今回はティーレマン+ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲チクルスの第4日(11月17日(日):交響曲第8番、第9番)のプログラムについて、聴きます。
なお、予習に向けての経緯はここ。
交響曲第1番についてはここ。
交響曲第2番についてはここ。
交響曲第3番《英雄》についてはここ。
交響曲第4番についてはここ。
交響曲第5番《運命》については1回目はここ、2回目はここ、3回目はここ。
交響曲第6番《田園》については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ。
交響曲第7番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここ、5回目をここ、6回目をここ。
交響曲第8番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ。
交響曲第9番については1回目をここ、2回目をここ、3回目をここ、4回目をここに書きました。
(全予習が完了したので、全予習へのリンクを上記に示します。参考にしてくださいね。)
今回も交響曲第9番ニ短調 Op.125について聴いていきます。
今回はウィーン・フィルの演奏の6枚を聴きます。
以下、録音年順に感想を書いていきます。
シュミット・イッセルシュテット 1965年録音
全集盤からの1枚です。
第1楽章、素晴らしい響きの演奏を堪能。量感のたっぷりした演奏に満足。気持ちよく聴けます。ここぞというところの気魄のこもった表現も素晴らしいです。特に終盤の緊迫感に満ちた演奏には強く引き込まれてしまいます。
第2楽章、ここはウィーン・フィルの引き締まった美しいアンサンブルが聴きものです。
第3楽章、とても美しい演奏にうっとりと聴き惚れてしまいます。非常に精神性も高い、素晴らしい演奏です。今更ながら、シュミット・イッセルシュテットは凄い指揮者だったんですね。このアダージョでここまでの演奏をするとは思ってもいませんでした。考えてみれば、この世代の指揮者は間近にフルトヴェングラーの演奏を聴く機会も多く、その薫陶・影響を受けてきたのかもしれません。もちろん、ウィーン・フィルの団員も12年ほど前にはフルトヴェングラーの指揮で演奏していたわけですから、しっかり、その音楽が頭に刻み付けられていたでしょうしね。これはフルトヴェングラーの遺産とも言える演奏なんでしょう。
第4楽章、冒頭から素晴らしい響きです。「歓喜」の主題は美しい録音です。そして、美しい演奏で聴けるのは格別の喜びに感じます。タルヴェラ(バス)のたっぷりした美声の独唱は見事。4重唱は豪華な歌手陣ですが、少し、固い歌唱に思えます。特にサザーランドはもっと伸びやかに歌ってもらいたかったところです。ジェイムズ・キング(テノール)の独唱は張りのある声で素晴らしいです。大合唱の「歓喜」の主題は素晴らしい響きです。続く合唱も美しさの極致、いや、素晴らしい! 終盤の4重唱は素晴らしいです。サザーランドも柔らかく美声を発揮しています。フィナーレは圧倒的です。
ベーム 1970年録音
全集盤からの1枚です。
第1楽章、力強く、美しい開始。そのまま、輝かしく、重厚な演奏が続きます。十分な気魄が感じられます。一瞬の隙もない演奏です。緊張感を持続したまま、コーダ。
第2楽章、力強く堂々としたスケルツォ。中間部も弛緩せずに緊張感のある演奏です。
第3楽章、ウィーン・フィルの演奏はまことに美しいです。ロマンと抒情に満ち溢れています。少し、内面性に欠けるきらいもありますが、それを補って余りある美しい響き。感動するというよりもうっとりとして聴く感じです。
第4楽章、低弦の朗々とした響きに誘われて、音楽が進行していきます。リッダーブッシュ(バス)の独唱は実に力強くて素晴らしいです。4重唱はさすがにギネス・ジョーンズの力強い歌声が素晴らしいです。ジェス・トーマスの力感あふれるテノール独唱もよいです。エネルギーに満ちた弦楽合奏も素晴らしいです。合唱はシュターツオーパー合唱団の響きが素晴らしいですが、何かテンポ感が自分に合わず、ゆったりし過ぎの感じです。終盤の4重唱はギネス・ジョーンズがますます素晴らしいです。爆発的なエネルギーの噴出するフィナーレも圧巻です。
