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原点のブルックナー第3番は極め付きの美 インバル&東京都交響楽団@サントリーホール 2021.1.13

久しぶりに聴くインバル指揮の都響が今年初めてのコンサート。インバルが振ると、都響はよく鳴ります。そもそも、矢部、四方のダブルコンマスで意気込みが違います。ヴィオラも珍しく、店村、鈴木のダブル首席、これでチェロの首席の古川展生が加わっていれば、完璧なベストメンバーでした。

前半はワーグナーの楽劇《トリスタンとイゾルデ》より「前奏曲と愛の死」。意外にすっきりした演奏で粘りのない表現。時折、はっとするような響きもありますが、あっさりと音楽が進行。ちょっと物足りない感はありますが、気品を湛えた演奏です。後半の《愛の死》は聴きなれたソプラノ独奏付きではなく、オーケストラのみの演奏ですが、さすがに物凄い盛り上がりに魅了されます。ちょっと違和感を覚えたのは、どうもバイロイト音楽祭で聴いた音色が耳に残っているせいかもしれません。あの祝祭劇場の響きは独特で忘れることができません。また、バイロイト詣でをしたくなってしまいます。

後半は楽しみにしていたブルックナーの交響曲第3番の1873年初稿版です。インバルはこの初稿版を世界で最初に録音した、いわば、スペシャリストですから、今日、聴けるのは僥倖です。ワーグナーの楽劇からの多くの引用がある、ブルックナーのワーグナー崇拝の原点とも言える音楽です。普通演奏される1889年ノヴァーク版第3稿はブルックナーが生涯の終わり頃に改訂したものですから、音楽自体は熟成していますが、ワーグナーからの引用はほぼ消え去り、若き日の野望に燃えた音楽とは異なるものです。さて、今日の演奏ですが、ブルックナーの野性味がたっぷりと言いたいところですが、さにあらず、実に美しい演奏でした。インバルの見事な指揮がすべてですが、それにしても都響のアンサンブルの素晴らしさに驚嘆しました。弦は高弦はもとより、低弦まで美しいのは当然としても、木管だけでなく、金管が完璧に鳴ります。ともかく、トゥッティでもアンサンブルが美しく、まったくうるさくありません。第4楽章はブルックナー休止が多用されて、ブルックナーの多彩な響きがパッチワークのように織りなされますが、強い音響から弱い音響まで、どこをとっても素晴らしい響きが鳴ります。しかもブルックナー後期の交響曲とは異なる音楽表現の多彩さに魅了されます。そうそう、第2楽章の終盤のタンホイザーの巡礼の合唱のテーマが鳴り響くところは感動ものでした。どうして、これを第3稿で除いたのでしょう。どうやら、第1ヴァイオリンのシンコペーション音型の演奏が難し過ぎたためのようですが、今日の都響はコンマスの矢部達哉以下、見事に弾きこなしていました。もちろん、懸命に演奏していましたけどね。ここが聴けただけだけでも、今日、聴いた甲斐がありました。第1楽章も勇壮かつ抒情的な演奏がブルックナー休止で入れ替わりつつ、鳴り響きました。長大な楽章でしたが、素晴らしい演奏に集中できました。第2楽章のアダージョの美しい演奏は今日の白眉。第3楽章は力強いスケルツォが駆け抜けていきました。そして、第4楽章は第3稿で495小節に切り詰められましたが、今日の初稿版は764小節の長大で複雑な音楽で聴き応え十分で、ブルックナーの原点とも思えるような音楽を堪能しました。ともかく、ブルックナー休止が多用され、終盤には、第1楽章から第3楽章までのテーマを回想するというベートーヴェンの第9番もどきもあり、コーダの高潮に大変な感銘を覚えました。
コロナ禍で曲目が変更になりましたが、インバルはとっておきのブルックナーを繰り出してくれました。終演後、ホールは大変に盛り上がり、指揮者コールは2回。当然ですね。やはり、都響はインバルが一番似合います。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:エリアフ・インバル
  管弦楽:東京都交響楽団 コンサートマスター:矢部達哉

  ワーグナー:楽劇《トリスタンとイゾルデ》より「前奏曲と愛の死」

   《休憩》

  ブルックナー:交響曲第3番 ニ短調 WAB103《ワーグナー》(ノヴァーク:1873年初稿版)


最後に予習について、まとめておきます。

ワーグナーの楽劇《トリスタンとイゾルデ》より「前奏曲と愛の死」を予習したCDは以下です。

  ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィル、ビルギット・ニルソン 1959年11月 ウィーン、ゾフィエンザール ライヴ録音

うーん、何とも凄い音楽です。クナッパーツブッシュの指揮するウィーン・フィルも素晴らしいですが、《愛の死》のビルギット・ニルソンも聴き惚れます。


ブルックナーの交響曲第3番を予習したCDは以下です。

  エリアフ・インバル指揮フランクフルト放送交響楽団 1982年 セッション録音
  カール・ベーム指揮ウィーン・フィル 1970年 セッション録音


インバル盤は1873年ノヴァーク版第1稿による世界初録音。もう、40年ほど昔の演奏になるんですね。インバルの見事な指揮で美しい演奏です。
ベーム盤は1889年ノヴァーク版第3稿による録音。剛直そうでありながら、ウィーン・フィルの柔らかく美しい演奏が活きています。



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ジャンル : 音楽

 

田部京子、胸の熱くなる究極のモーツァルト with 佐渡裕&新日本フィルハーモニー交響楽団@すみだトリフォニーホール 2021.1.16

昨年は田部京子が弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲を聴く機会が多くて、その素晴らしい演奏に魅了されました。しかし、今日のモーツァルトのピアノ協奏曲は別次元の素晴らしさ。ピアノの響き、タッチ、フレージング、切れ、音楽表現などのあまりの美しさに胸が熱くなりました。天才ピアニスト、田部京子にしても、この演奏レベルの素晴らしさに至るためには、このコンサートに向けて、よほどの準備を重ねたんでしょう。この演奏の素晴らしさを表現するには言葉を尽くしても足りません。

第1楽章、美しいオーケストラの音楽が雰囲気を高めていきます。力の抜けたバランスのよい演奏です。初聴きかもしれない佐渡裕の指揮も好感を持てます。いわゆるデモーニッシュな表現とは対極をいくような繊細な音楽が奏でられます。そのオーケストラの好演をエネルギーに変えて、田部京子の切れの良いタッチのピアノが純粋無垢な響きを奏でていきます。特に右手で奏でる高域の響きが心地よい旋律を浮き立たせます。聴いているsaraiの魂が揺さぶられます。その桃源郷のような世界に浸っているうちにカデンツァが始まります。ベートーヴェンの作ったカデンツァですね。カデンツァ終盤の見事なトリルはまるでベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番の第2楽章を想起させるような素晴らしい演奏です。

第2楽章はピアノのソロで始まります。冒頭はもうひとつの響きですが、オーケストラ、とりわけ、弦の美しい響きに触発されるかのようにピアノの響きも純化していきます。この楽章のトリオが終わった後、また、冒頭のメロディーが戻ってきたときは見違えるような美しい響きで細部の表現も磨き上げられたようなタッチで描き出されます。うっとりしながら、この楽章を終えます。

第3楽章は一転して、切れのよいピアニズムで進行します。それも音楽が進行するにつれて、実に流麗な音楽が流れ、saraiの心も浮き立ちます。いつしか、最後のカデンツァに突入し、田部京子の音楽表現の見事さに感動するのみです。最後は鍵盤上をダイナミックに指が左右に音階を奏でて、カデンツァが終わります。まるで独奏曲のフィナーレのようです。一瞬の間を置き、オーケストラが一気にテンポを上げて、コーダに向かっていきます。田部京子のピアノもそれに同期して、実に切れのよい響きを奏でていきます。そして、圧巻のフィナーレ。心の中でブラボーをコールします。最高のピアノ協奏曲第20番でした。

最愛のクララ・ハスキルとは違った音楽表現でしたが、丁寧で美しいタッチ、繊細さでは上回ったかもしれません。恐ろしいほど、緊張感に満ちた究極の演奏に呆然とするだけでした。佐渡裕指揮の新日フィルも素晴らしいサポートでした。特に高弦の美しいこと、この上ありません。

ベートーヴェンの交響曲2曲について、もはや、書くべき気力がありません。佐渡裕の思ったほど力みのない美しい表現でベートーヴェンを満喫しました。新日フィルのアンサンブルも特に最後に演奏した交響曲第6番「田園」で美しさの極みを発揮していました。終楽章の心の安寧を思わせる極上の世界に心を洗われました。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:佐渡裕
  ピアノ:田部京子
  管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団  コンサートマスター:崔文洙

  ベートーヴェン:交響曲第8番 ヘ長調 Op. 93
  モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466

   《休憩》

  ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調 Op.68「田園」


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目、3曲目のベートーヴェンの交響曲第8番、交響曲第6番「田園」は以下のCDを聴きました。

 ルドルフ・ケンペ指揮ミュンヘン・フィル 1971~73年、ミュンヘン、ビュルガーブロイケラー セッション録音
 
ケンペが首席指揮者を務めていたミュンヘン・フィルを使って録音したベートーヴェンの交響曲全集です。ケンペはこの全集を完成した3年後、65歳の若さで急逝しました。ケンペの残した遺産のひとつです。


2曲目のモーツァルトのピアノ協奏曲第20番は以下のCDを聴きました。

 田部京子、下野竜也指揮紀尾井シンフォニエッタ東京 2012年3月14-15日 上野学園 石橋メモリアルホール セッション録音
 
田部京子の美しい演奏がすべてです。しかし、今日の最高の演奏には及びません。今日のライヴ録音がCD化されないかな・・・。



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       田部京子,  

伊藤恵はシューマンが似合う! 伊藤 恵&今井信子 デュオ・コンサート@ヤマハホール 2021.1.17

伊藤恵の見事なピアノにサポートされて、今井信子の熟達したヴィオラが明快な調べを奏でた、とても心温まるデュオ・コンサートでした。

最初のシューベルトのアルペジオーネ・ソナタはまず、伊藤恵の素晴らしいピアノの響きに魅了されます。このまま、彼女のシューベルトのピアノ独奏を聴いていたいと思わせるほどの最高の響き。そして、今井信子のヴィオラの演奏が始まります。豊かな響きで明快に旋律線を描き出します。実にロマンティックな音楽が展開されていきます。ヴィオラ版を聴くのは初めてですが、何の違和感もなく、特に自然な高域の響きがよいですね。

次はブラームスのヴィオラ・ソナタ 第2番。この曲は原曲がクラリネット・ソナタですが、ヴィオラ版を聴くのは初めてです。第1楽章の第1主題のロマンにあふれた演奏の素晴らしいこと。何度も繰り返しあらわれますが、すっかり魅了されました。第2楽章もロマンにあふれる熱情が素晴らしいです。ブラームスの作曲した最後の室内楽作品を堪能させてもらいました。

後半はシューベルトとシューマンの歌曲の代表作をヴィオラで演奏します。冬の旅は有名な曲を2曲、演奏します。心の中で歌をくちずさみながら、楽しく鑑賞します。ここでも伊藤恵のシューベルトは見事です。今井信子は実に明快に旋律線を歌い上げます。

続いて、シューマンの詩人の恋。第1曲の《うるわしき5月に》の伊藤恵のピアノの素晴らしいこと。美しい演奏に心を奪われます。第12曲の《まばゆい夏の朝に》も素晴らしい演奏です。今井信子のヴィオラもシューマンの夢心を見事に表現します。そして、終曲の最後のピアノのソロが圧巻でした。伊藤恵はやはり、シューマンが似合います。

アンコールの2曲も素晴らしい演奏でした。シューマンの《夕べの歌》は初めて聴きましたが、シューマンのロマンがいっぱい詰まった素晴らしい演奏でした。最後のシューベルトの《春の夢》はsarai、そして、昨年亡くなった母も大好きだった曲です。何とも素晴らしい演奏に胸が熱くなりました。

ようやく、念願の今井信子さんのヴィオラが聴けました。期待通りの演奏に満足しました。それにしても、伊藤恵さんのピアノのサポートの素晴らしかったこと、感銘を受けました。素晴らしいデュオですね。


今日のプログラムは以下です。

  ピアノ:伊藤 恵
  ヴィオラ:今井信子

  シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D821
  ブラームス:ヴィオラ・ソナタ 第2番 変ホ長調 Op.120-2

   《休憩》

  シューベルト:冬の旅 Op.89, D911 より 第1曲 おやすみ、第5曲 菩提樹
  シューマン:詩人の恋 Op.48

   《アンコール》
   シューマン:夕べの歌~ピアノ連弾曲集「小さな子供と大きな子供のための12のピアノ曲集」Op.85 第12曲
   シューベルト:冬の旅 Op.89, D911 より 第11番 春の夢


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のシューベルトのアルペジオーネ・ソナタは以下のCDを聴きました。

 ミシャ・マイスキー、マルタ・アルゲリッチ 1984年 セッション録音
 
とてもロマンティックで繊細な演奏です。いつもはロスポロポージッチ&ブリテンの演奏を聴くことが多いのですが、甲乙つけがたい演奏です。


2曲目のブラームスのヴィオラ・ソナタ 第2番は以下のCDを聴きました。

 ヨゼフ・スーク、ヤン・パネンカ 1990年 セッション録音
 
スークのヴィオラが素晴らしいです。パネンカのピアノがもうひとつなのは残念ですが・・・。


3曲目のシューベルトの冬の旅は以下のCDを聴きました。

 ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ、ジェラルド・ムーア 1962年11月10,14日、ベルリン セッション録音

saraiにとって、これは永遠の名盤。この録音でシューベルトの歌曲のとりこになりました。


4曲目のシューマンの詩人の恋は以下のCDを聴きました。

 ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ、クリストフ・エッシェンバッハ 1974~76年 セッション録音

フィッシャー=ディースカウはもちろん、完璧な歌唱ですが、エッシェンバッハのピアノも素晴らしい。



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       伊藤恵,  

辻彩奈の優雅な響きのヴァイオリンにうっとり@東京芸術劇場コンサートホール 2021.1.23

このところ、ヴァイオリンの期待の新星、辻彩奈のコンサートが多くて、聴き逃がさないようにしています。お陰で滅多に聴かないN響のコンサートにわざわざ足を運んでしまいました。
今日は珍しく、ほぼラヴェルだけの曲を並べたコンサートです。たまにはいいかもしれません。

さて、辻彩奈の演奏ですが、彼女なら、これくらい弾くだろうという期待通りの演奏です。それ以上ではなかったのが残念と言えば、残念。やはり、もう少し、いいヴァイオリンを誰かが貸与してくれれば、ヴァイオリンの響きがさらに輝かしくなるような気がします。

最初のショーソンの詩曲ですが、実に艶やかな演奏です。超絶技巧もさりげなく演奏し、その優雅な演奏は彼女の若さを考えると驚異的です。音楽的表現も見事なものでした。
続くラヴェルのチガーヌですが、これも素晴らしい演奏。実にさりげなく演奏するので、簡単な曲だと思えてしまうほどです。もっと突っ込んで奔放な演奏をしてもらいたくもありますが、余裕のある弾きっぷりも聴き応え十分ではありました。スケールの大きな演奏でした。コパチンスカヤの個性的な演奏にも比肩するほどの完成度の高い演奏でした。

そうそう、辻彩奈のアンコール曲は日本人作曲家の現代音楽でしたが、これはとても突っ込んだ演奏でショーソンやラヴェルの安定した演奏とは異なっていて、満足して聴けました。

今日のコンサートは辻彩奈の素晴らしいヴァイオリンが聴けただけで十分に満足しましたが、沼尻竜典指揮のN響も繊細で美しいラヴェルを聴かせてくれました。とりわけ、マ・メール・ロワは響きの多彩さに感銘を覚えました。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:沼尻竜典
  ヴァイオリン:辻 彩奈
  管弦楽:NHK交響楽団  コンサートマスター:白井圭

  ラヴェル:組曲「クープランの墓」
  ショーソン:詩曲 Op.25
  ラヴェル:チガーヌ
   《アンコール》権代敦彦:Post Festum ~ソロ・ヴァイオリンのための Op.172 第3曲

   《休憩》

  ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
  ラヴェル:バレエ音楽「マ・メール・ロワ」(全曲)


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のラヴェルの組曲「クープランの墓」は以下のCDを聴きました。

 フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮レ・シエクル 2017年8月13日 ブローニュ=ビヤンクール、ラ・セーヌ セッション録音

今や、ラヴェルについてはロト指揮レ・シエクルが定番のスタンダートと言えます。文句ない演奏です。


2曲目のショーソンの詩曲 Op.25は以下のCDを聴きました。

 アルテュール・グリュミオー、マニュエル・ロザンタール指揮コンセール・ラムルー管弦楽団 1966年3月 パリ セッション録音
 
こういうフランス系の音楽ではグリュミオーは素晴らしい演奏を聴かせてくれます。


3曲目のラヴェルのチガーヌは以下のCDを聴きました。

 アンネ・ゾフィー・ムター、ジェイムズ・レヴァイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1992年11月 ウィーン セッション録音
 
