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藤田真央のショパンのノクターンは絶品@東京オペラシティ コンサートホール 2022.1.19

藤田真央は冒頭のショパンのノクターンから聴衆を惹き付けます。弱音の響きの美しさ、音楽表現の見事さに一気に集中度が高まります。ピアノという楽器が、その名称がピアノ(弱く)であることを再認識させられます。うっとりとする音楽が続きます。曲の後半で強く鳴り響きますが、その高揚感は冒頭のピアノの弱音の対比によって生まれます。2曲目のノクターンもとても美しい演奏。たった2曲のノクターンでしたが、最高の演奏でした。続くバラードはノクターンほどの感銘はありません。やはり、ノクターンの完成度は素晴らしかったんです。リストのバラードは低音のおどろおどろさと高音の美しさの対比が見事な演奏でした。ここまでが前半です。

後半はブラームスの主題と変奏。これは弦楽六重奏曲第1番で有名ですね。ピアノで聴くことは滅多にありませんが、ロマンティックで美しい演奏に聴き惚れます。続くクララ・シューマンの作品も美しい演奏ですが、これは軽く聴き流し、シューマンの名曲、ピアノ・ソナタ第2番に耳を傾けます。第1楽章は不思議な速度指示があることで有名ですが、藤田真央はあまり、そういうことに拘泥した演奏でなく、シューマンの祝典的とも思える音楽を高らかに奏でます。続く第2楽章が一番の聴きものでした。ここでも美しい響きの弱音で実にロマンあふれる抒情を歌い上げます。そのしみじみとした憧れこそ、シューマンの本質です。こういうシューマンを聴くと嬉しくなります。第3楽章は一転して、ほがらかな音楽の表情。間を置かずに第4楽章に突入。熱い演奏でしめくくります。素晴らしいシューマンでした。

アンコールは何故か、ラフマニノフ。どうせなら、前奏曲あたりを弾いて欲しかったところです。あっ、第2曲は前奏曲だった・・・。最後のアンコール、モシュコフスキはまさに名人芸。あまりの凄い演奏に驚愕しました。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  ピアノ:藤田真央

  ショパン:2つのノクターン Op.48
  ショパン:バラード 第3番 変イ長調 Op.47
  リスト:バラード 第2番 ロ短調 S.171 R.16

   《休憩》

  ブラームス:主題と変奏 ニ短調 Op.18b
  クララ・シューマン:3つのロマンス Op.21
  ロベルト・シューマン:ピアノ・ソナタ 第2番 ト短調 Op.22


   《アンコール》
     ラフマニノフ:幻想的小品集 Op.3 全曲
      第1曲 エレジー 変ホ短調
      第2曲 前奏曲≪鐘≫ 嬰ハ短調
      第3曲 メロディ ホ長調
      第4曲 道化師 嬰ヘ短調
      第5曲 セレナード 変ロ短調
     モシュコフスキ:名人芸の練習曲(15の練習曲) Op.72 から 第11番 変イ長調


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のショパンの2つのノクターン Op.48を予習したCDは以下です。

  イリーナ・メジューエワ 2009年7月、9月、10月 新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

繊細でありながらもしっかりした構築の演奏で聴き入っていまいます。


2曲目のショパンのバラード 第3番を予習したCDは以下です。

  マウリツィオ・ポリーニ 1999年4月 ミュンヘン、ヘルクレスザール セッション録音

ポリーニですから、文句ない演奏。


3曲目のリストのバラード 第2番を予習したCDは以下です。

  クラウディオ・アラウ 1969年3月 セッション録音

アラウの重厚感のある響きに魅了されます。


4曲目のブラームスの主題と変奏を予習したCDは以下です。

  田部京子 2011年8月22日、23日、25日 上野学園 石橋メモリアルホール セッション録音

田部京子のブラームス:後期ピアノ作品集の中に含まれています。後期作品と同様に詩的な表現に魅せられます。


5曲目のクララ・シューマンの3つのロマンス Op.21を予習したCDは以下です。

  ヨゼフ・デ・ベーンハウアー 2001年8月 セッション録音

ベルギーの熟練ピアニストであるヨゼフ・デ・ベーンハウアーの『クララ・シューマン (1819-1896):ピアノ作品全集』(CD3枚)に含まれています。ロマンティックで美しい演奏です。


6曲目のシューマンのピアノ・ソナタ 第2番を予習したCDは以下です。

  スヴィヤトスラフ・リヒテル 1962年 ウクライナ、キエフ ライヴ録音

リヒテルの絶頂期の演奏。東側での録音としては上々の音質でリヒテルらしい突っ込んだ演奏が聴けます。なお、このCDはウクライナ出身のリヒテルがウクライナのキエフで1958年から1982年にかけて収録したライヴ録音を17枚のCDにまとめたものです。



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       藤田真央,  

ブルックナーの交響曲第5番の第4楽章が凄かった!! まさに大伽藍のごとき 下野竜也&読売日本交響楽団@サントリーホール 2021.12.14

今年はコンサートに行く出だしが遅く、昨日の藤田真央が初コンサートでしたが、続いて、今日もコンサート。なんだか、コンサートで音楽を聴く姿勢を忘れかかっていましたが、ようやく、今日はブルックナーの大傑作、交響曲第5番の途中から、ぐっと集中力が増して、とりわけ、第4楽章は完璧に聴けました。それというのも下野竜也&読売日本交響楽団の演奏がとても素晴らしくて、saraiをインスパイアしてくれたからです。素晴らしい弦楽パートが中心となって壮大なフーガを構築していく様は圧倒的でした。ブルックナーでこんなに凄いフーガはあまり体験した覚えがありません。特に低弦から高弦に対位法的に展開していく部分での美しい音楽には体に戦慄が走りました。
久しぶりに大編成のオーケストラでブルックナーの大曲を聴いて、気持ちが高揚しました。今年はブルックナーとマーラーを思う存分に聴きたいものです。年の初めから、素晴らしいものが聴けました。やはり、読響は凄い! 下野竜也の音楽力も実感しました。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:下野竜也
  管弦楽:読売日本交響楽団  コンサートマスター:林 悠介

  メシアン:われら死者の復活を待ち望む

   《休憩》

  ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調 WAB 105(ハース版)


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のメシアンの《われら死者の復活を待ち望む》は以下のCDを聴きました。

  ベルナルト・ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1969年2月 アムステルダム、コンセルトヘボウ ライヴ録音

コンセルトヘボウの管楽器セクションの見事な響きに聴き入ります。


2曲目のブルックナーの交響曲第5番は以下のCDを聴きました。

 オイゲン・ヨッフム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1986年12月3&4日 ライヴ録音
 
天下の大名盤。ブルックナーを得意にしたヨッフムの最後のコンセルトヘボウのコンサートでした。この演奏の3か月後、ヨッフムは亡くなります。このCDはTAHRAから出ているオイゲン・ヨッフム&コンセルトヘボウ管によるブルックナーの交響曲第4/5/6/7/8番を6CDにまとめた貴重なアルバムの中の2CDです。すべて、素晴らしい演奏です。第9番が抜けているのが残念です。



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岡田奏のモーツァルトは絶美 川瀬賢太郎&神奈川フィル@神奈川県立音楽堂 2022.1.22

当初予定の北村朋幹が新型コロナウイルス感染症対策による入国制限措置緩和の見通しが立たないため、急遽、岡田奏に代わったことを彼女のTwitterで知り、急遽、チケットを購入しました。北村朋幹が弾くことを知っていたら、それも聴きたかったので、やはり、チケットを買っていたでしょう。岡田奏と北村朋幹の2人の若手ピアニストのモーツァルト演奏は高く評価しています。

で、やはり、期待通りの岡田奏のモーツァルト演奏でした。以前、読響との共演でモーツァルトのピアノ協奏曲第25番を聴き、その美しいピアノの響きに驚愕し、そのときのブログ記事で「是非、第21番や第23番も聴いてみたいところです。できれば、全協奏曲すら聴かせてもらいたいものです。」と書きましたが、ほぼ、1年後に夢が叶いました。第1楽章はやや、ピアノの響きが重く、ちょっと残念な感じで聴いていました。ところが、有名な第2楽章に入ると、彼女のピアノの響きがとても美しくなり、思い描いていたイメージ通りの演奏です。この曲も相当聴きましたが、多分、最高の演奏でしょう。単純な音が連なるだけですが、どうして、こんな素晴らしい響きになるのでしょう。うっとりというレベルではなく、忘我の境地で聴き入ります。鍵盤の上の彼女の手も美しい形です。時折、右手がクロスして、低音部を奏でますが、やはり、右手の奏でる高音部の響きの美しさは圧倒的です。かみしめるように聴いているうちに第2楽章はあっという間に終わります。もっと聴いていたかったという感です。しかし、続く第3楽章の切れの良くて、素晴らしいタッチの演奏は第2楽章以上に圧倒的です。早いパッセージのめくるめく動きは完璧で一音一音の粒立ちのよさが心地よく感じます。思わず、初演したときのモーツァルトの演奏はどうだったんだろうと想像してしまいます。当時のフォルテピアノは鍵盤が軽いので、こういう風に切れのよい演奏だったんでしょう。しかし、岡田奏が今弾いているのは現代のスタインウェイです。それでこんなに軽やかに弾けるとは驚異的です。音楽表現も見事の一語。これ以上の演奏はありえないと思えます。短いカデンツァも万全の演奏で爽やかな涼風のように第3楽章を弾き切ります。心の内でブラボーコール! こんな凄いピアニストがさほど評判にならないことが不思議です。アンコールのトルコ行進曲も素晴らしい演奏でした。

saraiにとって、モーツァルトのピアノ協奏曲の規範はクララ・ハスキルですが、テクニック、音の響きでは、岡田奏は既にハスキル以上かもしれません。あとは格調の高い音楽性だけですね。それに今日のピアノ協奏曲 第21番はハスキルは録音を残していません。貴重な演奏を聴きました。次はハスキルが得意にしていた第19番と第20番を聴かせてほしいものです。とてつもない逸材が日本にいることが分かったのはコロナ禍のお陰ですから、皮肉なものです。

なお、前半のプッツのフルート協奏曲は上野星矢の美しいフルートが印象的でした。第2楽章はモーツァルトのピアノ協奏曲 第21番をオマージュしたもので、ふんだんに聴き慣れた旋律が登場します。音楽としてはもうひとつでしょうか。古典派の音楽をオマージュした作品と言えば、ジョン・アダムズのアブソルート・ジェストを昨年の8月に聴きましたが、あれはベートーヴェンをオマージュしつつ、ミニマルミュージックを融合させた傑作でした。どうしても比べてしまいます。ところで上野星矢のアンコール曲はよく知っている曲で何だったっけ・・・。saraiも昔、よく愛奏していたモーツァルトのフルート四重奏曲第1番の第2楽章でした。懐かしい・・・。

最後のアンコールのおもちゃシンフォニーはサプライズだらけの楽しい演奏でした。まるで、ニューイヤーコンサートみたい。みなさん、ありがとうございました。特に石田泰尚さんの熱演が凄かった!


今日のプログラムは以下です。

  指揮:川瀬賢太郎
  フルート:上野星矢
  ピアノ:岡田奏(おかだ かな)
  管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団  コンサートマスター:石田泰尚(隣席:崎谷直人)

  武満徹:波の盆
  プッツ:フルート協奏曲 (日本初演)
   《アンコール》 モーツァルト:フルート四重奏曲第1番 ニ長調 K. 285 から 第2楽章の冒頭から一部をフルート独奏で演奏

   《休憩》

  モーツァルト:ピアノ協奏曲 第21番 ハ長調 K.467
   《アンコール》 モーツァルト:ピアノ・ソナタ第11番 イ長調 K. 331 から 第3楽章「トルコ行進曲」

   《アンコール》
    エトムント・アンゲラー(レオポルド・モーツァルト?):おもちゃの交響曲


最後に予習について、まとめておきます。

1~2曲目の武満徹の波の盆とプッツのフルート協奏曲は適当なCDがなかったので予習なし。


3曲目のモーツァルトのピアノ協奏曲 第21番は以下のCDを聴きました。

 アンドラーシュ・シフ、シャーンドル・ヴェーグ指揮ザルツブルク・モーツァルテウム・カメラータ・アカデミカ 1989年12月 ウィーン、コンツェルトハウス大ホール セッション録音
 
シフが若い頃に同じハンガリー出身のヴェーグとともに録音したモーツァルトのピアノ協奏曲集(ピアノ協奏曲第5番、第6番、第8番、第9番、第11番~第27番の21曲)の中の1曲です。シフの演奏は既に完成の域に達しています。ベーゼンドルファーの美しい響きはこの頃も素晴らしいです。



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田部京子のシューベルトは世界初演のピアノ協奏曲? 藤岡 幸夫&東京シティ・フィル@ティアラこうとう(江東公会堂)大ホール 2022.1.29

恐いものみたさでこのコンサートに足を運んでみました。何と言っても、ピアノ曲の最高峰のひとつであるシューベルトのピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調D.960を協奏曲に編曲というのですから凄い。しかし、これを原曲と比較するというのは野暮過ぎます。そりゃーね、saraiが愛してやまぬシューベルトのピアノ・ソナタ第21番ですからね。先月も田部京子の演奏で素晴らしい演奏を聴いたばかりです。まだ、頭の中にそのときの演奏が残っています。
もっとも、編曲した吉松隆さんもそもそも田部京子さんの弾くシューベルトのピアノ・ソナタ第21番に魅せられて、この編曲を行ったそうです。そういうシューベルトへの愛を聴くというのが正しい聴き方なのかもしれません。そういう意味では、隅々まで熟知した名曲を違った形で聴いて、楽しめました。編曲が一番成功していたのは第2楽章。寂漠としたところこそ、もうひとつでしたが、とても美しい音楽に仕上がっていました。田部京子のピアノは珍しくベーゼンドルファーでした。演奏はもちろん、お得意のシューベルトですから悪かろう筈はありません。ですが、ちょっとオーケストラに合わせ気味でテンポが平板な感じになっていたのが残念なところ。いつもの詩的表現が前面に出ていない印象でした。

実はこの東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団を聴くのは今日が初めてです。評判はこれまでも聞いていたので、お手並み拝見というところです。後半のシベリウスの交響曲第1番、とても見事な演奏でした。最高の演奏と言ってもいいでしょう。冒頭のクラリネットの独奏から素晴らしくて、ぐっと惹き込まれます。第1楽章は第1ヴァイオリンのアンサンブルがもうひとつに思えましたが、それを補って余りあるのが、管セクションの素晴らしい演奏。ヴィオラも見事です。第2楽章にはいると、第1ヴァイオリンも美しいアンサンブルに変わります。すべてのパートが素晴らしいアンサンブルで響きます。実に瑞々しいシベリウスです。響きも音楽表現も最高です。そのまま、第3楽章、第4楽章と進みます。そして、圧巻のフィナーレ。実演で聴いたこの曲の演奏では最高のものです。こういう響きでチャイコフスキーを聴いてみたいとふと思います。在京オーケストラでは、もっとアンサンブルのよいオーケストラもありますが、どこか魅力を感じさせて、音楽に惹き込む力があります。思わず、3月のマーラーの交響曲第9番も聴きたくなって、ぽちっとチケットを買ってしまいました。来季の春シーズンもとりあえず、聴いてみましょう。東響、読響、都響、N響に続いて、気になる存在が増えました。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:藤岡 幸夫(首席客演指揮者)
  ピアノ:田部 京子
  管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団  コンサートマスター:戸澤哲夫

  シューベルト(吉松隆編):ピアノ協奏曲・・・ピアノ・ソナタ 変ロ長調D.960(第21番)のピアノとオーケストラのための演奏用バージョン(世界初演)

   《休憩》

  シベリウス:交響曲第1番 ホ短調 Op.39


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のシューベルト(吉松隆編)のピアノ協奏曲は世界初演なので予習は原曲のピアノ・ソナタ 変ロ長調D.960(第21番)を聴きました。

 田部京子 1993年10月20~22日 秋川キララ・ホール セッション録音

これは田部京子のシューベルト作品集の最初の録音です。もう、30年近く前の録音です。最近も聴いたばかりでしたが、何度聴き直してみても、やはり、素晴らしい演奏です。聴き惚れてしまいました。今度はライヴで再録音してもらいたいものですが、たとえ、再録音されなくても満足の1枚です。


2曲目のシベリウスの交響曲第1番は以下のCDを聴きました。

 パーヴォ・ベルグルンド指揮ヨーロッパ室内管弦楽団 1997年10月 セッション録音
 
シベリウスの同郷人であるベルグルンドはシベリウスのスペシャリストとも言える最高の存在。その彼が最後に残した3回目の交響曲全集は何とフィンランドのオーケストラではなく、ヨーロッパ室内管弦楽団。彼がドリームチームと呼んだだけのことはあり、そのピュアーな響きは最高です。これがベルグルンドが最終的に見つけたシベリウスだったんですね。saraiの一番のお気に入りのシベリウスです。ベルグランドを含めたフィンランド人指揮者によるヘルシンキ・フィルのシベリウスも好きですが、一番のお気に入りはこのCDです。



