前回は安永徹&市野あゆみのデュオ・リサイタルでチケットも買ってありましたが、ちょうどヨーロッパの旅の最中で行けませんでしたので、今回のコンサートは3カ月ぶりになります。
今回はロシアのアトリウム弦楽四重奏団ということで、実は名前も知らない団体です。コンクールで2回も優勝したらしいので、それなりの実力でしょう。このコンサートのプロデューサーによると、最近は海外からの演奏家の来日キャンセルが相次いでいるので、直前まで心配で、成田に到着した連絡を受け、ほっと安心したそうです。
で、ちょっと話題がそれますが、これからの海外から来日公演の大物は何といっても6月のメトロポリタンオペラです。saraiも一連の公演チケットを購入済で楽しみにしているので、本当に来日するか、気になっていたところです。先日、NYタイムスに総裁のピーター・ゲルブの「日本で予定通り、公演する」という声明が記事に掲載され、一安心しました。が、直後に音楽監督のジェームズ・レヴァインが体調不良で降板し、代わりに指揮者のファビオ・ルイージが来日するとのこと。これは問題ありません。むしろ、ルイージがレヴァインの後の音楽監督を引き継ぐ前触れなのかということのほうが興味深い感じでした。ルイージはドレスデン国立歌劇場の音楽監督からチューリッヒ歌劇場の音楽監督に移動したばかりですが、早くも次はメトロポリタンオペラかって勘繰りたくなりますね。確かにルイージのようなレパートリーの広い指揮者は引く手あまたなのかも。
それはそれとして、数日後の「ドン・カルロ」の出演者交代には正直落胆しました。エボリ公女を歌う筈だったボロディナが喉の不調で3カ月休養だとのこと。重要な役だし、それにボロディナのエボリ公女が楽しみだったので非常に残念です。また、ドン・カルロ役、すなわち、タイトルロールを歌うヨナス・カウフマンは地震及び原発問題への懸念のため来日を断念しました。彼の来日を楽しみにしていたsaraiの母はとても落胆していました。年寄りには気の毒ですよ。今年、カウフマンはほかにもボローニャ歌劇場、バイエルン国立歌劇場で来日予定でTVでも盛んに宣伝していますが、大丈夫なんでしょうか。こんな状況で彼の出演するオペラのチケットを売り、また降板ならば、チケットの販売の責任はどうなるのでしょう。saraiとしては最低ネトレプコとフリットリが来てくれればOKです。ニュースではフリットリはもう名古屋に着いたようで一安心。
話を今日のコンサートに戻しましょう。
アトリウム弦楽四重奏団は男性3人に女性チェリストのロシア人の団体です。
今日のプログラムは以下のとおりでなかなか良い選曲です。
ハイドン:弦楽四重奏曲第78番変ロ長調「日の出」Op.76 No.4
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第9番変ホ長調 Op.117
《休憩》
チャイコフスキー:弦楽四重奏曲第2番ヘ長調 Op.22
《アンコール》
チャイコフスキー:弦楽四重奏曲第1番より、アンダンテ・カンタービレ
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏のための2つの小品から、第2曲「ポルカ」
最初にお断りしておきますが、今日のコンサートはなんだかんだ言っても結構楽しみました。小ホールの前から2列目というかぶりつきで、室内楽の名曲をプロの弦楽四重奏団の演奏で聴いたので当然です。
その上で苦言を呈さないといけないこともあります。
最初のハイドンはなかなか繊細なアンサンブルで始まり、期待しました。アンサンブルはよく、響きもよいのですが、何か覇気に乏しく、平板な感じです。ハイドンってそんなものと言ってしまってはそれまで。もっとスマートなモダンな演奏を期待していました。もう一度書きますが、演奏はしっかりしていて問題はありません。聴いていて楽しくもあります。でも、もう一つ、個性に満ちた活気のある演奏が聴きたかったというところです。
次はショスタコーヴィチ。これは傑作ですが、聴いていて、とても難度の高い曲。事前の予習にエマーソン弦楽四重奏団のCDを聴きましたが、唖然とするほどの素晴らしい演奏。今日も期待していました。
しかし、きっちりは弾いていても何か凄いという演奏ではありません。少し、がっかりしていると、第3楽章の途中から、第2ヴァイオリンが俄然、激しく覇気に満ちたフレーズを引き始めたのを皮切りにぐーんとヒートアップ。ここから思い切った表現が続き、白熱した演奏。テクニックはともかく、こういうのを聴きたかったんです。こういう表現の第3楽章の後では、抑え気味の第4楽章もそれなりに聴けますから不思議ですね。また、第5楽章も熱い演奏でフィナーレ。少し満足です。まあ、全体としては、そうテクニックが凄いわけでなく、表現力もいま一つの感でした。もちろん、これは現代を代表するハーゲン弦楽四重奏団やエマーソン弦楽四重奏団と比べての話。さらなるレベルアップを期待しましょう。
20分の休憩の後、チャイコフスキーです。同じロシアの血でこちらをうならせるような演奏を期待します。特に第1楽章はあのチャイコフスキー特有の熱にうかされたような音楽に満ちた名曲です。ボロディン弦楽四重奏団のCDで事前予習しましたが、弦楽四重奏曲でありながら、まるでオペラのモノローグのアリアを聴いているような感覚に襲われる曲です。ところがこれもきちんとは弾けていますが、表現力は今ひとつ。濃密なモノローグがあまり聴こえてきません。それでも雰囲気はなかなかいい感じです。
全体にべールに覆われて、切れがもうひとつという感じで終始しましたが、それでも好演ではありました。不思議と退屈はしないんです。今日の演奏では、このチャイコフスキーが一番よく弾けていました。名曲ですね。
アンコールはやはり、チャイコフスキーつながりでアンダンテ・カンタービレ。とても美しい演奏でした。とくに3部形式の最後の抑えたアンサンブルはとてもよかったです。もう一つのアンコールはショスタコーヴィチつながりでポルカ。諧謔的な曲ですが、こういう曲はうまく聴かせますね。素晴らしいです。
というわけで何か物足りない弦楽四重奏団ですが、意外に演奏は楽しめました。まだまだ、将来に期待できるということでしょうか。
それにしても正直なところ、小ホールでハーゲン弦楽四重奏団やエマーソン弦楽四重奏団を無性に聴きたくなりました。
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