ムターで悪かろう筈がありません。


4曲目のラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌは以下のCDを聴きました。

 アンドレ・クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団 1962年9月26,27日,10月2,3日 パリ セッション録音
 
定番の録音です。ほっこりした演奏。


5曲目のラヴェルのバレエ音楽「マ・メール・ロワ」(全曲)は以下のCDを聴きました。

 フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮レ・シエクル 2017年8月13日 ブローニュ=ビヤンクール、ラ・セーヌ セッション録音
 
前述したように、ラヴェルでは今や決定盤。素晴らしい演奏です。



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       辻彩奈,  

南紫音のベルクは表現主義的エネルギーが炸裂した後、魂が救済される感動のフィナーレ 下野竜也&東響@ミューザ川崎シンフォニーホール 2021.1.24

今日のコンサートはベートーヴェンのオペラ《フィデリオ》の序曲集4曲をまとめて聴けることが楽しみでしたが、全体にそう大きな期待を持って臨んだコンサートではありませんでした。
ところが、何とも素晴らしいベルクのヴァイオリン協奏曲を聴くことができました。ヴァイオリンの南紫音を聴くのは初めてでしたが、よく考え抜かれて、表現力豊かな演奏と素晴らしいテクニックで20世紀を代表するヴァイオリン協奏曲の真価を示してくれました。こんなに集中して、この作品に聴き入ったのは初めての体験です。
第1楽章は冒頭の印象的な12音のセリーが繊細に奏でられます。その後、オペラ《ルル》を彷彿とさせるような孤独な魂の彷徨が綿々と綴られていきます。実に充実した演奏に魅了されます。
しかし、本当に素晴らしかったのは第2楽章です。暴力的とも言える表現主義的な音列が炸裂して、聴くものの魂を揺さぶり、震撼とさせられます。感動ではありませんが、一種の高揚感はあります。終盤になり、バッハのコラール(カンタータ第60番の第5曲)が静謐な調べを奏でます。それまで凶暴な響きを立てていた独奏ヴァイオリンがそれに癒されたように和します。そして、魂の安寧を得たように独奏ヴァイオリンが優しい響きでそっと優しく調べを奏で、第1ヴァイオリンのトップ二人に寄り添い、ドッペルゲンガーの如く、一緒に同じ旋律を奏で始めます。魂の融合です。その魂の融合はさざ波のように第1ヴァイオリン全体に広がり、さらに、弦楽セクション全体がそれに和していきます。孤独な魂(独奏ヴァイオリン)は周りの人間たち(弦楽セクション全体)に支えられて、癒しの時を迎えます。saraiはたまらず、強い感動に襲われます。何と優しい音楽に包まれているんでしょう。やがて、そのカタルシスは終焉の時を迎えます。天使のように付き添うヴィオラの首席奏者、コンサートマスターの独奏の輪に独奏ヴァイオリンも加わり、天上に昇天していきます。独奏ヴァイオリンが高いキーの持続音を静かに奏でる中、第1楽章冒頭の12音のセリーがかすかに聴こえてきます。孤独な魂が救済されながら、ベルクの遺作協奏曲は静かに終わります。圧巻の演奏でした。若くして世を去ったマノン(アルマ・マーラーの娘)の魂もベルクの魂も、そして、非業の死を遂げたルル、さらにはすべからく、すべての人々の魂が救われた思いでいっぱいになりました。この曲は魂の救済のレクイエムであることを教えてくれるような南紫音、渾身の演奏でした。下野竜也指揮の東響もその南紫音の素晴らしい音楽を支える高精度の演奏を聴かせてくれました。真の意味でこれこそ協奏曲と言えるでしょう。

プログラム冒頭のボッケリーニ(ベリオ編曲)の《マドリードの夜の帰営ラッパ》は古い調べをベリオが再生した音楽を東響のアンサンブルが見事に演奏してくれました。プログラム後半のベートーヴェンのオペラ《フィデリオ》の序曲集4曲は東響の弦楽アンサンブルの美しい調べに魅了されました。ベルクのヴァイオリン協奏曲を中心に実に充実した音楽が聴けて、素晴らしいコンサートでした。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:下野竜也
  ヴァイオリン:南紫音
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:グレブ・ニキティン

  ボッケリーニ(ベリオ編曲):マドリードの夜の帰営ラッパ
  ベルク:ヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」

  《休憩》

  ベートーヴェン:「フィデリオ」序曲 op.72
         :「レオノーレ」序曲 第1番 op.138
         :「レオノーレ」序曲 第2番 op.72a
         :「レオノーレ」序曲 第3番 op.72b


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のボッケリーニ(ベリオ編曲)の《マドリードの夜の帰営ラッパ》を予習したCDは以下です。

  リッカルド・シャイー指揮ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団 2004年8月25‐28日 ミラノ セッション録音

ベリオ作曲の編曲した作品を集めたトランスクリプションズと題されたアルバムの中の1曲です。ベリオはずい分、過去の作曲家の作品を編曲しているんですね。


2曲目のベルクのヴァイオリン協奏曲を予習したCDは以下です。

  アンネ=ゾフィー・ムター、ジェイムズ・レヴァイン指揮シカゴ交響楽団 1992年6月 シカゴ セッション録音

意外にムターの演奏は繊細なものでした。


3曲目以降のベートーヴェンのオペラ《フィデリオ》序曲集を予習したCDは以下です。

  クラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1986年9月(「レオノーレ」序曲 第2番)、1989年10月 ウィーン、ムジークフェライン、大ホール セッション録音

アバドはウィーンでよい仕事をしていましたね。非の打ちどころのない演奏です。ウィーン・フィルもさすがですね。この頃のコンマスはヘッツェルです。




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極上のシューマンの夕べ ファウスト&メルニコフ@王子ホール 2021.1.26

ヴァイオリンのイザベル・ファウストはこれまで、バッハの無伴奏、ブラームスの協奏曲を聴きましたが、今日のような室内楽が最高です。それもシューマンがとっても似合います。彼女のヴァイオリンはまるでシューマンを演奏するためだけのようなヴァイオリンの響きです。リサイタルの最初と最後に演奏されたシューマンのソナタの素晴らしさはどうでしょう。これ以上のシューマンは決して聴けないでしょう。それにsaraiはシューマンが大好きですから、今日のリサイタルは忘れられないものになりました。シューマンの音楽は最高です。

最初に演奏されたシューマンのヴァイオリン・ソナタ第1番は暗い情感に満ちていて、ファウストの柔らかい表情のヴァイオリンの響きがロマンティックに歌い上げます。メルニコフの力強いタッチのピアノがそれを支えます。どこか、やるせない雰囲気もあります。ラフマニノフはロシアのやるせなさの音楽ですが、シューマンもドイツのやるせなさの音楽だったのかと今さらながら感じます。この曲はシューマンとしては後期のデュッセルドルフ時代に作曲されたものです。狂気に苛まれ始めたシューマンが美しいロマンの中にどこか苦しそうな感情を秘めたような音楽を書きました。傑作である以上にsaraiの愛する作品です。それは後で演奏される第2番のソナタも同様です。その愛する作品がこれ以上はないように演奏されるのですから、saraiはたまりません。身もだえするような気持ちで聴き入っていました。素晴らし過ぎるシューマンに魅了されました。

次のウェーベルンはとても短い曲ですが、恐ろしいほど緊張感に満ちた演奏に呪縛されました。

プログラムの前半、最後に演奏されたブラームスのクラリネット・ソナタ第2番はブラームスが生涯で最後に書いた室内楽作品です。今日はブラームス自身が編曲したヴァイオリン版です。もちろん、初めて聴きます。冒頭からブラームスらしい抒情的な旋律が流れますが、ファウストの柔らかい響きのヴァイオリンはまったく違和感がなく、美しさの極みです。詳細は書きませんが、今後はヴァイオリン版も演奏機会が増えそうな気がします。それほど素晴らしい演奏でした。ブラームスのヴァイオリン・ソナタは3曲ですが、クラリネット・ソナタ2曲のヴァイオリン版を入れて、これからはヴァイオリン・ソナタが5曲も聴けるのは嬉しいですね。

休憩後、一番、楽しみにしていたシューマンのヴァイオリン・ソナタ第2番です。冒頭で演奏された第1番と同じような雰囲気の素晴らしい演奏です。第1番ほどはやるせなさはありませんが、それ以上に暗い情感が前面に出ます。シューマンの自殺未遂事件の頃の作品です。ロマンや明るく勢いのある外面の背後にシューマンの狂気や苦しみが秘められています。そういう微妙な雰囲気を見事に表現するファウストの演奏です。この作品の聴きどころは第3楽章で哀しい調べのコラールが奏でられるところです。ピチカートに始まり、弓で単音、重音と弾き継がれます。ここで大きな感動があります。激しいトリオを経て、また、コラールに回帰します。ここでさらに感動が増します。ファウストのヴァイオリンも素晴らしいですが、メルニコフのピアノの伴奏の美しいこと! 第4楽章は祝典的にも思える音楽ですが、暗い狂気も秘めています。圧巻のフィナーレでした。

こんな素晴らしいシューマンは2度と聴けないような気がします。コロナ禍の中、よくもお二人は来日してくれました。素晴らしい音楽をありがとう!

そうそう、アンコールで演奏されたクララ・シューマンの美しいロマンス、うっとりと聴きました。いつぞや、コパチンスカヤの演奏でも聴きましたが、とても素晴らしい曲です。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  ヴァイオリン:イザベル・ファウスト
  ピアノ:アレクサンドル・メルニコフ

  シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ短調 Op.105
  ウェーベルン:ヴァイオリンとピアノのための4つの小品 Op.7
  ブラームス:クラリネット・ソナタ 第2番 変ホ長調 Op.120-2(ヴァイオリン版)

   《休憩》

  シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ニ短調 Op.121

   《アンコール》
     クララ・シューマン :ピアノとヴァイオリンのための3つのロマンス Op.22より 第1楽章
 


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目、4曲目のシューマンの2つのヴァイオリン・ソナタを予習したCDは以下です。

  イザベル・ファウスト、ジルケ・アーヴェンハウス 1999年 セッション録音
  ギドン・クレーメル、マルタ・アルゲリッチ 1985年 セッション録音
  アドルフ・ブッシュ、ルドルフ・ゼルキン 1943年 ワシントン ライヴ録音

いずれも素晴らしい演奏。ブッシュは古い録音ですが、感動なしに聴けません。


2曲目のウェーベルンのヴァイオリンとピアノのための4つの小品を予習したCDは以下です。

  アンネ=ゾフィー・ムター、ランバート・オーキス 2000年5月 ライヴ録音
  ギドン・クレーメル、オレグ・マイセンベルク 1994年5月 ドイツ、ノイマルクト

これも名人2人の演奏は緊張感に満ちた素晴らしい演奏。


3曲目のブラームスのクラリネット・ソナタ 第2番はヴァイオリン版のよいものがなくて、ヴィオラ版を中心に以下のCDで予習しました。

  ウイリアム・プリムローズ(ヴィオラ)、ルドルフ・フィルクスニー 1958年 セッション録音
  ヨゼフ・スーク(ヴィオラ)、ヤン・パネンカ 1990年 セッション録音
  イェルク・ヴィトマン(クラリネット)、アンドラーシュ・シフ 2018年5月14-16日 ドイツ、ノイマルクト、Historischer Reitstadel セッション録音

プリムローズは古い録音ですが、おおらかな演奏で楽しませてくれます。スークはとても美しい、清々しい演奏。ヴィトマンとシフはこれぞ真打ちという深い演奏です。



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       ファウスト,  

今日もシューマンの豊かなロマンの世界にうっとり ファウスト&メルニコフ@王子ホール 2021.1.27

昨日に引き続いて、イザベル・ファウストのヴァイオリン、アレクサンドル・メルニコフのピアノを聴きます。前半のプログラム、後半のプログラムのそれぞれ冒頭にシューマンがドレスデン時代に書いた短いけれども実に充実した作品が演奏されました。昨日のシューマンと同様に素晴らしい演奏でした。音楽的に深い内容の演奏にうっとりと聴き入りました。ファウストのヴァイオリンの音色はシューマンにぴったりで、彼女をシューマン弾きと呼びたいほどです。特に後半のプログラムで演奏された3つのロマンスの深い情感には強い感銘を覚えました。第2曲の抒情的なメロディーをファウストは柔らかいヴァイオリンの響きで歌い上げて、最高のシューマンの音楽を聴かせてくれました。本来、プログラム的には、シューマンの作品は前菜の位置づけですが、極上の前菜になっていました。2日間通して、こんな素晴らしいシューマンが聴けて、シューマン好きとしては最高の2日間になりました。

もちろん、メインの曲の演奏も素晴らしかったんです。前半のバルトークの緊張感の高い演奏も聴きものでした。第1楽章の夜を思わせる冷徹な表現、第2楽章の爆発的なエネルギー。素晴らしいバルトークでした。しかし、プログラム的にどうも落ち着きが悪かったのも事実です。せっかくだから、むしろ、シューマンの第3番のソナタを弾いてくれたほうがよかったかなと思っていたら、それはアンコールでプレゼントされました。

後半のメインのブラームスのクラリネット・ソナタ第1番のヴァイオリン版は昨日の第2番以上の素晴らしい演奏。第1楽章と第2楽章の爽やかなロマンはクラリネットで演奏する渋い世界とは別物のようで、ファウストのヴァイオリンの柔らかい響きが心を打ちます。そして、第4楽章の圧倒的なフィナーレ。ファウストのブラームスもいいですね。ヴァイオリン・ソナタも聴きたかったところです。リサイタルの3日目があれば、ブラームスのヴァイオリン・ソナタが聴けたでしょう。少々、残念です。

そして、最後のアンコールはシューマンで〆です。ヴァイオリン・ソナタ第3番の間奏曲というよりも『F.A.E.ソナタ』の間奏曲です。またまた、シューマンの世界にうっとり。ファウストの弾くシューマンの素晴らしさを堪能しました。

今でもシューマンのヴァイオリン・ソナタ 第2番の第3楽章のコラールの旋律が脳裏から離れず、ずっと、2日間、鳴り続けています。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  ヴァイオリン:イザベル・ファウスト
  ピアノ:アレクサンドル・メルニコフ

  シューマン:幻想小曲集 Op.73
  バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 Sz76

   《休憩》

  シューマン:3つのロマンス Op.94
  ブラームス:クラリネット・ソナタ 第1番 ヘ短調 Op.120-1(ヴァイオリン版)

   《アンコール》
     シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 イ短調 WoO 27より 第3楽章 間奏曲(F.A.E.ソナタ第2楽章より転用)


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のシューマンの幻想小曲集はヴァイオリン版のよいものがなくて、チェロ版の以下のCDで予習しました。

  ミッシャ・マイスキー、マルタ・アルゲリッチ 1999年12月 ブリュッセル セッション録音

マイスキーらしいロマンティックな演奏です。


2曲目のバルトークのヴァイオリン・ソナタ 第2番を予習したCDは以下です。

  パトリツィア・コパチンスカヤ、ポリーナ・レシチェンコ 2017年6月 グルノーブル、MC2 セッション録音

コパチンスカヤが弾くとこうなるのねっていう、自在で凄い演奏です。


3曲目のシューマンの3つのロマンスを予習したCDは以下です。

  イザベル・ファウスト、アレクサンドル・メルニコフ 2014年9月 セッション録音

今日のリサイタルで演奏するファウストとメルニコフのコンビでの演奏です。


4曲目のブラームスのクラリネット・ソナタ 第1番はヴァイオリン版のよいものがなくて、ヴィオラ版を中心に以下のCDで予習しました。

  ウイリアム・プリムローズ(ヴィオラ)、ルドルフ・フィルクスニー 1958年 セッション録音
  ヨゼフ・スーク(ヴィオラ)、ヤン・パネンカ 1990年 セッション録音
  イェルク・ヴィトマン(クラリネット)、アンドラーシュ・シフ 2018年5月14-16日 ドイツ、ノイマルクト、Historischer Reitstadel セッション録音

プリムローズは古い録音ですが、おおらかな演奏で楽しませてくれます。スークはとても美しい、清々しい演奏。ヴィトマンとシフはこれぞ真打ちという深い演奏です。


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       ファウスト,  

シューマンもいいけど、シューベルトは最高! 白井圭&伊藤恵 シューベルト&シューマンの夕べ@ハクジュホール(Hakuju Hall) 2021.2.10

先日は伊藤恵の見事なピアノにサポートされた今井信子の熟達したヴィオラが明快な調べを奏でたデュオ・コンサートを聴きましたが、今日も伊藤恵が得意にするシューマンとシューベルトの音楽を今、勢いのある白井圭のヴァイオリンとのアンサンブルでたっぷり、聴かせてもらいました。とても充実した演奏にすっかり魅了されました。

