち、コロナ前のショスタコーヴィチの協奏曲でも年末のバルトークのソナタでも究極の音楽を聴かせてくれました。

ジョナサン・ノットはようやく年末ぎりぎりに1年ぶりにその姿を見せてくれました。こんなに日本の聴衆に愛された指揮者がいたでしょうか。コロナで聴けなかった音楽家で一番残念だった人です。

コロナ発生時にコンサートを強行してくれたのがシフ。彼の後期ブラームスが聴けたのが今年の最大の収穫でした。2回に渡るコンサートでのブラームス、バッハは最高でした。

アンドレイ・ガヴリーロフもコロナ禍のなか、奇跡の来日を果たしてくれて、そのヴィルトゥオーソ的な演奏には驚愕しました。シフとガヴリーロフが聴けたので、今年は満足しないといけませんね。

BCJは今年創立30周年で盛り沢山な公演を予定していました。ほぼ、すべて、聴けて満足です。海外からの歌手は参加できませんでしたが、素晴らしい演奏を聴かせてくれました。日本の宝だと思っています。

田部京子はコロナのお陰でたくさん聴けました。それだけは収穫です。ベートーヴェンの後期ソナタは最高だったし、協奏曲もすべて素晴らしい演奏でした。これを機にもっと活躍してほしいと思います。

最後にヘンデルの《リナルド》。日本人だけでバロックオペラが最高の形で演奏できたのは素晴らしい。これも大賞候補でした。鈴木優人の無限の才能にも期待しています。

来年の感動に期待しながら、今年の総括は幕としましょう。

今年も当ブログを読んでいただいたみなさんには感謝です。また、来年も引き続き、ご愛読ください。


saraiはこれから、みなとみらいホールのジルヴェスターコンサートに出かけます。今年は音楽で年越しとはなりませんが大変だった1年を音楽でしめくくります。

皆さま、よいお年を!!


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1年ぶりに帰ってきたジョナサン・ノット、再び、東京交響楽団との第九を振る@サントリーホール 2020.12.28

リアルのジョナサン・ノットの指揮を聴くのはちょうど1年ぶり。1年前の同じ日に聴いたのも今日と同じ、ベートーヴェンの交響曲第9番でした。まさか、リアルのジョナサン・ノットを1年も聴けないとは思ってもみませんでした。しかし、次はまたいつ聴けるか、予測もできません。今日のサントリーホールに集まった聴衆も同じ思いだったでしょう。今日も明日もチケットは完売だそうです。張り詰めた雰囲気でノットの登場を待ちます。ノットは昨年と同様ににこやかな表情で現れます。満場の拍手が沸き起こります。待ちに待った時がやってきました。

東響の第9は先週聴いたばかりですが、今日はジョナサン・ノットが振るという特別な演奏です。そして、それは素晴らしい演奏になりました。冒頭は少し、出が合いませんでしたが、それほどオーケストラのメンバーの緊張感も高かったのでしょう。徐々にノットの丁寧な指揮でアンサンブルが美しさを増していきます。第2楽章の後半ではアンサンブルの美しさに魅せられていきます。第3楽章の抒情味あふれる演奏に心が清められる思いです。ここまで実に格調の高い音楽が展開されます。ふと、交響曲第6番《田園》のフレーズを連想してしまいます。力強さよりも心の安寧をイメージするような音楽表現です。しかし、これがノットの構想したこの交響曲の展開だったようです。第4楽章に入ると、いきなり、テンションを高めた音楽表現が始まります。強烈なアンチテーゼの音楽を経て、静かに始まる歓喜の歌は頂点に達し、声楽パートに入っていきます。ここからがノットの第9の真骨頂でした。バスバリトンのリアン・リはその張りのある声で一気に別次元の音楽を開始していきます。心なしか、ノットも満足気です。ポジティヴなテーゼの音楽をリアン・リは主導していきます。が、合唱はまだ、抑え気味の感じです。そして、4重唱は独唱者すべてが好調な声を聴かせてくれて、合唱も盛り上がり始め、音楽全体が高揚していきます。次に器楽で行進曲が始まり、テノールの笛田博昭が実に見事な歌唱を聴かせてくれ、男声合唱も盛り立てて、いよいよ、音楽は高い山に上っていきます。続く管弦楽のみによるスケルツォ風のフガートは爽やかに疾走していきます。
ここからはノットは合唱団に向かって指揮し、合唱の山場になります。荘重で壮麗な合唱に身震いする思いです。全世界の人々に勇気と祝福を与えるような天上の音楽に深く感動していきます。男性合唱の雄々しさ、女声合唱の天からきらめきながら降り注ぐ美しい霊気は天上の天使を思わせます。心の奥底から上り詰めた高揚感はただただ、持続するのみです。
そして、ベートーヴェンが創造した最高の二重フーガが合唱団の渾身の歌唱で燃え上がります。「歓喜」を歌う"Freude, schöner Götterfunken" と「抱擁」を歌う "Seid umschlungen, Millionen!"の二重フーガの素晴らしさ! とりわけ、たった10人のソプラノの合唱の魅惑的な響きに心を奪われます。プロの合唱団の威力は圧巻です。どこまでも上り詰める高揚感にしびれるような感覚を味わいます。
そして、その高揚感を引き継いで、最後の4重唱がフーガ風の最高の歌唱を聴かせてくれます。合唱とも絡まり合いながら、最後はソプラノのジャクリン・ワーグナーが美しい響きを残影のように残して、4重唱パートが終わりを告げます。これまで聴いたなかでも今日の独唱者たちの歌唱は最高のものでした。
いったん、静まった音楽は管弦楽と合唱がテンポを上げて、最後の高みに上り詰めていきます。何という感動でしょう。スローダウンした後、圧倒的なフィナーレに突進していきます。管弦楽のみの激しい後奏で音楽は途轍もない高みで圧巻の最後を迎えます。演奏者も聴衆も心を一つにして、音楽の偉大さに感動します。人と人の心を繋ぐ音楽、それがベートーヴェンの交響曲第9番です。

アンコールの後、お馴染みの指揮者コール・・・満場、スタンディングオベーションで感動を分かち合いました。ジョナサン、日本の聴衆のあなたへの愛を感じてくれましたよね。いつまでも日本を拠点に活動を続けることを期待しています。近い将来、また、素晴らしい音楽を聴かせてくれることを願っています。

今日のコンサートをもって、今年のsaraiの音楽は〆にします。今年、48回目のコンサートでした。今年は例年の半分ほどの回数に留まりましたが、最後にジョナサン・ノット&東響が聴けて、満足です。

おっと、今年のシメはまだ、大晦日のジルヴェスターコンサートが残っていました・・・。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:ジョナサン・ノット
  ソプラノ:ジャクリン・ワーグナー
  メゾソプラノ:中島郁子
  テノール:笛田博昭
  バスバリトン:リアン・リ
  合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮:河原哲也)
  管弦楽:東京交響楽団

  ベートーヴェン:交響曲 第9番 ニ短調 Op.125

  《アンコール》 蛍の光 AULD LANG SYNE(スコットランド民謡)


最後に予習について、まとめておきます。と言っても、先週と同じです。

ベートーヴェンの交響曲 第9番を予習したCDは以下です。

  ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管弦楽団、ルツェルン音楽祭合唱団
   エリーザベト・シュヴァルツコプフ、エルザ・カヴェルティ、エルンスト・ヘフリガー、オットー・エーデルマン
    1954年8月22日 ルツェルン音楽祭 ライヴ録音

auditeから出たハイレゾ録音で聴きました。フルトヴェングラーが指揮した最後の第9です。第3楽章のしみじみとした表現に心打たれます。バイロイトの第9と並ぶ最高の名演です。



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       ジョナサン・ノット,  

生涯、最高の途轍もない《第9》 秋山和慶&東響@東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル 2020.12.23

最初に演奏されたエグモント序曲は東響の弦の実に熱のある演奏に心が高潮します。今日の東響は絶好調で高揚しています。続く第9に期待が高まります。

第9の第1楽章と第2楽章は熱の入った力強い演奏でアンサンブルも美しいです。第3楽章に入ると、しみじみと美しいメロディーが最高の弦で奏でられます。第1ヴァイオリンだけでなく、対向に配置されたヴィオラの響きが素晴らしいです。木管で演奏されるパートも美しいのですが、東響の弦楽アンサンブルの素晴らしさが心に響きます。うーん、今日はこの第3楽章が聴けただけでもよかったと納得します。しかし、今日の東響、そして、合唱の新国立劇場合唱団は第4楽章で燃え上がるような演奏を聴かせてくれます。行進曲風のパートあたりからが素晴らしいです。声楽パートが収まって、オーケストラだけの演奏に移るとまたしても弦楽アンサンブルが究極の美しい響きを奏でます。その後、合唱も加わっての凄絶な演奏に深く感動します。感動にレベルがあるとすれば、フルトヴェングラー級の感動です。そのまま深い感動を保って、圧巻のフィナーレ。日本人のオーケストラと合唱団がこんな素晴らしい第9を聴かせてくれるとは・・・凄い時代になったものです。指揮の秋山和慶も見事でした。フルトヴェングラーのようにロマンに満ちた音楽表現でした。

この後、28日のジョナサン・ノットの指揮による第9に向けて、リハーサルが始まるのでしょう。今日の最高の第9がどのように変容するのでしょうか。これ以上の演奏は難しいような気もします。不安と期待の入り混じった気持ちで28日の今年の〆となるサントリーホールの公演に臨みます。

今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:秋山和慶
  ソプラノ:森野美咲
  メゾソプラノ:鳥木弥生
  テノール:小原啓楼
  バリトン:大山大輔
  合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮:河原哲也)
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:水谷 晃

  ベートーヴェン:「エグモント」序曲 Op.84
  ベートーヴェン:交響曲 第9番 ニ短調 Op.125 「合唱付」

   《アンコール》
    蛍の光 AULD LANG SYNE


最後に予習について、まとめておきます。

ベートーヴェンの「エグモント」序曲を予習したCDは以下です。

  ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル 1947年5月27日 ベルリン、ベルリン英占領区ソ連放送局スタジオHaus des Rundfunks (略称 Funkhaus) 放送録音

フルトヴェングラーの戦後復帰の記念すべきコンサートシリーズの放送用録音です。もちろん、雄渾でロマンにあふれた名演です。


ベートーヴェンの交響曲 第9番を予習したCDは以下です。

  ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管弦楽団、ルツェルン音楽祭合唱団
   エリーザベト・シュヴァルツコプフ、エルザ・カヴェルティ、エルンスト・ヘフリガー、オットー・エーデルマン
    1954年8月22日 ルツェルン音楽祭 ライヴ録音

auditeから出たハイレゾ録音で聴きました。フルトヴェングラーが指揮した最後の第9です。第3楽章のしみじみとした表現に心打たれます。バイロイトの第9と並ぶ最高の名演です。



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すべてを超越した精神的境地のベートーヴェンを詩情豊かに表現 田部京子シューベルト・プラス特別編《ベートーヴェン生誕250年記念》@浜離宮朝日ホール 2020.12.16

生きている実感を感じさせてくれるような情感に満ちた田部京子のピアノでした。コロナ禍のために1年ぶりとなった田部京子のソロ・リサイタルは期待を上回る音楽にあふれていました。
ベートーヴェン生誕250年記念と銘打ったシューベルト・プラス特別編はベートーヴェンの音楽の最高峰のひとつである最後期の3つのピアノ・ソナタを聴かせてくれました。聴きたかった田部京子のベートーヴェンはなんとも穏やかで熟成した大人の香りの音楽でした。静かな、静かな感銘で心がいっぱいになりました。

最初に弾いたシューベルトのアダージョ D.612は田部京子らしい夢のような詩情に満ちた音楽。中間部での盛り上がりもありましたが、ロマンにあふれる音楽に心が和みます。短い音楽が終わっても誰も拍手をせずにホール内は静けさに満ちています。田部京子がピアノに向かって、呼吸を整えている雰囲気に聴衆は静まり返ります。そして、そのまま、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番が静かに始まります。とても美しい演奏です。それも心の内部から滲み出るような美しさです。ベートーヴェンが描いた世界はもっと諦念に満ちていたような気がしますが、今日の演奏は充足感に満ちた穏やかさを湛えています。この曲は素晴らしい音楽ですが、それでも第31番/第32番に比べるとどうしても聴き劣りしてしまうのが正直なところですが、今日は第31番/第32番に肉薄するレベルの音楽に聴こえます。素晴らしい第1楽章から間を置かずに第2楽章が迫力ある演奏で続きます。そして、第3楽章の変奏曲の美しさはどうでしょう。下降音型から上昇音型に続くフレーズの美しさの極みには心が震えます。第3楽章の後半には高域の美しいタッチでそのフレーズが弾かれて、まさに情感の極みです。これが田部京子のベートーヴェン後期の表現ですね。いわゆる枯れた演奏ではなく、諦念に満ちたわけでもなく、ベートーヴェンが高い精神性の境地に達した桃源郷のような美しい世界です。演奏が終わっても、とても強い拍手を送るような気分ではなく、ただただ、田部京子への熱い共感で、うんうんとうなづきたい思いだけが残ります。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番も第30番のソナタと同様な展開です。静かに始まり、満ち足りた時間が美しいピアノの響きとともに過ぎていきます。長大な第3楽章は序奏に続き、いわゆる《嘆きの歌》が始まりますが、哀感あふれる嘆きではなく、色んな感情を超越した境地の穏やかな精神性の熟成した美しさが表現されます。そして、続くフーガも実に静謐に響きます。フーガは高潮した音楽になっていきますが、その底には透徹し、充足した精神性が貫かれています。田部京子の安定し、成熟した大人の女性として磨き上げられた心の美しさが音楽に反映されていると感じます。田部京子だけしか弾けないベートーヴェンです。音楽はやはりテクニックではなく、心や魂で表現するものであることを強く実感します。壮大なフィナーレですが、余韻を味わいたいと念じるような演奏でした。数人の聴衆が余韻を打ち消すような拍手を送ったのは残念でした。そういう類の演奏ではなかったでしょう。大多数の聴衆はじっくりと余韻を噛みしめているようでした。saraiはそっと拍手を送りました。それがこの素晴らしい演奏にふさわしいものだと思えたからです。


休憩後の後半はベートーヴェンの最後のソナタ、第32番です。冒頭はデモーニッシュに強い響きが続きます。フーガはもはや、普通のフーガではなく、ベートーヴェン流で強い響きが続きます。圧巻の第1楽章ですが、心に響いたのは第2楽章の変奏曲です。田部京子は後期の3つのソナタに共通して表現した高い精神性の境地を、ここで決定的に歌い上げます。後半にはいってのこれでもか、これでもかと続く美しい歌謡性はシューベルトの遺作ソナタに引き継がれ、さらなる高みに達するものです。田部京子がシューベルト・プラス特別編と題して、ベートーヴェンの後期の3つのソナタを取り上げた意義はここに秘められていたのではないでしょうか。ここでも下降音型から上昇音型に続くフレーズの美しさの極みが強く耳に残ります。今、このブログ記事を深夜書いていますが、saraiの頭の中ではそのフレーズが鳴り響き続けています。いつまでも永遠に続けてほしい美しい音楽も、ある意味、唐突に終わりを告げます。ベートーヴェンがもうこれくらいでいいでしょうって語りかけてくるようなフィナーレです。田部京子、納得のベートーヴェンでした。ベートーヴェン・イヤーを締めくくるにふさわしい最高の後期ソナタでした。もっとも、まだ、久しぶりに来日するジョナサン・ノットが東響を指揮する第9番交響曲が残っていますけどね。

アンコールは田部京子の定番ともいえるシューベルトのアヴェマリア。美しいピアノの響きに魅了されました。最後の2音、アーメンが心に響きます。

コロナ禍で大変な音楽界でしたが、12月の半ばになり、庄司紗矢香、田部京子の最高の演奏を聴き、さらにはノットの第9も控え、終わりよければ、すべてよしの心境に浸っています。音楽は人生のすべてです。


今日のプログラムは以下です。

  田部京子シューベルト・プラス特別編
   《ベートーヴェン生誕250年記念》

  ピアノ:田部京子
 
  シューベルト:アダージョ ホ長調 D.612
  ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 Op.109
  ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 Op.110

  《休憩》

  ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 Op.111

  《アンコール》
   シューベルト:「アヴェ・マリア」(編曲:田部京子、吉松隆)


最後に予習について、まとめておきます。

シューベルトのアダージョ D.612を予習したCDは以下です。

 ミシェル・ダルベルト 1993年1月、1994年1月・6月 スイス、コルゾー、サル・ド・シャトネール セッション録音

ミシェル・ダルベルトはシューベルトの未完のピアノ・ソナタ第10番 D.613の2楽章を両端楽章に置いて、アダージョ D.612を中間楽章として挟んだ形で演奏しています。彼の明るい響きが若いシューベルトのこの作品の美しさを引き出しています。ミシェル・ダルベルトのシューベルトは実演でも聴いていますが、明るい響きの個性的な演奏に感銘を覚えています。彼のシューベルトは今後、注目です。


ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番/第31番/第32番 Op.109-111を予習したCDは以下です。

 田部京子 2015年8月12-14日 東京都、稲城ⅰプラザ セッション録音

田部京子はその優しい詩情だけでなく、確信に満ちた強い表現も兼ね合わせた素晴らしい演奏を聴かせてくれます。ベートーヴェンの後期ソナタの代表的名盤のひとつと言えます。



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       田部京子,  

庄司紗矢香は音楽の求道者 庄司紗矢香&ヴィキングル・オラフソン デュオ・リサイタル@横浜みなとみらいホール 2020.12.13

バルトークの物凄い演奏に鳥肌が立ちました。異次元のレベルの演奏です。あれは何年前だったでしょう。庄司紗矢香が満を持して、バルトークとバッハの無伴奏ソナタを素晴らしい演奏で聴かせてくれましたが、今や、絶頂のときを迎えた彼女はまるで別人のような境地に至ったようです。今の彼女の演奏でバルトークとバッハの無伴奏を演奏したら、卒倒してしまうかもしれません。今日のバルトークの演奏のことを《極めた演奏》とでも表現するのかもしれません。

