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金川真弓のブラームスのヴァイオリン協奏曲は期待ほどではなかったものの、チャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」は素晴らしい演奏  小泉和裕&神奈川フィルハーモニー管弦楽団@みなとみらいホール 2024.1.13

金川真弓のブラームスのヴァイオリン協奏曲を聴くのはこれが2度目。前回は第1楽章が固かったものの、第2楽章以降は見違えるような演奏で会心の出来でした。
今日は第1楽章から余裕の演奏。持ち味である透き通るような高域の響きの美しさに魅了されます。ただ、前回と違って、逆に緊張感が欠けて、スリリングさのない演奏です。第2楽章以降も安定感のある完璧な演奏でヴァイオリンの響きの美しさは最高ですが、ぐっと心を鷲掴みにするような魅力がもう一つ。とっても素晴らしい演奏でしたが、saraiの期待通りとはいきませんでした。
神奈川フィルの演奏はブラームスらしい厚みのある響きが今一つ。神奈川フィルは久しぶりに聴きますが、こんなものでしょうか。
全体にとてもよい演奏ではあるものの、ブラームスの魅力が出し切れていないのが残念でした。

休憩後、チャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」。これはまず、先ほどのブラームスとは打って変わって、オーケストラの美しい響きに魅了されます。神奈川フィルって、こんなに美しいサウンドだったっけと驚くほどです。その美しい響きでロシア民謡のメロディーをベースとした音楽をこれでもか、これでもかと響き渡らせていきます。全編、実にメロディアスで気難しいところは一切なし。第1楽章、第2楽章と弦楽アンサンブルが中心に民謡調の音楽を歌い上げていきます。実に心地よい演奏です。小泉和裕の指揮が実に素晴らしく、神奈川フィルもその指揮に同調して、最高の演奏を聴かせてくれます。第2楽章、終盤ではホルンも見事な演奏を聴かせてくれます。第3楽章のスケルツォは生きのよい音楽を奏でます。ますます、アンサンブルが整います。
第4楽章にはいると、また、ロシア民謡をベースとした音楽が魅力たっぷりに歌われます。小泉和裕の指揮、神奈川フィルのアンサンブルがマッチして、素晴らしい音楽を奏で、やがて、輝かしいコーダで音楽は高潮して、最高のフィナーレ。

これが今年の最初のコンサート。しばらくぶりのコンサートでしたが、これからはどしどし聴きます。音楽って素晴らしい!


今日のプログラムは以下です。

  指揮:小泉和裕(特別客演指揮者)
  ヴァイオリン:金川真弓
  管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団  コンサートマスター:石田泰尚

  ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77

   《休憩》

  チャイコフスキー:交響曲第1番ト短調 Op.13「冬の日の幻想」
  

最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のブラームスのヴァイオリン協奏曲は以下のCDを聴きました。

 ダヴィッド・オイストラフ、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 1969年5月13,16日、セヴェランス・ホール クリーヴランド セッション録音
 
saraiが昔からずっと聴いている演奏です。やはり、素晴らしい。。


2曲目のチャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」は以下のCDを聴きました。

 エフゲニ・スヴェトラーノフ指揮ソヴィエト国立響 1990年 東京、オーチャードホール ライヴ録音

本場ものの演奏はロシア民謡のメロディーがたっぷり聴けます。



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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

       金川真弓,  

川瀬賢太郎の自在でノリのよい指揮のニューイヤーコンサートは楽しさの極み 日本フィルハーモニー交響楽団@東京芸術劇場 2024.1.14

今日は川瀬賢太郎指揮の日本フィルでニューイヤーコンサート。やはり、年始はこういうガラコンサートもいいものです。

前半は何故か、チャイコフスキー。
まずは歌劇《エフゲニー・オネーギン》より「ポロネーズ」です。川瀬賢太郎の活きのよい指揮で弾むようなポロネーズです。着飾った紳士・淑女が手を組んで舞踏会に入場する様が目に浮かびます。今月は新国のオペラで歌劇《エフゲニー・オネーギン》を見ますから、もう一度、この曲を聴くことができます。楽しみです。今日の演奏はとても素晴らしいものでした。

次はピアノ協奏曲第1番。清水和音の張りのあるタッチの演奏でした。saraiの趣味では、上原彩子か松田華音のようなロシア音楽の得意なピアニストの演奏で聴きたかったのが正直なところですが、それなりに楽しめました。

後半はまさにニューイヤーコンサート。
J.シュトラウスⅡ世のポルカ《ハンガリー万歳》は意外に川瀬賢太郎の素晴らしいリズム感の指揮で本場ものにも負けない演奏です。
次はハンガリーつながりでブラームスのハンガリー舞曲第5番。これは川瀬賢太郎が思い切ったテンポの切り替え、そして、ゲネラルパウゼの妙で素晴らしい演奏。まったく、弛緩のない演奏に驚かされました。

次はJ.シュトラウスⅡ世のワルツ《南国のバラ》。曲自体の魅力もあり、ウィンナーワルツの粋を楽しませてもらいました。川瀬賢太郎と日本フィルのコンビの演奏するヨハン・シュトラウスのウィンナーワルツは最高に素晴らしいです。

次はイタリアつながりでレスピーギのリュートのための古風な舞曲とアリアより「シチリアーナ」。日本フィルの弦楽アンサンブルの美しさが最高で、うっとりと聴き入りました。

最後の〆はJ.シュトラウスⅡ世の喜歌劇《こうもり》序曲。先ほどのワルツ《南国のバラ》と同様に素晴らしい演奏でした。これなら、やはり、《美しき青きドナウ》が聴きたくなりますね。

アンコールは期待通り、J.シュトラウスⅠ世のラデツキー行進曲。気持ちよく、手拍子して、新年のスタートを切ることができました。
期待を上回るニューイヤーコンサートでした。


今日のプログラムは以下です。

  日本フィル ニューイヤーコンサート2024

  指揮:川瀬賢太郎
  ピアノ:清水和音
  管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団 コンサートマスター:扇谷 泰朋

  チャイコフスキー:歌劇《エフゲニー・オネーギン》より「ポロネーズ」
  チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 Op.23  
   《アンコール》ラフマニノフ(アール・ワイルド編曲):ヴォカリーズ

   《休憩》
   
  J.シュトラウスⅡ世:ポルカ《ハンガリー万歳》 Op.332
  ブラームス:ハンガリー舞曲第5番
  J.シュトラウスⅡ世:ワルツ《南国のバラ》 Op.388
  レスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリアより「シチリアーナ」
  J.シュトラウスⅡ世:喜歌劇《こうもり》序曲
  
   《アンコール》
   J.シュトラウスⅠ世:ラデツキー行進曲


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のチャイコフスキーの歌劇《エフゲニー・オネーギン》より「ポロネーズ」を予習した演奏は以下です。

 ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1970年12月 ベルリン、イエス・キリスト教会 セッション録音

何も言うことのない演奏。豪華で素晴らしいです。


2曲目のチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を予習した演奏は以下です。

 ニコライ・ルガンスキー、ケント・ナガノ指揮ロシア・ナショナル管弦楽団 2003年2月 セッション録音

ルガンスキーの初期録音。素晴らしい演奏ですが、今なら、もっと素晴らしい演奏が期待できそうです。


3曲目のJ.シュトラウスⅡ世のポルカ《ハンガリー万歳》を予習した演奏は以下です。

 ヴィリー・ボスコフスキー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1958年 ウィーン、ゾフィエンザール セッション録音

定番中の定番。


4曲目のブラームスのハンガリー舞曲第5番を予習した演奏は以下です。

 イヴァン・フィッシャー指揮ブダペスト祝祭管弦楽団 1998年11月、ブダペスト、イタリアン・インスティテュート セッション録音

イヴァン・フィッシャーらしいノリのよい演奏。


5曲目のJ.シュトラウスⅡ世のワルツ《南国のバラ》を予習した演奏は以下です。

 ヴィリー・ボスコフスキー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1962年 ウィーン、ゾフィエンザール セッション録音

定番中の定番。


6曲目のレスピーギのリュートのための古風な舞曲とアリアより「シチリアーナ」を予習した演奏は以下です。

 ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1969年8月 サン・モリッツ セッション録音

磨き抜かれた美しい演奏。


7曲目のJ.シュトラウスⅡ世の喜歌劇《こうもり》序曲を予習した演奏は以下です。

 ジョルジュ・プレートル指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ニューイヤー・コンサート2010 2010年1月1日 ウィーン、ムジークフェライン大ホール ライヴ録音

プレートルの2度目の登場となった2010年のニューイヤー・コンサート。85歳となったプレートルの活き活きとした指揮とウィーン・フィルの美しい演奏はかけがえのないものになりました。なお、プレートルは2017年1月4日に92歳で亡くなりました。



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テーマ : クラシック
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終始、魅了された美しさと表現力にあふれたR.シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」  ヴァイグレ&読売日本交響楽団@サントリーホール 2024.1.16

前半のワーグナーの歌劇「リエンツィ」序曲はヴァイグレのいかにもドイツの歌劇場のカペルマイスターらしい深々として、そして、凛々しい演奏をワクワク感を持ちながら聴き入りました。特に前半のワーグナーの力の入った音楽はとても初期の作品とは思えない哲学的な雰囲気が漂う素晴らしい演奏でした。序曲だけではもったいない感じです。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は新星のヴァイオリニスト、ダニエル・ロザコヴィッチの初お目見えです。もっと若々しい颯爽とした演奏を期待したのですが、何か考え過ぎのような演奏に思えました。会場は沸いていました。

休憩後、R.シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」。昨年秋、ウィーン・フィルの凄い演奏を聴いたばかりですが、ヴァイグレと読響もなかなかやるもんです。冒頭の有名なフレーズはともかく、続くVon den Hinterweltlern(世界の背後を説く者について)にはいると、低音部の深い響きがおどろおどろしい雰囲気を高め、その中で「人間」を象徴する“憧憬の動機”が魅惑的に響いてきます。コラールの陶酔の響きはマーラーを想起させます。Von der Wissenschaft(学問について)では弦の対位法的展開が実に魅力的です。読響の弦楽セクションのレベルの高さが発揮されます。続くDer Genesende(病より癒え行く者)の長大なパートも惹き付けられながら聴き入ります。次の長大なDas Tanzlied(舞踏の歌)では、コンサートマスターの林悠介の独奏ヴァイオリンが美しくて見事です。音楽が高潮する中、突如、真夜中の12時を告げる鐘の音が響きます。終末を告げるような鐘の音の後、音楽は終焉していきます。最後はいつものパターン。第1ヴァイオリンがロ長調の和音(「人間」)を奏で、低音のハ音(「自然」)と結局は調和することなく、暗黒の未来を予言するように、音が途絶えます。とても素晴らしい演奏でした。昨年秋のウィーン・フィルの演奏と比較するのは野暮ですね。しかし、実に感銘深く、魅惑的な演奏でした。

ところで、神奈川フィルを離れた崎谷直人がコンマスの隣に座っていたのは何故?


今日のプログラムは以下です。

  指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
  ヴァイオリン:ダニエル・ロザコヴィッチ
  管弦楽:読売日本交響楽団  コンサートマスター:林悠介

  ワーグナー:歌劇「リエンツィ」序曲
  ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.61
   《アンコール》J. S. バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番 より 第1楽章

   《休憩》

  R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」Op.30
  

最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のワーグナーの歌劇「リエンツィ」序曲は以下のCDを聴きました。

 オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団 1960年2月、3月 ロンドン、キングズウェイ・ホール セッション録音

厳かさを感じる底深い演奏です。


2曲目のベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は以下のCDを聴きました。

 庄司紗矢香、ユーリ・テミルカーノフ指揮サンクト・ペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団 2017年10月 サンクト・ペテルブルク セッション録音 (カデンツァ:庄司紗矢香)
 
庄司紗矢香の瞑想的なヴァイオリンにテミルカーノフが温かく寄り添っています。カデンツァも含めて、庄司紗矢香ならではのベートーヴェンと言えます。


3曲目のR.シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」は以下のCDを聴きました。

 クラウス・テンシュテット指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1989年3月 ロンドン、ワトフォード・タウン・ホール セッション録音

テンシュテットはマーラーだけではなく、こういう凄みのある音楽を演奏することに驚きを禁じ得ません。しかし、少し、マーラー的な要素も感じます。



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ジョン・アダムズの自作自演はミニマリズムの真髄でまさに細胞を活性化する音楽のシャワー エスメ弦楽四重奏団&東京都交響楽団@サントリーホール 2024.1.18

今日は日本でジョン・アダムズの指揮でジョン・アダムズの主要な作品が聴ける記念すべき日になりました。そして、期待していた通りの素晴らしい音楽で心が熱くなりました。ところで、SF小説のペリー・ローダン・シリーズはご存じでしょうか? 世界最長のSF小説でまだ書かれ続けている超大作です。saraiもかつて愛読していました。主人公のペリー・ローダンは不老不死で永遠の若さを誇っていますが、それは細胞活性化シャワーを定期的に浴びているからです(後には細胞活性化装置を身に付けるようになりました)。今日のジョン・アダムズのミニマリズム音楽のリズミカルな音楽は聴く者の心を沸き立たせ、まさに音楽の細胞活性化シャワーを浴びている感覚でした。saraiも10歳ほど若返り、身の心も軽くなりました。冗談ではありませんよ。

最初は日本初演のアイ・スティル・ダンス。終始、ミニマリズム音楽が鳴り続けて、題名通りのダンスミュージックみたいな感じです。まずは小手先調べという感じの比較的短い曲です。細胞活性化にはちょっと不足する感じではあります。

次はエスメ弦楽四重奏団が登場して、弦楽四重奏とオーケストラの協奏曲、アブソリュート・ジェストが演奏されます。この曲は2年半前にカルテット・アマービレ、原田慶太楼指揮東京交響楽団で聴きました。とても素晴らしい演奏で大変、感銘を受けました。そのときのコンサートマスターも今日と同じ水谷晃でした。そのときと今日の違いはカルテットがピンマイクではなく、堂々とスタンド付きマイクを配置していることです。この曲はカルテットの音がオーケストラの音に埋没しないようにマイクで音を増幅するんです。
この曲はベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲を素材というよりもベースにしています。とりわけ、弦楽四重奏曲 第16番のスケルツォが後半は支配的になり、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲を愛する者の心をがっちりと掴みます。もちろん、エスメ弦楽四重奏団のテクニックと熱い演奏は素晴らしいのですが、都響も負けずに素晴らしい演奏を繰り広げます。昨年のコパチンスカヤと熱くて超絶技巧を披露したリゲティのヴァイオリン協奏曲を想起してしまいます。ともかく、エスメ弦楽四重奏団の4人それぞれの音楽レベルが凄く、あっけにとられるような演奏でした。指揮者としてのジョン・アダムズは普通に的確な指揮をしていました。まあ、彼のお墨付きの演奏ということが重要なんですね。都響は協奏曲ということでカルテットを立てたような感じで、引き立て役に徹していましたが、ここぞというときは美しい響きを聴かせてくれました。管も弦も素晴らしく磨き抜かれた響きで満足です。
曲は最初は交響曲第9番のスケルツォを想起させるミニマル音楽が活き活きと演奏されますが、やはり、弦楽四重奏曲 第16番のスケルツォが登場すると心が浮き立ちます。そして、《ハンマークラヴィーア》ソナタや交響曲第8番の動機なども登場して、実に賑やかです。大フーガや弦楽四重奏曲 第14番の動機も登場し、もう、ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲を愛するsaraiの心はもっていかれます。最後はエスメ弦楽四重奏団が高速で突進して、都響も美しい響きで支えて、圧巻のフィナーレ。何とも素晴らしい音楽です。

休憩後は、30代後半のジョン・アダムズが作曲した代表作、ハルモニーレーレが演奏されます。これは3楽章構成のいわば、現代風の交響曲と言えるでしょう。第1楽章は強烈なホ短調の和音が炸裂して始まります。中間部の美しい憧憬の音楽を挟み、ミニマル音楽が活き活きと続きます。第2楽章は現代風に構成したワーグナーのパルジファルの心の痛みを柔らかく表現する美しい逸品です。ジョン・アダムズの意外な一面が聴けます。第3楽章は子守歌ですが、実にエモーショナル。それが延々と続きますが、あっと気が付くと活気あふれるミニマル音楽に変容しています。大きく盛り上がり、これぞミニマル音楽の真髄と感じ入り、冒頭に書いた細胞活性化シャワーがsaraiの全身にふりかかります。まさにエネルギー注入という感じでリズミカルにチャカチャカという音の響きが体に刻み付けられます。ここだけ聴けば、ジョン・アダムズの何たるか、ミニマル音楽の何たるかを理解できます。最高の音の喜びを感じながら、曲は激しく燃え上って、完了。素晴らしい音楽でした。

素晴らしいジョン・アダムズの一夜でした。


今日のプログラムは以下のとおりです。

  指揮:ジョン・アダムズ
  弦楽四重奏:エスメ弦楽四重奏団
  管弦楽:東京都交響楽団 コンサートマスター:水谷晃(ゲストコンサートマスター)

  ジョン・アダムズ:アイ・スティル・ダンス(2019)[日本初演]
  ジョン・アダムズ:アブソリュート・ジェスト(2011)
   《アンコール》ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番 変ロ長調 Op.130より 第2楽章
   
   《休憩》
   
  ジョン・アダムズ:ハルモニーレーレ(1984-85)
   

最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のジョン・アダムズのアイ・スティル・ダンスを予習した演奏は以下です。

 マイケル・ティルソン・トーマス指揮サンフランシスコ交響楽団 2020年1月20日 サンフランシスコ戦争記念舞台芸術センター ライヴ収録 YouTube (演奏は一部だけ)

演奏は一部だけの収録ですが、活気あふれる演奏です。


2曲目のジョン・アダムズのアブソリュート・ジェストを予習したCDは以下です。

 セント・ローレンス弦楽四重奏団、マイケル・ティルソン・トーマス指揮サンフランシスコ交響楽団 2013年5月4日-5日、9日 デイヴィス・シンフォニー・ホール(サンフランシスコ) ライヴ録音

素晴らしい演奏! この作品はサンフランシスコ交響楽団創立100周年を記念して作曲された委嘱作品で、2012年のこのコンビでの世界初演後、世界初録音されたものです。


3曲目のジョン・アダムズのハルモニーレーレを予習したCDは以下です。

 マイケル・ティルソン・トーマス指揮サンフランシスコ交響楽団 2010年12月8-11日 デイヴィス・シンフォニー・ホール(サンフランシスコ) ライヴ録音

これも凄い演奏です。マイケル・ティルソン・トーマスとジョン・アダムズは分かちがたい存在なんですね。



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これぞ、ブラームス《ドイツ・レクイエム》!! 深く感銘 鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパン@東京オペラシティコンサートホール 2024.1.19

鈴木雅明指揮のバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)がブラームス《ドイツ・レクイエム》を演奏するのだから、聴かずにはいられません。結果、こんなに見事な合唱のブラームス《ドイツ・レクイエム》は聴いたことがないと思うほどの素晴らしい演奏でした。
1に合唱、2に合唱、3に合唱という清澄にして、美しいハーモニーの合唱によるブラームス《ドイツ・レクイエム》でした。
昨日のジョン・アダムズ&都響は細胞を活性化する音楽のシャワーでしたが、今日のブラームス《ドイツ・レクイエム》は細胞を浄化する音楽のシャワーでした。saraiの体が活性化した上、さらに浄められました。音楽って、凄い! まるで魔法のようなものです。

今日の演奏を振り返ってみましょう。

シュッツの《主にあって逝く死者は幸せだ》がア・カペラの合唱でこの上なく、美しいハーモニーで歌われます。ポリフォニーの極致です。この後に演奏されるブラームス《ドイツ・レクイエム》が合唱ベースで演奏されることが定義されるかのような前奏曲です。

そして、そのまま、続けて、ブラームス《ドイツ・レクイエム》の演奏が始まります。200年以上の時を隔てた音楽ですが、いささかも違和感は感じません。

第1曲「嘆く者こそ幸せだ」は低音の弦で厳かに立ち上がり、低い合唱のSelig sindと歌う美しい響きで心がすぐに魅了されます。対位法のア・カペラの合唱もあり、ともかく、BCJの合唱に感銘を受けるのみです。

第2曲「人はみな草のようで」も合唱が支配的です。起伏に富む音楽に感銘を受け続けます。

第3曲「主よ、教えたまえ」はバス独唱が主導的に歌い、合唱がひそやかに繰り返します。バスのヨッヘン・クプファーの美しい歌唱、美しいドイツ語に驚愕します。素晴らしいバスです。saraiの目の前で見事な歌唱を聴かせてくれます(saraiは最前列中央に座っています)。いやはや、こんなに素晴らしい喉の歌手がいるとは・・・。ドイツ語のリートを聴きたくなるような美しい声で、力強い歌唱も見事です。この曲だけは合唱はサポート役で主役はバス独唱でした。

