なお、予習に向けての経緯はここ。
交響曲第1番についてはここ。
交響曲第2番についてはここ。
交響曲第3番《英雄》についてはここ。
交響曲第4番についてはここ。
交響曲第5番《運命》については1回目はここ、2回目はここ、3回目はここ。
交響曲第6番《田園》については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ。
交響曲第7番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここ、5回目をここ、6回目をここ。
交響曲第8番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ。
交響曲第9番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここに書きました。
(全予習が完了したので、全予習へのリンクを上記に示します。参考にしてくださいね。)
今回は交響曲第6番ヘ長調《田園》Op.68の3回目、ウィーン・フィルのCDのうち、1970年以降のものを聴いていきます。
では、録音年順に感想を書いていきます。
ベーム 1971年録音
全集盤からの1枚です。
第1楽章、無理のない自然な表現で美しい表情の音楽を聴かせてくれます。
第2楽章、美しいですが、渋めの表現です。これがベームの持ち味でしょう。
第3楽章、アクセントのはっきりした、きっちりした表現。歯切れのよい音楽が展開されます。
第4楽章、緊迫感があり、強烈な響き。凄まじい表現です。
第5楽章、解き放たれたような美しい響きにあふれた音楽。ベームがこんなに歌わせるとは驚きです。見事な演奏に感銘を受けました。
ベーム 1977年録音
全集盤から6年後、来日公演のライブ録音です。
第1楽章、盛大な拍手の後、さりげなく、平静な音楽が始まります。全集盤に比べて、より自然な演奏です。そして、何よりも美しい!
第2楽章、美しく、そして、しみじみとした味わいがあります。この味わいは6年前の全集盤にはなかったものです。
第3楽章、無理のない明快な演奏です。
第4楽章、激しく強烈な音楽。
第5楽章、美しく広がりのある表現で気品さえ感じさせられます。最後まで神経の行き届いた演奏が続きます。
この日の演奏は第5番といい、ベームの到達した晩年の境地を示す素晴らしいものです。ベームはこの来日公演の4年後に亡くなりました。(誤って、2年後の1979年に亡くなったと書いてしまい、識者のかたから、1980年に最後の来日後、1981年に亡くなった事実の指摘をいただきました。お礼を申し上げます。)
バーンスタイン 1978年録音
第1楽章、ふわっとした温かみのある演奏。ウィーン・フィルとともにベートーヴェンの音楽を演奏するバーンスタインの喜びが感じられます。聴いているこちらまで幸福にしてくれるような感じです。実に美しい演奏ですが、この演奏には音楽を超えた何かがあります。
第2楽章、ここでは第1楽章で感じた幸福感は心の平安・やすらぎといった優しいものに変容していきます。ゆったりと身を委ねておくだけで心が解放されていくのを感じます。
第3楽章、楽しげな雰囲気。誰も一人ではなく、皆と集っている楽しさです。
第4楽章、急に激情が襲ってきます。闘争心とも言えるもの。これまでの静的な気持ちの裏返しですね。
第5楽章、美しい抒情に身が染まっていきます。肯定的な気分に満たされて、次第に気持ちが静かな高揚に至っていきます。人生はやはり美しいものです。しみじみとした気持ちの中、曲を閉じていきます。
決して、超人的な演奏ではなく、あくまでも人間味あふれる演奏。曲の本質を突いた超名演。
アバド 1986年録音
第1楽章、ロマンチックで美しい抒情に満ちた音楽。ロマン派のメンデルスゾーンを想起させられます。それにしても実に美しい響き、じっと聴き入ってしまいます。
第2楽章、懐かしい感情を呼び起こすリリックな音楽。
第3楽章、後半は溌剌としています。弦楽合奏の充実した響きが印象的です。
第4楽章、トゥッティの分解のよい美しい響きが素晴らしいです。演奏も録音も両方とも完璧です。
第5楽章、これは艶やかな美しい演奏。憧憬に満ちた音楽です。
全体を通して、実に美しい演奏です。こんなに美しい演奏はほかにはないほどです。
ラトル 2002年録音
第1楽章、ラトルにしてはゆったりのテンポ。そして、優美な演奏。この曲には自然体で臨んだと思われます。それも一つの識見でしょうね。ラトルも色んな引き出しを持っているということです。室内オーケストラを思わせるピュアーな響きが素晴らしいです。郷愁さえも感じさせられます。
第2楽章、この楽章も第1楽章と連続性のある抒情的な演奏。優しい響きが聴こえてきます。
第3楽章、明確な輪郭線の描かれた表現。雄渾でもあります。
第4楽章、実に歯切れの良いダイナミックな表現。
第5楽章、高弦の冴え冴えとした美しい響きが何とも素晴らしい。アバドと同じく、ロマン性を全面に打ち出した表現というのも興味深いところです。とても美しい演奏です。
ティーレマン 2010年録音
もちろん、これを聴くのが目的! これを最後に聴きます。
第1楽章、1フレーズ、1フレーズ、丹念に細かい表情を付けた、一瞬、一瞬のタメの多い演奏。この演奏に賛否はあるでしょうが、聴いていて面白いことには間違いないでしょう。これがティーレマン流でしょうか。懐の深さも感じます。聴いていると、いつの間にか引き込まれてしまう演奏です。
第2楽章、ゆったりとしたテンポで、少しテンポのゆらしもありますが、それほど目立つものでもありません。朴訥な音楽が淡々と進んでいくという印象。割と正攻法の表現だと感じます。
第3楽章、ほとんどインテンポで柔らかい表現です。
第4楽章、それほどは爆発しない節度のある表現です。
第5楽章、主題がクレッシェンドしながら、大きくふくらんでいく大柄な表現。馥郁とした音楽になっています。終盤で大きくテンポを落としていく、スケールの大きな表現は聴きものです。
これで17枚のCDを聴き終わりました。どの演奏にも満足です。ワルター、トスカニーニ、フルトヴェングラーという巨匠はさすがの名演。ハイティンク、クーベリックも素晴らしい名演。
また、ウィーン・フィルの演奏は素晴らしい演奏ばかりでした。ベーム、バーンスタインは超名演。アバド、ラトル、そして、ティーレマンも見事な演奏です。
最後に肝心のティーレマンのベートーヴェン・チクルスの聴きどころです。
1.全体にテンポがゆったりなので、どう細かくテンポを揺らしていくかが興味の尽きないところです。
2.ウィーン・フィルの弦の美しさをどう引き出していくのかも聴きものです。
3.第4楽章でどれほど爆発してくるかもよく聴いておきたいところです。実演は一発勝負なので、ティーレマンの即興性の幅の大きい演奏は楽しみが尽きません。
次は交響曲第7番です。これはsaraiの大好きな曲なので、かなり力が入ります。5回シリーズくらいに拡大しそうです。ただし、明日からはハーゲン・カルテットのベートーヴェン・チクルスも始まるので、第7番の掲載はしばらく後になりそうです。
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