ベルリン・フィルはドイツ的な響きに欠けるのであまり好みではないのですが、マーラーの9番となると話は別です。バーンスタイン指揮の素晴らしいCDもありますし、バルビローリ指揮のCDも忘れられません。期待十分でした。そして、今日は想像以上の素晴らしい演奏が展開されました。まさに狂乱の嵐のような音の波が次々と押し寄せる様はベルリン・フィルの独壇場かも知れません。そして、それ以上にピアノッシモの美しさは例えようもありません。フィナーレの後も静寂の音楽が続いていました。ラトルがうながさない限り、この静寂は永遠に続いたかもしれません。
第1楽章、静かに音楽が開始されます。次第に先鋭な響きとなることを予想していましたが、実にまろやかな響きが続きます。まったく角のない響き、今まで聴いたことのないような響きです。それも続く感情の大きなうねりに飲み込まれていきます。何というスケールの大きな音楽でしょう。激情の波はオーケストラの疾風怒涛のような演奏で大きく盛り上がります。アンサンブルが揃っているかどうかも分からないような凄絶な演奏に押しつぶされそうになります。まだ、第1楽章です。いきなりトップスピードで疾駆するスポーツカーのようです。これでは第3楽章以降は一体どうなるのかという思いに駆られます。この楽章が終わり、もう、十分に音楽を味わい尽くした思いです。
第2楽章、ここは少し息をつきましょう。聴く方も持ちませんからね。ただ、時折、嵐が襲来して、休息はなかなか許されません。
第3楽章、ブルレスケです。見事な弦楽合奏、木管パートの演奏、そして、またしても大きな感情のうねりで凄絶な演奏。この合奏能力は人間の力を超えているかのようです。破綻一歩手前の凄い演奏です。とても冷静に聴いていられるものではありません。そして、哀切を極めた美しいメロディー、堪りませんね。一気にフィナーレまで突き進みます。間を置かずに終楽章にはいります。
第4楽章、このアダージョはマーラーが到達した頂点の音楽。第1番《巨人》から何と長い道のりだったでしょう。音楽を超えた音楽。美の究極です。ベルリン・フィルの弦の素晴らしさ、木管の素晴らしさ。ただただ、堪能するのみです。フルートのブラウの演奏に聞き惚れたかと思うと、樫本大進の素晴しいヴァイオリンの響きに聴き惚れます。終盤のチェロの独奏の甘美さ、saraiは密かに愛の動機と呼んでいます。残り火が燃え立つように一度、生への憧れが盛り上がり、その後は薄明の世界。現世との静謐な惜別です。死という永遠の世界に静かに静かに同化していきます。そして、完全な静寂。これは終わりであって、始めでもあります。本来はこのまま拍手なしに静かに聴衆は立ち去るのがよいのでしょう。それぞれの感懐にひたりながら、己の生と死に思いをいたすのです。それほど、よいフィナーレでした。
最後は楽団員の立ち去ったステージに表れたラトルにほとんど残っていた聴衆は総立ちになっての拍手。それにふさわしい演奏でした。ラトルはその盛大な拍手に応えて短いスピーチ。コンサートの後にはスピーチはないんだけどと言いながら、みなさんに愛を送りますって言って締めくくりました。それでも、拍手はやまず、最後はコンサートマスターの樫本大進を伴って、登場。ようやく、長いカーテンコールが終わりました。
実に素晴しい演奏でした。昨年のゲルギエフ+ロンドン響と比べて、お互い遜色なし。違いと言えば、崩壊寸前までの壮絶な演奏を繰り広げたベルリン・フィル、音楽的なシンパシーに満ちたゲルギエフの暗く深い指揮というところです。ラトルの指揮はベルリン・フィルを究極まで駆り立てたドライブが印象的ですが、初聴きで音楽的な面についてはもう少し聴かないと論評できません。来年4月にベルリンのフィルハーモニーにラトル、ペライア、ベルリン・フィルを聴きに行くことを計画しているので、本拠地での実力について、もう少し言えるかもしれません。
マーラーの9番もロンドン響、ベルリン・フィルと聴いてくると、音楽ファンとしての欲が出ます。何とか、ウィーン・フィル、コンセルトヘボウ、シカゴ響というビッグ5すべてで聴いてみたいものです。あ、バイエルン放送交響楽団でも聴きたいですね。
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この記事へのコメント
こんにちは。
コメントが遅れて申し訳ありません。
これまでベルリンフィルを何となく敬遠されていたとのこと。実は僕も全く同じです。昨年予定されたウイーンフィルのマラ9には飛びついたのですけれども。
今回も財政面の理由もあってパスいたしましたが、saraiさんの感想を読むと聴きたかったなあと思います。とにかく自分で聴いてみないとわからないですからね。
それにしてもウイーンフィルのマラ9を聴ける機会は果たしてこれから有るのでしょうか・・・
2, saraiさん 2011/12/04 00:50
ハルくんさん、コメントいつもありがとうございます。
第3楽章の熱い演奏はバーンスタイン指揮のCDを彷彿とさせるものでした。やはり、ベルリン・フィルの演奏能力の高さは尋常ではありませんね。ライブはいいです。
ウィーン・フィルの演奏はやはり、ウィーン楽友協会で聴きたいですね。ハルくんさんも退職後の楽しみにとっておいてはいかがですか。
2012年のハイティンク指揮ロンドン響の来日演奏会のブルックナー9番も何とか聴きたいですね。