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ブダペストの2日間:西駅で散々苦労の末、ウィーンへの鉄道チケット受け取り

2013年5月31日金曜日@ブダペスト/3回目

ブダペストBudapestの街歩き、開始です。ホテルを出て、広い表通りバイチ・ジルンスキー通りBajcsy-Zsilinszky útに出ます。大きな建物が立ち並ぶ立派な通りです。


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まずは、明後日のウィーンWienへの列車の予約済みチケットを受け取ってきましょう。ネットでブダペストからウィーンまでの超格安チケットを購入しましたが、自宅のプリンターでのチケット印刷のサービスはなく、ハンガリー国内の鉄道駅の端末での受け取りということなんです。これはもちろん初体験なので、早目に受け取りを済ませておきたいですね。ホテルの近くのブダペスト西駅Budapest-Nyugati pályaudvarへ歩いて行きます。これまたビックリの駅です。それはそれは古い建物ですが、外装は立派です。

ここまでのルートを地図で確認しておきましょう。


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通りを隔てたところから建物を撮影しようと思い、なるべく下がってシャッターを切りますが、とても全体は写せません。


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プラットホームを覆うガラスと大鉄傘の構造物の両脇に重厚な建物が建っています。これは右側の建物です。


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もう少し下がって何とか左側の建物全体と右側の建物の半分ほどが撮影できます。これくらいが限界です。巨大な駅ですね。


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通りを渡って駅の構内に入ります。これが大鉄傘に覆われたプラットホームです。ホームに停車している電車は古い電車ばかりです。


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右側の大きな建物の中に入ります。内装は木造です。重厚で、とても立派です。が、肝心のチケット発券機が見つかりません。ここは国内線のチケット窓口ですから、ここではなさそうです。


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それにしてもこの建物は天井も高く、広々として立派です。


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チケット発券機を探して、次に続くスペースに移動します。


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小さな待合室があります。


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国際線のチケット窓口を発見。チケット発券機は見当たりませんが、きっと窓口でも対応してくれるのではないかと思います。


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しかし、その期待は見事に裏切られ、チケット発券機を使えとの指示です。どこにあるかと聞くと、通りに出たところにあるとのこと。しかし、探し回りますが一向にそれらしい機械が見当たりません。ウロウロ歩きまわった末に、ようやく駅の隅っこに発見。さっきのプラットホームの向かって左端の壁に設置されていました。それも1台だけです。この広い駅で見つけるのは難しいですね。この駅にはインフォメーションも見当たりません。旅人に優しい駅とは到底言えません。さて、ようやく見つけた発券機ですが、チケット発券機を前にして操作方法が分かりません。見かねたらしく、後ろに並んだお姉さんが操作方法を教えてくれて、無事にチケットをゲット。結果的には単に予約番号を入れるだけのことです。


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きっちりチケットの内容を確認します。どうも大丈夫のようです。


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これが苦労して入手した貴重なチケットです。ブダペスト東駅Budapest Keleti pályaudvarからウィーン西駅Wien Westbahnhofまで、セカンドクラスの指定席チケット2名分で7930フォリント(日本円で3500円くらい)です。凄く安いですね。


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チケットを入手したところで、落ち着いてホームの様子を眺めます。やはり、ハンガリーの電車は古くてオンボロに見えます。


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次々にチケット発行機には人がやってきます。迷わずに見つけているので現地の人でしょう。


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ホームの構内にはショップが並んでいますが、何とも古風なショップ。懐かしささえ覚えてしまいます。


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ホーム自体は列車の発着表示板も含めて、とても立派なんですけどね。


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駅に隣接する建物で人だかりのしているお店があります。人がぞろぞろと入っていきます。


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とても大規模で立派なコーヒーショップです。


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外で看板を確認するとMcCafeです。


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駅での用事も済んだので、今日の一番の目的であるブダペスト西洋美術館Szépművészeti Múzeumに向かいます。


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ブダペストの2日間:西洋美術館で絵画鑑賞の前にブダペスト随一の高級レストラン・グンデルでランチ

2013年5月31日金曜日@ブダペスト/4回目

ブダペスト西駅Budapest-Nyugati pályaudvarで無事にウィーンへの鉄道チケットを受け取り、ここから徒歩と地下鉄で英雄広場Hősök tereにある西洋美術館Szépművészeti Múzeumに向かいます。
まず、大環状通りのテレーズ通りTeréz körútを歩きます。これまた立派な通りです。西駅の先には、左手に広々とした広場があり、素敵なカフェも見えます。


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少し歩くと、アンドラーシ通りAndrássy útと交わる交差点オクトゴンOktogonに着きます。ここからアンドラーシ通りを右の方に進むと国立オペラ劇場Magyar Állami Operaházです。今夜はここでオペラを見る予定です。今はアンドラーシ通りを左にまっすぐ進み、英雄広場にある西洋美術館に向かいます。歩くと結構遠そうなので、ここからは地下鉄M1に乗ることにします。オクトゴンの交差点で地下鉄の入り口を探しますが、なかなか見つかりません。通りかかった女性に訊いてみると、何と10mくらいのところに入り口があります。近くでも入り口だということが分かりませんでした。ともあれ、感謝です。地下に下りてホームに向かおうとすると、例によってチケットのチェックがあります。24時間チケットを見せて、OKです。


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英雄広場方面行のホームで電車を待ちます。この路線M1は、ヨーロッパではロンドンの地下鉄に次いで2番目に古い地下鉄です。英雄広場はここから4番目の駅です。途中の2番目のコダーイ円形広場駅Kodály körönd近くには、ハンガリーの有名作曲家ゾルタン・コダーイの元住居が記念博物館として公開されています。行ってみたいのはやまやまですが、滞在2日のスケジュールでは時間的に無理です。もっとも本来は大好きなバルトークの記念館を訪れたかったのですが、これはかなり離れたところにあるようで、今回は泣く泣くパスします。


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駅のホームの端に不思議なものが見えます。木製の戸棚のようにも見えますが、まさかね。一体、何でしょう? 単に装飾だということはないと思いますが・・・。


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やがて、電車が到着。結構混んでいますね。


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英雄広場駅Hősök tereに到着。地上に出て少し進むと英雄広場が見えてきます。昔見たときの印象のままです。


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目を左に転じると、西洋美術館のギリシャ神殿風の重厚な建物が見えます。素晴らしいコレクションが揃っているようで、楽しみです。


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西洋美術館の正面まで行きますがもう昼時です。絵画鑑賞の前にまずは腹ごしらえ。


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料理も雰囲気も最高峰といわれるレストランのグンデルGundelに行きます。ちょっと贅沢ですが、英雄広場に最も近いというのが選択の理由です。あまり遠くまで移動するとまた戻ってくるのが大変ですからね。レストラン・グンデルは西洋美術館のすぐ裏手にあり、簡単に見つかります。


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ここまでのルートを地図で確認しておきましょう。


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正面の入り口からは入れないので、右横にある庭の入り口から入ります。


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レストランの庭は美しいテラス席になっていますが、雨模様で小寒いので、まったく無人です。


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庭に面した立派な入り口から入館します。さすがに一流レストランの佇まいです。


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お店に入ると、確かに評判通りです。窓際の落ち着いた席に案内されます。さて、メニュー選びの難関です。飲み物は、ハンガリー産のリースリンクで決まり。ソムリエが持ってきてグラスに注いでくれ、味を確認。もちろん、問題なく美味しいです。ボトルのラベルを写させてほしいと言うと、もちろんOK。2011年のグンデルのラベルが貼ってあります。


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と、ミネラルウォーターのラベルも写すかと給仕の人がビンを差し出し、大爆笑。せっかくのご好意(ジョーク?)をお受けしましょう。これもよく冷えた美味しい水です。


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ハンガリー産のワインとミネラルウオーターのグラスが並びます。壮観ですね(笑い)。


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この給仕の人がなかなかよいアドバイスをしてくれます。フォアグラ各種の盛合せを二人でシェアしてはどうかとのこと。フォアグラはハンガリーの名物です。是非食べてみたかったので、かなり高価ですが頂きましょう。2人でシェアしますが、9900フォリントです。約5千円。まあ、1級のフォアグラとしては格安ですけどね。


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合わせて、ホワイトアスパラのスープと赤かぶのスープもオーダー。
料理のオーダーも終えて、落ち着いたところでレストランの内部の様子を観察します。高級レストランの中はお昼時でもがらがらです。と、一番奥のテーブルの声が聞こえてきます。何と日本人のグループのようです。どうやら店内はほとんど日本人の客で占められているようです。驚きますね。


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とても豪華なランチになるようで、料理が出るのを楽しみに待ちます。


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ブダペストの2日間:ブダペスト随一の高級レストラン・グンデルのフォアグラに挑戦!

2013年5月31日金曜日@ブダペスト/5回目

料理も雰囲気も最高峰といわれるレストランのグンデルGundelで豪華ランチをいただきます。

パンをいただきながら、どんなフォアグラが出てくるか、そわそわして待ちます。


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料理の出るのを待っている間、隣のテーブルの見事なセッティングに感動。さすがです。


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まずはスープです。
これは赤かぶのスープです。配偶者がいただきます。


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これはホワイトアスパラのスープです。シュパーゲルはsaraiの大好物ですから見逃せません。


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それにしても食器が豪華ですね。
美味しいスープをいただきながら、窓の外を見やると暖かそうな日差しです。本当に天候がくるくると変化します。


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いよいよ待ちに待ったフォアグラです。こんな本格的なフォアグラ尽しは初めてです。
甘いソースで食すもの、カビの風味、燻製、王道の焼いたものの四種類の盛合せを頂きます。フォアグラ満喫です。


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実はこの旅はフォアグラに縁があるようで、この後また美味しいフォアグラを食べることになりますが、この時点では知る由もありません。

このフォアグラ尽しでsaraiはフォアグラの味が分かったと思います。配偶者はどうもよく分からないという印象のようです。

最後にコーヒーで終わり。旅の始まりを記念する何とも贅沢な食事です。


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さて、この後は最大のイベントの西洋美術館です。かなり力を入れての鑑賞になりますので、乞うご期待です。



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ブダペストの2日間:ブダペスト西洋美術館~素晴らしきエル・グレコ・コレクション

2013年5月31日金曜日@ブダペスト/6回目

さあ、今日の最大のイベントのブダペスト西洋美術館Szépművészeti Múzeum(ブダペスト国立美術館)に行きましょう。
ブダペスト西洋美術館は英雄広場Hősök tereの西側に建つギリシャ様式の重厚な建物です。


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まず、チケット窓口でチケットを購入します。一人1800フォリント(約900円)です。チケットの絵柄はセザンヌ、カラヴァッジョ、シーレ。いずれもsaraiの思い入れのある画家たちです。


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おっと、忘れてはいけないのはフォトチケットの購入です。このチケットがあれば、館内の絵画の写真撮影は自由です。もちろん、ノーフラッシュ、手持ち撮影ですよ。このチケットは300フォリント(約150円)。1枚だけ購入します。


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館内マップは無料。マジャール語と英語の併記ですから、分かりやすいですね。日本語の館内マップは見当たりません。


