休憩後、即興曲集 D 899 Op.90より、第3番です。さざ波のようなパッセージが抒情的なロマンを紡いでいきます。本当に美しい音楽が現出します。心の中に軌跡を残しながら、音楽が通り抜けていきます。 そして、間をあけずに、この即興曲を序奏のような形にして、シューベルトの最高傑作、ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D 960が始まります。まさに完璧なテクニック、完璧なアーティキュレーションの演奏です。が、しかし・・・美しい音楽は確かに聴こえてきますが、何故か、心に響いてきません。おかしいなと思っているうちに、意識から音楽が離れていきます。断片的に音楽が聴こえてきて、それは確かに素晴らしい演奏に思えますが、すーっと心を通り過ぎていくのみ。そのうちに長大な楽章が終わります。第2楽章はロマンに満ちた音楽が始まります。素晴らしい出だしです。しかし、これもすーっと心をすり抜けていきます。明らかにsaraiの集中力は前半で使い果たしたのかもしれません。 第3楽章は軽やかな音楽が展開されていき、短めに終わります。第4楽章はシューベルト的な世界からベートーヴェン的な世界に展開し、そして、素晴らしいコーダで高潮します。最後にようやくsaraiの集中力も戻り、感銘の残る演奏を味わうことができました。
河村尚子の描くシューベルトの世界。田部京子のシューベルト像とは別のところを志向していますが、完成度の高い演奏でした。いろいろなシューベルトの解釈があって、しかるべしでしょう。色んなことも書きましたが、大変、満足したリサイタルの一夜になりました。 今年はこれから、このシューベルトのピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D 960をアファナシエフ、ピリス、田部京子で聴く予定です。名人たちが色んなシューベルト像を聴かせてくれることでしょう。今日はその第1弾でした。
今日のプログラムは以下です。
河村尚子 ピアノ・リサイタル シューベルト プロジェクト第2夜
ピアノ:河村尚子
フランツ・シューベルトの 「楽興の時」より 第3番 ヘ短調 D 780/3 Op.94-3 「3つの小品」より 第3番 ハ長調 D 946/3 ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D 959
《休憩》
即興曲集より第3番 変ト長調 D 899/3 Op.90-3 ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D 960