バルトークの極めて深い音楽を聴きながら、音楽の本質について、思いを致していました。時間芸術としての音楽は、作曲家が今から遠い過去の時代に自分の胸の内を音楽の譜面に書き留めて、時代を経た現在、演奏家がその譜面を解き明かして、音楽の響きとして、我々、聴衆に投げかけてきます。受け手である聴衆のほとんどは作曲家の書いた譜面を読むことなしに、演奏者が譜面を読み込み、解釈した内容を音楽として再現したものを聴き取って、その響きから、作曲家が創造した精神世界を理解し、共感します。つまり、作曲家の魂の精華を演奏者が共感して再現し、演奏者の魂の燃焼を聴衆が共感して、己が魂を共鳴させるわけです。今日の庄司紗矢香&ヴィキングル・オラフソンのバルトークの演奏は作曲家・演奏者・聴衆の3者が共感し、魂が共鳴した、最高のレベルの音楽の実現の場となりました。散文的な内容は皆無の絶対的な音楽が魔法のように響き渡っていました。言葉の介在は不可能な世界です。音楽とはかくあるべきものなのでしょう。こういう厳しい音楽を感じることができるのは、バルトークとバッハの音楽に共通した特徴です。その違いと言えば、バッハは音楽の愉悦、バルトークは実存の深い感情、精神世界と言ってもいいかもしれませんが、そういうものが音楽芸術として自立しているところです。今日のバルトークは作曲家・演奏者・聴衆がおのおのの実存にかけて、魂のゆらぎや燃焼を深く共感したものです。いやはや、若い庄司紗矢香にはいつもながら、インスパイアされます。途轍もない芸術家になりましたね。saraiもさらに精進して、彼女の演奏へのもっと深い共感・共鳴が得られるようにしたいと新たな思いを抱きました。

バルトークの音楽に先鞭をつけるような形で演奏されたバッハも厳しい音楽でした。第1楽章は美しい弱音のピアノのソロから始まり、第4の声部としてのヴァイオリンがそっと加わり、美しい音楽が実現します。そのあまりの楽興の深さに魂が共鳴し、嗚咽しそうになります。音楽の美しさの極限は厳しさです。散文的な言葉を持って表現することは不可能な世界です。庄司紗矢香の深い表現のヴァイオリンはもちろん素晴らしいのですが、ヴィキングル・オラフソンの美しく抑えたタッチの弱音の表現も見事です。仄暗い聖堂で密やかに奏でられるかのごとく、バッハの驚異の傑作に心が震えました。

前半のバッハとバルトークですっかり圧倒されました。後半はプロコフィエフの佳曲で軽く心を和ませ、ブラームスのロマンの世界を満喫しました。ブラームスの愛に満ちた音楽をピアノのオラフソンがまことにロマンティックな響きで表現し、そのピアノの響きの上に庄司紗矢香がヴァイオリン響きを柔らかく馴染ませて、味わい深い世界を創出します。考えてみれば、庄司紗矢香のヴァイオリンを初めて聴いたのはブラームスのヴァイオリン協奏曲でした。日本人がブラームスをこんなに演奏できるのかと驚愕したことをまざまざと思い出します。それ以来、もう20年近い月日が経ちました。そのときは想像できなかったような芸術的な高みに庄司紗矢香は達して、ブラームスの本質を深く味わわせてくれるような演奏で第2番のソナタを聴かせてくれました。こんなに共感させてくれるようなブラームスを聴くのは滅多にないことです。


アンコールは2曲。歌謡性に満ちたバルトークのルーマニア民俗舞曲は自在な演奏で楽しませてくれます。懐かしく静謐な曲はウィーンの女流作曲家のシチリアーノ。こういう曲は庄司紗矢香は見事な弱音で完璧に抒情味豊かに弾きこなすようになりました。もう世界トップレベルのヴァイオリニストです。そう言えば、彼女のツイッターでシゲティのルーマニア民俗舞曲を紹介していました。彼女のヴァイオリンの目標はシゲティなのかな。方向性は正しいとsaraiも1票。

庄司紗矢香は足を痛めているようです。痛々しいです。早い治癒を念願しています。


今日のプログラムは以下のとおりです。

  ヴァイオリン:庄司紗矢香
  ピアノ:ヴィキングル・オラフソン

  J. S. バッハ:ヴァイオリン・ソナタ第5番 ヘ短調 BWV 1018
  バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ第1番 Sz. 75

   《休憩》

  プロコフィエフ:5つのメロディ Op. 35bis
  ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ長調 Op. 100

   《アンコール》
    バルトーク:ルーマニア民俗舞曲
    マリア・テレジア・フォン・パラディス:シチリアーノ


最後に予習について、まとめておきます。

バッハのヴァイオリン・ソナタ第5番を予習したCDは以下です。

  ヘンリク・シェリング、ヘルムート・ヴァルヒャ 1969年6月5-8日,12,13日 パリ、リバン教会 セッション録音

決定盤です。二人の折り目正しい演奏はバッハの音楽に誠実です。


バルトークのヴァイオリン・ソナタ第1番を予習したCDは以下です。

  ギドン・クレーメル、マルタ・アルゲリッチ 1988年6月 ミュンヘン、ヘルクレスザール セッション録音

クレーメルの美しい演奏に心惹かれます。精神的にも高いレベルの演奏に思えましたが、今日の庄司紗矢香の前では色を失います。


プロコフィエフの《5つのメロディ》を予習したCDは以下です。

  アリーナ・イブラギモヴァ、 スティーヴン・オズボーン 2013年7月11-13日 ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール セッション録音

イブラギモヴァの安定した演奏です。


ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第2番を予習したCDは以下です。

  ヨゼフ・シゲティ、ミエチスラフ・ホルショフスキ 1961年10月 セッション録音


シゲティのロマンティシズムに溺れ過ぎない至芸は襟を正して聴くべきものです。



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       庄司紗矢香,  

ヴァイグレの圧巻のブルックナー、そして、岡田奏の奇跡のモーツァルト 読売日本交響楽団@サントリーホール 2020.12.9

ヴァイグレがこれほどのブルックナーを聴かせてくれるとは・・・。昨年、ヴァイグレの常任指揮者就任記念のコンサートで聴いたブルックナーの交響曲第9番も素晴らしい演奏でしたが、それを上回る会心の演奏でした。ブルックナーを聴くのも久しぶりです。およそ1年前にこのサントリーホールでティーレマンがウィーン・フィルを振った交響曲第8番を聴いて以来です。

ヴァイグレ指揮の読響の演奏は完璧と言っていいでしょう。素晴らしかったのは弱音で美しく奏でられた弦楽合奏のパートです。ブルックナーは金管が奏でる壮大なパートも心震わせるものがありますが、やはり、弦楽の美しいフレーズに魅了されます。第2楽章の美しさは底知れぬものでした。第1楽章と第4楽章の強弱が交錯するめくるめき音楽にも大変、魅了されました。こういう素晴らしい演奏を聴くと、あまり演奏機会のない交響曲第6番も傑作であることことが実感できました。ちなみにsaraiはこの曲は実演では初聴きだと思っていましたが、調べてみると、10年前のインバル&都響で聴いていました。その演奏も相当によかったようですが、演奏精度において、今日の演奏が優ります。本当はコロナがなければ、先月、ジョナサン・ノット指揮の東響でこの曲が聴けた筈でした。ブルックナーの交響曲の第4番から第9番までの中で聴き込み不足だった第6番もこれで頭にしっかりと定着できました。来年の1月はインバル&都響で第3番が演奏されるようなので、次は第3番を定着させましょう。

前半のモーツァルトのピアノ協奏曲第25番ですが、あまり、期待せずに聴きましたが、岡田奏のピアノの素晴らしさに大変、感銘を覚えました。岡田奏って誰?という感じで聴きましたが、モーツァルトのピアノ協奏曲の実演でこれほど美しい響きを聴いたことはありません。ペライア、ピリスや内田光子も真っ青という感じです。実演は聴いていませんが、最愛のピアニスト、クララ・ハスキルに肉薄する素晴らしさ。是非、第21番や第23番も聴いてみたいところです。できれば、全協奏曲すら聴かせてもらいたいものです。本当に日本人ピアニストのレベルは高くなったものです。うーん、今でも彼女の美しいタッチのピアノの響きが耳に残っています。一気にファンになってしまいました。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
  ピアノ:岡田奏(おかだ かな)
  管弦楽:読売日本交響楽団  コンサートマスター:長原幸太

  モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番 ハ長調 K.503

   《休憩》

  ブルックナー:交響曲第6番 イ長調 WAB.106


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のモーツァルトのピアノ協奏曲第25番は以下のCDを聴きました。

 フリードリヒ・グルダ、クラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1975年5月 ウィーン、ムジークフェラインザール セッション録音
 
グルダの美音で魅了されます。saraiがこのレコードを昔、愛聴していました。


2曲目のブルックナーの交響曲第6番は以下のCDを聴きました。

 オイゲン・ヨッフム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 (ノーヴァク1881年版) 1980年11月2日 アムステルダム、コンセルトヘボウ ライヴ録音
 
ブルックナー交響曲選集(新リマスタリング)の中の1枚です。美しく、壮大なブルックナーです。ヨッフムの至高の芸術です。



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極上のベートーヴェン 後期の3つのソナタ イリーナ・メジューエワ・ベートーヴェン・ピアノソナタ全曲演奏会@東京文化会館 小ホール 2020.12.5

イリーナ・メジューエワのベートーヴェン・ピアノソナタ全曲演奏会は今日の第7回目と第8回目で完了。と言ってもコロナ禍で第1回~第4回は中止になったため、全部で14曲聴いただけ。来年は中止になった分のピアノソナタを聴かせてくださいね。⇒ 関係者殿

まあ、それでも今日は後期の3つのソナタの素晴らしい演奏を聴いて、まるで全曲のソナタを締めくくったような錯覚に陥りました。メジューエワの第27番から第32番までの後期ソナタは素晴らしい演奏でした。

まず、マチネの第7回の公演では、前半の第13番と第14番はエンジンがかかりきれていませんでしたが、後半のプログラム、第18番で持ち直し、最後の第27番は最高の演奏でした。前回も書いた通り、メジューエワは日本を拠点に活躍しているとは言え、ロシア人ピアニストの強靭なピアニズムを聴かせてくれます。その男性的とも言えるピアノはベートーヴェンのピアノソナタで本領を発揮してくれます。ベートーヴェンの音楽を小細工なしに直線的な演奏で堪能させてくれます。そういうストレートな表現はベートーヴェンの後期の精神の高みに上り詰めた作品をまざまざと感じさせてくれます。第27番は中期に分類されますが、その本質は後期のソナタと同様に高い精神性を持つ作品であることを実感させてくれました。
やはり、メジューエワの演奏は後期のソナタにこそ、その特性が活かされると思っていたら、アンコールで第1番のソナタを弾いてくれて、その演奏がまた、素晴らしいものです。うーん、単に今日の前半はエンジンがかかっていなかっただけなのかしらね・・・。

夜の第8回公演まで、間があるので、早めの夕食をいただきましょう。前回は老舗の伊豆栄で鰻をいただきましたが、今日は老舗の井泉でとんかつをいただきます。上野界隈は老舗の料理店が多いので、舌も楽しめます。上野動物園前にあるスターバックスでコーヒーをいただいていると、夜の公演の時間が迫ってきます。

第8回公演はベートーヴェンの最後の3つのソナタ。後期の弦楽四重奏曲と並んで、ベートーヴェンの音楽の集大成と言えるものです。本当は今日はサントリーホールで東響の定期演奏会がありますが、そのチケットを他の方に譲って、この公演を選びました。メジューエワの後期のソナタを聴き逃がしたくないですからね。
その期待は報われました。まず、第30番のソナタの美しく、高邁な精神性の感じられる演奏に魅了されます。これ以上の音楽はあり得ないと思っていると、次の第31番のソナタは第1楽章の美しく澄み切った精神が感じられる素晴らしい音楽でうるうるの心情になります。さらにたたみかけるように第3楽章。《嘆きの歌》の最高の抒情と激しいフーガ。ベートーヴェンの音楽の最高峰とも思えます。メジューエワはこの傑作を見事に演奏。最高です。これ以上の音楽はないでしょう。
しかし、休憩後、最後の第32番のソナタ。第1楽章の冒頭から、激しい音楽が燃え上がります。魂の燃焼です。その燃え尽きた先に第2楽章の美しい変奏曲が続きます。魂を慰撫するような最高のベートーヴェンです。そして、フィナーレでカタルシスが持たされます。これこそが真にベートーヴェンの音楽の最高峰ですね。メジューエワは本当に素晴らしい演奏をしてくれました。満足です。


今日のプログラムは以下です。

  ピアノ:イリーナ・メジューエワ

  <ベートーヴェン 生誕250周年記念 イリーナ・メジューエワ ピアノソナタ全曲演奏会 第7回>

  ピアノソナタ第13番 変ホ長調 Op.27-1 『幻想曲風ソナタ』
  ピアノソナタ第14番嬰ハ短調 Op.27-2 『幻想曲風ソナタ』(『月光ソナタ』)

   《休憩》

  ピアノソナタ第18番 変ホ長調 Op.31-3
  ピアノソナタ第27番 ホ短調 Op.90


   《アンコール》
  ピアノソナタ第1番 ヘ短調 Op.2-1 から 第2楽章 ヘ長調 アダージョ


  <ベートーヴェン 生誕250周年記念 イリーナ・メジューエワ ピアノソナタ全曲演奏会 第8回>

  ピアノソナタ第30番 ホ長調 Op.109
  ピアノソナタ第31番 変イ長調 Op.110

   《休憩》

  ピアノソナタ第32番 ハ短調 Op.111


   《アンコール》
  6つのバガテル Op.126 から 第3番 変ホ長調 アンダンテ
  6つのバガテル Op.126 から 第5番 ト長調 クアジ・アレグレット


最後に予習について、まとめておきます。
ピアノソナタ第13番、第14番、第18番、第27番は以下のCDを聴きました。

 エミール・ギレリス ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ集 1972-1985年 セッション録音

ギレリスの男性的でありながら、磨き抜かれた響きの演奏は完璧です。


ピアノソナタ第30番、第31番、第32番は以下のCDを聴きました。

 アンドラーシュ・シフ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2004~2006年 チューリッヒ、トーンハレ ライヴ録音

シフのベーゼンドルファーの美しい響きによる、とても深くて音楽的な演奏に聴き惚れるだけです。



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ベートーヴェン・イヤーの最高の音楽、ミサ曲ハ長調:バッハ・コレギウム・ジャパン@東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル 2020.11.28

後半に演奏されたベートーヴェンのミサ曲ハ長調は実は初聴きでしたが、その人間的な共感に満ちたミサ曲は隠れた傑作であることを実感しました。BCJ(バッハ・コレギウム・ジャパン)の演奏も最高に素晴らしく、大きな感銘を覚えました。ベートーヴェンはこの1曲しか残さなかったとしても、音楽史に残る大作曲家として名前を刻んだと確信しました。今後、この作品は演奏機会が増えて、再評価されることは間違いないでしょう。

冒頭のキリエの「キリエ・・・」という歌い出しの響きの見事さに魅了されて、あとはすっかりと感銘を覚え続けて、聴き惚れました。まずはBCJの合唱の素晴らしさに触れないといけないでしょう。コロナを意識した配置なのでしょうが、舞台の最後方にずらっと並んだ合唱団はBCJとしては大規模な合唱隊の人数です。部隊前方に配置したオーケストラを飛び越えて、合唱の圧倒的な響きがホールに満ちてきます。左右に大きく展開した合唱のステレオ効果も素晴らしいものです。特にバスパートとソプラノパートという低域と高域の響きの素晴らしさが群を抜いています。
4人の独唱者の歌唱も素晴らしく、ソロでの歌唱も4人の重唱も見事です。ソプラノの中江 早希とアルトの布施奈緒子の女声の素晴らしさにとりわけ、魅了されました。そして、独唱者たちと合唱の融合も素晴らしく、BCJの魅力は声楽にあると実感しました。
無論、名人たちの集団であるオーケストラも素晴らしかったことは言うまでもありませんが、今日に限っては声楽パートのサポートの役割を見事に担ったと感じました。時折、木管の鄙びた響きに心が震えることはありましたし、対向配置のヴァイオリンの響きにもたびたび耳を喜ばせてもらいました。
第1曲のキリエの清らかな音楽、それ以降の人間的な感情のストレートな発露は中期のベートーヴェンの素晴らしさを感じました。ユニゾンを中心とするシンプルな音楽構成はベートーヴェンの別な一面を聴いた思いです。苦渋に満ちたとも言える後期のベートーヴェンはもちろん最高ですが、直截的な中期のベートーヴェンの音楽も心に響きます。そういうベートーヴェンの素晴らしさを見事に表現した鈴木 雅明の指揮もそのシンプルさで光彩を放っていました。バッハ、ヘンデルなどのバロックでの彼の素晴らしさはもちろんですが、古典派以降の音楽でもその才能を発揮してくれそうです。次はシューベルトあたりを聴いてみたくなりました。

そうそう、前半の交響曲第5番はオリジナル派の鄙びた響きでしたが、テンポもスタンダードで好もしい演奏でした。同時期に作曲されたミサ曲ハ長調とは相性のよい選曲ですね。交響曲第5番のアン・デア・ウィーン劇場での公開初演でもミサ曲ハ長調の抜粋が演奏されたそうで、その歴史も踏まえた選曲だったのでしょう。ただ、今日の主役はもちろん、ミサ曲ハ長調でした。アン・デア・ウィーン劇場で同時に初演された合唱幻想曲を選曲してくれたら、もっとよかったのですけどね。

いずれにせよ、コロナで滅茶滅茶になったベートーヴェンの生誕250周年でしたが、このミサ曲ハ長調を聴けたのは最高の収穫でした。
なお、最後に鈴木 雅明氏がマイクをとり、簡単にミサ曲ハ長調とハイドンとの関係をレクチャーし、アンコールでハイドンのミサ曲の一部を演奏してくれました。