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早速、館内マップを見ながら、入場します。まずは2階に直行。2階のスペイン絵画がお目当てです。


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いやはや、スペイン絵画のコレクションの素晴らしさには感嘆するのみです。特にここのエル・グレコのコレクションは充実していて凄い! いずれはスペインのトレドにエル・グレコを見に行く気持ちが一層強まります。この美術館で見られるエル・グレコの全作品をご紹介しましょう。

エル・グレコと言えば、半年前の2013年1月に東京・上野の東京都美術館でエル・グレコ大回顧展を見たばかりです。その時の記事はここです。今回はそれに引き続いて、小エル・グレコ展を見るような感じです。
ご存じだと思いますが、エル・グレコは、ベラスケス、ゴヤと並んでスペインの3大画家の一人。しかし、グレコは本名をドメニコス・テオトコプーロスと言って、地中海のクレタ島で生まれたれっきとしたギリシャ人です。エル・グレコという通り名はスペイン語でギリシャ人という意味です。エル・グレコはクレタ島の港町カンディア(現イラクリオン)で才能を育み、マエストロ(画家組合の親方)として独り立ちします。その後、イタリアに画家修業に出かけ、ヴェネツィア、ローマで美術ばかりでなく、文学、哲学などの教養も身に着け、10年の時を過ごします。スペインのトレドに移住したのは30代も後半のことです。そして、この地で才能を開花させます。以下に紹介する《オリーブ山のキリスト》は晩年のエル・グレコがトレドで円熟期を迎えた70歳ごろの作品です。この最晩年の5年間に描かれた作品はマニエリスム絵画の最高峰とも言える傑作揃いで見逃せないものばかりです。しかし、エル・グレコは死後、忘れ去られた存在になります。そのエル・グレコに再び脚光が集まったのは、19世紀末からのヨーロッパの大観光ブームで古都トレドにヨーロッパ中から人が押し寄せるようになってからです。そのときに、ようやくエル・グレコの作品が再評価されるようになりました。かくして、エル・グレコ没後500年を迎える2014年、saraiもエル・グレコに惹かれて、トレドを訪問する予定です。エル・グレコの最高傑作を見ないと死ねません。その前にこのブダペスト西洋美術館のエル・グレコの珠玉の作品群を見ていきましょう。

これは《聖衣剥奪》です。1580年から1600年頃の作品です。この作品は1577年から1579年頃にトレド大聖堂の聖具室を飾るために描かれたエル・グレコのスペイン時代初期の傑作を改めて、小さなサイズで描き直したものです。エル・グレコ大回顧展で別のレプリカを見たばかりです。エル・グレコの有名な作品にはレプリカがいくつもあるようですね。エル・グレコ自身が描いたものなので単なる複製画とは違います。この作品には、キリストを十字架にかけるために刑場に引き立てていく途上、聖衣を剥ぎ取ろうとする場面が描かれています。マニエリスム表現の極端に引き伸ばされた肢体や捻じ曲げられた体の曲線という最晩年の特徴はまだ明確に姿を見せませんが、エル・グレコの敬虔な精神性は十分に表れています。トレドでの名声を確立した歴史的な作品です。この5月末にはトレドを訪問する予定なので、トレド大聖堂でこの作品の原画が見られると思うと気持ちが高ぶります。


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これは《オリーブ山のキリスト》です。1610年から14年頃の最晩年の作品です。キリストが最後の晩餐の後、オリーブ山にこもり、神に祈り続けています。一方、起きて待つように指示していた弟子たちは眠りこけています。それらが絵の上段と下段に分けられて配置されています。キリストは神から啓示を受けた後、そのだらしない弟子たちを咎めます。背景、構図の異様とも思える緊張感はこの時期に共通するものです。キリストの捻じ曲げられた体のマニエリスム絵画表現と赤い衣の色彩感も劇的な場面を盛り上げています。この作品全体はキリストの緊張した内面、すなわち精神世界を表しているようにも感じられます。最晩年ならではの傑作です。もともと、この作品はトレド郊外の小さな教会に飾られていましたが、ハンガリーの大銀行家ヘルツォグが入手し、その後、1951年にこの美術館におさめられました。この美術館のエル・グレコの充実したコレクションの根幹を成す作品と言えるでしょう。


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これは《聖アンデレ》です。緑の衣をまとった聖アンデレは12使徒の一人です。エル・グレコの描く聖人は高い精神性と敬虔さを感じさせられます。エル・グレコが多く描いた聖人の肖像画・人物画のなかでも傑出した表現が見られます。作成年が明示されていませんが1600年頃ではないかと想像されます。


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これは《悔悛するマグダラのマリア》です。1576年頃の作品です。この作品はつい最近までエル・グレコ大回顧展のために来日していました。ブダペストには戻ったばかりの筈です。saraiも半年前に見たばかりの作品です。マグダラのマリアはよく取り上げられる題材です。半年前の印象は、この時期のエル・グレコには、まだ後の時代の迫力が不足しているということでした。しかし、こうしてホームグラウンドで眺め直すと、美しく清らかな表現に思えます。エル・グレコはこういう作品作成を通じて、芸術性を鍛え上げて、最終的に迫真の劇的表現に高めていったんでしょう。


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これは《男の習作》です。1580年から1585年頃の作品です。12使徒の聖ヤコブを描いたものです。当時49歳だったエル・グレコの自画像とも言われています。何と言っても男の眼差しが印象的です。己の内面を厳しく見つめているかのような真摯な眼差しです。彼の思いは何なのでしょう。この作品を見ていると、おのずとsarai自身の内面と向かい合ってしまいます。


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これは《受胎告知》です。1600年頃の作品です。これは何と表現すればいいのか・・・乙女のような清らかなマリアが大天使ガブリエルからの受胎告知を従容として受け入れていますがその背景の凄まじさは衝撃の強さを表しているのでしょうか。美しくも激しい絵画と感じます。この作品は現在マドリッドのプラド美術館に収められているドーニャ・マリア・デ・アラゴン学院にあった大祭壇衝立画の中の1枚、《受胎告知》の一部分を切り取ったような作品です。また、大原美術館にある《受胎告知》と構図は全く同じで色合いが少し違ったもので、これらはレプリカと言えるんでしょう。


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これは《聖アンナのいる聖家族》です。まったく同じ構図の作品をエル・グレコ大回顧展でも見ました。そちらは1590-95年頃の作でトレドのメディナセリ公爵家財団タヴェラ施療院所蔵の作品でした。これもレプリカなんですね。聖母マリアの美しさが際立っている1枚です。聖アンナは聖母マリアの引き立て役のような・・・。


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ここまでエル・グレコの傑作を思う存分堪能しました。これだけでこの美術館を訪問した目的は十分に果たせました。ただ、スペイン絵画部門だけでもまだまだありますから、鑑賞を続けましょう。


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ブダペストの2日間:ブダペスト西洋美術館~スペイン絵画コレクション

2013年5月31日金曜日@ブダペスト/7回目

ブダペスト西洋美術館Szépművészeti Múzeum(ブダペスト国立美術館)の充実したコレクションの紹介を続けます。
エル・グレコ以外にもスペイン絵画コレクションは充実しています。

これはベラスケスの《食事をする農夫たち》です。1618年頃、ベラスケス19歳のときの作品です。カラヴァッジョの影響を受けたのか、光と陰の明暗表現が印象的です。


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これはフアン・バウティスタ・マルティネス・デル・マーソの《緑のドレスのマルガリータ王女の肖像》です。作成年不詳の作品です。この作品はてっきりベラスケスの有名なマルガリータ王女のシリーズと思いましたが、考えてみれば、ウィーンの美術史美術館とマドリッドのプラド美術館にしか、ベラスケスのマルガリータ王女の作品はある筈がありません。よく見ると、知らない画家の作品です。でも、それにしてもベラスケスの作品そっくりでよく描けています。後で調べてみたら、この画家デル・マーソはベラスケスの長女フランシスカと1633年に結婚した人でした。結婚したときには娘のフランシスカは14歳だったというのですから、ベラスケスがよほど見込んだ娘婿だったんでしょう。この作品はベラスケスの《青いドレスのマルガリータ王女の肖像》(1659年)の模写です。《青いドレスのマルガリータ王女の肖像》はウィーン美術史美術館に所蔵されています。このデル・マーソの《緑のドレスのマルガリータ王女の肖像》もウィーンにあったようですが、同じハプスブルグ家の都だったブダペストに移されたようです。同じような作品をウィーンに2枚置いておく必要がなかったのでしょう。なお、ベラスケスの絶筆になった《赤いドレスのマルガリータ王女の肖像》は《青いドレスのマルガリータ王女の肖像》の描かれた翌年1660年に描かれますが、弟子にして娘婿のデル・マーソが最後に筆を加えて完成させたそうです。これはプラド美術館に所蔵されているので、5月に訪問予定のプラド美術館でよく鑑賞させてもらいましょう。また、マルガリータは1666年、14歳でウィーンの神聖ローマ皇帝レオポルド1世に嫁ぎますがそれに先立って、喪服姿で肖像画を描かれています。喪服姿なのはその前年1665年に父親のフェリペ4世が亡くなったためです。この肖像画を描いたのは、時既にベラスケスは亡くなっているので、その後を継いだ形のデル・マーソです。これはデル・マーソのオリジナルですが、ベラスケスそっくりの描き方です。ベラスケス様式とでも言えるのかもしれません。この作品もプラド美術館に所蔵されています。長くなりましたが、これがデル・マーソの《緑のドレスのマルガリータ王女の肖像》です。


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なお、この《緑のドレスのマルガリータ王女の肖像》の元になった《青いドレスのマルガリータ王女の肖像》も参考のためにご紹介します。ウィーン美術史美術館に所蔵されています。こちらは正真正銘のベラスケスの作品です。ウィーンにある3枚のマルガリータ王女のシリーズの最後を飾る傑作です。


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これはムリーリョの《エジプトへの逃避行》です。1668年から1670年頃の作品です。エステルハージイ・コレクションより所蔵替えになったものです。幼児キリストを慈しむマリアの優しさが滲み出るような美しい作品です。


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これはムリーリョの《巡礼者にパンを配る幼児キリスト》です。1678年頃の作品です。これもエステルハージイ・コレクションより所蔵替えになったものです。ムリーリョ晩年の作品で幼児とは言え、キリストのきりっとした荘厳さが表現されています。


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これはムリーリョの《幼き洗礼者聖ヨハネのいる聖家族》です。1668年から1670年頃の作品です。これもエステルハージイ・コレクションより所蔵替えになったものです。この作品は引き締まった画面構成とマリアの美しさが際立った作品です。ムリーリョの描くマリアはいずれも美しいですね。


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これはスルバランの描いた《聖アンデレ》です。1635年から1640年頃の作品です。12使徒の一人、聖アンデレは茶色の衣をまとっています。エル・グレコには及ばないものの、精神性の高い表現が素晴らしいと思います。エル・グレコの強い影響が感じられます。


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これはスルバランの《無原罪の御宿り》です。1661年頃の作品です。スルバランはベラスケスと同時代を生きたセビーリャ派のスペイン・バロックを代表する画家の一人ですが、この作品はその事実を認識させられる素晴らしいものです。白い衣で空中を浮遊するマリアの清らかさは作品のテーマを見事に表現しています。一度見たら忘れられない印象的な作品です。