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       田部京子,  

吉田南の見事過ぎるブラームス 秋山和慶&東京交響楽団@サントリーホール 2022.1.30

いやはや、このところ、オミクロン株の猛威でコンサートの予定も滅茶苦茶になっています。しかし、そこで日本人若手の予想外の素晴らしい演奏が聴けることもあります。今日の吉田南のヴァイオリンは初聴きでしたが、素晴らしいブラームスを聴かせてくれました。日本人ヴァイオリニストでこういうレベルのブラームスを演奏したのは・・・思い出せるのは庄司紗矢香だけです。とかくにブラームスのよい演奏を聴くことは稀ですが、吉田南は高音の美しい響き、テクニック、音楽性、すべての面で安定した演奏を聴かせてくれ、さらには魂の燃焼まで感じさせてくれました。とりわけ、第2楽章の美しい演奏に心を奪われ、圧巻だったのは第3楽章。弾むような切れの良い演奏でバリバリと弾き進めていきました。もう、これ以上の演奏はないでしょう。楽しみな逸材が現れたものです。最近では、辻彩奈に比肩する存在に思えます。日本のヴァイオリンとピアノは次々と若手の逸材が台頭してきて、驚くべき状況です。ちょうど、コロナ禍で海外の音楽家が聴けない中、嬉しいですね。これから、吉田南を聴く機会が増えそうな予感がします。アンコールのテレマンでも実に端正な演奏を聴かせてくれました。なお、使用楽器は日本音楽財団から貸与されている1716年製のストラディヴァリウス「ブース」です。

前半は吉田南のブラームスに魅了されましたが、もちろん、東響の演奏も素晴らしく、第3楽章の両者の丁々発止の演奏はエキサイティングでした。そして、後半はブラームスの交響曲第1番。秋山和慶の素晴らしい指揮と東響の聴き惚れるような音響で最高の演奏になりました。ヴァイオリン群の美しい響きはもちろん、ヴィオラとチェロの響きが冴え渡ります。オーボエの荒絵理子も素晴らしい演奏で、木管、金管セクションもみな好調。ブラームスの和声がくっきりと醸成されます。
第1楽章も第2楽章もほれぼれとする演奏に聴き入ります。第2楽章の水谷晃のヴァイオリンソロも見事です。第3楽章の中間あたりから音楽は高潮して、東響のメンバーの気合がはいるのが分かります。そして、間を置かずに第4楽章・・・長大な楽章ですが、緊張感のある演奏でぐっと気持ちを惹きつけられ続けます。印象的な有名な歌唱的旋律が弦楽合奏で奏でられますが、東響のヴァイオリンとヴィオラの調和した演奏はまことに見事です。弦楽セクション間での対位法的な展開あたりから、音楽は盛り上がり、混沌とした音楽や行進曲風の音楽などが複雑に絡まり合いながら、終結部のコラールに入っていきます。そして、圧倒的なコーダに強い感銘を受けつつ、完結。素晴らしいブラームスでした。日本人指揮者と日本のオーケストラでかくも素晴らしいブラームスが聴ける時代になったことを実感しました。とりわけ、80歳を超えた秋山和慶の最近の充実ぶりには脱帽の思いです。真の意味で巨匠の域に足を踏み入れつつあることを感じます。特にドイツ・オーストリア音楽での熟成と活躍は楽しみです。それに何と言っても、その指揮姿はお元気でその年齢を感じさせません。コバケンとお二人で日本の音楽界を牽引していってくれることを願います。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:秋山和慶
  ヴァイオリン:吉田南
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:水谷晃

  ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77
  《アンコール》テレマン:無伴奏ヴァイオリンのための12の幻想曲より第10番 ニ長調 第1楽章

  《休憩》

  ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 op.68


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のブラームスのヴァイオリン協奏曲を予習したCDは以下です。

  ダヴィッド・オイストラフ、オットー・クレンペラー指揮フランス国立放送管弦楽団 1960年11月、パリ、サル・ワグラム セッション録音

子供の頃から聴いてきたsaraiの定番の演奏です。オイストラフの繊細な響きは素晴らしい!


2曲目のブラームスの交響曲第1番を予習したCDは以下です。

  ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送交響楽団(NDR) 1996年4月21~23日 ハンブルク、ムジークハレ(現ライスハレ)  ライヴ録音

ヴァントの晩年を代表するブラームスの交響曲全集です。しかし、少なくとも、この第1番はあまりに厳格過ぎる演奏で楽しめませんでした。人によって、評価が分かれているようです。



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凄過ぎる!!《さまよえるオランダ人》@新国立劇場 2022.2.2

昨年末のワーグナーのマイスタージンガーも素晴らしかったのですが、今日の《さまよえるオランダ人》は凄いとしか言えない音楽に深く感動しました。とりわけ、第2幕のオランダ人とゼンタの異形の愛の2重唱は想像を絶するような素晴らしさ。2人が顔を見合わせることなく、不思議な愛を歌い上げるシーンは凄く、まるで指輪のウォータンのようなオランダ人の哲学的な歌唱をバックにゼンタ役の田崎尚美のスケール感のある美しい声が無償の愛を歌い上げる姿にただただ感動してしまいました。その後、立ち位置を逆転して、前面で呟きのようなオランダ人の歌唱をバックからゼンタ役の田崎尚美の突き抜けるようなソプラノの声がおおいかぶさる様も凄まじいものでした。
saraiが大きな衝撃を受けた第2幕はそのまま、途切れることなく第3幕に突入します。第3幕は冒頭から素晴らしい大合唱に酔い痴れます。新国立劇場合唱団の圧倒的な男声合唱が炸裂します。加えて美しい女声合唱。不気味な幽霊船をバックに合唱が高揚していき、音楽は最高潮に達します。次はエリック役の城 宏憲の見事な歌唱、そして、ゼンタ役の田崎尚美とオランダ人役の河野鉄平の迫真の歌唱が加わり、3人の重唱が物凄い盛り上がりになります。中心は田崎尚美の強烈で美しいソプラノです。こんな凄い逸材が日本にいたとは驚きです。ゼンタの愛の死にはひたすら感動するのみです。幕を閉じる最後のオーケストラの演奏にも強烈に感動します。

《さまよえるオランダ人》は2005年にウィーン国立歌劇場で聴いて以来、約17年ぶりです。ウィーンでは最高の公演を聴いたのですが、今日はそれをも上回る会心のオペラ公演でした。演出もワーグナーの音楽を完全に理解し、素晴らしい音楽を活かすようなものだと納得できるものです。そして、何と言ってもゼンタ役の田崎尚美の歌唱の凄かったこと! オペラの題名を《さまよえるオランダ人を無償の愛で救済する乙女の物語》と改題したくなるような最高の歌唱でした。このオペラの何たるかを初めて実感できたような気がします。間違いなく、今シーズン、最高のオペラになるでしょう。うーん、オペラはやっぱりいいね。
あっ、書き洩らしていましたが、ダーラント役の妻屋秀和は第1幕、第2幕で見事な歌唱を聴かせてくれました。それにしても、日本人歌手だけでこんな凄いワーグナーの楽劇が上演できるとは、時代が変わったんですね。指揮だけは外国人。ガエタノ・デスピノーサは初聴きのような気がしますが、ツボを押さえたオーソドックスな指揮で好感を持てました。オーケストラの東京交響楽団は三日前のブラームスでも好演しましたが、今日も好調な演奏でした。


今日のキャストは以下です。

【指 揮】ガエタノ・デスピノーサ
  【演 出】マティアス・フォン・シュテークマン
  【美 術】堀尾幸男
  【衣 裳】ひびのこづえ
  【照 明】磯野 睦
  【再演演出】澤田康子
  【舞台監督】村田健輔


【ダーラント】妻屋秀和
  【ゼンタ】田崎尚美
  【エリック】城 宏憲
  【マリー】山下牧子 ⇒ 当日変更 歌唱:金子美香 演技:澤田康子(再演演出)
  【舵手】鈴木 准
  【オランダ人】河野鉄平

  【合唱指揮】三澤洋史
  【合 唱】新国立劇場合唱団
  【管弦楽】東京交響楽団

最後に予習について、まとめておきます。

  クリスティアン・ティーレマン指揮バイロイト祝祭管弦楽団・合唱団 演出: ヤン・フィリップ・グローガー 2013年7月25日、バイロイト祝祭劇場 NHK BS録画
    美術:クリストフ・ヘッツァー
    衣装:カリン・ユド
    照明:ウルス・シェーネバウム
    ダーラント:フランツ・ヨーゼフ・ゼーリヒ
    ゼンタ:リカルダ・メルベト
    マリー:クリスタ・マイア
    オランダ人:ヨン・サミュエル
    エリック:トミスラフ・ムジェク
    舵取り:ベンジャミン・ブランズ

ティーレマンが主導した音楽は最高。最後は涙が出るほど感動しました。メルベトのゼンタが大熱演。一方、演出は妙でカーテンコールではブーイングが出ていました。



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オペラ版ラブコメでほっこり《愛の妙薬》@新国立劇場 2022.2.9

先週に続いて、また、新国立劇場オペラを鑑賞。冒頭、デスピノーサ指揮の東響の素晴らしい演奏にうっとり。この手の作品はブンチャカという楽隊のような演奏になりがちですが、東響の弦は格調高い美しい響き、木管も繊細で見事な演奏を聴かせてくれます。幕が開くと、カラフルで明るいステージで実にお洒落です。次々とドニゼッティらしい旋律のアリア、重唱、合唱が続き、楽しいこと、この上なし。とりわけ、ネモリーノ役の中井亮一の明るい歌声に感心しきりです。第1幕の最初の曲「なんと彼女は美しい」Quanto è bella でいきなり、その魅力にはまりました。続くアディーナとの2重唱もとても美しい歌唱です。アディーナ役の砂川涼子もチャーミングな歌唱で魅了してくれますが、予習で聴いたネトレプコの破格の歌唱が耳に残っていて、物足りなさを感じたことも事実です。本当は砂川涼子のような透明でコケティッシュな歌い方がアディーナにはぴったりなんでしょうけど、ある意味、ネトレプコの奔放な毒に耳が侵されてしまいました。それでも、
2人の美しい歌唱でラブコメタッチのオペラを満喫します。
第2幕の終盤、超有名なアリア、「人知れぬ涙」Una furtiva lagrimaはさらっとした歌唱でそれはそれでいいのですが、物足りなさは残ります。まあ、これはパヴァロッティ以外では満足するのは難しいですね。1993年5月に東京文化会館で聴いたパヴァロッティの最高の歌唱が忘れられません。それはさておき、終盤のネモリーノとアディーナの恋の成就のシーンの砂川涼子と中井亮一の愛を語る歌に心を打たれます。素晴らしい歌唱でした。ドゥルカマーラ役の久保田真澄が中心になったフィナーレも見事な盛り上がり。これぞ、ハッピーエンドという大団円にいたく満足しました。

先週の《さまよえるオランダ人》に続いて、ガエタノ・デスピノーサと東京交響楽団のコンビが今日の本当の主役。今日も快調な演奏でした。これなら、東響のコンサートにもデスピノーサがご登場願ってもいいかもしれませんね。


今日のキャストは以下です。

  ガエターノ・ドニゼッティGaetano Donizetti 愛の妙薬L'elisir d'amore

【指 揮】ガエタノ・デスピノーサ
  【演 出】チェーザレ・リエヴィ
  【美 術】ルイジ・ペーレゴ
  【衣 裳】マリーナ・ルクサルド
  【照 明】立田雄士


【アディーナ】砂川涼子
  【ネモリーノ】中井亮一
  【ベルコーレ】大西宇宙
  【ドゥルカマーラ】久保田真澄
  【ジャンネッタ】九嶋香奈枝

  【合唱指揮】三澤洋史
  【合 唱】新国立劇場合唱団
  【管弦楽】東京交響楽団

最後に予習について、まとめておきます。

  マウリツィオ・ベニーニ指揮メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団 演出: バートレット・シャー 2012年10月13日、メトロポリタン歌劇場 WOWOW録画
    アディーナ:アンナ・ネトレプコ,ネモリーノ:マシュー・ポレンザー二,ベルコーレ:マリウシュ・クヴィエチェン,ドゥルカマーラ:アンプロー・マエストリ

すべての歌手が素晴らしい歌唱を聴かせてくれましたが、何と言ってもネトレプコが異次元のアディーナを聴かせてくれました。これまでのこぶりのアディーナの印象を打ち破る新たなアディーナ像を確立しましたね。久々に聴いたネトプレコはやっぱり、凄かった。2005年4月のウィーン国立歌劇場でのビリャソンとの共演も聴いてみましょう。



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金川真弓の弾くバーバーはよく響く! そして、尾高忠明の圧巻のエニグマ NHK交響楽団@サントリーホール 2022.2.16

パーヴォ・ヤルヴィの退任記念コンサート、そして、久し振りのヒラリー・ハーンのヴァイオリンを聴ける筈でした。すべて、オミクロン株でおじゃん。しかし、正直、あまり期待しなかったコンサートでしたが、金川真弓の素晴らしく響くヴァイオリン、イギリス音楽のスペシャリストの尾高忠明の指揮するエルガーのエニグマ変奏曲の圧巻の演奏にいたく満足しました。さすが、日本人演奏家のレベル向上が今日も実感できました。

まず、ヴァイオリンの金川真弓ですが、そう言えば、昨年6月に素晴らしいメシアンの《世の終わりのための四重奏曲》を聴かせてもらったんでした。終曲の《イエスの不滅性への賛歌》でのヴァイオリンの美しい響きは尋常ではありませんでした。今日はまったく違ったタイプのバーバーの作品ですが、またしてもヴァイオリンの響きの美しさに驚愕しました。使用楽器は「ピエトロ・ダ・マントヴァ」とも呼ばれるピエトロ・ジョヴァンニ・グァルネリの制作したヴァイオリン。ピエトロ・グァルネリは有名なグァルネリ・デル・ジェズのおじさんですね。ストラディバリウスに並び立つヴァイオリンです。バーバーのヴァイオリン協奏曲はとりわけ、第2楽章のロマンティックなメロディーが魅力ですが、金川真弓はあますところなく、その音楽の魅力を歌い上げます。彼女は今はベルリン在住ですが、子供のころはジュリアード音楽院やロサンジェルスで音楽を学んでいたそうですから、バーバーの音楽にも親密さを感じているんでしょう。それにしても、ヒラリー・ハーンの代役に決まってから、そんなに日がなかった筈ですが、ここまで完璧にバーバーのヴァイオリン協奏曲を磨き上げてきたとは凄い。第1楽章、第2楽章のロマンティックな抒情を美しく歌い上げただでなく、無窮動的な第3楽章も完璧に弾きました。メシアンとかバーバーという、ある意味、ニッチな作品で素晴らしい演奏を聴かせてもらいましたが、今後は注目して聴くべきヴァイオリニストの一人です。若手は才能がひしめいていますが、その中でも筆頭株です。次は王道の作品を聴かせてもらいましょう。

後半はエルガーの変奏曲「謎」(エニグマ変奏曲)です。これは全曲通して聴くのは初めてです。第9変奏のニムロッドはよくコンサートのアンコールで演奏されるので、そのたびに全曲聴いてみたいなと思っていました。
冒頭、主題、いわゆるエニグマが提示されます。この演奏が素晴らしく、古風で優雅、格調高い音楽になっています。そのままの雰囲気で第1変奏に続きます。いやはや、何と言う趣味の良い演奏でしょう。失礼ながら、パーヴォ・ヤルヴィはこの品格は表せなかったでしょう。もちろん、第9変奏のニムロッドも素晴らしく、高潮します。まるでここでこの音楽が終わってもおかしくないほどです。ところでこのニムロッドはイギリスでは戦没者を追悼するときによく演奏されるのだそうです。米国におけるバーバーの『弦楽のためのアダージョ』みたいな扱いですね。終曲では力強く盛り上がって圧巻のフィナーレでした。尾高忠明、凄し!