今日のプログラムは以下です。


  指揮:鈴木 雅明
  ソプラノ:中江 早希
  アルト:布施奈緒子
  テノール: 櫻田 亮
  バス:加耒 徹
  合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン (コンサートマスター:寺神戸 亮)


L. v. ベートーヴェン

 交響曲第5番 ハ短調 Op.67

 《休憩》

 ミサ曲 ハ長調 Op.86

 《アンコール》

 ハイドン:神の聖ヨハネのミサ・ブレヴィス(小オルガン・ミサ 変ロ長調) Hob.XXII:7 より 《アニュス・デイ》


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のベートーヴェンの交響曲第5番は以下のCDで予習をしました。

  ジョン・エリオット・ガーディナー指揮オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク 1994年3月 バルセロナ、カタルーニャ音楽堂 ライヴ録音

オリジナル演奏で聴いてみました。音の響きは豊かであまりオリジナル演奏を感じませんが、テンポがきびきびと早い演奏。やはり、saraiは古い人間ですから、違和感を覚えました。


2曲目のベートーヴェンのミサ曲 ハ長調は以下のCDで予習をしました。

  マイケル・ティルソン・トーマス指揮サンフランシスコ交響楽団、サンフランシスコ交響合唱団
   ジョエル・ハーヴェイ(ソプラノ)
   ケリー・オコナー(メゾ・ソプラノ)
   ウィリアム・バーデン(テノール)
   シェンヤン(バス・バリトン)
        2014年1月15日-18日 デイヴィス・シンフォニー・ホール、サンフランシスコ ライヴ録音

モダン演奏ですが、マイケル・ティルソン・トーマスの素晴らしい指揮で最高のベートーヴェンを堪能させてくれます。ソプラノのジョエル・ハーヴェイの美声に魅了されます。



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       バッハ・コレギウム・ジャパン,  

伝説的なピアニストが描くのは実存的な世界 アンドレイ・ガヴリーロフ ピアノ・リサイタル@横浜上大岡ひまわりの郷ホール 2020.11.23

昨春、幻のピアニストと思っていたアンドレイ・ガヴリーロフの物凄い演奏をこの小さなホールでかぶりつきで聴き、大変な感銘を受けました。まさか、こんな状況でまたまた聴けるとは想像だにしていませんでしたが、今度もかぶりつきで聴けるという僥倖にあずかりました。前回を上回る凄い演奏にただただ圧倒されました。
正統派の知性派を代表する世界最高のピアニスト、アンドラーシュ・シフ、ヴィルトゥオーゾの伝統を一身に背負う個性派を代表する世界最高のピアニスト、アンドレイ・ガヴリーロフ。この二人のピアニストの凄い演奏をコロナの年の日本で聴けたのは大変な僥倖でしたが、実はお二人に共通点がありました。お二人とも奥様が日本人です。ですから、コロナ禍でも来日が可能になり、また、日本でのコンサートに意欲的だったわけです。

ともあれ、今日の演奏・・・異端のショパン、とても聴きたかったのですが、期待通りの素晴らしい演奏で、その響きは印象派のドビュッシーにつながることに初めて気づかされました。極めて、フランス風のエスプリに満ちたショパンは初体験です。最初に弾いた第1番のノクターンだけは、まだ、調子が出ずに濁った音色や弾きそこないもありましたが、それでかえって、ガヴリーロフがいかに繊細な演奏をしているのかを知ることができました。繊細さだけではなく、即興性も兼ね備えた究極のショパンでした。

リストのピアノ・ソナタ ロ短調・・・これはピアノ演奏の可能性の限りを尽くした、物凄い演奏で、ロマン性のかけらもなく、今を生きるピアニストの実存をかけた生命の証明をこの曲に託したという風情の圧巻の芸術でした。宗教性、愛、色んな要素をないまぜにした圧倒的な表現は恐るべき高みに上り、かって、若いころのリヒテルがカーネギーホールで響かせたライヴの名演を霞ませるほどの素晴らしさで深く感動するのみでした。こんな演奏を聴くと、今後、リストは誰が弾いても満足できないでしょう。しかし、リストは本当にこんな凄い作品を書いたのでしょうか。それとも、ガヴリーロフがこのリストの曲に託して、己のピアノ芸術を作り上げたものなのでしょうか。saraiは思うのです。音楽という芸術は作曲家と演奏家が互いをアウフヘーベンしてこそ、本当の芸術に昇華するものだと・・・。昨年、ルツェルン音楽祭で聴いたクルレンツィスのモーツァルトのダ・ポンテ3部作もそういう芸術だったと今更ながら、理解できました。(この演奏を聴いていて、脳裏に浮かんだイメージはベルニーニの最高傑作《福者ルドヴィカ》と《聖テレサの法悦》でした。宗教性と愛の渾然一体に思いが至りました。)


20分の休憩では湧き上がったsaraiの高揚感は静まるものではありません。高鳴る心のsaraiの前にガヴリーロフが現れて、前回のコンサートで聴きたくなったプロコフィエフの戦争ソナタを望み通り、演奏してくれます。第7番のソナタでは爆演に心を持っていかれたでしょうが、第8番は無機的で静謐な表現の中に人間の温かみを感じるような演奏が続きます。これが第2次世界大戦の最中に書かれたプロコフィエフの表現する実存、すなわち、人間を描いたものなのかと秘かに感じます。時として、爆発的な感情の炸裂もありますが、音楽の底には限界状況をじっと耐え抜いて、生き抜く人間の切なさがあります。第3楽章に至り、テンポよく音楽が展開していきます。そして、ガヴリーロフのピアノがどんどん熱く燃え上がって、ある種のカタルシスに至り、深い感動と共感が生まれます。ピアノは突然のように終わり、同時にガヴリーロフはピアノの前から、軽業師のように立ち上がります。完璧な終止です。

ショパン、リスト、プロコフィエフ、聴きたいものはすべて聴き尽くした思いです。ガヴリーロフも燃焼し尽くしたでしょうが、saraiもともに燃焼し尽くしました。完全燃焼とはかくも爽やかな思いに至るものなのですね。

アンコール曲3曲・・・すべて、凄い演奏。何も語る言葉はありません。最後は愛してやまないモーツァルトの幻想曲ニ短調。saraiの心の奥底を見透かしたかのような選曲と演奏。グレン・グールドの演奏が究極だと思っていましたが、こんな演奏があるとは、絶句です。

ホロヴィッツもリヒテルも実演は聴かず終いでしたが、そんなことを吹き飛ばしてくれるような破格の巨人、ガヴリーロフの究極の演奏に究極の満足感を覚えました。


この日のプログラムは以下の内容です。

 ピアノ:アンドレイ・ガヴリーロフ

  ショパン:夜想曲 第1番ロ短調 Op.9-1 / 第8番変ニ長調 Op.27-2 / 第4番ヘ長調 Op.15-1 / 第20番嬰ハ短調(遺作)
  リスト: ピアノ・ソナタ ロ短調

  《休憩》

  プロコフィエフ: ピアノ・ソナタ 第8番 Op.84「戦争ソナタ」

  《アンコール》

    ラフマニノフ:幻想的小品集 第1曲 エレジー 変ホ短調 Op.3-1
    プロコフィエフ:4つの小品 悪魔的暗示 Op.4-4
    モーツァルト:幻想曲 ニ短調 K.397/385g


最後に予習について触れておきます。

1曲目のショパンの夜想曲はもちろん、ガヴリーロフのCDで予習をしました。

  アンドレイ・ガヴリーロフ 2013年録音

こんな夜想曲は聴いたことがありません。ガヴリーロフのリサイタルの予習は彼の演奏を聴くしかありません。クルレンツィスと同じですね。


2曲目のリストのピアノ・ソナタ ロ短調は以下のCDで予習をしました。

  スヴィヤトスラフ・リヒテル 1965年5月18日 ニューヨーク、カーネギー・ホール ライヴ録音

若い頃のリヒテルでしか弾けないような没入感たっぷりの演奏です。究極の演奏だと思っていました。今日のガヴリーロフを聴くまでは・・・。


3曲目のプロコフィエフのピアノ・ソナタ 第8番はもちろん、ガヴリーロフのCDで予習をしました。

  アンドレイ・ガヴリーロフ 1992年録音

ガヴリーロフは2000年頃を境に変わったのではないでしょうか。この演奏も凄いけれども、今のガヴリーロフの予習にはなり得ないと思います。ただ、再録音してほしいとは思いません。実演を聴けば分かりますが、彼の即興性は録音できるような代物ではありません。



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       ガヴリーロフ,  

コロナ禍に爽やかな風のごときモーツァルト・・・沼尻竜典&東京交響楽団:モーツァルト・マチネ 第43回@ミューザ川崎シンフォニーホール 2020.11.21

今日は朝11時からのミューザ川崎でのモーツァルト・マチネ。いつもながら、朝が弱いsaraiには毎回、結構きつい時間帯のコンサートです。そういうsaraiをすっきり爽やかにしてくれる素晴らしい演奏でした。
最初のモーツァルトの交響曲第32番はとても短い3楽章構成の作品で20代前半のモーツァルトによる簡明なものです。しかし、今日の沼尻竜典指揮の東響はその簡明さを爽やかに吹き抜ける風のように瑞々しく表現してくれました。その魅力たっぷりの演奏に大変満足しました。とりわけ、東響の弦楽セクションの響きの美しさは際立っていました。こういう演奏を聴いていると、東響の演奏でモーツァルトの全交響曲を聴いてみたくなります。

次はハイドンのトランペット協奏曲。ハイドンが60代半ばで作曲した熟達した作品です。東響の首席トランペット奏者の佐藤友紀が張りのある音色で晴れやかに演奏してくれました。もう少し、抑えた響きのほうがsaraiの好みではありますが、カデンツァも華麗に演奏し、全体に勢いに満ちた音楽を披露してくれました。この作品も15分ほどの短い作品ですが、十分に楽しめました。

最後はモーツァルトの交響曲第38番「プラハ」。沼尻竜典のめりはりのある表現、東響のアンサンブルの素晴らしさが相俟って、圧巻のモーツァルトを味わえました。第1楽章の主題提示部は両翼に配置したヴァイオリンの素晴らしい響きに魅了され、展開部はぞくぞくするような勢いに満ちた演奏、そして、再現部ではまたしても素晴らしい両翼のヴァイオリンの響きに魅了されます。第2楽章は優美な音楽が古き良き時代の感慨に我々を導いてくれます。第3楽章も早いテンポの音楽が素晴らしいヴァイオリン群の響きで進行し、フィナーレへの高潮ぶりは最高の盛り上がりで聴くものを魅了してくれました。沼尻竜典のツボを押さえた指揮に感銘を覚えるとともに、東響の弦楽アンサンブルの素晴らしさにモーツァルトの音楽の極みを感じ取ることができました。最高の爽やかな音楽に気分も最高になりました。東響ファンとしても嬉しいコンサートでした。あとはジョナサン・ノットの来日で年末の第9を締めてほしいものです。14日の隔離までしての来日は大変、難しいでしょうけどね・・・。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:沼尻竜典(ジョナサン・ノットの代演)
  トランペット:佐藤友紀(東京交響楽団首席トランペット奏者)
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:グレブ・ニキティン

  モーツァルト:交響曲第32番 ト長調 K.318
  ハイドン:トランペット協奏曲
  モーツァルト:交響曲第38番 ニ長調「プラハ」 K.504

   休憩なし


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のモーツァルトの交響曲第32番を予習したCDは以下です。

 ヨーゼフ・クリップス指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1973年6月 セッション録音

特に凄い演奏ではありませんが、アムステルダム・コンセルトヘボウの美しい響きを活かした安定した演奏です。


2曲目のハイドンのトランペット協奏曲を予習したCDは以下です。

 アリソン・バルサム(トランペット、指揮)、ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン 2008年 セッション録音

とても満足できる指揮とトランペット。美貌の新星です。


3曲目のモーツァルトの交響曲第38番「プラハ」を予習したCDは以下です。

 ヨーゼフ・クリップス指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1972年11月 セッション録音

これは素晴らしい演奏です。クリップスの面目躍如でコンセルトヘボウも素晴らしい響き。圧巻の演奏です。これ以上の演奏は聴いたことがありません。もし、これを超えるとすれば、クルレンツィスくらいでしょう。



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小菅優の矢代秋雄(ピアノ協奏曲)の熱演に深い感銘! 東京交響楽団も絶好調!@サントリーホール 2020.11.15

矢代秋雄のピアノ協奏曲は初めて聴きましたが、大変、感銘を覚えました。日本人の作曲家の作品でこのように感情の昂ぶりを感じたことはありません。恥ずかしながら、あまり、日本人の作品を聴いていないので、強くは言えませんが、日本人の作品としては最高のものだと確信しました。こういう才能が日本にもいたんですね。それにしても、saraiにそう感じさせた小菅優のピアノ演奏の素晴らしさには賛辞をいくら重ねても足りないほどです。彼女のものに取り憑かれたような、作品への集中、さらには没入ぶりは恐ろしくなるほどでした。そして、彼女の演奏の熱い昂ぶりにsaraiも深く共感しました。
矢代秋雄のピアノ協奏曲は夜の音楽です。第1楽章は夜の初めの喧騒感も漂わせますが、第2楽章は深夜の静寂や熱っぽさ、そして、第3楽章は夜明けに向かう前触れを予感します。夜の音楽を描いたバルトークに精神の深い奥底の核の部分で共鳴したのではないかとsaraiは秘かに感じました。そして、バルトークのバルバリズムさえも感じます。無論、この曲がバルトークに似ているというつもりはありません。精神の深い部分でつながりを感じるというだけです。それにしても、この音楽が発する強烈なエネルギーには無茶苦茶インスパイアされます。自分の精神がどこかに吹き飛ばされそうな恐ろしさも感じます。うーん、今日、聴いたばかりですが、また、聴きたくなりました。小菅優のピアノ、そして、矢代秋雄の音楽・・・素晴らし過ぎました!
書き忘れそうになりましたが、広上淳一が指揮した東響の演奏も凄まじかったです。ピアノに遠慮なしに大音量での演奏でしたが、この曲の本質に迫る素晴らしい演奏でした。ピアノも熱かったのですが、オーケストラも実に熱かった。夜の闇の深い静寂と狂奔する精神の混在。実に狂おしい音楽が見事に表現されました。
ところで、小菅優の弾いたアンコール曲がショパンとはね・・・うまく、いなされました。

後半のプログラムのベートーヴェンの交響曲第4番は東響のアンサンブルが見事に機能した素晴らしい演奏でした。それにしてもこの曲は第3番と第5番という凄い曲に挟まれているのに、ある意味、軽いノリの音楽にしたベートーヴェンの意図はどこにあったのかと自分に問い続けながら、聴き入っていました。ベートーヴェンの心に浮かぶ楽想は熱く燃え上がるものばかりでなく、穏やかで軽みのあるものもあったということでしょうか。第9番の前の第8番も然りです。シューマンが評したという「ギリシャの可憐な乙女」は果たして褒め言葉なのか・・・そうとしか表現できなかったのでは? saraiがこの曲を今日の演奏のように楽しむことはあっても、第3番や第5番のように感動することは決してないでしょう。ちなみにsaraiはこの曲は好きですよ。終演後、大いに拍手を送りました。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:広上淳一(ジョナサン・ノットの代演)
  ピアノ:小菅優
  管弦楽:東京交響楽団  コンサートマスター:水谷晃

  ベートーヴェン:序曲 ハ長調「命名祝日」Op.115
  矢代秋雄:ピアノ協奏曲
   《アンコール》ショパン:ノクターン第5番 嬰ヘ長調 Op.15-2

   《休憩》

  ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調 Op.60


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のベートーヴェンの序曲「命名祝日」は以下のCDを聴きました。

 クラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1990年10月 ウィーン、ムジークフェラインザール セッション録音

この曲は希少な録音しかない中、このCDはとても貴重な録音です。演奏は何も文句ない見事さです。



2曲目の矢代秋雄のピアノ協奏曲の予習は以下のYOUTUBEで聴きました。

  河村尚子、山田和樹指揮NHK交響楽団 2019年4月20日 NHKホール

河村尚子のピアノは切れ味のある素晴らしい演奏ですが、なぜか、オーケストラ、特に弦の響きが浅いのが気になります。演奏の問題か、録音の問題かは分かりません。気持ちが悪いので、別の演奏を聴き直します。

  岡田博美、湯浅卓雄指揮アルスター管弦楽団 2001年6月 アルスター・ホール、ベルファスト、北アイルランド セッション録音

これはピアノもオーケストラも素晴らしい演奏です。俄然、コンサートで実演を聴くのが楽しみになります。


3曲目のベートーヴェンの交響曲第4番は以下のCDを聴きました。

 カルロス・クライバー指揮バイエルン国立管弦楽団 1982年5月3日、バイエルン国立歌劇場 カール・ベーム追悼コンサート ライヴ録音
 
意外にきっちりした古典的とも言える演奏です。むしろ、昔聴いたバーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルの溌剌とした演奏が懐かしく思い出されます。



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底知れぬ実力のマツーエフのプロコフィエフ、そして、ゲルギエフ&ウィーン・フィルの「悲愴」の深い慟哭に共感と感動@サントリーホール 2020.11.10

これは特別なコンサートです。コロナ禍の中、あり得ないような場に立ち会った思いです。今日、サントリーホールに集まった聴衆のみなさんはそれぞれ、深い思いを胸に刻んだことでしょう。こんなに真剣に演奏するウィーン・フィルは初めて見ました。聴衆と音楽家がこれほど共感しあったコンサートは稀有なことです。「悲愴」の演奏の前にウィーン・フィルの楽団長のダニエル・フロシャウアーから異例のメッセージがありました。世界中でコロナの犠牲になった人々にこの演奏を捧げ、演奏後は黙とうを捧げたいというものです。奇跡のように実現したウィーン・フィルの来日公演。彼らはこの後、帰国しても演奏の場はありません・・・少なくとも11月末まではウィーンの劇場は閉鎖しています。