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これはスルバランの《聖家族》です。1659年頃の作品です。敬虔さに基づいていますが、同時に普通の家族の親密さも感じさせる作品になっています。


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これはゴヤの《ベルムーデス夫人の肖像》です。1790年頃の作品です。モデルは著名な美術批評家ベルムーデスの夫人です。黒の背景色と対照的に華やかなドレスを見事に描き切っています。もっとも、この派手な色彩感覚はsaraiの趣味とは程遠いものです。


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これはゴヤの《ホセ・アントニオの肖像、マルケスカバレロ》です。1807年頃の作品です。肖像画家としてのゴヤの実力を遺憾なく示した作品。ただ、あまり、面白味には欠けるかな。


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これはゴヤの《みがき屋》です。1808年から1810年頃の作品です。一心にナイフを磨く職人の姿が描かれています。市井の名もなき人の姿を描く画家の眼は曇りがありません。


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これでスペイン絵画コレクションは完了。エル・グレコを中心とした素晴らしいコレクションに感嘆しました。次からはお気に入りの画家の作品にスポットをあてて、ご紹介していきます。


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シャヴァンヌ展@Bunkamuraザ・ミュージアム 2014.3.7

今週で終了するシャヴァンヌ展に慌てて出かけました。以前、オルセー美術館でシャヴァンヌの絵を見たときはあまりに能天気な女性ヌード画≪海辺の乙女たち≫に驚き呆れた記憶があります。しかし、何故か、意識の片隅にしっかりと根をおろし、気になる存在になっていました。Bunkamuraで開催されるシャヴァンヌ展のポスターを見たときに急に心に火がついて、見に行こうと思いました。シャヴァンヌについてはオルセー美術館で作品を見た以外にはほとんど知識がありません。シャヴァンヌ展では、きっと美しい作品がぞろっと展示されているんだろうと勝手な思いでいました。

で、シャヴァンヌ展に行った結果は期待外れという残念なことになりました。もっと充実した作品展示があると思っていましたが、何やら未完成作品やら下絵などが多く、期待していた思いっ切り甘美で美しい作品はあまりなかったんです。もっともsaraiの誤解もありました。シャヴァンヌは画家ではありますが、主な対象は壁画制作ということです。そのため、展示作品は壁画のための下絵や壁画の内容をテーマにした絵画が中心でした。壁画そのものが一番の見ものですが、壁画を展示するわけにはいきませんから仕方がありませんね。

主な展示作品をご紹介しましょう。

これは《諸芸術とミューズたちの集う聖なる森》です。1884年から1889年の作品でシカゴ美術館所蔵です。これは右半分の部分です。


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これは同じく《諸芸術とミューズたちの集う聖なる森》の左半分の部分です。


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これらの作品はリヨン美術館の階段室正面部分の壁画と同じ構図の作品です。展示会場にもそのリヨン美術館の大きな写真が展示されていました。特に左半分が幻想的で美しい絵です。水辺に横たわる後ろ向きの女性の美しさにはロマンを感じます。

これは《アレゴリー》です。1848年の作品でクライスラー美術館所蔵です。建築家・牧師・文学者など各分野の3人を描いたものです。シャヴァンヌの他の作品と違い、フレスコ画調ではなく、くっきりとした色彩で描かれています。


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これは《祖国のための競技》です。1885年から1887年の作品で個人所蔵です。アミアン美術館階段の壁面を飾った作品と同一構図の縮小版です。壁画ではどうか分かりませんが、今一つインパクトに欠ける絵です。


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これは《祖国のための競技》の右側にあたる切り取られた部分です。《祖国のための競技》もしくは《家族》と呼ばれています。


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これは《聖ジュヌヴィエーヴの幼少期》です。1875年の作品で島根県立美術館所蔵です。パリの聖ジュヌヴィエーヴ教会(現在のパンテオン)壁画装飾の一環として描かれたものです。よく観察すると中央の小さな少女が聖ジュヌヴィエーヴで彼女の頭に手をかけているのが聖ゲルマヌスです。パリの守護聖人になる聖ジュヌヴィエーヴを聖ゲルマヌスが見出し、聖人としての生涯を送ることを告げている瞬間を描いています。リヨン出身のシャヴァンヌがイタリアの初期ルネサンス様式でパリにゆかりの場面を描いた作品、シャヴァンヌならではの作品と言えるでしょう。


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これは《幻想》です。1866年の作品で大原美術館所蔵です。女流彫刻家クロード・ヴィニョンの邸宅のために描かれた4点の装飾画のひとつです。クロード・ヴィニョンの邸宅は取り壊されて4点の装飾画は取り外されることになりました。この《幻想》以外の3点は《瞑想》、《警戒》、《歴史》という作品です。いずれも素晴らしい作品です。  


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これは《羊飼いの歌》です。1891年の作品でメトロポリタン美術館所蔵です。理想郷アルカディアを描いたものです。人物それぞれがお互いに無関心というのは、古代の理想郷と現代は相通じるというのかと首を傾けてしまいます。


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展覧会を見終わって、えっ、これだけなのっていうのが正直な感想でしたが、考えてみれば、各地の壁画を一挙に見られたと思えば、まあ、よかったのかも知れませんね。今後、現地で見られるものはこれを参考に見ていきましょう。





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ジャンル : 学問・文化・芸術

 

純粋な響きのシューベルト:マリア・ジョアン・ピリス・ピアノ・リサイタル@サントリーホール 2014.3.7

今日はマリア・ジョアン・ピリスのピアノ・リサイタルでした。ピリスは昨年、ハイティンク指揮ロンドン交響楽団との共演でモーツァルトとベートーヴェンのピアノ協奏曲で初めて実演に接し、大変、感銘を受けました。そのときの記事はここここここです。そのとき、今度は是非、ソロのピアノのリサイタルを聴きたいと思い、意外に早く、その機会が訪れたわけです。日本でのピリスのソロリサイタルは何と16年ぶりというのですから、物凄く、タイミングがよかったと思います。

ピリスと言えば、昔からモーツァルト弾きという印象で、実際、DGからの2度目のモーツァルトのピアノ・ソナタのアルバムはずい分聴き込んだものです。彼女の濁りのないピュアーな響きのモーツァルトの素晴らしい演奏を気持ちよく聴いていました。昨年、思い立って、1度目のモーツァルトのピアノ・ソナタのアルバムを入手し、聴いてみましたが、実に爽やかで痛々しいくらい率直な演奏に驚愕しました。ガラスのように壊れやすい繊細な演奏です。若くなければ、決してこんな演奏はできないと思いました。調べてみると録音は日本のイイノホール(もう閉館したそうです)で1974年、ピリスが30歳の頃のようです。印象からは20歳以前の少女のような演奏でしたが、ピリスは純粋な少女の心を持ち続けているピアニストなのでしょう。

今日聴くピリスはその40年後の70歳くらいです。姿はもう若くはありませんが清新な心は持ち続けているようです。さすがに40年前の演奏に比べると、ずっと安定感のある演奏ですが、純粋で素直な表現は年齢を感じさせません。何よりもYAMAHAのピアノから紡ぎだされる響きのピュアーな美しさには心が洗われるようです。

まず、今日のプログラムを紹介しておきます。

 シューベルト:即興曲集 D.899 Op.90
 ドビュッシー:ピアノのために

  《休憩》

 シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調 D.960

   《アンコール》
     シューマン:《森の情景》より、第7曲 予言の鳥

最初に演奏されたシューベルトの即興曲集 D.899の4曲は夢のように美しい演奏。予習した彼女のCDは10年前の録音ですが、同様の素晴らしい演奏です。この4曲はsaraiの大好きな曲なので、どのピアニストの演奏でも気持ちよく聴けますが、彼女の演奏は最高レベルと言えます。特に第1曲のロマンティックな味わい、そして、最高に好きな第3曲のしみじみとした表現には言葉を失います。第2曲はペライアがアンコールでよく演奏してくれますが、これも同じくらい素晴らしい演奏。第2曲と第4曲はCDの演奏に比べると少しテンポが速くなっていますが、決して曲想を壊すものではありません。実演で即興曲集 D.899の4曲のこれだけの演奏を聴いたのは初めての経験です。初めてレコードでケンプの演奏を聴いてから、数十年経ちますがようやく生演奏で素晴らしい演奏に接することができ、大変な充足感を持つことができ、幸せです。

次はドビュッシーの《ピアノのために》です。あまり聴かない曲です。色彩感はドビュッシーそのものかもしれませんが、全体の印象はドビュッシーらしくない感じの曲集です。何よりダイナミズムが激しい曲です。こういう曲を繊細なピリスがいったいどう弾くのかと思っていたら、実に奔放な演奏です。腰を浮かせて、体全体で思いっ切りピアノの鍵盤を叩く激しい演奏。繊細な彼女のラテンの情熱を見た思いです。こういう演奏もできるんですね。しかし、いかに強く鍵盤を叩いても、決して響きが濁って汚くなることはありません。情熱のなかにも純粋で繊細なピリスの本質は変わることはありません。まあ、こういうピリスの演奏もあるということですね。

休憩後、この日のメインのシューベルトのピアノ・ソナタ第21番 D.960です。シューベルトの最後のピアノ・ソナタ。もちろん、長大なソナタです。ピリスの演奏は最高でした。2年半前にも内田光子の最高の演奏を聴きましたが、それに比肩する演奏です。内田光子と同様に第2楽章の素晴らしさといったら、何と言えばいいでしょう。永遠への憧れ、青春の美しさ・・・とでも言えばいいでしょうか。ピリスは自然なスタイルでの表現ですが、純粋無垢な少女の清らかさのような雰囲気が漂います。これも彼女の言う《神への奉仕》なんでしょうか。けがれを知らないような無垢の美しいピアノの響きはまるで天上世界のもののようです。こういう響きは大ピアニストが80歳を過ぎた老境で獲得するものだと信じていましたが、70歳でこの響きを奏でているピリスは恐るべき存在に思えます。10年後のピリスはどんな響きを奏でるんでしょうか。それを聴き遂げるまではsaraiも死ねませんね。このシューベルトは素晴らしい演奏に圧倒されたというのではなく、ピリスの奏でた音楽に共感したという思いの演奏でした。自然で内省的なシューベルト・・・実に本質的なシューベルト演奏でした。

アンコール曲は当然、シューベルトだろうと思っていたら、あれっ? シューベルトっぽくない・・・これって、シューマン? とても美しい響きのシューマンでした。ピリスのシューマンもなかなかよさそうです。《子供の情景》あたりはよさそうですね。

とても清々しいリサイタルに満足して、家路につきました。





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ジャンル : 音楽

       ピリス,  

畢生の名演! マーラー交響曲第8番《千人の交響曲》:インバル&東京都交響楽団@横浜みなとみらいホール 2014.3.9

インバルと東京都交響楽団が築き上げてきた音楽の最高点とも思える演奏に接し、深い感動の波に襲われました。来週のマーラーの交響曲第9番には期待が高まるばかりですが、今日のマーラーが最終到達点であったとしても満足以外の何物でもありません。それほど、深い意味を持って迫ってきた演奏でした。それに何と言っても滅多に聴くことのできない交響曲第8番です。《千人の交響曲》という異名を持つくらい膨大な人数の演奏者を必要とする交響曲第8番は演奏機会の少ない曲です。saraiも実演で聴くのは、ベルティーニ&東京都交響楽団@横浜みなとみらいホール(これはCD化されています)で聴いて以来、多分、2度目です。最高の演奏が稀有な機会で聴けて、マーラーの音楽を愛する者として、大変に幸福な気持ちでいます。