最初のシューベルトは若い頃の作品で素朴な味わいがとても好感を持てる演奏。白井圭のヴァイオリンは素直な表現で作曲家の音楽に奉仕するような明快な演奏です。伊藤恵のピアノはドイツ的な安定した表現で、細かいニュアンスを散りばめて、シューベルトの魅力を余すところなく聴かせてくれます。第2楽章の中間部の憧れを感じさせる美しい旋律を二人はパーフェクトに演奏してくれました。

次はシューマンのヴァイオリン・ソナタ 第2番。ファウストとメルニコフのコンビで聴いたばかりです。おそらく、現在、シューマンを弾かせたら、このコンビが世界で最高でしょう。そういう素晴らしい演奏を聴いたばかりでしたが、今日の白井圭&伊藤恵のコンビもそれに並び立つほどの素晴らしい演奏を聴かせてくれました。何と言っても、伊藤恵のピアノが素晴らしく、とても柔らかいタッチで繊細な表現を聴かせてくれます。シューマンの独奏曲を弾くときはもっと重厚な演奏を聴かせてくれますが、ヴァイオリンとのアンサンブルを意識した抑えた表現です。この伊藤恵の最高のピアノの演奏に乗って、白井圭は明快で伸びのあるヴァイオリンの響きを聴かせてくれます。大好きな第3楽章では、伊藤恵の名人芸の分散和音に乗って、白井圭が美しいコラールの旋律を歌い上げます。何とも素晴らしい音楽に魅惑されるだけです。

後半はシューマンのヴァイオリン・ソナタ 第1番。先ほどの第2番のソナタと同様の素晴らしい演奏です。とりわけ、第1楽章の暗い情念に満ちた音楽をパーフェクトに表現。シューマンの音楽の素晴らしさにただただ魅了されます。トータルには、この第1番のほうがよい出来だったかもしれません。シューマンの2つのソナタを聴いただけで大満足です。

しかし、今日の最高の演奏は最後のシューベルトの幻想曲でした。こういう素晴らしい音楽を聴いたのは久々です。シューベルトの晩年の名作を憧れに満ちたロマンあふれる表現で見事に演奏してくれました。特に緩徐パートでの美しさが最高で、ニュアンスに富んだピアノと明快なヴァイオリンの響きの醸し出すロマンの世界はシューベルトの天才ぶりを堪能させてくれました。大変な感動に襲われながら、二人の名演に聴き入っていました。曲も最高、演奏も最高で言うことなしです。

お二人の出会いは白井圭が藝大の学生で伊藤恵が藝大の教授の頃にさかのぼるそうですが、今や、素晴らしいコンビになりましたね。また、こういう演奏の機会があることを願うのみです。


今日のプログラムは以下です。

  白井圭 伊藤恵 シューベルト&シューマンの夕べ

  ヴァイオリン:白井圭
  ピアノ:伊藤恵

  シューベルト:ソナチネ 第1番 ニ長調 Op.137-1 D384
  シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ニ短調 Op.121

   《休憩》

  シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ短調 Op.105
  シューベルト:幻想曲 ハ長調 Op.159 D934

   《アンコール》
   シューマン(ヴァイオリン版:アウアー編):森の情景 Op.82より、第7曲 予言の鳥


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目、4曲目のシューベルトは以下のCDを聴きました。

  アリーナ・イブラギモヴァ、セドリック・ティベルギアン 2012年7月27-29日、8月3-4日 ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール セッション録音
 
イブラギモヴァは意外に抑えた演奏でシューベルトの音楽を主役に据えた演奏です。幻想曲は圧巻の出来栄えです。


2曲目、3曲目のシューマンの2つのソナタは以下のCDを聴きました。

 キャロリン・ヴィドマン、デネーシュ・ヴァーリョン 2007年8月25-27日 オーディトリオ・RTSI・ルガーノ,スイス セッション録音
 
キャロリン・ヴィドマンは作曲家でクラリネット奏者のイエルク・ヴィドマンを兄に持つ注目の若手ヴァイオリニスト。この演奏は悪くはないのですが、魅了されるほどでもないという演奏。



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       伊藤恵,  

イザベル・ファウストのシマノフスキはミステリアスでありながら、チャーミング 熊倉 優&NHK交響楽団@東京芸術劇場コンサートホール 2021.2.12

イザベル・ファウストはコロナ禍の中、海外演奏家として入国制限の中、最後に入国し、1月から日本で演奏を続けています。とてもありがたいので、再び、その演奏を聴くために足を運びました。
先日聴いたシューマンとブラームスの室内楽はとても素晴らしかったのですが、今日のシマノフスキの協奏曲はまた、趣きが違って、とってもチャーミングな演奏。引き出しの多さに驚かされます。シマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番は独奏ヴァイオリンのパートがほぼ全曲にわたって、高音域の繊細でミステリアスな表現が続きますが、ファウストは驚くべき美音で聴き手を魅惑してくれました。特に左手の強めのヴィブラートは圧倒的。オリジナル演奏ではノンヴィブラートも得意なのに、彼女は多彩な表現力がありますね。若手の指揮者、熊倉 優率いるNHK交響楽団も色彩感あふれる響きで好サポートでした。ファウストは音楽だけでなく、シマノフスキにぴったりの奇妙なドレスもなかなかチャーミングでした。いつもは地味ないでたちなのに、今日は張り切っていますね。ともかく、日本に2か月も滞在して、日本の聴衆に音楽を聴かせてくれたことに感謝です。彼女がヨーロッパに戻ったら、しばらく、海外演奏家の演奏が聴けそうにありません。コロナがある程度収束して、何とか、海外からの演奏家が来日できることを願うばかりです。あるいは、ファウストがもうしばらく、日本で演奏活動を続けてくれないかな・・・。

後半のプログラム、ドヴォルザークの交響曲 第6番は熊倉 優の清新な指揮のもと、”MARO”こと篠崎史紀率いるNHK交響楽団の素晴らしい響きで魅了してくれました。一つだけ残念だったのは、ボヘミアの素朴な雰囲気が感じられなかったことですが、無理な要求かもしれません。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:熊倉 優
  ヴァイオリン:イザベル・ファウスト
  管弦楽:NHK交響楽団  コンサートマスター:篠崎史紀

  スメタナ:歌劇「売られた花嫁」─ 3つの舞曲(ポルカ/フリアント/道化師の踊り)
  シマノフスキ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 Op.35
   《アンコール》ニコラ・マタイス:ヴァイオリンのためのエアー集 前奏曲/パッサージオ・ロット/アンダメント・ヴェローチェ

   《休憩》

  ドヴォルザーク:交響曲 第6番 ニ長調 Op.60


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のスメタナの歌劇「売られた花嫁」からの 3つの舞曲は以下のCDを聴きました。

 ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 1963年 クリーヴランド セッション録音

セルのお国ものの演奏はさすがのレベルです。


2曲目のシマノフスキのヴァイオリン協奏曲 第1番は以下のCDを聴きました。

 バイバ・スクリデ、ワシーリー・ペトレンコ指揮オスロ・フィル 2013年2月14、15日 オスロ・コンサート・ホール セッション録音
 フランク・ペーター・ツィンマーマン、アントニ・ヴィト指揮ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団 2007年 セッション録音
 
いずれも熱演。スクリデのヴァイオリンは美しい高域の響きを聴かせてくれます。一方、ツィンマーマンは男性とは思えない繊細な美を表現してくれます。


3曲目のドヴォルザークの交響曲 第6番は以下のCDを聴きました。

 ズデニェック・コシュラー指揮スロヴァキア・フィル 1977年 セッション録音
 
弦セクションの美しさが際立ちます。見事な演奏です。



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       ファウスト,  

バッハ・コレギウム・ジャパン、創立30周年を締めくくる入魂のヨハネ受難曲@サントリーホール 2021.2.19

創立30周年を迎えたバッハ・コレギウム・ジャパン(以下、BCJと略称で書きます)ですが、コロナ禍でコンサートが危ぶまれましたが、無事にバッハの3大宗教曲を本日のヨハネ受難曲の演奏を持って、やり終えました。
聖金曜日から真夏に延期になった《マタイ受難曲》の最高の名演に続き、ロ短調ミサ曲もポリフォニーの極致を極める清冽で迫力のある音楽を聴かせてくれました。この2つはバッハと言うよりも、西欧音楽の頂点に立つ作品です。今日のヨハネ受難曲はその2曲に比べると、曲の構成、オーケストラと合唱隊の構成が小さくて、地味な印象ですが、BCJは創立以来、この曲を得意にしており、世界的にも最高水準の演奏を続けています。そういう意味でとても期待が持てます。それに白状するとsaraiは実演でこの曲を聴くのは初めてなんです。
で、結論を先に述べると、マタイ受難曲、ロ短調ミサ曲に並び立つ素晴らしい演奏でした。演奏自体だけで言うと、まさにBCJの名人たちがその持てる力を出し尽くしたとも言える入魂の演奏でした。

BCJの総力を挙げた演奏でしたが、その演奏の素晴らしさの原動力を3つ、挙げるとすると、第一にエヴァンゲリストを歌った櫻田 亮の美声とテクニックの巧みさ、さらには気魄の凄さに驚嘆しました。これはマタイ受難曲のとき以上と言えます。これだけ歌える人は世界中探してもいないでしょう。
2番目は合唱隊の素晴らしさです。特にコラールの美しさは例えようもありません。このコラールを聴くだけでもヨハネ受難曲を聴く甲斐がありました。バッハの音楽の最高峰はマタイとヨハネの2つの受難曲のコラールではないかと思ってしまいます。どんなささくれた気持ちも癒されてしまいます。BCJの合唱隊のコラールは西洋音楽の原点を衝くものです。
3番目は指揮者の鈴木雅明のバッハへの情熱です。それがBCJの全員に伝わっての名演につながっています。

以上が今日の演奏の総括ですが、どうしても書きたいところに絞って何点かを挙げます。

第30曲のアルトのアリア、成し遂げられた!Es ist vollbracht !
ヴィオラ・ダ・ガンバの美しい響きに乗って、CTの久保法之があり得ないような歌唱を聴かせてくれました。失礼ながら、持てる実力の150%くらいの美し過ぎる歌唱でした。これなら、海外のCTに引けをとりませんし、BCJのCDで聴ける米良の歌唱にも優るとも劣らないという絶唱でした。

この第30曲に続く10曲は素晴らし過ぎる演奏ばかりです。

第32曲のアリアとコラール、尊い救い主よ、お尋ねしてよろしいでしょうかMein teurer Heiland,lass dich fragen
今日、好調の加耒 徹の張りのある歌唱は素晴らしいです。そのバックで合唱隊が低い音量で歌うコラールの何とも美しいことに感銘を覚えます。この味わいは実演ならではでしょう。

第35曲のソプラノのアリア、わが心よ、涙となって融け流れよZerfließe, mein Herze, in Fluten der Zähren
これは今日の最高の演奏でした。BCJの達人たちが総結集した名演です。弱音器を付けたヴァイオリンの若松夏美、フラウト・トラヴェルソの菅きよみ、オーボエ・ダ・カッチャの三宮正満、オルガンの鈴木優人、チェロの山本徹の素晴らしいアンサンブルをバックにソプラノの松井亜希が畢生の歌唱を聴かせてくれました。正直言って、彼女がこんな素晴らしい歌唱を聴かせてくれるとは衝撃でした。ピュアーな声と素晴らしい節回し、それに完璧とも思える曲の理解。ここまで歌えるソプラノだったとは・・・絶句です。


第39曲の合唱、安らかに眠ってください、聖なる骸よRuht wohl, ihr heiligen Gebeine
マタイ受難曲の終曲と類似した音楽が素晴らしい合唱で聴けます。聴き惚れるだけです。

第40曲のコラール、ああ 主よ、あなたの愛する天使を遣わされAch Herr, las dein lieb Engelein
BCJの合唱隊が持てる喉の最後の力を振り絞ったような感銘あふれる終曲です。

コロナ禍で海外からの独唱者が来日できず、日本人メンバーだけでの演奏になりましたが、そういうことを払拭するような最高の演奏でした。


今日のプログラムは以下です。


  指揮:鈴木雅明
  エヴァンゲリスト:櫻田 亮
  イエス/バス:加耒 徹
  ソプラノ:松井亜希
  アルト:久保法之
  テノール:谷口洋介
  オルガン/チェンバロ:鈴木優人
  フラウト・トラヴェルソ:菅きよみ
  オーボエ:三宮正満
  ヴァイオリン(コンサートマスター):若松夏美
  チェロ:山本徹
  合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン


J. S. バッハ

《ヨハネ受難曲》 BWV 245

第1部

 《休憩》

第2部


最後に予習について、まとめておきます。

以下のCDを聴きました。

 鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパン
  ゲルト・テュルク(福音史家)、浦野智行(イエス)
  イングリット・シュミットヒューゼン、米良美一、桜田亮、ペーター・コーイ
   1998年4月、神戸松蔭女子学院大学チャペル セッション録音

バッハ・コレギウム・ジャパンのデビュー録音もヨハネ受難曲でしたが、これはその3年後のBIS録音です。さらにこの2年後には映像版も収録されています。昨年、2020年、コロナ禍のヨーロッパで演奏旅行中に演奏会を断念したケルンでこの曲の3回目のCD録音も行っています。今回は名演の誉れ高い1998年のCDを聴きましたが、昨年の新録音は所蔵するもまだ聴いていません。ヨハネ受難曲はBCJの十八番です。楽しみはとっておきましょう。



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       バッハ・コレギウム・ジャパン,  

久々のマーラー、久々の中村恵理 大野和士&東京都交響楽団@東京文化会館 2021.2.22

久しぶりに中村恵理の歌声を聴いて、ただただ満足。一昨年の12月に聴いて以来です。コロナ禍で聴けませんでした。マーラーの歌唱としてはまあ、及第点でしょうが、彼女なら、もっと歌えた筈です。
マーラーを聴くのも久しぶりです。コロナ禍でマーラーのような大規模なオーケストラ作品は演奏機会がありませんでした。これも一昨年の12月に聴いて以来です。そのときも都響でした。アラン・ギルバートの指揮で素晴らしい交響曲第6番でした。
 https://sarai2551.blog.fc2.com/blog-entry-3402.html
今回の都響の演奏とは比べ物にならないレベルの見事な演奏でした。指揮者が変われば、こうも変わるものでしょうか。オーケストラは美しい音響でしたが、内容に乏しい演奏に終始しました。第3楽章だけは美しい演奏でうっとりと聴けたのが救いです。それに第4楽章は中村恵理の美しい声が聴けたので、後半はよかったんです。

冒頭の武満 徹の《夢の時》はとても素晴らしい演奏でした。パースペクティヴとも言える音響の広がりがまるで夜空の星のきらめきを感じさせます。こんな閉鎖空間のコンサートホールではなく、自然の雄大な野原の中で聴きたい音楽です。ホールの屋根が開けばいいのになあと思いながら聴いていました。武満の幽玄な音響の音楽もよいですが、こういう方向性の音楽もいいですね。大野和士の音楽作りも見事でしたし、都響の美しいアンサンブルも素晴らしかったです。

ブラームスのアルト・ラプソディは藤村実穂子の美声をたっぷりと聴かせてもらいました。とりわけ、後半の男声合唱をバックに従えた歌唱が冴え渡りました。オペラの勇壮な場面を聴く思いでした。
そう言えば、藤村実穂子を聴くのも久しぶりです。一昨年の4月以来ですから、ほぼ2年ですね。そのときも大野和士指揮の都響との共演でシェーンベルクの《グレの歌》で素晴らしい森鳩の歌を聴かせてくれました。
 https://sarai2551.blog.fc2.com/blog-entry-3107.html

久しぶり尽くしのコンサートでした。今日は本来ならば、マーラーの交響曲第2番《復活》が演奏される筈でしたが、さすがにコロナ禍が続く現在、あのような大規模の合唱を伴う作品の演奏は無理のようです。まだ、コロナ禍からの《復活》は無理ですね。座席配置も市松模様で50%の聴衆だけでのコンサートです。でも、こうして、徐々にコンサートも復活していくでしょう。いつの日か、本当にマーラーの交響曲第2番《復活》でコロナからの復活を祝いたいものです。ちょうど10年前、saraiが仕事をリタイアした直後に聴いたのがマーラーの交響曲第2番《復活》でした。インバル指揮の都響で素晴らしい演奏でした。
 https://sarai2551.blog.fc2.com/blog-entry-150.html


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:大野和士
  ソプラノ:中村恵理**
  メゾソプラノ:藤村実穂子*
  男声合唱:新国立劇場合唱団* 合唱指揮:富平恭平
  管弦楽:東京都交響楽団 コンサートマスター:矢部達哉

  武満 徹:夢の時(1981)
  ブラームス:アルト・ラプソディ ゲーテ「冬のハルツの旅」による Op.53*

   《休憩》

  マーラー:交響曲第4番 ト長調**


最後に予習について、まとめておきます。

武満 徹の《夢の時》を予習したCDは以下です。

  山田和樹指揮日本フィルハーモニー交響楽団 2017年5月14日 東京・Bunkamuraオーチャードホール ライヴ録音

美しい演奏です。ちょっと外面的な表現に思えます。


ブラームスのアルト・ラプソディを予習したCDは以下です。

  オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団、クリスタ・ルートヴィヒ 1962年 セッション録音