第4曲「あなたの住まいは何と麗しいことか」はまた、BCJの合唱が心安らぐような美しいハーモニーを聴かせてくれます。短いながらも対位法のパートもあり、素晴らしい音楽に魅了されます。

第5曲「お前たちは今、打ちひしがれている」はソプラノ独唱の安川みくがオーケストラの後ろの中央に現れて、ひそやかに、そして、ゆったりと歌唱を聴かせてくれます。その透き通るような声は穏やかに続き、最後は合唱と重なって、大いなる慰めを感じさせてくれます。

第6曲「私たちはこの世に」は暗い表情の合唱で始まり、バス独唱のヨッヘン・クプファーが厳しい雰囲気の歌唱で復活と再生を劇的に表現していきます。音楽は突如、高潮していき、弦と管、そして、打楽器が激しく響き渡り、歌唱も最大限まで盛り上がっていきます。ドイツ・レクイエムのクライマックスを形作ります。BCJの管弦楽、合唱が極限の響きで大きな感動を生み出します。そして、長大なフーガが奏でられます。バッハの音楽で鍛え上げられたBCJの真骨頂です。音楽的頂点を極め尽くします。最後は神を賛美しながら、圧巻のフォルテで音楽を閉じます。

第7曲「主にあって逝く死者は幸せだ」は神による祝福を第1曲と呼応するように静謐な合唱が歌います。この最後の合唱で細胞が浄められる思いに至ります。

BCJの合唱によって、このブラームス《ドイツ・レクイエム》を聴く幸せ感で一杯になりました。これこそ、真正のブラームス《ドイツ・レクイエム》ですね。あっ、無論、鈴木雅明の指揮が素晴らしかったのは言うまでもありません。左手を痛めて、肩から吊っていたので、ほぼ、右手1本と体の動作による渾身の指揮でした。


今日のプログラムは以下です。


  指揮:鈴木雅明
  ソプラノ:安川みく
  バス:ヨッヘン・クプファー
  合唱:バッハ・コレギウム・ジャパン
   ソプラノ:中江早希、松井亜希
   アルト:青木洋也、久保法之、布施奈緒子
   テノール:谷口洋介
   バス:浦野智行、加藤宏隆、駒田敏章、渡辺佑介
  管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン コンサートマスター:寺神戸亮
   ヴァイオリンⅠ:白井圭
   ヴァイオリンⅡ:若松夏美
   ヴィオラ:成田寛
   チェロ:山本徹、上村文乃
   コントラバス:西山真二
   フルート:鶴田洋子  
   オーボエ:三宮正満、荒井豪
   クラリネット:満江菜穂子
   ファゴット:岡本正之
   コントラファゴット:トマシュ・ヴェソウォフスキ
   ホルン:福川伸陽
   トランペット:斎藤秀範
   トロンボーン:清水真弓
   ハープ:長澤真澄
   オルガン:中田恵子 


  シュッツ:《主にあって逝く死者は幸せだ》SWV 391
  ブラームス:ドイツ・レクイエム Op.45
   第1曲「嘆く者こそ幸せだ」
   第2曲「人はみな草のようで」
   第3曲「主よ、教えたまえ」
   第4曲「あなたの住まいは何と麗しいことか」
   第5曲「お前たちは今、打ちひしがれている」
   第6曲「私たちはこの世に」
   第7曲「主にあって逝く死者は幸せだ」

 《休憩》なし


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のシュッツの《主にあって逝く死者は幸せだ》SWV 391は以下のCDを聴きました。

 ジョン・エリオット・ガーディナー指揮モンテヴェルディ合唱団 2007年10月 セッション録音

驚くほど美しく、厳かな演奏です。ブラームスのドイツ・レクイエムのアルバムに併録されています。


2曲目のブラームスのドイツ・レクイエムは以下の演奏を聴きました。

 オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団・合唱団 1961年1月2日、3月21,23,25日、4月26日、ロンドン、キングズウェイ・ホール セッション録音
  エリーザベト・シュヴァルツコップ(s)、
  ディートリヒ・フィッシャー・ディースカウ(br)

圧倒的に素晴らしい演奏。難を言えば、合唱団がオーケストラに埋もれがち。



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       バッハ・コレギウム・ジャパン,  

カーチュン・ウォンと上原彩子の二人の天才が邂逅 美し過ぎるパガニーニ・ラプソディー 繊細で魂の震える幻想交響曲 日本フィルハーモニー交響楽団@サントリーホール 2024.1.21

カーチュン・ウォンと日本フィルは最高の関係になって、素晴らしい演奏を聴かせてくれます。日本フィルは大変な逸材を指揮者に迎えましたね。

冒頭の伊福部昭の舞踊曲《サロメ》より「7つのヴェールの踊り」は素晴らしい演奏。前回の伊福部昭のオーケストラとマリンバのための《ラウダ・コンチェルタータ》も見事なものでしたが、今や、カーチュンは伊福部作品の第1人者と言ってもよいでしょう。カーチュンの緻密な指揮、そして、音楽の解釈能力の高さにはいつもながら舌を巻きます。弦をうまくコントロールして、R.シュトラウスの同名作品に負けず劣らずの美しい演奏を実現したことに驚くばかりです。カーチュンに影響されて、saraiまでも伊福部昭の音楽の魅力にはまっていきそうです。

次は上原彩子が登場して、ラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲を演奏します。ラフマニノフを演奏させたら、彼女の右に出る人はいません。それに今日は何とカーチュンとの夢の共演です。期待せずにはいられません。そして、そのsaraiの期待を嘲笑うように、そんな期待のレベルでは足りないと思わせるような上原彩子の凄いピアノが鳴り響きます。もう何も言うことがありません。上原彩子の演奏は最初から全開モードで切れがよく、そして、美しいタッチ、さらにこれまで彼女のピアノでは聴いたことがない分厚い響きで、ただただ、saraiを魅了し尽くします。とりわけ、第18変奏の有名なフレーズの美しい演奏の魅力には呆然と聴き入るばかりでした。これほどの完成度の演奏は聴いたことがありません。そして、第19変奏以降は物凄いレベルの音楽を展開し、一気にコーダまで駆け抜けます。天才ピアニストがさらに精進して、無限の境地に分け入ったかのようです。さすがのカーチュンもサポート役にまわるだけでした。上原彩子はいつもの気魄だけでなく、ロマンティックな情熱も感じさせるものでした。さらにアンコールで弾いたラフマニノフの前奏曲の美しかったこと! 多分、この曲を上原彩子が弾くのを聴くのは3度目ですが、これほどの高みに達するとは凄い。是非、ラフマニノフの前奏曲全曲をリサイタルで聴かせてもらいたいものです。(待てずに彼女が前奏曲Op.32を弾いたCDを注文しました。リサイタルで聴いたものですが・・・)

後半は完全にカーチュンが主役。ベルリオーズの幻想交響曲です。saraiが少年時代から聴き込んできた曲で完全に頭に入っています。カーチュンが暗譜で指揮するのとは、もちろんレベルが違いますけどね。この知り尽くした曲をカーチュンは丁寧にそして、繊細に表現してくれました。パーフェクトと言いたいくらいです。何と言っても弦楽セクションを自在に操って、恋に熱狂した青年の心の襞を美しく、そして哀しく奏で上げてくれました。第1楽章、第3楽章、第5楽章は最高の音楽でした。無論、第2楽章のワルツも第4楽章の断頭台への行進もこの上ない演奏でしたが、やはり、音楽のこくの深さは奇数楽章が優ります。
前回のショスタコーヴィチの交響曲第5番でも書きましたが、日本フィルの弦のアンサンブルはベルリン・フィル並みですが、さすがに管はまだまだです。木管のレベルアップを望みたいものです。カーチュン・ウォンのいるうちに管も世界のトップレベルになることを願います。
今回は、指揮者コールが大変、盛り上がりました。高揚した気分のsaraiはまたまた、足の痛みは吹っ飛んで、快調な足取りでサントリーホールを後にしました。

今年のマーラーの交響曲第9番が楽しみでなりません。既に購入済の1日分に加えて、もう1日のチケットも購入してあります。今年はカーチュン・ウォンの年になるかもしれません。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:カーチュン・ウォン[首席指揮者]
  ピアノ:上原彩子
  管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団 コンサートマスター:木野 雅之

  伊福部昭:舞踊曲《サロメ》より「7つのヴェールの踊り」
  ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43
  
   《アンコール》ラフマニノフ:前奏曲 ト長調 Op.32-5

   《休憩》
   
  ベルリオーズ:幻想交響曲 Op.14


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目の伊福部昭の舞踊曲《サロメ》を予習した演奏は以下です。

 広上淳一指揮日本フィルハーモニー管弦楽団 1995年8&9月 セッション録音

録音も演奏も素晴らしいです。


2曲目のラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲を予習した演奏は以下です。

 ニコライ・ルガンスキー、トゥガン・ソヒエフ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2016年10月15日 ベルリン・フィルハーモニー ライヴ収録 (ベルリン・フィル デジタル・コンサートホール)

ルガンスキーのピアノは見事な冴えです。聴き応え十分。


3曲目のベルリオーズの幻想交響曲を予習した演奏は以下です。

 クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2013年5月19日 ベルリン・フィルハーモニー ライヴ収録 (ベルリン・フィル デジタル・コンサートホール)

クラウディオ・アバド、亡くなる半年前のラスト・コンサートでの指揮です。こんな素晴らしい指揮は見たことがありません。手の動きは大きくありませんが、必要十分で、すべての楽器に気を配った素晴らしいものです。その指揮に完全に反応しているベルリン・フィルの演奏の見事なことも驚くほどです。最高の幻想交響曲を聴いた思いです。アバドは80歳で亡くなりましたが、惜しいことをしたと今更ながら感じました。生きていれば、どんな素晴らしい演奏が残されたことでしょう。アバドの最高の演奏を聴きました。



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       上原彩子,        カーチュン・ウォン,  

エスメ・クァルテットのメンデルスゾーンは青春の残滓を思わせる圧巻の演奏@鶴見サルビアホール3F音楽ホール 2024.1.22

韓国出身の女性4人からなるエスメ・クァルテットはドイツを中心に活躍中。先週、ジョン・アダムズとの共演でアブソリュート・ジェストの素晴らしい演奏を聴いたばかりです。カルテットのコンサートを聴くのは2年前、ここ鶴見サルビアホールで聴いて以来、2回目です。前回はメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲 第6番の素晴らしい演奏を聴いて、大変、感銘を受けました。そのときとはヴィオラのメンバーが交代になっています。

今日も前回と同様にまずはベートーヴェンの弦楽四重奏曲の作品18の中の1曲から始まります。今回は第2番。第1楽章を弾き始めると、挨拶の主題が爽やかに響きます。美しいアンサンブルにぐっと惹き込まれます。ベートーヴェン初期の作品とは言え、とてもそうは思えない完成度の高さでsaraiもとっても好きな曲です。素晴らしいアンサンブルの中、第1ヴァイオリンのペ・ウォンヒの美しい響きが光ります。第2楽章は抒情的な音楽がエスメ・クァルテットの美しい響きで精緻に演奏されます。第3楽章、第4楽章は軽快に気持ちよく音楽が流れます。ぐっと惹き込まれるような魅力的な演奏でした。

次はメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲 第2番。メンデルスゾーンが最初に作曲した(番号付きでは)第2番は彼の早熟な才能が発揮されたとても美しい作品で、エスメ・クァルテットはその美を遺憾なく聴かせてくれました。それに単に美しいのではなく、思いつめたような青春の哀感がそこかしこに感じられる演奏で、強い感銘を覚えます。抒情的な第2楽章を除くと、すべて短調の暗い色調で覆われており、特に第1楽章と第4楽章の暗いロマンがエスメ・クァルテットの4人で表出されていました。第3楽章はメロディアスな曲でとても気持ちのよい演奏が繰り広げられました。早熟な天才、メンデルスゾーンが18歳で作曲した傑作をエスメ・クァルテットが格調高く歌い上げてくれました。

後半はブラームスの弦楽四重奏曲 第1番。これは実にシンフォニックな演奏。4人が分厚いハーモニーを聴かせてくれました。特に低域を担当するヴィオラとチェロの二人がアンサンブルをしっかりと支えて、ブラームスの構築性の高い音楽を聴かせてくれました。まるで、ブラームスの交響曲を1曲、聴いたような気分になりました。

エスメ・クァルテットは個性的で表現力のあるカルテット。その力を存分に発揮したコンサートでした。次の来日が楽しみなカルテットです。


今日のプログラムは以下です。

  弦楽四重奏:エスメ・クァルテット
   ペ・ウォンヒ vn  ハ・ユナ vn
   ディミトリ・ムラト va  ホ・イェウン vc

  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第2番 Op.18-2
  メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第2番 Op.13

   《休憩》

  ブラームス:弦楽四重奏曲 第1番 Op.51-1

   《アンコール》
   シューマン:トロイメライ


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第2番は以下のCDを聴きました。

   リンゼイ弦楽四重奏団 1979年 ウェントワース、ホーリー・トリニティ教会 セッション録音

リンゼイ弦楽四重奏団のベートーヴェン弦楽四重奏曲全集の旧盤です。新盤よりもしっくりくる演奏です。


2曲目のメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲 第2番は以下のCDを聴きました。

 アルテミス四重奏団 2013年5月、9月 セッション録音
  ヴィネタ・サレイカ(Vn), グレゴール・ジーグル(Vn), フリーデマン・ヴァイグレ(Va), エッカート・ルンゲ(Vc)

世評に違わず、素晴らしい演奏です。なお、第1ヴァイオリンのヴィネタ・サレイカはその後、ベルリン・フィルに加入し、昨年、ベルリン・フィルで初めての女性コンサートマスターに昇格。今シーズンの開幕コンサートでは、コンサートマスターとして、R.シュトラウスの《英雄の生涯》で見事なソロ演奏を聴かせてくれました。


3曲目のブラームスの弦楽四重奏曲 第1番は以下のCDを聴きました。

 アルテミス四重奏団 2014年6月, ベルリン、テルデックス・スタジオ セッション録音
  ヴィネタ・サレイカ(Vn), グレゴール・ジーグル(Vn), フリーデマン・ヴァイグレ(Va), エッカート・ルンゲ(Vc)
 
情熱的で見事な演奏です。なお、ヴィオラのフリーデマン・ヴァイグレは、この翌年、2015年7月に亡くなりました。ブラームスの第3番を併録した、このアルバムは、彼の遺作となってしまいました。このフリーデマン・ヴァイグレの兄が読響の首席指揮者のセバスティアン・ヴァイグレだそうです。



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カーチュン・ウォンが児玉麻里・桃と珍しい演目に挑み、圧巻の演奏 日本フィルハーモニー交響楽団@サントリーホール 2024.1.26

カーチュン・ウォンは毎回、果敢に日本やアジアの埋もれた作品に挑み続けます。

冒頭のチナリー・ウンのグランド・スパイラルは明快な響きながら、そこにどういう音楽があるのか、聴きとるのは難しい感じです。ただ、音の響きを楽しめばよかったのかもしれません。中国風の美しいメロディーが浮き出てきたのだけは分かりましたが、ベースにある賑やかな音響は何とも捉えがたいものでした。チナリー・ウンの出身のカンボジアにルーツを持つ音楽なのかな。作曲後、30年以上経っての日本初演です。

次はピアノの児玉麻里と児玉桃の姉妹が登場して、まずはプーランクの2台のピアノのための協奏曲を演奏します。3楽章から成る新古典主義の耳に心地よい音楽です。児玉麻里と児玉桃はこれまでにそれぞれ、1回ずつ聴いたことがありますが、いかにも今日のプーランクにぴったりという音楽性のお二人です。もちろん、それぞれ、持ち味は違いますけどね。ともかく、児玉麻里は近現代音楽に向いたテクニック抜群で、児玉桃はタッチの美しいピアノですっきりとした音楽が似合います。そのお二人の共通項はこのプーランクの新古典主義音楽でしょう。実際、爽やかな切れ味の心地よい演奏を聴かせてくれました。そして、カーチュンのサポートはお見事の一語。珍しい音楽を素晴らしく演奏してくれて満足です。第2楽章のラルゲットはモーツァルトへのオマージュでなかなかの逸品でした。モーツァルトの原曲があるのかと思っていましたが、どうやら、プーランクがモーツァルト風の音楽を創作したようです。達者でお洒落ですね。

後半はピアノの配置を変えて、また、児玉麻里と児玉桃の姉妹の熱演です。コリン・マクフィーのタブー・タブーアンという2台のピアノためのトッカータ。ピアノ協奏曲ほどはピアノが前に出ませんが、ずっとピアノは鳴りっぱなし。コリン・マクフィーという作曲家は今日、初めて知りましたが、バリ島でガムラン音楽を研究した挙句、こういうガムラン風の音楽を作ってしまったという強者です。この曲はなかなかの力作。こうやって聴くと、ガムラン音楽はオスティナートでまるで、ミニマル音楽のようです。第1楽章を聴いていて、つい最近聴いたジョン・アダムズの音楽を想起してしまいました。カーチュンの指揮も見事で、これは今日の一番の聴きものでした。こういう珍しいものを聴かせてくれるのもカーチュン・ウォンの魅力のひとつですね。

最後はようやく、有名な作品。ドビュッシーの交響詩《海》。楽しめるかと思っていましたが、やはり、この曲はsaraiと相性が悪く、カーチュンの繊細な演奏を聴くと、かえって、意識が遠のきますwww。途切れ途切れ、よさそうな演奏を聴きましたが、全然、集中でないまま。で、まともな感想は書けません。

今回は、何故か、指揮者コールもありませんでした。プーランクを最後に持ってきたほうが受けがよかったかもしれません。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:カーチュン・ウォン[首席指揮者]
  ピアノ:児玉麻里
  ピアノ:児玉桃
  管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団 コンサートマスター:田野倉 雅秋

  チナリー・ウン:グランド・スパイラル[日本初演]
  プーランク:2台のピアノのための協奏曲 ニ短調
  
   《休憩》
   
  コリン・マクフィー:タブー・タブーアン
  ドビュッシー:交響詩《海》


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のチナリー・ウンのグランド・スパイラルを予習した演奏は以下です。

 リチャード・E.ストレインジ指揮アリゾナ州立大学シンフォニック・バンド 1990年 アリゾナ州立大学ガメージ講堂, アリゾナ州テンピ セッション録音 YOUTUBE

オリジナルの吹奏楽版を聴いてしまいました。しかし、立派な演奏です。


2曲目のプーランクの2台のピアノのための協奏曲を予習した演奏は以下です。

 カティア&マリエル・ラベック、サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2005年6月26日 ヴァルトビューネ・コンサート ライヴ収録 (ベルリン・フィル デジタル・コンサートホール)

ラベック姉妹の派手なピアノが冴え渡ります。


3曲目のコリン・マクフィーのタブー・タブーアンを予習した演奏は以下です。

 エリザベス・バーリー、ジョン・アレイ、レナード・スラットキン指揮BBC交響楽団 2003年1月9日、10日 ワトフォード・コロシアム、英国 セッション録音 YOUTUBE

なかなか壮大な演奏です。


4曲目のドビュッシーの交響詩《海》を予習した演奏は以下です。

 クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2009年5月24日 ベルリン・フィルハーモニー ライヴ収録 (ベルリン・フィル デジタル・コンサートホール)

クラウディオ・アバドはまだ元気な姿での指揮です。ラストコンサートの4年前で、まだ、枯れ切った指揮にはなっていませんが、素晴らしい演奏を聴かせてくれます。アバドはベルリン・フィルの首席指揮者を退任した後のほうが音楽的には好印象を抱きます。



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       カーチュン・ウォン,  

《エフゲニー・オネーギン》は東響の美しい響き、圧巻の新国立劇場合唱団、シウリーナ、アンティペンコの素晴らしい歌唱など、聴きどころ満載@新国立劇場 2024.1.27