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:尾高忠明
  ヴァイオリン:金川真弓
  管弦楽:NHK交響楽団 コンサートマスター:白井圭

  ブリテン:歌劇「ピーター・グライムズ」- 4つの海の間奏曲 Op.33a
  バーバー:ヴァイオリン協奏曲 Op.14
   《アンコール》アメリカ民謡:深い河(ヴァイオリン・ソロ:金川真弓

   《休憩》

  エルガー:変奏曲「謎」(エニグマ変奏曲)Op.36


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のブリテンの歌劇「ピーター・グライムズ」- 4つの海の間奏曲を予習したCDは以下です。

  レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニック 1973年3月8日 ニューヨーク、30丁目スタジオ セッション録音

バーンスタインが好んで演奏した曲、生前、最後の演奏会でも演奏しました。これはそれに先立つ20年ほど前の演奏です。美しく、熱い演奏です。


2曲目のバーバーのヴァイオリン協奏曲を予習したCDは以下です。

  ヒラリー・ハーン、ヒュー・ウルフ指揮セント・ポール室内管弦楽団 1999年9月27、29日 オードウェイ・センター・パフォーミング・アーツ、セント・ポール セッション録音

17歳でCDデビューしたヒラリー・ハーンの3枚目のアルバム。若干20歳のときの録音は同じカーティス音楽院の先輩であったバーバーの作品を取り上げました。溌剌として、とても美しい演奏です。


3曲目のエルガーの変奏曲「謎」を予習したCDは以下です。

  サー・ネヴィル・マリナー指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1977年6月 アムステルダム、コンセルトヘボウ セッション録音

マリナーが手兵でないロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団を指揮したものですが、オーケストラの実力を十分に発揮させて素晴らしい響きを引き出しています。この曲のベストとも思える演奏です。



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       金川真弓,  

ヴァイグレ、盤石のシューマン 上野通明の安定した美しさが光るドヴォルザーク 読売日本交響楽団@東京芸術劇場 2022.2.19

前半は初聴きの上野通明のチェロがとても素晴らしく、聴きなれたドヴォルザークのチェロ協奏曲を気持ちよく聴けました。こんなにポピュラーな曲はCDや実演でも素晴らしい演奏が耳に残っているので、なかなか満足できる演奏には出会えませんが、今日は本当に満足しました。何と言っても、上野通明のチェロはどの音域でも美しく響き、この上ない音楽を醸し出してくれました。適度に熱い音楽を表現し、それでいて、ドヴォルザークの音楽を逸脱することはありません。この若いチェリストは既に熟成した自分の音楽を確立しているようです。その上野通明のチェロをサポートしつつ、雄大な音楽を聴かせてくれたのはヴァイグレが指揮する読響の素晴らしい響きです。弦楽セクションは申し分ありませんせんし、チェロと絡み合う木管の素晴らしいこと。終始、安定した音楽でこの有名な音楽を楽しませてくれました。

後半はシューマンの交響曲第3番。ヴァイグレの盤石な指揮のもと、読響はその持ち前の明るい響きでシューマンの名曲を満喫させてくれます。第1楽章は勢いのある華やかな表現でライン川の堂々たる流れをロマンティックに歌い上げます。第2楽章も明るい響きで流麗な音楽を奏でていきます。第3楽章は一転して、静明な音楽がしみじみと響きます。第4楽章は荘厳な雰囲気を醸し出す素晴らしい響きで魅了してくれます。まざまざとケルン大聖堂の壮大な姿が目に浮かびます。これぞ、シューマンの素晴らしさ。天才的な音楽です。第5楽章はシューマンらしい祝典的な音楽が響き渡ります。シューマンがシューベルトの音楽の正統な後継者であることを実感させてくれるロマンティックな演奏でした。期待通りの素晴らしい演奏に満足しました。読響は今日も快調で素晴らしいアンサンブルで最高の演奏です。今月予定されていたエレクトラが聴けなかったことは何とも残念でした。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
  チェロ:上野通明
  管弦楽:読売日本交響楽団  コンサートマスター:林 悠介

  ロルツィング:歌劇「密猟者」序曲
  ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 Op.104
   《アンコール》バッハ:無伴奏チェロ組曲から

   《休憩》

  シューマン:交響曲第3番 変ホ長調 Op.97「ライン」


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のロルツィングの歌劇「密猟者」序曲は以下のCDを聴きました。

  アルフレート・ヴァルタ指揮スロヴァキア放送交響楽団 1988年3月27-31日、チェコスロヴァキア・ラジオ・コンサートホール、ブラティスラヴァ、スロヴァキア セッション録音

ほとんどCDがなくて、これしかありませんでした。しかし、なかなか、しっかりした演奏で録音もよし。


2曲目のドヴォルザークのチェロ協奏曲は以下のCDを聴きました。

 ジャクリーヌ・デュプレ、セルジュ・チェリビダッケ指揮スウェーデン放送交響楽団 1967年11月 ライヴ録音
 
いやはや、さすがにチェリビダッケは協奏曲といえども手抜きなし。実に見事な演奏を聴かせてくれます。チェロの独奏など眼中になしと言った態です。オーケストラの演奏だけでも聴きものです。それに対し、当時、22歳だったジャクリーヌ・デュプレは突っ込んだ熱い演奏を聴かせます。これはこれで聴きもの。彼女はこの4年後に多発性硬化症を発症します。あまりにも短い音楽人生でした。なお、この前年に彼女はバレンボイムと結婚。


3曲目のシューマンの交響曲第3番は以下のCDを聴きました。

 ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 1960年10月21日 セヴェランス・ホール、クリーヴランド セッション録音
 
これは素晴らしい名演です。どうして今まで聴かなかったのか、反省しています。このところ、セルの名演の数々にはまっていて、どうして、実演を聴かなかったのかが悔やまれます。代わりと言っては何ですが、106枚のCDを集成したジョージ・セル/ザ・コンプリート・アルバム・コレクションを今月、購入し、今回、その中の1枚を初めて聴き、いたく感銘を受けました。さて、全部、聴き通せるかな・・・。



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モーツァルト:第一戒律の責務、戴冠ミサ曲 バッハ・コレギウム・ジャパン@東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル 2022.2.20

モーツァルトの第一戒律の責務は初めて、その存在を知りました。モーツァルト11歳のときの作曲で、こういう長大な作品は初めて書いたそうです。もちろん、父レオポルドの関与があったのでしょう。それにしてもモーツァルト少年の天才ぶりを実感する作品です。とても珍しくて貴重なものを鑑賞できた喜びで気持ちが高揚しました。
この作品は宗教的ジングシュピールともオラトリオとも呼ばれていますが、オペラと言えばオペラです。内容は怠惰なキリスト信徒が様々な体験を通し、真の信仰に目覚めて行くという単純なストーリーです。ザルツブルグ音楽祭の定番であるドイツ劇《イェーダーマン》を思い起こしました。
今日の演奏ですが、キリスト信徒の霊を歌った櫻田 亮の見事な歌唱が全体を引き締めていました。しかし、それ以上に感銘を受けたのは、世俗の霊を歌った中江 早希です。彼女はこういう悪役を歌わせると、そのあまりの素晴らしさに悪役であることを忘れて魅了されます。とりわけ、第4曲のアリア「創造主がこの命を」(Hat der Schöpfer dieses Lebens)で楽天的な生を謳歌しましたが、付点のある音楽の軽やかで流れるような歌唱が素晴らしく、その歌唱に酔い痴れてしまいました。全曲中、最高でした。無論、バッハ・コレギウム・ジャパンの管弦楽が終始、美しく響いていたのもいつものことで、この音楽に華を添えます。一点だけ、苦言を述べるとすると、中江 早希以外のソプラノのレシタティーボの音程が不安定だったことです。当初歌う筈だった松井亜希の急遽の降板が原因だったかもしれませんが、ちょっと残念でした。モーツァルトのレシタティーボって、結構、難しいんですね。

長大な第一戒律の責務を飽きることなく聴き終えた後、休憩をはさんで、次はモーツァルトの名曲、戴冠ミサ曲です。実はこれも初聴きでしたが、初めて聴いたとは思えないほど、しっくりと心に沁みました。バッハ・コレギウム・ジャパンの強力な合唱が加わると、音楽のレベルが跳ね上がります。独唱の4人も見事な歌唱。これ以上はない演奏でした。終曲の「アニュス・デイ」での中江 早希のソプラノ・ソロが少し抑えめの歌唱でしたが、素晴らしい声を聴かせてくれました。オペラ「フィガロの結婚」の第3幕の伯爵夫人のアリア「楽しい思い出はどこに」とよく似た旋律ですが、全然、違った雰囲気での歌唱に感心しました。最後は圧巻のフィナーレの盛り上がりに深く感銘を覚えました。

今日もバッハ・コレギウム・ジャパンは素晴らしい音楽を聴かせてくれました。バッハが基軸のことは間違いありませんが、モーツァルトの宗教曲でも最高の演奏を聴かせてくれます。定期演奏会が年間6回とはいかにも少な過ぎると感じます。もっとたくさん聴きたいと欲が出ます。まあ、マタイ受難曲が毎年聴けるのだけは満足ですが・・・。


今日のプログラムは以下です。


  指揮:鈴木優人
  ソプラノ:中江 早希 (K.317, K.35) 澤江衣里(K.35) 望月万里亜(K.35)
  アルト:青木 洋也 (K.317)
  テノール:櫻田 亮 (K.317, K.35) 谷口洋介 (K.35)
  バス:加耒 徹 (K.317)
  合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン


  モーツァルト:第一戒律の責務 K.35

   《休憩》

  モーツァルト:戴冠ミサ曲 K.317


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のモーツァルトの第一戒律の責務を予習したCDは以下です。

 サー・ネヴィル・マリナー指揮シュトゥットガルト放送交響楽団、南ドイツ放送合唱団 1988年 セッション録音
  慈愛:マーガレット・マーシャル(ソプラノ)
  正義:アン・マレー(メッゾ・ソプラノ)
  世俗の霊:インガ・ニールセン(ソプラノ)
  キリスト信徒の霊:ハンス・ペーター・ブロッホヴィッツ(テノール)
  キリスト信徒:アルド・バルディン(テノール)

アン・マレーの歌唱が際立ちました。歌手の出来にばらつきはありますが、全体的によい演奏です。


2曲目のモーツァルトの戴冠ミサ曲を予習したCDは以下です。

 トレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンサート 1993年 セッション録音
  バーバラ・ボニー、キャスリン・ウィン・ロジャーズ、ジェイミー・マクドゥグル、スティーヴン・ガッド

バーバラ・ボニーのアニュス・デイの素晴らしさに聴き惚れました。全体にしっかりした演奏です。



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辻彩奈の瑞々しい響きで奏でるフォーレのロマンの世界@浜離宮朝日ホール 2022.2.23

久し振りに辻彩奈のヴァイオリンを聴きました。今日もフランスものを弾く辻彩奈の素晴らしさに魅了されました。とりわけ、フォーレの見事な演奏にうっとりして聴き入りました。
冒頭はモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ第40番。第1楽章はスケールの大きな序奏に続き、快調なテンポでの爽やかな音楽が響きます。第2楽章は抒情味のある演奏です。第3楽章は聴き応えのあるアレグレット。深みのあるモーツァルトの演奏でした。
この日、最高だったのはフォーレのヴァイオリン・ソナタ第1番。優美なフォーレのロマンを見事に歌い上げました。永遠に続いていくような息の長い旋律の歌いまわしの見事さに惹き込まれます。それに正確無比な音程のよさもフォーレの音楽の幽玄さを引き出してくれます。音楽的な感銘を受けているうちに長い第1楽章が終わります。素晴らしかったのは次の第2楽章。エスプリとロマンにあふれた美しい音楽に魅惑されます。ピアノの福間洸太朗の美しいタッチの響きも相俟って、最高の音楽が響き渡ります。終始、うっとりと聴き入りました。第3楽章、第4楽章も完璧に思える演奏。フォーレの名曲を満喫しました。ちょうど、今読んでいるのがマルセル・プルーストの《失われた時を求めて》ですが、実に雰囲気が合います。プルーストは音楽の造詣が深く、若い頃からフォーレの音楽を熱愛していたそうです。フォーレのヴァイオリン・ソナタ第1番は《失われた時を求めて》に登場する架空の「ヴァントゥイユのソナタ」のモデルとみなす研究家も多いようです。もっともサン・サーンスのソナタという説もあります。いずれにせよ、プルーストもフォーレもフランスの近代芸術の精華です。

後半は権代敦彦のポスト・フェストゥムで始まります。辻彩奈の委嘱作品だけあって、見事なソロ演奏でした。続くラヴェルのヴァイオリン・ソナタ第2番はsaraiの集中力不足で、演奏のよさが実感できませんでした。最後のサラサーテのツィゴイネルワイゼンは完璧とも思える演奏。ヴァイオリンの響きも美しさの限りを尽くしていました。アンコールはフォーレの《夢の後に》。これは何とも凄まじく美しい演奏でした。今日はフォーレの素晴らしい音楽を堪能できたコンサートで満足、満足!


今日のプログラムは以下です。

 辻 彩奈 ヴァイオリン・リサイタル

  ヴァイオリン:辻彩奈
  ピアノ:福間洸太朗

  モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第40番 変ロ長調 K.454
  フォーレ:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ長調 Op.13

   《休憩》

  権代敦彦:ポスト・フェストゥム~ソロ・ヴァイオリンのための(辻彩奈 委嘱作品)
  ラヴェル:ヴァイオリン・ソナタ第2番 ト長調 M.77
  サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン Op.20
   《アンコール》
     フォーレ:「3つの歌 Op.7」第1曲 夢の後に

最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ第40番は以下のCDを聴きました。

 アンネ・ゾフィー・ムター、ランバート・オーキス 2006年2月、ミュンヘン セッション録音
 
ムターのモーツァルト、協奏曲と同様に聴き応えがあります。印象的にミスマッチに思えますが、これがすごくいいんです。


2曲目のフォーレのヴァイオリン・ソナタ第1番は以下のCDを聴きました。

 アンネ=ゾフィー・ムター、ランバート・オーキス 2002年1月 セッション録音
 
何故か、フランスものまでムターの演奏を聴いてしまいます。決して、ムターのファンではないのですが、その演奏に納得してしまいます。いつか、実演を聴いてみたいですね。


3曲目の権代敦彦のポスト・フェストゥムはCDが見つからないので、予習せず。


4曲目のラヴェルのヴァイオリン・ソナタ第2番は以下のCDを聴きました。

 アリーナ・イブラギモヴァ、セドリク・ティベルギアン 2010年11月26-28日 ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール セッション録音

イブラギモヴァのヴァイオリンもこのところ、注目しています。期待に違わぬ素晴らしい演奏です。


5曲目のサラサーテのツィゴイネルワイゼンは以下のCDを聴きました。

 ミッシャ・エルマン、ジョゼフ・シーガー 1959年10月 ニューヨーク、マンハッタン・タワー セッション録音

ツィゴイネルワイゼンは子供の頃、よく聴いていました。そのときのレコードがこれ。エルマン・トーンと呼ばれる美しい響きのヴァイオリンです。今聴いても素晴らしい音色の名録音です。



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       辻彩奈,  

聴き応えのあるベートーヴェン・チクルス第2回 カルテット・アマービレ@王子ホール 2022.2.26

王子ホールで進行中のカルテット・アマービレのベートーヴェン弦楽四重奏曲チクルスの第2回です。第1回は聴き逃がしましたが、今後は聴き逃がせませんね。次回は来年の1月31日。ラズモフスキー第3番のようです。

さて、今日のコンサート。まずはみなさん、白いドレスで登場。その華やかさにはっとします。後半は黒のドレスに着替えて登場。ヴィジュアルさは音楽には関係ありませんが、美しいのは罪ではありません。
冒頭は1曲目のベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第1番。作品18の1です。今回のチクルスでは、作品18の6曲を作曲順に弾いていくようです。前回は最初に作曲された第3番、作品18の3でした。次回は第2番、作品18の2を弾くようです。
第1楽章を弾き始めると、何かパーッと香気が立ち上るような雰囲気でぐっと惹き込まれます。ベートーヴェンが2番目に作曲した曲ですが、とてもそうは思えない完成度の高さでsaraiもとっても好きな曲です。素晴らしいアンサンブルの中、第1ヴァイオリンの篠原悠那の美しい響きが光ります。第2楽章は哀感に包まれた抒情的な音楽がカルテット・アマービレの美しい響きで際立ちます。第3楽章、第4楽章は軽快に気持ちよく音楽が流れます。最上級の演奏でした。

次はベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第10番。《ハープ》という別名で知られているベートーヴェン中期後半の曲です。驚くほど、先ほどの第1番と構成が似ています。しかし、後期の四重奏曲にさしかかる雰囲気で実に熟達した作風の傑作ですね。カルテット・アマービレの演奏はよかったのですが、もっと弾けたのではないかという思いも残りました。再来年以降に予想される後期の四重奏曲では、是非、深みのある演奏に上り詰めてほしいものです。

休憩後、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第8番「ラズモフスキー第2番」。これは何とも素晴らしい演奏でした。ラズモフスキー3曲の中では最も内面的な充実が感じられる作品ですが、それが素晴らしい形で表現された演奏でした。第1楽章の何か秘められたものがあるような演奏は、恋愛小説を読んでいるような気持ちが湧き起ります。実に音楽的な充実が感じられます。第2楽章の美しさには深い感銘を覚えます。カルテット・アマービレの4人の充実した演奏が最高の形で結実しています。ただただ、魅了されるのみです。第3楽章のアレグレットも充実したアンサンブルの美しい演奏。第4楽章は切れのよい演奏で最後は見事に高潮してフィナーレ。うーん、今日、最高の演奏でした。

