ただし、今日のジャルスキーのリサイタルは18世紀のバロック・オペラのアリア、ザルツブルグ精霊降臨音楽祭のファジョーリのリサイタルは19世紀のオペラのアリアとかなりの相違点はあります。どちらもカストラートをテーマにしているところは同じです。カストラートは19世紀に活躍したGiambattista Vellutiが最後の代表的なカストラートで、その後、カストラートは禁止になりました。現代の我々は決してカストラートの声を聴くことはできません。一体、どんな声だったんでしょう。一度だけでも聴いてみたいものです。生でね。ザルツブルグ精霊降臨音楽祭のファジョーリのリサイタルは最後のカストラート、Vellutiをテーマにしています。今日のジャルスキーのリサイタルはは18世紀前半に活躍したファリネッリとカレスティーニをテーマとしています。今や若手の実力派カウンターテナーの眼は過去のカストラートに向けられているようです。
今日のリサイタルはポルポラがファリネッリのために作曲したアリア、ヘンデルがカレスティーニのために作曲したアリアを大きく取り上げたものです。
まず、今日のプログラムを紹介しておきます。
カウンターテナー:フィリップ・ジャルスキー
管弦楽:ヴェニス・バロック・オーケストラ
ポルポラ:歌劇『ジェルマーニコ』序曲
ポルポラ:歌劇『アリアンナとテーゼオ』より「天をご覧なさい」
ポルポラ:歌劇『身分の知れたセミラーミデ』より「これほど憐れみ深く貴方の唇が」
ヘンデル:《12の合奏協奏曲》第4番 op.6-4 HWV322
ヘンデル:歌劇『アルチーナ』より「甘い情愛がわたしを誘う」
ヘンデル:歌劇『アルチーナ』より「いるのはヒルカニアの」
《休憩》
ヘンデル:歌劇『オレステ』より「凄まじい嵐にかき乱されながらも」
ヘンデル:歌劇『アリオダンテ』より「戯れるがよい、不実な女め」
ヘンデル:《12の合奏協奏曲》第1番 op.6-1 HWV319
ポルポラ:歌劇『ポリフェーモ』より「いと高きジョーヴェさま」
ポルポラ:歌劇『ポリフェーモ』より「愛しの人を待つあいだ」
《アンコール》
ヘンデル:歌劇『リナルド』より「私を泣かせてください」
ヘンデル:歌劇『セルセ』より「オンブラ・マイ・フ」
今日のプログラムを概観すると、最初のポルポラの序曲を除くと、前半のプログラムと後半のプログラムが対称形に配置されています。いかにもバロックの建築様式を模しているようでとてもお洒落ですね。なお、今日のプログラムでのアリアはすべて、ジャルスキーの歌唱をYOUTUBEで聴くことが可能です。saraiも十分に予習しました。
最初のポルポラの歌劇『ジェルマーニコ』序曲を聴くと、ヴェニス・バロック・オーケストラはバロックの典雅さを感じさせるだけでなく、イタリアの晴れ渡る青空のような明るい響きに満ちています。よく言えば爽やか、悪く言えば軽すぎるというところ。まあ、決して、悪い印象はありません。
ジャルスキーは最初は少し抑え気味に感じられる歌唱。ピュアーで透明な声の響きは健在です。それにスター性のある存在感があります。ヘンデルの歌劇『アルチーナ』のアリアあたりから、声もよく響くようになって、素晴らしい歌唱です。高音も素晴らしいです。しかし、圧巻は後半でした。まず、ヘンデルの歌劇『アリオダンテ』より「戯れるがよい、不実な女め」のアリアはヘンデルの天才的なメロディーメーカーぶりも幸いして、素晴らしい歌唱です。余程、相性のよい曲らしく、気魄のこもった歌唱で、悲嘆、詠嘆、復讐心などの感情が見事に表現されていて、すっかり堪能させてもらいました。さらにポルポラの歌劇『ポリフェーモ』より「いと高きジョーヴェさま」の美しい歌唱にはうっとりです。最後の同じく歌劇『ポリフェーモ』より「愛しの人を待つあいだ」もテクニックも感情も最高のものでした。贅沢を言えば、バロック歌唱のコロコロがチェチーリア・バルトリ並みとは言いませんが、もう少し迫力があればと思わないでもありませんでした。
アンコールはヘンデルの最高の名曲2曲を美しく聴かせてもらい、何も言うことはありません。
ジャルスキーを最初に注目したのは、2012年のザルツブルグ精霊降臨音楽祭でのヘンデルのオペラ《ジュリオ・チェーザレ》。セスト役のジャルスキーとセストの母コルネリア役のフォン・オッターの2重唱の美しさには、正直、参りました。それでジャルスキーには注目していたんです。今後のヨーロッパ遠征ではジャルスキーを始め、若手のカウンターテナーの動静とバロック・オペラからは目が離せません。高水準のバロック・オペラはヨーロッパでしか鑑賞が難しいですからね。
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