表題の通り、バッハの天才ぶりをまざまざと実感するリサイタルでした。ツィンマーマン(ヴァイオリニストの方)はそのバッハを美しく、そして、誇張することもなく、見事に表現。今日のリサイタルはチェンバロではなく、ピアノとの協演でした。ピアノよりもチェンバロのほうが華やかな響きだったでしょうが、ピアノのこもりがちな響きがヴァイオリンのピュアーな響きを引き立てて、かえって好感が持てる演奏でした。
今日のプログラムは以下です。
ヴァイオリン:フランク・ペーター・ツィンマーマン
ピアノ:エンリコ・パーチェ
ヨハン・セバスティアン・バッハ
ヴァイオリンとピアノのためのソナタ全曲
第1番ロ短調BWV1014
第2番イ長調BWV1015
第3番ホ長調BWV1016
《休憩》
第4番ハ短調BWV1017
第5番ヘ短調BWV1018
第6番ト長調BWV1019
《アンコール》
第6番ト長調BWV1019a(第6番初稿)より、第4楽章
まず、第1番。第1番から第5番までは、緩急緩急という4楽章の教会ソナタ形式です。第1楽章は短調の少し悲しげなメロディーの美しさに心が清められる思いです。第2楽章は一転して、活発な楽想に愉悦に浸って、心が躍ります。なかなか、好調な滑り出しです。
第2番。緩徐楽章の第3楽章は実に見事な演奏。うっとりと美しいメロディーに陶酔します。活発な第4楽章はまたしても、愉悦に浸る心楽しい演奏です。
第3番。この演奏がこの日の白眉でした。第3楽章の余りの美しさに心が耐え切れないほどの思いです。バッハの真髄を堪能させてもらい、天にも昇る心地。第4楽章は躍動する音楽に心が高揚。なんて素晴らしい音楽、そして、演奏。
休憩後、第4番。第1楽章の主題は、「マタイ受難曲」中、最高の名曲の名曲の第47曲(旧版の番号)のアルトの素晴らしいアリア、エルバルメ・ディッヒ、マイン・ゴット(憐れみたまえ、我が神よ)のオブリガート・ヴァイオリンの旋律と親近関係にある旋律です。
当然、うっとりとした演奏を期待しますが、ツィンマーマンは無情にも、速いテンポでさらっと弾きます。もしもsaraiがヴァイオリンを弾けたら、ぐっと感情を込めて弾きたいところですが、これがツィンマーマンの解釈なんですね。まあ、この曲が「マタイ受難曲」じゃないし、仕方ありません。第2楽章、第4楽章というアレグロの楽章に力点が置かれた演奏で、それはそれで素晴らしい演奏です。
第5番。これも第2楽章のアレグロ、第4楽章のヴィヴァーチェという速い楽章の演奏が見事。緩徐楽章の第3楽章のヴァイオリンの重音による和音のシンプルな進行も妙に心に響いてきました。
第6番。これは第5番までの緩急緩急という4楽章の教会ソナタ形式とは異なり、5楽章構成で第1楽章はアレグロという斬新なものになっています。また、中央の第3楽章はピアノ独奏になっています。全体にピアノが活躍する曲で、ピアノのパーチェの優れた演奏が目立ちました。第4楽章、第5楽章とヴァイオリンの響きもよく、圧巻のフィナーレになりました。
これで当然、お終いと思っていたら、何とアンコール曲が演奏されました。耳慣れない曲でしたが、これは珍しい第6番の初稿の第4楽章のアダージョ。初稿では、第3楽章と第4楽章が別のものであり、現在はBWV1019aとして、残されています。最終版の第6番BWV1019は、バッハが新たに現在の第3楽章(ピアノ独奏)、第4楽章、第5楽章を作曲しました。初稿では、第4楽章の後は第1楽章を繰り返す形だったようです。アンコールで演奏されたアダージョも美しい演奏でした。ところが、このアダージョは第4楽章で最後は半終止で終わります。本来は次の楽章、繰り返しの第1楽章に続くところです。ツィンマーマンはここで悪戯っぽく、目をきょろきょろさせます。聴衆もここで終わるのか、続くのか、様子を見ていましたが、笑いが起きて、ここでお終い。まさか、また、第1楽章を演奏するわけにはいきませんものね。残念・・・。
今日の聴衆の素晴らしさにも言及しておかないといけないでしょう。演奏者の登場前、まだ、客席の明かりが暗くなる前から、シーンと静まり返っています。これから始まる音楽への期待感を聴衆全員で共有。聴衆はヴァイオリンを弾く人が半分、バッハを愛する人が半分という構成のように感じられます。演奏者、聴衆、一体になった気持ちのよいリサイタルでした。
最後になりましたが、今回の予習について、述べておきましょう。定番中の定番、シェリングとヴァルヒャのヴァイオリンとチェンバロの録音を聴きました。これは素晴らしい演奏。やはり、チェンバロはいいです。アナログ・ディスクの数少ない所有盤で聴きましたが、実に美しい音です。これはsaraiの宝として自慢できますよ。
ただ、この予習で終えたら、今日のリサイタルのピアノに不満を持ちそうなので、ツィンマーマンとパーチェのDVDを聴いておきました。Kloster Pollingの図書室での演奏で画面もとても美しいものでした。
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