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上原彩子のピアニストとしての新たな出発・・・ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲に挑む@東京文化会館小ホール 2024.3.9

天才、上原彩子はラフマニノフ、チャイコフスキー、プロコフィエフなどのロシアもので比類ない演奏を聴かせてくれます。それで十分に満足できていました。それどころか、ラフマニノフのピアノ組全曲コンサートを聴きたいくらいです。
しかし、彼女はここにきて、ある意味、ピアノ音楽の王道とも言えるドイツ・オーストリア音楽に気持ちがシフトしてきたようです。ようやく、弾きこなしたモーツァルトに引き続き、遂にベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲に全力で挑戦することにしました。今日はその記念すべき1回目。これから、8年もかけて、ベートーヴェンという巨大な嶺に登ることになります。今日はその試金石になります。複雑な思いで今日のリサイタルを聴きます。もう高齢のsaraiはその演奏を聴き終えることができるかどうか、微妙です。しかし、そのsaraiの思いは今日の演奏で払拭されました。やはり、彼女は天才ではなく、超天才であることが確信できました。天才が努力と決意をもってすれば難関を超えることが実感できました。ベートーヴェンという一大障壁を乗り超えることができるということは、今日の素晴らしい演奏を聴けば、理解できました。無論、毎年、4曲程度の作品を心血を注いで、攻略していく努力は欠かせませんが、そういう内面の力と元々の天才的な実力を合わせれば、中期のアパッショナータまで、辿り着けそうに思えます。後期は別次元の世界なので、もう人間としての内面の充実ということになりそうですが、彼女ならば、新たな地平を見つけられるでしょう。
saraiが最後まで見届けるかどうかは問題ではなく、もう、楽観的な気持ちになっています。
しかし、ここで新たな問題が胸に去来します。ベートーヴェンを極めるのならば、次はシューベルトという次の大きな嶺があります。そして、さらにシューマン、ブラームスという道筋も見えてきます。田部京子に続いて、上原彩子もドイツ・オーストリア音楽を本格的に弾くことを精進してほしいと微かながら思ってしまいました。そのsaraiの期待に応えるように何と上原彩子はアンコールでブラームスの晩年の傑作、インテルメッツォをロマンティックに弾いてくれました。最高の演奏でした。ブラームス好きのsaraiが太鼓判を押せるような見事な演奏でした。ドイツ・オーストリア音楽を弾けて、ロシア音楽は超素晴らしいというピアニストの中のピアニストに上り詰めるかもしれないと心の底からの期待が芽生えました。そんな妄想に捉われて、ご機嫌なsaraiでした。

さて、今日の演奏です。ピアノは何とベーゼンドルファー。やはり、ウィーンの音楽はこれに限るかもしれません。オペラシティにあるアンドラーシュ・シフが選定したベーゼンドルファーも弾いてみてほしいですね。
最初はピアノ・ソナタ第1番。緊張して聴き始めましたが、とても素晴らしい演奏です。きっちりと指がまわっています。この後の演奏にも言えますが、ターンがさりげなく弾けていて、音階もスムーズ。古典派音楽の様式感が素晴らしく表現されています。よほど、練習したようです。何故か、この第1番はモーツァルト的な風情が少し感じられる演奏で、ベートーヴェン的な高邁さはそれほどではありません。それに高音域の響きがさらに美しければという課題も見えます。それは強いて言えばということですが、全体としては素晴らしい演奏です。

次は第2番。ここで上原彩子の演奏はぐっとギアがアップ。第1楽章から、見違えるような凄い演奏。saraiの緊張感も増して、集中して聴き入ります。第1番で課題と言ったことはすべてクリアーされています。完璧という表現は使いたくありませんが、そうも言いたくなるような演奏が続きます。上原彩子がラフマニノフを弾くときのような緊張感と集中力がこのベートーヴェンでも発揮されます。第2楽章の緩徐的な表現も素晴らしい。saraiの席からは上原彩子の鍵盤を叩く指がはっきりと見えますが、実に美しく動いています。高音域では右手の指がきっちり立っていて、鍵盤を素晴らしいタッチで叩いています。断っておきますが、saraiはピアノが弾けません。あまり、偉そうにピアノ演奏をどうのこうの言えませんが、耳では名人たちのピアノの音をたくさん聴いています。その基準で言って、とても素晴らしい演奏です。第3楽章は歯切れよく演奏し、これも完璧。そして、第4楽章の凄いこと! もう、あっけにとられるような凄まじい演奏に驚嘆しました。

