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仲道郁代ピアノ・リサイタル@サントリーホール 2012.2.12

毎年、定例的にサントリーホールでのリサイタルを開いている仲道郁代です。昨年も聴きました。そのときの感想はここです。昨年もオール・ベートーヴェン・プログラムのプログラムで今年もまたオール・ベートーヴェン・プログラムです。正直言って、今年、聴くのはどうしようかなって迷っていました。
実はご本人からリサイタルへのお誘いがあったので、おじさんとしてはふらふらっとその気になってしまったんです。そのときの経緯はここです。

今日のリサイタルのプログラムは以下です。オール・ベートーヴェン・プログラムで名曲尽くし。きっと楽しいリサイタルになるでしょう。

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 Op.31-2 「テンペスト」
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第7番 ニ長調 Op.10-3

《休憩》

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調 Op.27-2 「月光」
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 Op.57 「熱情」

  《アンコール》

 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 Op.13 「悲愴」から第2楽章
 ショパン:練習曲第13番 変イ長調 Op.25-1 「エオリアン・ハープ」
 エルガー:愛の挨拶

まずはベートーヴェンの「テンペスト」です。綺麗なタッチ、明快なテンポで第1楽章が始まります。個性的な演奏ではありませんが、実に無理のない表現。名曲はこういう風に弾いてもらうと安心して聴けます。第2楽章もほどよく叙情的な演奏です。心地よい演奏です。第3楽章はsaraiのとても好きな曲です。冒頭のタタタター、タタタター、タタタター、タタタターという有名なメロディーが軽やかに演奏され、これまた心地よい演奏です。終始、模範的とも言える安定した演奏で満足です。熱くなる演奏ではありませんが、美しい演奏でした。

続いて、第7番のソナタです。特に注目していた第2楽章は実に叙情的で美しい演奏でした。ショパンを思わせるタッチで心地よく聴けました。ご本人は第3楽章がお好みとのことですが、素直な演奏に好感を持てました。

休憩後、軽いトークでもあるのかと思っていたら、いきなり、ピアノの前に座り、「月光」です。超有名曲ですが、実に素直で嫌味のない演奏で気持ちよく聴けます。こういう風にさらっと弾いてもらうのが、こういう曲にはぴったりです。気持ちよく聴いているうちにあっと言う間に第1楽章が終わりました。第2楽章はさっと終わり、第3楽章はこれまた模範的とも思える演奏です。テンポも中庸、ダイナミズムもちょうどよしって感じです。タッチもクリアーで切れのよい演奏でした。

最後は「熱情」です。「月光」のカーテンコールで出てきたと思うとさっとピアノの前に座り、弾き始めました。少し、テンションがあがってきたようです。第1楽章はそれでも実に丁寧に模範的な演奏でした。これまでCDで名人達の演奏をさんざん聴いてきましたが、こういう風に無理のない表現で演奏されると、特に違和感なく、気持ちよく聴けるものです。第2楽章は単純なテーマがどんどん細かい音符に細分化されていく過程が驚異的な名曲ですが、彼女は美しく表現してみせてくれました。最後に少し変形したテーマに戻り、そのまま、第3楽章に突入していきますが、これがなかなか間合いがよくて、無理がありません。第3楽章、これはピアニストが弾いていて興奮するんだろうなあと思わせられる勢いのある曲ですが、彼女はテンポよく、美しく表現していきます。このまま、フィナーレかと思ったら、最後のプレストでは驚くことに、これまでの演奏スタイルを変えて、熱くたぎるような情熱的な演奏です。まさに持てる力と技術を使い果たすという勢いでの演奏でした。こういうものが聴けるのが生演奏のよいところですね。実に人間的な感情の揺れや思いを感じました。

全体を通して、こういう名曲アワーそのもののようなプログラムは聴衆に納得させるような演奏はなかなか難しいと思いますが、あまり、意気込んで個性を出し過ぎるよりも今日のように素直に表現するほうが受け入れやすいんだなあと感心しました。もちろん、ここまで弾きこなすのは相当に準備・練習したことが想像できます。ミスも極めて少なく、タッチも明快、テンポも安定、指もよくまわっていました。名曲故に細かいミスも目立ちやすいし、無理な表現もすぐに分かってしまいますが、今日はまったくといって、気になる箇所はなく、気持ちよく聴けました。

アンコールはショパンの練習曲が気持ちよく聴けました。仲道郁代はやはりショパン弾きなのかもしれません。



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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

 

マルタでカラヴァッジョ:カラヴァッジョは見られるのでしょうか?

