今日の交響曲第7番は第5番、第6番と同様に声楽なしの器楽だけの絶対音楽です。第2番から第4番までの声楽付きの交響曲と一線を画しています。しかし、第5番、第6番とも大いに趣を異にしています。それは第7番はマーラーの内面の独白、叫びが感じ取れないことです。悪く言えば、意味が分かりづらい音楽とも言え、そのせいか、人気も今一つで、演奏機会も少ないようです。こういうチクルスでもないと、なかなか耳にする機会もありません。しかし、良く言えば、妙な思い入れなしに冷静にマーラーの作りだした音楽芸術を鑑賞できるとも思えます。実際、今日の演奏はその通りでした。先週の第6番に比べると、心理的に余裕を持って、聴いていることができました。
聴いていて、強く感じたのは2点です。
一つ目は、鮮鋭さです。インバルの表現する第7番は実に鮮鋭な響きです。具現化するのは、ますますレベルアップしてきた都響の管弦楽。またまた、コンサートミストレスの四方恭子以下ずらっと並んだ女性陣の第1ヴァイオリンを始めとした充実した弦楽セクション、そして、管楽セクションも実に好調です。この鮮鋭さは後に続くバルトークを予感します。夜の濃密な空気感もバルトークの夜の作品を連想します。また、この第7番は5楽章構成で、第3楽章を中心に綺麗な対称型のアーチ構成になっており、バルトークの同様な構成の作品群を思い起こします。マーラーは第5番でも同様な5楽章構成を採用していますが、この第7番ほど、対称型にはなっていません。ちょっと話がずれてきましたが、要するに今日の演奏を聴いて、この作品は他の作品以上に後の時代の音楽に大きな影響を与えたのではないかという思いです。先端的な作品であったろうと感じました。
2つ目は、濃密なロマンチシズムを感じたことです。第2楽章、第4楽章は《Nachtmusik:夜の音楽》と名付けられていますが、これは夏の夜でしょう。夜の濃密な空気、それもねっとりした空気が感じられます。まさに後期ロマン派の最後を飾るような音楽です。調性音楽のぎりぎりなところに感じます。これは新ヴィーン楽派のアルバン・ベルクに引き継がれるものです。コンサート後、インバルはマーラーの音楽について、シェーベルクとベルクに言及して、彼らがマーラーの音楽を聖なるものと評していたと紹介していました。saraiの感想と直接の関連はありませんが、もしかして、インバルはこの第7番を新ヴィーン楽派を念頭に置いて、演奏したのかしらね。まあ、考え過ぎかもしれませんが、調性のあるなしは別にして、これこそ、ウィーンの濃密な音楽の系列をなす作品であることは間違いないでしょう。そう感じさせるような今日の演奏でした。
番外としては、いつもとりあげられる、この第7番の構成上の問題があります。第5楽章がそれまでの第4楽章までの夜の雰囲気と打って変わって、祝典的な音楽になるのは、マーラーの失敗ではないかという主張です。saraiとしては、第1楽章の終盤だって、十分、祝典的だとは思いますが、確かに、意識して聴くと、この第7番は第4楽章で静かに終わっても、感銘のある作品であるようにも思います。しみじみとした第4楽章に続いて、楽天的とも思える第5楽章は浮いて聴こえなくもないですからね。まあ、第5楽章は番外のエピソード編のようにして聴くものかしらと頭を捻ってはいます。そして、今日の演奏がどうなるか、興味津々として聴いていました。しかし、インバルはさすがに老練です。そんな素人の思いを嘲笑うか如く、何と、第3楽章後、舞台裏に引っこんで、長々と所用を済ませてきました。その後、第4楽章が終わり、余韻もなしに、続けざまに第5楽章を演奏するという挙に出ました。これでは、全体が2部構成で、しかも第4楽章は第5楽章の序章のような扱いです。素人が頭を捻る暇もありませんでした。後で聞くと、前日のみなとみらいホールの演奏では、同様に第3楽章後にいったん、インバルは舞台裏に消えたそうですが、すぐに出てきたようです。今日は、さらにこの構成を明確化したのでしょう。思い出すと、以前もインバルはこのチクルスで同じ手法をとって、長大なマーラーの交響曲を2部構成にしていましたが、それは声楽陣の入場の関係もあると思っていました。インバルはかなり、強い意味を込めて、途中休憩を入れるようです。第7番のこの2部構成の意味はsaraiにとって、謎です。どなたか、ご教授いただけると幸いです。saraiはこの第7番はほとんどCDでしか、この曲に接していないので、実演でどう演奏されるかはCDからは分かりません。
全体的には、とても音響的に楽しめた演奏でした。都響はそういう高いレベルの演奏をしてくれました。テノールホルン、ホルンを始めとする金管の見事な演奏にも感嘆しました。
今日のプログラムは以下です。
指揮:エリアフ・インバル
管弦楽:東京都交響楽団
マーラー:交響曲第7番ホ短調《夜の歌》
マーラー・チクルスも残すところ、あと2曲。第9番が楽しみですが、もうすぐ終わるという寂しさもあります。インバルも今期でプリンシパル・コンダクターの契約も切れるので、とても残念です。ブルックナーもショスタコーヴィチも中途半端です。ただ、来期はクック版のマーラーの交響曲第10番を指揮してくれるということなので、以前のベルティーニのマーラー・チクルスの第9番での悲しい思いは味わわなくてもいいかもしれません。
ところで、今日はコンサート後にインバルの指揮者デビュー50周年のパーティーに参加してみました。定期会員70人が抽選で参加できるものです。有料の2000円でしたけどね。憧れの女性第1ヴァイオリン奏者の方たちとお話させてもらいました。かなり、突っ込んだお話も聴けましたが、やはり、プライベートな会話は秘密ということですよね。みなさん、初対面のsaraiに率直な会話、ありがとうございました。
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