いやあ、音楽の世界はクラシック音楽も邦楽も垣根はないことを痛感しました。とても素晴らしいリサイタルで、まさに感動しました。
名人のピアニストのリサイタルを聴いたのと同質の感動です。
特に配偶者はいつになく、感動したようで、リサイタル終了後、演奏者の近くに寄って、賛辞を送り、握手をしてもらっていました。これって、いつもはsaraiがやることなのに、すっかりとお株を奪われてしまいました。
さて、今回のプログラムは以下です。
箏・歌・三弦:後藤すみ子
助演(尺八):三橋貴風
助演(箏・一七弦):高畑美登子
八橋検校:みだれ 箏独奏
宮城道雄:春の海 箏、尺八
三木稔:絃(いと)の春秋 三弦、箏
《休憩》
宮城道雄:秋の調 箏・歌、尺八
宮城道雄:瀬音 箏、一七弦
宮城道雄:手事 箏独奏
《アンコール》
宮城道雄:手事より、第3楽章.輪舌
最初は、日本音楽の頂点に立つ名曲の《みだれ》です。どういうテンポでの演奏になるかと思っていたら、少し、ゆったりめのテンポで幽玄の世界が表現されます。糸の弾き方もそれほど強くなく、典雅で上品な演奏です。若手の演奏家はもっと、ばりばりと弾くでしょうが、こういう枯れた演奏も好きです。それでも、段が進む(《みだれ》は10段まであります)につれて、急テンポになり、爽快な演奏です。さすがに正統的な演奏で、この曲の名曲たる所以を余すところなく、弾ききってくれました。
次は日本人なら誰でも知っている《春の海》。箏、尺八、共にかなり抑えた演奏で、地味な演奏です。まあ、派手に弾き過ぎると、下品になってしまうので、頃合いが難しいところですね。玄人好みの演奏と言っておきましょう。
次は楽しみにしていた三木稔の《絃の春秋》です。まったくの初聴きで、三弦と箏の2重奏曲であることも、この会場で知った始末です。それでも、楽しみにしていたのは、現代日本音楽界でsaraiがもっとも敬愛していた三木稔の作品が聴けるからです。1昨年暮に亡くなった三木稔への追悼の気持ちも込めて、じっくりと鑑賞しましょう。
箏のパートは如何にも三木稔らしい、気品のあるメロディが弾かれます。半音も多用しますが、調性を感じる曲です。後藤すみ子の弾く三弦は少し、戸惑いながら、聴きます。考えてみれば、三木稔の三弦の作品はこれまで聴いたことがありません。この三弦の響きが、箏のパートと微妙に融合しない感じです。よく聴くと、三弦の響きは決してメロディアスではなく、時として、調性から外れる感じです。ある意味、少し、調子っぱずれな感じが三木稔の狙いなんでしょう。邦楽の世界に新しい響きをもちこもうとした実験的・意欲的な作品です。そして、それが成功しているか、どうかは、これだけでは、saraiには判断できません。それでも、最後には、この独特な響きの音空間に違和感を抱かないようになったのも事実です。この路線で三弦の独奏曲を聴いてみたいものです。そういう曲って、あるんでしょうか。
ここまでが前半で休憩にはいります。前半を聴いた感じでは、さすがに80歳を超えた後藤すみ子は枯れた演奏スタイルになったのかなという印象でした。実はそれはまったく間違っていました。後半の演奏の美しさ、凄まじさは予想を超えて、素晴らしいもので、圧倒的な力を持っていました。
後半はすべて、宮城道雄の傑作ばかりで、また、難曲でもあります。
saraiが若い頃から大好きな《秋の調》からスタートです。これは実に見事な演奏で、この日の白眉でした。箏の粒立ちのよい響き、尺八の滑らかな美しい響き、そして、何よりも、後藤すみ子の美しいソプラノの声・・・これらがアンサンブルとして、ぴたっと決まり、究極の美の世界を織りなします。もう、演奏の間、感動しっぱなしでした。これほどの演奏はクラシックのリサイタルでも滅多に聴くことはできません。この演奏を聴けただけでも、このリサイタルに足を運んだ甲斐がありました。すっかり、気持ちが高揚してしまいました。季節は今、冬ですが、心は秋の侘しさにひたりきりました。歌詞は以下のとおりです。
秋の日のためいきに、落葉とならば、河にうかびて、
君が住む宿近く、流れていこうよ、流れていこうよ
ふけてゆく秋の夜の、こほろぎとならば、草の葉かげに、
君が住む窓近く、夜すがら鳴こうよ、夜すがら鳴こうよ
次も名曲《瀬音》です。箏の奏でる切れのよい響きに心が浮き立ちます。実に高揚感のある演奏を気持ちよく、聴けました。見事です。
最後は《手事》です。これは3楽章からなる、箏独奏のためのソナタです。第1楽章はソナタ形式ですが、かなり自由な形式のソナタ形式です。流麗な演奏です。さしずめ、アレグロっていうところでしょうか。第2楽章は緩徐楽章で、ゆったりと箏独奏の響きが心を癒すかのようです。これはアダージョですね。そして、第3楽章が聴かせどころです。箏の特性を活かしきった疾風怒濤のような曲です。リサイタルをしめくくるのにぴったりの曲ですが、演奏上、難曲であることは間違いありません。これはプレストで見事に弾ききってくれました。
何という素晴らしいリサイタルだったことでしょう。特に後半の音楽的充実度は恐ろしいほどでした。盛大な拍手を送り、再度、アンコールで最後に演奏した《手事》の第3楽章を弾いてもらえました。きっと、お疲れだったと思いますが、本編以上に気合のこもった素晴らしい演奏にすっかり、酔いしれてしまいました。
リサイタルの後は、saraiと配偶者、そして、一緒にリサイタルを聴いた、2組のお友達夫妻と楽しいディナーを楽しみました。上大岡のフランス料理店ル・パンです。料理もさることながら、店主の女性の奏でるチェンバロの演奏、それもバッハのパルティータはなかなか楽しめました。かなりのバッハ好きの女性でした。こちらのお店でバッハの生演奏を聴きながらの食事もお勧めです。
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