カルテット・アマービレは聴くたびに彼らの音楽に魅了され、彼らの成長が楽しみで、そして、それ以上に若々しい音楽の精華に共感します。すっかり、彼らの音楽にはまってしまいました。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  弦楽四重奏:カルテット・アマービレ
         篠原悠那(第1ヴァイオリン)
         北田千尋(第2ヴァイオリン)
         中 恵菜(ヴィオラ)
         笹沼 樹(チェロ)


  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第1番 ヘ長調 Op.18-1
  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第10番 変ホ長調 Op.74

   《休憩》

  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第8番 ホ短調 Op.59-2 「ラズモフスキー第2番」


   《アンコール》
     ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第2番 ヘ長調 Op.18-2 から 第3楽章 Scherzo. Allegro


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第1番を予習したCDは以下です。

  リンゼイ弦楽四重奏団 1979年 ウェントワース、ホーリー・トリニティ教会 セッション録音

リンゼイ弦楽四重奏団のベートーヴェン弦楽四重奏曲全集の旧盤です。新盤よりもしっくりくる演奏です。


2曲目のベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第10番を予習したCDは以下です。

  リンゼイ弦楽四重奏団 1982年 ウェントワース、ホーリー・トリニティ教会 セッション録音

リンゼイ弦楽四重奏団のベートーヴェン弦楽四重奏曲全集の旧盤です。これも新盤よりもしっくりくる演奏です。


3曲目のベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第8番「ラズモフスキー第2番」を予習したCDは以下です。

  リンゼイ弦楽四重奏団 2001年11月21-22日 ウェントワース、ホーリー・トリニティ教会 セッション録音

リンゼイ弦楽四重奏団のベートーヴェン弦楽四重奏曲全集の新盤です。深い内容に満ちた素晴らしい演奏です。



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       カルテット・アマービレ,  

魂を燃え尽くす上原彩子の究極のラフマニノフとチャイコフスキー 原田慶太楼&日本フィルハーモニー交響楽団@サントリーホール 2022.2.27

天才、上原彩子の比類ない演奏を聴いて、彼女は天才ではなく、超天才であると確信しました。努力だけでは達することのできない領域に足を踏み入れています。

今日は上原彩子のデビュー20周年の記念コンサート。ずっと彼女の応援をしてきた(物理的な意味ではなく精神的にね)saraiも感慨深いものがあります。初めて上原彩子の演奏を聴いたのが、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番。日本人でこんなにラフマニノフが弾けるのかと驚愕して、ほぼ15年聴いてきました。彼女の成長も挫折も聴いてきました。彼女は今、安定して飛躍のときを迎えています。さあ、今日はどんな演奏を聴かせてくれるでしょうか。

冒頭は上原彩子の演奏に先立って、オーケストラの指慣らし。指揮者の原田慶太楼が指揮台に駆け上がり、拍手の静まるのも待たずにグリンカの歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲の演奏を始めます。これが凄い演奏。失礼ながら、これが日本フィルとはにわかに信じがたい鉄壁のアンサンブル。そして、原田慶太楼の指揮が凄い。圧倒的な演奏に口あんぐり状態でした。よほど、入念にリハーサルを重ねたんでしょうね。

さて、いよいよ、今日の主役、上原彩子が登場し、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。上原彩子の弾くラフマニノフのピアノ協奏曲第3番は何度か聴いて、その素晴らしさに感動しました。そして、いずれの日か、きっと、《パガニーニの主題による狂詩曲》やピアノ協奏曲第2番を聴かせてもらいたいと願っていました。《パガニーニの主題による狂詩曲》は昨年、ようやく聴かせてもらいました。最高の演奏でした。そして、今日、遂にピアノ協奏曲第2番です。そもそも、上原彩子はラフマニノフのスペシャリストと言ってもいいほど、協奏曲も独奏曲も素晴らしい演奏を聴かせてくれます。その根幹は熱い魂の燃焼です。ラフマニノフの何たるかのかなりの部分は彼女の演奏で教えられました。以前は特に独奏曲はどこがよいのか分からずにsaraiにとっては苦手だったんです。今やラフマニノフはsaraiの大好物です。
ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番はsaraiが高校生あたりで親しんでいた曲。映画音楽として、特に第3楽章を好んでいました。それ以降は第2番を聴くことは稀になり、もっぱら、第3番を聴いていました。何故か、ピアノの名手たちの録音も第3番に集中しています。今日の演奏を聴いて、第2番の素晴らしさをまた、上原彩子に教えられました。親しみやすいパートの盛り上がりだけでなく、難解そうなパートもすべて、超絶的なテクニックと音楽を超えた魂の燃焼で圧倒的にsaraiの心に迫ってきます。ピアノの分散和音に乗って、オーケストラが抒情的なメロディーを演奏し、興を高めた後にピアノがそのメロディーを引き継ぐところの素晴らしい雰囲気、そして、ピアノとオーケストラが真っ向からぶつかり合う圧倒的な高まり、ピアノが素早い動きのパッセージで官能的な音楽を演出する見事さ、挙げていけばきりのない様々なパートでの上原彩子の傑出したピアノ演奏に感動するのみでした。そして、その超絶的なピアノ演奏をサポートする原田慶太楼の丁寧極まりないオーケストラコントロールにも脱帽です。第3楽章の終盤のピアノとオーケストラの盛り上がりは身震いするほどの凄まじさでした。あらゆる意味で究極のラフマニノフでした。もっと言えば、ラフマニノフの音楽を土台にした上原彩子の魂の声に指揮者もオーケストラもそして、もちろん、聴衆も共鳴して、コンサートホールはひとつの有機生命体に融合した思いに駆られました。saraiはこんな音楽が聴きたかったんだと今更ながら、実感しました。音楽は耳で聴くのではなく、心の深いところで感じるものです。そして、孤独な魂が思いをひとつにして、心と心がつがって、あらゆる閾を取り払って、すべてを共有すること。saraiが理想とする音楽がここに実現した思いです。少し感傷的になり過ぎましたが、そう思わせるような上原彩子のメッセージを受け取りました。

次のチャイコフスキーのピアノ協奏曲も冒頭からスケールの大きな音楽を上原彩子は発します。ラフマニノフ以上に隅々まで熟知した音楽ですが、上原彩子のチャイコフスキーはやはり、熱く燃え上がります。音楽自体よりも魂の燃焼を感じる気配です。昨年、小林研一郎80歳(傘寿)記念&チャイコフスキー生誕180周年記念チャイコフスキー交響曲全曲チクルスで上原彩子の演奏を聴いたばかりで、あのときの演奏も凄かったのですが、今日はもっとバランスのよい演奏に思えます。暴走せずに節度のある魂の燃焼という風情です。それに自在にピアノを弾きまくる上原彩子を原田慶太楼が巧みに支えつつ、さらにエネルギーを付加していくという離れ業をやってのけています。フィナーレではとてつもないエネルギーの爆発という形で圧巻の音楽が完結しました。いやはや、ラフマニノフとチャイコフスキーの凄い演奏の2連発。上原彩子も疲れたでしょうが、聴く側も体力を使い果たしました。ぼーっとしている時間は1秒たりもありませんでしたからね。

アンコールはコバケンのときと同じ曲、チャイコフスキーの「瞑想曲」です。美しい演奏に疲れた心が癒されました。

今年はまだ2月ですが、これが今年最高のコンサートになることは決まったも同然です。というか、saraiの人生でもここまで素晴らしいコンサートは何回聴いたでしょう。一生、心に残るコンサートです。


今日のプログラムは以下です。


 上原彩子デビュー20周年 2大協奏曲を弾く!

  指揮:原田慶太楼
  ピアノ:上原彩子
  管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団 コンサートマスター:田野倉 雅秋

  グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
  ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 Op.18

   《休憩》

  チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 Op.23

   《アンコール》チャイコフスキー:『18の小品』より「瞑想曲」Op.72-5 ニ長調


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のグリンカの歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲を予習したCDは以下です。

 エウゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル 1965年2月23日 ライヴ録音

この曲だけは、ムラヴィンスキーとレニングラード・フィルのコンビで聴くしかないですね。完璧とはこのためにある言葉かと思ってしまいます。


2曲目のラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を予習したCDは以下です。

 スヴャトスラフ・リヒテル、スタニスラフ・ヴィスロツキ指揮ワルシャワ・フィル 1959年 セッション録音

リヒテルの剛腕、あるいは爆演が聴けるかと思っていたら、意外に冷静な演奏で素晴らしいラフマニノフを聴かせてくれます。


3曲目のチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を予習したCDは以下です。

 マルタ・アルゲリッチ、クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィル 1994年12月8-10日 ベルリン、フィルハーモニー ライヴ録音

チャイコフスキーを得意にするアルゲリッチの真打ちとも言える演奏です。やはり、ライヴの緊張感がいいですね。



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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

       上原彩子,  

モーツァルト青春のシンフォニーと天国的なグラスハープの世界:モーツァルト・マチネ 第48回@ミューザ川崎シンフォニーホール 2022.3.6

まず、映画の《アマデウス》でもお馴染みの交響曲第25番と第29番。東響の少人数に絞り込まれた弦楽アンサンブルの素晴らしい響きがホールにこだまします。第25番はシュトルム・ウント・ドランクの影響を受けている作品と解説されていますが、なんのなんの、とりわけ、第1楽章はヴィヴァルディを思わせるイタリアの澄み切った音楽そのものではないですか。イタリアに旅したモーツァルトが体得したイタリアの響きを自分の音楽として展開したものです。指揮の井上道義は独自の解釈で素晴らしい音楽を聴かせてくれます。速いテンポで引き締まった音楽を一糸乱れぬアンサンブルで演奏していきます。時折、荒木奏美のオーボエ独奏がのどかで哀愁のある響きを聴かせてくれます。17歳のモーツァルトの青春の光り輝く天才ぶりを存分に味わわせてくれました。第2楽章は一転して、天国的な音楽にうっとりします。ここでも弦楽のアンサンブルが美しい響きを聴かせてくれます。第3楽章と第4楽章はまた速いテンポで心地よい音楽が歌い上げられます。
第29番も同様に弦楽の素晴らしい響きで美しい音楽が奏でられます。第25番以上に素晴らしい演奏に心躍ります。井上道義の指揮がぴたっとはまった感じです。期待以上の素晴らしいモーツァルトの音楽に大満足でした。

2つの交響曲にはさまれて、珍しい室内楽、《グラスハーモニカのためのアダージョとロンド》が演奏されました。グラスハープ、フルート、オーボエ、ヴィオラ、チェロの構成の五重奏曲です。原曲はグラスハーモニカですが、今日はグラスハープで演奏されます。saraiにはほとんど、その響きの違いが分かりません。発音原理は同じなので極めて似た響きです。この曲は初めて聴きますが、晩年のモーツァルトとは思えないような透明感に満ちた美しい作品です。グラスハープの奏でる音楽はおぼろげな響きが魅惑的で幻想的に感じます。一方、フルートとオーボエの明快な音楽は天国的にも思える響きで魅了されます。若い頃のモーツァルトの響きを感じさせます。相澤政宏のフルートと荒木奏美のオーボエの美しい響きが見事です。音楽は終始、グラスハープとフルート、オーボエが協奏的に響き合い、ヴィオラとチェロが通奏低音的に支えるという構図で進行します。なんとも美しい音楽にうっとりするのいです。

モーツァルト・マチネならではの選曲のコンサートにこれ以上ない満足感を味わいました。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:井上道義
  グラスハープ:大橋エリ
  フルート:相澤政宏(東京交響楽団首席フルート奏者)
  オーボエ:荒木奏美(東京交響楽団首席オーボエ奏者)
  ヴィオラ:西村眞紀(東京交響楽団首席ヴィオラ奏者)
  チェロ:伊藤文嗣(東京交響楽団首席チェロ奏者)
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:廣岡克隆

  <オール・モーツァルト・プログラム>

  交響曲 第25番 ト短調 K.183(173dB)

  グラスハーモニカのためのアダージョとロンド ハ短調 K.617
  (グラスハープ:大橋エリ、フルート:相澤政宏、オーボエ:荒木奏美、ヴィオラ:西村眞紀、チェロ:伊藤文嗣)

  交響曲 第29番 イ長調 K.201(186a)

   休憩なし


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目、3曲目のモーツァルトの交響曲 第25番、第29番を予習したCDは以下です。

 ジェイムズ・レヴァイン指揮ウィーン・フィル 1985年6月 ウィーン セッション録音

第34番以前のモーツァルトの交響曲を聴くのは、このジェイムズ・レヴァインとウィーン・フィルのコンビの演奏が最高です。若きレヴァイン、と言ってももう42歳でしたが、彼の明るい感性と名門ウィーン・フィルの実力がマッチして、勢いにあふれた演奏が繰り広げられます。レヴァインは昨年の3月9日に亡くなりました。3日後が最初の命日です。


2曲目のグラスハーモニカのためのアダージョとロンドを予習したCDは以下です。

 ブルーノ・ホフマン(glass harp), オーレル・ニコレ(fl), ハインツ・ホリガー(ob), カール・ショウテン(va), ジャン・デクロース(vc) 1977年1月、アムステルダム セッション録音

名人たちの饗宴です。実に見事な演奏に聴き惚れます。



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諸井三郎、大いなる嗚咽と清廉なカタルシスの音楽を山田和樹&読売日本交響楽団が圧巻の演奏@サントリーホール 2021.3.8

諸井三郎、こんな凄い作曲家が日本にいたんですね。今まで知らなかった己を恥じるのみです。第2次世界大戦の末期という限界状況で書かれたことをまざまざと感じさせる凄い作品です。精神的な根っこの部分でバルトーク、それもあの傑作《弦と打とチェレスタのための音楽》を連想してしまいます。第1楽章の冒頭で弦楽セクションが同じ旋律を繰り返して演奏する部分の極度の緊張感はバルトークの名作と並び立ちます。それ以降は高い緊張感を保ちつつ、まるで、スクリャービンのごとき世界に変身していきます。それにしても、山田和樹のここまでの突っ込み方は初めて聴きました。読響の演奏も絶品です。透明感がありながら、和声の厚みもある素晴らしい演奏です。第1楽章は圧倒的な熱度の中、ありえないような高揚感に包まれて終わります。聴いているsaraiもぐったりするほどの音楽的な容量で、ここまでで全曲が終わってもおかしくないほどです。第2楽章も緊張感と熱度を維持しつつ、リズミカルな音楽が諧謔的に繰り広げられますが、いつしか、音楽は狂奔していきます。またしても異常な高潮感のうちに終わります。第3楽章は一転して、静かで瞑想的な祈りの音楽が始まりますが、やがて、熱く高揚していきます。読響の弦楽セクションが対位法的な展開の音楽を素晴らしいアンサンブルで聴かせてくれるあたりから、次第に清廉なカタルシスの音楽に変容していきます。いつしか、パイプオルガンの響きが圧倒的に響き渡ります。瞑想とカタルシスは一筋の希望への光なのか、絶望感の裏返しなのか、狂奔する精神の圧倒的な高まりの中、この巨大な音楽は完結します。不思議な感動が体の中を貫きます。決して日本的な音楽ではありませんが、日本人の魂の根幹に根ざすような何かを感じ、強い共感を覚えました。山田和樹の指揮、音楽解釈は特に第3楽章でその非凡な才能を発揮していたと思います。そして、全曲、読響はその実力の凄さを発揮して、見事な演奏を聴かせてくれました。

日本人作曲家の作品では、一昨年、小菅優と東響が素晴らしい演奏を聴かせてくれた矢代秋雄のピアノ協奏曲が最高と思っていましたが、この諸井三郎の交響曲第3番はそれを凌ぐ素晴らしい作品で、ショスタコーヴィチ、バルトーク、スクリャービンらの作品と並び立つ大傑作だと思えます。ただ、この日本的な感性が西欧人に理解されるかはよく分かりません・・・。

今日のコンサートの前半に触れませんでしたが、後半の凄い演奏を聴いた上で、あえて触れる必要はないでしょう。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:山田和樹
  ヴァイオリン:小林美樹
  管弦楽:読売日本交響楽団  コンサートマスター:長原 幸太

  ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
  コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35
   《アンコール》武満徹:めぐり逢い

   《休憩》

  諸井三郎:交響曲第3番


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のドビュッシーの牧神の午後への前奏曲は以下のCDを聴きました。

  フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮レ・シエクル 2018年1月 フィルハーモニー・ド・パリ セッション録音

ロトの才能が冴え渡る素晴らしい演奏。この耳慣れた名曲が新鮮に感じられます。


2曲目のコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲は以下のCDを聴きました。

 アンネ=ゾフィー・ムター、アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団 2003年10月 ロンドン セッション録音
 
ムターの妖艶とも思えるヴァイオリンが全編に渡って響き渡ります。こういうコルンゴルトを聴いてしまうともう、ほかの演奏は聴けません。予習にはいけなかったかもしれません。ムターの剥き出しの感性が心に迫ってきます。