ゲルギエフが全身全霊を傾けて指揮した「悲愴」は両端楽章の第1楽章と第4楽章の慟哭するような音楽がすべてでした。2004年に彼らが録音した演奏はゲルギエフの故郷、北オセチアの小学校における大惨事の直後だったので、まるで大地が慟哭するような演奏でしたが、今日はゲルギエフもウィーン・フィルも聴衆もコロナの影響下にあり、途轍もない共感が生まれ、人間の熱い感情、哀しみにあふれた慟哭がホール全体を包み込みました。これ以上、言葉で表す能力はsaraiにはありません。音楽のチカラにあらためて、驚かされるばかりです。終演後、saraiは隣席の見も知らぬ女性に素晴らしかったですねって、思わず声を掛けてしまいました。彼女もsaraiと同様に感動していたのが見てとれたからです。彼女はぽつりと、ウィーン・フィルが来てくれてよかった・・・と答えたきり、言葉を詰まらせます。深い思いがほとばしり、嗚咽しています。saraiも絶句します。同じ思いです。いえいえ、聴衆全員が同じ思いを共有していたと思います。コロナに感染しなかった人たちも心に深い傷を負ったと思います。その共通体験がこのウィーン・フィルの「悲愴」である意味、昇華したのかもしれません。この場に居合わせた誰もが忘れられないコンサートになったことでしょう。もちろん、saraiも隣席の女性も・・・。

前半の演奏も素晴らしかったんです。とりわけ、デニス・マツーエフのプロコフィエフの演奏には底知れぬ実力を思い知らされました。しかし、今日はそれを書く気力はありません。後半の「悲愴」で音楽の持つ途轍もないチカラを感じさせられましたからね。こういう音楽を聴くと、言葉はチカラを失います。ブログで音楽の感想を書けずに申し訳けありません。こういうコンサートに遭遇してしまったということです。一生に何回もあることではありません。ウィーン・フィルの面々にとってもそうだったのではと想像します。

こういう場を作ってくれたウィーン・フィル、ゲルギエフ、聴衆、関係者のみなさんに感謝の心を捧げ、コロナ禍で犠牲になった人々に哀悼の意を捧げるということでつたない記事を終えます。


今日のプログラムは以下のとおりです。

  指揮:ワレリー・ゲルギエフ
  ピアノ:デニス・マツーエフ
  管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 コンサートマスター:フォルクハルト・シュトイデ&アルベナ・ダナイローヴァ

  プロコフィエフ:バレエ音楽『ロメオとジュリエット』Op.64 より
    「モンタギュー家とキャピュレット家」
    「少女ジュリエット」
    「仮面」
    「ジュリエットの墓の前のロメオ」
  プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番 ト短調 Op.16
   《アンコール》グリーグ:組曲『ペール・ギュント』第1番 より 第4曲「山の魔王の宮殿にて」

   《休憩》

  チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 Op.74「悲愴」

   《アンコール》
    チャイコフスキー:『眠りの森の美女』より「パノラマ」


最後に予習について、まとめておきます。

プロコフィエフのバレエ音楽『ロメオとジュリエット』を予習したCDは以下です。

  リッカルド・ムーティ指揮シカゴ交響楽団 2013年10月 シカゴ、オーケストラ・ホール ライヴ録音

意外と言っては失礼ですが、シカゴ響の演奏能力を引き出して、ムーティは見事な演奏を聴かせてくれます。バレエのシーンを彷彿とさせてくれます。


プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番を予習したCDは以下です。

  アンナ・ヴィニツカヤ、ギルバート・ヴァルガ指揮ベルリン・ドイツ交響楽団 2010年4月 セッション録音

これはもう10年前の録音ですが、アンナ・ヴィニツカヤのピアノは実演で聴いた通りの凄い演奏です。テクニックも切れ味もそして、豪快さも兼ね備えていますが、一番素晴らしいのは濃厚なロマン、もっと言えば、色気があることに驚愕します。彼女がこの曲でベルリン・フィルにデビューしたのは昨年、2019年のことです。恐るべきピアニストです。


チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」を予習したCDは以下です。

  ワレリー・ゲルギエフ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 2004年9月、ウィーン、ムジークフェラインザール ライヴ録音

当時話題になった、この録音ももう15年以上も前のことです。第1楽章、そして、第4楽章は大地が慟哭するような凄まじい演奏です。現在はあまり評価されていないのが不思議です。ゲルギエフの故郷、北オセチアの小学校において大惨事が起きた時期と重なり、何よりもロシア、なによりも故郷を愛するゲルギエフは最悪の状態だったと言うことで、コンサート中も涙を流しながらの指揮だったようです。なお、同年11月にウィーン・フィルを率いて来日した際には、サントリーホールにて「北オセチアに捧げる心の支援」と題して、この「悲愴」1曲だけのチャリティー・コンサートを行なったそうです。それを聴いた友人の話では終演後の拍手はなく、聴衆は無言で立ち去った感動のコンサートだったそうです。公演直前に新潟県中越地震が発生したため、収益の半分はこの地震の被災地に寄付されたそうです。



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元気印、小川典子のピアノは迫力満点@ミューザ川崎シンフォニーホール 2020.11.7

健康で溌剌とした小川典子のピアノに元気づけられるようなピアノ・リサイタルでした。とりわけ、プロコフィエフのいわゆる戦争ソナタは彼女のパワフルな演奏が炸裂。第1楽章と第3楽章の高速パートは凄まじい演奏に圧倒される思いでした。

最初のラフマニノフの前奏曲も切れがよく、そして、よく響くタッチの演奏に魅了されます。ラフマニノフにしてはいささか健康過ぎるきらいもありますが、これが彼女の持ち味でしょう。超絶的なパートの演奏は素晴らしいものです。ただ、ラフマニノフの暗い情念やどうしようもない、やるせなさはほとんど聴こえてきません。ラフマニノフの明るいピアニスティックな面だけが強調されるような演奏です。したがって、少し、演奏が単調に聴こえてしまいます。まあ、こういう演奏もあるのかもしれませんが、saraiとしては今一つです。

次のプロコフィエフは第1楽章から素晴らしい響きと切れの良いタッチでぐんぐん進んでいきます。明快で硬質な表現はプロコフィエフの本質に迫るものです。第2楽章の繊細な表現が今一つに感じますが、第3楽章は圧巻の力強い表現で圧倒してくれます。これこそ戦争ソナタです。見事な演奏に満足です。

最後の「展覧会の絵」は気合のこもった激しいタッチの演奏でピアノの楽しさを感じさせてくれます。一部、単調に思えるパートもありましたが、《キエフの大門》の盛り上がりは凄まじく、小川典子の良い面が出た演奏でした。

アンコールはヴォカリーズ。美しい演奏でしたが、もっと魅了してくれるような演奏だったらと大満足とまではいきません。弾き込み不足かな。あるいはそれまでに大曲、難曲を演奏したので疲れたのかしらね。


今日のプログラムは以下です。


  ラフマニノフ:「10の前奏曲」Op.23から 第1番、第4番、第5番、第6番、第7番
  ラフマニノフ:「13の前奏曲」Op.32から 第7番、第10番、第12番
  プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ 第7番 変ロ長調 Op.83

   《休憩》

  ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」

   《アンコール》

    ラフマニノフ(小川典子編):ヴォカリーズ ホ短調 Op.34-14(ピアノ独奏版)


最後に予習について、まとめておきます。以下のCDを聴きました。

最初のラフマニノフの前奏曲、8曲は以下のCDを聴きました。

 ニコライ・ルガンスキー 2017年9月 ブリュッセル、ル・フラジェ セッション録音
 
期待して聴きましたが、期待を超える素晴らしさ。ルガンスキーは素晴らしい。


2番目のプロコフィエフのピアノ・ソナタ 第7番は以下のCDを聴きました。

 アレクサンドル・メルニコフ 2018年8月、2019年1月 テルデックス・スタジオ、ベルリン セッション録音
 
メルニコフはリヒテルの弟子だそうで、初演したリヒテルに学んだ演奏だとのこと。切れのある演奏はもちろんですが、深い味わいも感じられる優れた演奏です。


3番目のムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」は以下のCDを聴きました。

 小川典子 1997年8月 ダンデリード・ギムナジウム、スウェーデン セッション録音
 
自筆譜に基づく珍しい演奏です。もっともどこが違うのかはよく分かりませんが・・・。前半は少し平板な演奏ですが、後半は盛り上がります。少し、うるさい表現ではあります。後半だけをキーシンの演奏と比べると、キーシンはスケールの大きな明晰な演奏です。



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晴れ後曇り、最高のハイドンとウェーベルン、ベートーヴェンはあれっ? アミティ・カルテット@鶴見サルビアホール 2020.11.4

今日の100席限定の鶴見サルビアホール(音楽ホール)も席数を半減して50席だけでの公演です。今回ももちろん日本人カルテットによる演奏です。極めつけの室内楽ファンが集結して貴重な公演を楽しみます。

若くて優秀な4人がいきのいい演奏を聴かせてくれます。前半のハイドンは冒頭の響きで素晴らしい演奏になることを確信しましたが、リッチな響きで4人が自発性のある演奏を繰り広げます。ハイドンの最後期の名曲を堪能しました。とりわけ、第1楽章の跳ねるような勢いの演奏が印象的でした。
前半の2曲目はウェーベルン。初期の作品で後期ロマン派の香り高く、その後の無調作品とはまったく別物です。実演で聴くのは初めてかもしれません。若い4人は思いっ切り、美しさを際立てる演奏です。そのメローで抒情的な演奏に魂が揺れてしまいます。彼らの演奏は本当に上手い。常設の四重奏団ではないようですが、かえって、その利点、新鮮さが際立ちます。

後半のプログラムはベートーヴェンの最高傑作、弦楽四重奏曲 第14番 Op.131です。このホールでは、ロータス・カルテットの素晴らしい演奏が響き渡りましたが、今日の彼らはそれに迫るような演奏が期待できそうです。ところが、冒頭の第1ヴァイオリンのソロ演奏が始まり、あれっ・・・。まあ、趣味の問題もあるでしょうが、まったく心に響かない演奏です。ベートーヴェンが己の芸術の集大成とした音楽とは異なる表現に思えます。対位法的に第2ヴァイオリン、ヴィオラと受け継ぎ、少し、音楽表現的に挽回しますが、やはり、第1ヴァイオリンの表現がはまってきません。そう言えば、この曲の名演はすべて第1ヴァイオリンの名手がリードする弦楽四重奏団ばかりです。ブッシュ四重奏団、ブダペスト四重奏団、リンゼイ四重奏団・・・。彼らが表現したのはベートーヴェンが長い芸術創造の果てに辿り着いた境地、苦難を乗り越えた先の諦念や祈り、そして、それでも生き抜くという人間の雄々しさがあるとsaraiは思っています。そういう深い精神性に満ちた音楽表現が必須だと思いますが、そういう面で物足りない演奏に終始しました。演奏技術は素晴らしいのですが、それだけで満足できる音楽ではありません。これからの彼らの熟成を待ちたいと思います。常設の弦楽四重奏団ではないので仕方がない面もあるのでしょう。これからを期待しています。


今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:アミティ・カルテット
   尾池亜美 vn 須山暢大 vn 安達真理 vn 山澤 慧 vn

   ハイドン:弦楽四重奏曲 第66(81)番 ト長調 Op.77-1 Hob. III: 81「ロプコヴィッツ」
   ウェーベルン:弦楽四重奏のための緩徐楽章

   《休憩》

  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調 Op.131

   《アンコール》
    なし

最後に予習について触れておきます。

1曲目のハイドンの弦楽四重奏曲 第66(81)番 Op.77-1は以下のCDを聴きました。

 アマデウス弦楽四重奏団 1964年3月 ドイツ、ハノーファー セッション録音

アマデウス弦楽四重奏団らしい明快な演奏です。素晴らしいハイドンを満足して聴きました。


2曲目のウェーベルンの弦楽四重奏のための緩徐楽章は以下のCDを聴きました。

 エマーソン・カルテット 1992年10月  ニューヨーク州立大学パーチェス校、パフォーミングアーツセンター セッション録音

こういうロマンティックな曲を演奏させると、エマーソン・カルテットの美しい響きと最高のテクニックが光ります。手元に置いておきたい一枚です。


3曲目のベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第14番 Op.131は以下のCDを聴きました。

 リンゼイ弦楽四重奏団(リンゼイズ) 1983年録音

ステレオなら、このリンゼイズ(旧録音)、モノラルなら、ブッシュ四重奏団がこの曲の最高の演奏だとsaraiは確信しています。その深い味わいには感銘を覚えるのみです。予習ではなく、楽しみで聴きました。



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素晴らしいヘンデル《リナルド》の上演 鈴木優人指揮バッハ・コレギウム・ジャパン@東京オペラシティコンサートホール 2020.11.3

今年は結局、これが唯一、鑑賞するオペラになってしまいました。オペラの鑑賞を始めて、こんな年はこれまでありません。恐るべし! コロナ・・・。
そもそも、オペラは基本、ヨーロッパに遠征して鑑賞してきたので、今年のようにヨーロッパ遠征を中止せざるを得なかったので、当然の結果です。本来はウィーン国立歌劇場のチケットを買ってありました。ベートーヴェンイヤーなので、《フィデリオ》ほかを鑑賞する予定でした。ぶつぶつ・・・。

しかし、今日のオペラは期待した以上の出色の出来でした。バロックオペラはやはり、オーケストラがよくなくてはいけませんが、さすが、BCJ(バッハ・コレギウム・ジャパン)の名人プレーヤー集団は見事な演奏でした。コンミスの若松夏美率いる弦楽パート、チェロの山本徹などの通奏低音、オーボエの三宮正満を中心とした管楽パート、いずれも素晴らしい演奏で、ヘンデルの管弦楽曲を堪能させてくれました。このレベルの演奏はヨーロッパでもなかなか聴けません。歌手と器楽ソロが絶妙に絡むところは最高でした。とりわけ、オーボエの三宮正満の素晴らしい演奏といったら、超絶的とも思えます。そうそう、フラジオレットというリコーダーの小型のような楽器は初めて聴きましたが、素晴らしい音色、響きでした。

これに海外から招聘した歌手が加われば、万全の筈でしたが、今日はもちろん、全員、日本人歌手です。しかし、代役の日本人歌手も十分な歌唱で満足の出来でした。ソプラノのレイチェル・ニコルズだけは何としても聴きたかったのですが、代役の中江早希が素晴らしい声量の歌唱で満足させてくれました。やはり、森麻季はいいですね。だんだん、聴くたびに成長しているのが分かります。文句なしの出来栄えでした。リナルド役の代役となった藤木大地もCTとして美声を聴かせてくれました。saraiの好みの声の響きなので、何も問題ありません。アルガンテ役の大西宇宙も素晴らしいバリトンの声を聴かせてくれました。そうそう、セイレーン役の松井亜希と澤江衣里はBCJのお馴染みのメンバーですが、この役にはもったいないほどの歌唱を聴かせてくれました。

こういうレベルのバロックオペラが日本で聴けるのなら、お隣の新国立劇場で定期的にやってもらいたいものです。ヨーロッパのオペラハウスでもバロックオペラはバロックアンサンブルがピットに入っています。まあ、このオペラシティでセミ・ステージ形式でやってもらっても問題はありませんが、頻繁にバロックオペラを聴きたいというだけのことです。年間、3つか4つくらいやってくれればと念願します。


今日のプログラムは以下です。

 ヘンデル 歌劇 ≪リナルド≫ HWV7a 1711年版 <全3幕> セミ・ステージ形式・イタリア語上演・日本語字幕付

  指揮・チェンバロ:鈴木優人
  演出:砂川真緒
  管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン  コンサートマスター:若松夏美

  アルミレーナ:森麻季(ソプラノ) / アルミーダ:中江早希(ソプラノ) / 魔法使い:波多野睦美(アルト)
  リナルド: 藤木大地(カウンターテナー) / ゴッフレード:久保法之(カウンターテナー) / エウスタツィオ:青木洋也(カウンターテナー)
  アルガンテ:大西宇宙(バリトン)
  使者:谷口洋介(テノール) / セイレーン(人魚たち):松井亜希(ソプラノ) / セイレーン(人魚たち):澤江衣里(ソプラノ)


最後に予習について、まとめておきます。

以下の放送録画を視聴しました。

 ヘンデル 歌劇《リナルド》 グラインドボーン音楽祭 2011

  リナルド:ソニア・プリーナ
  アルミレーナ:アネット・フリッチュ
  アルミーダ:ブレンダ・ラエ
  アルガンテ:ルカ・ピサローニ

  演出:ロバート・カーセン
  指揮:オッターヴィオ・ダントーネ
  エイジ・オブ・エンライトゥンメント管弦楽団

  2011年8月、イギリス、グラインドボーン歌劇場、グラインドボーン音楽祭(ライヴ)
 
何と言ってもロバート・カーセンの演出が面白くて、なかなかの出来です。学校の教室を舞台にオペラが演じられます。歌手も個性的な歌唱を聴かせてくれます。



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       バッハ・コレギウム・ジャパン,  

上原彩子の熱いシューマン、秋山和慶の爽やかなシューマン 新日フィル・オール・シューマン・プログラム@すみだトリフォニーホール 2020.10.30

今日は新日フィルのオール・シューマン・プログラム。なかでも上原彩子が弾くシューマンのピアノ協奏曲が注目されます。ロシアものからレパートリーを広げてきた上原彩子がドイツのロマン派の中核をなすシューマンに挑戦します。