ロシアものにも積極的に取り組む新国立劇場はチャイコフスキーの名作、歌劇《エフゲニー・オネーギン》が今月の出し物です。
このオペラはsaraiには特別の思いがあります。ヨーロッパの歌劇場に遠征して最初に聴いたオペラがこのオペラだったんです。
1990年のゴールデンウィークに初遠征して、ウィーン国立歌劇場で初めて、本格的なオペラを見て、そのときはまだオペラの初心者だったsaraiはそれこそひっくり返りました。豪華なオペラハウスの建物、そして、初めて聴くウィーン・フィル(正確にはウィーン国立歌劇場管弦楽団)の何とも美しい響き、素晴らしい歌手たち(ドヴォルスキー、ブレンデル、トモワ-シントウ、ギャウロフ)、強力な合唱団、何ともお洒落な聴衆・・・。第3幕のポロネーズが鳴り響く中、舞踏会のシーンの光景はありありと目に焼き付いています。ウィーン国立歌劇場のステージの奥の方から着飾った紳士・淑女が腕を組んで、行進してきました。オペラの舞台がこんなに広いとは驚きでしたし、膨大な数の出演者のなんともきらびやかなこと! それにウィーン・フィルの圧倒的な響き! これがsaraiをオペラのとりこにして、1回だけのウィーン遠征の筈がその後、ヨーロッパ遠征を繰り返す端緒になりました。結局、コロナ禍で遠征を断念するまで、ヨーロッパで100回以上もオペラを鑑賞することになりました。その1回目がこの歌劇《エフゲニー・オネーギン》でした。

てなことを考えながら、今日のオペラを鑑賞しました。素晴らしいプロダクションでした。さすがに35年ほど前のウィーンには及びませんが、十分に聴き応えがありました。いつのまにか、日本でもオペラが本格的に鑑賞できるようになり、ヨーロッパ遠征をやめたsaraiも日本にいながらにして、オペラを楽しめる時代になりましたね。

今日のオペラの主役はピットに入った東響の美しい演奏です。チャイコフスキーの交響曲を聴いているような気分になる見事な演奏でした。弦の響きの美しいこと、それに木管、特にクラリネットのわびし気な音色。どこをとっても魅惑的でした。指揮者のヴァレンティン・ウリューピンもまだ若いもでしょうが、ツボを押さえた指揮でチャイコフスキーの美しく哀しい音楽を表現していました。第3幕のポロネーズも圧巻でした。

次いで、新国立劇場合唱団の強力な合唱が今日はいつも以上に見事でした。第1幕の農民合唱は残念ながら舞台裏からでしたが、第2幕の田舎の宴会での合唱は圧倒的でした。

歌手では【タチヤーナ】役のエカテリーナ・シウリーナが涼し気な美声で高音を綺麗に歌ってくれました。公爵夫人になってからの威厳があれば、もっとよかったのですが、その美声は本物です。特に手紙の場面は見事でした。
【オネーギン】役のユーリ・ユルチュクはなかなかの美声でしたが、この複雑な人間像を歌いこなすところまではもう一つ。
【レンスキー】役のヴィクトル・アンティペンコはとても素晴らしいテノールです。まっすぐな若者像を余すところなく表現し、最高の出来でした。聴かせどころの決闘前のアリアはこの日一番の素晴らしさ。
【グレーミン公爵】役のアレクサンドル・ツィムバリュクは出番は少ないのですが、舞踏会シーンでタチヤーナへの愛情を吐露するアリアは出色の出来でした。ちなみに35年前のウィーンでは、今は亡きニコライ・ギャウロフが何とも素晴らしい歌唱を聴かせてくれたことを今でもはっきりと覚えています。あれ以上の歌唱は考えられません。
ということで歌手陣もなかなかの好演でした。

演出と装置、衣装も伝統的なスタイルで好ましいものでした。衣装はもっと豪華だったらと思うところもありましたけどね。

トータルには、久々に聴いたチャイコフスキーの名作オペラを十分に楽しみました。


今日のキャストは以下です。

  ピョートル・チャイコフスキー
   エウゲニ・オネーギン
    全3幕

  【指 揮】ヴァレンティン・ウリューピン
  【演 出】ドミトリー・ベルトマン
  【美 術】イゴール・ネジニー
  【衣 裳】タチアーナ・トゥルビエワ
  【照 明】デニス・エニュコフ
  【振 付】エドワルド・スミルノフ
  【舞台監督】髙橋尚史
  【合唱指揮】冨平恭平
  【合 唱】新国立劇場合唱団
  【管弦楽】東京交響楽団 コンサートマスター:小林 壱成
  
  【タチヤーナ】エカテリーナ・シウリーナ
  【オネーギン】ユーリ・ユルチュク
  【レンスキー】ヴィクトル・アンティペンコ
  【オリガ】アンナ・ゴリャチョーワ
  【グレーミン公爵】アレクサンドル・ツィムバリュク
  【ラーリナ】郷家暁子
  【フィリッピエヴナ】橋爪ゆか
  【ザレツキー】ヴィタリ・ユシュマノフ
  【トリケ】升島唯博
  【隊 長】成田眞
  

最後に予習について、まとめておきます。

 メトロポリタン・オペラ A・ネトレプコ主演《エフゲニー・オネーギン》
 
  2013年10月/アメリカ・ニューヨーク州ニューヨーク メトロポリタン歌劇場
  
  マリウシュ・クヴィエチェン(オネーギン)
  アンナ・ネトレプコ(タチヤーナ)
  ピョートル・ベチャワ(レンスキー)
  オクサナ・ヴォルコヴァ(オリガ)
  アレクセイ・タノヴィッツキー(グレーミン)
  メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団
  ワレリー・ゲルギエフ(指揮)

  演出:デボラ・ワーナー
  
ネトレプコがタチヤーナを歌い、ゲルギエフが指揮。さらにベチャワがレンスキーを歌うとなれば、これ以上はありませんね。 



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《ヨハネ受難曲》BWV 245(第二稿) 合唱・管弦楽はもちろん、独唱も最高、とりわけ、ハナ・ブラシコヴァの美声にうっとり 鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパン@東京オペラシティコンサートホール 2024.2.4

鈴木雅明指揮のバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)が《ヨハネ受難曲》BWV 245(第二稿)に挑みます。
saraiとしては第4稿のほうを好みます。特に終曲のコラールは第4稿(第1稿)のほうが好きです。
とは言え、そのsaraiの好みを吹き飛ばすほど、素晴らしい演奏でした。とりわけ、第2部 30曲のアルトのアリア《成し遂げられた!Es ist vollbracht !》以降、終曲のコラールまでの高潮した独唱、合唱、管弦楽はBCJのひとつの到達点を思わせるような究極のものでした。


今日の演奏を振り返ってみましょう。

第9曲のソプラノのアリア、私も同じように喜んであなたについて行きます、私の救い主よIch folge dir gleichfalls, mein Heiland。
管きよみの素晴らしいフラウト・トラヴェルソのオブリガートに乗って、ソプラノのハナ・ブラシコヴァがあり得ないような美しい歌唱を聴かせてくれます。何という美声でしょう。このアリアがこんなに素晴らしいとはこれまで気がつきませんでした。

第30曲のアルトのアリア、成し遂げられた!Es ist vollbracht !
福澤宏のヴィオラ・ダ・ガンバの美しい響きとともに、アルトの久保法之が実に感動的な歌唱を聴かせてくれました。この名曲を美しい声で期待以上の歌唱です。中間部の激しい部分も美しく聴かせてくれます。そして、再び、最初の抒情的なパートを歌い始めます。うっとりと聴き入るのみです。

第32曲のアリアとコラール、尊い救い主よ、お尋ねしてよろしいでしょうかMein teurer Heiland,lass dich fragen。
既に絶命したイエスに対して、問いを発するものです。バスのクリスティアン・イムラーの歌唱は素晴らしく、そのバックで合唱隊が低い音量で歌うコラールの何とも美しいことに感銘を覚えます。特にソプラノパートの美しいこと! この音楽はバッハの天才的な筆の冴えを感じます。鈴木雅明の指揮も見事です。

第35曲のソプラノのアリア、わが心よ、涙となって融け流れよZerfließe, mein Herze, in Fluten der Zähren。
これも素晴らしい演奏です。BCJの達人たちの実力が発揮されます。管きよみのフラウト・トラヴェルソ、三宮正満のオーボエ・ダ・カッチャ、鈴木優人のオルガンなどの素晴らしいアンサンブルをバックにソプラノのハナ・ブラシコヴァが聖なる歌声を聴かせてくれます。とても人間の歌唱と思えません。まさに天使の歌声です。

第39曲の合唱、安らかに眠ってください、聖なる骸よRuht wohl, ihr heiligen Gebeine。
マタイ受難曲の終曲と類似した音楽がより劇的な合唱で聴けます。ここにきて、合唱隊は持てる力をすべて出し尽くして、圧倒的な歌声をホールに響き渡らせます。BCJの管弦楽も素晴らしいです。ヴァイオリン、フラウト・トラヴェルソ、オーボエの妙技に聴き入ります。バッハの合唱曲の中でも最高の作品です。

第40曲のコラール、キリスト、汝、神の小羊Christe, du Lamm Gottes。
ここだけは第4稿のああ主よ、愛しい天使にお命じになりAch Herr, laß dein lieb Engelein のコラールが好きなのですが、そういうsaraiの好みを払拭するようなBCJの美しい合唱が感銘を与えてくれます。

BCJの合唱の素晴らしさが今日の演奏の肝でした。それにソプラノのハナ・ブラシコヴァの素晴らしい歌唱。エヴァンゲリストの吉田志門もなかなかの熱演でした。無論、鈴木雅明の指揮が素晴らしかったのは言うまでもありません。左手を痛めて、肩から吊っていたので、ほぼ、右手1本と体の動作による渾身の指揮でした。何故、左手を痛めたのか、今日のプログラムの巻頭言で詳しく語られています。パリの北駅で転倒したそうです。大事に至らなくて、よかったです。我が愛するピアニスト、クララ・ハスキルはブリュッセル南駅の階段で転倒して、頭を打ち、帰らぬ人になりました・・・。ヨーロッパの駅の構内は危ないですね。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:鈴木雅明
  エヴァンゲリスト:吉田志門
  ソプラノ:ハナ・ブラシコヴァ
  アルト:久保法之
  バス:クリスティアン・イムラー、加耒 徹

  合唱:バッハ・コレギウム・ジャパン
  管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン コンサートマスター:若松夏美
   ヴァイオリンⅡ:高田あずみ
   ヴィオラ:成田寛
   ヴィオラ・ダ・ガンバ:福澤宏
   チェロ:山本徹
   ヴィオローネ:今野京
   チェンバロ:大塚直哉
   オルガン:鈴木優人
   フラウト・トラヴェルソ:菅きよみ、前田りり子  
   オーボエ、オーボエ・ダモーレ、オーボエ・ダ・カッチャ:三宮正満、荒井豪


J. S. バッハ:
《ヨハネ受難曲》BWV 245(第二稿)
 第1部

 《休憩》
 
 第2部


最後に予習について、まとめておきます。

以下の演奏を聴きました。

 フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮コレギウム・ヴォカーレ管弦楽団・合唱団 2001年4月23~27日 セッション録音
  マーク・パドモア(福音史家)
  ミヒャエル・フォレ(イエス)
  シルビア・ルーベンス
  アンドレアス・ショル
  セバスティアン・ノアク
   Apple Music Classical、ロスレス

Apple Music ClassicalのWindows版で聴きました。現在、無料試行中です。多分、このまま、サブスク契約しそうです。大変に音質がよく、ライブラリも膨大です。難を言えば、曲の検索にこつがいりそうです。
《ヨハネ受難曲》BWV 245(第二稿)の素晴らしい録音です。



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       バッハ・コレギウム・ジャパン,  

バルトーク、武満徹、ベートーヴェン  山田和樹、最高の演奏! 読売日本交響楽団@サントリーホール 2024.2.9

今日はともかく、プログラムが素晴らしい。saraiが20世紀最高の音楽と認めたバルトークの弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽、そして、若きsaraiを魅了した武満徹のノヴェンバー・ステップス。とりわけ、武満徹のノヴェンバー・ステップスは実演で聴くのは初めてかもしれません。山田和樹はどんな音楽として聴かせてくれるんでしょう。ちなみにこの時点では最後に演奏されるベートーヴェンの交響曲第2番はノーマークでした。

まず、前半はバルトークの弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽です。実演で聴くのは3回目の筈です。以前も書きましたが、saraiの青春時代の思い出の詰まった曲です。
saraiが学生時代にLPレコードで初めて聴いて、大変な衝撃を受けた曲です。そのとき、バルトークの作品を聴いたのが初めてでしたが、それ以来、saraiにとって、バルトークは神のような存在になりました。その後、弦楽四重奏曲を聴いて、バルトークへの尊敬の念はさらに高まりました。西洋音楽はバッハからベートーヴェンを経て、20世紀はマーラーという高みを迎えましたが、孤高の天才バルトークによって、西洋音楽は未曽有の頂点に立つことができました。その記念碑的作品が《弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽》です。この作品は聴く者に大変な緊張感を与えずにはおかない音楽です。ある意味、音楽というジャンルを別次元の芸術に変容させたとも思えます。
今日の山田和樹と読響の演奏は真摯で誠実な演奏でした。正直、第1楽章の演奏はもっと厳しさを欲しいところでしたが、現代においては、これ以上の突っ込みは時代が与えてくれないのかもしれません。バルトークが作曲した当時の大戦前夜の限界状況はそのときでないと音楽として成立し得ないのかもしれません。山田和樹は無駄をそぎ落とし、弦楽による哀しさを湛えたオスティナートを静謐に表現していました。これで十分でしょう。音楽的頂点に達したときは背中がぞくぞくする思いに駆られました。
第2楽章は全楽章の主題をひきづりながら、強くうちかかってくるような勢いが圧巻です。暗い情念が支配的ですが、山田和樹がドライブする読響のアンサンブルの素晴らしいこと。
第3楽章は青ひげ公の城を想起させるような夜の音楽です。ここでも山田和樹の表現力の深さが見事です。
第4楽章は《中国の不思議な役人》を想起させる疾駆する音楽です。山田和樹、凄し!

後半、ステージからピアノが取り去られるだけで、左右に2群の弦楽器群が配置されたまま。うーん、同じような構成なんですね。
指揮者の前には、尺八の藤原道山と琵琶の友吉鶴心が鎮座しています。尺八は1尺8寸管ではなく、長い2尺4寸管。これでないとどすの効いた演奏が不可能です。昔は2尺4寸管は横山勝也の独壇場でしたが、尺八の第1人者と目される藤原道山がどこまで吹きこなすのでしょう。
演奏はまず、オーケストラパートから始まります。武満らしい音響空間が広がります。読響のアンサンブルは素晴らしいです。聴き惚れているうちに尺八と琵琶の独奏がはいってきます。尺八独特のむら息が炸裂します。琵琶の撥の音も凄まじく、2人の掛け合いで強烈な自我がこの場を支配していきます。オーケストラが創り出す西欧的な音響の場のなかに和楽器の表現する、融合することのない2つの実存が雄たけびをあげているようです。とりわけ、尺八のむら息の激しさとすすり泣くようなビブラートが特別な存在感を放ちます。ときおり、オーケストラと和楽器は融合しかかりますが、結局は別次元を生きる者同士。それぞれの領域を生きていきます。ベルクのヴァイオリン協奏曲は最後は高次元で融合しますが、武満のこの作品はそういう救済はなく、といって、悲惨な結末でもなく、それぞれ、強く生き抜くというメッセージが残ったように思えます。藤原道山の見事な演奏がとても印象的。記憶に残る横山勝也の演奏にも並ぶものです。
実はこの曲が初演されたとき、saraiは高校生。多感だった心に強い衝撃を受けました。それが忘れられず、大学では尺八のクラブに入ってしまいました。無論、そんなに腕は上がらずにこのノヴェンバー・ステップスは吹けませんでした。難曲ですからね。その代わり、クラブの活動のなかで知り合ったのが今の配偶者です。このノヴェンバー・ステップスなくして、saraiの今の人生はなかったんです。半世紀ぶりにこのノヴェンバー・ステップスに回帰して、感慨しきり。山田和樹始め、演奏者のみなさん、ありがとう。

最後はえらく普通の曲、ベートーヴェンの交響曲第2番。普通の筈でしたが、山田和樹は前2曲と同様に左右にオーケストラ群を分けた配置にして、特別バージョンのベートーヴェンです。もう、詳細に書く時間がありませんが、実に多彩、そして、豊満の響きの演奏が展開されました。読響のアンサンブルの鉄壁さにも感銘を受けます。何よりも山田和樹の音楽的な才能の豊かさに驚嘆するのみでした。地味な存在の第2番を光り輝かせました。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:山田和樹
  尺八:藤原道山
  琵琶:友吉鶴心
  管弦楽:読売日本交響楽団  コンサートマスター:林悠介

  バルトーク:弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽 BB 114

   《休憩》

  武満徹:ノヴェンバー・ステップス
  ベートーヴェン:交響曲第2番 ニ長調 Op.36
  

最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のバルトークの弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽は以下の演奏を聴きました。

 フリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団 1958年12月28-29日 セッション録音
 
本命中の本命の演奏です。saraiは学生時代にこのレコードを聴いて、バルトークにはまりました。
ハイレゾの優秀録音で聴けます。


2曲目の武満徹のノヴェンバー・ステップスは以下の演奏を聴きました。

 横山勝也(尺八)、鶴田錦史(琵琶)、小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラ 1989年9月15日 ベルリン,イエス・キリスト教会 セッション録音
 
指揮の小澤征爾、尺八の横山勝也、薩摩琵琶の鶴田錦史は初演のメンバーで、日本を代表するサイトウ・キネン・オーケストラがヨーロッパ公演の際、ベルリンで録音したこの演奏は決定盤とも思える内容です。くしくも今日、小澤征爾の訃報を聞きました。


3曲目のベートーヴェンの交響曲第2番は以下の演奏を聴きました。

 ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 1964年 クリーヴランド、セヴェランス・ホール セッション録音

ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団はここでも引き締まった鉄壁のアンサンブルを聴かせてくれます。



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オペラ・ブッファの楽しさが満載された《ドン・パスクワーレ》 ミケーレ・ペルトゥージが新国オペラに堂々の初登場@新国立劇場 2024.2.10

ドニゼッティのオペラはセリアもブッファもどれも聴いていて感動したり、楽しかったり、イタリアオペラの真髄を究めるものばかりです。そして、オペラ歌手がその実力を発揮できる美しいアリアや重唱が満載されています。そのドニゼッティのオペラの中で何故か、これまで縁がなかったのが今日の《ドン・パスクワーレ》。遂にこのオペラを鑑賞できました。これで主要なオペラで聴いていないのは『ルクレツィア・ボルジア』くらいになりました。これまで、『ランメルモールのルチア』、『アンナ・ボレーナ』、『愛の妙薬』、『連隊の娘』は素晴らしい歌手で聴くことができ、思い出深いものです。とりわけ、ネトレプコとガランチャが競演したウィーン国立歌劇場の『アンナ・ボレーナ』の素晴らしかったこと!
 ネトレプコ+ガランチャ《アンナ・ボレーナ》@ウィーン国立歌劇場 2011.4.11https://sarai2551.blog.fc2.com/blog-entry-486.html
 
そうそう、ドレスデンで聴いたグルヴェローヴァの絶好調の『ランメルモールのルチア』も忘れ難いものです。
 ゼンパーオーパーでグルヴェローヴァが迫真のルチアを熱唱・・・ただただ感動!https://sarai2551.blog.fc2.com/blog-entry-4758.html

てなことを考えながら、今日のオペラを鑑賞しました。何とも楽しいオペラ。それに主要キャストの4人の歌手の好調な歌唱。オペラ好きにはたまらないですね。思わず、頬をゆるめ、ただただ、聴き入ります。オーソドックスな演出で舞台装置も美しく、場面転換が早くて、ストーリー展開がスムーズなのも興を深めます。終わってみれば、満足の笑みが胸いっぱいに広がりました。ドニゼッティらしい美しいメロディーが頭の中に刻み付けられます。アリアも重唱もオペラ・ブッファとは思えない素晴らしさでした。ミケーレ・ペルトゥージのさすがの歌唱と新進気鋭のソプラノ、ラヴィニア・ビーニの素晴らしい歌唱が最高でした。
無論、新国立劇場合唱団の合唱は今日も見事。東響は残念ながら、ドニゼッティの節回しに十分にフィットしていない感じ。こういうイタリアものはあまり経験していないですものね。しかしながら、2022年の新国での《愛の妙薬》では素晴らしい演奏だったので、指揮のレナート・バルサドンナとの息が合わなかったのかもしれません。

4人の歌手たちの印象を綴ってみましょう。
タイトルロールの【ドン・パスクワーレ】役のミケーレ・ペルトゥージは世界的に実績のある歌手。saraiは2014年のザルツブルグ精霊降臨音楽祭でのロッシーニ・ガラ・コンサートで聴いたのみです。このガラコンサートはロッシーニ歌いの著名歌手のみが出演するもので、ペルトゥージは《泥棒かささぎ》から代官のカヴァティーナ「用意はできた」Il mio piano e preparatoで素晴らしい喉を聴かせてくれました。今日は喜劇の主人公で硬直した考えの老人の役ですが、彼の声や演技からは格調の高さが垣間見える魅力的な人間像が創り上げられていました。難しい役どころを見事に歌いこなしたのはさすがの実力です。
そのドン・パスクワーレをこてんぱんにやりこめる【ノリーナ】役のラヴィニア・ビーニはスープレットのちょっと強めの声ですが、透明で美しい声を存分に駆使して、聴衆を魅惑してくれました。第1幕のカヴァティーナ《騎士はその眼差しに》でいきなり、聴衆の心をつかみます。以後、重唱で素晴らしい歌唱を聴かせてくれて、このオペラを実質、支配する活躍ぶりでした。今後が期待できる若手ソプラノです。フィガロのスザンナあたりを聴いてみたい気もします。
【マラテスタ】役の上江隼人は、まるでイタリア人歌手のような練れた歌唱を聴かせてくれました。第3幕のドン・パスクワーレとの2重唱《静かにいますぐに》は、世界のペルトゥージを相手に一歩も引かない素晴らしい歌唱を聴かせてくれました。こんな素晴らしい日本人バリトンがいるんですね。
【エルネスト】役のフアン・フランシスコ・ガテルはとても好感の持てるテノール。誠実さがにじみ出るようなアリアは素晴らしい出来でした。

久々に聴いたドニゼッティと思いましたが、新国ではほぼ、毎シーズン、ドニゼッティ作品を演奏してるので、まあまあ聴いています。ドニゼッティのオペラはどれを聴いても、オペラ三昧にふけることができます。今日もとても満足です。


今日のキャストは以下です。

  ガエターノ・ドニゼッティ
   ドン・パスクワーレ
    全3幕

  【指 揮】レナート・バルサドンナ
  【演 出】ステファノ・ヴィツィオーリ
  【美 術】スザンナ・ロッシ・ヨスト
  【衣 裳】ロベルタ・グイディ・ディ・バーニョ
  【照 明】フランコ・マッリ
  【振 付】エドワルド・スミルノフ
  【合唱指揮】冨平恭平
  【合 唱】新国立劇場合唱団
  【管弦楽】東京交響楽団 コンサートマスター:グレブ・ニキティン
  
  【ドン・パスクワーレ】ミケーレ・ペルトゥージ
  【マラテスタ】上江隼人
  【エルネスト】フアン・フランシスコ・ガテル
  【ノリーナ】ラヴィニア・ビーニ
  

最後に予習について、まとめておきます。

 ドニゼッティ:歌劇《ドン・パスクワーレ》 全3幕
 
  2010年11月/アメリカ・ニューヨーク州ニューヨーク メトロポリタン歌劇場
  
  【ノリーナ】アンナ・ネトレプコ(ソプラノ)
  【エルネスト】マシュー・ポレンザーニ(テノール)
  【マラテスタ】マリウシュ・クヴィエチェン(バリトン)
  【ドン・パスクワーレ】ジョン・デル・カルロ(バス・バリトン)
  メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団
  ジェイムズ・レヴァイン(指揮)

  演出:オットー・シェンク
  
ネトレプコが突出して目立っています。健康面の問題をかかえながらも見事な指揮をしていたレヴァインが印象的です。全体によいプロダクションだと思います。



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ジャンル : 音楽

 

熱海散歩2024:熱海の海岸、そして、豪勢なお鮨のランチで完了!