休憩後、第19番と第20番が続けて演奏されます。いずれも2楽章構成の可愛い作品ですが、上原彩子が弾くと、格段の聴き映えがします。第3番と第4番の間に作曲された平易な作品でモーツァルト的な響きの作品です。今やモーツァルトを得意とする上原彩子は素晴らしい響きの演奏を聴かせてくれます。ト短調の第19番、ト長調の第20番、いずれも圧巻の演奏。第20番の第2楽章は有名なメロディーが楽しく聴けます。七重奏曲 Op.20の第3楽章のメヌエットと同じ主題です。

最後は第3番。これも先ほどの第2番と同様に素晴らしいレベルの演奏です。これまた、圧巻は第4楽章。凄いの、何のって、saraiの気持ちが高揚していきます。これだけ弾いてくれれば、何となく、中期のピアノ・ソナタの演奏も展望が開けてきます。きっと物凄い演奏になりそうな予感がします。

アンコールは第1番から第3番がハイドンに献呈されたので、まず、ハイドンを弾きますと上原彩子が語ってから、実に軽やかな演奏、それも超高速演奏でびっくりします。彼女はハイドンも弾きこなしたようです。そのうち、ハイドンの後期ソナタも披露してもらいたいものです。
次は何も語らず、いきなり弾き始めます。最初はこの聴き慣れた曲は何?と分かりません。あまりにベートーヴェンとかけ離れていたからです。しばらくして、ブラームスのインテルメッツォの1曲であることに思い至ります。素晴らしくロマン性の濃い演奏で、すっかり魅了されます。saraiの大好きなブラームスの晩年のピアノ曲でこのところ、アンドラーシュ・シフの素晴らしい演奏を立て続けに聴いています。今日の上原彩子の演奏はそのシフと同等レベルの素晴らしい演奏。これならば、機会をみて、ブラームスの晩年の傑作群、Op.116~Op.119をまとめて弾いてもらいたいものです。
アンコールにも大満足でした。

来年は3月上旬に第4番から第7番までの4曲が予定されています。まだまだ初期の作品群ですが、今日の演奏から判断して、かなりの聴き応えが期待できそうです。再来年は第8番《悲愴》や第10番など、有名作品が登場してきます。そして、2028年にはワルトシュタインやテンペスト、2029年には、アパッショナータという中期の傑作群が綺羅星の如く登場します。あと6年、何とか聴き続けたいものです。この中期の傑作群がこのチクルスの一つの頂点をなすことになるでしょう。無論、2032年の後期3ソナタが聴ければ僥倖です。

まあ、現実的には、来週末からのウィーンの大御所ブッフビンダーのベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲チクルス(全7回)の連続コンサートを聴きます。コロナ禍でイリーナ・メジューエワのベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲チクルスが流れたので、これがsaraiにとって、初の全曲チクルスになります。その次が今日からの上原彩子のチクルスになるのかな・・・


今日のプログラムは以下です。


 上原彩子 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会 Vol.1

  ピアノ:上原彩子
  
 ベートーヴェン:ピアノソナタ

  第1番 ヘ短調 Op.2-1
  第2番 イ長調 Op.2-2

   《休憩》

  第19番 ト短調 Op.49-1
  第20番 ト長調 Op.49-2
  第3番 ハ長調 Op.2-3

   《アンコール》
   ハイドン:ピアノ・ソナタ第38番ヘ長調Hob.23 Op.13-3より第1楽章
   ブラームス:6つの小品より間奏曲イ長調 Op.118-2


最後に予習について、まとめておきます。

すべて、メジューエワの最新のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集から予習しました。CDも所有していますが、Apple Musicの配信で聴きました。

 イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2020年6月~7月、新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