今日のコンサートに向けて、できるだけの準備をしてきました。演奏時間は有に1時間20分以上は超える大曲ですし、また、精神的に負担の大きな曲でもありますから、ばんばんと予習するわけにもいきませんが、これまで聴いていない演奏を主体に以下を事前予習しました。

 1.ハイティンク コンセルトヘボウ管 1971年
2. ハイティンク コンセルトヘボウ管 1988年 Video コンセルトヘボウ創立100周年記念
 3.バーンスタイン ウィーン・フィル 1975年 ザルツブルク音楽祭
 4.バーンスタイン ウィーン・フィル 1975年 Video
 5.テンシュテット ロンドン・フィル 1986年
 6.テンシュテット ロンドン・フィル 1991年 ライブ
 7.クーベリック バイエルン放送交響楽団 1970年
 8.クーベリック バイエルン放送交響楽団 1970年 ライブ
 9.ショルティ シカゴ交響楽団 1971年
 10. ホーレンシュタイン ロンドン交響楽団 1951年 ライブ

さすがにマーラーのこの名曲を巨匠たちはいずれも素晴らしい演奏で感動させてくれます。録音の出来のよさには差がありますが、演奏自体は優劣をつけるようなものではありません。それでも凄まじい感動を与えてくれたのは、ハイティンクとバーンスタインのVIDEOです。2人の燃えるような指揮で素晴らしい歌手たちが絶唱を繰り広げる様は凄いとしか言えません。
ハイティンクは1988年のコンセルトヘボウ創立100周年記念のコンサート。ハイティンク自身も1961年から続けてきたコンセルトヘボウ管の首席指揮者をこの年に退任することもあり、万感の思いを込めた指揮でした。オランダ女王列席の下、このときから、コンセルトヘボウ管はロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の名称をベアトリクス女王から与えられます。歌手はソプラノのギネス・ジョーンズ、アーリーン・オジェー、バリトンの(若き日の)トーマス・ハンプソンが素晴らしい歌唱ですが、何とも素晴らしいのはバーバラ・ボニーが歌う《栄光の聖母》です。澄み切った超高音は若く美しいバーバラでした。それにしてもハイティンクがこんなに燃え上がるような指揮ををするとは驚き、そして、感動しました。
バースタインは1975年のウィーン・コンツェルトハウスでのライブ公演です。これは女声陣、そして、ヘルマン・プライの《深淵の神父》が素晴らしいです。しかし、最高なのはやはり、バーンスタインです。マーラーに成り代わったような指揮は神がかっています。これも感動するしかない最高の名演です。

今日のプログラムとキャストは以下です。日本の最高レベルの演奏者を集めたような布陣。藤村美穂子が加われば、万全でしたね。

  指揮:エリアフ・インバル
  ソプラノ1/罪深き女:澤畑恵美
  ソプラノ2/悔悟する女:大隅智佳子
  ソプラノ3/栄光の聖母:森麻季
  メゾソプラノ1/サマリアの女:竹本節子
  メゾソプラノ2/エジプトのマリア:中島郁子
  テノール/マリアを崇める博士:福井敬
  バリトン/恍惚の神父:河野克典
  バス/深淵の神父:久保和範
  合唱:晋友会合唱団
  児童合唱:東京少年少女合唱隊
  管弦楽:東京都交響楽団

  マーラー:交響曲第8番変ホ長調《千人の交響曲》

第1部は最初から最後まで凄まじい演奏。圧倒されて、感動の涙が滲みます。終盤の「グローリア・・・」の合唱に引き続いて、ソプラノ独唱が続くところでは、最高の感動。うるうるでした。パイプオルガンを伴う合唱の素晴らしさには感動するしかありません。特に2階席の両側に配置された女性合唱の美しい響きが降り注いでくるのには参りました。まさに天上の世界です。

第2部は冒頭の静謐な管弦楽の演奏の説得力からぐいっと引き込まれます。バリトン独唱のミスが高揚感に水を差しましたが、合唱と独唱で徐々に高揚感を増し、2階横の客席に突如、姿を現した森麻季の《栄光の聖母》の清らかな歌唱で一挙に頂点に上り詰めていきます。この《栄光の聖母》はもちろん、天上の世界の聖母マリアですが、現世にいるマーラーの愛する妻アルマでもあります。交響曲第6番では、神によっても愛によっても救済は与えられませんでしたが、この交響曲第8番では、神からも愛する妻アルマからも救いが得られます。救いを得られた存在、すなわち、マーラーが永遠の世界に昇天していく感動の音楽が最高の演奏で奏でられます。これはマーラーが書いた音楽ですが、我々自身の救済の物語でもあります。マーラーと自分の存在が重なり合って、来るべき永遠、すなわち、死を迎えていくのです。最後の《神秘の合唱》が静かに始まります。そのなかで《永遠に女性的なるものが私たちを高みに引き上げるのだ》と究極の救済を告げる感動の頂点に上り詰めます。聖母マリア、そして、愛する妻アルマによって、マーラー、そして、私たちは永遠の眠りを約束されます。圧倒的な感動です。ワーグナーの《さまよえるオランダ人》と同様に、女性の愛によって、究極の救済が得られます。管弦楽だけのコーダが続き、さらなる高揚感のうちにフィナーレ。
インバルは究極のマーラーを提示してくれました。マーラー指揮者の頂点を極めた畢生の名演です。

果てしもない拍手の嵐でした。これ以上のマーラー演奏があるとは信じ難いのですが、来週の第9番ではさらなる高みを見せてくれるのでしょう。東京芸術劇場、横浜みなとみらいホール、サントリーホールと3日連続のコンサートですが、saraiは2日目以降の横浜みなとみらいホール、サントリーホールでインバルのマーラー・チクルスを聴き終えることにしています。最終のサントリーホール公演はインバルの東京都交響楽団のプリンシパル・コンダクターの最終公演でもあります。ベルティーニの横浜みなとみらいホールでの感動のラストコンサートでの第9番を思い起こします。涙なしには聴けないラストコンサートになることでしょう。


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テーマ : クラシック
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米川文子をきく会@紀尾井小ホール 2014年3月10日

ちょっと、ブダペストの話から離れますが、今日(2014年3月10日)は珍しく、邦楽の演奏会に友人たちと出かけました。
紀尾井小ホールでの地歌・筝曲の演奏会です。メインは邦楽界の重鎮、米川文子。演奏会のパンフレットです。


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1曲目は《八段の調べ》。八橋検校の作とされています。《六段の調べ》などと共にいわゆる段物の代表格です。箏替手が米川文子、尺八本手が山本真山。パンフレットでは尺八は山本邦山になっていますが、残念ながら2月にお亡くなりになったため、息子さんの山本真山に変更になりました。米川文子の箏の響きを聴いて、その枯れた音色に驚きました。こういう響きの箏を聴くのは初めてです。音量は小さ目ですが味わいがあり、じっと聴き入ってしまいました。まさに名人の領域です。

2曲目は《楓の花》。いわゆる明治新曲で、箏曲家松阪春栄の作曲です。箏高音が米川文子、箏低音が米川敏子。これまた、米川文子の枯れた味わいの歌に魅了されました。手事の箏2重奏も見事な出来栄えでした。

休憩後、最後の3曲目は《残月》。峰崎勾当の作になる、いわゆる手事物です。三弦替手が米川文子、三弦本手が富山清琴。お二人の張りのある三弦の響きは見事としか言えません。とても素晴らしい演奏に圧倒されました。これぞ、日本音楽の奥深さです。

米川文子は大正十五年、1926年の生まれですから、御年87歳。人間国宝に相応しい素晴らしい演奏を堪能させてもらいました。まだまだお若い富山清琴(2代目)も初代富山清琴の枯れた味わいには届かぬものの素晴らしい三弦と歌を聴かせてもらい、今後が楽しみに感じました。邦楽の世界は年齢を重ねることで芸術を極めていく世界のようです。





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テーマ : 邦楽
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ブダペストの2日間:ブダペスト西洋美術館~クラナッハ

2013年5月31日金曜日@ブダペスト/8回目

ブダペスト西洋美術館Szépművészeti Múzeum(ブダペスト国立美術館)の充実したコレクションの紹介の続きです。
今回はクラナッハの作品ほかを見ていきます。

これはクラナッハの《キリストと姦淫の女》です。1532年頃、クラナッハ60歳のときの作品です。
絵のテーマは以下の通りです。

 律法学者たちやファリサイ派の人々が、
 姦通の現場で捕らえられた女を連れて来て、イエスに言った。
 「この女は姦通をしているときに捕まりました。
  こういう女は石で打ち殺せと、モーセは律法の中で命じています。
  ところであなたはどうお考えになりますか。」
 イエスは言われた。
 「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい。」
 これを聞いた者は年長者から始まって、一人また一人と立ち去ってしまいました。                              
           ヨハネ福音書より


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同じテーマの作品は多く、saraiもミュンヘンのアルテ・ピナコテークで見ています。そのときの記事はここです。

これはクラナッハの《洗礼者ヨハネの首を持つサロメ》です。1530年頃、クラナッハ58歳のときの作品です。同じような構図の作品としては《ユディット》がありますね。衝撃的な絵画ですが、何故か、惹きつけられる魅力があります。とても好きな作品です。サロメの物語は後にオスカー・ワイルドが書き、R・シュトラウスが傑作のオペラを完成させました。


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これはクラナッハの《幼子に授乳する聖母》です。1512-16年頃、クラナッハ40-44歳のときの作品です。クラナッハの聖母子像も多いですが、この作品は聖母マリアの表情が沈んでいます。キリストの受難を予感しているのでしょうか。クラナッハにはマリアを美しく描いてほしいですね。


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これはメムリンクの《十字架磔刑》です。1491年以降の作品です。キリストの磔刑を中央に描いた最後の大祭壇画。メムリンクはドイツ生まれでベルギーのブルージュで活躍した画家です。来年あたり、ブルージュを訪れ、メムリンクの作品群を鑑賞することを現在、目論んでいます。


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これはヴェロネーゼの《十字架のキリスト》です。制作年不詳です。エステルハージイ・コレクションから移された作品です。ヴェロネーゼはヴェネツィア派の画家で、迫力のある大作を描いています。


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ブダペスト西洋美術館(ブダペスト国立美術館)のコレクションの紹介はさらに続きます。


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テーマ : ヨーロッパ
ジャンル : 海外情報

 

ブダペストの2日間:ブダペスト西洋美術館~モネ、ゴーギャン、ボナール、ドニ

2013年5月31日金曜日@ブダペスト/9回目

ブダペスト西洋美術館Szépművészeti Múzeum(ブダペスト国立美術館)の充実したコレクションの紹介の続きです。
今回はモネ、ゴーギャン、ボナール、ドニの作品を見ていきます。