2011年10月18日火曜日@マルタ島/5回目

カラヴァッジョははたして見られるのでしょうか。心配しながらマルタ十字の衝立の前に佇んでいました。そして、入場制限している綱の近くから中を覗き見ようとしていると、中から係の人が出てきて、もうしばらく入場は待ってくれとのこと。
安心します。待てばいいのね。待ちますよ。いつまでも待ちますよ。カラヴァッジョが見たくて、わざわざこんな地中海の島まで来ちゃったんですからね。この際、30分や1時間が待てないことはありません。
随分待っていますが、ここに張り付いて待っている人はそう多くはありません。カラヴァッジョがお目当ての人って、そんなにはいないようです。衝立の向こうでは女の人の声が響いています。きっとその人のせいで待たされているのでしょう。さすがに係の方も申し訳ないと思ったのか、衝立の向こうでその女の人と話をしているようです。ようやく綱が外されて中に入れます。中には中年の女性がいます。この人のせいで待たされたかと思い恨めしそうな視線を投げかけましたが、一顧だにされません。そして、この部屋(オラトリオっていう大きな礼拝堂)の中央には三脚に立てたビデオカメラとカメラマンの姿があります。女性の指揮の下、カラヴァッジョの絵の撮影が行われていたようです。
ともあれ、カラヴァッジョを巡る旅をしめくくる作品を見ましょう。このオラトリオの主祭壇画に照明があたっていて、ちょうどシラクーサの聖ルチア教会のような感じです。最後を締めくくるにふさわしい大作、《聖ヨハネの斬首》です。わざわざマルタ島まで見に来ただけの価値ある素晴らしい傑作です。残念ながらこの教会内でもこのオラトリオ内だけは写真撮影禁止なので、買い求めたポストカードでこの作品をご紹介しましょう。
まず、オラトリオ全体はこんな感じです。


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主祭壇画の《聖ヨハネの斬首》です。


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絵のテーマは、サロメの要求で首切り人(つまり死刑執行人)が聖ヨハネの首を切りつけ、多分聖ヨハネはもう息もないと思われますが、さらに首を切り取るために小刀を腰から抜こうとしている凄惨でショッキングな場面です。この有名な場面はほかの画家もたくさん絵に描いていますが、たいていはサロメが聖ヨハネの首を銀の盆にのせているシーンです。カラヴァッジョは、あえて主役の一人のサロメを絵の端に寄せ、腕に光を当ててこの事件の首謀者であることを示していますが、顔は暗くて明確に描かずにこの絵では脇役にしています。そして、中央の逞しい筋肉の首切り人と瀕死の聖ヨハネが主役になっています。これまで見てきたカラヴァッジョの中心的なテーマ、暴力と静謐さの対比がそこにあります。ただ、この絵の場合、首切り人の圧倒的な存在感、そしてある意味ではその美しさが描き出されています。それはカラヴァッジョが持っていた暴力的な面の肯定・賛歌とも見えてしまいます。実生活で暴力や無法さにのめりこんでいたカラヴァッジョ、そして絵画芸術において精神的な高みに上りつめたカラヴァッジョ、この二律背反的なものはカラヴァッジョの内部で矛盾なしに結合していたかも知れないというとてつもない怖い考えに至り、思わず戦慄を覚えます。瀕死の聖ヨハネの顔には光があてられていますが、精気のない死に顔で静謐さや高貴さはそれほど感じられません。暴力の美化といっては言い過ぎですが、暴力的な面が画面の中心テーマとしか感じられません。暴力への陶酔・・・カラヴァッジョ自身の実生活の昇華、それがこの作品に感じられます。もちろん別の見方も山ほどあるでしょう。カラヴァッジョの名画は劇的な空間表現で見るものをその空間の中に引きづりこみ、見るものの人生と対峙させてしまう力を持っています。それほどの傑作とこのマルタで向かい合うことができて、実に幸せです。
この後、ウィーンではこのサロメと聖ヨハネ(オペラではヨカナーン)を巡るドラマをR・シュトラウスの名作オペラ《サロメ》で鑑賞します。大芸術家2人のアプローチの違いを楽しみましょう。(R・シュトラウスのオペラ《サロメ》についてはここ
にご紹介しています。)
そうそう、このオラトリオには例の入口のマルタ十字の衝立の裏側に、もう1枚のカラヴァッジョの作品《執筆する聖ヒエロニムス》の絵もあります。緻密に描きこまれたよい作品なのですが、もう1枚の《聖ヨハネの斬首》のインパクトが強過ぎて、それほどの感銘はありません。


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これでミラノ⇒ローマ⇒ナポリ⇒シチリアと見てきたカラヴァッジョの絵画鑑賞がついに完了し、ほっとしたような残念なような妙な感覚です。それにしても晩年に描いた教会を飾る大作群は、宗教画というジャンルを超えて、恐ろしいほどの芸術的高みに達したものばかりで、圧倒され尽くしました。しかしながら、この1枚と言えば、ローマのサンタゴスティーノ聖堂にあった《ロレートの聖母》を挙げないといけないでしょう。あの聖母の美しさと高貴さは、生涯忘れえないものです。瞼の裏にはっきりと焼き付いています。
カラヴァッジョ巡礼は最終的に計28枚見ることができました(取りこぼしは3枚)。カラヴァッジョの作品を十分に堪能できました。

オラトリオから外に出ます。オラトリオの入口はマルタ十字の衝立で仕切られ、印象的です。


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再び、大聖堂のなかを見て回りますが、驚くほど豪華です。聖ヨハネ騎士団の強力な財政基盤が想像できます。


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大聖堂を後にします。大聖堂の出口には美しい緑があります。ふいに、カラヴァッジョ巡礼が終わってしまったことに感慨を覚えます。


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イタリア、マルタを巡ったカラヴァッジョの旅は忘れられない旅になりそうです。



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

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08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

通りすがりさん

コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

05/13 23:47 sarai
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