メジューエワらしい力強いタッチの演奏。まったく隙のない演奏です。

そのほか、来週のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲チクルスに向けて、ブッフビンダーの演奏も聴いています。

 ルドルフ・ブッフビンダー ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ全集 2014年8月 ザルツブルク音楽祭 ライヴ録音

ウィーンの巨匠ブッフビンダー3回目のピアノ・ソナタ全集はザルツブルク音楽祭のライヴ録音です。ともかく、高音域の美しい響きに感銘を覚えました。そして、ベートーヴェンが初期から中期にかけて、音楽的に上り詰めていく様が見事に表現されています。後期は別世界です。



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       上原彩子,  

カーチュン・ウォンと上原彩子の二人の天才が邂逅 美し過ぎるパガニーニ・ラプソディー 繊細で魂の震える幻想交響曲 日本フィルハーモニー交響楽団@サントリーホール 2024.1.21

カーチュン・ウォンと日本フィルは最高の関係になって、素晴らしい演奏を聴かせてくれます。日本フィルは大変な逸材を指揮者に迎えましたね。

冒頭の伊福部昭の舞踊曲《サロメ》より「7つのヴェールの踊り」は素晴らしい演奏。前回の伊福部昭のオーケストラとマリンバのための《ラウダ・コンチェルタータ》も見事なものでしたが、今や、カーチュンは伊福部作品の第1人者と言ってもよいでしょう。カーチュンの緻密な指揮、そして、音楽の解釈能力の高さにはいつもながら舌を巻きます。弦をうまくコントロールして、R.シュトラウスの同名作品に負けず劣らずの美しい演奏を実現したことに驚くばかりです。カーチュンに影響されて、saraiまでも伊福部昭の音楽の魅力にはまっていきそうです。

次は上原彩子が登場して、ラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲を演奏します。ラフマニノフを演奏させたら、彼女の右に出る人はいません。それに今日は何とカーチュンとの夢の共演です。期待せずにはいられません。そして、そのsaraiの期待を嘲笑うように、そんな期待のレベルでは足りないと思わせるような上原彩子の凄いピアノが鳴り響きます。もう何も言うことがありません。上原彩子の演奏は最初から全開モードで切れがよく、そして、美しいタッチ、さらにこれまで彼女のピアノでは聴いたことがない分厚い響きで、ただただ、saraiを魅了し尽くします。とりわけ、第18変奏の有名なフレーズの美しい演奏の魅力には呆然と聴き入るばかりでした。これほどの完成度の演奏は聴いたことがありません。そして、第19変奏以降は物凄いレベルの音楽を展開し、一気にコーダまで駆け抜けます。天才ピアニストがさらに精進して、無限の境地に分け入ったかのようです。さすがのカーチュンもサポート役にまわるだけでした。上原彩子はいつもの気魄だけでなく、ロマンティックな情熱も感じさせるものでした。さらにアンコールで弾いたラフマニノフの前奏曲の美しかったこと! 多分、この曲を上原彩子が弾くのを聴くのは3度目ですが、これほどの高みに達するとは凄い。是非、ラフマニノフの前奏曲全曲をリサイタルで聴かせてもらいたいものです。(待てずに彼女が前奏曲Op.32を弾いたCDを注文しました。リサイタルで聴いたものですが・・・)

後半は完全にカーチュンが主役。ベルリオーズの幻想交響曲です。saraiが少年時代から聴き込んできた曲で完全に頭に入っています。カーチュンが暗譜で指揮するのとは、もちろんレベルが違いますけどね。この知り尽くした曲をカーチュンは丁寧にそして、繊細に表現してくれました。パーフェクトと言いたいくらいです。何と言っても弦楽セクションを自在に操って、恋に熱狂した青年の心の襞を美しく、そして哀しく奏で上げてくれました。第1楽章、第3楽章、第5楽章は最高の音楽でした。無論、第2楽章のワルツも第4楽章の断頭台への行進もこの上ない演奏でしたが、やはり、音楽のこくの深さは奇数楽章が優ります。
前回のショスタコーヴィチの交響曲第5番でも書きましたが、日本フィルの弦のアンサンブルはベルリン・フィル並みですが、さすがに管はまだまだです。木管のレベルアップを望みたいものです。カーチュン・ウォンのいるうちに管も世界のトップレベルになることを願います。
今回は、指揮者コールが大変、盛り上がりました。高揚した気分のsaraiはまたまた、足の痛みは吹っ飛んで、快調な足取りでサントリーホールを後にしました。