安定した演奏です。ちょっと面白味に欠けるでしょうか。


マーラーの交響曲第4番を予習したCDは以下です。

  マイケル・ティルソン=トーマス指揮サンフランシスコ交響楽団、ラウラ・クレイコム 2003年9月24日-28日、サンフランシスコ、デイヴィス・シンフォニー・ホール ライヴ録音

マイケル・ティルソン=トーマスらしい精密な演奏です。聴き応え十分。



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       中村恵理,  

辻彩奈のオーラを発散するような香り高いチャイコフスキー、そして、シューリヒトの見事なブラームス 読売日本交響楽団@サントリーホール 2021.2.25

このところ、新鋭ヴァイオリニスト、辻彩奈の登場するコンサートが目白押しで俄かファンのsaraiとしては嬉しいところです。今日は遂にチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲という大演目なので、聴き逃がせません。慌ててチケットを何とかゲットして会場に駆けつけました。
辻彩奈はもう既に堂々たる姿でオーケストラの前に立ち、実に落ち着いた演奏を聴かせてくれます。有名曲のチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲だからと言って、意気込むこともなく、自然体での演奏です。彼女の魅力は実におおらかでスケールの大きい演奏スタイルです。ささいな問題もありますが、それよりもオーラを放つ魅力のほうが優っています。チャイコフスキー的かと言われるとそうでもないような気がしますが、どんな曲を弾いても辻彩奈は自分のスタイルを貫いているところが魅力ではあります。若いのだから、それでいいでしょう。
第1楽章、真っ白な紙に爽やかな書を書き込むようにくせのない表現で音楽を表現していきます。聴いていて、気持ちの良い音楽が流れます。勢いのよいところではバリバリと弾き、それでいて、やり過ぎにはなりません。素直な音楽表現ですが、どことなくスケールの大きさを感じます。長いカデンツァも落ち着いた印象で見事なソロを弾き切ります。コーダでは大変な盛り上がりでこの楽章を締めくくります。圧巻の演奏に誰か、禁断の拍手でも出るような気がしますが、ここは上品なサントリーホールですから、そんなことは起こり得ません。
第2楽章、弱音器を付けて、抒情的なメロディーを奏でていきます。終盤に入り、木管と絡み合うあうパートの美しいことに胸がぞくぞくします。そのまま、美しい抒情を秘めて、この楽章を閉じて、そのまま、オーケストラは切れ目なしに次の楽章に入っていきます。
第3楽章、激しく高揚したヴァイオリンを聴かせてくれます。ここに至り、オーケストラの前に仁王立ちして、独壇場の雰囲気で辻彩奈が音楽を支配するかごとくです。天賦の才に恵まれたミューズがその力をすべて発揮して、オーケストラをインスパイアしながら、突き進みます。素晴らしいフィナーレでした。
素晴らしい演奏でしたが、辻彩奈はまだまだ、余力を残しています。さらに響きを磨き上げて、白熱の音楽を披露してくれる日がくるでしょう。さらなる精進を見届けましょう。

シューリヒト、こと松本宗利音は今回が読響に初登場。かなり、粗削りながら、よい音楽を聴かせてくれました。冒頭のウェーバーの歌劇「オベロン」序曲は読響の美しい弦楽アンサンブルを活かした演奏で真正のドイツ音楽の妙を味わわせてくれました。
後半のブラームスの交響曲第2番はブラームスらしいブラームスをたっぷり聴かせてくれました。日本人指揮者が日本のオーケストラを振って、ブラームスの真髄に迫るのは稀有なことです。彼はブラームスの音楽の何たるかをきっちりと把握しています。ヴェルター湖の明るい日差し、仄暗い情念、憧れに満ちたロマン、ゆるぎなく強烈な感情の爆発、すべてが表現されていました。第1楽章、第2楽章の冒頭の低弦をたっぷり歌わせる指揮も見事なものでした。全体に厚みのある低弦をベースに抑え気味の高弦を加えるバランス感のよさが印象的でした。魅力にあふれるブラームスをたっぷりと味わわせてもらいました。だてに“シューリヒト”の名前をもらっていませんね。ドイツ・オーストリア音楽の本流、ベートーヴェンやブルックナーもいつか聴かせてもらいましょう。

辻彩奈にシューリヒト、素晴らしいコンサートを堪能しました。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:松本宗利音(シューリヒト)
  ヴァイオリン:辻彩奈
  管弦楽:読売日本交響楽団  コンサートマスター:小森谷巧

  ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲
  チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35

   《休憩》

  ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 Op.73


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のウェーバーの歌劇「オベロン」序曲は以下のCDを聴きました。

 ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 1970年5月22日 東京文化会館大ホール ライヴ録音
 
もちろん、素晴らしい演奏です。ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団は大阪万博のために唯一の来日を果たしましたが、この後、セルは急逝しました。


2曲目のチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は以下のCDを聴きました。

 アンネ・ゾフィー・ムター、アンドレ・プレヴィン指揮ウィーン・フィル 2003年9月、ムジークフェライン ライヴ録音
 
ムターの見事な演奏です。ただ、弱音器を付けた第2楽章の響きがちょっと変なのが残念です。


3曲目のブラームスの交響曲第2番は以下のCDを聴きました。

 ベルナルド・ハイティンク指揮ロンドン交響楽団 2003年5月17&18日、ロンドン、バービカン・センター ライヴ録音

ハイティンク指揮のロンドン交響楽団のブラームス交響曲全集はそれほど世評に高くはありませんが、saraiにとってはベストの演奏です。実演では第1番しか聴いていませんが、素晴らしい演奏でした。



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       辻彩奈,  

ゴルトベルク変奏曲はやっぱり最高! 曽根麻矢子 バッハ 連続演奏会@ハクジュホール(Hakuju Hall) 2021.3.4

やはり、音楽は聴いてみないと分からないものですね。何となく、これまで敬遠してきたチェンバロの曽根麻矢子を聴いてみる気になりましたが、それが素晴らしかったんです。そもそもは彼女がスコット・ロスの弟子というのに惹かれました。誰それの弟子というのは往々にして、眉唾なことが多いのですが、今日のコンサートの後半では、彼女がスコット・ロスの弟子というのがそれなりに実感できました。その演奏スタイルの明快さとチェンバロの響きが透明で繊細なことです。チェンバロって、意外にうるさい響きを感じることもありますが、スコット・ロスと同様にとても美しい響きでした。ところで彼女が継承したというスコット・ロスの愛用したチェンバロはどうなったんでしょう。今日、曽根麻矢子が弾いたチェンバロは彼女のためにスイスの職人が作ったものだそうです。

今日の前半、冒頭のアリアは納得できる美しい演奏。ただ、その後の第1変奏から第15変奏までは聴いているsaraiの集中力が不足して、あまり、耳に残りません。演奏はよかったような気もしますが、音楽は一方通行ではなく、演奏者と聴き手がコミュニケートするものだということです。別に寝落ちしたわけではなく、音楽に身が入らなかっただけです。

休憩後、第16変奏から始まります。ここから、saraiの集中力がぐっと上がり、何となく、曽根麻矢子の演奏の質もぐっと上がったような気がします。ともかく、テンポ感というか、リズムのノリが抜群です。微妙なテンポの揺れが心地よく感じます。それにチェンバロの鍵盤のタッチの軽さも相俟って、切れのよい超絶的な演奏です。ただの1音も聴き洩らさらないように聴き入ります。第16変奏以降、すべての変奏が素晴らしい演奏です。第20変奏、第23変奏という、チェンバロの2段鍵盤の曲はさすがにチェンバロならでは高レベルの演奏です。そして、第24変奏の耳慣れたメロディーに心躍ります。次のト短調の第25変奏の悲しみを湛えた美しさに感動します。まさに心に沁み入ってくるような演奏です。この第25変奏を聴くだけでも、この日の演奏を聴いた甲斐がありました。一転して、第26変奏の高速パッセージも素晴らしい音楽です。第27変奏は最後のカノン。9度のカノンです。最後を締めくくるにふさわしい素晴らしいカノンの演奏です。そして、第28変奏、第29変奏は高潮していきます。ゴルトベルク変奏曲は不眠に悩むヘルマン・カール・フォン・カイザーリンク伯爵のために書かれたという逸話が有名ですが、この終盤の盛り上がりでは、ますます、不眠に陥ること、間違いなし。この逸話が誤りであることは一聴して分かります。あくまでもコンサートを聴く聴衆のために書かれています。激しく高潮した音楽も第30変奏のクオドリベットquod libet(ラテン語で「好きなように」を意味する)で美しく、静謐な音楽に落ち着きます。曽根麻矢子の見事な構成感によって、音楽の素晴らしさを堪能します。
最後はダ・カーポで美しいアリアに回帰します。冒頭のアリア以上の美しい演奏でした。

アリアに始まり、アリアに回帰するゴルトベルク変奏曲。曽根麻矢子はこれから5年に渡るバッハの連続演奏会をバッハの偉大な傑作、ゴルトベルク変奏曲で開始しました。その連続演奏会は最後にゴルトベルク変奏曲に回帰して終結するそうです。5年後のゴルトベルク変奏曲はさらなる飛躍を遂げるのでしょう。しばらくは曽根麻矢子のバッハから目を(耳を)離せません。

最初はたった1曲だけのコンサートなのかって思っていましたが、この1曲だけで本当に十分でした。充足しました。うーん、バッハの鍵盤音楽は最高です。

今日のプログラムは以下です。

  曽根麻矢子 バッハ 連続演奏会  《BWV》 Ⅰ ゴルトベルク変奏曲

  チェンバロ:曽根麻矢子

  バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988 アリア~第15変奏

   《休憩》

  バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988 第16変奏~アリア


最後に予習について、まとめておきます。

予習はもちろん、夭逝した天才チェンバロ奏者スコット・ロスの残した晩年の録音を聴きました。

 スコット・ロス 1988年 セッション録音 EMI

1985年のライヴ録音も素晴らしい演奏ですが、1988年の録音がsaraiの長い間の愛聴盤です。よりテンポがゆっくりでかみしめるように弾いています。



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モーツァルトはやっぱりピアノ協奏曲が最高・・・小菅優&東京交響楽団:モーツァルト・マチネ 第44回@ミューザ川崎シンフォニーホール 2021.3.6

今日は朝11時からのミューザ川崎でのモーツァルト・マチネ。いつもながら、朝が弱いsaraiには毎回、結構きつい時間帯のコンサートです。でも、何とか無事に聴けました。

最初は珍しいベートーヴェンのピアノ協奏曲 第0番です。もちろん、初めて聴きました。メロディー部分はオーケストラが受け持ち、東響の弦楽セクションが素晴らしいアンサンブルの響きを聴かせてくれます。その東響の美しい響きの上を小菅優のピアノが忙しく駆け巡ります。なかなかの力演でした。ボン時代のベートーヴェン少年(13~14歳)が書いた作品で、まだ、モーツァルト風でさえもなく、バロック的な音楽です。そのまだ未熟とも思える音楽を小菅優は驚異的なピアノの素晴らしく高潮した演奏で圧倒してくれました。

次はモーツァルトのピアノ協奏曲 第23番です。先ほどのベートーヴェンの協奏曲に比べて、各段に成熟した音楽です。モーツァルトはピアノ協奏曲が最高に素晴らしいことを実感させられます。小菅優はそのモーツァルトを実に表現力豊かに演奏します。惜しむらくはタッチが少し重くて、モーツァルトの軽みに至り切れていないことです。それは贅沢過ぎる注文かもしれません。それでも第3楽章の勢いある演奏は圧巻でした。小菅優の音楽性ある表現力のなせる技です。

全体に東響の弦楽アンサンブルの素晴らしさと小菅優の豊かな音楽性、そして、木管とピアノの対話の美しさが光るコンサートに大変満足しました。


今日のプログラムは以下です。

  ピアノ(弾き振り):小菅優
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:水谷晃

  ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第0番 変ホ長調 WoO4
  モーツァルト:ピアノ協奏曲 第23番 イ長調 K.488

   休憩なし


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のベートーヴェンのピアノ協奏曲 第0番を予習したCDは以下です。

 ロナルド・ブラウティハム、アンドリュー・パロット指揮ノールショピング交響楽団 2008年10月 ルイス・デ・ギア・コンサートホール、ノールショピング、スウェーデン (ブラウティハムによるオーケストラパート再構成) セッション録音

ピアニスト自身がオーケストレーションした演奏です。音質が素晴らしいです。


2曲目のモーツァルトのピアノ協奏曲 第23番を予習したCDは以下です。

 クリフォード・カーゾン、ジョージ・セル指揮ウィーン・フィル 1964年12月7~10日、ゾフィエンザール セッション録音

クリフォード・カーゾンはさすがに素晴らしいピアノの響きです。それをサポートするセル指揮のウィーン・フィルの演奏も文句なし。もっとも、saraiが最も愛するのはハスキルとミュンシュの1959年の演奏です(パリ国立管弦楽団、モントルーでのライヴ録音)。



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辻彩奈の美麗な響きのヴァイオリンで聴くフランクの名作@紀尾井ホール 2021.3.12

またまた、新鋭ヴァイオリニスト、辻彩奈のコンサートを聴きました。ピアノとのデュオは初めて聴きます。全編、彼女のヴァイオリンの美しい響きに魅了されました。オーケストラと渡り合う演奏に比べると、よい意味で力が抜けて、弱音を中心にヴァイオリンの響きがとても美しいです。以前、ヴァイオリンをストラディバリウスに替えて響きを磨き上げて欲しいと書きましたが、その必要を感じないないような美音が低域から高域まで冴え渡りました。モーツァルトやベートーヴェンもよかったのですが、そこにはもっと気魄とか精神性を望みたいところも課題としてありました。この日、最高に素晴らしかったのは意外にフランクのヴァイオリン・ソナタです。辻彩奈の美麗な響きのヴァイオリンはとても明るい音色であることに気が付きました。こういうフランス系の音楽にしっくりと合います。それに彼女ものりのりの様子で音楽を美しく歌い上げます。前述したように脱力した感のヴァイオリンの響きは弱音でもホールによく響きます。とても自然な表現ながら、魅惑的な音楽に昇華しています。細かいニュアンスも素晴らしく、うっとりと聴き惚れました。とりわけ、第4楽章の見事な演奏にはわくわくし、終盤の音楽の盛り上がりに心を奪われました。
今日、気が付きましたが、辻彩奈のヴァイオリンのスタイルは諸所で庄司紗矢香を思わせるところがあります。庄司紗矢香のレベルを目指して、精進してくれることを願います。いずれにせよ、今、目を離せない音楽家の一人です。


今日のプログラムは以下です。

 辻 彩奈 ヴァイオリン・リサイタル 2021

  ヴァイオリン:辻彩奈
  ピアノ:阪田知樹

  モーツァルト: ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 K.380
  ベートーヴェン: ヴァイオリン・ソナタ 第7番 ハ短調 Op.30-2

   《休憩》

  権代敦彦: Post Festum ~ ソロヴァイオリンのための Op.172(辻彩奈 委嘱作品)
  フランク: ヴァイオリン・ソナタ イ長調
 
   《アンコール》
     エリック・サティ: 「右と左に見える物(眼鏡なしで)」(Choses Vues a Droite et a Gauche (sans Lunettes) )から 第1曲 『偽善的なコラール』(Choral hypocrite)
     マリア・テレジア・フォン・パラディス:シチリアーノ

最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 K.380は以下のCDを聴きました。

 アルトゥール・グリュミオー、ワルター・クリーン 1982年9月20日~29日 ラ・ショー=ド=フォン、スイス セッション録音
 
グリュミオーと言えば、ハスキルと組んだモーツァルトとベートーヴェンのソナタ集が最高の演奏ですが、残念ながら、このK.380は録音していません。20年以上後に再び、ワルター・クリーンとのモーツァルトのソナタ集を録音したのがこのCDです。クリーンの明快なタッチのピアノはハスキル以上とも思えますが、天才ハスキルは天から与えられた気品と詩情にあふれていました。このCDはよい演奏ではありますが、天才的とは言えません。


2曲目のベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ 第7番は以下のCDを聴きました。

 ギドン・クレーメル、マルタ・アルゲリッチ 1993年12月、モントルー セッション録音
 
期待した以上の素晴らしい熱演に感動しました。ヴァイオリン・ソナタ全集を聴いてみなくてはね。


3曲目の権代敦彦の作品は音源がなくて、予習していません。


4曲目のフランクのヴァイオリン・ソナタは以下のCDを聴きました。

 アリーナ・イブラギモヴァ、セドリック・ティベルギアン 2018年1月11-13日、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール セッション録音