前半、まずは劇音楽『マンフレッド』の序曲です。新日フィルの美しい弦パートはシューマンのロマンに満ちた名作に向いた響きです。爽やかな演奏で魅了してくれました。
次いで、上原彩子が弾くピアノ協奏曲。冒頭、ちょっと力が入り過ぎた感がありますが、すぐに修正します。第1楽章、第2楽章はまあまあの出来でしょうか。彼女が真骨頂を発揮し始めたのは第3楽章の中盤からです。細かいパッセージを切れの良いタッチで見事に演奏し、次第に音楽が高潮していきます。ヴィルトゥオーソ的にスケールが大きく、力強い演奏で熱く燃え上がっていきます。高い集中力を発揮する演奏は彼女の持ち味です。フィナーレは熱いシューマンでした。まだまだ、課題は残すものの及第点のシューマンだったでしょう。
アンコールで弾いたトロイメライはとても丁寧に心を込めた演奏でしみじみと聴かせてもらいました。先日も《子供の情景》を聴いたばかりでしたが、今日は格別の演奏でした。

後半は交響曲第3番「ライン」。これは素晴らしい演奏でした。秋山和慶の若々しく爽やかな表現を志向する指揮で、新日フィルの弦楽パートの美しいアンサンブルが憧れに満ちたシューマンの名作を歌い上げます。とりわけ、第4楽章は素晴らしい演奏です。ケルンの大聖堂にインスピレーションを得て、シューマンが作曲したと言われますが、そういう重厚さよりも、哀愁に満ちた音楽が心を打ちます。シューマンが晩年に作り上げた音楽はその後の彼の悲劇を予感するものでもあります。狂気こそ感じられませんが、滅びの美しさを秘めた美しい音楽が魂を揺さぶります。最後の第5楽章はそれを振り払うように祝典的に勢いよく盛り上がり、シューマンの実質的に最後の交響曲をパーフェクトに演奏し切りました。これぞシューマンという素晴らしい演奏でした。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:秋山和慶
  ピアノ:上原彩子
  管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団  コンサートマスター:崔文洙

  シューマン:劇音楽『マンフレッド』序曲 Op.115
  シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 Op.54

   《休憩》

  シューマン:交響曲第3番 変ホ長調 Op.97「ライン」


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のシューマンの『マンフレッド』序曲は以下のCDを聴きました。

 ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団 1978年9月27-30日 ミュンヘン、ヘルクレスザール セッション録音
 
クーベリックのシューマンはいいですね。saraiに初めて、シューマンのオーケストラ作品のよさを教えてくれたのがクーベリック指揮バイエルン放送交響楽団です。


2曲目のシューマンのピアノ協奏曲は以下のCDを聴きました。

 スヴャトスラフ・リヒテル、リッカルド・ムーティ指揮ウィーン・フィル 1972年8月17日 ザルツブルク音楽祭、祝祭大劇場 ライヴ録音
 
期待して聴きましたが、期待以上の演奏ではありません。もちろん、水準以上の演奏だし、第3楽章は素晴らしいです。この曲は演奏が難しく、なかなか、これというものがありません。結局、古いリパッティやハスキルの演奏に行きつきます。


3曲目のシューマンの交響曲第3番「ライン」は以下のCDを聴きました。

 ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮シュターツカペレ・ドレスデン 1972年9月1-12日 ドレスデン、ルカ教会 セッション録音

シュターツカペレ・ドレスデンらしい明快な響きの演奏。サヴァリッシュも手堅い指揮。



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       上原彩子,  

河村尚子、これぞラフマニノフ! with 読売日本交響楽団@東京芸術劇場コンサートホール 2020.10.25

河村尚子のラフマニノフが聴きたくて、急遽、チケットを購入して、コンサートに駆けつけました。期待以上の演奏に感動しました。まず、その硬質なタッチのピアノの響きに魅了されます。先日のリサイタルでのモーツァルト、シューベルト、ショパンもよかったけれど、今日のラフマニノフはまさに自由奔放な演奏で軛から解放されたみたいで、本領発揮です。切れのある演奏にしびれます。その素晴らしい河村尚子のピアノの響きを見事に支えるのは老境の小林研一郎。ピアノがメロディーを弾いても、分散和音を散りばめても、オーケストラはピアノの響きを際立たせます。素晴らしいサポートです。変奏がどんどん進み、第17変奏の素晴らしい分散和音のピアノが音楽を盛り上げていき、遂に有名な第18変奏の美しいメロディーに至ります。ロシアを去り、ルツェルンの湖畔に居を構えたラフマニノフの故国へのノスタルジックな思いが凝縮されたような哀愁を誘うメロディーが素晴らしく美しい音色で演奏され、saraiは感極まります。音楽は頂点を迎え、独奏ピアノにオーケストラの美しい弦が重なります。普通はオーケストラを思いっきりドライブするところですが、小林研一郎の指揮は微妙に音量を抑え、ピアノの響きを浮き立たせます。もう、うるうるしながら、この美しい音楽に耳を傾けるsaraiです。頂点を過ぎて、最後にまた回想するようにピアノのソロで抒情的なメロディーが歌われます。うーん、最高! そして、第19変奏に入り、ピアノは勢いよく突進していきます。その素晴らしいタッチに魅了されます。思わず、河村尚子の足がペダルを踏む様を観察します。左足でリズムをとりながら、右足で軽くペダルに触れています。実に歯切れのよいピアノはほぼノンペダルですね。《怒りの日》の旋律も交えながら、フィナーレに向かって疾走。最後は痛快にフィナーレ。素晴らしい演奏でした。こんなラフマニノフが弾けるのだから、もう、ショパンは弾かなくてもいいのにと内心思ってしまいます。そんなsaraiの思いを嘲笑うがごとく、小林研一郎にステージの袖でうながされて、弾き始めたアンコール曲は何とショパンの夜想曲(遺作)です。これがまた、飛びっきり美しいショパンです。内心苦笑しつつもそのショパンに魅了される、情けないsaraiです。
でも、今度はショパンじゃなくて、プロコフィエフの戦争ソナタが聴きたいよ ⇒ 河村尚子

今日のコンサートはグリンカの歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲で始まりました。80歳の御年とは思えない小林研一郎の元気良い指揮で派手な演奏。さすがに読響のアンサンブルは最高です。それに今日は小森谷巧と長原幸太のダブルコンマスと気合がはいっています。後で知りましたが、小林研一郎は代役だったんですね。本来は何とロトだったんです。コロナがなければ、ウィーンで聴けた筈のロト・・・。うーん、でも我が国が誇る至宝、小林研一郎が代役ですから、何も問題ありません。

後半はベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。小林研一郎はどんな「英雄」を聴かせてくれるんでしょう。まず、冒頭のジャン、ジャン。素晴らしい響きです。その後は何と美しいアンサンブルの響きが続きます。雄渾さとか勢いとかは完全封印。小林研一郎の手もほとんど動きません。テンポは中庸でほぼインテンポ。読響の美しいアンサンブルの響きが静かに流れていきます。この曲は作曲当時、革新的な作品として登場しましたが、今日は古典美に満ちた作品として演奏されます。小林研一郎は齢80にして、この境地に至ったのでしょうか。でも、枯れた演奏ではなく、この曲を静謐に室内オーケストラのようにあえて演奏しているようです。むしろ、80歳にして、思い切って、こういう演奏にチャレンジしたかのようです。そのまま、第2楽章に入ります。どうやら、彼はこの第2楽章を中心に据えた演奏を試みているようです。どっしりとした葬送行進曲ではなく、深い抒情味に満ちたベートーヴェンの精神世界を表現しています。うーん、こんな演奏もあるのね。読響の美しいアンサンブルなくしては成立しない音楽表現です。若い指揮者がこんな演奏をしたら、何を言われるか、分かりませんが、80歳の巨匠ゆえに許される音楽表現です。まあ、第2楽章までは納得できました。第3楽章、第4楽章も路線変更はなく、緩やかな音楽、室内オーケストラの箱庭的な表現が続きます。そういう響きできびきびとテンポアップすれば、最近はやりのオリジナル志向の音楽ですが、テンポはゆったりです。80歳の思い切った挑戦は面白かったのですが、音楽的にはあまり成功しなかったような気がします。やはり、この曲はフルトヴェングラー的なアプローチしかないでしょう。コバケン健在だけが印象付けられた演奏でした。

最後にマスクを着けたまま(今日の演奏者でマスクを着用していたのは指揮者の小林研一郎のみ!)、ご挨拶がありました。顔はマスクで隠されていますが、声を聴いて、小林研一郎だと確認できました。そして、アンコール曲が演奏されます。弦楽だけで飛びっきり美しいダニーボーイです。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:小林研一郎
  ピアノ:河村尚子
  管弦楽:読売日本交響楽団  コンサートマスター:小森谷巧

  グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
  ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43
   《アンコール》ショパン:ノクターン第20番 嬰ハ短調 遺作

   《休憩》

  ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 Op.55「英雄」

   《アンコール》
    ダニーボーイ(アイルランド民謡)


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のグリンカの歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲は以下のCDを聴きました。

 エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団 1981年11月29日 レニングラード・フィルハーモニック大ホール ライヴ録音
 
ムラヴィンスキーの鋼鉄のような指揮で鉄壁の演奏です。


2曲目のラフマニノフの《パガニーニの主題による狂詩曲》は以下のCDを聴きました。

 ヴァレンティナ・リシッツァ、マイケル・フランシス指揮 ロンドン交響楽団 2010年3月 ロンドン ライヴ録音
 
ヒラリー・ハーンの伴奏のような形で初めて聴いたときのリシッツァは正直、あまり感心しませんでしたが、今や、大きく成長しました。このラフマニノフの協奏曲全集も素晴らしい出来です。


3曲目のベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」は以下のLPを聴きました。

 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル 1950年6月20日 ベルリン ライヴ録音
 
先日購入したRIAS全集のLPレコードです。感想は不要でしょう。これ以上の演奏はフルトヴェングラーのほかの録音以外にはありません。



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       河村尚子,  

ロータス・カルテット改めロータス・トリオ?の最高のモーツァルト(ディヴェルティメント K.563)@鶴見サルビアホール 2020.10.22

本当はロータス・カルテットが4人揃って来日し、メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲全曲のチクルスをやってくれる筈で楽しみにしていました。しかし、コロナ禍のため、日本人3人だけの来日となり、弦楽四重奏曲の演奏はできず、弦楽三重奏曲の演奏となりました。弦楽三重奏曲は3声となってしまうため、古典派、ロマン派の時代を通じて、極端に曲が限られ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトくらいに限られます。sarai自身、CDでもはっきりと聴いた覚えはありません。ただ、調べると、所有するCD、LPにはありました。その珍しい曲に接する貴重な機会になります。

ロータス・カルテットは今や、saraiが愛好するカルテットのベスト3にはいります。たとえ、トリオの演奏になっても流石の演奏を聴かせてくれます。トリオだと、なぜか、立奏なんですね(もちろん、チェロは着席)。
前半はベートーヴェンの弦楽三重奏曲。ベートーヴェンは若いころに作品9の3曲を書いて、このジャンルの作曲はやめて、弦楽四重奏曲に打ち込みます。今日はその中の1曲。Op.9-1です。
ロータス・カルテットの3人の演奏は見事ですが、はっきり言って、この曲は物足りません。やはり、3声では、ベートーヴェンの真骨頂が活かされない感じです。ベートーヴェンが作品9の3曲だけ書いて、このジャンルから撤退したことが分かるような気がします。西洋音楽の基本はやっぱり、4声以上なのねって実感させられます。バロックのトリオソナタは通奏低音が入りますから、実際は4声以上の音楽です。

後半のモーツァルトのディヴェルティメント K.563は同じ弦楽三重奏ですが、これはベートーヴェンと違って、とても充実した作品です。では、3声だから表現力がないというわけではないのですね。このモーツァルト晩年(モーツァルト32歳、3大交響曲の直後に作曲)の名作をロータス・カルテットの3人が最高の演奏で聴かせてくれます。第1楽章の豊かな響き、そして、第2楽章の哀愁のあるアダージョ。うっとりりと聴いていると、第3楽章の美しいメヌエットの後、第4楽章の美しい(懐かしい)メロディーの演奏が始まります。そして、この楽章の後半、とても熱く、高揚した音楽に上りつめていきます。虚を突かれた感じで、圧倒されます。この楽章で終わっても大変、感動したでしょう。第5楽章はまたメヌエット。その名の通り、流麗で踊り出してしまうようなノリの良い演奏です。気持が昂ぶります。最後の第6楽章はそよ風を思わせる清々しい音楽です。《フィガロの結婚》のそよ風のデュエット(手紙の二重唱)を想起します。saraiが名づけると、そよ風のトリオです。なんとも心地よい演奏に感銘を受けます。結局、後半の3楽章がとても素晴らしい演奏で大変、魅了されました。saraiの不明により、こういうモーツァルトの傑作を聴き逃がしていました。言い訳けになりますが、ディヴェルティメントという名前がいけませんね。初期の軽い喜遊曲と同じような曲だと誤解してしまいます。晩年の室内楽の傑作のひとつです。

やんやの喝采に応えて、アンコールはベートーヴェンの弦楽三重奏曲 第4番 ハ短調 Op.9-3から、スケルツォです。これはとても短い曲ですが、充実した曲です。これなら、今日の本編はこのハ短調の曲をやってくれたほうがよかったかなと思いました。それにしても、ロータス・カルテットの演奏は素晴らしい。次回は第2ヴァイオリンのマティアス・ノインドルフも来日し、4人揃っての演奏を期待します。

今日のプログラムは以下です。

  弦楽三重奏:ロータス・カルテット
   小林幸子vn   山碕智子va   斎藤千尋vc

   ベートーヴェン:弦楽三重奏曲 第2番 ト長調 Op.9-1

   《休憩》

   モーツァルト:ディヴェルティメント 変ホ長調 K.563

   《アンコール》
    ベートーヴェン:弦楽三重奏曲 第4番 ハ短調 Op.9-3 より、第3楽章 スケルツォ


最後に予習について触れておきます。
1曲目のベートーヴェンの弦楽三重奏曲 第2番は以下のCDを聴きました。

 トリオ・ツィンマーマン [フランク・ペーター・ツィンマーマン (Vn)、アントワーヌ・タムスティ (Va)、 クリスチャン・ポルテラ (Vc)]
    2010年7、8月録音/旧ストックホルム音楽アカデミー、2011年8月録音/ポツダマー・マイスターザール (ベルリン)

演奏はよいのですが、曲が単調でやや退屈な感じです。聴いたのはOp.9-1のみです。Op.9-3ならば、感想が異なるかもしれません。


2曲目のモーツァルトのディヴェルティメント K.563は以下のCDを聴きました。

 ギドン・クレーメル、キム・カシュカシアン、ヨーヨー・マ 1984年録音

このCDはアダージョとフーガ K.546(弦楽四重奏) とカップリングしたCDですが、両曲とも優れた演奏。とりわけ、ディヴェルティメント K.563の第1楽章 アレグロと第2楽章 アダージョが際立って素晴らしい。



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       ロータス・カルテット,  

期待を上回るシューマン、完璧なラフマニノフ 上原彩子 ピアノ・リサイタル@横浜上大岡ひまわりの郷ホール 2020.10.18

以前、のめりこんでいた上原彩子。その演奏の中心はロシアもの。中でもラフマニノフは素晴らしかった。一方、ドイツ・オーストリアものはいつも失望させられました。今年、久しぶりにピアノ・リサイタルに行ってみると、何と何と、モーツァルトを完全に弾きこなしていました。肩の力の抜けた美しい響きの演奏でした。で、また、上原彩子を聴いてみる気になりました。

今日はシューマンとラフマニノフ。もちろん、シューマンをどう弾くのかが期待半分、不安半分で、一番の関心事でした。ラフマニノフはどう転んでも凄い演奏をすることは分かっていました。結果、やはり、天才気質の上原彩子は凄いシューマンを聴かせてくれました。とりわけ、クライスレリアーナは上原彩子のためにシューマンが作曲してくれた感のあるような、最高の演奏。今年は聴ける筈だった田部京子のクライスレリアーナがコロナのためにコンサート・キャンセルで聴けずに残念に思っていましたが、こういうクライスレリアーナは田部京子も弾けないでしょう。田部京子はもっと詩情に満ちた演奏になるでしょうが、上原彩子は実に奔放な演奏です。特に激しいパッセージの切れのある演奏にはすっかり魅了されました。むらのある演奏で完璧とは言えませんが、それが逆に上原彩子の天才的な美質を示しているとも言えます。演奏中の恐ろしいほどの集中力には恐れ入りました。不意に最近、再放送で見た《のだめカンタービレ》を思い出しました。まるで、のだめちゃんのような演奏です。低音部をガンガン響かせるところも新鮮で、昔レコードで若いころのアルゲリッチの演奏でこのクライスレリアーナに魅了されたことも思い出しました。間違いなく、saraiが実演で聴いた最高のクライスレリアーナです。ずっとこんな演奏を聴きたかったのですが、まさか、上原彩子が聴かせてくれるとは想像だにしていませんでした。今でも脳裏に上原彩子のクライスレリアーナの激しさと抒情の交錯する響きがこだましています。
最初に弾いた《子供の情景》もクライスレリアーナほどではありませんでしたが、十分に楽しんで聴けるシューマンでした。肩の力の抜けた優しいタッチは以前の上原彩子では想像できなかった音楽です。もちろん、優しくて子供向けというレベルの演奏ではなく、シューマンのロマンに満ちた音楽に仕上がっていました。ただ、上原彩子にはクライスレリアーナのほうが向いていました。今度はシューマンのピアノ協奏曲を聴く予定です。よい演奏が期待できそうです。どんどん、シューマンにチャレンジしてもらいましょう。

後半のラフマニノフの《ショパンの主題による変奏曲》は何も言うことはありません。ただただ、完璧な演奏でした。どこかのレコード会社がラフマニノフのピアノ独奏曲の全曲録音を企画してほしいものです。フィオレンティーノがライヴで一気に独奏曲を全曲弾いた素晴らしい全集がCD6枚組で出ていますから、上原彩子も同じようなチャレンジしてくれないかな。