3曲目の諸井三郎の交響曲第3番は以下のCDを聴きました。

 湯浅卓雄指揮アイルランド国立交響楽団 2002年9月 セッション録音
 
第1楽章と第2楽章は恐るべき精度と緊張感に満ちた演奏で心が震撼とさせられます。第3楽章は何故か、抑えた演奏で、もうひとつ、分かりにくい演奏です。



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ベートーヴェン、バルトーク、バエスのバガテル尽くし、おまけにクープラン 仙人の如き演奏に感銘 高橋悠治ピアノ・リサイタル"Bのバガテル"@浜離宮朝日ホール 2022.3.10

高橋悠治のピアノ、初めて聴きました。いつか聴きたいと思っていました。彼は何と言うか、ピアノの達人というか、それより、仙人と言ったほうがいいかもしれません。こういう人のピアノ演奏について語るのは何か野暮な気がします。ピアノは何故かベーゼンドルファー。Bösendorferの字が金色に輝いています。こういうベーゼンドルファーは初めて見ました。そのベーゼンドルファーから高橋悠治は美しい響きを取り出します。それでいて、あまりに響かせ過ぎずにまさに仙人のような演奏です。とても80歳を超えているとは思えない自在な演奏です。枯れるべきところは枯れて、それでいて、ちゃんと色気はあるという熟達した演奏。ベートーヴェンの最後のピアノ曲、6つのバガテルは美しくもあり、茶目っ気もあり、透徹したところもあるという演奏。技術的には、たどたどしいところもありますが、溜めの効いた演奏にもなっています。即興性も失っていないので、一期一会の演奏の風情もあります。ベートーヴェンを弾き終わったところで、マイクを手に取り、講義が始まります。言葉が聞き取りにくいのもどこか仙人の風情。
次はフィリピンの現代作曲家のジョナス・バエスの作品。演奏はあっけにとられるような素晴らしいものです。現代音楽の生きた化石と言ったら失礼かもしれませんが、彼の自在な演奏は完璧です。まあ、バロックから現代まで、歴戦の勇士である高橋悠治は無敵の感です。これはジョン・ケージやクセナキスの凄い演奏も聴いてみたくなります。
休憩後、最後はバルトークの14のバガテル。予習で聴いたコチシュは足元にも及ばないような熟成した演奏です。3曲弾いたところでマイクをとって解説するなどは普通はご法度でしょうが、まるで、大学で講義を聞いているような気になります。バルトークの追跡(パシュート)や夜の風情などを盛り込みながら、圧巻の演奏です。もちろん、この曲を実演で聴くのは初めてです。貴重な演奏でした。
アンコールはバガテルを初めて作曲したクープランのバガテル。2段鍵盤のクラブサンの曲なので、ピアノで弾くのは超難しそうですが、素晴らしいクープランでした。

うーん、凄い演奏を聴いてしまったかもしれません。また、彼の演奏を聴く機会はあるでしょうか。バッハのゴルトベルク変奏曲、聴きたいな・・・。


今日のプログラムは以下です。

  高橋悠治ピアノ・リサイタル
   "Bのバガテル"

  ピアノ:高橋悠治
 
  ベートーヴェン:6つのバガテル Op.126
  ジョナス・バエス:5つのバガテル

  《休憩》

  バルトーク:14のバガテル

  《アンコール》
   クープラン:クラヴサン組曲第2集より バガテル

最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のベートーヴェンの6つのバガテルを予習したCDは以下です。

 アンドラーシュ・シフ(フォルテピアノ) 2012年7月9-10日、ボン、ベートーヴェン・ハウス セッション録音
 アルフレッド・ブレンデル 1996年9月、ロンドン セッション録音

シフはベートーヴェン・ハウスのフォルテピアノ(1820年頃製造)を使用した演奏で、実に質素な響き。ベートーヴェンの時代にはこういう響きだったんですね。一方、ブレンデルは実に豊かな響きで美しい演奏です。


2曲目のジョナス・バエスの5つのバガテルはCDが見つからず、予習は断念。


3曲目のバルトークの14のバガテルを予習したCDは以下です。

 ゾルタン・コチシュ 1991年6月 セッション録音

コチシュのバルトークのピアノ作品集からの1枚です。美しい響きで安定した演奏です。まあ、本場ものですからね。本当はシフの演奏が聴きたいところです。



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中村恵理、ラヴェルへの挑戦はいかに 沼尻竜典&東京交響楽団@サントリーホール 2022.3.12

中村恵理、いつもの美声を聴かせてくれましたが、フランス歌曲はまだ、これからのようです。歌曲はどれもそうですが、その言語の持つニュアンスは発音も含めて、表現が難しいですね。特にフランス語は美しい発音が必須です。予習で聴いたヴェロニク・ジャンスの美しいフランス語が頭に残っていたので、残念ながら、中村恵理の歌唱には違和感を持ちました。まるでプッチーニのオペラを聴いている感じです。声の響きは素晴らしかっただけに残念というしかありません。来週は新国立劇場でオペラ《椿姫》のヴィオレッタを彼女の歌唱で聴くので、それに期待しましょう。

ラヴェルの「ダフニスとクロエ」は東響の美しいアンサンブルに聴き惚れました。沼尻竜典の熱い指揮もなかなかでした。とりわけ、終盤の盛り上がりには耳をそばだてました。ダッタン人の踊りみたいなところの迫力は圧巻でした。新国立劇場合唱団の合唱も相変わらず、見事でした。ラヴェルの代表作である「ダフニスとクロエ」、一昨年のロト指揮都響の凄い演奏には及ばないにしても、とても健闘した演奏に感銘を受けました。
冒頭のラヴェルの組曲「マ・メール・ロワ」も美しい演奏でしたね。ラヴェル尽くしのプログラム、意欲的でよかったです。

今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:沼尻竜典
  ソプラノ:中村恵理
  合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮:冨平恭平)
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:グレブ・ニキティン

  ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」
  ラヴェル:歌曲「シェエラザード」

  《休憩》

  ラヴェル:「ダフニスとクロエ」(全曲)


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のラヴェルの組曲「マ・メール・ロワ」を予習したCDは以下です。

  フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮レ・シエクル 2016年10月31日/フィルハーモニー・ド・パリ&11月2日/ロンドン、サウスバンク・センター&11月4日/シテ・ド・ラ・ミュジーク・ド・ソワソン ライヴ録音

このロトの録音は組曲版ではなく、バレエ音楽全曲です。今回、saraiが勝手に組曲版の構成に抜き出して、聴きました。流石にロトのラヴェルは素晴らしいです。第5曲の盛り上がりたるや、凄まじいものです。


2曲目のラヴェルの歌曲「シェエラザード」を予習したCDは以下です。

  ヴェロニク・ジャンス、ジョン・アクセルロッド指揮フランス国立ペイ・ドゥ・ラ・ロワール管弦楽団 2009年9月25日、2010年10月26-28日 ナント、ラ・シテ・サル2000  ライヴ録音

ヴェロニク・ジャンスのフランス語の発音の美しいこと、うっとりします。まるで語るような歌い方も見事です。ラヴェルの歌曲がこんなに美しいとは知りませんでした。それにしてもジャンスは素晴らしい。彼女のフランス歌曲にはまってしまいそうな予感がします。


3曲目のラヴェルの「ダフニスとクロエ」(全曲)を予習したCDは以下です。

  フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮レ・シエクル、アンサンブル・エデス 2016年 フィルハーモニー・ド・パリ、シテ・ド・ラ・ミュジーク・ド・ソワソン、コンピエーニュ帝国劇場、セナール劇場、アミアン・カルチャーセンター(以上、フランス)、ライスハレ(ハンブルク)、スネイプ・モルティングス・コンサートホール(オールドバラ) ライヴ録音

ロトの伝説的名演です。これを聴かずして、ラヴェルは語れません。



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       中村恵理,  

カルチャースクールのピアノでも、素晴らしかったイリーナ・メジューエワのショパン@朝日カルチャーセンター新宿 2022.3.14

フツーはカルチャースクールには行かないsaraiですが、1年以上もイリーナ・メジューエワの東京でのコンサートが聴けないのは寂しい・・・。これもコロナ禍のせいです。で、意を決して、カルチャースクールでのメジューエワのピアノを聴きに行きました。

1時間の講座です。前半は音楽評論家の下田 幸二さんによる今日のメジューエワの演奏する曲の実に詳細な解説。下田さんのピアノ演奏を交えた興味深いお話が聞けました。その後、いよいよ、メジューエワのピアノ演奏。45分だけのミニコンサートです。50人ほどの聴衆の聴く小さな部屋でYAMAHAの小ぶりなグランドピアノでの演奏です。いつもはフルコンサートピアノの演奏しか聴いていませんので、どんな音がするのかと思います。極論するとsaraiのオーディオルーム(防音室)にあるYAMAHAのグランドピアノと大差ない感じのピアノです。流石にメジューエワが弾くと凄い音が響きます。特に低音の迫力は凄いです。高音の煌めきだけは今一つでしょうか。もっともメジューエワのショパンを鑑賞するのには十分な音がします。最初のショパンのノクターン第1番の前半だけは少し違和感を感じますが、主題が回帰するあたりからは素晴らしい音に思えます。これもメジューエワの調整力なんでしょう。ノクターン第2番はショパンの全作品の中でも最も有名な作品ですが、そういうことではなくて、メジューエワの演奏はうっとりするような素晴らしい演奏です。彼女の鍵盤を叩く手を見ていると、そのしっかりしたタッチが彼女の音楽の原点であることが分かります。フォルテでしっかり叩くのは当然ですが、弱音でも鍵盤を深く叩いていることが分かります。微妙な繊細さは失われているような気もしますが、明快な音楽になっています。しかも力強さは凄いとしか言えません。ロシア人としては小柄で華奢な体格ですが、実にパワフルな音を生み出しています。その美点が最高に発揮されたのがスケルツォ第2番です。ヴィルトゥオーゾとしての圧巻の演奏に感動しました。冒頭の豪快で華麗な演奏も見事ですが、中間部の詩情に満ちた演奏は中間部終盤で熱く燃え上がります。感涙ものの最高の演奏です。こんなピアノで凄い音です。saraiの家のピアノで弾いてくれないかな・・・。終盤はまた凄まじい演奏で魅了してくれました。バラード第3番も後半の激しい演奏に魅せられました。最後はまた、ノクターン。第15番のゆったりと歩むような演奏の魅力的なこと。
考えてみると、今日のコンサートの構成は、最初はノクターンで夜の音楽に始まり、スケルツォ、バラードの明るい昼の音楽になり、最後はまた、ノクターンの夜の音楽で終わるという、よく考えられた構成になっていました。短いコンサートでしたが、ぎゅっと凝縮した演奏ですっかり満足です。

次はコンサートホールでスタインウェイのフルコンサートピアノでの演奏を聴かせてもらいましょう。そう言えば、最後のインタビューで彼女は今後、ショパンを再び、まとめて演奏していきたいとのことでした。そして、朗報ですが、バッハに力を入れていきたいとの意向を述べていました。バッハの連続演奏会もあるかもしれません。期待しましょう。

今日はこのメジューエワの演奏の後、夜は鶴見でクァルテット・エクセルシオの充実したショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲を聴きましたが、それについては明日の記事でご紹介します。


今日のプログラムは以下です。

  ピアノ:イリーナ・メジューエワ
  講師:音楽評論家・ピアニスト 下田 幸二

  <ピアノの名曲聴きどころ弾きどころ>

  ノクターン第1番 変ロ短調 Op.9-1
  ノクターン第2番 変ホ長調 Op.9-2
  ノクターン第7番 嬰ハ短調 Op.27-1
  スケルツォ第2番 変ロ短調 Op.31
  バラード第3番 変イ長調 Op.47
  ノクターン第15番 ヘ短調 Op.55-1
  ノクターン第16番 変ホ長調 Op.55-2


   《アンコール》
  マズルカ第45番 イ短調 Op.67-4



最後に予習について、まとめておきます。

ノクターン5曲は以下のCDを聴きました。

 イリーナ・メジューエワ 2009年7月、9月、10月 新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

繊細というよりもしっかりとした演奏ですが、どこか温かみを感じる演奏です。メジューエワはこの後、2016年にライヴで再録音していますが、未聴です。


スケルツォ第2番は以下のCDを聴きました。

 イリーナ・メジューエワ 2018年9月29日~10月1日 新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

新レーベルBIJIN CLASSICALのリリース第一弾として、録音された「ショパン:4つのスケルツォ」。スケルツォ集はメジューエワにとって16年ぶりの再録音です。これはメジューエワの美質にぴったりの曲で、実に力強く、華麗な演奏です。


バラード第3番は以下のCDを聴きました。

 アンナ・ヴィニツカヤ 2020年5月、6月 ハンブルク、フリードリヒ・エーベルト・ハレ セッション録音

スケールの大きなピアノ演奏が魅力のヴィニツカヤは実はショパンも得意にしています。そのヴィニツカヤの初のショパン・アルバム(バラード集、即興曲集)からの1曲です。実に魅力的な演奏です。



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       メジューエワ,  

クァルテット・エクセルシオのショスタコーヴィチ・シリーズも早、第2回目 美しい響きを堪能@鶴見サルビアホール3F音楽ホール 2022.3.14

日本を代表するカルテットの一つ、クァルテット・エクセルシオの初のショスタコーヴィチ全曲チクルスも早、第2回目。チクルスは順調に進行しています。

昨日はお昼のイリーナ・メジューエワのショパンの素晴らしい演奏を聴いた後、ここ、鶴見サルビアホール3F音楽ホールに移動して、久し振りにこのホールでの弦楽四重奏の美しい響きに耳を傾けます。

今日はショスタコーヴィチ・シリーズの第4番から第6番が演奏されます。ショスタコーヴィチ中期の傑作の弦楽四重奏曲ばかりです。ショスタコーヴィチにとってはジダーノフ批判を浴びて厳しい冬の時代、そして、スターリンの死を経て、比較的、自由な創作活動が行えるようになった時期にあたり、作品の雰囲気も変遷していきます

今日の演奏ですが、前回同様、緻密に練り上げられて、各声部のバランスがよくて、美しい表現でした。やはり、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲は音楽的な解釈はともかくとして、このように美しい響きで聴きたいものです。前回もそうだったように、第4番を聴いているときはこれは素晴らしいと思い、次の第5番は凄い大曲としてのさらなる素晴らしさ。しかし、やはり、今日の最高の演奏は何と第6番でした。とりわけ、第3楽章は哀しい挽歌で、魂を震わせながら、聴き入りました。

簡単に各曲の演奏に触れておきましょう。
まず最初は第4番です。クァルテット・エクセルシオの各奏者が見事な演奏を聴かせてくれます。とりわけ、外声部の二人の演奏が素晴らしいです。それを支える内声部の安定した演奏があったればこそです。作品自体はジダーノフ批判を浴びて、交響曲の作曲もできない状況ですが、それほど鬱屈した音楽になっているわけではありません。こういう美しくてロマンティックな表現で聴くと、そういう厳しい冬の時代の作品には思えません。それにしても、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲は同じようなパッセージが執拗に繰り返されます。ある意味、聴く側はそれを我慢しながら聴くわけで、まるで修行のようなものです。ここに集まった100人の聴衆はよほどの物好きですね。もちろん、saraiもそうなんですけどね。しかし、第1ヴァイオリンの西野ゆかはとてもロマンティックなメロディーを奏でてくれて、これがショスタコーヴィチなのかと疑いたくなるような演奏で耳を楽しませてくれます。もちろん、クールな演奏もよいのでしょうが、これが彼女のスタイルなんですね。厳しい時代のショスタコーヴィチの作品もロマンティックなスタイルで聴かせてもらいました。

次の第5番は大変な力演でした。第4番以上の素晴らしさです。3楽章が続けて演奏される長大な作品です。これも同じようなメロディーが執拗に繰り返されます。ドミトリー・ショスタコーヴィチの頭文字DSHの音型が基本になっています。第2楽章は瞑想的な音楽を実にロマンティックに奏でてくれます。もう、うっとりして聴き入ります。よい意味でショスタコーヴィチではありません。第3楽章は瞑想的な音楽に始まり、一転して、諧謔的な音楽になるかと思えば、中間部は激しい音楽に心が揺さぶられます。第3楽章はバルトークを思わせるようなアーチ構造になっていて、最後は劇的な展開で全曲を終わります。いやはや、第5番の素晴らしさにすっかり魅惑されました。ところでこの作品の後に交響曲第10番が作曲されることになります。同じようなベースを持つ両曲ですが、今日の演奏を聴く限り、まったく印象を異にします。交響曲第10番と言えば、saraiの持つ印象は沈痛さということに尽きます。一方、今日の弦楽四重奏曲第5番は美しくて、希望さえ感じられるような音楽です。こういうショスタコーヴィチもよいでしょう。ここまでで、重い音楽で疲れ切りました。ここで今日のコンサートを終えてほしいくらいです。

休憩後、第6番です。最初の妻ニーナの死、母の死もありましたが、私生活でも第2の妻マルガリータとの結婚(短命には終わりましたが)もあり、決定的なのはスターリン体制の崩壊で自由な作曲環境になったのが大きいのでしょう。ショスタコーヴィチにしてはとても明るい音楽、あるいは軽い音楽で曲が開始されます。しかし、次第に音楽は熱を帯びて、高潮していきます。こういう油断ならない音楽的展開こそ、ショスタコーヴィチの真骨頂です。第3楽章は哀しい挽歌です。でもロマンティックで心に響きます。4楽章中、白眉の音楽に耳を傾けました。第4楽章はそれまでの楽章の音楽も総括した圧巻の音楽で締めくくられます。


ということで、大満足の演奏でした。来年1月までのあと2回のコンサートで第14番までいきつくようです。素晴らしく精緻な演奏が聴けそうです。ところで肝心の第15番はどうなるの?


