前期シリーズについては1日目はここ、2日目はここ、3日目はここをご覧ください。
今日は初期の作品18の6曲の中からの2曲と後期の第12番です。ともかく、この第12番の素晴らしかったこと、大変、感動しました。今回のチクルス、前期シリーズでも後期(第16番、第15番)は素晴らしい演奏で、ハーゲン・カルテットの後期作品にかける思いが結実したのでしょう。後期の作品の演奏は大変な充実度です。前のほうの席に座ったので、彼らの楽譜が見えましたが、初期の作品の楽譜に比べて、第12番の楽譜はずい分使い込まれた様子で生半可ではない練習の跡が見て取れました。徹底的な厳しい練習なしには、こういう素晴らしい演奏はないのですね。
もちろん、事前に予習したブッシュ四重奏団、ブダペスト四重奏団も大変、感動的な演奏でした。が、それぞれ、趣きが異なっており、比較して、どちらが上というものでもありません。それに現実にそれらの生演奏が聴けるわけではありません。現役では、このハーゲン・カルテットとエマーソン・カルテットがsaraiにとっては双璧の存在です。予習にあたって、この後期はブッシュ四重奏団、ブダペスト四重奏団、そして、エマーソン・カルテットの順に聴くことにしました。その理由はブッシュ四重奏団の第1ヴァイオリンのアドルフ・ブッシュの物悲しくもある響きを聴いてしまうと、どの演奏を聴いても物足りなくなることと、ブダペスト四重奏団の後期作品の演奏のあまりの充実度のため、耳逆らいが起きてしまいそうだからです。当日の予習にエマーソン・カルテットの演奏を選びましたが、比較的、ハーゲン・カルテットと演奏スタイルが近いために、幸い、耳逆らいは起きませんでした。作戦成功です。
今日のプログラムは以下です。
弦楽四重奏曲第3番ニ長調Op.18-3
弦楽四重奏曲第5番イ長調Op.18-5
《休憩》
弦楽四重奏曲第12番変ホ長調Op.127
まず、第3番。この曲は番号は3番ですが、実際はベートーヴェンが作曲した最初の弦楽四重奏曲です。しかし、作品番号の18で分かるように周到な準備期間を経て、作曲されたものです。それでも、ハーゲン・カルテットの前期シリーズでは、初期の作品はあまりにさらっとした演奏で物足りなさもありましたので、かなり、心配しながら聴き始めました。結果的にそれは杞憂に終わりました。これがあの第3番かと驚くほどの充実した演奏。特に第1楽章の第1主題の美しい演奏、最初のレガートのかかった優美な表現、そして、スタッカートのかかった歯切れよい激しい表現。冒頭から、いきなり魅了されます。俗に言うモーツァルトの作品の後追いではなく、ベートーヴェンの精神世界の萌芽が十分に聴き取れる充実した演奏が続きます。第4楽章の迫力は大変なもので、興奮させられました。ハーゲン・カルテットのベートーヴェン弦楽四重奏曲チクルスの後期シリーズ、好調な滑り出しになりました。
次は第5番。これも第3番同様にとても美しい演奏です。ですが、何か、もうひとつ物足りない感じです。しかし、第3楽章のアンダンテだけは変奏曲がとても美しくて、納得の演奏でした。やはり、ベートーヴェンは初期でも変奏曲となると、聴き入ってしまうほどの素晴らしさです。
休憩後、期待の第12番。冒頭の和音から、気魄の演奏。力が入り過ぎて、響きの透明さが損なわれるほどですが、ここは魂のこもった演奏に納得です。第1主題は美しい演奏に落ち着きます。フレーズごとに実に細かい表情が付けられていて、繊細さに満ちた演奏。聴いているsaraiの聴感が研ぎ澄まされる思いです。一音も聴き逃せないほどの集中を要求されます。そして、圧巻だったのは第2楽章のアダージョです。これこそ、ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲の真骨頂。この素晴らしい変奏曲、ハーゲン・カルテットは圧倒的に素晴らしい響きで迫ってきます。終始、saraiは静かな感動で涙が滲むほどです。大きな高揚でこの楽章も終わり、おもわず、ため息をついてしまいます。第3楽章、第4楽章と激しい迫力の演奏に鳥肌がたちます。特にユニゾンの迫力は凄まじいものです。大きな感動の中、コーダ。こんな演奏が聴けて、幸福でした。
明日は最大の期待、傑作中の傑作、第14番です。このチクルスでのハーゲン・カルテットの後期作品の素晴らしい演奏を思えば、とてつもない演奏が聴けそうです。期待感が大きくて、明日の演奏会が待ち遠しくてたまりません。
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