で、結果はというと、日程を切り詰めて帰国したのに十分以上値する満足できる演奏でした。庄司紗矢香は数年迷いの時期も感じられましたが、このところ、すっかり、自分の音楽を見定めて、一切の迷いもなくなった感じです。今日は自分の気持ち、精神的なものをヴァイオリンに託して語りかけるという演奏です。音響的には以前の方がヴァイオリンが鳴っていた印象もありますが、やはり、音楽は最後は如何に精神的なものを演奏者と聴衆が共有するかということに尽きます。そういう意味でとても心に響く演奏でした。テミルカーノフもいつものように庄司紗矢香を優しく包み込み、オーケストラも彼女を引き立てるための最上のサポート。saraiには独奏ヴァイオリンだけが響き、オーケストラの音は記憶にありません。配偶者はそれを聞き、やっぱりねと言ってました。一般的な意味での協奏曲としてはどうかということはありますが、ずっと庄司紗矢香の成長を楽しみにしてきたsaraiの嬉しかった気持ちはそういうことは蚊帳の外。saraiの気持ちをどうか汲んでください。
さて、今日のプログラムは以下です。
指揮:ユーリー・テミルカーノフ
ヴァイオリン:庄司紗矢香
管弦楽:サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団
ロッシーニ:歌劇「セヴィリアの理髪師」序曲
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 Op.64
《アンコール》
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 BWV1004から「サラバンド」
《休憩》
ストラヴィンスキー:バレエ音楽《春の祭典》
《アンコール》
エルガー:エニグマ変奏曲から「ニムロッド」
まずはロッシーニです。かなり小さい編成です。配置は対向配置。美しい演奏です。ロシアのオーケストラとは言え、やはり一流のオーケストラですね。終了と同時にそのまま、オペラが始まるのが聴きたくなったくらいですから、よい演奏でした。
続いて、いよいよ、庄司紗矢香の登場です。真っ赤なドレスでスリムな体を包んで、大人っぽいメイクアップ。あまり、saraiの好みではありませんが、音楽とは関係ありませんね。オーケストラも先程とほとんどそのまま。
第1楽章、独奏ヴァイオリンとオーケストラがあの有名な第1主題を奏でます。とても上品な出だし。抑えているとも言えるくらい。しかし、その小さめの響きがしみじみと心に沁みます。ああ、あのCDでの演奏とはまったく違います。音楽を自分の心にしっかりと刻み込んだ演奏です。時折はダイナミックな演奏にもなりますが、基本的には心の音楽。こういうメンデルスゾーンもあるんですね。
第2楽章、第1楽章からは切れ目なく音楽は続きます。テンポはスローになりましたが、基本的には心の音楽というスタイルはそのまま続きます。すっかり庄司紗矢香のヴァイオリンの響きとsaraiの心が一体化した感じ。とてもいい感じです。
第3楽章、一気にテンポアップして切れ味よい演奏です。心の音楽はここで脱却。気持ち良くフィナーレに突入。
ただただ、満足。庄司紗矢香はすっかり自分のスタイルを確立したようです。そして、その音楽はsaraiにもとっても納得でき、心を通い合わせられる音楽です。これで世界に通用するかどうかは分かりませんが、saraiとしてはこの道を突き進んでほしいと思います。彼女は単なるヴァイオリニストを超えて、とてもいい音楽家、そして、芸術家になりつつあります。その過程を見守っていければと思います。
ちなみに庄司紗矢香のアンコール、バッハの無伴奏も彼女の世界を作って、心に染みる音楽です。まるでリサイタルを聴いたような錯覚にとらわれました。
休憩後はストラヴィンスキーの残した20世紀を代表する曲のひとつです。世界の一流オーケストラが合奏力・技術力を競い合うとてもテクニカルな曲でもあります。木管のロシア的な響きで始まりますが、よく響き合い、好演です。いい意味でインターナショナルな響きではなく、ロシアの農村を感じさせられます。やがて、有名な弦楽器合奏のガッ、ガッ、ガッ、ガッ、・・・というリズム楽器と化した響きです。これは重戦車のように重々しく響きます。朴訥で重厚、一流オーケストラでありながら、ウィーンやドイツのオーケストラとは一線を画しています。この重厚な厚みのある演奏を感心して聴いているうちにいつの間にか意識が飛びます。このあたりになって、時差ぼけの睡魔が襲ってきたようです。あるいは庄司紗矢香に入れ込んで聴いていたツケが回ってきたのか分かりません。後半の大音響でもびくともせずに睡魔が断続的に襲います。なんだかとてもよい演奏に感じましたが、ちゃんと聴き取れたわけではありません。悪しからず。
アンコールのエルガーはちゃんと聴けました。分厚いサウンドですがとても美しい演奏でした。エニグマをもっと聴きたい感じでした。
ウィーンの音楽とは違いますが、楽しく、しみじみと聴けたコンサートでした。
それにしても、サントリーホールの響きはとてもいいですが、やはり、ウィーン楽友協会の信じられない響き、全身が音と共鳴するような響きはとても忘れられるものではありません。日本のホールももっともっと熟成を重ねてほしいですね。
最後に関係者の方々に強い要望です。是非、今回の組み合わせの演奏者でメンデルスゾーンとチャイコフスキーの協奏曲を再録音して、以前のチョン・ミョンフンとのCDを置き換えてほしいということです。日本の音楽界、庄司紗矢香にとって、とても重要なことです。
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