今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:クァルテット・エクセルシオ
   西野ゆか vn  北見春菜 vn  吉田有紀子 va  大友 肇 vc

   ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第4番 ニ長調 Op.83
   ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第5番 変ロ長調 Op.92

   《休憩》

   ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第6番 ト長調 Op.101

   《アンコール》
    なし

最後に予習について触れておきます。
今回のショスタコーヴィチ・シリーズに際しては、きちんと全曲を聴いていない以下のCDを聴くことにしています。

 エマーソン・カルテット 1994年、1998年、1999年 アスペン音楽祭 ライヴ録音

切れのいい演奏と素晴らしい響き。エマーソン・カルテットならでは完成度です。とてもライヴ録音とは信じられないレベルの高さです。なお、saraiのお気に入りのショスタコーヴィチの演奏はルビオ・カルテットのCDなんです。



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超感動!!中村恵理、薄幸の女の墓碑銘を絶唱 《椿姫》@新国立劇場 2022.3.16

新国立劇場でも素晴らしいオペラ公演を聴いてきましたが、今日のオペラが最高です。また、《椿姫》は《薔薇の騎士》、《フィガロの結婚》と並んで最もよく聴いてきたオペラですが、今日の公演は今まで聴いた公演でもウィーン国立歌劇場でネトレプコがヴィオレッタを歌った素晴らしい公演に並び立つような素晴らしいものでした。もちろん、《椿姫》はヴィオレッタ役の出来がすべてを決めると言っても過言でありませんが、中村恵理の凄かったこと! 潤いのある透明な響きの歌唱の見事さだけでなく、その音楽的な表現力が群を抜くものでした。第3幕は涙なしには聴けませんでした。いやはや、何とも感動的なオペラでした。もう、第1幕を聴いているときから、これはもう一度聴かないといけないと思いました。そう思わなければ、聴き終わるときに圧倒的な喪失感に襲われるという不安で聴き続けることができなかったからです。もう、どんな席のチケットでもいいから入手しましょう。ということで安心して、聴き続けることができました。

冒頭、どの女性がヴィオレッタかを視認することができません。ヴィオレッタが歌い始めても、中村恵理がヴィオレッタを歌っているという確信が持てません。彼女の声は数日前にも聴いたし、何と言ってもsaraiは彼女のファンなので、かなり聴き込んでいるにもかかわらず、どうにも、彼女の声だという確信が持てません。その姿も中村恵理だという確信も持てません。もう一度、キャスト表を確認したくなりますが、ごそごそ音をたてるわけにもいきません。何故、こういう事態に陥ったかというと、ヴィオレッタの歌唱がどうにもsaraiの知っている中村恵理の歌唱に思えないんです。いい意味で素晴らしい声です。不安定な状態で聴き続けます。乾杯の歌を聴いても、よく分かりません。第1幕終盤の長大なアリアを聴いても分かりません。しかし、何とも澄み切った響きの歌唱で素晴らしいことには間違いありません。終いにはこれが中村恵理であっても、急な代役であったとしても、素晴らしい歌唱であることには違いがないのであるから、誰が歌っているかということは些末なことに思えます。前述の、この公演をもう一度聴きたいというのはこの時点であり、もし、これが中村恵理であるならば、どうしてももう一度聴きたいし、そうでなかったら、是非、中村恵理のヴィオレッタを聴きたいという微妙な心情だったんです。それにしても、《ああ、そはかの人か~花から花へ》の歌唱は絶品です。こんなにピュアーな声の歌唱は聴いたことがありません。かのネトレプコさえも、このような澄み切った声ではありませんでした。ピュアーでありながら、コロラトゥーラ・ソプラノとしても完璧な歌唱です。ああ、そうですね。今までの中村恵理はプッチーニのリリックなソプラノの歌唱だったので、こういうコロラトゥーラ・ソプラノの歌唱は聴いたことがなくて、それでずいぶん、印象が違っているのかもしれません。
休憩なしに第2幕に入ります。冒頭の【アルフレード】役のマッテオ・デソーレのアリア。一途な好青年を思わせる素晴らしい歌唱です。アルフレードにぴったりのテノールです。カリスマ的でないのがかえって好印象です。アルフレードの父ジェルモンが登場して、ヴィオレッタと対峙すると、一気に緊張感が高まります。まるでトスカの第2幕のスカルピアとトスカの対峙するシーンのようです。いずれも男性社会の象徴のような恰幅のいい男が弱き性の女性を徹底的に痛めつけるという唾棄すべきシーンが繰り広げられます。男性の一員であるsaraiですら、正視できません。オペラというフィクションであることは分かっていても、どうにもこのシーンは苦手です。ジェルモンが押し出しのよいバリトンで歌えば歌うほど、反吐を吐きそうになってしまいます。まあ、こういう真に迫るような音楽を書いたヴェルディが素晴らしいのでしょうが・・・。嫌いな歌の象徴が《プロヴァンスの海と陸》。もっとも、皮肉なことに【ジェルモン】役のゲジム・ミシュケタの歌唱は立派過ぎるほどです。痛めつけられるヴィオレッタの可憐な歌唱はとっても素晴らしい。どうにもやりきれない第2幕第1場は深い感銘を残しつつ、終わります。
急いで、キャスト表をチェックして、ヴィオレッタが中村恵理であったことを確認して、納得と驚きを禁じ得ません。それではと、ボックスオフィスに赴いて、残る2回の公演の残席状況をチェックします。さすがに中央前方のブロックは売り切れです。前方の左右ブロックの席は若干空いているようです。うーん、即、購入というわけにはいきませんね。

30分の休憩後、第2幕第2場が始まります。中村恵理の澄み切った歌声がますます冴え渡ります。オペラはドラマティックに終焉に向かっていきます。
第3幕。とても美しい前奏曲が東響の素晴らしい弦楽セクションによって演奏されます。ヴィオレッタの哀しき運命を象徴しているんですね。第1幕の前奏曲と同様の抑えた表現で素晴らしい演奏。指揮のアンドリー・ユルケヴィチの手腕が光ります。コンサートマスターはグレブ・ニキティン。数日前にも定期演奏会で活躍していましたが、今日も見事な統率ぶりです。舞台は特異なものです。楕円に切り取られたような舞台の中央に古いピアノが置かれ、その上に死に瀕したヴィオレッタが横たわります。その背後はベールで覆われて、ヴィオレッタ以外の人物はベール越しにしか見えません。この第3幕はヴィオレッタ一人のためのものであり、彼女以外はすべて亡霊でしかありません。恋人のアルフレードさえも例外ではありません。音楽の内容を完璧に理解した演出に思えます。その演出に応えて、中村恵理は完璧なヴィオレッタを歌い切ります。人生で道を一度外した女(ヴィオレッタが高級娼婦であったこと)は決してこの世では救われないことを驚異的な音楽表現で歌います。その究極のリリックな歌唱に感動し、涙が滲みます。中村恵理、入魂のヴィオレッタに魅了されました。大変な日本人ソプラノが現れたものです。彼女が代役に決まったときに嬉しかったのですが、その期待以上の歌唱と演技でした。

帰宅後、配偶者を誘って、再度、この公演に足を運ぶことを決めて、そこそこの席のチケットを購入。もう一度、このオペラの公演のレポートを記事にします。ご期待ください。もっともこれ以上、書くことはないかな。


今日のキャストは以下です。

  ジュゼッペ・ヴェルディ 椿姫

【指 揮】アンドリー・ユルケヴィチ
  【演出・衣裳】ヴァンサン・ブサール
  【美 術】ヴァンサン・ルメール
  【照 明】グイド・レヴィ
  【ムーブメント・ディレクター】ヘルゲ・レトーニャ
  【再演演出】澤田康子
  【舞台監督】斉藤美穂


【ヴィオレッタ】中村恵理
  【アルフレード】マッテオ・デソーレ
  【ジェルモン】ゲジム・ミシュケタ
  【フローラ】加賀ひとみ
  【ガストン子爵】金山京介
  【ドゥフォール男爵】成田博之
  【ドビニー侯爵】与那城 敬
  【医師グランヴィル】久保田真澄
  【アンニーナ】森山京子
  【ジュゼッペ】中川誠宏
  【使者】千葉裕一
  【フローラの召使い】上野裕之
  【合唱指揮】三澤洋史
  【合 唱】新国立劇場合唱団
  【管弦楽】東京交響楽団

最後に予習についてですが、さすがに聴きませんでした。聴くとしたら、ザルツブルク音楽祭の衝撃だったネトレプコの公演でしょうが、これは何度も繰り返し視聴しました。



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       中村恵理,  

中村恵理、究極のヴィオレッタを熱唱 《椿姫》2回目@新国立劇場 2022.3.19

中村恵理のあまりの素晴らしさに今度は配偶者も伴って、2回目の《椿姫》を聴きに出かけました。無論、今度も素晴らしく、もう、何も言う言葉がありません。

冒頭、今回もヴィオレッタを歌っているのが中村恵理であることが認識できません。まるで、前回のデジャヴみたいな気分になりますが、今回は事前にキャスト表をしっかり確認しておきましたから、間違いなく、中村恵理がヴィオレッタを歌っていることは頭では分かっています。いやはや、中村恵理のヴィオレッタはいつもよりも強めの声で、それでいて、透明感はさらに増しているような感じです。saraiはこういうヴィオレッタを聴きたかったんです。saraiが理想とするソプラノです。かつて、こういう声はフリットリが聴かせてくれました(ヴィオレッタではなく、ドン・カルロのエリザベッタ)が、それは終盤で満を持したような感じで絞り出したものです。saraiはそのとき、天使の歌声を聴いたという感慨を持ちました。今日の中村恵理は冒頭からフィナーレまで終始、その天使の歌声を聴かせてくれました。それはイタリア最高のプリマドンナであったフリットリでもなし得なかったことです。中村恵理がヨーロッパで最高の評価を得ていないのが不思議です。

第1幕でも前回と同様に素晴らしいアリアを歌ってくれましたが、第2幕に入り、アルフレードの父、ジェルモンと渡り合うシーンになると、中村恵理の可憐で健気な様子のヴィオレッタの何と素晴らしいことか。【ジェルモン】役のゲジム・ミシュケタの堂々たる歌唱を引き立て役にして、まさに天使の歌声が弱音から強音にいたるまで響き渡ります。そのあまりのいじらしさにsaraiは近くにいれば、そっと抱きしめてあげてやりたい気分です。こんなにsaraiを魅了してやまないソプラノが何と日本人ソプラノとは・・・絶句するのみです。しかし、それは序章に過ぎませんでした。

第3幕、円形に切り抜かれた舞台の中央に置かれたピアノの上に横たわるヴィオレッタ、すなわち、中村恵理が感涙の歌唱を聴かせてくれます。死を覚悟したヴィオレッタが歌うシェーナの透明感あふれる歌声は誰も到達できなかった境地に達しています。そして、中村恵理の《過ぎし日よ、さようなら》の名唱は感動なしには聴けません。この日、最高の歌唱。saraiの人生でもこれほどの歌唱は何度聴いたでしょう。ソプラノならではのピュアーさの究極、そして、魂の歌声は天上の音楽を思わせます。こういう音楽を聴きたかったんです。その後もアルフレードとのデュエット、《パリを離れて》で天使の歌声が続きます。そして、終幕のフィナーレ。深い感動のうちに幕を閉じます。またしても、涙が滲みます。

もう一度、聴きにきて、よかった。満足と感動で心が震えます。

音楽がすべてですが、衣装の豪華さ、美しさも素晴らしかったです。第1幕でヴィオレッタが着ていたドレスが展示されていました。

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終幕後の番外編。

今日は配偶者と一緒に来たので、アフターオペラを楽しみます。新国立劇場3階にあるイタリアンのレストラン、《マエストロ》でディナーです。オペラの始まる前にロビーで予約済なので、予約席のテーブルに案内されます。まずはワインリストからスプマンテのグラスを注文し、席の前に置いてあるメニューを見て、一番リーズナブルなコースをお願いします。そもそもパスタが食べたかったので、パスタが中心のコースを選んだんです。で、注文を終えて、そのメニューは不要だと言うと、スタッフの方が怪訝な顔をして、メニューを指さします。あっ・・・何とメニューには、今日のオペラ《椿姫》のキャストのサインが並んでいます。右上にある中村恵理のサインが目に飛び込んできます。

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お洒落なプレゼントですね。残念ながら、生サインではなく、コピーではありますが、貴重なコレクションになります。

今日の椿姫記念ディナーをご紹介しましょう。
まずはアンティパスト。
プロシュートとモッツァレラ、トマトのサラダ仕立て
エディブルフラワーを添えて。

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プリモは二人で別のパスタを選び、シェアしていただきます。
スパゲッティ 鰯と新玉葱のアーリオ・オリオ・ペペロンチーノ 。鰯の香りと味が素晴らしく、絶品です。

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ペンネ パンチェッタと筍のアラビアータ。筍がしゃきっとして、ペンネのアラビアータによく合います。

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最後はドルチェとコーヒー。
抹茶のティラミスとジェラートの盛合わせ。抹茶のジェラート、美味しいです。

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お腹も満足して、帰路に着きます。


今日のキャストは以下です。

  ジュゼッペ・ヴェルディ 椿姫

【指 揮】アンドリー・ユルケヴィチ
  【演出・衣裳】ヴァンサン・ブサール
  【美 術】ヴァンサン・ルメール
  【照 明】グイド・レヴィ
  【ムーブメント・ディレクター】ヘルゲ・レトーニャ
  【再演演出】澤田康子
  【舞台監督】斉藤美穂


【ヴィオレッタ】中村恵理
  【アルフレード】マッテオ・デソーレ
  【ジェルモン】ゲジム・ミシュケタ
  【フローラ】加賀ひとみ
  【ガストン子爵】金山京介
  【ドゥフォール男爵】成田博之
  【ドビニー侯爵】与那城 敬
  【医師グランヴィル】久保田真澄
  【アンニーナ】森山京子
  【ジュゼッペ】中川誠宏
  【使者】千葉裕一
  【フローラの召使い】上野裕之
  【合唱指揮】三澤洋史
  【合 唱】新国立劇場合唱団
  【管弦楽】東京交響楽団

最後に予習についてですが、さすがに聴きませんでした。聴くとしたら、ザルツブルク音楽祭の衝撃だったネトレプコの公演でしょうが、これは何度も繰り返し視聴しました。



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       中村恵理,  

バッハの誕生日の〆は平和への希求 バッハ・コレギウム・ジャパン@東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル 2022.3.21

チェンバロが舞台に3台並ぶと壮観です。演奏者も鈴木親子となれば、素晴らしい演奏に決まっています。本来は4台のチェンバロのための協奏曲も演奏する予定でしたが、昨今の事情では仕方がありません。いずれ聴かせてくれるでしょうが、今日のような豪華で珍しいコンサートはなかなか聴けませんね。バッハのお誕生日のお祝いとして、よいものでした。演奏は耳慣れた2台のチェンバロのための協奏曲 ハ短調 BWV 1060が楽しいですね。ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲としても知られています。最後の2台のチェンバロのための協奏曲 ハ短調 BWV 1060が素晴らしい演奏で、第2楽章のリリックな音楽に魅了され、第3楽章の素晴らしいフーガに心洗われる思いでした。

休憩後、鈴木優人の弾くオルガン独奏曲、プレリュードとフーガ ト短調 BWV 535は出色の出来栄え。CDで聴いた父親の雅明氏の演奏を超えたものです。それにしてもオペラシティのオルガンの響きにも魅了されました。
最後はバッハ・コレギウム・ジャパン総出演の趣きでカンタータ 第30番《喜べ、贖われた者たちの群れよ》BWV 30。名人たちの管弦楽をバックに合唱隊が素晴らしい合唱を聴かせてくれました。冒頭と終曲の合唱は圧倒的でしたし、途中のコラールの美しいこと。ソプラノの松井亜希は今日も好調。貫禄さえも感じられます。少しだけの歌唱のテノールの櫻田 亮はもったいないくらいです。健闘したのはバスの加藤宏隆。アジリタが見事に決まっていました。菅きよみのフラウト・トラヴェルソのまるで独奏のような演奏が聴けたのも嬉しいところ。三宮正満のオーボエも相変わらず、見事です。
アンコールで名曲のコラール《主よ、人の望みの喜びよ》が聴けたのもとっても嬉しいですね。平和を希求しての演奏だそうです。

