お目当てはピアニストの上原彩子。そして、オーケストラはプラハ交響楽団です。
上原彩子にショパンのピアノ協奏曲は何となく、似合わない感じですが、きっと、美しく弾いてくれるでしょう。今、ショパンのピアノ協奏曲で一番、聴いてみたいのはアヴデーエワですが、そのうちに機会はあるでしょう。
プラハ交響楽団というと、本拠地はプラハのスメタナホールです。今年の6月はプラハ訪問をするので、ドヴォルザークホールのチェコ・フィルか、スメタナホールのプラハ交響楽団を聴きたいと思って、日程を検討しましたが、全然、無理でした。6月はもう、シーズンオフです。その代わりと言っては何ですが、今回、プラハ交響楽団の来日公演を聴くことにしました。
さて、今回のプログラムは以下です。
ピアノ:上原彩子
指揮:ウカシュ・ボロヴィチ
管弦楽:プラハ交響楽団
ドヴォルザーク:スラヴ舞曲集
第9番ロ長調 Op.72-1
第10番ホ短調 Op.72-2
第8番ト短調 Op.46-8
ショパン:ピアノ協奏曲第1番ホ短調 Op.11
《休憩》
チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調 Op.64
《アンコール》
ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界から」第3楽章
まず、スラヴ舞曲の第9番。新春にふさわしい感じのポルカっぽい曲です。実際はスロヴァキアの民謡がベースになっている民俗的な軽快な舞曲です。チェコらしいオーケストラの響きを予想していましたが、芯のしっかりした安定した響きです。これがチェコの響きなんでしょうか。
次はスラヴ舞曲の第10番。スラヴ舞曲と言えば、これというぐらい、とても有名な曲で、ロマンチックで美しいメロディーはsaraiも昔から大好きな曲です。新春の名曲コンサートらしくなってきました。ボヘミアらしい演奏を期待していたら、意外にインターナショナルな綺麗な演奏です。それはそれでうっとりと聴けます。
最後はスラヴ舞曲の第8番。とても賑やかな曲です。第10番のような叙情的な曲のほうが好きですが、スラヴ舞曲はこの手の賑やかな曲が主流です。楽しくは聴けますけどね。
全体を通して、あまり、チェコのお国ものの演奏という感じは受けず、普通の演奏に聴こえました。しっかりした演奏ではありましたが・・・
いよいよ、お目当ての上原彩子の登場です。どんなショパンになるんでしょう。
第1楽章です。まずは長大なオーケストラの前奏が続きます。勇壮な第1主題に続き、夢見るような第2主題ですが、オーケストラのアンサンブルはもうひとつの感じです。そして、ピアノが入ってきます。なんだか、ポワーンとした音で、ちょっと拍子抜け。でも、次第にエンジンがかかってきそうな気配です。中間部あたりから、綺麗なタッチの音になってきます。特に独奏になると、美しい響きが聴き取れます。これに呼応したようにオーケストラのアンサンブルも一気によくなり、とても澄みきった響きを聴かせてくれます。この楽章は終わってみれば、格別に響きのよくなったオーケストラ、そして、上原彩子のピアノはまあ普通といったところでしょうか。
第2楽章です。上原彩子のピアノは音量は小さめですが、とても美しい響きで、繊細な演奏で、聴き応えがあります。うっとりとして聴き惚れます。ただ、これが最高のショパンかと言われると、もう少し、ショパンらしい節回しが欲しいところです。上原彩子がラフマニノフやプロコフィエフで聴かせてくれる輝きにも思える何かが足りない感じです。やはり、ショパンは相性がもうひとつなのかもしれません。上原彩子はこの叙情的な楽章でルパートをきかせた自在な演奏を聴かせてくれましたが、感心したのは、指揮者のボロヴィチが精一杯、それにオーケストラをつけようと努力していたことです。とても完璧とはいきませんが、それでも、結構、うまく合わせていました。考えてみれば、上原彩子は協奏曲をオーケストラと共演するとき、かなり、ずれずれになることがあります。上原彩子の演奏は天才的な自在な演奏ですが、それにオーケストラがついていけないことが多いんです。もちろん、責任は両者にあるわけですが、独奏者がオーケストラに合わせて、平凡な演奏をされるのも困ります。協奏曲の演奏は難しいですね。上原彩子以外の場合はあまり、感じないことなんですが、何故でしょう。ともかく、かなり、精度の高いオーケストラのコントロールを指揮者のボロヴィチがやれたということで、これはとても評価できることです。
第3楽章です。こういうダイナミックな曲は上原彩子の得意とするところで、第2楽章以上に、硬質のタッチの響きが素晴らしいです。テンポのノリもよいので、ピアノのオーケストラもほぼ、ぴったりと合います。演奏はこの第3楽章が一番、質が高かったと思います。
まあ、新春の名曲コンサートのショパンとしては、気持ちよく聴けました。最高の上原彩子とは思えなかったのは残念です。実はまた、5日後に今度はみなとみらいホールで同じものを聴くので、そのときはもっと、美しい演奏が聴けることを期待しましょう。
休憩後、今度はチャイコフスキーの交響曲第5番です。何故、チェコのオーケストラがチャイコフスキーかとも思いましたが、スラヴつながりでしょうか。チェコのオーケストラはロシアのオーケストラのような暗くて、重厚な重心の低い響きではありません。しかし、大変に熱い演奏で、チャイコフスキーへの傾倒も感じさせてくれます。この交響曲も大変な名曲ですが、その本質の近いところをきっちりと演奏してくれました。今回の曲目では、このチャイコフスキーの交響曲第5番の演奏が一番、よかったように思います。しかし、満足して聴きながらも、頭の奥底で何かが違うという違和感が残りました。自分でもそれが何なのかは明確に分かりませんが、演奏の熱さはともかく、演奏の精妙さが不足しているのではないかという感じです。別に荒っぽい演奏だというわけではありませんが、ちょっと、表面的に流れているというふうに感じました。この曲は演奏がそういうふうになりがちなのかもしれません。それはそれとして、第1楽章では、ふっと聴いていて、今、自分が聴いているのはブラームスなのかという錯覚も覚えました。これは響きがとてもよかったという、ほめ言葉です。第2楽章、冒頭のホルンの独奏の叙情的な旋律はとても素晴らしく、これはこの演奏の白眉でした。それに引きずられるように第2楽章の美しかったこと、最高の演奏でした。と書けば、やはり、なかなか、いい演奏だったのかもしれません。
アンコールは「新世界から」の演奏が始まり、虚をつかれました。これは今日、最高の演奏でした。こんな切れ味の鋭い演奏を聴いたのは初めてです。第3楽章以外も聴きたくなります。それは5日後のみなとみらいホールで聴けます。楽しみです。
今年初めてのコンサートはアンコールが素晴らしかったので、よいスタートが切れたと思います。今年も音楽の楽しみが全開です。
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