熱海の2日目です。

フランス洋菓子老舗のモンブランを出て、熱海の海岸に向かいます。
やがて、広い砂浜に出ます。熱海サンビーチです。夏は海水浴客で賑わうビーチも冬は閑散としています。
目前には熱海港の海が広がっていて、気持ちよいこと、この上なし。

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突堤の上には、水鳥が見えています。羽を休めていますね。

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おっ、飛び立ちました。遠い突堤の上には、この水鳥がずらっと並んでいます。遠くてはっきりしませんが、どうやら、ユリカモメのようです。日本の海岸に飛来した冬鳥なんですね。

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熱海の海岸を散歩すると言ったら、やはり、貫一お宮は外せませんね。尾崎紅葉の小説「金色夜叉」の登場人物です。

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このあたりで熱海散歩を切り上げます。
お昼時ですから、最後にランチでもいただきましょう。熱海の海岸から市内バスに乗って、熱海駅前に向かいます。
駅前の仲見世通りにある磯丸 仲見世通り店でお鮨をいただくことに当初から決めていました。お店に着くと、何と本日休店になっています。ガガーン! このあたりには、別のお鮨屋さんはありません。そう言えば、磯丸のもう一軒の支店がありますが、休店日は一緒でしょう。ところが配偶者はそれは分からないから、行ってみましょうと提案。saraiも別の案もないので、とりあえず、行ってみることにします。
これが大当たり! 磯丸 平和通り店に行くと、何と営業中です。大通り側の裏口から入れそうです。中に入ると、結構、混み合っていますが、小上がりのテーブル席に案内されます。ここは平和通り側の入口からは一番奥の席で、大通りに面しています。
お店の奥から、お店を眺めますが、見通せませんね。
せっかく、お鮨を食べられることになったので、豪勢に注文することにしましょう。

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待つこと、しばし。美味しそうなにぎりがテーブルいっぱいに並べられます。目玉は真ん中のまぐろのにぎり。
一人、15貫ほどは食べることになります。それでは・・・

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いやあ、満腹です。もう、夕食はいりませんね。実に美味しいお鮨でした。
熱海はうなぎとお鮨に限ります。

心おきなく、熱海を後にしました。これでお正月モードも完了。



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ジャンル : 旅行

 

R.シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」の颯爽とした響きに感銘  山田和樹&読売日本交響楽団@サントリーホール 2024.2.13

今日は山田和樹の読響の首席客演指揮者の最後の演奏でチケットは完売。

まず、最初のR.シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」の輝かしい響きで魅了されます。いやはや、何とも素晴らしいR.シュトラウスに圧倒されました。最前列で聴いていたので、終始、読響の響きに感銘を受け続けていました。山田和樹の音楽表現も見事の一語。ここにいるのは女たらしのドン・ファンではなく、颯爽とした騎士ドン・ファンでした。ウィーン・フィル、ベルリン・フィルにも優るとも劣らずという演奏にsaraiの気持ちが高揚しました。これが今日一番の演奏でした。

続くブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番は初聴きのヴァイオリニスト、シモーネ・ラムスマのなかなか魅力的なヴァイオリンの響きに聴き入りました。正統派で音楽的にも聴くべきものがありました。山田和樹指揮の読響のサポートも立派です。
アンコール曲のイザイも素晴らしい演奏でした。テクニックも十分なものを持っていますね。これから、ラムスマに注目していきましょう。

休憩後、今日のメインの曲、フランクの交響曲 ニ短調です。読響の明るい響きを活かして、山田和樹の音楽力を発揮した素晴らしい演奏でした。山田和樹の首席客演指揮者としての最後の演奏にふさわしいものでした。第3楽章の後半の盛り上がりは最高でした。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:山田和樹
  ヴァイオリン:シモーネ・ラムスマ
  管弦楽:読売日本交響楽団  コンサートマスター:長原幸太(ダブルコンマス 林悠介)

  R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」 Op.20
  ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 Op.26
   《アンコール》イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番より第4楽章

   《休憩》

  フランク:交響曲 ニ短調
  

最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のR.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」は以下の演奏を聴きました。

 ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 1957年3月29日&30日 セッション録音
 
セルのR.シュトラウスは実に素晴らしいです。


2曲目のブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番は以下の演奏を聴きました。

 ヤッシャ・ハイフェッツ、マルコム・サージェント指揮新ロンドン交響楽団 1962年 セッション録音
 エリカ・モリーニ、フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン放送交響楽団 1958年 セッション録音

 
ハイフェッツの硬質の響きの演奏もよく、さらに初聴きのエリカ・モリーニの情感あふれる演奏も素晴らしい。


3曲目のフランクの交響曲 ニ短調は以下の演奏を聴きました。

 オイゲン・ヨッフム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1973年11月1日 アムステルダム、コンセルトヘボウ ライヴ録音

アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の響きが素晴らしい。



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ジャンル : 音楽

 

88歳の誕生日にインバルはショスタコーヴィチとバーンスタインを会心の演奏 東京都交響楽団@サントリーホール 2024.2.16

ほぼ、毎シーズン、都響を振ってきたインバルも今日は88歳の誕生日。まったく衰えを知らない指揮で得意のショスタコーヴィチとバーンスタインの素晴らしい演奏を聴かせてくれました。このところ絶好調の都響は名指揮者インバルを迎えて、ますます見事なアンサンブルの演奏を聴かせてくれました。来週から開始する3回目のマーラー・チクルスも期待するばかりです。

前半はショスタコーヴィチの交響曲第9番。インバルはその高齢を少しも感じさせない小気味よい指揮で新古典主義的な音楽を素晴らしく整ったアンサンブルと切れのよいテンポで気持ちよく聴かせてくれました。とりわけ、アップテンポな楽章がノリノリで、ただただ、気分よく音楽を楽しめました。この交響曲第9番は暗いところのまったくないショスタコーヴィチらしからぬ音楽ですが、こういう爽快な演奏で聴くと気分が高揚します。実に不思議な作品です。

休憩後は、バーンスタインの交響曲第3番《カディッシュ》です。同じインバルの指揮で8年前の2016年に聴いています。そのときはホロコーストの生き残りのサミュエル・ピサールが書き起こしたナチス強制収容所の生々しい描写の語りのピサール版で聴きましたが、今回は当初の予定のピサール版から変更になり、バーンスタインの書いた語りのオリジナル版での演奏になりました。
冒頭は神への性急とも言える祈りで始まります。そして、人間が起こした災いに満ちた行為、その行為を黙認したかのごとき"神"への不信の念が語られます。宗教も持たないsaraiのような人間にとっては"神"というのは、人類が共通に心の中に持っているはずの倫理観・人間性と置き換えてもいいのかもしれません。延々とこの"神"の黙認行為を攻め続けながら、信仰を失っていく気持ちが語られていきます。バースタインの音楽はその上にそれを補強するように鮮烈に響き渡ります。インバルが都響の全機能をフルに活用して、パーフェクトとも思える音楽、あるいは響きをリアルな形で表現していきます。何という作品でしょう。これは音楽芸術の名を借りて、我々自身に向けられた鋭い刃です。なぜなら、人間が犯したいかなる行為は我々人類全体が背負うべき十字架だからです。その犯罪的な行為に直接・間接に責任のない人間もこの重い罪を自分自身の罪として自覚せよとバーンスタインの音楽は迫ってきます。昨今の大量虐殺、そして、現在も発生している残虐行為も決して、自分と関係ない問題ではないということ・・・この音楽が語る本質です。世界で進行している戦争拡大への道などはたとえ自分が反対の立場であるにせよ、責任は免れるものではありません。戦争行為こそ、倫理観・人間性を根こそぎ駆逐してしまう最たるものです。そういう強烈なメッセージを受け止めながら、被告席に座る人間のようにして、バーンスタインのメッセージ音楽をうなだれて聴くのみです。無論、シオニズム推進派だったバーンスタイン自身もガザの残虐行為に対しては己への刃も甘んじて受け入れなければならないでしょう。第2楽章の後半では攻撃的な音楽が一転して、ソプラノの冨平安希子が美しい声で子守歌を歌い始めます。子供たちが戦争で命を奪われる・・・その子供たちへの子守歌です。美しい旋律ですが、戦慄を覚えます。ある意味、ぞっとするような音楽です。
ここからバーンスタインは性急とも思えるように強引に"神"との和解、信仰の再生に突き進みます。しかし、こんなに深刻な"神"喪失から、音楽の力で立ち直れるでしょうか。本音で言えば、立ち直りたい・・・それはsaraiが人類の倫理観・人間性を信じていきたいという希求でもあります。壮大なフィナーレの音楽が鳴り響き、大いなる感銘を受けました。それは神の再生だったのか・・・

今日のプログラムは以下のとおりです。

  指揮:エリアフ・インバル
  語り:ジェイ・レディモア
  ソプラノ:冨平安希子
  合唱:新国立劇場合唱団 指揮:冨平恭平
  児童合唱:東京少年少女合唱隊 指揮:長谷川久恵
  管弦楽:東京都交響楽団 コンサートマスター:山本友重

  ショスタコーヴィチ:交響曲第9番 変ホ長調 Op.70
   
   《休憩》
   
  バーンスタイン:交響曲第3番《カディッシュ》
   

最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のショスタコーヴィチの交響曲第9番を予習した演奏は以下です。

 キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2020年10月31日 ベルリン、フィルハーモニー ライヴ録音

切れ味鋭い素晴らしい演奏です。


2曲目のバーンスタインの交響曲第3番《カディッシュ》を予習したCDは以下です。

 モンセラート・カバリエ、マイケル・ワガー、ウィーン・ジュネス合唱団、ウィーン少年合唱団、レナード・バーンスタイン指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 1977年8月26日 マインツ、ラインゴルトハレ セッション録音
 クレア・ブルーム、ケリー・ナシーフ、メリーランド少年合唱団、ワシントン合唱団、マリン・オールソップ指揮ボルティモア交響楽団 2012年9月28-30日 ジョゼフ・マイヤーホフ・シンフォニー・ホール、ボルティモア、メリーランド州、米国 セッション録音


バーンスタイン&イスラエル・フィルは決定盤。バーンスタインの愛弟子の女性指揮者オールソップも実に見事な演奏。



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マーラーの遺言のような慟哭が聴ける交響曲第10番(クック版)の終楽章に我が心は千々に乱れけり インバル&東京都交響楽団@サントリーホール 2024.2.22

88歳を迎えたインバルが最初に選んだマーラーは最も得意とする交響曲第10番(デリック・クック補筆版)。無論、5楽章版です。
補筆版とは言え、終楽章はマーラーの交響曲の掉尾を飾る最高の音楽。インバルの見事な指揮で都響の素晴らしいアンサンブルが感銘に満ちた演奏を聴かせてくれました。これがマーラーが書き上げた最後の、そして、最高の音楽です。saraiの胸に去来するのはマーラーの交響曲群のここまでの長い道のりです。小説に例えれば、大長編ロマンの最終章。すべての交響曲が描いてきた自己と自然、そして、愛と死、それらの深い響きがここで収束します。

インバルはこれから、都響との第3次マーラー・シリーズを開始するそうですが、その幕開けのこの音楽で、既にシリーズを完結したようにsaraiは錯覚します。実際、来シーズンの予定にはインバルのマーラーは予定されていないし、この交響曲第10番でインバルのマーラーは完結したのではないでしょうか。

ともかく、今日の演奏は第1楽章のアダージョの儚い夢のような音楽を聴いただけで、十分にマーラーを満喫した思いに駆られ、そして、第5楽章の中盤以降の美しい弦楽アンサンブルの深く、繊細な響きに感動を抑え聴けない心の震えがありました。
何と言う音楽、何と言う演奏でしょうか。マーラーのすべての思いを詰め込んだような世界が広がり、そして、消え去っていきました。音楽も人生も何と無情なんでしょう・・・。マーラーの慟哭はすべての人が胸に抱く人生の儚さを描き切ったような恐いようで、それでいて、何とも優しいものです。この世の世界を突き抜けて、あの世で奏でる美しい響き・・・そのように感じ入りました。
これ以上は何も書くことがありません。


今日のプログラムは以下のとおりです。

  【インバル/都響第3次マーラー・シリーズ①】

  指揮:エリアフ・インバル
  管弦楽:東京都交響楽団 コンサートマスター:矢部達哉

  マーラー:交響曲第10番 嬰へ長調(デリック・クック補筆版)
   
   《休憩》なし
   
   
最後に予習について、まとめておきます。

マーラーの交響曲第10番(デリック・クック補筆版)を予習した演奏は以下です。

 エリアフ・インバル指揮東京都交響楽団 2014年7月20,21日 東京、サントリーホール ライヴ録音
   ~ワンポイント・レコーディング・ヴァージョン

素晴らしい録音でかつて聴いたときの感動がありありと思い出されました。



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日本で初めてタクトをとるピエール・ブリューズのリハーサル風景、サン=サーンスの交響曲 第3番「オルガン付き」とドビュッシー(ビュッセル編曲)の小組曲 東京交響楽団@ミューザ川崎シンフォニーホール 2024.3.1

今日はアンサンブル・アンテルコンタンポラン(EIC)の音楽監督とデンマークのオーデンセ交響楽団の首席指揮者の重責を担うフランス人指揮者、ピエール・ブリューズの日本での指揮者でデビューとなる東響のコンサートの前日リハーサルを覗きました。日本の聴衆の前に姿を現すのはこれが初めての機会でしょう。実にくったくのない様子でひょいとステージに現れて、聴衆にも親しみのある挨拶をしてくれました。

まずはサン=サーンスの交響曲 第3番「オルガン付き」が入念にリハーサルされます。何度も途中で止めて、やり直しています。細かい指示は聴こえませんでしたが、saraiの感覚ではミスの指摘などではなく、響きの調整が主たるものであったようです。それと細かいリズムの取り方なども調整していました。これまでにsaraiが聴いたリハーサルの中でも、プロのリハーサルのイメージにぴったりの感じです。第1楽章のリハーサルだけでも1時間近くかかるという入念なものでした。もっとも、この曲は第1楽章は普通の第1楽章と第2楽章が合体したみたいなものです。通しでは20分ほどですから、2倍以上の時間をかけていました。お陰で、そんなに聴く機会のない曲が耳にしっかりとしみつきました。弦のアンサンブルとオルガンの精妙さが素晴らしいです。
休憩後の第2楽章も入念にリハーサルします。さすがに最後は意外にさらっと終わります。フィナーレのオルガンとオーケストラの高揚するところの迫力は素晴らしく、それも繰り返してのリハーサルなので、何か得をしたような感じです。まるで最後をアンコール演奏したみたいです。オルガンの大木麻理は素晴らしい演奏を聴かせてくれました。

次に演奏する団員が少し入れ替わって、ドビュッシー(ビュッセル編曲)の小組曲のリハーサル。これはそこそこ、ちゃちゃっと終えます。東響の演奏のレベルが最初から高く、そんなに細かくチェックを入れる曲ではありませんね。とても美しい演奏です。有名な作品ですが、このオーケストラ編曲版は多分、実演では聴いたことがありません。いいものをリハーサルとは言え、聴けました。

ここで公開リハーサルはお終い。この後、多分、MINAMI (吉田 南)が独奏するサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲 第3番のリハーサルがあった筈です。本当はこれが聴きたかったんです。吉田 南のヴァイオリンは久し振りで、最近の彼女の成長ぶりをとても聴きたかったんです。まあ、本番のチケットを買えばよかったと言えば、それまでですが・・・。


今日のプログラムは以下です。

  ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第195回 前日リハーサル

  指揮:ピエール・ブリューズ
  オルガン:大木麻理(ミューザ川崎シンフォニーホール ホールオルガニスト)
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:グレブ・ニキティン

  サン=サーンス:交響曲 第3番 ハ短調 Op.78「オルガン付き」第1楽章

  《休憩》

  サン=サーンス:交響曲 第3番 ハ短調 Op.78「オルガン付き」第2楽章
  ドビュッシー(ビュッセル編曲):小組曲


最後に予習について、まとめておきます。(リハーサルとは言え、ちゃんと予習は欠かしません。)

サン=サーンスの交響曲 第3番「オルガン付き」を予習した演奏は以下です。

 サイモン・プレストン(org)、ジェイムズ・レヴァイン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1986年6月、ベルリン セッション録音
 
レヴァインの、ベルリン・フィルとの最初の録音です。実に音楽的精度の高い演奏です。


ドビュッシー(ビュッセル編曲)の小組曲を予習した演奏は以下です。

 エルネスト・アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団 1961年2月22日 ジュネーヴ、ヴィクトリアホール セッション録音

かつて評価の高かったアンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団の演奏のひとつです。現在、あまり話題に上りませんが、実に素晴らしい演奏です。また、再評価される日が来るでしょう。



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リストのピアノ・ソナタ ロ短調に熱く共鳴 ユリアンナ・アヴデーエワ ピアノ・リサイタル@紀尾井ホール 2023.3.3

ユリアンナ・アヴデーエワは昨年に引き続いての来日公演。どうやら、日本での評価が高いようです。日本人の聴衆の耳が肥えていることに鼻が高い思いです。もっとも日本ではおおむね、ショパンコンクールの優勝者の人気が高いようですね。
かく言うsaraiもアヴデーエワの大ファンです。