今年のマーラーの交響曲第9番が楽しみでなりません。既に購入済の1日分に加えて、もう1日のチケットも購入してあります。今年はカーチュン・ウォンの年になるかもしれません。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:カーチュン・ウォン[首席指揮者]
  ピアノ:上原彩子
  管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団 コンサートマスター:木野 雅之

  伊福部昭:舞踊曲《サロメ》より「7つのヴェールの踊り」
  ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43
  
   《アンコール》ラフマニノフ:前奏曲 ト長調 Op.32-5

   《休憩》
   
  ベルリオーズ:幻想交響曲 Op.14


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目の伊福部昭の舞踊曲《サロメ》を予習した演奏は以下です。

 広上淳一指揮日本フィルハーモニー管弦楽団 1995年8&9月 セッション録音

録音も演奏も素晴らしいです。


2曲目のラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲を予習した演奏は以下です。

 ニコライ・ルガンスキー、トゥガン・ソヒエフ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2016年10月15日 ベルリン・フィルハーモニー ライヴ収録 (ベルリン・フィル デジタル・コンサートホール)

ルガンスキーのピアノは見事な冴えです。聴き応え十分。


3曲目のベルリオーズの幻想交響曲を予習した演奏は以下です。

 クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2013年5月19日 ベルリン・フィルハーモニー ライヴ収録 (ベルリン・フィル デジタル・コンサートホール)

クラウディオ・アバド、亡くなる半年前のラスト・コンサートでの指揮です。こんな素晴らしい指揮は見たことがありません。手の動きは大きくありませんが、必要十分で、すべての楽器に気を配った素晴らしいものです。その指揮に完全に反応しているベルリン・フィルの演奏の見事なことも驚くほどです。最高の幻想交響曲を聴いた思いです。アバドは80歳で亡くなりましたが、惜しいことをしたと今更ながら感じました。生きていれば、どんな素晴らしい演奏が残されたことでしょう。アバドの最高の演奏を聴きました。



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       上原彩子,        カーチュン・ウォン,  

後半に尻上がりに調子を上げた上原彩子のパガニーニの主題による狂詩曲の耳でも目でも圧巻の演奏 大友直人&東京交響楽団@ミューザ川崎シンフォニーホール 2023.1.29

今日はミューザ川崎&東京交響楽団の名曲全集。今日の演目が名曲全集にふさわしいとは思えません。特にエルガーの交響曲第2番はクラシック音楽通を自任するsaraiでさえ、これまで聴いたことがなく、初聴きの曲です。ともあれ、大友直人指揮の東響は素晴らしい響きで名曲全集にふさわしい演奏でした。もっともsaraiのお目当ては上原彩子のピアノを聴くこと。とりわけ、彼女が得意にしているラフマニノフとあらば、駆けつけざるを得ません。そして、まったくsaraiの期待通りの上原彩子の会心の演奏でした。