このsaraiの地元の小さなホールで上原彩子のピアノを聴くのが夢でしたが、コロナ禍という状況下で遂に実現し、嬉しくて、嬉しくて・・・。主催者・プロデューサーの平井さんに感謝してもしきれません。長年、要望していたことです。もちろん、最前列の中央で上原彩子のピアノの響きすべてを子細に聴かせてもらいました。残りの夢はここで庄司紗矢香を聴くことだけです。


今日のプログラムは以下です。


  シューマン:子供の情景 Op.15
  シューマン:クライスレリアーナ Op.16

   《休憩》

  ラフマニノフ:ショパンの主題による変奏曲 Op.22

   《アンコール》

    シューマン(リスト編曲):献呈(君に捧ぐ)~歌曲集『ミルテの花』の第1曲
    ラフマニノフ:前奏曲 Op.32-12 嬰ト短調


最後に予習について、まとめておきます。以下のCDを聴きました。

1曲目のシューマンの《子供の情景》は以下のCDを聴きました。

 伊藤恵:シューマニアーナ5 1993年9月8-10日 田園ホール・エローラ(松伏町中央公民館) セッション録音
 
伊藤恵のシューマン全曲録音からの1曲です。バランスのよい演奏です。


2曲目のシューマンのクライスレリアーナは以下のCDを聴きました。

 伊藤恵 2014年1月6-8日 北上市文化交流センター さくらホール セッション録音
 
伊藤恵のシューマン全曲録音の最初の録音がこのクライスレリアーナでした。これは新録音。実に27年ぶりの録音です。聴いたこともないような明解な分析的ともいえる演奏。正直、saraiが思い浮かべるクライスレリアーナではありませんが、刺激を受けた演奏でもありました。ところでこのCDで伊藤恵が弾いているピアノはファツィオリです。何とね。


3曲目のラフマニノフの《ショパンの主題による変奏曲》は以下のCDを聴きました。

 ダニール・トリフォノフ 2015年3月 ニューヨーク セッション録音
 
こういう難曲では、トリフォノフの素晴らしいテクニックが光ります。彼もこれから注目すべきピアニストです。



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       上原彩子,  

河村尚子のさらなる飛翔@紀尾井ホール 2020.10.13

河村尚子のたゆまない努力が大きな果実を結んだといえる、とても充実した内容のピアノ・リサイタルでした。昨年までの4回にわたるベートーヴェン・ピアノ・ソナタ・プロジェクトでも、はっきりと分かっていたことですが、彼女はピアノ・リサイタルに向けて、途轍もない準備を重ねてきています。どれだけ、練習を積み、どれだけ、曲の解釈を重ねることで、ここまでの高いレベルの演奏につなげることが出来たのでしょう。一音一音、1フレーズ1フレーズが丹念に練り上げられていて、そこはそう弾くのねって、驚きを感じながら、ひたすら、彼女のピアノの響きに引き込まれます。彼女のオリジナリティが随所に感じられて、それでいて、作曲家の意図の枠からはみ出ることのない誠実さも感じます。完璧に弾き込まれた楽譜は高いテクニックで超高速のパッセージも破綻をみせません。

モーツァルトの有名なソナタも新鮮さを湛え乍ら、心地よく聴くことができ、一切、退屈さを感じさせません。とりわけ、第1楽章の変奏曲はまるで、語り部がモノローグを語るような風情で変奏ごとに色んな表情を見せて、長大な楽章がまるで物語絵巻のように展開されます。第3楽章、トルコ行進曲はちょっと早めのテンポで心地よい響きを残して、駆け抜けていきます。

今日、一番、素晴らしかったのは、シューベルトの中期のソナタです。あえて、後期のソナタを弾かずに中期のソナタを弾いた意味が分かるような演奏でした。青春の永遠の憧れを秘めたような演奏は、この曲が持つ明るさやくったくのなさの内に秘めた、シューベルトの心の内のロマンを余すところなく表現していました。特に第3楽章の充実度はいかばかりか、大きな感銘を覚えました。しかし、saraiはその演奏の素晴らしさを少し聴き逃がしていたようです。アンコールで第2楽章が弾かれましたが、これこそ若きシューベルトの永遠へのロマンそのものではないですか。シューベルトとしてはとても短いソナタですが、ぎっしりした内容の音楽をたっぷりと聴かせてもらいました。河村尚子は今後、シューベルトの後期の遺作ソナタ3曲に向けて、そのキャリアを発進させたようです。どういうシューベルトになるか、ちゃんと聴かせてもらいますよ。これからも十分な準備をふまえて、素晴らしい高みに至るシューベルトを期待しています。

後半のショパンも前半のモーツァルト、シューベルトと同様に素晴らしい演奏でした。が、やはり、ここはシューマンを弾いてもらいたいところでした。saraiの個人的な趣味ですが、河村尚子の才能はドイツ・オーストリアものにこそ、向いていると勝手に思ってしまいました。交響的練習曲、クライスレリアーナ、幻想曲・・・


今日のプログラムは以下です。


  モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第11番 イ長調 K.331
  シューベルト:ピアノ・ソナタ 第13番 イ長調 D664 Op.120

   《休憩》

  藤倉 大:「春と修羅」(栄伝亜夜バージョン)
  ショパン:夜想曲第17番 ロ長調 Op.62-1
  ショパン:スケルツォ 第4番 ホ長調 Op.54
  ショパン:ポロネーズ 第7番「幻想」変イ長調 Op.61

   《アンコール》

    ショパン:夜想曲 第8番 変ニ長調 作品27-2
    ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66
    シューベルト:ピアノ・ソナタ第13番 イ長調 D664 より、第2楽章「アンダンテ」


最後に予習について、まとめておきます。以下のCDを聴きました。

1曲目のモーツァルトのピアノ・ソナタ 第11番は以下のCDを聴きました。

 マリア・ジョアン・ピリス 1990年5月 ハンブルク、フリードリヒ・エーベルト・ハレ セッション録音
 
ピリスの純粋無垢な演奏に心打たれます。ハイレゾで音質も最高です。


2曲目のシューベルトのピアノ・ソナタ 第13番は以下のCDを聴きました。

 田部京子 2010年2月20日 1999年3月30日~4月2日 豊田市コンサートホール セッション録音
 
シューベルトのスペシャリストである田部京子の奥行のある演奏です。


4曲目のショパンの夜想曲第17番は以下のCDを聴きました。

 ダン・タイ・ソン 1986年9月23日~28日 福島市音楽堂 セッション録音
 
ショパン・コンクールでの優勝の6年後の演奏です。定評通りの素晴らしい演奏。


5曲目のショパンのスケルツォ 第4番は以下のCDを聴きました。

 マウリツィオ・ポリーニ 1990年9月 ミュンヘン セッション録音
 
ポリーニのスケルツォですから、文句ない演奏。意外に中間部の抒情的な演奏が美しいです。


6曲目のショパンのポロネーズ 第7番「幻想」は以下のCDを聴きました。

 マウリツィオ・ポリーニ 1975年11月 ウィーン セッション録音
 
ポリーニのポロネーズも文句ない演奏。幻想的な美しさが表出されています。



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       河村尚子,  

田部京子、極上のベートーヴェン with 東京都交響楽団@東京芸術劇場コンサートホール 2020.10.11

今年はコロナ禍のお陰で日本人音楽家の演奏を例年よりも多く聴くことができます。なかでも、田部京子のベートーヴェンを何度も聴けて、saraiはご機嫌。ピアノ協奏曲第3番、第1番に続いて、今日は第4番。生憎、第5番《皇帝》は聴き逃がしましたが、これで3曲も聴けます。気が早いですが、年末にはベートーヴェンの締めとして、後期の3ソナタのリサイタルも予定されています。ベートーヴェンの生誕250周年の主役は田部京子で決まりの感があります。ベートーヴェン・イヤーとコロナ禍の重なった稀有な年、田部京子のベートーヴェンを聴く機会が重なったのは僥倖としか言えません。

今日のコンサートは都響のメンバー全員がマスクなし。コロナ禍が始まった後、こういうすっきりしたコンサートは初めてです。もちろん、指揮者も田部京子もマスクなし。田部京子のマスクなしのお顔を拝見するのは久々です。心なしか、ピアノ演奏への負担も少ないように思われます。

ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番はピアノ独奏から始まります。いつも通りのピアノ演奏ですが、第1楽章の終盤まではもう一つ、集中できていないようで、切れがありません。前回のコンサートでもそうでした。どうもエンジンのかかりが遅いようです。マスクはありませんが、客席の聴衆がコロナ配置で半分以下なので、ホールの響きをつかみ切れていないのかもしれません。都響のアンサンブルも同様でもう一つの響きです。しかし、第1楽章のカデンツァに入る前あたりから、本来のピアノの響きが戻ってきます。カデンツァはまだ最高の演奏とは言い難いのですが、十分に魅了してくれます。ようやくエンジンがかかってきたようです。

第2楽章は田部京子の独壇場のピアノ演奏です。オーケストラの強奏とナイーブなピアノ独奏が交互に続くベートーヴェンの独創的な音楽で、田部京子の抒情味豊かなピアノの響きが心を打ちます。オーケストラの激しい荒波に耐える一輪のか弱い花が美しい歌を歌い上げます。田部京子だけが表現できる美しい詩情に感動します。とりわけ、最後の独奏パートでの長いトリルの始まる前の絶唱には強い感動を覚えて、涙が滲みます。そして、素晴らしいトリルで音楽は絶頂を迎えます。感動の第2楽章でした。思わず、脳裏に少女時代のマルタ・アルゲリッチがクラウディオ・アラウの演奏を聴いて、この同じ部分で音楽とは何かということを初めて悟ったという逸話が浮かび上がります。アルゲリッチはその後、この曲の演奏を封印したそうです。多分、今でも弾いていないのではないでしょうか。確かに録音で聴くアラウの演奏の素晴らしさは極め付きと言えますが、今日の田部京子の美しい詩情はそれ以上にも思えます。

第3楽章は一転して、切れのよいピアニズムで進行します。そして、圧巻のフィナーレ。終わってみれば、最高のベートーヴェンでした。

ベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲はアンドラーシュ・シフの至高の名演を昨年末に聴いたばかりですが、田部京子の演奏はやはり、彼女にしか弾けない極上の逸品です。まあ、このお二人はsaraiが熱愛するピアニストですから、こういう演奏を聴かせてくれるのは当然と言えば、当然です。去年と今年、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の名演を聴けて、幸福感いっぱいです。

後半はドヴォルザークの交響曲第7番。都響は大編成で素晴らしい響きを聴かせてくれました。想像以上の素晴らしい演奏でした。美しい旋律が満載の曲だけに、都響の弦パートの美しい響きは実に心地よく聴けます。とりわけ、第4楽章では都響のアンサンブルの響きが最高潮に達して、感銘を受けます。梅田俊明のツボを押さえた指揮も見事でした。

演奏とは関係ありませんが、東京芸術劇場のレストランもなかなかの充実ぶりです。友人のSteppkeさんとsarai夫婦で、コンサート前には、2階のカフェ・ビチェリンでイタリア・トリノの名物のビチェリンを味わいました。トリノのアル・ビチェリンの支店もしくは提携店のようで、本場同様の味が楽しめました。もっとも、トリノのアル・ビチェリンのように、ビチェリンを混ぜないで飲んでねというメッセージはありませんでしたけどね。スプーンが出されなかったので、混ぜたくても混ぜられないから、メッセージは不要なのかもしれません。三層の味を口の中でミックスする味わいは極上です。
コンサート後はそのカフェ・ビチェリンのお隣のアル・テアトロで美味しいイタリアンとスプマンテを頂きました。とてもリーズナブルな料金でコースディナーが楽しめます。お勧めですよ。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:梅田俊明
  ピアノ:田部京子
  管弦楽:東京都交響楽団  コンサートマスター:四方恭子

  ベートーヴェン:序曲《コリオラン》 Op.62
  ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 Op.58

   《休憩》

  ドヴォルザーク:交響曲第7番 ニ短調 Op.70 B.141


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のベートーヴェンの序曲《コリオラン》は以下のCDを聴きました。

 ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 1966年10月29日 クリーヴランド、セヴェランスホール セッション録音
 
セルのゆるぎない指揮のもと、素晴らしいサウンドの演奏です。ハイレゾで音質も最高です。


2曲目のベートーヴェンのピアノ協奏曲 第4番は以下のCDを聴きました。

 内田光子、サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィル 2010年2月20日 ベルリン、フィルハーモニー ライヴ録音
 
ラトルはモダンな表現での演奏で、内田光子のピアノも素晴らしいタッチの響きを聴かせてくれ、見事です。しかし、ここは田部京子の演奏を聴いておくべきだったと後で反省。それは復習で聴きましょう。


3曲目のドヴォルザークの交響曲第7番 は以下のCDを聴きました。

 ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 1960年3月18-19日 クリーヴランド、セヴェランスホール セッション録音
 
セルのドヴォルザークは素晴らしいです。クーベリックと甲乙つけがたしです。ハイレゾでの音質も素晴らしいです。



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       田部京子,  

祝!室内楽の殿堂、再開:第1弾は澤クヮルテット@鶴見サルビアホール 2020.10.5

今や、弦楽四重奏の殿堂とも言える100席限定の鶴見サルビアホール(音楽ホール)ですが、コロナ禍の影響で2月の公演を最後にずっと、SQSサルビアホール・クァルテット・シリーズは中止に次ぐ中止。今回、日本人カルテットによる再開となりました。ほぼ8か月ぶりです。それでも、今回は席数を半減して50席だけでの公演です。極めつけの室内楽ファンが集結した感じです。

やはり、久しぶりに聴く、このホールは実によく響きます。初めて聴く澤クヮルテットはその響きを使って、美しいアンサンブルを聴かせてくれます。あまりの心地よさにモーツァルトが生きた頃のウィーンの貴族の屋敷で室内楽に耳を傾けている錯覚に襲われます。実際、今日はたった50人ほどで聴いているのですから、そう思えても当然でしょう。在りし日のウィーンにタイムスリップしているうちにふっとsaraiの意識も飛んでしまい、モーツァルトの名曲もジ・エンド。これ以上の感想は書けません・・・。

換気のためにここで短い休憩。まだまだ、コロナの影響は免れませんね。

2曲目のドビュッシーの名曲もただただ、心地よい響きに身を委ねて、在りし日のパリにタイムスリップ・・・で、感想なし。

ちゃんとした休憩後、後半のプログラム。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第9番 「ラズモフスキー第3」です。これも在りし日のウィーンのラズモフスキー伯爵邸にタイムスリップしますが、今度は何とか意識は持続します。これも澤クヮルテットの美しい響きが光ります。もちろん、世界の一流のカルテットと比べると完璧でない部分もありますが、このベートーヴェンの傑作の、傑作たる所以は十分過ぎるほど、心に響きます。saraiもベートーヴェンの弦楽四重奏曲の後期作品を愛する者の一人ですが、この中期のいわゆる傑作の森に書かれた作品の素晴らしさに今更ながら、驚嘆します。イ短調の第2楽章の奥深い抒情・・・残念ながら、今日の演奏は少しあっさりしていて、うっとりというわけにはいきませんが、そこは想像力を働かせながら、鑑賞します。そして、第4楽章の物凄い迫力のフーガに感嘆します。

やっぱり、ここで聴く弦楽四重奏曲は最高です。こんな響くホールで、コロナ禍ゆえのたった50席の贅沢。主催者のご苦労は分かりますが、ただただ、そのご努力に感謝するのみです。
次回は最愛のロータス・カルテットですが、日本人以外の入国は認められないために一人欠けて、ロータス・トリオ。これもコロナ禍ゆえの特別プログラム。楽しめそうです。既に50席は完売だそうです。


今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:澤クヮルテット
   澤 和樹 vn  大関博明 vn  市坪俊彦 va  林 俊昭 vc

   モーツアルト: 弦楽四重奏曲 第19番 K.465「不協和音」

   《短い休憩》

   ドビュッシー:弦楽四重奏曲 Op.10

   《休憩》

  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第9番 Op.59-3「ラズモフスキー第3」

   《アンコール》
    モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番変ロ長調K.458『狩』 より、第3楽章 Adagio

最後に予習について触れておきます。
1曲目のモーツアルトの弦楽四重奏曲 第19番「不協和音」は以下のCDを聴きました。

 アマデウス弦楽四重奏団 1966年5月録音 ベルリン、UFAスタジオ

素晴らしい演奏とそれに音質が最高。何も言うことがありません。


2曲目のドビュッシーの弦楽四重奏曲は以下のCDを聴きました。

 エマーソン・カルテット 1984年録音

エマーソン・カルテットらしい美しい響きと最高のテクニックでドビュッシーの素晴らしさを満喫させてくれます。


3曲目のベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第9番 「ラズモフスキー第3」は以下のLPレコードを聴きました。

 ブダペスト弦楽四重奏団 1958年録音

このLPレコードは今年、全集盤を購入し、全曲聴き通したばかりですが、また、聴いてみました。第2楽章の深い味わい、第4楽章の圧倒的な迫力、凄いですね。匹敵するのはブッシュ四重奏団の演奏くらいなものです。この予習を終えて、バルトークの弦楽四重奏曲第1番(ハンガリー四重奏団)を聴きましたが、バルトークがベートーヴェンの後期作品のように思えてしまいました。弦楽四重奏曲では、ベートーヴェンとバルトークが圧倒的に素晴らしい!