今日は前半はショパンの本格的な作品をずらっと並べています。こんなにちゃんとショパンを弾いてくれるのは初めてのような気がします。saraiは決してショパンの音楽をそれほど好むわけではなく、同時代の作曲家では圧倒的にシューマンの音楽が好きです。しかし、アヴデーエワに関しては特例として、ショパンが最高に楽しみです。今日もその期待に応えてくれる圧巻の演奏でした。
最初の幻想ポロネーズは昨年も素晴らしい演奏でしたが、今年も左手の低音をベースとした暗い色調、そして、右手の高音域の煌めきを交え、ずっしりとした音楽を聴かせてくれました。
2曲目の舟歌も幻想ポロネーズ同様、ショパンの後期の作品です。軽く明るく始まる文字通り、舟歌も次第に深い味わいを見せて、気が付いてみれば、ショパンの内面の熱い情念を燃え上がらせるような圧巻の演奏になっていました。
3曲目の前奏曲 嬰ハ短調はさりげない旋律が少しずつ形を変えながら繰り返される落ち着いた表現で、前2曲の重たい音楽から少し開放される思いでリラックスして聴けました。こういうちょっとした曲でもアヴデーエワの類稀なるセンスが光ります。
4曲目は有名なスケルツォ第3番。高潮する音楽が見事が奏で上げられました。
5曲目は大曲のアンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ。これは今日のショパンの曲のなかでは一番、若い頃の作品。序奏にあたるアンダンテ・スピアナートの後、ポロネーズが華やかに弾かれて、とても盛り上がります。管弦楽伴奏付きならば、もっと盛り上がったでしょう。
色んな時代のショパンの作品を聴いて、とても満足しました。それに重めの曲が多かったので、聴き応えがありました。

アヴデーエワのショパンがいいとい言っても、さすがにショパン尽くしではかないません。後半はリストです。
アヴデーエワらしく、最初に晩年の作品を2曲。
死のチャールダーシュはどこかハンガリー狂詩曲を想わせるような作品。アヴデーエワはガンガン弾きます。
暗い雲は題名通り、暗い作品。これもリストの一面ですね。
そして、いよいよ、今日の主役、ピアノ・ソナタ ロ短調。アヴデーエワほどのピアニストにこそ、ぴったりの作品です。
これは気持ちを集中して聴きましょう。第1部にあたるところから、抜群の演奏に息を呑みます。しかし、凄かったのは緩徐的な第2部です。右手で奏でる後期ロマン的な熱い熱情に翻弄されます。これでもか、これでもかと、熱いロマンの波が押し寄せてきます。ああ、これが音楽だ!と、しびれるような愛の吐息を感じます。第2部の長いこと・・・こんなに長かったのかと驚嘆します。そして、最高の第2部が終わり、第1部の音節に回帰して、第3部が始まります。そのフィナーレの高潮の凄いこと! 圧倒的です。そして、最後は静かに鐘が鳴り、低音の和音で終わります。期待通りの素晴らしい演奏でした。
かつて、エレーヌ・グリモーの実に官能的な演奏を聴いたのは、おとりおきとしても、今日のアヴデーエワは音楽的には優るとも劣らないと言っていい演奏でした。この曲は何故か、女流ピアニストに似合います。

アンコールはショパンのマズルカ。そして、リストのハンガリー狂詩曲です。妥当なところです。そして、何とも素晴らしい演奏でした。


今日のプログラムは以下です。

 ピアノ:ユリアンナ・アヴデーエワ

  ショパン:ポロネーズ第7番 変イ長調 Op.61「幻想ポロネーズ」
  ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
  ショパン:前奏曲 嬰ハ短調 Op.45
  ショパン:スケルツォ第3番 嬰ハ短調 Op.39
  ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22

   《休憩》

  リスト:死のチャールダーシュ S.224
  リスト:暗い雲 S.199
  リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178

   《アンコール》

    ショパン:マズルカ イ短調 Op.59-1
    リスト:ハンガリー狂詩曲第17番 ニ短調 S.244


最後に今回の予習について、まとめておきます。

  ショパン:ポロネーズ第7番 変イ長調 Op.61「幻想ポロネーズ」
   ユリアンナ・アヴデーエワ
  ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
   河村尚子
  ショパン:前奏曲 嬰ハ短調 Op.45
   ユリアンナ・アヴデーエワ
  ショパン:スケルツォ第3番 嬰ハ短調 Op.39
   ユリアンナ・アヴデーエワ
  ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22
   イリーナ・メジューエワ

  リスト:死のチャールダーシュ S.224
   アルフレッド・ブレンデル
  リスト:暗い雲 S.199
   クリスチャン・ツィメルマン
  リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178
   エレーヌ・グリモー

アヴデーエワのショパンは素晴らしいです。
グリモーのリストのピアノ・ソナタ ロ短調は実にセクシーな演奏で大変な高揚感です。



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       アヴデーエワ,  

上原彩子のピアニストとしての新たな出発・・・ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲に挑む@東京文化会館小ホール 2024.3.9

天才、上原彩子はラフマニノフ、チャイコフスキー、プロコフィエフなどのロシアもので比類ない演奏を聴かせてくれます。それで十分に満足できていました。それどころか、ラフマニノフのピアノ組全曲コンサートを聴きたいくらいです。
しかし、彼女はここにきて、ある意味、ピアノ音楽の王道とも言えるドイツ・オーストリア音楽に気持ちがシフトしてきたようです。ようやく、弾きこなしたモーツァルトに引き続き、遂にベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲に全力で挑戦することにしました。今日はその記念すべき1回目。これから、8年もかけて、ベートーヴェンという巨大な嶺に登ることになります。今日はその試金石になります。複雑な思いで今日のリサイタルを聴きます。もう高齢のsaraiはその演奏を聴き終えることができるかどうか、微妙です。しかし、そのsaraiの思いは今日の演奏で払拭されました。やはり、彼女は天才ではなく、超天才であることが確信できました。天才が努力と決意をもってすれば難関を超えることが実感できました。ベートーヴェンという一大障壁を乗り超えることができるということは、今日の素晴らしい演奏を聴けば、理解できました。無論、毎年、4曲程度の作品を心血を注いで、攻略していく努力は欠かせませんが、そういう内面の力と元々の天才的な実力を合わせれば、中期のアパッショナータまで、辿り着けそうに思えます。後期は別次元の世界なので、もう人間としての内面の充実ということになりそうですが、彼女ならば、新たな地平を見つけられるでしょう。
saraiが最後まで見届けるかどうかは問題ではなく、もう、楽観的な気持ちになっています。
しかし、ここで新たな問題が胸に去来します。ベートーヴェンを極めるのならば、次はシューベルトという次の大きな嶺があります。そして、さらにシューマン、ブラームスという道筋も見えてきます。田部京子に続いて、上原彩子もドイツ・オーストリア音楽を本格的に弾くことを精進してほしいと微かながら思ってしまいました。そのsaraiの期待に応えるように何と上原彩子はアンコールでブラームスの晩年の傑作、インテルメッツォをロマンティックに弾いてくれました。最高の演奏でした。ブラームス好きのsaraiが太鼓判を押せるような見事な演奏でした。ドイツ・オーストリア音楽を弾けて、ロシア音楽は超素晴らしいというピアニストの中のピアニストに上り詰めるかもしれないと心の底からの期待が芽生えました。そんな妄想に捉われて、ご機嫌なsaraiでした。

さて、今日の演奏です。ピアノは何とベーゼンドルファー。やはり、ウィーンの音楽はこれに限るかもしれません。オペラシティにあるアンドラーシュ・シフが選定したベーゼンドルファーも弾いてみてほしいですね。
最初はピアノ・ソナタ第1番。緊張して聴き始めましたが、とても素晴らしい演奏です。きっちりと指がまわっています。この後の演奏にも言えますが、ターンがさりげなく弾けていて、音階もスムーズ。古典派音楽の様式感が素晴らしく表現されています。よほど、練習したようです。何故か、この第1番はモーツァルト的な風情が少し感じられる演奏で、ベートーヴェン的な高邁さはそれほどではありません。それに高音域の響きがさらに美しければという課題も見えます。それは強いて言えばということですが、全体としては素晴らしい演奏です。

次は第2番。ここで上原彩子の演奏はぐっとギアがアップ。第1楽章から、見違えるような凄い演奏。saraiの緊張感も増して、集中して聴き入ります。第1番で課題と言ったことはすべてクリアーされています。完璧という表現は使いたくありませんが、そうも言いたくなるような演奏が続きます。上原彩子がラフマニノフを弾くときのような緊張感と集中力がこのベートーヴェンでも発揮されます。第2楽章の緩徐的な表現も素晴らしい。saraiの席からは上原彩子の鍵盤を叩く指がはっきりと見えますが、実に美しく動いています。高音域では右手の指がきっちり立っていて、鍵盤を素晴らしいタッチで叩いています。断っておきますが、saraiはピアノが弾けません。あまり、偉そうにピアノ演奏をどうのこうの言えませんが、耳では名人たちのピアノの音をたくさん聴いています。その基準で言って、とても素晴らしい演奏です。第3楽章は歯切れよく演奏し、これも完璧。そして、第4楽章の凄いこと! もう、あっけにとられるような凄まじい演奏に驚嘆しました。

休憩後、第19番と第20番が続けて演奏されます。いずれも2楽章構成の可愛い作品ですが、上原彩子が弾くと、格段の聴き映えがします。第3番と第4番の間に作曲された平易な作品でモーツァルト的な響きの作品です。今やモーツァルトを得意とする上原彩子は素晴らしい響きの演奏を聴かせてくれます。ト短調の第19番、ト長調の第20番、いずれも圧巻の演奏。第20番の第2楽章は有名なメロディーが楽しく聴けます。七重奏曲 Op.20の第3楽章のメヌエットと同じ主題です。

最後は第3番。これも先ほどの第2番と同様に素晴らしいレベルの演奏です。これまた、圧巻は第4楽章。凄いの、何のって、saraiの気持ちが高揚していきます。これだけ弾いてくれれば、何となく、中期のピアノ・ソナタの演奏も展望が開けてきます。きっと物凄い演奏になりそうな予感がします。

アンコールは第1番から第3番がハイドンに献呈されたので、まず、ハイドンを弾きますと上原彩子が語ってから、実に軽やかな演奏、それも超高速演奏でびっくりします。彼女はハイドンも弾きこなしたようです。そのうち、ハイドンの後期ソナタも披露してもらいたいものです。
次は何も語らず、いきなり弾き始めます。最初はこの聴き慣れた曲は何?と分かりません。あまりにベートーヴェンとかけ離れていたからです。しばらくして、ブラームスのインテルメッツォの1曲であることに思い至ります。素晴らしくロマン性の濃い演奏で、すっかり魅了されます。saraiの大好きなブラームスの晩年のピアノ曲でこのところ、アンドラーシュ・シフの素晴らしい演奏を立て続けに聴いています。今日の上原彩子の演奏はそのシフと同等レベルの素晴らしい演奏。これならば、機会をみて、ブラームスの晩年の傑作群、Op.116~Op.119をまとめて弾いてもらいたいものです。
アンコールにも大満足でした。

来年は3月上旬に第4番から第7番までの4曲が予定されています。まだまだ初期の作品群ですが、今日の演奏から判断して、かなりの聴き応えが期待できそうです。再来年は第8番《悲愴》や第10番など、有名作品が登場してきます。そして、2028年にはワルトシュタインやテンペスト、2029年には、アパッショナータという中期の傑作群が綺羅星の如く登場します。あと6年、何とか聴き続けたいものです。この中期の傑作群がこのチクルスの一つの頂点をなすことになるでしょう。無論、2032年の後期3ソナタが聴ければ僥倖です。

まあ、現実的には、来週末からのウィーンの大御所ブッフビンダーのベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲チクルス(全7回)の連続コンサートを聴きます。コロナ禍でイリーナ・メジューエワのベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲チクルスが流れたので、これがsaraiにとって、初の全曲チクルスになります。その次が今日からの上原彩子のチクルスになるのかな・・・


今日のプログラムは以下です。


 上原彩子 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会 Vol.1

  ピアノ:上原彩子
  
 ベートーヴェン:ピアノソナタ

  第1番 ヘ短調 Op.2-1
  第2番 イ長調 Op.2-2

   《休憩》

  第19番 ト短調 Op.49-1
  第20番 ト長調 Op.49-2
  第3番 ハ長調 Op.2-3

   《アンコール》
   ハイドン:ピアノ・ソナタ第38番ヘ長調Hob.23 Op.13-3より第1楽章
   ブラームス:6つの小品より間奏曲イ長調 Op.118-2


最後に予習について、まとめておきます。

すべて、メジューエワの最新のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集から予習しました。CDも所有していますが、Apple Musicの配信で聴きました。

 イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2020年6月~7月、新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

メジューエワらしい力強いタッチの演奏。まったく隙のない演奏です。

そのほか、来週のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲チクルスに向けて、ブッフビンダーの演奏も聴いています。

 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ全集 2014年8月 ザルツブルク音楽祭 ライヴ録音

ウィーンの巨匠ブッフビンダー3回目のピアノ・ソナタ全集はザルツブルク音楽祭のライヴ録音です。ともかく、高音域の美しい響きに感銘を覚えました。そして、ベートーヴェンが初期から中期にかけて、音楽的に上り詰めていく様が見事に表現されています。後期は別世界です。



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       上原彩子,  

フランス人女性指揮者マリー・ジャコの目覚ましい指揮、そして、小曽根真によるノリのよいラヴェルのピアノ協奏曲 読売日本交響楽団@サントリーホール 2024.3.12

今日はフランス人女性指揮者マリー・ジャコの日本初登場。その指揮姿の何となくユニークなところに惹き付けられました。そこから湧き出る音楽の瑞々しいこと!
最初のプロコフィエフの歌劇「3つのオレンジへの恋」組曲全曲を聴くのは初めてですが、新古典主義らしい溌剌さが横溢していました。実に耳に心地よく響きます。マリー・ジャコの美しい指揮姿にも魅了されます。
まあ、ここまではよかったのですが、今日は実に疲れており、音楽の心地よさにこれ以降はほとんど寝落ちした次第…情けないですね!

ラヴェルのピアノ協奏曲ははっと気が付いたら、第2楽章後半のピアノと木管楽器(コールアングレやファゴット)の実に美しい対話が繰り広げられています。さすがにこれは寝てはいられません。何とも素晴らしい音楽に魅了されました。そのまま、第3楽章の活気のある演奏に聴き惚れます。小曽根真のピアノはリズムのノリもよく、そして、何と言っても、タッチが実に美しいです。あまりの美しさにまた、寝落ち。そして、最後に高潮するところはちゃっかり聴きました。素晴らしい締めでした。
アンコールは何とジャズナンバーの名曲、A列車で行こう。ベースと競演です。ここでも実にクリアーな音でピアノの魅力を発散してくれます。ジャズもクラシックもOKの稀有なピアニスト、小曽根真の真骨頂が発揮されました。


休憩後、後半はほとんど夢の中。プーランクの組曲「典型的動物」はフランスの古い白黒映画のような面持ちで、ノスタルジックな気分の作品です。夢の中とは言え、ほどほど聴いていました。プーランク自体、あまり聴きませんが、新古典的な雰囲気の音楽、ちょっと面白いですね。
続くヴァイルの交響曲第2番、充実した響きが印象的です。第1楽章はオスティナートのような音楽で、響きの変化を味わいます。しかし、こういう音楽は今日の状態では寝落ちに拍車をかけます。第2楽章は抒情的な味わいです。第3楽章はロンドで勢いがあります。最後の高潮はばっちり聴きました。マリー・ジャコの軽やかな指揮のもと、読響の明るいサウンドが炸裂します。

今日の主役は小曽根真。そして、マリー・ジャコは最近増えてきた女性指揮者の中でも若手で今後が嘱望されます。

今日は散々の状態での音楽鑑賞でしたが、今日から、日曜日まで、6日間連続のコンサート。そして、月曜日を1日置いて、また、4日間連続のコンサート。大丈夫かな・・・


今日のプログラムは以下です。

  指揮:マリー・ジャコ
  ピアノ:小曽根真
  管弦楽:読売日本交響楽団  コンサートマスター:長原幸太

  プロコフィエフ:歌劇「3つのオレンジへの恋」組曲 Op.33bis
  ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
   《アンコール》A列車で行こう(ピアノ:小曽根 真、コントラバス:大槻 健)

   《休憩》

  プーランク:組曲「典型的動物」
  ヴァイル:交響曲第2番
  

最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のプロコフィエフの歌劇「3つのオレンジへの恋」組曲は以下の演奏を聴きました。

 シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団 1992年10月 サン・トゥスタッシュ教会、モントリオール、カナダ セッション録音
 
デュトワの見事な演奏。


2曲目のラヴェルのピアノ協奏曲 ト長調は以下の演奏を聴きました。

 アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ、エットーレ・グラチス指揮フィルハーモニア管弦楽団 1957年 セッション録音

 
隠れた名盤。ミケランジェリのピアノが冴えていて、録音も上々。


3曲目のプーランクの組曲「典型的動物」は以下の演奏を聴きました。

 ジョルジュ・プレートル指揮パリ音楽院管弦楽団 1966年 セッション録音

プレートルによる貴重な録音。


4曲目のヴァイルの交響曲第2番は以下の演奏を聴きました。

 マリン・オールソップ指揮ボーンマス交響楽団 2004年1月、イギリス、ドーセット、プーレ、ライトハウス・コンサートホール セッション録音

マリン・オールソップによる真摯に向かい合った演奏。



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メルニコフの夢のようなピアノ・リサイタル、とりわけ、シューマンの交響的練習曲の素晴らしさと言ったら!!@トッパンホール 2024.3.13

メルニコフのピアノ・リサイタル・・・聴こうか、どうか、躊躇しているうちにチケット発売日が過ぎてしまいました。しばらくして、トッパンホールのチラシが送られてきて、メルニコフのリサイタルに関する記事が載っていて、このリサイタルのプログラムは師リヒテルをオマージュしたものだということです。確かにプロコフィエフの束の間の幻影が印象的なプログラムです。俄かに聴きたくなってきました。空いている席をチェックすると、中央前列は埋まっています。そこそこの席がまだ空いているので、ポチっとチケットを購入しました。これが大正解でした。近年稀にみるような素晴らしいピアノ・リサイタルでした。とりわけ、前半のベートーヴェンとシューマンの素晴らしかったこと。実に考え抜かれた演奏です。楽譜から、こんなに充実した音楽を取り出したのは、メルニコフの才能と努力の成果で、それを実際、リサイタルで弾いてみせてくれたのは、よほどの緊張感と集中力のなせる業でしょう。もう、saraiは椅子から転げ落ちるほど、その素晴らしさ、ユニークさに驚愕しました。

最初のベートーヴェンのピアノ・ソナタ第27番は有名な告別ソナタの後に書かれた曲で第1楽章の壮大さ、第2楽章のシューベルトとみまごうばかりの歌謡性はそれまでの作品になかったものです。ある意味、ここから、シューベルトに始まるロマン派の扉が開かれたと言える重要な作品です。メルニコフはその作品の価値を知らしめるべく、素晴らしい演奏を繰り広げました。第1楽章で深く感銘を受けましたが、第2楽章のロマンには魅了されるばかり。ここでこの作品を取り上げた意図がよく分かりました。そうそう、第1楽章の終わりは極めて弱音で閉じましたが、それは第2楽章へのつなぎという意味で素晴らしかったんです。

そのベートーヴェンのロマンはその次のシューマンの交響的練習曲に弾き継がれます。よく考えた構成です。
最初のテーマは驚くほど荘重な調子で始まります。そして、目くるめくようなシューマンワールドが展開されていきます。実はちゃんとプログラムを見ていなかったので、どこに遺作の変奏曲が挟まれるのか、分かっていませんでした。ただ、変奏曲ⅣとⅤが挟まれることはプログラムの解説で分かっていました。すると、練習曲Ⅶの後に遺作の変奏曲が弾かれ始めます。練習曲は強大な音で堂々たる演奏でしたが、無論、遺作の変奏曲はぐっと抑えて、実に抒情的に弾かれます。遺作の変奏曲5曲の中でも、今日弾かれるⅣとⅤは名曲中の名曲。ダイナミックな練習曲の谷間に美しいロマンの花が咲いたような情景が広がります。まさに感極まれりという思いです。また、練習曲Ⅷに戻り、強靭な音楽が展開され、練習曲Ⅺでは嬰ト短調に転調して、淡いロマンになり、終曲では長調に転じて、祝祭的とも言える雰囲気に盛り上がります。そして、最後はメルニコフが猛烈な勢いでピアノを叩き、まるで師リヒテルの爆演に迫るような音楽に高潮させます。まったくもって素晴らしいシューマンでした。こんなシューマンが聴けるとは想像だにしていませんでした。
休憩後、後半は期待していたプロコフィエフの束の間の幻影。これは期待が大き過ぎたのか、はたまた、予習で凄まじいリヒテルのカーネギーホールのライヴを聴いたせいか、もうひとつです。もっと思い切った演奏、クリアーな演奏を期待していました。悪くはありませんが、さきほどのシューマンのレベルではありません。
続くラフマニノフのショパンの主題による変奏曲も同様の印象です。