これはモネの《釣舟》です。1886年頃、モネ45歳のときの作品です。1874年の第1回印象派展からは10年以上の月日も過ぎ、愛妻カミーユとも死別し、居をジヴェルニーに構えたのは1883年のことで、この絵はその3年後の作品です。この頃、モネは頻繁に旅をしており、この作品も旅先で描いたのでしょう。3艘の釣り船は荒々しい波にさらされています。これはモネの心境なのでしょうか。


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これはモネの《秋咲くリンゴの木》です。1879年頃、モネ38歳のときの作品です。上の作品に先立つこと7年の作品。パリからはセーヌの50kmほど下流にある小さな村ヴェトゥイユで暮らしていました。この作品はそのあたりの風景でしょうか。やはり、モネにはこういう風景が似合いますね。


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これはゴーギャンの《雪に覆われた庭》です。1879年頃、ゴーギャン31歳のときの作品です。ゴーギャンはこの頃は株式仲買人(証券会社の社員)として働くかたわら、日曜画家として絵を描いていました。この絵もとても綺麗な風景画ではありますが、後のポン=タヴァン派のリーダーとしての新しい作風の特徴は見られません。


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これはゴーギャンの《黒豚》です。1891年、ゴーギャンが43歳で憧れていたタヒチに渡ったときの作品です。画業に専念し、ポン=タヴァン、ゴッホとの共同生活を経た後の作品です。ポン=タヴァン派の特徴であるくっきりした輪郭線で描かれ、南国の島の明るい色彩が印象的です。平面的な描き方も顕著に見られるようになってきました。


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これはボナールの《午餐》です。1899年頃、ボナール31歳のときの作品です。ボナールはゴーギャンを師と仰ぐナビ派の中核的存在です。この作品は最も日本浮世絵からの影響が感じられる作品です。テーブルや人は画面の端で断ち切られた構図になっていますが、伝統的な西洋絵画ではなかったものです。色彩は落ち着いた茶系なのもこのころまでの特徴で、この直後には華やかな色彩の絵画に変わっていきます。


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これはボナールの《祖母と子供》です。1894年頃、ボナール26歳のときの作品です。上の作品と同様にテーブルも祖母も画面から大きくはみ出していますね。「日本的なナビ」と呼ばれる所以です。


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これはドニの《母の喜び》です。1895年、ドニ25歳のときの作品です。ドニもナビ派を代表する画家のひとりです。絵画作品は見たものをそのまま描くのではなく、精神創造活動の賜物という信念を貫いています。この作品はドニらしい特徴が諸処にうかがえる作品です。特に白の衣服のこんもりとした質感は素晴らしいですね。


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ブダペスト西洋美術館(ブダペスト国立美術館)のコレクションの紹介はさらに続きます。



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ブダペストの2日間:ブダペスト西洋美術館~ウーデ、ベックリン、マカルト、レンバッハ

2013年5月31日金曜日@ブダペスト/10回目

ブダペスト西洋美術館Szépművészeti Múzeum(ブダペスト国立美術館)の充実したコレクションの紹介の続きです。
今回はウーデ、ベックリン、マカルト、レンバッハの作品を見ていきます。

これはウーデの《キリストの埋葬》です。1900年頃、ウーデ52歳のときの作品です。フリッツ・フォン・ウーデはドイツの印象派を代表する画家の一人です。エッと驚かれるかもしれません。宗教画とも思えますね。ウーデは普通の意味での印象派の画家ではなくて、印象派と宗教性との融合を図った作品を多く描いています。この作品でも死せるキリストを囲むのは現実の世界です。同様の絵画はベルリンの博物館島にある旧ナショナル・ギャラリーでも見ました。そのときの記事はここです。そのときにも書きましたが、現実の風景にキリストを登場させる意味はあまり理解できません。


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これはウーデの《山上でのイエスの説教》です。1887年、ウーデ39歳のときの作品です。これも現実の世界にイエス・キリストが登場し、教えを説いています。こんなにキリストの登場する絵を描いているのは、世紀末の終末思想の故なのでしょうか。現実の世界に失望し、救世主の再登場を希求しているかのようです。


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これはベックリンの《春の夕べ》です。1879年、ベックリン52歳のときの作品です。ベックリンはスイスのバーゼルで生まれ、イタリアのフィレンツェのフィエゾレの地で没しました。ドイツを活躍の場としたため、ドイツの象徴主義の画家と考えられます。ベックリンは何と言っても《死の島》で有名ですね。saraiもベルリンの旧ナショナル・ギャラリーとバーゼル美術館で《死の島》を見ました。今回の作品は《死の島》と同様にフィエゾレに住まいを定めた円熟期に描かれたものです。裸体の女性と怪物が登場する幻想的な絵画はベックリンの典型的なテーマです。残念ながら、あまり、saraiの好みではありません。


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これはベックリンの《鍛冶屋にいるケンタウルス》です。1888年、ベックリン61歳のときの作品です。空想上の生物ケンタウルスが現実の鍛冶屋でひずめを直してもらっているという奇妙なテーマの絵画です。そのアンバランスさが面白いのかもしれませんが、なんだかね・・・。


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これはマカルトの《デイアネイラDeianeiraを連れ去るケンタウロスのネッソスNessos》です。1880年頃、マカルト40歳のときの作品です。ハンス・マカルトはオーストリアの19世紀の画家で、ウィーンの宮廷で活躍し、歴史画の大作を数多く描いたアカデミック美術を代表する画家です。この作品もそのひとつですが、こうやって見ると、ベックリンの作品と似ていますね。マカルトの作品の特徴は色使いの美しいことです。最近、ウィーンではマカルトを大きく取り上げた美術展が開かれて、再評価の動きもあります。


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これはレンバッハの《ローマのティトゥス帝の凱旋門》です。1860年頃、レンバッハ24歳のときの作品です。フランツ・フォン・レンバッハ伯爵は伯爵画家として知られています。ドイツの写実主義の画家です。この作品は古代の遺跡を舞台に精密な人物描写が光る作品になっています。


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今回のブダペスト西洋美術館での鑑賞はこのあたりで切り上げます。まだまだ、見きれていない名品も収蔵されている素晴らしく充実したコレクションの美術館です。旅の初日ですから、作品鑑賞はこれぐらいが体力の限界でした。

美術館を出て、英雄広場Hősök tereを少し見ましょう。美術館の前からは英雄広場は横から見ることになります。とても広い広場です。


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英雄広場はブダペストのシンボルのようなところです。23年ぶりに見てみます。



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ブダペストの2日間:懐かしい英雄広場、そして、素晴らしいオペラ

2013年5月31日金曜日@ブダペスト/11回目

ブダペスト西洋美術館Szépművészeti Múzeumの充実したコレクションを見た後、美術館の前に広がる英雄広場Hősök tereを見ます。23年前の1990年に訪れたときの記憶とまったく変わりません。英雄広場はハンガリー建国1000年を記念して、1896年に作られました。アンドラーシ通りAndrássy útの北端に位置します。広場で一番目立つのは中央に建つ塔です。これは高さ35mの建国1000年記念碑Millenniumi emlékműです。上に立つ像は大天使ガブリエルです。言い伝えでは、西暦1000年のクリスマスにローマ法王シルベステル2世の夢に大天使ガブリエルが現れ、イシュトヴァーン1世にハンガリー国王の王位を授けるように告げたということです。


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この建国1000年記念碑の背後の左右には扇形上に列柱が並び、柱の間にハンガリー歴代の国王や英雄達の14人の像が配置されています。左右の扇状の柱の上の両端には4体の像が並びます。手前から順に《労働と繁栄》、《戦い》、《平和》、《学問と芸術》を表しているそうです。


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広場の向かい(西洋美術館から見て)には、西洋美術館と同様にギリシャ様式の建物が建っています。これは現代美術館(ミューチャルノクMűcsarnok)です。現代アートの企画展が行われているそうです。


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これは建国1000年記念碑の基部です。騎馬像がぐるりと並んでいます。9世紀後半にハンガリーの地に足を踏み入れた7人のマジャール族の部族長たちです。ハンガリー建国の父たちとも言える人達です。


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英雄広場を後にする前に最後にもう一度、西洋美術館の重厚な姿を眺めます。


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英雄広場からは地下鉄M1に乗ってホテルに戻ります。最寄駅バイチ・ジリンスキ通りBajcsy-Zsilinszky útに着き、地上に上がるために、また超高速エスカレータに乗ります。少し慣れてきたので、思い切って乗りましょう。


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とても長いエスカレータです。これは超高速にしてもらったほうがいいでしょうね。


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地上には果物屋さんがあります。特別な果物は見当たりませんが、異国の店先は珍しく感じます。


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4時頃にホテルに戻りました。

ここまでのルートを地図で確認しておきましょう。


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どうも旅の初日は疲れます。いったん、ホテルの部屋で休憩(お昼寝)します。元気を回復したところで正装してハンガリー国立歌劇場Magyar Állami Operaházに向かいます。旅の初夜はハンガリー国立歌劇場でオペラ鑑賞です。ホテルからはバス1本で移動できます。70/78番のバスでバス停アンドラーシ通りAndrássy út (Opera M)まで行くと、すぐ近くにハンガリー国立歌劇場があります。ハンガリー国立歌劇場は重厚な造りの立派な歌劇場です。


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これが建物正面です。ネオルネサンス様式の堂々たる建物です。1884年に完成した歴史あるものです。


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内部も色大理石を多用した美しい装飾です。


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開演45分前でまだ入場できません。いったん外に出ます。建物前には可愛いスフィンクス。saraiの好みの像です。だって、女性のスフィンクスですからね。


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少しハンガリー国立歌劇場周辺を散策します。ハンガリー国立歌劇場正面に向かって右手には小さな通りがあります。ハヨーシ通りHajós utcaです。以前、BS放送でこのハヨーシ通りの住民達の生活を取り上げていました。そのときから気になっていたハヨーシ通りなので、歩くのが楽しみです。


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街角には綺麗なカフェがあります。


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ハヨーシ通りを進むと、BS放送の番組で取り上げられた小さな電気屋さんと思われるお店を発見。何となく成就感があります。お店のご主人の姿は残念ながら見えません。彼はオペラのファンでした。今日もオペラを見に来るかもしれませんね。


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通りの名前Hajós utcaの銘板があります。


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こういう美しい通りも交差しています。


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歌劇場の前に戻ってきました。歌劇場は大きなアンドラーシ通りAndrássy útに面しています。この通りを北に進むと英雄広場Hősök tereに達します。


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ここまでの散策のルートを地図で確認しておきましょう。


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ようやく開場したので、入場します。チケットはネットで購入し、自宅プリンターで印刷済です。前から2列目の最上の席が1枚12000フォリント(約6000円)ですから、大変低価格です。


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内部は天井画、シャンデリアなど凝った装飾になっています。素晴らしいですね。


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かなり聴衆も入ってきました。オペラの始まる前の雰囲気はいつもながら、わくわくしてしまいます。


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オーケストラピットの中では、オーケストラ奏者たちが練習に余念がありません。


