というわけで、今日のリサイタルは楽しみです。
今日のリサイタルのプログラムは以下です。前半はベートーヴェンとリストです。この二人は前回のサントリーホールでのリサイタルでも取り上げられました。彼女のライフワークと言ってもいいかもしれません。後半はラフマニノフの難曲です。ラフマニノフと言えば、saraiが彼女の演奏に初めて接したのがピアノ協奏曲第3番でした。その素晴らしい演奏を聴き、一遍に彼女のファンになってしまいました。彼女のラフマニノフの独奏曲を聴くのは多分、初めてです。きっと素晴らしい演奏になる予感がします。
べートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 op.13 「悲愴」
リスト:『詩的で宗教的な調べ』から第3曲「孤独のなかの神の祝福」
リスト:リゴレット・パラフレーズ
《休憩》
ラフマニノフ:練習曲集『音の絵』 op.39
《アンコール》
リスト:愛の夢 第3番
スクリャービン:エチュード op.42-5
まずはベートーヴェンの「悲愴」です。序奏でバーンと和音が鳴り、こちらも身震いします。美しい響きですが、妙に重厚さを欠いた軽い響きなのが気になります。そういえば、今日のピアノは久々にYAMAHAです。最近のオーケストラとの共演ではスタインウェイばかりでした。そのせいかなとも思いました。しばらく聴くと、そうではなくて、どうも彼女の演奏に問題がありそうです。気迫は感じられるものの、演奏にいつもの切れのよさがまったくありません。弾き間違いまであります。演奏も凡庸です。がっかりを通り越して、びっくりです。どう聴いても、この演奏は弾き込み不足にしか思えません。超有名曲の「悲愴」を選曲したこと自体、首を傾げましたが、きっと、明確なヴィジョンがあって、驚くような解釈の演奏でも聴かせてもらえるのかと思っていたら、何とこんな演奏とは、上原彩子ファンを任じるsaraiでも失望するしかない演奏です。彼女のベートーヴェンと言えば、2年前聴いた30番のソナタの素晴らしさ。そして、1年半前の3番のソナタ。まったく、saraiを納得させてくれるベートーヴェンだったんです。この日入手したパンフレットでは、今年8月に横浜みなとみらいホールでも「悲愴」を弾くようです。それまでに是非、「悲愴」をきっちり弾き込んでもらって、納得の「悲愴」を聴かせてもらいたいと望むばかりです。
しかし、このまま終わらないのが上原彩子です。この後のリストからはまさに別人とも思える演奏に変わります。
次のリストの「孤独のなかの神の祝福」はこの日の演奏で、一番心に響く演奏でした。テクニックも最高だし、祈りにも思える静謐さをたたえる響きも最高です。第1部、そして、第3部の後半はあまりの素晴らしさにうっとりです。2年前のリストの「ペトラルカのソネット」も素晴らしかったのですが、今日の演奏も甲乙つけがたしの素晴らしさ。この曲の宗教的な側面よりも深く沈潜した心情の表現に共感しました。
続く「リゴレット・パラフレーズ 」も美しい演奏です。曲の性格上、楽しく聴くという感じにはなりましたが、立派なリストです。これも納得の演奏です。これで前半が終了ですが、ベートーヴェンはともかく、これらのリストを聴けただけで満足です。
後半はラフマニノフの『音の絵』です。第1曲から難曲ですが、彼女は難なく弾きこなします。素晴らしい響きです。軽い響きなんて、とんでもないというようにYAMAHAのピアノがガンガン響きます。第2曲は瞑想的な曲ですが、これもしみじみと難曲をさらりと弾きこなします。第5曲も素晴らしい演奏でうならせられます。そして、第6曲は低音部の迫力ある響き、一転して高音部の華やかな響き、これらが交錯して、ダイナミックな音楽を形作ります。実に面白く聴けました。最後の第9曲、素晴らしい響きのまま、この超絶的な技巧を駆使する難曲をしめくくりました。何という演奏でしょう。告白するとラフマニノフの独奏曲はsaraiは苦手なんです。でも、この日の上原彩子の演奏はそれを忘れさせてくれる快演でした。
アンコールは軽く、「愛の夢」。何も言うことはありません。美しい演奏です。スクリャービンのエチュードはこれもラフマニノフ同様、素晴らしい演奏。この曲はホロヴィッツのCDでしか聴いたことがありませんが、まったく遜色のない演奏と評価します。
次は前述した8月の横浜みなとみらいホールを是非聴こうと思っています。プログラムは今日の前半と同じものと後半は「展覧会の絵」です。不安と期待のリサイタルになりそうです。
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