メルニコフはれっきとしたロシア人ですが、その感性はもう、ドイツ・オーストリア音楽にはまりこんでいるようです。同世代のロシア人のルガンスキーのラフマニノフには及ばない印象です。でも、モーツァルトも含め、ドイツ・オーストリア音楽をこれだけ弾ける人はいませんから、それはそれでいいのかもしれません。実に充実したピアノ・リサイタルを楽しみました。


今日のプログラムは以下です。


   ピアノ:アレクサンドル・メルニコフ
  
  ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第27番 ホ短調 Op.90
  シューマン:交響的練習曲 Op.13《1852年版(ただし、練習曲ⅢとⅨは取り除かれていない)》
   Thema - Andante:嬰ハ短調(以下同様)
   Etüde I - Un poco più vivo (Variation I)
   Etüde II - Andante (Variation II)
   Etüde III - Vivace
   Etüde IV - Allegro marcato (Variation III)
   Etüde V - Scherzando (Variation IV)
   Etüde VI - Agitato (Variation V)
   Etüde VII - Allegro molto (Variation VI)
   Variation IV - Allegretto 遺作
   Variation V - Moderato 遺作
   Etüde VIII - Sempre marcatissimo (Variation VII)
   Etüde IX - Presto possibile
   Etüde X - Allegro con energia (Variation VIII)
   Etüde XI (Variation IX) - Andante espressivo :嬰ト短調
   Etüde XII (Finale) - Allegro brillante :変ニ長調(同主長調の異名同音)

   《休憩》

  プロコフィエフ:束の間の幻影 Op.22
  ラフマニノフ:ショパンの主題による変奏曲 Op.22

   《アンコール》
   ラフマニノフ:13の前奏曲 Op.32より 第5曲 ト長調
   ラフマニノフ:13の前奏曲 Op.32より 第10曲 ロ短調
   スクリャービン:2つの詩曲 Op.32より 第1曲 嬰ヘ長調


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のベートーヴェンのピアノ・ソナタ第27番は以下の演奏を聴きました。

 イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2020年6月~7月、新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

メジューエワらしい力強いタッチの演奏。まったく隙のない演奏です。


2曲目のシューマンの交響的練習曲は以下の演奏を聴きました。

 伊藤恵 2000年1月12-14日 ベルフォーレ(坂東市民音楽ホール) セッション録音

伊藤恵はシューマニア・シリーズ13枚のCDで素晴らしいシューマンのピアノ独奏曲の全曲を聴かせてくれます。この曲はまあ、普通の出来でしょうか。


3曲目のプロコフィエフの束の間の幻影は以下の演奏を聴きました。

 アレクサンドル・メルニコフ 1996年1月24,25日 田園ホール,エローラ,埼玉 セッション録音
 スヴャトスラフ・リヒテル 1960年12月26日、ニューヨーク、カーネギー・ホール ライヴ録音
  第3曲:アレグレット/第4曲:アニマート/第5曲:モルト・ジョコーゾ/第6曲:コン・エレガンツァ/
  第8曲:コモド/第9曲:アレグレット・トランクイロ/
  第11曲:コン・ヴィヴィチタ/第14曲:フェローチェ/第15曲:インクイート/第18曲:コン・ウナ・ドルチェ・レンテッツァ
 上原彩子/プロコフィエフ作品集 2007年10月 ロンドン、アビー・ロード・スタジオ セッション録音

メルニコフはもうひとつ冴えない演奏。リヒテルは伝説的とも言える神がかった演奏。カーネギーホールに詰め掛けた聴衆の熱狂が感じられます。まあ、ありえないような演奏ですからね。上原彩子は2002年にチャイコフスキーコンクールで優勝した5年後、日本人として初めてEMIクラシックスと専属契約を結び、あのアビーロードスタジオでロシアンプログラムを録音。リヒテルの熱狂こそありませんが優るとも劣らない凄まじい演奏を聴かせてくれます。この勢いで世界制覇できなかったのは何故でしょう。


4曲目のラフマニノフのショパンの主題による変奏曲は以下の演奏を聴きました。

 ニコライ・ルガンスキー 2004年6月 セッション録音

ルガンスキーのラフマニノフは素晴らしい。この曲も圧倒的な演奏です。



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ワーグナー《トリスタンとイゾルデ》 至上の愛と憧れを素晴らしく表出@新国立劇場 2024.3.14

時間を間違えて、2時間も早く行ってしまいました。ぼけたかな・・・。

その2時間も含め、実に長大なオペラになりました。まあ、本編のみだと4時間ほどです。家を12時前に出て、帰ってきたのは12時少し前。結局、12時間ほど費やしたことになります。その時間が惜しくないほど、素晴らしい出来のオペラでした。

何と言っても、ワーグナーの音楽が何とも素晴らしい。saraiにとって、すべてのオペラの中で5本の指に入ります。ワーグナーでは、パルジファルと並ぶ傑作だと思っています。子供の頃は意味も分からず、トリスタントイゾルデとどこで切るか分からず発音していました(トリスタント・イゾルデという一人の人の名前と思っていました)。何か未知の魔力を持った高尚な音楽だと恐れていました。
そして、いよいよ、初めて、生の舞台に接したのはsaraiが40代になってからです。1993年のベルリン・ドイツ・オペラの日本公演。トリスタンをルネ・コロが歌うというので、これは聴いておかねばと思い、大枚をはたいて、聴きました。日本でこのオペラが上演されたのは、これが6回目だったそうです。日本では滅多に聴けないオペラだったわけです。無論、字幕付きとは言え、まったく、音楽内容を理解していなかったと思います。バイロイト音楽祭の公演を記録したレーザー・ディスクでは予習していましたが、そんなに聴き込んでいませんでした。
そして、何回か聴いた後、6年前の2018年、夢だったバイロイト音楽祭でこのオペラを聴き、そのあまりの素晴らしさに大感動しました。ティーレマンの指揮でした。
 バイロイト_トリスタンとイゾルデ

今日の《トリスタンとイゾルデ》はそのバイロイト音楽祭以来です。無論、バイロイトには及びませんが、ほぼ、同程度のレベルで鑑賞できました。一番よかったのは、都響の素晴らしい音響、そして、シンプルな舞台演出です。
第1幕の前奏曲、のっけから響いてくるトリスタン和音にぞくぞくします。とても美しくロマンに満ちた前奏曲。目をつぶって聴いていました。寝落ちなしです。
【イゾルデ】役のリエネ・キンチャ、とても素晴らしい。上をみたらきりがありませんが、鑑賞上、これ以上ない歌唱を聴かせてくれました。オーケストラとイゾルデがよければ、sarai的にこのオペラは問題なしです。
その上、【ブランゲーネ】の藤村実穂子の声の響きの美しいこと、時々、イゾルデとブランゲーネの区別がつかなくなります。藤村実穂子のブランゲーネは20年以上前にバイエルン国立歌劇場で聴いていますが、その時の記憶では、これほどの歌唱ではなかったような気がします。今や最高のブランゲーネ歌いではないでしょうか。
【トリスタン】役のゾルターン・ニャリもなかなかの美声で見事なトリスタンを聴かせてくれました。

第1幕の愛の媚薬を飲んで恋に落ちたトリスタンとイゾルデの声なしでオーケストラが前奏曲を響かすところの素晴らしさ!

第2幕のトリスタンとイゾルデの官能の愛の音楽のロマンの美しいこと!

第3幕のイゾルデの愛の死には参りました・・・これ以上の音楽があるでしょうか!

今日はとても満足です。
今月はまた、ヤノフスキでこの《トリスタンとイゾルデ》を聴きます。ワクワクです。


今日のキャストは以下です。

  リヒャルト・ワーグナー
   トリスタンとイゾルデ
    全3幕

  【指 揮】大野和士
  【演 出】デイヴィッド・マクヴィカー
  【美術・衣裳】ロバート・ジョーンズ
  【照 明】ポール・コンスタブル
  【振 付】アンドリュー・ジョージ
  【再演演出】三浦安浩
  【舞台監督】須藤清香
  【合唱指揮】三澤洋史
  【合 唱】新国立劇場合唱団
  【管弦楽】東京都交響楽団 コンサートマスター:矢部達哉
  
  【トリスタン】ゾルターン・ニャリ
  【マルケ王】ヴィルヘルム・シュヴィングハマー
  【イゾルデ】リエネ・キンチャ
  【クルヴェナール】エギルス・シリンス
  【メロート】秋谷直之
  【ブランゲーネ】藤村実穂子
  【牧童】青地英幸
  【舵取り】駒田敏章
  【若い船乗りの声】村上公太
  

最後に予習について、まとめておきます。

 ・ワーグナー:楽劇『トリスタンとイゾルデ』全曲
 
 イゾルデ:キルステン・フラグスタート
 トリスタン:ルートヴィッヒ・ズートハウス
 ブランゲーネ:ブランシュ・シーボム
 マルケ王:ヨーゼフ・グラインドル
 クルヴェナール:ディートリッヒ・フィッシャー・ディースカウ
 メロート:エドガー・エヴァンス
 牧童:ルドルフ・ショック
 水夫:ルドルフ・ショック
 舵手:ローデリック・デイヴィーズ
 コヴェントガーデン王立歌劇場合唱団(合唱指揮:ダグラス・ロビンソン)
 フィルハーモニア管弦楽団
 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(指揮)

 録音:1952年6月10-21日、23日、ロンドン、キングズウェイ・ホール(モノラル)
  
フルトヴェングラー、畢生の名演。深く感動しました。何回も聴いていますけどね。



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ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会は上々の開始@東京文化会館小ホール 2024.3.15

今日から7回にわたって、ウィーンの巨匠ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲を聴きます。

第1番から順番に演奏するのではなく、毎回、初期、中期を織り交ぜて演奏します。後期は第30番・第31番・第32番は最後にまとめて演奏します。第28番と第29番は初期、中期と一緒に演奏します。ですから、毎回、初期から中期までのソナタの変遷を味わうことができる構成になっています。

今日は比較的、初期に軸足を置いたプログラムになっています。中期はその時期の最初の2曲、作品27が演奏されます。最後に演奏される第14番 嬰ハ短調 op.27-2《月光》が注目されます。

ブッフビンダーもいつしか歳を重ね、現在、77歳という高齢ですが、ピアニストは80歳を超えてから味わいを深めることが多いので、まだまだ、これからでしょう。しかし、一般的にピアニストは歳とともに曲の解釈は同じでも、テンポが遅くなります。まあ、そこに味わいを深める場合が多いのですが、今日の演奏はどうでしょうね。

ステージに登場したブッフビンダーはしっかりした足取りで堂々たる体格です。saraiが以前聴いたのは、2016年のザルツブルク音楽祭のピアノ・リサイタルですから、8年前です。まだ、60代のブッフビンダーは圧巻のベートーヴェンを聴かせてくれました。今日も演奏するピアノ・ソナタ第10番と第23番《アパッショナート》が素晴らしい演奏でした。

 ブッフビンダー@ザルツブルク音楽祭
 
そのときに比べると、やや、体の動作が重い感じですが、第1番のソナタを弾き始めると、実に颯爽とした演奏で、テンポも遅くありません。指回りも完璧で見事な演奏です。

次は第10番、期待の曲目です。これは弱音の表現に重きを置いた演奏で、ちょっと物足りない感じ。まあ、これがウィーン風の演奏なのでしょう。

前半最後は第13番。中期の最初の曲。第3楽章の抒情味あふれた演奏に続き、第4楽章は圧倒的な演奏で見事でした。

ところで、ピアノはベーゼンドルファーだったのでしょうか。近くに寄ってみると、スタインウェイでした。なるほどね。

休憩後、後半は第4番。前半と打って変わって、とても力強い演奏です。第2楽章は緩徐楽章ですから、力を抜いた連綿たる演奏。第3楽章は素早いテンポのスケルツォ的な演奏。第4楽章はロンドで勢いのある演奏。さすがに初期の名作です。

最後は第14番《月光》。第1楽章はまさにルツェルンに降り注ぐ月の光のごとく、美しい演奏です。ブッフビンダーは右手の打鍵、中音域から高音域の響きが実に美しいです。これが彼の最大の美質ですね。圧巻だったのはやはり、第3楽章。熱い熱情が燃え上がります。まさに中期の到来を告げるような音楽がホールに響き渡りました。納得の演奏です。

明日は何と言っても、テンペストが楽しみです。どんな演奏を聴かせてくれるでしょう。


今日のプログラムは以下です。


 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会 I

  ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー
  
 ベートーヴェン:ピアノソナタ

  第1番 ヘ短調 op.2-1
  第10番 ト長調 op.14-2
  第13番 変ホ長調 op.27-1

   《休憩》

  第4番 変ホ長調 op.7
  第14番 嬰ハ短調 op.27-2《月光》

   《アンコール》
   ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第18番 変ホ長調 op.31-3 - II. Scherzo: Allegretto vivace


最後に予習について、まとめておきます。

すべて、ブッフビンダーとメジューエワの以下のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集を聴きました。

 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ全集 2014年8月 ザルツブルク音楽祭 ライヴ録音

ウィーンの巨匠ブッフビンダー3回目のピアノ・ソナタ全集はザルツブルク音楽祭のライヴ録音です。ともかく、高音域の美しい響きに感銘を覚えました。そして、ベートーヴェンが初期から中期にかけて、音楽的に上り詰めていく様が見事に表現されています。後期は別世界です。

 イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2020年6月~7月、新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

メジューエワの2回目のピアノ・ソナタ全集はコロナ禍の際に録音されました。予定していたチクルスが中止になったのを機に録音したものです。メジューエワらしい力強いタッチの演奏。まったく隙のない演奏です。



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ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会2回目 すべての曲が絶品!@東京文化会館小ホール 2024.3.16

ウィーンの巨匠ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会、今日は全7回のうち、2回目です。

前回の1回目は比較的、初期に軸足を置いたプログラムでしたが、上々の出来でした。しかし、今日は最初の曲から、脂が乗り切り、前回とは比較にならないほどのレベルの演奏で、これでこそ、ブッフビンダーだという素晴らしい演奏の連続に興奮を禁じ得ません。saraiが以前聴いた2016年のザルツブルク音楽祭のピアノ・リサイタルでの演奏を思い出しました。一気に実力を開放っていう感じです。次回からもこのレベルでの演奏が続くことを確信しています。


最初は第5番のソナタです。ベートーヴェンの運命の調、ハ短調のソナタです。第1楽章は上行音型が印象的に響き、圧巻の演奏です。まさに心に響いてきます。ブッフビンダーはのっけから、絶好調の演奏を聴かせてくれます。第2楽章のアダージョ・モルトは抒情的な調べが優しく響きます。第3楽章はまた、熱く激しく迫ってきます。初期では出色の演奏。これだけ弾いてくれれば、初期も中期も関係ありません。

次は第12番のソナタです。初期の最後を飾る曲ですが、ベートーヴェンは高きを目指し、第1楽章をソナタ形式でなく、変奏曲で始めます。後期のソナタを先取りした感もありますが、歌謡性にあふれ、なおかつ、ベートーヴェンらしい凛とした格調の高さがあります。それをブッフビンダーは最高の表現で我々を魅了してくれます。後期であればもっと長大な変奏が続くところですが、ほどほどで終わります。第2楽章はスケルツォで、ブッフビンダーのきびきびした表現が光ります。第3楽章は葬送行進曲。「ある英雄の死を悼む葬送行進曲」との副題がつけられており、そのことから、このソナタは《葬送》とも通称されています。付点のリズムの重々しい主題が繰り返し奏でられ、やがて、頂点に達します。トリオはトレモロが印象的なものです。再び、葬送行進曲の主題に復帰して、最後は最弱音で楽章を閉じます。素晴らしい演奏でした。なお、ベートーヴェンの葬儀ではこの葬送行進曲の管弦楽版が奏されたそうです。第4楽章は無窮動的なロンドで、構成としては意外性があります。とりとめのないような音楽ですが、ブッフビンダーは華々しく演奏します。勢いのある音楽は最後はピアニッシモで静かに閉じます。これも素晴らしい演奏でした。

前半最後は第22番。中期の傑作、《ワルトシュタイン》と《アパッショナータ》に挟まれた2楽章構成の小規模な作品です。ソナタ形式の楽章も持たない風変わりな作品ですが、いわゆる、傑作の森の時期に書かれました。まあ、謎のような作品で一般的に評価も低い作品です。第1楽章はメヌエットのテンポでロンドのような音楽が展開されます。第2楽章は英雄的なフレーズも含みますが、無窮動的に音楽は終始します。この激しい楽章は中期の特徴を表しています。ブッフビンダーの力強いタッチが冴え渡りました。


休憩後、後半は第17番《テンペスト》。「ハイリゲンシュタットの遺書」が書かれた時期に作曲された作品31の3曲のうちの1曲で、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの中でも人気の高い曲です。かく言うsaraiも大好きで、後期を除けば、一番好きな作品です。saraiが聴いたザルツブルク音楽祭のリサイタルでは、アンコールとして、この《テンペスト》の第3楽章が演奏されました。とても素晴らしい演奏でした。ブッフビンダーの演奏で《テンペスト》の全3楽章を聴くのは初めてで楽しみにしていました。
第1楽章は冒頭主題が幽玄に始まり、すぐに意思力に満ちた上行音型の主題がポジティブに奏でられます。ブッフビンダーの明確な打鍵と美しい響きで魅惑的な楽章が演奏されて、気持ちが高揚します。最後は弱音で曲を閉じます。第2楽章は美しいアダージョが瞑想的に歌われます。まるでベートーヴェンはピアノの詩人か哲学者という風情です。ブッフビンダーのピアノは優しく歌います。第3楽章はとても有名な楽章ですね。とりわけ、第1主題のメロディーがタラタラータラタラータラタラータラーと魅惑的に弱音で響きます。この主題が繰り返し現れて、曲は大きな盛り上がりを見せます。うーん、いいね。そして、そのまま、静謐な雰囲気で曲を閉じます。見事な演奏でした。

最後は第18番。《テンペスト》に続く作品31の3番目の曲です。ベートーヴェンが新しい創作意欲に燃えて、創意工夫をした作品で、はっきりと初期の作品とは一線を画する複雑な音楽に仕上がっています。第1楽章はちょっと捉えどころのないような音楽ですが、調性が定まらず、リタルダンドの多用など新しい試みが横溢しています。第2楽章は緩徐楽章ではなく、スケルツォ。スタッカートの音型が支配的で2拍子の音楽はごつごつした雰囲気です。第3楽章のメヌエットは一転して優美な雰囲気で緩徐的に感じてしまいます。楽章ごとの対比が目立ちます。第4楽章はソナタ形式の第1主題と第2主題の間に狩りを連想させる楽想が挿入され、この楽想はこの後も頻繁に顔を出します。そのため、このソナタは『狩』の愛称で呼ばれることもあります。楽章全体は左手が刻むタランテラの伴奏音型に支配され、展開部では両手でこのタランテラの伴奏音型を刻みながら、音量を下げていきます。ところが唐突にフォルテで再現部が始まります。コーダは今度は右手でタランテラの伴奏音型が刻まれながら、頂点を形作ります。最後は第1主題をユニゾンで力強く奏でて曲を閉じます。圧巻のフィナーレです。《テンペスト》に比べても大変、聴き応えのある音楽をブッフビンダーは素晴らしく演奏しました。

明日は、中期の終わりの第26番《告別》ソナタ、後期への架け橋となる第28番のソナタが楽しみです。ブッフビンダーはますますレベルの高い演奏を聴かせてくれそうです。


今日のプログラムは以下です。


 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会 II

  ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー
  
 ベートーヴェン:ピアノソナタ

  第5番 ハ短調 op.10-1
  第12番 変イ長調 op.26
  第22番 へ長調 op.54

   《休憩》

  第17番 ニ短調 op.31-2《テンペスト》
  第18番 変ホ長調 op.31-3

   《アンコール》
   ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第6番 へ長調 op.10-2 より第3楽章 Presto


最後に予習について、まとめておきます。

すべて、ブッフビンダーとメジューエワの以下のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集を聴きました。

 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ全集 2014年8月 ザルツブルク音楽祭 ライヴ録音

ウィーンの巨匠ブッフビンダー3回目のピアノ・ソナタ全集はザルツブルク音楽祭のライヴ録音です。ともかく、高音域の美しい響きに感銘を覚えました。そして、ベートーヴェンが初期から中期にかけて、音楽的に上り詰めていく様が見事に表現されています。後期は別世界です。

 イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2020年6月~7月、新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

メジューエワの2回目のピアノ・ソナタ全集はコロナ禍の際に録音されました。予定していたチクルスが中止になったのを機に録音したものです。メジューエワらしい力強いタッチの演奏。まったく隙のない演奏です。



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ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会3回目 ブッフビンダーは絶好調!@東京文化会館小ホール 2024.3.17