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今日のオペラはヴェルディの《シモン・ボッカネグラ》です。期待以上の素晴らしい出来に大満足。大変堪能しました。詳細記事はここです。

オペラ鑑賞後、バスでホテルに戻ります。長い1日に力尽き、バッタリと就寝です。オヤスミナサイ・・・


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テーマ : ヨーロッパ
ジャンル : 海外情報

 

至高のバッハ:アンドラーシュ・シフ・ピアノ・リサイタル@紀尾井ホール 2014.3.14

初めてアンドラーシュ・シフの演奏をCDで聴いたのは、友人が是非聴いてほしいとフランス組曲のCDを貸してくれたときです。そのアルバムには今日の演目のフランス風序曲も含まれていました。それまではバッハの鍵盤音楽のピアノ演奏と言えば、グレン・グールド、そして、クラウディオ・アラウのファイナル・セッションのパルティータ4曲、それにマルタ・アルゲリッチの若い時のバッハ・アルバムだけを聴いていました。アンドラーシュ・シフのフランス組曲のアルバムを聴いて、いっぺんに魅了されました。すぐにパルティータのCDも購入し、聴いてみましたが、これは今一つ。後年、パルティータは新録音のアルバムが出て、大変満足しています。シフのバッハ演奏は若い時から一定のレベルにありましたが、昨今の充実ぶりは目を見張るものがあります。パルティータはアラウ(4曲のみ)、アルゲリッチ(第2番のみ2種の録音あり)、シフがsaraiにとって3強です。フランス組曲、フランス風序曲はシフが断トツ。シフの他のバッハのCDもどんどん再録音してくれることが望まれます。

そういうわけで、前からシフのバッハ演奏を実演で聴きたかったんですが、これまで機会に恵まれませんでした。今年、来日することを知りましたが、サントリーホールやみなとみらいホールではバッハの演奏はありません。がっかりしていたら、紀尾井ホールだけでバッハの演奏があることを知り、これは是非、聴いてみたいと思い、優先予約で確実にチケットを入手するために紀尾井ホール会員に入会。首尾よく、チケットを入手できました、それも最上に近い席です。

実は今日まで3泊4日で京都の旅に出かけており、今日は京都から新幹線に乗って、直接、紀尾井ホールに向かいました。寒の戻ってきた夕刻、期待に胸を膨らませて、四ツ谷の駅に降り立ちました。そして、生涯の中でも最高のバッハに出会うことができました。

まず、今日のプログラムを紹介しておきます。

 J.S.バッハ:二声のインヴェンション BWV772-BWV776 第1番~第5番
 バルトーク:子供のために BB53 Sz.42より10曲
 J.S.バッハ:二声のインヴェンション BWV777-BWV781 第6番~第10番
 バルトーク:(スロヴァキア)の民謡からの3つのロンド BB92 Sz.84
 J.S.バッハ:二声のインヴェンション BWV782-BWV786 第11番~第15番
 バルトーク:組曲 Op.14, BB70 Sz.62

  《休憩》

 J.S.バッハ:フランス風序曲 ロ短調 BWV816
 バルトーク:ピアノ・ソナタ BB80 Sz.80

  《アンコール》
 J.S.バッハ:フランス組曲第5番 ト長調 BWV831(全7曲)
 J.S.バッハ:イタリア協奏曲 ト長調 BWV971より第1楽章
 J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻第1番 ハ長調 BWV846 前奏曲とフーガ

最初は二声のインヴェンションから初めの5曲です。第1番の耳慣れた曲が流れてきますが、シフの独特の節回しに魅了されます。30年前のCDでも同じスタイルではありますが、現在のシフはレベルの異なる演奏です。大きく違うのは響きの豊かさです。完全にペダルから足を離したノンペダル奏法ですが、とてもそれを感じさせない響きの豊かさがあります。それでいて、音の濁らないピュアーな響きでもあります。ピアノはスタインウェイですが、何かピアノに仕掛けでもあるかのような驚異的な演奏です。この響きはパルティータの新録音でも感じたものです。シフの演奏している姿を見て思いました。この人は大変バッハの音楽に愛情を注いでいて、まるで慈しむかのようなデリケートな演奏です。こういう気持ちをたゆまなく抱いて、長い月日の努力を経て、素晴らしいバッハの演奏に到達したんだという強い思いにかられました。子供の練習曲とも言える二声のインヴェンションが芸術の薫り高い音楽に昇華した演奏に驚愕していているうちに第5番まで終了。

次に休みも置かずにまるでバッハのインヴェンションの続きのようにバルトークの《子供のために》が始まります。この曲もバルトークが書いた練習曲。繊細な響きではありますが、バッハの音楽のようにまではソフィスティケートされていなかったのは残念。もっともシフは野性味を表現したかったのかもしれません。バルトークはシフにとって《お国もの》になりますが、民族的な表現を志向せずに20世紀の古典音楽のような表現に聴こえました。なお、バルトークはペダルを使った演奏。それでもペダルの使い方は最小限です。

次はまた二声のインヴェンションの第6番に戻ります。ここではバルトークから少し間をおいての演奏です。バルトークとの対比で実に優しげな音楽が始まります。第7番ホ長調は大変素晴らしく、心に沁み入る演奏です。バッハの鍵盤音楽の最高レベルの音楽に聴こえます。じっと聴き入り、大きな感銘を受けました。続く第8番ヘ長調は一転して、愉悦に満ちた演奏です。弾き始める前にシフの口許から軽い笑みがこぼれていました。自在な演奏に心が高揚します。続く第9番は第7番と同様に感銘深い音楽。シフの起伏の大きい音楽表現にますます驚くばかりです。

次のバルトークは当日演奏曲目の変更になったものです。当初は《3つのブルレスケ》でした。《民謡からの3つのロンド》は予習ももちろんしていませんし、CDでも未聴の曲です。民謡をもとにしたバルトークらしい音楽ではありましが、正直、演奏を把握するところまではいきませんでした。多彩な表現と繊細な響きだけが耳に残りました。

次は二声のインヴェンションの最後の5曲です。何と言っても最後の第15番ロ短調のフーガが素晴らしく、感銘を受けました。

次はバルトークの組曲です。これは耳馴染んだ曲でもありますし、シフの見事な演奏に乗せられました。バルトークらしい激しさとリズムを持った曲ですが、ある意味、とても上品な表現。saraiも昔はスリリングな演奏を好みましたが、こういう豊かな響きで古典的に演奏されるのも感銘を受けます。年齢、時代とともに音楽の感じ方も変わります。バルトークも先鋭さだけでなく、音楽の深みで聴く時代になってきたのかもしれません。まあ、それも演奏家の優れた音楽性あったればこそ、ですけどね。

休憩後、この日のメインの2曲。
まず、バッハのフランス風序曲です。第1曲の序曲の素晴らしいこと。荘重な付点のメロディーの美しさ、フーガの繊細な表現が繰り返されて、とても高揚感を覚えました。続く舞曲も素晴らしく、特にガヴォット、パスピエには心が躍ります。そして、最後のエコーには感動。素晴らしい最高のバッハを聴きました。少なくともこの時点ではそう思っていました。

最後はバルトークのソナタ。これは素晴らしい。組曲と同様にスリリングさと野性味で押し通すような低レベルの演奏とは根本的に違っています。人気最高の若手某ピアニストの演奏をテレビで聴いたことがありますが、今日の演奏の対極のような演奏で音楽というよりもスポーツのようで、派手にスリル感だけを前面に出したものでした。今日のシフの演奏はバルトークの音楽の奥深さ、精妙な和音・不協和音の響きとリズム、これらが交錯して、20世紀最高とも思えるピアノ音楽を見事に表現したものでした。最後に椅子が後ろにずれるほどの激しい表現も音楽の高みに上り詰めたものと思います。最高のバルトークでした。

アンコール曲は当然、バッハとバルトーク、1曲ずつかと思っていました。
ところが、まず、バッハではありましたが、凄く耳馴染んだ曲が流れてきます。最初は分かりませんでしたが、2曲目、3曲目と続きます。あっ、これはフランス組曲です。何番かは分かりかねますが、saraiの大好きな曲です。フランス組曲を弾かせたら、断トツのシフが目の前で素晴らしい演奏です。CDの演奏も素晴らしかったですが、これはそんなものではありません。結局、フランス組曲第5番を全曲弾いてくれました。この日、最高の演奏でした。実にピュアーな響きで華のある演奏。フランス組曲も再録音してほしいですね。

アンコール2曲目は、何とイタリア協奏曲。まるで、バッハの名曲演奏会のようになってきました。イタリア協奏曲はいたずらに派手な演奏が多いですが、シフの演奏は節度のある美しい演奏です。うっとりと聴き入っていたら、第1楽章でやめてしまいました。フランス組曲同様、全曲演奏してくれるものだと思っていたのに残念。

しかし、アンコールの3曲目がありました。それも平均律です。大好きな第1番が鳴りはじめたときは信じられませんでした。分散和音のような前奏曲の素晴らしい響き、それに続く素晴らしいフーガ。リサイタルの最高の締めになりました。だって、平均律の後に弾ける曲なんてありませんものね。平均律に匹敵するのはゴールドベルク変奏曲ですが、これは長すぎる!

アンコールがリサイタルの第3部のようになりました。それも最高のメインです。

シフのバッハの素晴らしさに驚愕し、高揚した気持ちのまま、帰途に着きました。旅の疲れも吹っ飛びました。そうそう、明日からはその京都の旅の記事を書き始めます。ご愛読ください。ブダペストの旅はそれまで休止しますので、悪しからず。





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テーマ : クラシック
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       シフ,  

愛の渇望 マーラー交響曲第9番:インバル&東京都交響楽団@横浜みなとみらいホール 2014.3.16

インバルと東京都交響楽団のマーラー・チクルスのラスト・コンサート。期待するなというほうが無理ですが、微妙な結果になりました。まだ、明日のサントリーホールでも聴くので、実質的にはそちらが本当のラスト・コンサート。最終結論はそこまで持ち越しです。

とても素晴らしい演奏ではありました。しかし、マーラーの交響曲第9番は感動なしでは満足できません。で、感動できなかったんです。何故だろうと思いましたが、自分の感受性の問題もありますが、インバルの解釈とsaraiの思いに大きな相違があったようです。先日のマーラーの第6番もそうでした。saraiは第9番で愛による最終的な救済を得ることで甘美な死を迎えるというドラマに大きな感動を感じることが望みなんです。インバルは愛を渇望するけれども決して報われない。そして、絶望のうちに薄明の死に至るというストーリーを描いているように感じます。これは第6番と同じ悲し過ぎる音楽です。

都響の演奏は特に第3楽章以降は素晴らしかったと思います。しかし、感動はなく、暗然たる気持ちが残りました。

明日に期待します。saraiの感じ方もおかしかったのかもしれません。これ以上の感想は明日の演奏を聴いて、また、書きます。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:エリアフ・インバル
  管弦楽:東京都交響楽団

  マーラー:交響曲第9番ニ長調






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ラファエル前派展@森アーツセンターギャラリー 2014.3.17