前半が上原彩子が弾くラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲。saraiと配偶者の席は左側の前方の席。上原彩子がピアノを弾く後ろ姿を眺める感じですが、指が鍵盤の上を動きまわる様はよく見えます。演奏は第1変奏から淡々と平穏に進んでいきます。なかなか切れのよいタッチですが、上原彩子ならば、当然のこと。東響の弦の響きも冴え渡ります。第10変奏のグレゴリオ聖歌の「怒りの日」の旋律が登場するあたりから、音楽は徐々にヒートアップしていきます。そして、いよいよ、有名な第18変奏にはいります。まず、ピアノ独奏であの甘美な旋律(パガニーニの主題の反行形(上下を反対にした形))が奏でられます。上原彩子の抒情味を帯びたクリアーな音色の演奏の美しいこと、この上なし。うっとりと魅了されながら聴き惚れます。そして、その甘美な旋律がオーケストラに受け継がれ、東響の弦が美しく演奏します。そして、ピアノが分散和音的に修飾していきます。saraiの耳には上原彩子のピアノの響きだけが聴こえてきて、そのピアノの響きをオーケストラが修飾しているように感じます。いやはや、素晴らしい! うっとりしているうちに第18変奏も終盤にはいり、ピアノの独奏が甘美な旋律を回想します。第19変奏以降はピアノの超絶技巧が炸裂しまくり、圧倒的です。鍵盤の上を動き回る上原彩子の手のかっこよさにもしびれます。第23変奏で主題が明快に回帰して圧倒的な音楽の高まりになり、最後の第24変奏ではオーケストラが強烈に「怒りの日」を演奏した後、独奏ピアノが主題をさりげなく弾いて、おしゃれに音楽を閉じます。うーん、今日も上原彩子のピアノは凄かった!! 魂の燃え上がる燃焼度の高い演奏に加えて、クリアーなピアノの響きと抒情味のある音楽表現・・・言うことがありません。東響の弦と木管の美しさも華を添えました。

後半のエルガーの交響曲第2番は大友直人の素晴らしい指揮のもと、東響の素晴らしいアンサンブルが美しい響きで魅了してくれました。第4楽章の後半、東響の素晴らしい響きが盛り上がり、その後、静謐に曲が終わります。早過ぎる拍手で一気に楽興をそがれましたが、それがなければ、とてもよいイギリス音楽が聴けました。音楽は演奏家と聴衆が作り出すものですが、今日はそれが裏目に出ましたね。エルガーはよくも悪くもイギリス音楽の真髄を抉り出した作品を作ったことが感じられました。まさにBBCプロムスの世界そのものです。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:大友直人(東京交響楽団 名誉客演指揮者)
  ピアノ:上原彩子
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:小林壱成

  ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 Op. 43
  《アンコール》 ラフマニノフ:前奏曲集 Op.23-2

  《休憩》

  エルガー:交響曲第2番 変ホ長調 Op. 63


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲を予習したCDは以下です。

 アンドレイ・ガヴリーロフ、リッカルド・ムーティ指揮フィラデルフィア管弦楽団 1989年4&5月 セッション録音
 ユジャ・ワン、クラウディオ・アバド指揮マーラー室内管弦楽団 2010年4月 フェラーラ,テアトロ・コムナーレ セッション録音

ガヴリーロフは昔はテクニックは凄かったですが、実に端正な演奏をしていました。今なら思いっ切り、したい放題の演奏をするでしょう。そこがもう一つ、物足りません。
ユジャ・ワンは凄い演奏です。テクニック抜群で音も美しいです。そして、煌めくような音楽表現に魅了されます。アバド指揮のマーラー室内管とのバランスも見事です。これ以上の演奏はないでしょう。


2曲目のエルガーの交響曲第2番を予習したCDは以下です。

 アンドレ・プレヴィン指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1992年 アムステルダム、コンセルトヘボウ ライヴ録音

大変、美しい演奏です。



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       上原彩子,  

上原彩子はリストのロ短調ソナタでも魂の燃焼、デビュー20年の軌跡を実感@日経ホール 2022.5.11

天才、上原彩子のデビュー20周年記念のピアノリサイタル、2月のデビュー20周年記念のコンチェルト編に続くものです。あのラフマニノフとチャイコフスキーのコンチェルトは凄かった!! 今日の独奏はお得意のロシアものはムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」1曲に絞り、シューマンとリストというピアノの王道をいく作品を選んで勝負しました。その比類ない演奏を聴いて、彼女はこの20年間で如何にその才能に磨きをかけてきたか、しっかりと実感できました。彼女はこの間、もがき苦しみ、成長と挫折の過程を乗り越えてきたように思えます。saraiが15年間、聴き続けてきた率直な感想です。今日のシューマンとリスト、そして、アンコールで弾いたモーツァルトで彼女は鉄壁のピアニストに飛躍したことを確信しました。