イブラギモヴァの素晴らしい響きの演奏が聴けます。落ち着いた安定感の演奏です。ティベルギアンのピアノも見事です。



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       辻彩奈,  

戸田弥生の圧巻の美しい音色に酔う フランクのヴァイオリン・ソナタ@上大岡 ひまわりの郷 2021.3.21

戸田弥生は初めて聴きましたが、何と言っても、グァルネリ・デル・ジェスの美しい音色には参りました。音楽の基本は音の美しさであることを再認識させられます。ほとんど、その音色の美しさに酔っていました。大変な実力の持ち主です。何故、今まで聴かなかったんだろうと臍を噛む思いです。音程も安定していて素晴らしく、音楽表現もごく自然で無理がありません。日本のヴァイオリン界(そんな言葉ってあるのかな?)にはまだまだ逸材が多いようです。

冒頭のベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ 第5番「春」、スプリング・ソナタって言ったほうが分かりやすいですが、最初の一音を聴いただけで戸田弥生のヴァイオリンの音色の美しさに魅了されます。あの有名な美しい旋律がすっと心に入ってきます。何と自然で美しいんでしょう。理想的とも思える演奏です。この主題が演奏されるたびに心が癒される思いです。ベートーヴェンが極めて美しい作品を書いたことに感動も覚えます。その後の楽章もそのヴァイオリンの美しい音色に魅了されっぱなしでした。素晴らしいスプリング・ソナタでした。

次は何故か、野原みどりのピアノの独奏です。先ほどのベートーヴェンは室内楽的な演奏でしたが、このショパンはいかにもピアノの独奏という感じで低域から高域までバランスのとれた響きの美しい演奏です。初めて聴きましたが、この人もなかなかの実力です。日本のピアノ界(そんな言葉はあるのか?)も実力者が目白押しですね。

次はまた、デュオです。このラヴェルは戸田弥生は野太い音色のヴァイオリンで逞しさのある演奏です。後半のテンポ感の演奏は迫力があります。こういう演奏もするんですね。響きの美しさは相変わらずです。

休憩後、後半はフランクのヴァイオリン・ソナタです。またもや、戸田弥生のヴァイオリンは冒頭から、何とも美しい音色を聴かせてくれます。グァルネリ・デル・ジェスの素晴らしさを十全に活かしきった最高の演奏にただただ、うっとりと聴き入るのみです。saraiはかぶりつきの席で聴いているので、その弱音のかそけきニュアンスも聴き取れます。第1楽章の循環主題の美しい演奏にとても満足します。これまで美しいヴァイオリンの音色はたくさん聴いてきたつもりですが、その中でも最高級の折り紙を付けてよいと心の中で評価します。第2楽章に入っても、その美しい音色は続きます。美し過ぎるところが欠点とも言えるような贅沢な音楽です。第3楽章もこのヴァイオリンはよく鳴ります。そして、第4楽章に入ります。もう、耳がその美しさに麻痺したような感覚に陥ります。どんなパートも美しさの限りを尽くしたような響きです。いつまでも続いてほしい音楽です。30分ほどの大曲ですが、ただただ、美しいヴァイオリンの音色に魅了されているだけでした。終わってほしくない美の極致ですが、終わってみても満足感だけが残ります。

アンコールは少し抑えた演奏で、それほど美しい音色を表出しませんでした。彼女は自分でも美し過ぎる音色を恥じているのかしら。思いっ切り、美しい音色の路線を突き進んでいいのにと思います。シューマンとかブラームスではどんな演奏をするのか、猛烈に興味を抱きました。また、彼女のヴァイオリンを聴いてみましょう。
ところで途中でトークがありましたが、戸田弥生は福井出身のようです。saraiの愛妻と同郷なんですね。年齢的にはずい分、若いようですけどね。幼少時代は地元では天才の誉れだったんでしょうね。うーん、これから贔屓にしましょう。


今日のプログラムは以下です。

 戸田弥生 & 野原みどり デュオ・リサイタル

  ヴァイオリン:戸田弥生
  ピアノ:野原みどり

  ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第5番 Op.24「春」
  ショパン:ポロネーズ 第7番 Op.61 「幻想」 <ピアノ・ソロ>
  ラヴェル:ツィガーヌ

   《休憩》

  フランク: ヴァイオリン・ソナタ イ長調
 
   《アンコール》
     ファリャ :7つのスペイン民謡 から 第5曲 ナナ(子守歌) (ヴァイオリン編曲版)
     ドビュッシー :前奏曲集 第1巻 から 第8曲 亜麻色の髪の乙女 La fille aux cheveux de lin (ヴァイオリン編曲版)

最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ 第5番「春」は以下のCDを聴きました。

 ギドン・クレーメル、マルタ・アルゲリッチ 1987年3月 ベルリン セッション録音
 
クレーメルとアルゲリッチのベートーヴェンのソナタ集は切れ味のある素晴らしい演奏ばかりです。こんな演奏を聴き逃がしていたとはね。ともかく聴いていて、気持ちのいいこと、この上ありません。


2曲目のショパンのポロネーズ 第7番 Op.61 「幻想」 は以下のCDを聴きました。

 マウリツィオ・ポリーニ 1975年11月、ウィーン セッション録音
 
期待したほどの演奏ではありません。もちろん、水準以上のレベルではありますが、うーんと唸るほどではありません。


3曲目のラヴェルのツィガーヌは以下のCDを聴きました。

 オーギュスタン・デュメイ、マリア・ジョアン・ピリス 1993年9月、10月 ミュンヘン セッション録音

デュメイの美しい音色が心地よい演奏。


4曲目のフランクのヴァイオリン・ソナタは以下のCDを聴きました。

 オーギュスタン・デュメイ、マリア・ジョアン・ピリス 1993年9月、10月 ミュンヘン セッション録音

安定した美しい演奏で魅了してくれます。このコンビは何を弾かせても素晴らしい演奏をしてくれます。



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北村朋幹凄し!徹底した個性派ピアニストに驚愕 井上道義&東響@サントリーホール 2021.3.27

今日のコンサートは東響の美しいアンサンブルを楽しみに足を運びました。その目的は果たされましたが、若手ピアニスト、北村朋幹(名前はともきと言うんだそうです)の個性的で実にインパクトのあるピアノ演奏にすっかり、魅了されました。ベートーヴェンは予習でも聴いたアラウのようなドイツ的な重厚な響きが好みですが、そういうことではなくて、北村朋幹のような独自の音楽観での瑞々しい演奏に接すると無性に嬉しくなります。これまで聴いたピアニストでは、ピョートル・アンデルジェフスキに似たタイプに思えますが、それ以上に自分自身で考え抜いた構想の音楽を披瀝できるところに驚きを禁じ得ません。ベートーヴェンのピアノ協奏曲 第4番の冒頭の独奏パートを聴いて、おおっと驚きます。弱音でしみじみとした表現の何とも美しいこと。冒頭の独奏でこの曲のあり方を決めてしまったかのように思えます。事実、続くオーケストラのパートもその路線上の音楽です。ピアノの独奏を引き継いだ指揮の井上道義と東響の演奏も見事ですけどね。北村朋幹のピアノはざっくりと一言で言えば、ピュアーでリリシズムに満ちた音楽表現です。スケール感とか、重量感とかの表現とは一線を画しています。しかし、オーケストラと協奏しても、そのきらきらした存在感は色を失うことはありません。明快なタッチでベートーヴェンの本質に切り込んでいきます。もしかしたら、ベートーヴェンは大げさな音楽ではなくて、こういうリリシズムにあふれた音楽を作り上げたんじゃないかという説得力に満ちています。ベートーヴェンの時代のフォルテピアノでは、こういう軽快で繊細な音楽こそがあり得た音楽表現であったという思いに駆られます。それにしても、北村朋幹のピアノの抒情感にあふれた美しく、粒立ちのよい響きには参ります。瑞々しさにあふれた第1楽章に大変、感銘を覚えました。第2楽章のオーケストラとの対話でも、北村朋幹のピアノのリリシズムは冴え渡ります。いつもはこの楽章はオーケストラと対峙する存在として、ピアノがオーケストラに抗っているように感じますが、今日は違って聴こえます。やさしく寄り添いあっているように感じます。優しく対話ながら、融合していく過程を聴くかの如くです。一転して、第3楽章は軽やかに疾走していきます。例えれば、ジャズのノリのような感覚に陥ります。それにしても、北村朋幹のピアノの軽やかなタッチはまるで作曲家自身が即興的に演奏しているように錯覚します。ベートーヴェンというよりもモーツァルト的な雰囲気です。軽やかな疾走の果てに心地よいフィナーレです。こんなベートーヴェンがあったとは思いもしませんでした。素晴らしい演奏を聴かせてもらいました。恐るべき若手ピアニストに脱帽! 彼が弾くモーツァルトが聴きたくなりました。もちろん、ピアノ協奏曲です。それにシューマンの独奏曲も聴きたいと思っていたら、なんとアンコール曲がシューマンのような抒情に満ちた曲です。うっとりと聴いていました。後で調べると、シューマンの子供のためのピアノ曲でした。
コロナ禍で日本人演奏家を聴く機会が増えて、逸材が多くいることに今さらながら驚きます。特にピアニストはみな素晴らし過ぎて、贔屓が増え過ぎて、そのフォローに悲鳴を挙げたくなる感じです。もちろん、嬉しい悲鳴です。

後半は大編成のオーケストラに衣替えしてのショスタコーヴィチの交響曲です。痛烈で豪快な演奏は圧巻です。ただ、ショスタコーヴィチとしてはあまりに能天気に思えます。演奏は派手な井上道義の指揮、東響の低弦の底力と高弦の美しいアンサンブルがフルに機能して、素晴らしいとしか言えません。演奏は100点、音楽自体は50点かな。第4番とか、第8番とか、第10番とかだったら、どうだったんでしょう。それにしても今日のプログラムは全体に短かったですね。いくら拍手しても軽く8時前には完了。コロナ禍では最良のプログラムかもしれません。とは言え、とても満足できたコンサートでした。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:井上道義
  ピアノ:北村朋幹
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:グレブ・ニキティン

  ベートーヴェン : ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Op.58

  《アンコール》シューマン:『子どものためのアルバム』Op.68より 第15曲「春の歌」 

  《休憩》

  ショスタコーヴィチ : 交響曲 第6番 ロ短調 Op.54


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のベートーヴェンのピアノ協奏曲 第4番を予習したCDは以下です。

  クラウディオ・アラウ、ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1964年4月 アムステルダム、コンセルトヘボウ セッション録音

何度聴いても素晴らしい。アラウの重厚で溜めのきいたピアノとハイティンクの安定した指揮でアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の美しい響きとくれば、何を言うこともありません。第2楽章のピアノとオーケストラの対話の素晴らしいことが特筆されます。


2曲目のショスタコーヴィチの交響曲 第6番を予習したCDは以下です。

  エフゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル 1972年1月27日、モスクワ音楽院大ホール ライヴ録音

この曲を初演したムラヴィンスキーとレニングラード・フィルはさすがに文句ない演奏です。


閑話休題。サントリーホールのあるアークヒルズ横の桜坂です。

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今は満開の桜です。コロナ禍で見物の人も少ないです。

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アークヒルズの高層ビルに桜が映えています。

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さっと見て、さっと立ち去りました。コンサート前のちょっとした楽しみでした。



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音楽が聖なるものに昇華する瞬間(とき)に感動は生まれる クァルテット・アルモニコ@鶴見サルビアホール 2021.3.30

久しぶりの100席限定の鶴見サルビアホール(音楽ホール)。今日は席数を半減せずに満席の公演です。コロナ禍でも、室内楽ファンは健在です。常連さんの顔がずらっと並んでいます。

クァルテット・アルモニコは初聴きです。てっきり若手だと思っていたら、意外にベテランなのだそうです。芸大の学生時代に結成以来、既に26年経ち、ウィーンでも研鑽を積んできたそうですが、出産などで途中、ブランクもあったそうです。さすがに技術的には高いレベルですが、曲によって、出来が異なります。実力をすべてにおいて出し切るだけの練習量が不足しているのではないかと想像されます。これから、徐々に本来の力を発揮していくような予感がします。これからの活躍を期待しましょう。

さて、今日の演奏ですが、最初のハイドンの「皇帝」は第1楽章は緊張感が漲っていますが、少し、力み過ぎで上滑り気味。第2楽章以降、徐々にアンサンブルがよくなります。まあまあの演奏でしょうか。
2曲目のドヴォルザークの「アメリカ」は本来の力を発揮した見事な演奏。これくらい弾ければ文句ありません。とりわけ、第2楽章の美しい響きにはうっとりと聴き入りました。

前半は2曲の有名曲でしたが、休憩後の後半は名曲中の名曲、ベートーヴェンの晩年の傑作、弦楽四重奏曲第15番です。どう弾くのか、聴く前は不安でしたが、事実、第1楽章の入りは微妙な感じです。手探り状態で弾いている感じで、聴いている方としても変な緊張感があります。しかし、次第に集中力が増して、第3楽章では弾く演奏者も聴いている聴衆も音楽に没入していきます。ホール全体が一体化して、ベートーヴェンの晩年の高い境地の音楽以上の音楽にみなの心が満たされていきます。ベートーヴェン晩年の弦楽四重奏曲3曲(第13番~第15番)はやはり、人類が生み出した最高の音楽であることを痛切に感じます。楽章後半のコラールにも例えられる寂漠とした音楽の寂寥感に感極まります。長い楽章ですが、じっと聴き入るのみです。彼女たちの演奏も最高レベルに達します。第3楽章が終わった後の休止でこの音楽が終わったような達成感があります。しかし、第4楽章もカタルシスのような感じで無理なく続いていきます。そして、短い休止で第5楽章に入ります。素晴らしい演奏に高潮していきます。たまらず、強い感動に襲われます。ベートーヴェンが達したものが何であったのか・・・苦しみの後の悟りとも、あるいはそれでも人間は生きていくという決意とも思えるような音楽を彼女たち(彼ら)は魂の声として表現していきます。そういう意味での美しい音楽です。第3楽章以降はまさに神の恩寵のような素晴らしい演奏でした。

アンコールはハイドンが完成させた最後の弦楽四重奏曲の最後の楽章。これは完璧な演奏でした。これなら、本編も「皇帝」ではなく、こちらの「雲がゆくまで待とう」を聴きたかった気分ですが、終わりよければ、すべてよし。

数年後のクァルテット・アルモニコがさらなるレベルに達していることを願わずにはいられません。精進してくださいね。


今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:クァルテット・アルモニコ
   菅谷早葉 vn   生田絵美 vn  阪本奈津子 va   松本卓以 vc

   ハイドン:弦楽四重奏曲 第77(62)番 ハ長調 Op.76-3 Hob. III. 77「皇帝」
   ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲 第12番 ヘ長調 Op.96「アメリカ」

   《休憩》

  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第15番 イ短調 Op.132

   《アンコール》
    ハイドン:弦楽四重奏曲 第82(67)番 ヘ長調 Op.77-2 Hob.III:82「雲がゆくまで待とう」 から 第3楽章

最後に予習について触れておきます。

1曲目のハイドンの弦楽四重奏曲 第77(62)番 「皇帝」は以下のLPレコードを聴きました。

 アマデウス弦楽四重奏団 1963年9月 ドイツ、ハノーファー セッション録音

アマデウス弦楽四重奏団のLPレコードのほぼすべてのコレクションを収集し終えて、順次、聴いているところです。これはアマデウス四重奏団にしてはまあまあの演奏ですね。


2曲目のドヴォルザークの弦楽四重奏曲 第12番 ヘ長調 Op.96「アメリカ」は以下のLPレコードを聴きました。

 スメタナ弦楽四重奏団 1980年 神戸文化会館 ライヴ録音

ドヴォルザークの弦楽四重奏曲 「アメリカ」と言えば、スメタナ弦楽四重奏団。学生時代に京都で実演に接した記憶がいまだに鮮烈に思い出されます。このレコードはその時よりも後の来日時の録音で素晴らしい響きが聴けます。


3曲目のベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第15番 Op.132は以下のLPレコードを聴きました。

 アマデウス弦楽四重奏団 1962年4月 ベルリン セッション録音

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲もアマデウス弦楽四重奏団のLPレコードで順次聴いています。Op.18の6曲は素晴らしい演奏です。後期のこの曲も安定した演奏です。



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コロナ禍の聖金曜日に心に沁みるマタイ受難曲のコラール:バッハ・コレギウム・ジャパン@サントリーホール 2021.4.2

今日は長い一日になりました。1時過ぎに新国立劇場に行って、オペラのゲネプロを聴き、そのまま、サントリーホールに移動して、6時ごろに到着。バッハ・コレギウム・ジャパンの恒例の聖金曜日のマタイ受難曲を聴いて、サントリーホールを出たのは10時ごろ。全部で9時間くらいを費やして、正味6時間ほど、音楽に浸りました。

新国立劇場のオペラのゲネプロはストラヴィンスキーの《夜鳴きうぐいす》とチャイコフスキーの《イオランタ》の2本立て。特に《イオランタ》が素晴らしくて、感動で涙が出ました。その感想は明日書くことにして、今日はバッハ・コレギウム・ジャパンのマタイ受難曲について、感想を綴ってみます。やはり、聖金曜日の音楽はその日にその感動を書きたいですからね。昨年はコロナ禍のために聖金曜日に聴くことがかなわず、延期になって、真夏のマタイになってしまいました。聖金曜日にマタイを聴くのは2年ぶりです。来年も再来年もずっと聖金曜日にBCJ(バッハ・コレギウム・ジャパン)のマタイを聴ければ、この上ない幸せです。

