先週聴いた
ハイティンク指揮ロンドン交響楽団のブルックナー:交響曲第9番は最高のブルックナーでした。鮮烈な記憶を刻み、まだ、その余韻に耽っています。しかし、来月の5日、7日はアムステルダムのコンセルトヘボウで、
ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団でブルックナーのもう一つの大曲の交響曲第8番を聴く予定です。交響曲第9番の余韻も消えませんが、今度は交響曲第8番をまとめて、予習することにします。
交響曲第8番と言えば、チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルの3大ライブ(ミュンヘン、東京、リスボン)が強烈な印象です。それについては、
ここに書きました。その記事のなかで、チェリビダッケ以外の気に入った演奏のCDについても触れています。それは以下のものです。
ヨッフム、シュターツカペレ・ドレスデン
ジュリーニ、ウィーン・フィル
ヴァント、ケルン放送交響楽団
ハイティンク、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
クナッパーツブシュ、ミュンヘン・フィル(1962)
ヨッフム、ベルリン・フィル(シュターツカペレ・ドレスデンと同程度に評価)
ヴァント、ベルリン・フィル(ケルン放送交響楽団と同程度に評価、北ドイツ放送交響楽団は今一つ)
これ以外も名盤と世評に高いものは、ほぼ聴いてきました。例えば、シューリヒト指揮ウィーン・フィルとか、ヴァント指揮ミュンヘン・フィルとかです。
その上で、
ハイティンクのブルックナー:交響曲第8番のCDをまとめて聴いてみます。
ハイティンクの交響曲第9番は正規盤はロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の2枚しか出ていませんが、交響曲第8番は正規盤だけで5枚も出ています。以下に一覧を示します。3と7は非正規盤です。
1.1969.9.1-3. コンセルトヘボウ管(全集) 73:31 13:57,13:33,25:17,20:44
2.1981.5.25-26. コンセルトヘボウ管(デジタル録音) 84:56 15:59,16:00,29:08,23:49
3.1989.08.22. ECユース管 88:15 17:15,15:21,30:09,25:17
4.1995.01. ウィーン・フィル 83:16 16:48,15:04,27:26,23:47
5.2002.12.03. シュターツカペレ・ドレスデン(ライブ) 84:30 16:23,15:15,27:49,24:47
6.2005.2.18,20. コンセルトヘボウ管(ライブ) 85:45 16:40,16:05,28:01,24:31
7.2007.08.24. コンセルトヘボウ管(proms、ライブ) 82:38 15:59,15:05,26:34,24:37
右の数字は演奏時間で、合計時間と各楽章(第1楽章~第4楽章)の演奏時間です。
また、ブルックナーの場合、どの版で演奏したかが問題になります。特に交響曲第8番は版によって、著しい違いが生じます。
ハイティンクはずっと、ハース版を用いていました。ハース版はブルックナーの最終稿をもとに、それ以前の版から、多くの部分を補足したものです。それがブルックナーの意向に最も沿ったものであると判断したのではないかと思われます。ヴァントも一貫して、ハース版を用いていました。
しかし、ハイティンクは突如、2007年以降、ノヴァーク版(第2稿)に変更しました。正規盤では、まだ、このノヴァーク版による演奏は出ていません。上記のリストでは、7の非正規盤がノヴァーク版です。多分、来月のコンサートもノヴァーク版になると思われます。ノヴァーク版はハース版で補足された部分を削除して、ブルックナーの最終稿をそのまま採用したものです。版の違いが多いのは第3楽章と第4楽章です。第3楽章はハース版が301小節に対して、ノヴァーク版が291小節と10小節少なくなっています。第4楽章はハース版が747小節に対して、ノヴァーク版が709小節と38小節少なくなっています。基本的には、ノヴァーク版はすっきりスリムになっています。チェリビダッケはノヴァーク版を用いていました。