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東京交響楽団、復活した美しい響き@東京オペラシティコンサートホール 2020.10.3

前半の曲はちょっとムードミュージック的に聴かせどころもありますが、saraiの守備範囲ではないので、特にコメントなし。

後半のシベリウス、想像の範囲外の素晴らしい演奏。saraiの音楽好きの友人にオーケストラの音響マニアがいますが、やっとその意味が分かったような気がします。saraiにとって、音楽とは人間が創造する崇高な精神世界であり、音響はあくまでもその手段に過ぎないと思っていました。でも、考えてみれば、オーケストラの音響は自然界に存在しないもので、人間の精神活動によって生み出されるものです。ですから、美しい音響はそれ自体、精神活動の証しなのでしょう。今日のシベリウスの演奏は東響のオーケストラ能力をフルに発揮した素晴らしい音響が響き渡りました。まさに“鳴っている”という感じです。とりわけ、第4楽章は弦の美しい響き、木管の冴えた響き、ホルンの堂々たる響き、それらが交互に響き、そして、最後はそれらが融合して、最高の音響で魅了してくれました。実はステージ上の東響の配置はコロナ前の通常の配置で、コロナ禍のときのような間隔を空けた配置ではなかったんです。密集した奏者が奏でる響きは実にまとまった音響になることを久しぶりに体験しました。東響のアンサンブルの復活です。

素晴らしい音楽を聴けた喜びで胸が熱くなりました。東響を応援してきた音楽ファンとしてはこれ以上のことはありません。この上はジョナサン・ノットが東響を早く指揮してもらいたいものです。いずれはマーラーの復活をコロナ後の記念演奏として、プログラムに載せてくれることを期待します。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:大友直人
  ソプラノ:嘉目 真木子
  テノール:錦織 健
  管弦楽:東京交響楽団  コンサートマスター:グレブ・ニキティン

  千住 明/松本 隆(作詞):詩篇交響曲「源氏物語」 (2008)
 Ⅰ 序曲 Ⅱ桐壺 Ⅲ夕顔 Ⅳ若紫 Ⅴ葵上 Ⅵ朧月夜 Ⅶ須磨 Ⅷ明石 Ⅸ幻 Ⅹ終曲

   《休憩》

  シベリウス:交響曲第2番 ニ長調 op.43


最後に予習について、まとめておきます。

2曲目のシベリウスの交響曲第2番は以下のLPレコードを聴きました。

 ジョン・バルビローリ指揮ハレ管弦楽団 1966~70年、ロンドン、キングズウェイ・ホールおよびアビー・ロード・スタジオ セッション録音

全集盤からの一枚です。素晴らしい音響、素晴らしい録音で言うことがありません。亡くなった叔父さんから、晩年にいただいたLPレコード群の中の逸品です。全集を聴き通さないといけませんね。それにしてもバルビローリのツボを押さえた指揮は素晴らしいし、彼の手兵のハレ管弦楽団は素晴らしい反応でその指揮に応えています。バルビローリはマーラーだけでなく、ブラームスもシベリウスも素晴らしい!



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川久保賜紀は好演・・・しかし、東京交響楽団はどうした!@サントリーホール 2020.9.26

今日のコンサートも海外からの音楽家の来日中止の影響で、日本人による代演となりました。とりわけ、期待していたアリーナ・イブラギモヴァのヴァイオリンが聴けないのが残念です。かくなる上は川久保賜紀のヴァイオリンに期待するしかありません。ずいぶん前に川久保賜紀の演奏を聴いて、saraiの好みに合わないので、切り捨ててきた経緯があります(川久保賜紀のファンのかた、ごめんなさい!)。実は何を聴いたかも忘れるくらい昔の話です。今の川久保賜紀はどうなんだろうと不安に思いつつ、演奏に臨みました。今日はショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲 第1番ですから、日本人演奏家が比較的、取り組みやすい音楽です。日本人音楽家、それもヴァイオリンとなると、世界的な水準でいっても、最高レベルの技術は当たり前の感があります。あとは音楽性の問題だけです。今日のショスタコーヴィチの協奏曲では第1楽章と第3楽章にとてつもない音楽性が要求されます。それにもうひとつの問題点があります。これは聴く側のsaraiにあります。当ブログでも書きましたが、今年の1月に同じ曲を庄司紗矢香のヴァイオリンで聴きましたが、それが物凄い演奏で大変に感動したんです。

 庄司紗矢香の空前絶後のショスタコーヴィチに驚愕! サロネン&フィルハーモニア管弦楽団@東京芸術劇場 2020.1.28

庄司紗矢香の魂の歌とも思える超絶的な演奏でした。これ以上の演奏は世界中の誰にも無理でしょう。そういうものを今年、聴いたばかりなので、今日の演奏の前に大きな壁として、庄司紗矢香が立ちはだかるんです。
前置きが長くなりましたが、今日の演奏のことについて述べましょう。一言で言えば、不安に思っていたことは払拭されました。川久保賜紀のヴァイオリンは技術的に完璧で、何よりリズム感がよく、一番の美点はヴァイオリンの響きが美しいことです。ダブルストップのあたりの演奏に彼女のよさが一番出ていました。それに自然で素直な音楽表現にも好感が持てました。結果的に大変、満足できました。第3楽章の後半あたりでも感銘を受けました。が、もちろん、庄司紗矢香のように魂を揺さぶられるということはありません。それはそれでいいでしょう。色んな音楽の形、表現がありますからね。

後半はバルトークの《管弦楽のための協奏曲》です。現在、saraiの一押しのオーケストラ、東響の最上の演奏を期待していました。オーケストラがその腕前を披露するのに、これ以上の曲目はありませんからね。ヨーロッパの一流オーケストラにも比肩するような演奏をしてきた東響にとって、saraiを驚愕させることくらい、簡単なことでしょう。しかしながら、その期待は水泡に帰しました。もちろん、東響の地力を発揮して、それなりの演奏は聴かせてくれました。が、それ以上のものは聴けませんでした。今日からコロナ禍で続けていたSD(ソーシャルディスタンス)対応の座席配置は終了し、全座席が開放されました。そういう気の緩みもあったんでしょうか。鉄壁のアンサンブル、弦パートの美しい響きは最後まで聴けませんでした。何かの事情で十分なリハーサルが積めなかったとしか思えません。あるいは10月に予定されていたジョナサン・ノット指揮の目玉コンサートが中止になったことも影響しているのかしらね。

やはり、東響のレベルをここまで引き上げてきた音楽監督のジョナサン・ノットの1日も早い来日が望まれます。海外音楽家の渡航許可は日本の文化振興にとっての急務であることを声を大にして、訴えたいと思います。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:尾高忠明(リオネル・ブランギエの代演)
  ヴァイオリン:川久保賜紀(アリーナ・イブラギモヴァの代演)
  管弦楽:東京交響楽団  コンサートマスター:グレブ・ニキティン

  リャードフ:交響詩「魔法にかけられた湖」Op.62
  ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲 第1番

   《休憩》

  バルトーク:管弦楽のための協奏曲 Sz.116


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のリャードフの交響詩「魔法にかけられた湖」は以下のCDを聴きました。

 ヴァシリー・シナイスキー指揮BBCフィル 2000年4月12-13日 マンチェスター、ニュー・ブロードキャスティング・ハウス セッション録音

美しく、まとまった演奏です。


2曲目のショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番を予習したCDは以下です。

  リサ・バティアシュヴィリ、エサ=ペッカ・サロネン指揮バイエルン放送交響楽団 2010年5月 ミュンヘン、ヘルクレスザール セッション録音
  ヒラリー・ハーン、マレク・ヤノフスキ指揮オスロ・フィルハーモニー管弦楽団 2002年、オスロ セッション録音

バティアシュヴィリの美しい響きの演奏は完璧に思えました。しかし、22歳のヒラリー・ハーンの演奏を聴くと絶句します。そのクールな演奏はこの曲の真髄の迫るものに思えました。ヒラリーの青春の残像です。以前聴いたオイストラフもさすがに初演しただけのことはあり、最高の演奏だった記憶があります。


3曲目のバルトークの《管弦楽のための協奏曲》は以下のハイレゾ音源を聴きました。

 フリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団 1955年10月22日、シカゴ、オーケストラ・ホール セッション録音
 
とても古い演奏ですが、いまだに決定盤の地位は揺るぎません。ハイレゾで音質も素晴らしく、最新録音にも負けません。saraiが学生時代に衝撃を受けたのがこのLPレコードでした。併録されていた《弦と打楽器とチェレスタのための音楽》はさらに素晴らしい演奏で、これもいまだに決定盤の地位は揺るぎません。50年も座右に置き、繰り返し聴いている名盤中の名盤です。



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究極のポリフォニー音楽、ロ短調ミサ曲は平和を希求する!:バッハ・コレギウム・ジャパン@東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル 2020.9.20

今年はバッハ・コレギウム・ジャパンの創立30周年の年で、バッハの3大宗教曲が演奏されます。8月の素晴らしかったマタイ受難曲に続いて、今日はロ短調ミサ曲。この二つは特別な音楽で、西欧音楽の頂点に立つ作品です。コロナ禍の会場は人数が半数以下に制限されましたが、バッハをこよなく愛する聴衆が詰めかけました。そして、それにふさわしい最高の演奏を聴くことができました。

ステージ上は演奏者間の距離を開けるため、ステージをフルに使った配置。最後列はオーケストラが弧状に1列に並び、その前に合唱隊が2列に並びます。合唱隊の前列はソプラノとアルト。後列はテノールとバスです。前回のマタイ受難曲と同様の配置ですが、音の響きの広がりが素晴らしく、納得の響きです。演奏者間の距離が広がり、合わせるのが難しい筈ですが、名人たちの集団はこの配置の演奏を完璧にマスターしたようです。コロナ禍の賜物ですが、今後もこの配置がよいのではと思ってしまいます。

今日の演奏は、何と言っても、合唱のフーガの演奏の素晴らしい響きが聴きもので、合唱、古楽オーケストラ、通奏低音のポリフォニーの極致を極める清冽で迫力のある音響に魅せられました。海外演奏家の来日が遠のいている現在、日本人だけの演奏で世界最高レベルのバッハが聴けるのは何と嬉しいことでしょう。

今日の演奏をかいつまんで概観してみましょう。

第1部. ミサ(キリエ (Kyrie)とグロリア (Gloria))

第1曲はKyrie eleison . 五部合唱です。まず、冒頭のキリエと歌われる合唱の素晴らしい響きに魅了されます。その後、器楽合奏を挟み、素晴らしい合唱のフーガが展開され、そのフーガの織りなす綾とそれを支える通奏低音の響き、古楽器のオーケストラの響きが混然一体にになり、ポリフォニーの究極を味わわせてくれます。こんな音楽はほかにありません。

第2曲はChriste eleison. 二重唱(ソプラノ1、2)です。ヴァイオリンの明澄な響きに乗って、ソプラノの美しい響きが聴けます。澤江衣里の美しい声はまずまずです。

第3曲はKyrie eleison. 四部合唱です。これは終始素晴らしい演奏。第1部では最高の演奏でした。合唱のフーガの素晴らしさに圧倒されました。感動でうるうる状態になります。

第4曲はGloria in excelsis. 五部合唱です。トランペットが響き渡り、晴れやかな合唱に心が浮き立ちます。終盤の高潮は圧倒的です。

第5曲はEt in terra pax. 五部合唱です。平和を希求する静謐とも思える音楽に深い感銘を覚えます。

第6曲はLaudamus te. 若松夏美の素晴らしいヴァイオリンオブリガートに聴き惚れます。そのヴァイオリンに先導されて、アリア(ソプラノ)が歌われます。澤江衣里の美しい声にうっとりとします。

第7曲はGratias agimus tibi. 四部合唱です。相変わらず、素晴らしい響きです。その響きの明澄さに心洗われる思いです。

第8曲はDomine Deus. 二重唱(ソプラノ、テノール)です。フラウト・トラヴェルソの明澄で素朴な響きが最高です。菅きよみ、前田りり子のコンビの演奏は見事です。

第9曲はQui tollis peccata mundi. 四部合唱です。しみじみとした感動の合唱です。

第10曲はQui sedes ad dexteram Patris. 三宮正満の名人芸のオーボエ・ダモーレに聴き惚れます。オーボエ・ダモーレに伴奏されて、アリア(アルト)が歌われます。布施奈緒子の歌唱はまずまずです。

第11曲はQuoniam tu solus sanctus. 日高剛の素晴らしいコルノ・ダ・カッチャのオブリガートが素晴らしいです。コルノ・ダ・カッチャはホルンの古楽器で、演奏が超難しそうです。アリア(バス)は加耒 徹の歌唱ですが、これもまあまあですね。

第12曲はCum Sancto Spiritu. 五部合唱です。第1部の最後を飾る壮麗な音楽です。終盤の圧倒的なアーメンに感動します。

ここで休憩です。後半は第2部以降です。後半は前半以上の素晴らしい音楽でした。細部の感想は省略します。力尽きました。


第2部. ニケーア信経 (Symbolum Nicenum)

第3部.サンクトゥス(Sanctus)

第4部.ホザンナ、ベネディクトゥス、アニュス・デイとドナ・ノビス・パーチェム(Hosanna, Benedictus, Agnus Dei)

後半の合唱は前半と同様の感想ですが、ますます、素晴らしい響きでした。ベネディクトゥスのテノールの西村 悟のアリアは素晴らしいですが、それ以上にフラウト・トラヴェルソの菅きよみの独奏は素晴らしいの一語。アニュス・デイの布施奈緒子のアリア歌唱も美しいものでした。圧巻だったのは最後の第27曲の合唱。Dona nobis pacem.(我らに平和を与えたまえ)。清澄さの限りを尽くした最高の歌唱はバッハの名作を締めくくるのにふさわしいものでした。最後はトランペットも加わって、全器楽と合唱が高らかに平和を願いながら、壮麗に音楽を閉じました。


BCJのロ短調ミサ曲がこんなに素晴らしいのだったら、マタイ受難曲と同様に毎年、演奏してもらいたいものです。


今日のプログラムは以下です。


  指揮:鈴木 優人
  ソプラノⅠ:澤江衣里
  ソプラノⅡ:松井亜希
  アルト:布施奈緒子
  テノール:西村 悟
  バス:加耒 徹
  フラウト・トラヴェルソ:菅きよみ、前田りり子
  オーボエ:三宮正満、荒井豪、森綾香
  コルノ・ダ・カッチャ:日高剛
  ヴァイオリン(コンサートマスター):若松夏美
  チェロ:山本徹
  ヴィオラ・ダ・ガンバ:福沢宏
  合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン


J. S. バッハ

《ミサ曲 ロ短調》 BWV 232

第1部

 《休憩》

第2部~第4部


最後に予習について、まとめておきます。

3枚組のLPレコードを聴きました。

 カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ管弦楽団&合唱団 1961年
  マリア・シュターダー、ヘルタ・テッパー
  エルンスト・ヘフリガー、キート・エンゲン、
  ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ

かなり古い演奏ですが、今でもその価値は永遠のものです。独唱者の顔ぶれが凄いです。このLPレコードとリヒター盤のマタイ受難曲のLPレコードを聴くためにレコードプレーヤーと真空管アンプを持っているようなものです。



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       バッハ・コレギウム・ジャパン,  

ベートーヴェン再発見の旅 圧巻の「ハンマークラヴィーア」 イリーナ・メジューエワ・ベートーヴェン・ピアノソナタ全曲演奏会@東京文化会館 小ホール 2020.9.6

コロナ禍で1回目から4回目までが中止になっていたイリーナ・メジューエワのベートーヴェン・ピアノソナタ全曲演奏会がようやく、第5回目と第6回目で開始になりました。
期待を上回る素晴らしい演奏で、saraiにつたない言葉で表現できない高次元のベートーヴェンを聴かせてくれました。日本に永く在住し、日本人ピアニストの一人とも思えるメジューエワですが、その演奏スタイルはまさにロシアが伝統としてきた強靭でスケールの大きい表現のベートーヴェンです。繊細で精神性を重んじるスタイルの対極にあるようなピアニズムですが、実に説得力のある演奏です。ある意味、エミール・ギレリスの演奏を生で聴いているような感覚です。もっともsaraiはギレリスを生で聴いたことはありません。

今日聴いた7曲のソナタはすべて、素晴らしい演奏でした。個々の演奏に触れませんが、彼女の強靭なスタイルの演奏が光ったのは、第28番と第29番「ハンマークラヴィーア」でした。とりわけ、対位法技法で書かれた極度に演奏困難なパートは凄まじいばかりに突き抜けた演奏で圧巻でした。そして、第29番「ハンマークラヴィーア」の長大な第3楽章の深い音楽表現、第4楽章の圧倒的な演奏は、正直、saraiの音楽的素養の枠をはみ出る高次元のものでした。予習が不十分だったことを露呈してしまいました。反省しています。これほどの演奏ならば、それなりに向き合っていかねばならないでしょう。
中途半端な感想しか書けませんでした。本当に凄い演奏を聴くと、音楽を言葉で表現することがむなしくなります。今日の演奏はそういうレベルの演奏でした。

後期ソナタ(第30番、第31番、第32番)はしっかり予習して聴かせてもらいます。楽しみでもあります。


今日のプログラムは以下です。

  ピアノ:イリーナ・メジューエワ

  <ベートーヴェン 生誕250周年記念 イリーナ・メジューエワ ピアノソナタ全曲演奏会 第5回>

  ピアノ・ソナタ第7番 ニ長調 Op.10-3
  ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 Op.13「悲愴」

   《休憩》

  ピアノソナタ第12番 変イ長調 Op.26
  ピアノソナタ第28番 イ長調 Op.101


  <ベートーヴェン 生誕250周年記念 イリーナ・メジューエワ ピアノソナタ全曲演奏会 第6回>

  ピアノソナタ第10番 ト長調 Op.14-2
  ピアノソナタ第15番ニ長調 Op.28「田園」

   《休憩》

  ピアノソナタ第29番 変ロ長調 Op.106「ハンマークラヴィーア」


   《アンコール》
  6つのバガテル Op.126 から 第1番 ト長調 アンダンテ・コン・モート


最後に予習について、まとめておきます。以下のCDを聴きました。

 エミール・ギレリス ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ集 1972-1985年 セッション録音
 アンドラーシュ・シフ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2004~2006年 チューリッヒ、トーンハレ ライヴ録音

ギレリスの男性的な演奏、シフの美しく音楽的な表現、いずれも絶品です。



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伊藤恵の魅惑に満ちたモーツァルト20番、飯森範親の渾身のベートーヴェン5番に感動! with 東京交響楽団@東京オペラシティコンサートホール 2020.9.5

