そして、2人目の主役は指揮者のアラン・ギルバート。その大きな体を使って、実にスケールの大きな音楽を作り出します。東京都交響楽団の美しい弦楽セクションがさらに力強さを増したような感じです。ギルバートは以前の北ドイツ放送交響楽団の首席客演指揮者の時代に比べて、ニューヨーク・フィルの音楽監督になった今、体が一回り大きくなった(太った?)とともに、音楽のスケールも大きくなったようです。こういう音楽のスケールの大きな指揮者というと、一頃の故ジュリーニ(大好きな指揮者でした!)を思い出します。これから注目する指揮者の一人ですね。
さて、今日のコンサートは東京都交響楽団の都響スペシャルというもので、定期演奏会とは別枠。こういう注目のコンサートは定期演奏会に是非組み込んでもらいたいものです。会場はサントリーホールです。
プログラムは以下です。
指揮:アラン・ギルバート
ヴァイオリン:フランク・ペーター・ツィンマーマン
管弦楽:東京都交響楽団 コンサート・マスター:矢部達哉
ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲
ベルク:ヴァイオリン協奏曲「ある天使の想い出に」
《アンコール》バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番から サラバンド
《休憩》
ブラームス:交響曲第1番ハ短調 op.68
まずはブラームスの《ハイドンの主題による変奏曲》です。いつもどおり、ずらっと並ぶ第1ヴァイオリンの女性陣が目を引きます。コンサートマスターの矢部達哉以外は全部女性。また、矢部達哉の隣には、同じくソロコンサートマスターの四方恭子もいます。まさに最強の布陣です。これは期待できます。ところがこの曲は結構木管楽器が活躍し、なかなかヴァイオリンが登場しません。ヴァイオリンが活躍し、盛り上がるところではとてもスケールの大きな演奏でした。この曲はそんなに思い入れのある曲ではありませんが、やはりブラームスらしさを感じる曲だとは思いました。ギルバートの指揮はスケール感はありましたが、ブラームスの渋さはあっさりと捨ててしまったような演奏で、だからと言って、決して悪い演奏ではなく、個性の感じられるものでした。
次のベルクが今日のお目当ての曲です。
この曲は冒頭の12音技法の音列がとても印象的です。弱音ではいるヴァイオリンに注目です。すると、まるで見透かされたように、実に無機的な響きでの演奏。あれっと思ったら、次は打って変わって、たっぷりとレガートで叙情的な響き。ツィンマーマンはやりますね。
実に自在な演奏で、このベルクは自家薬籠中って感じです。まるで、ベルクのオペラでの声楽を聴いている感じです。基本的にはロマンチックな演奏です。純然たる12音技法の音楽でロマンチックというのもなんですが、ベルクって、そんなところがありますね。ちゃんとウィーンの音楽の系譜につながっています。ブラームス~マーラー~R・シュトラウスからベルクとスタイルは異なるものの底流ではちゃんと音楽のベースはつながっています。
と思って聴いていると、今度はだんだんと熱い演奏になっていきます。その流れの変化はオペラをみているです。
第2楽章にはいると、賛美歌のようなものも聴こえてきますが、レクィエムらしくないレクィエムでフィナーレ。これが20世紀のレクィエムですね。ツィンマーマンの演奏はパーフェクトで余裕・ゆとりも感じさせる奥深い演奏でした。ツィンマーマンは素晴らしい音楽家です。
ところで、このベルクのヴァイオリン協奏曲は副題に「ある天使の想い出に」とあるように、18歳という若さで夭逝したマノン・グロピウスに捧げられたものです。ベルクはこの若い娘を大変可愛がっていたようで、その死に大変ショックを受け、すぐ、この曲を作曲したとのこと。また、ベルク自身もこの曲を書き終えて、すぐに急死したそうです。ベルクの重要な作品といえます。
ちなみにマノン・グロピウスはドイツの大建築家グロピウスとマーラーの妻であったアルマ・マーラーがマーラーの死後再婚して生まれた娘です。アルマはその前にはココシュカとの恋愛もあり、あの名作《風の花嫁》誕生の源でもありました。もちろん、マーラーの音楽に色々な意味での影響も与えています。そのアルマの娘マノンがその死によって、このベルクの名作誕生の源となったのは1芸術ファンのsaraiにとっても感慨深いものがあります。この曲は20世紀を代表する名作のひとつですが、懐のとっても深い音楽で、まだまだ、saraiのものになったとはいいがたい作品です。これからの人生で長く向かい合っていかないといかない作品です。そうはいっても、今日の演奏自体、大変素晴らしいもので十分満足できました。今後、この曲を聴く上で今日の演奏は基準となるべきレベルの演奏でした。
アンコールのバッハの無伴奏パルティータはとても美しい演奏。ツィンマーマンの深い内面性を見た思いです。大満足です。
休憩後、ブラームスの交響曲第1番。序奏のスケールの大きな演奏には驚かされました。いつもの東京都交響楽団ではないみたい。ドイツのオーケストラを聴いているような感じです。第1楽章はずっと、そんな思いで聴いていました。素晴らしい演奏です。どちらかというと、この曲は苦手でなるべく避けているのですが、とても楽しめます。で、一番よかったのはこの第1楽章でした。有名な第4楽章はフィナーレの盛り上がりがとてもよかったというところ。
結局のところ、交響曲第2番でもやってくれれば、もっと、ギルバートと東京都交響楽団のコンビの評価ができたのですが、かなり、よさそうというところで評価は保留です。また、このコンビで是非、コンサートを企画してもらいたいものです。
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