今日だけはsaraiは己のおかしてきた罪や恥ずべき行いを省みながら、バッハの神聖な作品に向き合います。宗教の枠を超えて、自分にそう思わせるような破格の音楽です。うなだれながら聴き入るsaraiを優しく慰撫してくれるのは、マタイ受難曲の中核をなすコラールの数々です。中でも5回登場する受難コラールは西洋音楽の最高峰であるマタイ受難曲の中で、音楽を超える力を持つ特別のものです。BCJは合唱と器楽のありったけの力でこの受難コラールを歌い上げてくれます。それも5回とも表現を変えながら、最高のものをもたらしてくれます。特に4回目に登場する第54曲(第63曲)のコラール「おお、血と涙にまみれし御頭」の極限に至るような美しさは格別でした。繰り返しでぐっと抑えた表現の優しさはまるでコロナ禍で苦しむ全人類を慰撫するかのようです。最後の5回目の登場はイエスが十字架で亡くなった直後に歌われます。
第62曲(第72曲)の コラール「いつの日かわれ去り逝くとき」です。このフリギア旋法で歌われるコラールは弔いの歌にしか聴こえません。死すべき運命にあるすべての人々に優しく救いをもたらすようにしみじみと歌われます。頭を垂れて、じっと聴き入りました。BCJの最高の音楽です。これを聴ければ、また、来年まで、心穏やかに生きていけるような気がします。

コロナ禍で日本人だけでの演奏になりましたが、BCJの実力はますます底上げされて、海外演奏家が参加できないギャップをはねのけてくれます。もともと器楽奏者たちは名人揃いですから、素晴らしい演奏です。今年は配置も普通の間隔に密集したせいか、昨年よりも無理のない演奏です。合唱隊も同様です。合唱もアリアもすべて素晴らしかったのですが、今年のベストの演奏は第49曲(第58曲)のソプラノのアリアです。菅きよみのフラウト・トラヴェルソのソロが主導して、アウス・リーベAus Liebe、ヴィル・マイン・ハイラント・シュテルベンWill Mein Heiland Sterben(愛故にわが救い主は死にたまわんとす)とソプラノの森麻季が歌い上げます。あえて、ソプラノの森麻季がステージの奥でひっそりと歌っていたのが印象的です。終盤に「アウス・リーベ」(愛故に)が幾度も繰り返されるところの清澄さには胸を撃たれました。菅きよみのフラウト・トラヴェルソの朴訥とした響きも見事です。

今年から、マタイの指揮は鈴木雅明から息子の鈴木優人にバトンタッチ。父親とはまた違う表現で最高の演奏を聴かせてくれました。あっ、やはり、エヴァンゲリストの櫻田 亮の美声と卓抜な表現力には触れておかないといけませんね。BCJの最新のCDでは彼がエヴァンゲリストを歌っていませんが、是非とも、櫻田 亮がエヴァンゲリストを歌うBCJ3回目のCDの録音を願わざるを得ません。

来年のBCJのマタイ受難曲の演奏が今から楽しみです。


今日のプログラムは以下です。


  指揮:鈴木優人
  エヴァンゲリスト:櫻田 亮
  イエス:加耒 徹
  ソプラノ:森 麻季、松井亜希
  アルト:久保法之、青木洋也
  テノール:櫻田 亮、谷口洋介
  バス:加耒徹、加藤宏隆
  フラウト・トラヴェルソ/リコーダー:菅きよみ
  オーボエ:三宮正満
  ヴァイオリン(コンサートマスター):若松夏美、高田あずみ
  チェロ:山本徹
  ヴィオラ・ダ・ガンバ:福沢宏
  合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン


J. S. バッハ

マタイ受難曲 BWV 244

第1部

 《休憩》

第2部


最後に予習について、まとめておきます。

以下のCDを聴きました。

 鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパン 2019年4月 彩の国さいたま芸術劇場 セッション録音
  ベンヤミン・ブルンス(エヴァンゲリスト)
  クリスティアン・イムラー(バスI/イエス)
  キャロリン・サンプソン(ソプラノI)
  松井亜希(ソプラノII)
  ダミアン・ギヨン(アルトI)
  クリント・ファン・デア・リンデ(アルトII)
  櫻田 亮(テノールI)
  ザッカリー・ワイルダー(テノールII)
  加耒 徹(バスII/ユダ/ピラト/大祭司カヤパ/祭司長I)
  鈴木優人(オルガン)

旧盤も素晴らしい演奏でしたが、新盤は録音もよく、よりロマンティックな演奏になっています。予習の時間が取れず、慌てて、前日の18時から聴きだして、21時までかかり、それまで夕食を待ってくれた配偶者に感謝です。



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       バッハ・コレギウム・ジャパン,  

稀有なプログラムに満足 白井 圭 + 日髙 剛 + 津田裕也@上大岡 ひまわりの郷 2021.4.4

まず、プログラムが秀逸です。主催者の平井さんと白井 圭が阿吽の呼吸で選曲したそうです。ブラームスのホルン三重奏曲はコロナ禍でホルンのズヴァールトの来日が実現せずにファウスト、メルニコフの黄金トリオの演奏が流れてしまったのを挽回するものです。saraiもシューマンのアラベスク以外は実演では初聴きのものばかりです。もう、それだけで満足のコンサートです。

シューマン、ディートリヒ、ブラームスの合作のF.A.E.ソナタはディートリヒの作曲した第1楽章以外はそれぞれ聴いたことはあります。ディートリヒの作曲した第1楽章も師匠のシューマンの面影を感じる出来ですね。ただ、ちょっと内容的に長過ぎる感じは否めません。ブラームスの作曲した第3楽章のスケルツォとシューマンが作曲した第4楽章のフィナーレは白井圭の素晴らしいヴァイオリンの響きが聴けて、なかなかのものでした。

シューマンの《アダージョとアレグロ》もホルンとピアノという元々の楽器構成での演奏です。現在はむしろ、チェロとピアノの構成で聴く機会のほうが多い曲です。ホルンの柔らかくて、茫洋とした響きで聴くのもよいものでした。特にアダージョがロマンティックでよい演奏でした。

シューマンのアラベスクはお馴染みの作品。終盤のロマンティックな部分にはいつもうっとりとします。

最後のブラームスのホルン三重奏曲が今日のメインの曲目です。第3楽章のアダージョ・メストがうっとりと素晴らしい演奏でした。

今日は本当によいものを聴かせてもらいました。ホルンの絡む室内楽作品だけでも珍しいのに、さらにF.A.E.ソナタですからね。


今日のプログラムは以下です。

  ヴァイオリン:白井 圭
  ホルン:日髙 剛
  ピアノ:津田裕也

  シューマン、ディートリヒ、ブラームス(合作):F.A.E.ソナタ(白井+津田)
  シューマン:アダージョとアレグロ Op.70 (日髙+津田)

   《休憩》

  シューマン:アラベスク Op.18 (津田)
  ブラームス:ホルン三重奏曲 Op.40
 
   《アンコール》
     ブラームス:5つのリート Op. 105 から 第1曲 調べのように私を通り抜ける(ヴァイオリンとホルンとピアノ編)

最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のF.A.E.ソナタは以下のCDを聴きました。

 イザベル・ファウスト、アレクサンドル・メルニコフ 2014年9月 セッション録音
 
この二人の演奏は今年、シューマンを中心としたプログラムで聴いたばかりです。この録音も充実の演奏を聴かせてくれます。


2曲目のシューマンの《アダージョとアレグロ》は以下のCDを聴きました。

 マリー=ルイーズ・ノイネッカー(ホルン)、アレクサンドル・ラビノヴィチ 1994年9月18日、コンセルトヘボウ、ナイメーヘン、オランダ ライヴ録音
 
よい演奏に思えます。ホルンでの録音はあまりないので貴重です。


3曲目のシューマンのアラベスクは以下のCDを聴きました。

 田部京子 2007年12月5日 浜離宮朝日ホール ライヴ録音

素晴らしい演奏。気品があって、優しい演奏に心がほっこりします。


4曲目のブラームスのホルン三重奏曲は以下のCDを聴きました。

 イザベル・ファウスト、トゥーニス・ファン・デァ・ズヴァールト、アレクサンドル・メルニコフ 2007年6月 テルデックス・スタジオ、ベルリン セッション録音

素晴らしくロマンティックな演奏にうっとりとします。



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オペラ《夜鳴きうぐいす》、《イオランタ》のゲネプロ鑑賞記@新国立劇場 2021.4.2

友人のご厚意で新国立劇場の新制作のロシア・オペラのダブルビル、ストラヴィンスキー《夜鳴きうぐいす》、チャイコフスキー《イオランタ》のゲネプロを鑑賞することができました。
無事、初日の本番が終わったようなので、ゲネプロの様子に関する記事をアップします。

ゲネプロとは言え、新国立劇場のオペラを鑑賞するのは、ヤナーチェック《イェヌーファ》を聴いて以来、5年ぶりです。実はその《イェヌーファ》も素晴らしい公演だったのですが、何となく、新国立劇場に足を運ぶ機会がないままになっていました。今回のゲネプロを鑑賞して、気持ちに変化がありました。こういう素晴らしい公演ならば、もっと足を運んでもいいかなという思いです。

今回の二つのオペラとも初聴き。実演だけでなく、CD、DVDの類も聴いたことがありません。しかも予習なしですから、まったくの初聴きです。これは滅多にない経験です。どう鑑賞するんことになるんでしょう。

まずは1番目のオペラ、ストラヴィンスキーの《夜鳴きうぐいす》。1時間にも満たない、ごく短いオペラです。まあ、ストーリーはたわいのないもので、皇帝が夜鳴きうぐいすに癒されるというものです。音楽はストラヴィンスキーらしい、すっきりした美しさに満ちています。聴きどころは、夜鳴きうぐいす役を歌ったソプラノの三宅理恵の美しい歌声に尽きます。実に潤いのある清純な歌声は皇帝ならずとも、sarai自身が癒されました。あんまり、コロラトゥーラのうぐいすの声には聴こえませんが、そんなことはどうでもよく、ただただ、三宅理恵の声に気持ちがよくなりました。いつまでも聴いていたいという感じです。オペラのストーリーでは、毎夜、夜通し、皇帝のために歌うというところで幕が終わりますが、まさに毎夜、saraiのために歌ってほしいと思わせる実感に駆られました。三宅理恵は以前、神奈川フィルのカルミナ・ブラーナ(ドン・ジョヴァンニのツェルリーナのアリアも歌いました)で清楚でありながら、力のこもった歌唱を聴かせてくれたことが印象的です。今回も同様な印象で、素晴らしいソプラノであることを再確認しました。

長い休憩の後、次はチャイコフスキーの《イオランタ》。これは1時間半ほどのオペラです。絶世の美女の王女イオランタは生来の盲目ですが、父親の王の強い命によって、周囲から王女は自身が盲目であることを隠されて、目は涙を流すもので、光を感じるものだということを知らずに育てられています。王女の住む森の中の城に迷い込んだ騎士、ヴォデモン伯爵は一目で王女に恋心を抱き、彼女に見ることの素晴らしさを説きます。自身が盲目であることを知った王女は恐れつつも目の治療を受けて、視力を得ることができます。世界は美しさに満ちていることを知った王女の感動はオペラを見ている我々にも強く伝わってきます。このオペラもイオランタ役のソプラノ、大隅智佳子の純粋無垢な歌声に魅了されます。オペラ冒頭のチャイコフスキーらしい美しいメロディーに乗って歌うイオランタ、フィナーレで初めて光を感じたイオランタが歌い上げるピュアーな感動。単純ではあるけれども、このオペラはチャイコフスキーの《エウゲニ・オネーギン》や《スペードの女王》にもひけをとりません。《エウゲニ・オネーギン》や《スペードの女王》が交響曲だとすれば、《イオランタ》はセレナーデです。ゲネプロでは、ヴォデモン伯爵役のテノール、内山信吾は体調不良で、演技のみで別のテノールが舞台袖で歌っていました。本番では、内山信吾が自身の声で歌うでしょうから、さらなる感動があるでしょうね。また、父親のルネ王役の妻屋秀和とムーア人の医者エブン=ハキア役のヴィタリ・ユシュマノフは内省的な歌唱をしみじみと深い感懐で歌ってくれて、聴き応えがありました。ただ、saraiには、やはり、ソプラノの大隅智佳子のピュアーな歌声が魅力でした。プロダクション全体もよく練れていました。新国立劇場はこういう隠れた名作オペラの公演が素晴らしいのかな。新国立劇場はほとんど見ていないので、偉そうなことは言えませんが・・・。

ところでカーテンコールで海外にいるスタッフ陣を舞台に引っ張り出した大型画面でリモート出演させようとしましたが、これがもたついて、途中で観客の拍手が止まります。これが一番のゲネプロでのリハーサルの練習になったかもしれませんね。本番ではスムーズにいったのでしょうか。ちょっと心配。

ゲネプロとは言え、久しぶりのオペラでした。1年以上もオペラの世界から遠ざかっていました。コロナ禍の為せるところです。やはり、オペラは素晴らしい!!ことを実感できました。ブラボーコールができないのがいかにも残念ではあります。代わりにこのブログ記事で・・・
 ブラービー!!!


今日のキャストは以下です。

【指 揮】高関 健
  【演出・美術・衣裳】ヤニス・コッコス
  【アーティスティック・コラボレーター】アンヌ・ブランカール
  【照 明】ヴィニチオ・ケリ
  【映 像】エリック・デュラント
  【振 付】ナタリー・ヴァン・パリス


『夜鳴きうぐいす』
  【夜鳴きうぐいす】三宅理恵
  【料理人】針生美智子
  【漁師】伊藤達人
  【中国の皇帝】吉川健一
  【侍従】ヴィタリ・ユシュマノフ
  【僧侶】志村文彦
  【死神】山下牧子
  【三人の日本の使者たち】高橋正尚/濱松孝行/青地英幸


  『イオランタ』
  【ルネ】妻屋秀和
  【ロベルト】井上大聞
  【ヴォデモン伯爵】内山信吾(演技のみ)
  【エブン=ハキア】ヴィタリ・ユシュマノフ
  【アルメリック】村上公太
  【ベルトラン】大塚博章
  【イオランタ】大隅智佳子
  【マルタ】山下牧子
  【ブリギッタ】日比野幸
  【ラウラ】富岡明子

今日のゲネプロに向けての予習はなし。



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シューベルト名曲尽くし 関西弦楽四重奏団with上村 昇@鶴見サルビアホール 2021.4.5

100席限定の鶴見サルビアホール(音楽ホール)での今日の公演は実力ある関西弦楽四重奏団によるシューベルト尽くしですから嬉しいですね。

最初のシューベルトの弦楽四重奏曲 第12番「四重奏断章」は冒頭から素晴らしい響き。これぞシューベルトです。勢いに優る演奏に続き、歌謡性に満ちたロマンティックな表現も見事です。短い単一楽章の未完の作品ですが、シューベルト好きにはたまらない演奏でした。

2曲目のチェロと弦楽四重奏のための「アルペジオーネ・ソナタ」はチェロの上村 昇の一人舞台のような演奏。本来ならば、編曲者のミハイル・カニュカ自身が来日して演奏する筈でしたが、コロナ禍で来日できず、思う存分、弾く筈だったカニュカ自身もさぞや残念だったでしょう。珍しいものを聴かせてもらいましたが、これはわざわざ、ピアノを弦楽四重奏に変えるほどの意味は感じませんでした。強いて言えば、第2楽章はセレナード的になり、聴き応えがあったようにも思います。

休憩後の後半はシューベルトの晩年の傑作、弦楽五重奏曲 D.956です。長大な第1楽章を緊張感を持って、パーフェクトとも思える演奏で弾き切って、saraiもその演奏に引き込まれます。シューベルトの音楽の爽やかさや旋律の美しさを十分に楽しませてくれます。第2楽章は音楽表現が難しいと思いますが、これまた素晴らしい演奏で、深くて、ロマンティックな演奏です。中間部の熱い演奏にはこちらも高揚します。第3楽章のスケルツォは怒涛のように白熱した演奏を聴かせてくれます。そして、第4楽章。郷愁を帯びたアレグレットが始まります。歌謡調の第2主題が魅力的に美しく演奏されます。そして、勢いよくフィナーレが奏でられて、この長大な作品がしめくくられます。素晴らしいシューベルトでした。以前、ここで聴いたロータス・カルテットに迫るような演奏でした。


今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:関西弦楽四重奏団
   林七奈 vn 田村安祐美 vn 小峰航一 va 上森祥平vc
  チェロ:上村 昇

   シューベルト:弦楽四重奏曲 第12番 ハ短調 D.703「四重奏断章」
   シューベルト(M.カニュカ編):チェロと弦楽四重奏のための「アルペジオーネ・ソナタ」イ短調 D.821