まずは期待していた伊藤恵のピアノは素晴らしい音色で魅了してくれました。彼女はキャリアで最高のレベルに達しています。コロナ禍のお陰で、田部京子を始めにこういう素晴らしい日本人ピアニストが聴けるのは嬉しいところです。飯森範親指揮の東京交響楽団も素晴らしいサポートです。モーツァルトの名曲、ピアノ協奏曲第20番の実演では、最高の演奏でした。
第1楽章、抑え気味に入ったオーケストラ演奏がとても魅力的でその美しいアンサンブルに聴き入ります。そして、何とも美しいタッチで伊藤恵がピアノを奏で始めます。彼女のピアノって、こんなに美しい響きだったっけと感銘と驚きを覚えます。終始、その美しいピアノの響きに感じ入るうちにカデンツァに入ります。ベートーヴェンが書いたカデンツァですね。ともすると、男性的で堂々としたカデンツァはモーツァルトの音楽とは様式感の違いを感じさせてしまいますが、伊藤恵は巧みにそういう違和感を感じさせないような見事な演奏で、かつ、ヴィルトゥオーゾ的な華麗さも表現します。
第2楽章、ピアノのソロで美しい旋律線を描き出し、オーケストラも加わって、魅惑の音楽が奏でられます。中間部の激しいピアノのパートも楽々と弾きこなし、再び、冒頭の旋律に回帰し、抒情味あふれる表現と美しいピアノの響きで楽章をしめくくります。
第3楽章、勢いよく、切れのあるピアノで華やかに音楽が進行します。そして、圧巻だったのは後半です。高潮したピアノはカデンツァを経て、美しく上り詰めます。見事な伊藤恵のピアノでした。東響のアンサンブルも最高でした。

実は、今日は午前中にゲネプロを聴かせてもらい、既に伊藤恵の素晴らしいピアノは実感していましたが、本番はさらに音楽的にノリが違いました。素晴らしいモーツァルトでしたし、伊藤恵自身もモーツァルトの音楽を楽しんでいる様子がうかがえて、saraiの心も和みました。

そうそう、アンコールはモーツァルトのソナチネ。シンプルな曲ですが、名人が弾くととても素晴らしいです。力が抜けて、ずばぬけて美しい音楽が心に沁みました。

後半はベートーヴェンの交響曲 第5番「運命」。名曲中の名曲ですが、それだけに演奏は難しいですね。なにせ、聴衆にとって、数々の名演奏が耳にこびりついていますからね。午前中のゲネプロでは、ほとんど練習なし。指揮の飯森範親によると、昨日、たっぷりとリハーサルをやったので、一部の確認だけしか練習しないので、あとは本番のお楽しみということでした。むむっ、かなりの自信と見ました。
で、本番ですが、余程、飯森範親はスコアを読み込んだとみえて、オリジナリティあふれる会心の演奏です。それに東響の分厚いポリフォニーの響きが凄いです。トゥッティでは音塊がステージから飛んでくる感じです。saraiもずい分、この曲は聴いてきましたが、こういう演奏は初体験です。記憶の底を探すと、ラトル指揮ウィーン・フィルの快速演奏のモダンさとも近いような感じですが、今日の演奏はもっと古典様式に寄り添っているように思えます。また、ハイティンク指揮ロンドン交響楽団のモダンできっちりとアンサンブルの揃った名演とも近い感じもありますが、今日の演奏はもっとスケール感があるように思えます。要はオリジナル演奏とは別路線のモダン演奏でありながら、ベートーヴェンの作り上げた古典様式の本質に切り込むという意欲的な表現スタイルであると感じます。
第1楽章はすべてを要約したような演奏で、東響のアンサンブルをここまでドライブしたのは見事としか言えません。基本はポリフォニーの疾走ですが、歌わせるところは歌わせるという自在な演奏です。第3楽章の美しい対位法的展開を経て、圧巻の第4楽章に至ります。指揮者の熱い思いは、こういうコロナ禍故なのでしょうか。音楽のチカラは何にも負けないというメッセージが伝わってきて、共感と感動に至ります。凄まじいコーダに脱帽です。最後に東京の素晴らしい弦楽セクション、それに木管ソロの美しい響きに感謝します。うーん、素晴らしい「運命」でした。ただひとつ、残念だったのは指揮者コールができなかったことです。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:飯森範親(マクシム・エメリャニチェフの代演)
  ピアノ:伊藤恵(マクシム・エメリャニチェフの代演)
  管弦楽:東京交響楽団  コンサートマスター:水谷晃

  ハイドン:交響曲 第103番 変ホ長調 Hob.I-103「太鼓連打」
  モーツァルト:ピアノ協奏曲 第20番 ニ短調 K.466
   《アンコール》モーツァルト:ピアノソナタ 第15番 ハ長調 K. 545 より 第1楽章 アレグロ ハ長調

   《休憩》

  ベートーヴェン:交響曲 第5番 ハ短調 op.67「運命」


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のハイドンの交響曲 第103番「太鼓連打」は以下のCDを聴きました。

 コリン・デイヴィス指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1976年11月 アムステルダム、コンセルトヘボウ セッション録音

コリン・デイヴィスの安定した指揮、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の豊麗な演奏、こういうハイドンもいいものです。


2曲目のモーツァルトのピアノ協奏曲 第20番は以下のCDを聴きました。

 クリフォード・カーゾン、ベンジャミン・ブリテン指揮イギリス室内管弦楽団 1970年 セッション録音
 クララ・ハスキル、イーゴリ・マルケヴィチ指揮コンセール・ラムルー管弦楽団 1960年11月14日-18日、パリ、Salle de la Chime セッション録音
 
いつもハスキルの各種のCDばかり聴いているので、名盤の誉れ高いカーゾンの演奏を聴いてみました。ブリテンの個性的な指揮も素晴らしいのですが、カーゾンのピアノの響きがもうひとつピュアーさを欠くのが不満です。結局、また、ハスキルのCDを聴いてしまいます。心にぴたっとはまるようなパーフェクトな演奏です。でも、ハスキルの一番のお気に入りの演奏は別にあります。1959年のルツェルン音楽祭でオットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団と共演したライヴ演奏のハイレゾ音源シリーズです。


3曲目のベートーヴェンの交響曲 第5番「運命」は以下のLPレコードを聴きました。

 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル 1954年5月23日、ベルリン、Titania Palast ライヴ録音
 
やはり、フルトヴェングラーのベートーヴェンは特別です。中でも、第3番、第5番、第9番は際立って輝きます。この演奏はフルトヴェングラーの第5番の最後の録音、最晩年の演奏です。saraiはフルトヴェングラーの最晩年、1954年の演奏をとりわけ、好んでいます。今回聴いたのはコロナ禍の最中に購入したフルトヴェングラーの1947年から1954年にかけてのベルリンでのベルリン・フィルとのライヴ公演を網羅した14枚組の重量盤LPレコード(180g)のボックスセットの中の1枚です。これまでの勢いや激しさは影を潜め、自然なスタイルで人生の集大成をはかるような雰囲気の演奏です。うーん、いいなあ。



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       伊藤恵,  

若き日のモーツァルトのヴァイオリン作品・・・大谷康子&東京交響楽団:モーツァルト・マチネ 第42回@ミューザ川崎シンフォニーホール 2020.8.22

今日は朝11時からのミューザ川崎でのモーツァルト・マチネ。朝が弱いsaraiには毎回、結構きつい時間帯のコンサートです。今日のモーツァルト・マチネでも、一部、寝落ちしましたが、全体としては気持ちよく聴けました。いい意味でも悪い意味でも、すっきりしたモーツァルトらしい演奏でした。東響は相変わらず、美しいアンサンブルの響きを聴かせてくれました。

まず、2つのヴァイオリンのためのコンチェルトーネです。モーツァルトが18歳のときの作品です。若いころの作品ですが、ヴァイオリン協奏曲などもすべて10代の頃に書かれているので、若書きというほどのことはありません。実は初聴きですが、モーツァルトらしい馴染みやすい作品なので、気持ちよく聴けます。題名は《2つのヴァイオリンのための》となっていますが、協奏交響曲のような感じです。実際、ソロ楽器は2つのヴァイオリンのほかにオーボエとチェロが大活躍します。とりわけ、荒絵理子のメリハリがあって、気迫に満ちた演奏に聴き惚れました。演奏機会の少ない作品を聴けて満足でした。

最後は、ヴァイオリン協奏曲 第5番「トルコ風」です。この有名な作品が美しい演奏で聴けて、楽しめましたが、モーツァルトと言えば、クルレンツィスのようにもっと本質に切り込んで、新たな姿を見せてほしいものです。気持ちよく聴いて、少し寝落ちしてしまったことへの言い訳けめきますが、やはり、美しく演奏できるのは当たり前で、現代にモーツァルトを演奏するのなら、それもこんなにポピュラーな作品を演奏するのなら、何か聴くものにおっと思わせるものを提示してほしいものです。今や、日本の音楽界は世界的に高いレベルにあるので、そういう挑戦は必須だと思う、贅沢な聴衆からの高いレベルの注文です。演奏自体はパーフェクトでした。


今日のプログラムは以下です。

  指揮/ヴァイオリン:大谷康子
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:水谷晃

  <オール・モーツァルト・プログラム>

  2つのヴァイオリンのためのコンチェルトーネ ハ長調 K.190(186E)
  ヴァイオリン協奏曲 第5番 イ長調 「トルコ風」 K.219

   休憩なし


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目の2つのヴァイオリンのためのコンチェルトーネを予習したCDは以下です。

 ユリア・フィッシャー、ゴルダン・ニコリッチ、ヤコフ・クライツベルク指揮オランダ室内管弦楽団 2007年2月、メノナイト教会、ハーレム、オランダ セッション録音

特に個性が前に出た演奏ではありませんが、水準以上の演奏ではあります。


2曲目のヴァイオリン協奏曲 第5番「トルコ風」を予習したCDは以下です。

 アンネ=ゾフィー・ムター、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル 1978年2月 ベルリン、フィルハーモニー セッション録音

ムターが14歳で録音した記念すべきデビュー盤です。後年、2005年にロンドン・フィルを弾き振りしたCDは実は秘かに愛聴している個性的な演奏ですが、このデビュー盤ではとても素直に清純な演奏を聴かせてくれます。カラヤンもそっと包み込みように優しく伴奏しています。こういう演奏も好きですが、繰り返し聴きたいのは姉御のムターのやりたい放題の演奏のほうです。何と言っても聴いていて楽しめますからね。でも、ちゃんとモーツァルトからは逸脱していません。以前、今年亡くなった母に演奏者名を伏せて、2005年のムターの弾き振り盤を聴いてもらいましたが、好きな演奏だと言ってくれました。何か嬉しかった思い出です。



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ヴァイオリンの超新星、辻彩奈の外連味のない演奏に心躍る!@東京オペラシティコンサートホール 2020.8.15

いやあ、素晴らしい。久しぶりにこんな逸材に出会えました。辻彩奈を聴くのは2度目ですが、前回はヴィヴァルディの四季だったので、はっきりとは評価できなかったので、実質、今回が初聴きのようなものです。ヴァイオリニストでは庄司紗矢香以来の天才の出現です。実に清々しい演奏を聴かせてもらい、大きな感銘を覚えました。

今日は午前中にゲネプロを聴かせてもらい、午後は本番という贅沢な音楽鑑賞です。ゲネプロでも辻彩奈のヴァイオリンは輝いていました。ワクワクする気持ちを抱きながら、本番の演奏に臨みました。

前半はストラヴィンスキーのバレエ音楽「カルタ遊び」から始まります。この曲は初めて聴きます。面白い曲ではありますが、《春の祭典》のような先鋭さは影を潜め、優等生的に新古典主義に回帰したようなもどかしさを感じます。演奏自体は東響の素晴らしいオーケストラの響きで最高ではありますけどね。ラヴェルのラ・ヴァルスやロッシーニの《セヴィリアの理髪師》をパロディってて、そのあたりの弦楽パートや木管の響きの素晴らしさに酔いしれて聴いていたので、十分に楽しませてもらいましたが、やはり、《春の祭典》だったら、どんな演奏になったんだろうと、余計なことを考えてしまいます。

次はいよいよ、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番です。ゲネプロのときと違って、辻彩奈はマスクを外して登場します。そう言えば、指揮者の沼尻竜典とコンサートマスターの水谷晃もゲネプロの時と違って、マスクを着けていません。これでいいんですよね。水谷晃の発案のようです。とりわけ、ソロ奏者はマスクを着けずに思いっきり、演奏してもらいたいものです。もちろん、客席の聴衆は全員マスク着用です。
冒頭のオーケストラのワクワク感たっぷりの序奏に乗って、辻彩奈の清冽な響きがホールの空間に満ちます。たちまち、saraiの心を持っていかれます。ヴァイオリンの音の響きも美しいし、音楽的な表現も見事ですが、それ以上に何か華というか、オーラに輝いています。第1楽章の主部に入り、その瑞々しい演奏に魅了されます。スケール感のある演奏を聴いていて、チョン・キュンファのことを想起します。あのレベルの演奏に達しています。その演奏に感銘を覚えているうちに第1楽章から第2楽章に移行していきます。第2楽章のまるでR.シュトラウスの音楽のような静謐な美しさを辻彩奈は弱音の響きを効果的に使って、歌い上げていきます。何という素晴らしい音楽なのでしょう。オーケストラもそれに呼応しながら、大きなうねりの音楽で高潮していきます。第1楽章以上の素晴らしさにただただ、うっとりと音楽に酔ってしまいます。後期ロマン派の精華を味わい尽くす思いです。第2楽章がいつまでも続いてほしいと念じますが、無情にも第3楽章に移行します。第3楽章は一転して、勢いのある音楽です。saraiの好みは第2楽章の静謐の美です。ところが期待していなかった第3楽章は冒頭から、辻彩奈の光り輝くような演奏で素晴らしいこと、この上なしという見事さです。パワーがありながらも音楽の美を歌い上げるという離れ業のような凄い演奏です。第3楽章は東響の最高の演奏と相俟って、辻彩奈の凄い演奏に感嘆しているうちに、終盤を迎えます。フィナーレは辻彩奈がぐんぐん加速して、圧倒的な高みに達します。

何という素晴らしいヴァイオリニストが出現したんでしょう。その演奏たるや、まさに恐いもの知らずで、弾きたい放題の感もありますが、ちゃんと音楽の枠におさまっています。もっといい楽器を手に入れれば、さらなる輝きも期待できそうな予感もあります。これから、彼女の音楽を楽しみに人生を過ごしていきたいとsaraiに思わしめるような素晴らしいコンサートでした。
そうそう、アンコールで弾いたバッハの無伴奏ですが、よい意味であっけらかんとした演奏。無理に難しく弾くことはありません。リラックスして聴けるバッハでした。選曲もこれでよかったでしょう。

後半はベートーヴェンの交響曲 第2番。沼尻竜典の指揮の下、東響の素晴らしいアンサンブルで堪能させてもらいました。何もコメントする必要のない演奏です。第1楽章の颯爽としたところ、第2楽章の一点の曇りのない美しさ、第4楽章の高揚。ベートーヴェンの交響曲の中で一番、聴いていない曲ですが、やはり、素晴らしいです。何故にフルトヴェングラーはこの曲をあまり演奏しなかったのか、不思議です。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:沼尻竜典(ジョナサン・ノットの代演)
  ヴァイオリン:辻 彩奈
  管弦楽:東京交響楽団  コンサートマスター:水谷晃

  ストラヴィンスキー:バレエ音楽「カルタ遊び」
  ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番
   《アンコール》J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番 ホ長調 BWV.1006より第3曲《ロンド風のガボットGavotte en Rondeau》

   《休憩》

  ベートーヴェン:交響曲 第2番 ニ長調 Op.36


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のストラヴィンスキーのバレエ音楽「カルタ遊び」は以下のCDを聴きました。

 クラウディオ・アバド指揮ロンドン交響楽団 1974年10月 ロンドン、セッション録音

見事な演奏です。


2曲目のブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番は以下のCDを聴きました。

 アンネ・ゾフィー・ムター、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル 1980年 セッション録音
 
とても若干17歳の少女だったムターが天下のカラヤンを向こうに回して演奏したとは思えない素晴らしさ。やはり、ムターは凄い。


3曲目のベートーヴェンの交響曲 第2番は以下のCDを聴きました。

 ルドルフ・ケンペ指揮ミュンヘン・フィル 1971~73年、ミュンヘン、セッション録音
 
今まで聴いたことのない人の演奏を聴いてみようと思って、これを聴きましたが、全集のほかの曲も聴いてみたくなりました。立派な演奏で、活き活きした演奏です。



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       辻彩奈,
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オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

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えりちゃさん、お久しぶりです。saraiです。

なかなか、海外渡航の見通し、立ちませんね。来年あたりはどうでしょうね。長期戦覚悟で我慢するしかありませんね。

こちら

04/10 02:37 sarai

saraiさま、
お久しぶりです!
お元気にコンサートや旅行を楽しんでおられますね!
ブログ、楽しく拝見しています。おフランス、良いね😊
私は春だというのに、仕事と用事以

04/09 05:29 えりちや

気になってたずねても 
誰にも知らんと言われなんやろ
と思いつづけて居ました❗
写真みつけてこれだと思いました❕スッとしました
教えて下さって嬉しいです
ありがとうご

02/13 22:26 みーちゃん

みーちゃんさん、saraiです。

あの謎の建物は雄琴沖総合自動観測所という施設で琵琶湖の水質を測定しているそうです。

https://www.water.go.jp/kansai/biwako/html/repo

02/13 21:40 sarai

ずーと前にうきみどうに行きました
やはり、琵琶湖の真ん中の建物が何なのか気になったままです
分かりましたか
教えてください

02/13 20:54 みーちゃん

五十棲郁子さん、コメントありがとうございます。

水道水のこと、tap waterって言うんですね。知らなかった。単にwaterで通していました。ましてや、フランス語はほとんど

02/11 00:12 sarai

フランスも地方へ行くと英語が通じないでしょう。tap water ぐらいフランス語で言えないとね。

02/10 12:54 五十棲郁子
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