今日もまた、鈴木ファミリーとバッハ・コレギウム・ジャパンの素晴らしい演奏を聴いて、満足です。お隣の新国立劇場では《椿姫》のラスト公演中で心引かれるものもありましたが、やはり、今日はこのバッハ・コレギウム・ジャパンを聴いて正解だったでしょう。次は4月のマタイ受難曲です。楽しみです。


今日のプログラムは以下です。


  指揮:鈴木雅明
  チェンバロ:鈴木雅明、鈴木優人、大塚直哉
  ソプラノ:松井亜希  
  アルト:久保法之
  テノール:櫻田 亮 
  バス:加藤宏隆
  オルガン:鈴木優人*
  三宮正満(オーボエ/オーボエ・ダモーレ)
  菅きよみ(フラウト・トラヴェルソ)
  若松 夏美(コンサートマスター)

  合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン


  J. S. バッハ
   3 台のチェンバロのための協奏曲 第1番 ニ短調 BWV 1063
   2 台のチェンバロのための協奏曲 ハ短調 BWV 1060
   3 台のチェンバロのための協奏曲 第2番 ハ長調 BWV 1064

   《休憩》

   プレリュードとフーガ ト短調 BWV 535*
   カンタータ 第30番《喜べ、贖われた者たちの群れよ》BWV 30

   《アンコール》
     カンタータ第147番《心と口と行いと生活》BWV 147 より
      終曲コラール[合唱]:イエスは変わらざる私の喜び(主よ、人の望みの喜びよ)


最後に予習について、まとめておきます。

1~3曲目のバッハの2/3台のチェンバロのための協奏曲を予習したCDは以下です。

 ピーター・ゼルキン、ブルーノ・カニーノ、アンドラーシュ・シフ(ピアノ&指揮)カメラータ・ベルン 1989~93年 セッション録音

アンドラーシュ・シフの演奏が聴きたくて、あえて、チェンバロではなく、ピアノによる演奏を聴きました。楽器は違えど、音楽の喜びが湧き起る演奏です。


4曲目のバッハのプレリュードとフーガを予習したCDは以下です。

 鈴木雅明(オルガン/シュニットガー制作オルガンa'= 465 Hz) 2014年7月 フローニンゲン、マルティン教会(オランダ) セッション録音

いやあ、予想以上の名演奏にびっくり。見事なものです。オルガンもオランダの素晴らしいものを演奏しています。


5曲目のバッハのカンタータ 第30番《喜べ、贖われた者たちの群れよ》を予習したCDは以下です。

 鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパン 2013年2月 兵庫県、神戸松蔭女子学院大学チャペル セッション録音
  ハナ・ブラシコヴァ(ソプラノ)
  ロビン・ブレイズ(カウンターテノール)
  ゲルト・テュルク(テノール)
  ペーター・コーイ(バス)
  三宮正満(オーボエ/オーボエ・ダモーレ)
  菅きよみ(フラウト・トラヴェルソ)
  寺神戸 亮(コンサートマスター)

バッハ・コレギウム・ジャパンによるバッハのカンタータ全曲集の完結となる第55集に含まれる演奏です。演奏メンバーも現在とほぼ同じメンバーで独唱だけが外国人です。BCJの記念すべき演奏として素晴らしい仕上がりです。



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       バッハ・コレギウム・ジャパン,  

バッハの心の内面は華やかな王宮のごとし 曽根麻矢子 バッハ 連続演奏会@ハクジュホール(Hakuju Hall) 2022.3.22

バッハの鍵盤音楽はゴルトベルク変奏曲、平均律クラヴィール曲集第1巻・第2巻という頂をなす大曲もありますが、saraiが本当に愛するのは、パルティータ全6曲、フランス組曲、イギリス組曲という舞踊組曲集です。心の底から魂が同調できます。今日は曽根麻矢子が見事な演奏を聴かせてくれました。ただただ、魅了されるのみです。耳馴染んだイギリス組曲第2番に始まり、第3番も明快で繊細なチェンバロの響きで魅惑されます。
しかし、最高に素晴らしかったのは、休憩後のイギリス組曲第6番。スケールの大きなプレリュードでのフーガの妙技に始まり、明快な響きのアルマンド、クーラントを経て、サラバンドの透明な美しさはバッハの心の王国を感じさせてくれます。永久を感じさせる音楽は魂に同調してきます。一転して、愛らしいガヴォットが奏された後、ジーグの壮大なフーガに深い感銘を覚えます。最後はバッハらしく、すっと終わります。これ以上、もう必要ないでしょうという風情です。

今日も素晴らしいバッハのチェンバロ曲を味わわせてくれました。

今日のプログラムは以下です。

  曽根麻矢子 バッハ 連続演奏会  ≪BWV≫ Ⅲ イギリス組曲

  チェンバロ:曽根麻矢子

  バッハ:イギリス組曲 第2番 イ短調 BWV 807
  バッハ:イギリス組曲 第3番 ト短調 BWV 808

   《休憩》

  バッハ:イギリス組曲 第6番 ニ短調 BWV 811

   《アンコール》
  お話と予告編 バッハ:フランス組曲第5番から 第3曲 サラバンド など



最後に予習について、まとめておきます。

予習はもちろん、夭逝した天才チェンバロ奏者スコット・ロスの残した録音を聴きたいところですが、彼はバッハの全曲録音を開始し、CD3枚分録音しただけで、逝ってしまいました。ということで、今回は以下の録音を聴きました。

 鈴木雅明 イギリス組曲全曲(チェンバロ/1982年ヴィレム・クルスベルヘン制作によるリュッカースのレプリカ) 2016年7月&8月 神戸松蔭女子学院大学チャペル セッション録音

それほど期待せずに聴き始めましたが、何と何ととても素晴らしい演奏です。聴き惚れてしまいました。とても明快なチェンバロの響きを聴かせてくれました。



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マーラーの交響曲第9番 絶美の第4楽章 高関 健&東京シティ・フィル@東京オペラシティコンサートホール 2022.3.26

高関 健&東京シティ・フィルがこの特別な作品にチャレンジしました。とてもよいチャレンジだと思いました。そして、今生きている人間にとって、この作品を聴けることが計り知れない恵みであることを実感しました。このマーラーの交響曲第9番は人類が営々として築き上げてきた文化の精華の頂点をなすものであり、現代の人間の一人として、それを享受できる幸運に感謝するのみです。この作品が作曲されたのは1909年から1910年にかけてですが、我々聴衆がコンサートホールで聴けるようになったのはバーンスタインが1970年頃から熱心に取り上げるようになってからです。たかだか、50年前からのことです。そして、今日のように日本のオーケストラが日本人指揮者によって、非常に高いレベルで演奏するようになってきました。saraiはこの曲はずい分聴いてきましたが、実は日本人指揮者の演奏を聴くのは初めてです。日本のオーケストラ、都響や読響などでも聴きましたが、いずれもベルティーニ、インバルなどの指揮でした。この作品は日本でも文化として、しっかりと根付きました。それは今日の聴衆の熱狂ぶりからも分かります。

さて、今日の演奏ですが、第1楽章の冒頭から、フレッシュな演奏が続きます。緊張感の高さ、高関健の構成力の高さに聴くsaraiも惹き込まれます。第3楽章のダイナミックな演奏にも魅了されます。しかし、圧巻だったのは第4楽章。素晴らしい弦楽アンサンブルがマーラーの生み出した最高の音楽を極上の響きで奏でます。魂にジーンと共鳴してくる音楽を超えた音楽です。素晴らしい弦楽アンサンブルの響きが弱音に変わると、さらなる風情の音楽に心が揺さぶられます。そして、木管が妙なる調べを奏でます。この後、弦楽アンサンブルが高潮した峰々を奏で上げて、深い感銘を覚えます。高関健の考え抜かれた音楽構成は盤石に感じます。そして、音楽は独奏チェロのトリスタン的な響きを皮切りに薄明の世界にはいっていきます。これこそ、天才マーラーが作り上げた音楽の頂点をなすものです。高関健指揮の東京シティ・フィルは丁寧に緊張感高く、この人類史上最高の音楽を奏でます。そっと壊れ物にさわるように大切な音楽を奏でながら、次第に薄明は光を失っていきます。聴く者ひとりひとりにそれぞれの思いを残しながら、音楽は沈黙します。この瞬間から、マーラーは我々を至上の音楽の世界に昇華させていきます。拍手はこういう永遠を感じさせる音楽にとって、無粋なものだと思うんですけどね。その拍手がsaraiを現実世界に引き戻します。素晴らしい音楽、素晴らしい演奏でした。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:高関 健(常任指揮者)
  管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団  コンサートマスター:戸澤哲夫

  マーラー:交響曲第9番 二長調


今回は予習はなしです。聴きたかったのは、ハイティンク&アムステルダム・コンセルトヘボウ管の交響曲全集の1枚。ハイティンクの最初の録音。時間切れで聴けませんでした。



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アラン・ギルバート凄し! 壮大さと美しさに満ちたブルックナー 東京都交響楽団@サントリーホール 2022.3.27

日光の旅で、再び、足がひどく痛むようになり、杖にすがって歩くようになったのにもめげず、連日、コンサート通いです。その代わり、コンサート前に整骨院で治療をしています。何とも悲壮なコンサート通いです。でも、止められません。業ですね。しかし、連日、マーラー、ブルックナーの素晴らしい演奏を聴くことができ、その努力は報われます。

アラン・ギルバート、素晴らしいブルックナーを聴かせてくれると期待していました。その期待通り、都響から分厚い響き、そして、美の極致のような響きを引き出して、ブルックナーの壮麗な音楽を歌い上げてくれました。
第1楽章、冒頭はチェロ、ヴィオラの低弦がぞくそくするような分厚い響きで美しい旋律を奏でます。都響は高弦の美しさに魅了されることが多いのですが、低弦も素晴らしいです。それを引き出したのはアラン・ギルバートの手腕でしょう。もちろん、すぐにヴァイオリン群の美しい響きが続いて、ブルックナーの美を思いっ切り、満喫させてくれます。第1楽章はこのままの調子で魅了されながら、気が付くと長大な楽章が終わります。
そして、今日、圧巻だったのはやはり、次の第2楽章。ワーグナーを葬送したと言われる美しい音楽です。葬送というにはあまりに熱い音楽が燃え上がります。ワーグナーを讃える風情も感じられます。高らかに歌われるコラールをアラン・ギルバートと都響はあらん限りの力を振り絞っての熱演です。
第3楽章は勇ましい音楽がこれもまた美しく演奏されます。
そして、熱いと言えば、この第4楽章。アラン・ギルバートが都響を鼓舞して、これ以上はない熱演を聴かせてくれました。

アラン・ギルバートが振れば、都響は最高のパフォーマンスを発揮してくれます。素晴らしく美しいブルックナーでした。

前半は日本初演となるソルヴァルドスドッティルのメタコスモス。現代音楽ですが、今風の現代音楽で、無調も調性音楽もとりまぜて、聴きやすい音楽に仕上がっています。こういう現代音楽には賛否両論あるでしょうが、まあ、一聴して、楽しめる音楽であることは評価に値します。宇宙のカオスを表現しているそうですが、このテーマはある意味、今や陳腐とも思えます。演奏自体は見事なものでした。


今日のプログラムは以下のとおりです。

  指揮:アラン・ギルバート
  管弦楽:東京都交響楽団 コンサートマスター:矢部達哉

  アンナ・ソルヴァルドスドッティル:メタコスモス(2017)[日本初演]

   《休憩》

  ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調 WAB107


最後に予習についてですが、ソルヴァルドスドッティルのメタコスモスは日本初演の新しい曲なので、音源がなく、予習できず。ブルックナーの交響曲第7番も今更なので、予習をパス。



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天才、藤田真央の自由闊達にして、優美さの極致のモーツァルト ピアノ・ソナタ全曲演奏会@王子ホール 2022.4.1

藤田真央のモーツァルト ピアノ・ソナタ全曲演奏会の第3回。前回はもうひとつ不満の残る演奏でしたが、今日は最初からアンコールに至るまで、天才的な演奏で魅了してくれました。
とりわけ、前半の第2番と第6番の演奏の素晴らしかったこと! 前回のアンコールで弾いた第5番のゾーンに入ったような演奏がそのまま、続いた感じです。冒頭の第2番は驚くほど力強い演奏でしたが、第1楽章のピアノの響きは少し、くぐもった感じ。第2楽章の哀切極まりない演奏でタッチもよくなり、最高の演奏です。第3楽章は思いっ切り、高速演奏で超絶的とも思えるメカニズムの演奏で圧巻でした。
第6番はさらに素晴らしい演奏。第1楽章はダイナミックでメリハリの効いた演奏。第2楽章は美しい抒情が光ります。そして、第3楽章の長大な変奏曲は魅力に満ちた素晴らしい演奏。とりわけ、第10変奏の後、少し、パウゼを入れて、思いっ切り、テンポを落として、アダージョ・カンタービレの第11変奏を天上の美を思わせる美しさで弾いていくと、たまらない思いにかられます。こんな美しい演奏があっていいのか・・・。そして、テンポを戻して、圧巻の第12変奏で〆。今日はこの前半の2曲を聴いただけでも十分でした。

後半は最も有名な第11番。第1楽章はまたしても長大な変奏曲です。耳馴染んだ曲ですが、藤田真央は新鮮さあふれる演奏。第2楽章はダイナミックなメヌエットを素晴らしい響きで弾いていきます。そして、第3楽章のいわゆる、トルコ行進曲は美しさの極致のような演奏。見事です。
続いて、第12番。ここに至って、藤田真央のピアノの響きは最高の美しさで鳴り響きます。第3楽章の超絶的な演奏に圧倒されました。

今日は藤田真央の天才ぶりが縦横に発揮された演奏でした。これまでに聴いた演奏で最高のものでした。今月はあと2回、藤田真央のピアノを聴きます。楽しみです。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  ピアノ:藤田真央

  モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第2番 ヘ長調 K280
  モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第6番 ニ長調 K284 「デュルニツ」

   《休憩》

  モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第11番 イ長調 K331 「トルコ行進曲付き」
  モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第12番 ヘ長調 K332

   《アンコール》
     モーツァルト:ピアノ・ソナタ第15番 ヘ長調 K533より 第3楽章
     J.S.バッハ/ラフマニノフ編:パルティータ 第3番 ホ長調 BWV1006より ガヴォット

最後に予習について、まとめておきます。

モーツァルトのピアノ・ソナタ4曲を予習したCDは以下です。

  マリア・ジョアン・ピリス 1974年1-2月 東京、イイノ・ホール セッション録音

若きピリスが純粋無垢なモーツァルトを聴かせてくれます。後にDGで再録音したものとは一味違っています。saraiが最も愛好してやまないモーツァルトのピアノ・ソナタ全集です。



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       藤田真央,  

ウィーンへの思いを募らせる公演の華は感動の3重唱 《薔薇の騎士》@新国立劇場 2022.4.3

やはり、楽劇《薔薇の騎士》はいいですね。古き佳きウィーンへの郷愁の思いに浸るだけでなく、2年半も訪れていないウィーンへの思いにも駆られます。
この楽劇《薔薇の騎士》を最初に実演で聴いたのは、ウィーンへの最初の訪問のときのことでした。もう、32年前のことです。そして、楽劇《薔薇の騎士》を聴いた最後の公演は9年前、2013年のドレスデン、ゼンパーオパーでのティーレマン+ガランチャ+シュヴァネヴィルムスの最高の公演でした。何と9年間も聴いていなかったんです。
注目は元帥夫人を歌うアンネッテ・ダッシュ。今日が彼女のロール・デビューだそうです。第1幕は固かった歌唱も第3幕では美しく、しなやかな歌唱になり、3重唱では感動して、涙を流してしまいました。今後の公演では、もっとよい歌唱が聴けそうです。saraiはこの後、聴ける日程はないのが残念です。
思わぬ収穫は【オクタヴィアン】役の小林由佳が声量もあり、素晴らしい歌声を聴かせてくれました。【オックス男爵】役の妻屋秀和も相変わらず、安定した歌唱。もっと色気があるといいんですが、まあ、十分でしょう。この2人が軸になって、今日の公演を盛り立ててくれました。
サッシャ・ゲッツェル指揮の東フィルも最初は少しバランスが悪かったのですが、その後は修正し、第3幕では見事な演奏を聴かせてくれました。
今日の隠れた主役はやはり、この楽劇を作り上げた3人。R.シュトラウス、ホフマンスタール、マックス・ラインハルトです。繊細にして絢爛豪華な素晴らしいオペラです。どの幕も聴き応え十分。第3幕の終盤の素晴らしさはあり得ないと思うほどです。新国立劇場がここまで仕上げたことには脱帽です。海外に行かなくても、ここまでのオペラを味わわせてくれるとは・・・。saraiはこの作品は好きでよく聴いてきましたが、海外か、海外のオペラハウスの引っ越し公演でしか聴いたことがありませんでした。これなら、十分満足できます。と言いつつ、ウィーンへの思いを募らせてしまったんですけどね。