バーンスタイン 1979年録音
全集盤からの1枚です。
第1楽章、気魄に満ち、輝かしく、タメの聴いた演奏です。一瞬一瞬の表情の変化が素晴らしいです。さすがにバーンスタイン渾身の演奏。よくよくスコアを読み込んだと思われる納得の演奏です。知的でかつ、情熱的な凄い演奏です。
第2楽章、バーンスタインお得意のリズミックな演奏。これぞスケルツォという感じのノリノリの演奏です。中間部も実に明快な演奏。こういう演奏もあるのかと目を開かせられる思いです。
第3楽章、自分の内面に何かを問い掛けるような、そして、何かを祈るような複雑な音楽です。そういう思いを振り払うように内面での葛藤が続きます。やがて、カタルシスに至ります。みな、自分に向かい合って、生きていかねばならない。そして、己の信じた道を進んでいくんだ・・・そんな風に優しく、語りかけてくれるような音楽です。これは彼のヒロイズムなのでしょう。彼だけの音楽観を持ったバーンスタイン。やはり、20世紀を代表する芸術家だったことをまた再認識させられました。これは聴き手を勇気づけ、励ましてくれる愛の音楽です。ヒューマンな音楽に静かに感動しましょう。
第4楽章、ヒューマンな愛の音楽に続き、ダイナミックな愛のメッセージが始まります。これまでの第1楽章から第3楽章までを否定するのではなく、すべてをアウフヘーベンして、もっと高みをめざそうというメッセージです。バーンスタインが描き出すのは、歓喜の歌ではなく、愛と共感の歌です。あふれる思いが高らかに管弦楽で高らかに歌い上げられます。続いて、クルト・モルが哲学的とも思える声で厳粛に独唱。4重唱では、ギネス・ジョーンズが輝きを放ちます。シュターツオーパー合唱団のコーラスも感動的です。素晴らしい!! ヘルデン・テノールのルネ・コロの独唱も素晴らしいです。管弦楽のみで演奏されるフガートでは、弦楽合奏の清々しく力強い響きに魅了されます。見事な演奏です。最高です! 大合唱の歌う「歓喜」の主題は何て素晴らしいんでしょう。合唱の響きに魅惑されるのみです。続く合唱の美しさ・力強さに感動! 繊細を極める音楽表現に感銘を受けるのみです。もう、この後は頭が真っ白になって聴いていました。大変な音楽です。フルトヴェングラー以降にこんな音楽が可能だったとは・・・今まで、何を聴いていたのでしょう。感動で胸が張り裂けんばかりの思いになりました。
アバド 1986年録音
全集盤からの1枚です。
第1楽章、ともかく美しい音楽です。おおらかでスケールも大きいです。明快でもあります。そして、頂点では激情も披露してくれます。脈々として、ロマンチシズムの香りも漂ってきます。素晴らしい音楽です。
第2楽章、溌剌として、爽やかな演奏です。まるでロマン派の音楽を先取りしたような感じに思えます。中間部はきびきびとして、速いテンポで演奏されます。決して、爽やかさを損ねることはありません。
第3楽章、憧憬を感じさせるロマンに満ち溢れた美しい音楽です。内面的な美しさが表現しているのは、心の平安でしょうか。表現しようとしているものが掴めそうで掴めないもどかしさを感じてしまいます。あくまでも音楽はどこまでも美しいのだけれども・・・。
第4楽章、堂々として劇的な表現。管弦楽の演奏する「歓喜」の主題は優しさに満ちた表現です。ヘルマン・プライはよく響く声で独特の表現。ちょっとくせのある表現になっています。管弦楽のみで演奏されるフガートでは、ウィーン・フィルの弦楽合奏は美しく、切迫感のある表現は素晴らしいです。大合唱の「歓喜」の主題に続く、美しい合唱は祈りの声にも似て、とても厳粛で教会に響く合唱を思わせます。連続する合唱はともかく素晴らしく、聴き応え十分です。
ラトル 2002年録音
全集盤からの1枚です。