   《休憩》

  シューベルト:弦楽五重奏曲 ハ長調 D.956

   《アンコール》
    なし

最後に予習について触れておきます。

1曲目のシューベルトの弦楽四重奏曲 第12番「四重奏断章」は以下のLPレコードを聴きました。

 アマデウス弦楽四重奏団 1959年 ハノーファー ドイツ、ハノーファー セッション録音

アマデウス弦楽四重奏団のLPレコードのほぼすべてのコレクションを収集し終えて、順次、聴いているところです。アマデウス四重奏団のシューベルトは素晴らしいです。


2曲目のシューベルのチェロと弦楽四重奏のための「アルペジオーネ・ソナタ」は以下のCDを聴きました。

 ロータス・カルテット&ミハル・カニュカ 2014年4月1-2日 ドイツ、ザントハウゼン=ハイデルベルク、クララ・ヴィーク・アウディトリウム セッション録音

多分、唯一の録音です。編曲者のカニュカ自身が参加しています。ロータス・カルテットというよりもほぼカニュカの一人舞台の演奏です。ロータス・カルテットとしては一緒に録音されているシューベルトの弦楽四重奏曲 第15番が聴きものです。


3曲目のシューベルトの弦楽五重奏曲は以下のCDを聴きました。

 リンゼイ弦楽四重奏団&ダグラス・カミングス 1985年1月 セッション録音

リンゼイ弦楽四重奏団らしく、実に抒情味あふれる演奏です。それにゆったりとした演奏です。



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カーチュン・ウォンの描き出したマーラーの音楽世界は・・・ 読売日本交響楽団@サントリーホール 2021.4.6

今、注目のシンガポール出身の気鋭の指揮者、カーチュン・ウォンの登場です。彼は2016年のマーラー国際指揮者コンクールで優勝して頭角を現してきました。今日は得意とするマーラーですから、期待されます。それに今日のプログラムはマーラー初期の幻の作品、交響詩「葬礼」と遺作の交響曲第10番の“アダージョ”という超意欲的なものです。よほどの自信があるものと思えます。

実際、素晴らしい演奏でした。見事に読響をドライブして、マーラーの真髄に迫る演奏でした。交響詩「葬礼」は正直、交響曲第2番《復活》の第1楽章とさほどの違いは感じられませんが、マーラーが若い頃から意識していたテーマ、《人間の死(己自身の死)》、さらには輪廻転生に思いを込めた真正面からのアプローチは聴き応え、十分でした。カーチュン・ウォンの指揮の見事さと読響の流石のアンサンブル力に魅了されました。

交響詩「葬礼」に続き、間を置かずに交響曲第10番の“アダージョ”の演奏を開始します。まるで、マーラーの全交響曲作品をこの2曲で一気に俯瞰するような感じです。マーラーの死生観をこの2曲で垣間見る思いにもなります。とりわけ、交響曲第10番はアルマへの愛、そして、その破局で、狂おしいほどの自身の死への思い、美しい世界との別れの絶望感や、それでも愛にしがみつきたい甘い感情がないまぜになるという真情が素晴らしく表出されていました。素晴らしい音楽表現でした。終盤の読響の繊細過ぎるほどの響きに強い感銘を覚えました。曲が終わってもしばらくは金縛りにあったような感覚に陥りました。
素晴らしいマーラーでした。カーチュン・ウォンはこれを皮切りに日本でマーラーの交響曲を順次、演奏してくれるんでしょう。交響曲第9番がどのあたりで登場するのか、注目していましょう。

冒頭の細川俊夫の冥想はとても素晴らしい演奏で、細川俊夫の作品としても最高の音楽に思えました。3.11をテーマとした作品では、以前聴いた《嵐のあとに》の世界初演も素晴らしかったですが、それ以上にも思えました。オーケストラの扱いがとても斬新です。

デュティユーのヴァイオリン協奏曲「夢の樹」ですが、諏訪内晶子の素晴らしいテクニックと美しい響きには敬服しましたが、デュティユーが描いた実存やファンタジーという音楽的本質に切り込めていないという印象が残りました。この作品はとても演奏が難しいですね。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:カーチュン・ウォン
  ヴァイオリン:諏訪内晶子
  管弦楽:読売日本交響楽団  コンサートマスター:小森谷巧

  細川俊夫:冥想 -3月11日の津波の犠牲者に捧げる-
  デュティユー:ヴァイオリン協奏曲「夢の樹」

   《休憩》

  マーラー:交響詩「葬礼」
  マーラー:交響曲第10番から“アダージョ”


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目の細川俊夫の冥想は予習なし。


2曲目のデュティユーのヴァイオリン協奏曲「夢の樹」は以下のCDを聴きました。

 アモイヤル、デュトワ、フランス国立管弦楽団 セッション録音
 
これはファンタジックな素晴らしい演奏です。


3曲目のマーラーの交響詩「葬礼」は以下のCDを聴きました。

 ピエール・ブーレーズ指揮シカゴ交響楽団 1996年12月12日 シカゴ、オーケストラ・ホール セッション録音

ブーレーズは緻密な演奏です。シカゴ響も素晴らしい響きの演奏です。



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コバケンのチャイコフスキー讃・・・ 小林研一郎80歳記念チャイコフスキー交響曲チクルス@サントリーホール 2021.4.7

昨年の今日、初日を迎える筈だった小林研一郎80歳(傘寿)記念&チャイコフスキー生誕180周年記念チャイコフスキー交響曲全曲チクルスがコロナ禍がいまだ収まらぬ中、遂に開始されました。

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今日演奏された2曲はまさに期待通りの演奏。オーケストラのアンサンブルは完璧とは言い難いものではありましたが、80歳を超えた小林研一郎の熟達の、そして、熱い指揮に応えて、素晴らしい演奏を聴かせてくれました。小林研一郎のツボを押さえた指揮は、彼の特徴である旋律線がくっきりと浮き立つ音楽表現につながり、チャイコフスキーの美点を余すことなく我々の心に焼き付けてくれました。これ以上の言葉はありませんが、それでは感想にならないので、少しだけ、2曲それぞれの演奏に触れておきましょう。

まず、最初の交響曲第1番「冬の日の幻想」ですが、全楽章とも美しい抒情に満ちた旋律が流れます。その旋律線の立った演奏は流石、小林研一郎の真骨頂です。とりわけ、第1楽章と第2楽章は見事な演奏でした。第2楽章の抒情味あふれる演奏にはうっとりとしました。

次の交響曲第4番は圧巻の演奏。抗いようのない運命に翻弄される人間を途轍もない熱量で表現してみせる小林研一郎はその年齢を感じさせません。終了後にまた10年後にこの場に立ち、再び、演奏してくれることを小林研一郎は表明しましたが、そのときはもしかしたら、枯れた演奏を聴かせてくれるのでしょうか。凄まじくダイナミックな演奏、そして、暗い情念にも満ちた演奏にとても魅了されました。

saraiも小林研一郎の90歳の演奏に立ち会うべく、コロナ禍を生き抜いていきましょう。


今日のプログラムは以下です。

  小林研一郎80歳(傘寿)記念&チャイコフスキー生誕180周年記念チャイコフスキー交響曲全曲チクルス

  指揮:小林研一郎
  管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団  コンサートマスター:木野 雅之

  チャイコフスキー:交響曲第1番 ト短調 Op.13「冬の日の幻想」

   《休憩》

  チャイコフスキー:交響曲第4番 ヘ短調 Op.36

   《アンコール》
    チャイコフスキー:交響曲第4番 から 第4楽章の終盤~コーダ

最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のチャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」は以下のCDを聴きました。

 エフゲニ・スヴェトラーノフ指揮ソヴィエト国立交響楽団 1990年 東京オーチャードホール ライヴ録音

録音もよく、演奏も最高です。やはり、こういうロシアものはロシア人たちの演奏に限ります。


2曲目のチャイコフスキーの交響曲第4番は以下のCDを聴きました。

 エフゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル 1960年9月14~15日 ロンドン、ウェンブリー・タウンホール セッション録音
 
これは定番中の定番。LPレコードの頃から、これまでに何度となく聴いてきた愛聴盤でもあります。



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コバケンのチャイコフスキーはますます好調・・・ 小林研一郎80歳記念チャイコフスキー交響曲チクルス@サントリーホール 2021.4.13

小林研一郎80歳(傘寿)記念&チャイコフスキー生誕180周年記念チャイコフスキー交響曲全曲チクルスの2回目です。

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今日演奏された2曲は1回目を上回る会心の演奏でした。80歳を超えた小林研一郎のチャイコフスキーは深い哀調に満ち、そして、熱く燃え上がる覇気に満ちたものでもあり、オーケストラを極限まで自在にドライブした素晴らしい演奏を聴かせてくれました。これほどまでに惹きこまれるチャイコフスキーを聴いたことはないと思うほどの最高の演奏でした。

まず、最初の交響曲第2番「小ロシア」ですが、題名通り、ロシアの民謡調のメロディーラインが明快に描き出され、メリハリのきいた演奏で全楽章、心地よく聴けました。とりわけ、第4楽章の盛り上がりは見事の一語です。

次の交響曲第5番は何とも凄い演奏でした。第1楽章の冒頭は仄暗い音調でロシアの凍てついた大地を思わせるように始まり、次第に嵐が吹き荒れるように高潮しつつ、暗い情念も見事に織り込まれます。このあたりも凄かったのですが、まだまだ、小手調べの段階でした。第2楽章はオーケストラの各パートをバランスよく響かせて、うっとりとするほどの美しさの極致です。もう、茫然として聴き入るのみです。小林研一郎、入神の指揮です。最高のチャイコフスキーの音楽を見事に描き出してくれました。その素晴らしい演奏は第3楽章にはいっても続きます。そして、間を置かずに第4楽章に入ります。ここに至って、小林研一郎の指揮は自在さを発揮して、ダイナミクスもテンポの揺れも思うがままです。日本フィルはぴったりと小林研一郎の棒に反応し、素晴らしい演奏を聴かせてくれます。終盤のゲネラルパウゼもピタっと決まり、フィナーレに突入していきます。圧巻のコーダに深く感動しました。

小林研一郎の80歳のチャイコフスキー交響曲チクルスは期待以上の素晴らしさ。彼の音楽の総決算のようです。続く悲愴はさらなる高みに駆け上がる予感がします。


今日のプログラムは以下です。

  小林研一郎80歳(傘寿)記念&チャイコフスキー生誕180周年記念チャイコフスキー交響曲全曲チクルス

  指揮:小林研一郎
  管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団  コンサートマスター:木野 雅之

  チャイコフスキー:交響曲第2番 ハ短調 Op.17 「小ロシア」

   《休憩》

  チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 Op.64

   《アンコール》
    チャイコフスキー:交響曲第5番 から 第4楽章の終盤~コーダ

最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のチャイコフスキーの交響曲第2番「小ロシア」は以下のCDを聴きました。

 エフゲニ・スヴェトラーノフ指揮ソヴィエト国立交響楽団 1990年 サントリーホール ライヴ録音

スヴェトラーノフのいわゆる東京ライブです。録音もよく、演奏も最高です。やはり、こういうロシアものはロシア人たちの演奏に限ります。といいながら、小林研一郎の80歳東京ライヴも凄まじい演奏が続いていますけどね。


2曲目のチャイコフスキーの交響曲第5番は以下のCDを聴きました。

 エフゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル 1960年11月9~10日 ウィーン、楽友協会大ホール セッション録音
 
これは定番中の定番。LPレコードの頃から、これまでに何度となく聴いてきた愛聴盤でもあります。



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東響の新しい星、原田慶太楼凄し!暴力的とも思えるショスタコーヴィチは圧倒的@サントリーホール 2021.4.17

原田慶太楼が東響の新しい正指揮者になり、今回はそのお披露目のコンサート。以前、彼がN響を指揮したときは彼のストレートな表現にN響が反応できずに歯がゆい思いでしたが、今日は違いました。東響は原田慶太楼の指揮に完璧に反応し、熱い演奏を繰り広げてくれました。東響はジョナサン・ノットに加えて、また一人、強力な指揮者を加えて、万全な体制になりましたね。原田慶太楼の指揮を聴くのは今回で2回目ですが、これは本物であることを確信しました。冒頭の挨拶代わりのティケリのブルーシェイズのノリに乗った演奏も素晴らしかったのですが、ショスタコーヴィチの交響曲第10番の見事な演奏にこちらまで熱くなりました。実にストレートな表現、それも細部まで独自性に満ちた音楽作りです。特に暴力的、攻撃的とも思える凄まじい音楽表現に圧倒されましたが、決して、受け狙いではなく、緻密に音楽を解釈した上での演奏に思えました。哀調に満ちた美しい音楽も聴こえてきましたし、オーケストラのコントロールが完璧で、その完成度の高さに終始、聴き入ってしまいました。結果、saraiがこの作品にこれまで抱いていたイメージが一新されてしまいました。無論、ゲルギエフのような暗い沈痛な演奏も嫌いじゃありませんけどね。ショスタコーヴィチを聴いて、こんなにインスパイアされたのは久しぶりです。ショスタコーヴィチもこれから、多様な演奏スタイルが広がることで、音楽的な意味が問われていくことになるのでしょう。

それにしても、原田慶太楼と東響の相性は抜群に思えます。カリスマ性さえ感じられる原田慶太楼の思い切った音楽表現に完璧に反応する東響の素晴らしいアンサンブルは必ずや新しい地平を切り開いていきそうな予感がします。ジョナサン・ノットの知的で深い音楽表現、そして、原田慶太楼の個性的で思い切った音楽への切り込みの両輪で東響はさらなる進化を遂げていくことを願います。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:原田慶太楼
ヴァイオリン:服部百音
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:グレブ・ニキティン

  ティケリ:ブルーシェイズ
バーンスタイン:ソロ・ヴァイオリン、弦楽合奏、ハープと打楽器のためのセレナード(プラトンの『饗宴(シュンポシオン)』による)

  《アンコール》ハインリヒ・ヴィルヘルム・エルンスト:「フランツ・シューベルトの『魔王』による大奇想曲」Op.26

  《休憩》

  ショスタコーヴィチ:交響曲第10番 ホ短調 Op.93


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のティケリのブルーシェイズを予習したCDは以下です。

  ユージン・コーポロン指揮ノース・テキサス・ウインド・シンフォニー 1997年 セッション録音

これは吹奏楽版。今日演奏されたのは管弦楽版でした。このCDが録音された時点では、まだ、吹奏楽版しかなく、その後、管弦楽版が作られました。演奏自体はノリのよい聴き応えのあるものです。


2曲目のバーンスタインのセレナードを予習したCDは以下です。

  ギドン・クレーメル、レナード・バーンスタイン指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 1978年10月 テルアビブ、フレデリック・R・マン・オーディトリアム ライヴ録音
  ヒラリー・ハーン、デイヴィッド・ジンマン指揮ボルティモア交響楽団 1998年5月 ボルティモア セッション録音

クレーメルは作曲者自身の指揮で共演し、完璧とも思えるヴァイオリン独奏を聴かせてくれます。一方、ヒラリー・ハーンは17歳でデビューCDでバッハの無伴奏の素晴らしい演奏を録音した後、デビュー第2弾がこのCDで、ヒラリーが18歳のときの演奏。既に亡くなっていた作曲者のバーンスタインに聴かせてみたかったような溌剌とした演奏です。


2曲目のショスタコーヴィチの交響曲第10番を予習したCDは以下です。

  ルドルフ・バルシャイ指揮ケルン放送(WDR)交響楽団 1996年10月 ケルン、フィルハーモニー セッション録音

ショスタコーヴィチの交響曲第14番の初演者でもあるバルシャイが私財を投じて完成させたショスタコーヴィチの交響曲全集は金字塔とも言えるものです。この演奏はその中の1枚。意外にあっさりした演奏で中庸的な演奏です。



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イリーナ・ルングのいと優しき歌声の《ルチア》@新国立劇場 2021.4.21

先日のゲネプロで新国立劇場のプロダクションの完成度の高さを実感したので、今度はドニゼッティの名作オペラ《ルチア》に足を運んでみました。

結果、期待以上の素晴らしいオペラに大変、感銘を覚えました。何と言っても、このオペラに関しては、ルチアを歌うコロラトゥーラ・ソプラノの比重がとても高いです。ルチアを歌うロシアのソプラノ、イリーナ・ルングは初聴きです。写真を見る限り、大変な美貌ですが、歌唱力とは関係ありませんね。最初に登場した場面では、まあ、こんなものかと思って、聴き始めます。それほどインパクトのない感じです。声はピュアーで美しいですが、それほどではないと感じたんです。しかし、じっと聴いていると、その優しい歌声に次第に惹き込まれていきます。これまでは実演で3回聴いたグルベローヴァの強烈なルチアの印象が強かったのですが、イリーナ・ルングの等身大のルチアのさりげない女性の優しさと美しさもなかなかの聴きものです。さすがに狂乱の場での迫力は並み居るディーヴァたちには太刀打ちできませんが、それでも、十分なレベルの歌唱を聴かせてくれました。イリーナ・ルングのルチアを聴いたのがすべてと言ってもいい公演でした。

