今日のプログラムを紹介しておきます。
ヴァイオリン:ジャン・ムイエール
チェロ:ギヨーム・エフレール
ピアノ:金子陽子
ラヴェル:ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ ト短調
ドビュッシー:ピアノ三重奏曲 ト長調
《休憩》
サン=サーンス:白鳥(《動物の謝肉祭》より)
フォーレ:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ長調 Op.13
《アンコール》
シューマン:ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 Op.63より、第2楽章~第3楽章
前半はラヴェルとドビュッシーの作品です。
まず、ラヴェルのヴァイオリンとチェロのためのソナタです。珍しい構成の室内楽です。第1楽章は最初に出てきた音型がずっと繰り返される《ボレロ》的というか、現代のミニマルミュージックにつながるような新しさを感じさせられますが、ムイエールのヴァイオリンの鋭さとエフレールのチェロの安定した響きの対照の妙も興味深く聴けました。第3楽章のレントは無調風の響きが新鮮に聴こえます。全体に起伏が大きい演奏でした。弦楽四重奏を切り詰めたような音楽で豊潤な響きに満ちており、いっそのこと、弦楽四重奏に拡張してほしいとも思えました。なかなかの名曲・名演奏でした。
次はドビュッシーの有名なヴァイオリン・ソナタ。これは実にユニークな演奏です。聴き慣れた演奏とは大きく異なった表現です。一体、どこがこんなに普通と異なる演奏に聴こえるのかと考えていましたが、あの幻想的で抒情的なメロディーラインが切り捨てられて、より鋭角的で表現主義的とも思える攻撃的な演奏になっています。ドビュッシー最晩年の、そして、最後の作品ということで、古典的で落ち着いた演奏が相場になっていますが、ムイエールはあえて、ドビュッシーの新たな飛躍に向けた作品の位置づけと考えたのかもしれません。確かにその後の音楽の流れを先取りしているような音楽のようにも感じられました。いつもこんな演奏を聴かされるのは嫌ですが、今日だけは実に新鮮で熱い響きを楽しめました。面白かったのはこの先鋭的とも言えるヴァイオリンの響きに対して、金子陽子のピアノはいかにもドビュッシーらしい普通の響きだったことです。ある意味、これも対照の妙ですね。
前半最後はドビュッシーのピアノ三重奏曲。最晩年のヴァイオリン・ソナタに対して、これは18歳のドビュッシーの作品です。印象派の旗手であったドビュッシーの作風が確立する前の作品で、ロマン派的な作品です。ロマンティックな美しい曲です。ムイエールの情熱的なヴァイオリンをエフレールのチェロと金子陽子のピアノが安定した響きで支えながら、若々しいドビュッシーを聴かせてくれました。滅多に聴けない作品が見事な演奏で聴けて、満足しました。
休憩後の後半はまずは通俗名曲とも言えるサン=サーンスの白鳥。相変わらず、安定したエフレールのチェロの響き。もっと、歌わせてくれてもいいのにと思わないわけでもありませんが、妙に媚びた演奏よりも上品な演奏のほうがいいので、これはこれでいいでしょう。あっさりとした演奏でした。
最後はフォーレのヴァイオリン・ソナタ第1番。これは実に素晴らしい演奏でした。この日、一番の演奏でした。改めて、このヴァイオリン・ソナタ第1番の素晴らしさも感じさせられました。有名なフランクのヴァイオリン・ソナタはこの曲が作曲された10年後に作曲されたそうで、このフォーレの作品は近代フランスの室内楽を開拓した最初の名曲と言えそうです。ムイエールのヴァイオリンは美しい響きですが、フランス風のお洒落な響きというよりも、そのひたむきな熱さに裏打ちされた先鋭さに特徴があります。フォーレが作り出した抒情的な美しいメロディーを聴衆に熱く語りかけてくれます。精妙な室内楽というよりも熱情的な音楽を感じさせられました。第1楽章から第4楽章まで、その熱い音楽に魅惑されて、じっと聴き入ってしまいました。
アンコールはシューマンのピアノ三重奏曲第1番。特に第3楽章のコラール風のメロディーの素晴らしさは胸に沁み入ってきました。シューマンの室内楽の真髄です。
70歳を過ぎた老ヴァイオリニストであるムイエールの若々しい熱情あふれる演奏に感銘を受けました。
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