さて、まずはシューマンです。最近聴いたクライスレリアーナが素晴らしかったので、期待して聴きます。幻想小曲集 Op.12はシューマンの他の作品に比べて、それほどコンサートでとりあげられない曲目ですが、あえて、記念リサイタルでこの曲を弾くのですから、相当の思いがあるのでしょう。第1曲の《夕べに》はそっと、そっと、思いを沈潜させて弾いていきます。夢見るシューマン・・・心惹かれる演奏です。その後の曲もシューマンらしく、曲想を大きく変えながら、見事に弾いていきます。シューマンの根幹にあるロマンをしっかりと表現して、無類の演奏です。シューマン好きのsaraiも納得の演奏。クライスレリアーナも素晴らしい演奏でしたが、さらにシューマンを磨き上げた演奏です。

次は大曲、リストのピアノ・ソナタ ロ短調。うーん、何とも素晴らしい演奏でした。これが聴衆の前で初めて弾いたとは信じられません(正確には広島で弾いたようですが・・・)。完璧なテクニックはもちろんですが、上原彩子らしい魂の燃焼を重ねた演奏には絶句するしかありません。重量感のある低音、輝きに満ちた高音。ピアノの響きの魅力をたっぷりと聴かせてくれた上に熱い音楽的高揚とくれば、これ以上のものはありません。凄まじいリストでした。

後半はお手の物のムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」。当たり前のように素晴らしい演奏。終曲の《キーウの大門》(キエフの大門ではありませんよ)の凄さには脱帽です。

アンコールのチャイコフスキーは心に沁み入る演奏。やはり、ロシアものは最高です。そして、鳴りやまぬ拍手に応えて、最後はモーツァルトのソナタ。素晴らしい演奏です。昔はあんなにモーツァルトが弾けなかったのに、今やモーツァルト弾きのような自在な演奏です。記念コンサートで一番得意のラフマニノフを封印したとは驚きでした。次は封印を解いて、ラフマニノフを聴かせてくださいね。


今日のプログラムは以下です。


 上原彩子デビュー20周年記念ピアノ・リサイタル

  ピアノ:上原彩子

  シューマン:幻想小曲集 Op.12
   1 夕べに、2 飛翔、3 なぜ、4 気まぐれ、5 夜に、6 寓話、7 夢のもつれ、8 歌の終わり

  リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S. 178 / R. 21

   《休憩》

  ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」

   《アンコール》
     チャイコフスキー:ロマンス へ短調 Op.5
     モーツァルト:ピアノソナタ ハ長調 K.330 から 第1楽章


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のシューマンの幻想小曲集を予習したCDは以下です。

 伊藤恵 シューマニアーナ1 1987年11月10-12日、鹿嶋勤労文化会館 セッション録音

伊藤恵のシューマン作品を網羅したシューマニアーナシリーズはほぼ20年かけて、全13枚のCDで完結しました。その冒頭を飾る記念碑的CDで、実に完成度の高い演奏を聴かせてくれます。


2曲目のリストのピアノ・ソナタ ロ短調を予習したCDは以下です。

 イリーナ・メジューエワ リスト作品集 2011年4月、6月、9月 新川文化ホール(富山県魚津市) セッション録音

メジューエワは唖然とするほど、繊細かつスケールの大きな演奏を聴かせてくれます。その響きの美しさは録音の素晴らしさも相俟って、凄い!


3曲目のムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」を予習したCDは以下です。

 イリーナ・メジューエワ りゅーとぴあライヴ2016 2016年12月3日、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館コンサートホール ライヴ録音

メジューエワらしいスケールの大きな力強さは並外れた演奏を聴かせてくれます。



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       上原彩子,  

魂を燃え尽くす上原彩子の究極のラフマニノフとチャイコフスキー 原田慶太楼&日本フィルハーモニー交響楽団@サントリーホール 2022.2.27

天才、上原彩子の比類ない演奏を聴いて、彼女は天才ではなく、超天才であると確信しました。努力だけでは達することのできない領域に足を踏み入れています。

今日は上原彩子のデビュー20周年の記念コンサート。ずっと彼女の応援をしてきた(物理的な意味ではなく精神的にね)saraiも感慨深いものがあります。初めて上原彩子の演奏を聴いたのが、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番。日本人でこんなにラフマニノフが弾けるのかと驚愕して、ほぼ15年聴いてきました。彼女の成長も挫折も聴いてきました。彼女は今、安定して飛躍のときを迎えています。さあ、今日はどんな演奏を聴かせてくれるでしょうか。