この美術展も4月6日で終了するというので、慌てて出かけました。夜はサントリーホールでインバル&東京都交響楽団のマーラー交響曲第9番があるので、その前に見ておきます。美術展の会場は六本木ヒルズですから、最寄りの地下鉄は六本木。サントリーホールは六本木一丁目ですから、美術展の後、歩いて移動できます。

ラファエル前派展は何度も日本で開催されているので、配偶者にまた行くのって呆れられましたが、ラファエル前派が好きなんだから仕方がありません。特にロセッティの絵は大好きです。六本木ヒルズの3階のチケット売り場でチケットをゲット。一人1500円は高いですね。


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この3階からは専用の高速エレベーターに乗って、一気に52階の会場まで上がります。今日はこの52階の別の会場でアンディ・ウォーホル展も開催されています。滅茶滅茶混んでいるわけではありませんが平日の月曜日の夕方にしては人が集まっています。それなりにラファエル前派のファンも増えてきたようです。

ラファエル前派とは、1848年、英国ロイヤル・アカデミー(王立美術院)の付属美術学校で学んでいた19歳のジョン・エヴァレット・ミレイ、21歳のウィリアム・ホルマン・ハント、20歳のダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの3人がアカデミズムに反旗を翻して、ラファエルよりも前の初期ルネサンス芸術に回帰しようとラファエル前派兄弟団:Pre-Raphaelite Brotherhoodを結成し、革新的な美術運動を始めたことにその起点があります。
今回の美術展では、ロンドンのテート美術館から72点もの作品、それもとびきりの傑作揃いが来日するので、ラファエル前派の全貌を余すところなく、鑑賞できるでしょう。

ラファエル前派と言ったら、やはり、ロセッティとミレイの二人が気になります。彼らの作品を中心に見ていきましょう。

主な展示作品をご紹介しましょう。

まず、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティです。彼はラファエル前派の創設メンバーの一人ですが、独自の作風に変貌していきます。その創作力の源となったのは2人のファム・ファタル(運命の女)です。最初のファム・ファタルはエリザベス・シダル、通称リジーです。病弱ではかなげな彼女にロセッティは魅入られ、彼女をモデルに次々と作品を描いていきます。ところでロセッティは女性しか描かない画家として知られています。彼の創造力の原点は女性への愛にありました。彼はリジーをダンテの神曲で天上に誘う存在ベアトリーチェと重ね合わせていました。結局、ロセッティの女性遍歴に悩んだリジーはアヘンチンキの多量服用で事故とも自殺とも分からぬ死を遂げます。ロセッティとリジーが結婚して2年後のことでした。リジーの死後、ロセッティは彼女の思い出に捧げる1枚の絵を描きます。それが《ベアータ・ベアトリクス》です。「至福のベアトリーチェ」という意味です。この不朽の傑作によって、リジーは永遠の命を持つことになります。何と言う素晴らしい絵でしょう。


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リジーの死後、ロセッティは2番目のファム・ファタルと恋に落ちます。それは当時、ウィリアム・モリスの妻だったジェーン・モリス(結婚前はジェーン・バーデン)です。不倫と言えば、不倫ですが、この関係はそう単純でもなかったようです。モリスはロセッティへの崇拝の念から、この三角関係を受け入れ、別荘での2人の愛の暮らしを認めました。ジェーンはモリスの妻としての暮らしと別荘でのロセッティとの愛の暮らしという2重生活を送るようになります。そして、ジェーンをモデルにした不朽の傑作が生まれます。それが《プロセルピナ》です。プロセルピナはギリシャ・ローマ神話に登場する女神の娘で冥界の王プルートによって略奪されます。ローマのボルゲーゼ美術館にあるベルニーニの代表作「プロセルピナの略奪」はとても大理石彫刻とは思えない柔らかい肉感に満ちていたことを思い出します。ともあれ、冥界に略奪されたプロセルピナは柘榴の実を食べてしまったために1年の半分は冥界で過ごさなければならなくなってしまいました。ジェーンの2重生活とプロセルピナのそれが重なっています。それにしても、ロセッティの描いたジェーンの途轍もない美しさは素晴らしいですね。美を飛び越して、凄みとも思えます。実にデモーニッシュな絵画です。


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今回の美術展では、《ベアータ・ベアトリクス》と《プロセルピナ》が2枚並んで、最後に展示してありました。長い間、2枚を見比べて、ため息をついていました。いずれも不朽の傑作です。どちらも美の極致と言えます。素晴らし過ぎて、眩暈がしてしまいます。今回の美術展は極論すれば、この2枚を見れば、それがすべてと思われます。天才画家が自分の身を削るようにして描き上げた芸術作品は圧倒的な魅力に満ちていました。

気を取り直して、ロセッティのほかの作品も見ておきましょう。今回、17作品も持ってこられたようです。
これは《受胎告知(見よ、われは主のはしためなり)》です。受胎を告げられるマリアのはかなげな様子がたまりません。モデルは妹のクリスティーナ。彼女は後に詩人になったそうです。画面全体が白が基調になっているのもよい雰囲気ですね。


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これは《ダンテの愛》です。ウィリアム・モリスが自ら内装を手がけたレッド・ハウス(モリスとジェーンの屋敷)の長椅子の扉に描かれたパネル画で未完に終わりました。ダンテの神曲のベアトリーチェを主題に愛こそすべてと寓意的に描いた作品です。難解な作品ですが、何か心に残る作品です。


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これは《最愛の人(花嫁)》です。ヴェールを持ち上げ、最愛の人を見つめる眼差しはまぶしいですね。聖書に題材をとった作品です。花嫁はもとより、付添人もみな美しいです。


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次はジョン・エヴァレット・ミレイです。何と言っても《オフィーリア》が有名です。モデルはロセッティの妻になるリジーです。ミレイが23歳のときの作品。青年ミレイの不朽の名作です。ロンドンに留学していた夏目漱石が小説《草枕》のなかでこの作品に言及しているのは興味深いところです。最初はこの絵はあまり気に入らなかったようですが、だんだんとその魅力に気が付いていったというくだりがあります。


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これは《安息の谷間》です。二人の修道女を描いた作品ですが、実に緻密に描かれています。写実的にも思えますが、見ようによってはシュールな絵画にも思えるような雰囲気を湛えた魅力ある作品です。


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これは《両親の家のキリスト》です。キリストの父ヨセフの大工の仕事部屋で掌に傷を負ったキリストと労わるマリアが描かれている珍しい構図の作品です。この作品は文豪ディケンズに「醜悪で不快の極致」と酷評されます。そんな窮状を救ったのが批評家ジョン・ラスキンでした。ラスキンの擁護にも助けられ、この作品の2年後に発表したのが《オフィーリア》でした。しかし、ミレイにとってラスキンとの出会いはもっと運命的なものをもたらします。ラスキンの10歳年下の美しい妻エフィと恋に落ちたのです。離婚訴訟を経て、ミレイとエフィは幸せな結婚を果たします。しかし、結婚後、生活を支えるために売れる作品作りに励んだミレイはそれまでの緻密な表現を捨てます。芸術に命を捧げたロセッティと幸せな後半生を送ったミレイ、果たして、どちらが人生を全うしたと言えるのでしょう。ミレイの代表作は結婚前の作品がほとんどです。


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これは《マリアナ》です。極めて緻密に描かれた傑作です。この腰を伸ばしている婦人の官能美はどうでしょう。着衣ゆえの官能美ってあるんですね。


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次はロセッティ、ミレイ以外の作品も何点か見ていきましょう。

これはウィリアム・ホルマン・ハントの《クローディオとイザベラ》です。ハントはラファエル前派を立ち上げた創設メンバーの一人。この作品はシェークスピアの戯曲に基づくものです。領主代理から修道女になった妹が自分に純潔を捧げれば、死刑判決を受けた兄の命を助けると言われます。画面では妹が兄に運命を受け入れるように諭しています。人物の内面表現が見事です。


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これはアーサー・ヒューズの《4月の恋》です。ヒューズはミレイに強く魅かれていた画家で、この作品もミレイを思わせる緻密な表現が見事です。女性の背後には影のように恋人が描かれていますが、美しい女性を中心に据えた表現は素晴らしいですね。女性の初々しい恋心が画面いっぱいに広がっています。


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これはヘンリー・ウォリスの《チャタトーン》です。一目見てぎょっとする作品です。詩人チャタトーンの自殺の場面です。蝋のように青白い顔に視線が釘付けになります。実にリアルな表現に驚愕です。


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これはエドワード・バーン=ジョーンズの《「愛」に導かれる巡礼》です。バーン=ジョーンズはロセッティに憧れていた画家でロセッティの手ほどきを受けます。親友のウィリアム・モリスも加わって、第2次ラファエル前派とも言うべきグループになります。やがて、バーン=ジョーンズはロセッティの影響から次第に離れ、独自の神秘的な作風に変わっていきます。4度にわたるイタリア旅行でボッティチェリやミケランジェロの影響を受けるようになります。彼の幻想的な作風は世紀末の象徴主義に大きな影響を与えることになります。
この作品はイギリスの詩人チョーサーのフランス寓意詩「薔薇物語」の翻訳に基づくものです。愛の神に目を弓で射られ、薔薇に恋をする詩人(巡礼)が愛の神に導かれて、茨から出て、薔薇のほうに向かう様を描いています。薔薇は痛みと喜びの両方をもたらす存在です。


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今回の美術展は実に充実したものでした。ご紹介していない作品にも素晴らしいラファエル前派の作品が多数ありました。一見の価値があります。





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テーマ : art・芸術・美術
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超名演に感動!マーラー交響曲第9番:インバル&東京都交響楽団@サントリーホール 2014.3.17

何も多くのことを語る言葉はありません。ただただ、マーラーの交響曲第9番の素晴らしい音楽が胸に迫ってきて、万感の思いでした。インバル&東京都交響楽団のマーラー・ツィクルスはこれで本当に終わりました。そのラスト・コンサートにふさわしい最高の名演に立ち会えた幸せで胸がいっぱいです。
また、このコンサートはインバルが東京都交響楽団のプリンシパル・コンダクターとして2008年以来指揮してきたラスト・コンサートでもありました。この二重の意味でのラスト・コンサートというと、故ガリー・ベルティーニのラスト・コンサートも想起され、深い感慨を覚えずにはいられませんでした。

昨日のみなとみらいホールでの不満を完全に払拭する素晴らしい演奏への強い感動、そして、数々の名演を聴かせてくれたインバルへの感謝の念がないまぜになって、終演後は最初は静かな拍手(消え入るようなアダージョの後に大きな拍手はとてもできません。胸の中の深い感動を大事にしまっておきたいですからね。)、そして、3回にわたるコンダクター・アンコールには感謝の気持ちを込めた盛大な拍手を送りました。

インバル&東京都交響楽団を聴き始めたのは実はそんなに昔のことではありません。最初に聴いたのはマーラーの交響曲第2番《復活》でした。約4年前の2010年6月20日、インバルがプリンシパル・コンダクターに就任して2年ほどの頃です。その前日はsaraiは長年勤めてきた会社をリタイアした日。まさにこの《復活》がsaraiのリタイアライフの出発の日、新たな人生の復活の日でもありました。以来、マーラーの数々の名演、そして、ブルックナー、ショスタコーヴィチ、ブラームスなどの名演に酔いしれてきました。これまでのなかで素晴らしかった思い出の名演は以下です。