今回、聴いたのは正規盤5枚(1、2、4~6)です。7のノヴァーク版も入手済みなので、聴いてみた後に本記事に感想を追加します。
まず、1のコンセルトヘボウ管です。これはハイティンクが1963年から1972年にかけて完成させたブルックナー交響曲全集の中の1枚です。実は日本語説明書には、交響曲第8番は1960年録音と明確に記されていますが、各種情報によると、これは誤りで1969年録音が正しいようです。ハイティンクが40歳でコンセルトヘボウ管の音楽監督になって、5年ほどのときです。基本的には、以前書いた交響曲第9番(1965年)と同様に非常に若々しい勢いのある演奏です。演奏時間をみると、とても速い演奏なのが分かりますが、実際、第2楽章と第4楽章は快速です。一番、快速だったシューリヒトに比べると、第3楽章が少し遅いですが、それ以外は同等の速さです。交響曲第9番(1965年)に比べると、完成度の高い演奏で、十分、納得のいく演奏です。演奏の魅力で言えば、より若々しい演奏だった交響曲第9番(1965年)に軍配が上がります。
次に、2のコンセルトヘボウ管です。全集完成後の第7番~第9番の再録音の1枚(実際はCD2枚)です。タワーレコード限定の4枚組CDに含まれています。廃盤になっていたCDです。これは堂々たる演奏で、素晴らしい演奏です。最初の録音から12年経ち、ハイティンク52歳、脂の乗り切った時期で、既に巨匠の風格をただよわせる名演です。演奏時間も10分以上長くなり、スケールが大きく、ディテールまで磨き上げたもので感銘を受けました。同年に録音した第9番も名演でした。このときにはハイティンクはブルックナー演奏の大家になっていました。
次に、4のウィーン・フィルです。前回の録音から14年経ち、ハイティンク65歳。コンセルトヘボウ管の音楽監督を辞任し、フリーのような立場になっていました。前回からずい分、時が過ぎましたが、これも基本的には、2のコンセルトヘボウ管と同様のスタイルの演奏です。既にハイティンクの交響曲第8番は完成の域に達していました。違いと言えば、オーケストラとホールです。この演奏はウィーン楽友協会の響きも相まって、ウィーン・フィルならではの柔らかい響きに魅了されます。第3楽章の美しさは格別です。ザンクト・フローリアンの丘の美しい草原に花々が咲いているかの如くに感じます。
次に、5のシュターツカペレ・ドレスデンです。ウィーン・フィルとの録音から7年、ハイティンク73歳。シノーポリの急死を受け、ハイティンクはシュターツカペレ・ドレスデンの首席指揮者(音楽監督は固辞)を引き受けていました。つまり、当時、シュターツカペレ・ドレスデンは彼の手兵だったわけです。この演奏も1981年のコンセルトヘボウ管で確立したスタイルと同様の演奏ですが、見事なライブ録音です。ゼンパー・オパーの長い残響を感じながら、シュターツカペレ・ドレスデンの重心の低い重厚なドイツのオーケストラの響きに引き込まれてしまいます。特に、第4楽章は迫力は圧倒的です。ザンクト・フローリアンの森の自然の中にいるかの如くに感じ入ります。このCDがハイティンクのベストCDです。チェリビダッケの強烈な個性は大好きですが、それを別とすれば、このCDが交響曲第8番のベストです。
最後に、6のコンセルトヘボウ管です。実に3回目になるコンセルトヘボウ管との録音です。前回のコンセルトヘボウ管からは24年経ち、ハイティンクも75歳。押しも押されぬ巨匠です。大変、期待しました。しかし、演奏自体は素晴らしいのですが、何故か、心に響いてきません。生まれ育った古巣のコンセルトヘボウ管とは言え、客演の立場。そんなことも関係するんでしょうか。
ブルックナー:交響曲第8番のCDをまとめ聴きして、ハイティンクのブルックナーの自然で実直な演奏の素晴らしさをさらに感じました。生で聴くのがますます楽しみになってきました。
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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