ウィーンの巨匠ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会、今日は全7回のうち、3回目です。

前回までは1回目から2回目に目を瞠るようなジャンプアップした演奏に驚嘆しましたが、今回は曲目がさらに後期寄りになったこともあり、ブッフビンダーの真の実力を堪能することのできる演奏が繰り広げられました。ブッフビンダーは本当にベートーヴェンを弾かせると非の打ちどころのないような音楽を聴かせてくれます。まず、指回りの確かさでかなりの高速演奏を聴かせてくれます。そして、何と言ってもピアノの響きの美しさが例えようもないものです。とりわけ、右手の奏でる高音域の響きの美しさと言ったら、ただ魅了されるだけです。無論、ベートーヴェンの音楽表現は曲目が後期寄りになるほど、その素晴らしさが実感できます。壮麗さや深い音楽表現など、ただ、納得して聴き入るばかりです。


最初は第3番のソナタです。初期のソナタですが、若きベートーヴェンの意欲に満ちた意思の力が充満する作品です。ブッフビンダーは鍵盤を上行、下行の音階で駆け巡りながら、ピアノ・ソナタとしては実に壮麗な音楽を築き上げます。ヴィルトゥオーゾ的ですが、品位を保ちながら、弾いていきます。華麗とも言える第1楽章に続き、第2楽章は優美なアダージオが響きます。諧謔的なスケルツォの第3楽章を経て、第4楽章は華やかに展開していき、ブッフビンダーの見事な技巧に魅了されつつ、堂々たるコーダで曲を締めくくります。初期とは思えない素晴らしい音楽を味わわせてくれました。

次は第19番のソナタです。番号は出版順に付けられたもので、実際に作曲されたのは、今演奏された第3番のソナタの後で、第20番とともにやさしいソナタとタイトルが与えられています。2楽章構成の短い作品ですが、中身は濃いものです。第1楽章はト短調の少し翳のある主題で始まり、格調の高い音楽になっています。ブッフビンダーは深さのある音楽表現で魅了してくれます。第2楽章は一転して、スタッカートの付けられた元気のよい音楽が展開され、爽やかに音楽が駆け抜けます。

前半最後は第26番《告別》です。中期の終わりの有名な作品です。冒頭の動機の3音Lebewohl(さようなら)が磨き抜かれた美しい音で奏でられます。この動機は以後、様々な作曲家が引用することになります。特にマーラーが交響曲第9番や大地の歌でこの世に別れを告げる音楽に引用しています。saraiはこの動機を聴くと様々な思いが脳裏に交錯します。
第1楽章の序奏の後、主部に入って、高邁な思想のような演奏になります。第2楽章は深い味わいの歌、後期ソナタのアリエッタにそのまま続いていくような錯覚を覚えます。もう中期の終盤で後期に足を踏み入れたような音楽です。そして、第3楽章は喜びにあふれた明るい音楽が横溢します。こういう有名な作品もブッフビンダーは格調高く演奏してくれます。


休憩後、後半は第7番のソナタです。初期のソナタですが、先ほどの第3番のソナタと同様に大きな構成の作品です。たっぷりした聴き応え。特に第2楽章のメストと題された哀し気な音楽はベートーヴェンの中でも稀有なもので、ある意味、後期ソナタに続くものかもしれません。その哀感を中心に癒しや憂鬱さの音楽が第4楽章まで続く印象深いものです。ブッフビンダーの音楽表現が深さを増します。

最後は第28番。中期の最後の作品で、もう、ほとんど、後期ソナタに足がかかっています。第1楽章は歌謡性のある音楽が優美に優しく響きます。第2楽章は付点のリズムのついた行進曲風の勢いのある音楽です。シューマンを予感させる音楽と言われていますが、なるほどね。第3楽章は寂漠としたゆったりとした音楽が序奏のように続き、第1楽章の主題が回想された後、主部とも言える溌剌とした音楽が展開されます。そして、対位法的な音楽が始まりますが、純然たるフーガではないそうです。ただ、素人の耳には後期ソナタのフーガを先取りしたもののように聴こえます。実に壮麗な音楽です。最後はいったん静まった後、強烈なフォルティシモで全曲を締めくくります。ブッフビンダーの渾身の演奏でした。

アンコールは何と悲愴ソナタ。見事な演奏でした。本編での演奏が楽しみです。


明後日は、《ハンマークラヴィーア》が最後に演奏されます。ブッフビンダーの渾身の演奏が聴けるでしょう。


今日のプログラムは以下です。


 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会 III

  ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー
  
 ベートーヴェン:ピアノソナタ

  第3番 ハ長調 op.2-3
  第19番 ト短調 op.49-1
  第26番 変ホ長調 op.81a《告別》

   《休憩》

  第7番 ニ長調 op.10-3
  第28番 イ長調 op.101

   《アンコール》
   ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 op.13《悲愴》 より 第3楽章 Rondo: Allegro


最後に予習について、まとめておきます。

すべて、ブッフビンダーとメジューエワの以下のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集を聴きました。

 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ全集 2014年8月 ザルツブルク音楽祭 ライヴ録音

ウィーンの巨匠ブッフビンダー3回目のピアノ・ソナタ全集はザルツブルク音楽祭のライヴ録音です。ともかく、高音域の美しい響きに感銘を覚えました。そして、ベートーヴェンが初期から中期にかけて、音楽的に上り詰めていく様が見事に表現されています。後期は別世界です。

 イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2020年6月~7月、新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

メジューエワの2回目のピアノ・ソナタ全集はコロナ禍の際に録音されました。予定していたチクルスが中止になったのを機に録音したものです。メジューエワらしい力強いタッチの演奏。まったく隙のない演奏です。



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ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会4回目 最初の高みに到達@東京文化会館小ホール 2024.3.19

ウィーンの巨匠ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会、今日は全7回のうち、4回目です。

前回まではどんどん1回目から2回目、そして、3回目へと演奏がレベルアップしていきましたが、今回は遂に後期ソナタの大曲《ハンマークラヴィア》に到達し、いったん、頂上を極めた感があります。ブッフビンダーはまさにベートーヴェン弾きの最後の生き残りのような巨匠です。高音域の響きの美しさを聴いていると、ため息の出る思いです。天国的な気持ちにさせてくれます。これ以上、何を望むものがあるでしょう。


最初は第6番のソナタです。もう、初期のソナタも残り少なくなってきました。このソナタも初期らしく、明快な音楽です。第1楽章はターンが印象的な明るい曲です。ブッフビンダーは弱音の美しさをいかした軽快な演奏を聴かせてくれます。スケルツォ的な第2楽章を経て、第3楽章は対位法を意識させるような音楽が展開されて、聴き応えのある楽章です。ブッフビンダーは颯爽と駆け抜けていきます。

次は第24番のソナタです。アパッショナータを書いてから4年ほど経過した時期に作曲され、伯爵令嬢テレーゼ・フォン・ブルンスヴィックに捧げられたため本作は『テレーゼ』と通称されることもあります。その名前の通り、優美な雰囲気で始まりますが、さすがに中期のソナタらしく、次第に熱を帯びて、圧巻の演奏になります。2楽章構成の簡潔な作品をブッフビンダーはきっちりと弾き抜きます。

前半最後は第16番のソナタです。ハイリゲンシュタットの遺書を書いている苦しい時期に、新しいものを生み出そうという決意のもと、書かれた中期の作品31の3つのソナタの最初の作品です。次に書かれるのは《テンペスト》で、この作品も中期の傑作につながるような作品です。
第1楽章は冒頭のアウフタクトからの主題という新鮮な魅力に満ちています。ブッフビンダーもここからエンジン全開という感じで聴き応えがあります。第2楽章は歌謡性の高い音楽が抒情的に弾かれます。そして、第3楽章はロンドが明るく爽やかに進行し、最後は静かに曲を閉じます。


休憩後、第29番 op.106《ハンマークラヴィア》です。いよいよ、このチクルスでも後期作品の登場です。それにこの作品はベートーヴェンのソナタの中で一番の大曲で、演奏技巧も長さも特別なものです。第1楽章から壮大な音楽が始まります。ブッフビンダー、入魂の見事な演奏です。テンポはやや早め。第2楽章のスケルツォを経て、第3楽章は実に深い内容の緩徐楽章で、ブッフビンダーのピアノの響きの美しさに心を奪われます。高音域の美しさは天国的です。最後は安らぎにみちて、この長い楽章を閉じます。第4楽章は幽玄に開始されますが、すぐにフーガが形成されて、圧倒的な音楽が高まっていきます。そして、圧巻のコーダ。素晴らしい演奏でした。


明日は、《アパッショナータ》が最後に演奏されます。このチクルス、最大の山になるでしょう。ブッフビンダーの渾身の演奏を期待しましょう。


今日のプログラムは以下です。


 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会 IV

  ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー
  
 ベートーヴェン:ピアノソナタ

  第6番 へ長調 op.10-2
  第24番 嬰ヘ長調 op.78
  第16番 ト長調 op.31-1

   《休憩》

  第29番 変ロ長調 op.106《ハンマークラヴィア》

   《アンコール》
   ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第3番 ハ長調 op.2-3 より 第4楽章 Allegro assai


最後に予習について、まとめておきます。

すべて、ブッフビンダーとメジューエワの以下のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集を聴きました。

 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ全集 2014年8月 ザルツブルク音楽祭 ライヴ録音

ウィーンの巨匠ブッフビンダー3回目のピアノ・ソナタ全集はザルツブルク音楽祭のライヴ録音です。ともかく、高音域の美しい響きに感銘を覚えました。そして、ベートーヴェンが初期から中期にかけて、音楽的に上り詰めていく様が見事に表現されています。後期は別世界です。

 イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2020年6月~7月、新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

メジューエワの2回目のピアノ・ソナタ全集はコロナ禍の際に録音されました。予定していたチクルスが中止になったのを機に録音したものです。メジューエワらしい力強いタッチの演奏。まったく隙のない演奏です。



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ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会5回目 チクルス最高の頂点、燃え上がるようなアパッショナータ@東京文化会館小ホール 2024.3.20

ウィーンの巨匠ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会、今日は全7回のうち、5回目です。

もう気が付けば、これが5回目です。前回まではどんどん上り詰めて、遂に後期ソナタの大曲《ハンマークラヴィア》で最高の演奏。今回はブッフビンダーはベートーヴェンの中期ソナタの最高傑作《アパッショナータ》を美しく壮大に演奏してくれました。今回のチクルスの華となるでしょう。無論、最後の回で弾かれる後期3ソナタは別次元の音楽ですが、古典派のソナタは今日の演奏が極限のものであると疑いません。それにしても依然として衰えを知らない巨匠としてのブッフビンダーの颯爽として、風格のある演奏をここ日本で聴くことができて、幸せです。


今回の最初の曲は第2番のソナタです。初期のソナタを代表するような明快さを湛えた作品です。今回のチクルスでの最後の初期らしいソナタです。第1楽章は決然とした第1主題を中心にした明快な構造の作品でウィーンに出てきた若きベートーヴェンの自信と意気込みが伝わってきます。ブッフビンダーはこの曲でも弱音の美しさをいかした軽快な演奏を聴かせてくれます。アパッショナートと指示のある緩徐的な第2楽章はきっちりしたリズムを低音で刻み、ゆったりした歩みを想像させます。第3楽章はスケルツォの軽快な楽章です。第4楽章は優美さを湛えたロンド。ブッフビンダーの美しいピアノの響きが光る演奏でした。

次は第9番のソナタです。初期のソナタが簡潔な形で結実した本作はベートーヴェンの着実な進歩が現れています。第1楽章は爽やかに流れるような音楽が心地よく響きます。和声の美しさを堪能させてくれながら、最後は最弱音で曲を閉じます。もう初期の最初の頃に見られたような衒いはそこになく、確たる自信に裏付けられた音楽になっています。第2楽章はアレグレットで自然な音楽が駆け抜けます。第3楽章は勢いのあるロンド。溌剌とした音楽が歯切れよく奏でられます。ここでもブッフビンダーの美しい音色の演奏が光ります。

前半最後は第15番《田園》です。第14番《月光》と同時期に書かれた作品ですが、幻想的な作風で革新的に書かれた《月光》と異なり、形式的には古典的な形式を踏襲した作品になっています。次に飛躍するのは第17番《テンペスト》を待つことになりますが、本作でも中期の作品として、新しい音響の追求がなされています。
第1楽章は穏やかな自然の風景を感じさせる音楽が流れゆき、まさに田園風景を感じさせます。第2楽章は優美で歌謡性を感じさせる音楽がゆったりと弾かれます。この楽章はツェルニーによると、ベートーヴェンのお気に入りだったそうで、飽きることなく弾いていたそうです。なるほどね。第3楽章のスケルツォを経て、第4楽章はロンドで、ここでも田園情緒に満たされた音楽が流れます。ブッフビンダーの自然な演奏はこの音楽の真髄をゆくものです。


休憩後、第27番のソナタです。この頃、ベートーヴェンはスランプ期にはいっており、《告別》ソナタを書いて以来、4年の歳月が流れていました。もはや、中期のソナタは書き終えていた時期で、最後の後期に向けての準備中とも言える時期にさしかかっていました。古典派のソナタを確立した後、ソナタ形式から自由になろうという意思が芽生え、それはロマン派への志向ともいうべき歌謡性へのシフトでした。この作品はそういう意味で重要な意味がありますが、無論、ロマン派のソナタを確立するのはシューベルトの天才を待つことになります。
2楽章構成のこのソナタは第1楽章は強い打鍵による主和音に始まる明朗で情熱的な音楽が展開されます。最後は静かに曲を閉じます。第2楽章はロンドソナタ形式で、旋律的で歌うような音楽が展開されます。まるでシューベルト。無論、シューベルトがこのベートーヴェンのロマン派的傾向を継承したわけですけどね。ブッフビンダーの右手の美しい響きがこの曲にぴったりです。

最後はいよいよ、第23番 《アパッショナータ》です。ベートーヴェンの創作期は実り多い中期、いわゆる《傑作の森》に入ります。交響曲では第3番(英雄)、ヴァイオリンソナタでは第9番(クロイツェル)、ピアノソナタでは第21番(ワルトシュタイン)といった傑作が次々生み出され、ベートーヴェンの作風は大きく前進していきます。本作は歌劇《フィデリオ》、交響曲第5番《運命》と同時期に手がけられました。ベートーヴェンの偉大さが横溢する傑作です。これに匹敵するソナタは第21番(ワルトシュタイン)くらいでしょう。後期ソナタは別格としてですが・・・。
いやはや、この演奏について、何も言う言葉はありません。ブッフビンダーはベートーヴェンの偉大さを証明するような演奏をしたと言えば、十分でしょう。美しく、壮大にベートーヴェンの高邁な精神が表現されました。これを聴くためにベートーヴェンのピアノ・ソナタ全作を聴いてきたという思いが胸に去来します。ブッフビンダーもこの曲を弾くためにベートーヴェンのソナタを弾く修行を続けてきたのではないのでしょうか。難しい指回りを高齢のブッフビンダーが高速に実現している姿は神々しいものです。これが聴けただけで、今回のチクルスを聴いた甲斐がありました。

すると、アンコールで何と《月光》の第3楽章が演奏されます。今日は休日で聴衆席は満席。凄いサービスですね。《アパッショナータ》に劣らないような素晴らしい響きの音楽が演奏されます。初日の演奏を上回るような素晴らしいものでした。今日だけの聴衆は《アパッショナータ》と一部とはいえ《月光》まで聴けた幸運な聴衆ですね。


明日は、《悲愴》と《ワルトシュタイン》が演奏されます。今日の演奏に並ぶような演奏が聴けるでしょうか。ブッフビンダーの渾身の演奏が続きます。


今日のプログラムは以下です。


 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会 V

  ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー
  
 ベートーヴェン:ピアノソナタ

  第2番 イ長調 op.2-2
  第9番 ホ長調 op.14-1
  第15番 ニ長調 op.28《田園》

   《休憩》

  第27番 ホ短調 op.90
  第23番 ヘ短調 op.57《アパッショナータ(熱情)》

   《アンコール》
   ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 op.27-2《月光》より 第3楽章 Prestissimo


最後に予習について、まとめておきます。

すべて、ブッフビンダーとメジューエワの以下のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集を聴きました。

 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ全集 2014年8月 ザルツブルク音楽祭 ライヴ録音

ウィーンの巨匠ブッフビンダー3回目のピアノ・ソナタ全集はザルツブルク音楽祭のライヴ録音です。ともかく、高音域の美しい響きに感銘を覚えました。そして、ベートーヴェンが初期から中期にかけて、音楽的に上り詰めていく様が見事に表現されています。後期は別世界です。

 イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2020年6月~7月、新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

メジューエワの2回目のピアノ・ソナタ全集はコロナ禍の際に録音されました。予定していたチクルスが中止になったのを機に録音したものです。メジューエワらしい力強いタッチの演奏。まったく隙のない演奏です。



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ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会6回目 高邁で凛としたワルトシュタイン@東京文化会館小ホール 2024.3.21

ウィーンの巨匠ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会、今日は全7回のうち、6回目です。

今回がこれが6回目となり、最後の回で最後に弾かれる後期3ソナタ以外はすべて弾かれました。中期の傑作《ワルトシュタイン》も意外にさらっと演奏されたという感じです。もはや、このレベルの演奏は当たり前という感覚になりました。前回の中期ソナタの最高傑作《アパッショナータ》ほどの壮大な演奏ではありませんでしたが、とても高レベルの素晴らしい演奏に魅了されました。今回もブッフビンダーが高齢であることは感じさせない高速演奏に驚愕しました。


今回の最初の曲は第11番のソナタです。初期のソナタの最後を飾るような作品ですが、これは実に古典的な響きが第1楽章、第2楽章と続きます。第3楽章に至って、実に典雅なメヌエットが美しく奏でられます。続く第4楽章も爽やかなロンドが耳を楽しませてくれます。後半の2楽章はとても好感を持てますが、ベートーヴェンが自信を持っていたというほどの作品には残念ながら思えません。前作の第10番までの発展がこの作品で後退したようにさえ思えます。ブッフビンダーも心なしか、指慣らしに弾いている(第1楽章、第2楽章)ように感じられました。

次は第20番のソナタです。番号は中期の番号ですが、実際に書かれたのは第19番と一緒に第4番のソナタの前で純然たる初期のソナタです。2楽章制の簡素な形式からしばしばソナチネとされることもあります。しかし、音楽内容的にはとても優れたものです。第1楽章はソナタ形式の美しくまとまった和声が響きます。小気味よく音楽が進行して、きっちりと曲を閉じます。第2楽章は付点のリズムが心地よく刻まれる有名なメヌエットの旋律で始まります。この旋律は「ウィーンの誰もが知る曲」と言っていいほどだったという「七重奏曲」(Op20)の第3楽章にも転用された旋律で、ベートーヴェンもお気に入りだったそうです。ブッフビンダーも美しい音色で気持ちよさそうに弾いていました。

前半最後は第8番《悲愴》です。第14番《月光》と並んで、一番有名な作品ですね。ともかく、ブッフビンダーの素晴らしい演奏で3つの楽章をたっぷり楽しみました。結構、素早い指使いのパッセージもありますが、ブッフビンダーはものともせずにインテンポで弾き抜きます。子供の頃からずっと聴き続けている曲なので、隅々まで知り抜いていますが、何の違和感もなく、するっと耳に入ってくるようなパーフェクトな演奏でした。とりわけ、第3楽章の素晴らしさといったら・・・。


休憩後、第25番のソナタです。ベートーヴェン自身はソナタとは呼ばずにやさしいソナタと言っており、実際、ソナチネとも呼ばれている小品です。
3楽章構成のこのソナタは第1楽章は軽快な音楽が流れていきます。展開部では、手の交差によるパッセージでカッコウの声が繰り返されます。このソナタはそのことから、《かっこう》と呼ばれることもあります。第2楽章はアンダンテで舟歌のように歌謡性の高い音楽が流れます。第3楽章は軽快なロンドですが、さすがにこの時期、小品とは言え、破格の音楽が展開されます。ブッフビンダーはこのソナタを颯爽と弾き抜きます。

最後はいよいよ、第21番 《ワルトシュタイン》です。ベートーヴェンは《傑作の森》という時期とは言え、難聴に苦しんでいました。そこにエラール社から新しいピアノが贈られました。最新の性能のピアノの音色は聞こえにくくなっていたベートーヴェンの耳を刺激するのに十分で、「これまでになく輝かしく壮麗」と評されるピアノソナタが生み出されることになりました。この曲によって、ベートーヴェンはピアノ・ソナタに新しい地平を拓くことになり、《アパッショナータ》も後の後期ソナタもこの曲なしにはありえなかったでしょう。
いやはや、この演奏も素晴らしかった。第1楽章の和音連打の壮烈さ、第3楽章の深い味わいの中、息継ぐ暇のないような音楽の連鎖。この曲でベートーヴェンは頂に達しました。交響曲で第3番《英雄》で交響曲の歴史を書き変えたのと同様です。ブッフビンダーはそのことを証明するような演奏をしてくれました。《アパッショナータ》と同様に美しく、壮大にベートーヴェンの高邁な精神が表現されました。これを持って、チクルスは完了という思いです。明日の後期3ソナタは別次元ですからね。