 マーラー:交響曲第2番《復活》 2010年6月19日
 マーラー:《大地の歌》 2012年3月29日
 マーラー:交響曲第3番 2012年10月27日
 マーラー:交響曲第4番 2012年11月4日
 マーラー:交響曲第5番、リュッケルトの5つの歌: 2013年1月22日
 マーラー:交響曲第8番 2014年3月9日
 マーラー:交響曲第9番 2014年3月17日(今日のコンサート)

やはり、すべて、マーラーになってしまいました。《復活》と《大地の歌》以外は今回のマーラー・ツィクルスです。
前回のベルティーニ&東京都交響楽団のマーラー・ツィクルスを上回る充実の演奏でした。

さて、今回のマーラーの交響曲第9番のコンサートに向けて、以下の7枚のCDで予習しました。これまでも十分にCDを聴いてきましたので、聴き洩らしていた名演を中心に聴いてみました。ですから、バーンスタインやバルビローリ、クーベリックなどの超名盤はあえて聴きませんでした。

 ヴァーツラフ・ノイマン チェコ・フィル 1995年
 クラウディオ・アバド ウィーン・フィル 1987年
 ロリン・マゼール ウィーン・フィル 1984年
 ベルナルド・ハイティンク アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1969年
 ベルナルド・ハイティンク アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1987年 DVD(クリスマス・マチネー)
 ベルナルド・ハイティンク ECユース管弦楽団 1993年
 マイケル・ティルソン・トーマス サンフランシスコ交響楽団 2004年

ノイマンは彼の亡くなる直前の最後の録音となりました。このCDも感動の演奏です。今年亡くなったアバドは最新のルツェルン祝祭管弦楽団とのCDよりもこのウィーン・フィルとの演奏のほうが素晴らしい出来に思えます。ハイティンクは今では想像もできない熱い演奏です。特に合奏力で劣ると思われるECユース管弦楽団とのCDに感銘を受けました。1987年のクリスマスの演奏にも感動、これは翌年、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の音楽監督を辞する直前の演奏です。最後にマイケル・ティルソン・トーマスの演奏を始めて聴きましたが、評判通り、繊細で美しいアダージョに強い感銘を受けました。実演を聴いてみたいですね。

まずは今日のプログラムです。

  指揮:エリアフ・インバル
  管弦楽:東京都交響楽団

  マーラー:交響曲第9番ニ長調

今日は昨日のみなとみらいホールでの演奏と異なり、第1楽章の深いため息のような弦楽合奏の響きが胸に沁み入ってきます。今日は特に弦楽セクションの内声部、第2ヴァイオリンとヴィオラが素晴らしい響きです。弦楽セクションの分離のよい響きとそれらの統一感が素晴らしいです。いきなり、強い感動を覚えました。長大な第1楽章は息もつけない素晴らしい響き、それも内省的な表現が胸に響いてきます。第2楽章のレントラーものんびりした雰囲気で始まるものの、すぐに内省的な音楽に心を打たれます。一度退場したインバルが再登場した後の第3楽章はとても突っ込んだ演奏でした。この第3楽章のブルレスケはマーラーの胸の中に吹き荒れる激情が凄まじい音楽です。生きているということはこんなに熱い思いを持ち続けることなのでしょうか。演奏崩壊ぎりぎりとも思える凄まじい演奏でしたが、都響のアンサンブルは見事に持ちこたえました。そして、saraiが西洋音楽の最高峰とも思っている第4楽章のアダージョ。もう感想は書けません。真っ白になって聴き入るのみの美の極致でした。
フルートソロの寺本義明、ヴィオラソロの鈴木学の演奏は最高。これなしにはマーラーは成り立たないでしょう。

これでマーラー・ツィクルスはおしまいです。一抹の寂しさはありますが、満足感もあります。インバルのマーラーはまだ交響曲第10番(クック版)が残っています。インバルはクック版の第10番のスペシャリストと世界的な評価も高く、まだ、楽しみはあります。その後はまた、インバルのマーラーを聴く機会はいつ巡ってくるでしょう。今年で78歳になるインバルですが、80歳を越えた老境でのマーラーを是非聴いてみたいものです。





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マーラー交響曲第6番:金聖響&神奈川フィル@横浜みなとみらいホール 2014.3.20

この日のコンサートは金聖響&神奈川フィルが4年間続けてきたマーラー・シリーズの集大成となるものです。ちょうど、3年前の大震災の翌日のコンサートがこのマーラーの交響曲第6番だったそうです。もちろん、震災当日も翌日も首都圏の交通機関は無茶苦茶になりましたが、金聖響&神奈川フィルは震災当日はマーラーのリハーサル、そして、翌日は朝10時半からゲネプロ。神奈川フィルの誰ひとりとして、ゲネプロに遅刻しなかったそうです。そして、本番は集まった少ないけれども熱心な聴衆を前に伝説的な素晴らしい演奏だったそうです。

また、この日は金聖響が神奈川フィルの常任指揮者として振る最後の定期演奏会でもあります。色々な意味で記念すべきコンサートですね。

saraiは実は金聖響も神奈川フィルも聴くのはこの日が初めてです。部外者にも思えますが、音楽の世界にそれはないでしょう。いずれにせよ、月曜日(2014.3.17)にインバル&都響の素晴らしく圧倒的に感動的なマーラーの第9番を聴いたばかりで、その3日後に金聖響&神奈川フィルの記念すべきマーラーが聴けるとは、一マーラー・ファンとして、幸せ以外の何ものでもありません。ただ、この日、saraiの体調は最悪。解熱剤を飲んで、無理して、コンサートに出かけました。

予習は昨年11月のインバル&都響のコンサートでずい分聴きましたので、今回は今まで聴き逃していた以下のCDを聴きました。かなり、レアなCDですが、とても素晴らしい演奏でした。ハイティンクのタクトに応えたベルリン・フィルのシャープな響きに圧倒されました。なお、これはハイティンクとベルリン・フィルのセッション録音の6年後のものです。

 ハイティンク ベルリン・フィル 1995年(Live) (マーラー・フェスティバル1995)

で、この日の演奏は最初から気合のはいったもので、対向配置の弦楽セクションの素晴らしい響きには胸を打たれました。金聖響の指揮もストレートに表情を出したもので、好ましい雰囲気です。若き日のアバドも思わせます。第3楽章あたりから、解熱剤が切れ始め、意識がもうろうとなります。第4楽章は既に高熱でまさに熱にうなされながらの鑑賞となりました。しかし、軽い靄の向こうに最高の感動を感じ取りました。インバル&都響のマーラー・チクルスでもっとも不満が大きかったこの第6番、金聖響&神奈川フィルは素晴らしい演奏で満足させてくれました。神奈川フィルのヴァイオリンの素晴らしさに驚嘆しました。コンサート・マスターの石田泰尚の力が大きいのでしょうか。

今日のプログラムとキャストは以下です。

  指揮:金聖響
  管弦楽:神奈川フィル

  藤倉大:アトム
  マーラー:交響曲第6番イ短調《悲劇的》

高熱にもめげずに聴きに来て、本当によかった・・・そういうコンサートでした。





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パク・ヘユン&クリスチャン・ヤルヴィ、コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲@横浜みなとみらいホール 2014.3.23

久々にパク・ヘユンの弾くヴァイオリン協奏曲が聴けるのを楽しみにしたコンサートです。それもコルンゴルトとは、ますます、楽しみ。サポートするオーケストラ読響を指揮するのはクリスチャン・ヤルヴィ、この人の型にはまらない音楽も楽しみです。シェーベルク編のブラームスのピアノ四重奏曲第1番も楽しみ。この日のプログラムはすべて初めての生聴きばかりです。

今日のプログラムとキャストは以下です。

  ヴァイオリン:パク・ヘユン
  指揮:クリスチャン・ヤルヴィ
  管弦楽:読売日本交響楽団

  プリッツカー:〈クラウドアトラス〉交響曲から第4、5、6楽章
  コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.35

   《休憩》

  ブラームス(シェーベルク編):ピアノ四重奏曲第1番ト長調Op.25

高熱で体調最悪の中、強力な解熱剤で無理やり体温を落とし、コンサートに強行参加。しかし、さすがにちょっと無理がありました。体温は正常近くまで落ちましたが、心地よい眠気も襲ってきます。そうですよね、鎮静作用があります。
最初のまったく聴いたこともない現代音楽、それも単調なミニマルミュージックです。映画音楽をベースとしているそうですが、それにしては大変地味な音楽です。残念ながら、ほとんど聴き取れないまま終わってしまいました。

次は一番楽しみにしていたパク・ヘユン。コルンゴルトのヴァイオリン協奏曲です。これは第1楽章冒頭の濃厚でロマンティックな第1主題をしっかりと拝聴しました。それだけで満足です。パク・ヘユンもますますお姉さんになりました。予習では以下のCDを聴きました。
 ムター、プレヴィン、ロンドン響
このムター姉御のあまりの濃厚さにはさすがに及びませんでしたが、コルンゴルトらしい空気感を見事に表現していたと言ってもいいのではないかと思います。あとは途切れ途切れ、意識の覚醒するなかで、美しいメロディーにうっとりしていました。半分近くは鑑賞できたのではないでしょうか。少なくとも聴き取れた範囲はとてもよい演奏でした。この協奏曲はもっともっと演奏機会があってもいい名曲です。

休憩後、シェーンベルクがウィーン・ロマン派の巨匠ブラームスの作品をもとに後期ロマン派の集大成を図ったような大曲、管弦楽版ピアノ四重奏曲第1番です。もとになったピアノ四重奏曲第1番はブラームス20代の名曲ですから、ちょうどブラームスの交響曲第0番のような位置づけになります。実際、瑞々しくロマンティックな作品に仕上がっていますが、必ずしも第0番という感じでもなく、第2番か第3番の雰囲気です。不思議な作品です。でも、この曲も含めて、ブラームス交響曲全集は5曲にしてもらいたいという感じもあります。それほど、シェーンベルクは見事にブラームスの色を聴かせてくれます。ほかの室内楽もシェーンベルクが管弦楽版に編曲してくれればとも思いますが、シェーベルク自身の創作活動も重要だったので、そんなことは望めません。この1曲だけでも十分に楽しませてもらいます。予習は以下のCDを聴きました。
 エッシェンバッハ、ヒューストン交響楽団
エッシェンバッハらしくきっちりした演奏ですが、意外にロマンティックな演奏でもあります。聴き応え十分です。なお、この曲はあまり現役のCDがありません。先ほど書いたようにブラームス交響曲全集には是非加えてほしいものです。
さて、この日の演奏もブラームスらしい響きに満ちた美しいものでした。もう、音楽を味わっているのか、意識が飛んでいるのか、その境目で聴いたブラームス。ある意味、究極のブラームスを味わったような感じでもあり、詳しい感想を述べることは不可能でもあります。

奇妙なコンサートになってしまいました。本来は自重すべきだったんでしょうね。うっ・・・残念!





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Author:sarai
首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

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 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

通りすがりさん

コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

05/13 23:47 sarai
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