第1楽章、自然で活き活きした演奏です。盛り上がるところは強烈ですが、やはり、自然な演奏です。ともかく、無理のない演奏です。
第2楽章、自然な流れの躍動感のある演奏です。中間部はノリのよい演奏。
第3楽章、温もりのある響きで爽やかな演奏。精神性は感じられますが、深い滋味までには至りません。アバドもそうですが、彼らがもっと年齢を重ねた演奏を聴いてみたいものです。
第4楽章、冒頭はそう大げさに構えないであっさりとした演奏。管弦楽の演奏する「歓喜」の主題もさらっとした演奏です。ハンプソンはいつになく、力のこもった歌唱。「歓喜」の主題では、ようやく彼らしい柔らかい歌唱になります。4重唱では、バーバラ・ボニーの透き通った美声が素晴らしいです。合唱はいつものシュターツオーパー合唱団ではなく、ラトルが連れてきたバーミンガムの合唱団です。明るく明瞭な響きが印象的です。いつもながら、ウィーン・フィルの弦楽合奏の響きは素晴らしいです。「歓喜」の主題の大合唱はとても勢いのあるものです。若々しい素晴らしい合唱に満足です。ともかく、元気あふれる合唱です。フィナーレは合唱の勢いと迫力が素晴らしいです。
ティーレマン 2010年録音
もちろん、これを聴くのが目的! これを最後に聴きます。
第1楽章、柔らかい響きで壮麗に音楽を開始。荘重な響きですが、前進していくエネルギーが凄いと感じます。ごつごつした骨のある音楽です。
第2楽章、ずっしりとした演奏です。中間部はゆったりした伸びやかな演奏。こんな重々しいスケルツォはなかなか聴けるものではありません。とても重心の低い演奏です。
第3楽章、これはとても心に沁みてくるような音楽です。実に繊細さを極めたような演奏で感性を揺さぶられます。胸の奥底にまで忍び寄ってくる優しさがあります。色々な思いがかき立てられます。心の中から静かな感動が湧き起ってきます。後は静かに耳を傾けていきましょう。
第4楽章、冒頭は実に深々とした響き。「歓喜」の主題は県弦楽の冴え冴えとした流麗な演奏から、管弦楽合奏の頂点に軽くアッチェレランドして、上り詰めます。そして、輝かしいバス独唱。4重唱はアンネッテ・ダッシュの力強いソプラノが素晴らしいです。合唱の頂点は素晴らしい高みです。ベチャーラはリリックとも思える美しいテノール独唱。そして、管弦楽のみで演奏されるフガートでは、弦楽合奏は一段と歩みを速めて、素晴らしい前進力。ここでぐっと溜めて、大合唱で「歓喜」の主題。実に輝かしいです。そして、教会の大伽藍に鳴り響くような美しいコーラス。まるで、聖シュテファン大聖堂で聴いているかのようです。哀切極まりない、繊細なコーラスの響き。2重フーガの合唱の美しさと迫力も凄いです。終盤の4重唱、やはり、アンネッテ・ダッシュが素晴らしいです。フィナーレの迫力は半端でなく、凄いです。思わず、雄叫びを上げたくなるほどです。
前回までに聴いたフルトヴェングラーの演奏する第9番が圧倒的でしたが、今回、ウィーン・フィルを指揮したバーンスタインの演奏もそれに劣らず、新しい表現の圧倒的な超名演でした。それにしても、この偉大な第9番の歴代の名演を続けざまに聴くのはとても許されない行為だったような気もします。もっと、大事に聴くべき曲ですね。
最後に肝心のティーレマンのベートーヴェン・チクルスの聴きどころです。
1.何といっても、第3楽章以降が聴きものです。第3楽章でどれほど内面をえぐれるか。そして、輝かしい第4楽章。フィナーレでは文句なく感動の大波に呑み込まれるでしょう。
2.ほかには、何も考えずに白紙の状態で最後の音楽に臨みたいものです。まるで決意表明のようになりましたが(笑い)、至極、本気です。
万全な予習を完了しました。こんなにベートーヴェンをまとめて聴いたのは初めてです。これで予習の幕を閉じます。ティーレマンとウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲チクルスを楽しみに待ちましょう。
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