そう思っていると、ブッフビンダーはアンコールで何と《テンペスト》の第3楽章を弾き始めます。本編での演奏を凌駕するような見事な演奏に聴き入ってしまいました。何せ、saraiがもっとも愛する作品ですからね。何とも魅力にあふれた音楽、そして、演奏でした。明日はきっとアンコールはないでしょうから、最後のアンコールが《テンペスト》とは、何よりのプレゼントでした。


明日は、後期3ソナタ。最後の第32番のアリエッタは胸に迫るものがあるでしょう。ブッフビンダーは最後の持てる力をふりしぼった演奏を聴かせてくれるでしょう。


今日のプログラムは以下です。


 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会 VI

  ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー
  
 ベートーヴェン:ピアノソナタ

  第11番 変ロ長調 op.22
  第20番 ト長調 op.49-2
  第8番 ハ短調 op.13《悲愴》

   《休憩》

  第25番 ト長調 op.79
  第21番 ハ長調 op.53《ワルトシュタイン》

   《アンコール》
   ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第17番 ニ短調 op.31-2《テンペスト》より 第3楽章 Allegretto


最後に予習について、まとめておきます。

すべて、ブッフビンダーとメジューエワの以下のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集を聴きました。

 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ全集 2014年8月 ザルツブルク音楽祭 ライヴ録音

ウィーンの巨匠ブッフビンダー3回目のピアノ・ソナタ全集はザルツブルク音楽祭のライヴ録音です。ともかく、高音域の美しい響きに感銘を覚えました。そして、ベートーヴェンが初期から中期にかけて、音楽的に上り詰めていく様が見事に表現されています。後期は別世界です。

 イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2020年6月~7月、新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

メジューエワの2回目のピアノ・ソナタ全集はコロナ禍の際に録音されました。予定していたチクルスが中止になったのを機に録音したものです。メジューエワらしい力強いタッチの演奏。まったく隙のない演奏です。



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ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会7回目 音楽と一つになれた喜び、感動のフィナーレ@東京文化会館小ホール 2024.3.22

ウィーンの巨匠ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会、今日は全7回の最終回です。

これまでは初期と中期、あるいは後期を組み合わせたプログラムでしたが、最終回は無論、後期の3つのソナタで締めます。それしかないでしょう。それに今回は休憩もなく、3つのソナタを一気に弾きます。何となく、ブッフビンダーの気概が見えたような気がしましたが、そんな生易しいものではありませんでした。
実はこれまでウィーンの巨匠として、美しい演奏を賛美してきましたが、どこか、自分の気持ちに余裕があるというか、全面的に音楽にのめりこんでいなくて、ちょっと遠くから演奏を聴いていました。それはブッフビンダーと自分の心が真に共鳴していなかったとも言えます。まあ、そんな音楽の聴き方もあるので、それはそれでよかったんです。然るに今日は全然違いました。もちろん、ブッフビンダーの演奏が今日はすべての余力をつぎこんだもので、saraiも体調がすこぶるよくて、ブッフビンダーとsarai、そして、ベートーヴェンの魂が完全に共鳴したんです。saraiの集中力がずっと持続して、ブッフビンダーの演奏、それもベートーヴェンの最高傑作の音楽のすべてを受け止めることができました。ベートーヴェンの作品でこの3曲に匹敵できるのは後期弦楽四重奏曲だけです。ブッフビンダーがこれほどの音楽を奏でることができるとは、正直思っていませんでした。巨匠のチカラをみくびっていたようです。心からお詫びを述べたいと思います。現代に生き残った真のベートーヴェン弾きであることを分からせられました。


もう、どの曲がどうだというような分かった風なことは書きたくありません。音楽が魂を揺さぶったというだけです。それも3曲、すべてを通してです。と言いつつ、今日の演奏を思い出してみましょう。

最初のは第30番のソナタは最初の一音から心に響いてきます。第1楽章はとてもソナタ形式に思えません。幻想曲、あるいは前奏曲のようにこの後に続く第31番、第32番の序奏のようにも聴こえます。ブッフビンダーの演奏がとても素晴らしく、こんな演奏を今までどこに隠していたのかと思うほどです。演奏が心に共鳴して、長く長く続きますが、突如終わり、そのまま、続けて、第2楽章にはいります。ここでもソナタ形式は感じられずにただ、幻想曲のような響きが心を高揚させます。そして、いったん、曲を閉じます。少し、間を取って、第3楽章が始まります。何と巨大な変奏曲なのでしょう。ここにこそ、このソナタの実体がありました。ただただ、心が高揚するだけです。もう、これ以上の音楽はありえないと思ってしまいます。音楽と自分の心がシンクロするのが分かります。一瞬、一瞬の音の響きに心が敏感に反応し、どんどん、心が研ぎ澄まされる思いです。果てしなく、変奏が続きます。いつまでも聴いていたくなる最高の音楽です。最後に原型の主題が回想されて、静かに曲を閉じます。圧巻の演奏でした。もう、今日はこれでコンサートが終わっても満足です。

次は第31番のソナタです。美し過ぎる第1楽章が始まり、もはや、先ほどの第30番の素晴らしさを凌駕する音楽であることを悟ります。ブッフビンダーの美しい音の響きは何でしょう。ただ、一音一音に耳を傾けるのみです。この音楽の素晴らしさを表現する言葉が見当たりません。saraiの高揚した心は澄み切っていきます。第2楽章のスケルツォはようやく、ほっと一息つく思いですが、すぐにまた高揚していき、そのまま、第3楽章に入ります。あー、この第3楽章・・・何と言う音楽でしょう。序奏的なレチタティーヴォに続き、《嘆きの歌》が切々と歌われていきます。その崇高さ、哀しさは心に沁み渡っていきます。そして、十分に心が震えたところで、タ、タ、タ、タンと終止します。この終止だけはいつも何か違和感がありますが、ともかく、それに続いて、フーガ、それも飛びっきりの凄いフーガが壮大に展開されます。圧倒的な迫力です。そして、また、再び、《嘆きの歌》が趣きをさらに深めて歌われます。ここで心が崩壊します。感動の極です。水をさすようにまた、タ、タ、タ、タンと終止します。フーガが圧倒的な勢いで展開され、すべてを粉砕して、圧巻の完結を果たします。もう、これで十分でしょう。これ以上の音楽はありえません。しかし・・

最後の第32番のソナタです。ハ短調の第1楽章が華々しく奏でられて、《ワルトシュタイン》、《アパッショナータ》という中期の大傑作を凌ぐ凄まじい情熱を爆発させたような圧倒的な音楽が響きます。これでベートーヴェンのソナタが完結したことが納得させられます。ブッフビンダーのここまで溜めていたチカラを一挙に開放するような勢いです。もう聴いているsaraiの心はずたずたになります。これでこそベートーヴェンです! 第1楽章は最後、ディミヌエンドしてハ長調で終止します。
ハ長調の第2楽章はアリエッタの主題とその変奏曲です。ハ短調⇒ハ長調というのは、交響曲第5番《運命》に代表される勝利の方程式ですが、ここではあまりに美しいアリエッタの変奏曲が流れ、心にカタルシスを覚えさせます。ブッフビンダーの美しい響きはもう、素晴らし過ぎます。そして、アリエッタは次第に高揚していき、心が震えます。最後は静謐に曲を完結させます。

ベートーヴェンの音楽の長い旅路を32曲のソナタを通して、堪能しましたが、この最終日の3つのソナタの凄過ぎる演奏は決して忘れることのないものです。ブッフビンダーのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会はもう日本で聴く機会はないでしょう。ブッフビンダーの素晴らしいプレゼント、ありがとう!!


あ、アンコールがありました。この後期3ソナタの後に弾く曲などないと思っていましたが、何とシューベルト! そうです。ベートーヴェンのピアノ・ソナタを継承するように素晴らしいピアノ・ソナタを書いたのはシューベルト。とりわけ、遺作の3つのソナタはベートーヴェンと並ぶ大きな嶺です。そのシューベルトに続き、シューマン、ブラームスとドイツ・オーストリア音楽の本流は継承されていきました。素晴らしいシューベルトの即興曲はこの本流の流れを示唆するもので、これ以上のアンコールはありませんでした。それにしても見事なシューベルトでした。ブッフビンダーのシューベルトのソナタは聴いたことがありませんが、どうなんでしょうね。


今日のプログラムは以下です。


 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 全曲演奏会 VII

  ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー
  
 ベートーヴェン:ピアノソナタ

  第30番 ホ長調 op.109
  第31番 変イ長調 op.110
  第32番 ハ短調 op.111

   《休憩》なし

   《アンコール》
   シューベルト:4つの即興曲 op.90 D899 より 第4番 変イ長調


最後に予習について、まとめておきます。

すべて、ブッフビンダーとメジューエワの以下のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集を聴きました。

 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ全集 2014年8月 ザルツブルク音楽祭 ライヴ録音

ウィーンの巨匠ブッフビンダー3回目のピアノ・ソナタ全集はザルツブルク音楽祭のライヴ録音です。ともかく、高音域の美しい響きに感銘を覚えました。そして、ベートーヴェンが初期から中期にかけて、音楽的に上り詰めていく様が見事に表現されています。後期は別世界です。

 イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2020年6月~7月、新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

メジューエワの2回目のピアノ・ソナタ全集はコロナ禍の際に録音されました。予定していたチクルスが中止になったのを機に録音したものです。メジューエワらしい力強いタッチの演奏。まったく隙のない演奏です。



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ワーグナー《トリスタンとイゾルデ》第2章 至上の愛と憧れに再び感動!@東京文化会館大ホール 2024.3.27

ワーグナーの長大な楽劇《トリスタンとイゾルデ》を2週間も置かずに再び鑑賞。前回は新国立劇場で鑑賞し、その後、ブッフビンダーのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会全7回を聴き、再び、ここ東京文化会館の東京・春・音楽祭での公演を鑑賞しました。ベートーヴェンも凄いし、ワーグナーも凄い! そう言えば、ワーグナーが最高に敬愛した作曲家はベートーヴェンでしたね。ワーグナーの聖地バイロイト祝祭劇場でワーグナー作品以外で唯一上演が認められているのはベートーヴェンの交響曲第9番《合唱付き》ですね。あ、脱線しました・・・。

今日も午後3時から始まった楽劇《トリスタンとイゾルデ》が終わったのは午後8時でした。時間的には長いですが、その音楽に聴き入っていると、長さをものともしない充実した内容に終止、魅了されました。楽劇《トリスタンとイゾルデ》を鑑賞するのはこれが6回目。この大傑作を生涯でたった6回しか鑑賞していないことは忸怩たる思いがあります。でも、モーツァルトのオペラ《フィガロの結婚》ですら、11回しか聴いていないことを考えれば、十分なのかな。プッチーニのオペラ《ラ・ボエーム》に至ってはたった7回ですからね。ともあれ、バイロイト音楽祭で聴いた楽劇《トリスタンとイゾルデ》にも匹敵する内容の素晴らしい演奏に感動し、ウルウルでした。

冒頭の前奏曲、最初のトリスタン和音のあたりはさらっとしたものでしたが、前奏曲終盤の盛り上がりは鳥肌のたつような凄い演奏。ヤノフスキ指揮のN響、やりますね。弦と木管の美しさは素晴らし過ぎます。ヤノフスキが凄いのか、コンマス席にメトのベンジャミン・ボウマンが座ったN響の出来がよいのかは分かりません。ともかく、この後もずっと素晴らしい演奏で、ワーグナーの素晴らしさを満喫させてくれました。前回の新国の都響も素晴らしい演奏でしたし、日本のオーケストラのワーグナー演奏のレベルの高さに驚愕する思いです。
前奏曲が終わり、イゾルデとブランゲーネが登場します。イゾルデ役のビルギッテ・クリステンセンの歌唱に耳を奪われます。こんなところでの歌唱に魅了されたのは初めてです。低域の声もしっかり出ていて、何と言っても高域の輝かしい声は絶品! それにイゾルデ姫としての気品と気高さ、気の強さが見事に表現されています。そのまま第1幕の終幕、愛の媚薬の盃を飲み干すシーンに入り、イゾルデとトリスタンの恋愛に落ちるところはオーケストラ演奏も二人の歌唱も圧倒的です。ビルギッテ・クリステンセンとヘルデンテノールのスチュアート・スケルトンの輝かしい高音に聴き惚れてしまいます。そして、何と言ってもワーグナーの音楽の素晴らしさが光り輝きます。天才ワーグナーをもってしても一生に一回しか書けなかったような超絶的な音楽です。その真髄がようやく分かりかけてきました。それに音楽評論家の船木篤也氏による字幕の見事さ。こういうしっかりした字幕だと、難解なワーグナーの台本も読み解けそうです。もろもろあって、大感動の第1幕でした。あっ、書き忘れましたが、オーケストラ後方に陣取った男声合唱の怒涛のような凄い合唱も大迫力でした。

30分の休憩後、第2幕が始まります。コンサート形式ですから、幕は上がりませんけどね。まずは素晴らしい前奏曲に耳を傾けます。
そして、長大なトリスタンとイゾルデの愛と官能の2重唱が始まります。ワーグナーならではの愛の2重唱、ビルギッテ・クリステンセンとスチュアート・スケルトンの素晴らしい歌唱力で場を圧倒します。これこそ、楽劇《トリスタンとイゾルデ》の最高の聴きどころです。昼の光りや夜がどうかというような理屈をこね回すワーグナー流のセリフがありますが、次第に愛至上主義、そして、その果ての死に行き着く不穏とも言える2重唱は実に現代的、実存的なものに昇華していきます。聴いているほうもおかしくなっていきそうです。聴衆のみなさんが静かに聴いていられるのが不思議なくらいです。ここでも船木篤也氏による字幕の見事さが光ります。芸術家の心中事件はこういう意識の高まりから起こるかなとも、いらぬ連想を抱きます。
ブランゲーネの「見張りの歌」が2階の聴衆席後方から響いてきます。ブランゲーネ役のルクサンドラ・ドノーセが素晴らしい歌唱を聴かせます。立体的な響きが素晴らしいです。
そして、二人の蜜月は不意に終わります。裏切者メロートとマルケ王が踏み込んでくるんです。物語とは言え、実に残念。愛が成就して、死に至れば、どんなにいいかと思ってしまうからです。それに愛の2重唱はまだまだ続いて欲しいんです。
マルケ王役のフランツ=ヨゼフ・ゼーリヒが悲嘆にくれた歌唱を見事に歌い切ります。もっとも、あまりに常識的な内容は笑止千万とも思えます。あえて、ワーグナーはそのあたりを狙っているんでしょう。大芸術家ワーグナーはあくまでもトリスタンとイゾルデの現世を超越した愛と死のみを唯一の至上主義としています。ですから、トリスタンはマルケ王のあまりの現世的な問いに答えずに、イゾルデに死の国までも一緒についてきてくれるかとマルケ王を無視して問いかけます。イゾルデのどこまでもトリスタンに従いますという歌唱は実に感動的。これぞ芸術でしょう! イゾルデの優しさが全開します。これでトリスタンも救われます。聴いているsaraiも現世を離れ、芸術の中に身を置いて、ともにイゾルデの優しさに救われます。もう、このあたりはマーラーの音楽に直結しています。音楽のみがなしえる愛と死の昇華。ああ、何でもいいから、この素晴らしい音楽をいつまでも聴かせてと欲するばかりです。
こんな音楽を一般大衆に聴かせていいのかとも思ってしまう、現実超越の愛と死のしびれるような官能芸術に溺れてしまった第2幕でした。

また、30分の休憩後、第3幕が始まります。低弦が暗く響く前奏曲は最後、イングリッシュ・ホルン独奏による「嘆きの調べ」が長く続き、もう、ここは現世ではなく、黄泉の国かと思わせられます。
トリスタンは深手を負い、恍惚としながらの歌唱を聴かせて、イゾルデに再会した途端に息を引き取ります。スチュアート・スケルトンのヘルデンテノールとしての素晴らしい歌唱に深く魅了されます。
最後はイゾルデの有名な《愛の死》。ビルギッテ・クリステンセンの優しい歌声に癒されながら、幕。

書き洩らしたところは、クルヴェナール役のマルクス・アイヒェの素晴らしく響く声。さすがにウィーン国立歌劇場で活躍してきたバリトンです。第3幕での歌唱は見事でした。
メロート役に甲斐栄次郎を起用するほど、歌手陣が充実していました。

まあ、素晴らしかったのは重ねて言いますが、ビルギッテ・クリステンセン。声も素晴らしいですが、強い表現から柔らかい表現まで、イゾルデ役に必要な要素を備えており、その気品があり、美しい歌唱は素晴らしいものでした。次第にイゾルデと像が重なり、絶世の美女に思えてくるほどでした。真っ白な衣装が眩しく映りました。

最後にマレク・ヤノフスキの指揮、最高でした。これぞ、現代の楽劇《トリスタンとイゾルデ》。

2週間で2回聴く楽劇《トリスタンとイゾルデ》を満喫しました。


今日のキャストは以下です。

  リヒャルト・ワーグナー
   トリスタンとイゾルデ
    全3幕 演奏会形式

  指揮:マレク・ヤノフスキ
  トリスタン(テノール):スチュアート・スケルトン
  マルケ王(バス):フランツ=ヨゼフ・ゼーリヒ
  イゾルデ(ソプラノ):ビルギッテ・クリステンセン
  クルヴェナール(バリトン):マルクス・アイヒェ
  メロート(バリトン):甲斐栄次郎
  ブランゲーネ(メゾ・ソプラノ):ルクサンドラ・ドノーセ
  牧童(テノール):大槻孝志
  舵取り(バリトン):高橋洋介
  若い水夫の声(テノール):金山京介
  管弦楽:NHK交響楽団(ゲストコンサートマスター:ベンジャミン・ボウマン(MET管コンマス)、(ダブルコンマス隣席:郷古廉))
  合唱:東京オペラシンガーズ
  合唱指揮:エベルハルト・フリードリヒ、西口彰浩
  音楽コーチ:トーマス・ラウスマン
  

最後に予習について、まとめておきます。

 ・ワーグナー:楽劇『トリスタンとイゾルデ』全曲
 
 イゾルデ:キルステン・フラグスタート
 トリスタン:ルートヴィッヒ・ズートハウス
 ブランゲーネ:ブランシュ・シーボム
 マルケ王:ヨーゼフ・グラインドル
 クルヴェナール:ディートリッヒ・フィッシャー・ディースカウ
 メロート:エドガー・エヴァンス
 牧童:ルドルフ・ショック
 水夫:ルドルフ・ショック
 舵手:ローデリック・デイヴィーズ
 コヴェントガーデン王立歌劇場合唱団(合唱指揮:ダグラス・ロビンソン)
 フィルハーモニア管弦楽団
 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(指揮)

 録音:1952年6月10-21日、23日、ロンドン、キングズウェイ・ホール(モノラル)
  
フルトヴェングラー、畢生の名演。深く感動しました。何回も聴いていますけどね。



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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最後までレビューありがとうございます。最後は時間の都合がつかず視聴できず、非常に残念でした。

アンコールも含め好評のレビューを見てますます残念ですが、お陰様でど

04/02 12:33 

michelangeloさん

saraiです。大変、ご無沙汰しています。
このたびは過分なご評価いただき、恐縮しています。

よいコンサート、オペラを聴くと、興奮して、記事を書き過

03/31 01:42 sarai

sarai様

こんばんは。

3月に8回も《トリスタンとイゾルデ》公演が開催される東京は音楽都市です。再び御感想を拝読し、改めて感じるのはsarai様のクラシック音楽オペラ公

03/29 21:28 michelangelo

《あ》さん、saraiです。

結局、最後まで、ご一緒にブッフビンダーのベートーヴェンのソナタ全曲をお付き合い願ったようですね。
こうしてみると、やはり、ベートーヴェン

03/22 04:27 sarai

昨日は祝日でゆっくりオンライン視聴できました。

全盛期から技術的衰えはあると思いましたが、彼のベートーヴェンは何故こう素晴らしいのか…高齢のピアニストとは思えな

03/21 08:03 

《あ》さん、再度のコメント、ありがとうございます。

ブッフビンダーの音色、特に中音域から高音域にかけての音色は会場でもでも一際、印象的です。さすがに爪が当たる音

03/21 00:27 sarai

ブッフビンダーの音色は本当に美しいですね。このライブストリーミングは爪が鍵盤に当たる音まで捉えていて驚きました。会場ではどうでしょうか?

実は初めて聴いたのはブ

03/19 08:00 
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