結果は期待に違わぬ素晴らしいコンサートでした。
まず、庄司紗矢香のヴァイオリンとインバル指揮の都響によるバルトークの後期の大作ヴァイオリン協奏曲第2番。庄司紗矢香のバルトーク、昨日も素晴らしい最高の演奏でしたが、今日はさらに魂をぶつけるような荒々しい響き、瑞々しい表現と感動の名演。第1楽章の冒頭は深々とした響きに魅了され、終盤、4分音のメロディーのあたりから演奏は高揚し、カデンツァは感動の響き、オーケストラと一緒にぐんぐん、高みに駆け上がり、興奮のフィナーレ。
第2楽章は瞑想的なメロディーが美しく響き、深いため息のような変奏が続き、終盤の悲しみに満ちた表現の素晴らしさに深く胸を打たれました。
第3楽章も終盤の凄まじい盛り上がりに驚嘆。圧巻のフィナーレ。これ以上、望むべくもない庄司紗矢香、渾身の演奏でした。都響の演奏も昨日を上回る出来で、バルトークの音楽の真髄に迫るものでした。インバル指揮の都響の素晴らしさにはいつもながら、舌を巻きます。
聴衆の熱い拍手が続き、庄司紗矢香は昨日同様、ハンガリー民謡のアンコール曲を演奏。その素朴な音楽にマジャール平原の農民、牧畜民のたくましい姿をイメージさせられました。こういうアンコール曲を探してくる庄司紗矢香の音楽センスに脱帽です。
休憩後、コンサート形式でのオペラ《青ひげ公の城》です。登場人物は青ひげ公と新妻ユディットの2人だけ。この2役を歌ったマルクス・アイフェとイルディコ・コムロシの素晴らしい歌唱で大変な感銘を受けました。青ひげ公役のアイフェは昨日もその冷徹さを感じさせる表現に感銘を受けましたが、声量的に大オーケストラに押され気味でそのあたりに不満が残りましたが、今日は絶好調。大変声が出て、大オーケストラに抗して、強い響きを発していました。彼の知的な歌唱は、感情を抑え込む青ひげ公の性格を見事に表現していました。マルクス・アイフェは今年の6月、ウィーン国立歌劇場で、R・シュトラウスの楽劇《カプリッチョ》のオリヴィエ役で見事な歌唱を聴きました。そのときも詩人らしさを感じさせる知的な歌唱に感銘を受けました。そのときの記事はここです。
ユディット役のコムロシは美しい声の響きですが、それよりも自国の大作曲家バルトークへの思い入れもかくほどかと思わせられる入魂の歌唱。全身全霊を込めて、ユディットになりきっています。それにマジャール語の発音が見事(だと思います・・・)。アイフェの青ひげ公とは違って、愛情にあふれる女心を熱く歌い上げます。その中にも、不安そうな感情を織り混ぜた表現が見事です。
インバルの作り出すバルトークの世界は、まず、静かな低弦が夜の闇の底から徐々に浮かび上がってきます。7つの扉を開けてと迫るユディットと青ひげ公の葛藤で音楽が高潮します。第1、第2の扉を開けるシーンでは、緊張感の高く、奇妙な響きが印象的。第3、第4の扉では、妖しい美しさが表現されます。完璧にバルトークの世界を表現しつくすインバルに感銘を覚えます。そして、第5の扉を開けるシーンが音楽的頂点です。この作品もバルトーク得意のアーチ型の構造のようで、ここを最高峰に冒頭とフィナーレが対称形になっているようです。このシーンでは、昨日はステージの袖に8人の金管奏者(トランペット4、トロンボーン4)のバンタが立ち、強烈な音響を浴びせかけてきました。今日はサントリーホールのオルガンの前にバンタが立ち、パイプオルガンとともに激しい音響を響かせていましたが、昨日よりも遠くからの演奏のため、強烈さは昨日ほどではありませんでした。しかし、そのためにアイフェと音響的なバランスがよくなっていた感じです。第6の扉を開けるシーンは、チェレスタ、ハープ、フルート、クラリネットのアルペジョが絶大な効果を発揮して、不安に満ちた感情を醸し出します。異様な音楽表現が顕著になってきます。さらに最後の扉を開けることについての男女の凄まじい葛藤が見事に音楽表現され、高潮した音楽に否応なく強く引き込まれていきます。第7の扉を開けるシーンはもう静かな安寧に覆われている感じもあります。戦慄のフィナーレもそれほどの感情の爆発もなく、ある意味、淡々と進んでいきます。そして、また、冒頭と同様に低弦が奏する夜の闇の底に音楽は沈み込んでいきます。たった1時間ほどの男女の心理葛藤劇とは思えないほど、どこまでも深い音楽表現がぎっしりと詰め込まれた傑作オペラをインバルは最高の演奏で我々に提示してくれました。都響のアンサンブルの精度の高さも特筆ものでした。
今日のプログラムは以下です。
指揮:エリアフ・インバル
ヴァイオリン:庄司紗矢香
メゾソプラノ(ユディット):イルディコ・コムロシ
バリトン(青ひげ公):マルクス・アイフェ
管弦楽:東京都交響楽団
バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番 Sz.112
《アンコール》ハンガリー民謡
《休憩》
バルトーク:歌劇《青ひげ公の城》 Op.11 Sz.48 (演奏会形式)
やはり、インバルはますます熟成しており、都響のドライブも見事。ベルティーニと同様に桂冠指揮者に就任するそうですが、まだまだ、現役として、都響を振ってほしいと願っています。80歳を超えたところで、都響とどんな熟成した音楽を作り出していくか、この耳で聴き届けていきたいと念願しています。2014年度のプログラムでは不満です。2015年度のプログラムではインバルの指揮する公演をもっともっと増やしていくことを都響のプログラム企画者に懇請するものです。
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