プロダクション全体で言えば、舞台の美しさが見事でした。スコットランドの厳しい波が寄せる海が効果的に取り込まれていました。こういうオペラはやはり、こういう美しい舞台装置がいいですね。意外だったのは主役の二人以外の日本人歌手たちのレベルの高さです。全然、違和感なく聴けます。というよりもエンリーコ役の須藤慎吾、アルトゥーロ役の又吉秀樹は極めて素晴らしい歌唱を聴かせてくれました。第2幕の6重唱も大変な迫力でした。saraiはほとんど、海外、あるいは海外の歌劇場の引っ越し公演でしか、オペラは聴いてこなかったのですが、先日のゲネプロと言い、今回の《ルチア》でも日本人歌手たちのオペラは思わぬレベルになっていたのですね。こうなると、真剣に新国立劇場の来シーズンを聴いてみることを検討しないといけないようです。いかんせん、料金が高めなのがネックですが、海外に行くことを考えれば、仕方がないかもしれません。

そうそう、一番期待していたのは、テノールのローレンス・ブラウンリーでしたが、もうひとつに思えました。それでも終幕でルチアの狂死を知った後のアリアは素晴らしかったです。胸にジーンときました。

指揮は何と女性のスペランツァ・スカップッチ。手堅い指揮できっちりと音楽を仕上げていました。


ちなみにこれまで実演で聴いたルチアでは、ドレスデンのゼンパーオパーでのグルベローヴァのコンサート形式をかぶりつきで聴いたのが最高でした。あの澄み切った声とテクニックは誰にも真似をできませんね。2008年のことです。


今日のキャストは以下です。

  【指 揮】スペランツァ・スカップッチ
  【演 出】ジャン=ルイ・グリンダ
  【美 術】リュディ・サブーンギ
  【衣 裳】ヨルゲ・ヤーラ
  【照 明】ローラン・カスタン


  【ルチア】イリーナ・ルング
  【エドガルド】ローレンス・ブラウンリー
  【エンリーコ】須藤慎吾
  【ライモンド】伊藤貴之
  【アルトゥーロ】又吉秀樹
  【アリーサ】小林由佳
  【ノルマンノ】菅野 敦

  【合 唱】新国立劇場合唱団
  【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

最後に予習について、まとめておきます。

  映像版:マルコ・アルミリアート指揮メトロポリタン歌劇場 2009年2月7日、メトロポリタン歌劇場 ライヴ収録
   アンナ・ネトレプコ(S)、ピョートル・ベチャワ(T)、マリウーシュ・クヴィエチェン(Br)

  ステレオ音声版:トゥリオ・セラフィン指揮フィルハーモニア管弦楽団・合唱団 1959年3月、ロンドン、キングズウェイ・ホール スタジオ録音
   マリア・カラス(S)、フェルッチョ・タリアヴィーニ(T)、ピエロ・カップッチッリ(Br)

  モノラル音声版:トゥリオ・セラフィン指揮フィレンツェ五月祭管弦楽団・合唱団 1953年1月29,30日、2月3,4,6日、フィレンツェ、テアトロ・コムナーレ セッション録音
   マリア・カラス(S)、ジュゼッペ・ディ・ステーファノ(T)、ティト・ゴッビ(Br)

ネトレプコのルチアは迫真の歌唱。映像付きならこれでしょう。カラスのルチアはまったくもって素晴らしい。とりわけ、1953年のモノラル版は絶唱です。



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クァルテット・エクセルシオのショスタコーヴィチ・シリーズは上々の滑り出し@鶴見サルビアホール 2021.4.22

このところ、弦楽四重奏の殿堂である鶴見サルビアホール(音楽ホール)はコロナ禍の影響で日本人のカルテットの登場が多くなっています。今日は日本を代表するカルテットの一つ、クァルテット・エクセルシオの登場です。saraiはこれまで機会がなく、これが初聴きです。どんな演奏を聴かせてくれるんでしょう。

今日はショスタコーヴィチ・シリーズの開始で第1番から第3番が演奏されます。彼らは初めてショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲全曲に取り組むのだそうです。多分、これから3曲ずつ、5回のコンサートで第15番まで聴かせてくれるんでしょう。saraiはこれまで、アトリウム・カルテット、パシフィカ・カルテットで全曲チクルスを聴きましたが、いずれも素晴らしい演奏でした。ショスタコーヴィチの音楽はこの弦楽四重奏曲に限らず、交響曲でも多様な音楽表現が聴けます。ショスタコーヴィチの音楽の意味は様々な解釈がなされてきて、そのそれぞれが聴き手には面白く聴けます。どれが正解というのはないような気がします。クァルテット・エクセルシオのショスタコーヴィチ・シリーズも彼らの視点に基づく演奏になるのでしょう。しっかりと聴かせてもらいましょう。

今日の演奏ですが、緻密に練り上げられて、各声部のバランスがよくて、美しい表現でした。やはり、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲は音楽的な解釈はともかくとして、このように美しい響きで聴きたいものです。そういう意味では素晴らしい演奏でした。どの曲の演奏もよかったのですが、第1番を聴いているときはこれは素晴らしいと思い、次の第2番は凄い大曲としてのさらなる素晴らしさ。しかし、やはり、今日の最高の演奏は第3番でした。とりわけ、第2楽章は精密極まりない演奏で固唾を飲みながら、聴き入りました。

簡単に各曲の演奏に触れておきましょう。
まず、第1番です。冒頭、第1楽章は音程の狂ったメロディーが響くような雰囲気を見事に表現しています。まるでハイドンのパロディーのようです。一転して、第2楽章は苦しくて遅々とした行進が描き出されていて、ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲へのオマージュのように思えます。素晴らしい音楽表現です。いかにも習作めいた清新な感じがよく表出された演奏でした。

第2番はこってりとした大曲で大変、聴き応えがありました。序曲と題された第1楽章は対位法の醸し出す緊張感にあふれた演奏。第2楽章は第1ヴァイオリンがレシタティーボを模した一人舞台のような演奏を繰り広げます。saraiの趣味では、もっと突っ込んだ演奏が欲しかった感じが否めません。第3楽章のワルツは響きがよくて、攻撃的な雰囲気が表出されていて、盛り上がります。第4楽章の主題と変奏はヴィオラの提示する主題が美しく奏でられて、次々と各楽器で変奏されて、最後は主題がフラグメントに切り刻まれていくところまで、素晴らしい展開の演奏が続き、主題が回帰して終わります。何となく、この曲は全体に社会主義リアリズムの雰囲気があって、そこが良いとも悪いとも感じてしまいます。そういう解釈での演奏だったんでしょうか。

最後は第3番です。この作品も色んな表情を見せてくれます。第1楽章は屈託ない明るさに始まり、突如、高潮したり、沈んだりしながら、素晴らしい対位法の展開を聴かせてくれます。各声部が見事にこの2重フーガをバランスよく表現してくれました。第3楽章では攻撃的に激しく燃え上がります。スターリンを密かにパロディったとも言われています。第4楽章は第2次世界大戦の戦没者への葬送の音楽です。素晴らしい音楽表現で精緻な演奏を聴かせてくれました。最後の第5楽章では激しく燃焼した後、静かに曲を閉じます。やはり、第3番は名曲ですが、素晴らしい演奏で深く心に迫ってきました。

ということで、全曲演奏への上々のスタートでした。最後の第15番まで、何年もかかるのでしょうね。素晴らしく精緻な演奏が聴けそうです。


今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:クァルテット・エクセルシオ
   西野ゆか vn  北見春菜 vn  吉田有紀子 va  大友 肇 vc

   ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第1番 ハ長調 Op.49
   ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第2番 イ長調 Op.68

   《休憩》

   ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第3番 ヘ長調 Op.73

   《アンコール》
    なし

最後に予習について触れておきます。
今回のショスタコーヴィチ・シリーズに際しては、きちんと全曲を聴いていない以下のCDを聴くことにしました。

 エマーソン・カルテット 1994年、1998年、1999年 アスペン音楽祭 ライヴ録音

切れのいい演奏と素晴らしい響き。エマーソン・カルテットならでは完成度です。とてもライヴ録音とは信じられないレベルの高さです。なお、saraiのお気に入りの演奏はルビオ・カルテットのCDです。



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モーツァルトの楽興、ここに極まれり・・・太田 弦&山根一仁&東京交響楽団:モーツァルト・マチネ 第45回@ミューザ川崎シンフォニーホール 2021.5.1

今日は朝11時からのミューザ川崎でのモーツァルト・マチネ。いつもながら、朝が弱いsaraiには毎回、結構きつい時間帯のコンサートです。それでも、東京の緊急事態宣言で軒並み、コンサートが中止になるなか、ここミューザ川崎だけでコンサートが聴けるのは幸いです。今日から、ミューザ川崎で三日間、連続のコンサートの第1弾が今日のコンサートです。

最初のモーツァルトの交響曲 第32番から、爽やかな春風を思わせるモーツァルトの佳曲が聴けます。モーツァルトの作品にしては少し編成が大きい(12,10,8,6,4)アンサンブルですが、決して、もたれるようなところがありません。3楽章が切れ目なく演奏されて、そよかぜが吹くようにあっという間に短い曲が終わります。素晴らしい演奏でした。

次はモーツァルトのヴァイオリン協奏曲 第3番。東響のアンサンブルは実に素晴らしいです。山根一仁のヴァイオリンは多分、初聴きです。その響きに何か違和感があります。よくよく聴くと、ノンヴィブラートで弾いていますね。そう言えば、東響もほぼノンヴィブラートで合わせています。10代のモーツァルトが書いた作品ですが、素晴らしい曲、素晴らしい演奏にうっとりと聴き入りました。

最後はモーツァルトの交響曲 第36番 「リンツ」。これは単に爽やかというだけでなくて、聴き応え十分。モーツァルトがウィーンに拠点を移し、コンスタンツェと結婚した後の作品だけあって、とても充実しています。リンツに滞在中、4日間で書き上げたそうですが、とてもそうは思えない作品です。モーツァルトの交響曲はこの作品以降は次元が異なるレベルに達しています。第1楽章の流麗な演奏に魅了されます。第2楽章もとても美しいのですが、あまりの美しさに時折、寝落ちします。第3楽章のメヌエットはさっと通り過ぎていきます。そして、第4楽章の颯爽とした演奏に耳を奪われます。爽やかに高潮してフィナーレ。太田 弦の的確な指揮、東響の素晴らしいアンサンブルで見事なモーツァルトでした。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:太田 弦
  ヴァイオリン:山根一仁
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:水谷晃

  モーツァルト:交響曲 第32番 ト長調 K.318
  モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第3番 ト長調 K.216
  モーツァルト:交響曲 第36番 ハ長調 K.425「リンツ」

   休憩なし


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のモーツァルトの交響曲 第32番を予習したCDは以下です。

 ジェイムズ・レヴァイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1987年12月 ウィーン セッション録音

これはウィーン・フィルがいい意味で弾き飛ばしている感じの演奏です。これがモーツァルトなのねって、妙に納得します。


2曲目のモーツァルトのヴァイオリン協奏曲 第3番を予習したCDは以下です。

 アンネ・ゾフィー・ムター、ロンドン・フィルハーモニック 2005年7月、ロンドン、アビーロード第1スタジオ セッション録音

ムター、円熟の演奏。文句なし。


3曲目のモーツァルトの交響曲 第36番 「リンツ」を予習したCDは以下です。

 ヨーゼフ・クリップス指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1972年6月 セッション録音

実に優雅な演奏。最晩年のクリップスは素晴らしい遺産を残してくれました。



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木嶋真優、会心のチャイコフスキー 大植英次&東京交響楽団@ミューザ川崎シンフォニーホール 2021.5.2

大植英次は以前、都響のコンサートで急病で降板。これが初聴きだと思われます。また、ヴァイオリンの木嶋真優もこれまで機会がなく、初聴きです。彼女のヴァイオリンは一度、聴いてみたいと思っていたので、大変、期待していました。

最初はその木嶋真優がチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を弾きます。冒頭、おっと驚きます。大胆にも少しポルタメントをかけた甘い響きの滑り出し。それがなかなか、ロマンティックな感じで様になっています。もちろん、以降はそういうポルタメントはありませんでした。ただ、音楽は冒頭の1フレーズが全体の印象を左右するので、好印象で前のめりで耳を傾けます。美しい響きできっちりと第1楽章をまとめあげます。素晴らしい演奏の部類に入るでしょう。テクニック、音の響き、音楽性、すべて、気持ちよく聴けました。第2楽章のカンツォネッタも美しい演奏でしたが、抒情性において、もうひとつ満足できません。もっとも第1楽章が素晴らし過ぎたから、その比較においてのことで、通常レベルでは問題のない演奏ではありました。圧巻だったのは第3楽章。思い切ったテンポの切り替えでスリリングな演奏です。超高速パートの完璧な演奏に舌を巻きます。終始、目まぐるしく緩急をつけて、素晴らしい演奏です。オーケストラは大植英次が熟達した指揮で木嶋真優のヴァイオリンにきっちり合わせます。そして、木管パートがヴァイオリンと素晴らしい掛け合いを聴かせてくれます。とりわけ、クラリネットのエマニュエル・ヌヴーの演奏力が群を抜いていました。
ともかく、初聴きの木嶋真優のヴァイオリンに大いに満足しました。これからも目を離せませんね。

休憩後、チャイコフスキーの交響曲 第4番。ともかく、東響の弦楽パートはもちろん、管楽パートの素晴らしさに感銘を覚えました。とりわけ、木管の首席奏者のトライアングル、オーボエの荒木奏美、フルートの相澤政宏、クラリネットのエマニュエル・ヌヴーの妙技に耳をそばだてました。ファゴットの福井蔵もなかなか。金管もあの運命のファンファーレを見事に熱演。しかし、大植英次の指揮は熟達しているものの、その音楽はもうひとつ、心に迫りませんでした。バーンスタインの助手をしていた経歴から、バーンスタインばりのチャイコフスキーを期待したのがいけなかったのかもしれません。バーンスタインのように燃えるような熱情、そして、深く、しみじみとした抒情を期待しましたが、まったく、スタイルが異なります。小林研一郎&日本フィルの演奏を聴いたばかりですが、オーケストラは圧倒的に東響が素晴らしく、指揮はつぼを抑えた小林研一郎に軍配を上げます。音楽はなかなか難しいものだし、指揮者の役割や個性がこんな重要なものだということを痛感しました。大植英次は欧米でも実績のある指揮者ですから、次の機会には期待したいものです。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:大植英次
  ヴァイオリン:木嶋真優
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:グレブ・ニキティン

  チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35

  《休憩》

  チャイコフスキー:交響曲 第4番 へ短調 Op.36


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を予習したCDは以下です。

  リサ・バティアシュヴィリ、ダニエル・バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリン 2015年6月 セッション録音

バティアシュヴィリのチャイコフスキーは現代を代表する演奏のひとつと言えます。saraiはザルツブルク音楽祭で二人のコンビの演奏を聴いて、大変、感動しました。


2曲目のチャイコフスキーの交響曲 第4番を予習したCDは以下です。

  レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニック 1989年10月 ニューヨーク セッション録音

バーンスタインが亡くなるちょうど1年前の録音。スケールの大きな熱のこもった演奏ですが、それ以上に真の芸術家のみが到達できる音楽であることが実感できます。大変なレベルの音楽を聴くことができます。



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オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

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えりちゃさん、お久しぶりです。saraiです。

なかなか、海外渡航の見通し、立ちませんね。来年あたりはどうでしょうね。長期戦覚悟で我慢するしかありませんね。

こちら

04/10 02:37 sarai

saraiさま、
お久しぶりです!
お元気にコンサートや旅行を楽しんでおられますね!
ブログ、楽しく拝見しています。おフランス、良いね😊
私は春だというのに、仕事と用事以

04/09 05:29 えりちや

気になってたずねても 
誰にも知らんと言われなんやろ
と思いつづけて居ました❗
写真みつけてこれだと思いました❕スッとしました
教えて下さって嬉しいです
ありがとうご

02/13 22:26 みーちゃん

みーちゃんさん、saraiです。

あの謎の建物は雄琴沖総合自動観測所という施設で琵琶湖の水質を測定しているそうです。

https://www.water.go.jp/kansai/biwako/html/repo

02/13 21:40 sarai

ずーと前にうきみどうに行きました
やはり、琵琶湖の真ん中の建物が何なのか気になったままです
分かりましたか
教えてください

02/13 20:54 みーちゃん

五十棲郁子さん、コメントありがとうございます。

水道水のこと、tap waterって言うんですね。知らなかった。単にwaterで通していました。ましてや、フランス語はほとんど

02/11 00:12 sarai

フランスも地方へ行くと英語が通じないでしょう。tap water ぐらいフランス語で言えないとね。

02/10 12:54 五十棲郁子
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