冒頭は上原彩子の演奏に先立って、オーケストラの指慣らし。指揮者の原田慶太楼が指揮台に駆け上がり、拍手の静まるのも待たずにグリンカの歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲の演奏を始めます。これが凄い演奏。失礼ながら、これが日本フィルとはにわかに信じがたい鉄壁のアンサンブル。そして、原田慶太楼の指揮が凄い。圧倒的な演奏に口あんぐり状態でした。よほど、入念にリハーサルを重ねたんでしょうね。

さて、いよいよ、今日の主役、上原彩子が登場し、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。上原彩子の弾くラフマニノフのピアノ協奏曲第3番は何度か聴いて、その素晴らしさに感動しました。そして、いずれの日か、きっと、《パガニーニの主題による狂詩曲》やピアノ協奏曲第2番を聴かせてもらいたいと願っていました。《パガニーニの主題による狂詩曲》は昨年、ようやく聴かせてもらいました。最高の演奏でした。そして、今日、遂にピアノ協奏曲第2番です。そもそも、上原彩子はラフマニノフのスペシャリストと言ってもいいほど、協奏曲も独奏曲も素晴らしい演奏を聴かせてくれます。その根幹は熱い魂の燃焼です。ラフマニノフの何たるかのかなりの部分は彼女の演奏で教えられました。以前は特に独奏曲はどこがよいのか分からずにsaraiにとっては苦手だったんです。今やラフマニノフはsaraiの大好物です。
ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番はsaraiが高校生あたりで親しんでいた曲。映画音楽として、特に第3楽章を好んでいました。それ以降は第2番を聴くことは稀になり、もっぱら、第3番を聴いていました。何故か、ピアノの名手たちの録音も第3番に集中しています。今日の演奏を聴いて、第2番の素晴らしさをまた、上原彩子に教えられました。親しみやすいパートの盛り上がりだけでなく、難解そうなパートもすべて、超絶的なテクニックと音楽を超えた魂の燃焼で圧倒的にsaraiの心に迫ってきます。ピアノの分散和音に乗って、オーケストラが抒情的なメロディーを演奏し、興を高めた後にピアノがそのメロディーを引き継ぐところの素晴らしい雰囲気、そして、ピアノとオーケストラが真っ向からぶつかり合う圧倒的な高まり、ピアノが素早い動きのパッセージで官能的な音楽を演出する見事さ、挙げていけばきりのない様々なパートでの上原彩子の傑出したピアノ演奏に感動するのみでした。そして、その超絶的なピアノ演奏をサポートする原田慶太楼の丁寧極まりないオーケストラコントロールにも脱帽です。第3楽章の終盤のピアノとオーケストラの盛り上がりは身震いするほどの凄まじさでした。あらゆる意味で究極のラフマニノフでした。もっと言えば、ラフマニノフの音楽を土台にした上原彩子の魂の声に指揮者もオーケストラもそして、もちろん、聴衆も共鳴して、コンサートホールはひとつの有機生命体に融合した思いに駆られました。saraiはこんな音楽が聴きたかったんだと今更ながら、実感しました。音楽は耳で聴くのではなく、心の深いところで感じるものです。そして、孤独な魂が思いをひとつにして、心と心がつがって、あらゆる閾を取り払って、すべてを共有すること。saraiが理想とする音楽がここに実現した思いです。少し感傷的になり過ぎましたが、そう思わせるような上原彩子のメッセージを受け取りました。