今シーズンから会員になったばかりですが、毎回、満足して新国立劇場のオペラ公演を聴いています。もちろん、来シーズンも会員継続の申し込みをしました。いつになったら、海外でオペラが聴けるか、分かりませんが、新国立劇場で十分、満足しています。


今日のキャストは以下です。

  リヒャルト・シュトラウス 薔薇の騎士

【指 揮】サッシャ・ゲッツェル
  【演 出】ジョナサン・ミラー
  【美術・衣裳】イザベラ・バイウォーター
  【照 明】磯野 睦
  【再演演出】三浦安浩
  【舞台監督】髙橋尚史
  【合唱指揮】三澤洋史
  【合唱】新国立劇場合唱団
  【児童合唱】多摩ファミリーシンガーズ
  【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

【元帥夫人】アンネッテ・ダッシュ
  【オックス男爵】妻屋秀和
  【オクタヴィアン】小林由佳
  【ファーニナル】与那城 敬
  【ゾフィー】安井陽子
  【マリアンネ】森谷真理
  【ヴァルツァッキ】内山信吾
  【アンニーナ】加納悦子
  【警部】大塚博章
  【元帥夫人の執事】升島唯博
  【ファーニナル家の執事】濱松孝行
  【公証人】晴 雅彦
  【料理屋の主人】青地英幸
  【テノール歌手】宮里直樹
  【帽子屋】佐藤路子
  【動物商】土崎 譲

最後に予習についてですが、さすがに聴きませんでした。聴くとしたら、伝説のクライバー指揮の公演でしょうが、これは何度も繰り返し視聴しました。



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藤田真央のシューベルト、シューマンの最高の演奏に感動!@東京オペラシティ コンサートホール 2022.4.11

藤田真央は絶好調。ロマン派の作品の演奏ではモーツァルトを弾いているときとは打って変わって、燃焼度の高い演奏を聴かせてくれます。特にシューベルトとシューマンではこれぞ天才というパーフェクトで深みのある演奏を聴かせてくれます。saraiが大好きなシューマンとシューベルトでこういう演奏を聴かされると、嬉しくなってしまいます。

シューベルトの3つのピアノ曲 D946はシューベルトの最晩年の作品。3つの遺作ソナタとはまた違った凄みがある作品ですが、藤田真央は何かに憑かれたような直線的な演奏で聴く者を魅了してくれます。シューベルトの作品がそのままシューマンの世界につながっていることを初めて実感させられました。シューベルトもシューマンと同様に狂気の世界に足を踏み入れていることを藤田真央の演奏は教えてくれます。パッションと抒情が交錯するような演奏にただただ魅了されました。テクニックと音楽性が一体化したような高次元の音楽・・・藤田真央の上昇はどこまでの高みに達するのでしょうか。うーん、3つの遺作ソナタも聴いてみたくなります。

シューマンのピアノ・ソナタ 第2番は今年1月にこのオペラシティのリサイタルで聴いたばかりですが、こんなに凄い演奏だったのでしょうか。ソナタでありながら、ソナタでないような音楽。シューマンのピアノ曲では幻想曲やクライスレリアーナに比べて評価が低いように思えますが、藤田真央の演奏で聴くと、どうしてどうして、これはシューマンの傑作中の傑作に思えます。第1楽章の燃え上がるようなロマンは狂気をはらみ、圧倒的な高みに我々を誘います。第2楽章は歌曲をもとにしているそうですが、むしろ、コラールのような静謐さでただならぬ思いにさせます。無論、シューマンらしく、曲想が奔放に切り替わるのも魅力です。第2楽章まで聴いたところで、藤田真央の天才的な演奏に圧倒されます。第3楽章は一気呵成に突き進み、第4楽章は彼岸のようなところにある音楽が奏でられます。コーダは身震いするようなレベルの物凄い演奏。凄いものを聴いてしまったという感覚に震撼します。

今日の唯一の不満はブラームスの選曲。主題と変奏ではなく、晩年の作品116から作品119の間のどれかを弾いてもらいたかった。そう思っていると、アンコールの最後の曲がOp.118の中の1曲。なんとも美しい演奏でした。

藤田真央はモーツァルトもいいけど、ドイツ・オーストリアのロマン派もいいね。弱音を活かしたウィーン風とも思える演奏が素晴らしい。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  ピアノ:藤田真央

  モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第17番 変ロ長調 K.570
  シューベルト:3つのピアノ曲 D946

   《休憩》

  ブラームス:主題と変奏 ニ短調 Op.18b
  クララ・シューマン:3つのロマンス Op.21
  ロベルト・シューマン:ピアノ・ソナタ 第2番 ト短調 Op.22


   《アンコール》
     モーツァルト:ロンド ニ長調 K.485
     ラヴェル:ハイドンの名によるメヌエット
     J.S.バッハ/ラフマニノフ編:パルティータ 第3番 ホ長調 BWV1006より ガヴォット
     ブラームス :6つの小品 Op.118 から 第5曲 ロマンス ヘ長調


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のモーツァルトのピアノ・ソナタ 第17番を予習したCDは以下です。

  マリア・ジョアン・ピリス 1974年1-2月 東京、イイノ・ホール セッション録音

若きピリスが純粋無垢なモーツァルトを聴かせてくれます。後にDGで再録音したものとは一味違っています。saraiが最も愛好してやまないモーツァルトのピアノ・ソナタ全集です。


2曲目のシューベルトの3つのピアノ曲を予習したCDは以下です。

  グリゴリー・ソコロフ/ワルシャワ&ザルツブルク・ライヴ 2013年5月12日 ワルシャワ・フィルハーモニック・ホール ライヴ録音

ソコロフとしても、かなり意気込んだ演奏。


3曲目のブラームスの主題と変奏を予習したCDは以下です。

  ラドゥ・ルプー 1981年7月 ロンドン セッション録音

ルプーらしい美しい響きの演奏。


4曲目のクララ・シューマンの3つのロマンス Op.21を予習したCDは以下です。

  ヨゼフ・デ・ベーンハウアー 2001年8月 セッション録音

ベルギーの熟練ピアニストであるヨゼフ・デ・ベーンハウアーの『クララ・シューマン (1819-1896):ピアノ作品全集』(CD3枚)に含まれています。ロマンティックで美しい演奏です。


5曲目のシューマンのピアノ・ソナタ 第2番を予習したCDは以下です。

  スヴィヤトスラフ・リヒテル/リヒテル・イン・イタリー 1962年 イタリア ライヴ録音
  マルタ・アルゲリッチ 1971年6月 ミュンヘン、科学アカデミー、プレナールザール セッション録音

リヒテルの西側デビュー当時の演奏。以前聴いたキエフでのライヴ録音と同様にリヒテルらしい突っ込んだ演奏。一方、アルゲリッチの演奏も切れ味鋭い圧巻の演奏。



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       藤田真央,  

劇的緊張感に満ちたマタイ受難曲、粒ぞろいの独唱に圧巻の合唱、とりわけ、身を清めるシャワーの如きコラールに深く感銘:バッハ・コレギウム・ジャパン@東京オペラシティコンサートホール 2022.4.15

295年前の聖金曜日にライプツィヒの聖トーマス教会で初演されたマタイ受難曲。今年も聖金曜日に聴いたバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の演奏はこれまでと一味違って、力強い演奏が印象的でした。これまでロマンティックな傾向になってきていた演奏スタイルが劇的緊張感に満ちたものになりました。エヴァンゲリスト役のトマス・ホッブスの存在が大きかったのではないかと思います。もちろん、すべてを仕切ったのは指揮者の鈴木雅明です。エヴァンゲリスト役のトマス・ホッブスの多彩な表現を活かして、すべてのパートを力強い表現でまとめあげたようです。その結果は素晴らしい演奏になりました。saraiもこのマタイ受難曲を聴くのは今回で10回目になりますが、今日の素晴らしい演奏に対して、何か、評論めいたことを書く以前に最高レベルの演奏者たちへのリスペクトの気持ちを表明しておきたいと思います。本当に彼らの音楽的レベルは尊敬に値するものでした。

いつものことですが、マタイ受難曲を聴くという行為は襟を正しながら、真剣勝負に向かい合う気持ちになります。己のおかしてきた罪や恥ずべき行いを省みながら、この神聖な作品で魂を洗い清める思いになります。自分にそう思わせるような破格の音楽です。
冒頭の音楽は少しざらつくような感じがありましたが、BCJの力強い合唱が始まると、その美しさに魅了されていきます。
エヴァンゲリスト役のトマス・ホッブスが登場すると、力強さと繊細さを兼ね備えた多彩な表現に圧倒されます。こんな素晴らしいエヴァンゲリストは聴いたことがありません。櫻田 亮のエヴァンゲリストも素晴らしいのですが、トマス・ホッブスの劇的な表現はマタイ受難曲の語り部として、実に物語の進行を分かりやすく表現してくれます。それにとても美声でソットヴォーチェの表現が巧みです。
アルトのベンノ・シャハトナーも美声で力強い歌唱で続きます。そして、最高の名曲、《エルバルメ・ディッヒ、マイン・ゴット(憐れみたまえ、我が神よ)》のアリアでは、若松夏美のオブリガートヴァイオリンの名演も相俟って、異次元のような音楽が成立します。カウンターテノールでこんな素晴らしい歌唱を聴いたことがありません。saraiにとって、この曲だけは1959年録音のカール・リヒター盤のアルト歌手、ヘルタ・テッパー以上の歌唱はなかったのですが、今日のベンノ・シャハトナーの歌唱はそれに並び立つものです。感動で涙が滲みました。
ソプラノのハナ・ブラシコヴァも期待通りの歌唱。菅きよみのフラウト・トラヴェルソのソロが主導して、アウス・リーベAus Liebe、ヴィル・マイン・ハイラント・シュテルベンWill Mein Heiland Sterben(愛故にわが救い主は死にたまわんとす)と澄み切った声で歌ってくれました。満足です。でも、これは菅きよみのフラウト・トラヴェルソが素晴らしかったです。
海外勢の歌手3人が素晴らしい歌唱を聴かせてくれましたが、脇を固める日本人歌手たちも見事な歌唱でした。とりわけ、イエス役の加耒徹の堂々とした歌唱は圧巻でした。ともかく、自信に満ち溢れた歌唱には彼がさらに一段高いステージに上ったことを確信させてもらうものでした。

そして、やはり素晴らしかったのはマタイ受難曲の中核をなすコラールの数々です。中でも5回登場する受難コラールは西洋音楽の最高峰であるマタイ受難曲の中の音楽を超える特別のものです。BCJは合唱と器楽のありったけの力でこの受難コラールを歌い上げてくれます。それも5回とも表現を変えながら、最高のものをもたらしてくれます。特に4回目に登場する第54曲のコラール「おお、血と涙にまみれし御頭」の極限に至るような美しさは力強さもあって格別でした。繰り返しでぐっと抑えた表現の優しさは聴く者すべてを慰撫するかのようです。最後の5回目の登場はイエスが十字架で亡くなった直後に歌われます。
第62曲の コラール「いつの日かわれ去り逝くとき」です。このフリギア旋法で歌われるコラールはすべての人々に優しく救いをもたらすようにしみじみと歌われます。頭を垂れて、じっと聴き入りました。BCJの最高の音楽です。コラール以外もBCJの合唱はすべて素晴らしいものでした。合唱と言っても、一人一人のレベルが独唱者のレベルであるのだから、並みの合唱ではありません。

指揮の鈴木雅明が見事であったことは言うまでもありません。今回は違った引き出しでの表現を聴かせてくれましたが、ますます、高みに上り詰めていきそうです。来年のBCJのマタイ受難曲の演奏が今から楽しみです。


今日のプログラムは以下です。


  指揮:鈴木雅明
  エヴァンゲリスト(テノール):トマス・ホッブス
  イエス(バス):加耒徹
  ソプラノ:ハナ・ブラシコヴァ、中江早希
  アルト:ベンノ・シャハトナー、青木洋也
  テノール:櫻田 亮
  バス:渡辺祐介
  フラウト・トラヴェルソ/リコーダー:菅きよみ
  オーボエ:三宮正満
  ヴァイオリン(コンサートマスター):若松夏美、高田あずみ
  チェロ:山本徹
  ヴィオラ・ダ・ガンバ:福沢宏
  チェンバロ:鈴木優人
  合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン


J. S. バッハ

マタイ受難曲 BWV 244

第1部

 《休憩》

第2部


最後に予習について、まとめておきます。

以下のCDを聴きました。

 フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮コレギウム・ヴォカーレ 1998年8月25-29日、la Grande Salle de l'Arsenal de Metz セッション録音
  イアン・ボストリッジ(福音史家)、フランツ・ヨゼフ・ゼーリヒ(イエス)
  シビッラ・ルーベンス、アンドレアス・ショル、ヴェルナー・ギーラ、
  ディートリヒ・ヘンシェル

独唱に若干、不満が残ります。特にCTのアンドレアス・ショルは確かに美声ですが、気魄に欠けています。しかし、合唱は絶品。コラールの美しさに魅了されて、総合的には満足しました。



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       バッハ・コレギウム・ジャパン,  

傑出した女声歌手たち、砂川涼子、安井陽子 《魔笛》@新国立劇場 2022.4.16

全員、日本人歌手。コロナ禍で代役になったためではありません。女性歌手たちの歌唱が傑出していました。特に【パミーナ】の砂川涼子の美声が素晴らしく、また、【夜の女王】の安井陽子が歌う有名なアリアが完璧でした。
序曲での東フィルの演奏が見事で、とりわけ、弦楽セクションの繊細な響きが最高でした。
【演出】のウィリアム・ケントリッジですが、【美術】のウィリアム・ケントリッジが素晴らしかったと言ったほうがいいでしょう。まるで、美術展の映像インスタレーションを見ている感覚に陥りました。美術と音楽の融合したオペラですね。夜の女王のアリアでの舞台効果はとても美しくて、安井陽子の見事な歌唱も相俟って、よい意味でオペラの一シーンには思えないほどでした。

目にも耳にも心地の良いオペラでした。もう、これ以上書くことはありませんが、それも何なので、おまけにモーツァルトがこの魔笛を作曲した小屋をご紹介しましょう。2017年のザルツブルク音楽祭の際にモーツァルテウム大ホールStiftung Mozarteum Grosser Saalの中庭の端っこに移設してあった魔笛の作曲小屋を目撃しました。ちなみにこのとき聴いたのは、アンドラーシュ・シフのピアノ・リサイタルでした。

2022041602.jpg



この作曲小屋は興行主でパパゲーノも歌ったシカネーダーがモーツァルトの便宜を図って、ウィーンのフライハウス内の東屋を提供して、モーツァルトはそこで魔笛を作曲しました。小屋の形態はマーラーの作曲小屋に雰囲気が似ていますね。この小屋が現在はモーツァルテウム財団の所有になり、ザルツブルクに移設してあります。

2022041601.jpg



モーツァルトが最晩年に心血を注いだ最後のオペラを書いた作曲小屋ですから、この小屋を見ると感慨一入です。


今日のキャストは以下です。

  モーツァルト 魔笛

【指 揮】オレグ・カエターニ
  【演 出】ウィリアム・ケントリッジ
  【美 術】ウィリアム・ケントリッジ、ザビーネ・トイニッセン
  【衣 裳】グレタ・ゴアリス
  【照 明】ジェニファー・ティプトン
  【プロジェクション】キャサリン・メイバーグ
  【再演演出】澤田康子
  【舞台監督】村田健輔
  【合唱指揮】三澤洋史
  【合唱】新国立劇場合唱団
  【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

【ザラストロ】河野鉄平
  【タミーノ】鈴木 准
  【弁者・僧侶Ⅰ・武士Ⅱ】町 英和
  【僧侶Ⅱ・武士I】秋谷直之
  【夜の女王】安井陽子
  【パミーナ】砂川涼子
  【侍女I】増田のり子
  【侍女Ⅱ】小泉詠子
  【侍女Ⅲ】山下牧子
  【童子I】前川依子
  【童子Ⅱ】野田千恵子
  【童子Ⅲ】花房英里子
  【パパゲーナ】三宅理恵
  【パパゲーノ】近藤圭
  【モノスタトス】升島唯博

最後に予習について、まとめておきます。

以下のCDを聴きました。

 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィル 1949年7月27日、ザルツブルク音楽祭 ライヴ録音
  ヨーゼフ・グラインドル、ヴィルマ・リップ、ヴァルター・ルートヴィヒ、イルムガルト・ゼーフリート、カール・シュミット・ヴァルター

いやはや、これが魔笛なのでしょうか。まるでワーグナーのパルジファルを聴いているような気にさえなってしまいます。やはり、フルトヴェングラーは凄い。歌手では、パミーナを歌うゼーフリートのチャーミングさが素晴らしいです。



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

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ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

通りすがりさん

コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

05/13 23:47 sarai
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