第5番《運命》はsaraiの音楽生活の原点とも言えるものです。《邂逅》という言葉は必ずしも正確な言葉の使い方ではないことを承知の上で、あえて、自分の気持ちを表現するために使いました。saraiが中学生になって、初めて本格的なクラシック音楽に接したのが、この第5番《運命》でした。そして、今年でちょうど50年、この原点とも言える第5番《運命》の想像を絶する超名演を実演で聴くことができた思いを《邂逅》という言葉に託しました。
今日のコンサートを聴くために50年に渡る長い音楽の旅を続けてきたのだという、感慨に襲われています。50年前にこの第5番《運命》を聴いて以来、実に様々な音楽に接してきました。オペラにものめり込みましたし、素晴らしい音楽を求めて、ヨーロッパ遠征にも出かけるようになりました。幾度も感動の体験もしてきました。しかし、今日ほどの目くるめく感動があったでしょうか。ティーレマンとウィーン・フィルは爆発力のある第5番《運命》を聴かせてくれました。第3楽章からのアタッカを経て第4楽章の輝かしい主題が鳴り響くと、大きな感動の波が押し寄せてきました。ティーレマンの音楽にsaraiが同調した瞬間です。感動の振幅は自分の許容度を超えて、針が振り切れてしまい、後は頭が真っ白。冷静に音楽を鑑賞できなかったのは残念ですが、それほど、空前絶後の音楽だったと言えます。
まだ、チクルス2日目でやっと半分が終わったところですが、早くもこのチクルスにかけるsaraiの思いが果たされました。このチクルスへの期待はここに書きました。そこから、引用しますが、次のような思いだったんです。
saraiの音楽人生(そんな人生ってあるのっていう突っ込みはなし!)において、ひとつのエポックになると思います。何せ、ティーレマン+ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲と言えば、当代を代表するものです。大げさに言えば、もう、フルトヴェングラーが60年近く前に亡くなって以来、最高のベートーヴェンが聴けるかもしれない。それも全交響曲を東京で聴けます。今後、saraiが生きているうちの最後のチャンスになるかもしれません。
以上の大げさとも言える期待が実現してしまいました。例え、残りのコンサートが凡演に終わろうととも(まあ、ありえないでしょうが)、今日の第5番《運命》が聴けただけで、音楽を愛する一聴衆として、音楽人生の頂点を極めた思いです。それにこれまでの全5曲は最高の演奏でもありました。第7番、そして、第9番はどういう演奏になるでしょう。やはり、さらなる期待も膨らんでいきます。
今日のプログラムは以下です。
指揮:クリスティアン・ティーレマン
管弦楽:ウィーン・フィル
ベートーヴェン交響曲チクルス第2日
第4番変ロ長調Op.60
《休憩》
第5番ハ短調Op.67《運命》
今日はもう、これ以上書く必要はありませんが、一応、今日の演奏について、軽く触れておきます。
まず、第4番です。
第1楽章、精妙な序奏に続き、エネルギーに満ちた主部。弦のうねるような響きが基盤になっています。自在なルバートはティーレマンのやりたい放題の印象ですが、それが決まっているんです。それにしても、ここまでウィーン・フィルを絶妙にコントロールするのも凄いし、また、ティーレマンの自由な棒さばきに合わせるウィーン・フィルの合奏力も凄いと感じます。これはオペラ指揮者としてのティーレマンとオペラのピットで修羅場をくぐり抜けてきたウィーン・フィルの職人技の合体したものだと一人合点します。演奏風景を見ていて、こんなに面白いことは、かってなかったことです。
第2楽章、ともかく、木管、特にクラリネット独奏の美しさには聴き惚れてしまいました。そして、それに合わせる室内楽的な弦の合奏はまるでクラリネット5重奏曲を聴く思いです。変な思いが頭をよぎります。ベートーヴェンがクラリネット5重奏曲を書いてくれれば、どんなに素晴らしかっただろうということです。それほど透明な美しさがありました。この音楽を聴かせてくれたティーレマンには頭が下がります。
第3楽章、地響きのするような底固い響きが強烈に鳴り響き、パワフルな演奏に圧倒される思いでした。
第4楽章、これは冒頭から、ウィーン・フィルの素晴らしい合奏力に括目する思い。テンポはそんなに揺らさずに自然な流れで、活き活きとした演奏が次第に白熱していきます。この第4番で一番の聴きものでした。素晴らしい演奏に爽快感を感じました。
この第4番はティーレマンのCDでは実に不満を覚えた演奏でしたが、実演では素晴らしい納得の演奏でした。
次は、感動の第5番《運命》です。
第1楽章、冒頭の運命の動機、ダダダダーンの素晴らしい響きが心に突き刺さります。緩急のルバート、そのルバートの過程でタメができ、トゥッティで熱いエネルギーが噴出されます。この繰り返しに心が躍ります。コーダが終わり、ふーっと息をもらしてしまうほどの力演です。
第2楽章、前半は普通の出来かなと思って聴いていましたが、後半での凄い盛り上がりに陶然とした思いでした。
第3楽章、爽快な演奏にだんだんと引き込まれて、凄い集中した状態でアタッカに。アタッカの静かではありますが、緊張を孕んだ雰囲気に呑み込まれていきます。
第4楽章、それまでの緊張感が勝利のファンファーレで一気に開放されて、もう、息もできないほどの感動の渦に巻き込まれます。後はもうティーレマンにインスパイアされるだけです。息も絶え絶えになりながら、頭は真っ白。いつの間にか圧倒的なコーダ。ティーレマンとウィーン・フィルの凄まじい気力の演奏に茫然自失状態になりました。
大阪の同一プログラムのコンサートでは、この後、エグモント序曲がアンコールとして演奏されたそうですが、もちろん、今日はそんなものはまったく不要でした。
最後に今日の2曲の予習について、リンクを張っておきます。何かのご参考になればと思います。
交響曲第4番についてはここ。
交響曲第5番《運命》については1回目はここ、2回目はここ、3回目はここ。
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