次のチャイコフスキーのピアノ協奏曲も冒頭からスケールの大きな音楽を上原彩子は発します。ラフマニノフ以上に隅々まで熟知した音楽ですが、上原彩子のチャイコフスキーはやはり、熱く燃え上がります。音楽自体よりも魂の燃焼を感じる気配です。昨年、小林研一郎80歳(傘寿)記念&チャイコフスキー生誕180周年記念チャイコフスキー交響曲全曲チクルスで上原彩子の演奏を聴いたばかりで、あのときの演奏も凄かったのですが、今日はもっとバランスのよい演奏に思えます。暴走せずに節度のある魂の燃焼という風情です。それに自在にピアノを弾きまくる上原彩子を原田慶太楼が巧みに支えつつ、さらにエネルギーを付加していくという離れ業をやってのけています。フィナーレではとてつもないエネルギーの爆発という形で圧巻の音楽が完結しました。いやはや、ラフマニノフとチャイコフスキーの凄い演奏の2連発。上原彩子も疲れたでしょうが、聴く側も体力を使い果たしました。ぼーっとしている時間は1秒たりもありませんでしたからね。

アンコールはコバケンのときと同じ曲、チャイコフスキーの「瞑想曲」です。美しい演奏に疲れた心が癒されました。

今年はまだ2月ですが、これが今年最高のコンサートになることは決まったも同然です。というか、saraiの人生でもここまで素晴らしいコンサートは何回聴いたでしょう。一生、心に残るコンサートです。


今日のプログラムは以下です。


 上原彩子デビュー20周年 2大協奏曲を弾く!

  指揮:原田慶太楼
  ピアノ:上原彩子
  管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団 コンサートマスター:田野倉 雅秋

  グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
  ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 Op.18

   《休憩》

  チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 Op.23

   《アンコール》チャイコフスキー:『18の小品』より「瞑想曲」Op.72-5 ニ長調


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のグリンカの歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲を予習したCDは以下です。

 エウゲニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル 1965年2月23日 ライヴ録音

この曲だけは、ムラヴィンスキーとレニングラード・フィルのコンビで聴くしかないですね。完璧とはこのためにある言葉かと思ってしまいます。


2曲目のラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を予習したCDは以下です。

 スヴャトスラフ・リヒテル、スタニスラフ・ヴィスロツキ指揮ワルシャワ・フィル 1959年 セッション録音

リヒテルの剛腕、あるいは爆演が聴けるかと思っていたら、意外に冷静な演奏で素晴らしいラフマニノフを聴かせてくれます。


3曲目のチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を予習したCDは以下です。

 マルタ・アルゲリッチ、クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィル 1994年12月8-10日 ベルリン、フィルハーモニー ライヴ録音

チャイコフスキーを得意にするアルゲリッチの真打ちとも言える演奏です。やはり、ライヴの緊張感がいいですね。



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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《あ》さん、saraiです。

結局、最後まで、ご一緒にブッフビンダーのベートーヴェンのソナタ全曲をお付き合い願ったようですね。
こうしてみると、やはり、ベートーヴェン

03/22 04:27 sarai

昨日は祝日でゆっくりオンライン視聴できました。

全盛期から技術的衰えはあると思いましたが、彼のベートーヴェンは何故こう素晴らしいのか…高齢のピアニストとは思えな

03/21 08:03 

《あ》さん、再度のコメント、ありがとうございます。

ブッフビンダーの音色、特に中音域から高音域にかけての音色は会場でもでも一際、印象的です。さすがに爪が当たる音

03/21 00:27 sarai

ブッフビンダーの音色は本当に美しいですね。このライブストリーミングは爪が鍵盤に当たる音まで捉えていて驚きました。会場ではどうでしょうか?

実は初めて聴いたのはブ

03/19 08:00 

《あ》さん、コメントありがとうございます。
ライヴストリーミングをやっていたんですね。気が付きませんでした。

明日から4回目が始まりますが、これから、ますます、

03/18 21:44 sarai

行けなかったのでオンライン視聴しました。

しっとりとした演奏。弱音はやはり美しいと思いました。
オンラインも良かったのですが、ビューワーが操作性悪くて困りました

03/18 12:37 

aokazuyaさん

コメントありがとうございます。デジタルコンサートホールは当面、これきりですが、毎週末、聴かれているんですね。ファゴットのシュテファン・シュヴァイゲ

03/03 23:32 sarai
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